(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】アゾールシラン化合物
(51)【国際特許分類】
C07F 7/18 20060101AFI20240311BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
C07F7/18 U CSP
C09K3/18 104
(21)【出願番号】P 2020565968
(86)(22)【出願日】2019-06-14
(86)【国際出願番号】 EP2019065649
(87)【国際公開番号】W WO2019243180
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-05-13
(32)【優先日】2018-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511188635
【氏名又は名称】アトテック ドイチェランド ゲーエムベーハー ウント コ カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン・ミヒャリク
(72)【発明者】
【氏名】シュテファニ・アッカーマン
(72)【発明者】
【氏名】マルコ・ハリオノ
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル・メルシュキー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・トーマス
(72)【発明者】
【氏名】マルック・ラガー
【審査官】中村 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-279456(JP,A)
【文献】特開平06-279461(JP,A)
【文献】国際公開第2015/002158(WO,A1)
【文献】特開2001-187836(JP,A)
【文献】特開2018-016865(JP,A)
【文献】KRAMER, J. et al.,“Recovery of rhodium-containing catalysts by silica-based chelating ion exchangers containing N and S donor atoms”,Inorganica Chimica Acta,2001年,Vol. 315, No. 2,pp. 183-190,DOI: 10.1016/S0020-1693(01)00356-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/00
C09K 3/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】
[式中、
Xは、NH
2、NH(NH
2)、NH(NHU)、
又はNH
Uを表し、
Yは、NH、N(NH
2)、N(NHU)、又はSを表し、
Uは、独立に、CH
2-CH(OH)-CH
2-O-(CH
2)
n-Si(OR)
3を表し、Rは独立に(CH
2-CH
2-O)
m-Zであり、独立に、
nは、1~12の範囲の整数であり、
mは、0、1、2、3、又は4であり、
Zは、H又はC1~C5アルキルを表す]
のアゾールシラン化合物。
【請求項2】
Xが、NH
2、
又はNH(NH
2
)を表す、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
Uにおいて、nが、1~8の範囲
の整数で
ある、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
式(Ia)又は(Ib)
【化2】
[式中、
Rは、独立に、(CH
2-CH
2-O)
m-Zであり、
独立に、
mは、0、1、又は
2であり、
Zは、H、CH
3、CH
2-CH
3、(CH
2)
2-CH
3、又は(CH
2)
3-CH
3
を表す]
の化合物である、請求項1から3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
(a) 1種の若しくは1種を超える請求項1から4のいずれか一項に記載のアゾールシラン化合物
、
(b) 1種の又は1種を超える有機溶媒
を含む、混合物。
【請求項6】
(a) 1種の又は1種を超える請求項1から4のいずれか一項に記載のアゾールシラン化合物
、
(b) 水、
(c) 1種の又は1種を超える水混和性有機溶媒
を含み、但し、pHが9以上である、アルカリ性貯蔵溶液。
【請求項7】
溶液中において、全ての、請求項1から4のいずれか一項に記載のアゾールシラン化合
物を一緒にした総量が、アルカリ性貯蔵溶液の総質量に対して、0.5質量%~15質量%の範囲である
、請求項
6に記載の貯蔵溶液。
【請求項8】
4.8~8.0の範囲のpHを有する水性使用溶液であって、
(a) 1種の若しくは1種を超える請求項1から4のいずれか一項に記載のアゾールシラン化合物
、
(b) 前記使用溶液の総質量に対して、少なくとも51質量%の水、
(c) 1種の又は1種を超える水混和性有機溶媒
を含み、前記使用溶液中において、全ての、請求項1から4のいずれか一項に記載のアゾールシラン化合
物を一緒にした総量が、水性使用溶液の総質量に対して、5質量%以下である、水性使用溶液。
【請求項9】
1種の又は1種を超える水混和性有機溶媒が、C1~C4アルコール、グリコールエーテル類、及びそれらの混合物からなる群から選択される
、水混和性有機溶媒を含む、請求項
6若しくは
7に記載のアルカリ性貯蔵溶液、又は請求項
8に記載の水性使用溶液。
【請求項10】
式(I)
【化3】
[式中、
Xは、NH
2、NH(NH
2)、NH(NHU)、
又はNH
Uを表し、
Yは、NH、N(NH
2)、N(NHU)、又はSを表し、
Uは、独立に、CH
2-CH(OH)-CH
2-O-(CH
2)
n-Si(OR)
3を表し、Rは独立に(CH
2-CH
2-O)
m-Zであり、独立に、
nは、1~12の範囲の整数であり、
mは、0、1、2、3、又は4であり、
Zは、C1~C5アルキルを表す]
のアゾールシラン化合物の合成方法であって、
(i)式(III)
【化4】
[式中、
Xは、NH
2、
又はNH(NH
2
)を表し、
Yは、NH、N(NH
2)、又はSを表す]
のアゾール化合物を用意する工程と、
(ii)式(IV)
【化5】
[式(IV)中、
Rは、(CH
2-CH
2-O)
m-Zを表し、独立に、
mは、0、1、2、3、又は4であり、
Zは、C1~C5アルキルを表し、
nは、1~12の範囲の整数である]
のシラン化合物を用意する工程と、
(iii)溶媒中で前記アゾール化合物を前記シラン化合物と反応させて、式(I)の上記で定義した化合物が結果として得られるようにする工程と、
(iv)場合により、工程(iii)で得られた式(I)の化合物を加水分解して、Rの少なくとも1個が、m=0でありZ=Hである(CH
2-CH
2-O)
m-Zとなるようにする工程と
を含む、合成方法。
【請求項11】
式(III)の化合物の式(IV)の化合物に対する合計モル比が、1:0.85~1:1.3の範囲である
、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
表面処理溶液としての、請求項
8に記載の水性使用溶液の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のアゾールシラン化合物、そのオリゴマー、前記化合物及び/又は前記オリゴマーを含む混合物、並びにそれぞれの貯蔵及び使用溶液に関する。更に、本発明は、前記特定のアゾールシラン化合物の合成方法、及び表面処理溶液としての前記使用溶液の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アゾールシラン化合物は、電子部品の製造において、特に、例えば、更なる加工処理工程のための準備としての金属表面及び有機材料の表面の処理のための表面処理溶液において、頻繁に利用されている。
【0003】
米国特許出願公開第2016/0368935号明細書は、アゾールシラン化合物、並びに該アゾールシラン化合物を使用する表面処理溶液、表面処理方法及びその使用に関する。
【0004】
特開2018-016865号公報は、シラン化合物を含有するトリアゾール表面処理剤を開示する。
【0005】
論文「Corrosion protection of copper with 3-glycidoxypropyltrimethoxysilane-based sol-gel coating through 3-amino-5-mercapto-1,2,4-triazole doping」、Journal of Research on Chemical Intermediates、42巻、2号、1315~1328頁、2015は、銅表面に対するゾル-ゲルコーティングの形成による、中性媒体における銅の防食についての研究を開示する。これは、銅上の3-アミノ-5-メルカプト-1,2,4-トリアゾールドープ3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(glydidoxypropyltrimethoxysilane)ベースのゾル-ゲルコーティングが、銅に対するチオレート結合を形成することを開示する。
【0006】
特開平06-279461号公報は、金属表面上の防錆を改善するための表面処理剤、特に、プリント回路のための銅張積層板に使用される銅箔のための表面処理剤について言及している。該薬剤は、1H-1,2,4-トリアゾール-3-チオールを3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランと80~200℃で反応させることにより得られるアゾールシランである。
【0007】
論文「Recovery of rhodium-containing catalysts by silica-based chelating ion ex-changers containing N and S donor atoms」、Journal of Inorganica Chimica Acta 315 (2001)、183~190頁は、シリカ上への固定化の前に二官能性スペーサー(3-グリシドキシプロピル)トリメトキシシランに付着させた4-アミノ-3-メチル-1,2,4-トリアゾール-5-チオンを開示する。
【0008】
アゾールシラン化合物の構造多様性のため、そのような化合物の大部分は、要求に応じて製造する必要があり、典型的には、標準的な市販品として容易に入手できない。したがって、簡便で効率的な合成方法が求められている。
【0009】
典型的には、アゾールシラン化合物は、ケイ素-酸素-ケイ素結合を形成することにより水の存在下で容易に重合する。これは、化合物の合成の直後では多くの場合望ましくない。重合が最終用途に望ましい場合もあるとはいえ、通常は、一方でモノマーの多すぎる且つ/又は早すぎる重合を防止するが他方で化合物の更なる加工処理を可能にするように、新たに合成した化合物を溶媒中に可溶化することが求められている。更に、そのような溶媒中でそれぞれのアゾールシラン化合物が十分に高い濃度を有することが、それらを別の製造現場に経済的に輸送するためには望ましい。実際には、典型的に利用される/所望される溶媒中での公知のアゾールシラン化合物の溶解性は、十分でないことが多い。
【0010】
加えて、多くの場合、アゾールシラン化合物の合成には、塩化物、臭化物、及びヨウ化物等のハロゲン化物を含む遊離体が含まれる。合成の間に、そのようなハロゲン化物が放出されて、得られた合成生成物を汚染することが多い。これは、典型的には、追加の精製工程においてハロゲン化物及びそれらのそれぞれの塩を除去する必要があることを意味する。しかし、そのような追加の工程は、早期重合につながる水汚染のリスクを著しく増大させる。更に、そのような精製工程は、最終アゾールシラン化合物の全体的な収率に負の影響を及ぼすことが多い。許容できる場合には、そのようなアゾールシラン化合物は精製されず、結果としてハロゲン化物及びそれらのそれぞれの塩がアゾールシラン化合物と一緒に残留する。しかし、多くの用途において、ハロゲン化物を伴うアゾールシラン化合物を用いて作業することは全く望ましくない。その他の場合には、たとえハロゲン化物が一般的に受容されていても、不定量のハロゲン化物を伴うアゾールシラン化合物を利用することは望ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許出願公開第2016/0368935号明細書
【文献】特開2018-016865号公報
【文献】特開平06-279461号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】「Corrosion protection of copper with 3-glycidoxypropyltrimethoxysilane-based sol-gel coating through 3-amino-5-mercapto-1,2,4-triazole doping」、Journal of Research on Chemical Intermediates、42巻、2号、1315~1328頁、2015
【文献】「Recovery of rhodium-containing catalysts by silica-based chelating ion ex-changers containing N and S donor atoms」、Journal of Inorganica Chimica Acta 315 (2001)、183~190頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の第1の目的は、上述の問題に基づいて、適切な溶媒中での溶解性が増大したアゾールシラン化合物を提供することである。本発明の第2の目的は、簡便で効率的である合成方法、とりわけ、追加の精製工程を回避することができるようにハロゲン化物及びそれらのそれぞれの塩を放出しない合成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の第1の目的は、式(I)
【0015】
【0016】
[式中、
Xは、NH2、NH(NH2)、NH(NHU)、SH、SCH3、OCH3、NHU、又はSUを表し、
Yは、NH、N(NH2)、N(NHU)、又はSを表し、
Uは、独立に、CH2-CH(OH)-CH2-O-(CH2)n-Si(OR)3を表し、Rは独立に(CH2-CH2-O)m-Zであり、独立に、
nは、1~12の範囲の整数であり、
mは、0、1、2、3、又は4であり、
Zは、H又はC1~C5アルキルを表す]
のアゾールシラン化合物により解決される。
【0017】
第2の目的は、式(I)
【0018】
【0019】
[式中、
Xは、NH2、NH(NH2)、NH(NHU)、SH、SCH3、OCH3、NHU、又はSUを表し、
Yは、NH、N(NH2)、N(NHU)、又はSを表し、
Uは、独立に、CH2-CH(OH)-CH2-O-(CH2)n-Si(OR)3を表し、Rは独立に(CH2-CH2-O)m-Zであり、独立に、
nは、1~12の範囲の整数であり、
mは、0、1、2、3、又は4であり、
Zは、C1~C5アルキルを表す]
のアゾールシラン化合物の合成方法であって、
(i)式(III)
【0020】
【0021】
[式中、
Xは、NH2、NH(NH2)、SH、SCH3、又はOCH3を表し、
Yは、NH、N(NH2)、又はSを表す]
のアゾール化合物を用意する工程と、
(ii)式(IV)
【0022】
【0023】
[式(IV)中、
Rは、(CH2-CH2-O)m-Zを表し、独立に、
mは、0、1、2、3、又は4であり、
Zは、C1~C5アルキルを表し、
nは、1~12の範囲の整数である]
のシラン化合物を用意する工程と、
(iii)溶媒中で前記アゾール化合物を前記シラン化合物と反応させて、式(I)の上記化合物が結果として得られるようにする工程と、
(iv)場合により、工程(iii)で得られた式(I)の化合物を加水分解して、Rの少なくとも1個が、m=0でありZ=Hである(CH2-CH2-O)m-Zとなるようにする工程と
を含む、合成方法により解決される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明者ら自身の実験により、上述の合成方法は、特定の溶媒中での溶解性及び安定性が改善されたアゾールシラン化合物をもたらすことが示されている。更に、上記合成方法は、ハロゲン原子を有しない遊離体を利用する。したがって、ハロゲン化物イオンが、合成の間にそれぞれの溶媒中に放出されることはない。これは、ハロゲン化物イオンが更なる用途において必要とされる場合でも、その総濃度が正確に分かるようにそれぞれのハロゲン化物の特定量を添加することができるため、非常に望ましい。
【0025】
本発明は、特に、上記で定義した特定のアゾールシラン化合物に関連する。多くの場合、Yが、NH、N(NH2)、又はN(NHU)、好ましくはNH及びN(NH2)、最も好ましくはNHを表す、本発明のアゾールシラン化合物が好ましい。その他の場合には、Yが、Sを表す、本発明のアゾールシラン化合物が好ましい。両者の中では、YがSである場合と比較して、窒素を含むYが好ましい。
【0026】
Xが、NH2、NH(NH2)、SH、SCH3、又はOCH3、好ましくはNH2、NH(NH2)、SH、又はSCH3、より好ましくはNH2を表す、本発明のアゾールシラン化合物が好ましい。
【0027】
Uにおいて、nが、1~8の範囲の、好ましくは2~6の範囲の、より好ましくは3~4の範囲の整数であり、最も好ましくは、nが、3である、本発明のアゾールシラン化合物が好ましい。
【0028】
非常に好ましいのは、式(I-I)又は(I-II)
【0029】
【0030】
[式中、
Rは、独立に、(CH2-CH2-O)m-Zであり、
独立に、
mは、0、1、又は2、好ましくは0又は2であり、
Zは、H、CH3、CH2-CH3、(CH2)2-CH3、又は(CH2)3-CH3、好ましくはH、CH3、又は(CH2)3-CH3を表し、
Bは、H及びNH2からなる群から独立に選択され、好ましくは、Bは、Hである]
の化合物である、本発明のアゾールシラン化合物である。
【0031】
非常に好ましいのは、式(I-II)の化合物である。
【0032】
本発明の文脈において、ある特定の可変基と組み合わせた用語「独立に~である」(又は同様の表現)は、第1の化合物におけるそのような可変基についての選択された特徴が、第2の化合物における同じ可変基の選択された特徴から独立していること(例えば(I-I)及び(I-II)における可変基B)、並びに1つの化合物が同じ可変基を少なくとも2個含有する場合(例えば(I-II)における可変基B)に、これは互いに独立に選択され、したがって異なりうることを表す。例えば、式(I-II)の化合物において、Bは、式(I-I)の化合物におけるBから独立に選択される。したがって、両方のBは異なりうる。更に、式(I-II)の化合物において、環アゾール窒素に結合したBは、外部アミン基におけるBから独立に選択される。したがって、この場合も、両方のBは、式(I-II)の化合物において異なりうる。この原理は、その他の「独立に」の用語にも同様にあてはまる。
【0033】
より好ましいのは、式(Ia)又は(Ib)
【0034】
【0035】
[式中、
Rは、独立に、(CH2-CH2-O)m-Zであり、
独立に、
mは、0、1、又は2、好ましくは0又は2であり、
Zは、H、CH3、CH2-CH3、(CH2)2-CH3、又は(CH2)3-CH3、好ましくはH、CH3、又は(CH2)3-CH3、最も好ましくはH及び(CH2)3-CH3を表す]
の化合物である、本発明のアゾールシラン化合物である。
【0036】
最も好ましいのは、Yが窒素を含む、本発明のアゾールシラン化合物であり、本発明のアゾールシラン化合物はそれぞれ、好ましくは、それぞれ上記で定義した式(Ib)及び(I-II)の化合物である。
【0037】
本発明はまた、本発明のアゾールシラン化合物のオリゴマーに関連する。したがって、本発明は、水の存在下で、式(I)
【0038】
【0039】
[式中、
Xは、H、CH3、NH2、NH(NH2)、NH(NHU)、SH、SCH3、OCH3、NHU、又はSUを表し、
Yは、NH、N(NH2)、N(NHU)、又はSを表し、
Uは、独立に、CH2-CH(OH)-CH2-O-(CH2)n-Si(OR)3を表し、Rは独立に(CH2-CH2-O)m-Zであり、独立に、
nは、1~12の範囲の整数であり、
mは、0、1、2、3、又は4であり、
Zは、H又はC1~C5アルキルを表す]
によるアゾールシラン化合物(好ましくは、本明細書を通して特に好ましいと記載される式(I)の化合物)を互いに反応させて、アゾールシランオリゴマーが少なくとも1つのケイ素-酸素-ケイ素部分を含むようにすることにより得られる、アゾールシランオリゴマーに関連する。この反応をオリゴマー化と呼ぶこともできる。
【0040】
上述のオリゴマー化は、様々なケイ素原子において少なくともいくつかのOH基を形成するために加水分解のための少なくとも少量の水を必要とする。好ましくは、アゾールシランオリゴマーは、それぞれの反応組成物の総質量に対して少なくとも2質量%の水の存在下で、前記アゾールシラン化合物を互いに反応させることにより得られる。
【0041】
本発明の文脈において、用語「アゾールシランオリゴマー」には、少なくとも2個のモノマーの組合せ、すなわち、少なくとも2つの本発明のアゾールシラン化合物を互いに反応させることが含まれる。更に、この用語には、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個の及び10個までのモノマーが含まれる。好ましいのは、アゾールシラン二量体、アゾールシラン三量体、アゾールシラン四量体、アゾールシラン五量体、アゾールシラン六量体、アゾールシラン七量体、及びアゾールシラン八量体からなる群から選択される、本発明のアゾールシランオリゴマーである。より好ましいのは、アゾールシラン二量体、アゾールシラン三量体、及びアゾールシラン四量体からなる群から選択される、本発明のアゾールシランオリゴマーである。後者は、1つ、2つ、又は3つのケイ素-酸素-ケイ素部分をそれぞれ含む本発明のアゾールシランオリゴマーが好ましいことを代替的に意味する。
【0042】
本発明のアゾールシラン化合物に基づいて、非常に多様な本発明のオリゴマーを形成することができる。したがって、本発明のオリゴマーは、それらの相互の反応により最も良く適切に説明される。
【0043】
本発明の文脈において、特定値と組み合わせた用語「少なくとも」は、この値又はこの値を超える値を表す(且つこれらと交換可能である)。例えば、上述の「少なくとも1つのケイ素-酸素-ケイ素部分」は、「1つの又は1つを超えるケイ素-酸素-ケイ素部分」を表す(且つこれと交換可能である)。最も好ましくは、「少なくとも1つの」は、「1つ、2つ、3つの又は3つを超える」を表す(且つこれと交換可能である)。
【0044】
最も好ましいのは、式(II)
【0045】
【0046】
[式中、
Rは、独立に、(CH2-CH2-O)m-Zを表し、
mは、0、1、2、3、又は4、好ましくは0、1、又は2であり、
Zは、H又はC1~C5アルキルを表し、
kは、1、2又は3、好ましくは1又は2であり、
Mは、独立に、式(IIa)
【0047】
【0048】
(式(IIa)中、
Xは、H、CH3、NH2、NH(NH2)、SH、SCH3、又はOCH3、好ましくはCH3、NH2、NH(NH2)、SH、SCH3、又はOCH3、より好ましくはNH2、NH(NH2)、SH、又はSCH3、最も好ましくはNH2を表し、
Yは、NH、N(NH2)、又はS、好ましくはNHを表し、
nは、1~12の範囲の、好ましくは1~8の範囲の、より好ましくは2~6の範囲の、更により好ましくは3~4の範囲の整数を表し、最も好ましくは、nは3である)
の部分を表す]
の化合物である、本発明のオリゴマーである。
【0049】
式(IIa)の上記部分において、破線は、全体部分を、式(II)に示すケイ素原子に結合する、共有結合を表す。
【0050】
少数の場合においてのみ、kが、1~7の範囲の、好ましくは1~5の範囲の整数である、本発明のアゾールシランオリゴマーが更に好ましい。しかし、最も好ましくは、kは1、2又は3、好ましくは1又は2である。
【0051】
好ましくは、本発明のオリゴマーは、ホモオリゴマーである。これは、好ましくは同一のモノマーがそれぞれに組み合わされてオリゴマーを形成することを意味する。
【0052】
代替的に好ましいのは、本発明のオリゴマーにおいて、少なくともケイ素-酸素-ケイ素骨格を形成しない全ての部分(すなわち、アゾール部分、及びアゾール部分をケイ素原子に連結するエーテル部分)が、それらの化学式において同一であることである。そのような場合、Mは、好ましくは、独立に定義されない。
【0053】
本発明のアゾールシラン化合物及び本発明のアゾールシランオリゴマーは、混合物として存在しうる。代替的に、1種を超える化合物又は1種を超えるオリゴマーが、混合物として存在しうる。典型的には、有機溶媒は溶解性を促進する。したがって、本発明はまた、
(a)- 1種の若しくは1種を超える本発明によるアゾールシラン化合物(本明細書を通して記載される、好ましくは好ましいと記載される)、及び/又は
- 1種の若しくは1種を超える本発明によるアゾールシランオリゴマー(本明細書を通して記載される、好ましくは好ましいと記載される)、
(b)- 1種の又は1種を超える有機溶媒
を含む、好ましくはそれらから構成される、混合物に関連する。
【0054】
好ましくは、本発明の混合物は、ハロゲン化物イオンを実質的に有さず、好ましくはこれを含まない。
【0055】
本発明の文脈において、対象物(例えば化合物、物質等)を「実質的に有しない」という用語は、前記対象物が全く存在しないか、又は非常に少なく且つ邪魔にならない量で(程度に)しか存在せず、本発明の意図する目的に影響を及ぼさないことを表す。例えば、そのような対象物は、例えば不可避的不純物として、意図せずに添加又は利用される場合もある。「実質的に有しない」は、混合物の総質量に対して(前記混合物について規定する場合)、0(ゼロ)ppm~50ppm、好ましくは0ppm~25ppm、より好ましくは0ppm~10ppm、更により好ましくは0ppm~5ppm、最も好ましくは0ppm~1ppmを表すことが好ましい。0ppmは、それぞれの対象物が全く含まれないことを表し、これが最も好ましい。この原理は、本発明の他の態様、例えば本発明の貯蔵溶液(本明細書下記参照)及び本発明の使用溶液(これもまた本明細書下記参照)にも同様にあてはまる。
【0056】
好ましいのは、本発明の混合物であって、前記混合物中において、全ての本発明のアゾールシラン化合物及び本発明のオリゴマーを一緒にした総量が、前記混合物の総質量に対して、5質量%~30質量%の範囲である、好ましくは8質量%~26質量%の範囲である、より好ましくは12質量%~24質量%の範囲である、更により好ましくは15質量%~21質量%の範囲である、最も好ましくは17質量%~20質量%の範囲である、混合物である。好ましくは、該混合物は、本発明によらない他のアゾールシラン化合物及びアゾールシランオリゴマーをそれぞれ実質的に有さず、好ましくはこれらを含まない。
【0057】
非常に好ましいのは、水を実質的に有さず、好ましくは水を含まない、本発明の混合物である。したがって、好ましいのは、1種の又は1種を超える本発明によるアゾールシラン化合物が、-SiOH基を実質的に有さず、好ましくはこれを含まない、本発明の混合物である。
【0058】
好ましいのは、1種の又は1種を超える有機溶媒が、アセトン、1,3-ジオキソラン、アセトニトリル、1,4-ジオキサン、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、t-ブタノール、プロパ-2-エン-1-オール、乳酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、N,N-ジメチルホルムアミド、2-ブトキシエタノール、ジ(プロピレングリコール)メチルエーテル、テトラヒドロフルフリルアルコール、N-メチル-2-ピロリドン、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール、ガンマ-ブチロラクトン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、イプシロン-カプロラクトン、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、テトラヒドロチオフェン-1-オキシド、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、炭酸プロピレン、スルホラン、グリセロール、及びそれらの混合物からなる群から選択される溶媒を含む、本発明の混合物である。
【0059】
非常に好ましいのは、1種の又は1種を超える有機溶媒が、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、t-ブタノール、ジ(プロピレングリコール)メチルエーテル、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、及びそれらの混合物からなる群から選択される溶媒を含む、本発明の混合物である。
【0060】
少数の場合において、非常に好ましいのは、1種の又は1種を超える有機溶媒が、好ましくはジ(プロピレングリコール)メチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、及びそれらの混合物からなる群から選択されるグリコールエーテル類からなる群から選択される溶媒を含む、本発明の混合物である。
【0061】
本発明の文脈において、上記で定義した本発明の混合物は、好ましくは、本発明の合成方法(更なる詳細については下記参照)等のそれぞれの合成手順の直接的な結果である。
【0062】
更に、好ましいのは、本発明による混合物(本明細書を通して記載される、好ましくは好ましいと記載される)であって、全ての本発明によるアゾールシラン化合物(本明細書を通して記載される、好ましくは好ましいと記載される)及び全ての本発明によるアゾールシランオリゴマー(本明細書を通して記載される、好ましくは好ましいと記載される)が、前記混合物中の少なくとも1個のケイ素原子を含む全ての化合物の少なくとも51mol%を占める、好ましくは少なくとも60mol%を占める、より好ましくは少なくとも70mol%を占める、最も好ましくは少なくとも80mol%を占める、更に最も好ましくは少なくとも90mol%を占める、混合物である。前述のことは、好ましくは、本発明のアルカリ性貯蔵溶液(本明細書下記参照)及び本発明の水性使用溶液(本明細書下記参照)にもそれぞれ同様にあてはまる。
【0063】
本発明はまた、
(a)- 1種の又は1種を超える本発明によるアゾールシラン化合物(本明細書を通して記載される、好ましくは好ましいと記載される)、及び
- 場合により、1種の又は1種を超える本発明によるアゾールシランオリゴマー(本明細書を通して記載される、好ましくは好ましいと記載される)、
(b)- 水、
(c)- 1種の又は1種を超える水混和性有機溶媒
を含み、但し、pHが9以上である、アルカリ性貯蔵溶液に関連する。
【0064】
好ましくは、本発明のアルカリ性貯蔵溶液は、ハロゲン化物イオンを実質的に有さず、好ましくはこれを含まない。少数の場合においてのみ、ハロゲン化物イオンを意図的に添加することにより、好ましくは塩化物イオンを意図的に添加することにより、ハロゲン化物イオンを存在させることが好ましい。
【0065】
好ましいのは、本発明の貯蔵溶液であって、溶液中において、全ての本発明によるアゾールシラン化合物(本明細書を通して記載される、好ましくは好ましいと記載される)及び全ての本発明によるアゾールシランオリゴマー(本明細書を通して記載される、好ましくは好ましいと記載される)を一緒にした総量が、アルカリ性貯蔵溶液の総質量に対して、0.5質量%~15質量%の範囲である、好ましくは0.8質量%~12質量%の範囲である、より好ましくは1.0質量%~10質量%の範囲である、更により好ましくは1.5質量%~8質量%の範囲である、最も好ましくは2.2質量%~6質量%の範囲である、貯蔵溶液である。
【0066】
上記貯蔵溶液は、水を含有する。好ましいのは、本発明の貯蔵溶液であって、アルカリ性貯蔵溶液中において、水が、アルカリ性貯蔵溶液の総質量に対して、10質量%~80質量%の範囲の、好ましくは15質量%~78質量%の範囲の、より好ましくは20質量%~76質量%の範囲の、更により好ましくは33質量%~74質量%の範囲の、最も好ましくは38.6質量%~70質量%の範囲の総量で存在する、貯蔵溶液である。
【0067】
水以外は、アルカリ性貯蔵溶液は、1種の又は1種を超える水混和性有機溶媒を含有する。そのような有機溶媒は、それぞれのアゾールシラン化合物及びそのオリゴマーの必要な溶解性を、特にそれらが比較的高濃度(例えば15質量%まで及び約15質量%、本明細書上記参照)で存在する場合に促進する。したがって、好ましいのは、本発明の貯蔵溶液であって、前記溶液中において、1種の又は1種を超える水混和性有機溶媒が、アルカリ性貯蔵溶液の総質量に対して、5質量%~89.5質量%の範囲の、好ましくは10質量%~84.2質量%の範囲の、より好ましくは14質量%~79質量%の範囲の、更により好ましくは18質量%~65.5質量%の範囲の、最も好ましくは24質量%~59質量%の範囲の総量で存在する、貯蔵溶液である。
【0068】
多くの場合、水の総質量が、全ての水混和性有機溶媒の総質量よりも小さい、本発明のアルカリ性貯蔵溶液が好ましい。
【0069】
上述の通り、前記貯蔵溶液はアルカリ性である。本発明の文脈において、これは、pHが9以上であることを意味する。好ましいのは、本発明の貯蔵溶液であって、溶液が9.6以上のpHを有し、好ましくはpHが10.4~13の範囲である、より好ましくはpHが10.5~12.4の範囲である、最も好ましくはpHが10.6~11.9の範囲である、貯蔵溶液である。pHがpH9よりも著しく低い場合、アゾールシラン化合物及びそのオリゴマーの溶解性は、望ましくない沈殿が生じるところまで低下する。酸性pHは、そのようなpHにて比較的高濃度の本発明のシランアゾール化合物及びその対応するオリゴマーで多くの場合に沈殿が観察されているため、貯蔵目的には適さない。逆に、pHが13よりも著しく高い場合、望ましくない相分離及びアゾールシラン化合物の分解が頻繁に観察される。
【0070】
本発明の文脈において、pHは20℃の温度を基準としている。
【0071】
本発明のアルカリ性貯蔵溶液においては、好ましくは少なくとも1種のアルカリ水酸化物を利用することにより、最も好ましくは水酸化ナトリウムを利用することにより、アルカリ性pHを得る。
【0072】
アルカリ性pHは、貯蔵溶液中で前記アゾールシラン化合物及びそのオリゴマーそれぞれの比較的高濃度を可能にするだけではない。アルカリ性pHは更に、本発明のアゾールシラン化合物をそのモノマー状態で強力に維持し、本発明のアゾールシランオリゴマーの形成を著しく低減させる。しかし、そのようなオリゴマーが本発明のアルカリ性貯蔵溶液中で形成される場合、これは、アルカリ性pHのために典型的に速やかに加水分解されてそのモノマー形態を形成する。本発明の貯蔵溶液において、これは望ましいことである。
【0073】
好ましいのは、本発明の貯蔵溶液であって、前記溶液中において、全ての本発明によるアゾールシラン化合物の総質量が、全ての本発明によるアゾールシランオリゴマーの総質量よりも大きい、貯蔵溶液である。
【0074】
いくつかの場合では、全ての本発明によるアゾールシラン化合物の総質量の少なくとも80質量%について、好ましくは少なくとも90質量%について、最も好ましくは少なくとも95質量%について、ZがHであり、mが0である、本発明の貯蔵溶液が好ましい。これは、貯蔵溶液中において、アゾールシラン化合物が、SiOH基を含むその加水分解形態で主に存在していることを意味する。
【0075】
上述のアルカリ性貯蔵溶液は、1種の又は1種を超える本発明のアゾールシラン化合物を輸送及び/又は貯蔵するために特に適している。しかし、前記化合物を、例えば、電子部品の生産における表面処理溶液として利用するためには、それぞれの使用溶液が好ましい。したがって、本発明は更に、4.8~8.0の範囲のpHを有する水性使用溶液であって、
(a)- 1種の若しくは1種を超える本発明によるアゾールシラン化合物(本明細書を通して記載される、好ましくは好ましいと記載される)、及び/又は
- 1種の若しくは1種を超える本発明によるアゾールシランオリゴマー(本明細書を通して記載される、好ましくは好ましいと記載される)、
(b)- 前記使用溶液の総質量に対して、少なくとも51質量%の水、
(c)- 1種の又は1種を超える水混和性有機溶媒
を含み、前記使用溶液中において、全ての本発明によるアゾールシラン化合物(本明細書を通して記載される、好ましくは好ましいと記載される)及び全ての本発明によるアゾールシランオリゴマー(本明細書を通して記載される、好ましくは好ましいと記載される)を一緒にした総量が、水性使用溶液の総質量に対して、5質量%以下である、水性使用溶液に関する。
【0076】
特に好ましいのは、本発明による少なくとも1種のアゾールシランオリゴマー(本明細書を通して記載される、好ましくは好ましいと記載される)を含むという条件つきの本発明の前記水性使用溶液である。これは、新たに調製される使用溶液に特に好ましい。
【0077】
上記用語「5質量%以下」は、0質量%を含まない。これは、前記総量が常に>0質量%、好ましくは少なくとも0.1質量%であることを意味する。
【0078】
好ましいのは、本発明の使用溶液であって、前記使用溶液中において、全ての本発明によるアゾールシラン化合物(本明細書を通して記載される、好ましくは好ましいと記載される)及び全ての本発明によるアゾールシランオリゴマー(本明細書を通して記載される、好ましくは好ましいと記載される)を一緒にした総量が、水性使用溶液の総質量に対して、0.1質量%~4質量%の範囲である、好ましくは0.2質量%~3質量%の範囲である、より好ましくは0.3質量%~2.2質量%の範囲である、更により好ましくは0.4質量%~2.0質量%の範囲である、最も好ましくは0.5質量%~1.8質量%の範囲である、使用溶液である。
【0079】
本発明者ら自身の実験により、1種の又は1種を超える本発明によるアゾールシラン化合物及び1種の又は1種を超える本発明によるアゾールシランオリゴマーの個々の存在は経時的に変動することが示されている。新たに調製された使用溶液において、典型的には、本発明のアゾールシラン化合物の総質量は、本発明のアゾールシランオリゴマーの総質量よりも大きい。しかし、使用溶液を利用すると経時的に前記アゾールシランオリゴマーの総質量が、可能性としては前記アゾールシランオリゴマーの総質量が前記アゾールシラン化合物の総質量よりも大きくなるところまで、急激に増大する。更に、本発明の使用溶液の取り扱いはまた、前記化合物及びオリゴマーそれぞれの総質量にも影響を及ぼす。例えば、使用溶液を利用中のかなりのすくい出し、及び対応する新たな使用溶液の補充は、典型的には、アゾールシラン化合物対アゾールシランオリゴマーの点で定常状態条件につながる。
【0080】
最も好ましくは、本発明の使用溶液は、
- 1種の又は1種を超える本発明によるアゾールシラン化合物(本明細書を通して記載される、好ましくは好ましいと記載される)、及び
- 1種の又は1種を超える本発明によるアゾールシランオリゴマー(本明細書を通して記載される、好ましくは好ましいと記載される)を含む。したがって、少なくとも1種の化合物及び少なくとも1種のオリゴマーを含むそれぞれの使用溶液が最も好ましい。
【0081】
本発明の使用溶液は、4.8~8.0の範囲のpHを有する。好ましいのは、pHが、5.6~7.9の範囲である、より好ましくは5.8~7.7の範囲である、最も好ましくは6.5~7.5の範囲である、本発明の使用溶液である。4.8~8.0の範囲のpHは、少なくともある程度まで本発明のアゾールシラン化合物のオリゴマー化を支援し、これは望ましいことである(しかし、これは貯蔵溶液においては望ましくない)。更に、水性使用溶液の総質量に対して5質量%以下の全ての本発明によるアゾールシラン化合物及び全ての本発明によるアゾールシランオリゴマーの総量と、前記使用溶液が主として水性溶液であることとの結果として、十分に安定した使用溶液が得られる。これは、水性環境におけるそのような総量及びそのようなpHで沈殿を著しく回避することができることを意味する。例えば、pHがpH4.8よりも著しく低い又はpH8.0よりも著しく高い場合、望ましくない且つ強力な沈殿がしばしば観察される。
【0082】
既に述べた通り、本発明の使用溶液は、水性溶液である。好ましいのは、本発明の使用溶液であって、前記溶液中において、水が、水性使用溶液の総質量に対して、56質量%~88質量%の範囲の総量で、好ましくは60質量%~84.8質量%の範囲の総量で、より好ましくは65質量%~82.2質量%の範囲の総量で存在する、使用溶液である。
【0083】
本発明のアゾールシラン化合物及び本発明のアゾールシランオリゴマーを本発明の水性使用溶液中に十分に可溶化するために、1種の又は1種を超える水混和性有機溶媒が存在する。好ましいのは、本発明の使用溶液であって、前記溶液中において、1種の又は1種を超える水混和性有機溶媒が、水性使用溶液の総質量に対して、6質量%~44質量%の範囲の総量で、好ましくは8質量%~43.9質量%の範囲の総量で、より好ましくは13質量%~39.7質量%の範囲の総量で、最も好ましくは16質量%~34.5質量%の範囲の総量で存在する、使用溶液である。
【0084】
上述の通り、本発明の文脈において、本発明のアゾールシラン化合物及び本発明のアゾールシランオリゴマーは、当初はハロゲン化物を有しない。これは、一方で、ハロゲン原子を含有する遊離体が利用されないので、前記化合物及びオリゴマーがそれぞれ、それ自体でハロゲン化物原子を有しないことを意味し、他方で、ハロゲン化物イオンが直近の合成環境において存在しないことを意味する。しかし、少数の場合には、本発明の水性使用溶液が、正確に規定された量のハロゲン化物イオンを含むことが好ましい。したがって、いくつかの場合において、本発明の水性使用溶液は、
(d)- ハロゲン化物イオン、好ましくは塩化物イオン
を更に含むことが好ましい。
【0085】
しかし、その他の場合には、本発明の水性使用溶液は、塩化物イオンを実質的に有さず、好ましくはこれを含まず、より好ましくは、ハロゲン化物イオンを実質的に有さず、好ましくはこれを含まないことが好ましい。
【0086】
1種の又は1種を超える水混和性有機溶媒は、本発明のアルカリ性貯蔵溶液及び本発明の水性使用溶液の両方において存在する。好ましいのは、1種の又は1種を超える水混和性有機溶媒が、C1~C4アルコール、グリコールエーテル類、及びそれらの混合物からなる群から選択される、好ましくは、
- C1~C3アルコール、
- HO-(CH2-CH2-O)m-Z
[式中、
mは、1、2、3、又は4、好ましくは1又は2であり、
Zは、C1~C5アルキル、好ましくはC3~C5アルキルを表す]、
及びそれらの混合物からなる群から選択される、より好ましくは、
メタノール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、及びそれらの混合物からなる群から選択される、更により好ましくは、
ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、及びそれらの混合物からなる群から選択される、
水混和性有機溶媒を含む、本発明によるアルカリ性貯蔵溶液(本明細書を通して記載される、好ましくは好ましいと記載される)、又は本発明による水性使用溶液(本明細書を通して記載される、好ましくは好ましいと記載される)である。
【0087】
上記で定義した水混和性有機溶媒は、本発明の合成方法(本明細書下記参照)にも同様にあてはまる。
【0088】
各場合において、グリコールエーテル類は、アルコールよりも好ましい。グリコールエーテル類は、典型的に、前記アルコールと比較して改善された安定化をもたらす。更に、アルコールは一般に、グリコールエーテル類と比較して低い引火点を示し、このため、アルコールは火炎危険の点で潜在的に危険である。比較的高い引火点が、発火を防止するためには通常望ましい。したがって、グリコールエーテル類は、典型的には、所望の溶解性、安定性及び安全性をもたらす。この原理は、好ましくは、本発明の混合物、本発明のアルカリ性貯蔵溶液、及び本発明の合成方法(本明細書下記参照)にも同様にあてはまる。
【0089】
好ましいのは、本発明によるアルカリ性貯蔵溶液(本明細書を通して記載される、好ましくは好ましいと記載される)、又は本発明による水性使用溶液(本明細書を通して記載される、好ましくは好ましいと記載される)であって、全ての本発明によるアゾールシラン化合物(本明細書を通して記載される、好ましくは好ましいと記載される)及び全ての本発明によるアゾールシランオリゴマー(本明細書を通して記載される、好ましくは好ましいと記載される)が、前記貯蔵溶液及び前記使用溶液のそれぞれの中の全てのアゾールシラン化合物及びオリゴマーの総質量の少なくとも70質量%を占める、好ましくは少なくとも80質量%を占める、より好ましくは少なくとも90質量%を占める、更により好ましくは少なくとも93質量%を占める、最も好ましくは少なくとも95質量%を占める、更に最も好ましくは少なくとも98質量%を占める、アルカリ性貯蔵溶液、又は水性使用溶液である。本発明によるもの以外の他のアゾールシラン化合物又はオリゴマーが存在しないことが最も好ましい。これはまた、アゾールシラン化合物及びアゾールシランオリゴマーを一緒にした絶対総量(本明細書上記にまさに規定された)が、他のアゾールシラン化合物及びアゾールシランオリゴマーが本発明のアルカリ性貯蔵溶液及び本発明の水性使用溶液のそれぞれの中に存在しないという条件で非常に好ましく適用されることも意味する。
【0090】
更に、好ましいのは、本発明によるアルカリ性貯蔵溶液(本明細書を通して記載される、好ましくは好ましいと記載される)、又は本発明による水性使用溶液(本明細書を通して記載される、好ましくは好ましいと記載される)であって、全ての本発明によるアゾールシラン化合物(本明細書を通して記載される、好ましくは好ましいと記載される)及び全ての本発明によるアゾールシランオリゴマー(本明細書を通して記載される、好ましくは好ましいと記載される)が、前記貯蔵溶液及び前記使用溶液のそれぞれの中の少なくとも1個のケイ素原子を含む全ての化合物の少なくとも51mol%を占める、好ましくは少なくとも60mol%を占める、より好ましくは少なくとも70mol%を占める、最も好ましくは少なくとも80mol%を占める、更に最も好ましくは少なくとも90mol%を占める、アルカリ性貯蔵溶液、又は水性使用溶液である。
【0091】
本発明はまた、式(I)
【0092】
【0093】
[式中、
Xは、NH2、NH(NH2)、NH(NHU)、SH、SCH3、OCH3、NHU、又はSUを表し、
Yは、NH、N(NH2)、N(NHU)、又はSを表し、
Uは、独立に、CH2-CH(OH)-CH2-O-(CH2)n-Si(OR)3を表し、Rは独立に(CH2-CH2-O)m-Zであり、独立に、
nは、1~12の範囲の整数であり、
mは、0、1、2、3、又は4であり、
Zは、C1~C5アルキルを表す]
のアゾールシラン化合物の合成方法であって、
(i)式(III)
【0094】
【0095】
[式中、
Xは、NH2、NH(NH2)、SH、SCH3、又はOCH3を表し、
Yは、NH、N(NH2)、又はSを表す]
のアゾール化合物を用意する工程と、
(ii)式(IV)
【0096】
【0097】
[式(IV)中、
Rは、(CH2-CH2-O)m-Zを表し、独立に、
mは、0、1、2、3、又は4であり、
Zは、C1~C5アルキルを表し、
nは、1~12の範囲の整数である]
のシラン化合物を用意する工程と、
(iii)溶媒中で前記アゾール化合物を前記シラン化合物と反応させて、式(I)の上記で定義した化合物が結果として得られるようにする工程と、
(iv)場合により、工程(iii)で得られた式(I)の化合物を加水分解して、Rの少なくとも1個が、m=0でありZ=Hである(CH2-CH2-O)m-Zとなるようにする工程と
を含む、合成方法にも関する。
【0098】
本発明のアゾールシラン化合物(好ましくは好ましいと記載される)に関する上述のことは、好ましくは、例えば、本発明の非常に好ましいアゾールシラン化合物に関する本発明の合成方法にも同様にあてはまる。
【0099】
工程(iv)は、任意であり、本発明の方法の工程(iii)で得られた化合物を加水分解するために少なくともいくらかの水の存在を含む。好ましくは、そのような水は、工程(iii)の後に、追加の工程、例えば工程(iv)で添加される。そのような化合物が望ましい場合(m=0且つZ=H)、工程(iv)は任意ではない。
【0100】
非常に好ましいのは、工程(iii)において、溶媒が、有機溶媒を含む、より好ましくは1種の又は1種を超える有機溶媒である、最も好ましくは1種の又は1種を超える水混和性有機溶媒である、本発明の合成方法である。
【0101】
多くの場合、工程(iii)において、溶媒が、C1~C4アルコール、グリコールエーテル類、及びそれらの混合物からなる群から選択される、好ましくは、
- C1~C3アルコール、
- HO-(CH2-CH2-O)m-Z
[式中、
mは、1、2、3、又は4であり、好ましくは1又は2であり、
Zは、C1~C5アルキル、好ましくはC3~C5アルキルを表す]、
及びそれらの混合物からなる群から選択される、より好ましくは、
メタノール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、及びそれらの混合物からなる群から選択される、更により好ましくは、
ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、及びそれらの混合物からなる群から選択される、
1種の又は1種を超える溶媒である、本発明の合成方法が好ましい。
【0102】
一般的に、グリコールエーテル類は、上記で定義したアルコールよりも好ましい(理由については本明細書上記参照)。したがって、本発明のそれぞれの合成方法が好ましい。
【0103】
好ましいのは、工程(iii)における溶媒が、水を実質的に有さず、好ましくは水を含まない、本発明の合成方法(特に前に記載された)である。
【0104】
好ましくは、工程(iii)における溶媒は、1種の又は1種を超える有機溶媒であり、本発明の方法の工程(iii)の後に、本発明による混合物が得られる(混合物については本明細書上記参照)。本発明の混合物に関する前述のことは、本発明の合成方法にも同様にあてはまる。
【0105】
好ましいのは、式(III)の化合物の式(IV)の化合物に対する合計モル比が、1:0.85~1:1.3の範囲である、好ましくは1:0.90~1:1.25の範囲である、より好ましくは1:0.95~1:1.2の範囲である、最も好ましくは1:1.0~1:1.15の範囲である、本発明の合成方法である。合計モル比が1:1.3よりも著しく高い場合、合成生成物は十分に安定していない。合計モル比が1:0.85よりも著しく低い場合、あまりに多くの未反応遊離体が合成生成物中に存在し、これは、所望の種がアゾール及びシラン部分を含むアゾールシラン化合物であるため望ましくない。この原理は、好ましくは、本発明の混合物、本発明のアルカリ性貯蔵溶液、及び本発明の水性使用溶液にも同様にあてはまる。
【0106】
好ましいのは、工程(iii)において、温度が、50℃~90℃の範囲である、好ましくは60℃~85℃の範囲である、本発明の合成方法である。
【0107】
好ましいのは、工程(i)において、式(III)のアゾール化合物が懸濁液として用意される、本発明の合成方法である。これは、式(III)のアゾール化合物を少なくとも1種の溶媒中に懸濁させて、前記アゾール化合物及び前記少なくとも1種の溶媒が前記懸濁液を形成するようにすることが好ましいことを意味する。それについては、少なくとも1種の溶媒が、1種の又は1種を超える有機溶媒である、好ましくは1種の又は1種を超える水混和性有機溶媒であることが好ましい。非常に好ましくは、前記懸濁液を形成するために利用される少なくとも1種の溶媒は、工程(iii)で利用される溶媒と同一である。最も好ましくは、式(III)のアゾール化合物は、C1~C4アルコール、グリコールエーテル類、及びそれらの混合物からなる群から選択される、好ましくは、
- C1~C3アルコール、
- HO-(CH2-CH2-O)m-Z
[式中、
mは、1、2、3、又は4であり、好ましくは1又は2であり、
Zは、C1~C5アルキル、好ましくはC3~C5アルキルを表す]、
及びそれらの混合物からなる群から選択される、より好ましくは、
メタノール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、及びそれらの混合物からなる群から選択される、最も好ましくは、
ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、及びそれらの混合物からなる群から選択される、
1種の又は1種を超える溶媒中に懸濁される。
【0108】
好ましいのは、工程(iii)において、反応が、1時間~48時間、好ましくは3時間~24時間、より好ましくは5時間~20時間行われる、本発明の合成方法である。
【0109】
本発明はまた、好ましくは金属表面及び/又は有機材料の表面を処理するための表面処理溶液としての本発明の上述の水性使用溶液(本明細書を通して記載される、好ましくは好ましいと記載される)の特定の使用にも関する。好ましくは、金属表面及び有機材料の両方が、電子部品の製造に含まれる。
【0110】
本発明を、以下の非限定的な実施例により更に説明する。
【実施例】
【0111】
A)式(I)のアゾールシラン化合物の合成:
1)式(Ia)のアゾールシラン化合物の合成:
【0112】
【0113】
第1の工程において、3.68g(27.1mmol)の5-アミノ-1,3,4-チアジアゾール-2-チオール(XがNH2を表し、YがSを表す、式(III)のアゾール化合物)を70mlのメタノール中に懸濁させ、アゾール懸濁液を得た。
【0114】
第2の工程において、6.59g(27.1mmol)の3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(RがCH3を表し、nが3である、式(IV)のシラン化合物)を20mlのメタノールに溶解することにより作製した溶液を、アゾール懸濁液に添加した。結果として、反応懸濁液を得た。
【0115】
第3の工程において、反応懸濁液を18時間加熱還流した(温度およそ65℃)。その間に、懸濁液は透明な溶液になり、これにより、アゾール化合物を完全に使い切ったことが示された。その後、溶媒(メタノール)を除去し、およそ10g(収率100%)の黄色、高粘性物質を、主として式(Ia)のアゾールシラン化合物である生成物として得た。このようにして得られた生成物はハロゲン化物を有さず、更に精製することなく利用した。
【0116】
1H NMR: (400 MHz, DMSO-d6) δ 7.24 (s, 2H), 5.22 (d, J = 5.4 Hz, 1H), 3.81 (dq, J = 7.1, 5.2 Hz, 1H), 3.51 - 3.43 (m, 8H), 3.41 - 3.30 (m, 5H), 3.30 - 3.13 (m, 2H), 3.05 (dd, J = 13.1, 7.1 Hz, 1H), 1.59 - 1.44 (m, 2H), 0.68 - 0.51 (m, 2H)
【0117】
ESI-MS:m/z:369.08(100.0%)、370.09(11.9%)、371.08(9.0%)
【0118】
NMR及びESI-MSの両方により、式(Ia)のアゾールシラン化合物の存在が確認される。理論モル質量は、369g/molである。
【0119】
2)式(Ib)のアゾールシラン化合物の合成:
【0120】
【0121】
第1の工程において、3.36g(28.4mmol)の5-アミノ-4H-1,2,4-トリアゾール-3-チオール(XがNH2を表し、YがNHを表す、式(III)のアゾール化合物)を70mlのメタノール中に懸濁させ、アゾール懸濁液を得た。
【0122】
第2の工程において、6.91g(28.4mmol)の3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(RがCH3を表し、nが3である、式(IV)のシラン化合物)を20mlのメタノールに溶解することにより作製した溶液を、アゾール懸濁液に添加した。結果として、反応懸濁液を得た。
【0123】
第3の工程において、反応懸濁液を18時間加熱還流した(温度およそ65℃)。その間に、懸濁液は透明な溶液になり、これにより、アゾール化合物を完全に使い切ったことが示された。その後、溶媒(メタノール)を除去し、およそ10g(収率100%)の黄色、高粘性物質を、主として式(Ib)のアゾールシラン化合物である生成物として得た。このようにして得られた生成物はハロゲン化物を有さず、更に精製することなく利用した。
【0124】
1H NMR: (400 MHz, DMSO-d6) δ 6.03 (s, 2H), 5.33 - 5.08 (m, 1H), 3.87 - 3.75 (m, 1H), 3.54 - 3.25 (m, 13H), 3.22 - 3.08 (m, 1H), 2.97 (dd, J = 13.3, 7.0 Hz, 1H), 1.55 (dddd, J = 12.7, 11.1, 6.6, 3.5 Hz, 2H), 0.67 - 0.50 (m, 2H)
【0125】
ESI-MS:m/z:352.12(100.0%)、353.13(11.9%)
【0126】
NMR及びESI-MSの両方により、式(Ib)のアゾールシラン化合物の存在が確認される。理論モル質量は、352g/molである。
式(Ib)のアゾールシラン化合物の上述の合成を、1:1.1及び1:0.9のモル比等、式(III)のアゾール化合物と式(IV)のシラン化合物との間の様々なモル比(molar rations)で追加的に行った。
【0127】
3)DEGBE中の式(Ib)のアゾールシラン化合物の合成:
第1の工程において、3.36g(28.4mmol)の5-アミノ-4H-1,2,4-トリアゾール-3-チオール(XがNH2を表し、YがNHを表す、式(III)のアゾール化合物)を35mlのジエチレングリコールモノブチルエーテル(DEGBE)中に懸濁させ、アゾール懸濁液を得た。
【0128】
第2の工程において、6.91g(28.4mmol)の3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(RがCH3を表し、nが3である、式(IV)のシラン化合物)を10mlのDEGBEに溶解することにより作製した溶液を、アゾール懸濁液に添加した。結果として、反応懸濁液を得た。
【0129】
第3の工程において、反応懸濁液を80℃に15時間加熱した。その間に、懸濁液は透明な溶液になり、これにより、アゾール化合物を完全に使い切ったことが示された。その後、DEGBE中およそ18質量%の濃度の反応生成物を得た。このようにして得られた生成物はハロゲン化物を全く有さず、更に精製することなく利用した。更に、例えば実施例1及び2で上記したような溶媒の変化又は除去は必要なかった。
【0130】
ESI-MSにより、ケイ素原子に結合した3個のメトキシ基を含む化合物の形成が確認される。加えて、それぞれのメトキシ基の代わりに1つ、2つ、又は3つのDEGBE部分を含む化合物もまた同定されている。
【0131】
B)参照アゾールシラン化合物(本発明によらない)の合成:
比較のために、式(X)の参照アゾールシラン化合物を合成した。
【0132】
【0133】
式(X)の参照化合物は、化合物(1-8)として米国特許出願公開第2016/0368935号明細書に開示されている。この参照化合物の合成は、米国特許出願公開第2016/0368935号明細書における実施例1-8に基づいており、以下の通りに行った:
【0134】
第1の工程において、5-アミノ-1,3,4-チアジアゾール-2-チオールを、NaOHを利用する強アルカリ性水溶液中で脱プロトン化した。その後、溶媒(水)を除去し、生成物を乾燥させた。結果として、5-アミノ-1,3,4-チアジアゾール-2-チオールのナトリウム塩を得た。
【0135】
第2の工程において、前記ナトリウム塩をジメチルホルムアミド(DMF)中に移し、3-クロロプロピルトリメトキシシラン(DMFに溶解した)を添加して、反応混合物を形成した。反応混合物を還流下でおよそ100℃に15時間加熱した。その間に、不溶性塩化ナトリウムが沈殿し、所望の生成物を汚染した。塩化ナトリウムを濾過により少なくとも部分的に除去した結果、生成物の損失(5%まで)が追加的に生じた。結果として、黄色、高粘性物質を得た。
【0136】
C)溶解性及び安定性試験:
C-1 溶解性試験:
溶解性試験において、溶媒としてジエチレングリコールモノブチルエーテル(DEGBE)及びエチレングリコールモノブチルエーテル(EGBE)中での溶解性を、一定の撹拌下、およそ22℃で試験した。そのために、実施例A)、1)で得られた式(Ia)のアゾールシラン化合物、及び式(X)の参照化合物を、それぞれの試料(混合物)に溶解した。
【0137】
各溶解性試験において、各場合で50g/Lの濃度のアゾールシラン化合物に対応する(それぞれの試験組成物の総質量に対して5質量%にほぼ対応する)量の高粘性状態のそれぞれの化合物がそれぞれの溶媒に完全に溶解するまでの時間「t」を決定した。各溶解性試験は30分間行った。
【0138】
結果を以下の表1にまとめる。
【0139】
【0140】
式(Ia)の化合物を含む試料は本発明による混合物であり、式(X)の化合物を含む試料は本発明によらない混合物である。
【0141】
完全な溶解及び透明な均一溶液は、EGBE中の式(X)の参照化合物では全く得られなかった。30分後においても、黄色、高粘性物質の残留物が依然として存在しており、これにより、式(X)の化合物がEGBE中で完全に可溶化していないことが示された。対照的に、式(Ia)の化合物については10分後に完全な可溶化を達成した。透明、無色の均一溶液を得た。更に、汚染ハロゲン化物イオンの存在は完全に排除することができる。
【0142】
DEGBE中においては、参照化合物の完全な可溶化に、式(Ia)の化合物と比較しておよそ2倍の時間がかかった。DEGBE中の式(Ia)のアゾールシラン化合物では12分後に既に透明で無色の溶液を得ていた。更に、汚染ハロゲン化物イオンの存在は完全に排除することができる。
【0143】
参照化合物(X)の場合には、汚染ハロゲン化物イオンの存在を完全に排除することはできない。
【0144】
結果として、本発明による式(I)のアゾールシラン化合物は、公知のアゾールシラン化合物と比較して特定の有機溶媒(グリコールエーテル類)において著しく増大した溶解性を示している。
【0145】
C-2 安定性試験:
C-2i)アルカリ性貯蔵溶液:
第1の安定性試験において、実施例A)、3)で得られた式(Ib)の化合物の安定性を、pHの依存性において更に調査した。
【0146】
その目的のために、それぞれが、200mL/Lの水(およそ20質量%に対応する)、800mL/LのDEGBE(およそ76質量%に対応する)、及びそれぞれの貯蔵溶液の総質量に対して4質量%の総量の式(Ib)の化合物を含む、様々な貯蔵溶液(本発明による及び本発明によらない)を調製した。様々なpH値を、水酸化ナトリウム又は硫酸を添加することにより得た。安定性は、沈殿物の存在を慎重に決定することにより、1、7、及び15日後に評価した。安定性試験の間、各貯蔵溶液の温度を50℃とした。結果を以下の表2にまとめる。
【0147】
【0148】
pHが4及び7の貯蔵溶液は、本発明によるものではない。
DEGBE中において、式(Ib)の化合物は、比較的高いpH及びおよそ4質量%の濃度で安定している。これは、そのような状態では式(I)の化合物を依然として十分に高い濃度で他の製造現場に輸送することができるので有利である。
【0149】
アルカリ性pHで開始すると、沈殿は著しく低減し、10~11の間のpHで出発すると完全に消失する。結果として、透明な溶液が得られ、これは少なくとも15日間安定している。9~11未満のpH範囲内(例えば10.4)では、わずかな沈殿しか観察されず、これは更なる用途によっては許容されうる。
【0150】
したがって、およそ4質量%の濃度は、アルカリ性pHで、且つかなりの量の水混和性有機溶媒の存在下で、十分に安定化させることができる。水の総量が比較的少ない場合、それぞれの貯蔵溶液は酸性及び中性pHでは十分に安定していない。
【0151】
C-2ii)水性使用溶液:
第2の安定性試験において、やはり実施例A)、3)で得られた式(Ib)の化合物の安定性を、様々なpH値ではあるがC-2iと比較して低い濃度で調査した。
【0152】
その目的のために、それぞれが、式(Ib)の化合物がそれぞれの使用溶液の総質量に対しておよそ1質量%の総量で存在するように、250mL/Lの、項目C-2i下で上記したpH11の貯蔵溶液、及び750mL/Lの水を含む、様々な使用溶液(本発明による及び本発明によらない)を調製した。様々なpH値を、硫酸を添加することにより得た。安定性は、沈殿物の存在を慎重に決定することにより、14日後に評価した。安定性試験の間、各貯蔵溶液の温度を50℃で一定に保った。結果を表3にまとめる。
【0153】
【0154】
pHが4及び10の使用溶液は、本発明によるものではない。
【0155】
4.7~8.0のpH範囲内では、沈殿が全く観察されないか又はわずかな問題にならない沈殿しか観察されなかった。pH8でわずかな沈殿が起こったが、それぞれの使用溶液は依然として許容可能であった。
【0156】
しかし、4.8~7.7のpH範囲内では沈殿がそれほど観察されず、最良の結果は、非常に好ましいpH範囲である5.5~7.4のpH範囲で観察され、6.5~7.5の範囲のpHで更に良好な結果となった。
【0157】
したがって、溶液が、水性であり、且つ51質量%の水及び1種の又は1種を超える水混和性有機溶媒を少なくとも含有する場合には、典型的な作業濃度、例えば1質量%のアゾールシラン化合物を、中性付近のpHで十分に安定化させることができる。