(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】基礎構造及び基礎構造の施工方法
(51)【国際特許分類】
E02D 27/01 20060101AFI20240311BHJP
E02D 27/08 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
E02D27/01 Z
E02D27/08
(21)【出願番号】P 2021018754
(22)【出願日】2021-02-09
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124316
【氏名又は名称】塩田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】高田 輪太郎
(72)【発明者】
【氏名】原 健二
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-152547(JP,A)
【文献】特開平06-306872(JP,A)
【文献】特開2020-066910(JP,A)
【文献】特開2017-115499(JP,A)
【文献】特開平08-105062(JP,A)
【文献】特開平07-268883(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/01
E02D 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤上に設置された作業床と、この作業床上に平面上、二方向に間隔を置き、構造物の柱の位置に設置されるフーチングを含み、前記構造物の1階床を支持する基礎であり、
前記作業床上の、いずれかの一方向に隣接する前記フーチング間に、少なくともこのフーチングの隣接する方向に交差する方向に布基礎が設置され、この布基礎が連続するいずれかの一方向と平行な方向に隣接する前記フーチング間に小梁が架設され、前記フーチングの天端上に前記1階床が設置され、この1階床は前記フーチングに支持されていることを特徴とする基礎構造。
【請求項2】
前記1階床は前記布基礎の天端上に設置され、前記フーチングと共に、前記布基礎に支持されていることを特徴とする請求項1に記載の基礎構造。
【請求項3】
前記布基礎の長さ方向の一部区間の、高さ方向の一部に開口が形成されていることを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載の基礎構造。
【請求項4】
地盤上に作業床を設置する工程と、この作業床上に平面上、二方向に間隔を置き、構造物の柱の位置にフーチングを設置する工程と、前記作業床上の、いずれかの一方向に隣接する前記フーチング間に、少なくとも前記フーチングの隣接する方向に交差する方向に布基礎を設置すると共に、この布基礎が連続するいずれかの一方向と平行な方向に隣接する前記フーチング間に小梁を架設する工程と、前記フーチングの天端上に1階床を設置する工程とを含むことを特徴とする基礎構造の施工方法。
【請求項5】
前記1階床を設置する工程において、前記布基礎の天端上に前記1階床を設置することを特徴とする請求項4に記載の基礎構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は構造物の基礎にピットを形成しながらも、ピットを形成しない場合と同等の施工性を確保し、完成のための工費の節減と工期の短縮を可能にする基礎構造とその施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
構造物の基礎を二重スラブ構造にする等、基礎にピットを形成することは、現場打ちコンクリート造であれば、型枠、鉄筋の組み立ての手間、コンクリートが部位毎に分割されて打設される等、施工性の面と、工費、工期の面からは不利な点がある。
【0003】
このようなピットの形成に伴う不都合を解消する目的で、二重スラブの基礎スラブと床スラブを一体化させ、ピットを省略した構造の基礎がある(特許文献1参照)。この基礎(マット)は二重スラブの地中梁を不在にすることで、基礎上部(床スラブ相当)が負担する鉛直荷重を基礎下部(基礎スラブ相当)を通じて直接的に地盤に伝達する機能を持たせている。結果的に地中梁を介して鉛直荷重が基礎下部に伝達される二重スラブの場合より基礎下部の負担を軽減することの他、施工性等の面での利点を得ている。
【0004】
しかしながら、ピットは設備の更新用、換気空間用、断熱層用等の複数の機能を持ち得ることから、ピットを省略することは、これらの機能を失うことになるため、構造物の維持管理の面では必ずしも有効とは言えない。
【0005】
一方、鉄骨造架構の例であるが、大梁の軸方向両端部を除き、中間部の区間の上側を切り欠き、この切り欠き内に直交する方向の小梁を並列させて配置し、切り欠き内で並列する小梁間の空間をピットとして利用する方法がある(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-27496号公報(請求項1、段落0018~0023、
図1~
図4)
【文献】特開2018-3443号公報(請求項1、段落0017~0032、
図1、
図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
但し、基礎において地中梁等の梁の軸方向中間部の区間を切り欠くことは、断面欠損分の補強が不可欠であるから、特許文献2の構造を基礎に適用することは現実的ではない。
【0008】
本発明は上記背景より、基礎にピットを形成しながらも、ピットを形成しない場合と同等の施工性を確保し得る基礎構造とその施工方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の基礎構造は、地盤上に設置された作業床と、この作業床上に平面上、二方向に間隔を置き、構造物の柱の位置に設置されるフーチングを含み、前記構造物の1階床を支持する基礎であり、
前記作業床上の、いずれかの一方向に隣接する前記フーチング間に、少なくともこのフーチングの隣接する方向に交差する方向に布基礎が設置され、この布基礎が連続するいずれかの一方向と平行な方向に隣接する前記フーチング間に小梁が架設され、前記フーチングの天端上に前記1階床が設置され、この1階床が前記フーチングに支持されていることを構成要件とする。
【0010】
請求項1における「地盤上に設置された作業床」とは、地盤上に砂利を敷く、根切り土を埋め戻す、捨てコンクリートを打設する等によりフーチング等の設置のための、天端面を平坦にした床を形成、もしくは構築することを言い、既存のプレキャストコンクリート版を設置することを含む。地盤には本来の強度の程度に応じ、地盤改良することもある。上記した砂利を敷く等の床を形成するための複数の作業は単独で実施される場合と、組み合わせられる場合がある。「平面上、」とは、平面図として見たとき、の意味である。
【0011】
請求項1における「設置」はプレキャストコンクリート製等の既存の部材(以下、PC部材)を単に、地盤や作業床等の支持材上に設置して支持材への定着状態、または接合状態にする場合と、現場での構築の結果、支持材上に設置された状態になることを含む。請求項1の「作業床上に設置されるフーチング」とは、作業床上にフーチングとしてのPC部材を単に設置することと、現場打ちコンクリート造でフーチングを構築すること、またはPC部材との合成によりフーチングを完成させることを含む。
【0012】
請求項1における「いずれかの一方向に隣接するフーチング間」とは、フーチングが配列する二方向の内、いずれかの一方向を指す。「少なくともフーチングの隣接する方向に交差する方向」は少なくとも「フーチングが隣接するいずれかの一方向」に直交等、交差する方向を指し、少なくともこの方向に連続するように布基礎が設置される。この「交差方向」は必ずしも直交する方向とは限らない。フーチングが配列する「二方向」も直交する方向とは限らない。
図1に示すようにフーチング4、4の隣接する方向に交差する方向にのみ、布基礎5が設置される場合、請求項1の「フーチングの隣接する方向」と布基礎5が連続する方向は交差する方向になる。
【0013】
「少なくとも」とは、フーチング4、4の隣接する方向に交差する方向に加え、その方向に交差する方向にも布基礎5が連続するように設置される場合があることを言う。ここでの「その方向に交差する方向」は請求項1で言う「フーチング4、4の隣接する方向」である。フーチング4、4の隣接する方向に交差する方向と、その方向に交差する方向(フーチング4、4の隣接する方向)にも布基礎5が設置されることは、
図5に示すようにフーチング4を取り囲むように平面上、例えば直交する二方向を向いて布基礎5、5が配置されることを言う。
【0014】
布基礎5は少なくともいずれかの方向に隣接するフーチング4、4間に挟まれた作業床3上に、隣接する方向に交差する方向を向いて連続的に配置される。布基礎5もPC部材等の既存部材を作業床3上に設置することで敷設される場合と、現場で構築される場合がある。「フーチング4、4の隣接する方向」は、布基礎5が一方向にのみ設置された場合の
図1で言えば、布基礎5の長さ方向(軸方向)に直交する方向(布基礎5の幅方向)であり、「交差する方向」は布基礎5の長さ方向である。
【0015】
布基礎5がプレキャストコンクリート製の場合、PC部材である1個の布基礎構成材51の取扱い作業性を高める上では、1本の布基礎5が、その連続する方向に複数本の布基礎構成材51に分割されていることが合理的である。
図1等は布基礎5の連続する方向に隣接するフーチング4、4の中心間距離の1/2の長さを1本の布基礎構成材51に与えた場合の例を示している。
【0016】
図1に示すように布基礎5が平面上の二方向の内、一方向にのみ連続して設置される場合、布基礎5の幅方向両側の、布基礎5の連続する方向に連続するピット7を確保することができる。結果として、ピット7を配管、配線、ダクト等の設備用の空間としての他、換気用のチャンバー空間、断熱層用の空間、雨水貯留層や消防用水槽等用の空間、設備機械設置用の空間等として活用することが可能である。
【0017】
また布基礎5がいずれかの一方向に隣接するフーチング4、4間にのみ、隣接方向の交差方向を向いて設置された場合、布基礎5が直交方向等にも設置される場合のように、ピット7が連続する方向に分断されることなく、布基礎5の長さ方向に連続するピット7が形成される。従ってピット7が分断される場合に、1階床8に必要とされるマンホール(ハッチ)を形成する必要がないか、形成数が節減されるため、1階床8の設計が単純化され、1階床8の面内方向の剛性も確保し易い。
【0018】
一方、
図5に示すように布基礎5、5が二方向に連続して設置された場合、
図1の例とは違い、ピット7は布基礎5が連続する方向には連続しないが、1階床8がフーチング4の天端上に加え、布基礎5の天端上にも設置された場合に(請求項2)、1階床8が二方向に配列するフーチング4と二方向に連続する布基礎5、5に支持されるため、1階床8を安定的に支持し、1階床8の曲げ変形を抑制し易くなる。
【0019】
請求項1における「布基礎が連続するいずれかの一方向と平行な方向に隣接するフーチング間に小梁が架設され」とは、布基礎5が連続するいずれかの一方向と同一方向に隣接するフーチング4、4間に小梁6が架設され、両フーチング4、4に支持されることを言う。布基礎5が一方向にのみ連続して設置される場合には、その方向と平行な方向に小梁6が架設され、布基礎5、5が二方向に設置される場合には、いずれかの一方向と平行な方向に小梁6が架設される。「布基礎が連続する方向」は布基礎5の長さ方向であり、布基礎5が一方向にのみ連続して設置される場合、小梁6の長さ方向と布基礎5の長さ方向は同一になる。小梁6はプレキャストコンクリート製の場合と現場打ちコンクリート造で構築される場合がある他、鉄骨製の場合もある。
【0020】
上記のように布基礎5が一方向にのみ連続して設置される場合、布基礎5の幅方向両側に連続するピット7が確保され、布基礎5が二方向に連続して設置された場合にも、フーチング4の周囲を周回するピット7が確保される。併せて作業床3上に設置される基礎1の構成材としてPC部材等の既存部材が使用された場合には、既存部材の設置によって基礎1を完成させることができるため、基礎1にピット7を形成しながらも、ピット7を形成しない場合と同等の施工性が確保される。施工性がよいことで、施工能率の向上と工費の節減が図られる。
【0021】
基礎1の一部の構成材が現場打ちコンクリート造であっても、既存部材との合成構造であるか、他のいずれかの構成材が既存部材であれば、基礎1の全構成材が既存部材である場合と同等程度の施工性は確保される。またフーチング4と布基礎5は互いに支持される関係にならず、それぞれの設置作業は独立し得るため、両作業が並行して進められる場合にも、施工性は向上する。設置作業が独立し得ることは、布基礎5と小梁6との間にも言えるため、小梁6の設置作業も布基礎5の設置作業と並行して進められ得る。
【0022】
布基礎5が一方向にのみ連続して設置される場合、「布基礎5が連続する方向と平行な方向に隣接するフーチング4、4間に小梁6が架設される」ことには、ピット7内を布基礎5の連続する方向に人が自由に移動できる状況を確保する意味がある。小梁6が布基礎5の連続する方向と平行な方向に架設されることで、二方向に配列したフーチング4、4間では水平力は小梁6の架設方向に、小梁6を通じて伝達される。直交方向には1階床8を通じて伝達される。布基礎5が二方向に連続して設置された場合にも、各フーチング4の周りにピット7が確保されるため、ピット7が周回する範囲で人が自由に移動できる状況は確保される。
【0023】
図示する例では布基礎5の長さ方向の一部区間の、高さ方向の一部に開口51aを形成することで(請求項3)、人が作業床3周囲等から直接、ピット7内に出入り可能にし、目視での点検、修繕、設備の設置等を行えるようにしている。開口51aは人通口として利用される他、配管用の貫通孔等として利用される。「高さ方向の一部」は布基礎5の全成の内の一部であり、成方向の天端側、もしくは下端側、または中間部である。一方向の布基礎5が複数本の布基礎構成材51から構成される場合には、開口51aは全布基礎構成材51に形成される場合と、一部の布基礎構成材51に形成される場合がある。
【0024】
布基礎5の天端上に1階床8が設置されたときには、小梁6が1階床8の設置上の障害にならないよう、小梁6の上面は布基礎5の天端面より上に突出しない状態で布基礎5に支持される。例えば
図1に示すように布基礎5に天端面側から形成された切欠き4a内に軸方向端部が納まるように小梁6が設置される。この場合に、小梁6の天端面が布基礎5の天端面に揃えられていれば、1階床8は布基礎5と共に、小梁6の位置でも支持されるため、1階床8の曲げ変形が抑制される。
【0025】
1階床8は鉄筋コンクリート造の、もしくはプレキャストコンクリート製のスラブの他、デッキプレート、デッキプレートを含む合成スラブ等がある。「フーチングの天端上に1階床が設置され」とは、1階床8がフーチング4の天端上に単に設置される場合と、現場で構築される場合があることを言う。
【0026】
1階床8はフーチング4の天端上に設置されることで、基本的にはフーチング4に支持される。但し、フーチング4は構造物の柱9の位置に設置されることから、柱9を通じた1階床8上の鉛直荷重を負担するため、フーチング4の負担を軽減する上では、1階床8を布基礎5の天端上に設置し、フーチング4と共に、布基礎5にも支持させることが適切である(請求項2)。
【0027】
請求項1乃至請求項3に記載の基礎構造は、地盤2上に作業床3を設置する工程と、作業床3上に平面上、二方向に間隔を置き、構造物の柱9の位置にフーチング4を設置する工程と、作業床3上の、いずれかの一方向に隣接するフーチング4、4間に、少なくともフーチング4、4の隣接する方向に交差する方向に布基礎5を設置すると共に、布基礎5が連続するいずれかの一方向と平行な方向に隣接するフーチング4、4間に小梁6を架設する工程と、フーチング4の天端上に1階床8を設置する工程とを経て完成する(請求項4)。1階床8を設置する工程においては、布基礎5の天端上に1階床8を設置することもある(請求項5)。
【0028】
作業床3の設置工程は他の工程に先行し、1階床8の設置工程は他の工程の後になる。また小梁6の架設工程はフーチング4の設置工程の後になるが、フーチング4の設置工程と布基礎5の設置工程は順を問わず、いずれの工程が先であるかは任意であり、両工程が並行して進められることもある。
【発明の効果】
【0029】
作業床上の、少なくともいずれかの一方向に布基礎を連続して設置するため、布基礎の幅方向両側に連続するピット、またはフーチングの周囲を周回するピットを確保することができる。併せて作業床上に設置される基礎の構成材としてPC部材等の既存部材を使用した場合の他、フーチングの設置作業と布基礎の設置作業を並行して進める場合には、ピットを形成しない場合と同等の施工性を確保することができるため、施工能率の向上と工費の節減が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】基礎の構成例、及び基礎と1階床と柱の関係を示した斜視図である。
【
図2】(a)は
図1に示す基礎の作業床上にフーチングを設置したときの様子を示した斜視図、(b)は(a)の一方向に隣接するフーチング間に布基礎を設置したときの様子を示した斜視図、(c)は(b)の布基礎の長さ方向に隣接するフーチング間に小梁を架設したときの様子を示した斜視図、(d)は(c)のフーチング上に1階床を設置したときの様子を示した斜視図である。
【
図3】
図1に示す基礎の配置状態を示した平面図、(b)は(a)のx-x線断面図、(c)は(b)に示す布基礎を構成する布基礎構成材の製作例を示した斜視図である。
【
図4】(a)はフーチングの下に4本の杭を設置し、フーチングを杭基礎として構築した場合の例を示した平面図、(b)は(a)のフーチングを通る縦断面図である。
【
図5】(a)は布基礎を二方向に連続して設置した場合のフーチングと布基礎の関係を示した平面図、(b)は(a)のフーチングを通る縦断面図である。
【
図6】(a)は
図5に示す、布基礎が二方向に直交して設置される場合の、直交する部分の布基礎の取合い例を示した斜視図、(b)はフーチングの形成例を示した斜視図、(c)は(b)に示すフーチングの切欠きに端部が納まる小梁の形成例を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は地盤2上に設置された作業床3と、作業床3上に平面上、二方向に間隔を置き、構造物の柱9の位置に設置されるフーチング4を含み、構造物の1階床8を支持する基礎1の例を示す。作業床3上の、二方向の内のいずれかの一方向に隣接するフーチング4、4間に、少なくともフーチング4、4の隣接する方向に交差する方向に布基礎5が設置される。布基礎5が連続するいずれかの一方向と平行な方向に隣接するフーチング4、4間に小梁6が架設され、フーチング4の天端上に1階床6が設置され、1階床8がフーチング4に支持される。
図1は作業床3上に布基礎5を一方向にのみ連続して設置した場合の基礎1の例を、
図5は布基礎5を二方向に連続して設置した場合の基礎1の例を示す。
【0032】
作業床3は構造物である上部構造の鉛直荷重を負担し得る強度を有する地盤2の上に設置、または構築される。以下では構築を含めて主に設置と言う。作業床3は基礎1を構成するフーチング4と布基礎5を水平面上に設置するための床であり、必ずしも基礎1上の鉛直荷重を負担する必要はないため、天端面が全体的に平坦面に仕上がっていればよい。この関係で、砂利を敷くか、土を埋め戻すだけで作業床3が形成されることもあるが、捨てコンクリートの打設、プレキャストコンクリート版の敷設、またはこれらの作業の組み合わせ等により形成されることもある。
【0033】
地盤2が必要な強度を有していない場合には、
図3-(b)に示すように地盤2に対して地盤改良が施されるか、または
図4に示すように構造物の荷重を地盤2に伝達するフーチング4下の地盤2中に杭10が埋設されるか、構築される。
図3-(b)はフーチング4直下の地盤2に、またはフーチング4直下の地盤2を含む、フーチング4上の鉛直荷重を負担し得る地盤2に対してのみ、地盤改良をした場合の例を示しているが、より広範囲に地盤改良することもある。
【0034】
図4は1個のフーチング4の下に4本の杭10を、フーチング4の平面上の中心に関して均等に配置し、1個のフーチング4を4本の杭9に支持させた場合の例を示している。
図3-(b)はフーチング4を布基礎5の幅方向に見たときの縦断面を、
図4-(b)は布基礎5の長さ方向に見たときの縦断面を示している。
【0035】
以下、
図2-(a)~(d)に従い、地盤2上に、布基礎5を一方向にのみ設置した基礎1を完成させ、フーチング4上に1階床8を設置するまでの作業手順を説明する。布基礎5は
図5に示すようにフーチング4、4が配列する二方向を向いて設置されることもある。
【0036】
図2-(a)は地盤2上に作業床3を設置し、作業床3上にフーチング4を設置した後の様子を示している。
図2-(a)ではフーチング4上に構造物の1階の柱9の脚部が固定されている状態が示されているが、ここでは便宜的にフーチング4の平面上の中心に柱9の中心が位置することを示しているに留まり、実際にフーチング4の設置時に柱9の脚部がフーチング4に固定されるとは限らない。
【0037】
柱9の脚部は例えば
図4-(b)に示すようにフーチング4の中心部分に天端面側から形成された空洞内に鉛直方向に差し込まれ、空洞内の空隙にモルタルやコンクリート等の充填材の充填等により接合される。但し、柱9のフーチング4への接合方法は問われず、柱9の脚部に一体化したベースプレートをフーチング4にアンカーボルト等を用いて接合する等、任意である。
【0038】
フーチング4は主にプレキャストコンクリート部材(以下、PC部材)の完成品の設置によって作業床3上に設置されるか、フーチング4を構成する構成材であるPC部材の組み合わせと接合によって完成する。この他、現場打ちコンクリート造のみによって、または現場打ちコンクリート造とPC部材の組み合わせによって構築される場合もある。フーチング4は地盤2にアンカーボルトその他のアンカーにより定着される。
【0039】
布基礎5が一方向にのみ連続して設置される場合、布基礎5が連続する方向と平行な方向に隣接するフーチング4、4間には小梁6が架設され、両フーチング4、4に支持される。布基礎5が二方向に連続して設置される場合には、布基礎5が連続するいずれかの一方向と平行な方向に隣接するフーチング4、4間に小梁6が架設される。この関係で、フーチング4と小梁6がPC部材等、既存部材である場合、フーチング4の小梁6を支持する部分には
図2-(a)、
図3-(a)、
図6-(b)に示すように小梁6が納まる切欠き4aが形成されている。
【0040】
小梁6の軸方向両端部が切欠き4a内に納まることで、フーチング4の天端面と小梁6の天端面を面一にすることができるため、フーチング4と小梁6上に載置される1階床8の底面が平坦面であっても、1階床8をフーチング4と小梁6に支持させることができる。
図6-(c)は(b)に示すフーチング4の切欠き4aに端部が納まる形状の、PC部材の小梁6の製作例を示している。
【0041】
フーチング4の地盤2への定着状態で、作業床3上の、水平二方向の内、いずれかの一方向に隣接するフーチング4、4間に、
図2-(b)に示すように少なくともそのフーチング4、4の隣接する方向に直交等、交差する方向に布基礎5が設置される。布基礎5も主にPC部材の設置によって作業床3上に設置されるか、図示するように布基礎5を構成する構成材であるプレキャストコンクリート製の布基礎構成材51、51同士の接合によって設置される。この他、現場打ちコンクリート造のみによって、または現場打ちコンクリート造とPC部材の組み合わせによって構築される場合もある。
【0042】
布基礎5が一方向にのみ連続して設置される場合、各布基礎5の幅方向両側に、布基礎5の長さ方向に連続する空間を形成するピット7、7が形成される。この場合、ピット7は並列する布基礎5、5間単位で、または布基礎5と小梁6間単位で形成される。布基礎5が二方向に連続して設置される場合には、
図5-(a)に示すように各フーチング4を周囲から包囲するように、周方向に連続する空間を形成するピット7が形成される。
【0043】
図面では布基礎構成材51の運搬と設置の作業性を高める目的で、1個(1本)の布基礎構成材51に、布基礎5が連続する方向に隣接するフーチング4、4間の中心間距離を2分割した長さを持たせているが、1個の布基礎構成材51の長さは任意に決められる。布基礎5の長さ方向に隣接する布基礎構成材51、51は例えばそれぞれの端部から突出させた鉄筋同士等の継手と空隙へのモルタル等の充填材の充填等により接合される。この他、布基礎構成材51、51のそれぞれの端部から突出させたプレート等の金物を互いに重ねてボルト等により接合した上で、空隙への充填材の充填等により接合する方法もあるが、接合方法は任意である。布基礎5も地盤2にアンカーボルトその他のアンカーにより定着される。
【0044】
図面ではまた、
図3-(c)に示すように布基礎構成材51の例えば軸方向の片側の、天端面側に、人通口として利用可能な開口51aを形成している。開口51aを人通口として利用する場合、軸方向に隣接する布基礎構成材51、51は開口51a側が互いに突き合わせられるように組み合わせられ、2個の隣接する布基礎構成材51、51の開口51a、51aを合わせた大きさの開口が人通口になる。
【0045】
布基礎5が一方向にのみ連続して設置される場合、いずれかのピット7内には一旦、作業床3の周囲等を通じて1階床8の床下内に入り込んだ後、人通口を通じて移動可能になる。布基礎5が二方向に連続して設置される場合にも、少なくともいずれかの方向に連続する布基礎5の開口51aが人通口として利用可能な大きさを持てば、作業床3の周囲等を通じていずれかのピット7内に入り込んだ後、人通口を通じて任意のピット7に移動可能になる。
【0046】
開口51aはこの他、配管用の貫通孔やダクト等としても利用される。その場合、隣接する布基礎構成材51、51の2個の開口51aが連続する必要はないため、開口51aは布基礎構成材51の軸方向の中間部の、天端面側、またはそれ以外の部分に形成されることもある。
【0047】
フーチング4の設置後で、布基礎5の設置後、もしくは設置前、または並行して
図2-(c)に示すように布基礎5が連続するいずれかの一方向に隣接するフーチング4、4間に小梁6が架設される。前記のように小梁6の軸方向両端部はフーチング4の切欠き4a内に納まり、小梁6の天端面とフーチング4の天端面が揃えられる。小梁6の軸方向両端部は切欠き4a内で、例えばフーチング4と小梁6のそれぞれの端部から突出させた鉄筋や金物等同士の継手と空隙への充填材の充填等により接合される。小梁6が鉄骨部材の場合には、フーチング4の表面に突設した金物にボルトや溶接等によっても接合される。
【0048】
作業床3上への布基礎5の設置と、フーチング4上への小梁6の設置後、フーチング4の天端上に1階床8が設置される。1階床8はデッキプレートやプレキャストコンクリート床版の設置等によってフーチング4上に設置される他、現場打ちコンクリート造で構築される場合がある。コンクリートはデッキプレート上に打設されることもある。
【0049】
1階床8はフーチング4に支持されるが、フーチング4の天端面と小梁6の天端面が面一の場合には、小梁6の部分では小梁6に支持されるため、小梁6の軸方向に隣接するフーチング4、4間での1階床8の撓みが抑制される。デッキプレートを用いる場合、
図3-(a)に矢印で示すようにリブの長さ方向を小梁6と直交する方向に向けてデッキプレートを敷設することになる。
図3-(a)はフーチング4上に1階床8が設置される前の状態を示しているが、(b)は1階床8の設置状態を示している。
図4、
図5の矢印もデッキプレートのリブの長さ方向を示している。
【0050】
前記のように柱9はフーチング4の設置時にフーチング4上に設置され、脚部がフーチング4に固定されることもあるが、1階床8の設置時、または設置前に設置され、固定されることもある。
【0051】
図5は作業床3上に布基礎5、5を二方向に連続して設置した場合の布基礎5、5の設置例を示す。ここでは
図6に示すようにPC部材の布基礎構成材51、51を二方向に組み合わせながら、二方向に隣接するフーチング4、4間に布基礎5、5を設置したときの状況を示している。この場合、二方向の布基礎5、5の交差部分では例えば相欠き仕口のように二方向の布基礎構成材51、51を断面積を大きく損失させることなく、互いに重ねながら、接合可能な方法で接合される。
【0052】
図5の例では小梁6の架設方向と平行な方向の1本の布基礎構成材51に、前記のように隣接するフーチング4、4の中心間距離の1/2の長さを与えている。それに対し、直交する方向の布基礎構成材51を、小梁6の架設方向の布基礎構成材51の中間部位置で交わるように組み合わせていることから、小梁6の架設位置に布基礎構成材51、51の継手が配置されないよう、小梁6に直交する方向の布基礎構成材51に小梁6の架設方向の布基礎構成材51の半分の長さを持たせている。各方向の布基礎5の軸方向に隣接する布基礎構成材51、51は例えば
図6-(a)に示すように双方に跨る継手プレート52と布基礎構成材51に螺入するボルト53等を用いて接合される。
【符号の説明】
【0053】
1……基礎、
2……地盤、3……作業床、
4……フーチング、4a……切欠き、
5……布基礎、51……布基礎構成材、51a……開口、52……継手プレート、53……ボルト、
6……小梁、7……ピット、
8……1階床、9……柱、
10……杭。