(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】粘性系の振動減衰装置
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240311BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20240311BHJP
F16F 7/12 20060101ALI20240311BHJP
F16F 7/08 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
E04H9/02 331Z
F16F15/023 A
F16F7/12
F16F7/08
(21)【出願番号】P 2021033551
(22)【出願日】2021-03-03
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(73)【特許権者】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128509
【氏名又は名称】絹谷 晴久
(74)【代理人】
【識別番号】100119356
【氏名又は名称】柱山 啓之
(74)【代理人】
【氏名又は名称】鈴木 知
(72)【発明者】
【氏名】舟木 秀尊
(72)【発明者】
【氏名】山上 聡
(72)【発明者】
【氏名】小山 慶樹
(72)【発明者】
【氏名】山際 創
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特許第4893061(JP,B2)
【文献】特開平11-093999(JP,A)
【文献】特開2006-045885(JP,A)
【文献】特開2010-189968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 15/00 -15/36
F16F 9/00 - 9/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に関して相対振動される上部構造物及び下部構造物の夫々に取り付けるための上部取付部及び下部取付部と、
該上部取付部及び該下部取付部に連結されて該下部取付部に対する該上部取付部の水平方向の振動を減衰させる粘性ダンパーと、
上記下部取付部に対して上記上部取付部に一定以上の水平力が生じると上記粘性ダンパーに対する該上部取付部及び該下部取付部のうちの少なくとも一方の該連結を解除する解除機構とを備えており、
該解除機構は、
上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの一方と上記粘性ダンパーとを水平方向に関して連結していると共に該下部取付部に対して該上部取付部に一定以上の水平力が生じると切断されて該上部取付部及び該下部取付部のうちの一方と該粘性ダンパーとの水平方向に関する該連結を解除する脆弱部を有した連結解除ピンと、
該連結解除ピンの上記脆弱部での曲げ応力の発生を阻止する曲げ応力阻止手段とを具備しており、
該曲げ応力阻止手段は、
上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの一方と上記粘性ダンパーとの間であって上記連結解除ピンの周りに配されていると共に膨大頭部を有している複数のボルトと、
上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの一方と上記粘性ダンパーとのうちの一方に固着されていると共に上記各ボルトが螺着されている保持部材と、
上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの一方と上記粘性ダンパーとのうちの他方に固着されていると共に上記各ボルトの上記膨大頭部に水平方向に移動自在に接触する受面を有した受台と、
上記各ボルトの上記保持部材からの突出量を調節するロックナットとを具備した粘性系の振動減衰装置において、
さらに、上記脆弱部の切断を検知する検知手段を備え、
該検知手段は、上記上部取付部側に設けられ、上記上部構造物側に作用する振動加速度を観測する加速度計と、該加速度計で観測された振動加速度が入力され、該上部構造物側の卓越周波数のフーリエ解析を実行するフーリエ解析手段とを備えたことを特徴とする粘性系の振動減衰装置。
【請求項2】
前記検知手段はさらに、前記下部取付部側に設けられ、前記下部構造物側に作用する振動加速度を観測する第2加速度計を備え、前記フーリエ解析手段は、前記加速度計及び上記第2加速度計夫々で観測された振動加速度が入力されて、前記上部構造物側及び上記下部構造物側夫々の卓越周波数のフーリエ解析を実行することを特徴とする請求項1に記載の粘性系の振動減衰装置。
【請求項3】
前記フーリエ解析手段は、前記上部構造物側及び前記下部構造物側夫々で観測された振動加速度から、これら上部構造物側及び下部構造物側間のフーリエ振幅比の解析を実行することを特徴とする請求項2に記載の粘性系の振動減衰装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連結解除ピンが切断されたか否かを、簡単な構成でありながら、容易かつ確実に確認することが可能な粘性系の振動減衰装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、免震装置に組み合わせて用いられる粘性タイプの振動減衰装置として、特許文献1が知られている。
【0003】
特許文献1の「粘性系の振動減衰装置及びこれを具備した免震建物」は、水平方向に関して相対振動される上部構造物及び下部構造物の夫々に取り付けるための上部取付部及び下部取付部と、該上部取付部及び該下部取付部に連結されて該下部取付部に対する該上部取付部の水平方向の振動を減衰させる粘性ダンパーと、上記下部取付部に対して上記上部取付部に一定以上の水平力が生じると上記粘性ダンパーに対する該上部取付部及び該下部取付部のうちの少なくとも一方の該連結を解除する解除機構とを備えており、該解除機構は、上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの一方と上記粘性ダンパーとを水平方向に関して連結していると共に該下部取付部に対して該上部取付部に一定以上の水平力が生じると切断されて該上部取付部及び該下部取付部のうちの一方と該粘性ダンパーとの水平方向に関する該連結を解除する脆弱部を有した連結解除ピンと、該連結解除ピンの上記脆弱部での曲げ応力の発生を阻止する曲げ応力阻止手段とを具備しており、該曲げ応力阻止手段は、上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの一方と上記粘性ダンパーとの間であって上記連結解除ピンの周りに配されていると共に膨大頭部を有している複数のボルトと、上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの一方と上記粘性ダンパーとのうちの一方に固着されていると共に上記各ボルトが螺着されている保持部材と、上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの一方と上記粘性ダンパーとのうちの他方に固着されていると共に上記各ボルトの上記膨大頭部に水平方向に移動自在に接触する受面を有した受台と、上記各ボルトの上記保持部材からの突出量を調節するロックナットとを具備している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記背景技術では、一定以上の水平力が生じると切断される連結解除ピンを用いることで、粘性ダンパーに、振動減衰させる場合とそれ以外の場合とを切り替えるようにしている。
【0006】
このような構成であると、相当規模の地震が発生するたびに、連結解除ピンが切断されたか否かを確認する必要があった。また、その確認は、作業者が粘性ダンパーの設置場所で、目視により確認する必要があった。このため、連結解除ピンが切断されたか否かを手間取ることなく容易に確認することができる方策の案出が望まれていた。
【0007】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、連結解除ピンが切断されたか否かを、簡単な構成でありながら、容易かつ確実に確認することが可能な粘性系の振動減衰装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる粘性系の振動減衰装置は、水平方向に関して相対振動される上部構造物及び下部構造物の夫々に取り付けるための上部取付部及び下部取付部と、該上部取付部及び該下部取付部に連結されて該下部取付部に対する該上部取付部の水平方向の振動を減衰させる粘性ダンパーと、上記下部取付部に対して上記上部取付部に一定以上の水平力が生じると上記粘性ダンパーに対する該上部取付部及び該下部取付部のうちの少なくとも一方の該連結を解除する解除機構とを備えており、該解除機構は、上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの一方と上記粘性ダンパーとを水平方向に関して連結していると共に該下部取付部に対して該上部取付部に一定以上の水平力が生じると切断されて該上部取付部及び該下部取付部のうちの一方と該粘性ダンパーとの水平方向に関する該連結を解除する脆弱部を有した連結解除ピンと、該連結解除ピンの上記脆弱部での曲げ応力の発生を阻止する曲げ応力阻止手段とを具備しており、該曲げ応力阻止手段は、上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの一方と上記粘性ダンパーとの間であって上記連結解除ピンの周りに配されていると共に膨大頭部を有している複数のボルトと、上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの一方と上記粘性ダンパーとのうちの一方に固着されていると共に上記各ボルトが螺着されている保持部材と、上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの一方と上記粘性ダンパーとのうちの他方に固着されていると共に上記各ボルトの上記膨大頭部に水平方向に移動自在に接触する受面を有した受台と、上記各ボルトの上記保持部材からの突出量を調節するロックナットとを具備した粘性系の振動減衰装置において、さらに、上記脆弱部の切断を検知する検知手段を備え、該検知手段は、上記上部取付部側に設けられ、上記上部構造物側に作用する振動加速度を観測する加速度計と、該加速度計で観測された振動加速度が入力され、該上部構造物側の卓越周波数のフーリエ解析を実行するフーリエ解析手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
前記検知手段はさらに、前記下部取付部側に設けられ、前記下部構造物側に作用する振動加速度を観測する第2加速度計を備え、前記フーリエ解析手段は、前記加速度計及び上記第2加速度計夫々で観測された振動加速度が入力されて、前記上部構造物側及び上記下部構造物側夫々の卓越周波数のフーリエ解析を実行することを特徴とする。
【0010】
前記フーリエ解析手段は、前記上部構造物側及び前記下部構造物側夫々で観測された振動加速度から、これら上部構造物側及び下部構造物側間のフーリエ振幅比の解析を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる粘性系の振動減衰装置にあっては、連結解除ピンが切断されたか否かを、簡単な構成でありながら、容易かつ確実に確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図2に示す例の振動減衰装置の断面説明図である。
【
図2】本発明の実施形態の好ましい例の正面説明図である。
【
図3】
図1に示す振動減衰装置のIII-III線矢視断面図である。
【
図4】
図1に示す例の連結解除ピンの斜視図である。
【
図7】本発明の検知手段により、フーリエ解析した結果の一例のフーリエスペクトル比のグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明にかかる粘性系の振動減衰装置の好適な実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。まず、本発明の前提となる粘性系の振動減衰装置について説明する。
【0014】
図1から
図4において、本例の免震建物1は、地盤に杭等により固定されて設置されたコンクリート製の基礎2と、鉛支柱3入りのアイソレータ4からなる免震装置5と、免震装置5を介して基礎2上に支承された上部構造物としての事務所ビル6と、基礎2と事務所ビル6との間に配された粘性系の振動減衰装置7とを具備している。
【0015】
上部構造物は、好ましくは、事務所ビル、集合住宅又は戸建住宅であるが、特に好ましくは高層の事務所ビル又は集合住宅であるが、本発明はこれらに限定されず、その他の上部構造物であってもよい。
【0016】
また、上部構造物と下部構造物はそれぞれ、免震装置5が設置される免震層によって分断される構造体の上層部分及び下層部分であってもよい。
【0017】
下部構造物としての基礎2と事務所ビル6との間に介在されていると共に事務所ビル6の上下方向(鉛直方向)Vの荷重を支持する免震装置5は、地震による水平方向Hの振動に対して免震作動するアイソレータ4と、水平方向Hの振動を減衰させると共にアイソレータ4に埋設されている弾塑性体としての鉛支柱3と、アイソレータ4の上面及び下面の夫々に固着されていると共に事務所ビル6と基礎2との夫々にアンカーボルト等を介して固着された上下取付鋼板8及び9とを具備しており、アイソレータ4は、鋼板等からなる複数の剛性層10及びゴム等からなる複数の弾性層11が上下方向Vに交互に積層されている積層ゴムからなり、地震による水平方向Hの振動に対して免震作動すると共に当該振動を減衰させる斯かる免震装置5は、事務所ビル6の荷重を受けるべく、基礎2上に適当に分散されて複数個配されている。
【0018】
免震装置5としては、鋼板等からなる剛性層と振動を効果的に減衰させる高減衰ゴムなどからなる弾性層とが交互に積層された積層ゴムからなるものでもよく、また上記例示した、剛性層及び弾性層が交互に積層された積層ゴムと、この積層ゴムに埋設されていると共に振動を効果的に減衰させる鉛支柱とを具備するものでもよく、更には、滑り摩擦を用いたものであっても、以上のものを適宜組み合わせたものであってよく、要は、地震による水平方向Hの振動に対して免震作動する(アイソレータ機能を発揮する)と共に当該振動を減衰させる(減衰機能を発揮する)ものであればよい。
【0019】
さらに、免震装置5は、減衰機能がないものであっても良く、その場合には、振動減衰装置7とは別に、油圧式ダンパー等の減衰作用のある装置を設ければよい。
【0020】
免震装置5を介して基礎2に対して水平方向Hの振動に関して免震支持された高層の事務所ビル6の当該水平方向Hの振動を減衰させる振動減衰装置7は、水平方向Hに関して相対振動される基礎2及び事務所ビル6の夫々に取り付けられた下部取付部としての容器25の底壁板26及び上部取付部としての取付板66と、底壁板26及び取付板66に連結されて底板壁26に対する取付板66の水平方向Hの振動を減衰させる粘性ダンパー21と、事務所ビル6及び基礎2の水平方向Hに関する相対振動に起因して底壁板26に対して取付板66に一定以上の水平力が生じると粘性ダンパー21に対する取付板66及び底壁板26のうちの少なくとも一方、本例では取付板66の該連結を解除する解除機構22とを有している。
【0021】
粘性ダンパー21は、上記の下部取付部としての底壁板26を介して基礎2にアンカーボルト等により固着されて連結された容器25と、容器25内に配されて容器25の底壁板26に取付機構27を介して夫々の外周縁部で固着されていると共に上下方向Vにおいて互いに隙間をもって配された複数枚の円環状の固定板28と、容器25内に配されて上下方向Vにおいて固定板28に対して隙間をもって当該固定板28間の隙間の夫々に配されていると共に固定板28に対して水平方向Hに可動に配されている複数枚の円環状の可動板29と、固定板28と可動板29との間の隙間に配されていると共に容器25内に収容された粘性体30と、各可動板29の内周縁部が取付機構31を介して鍔部32に固着されて可動板29を支持する鍔部32付の円筒体33と、円筒体33内に上下方向Vに移動自在に嵌挿された円柱部34を有すると共に円柱部34に一体に形成された取付鍔部35を有した連結部材36と、連結部材36の取付鍔部35が複数個のボルト37により下面38に固着された四角形の上基台39と、上基台39の上面40の四個の角部に複数個のボルト41により固着された四個の受台42とを具備している。
【0022】
容器25は、基礎2にアンカーボルト等により固着された四角形の底壁板26と、底壁板26に溶接、ボルト等を介して固着された円筒状の側壁板45と、側壁板45に溶接等を介して固着された環状の鍔板46と、鍔板46に溶接、ボルト等を介して固着されていると共に連結部材36を通過させる円形の開口47を中央に有した環状の蓋板48と、底壁板26、側壁板45及び鍔板46の夫々に溶接等を介して固着された複数の補強部材49とを具備している。
【0023】
底壁板26は、振動減衰装置7を下部構造物としての基礎2に取り付けるための下部取付部としても機能しているが、斯かる下部取付部としては、底壁板26に代えて、当該底壁板26に溶接、ボルト等を介して固着されると共に基礎2にもアンカーボルト等により固着される下部取付板であってもよい。
【0024】
取付機構27は、上下円環状板51と、各固定板28の外周縁部間に配された円環状スペーサ板52と、各固定板28の外周縁部と共に上下円環状板51及び円環状スペーサ板52を底壁板26に固着する複数個のボルト53とを具備しており、取付機構31は、円環状板54と、各可動板29の内周縁部間に配された円環状スペーサ板55と、各可動板29の内周縁部と共に円環状板54及び円環状スペーサ板55を鍔部32に固着する複数個のボルト56とを具備している。
【0025】
円筒体33の下面57は、底壁板26の上面58に水平方向Hに可動に接触しており、円柱部34の底面59と円筒体33の内側底面60との間には空間61が保持されており、可動板29の両面には、固定板28と可動板29との間の隙間を保持すると共に固定板28に摺動自在に接触したスペーサ(図示せず)が固着されている。斯かるスペーサは、固定板28に設けてもよい。
【0026】
四個の受台42の夫々は、その上面に水平方向Hに平行であって平坦な滑り面からなる受面62を有している。
【0027】
粘性ダンパー21は、固定板28に対する可動板29の水平方向Hの移動において、固定板28と可動板29との間の隙間に配された粘性体30に粘性剪断変形を生じさせることにより、可動板29の水平方向Hの移動に対して粘性剪断変形に起因する抵抗力を及ぼして可動板29の水平方向Hの振動、延いては取付板66を介して事務所ビル6の水平方向Hの振動を減衰させるようになっている。
【0028】
取付板66は、事務所ビル6の下面65にボルト等により固着されている。
【0029】
解除機構22は、上部取付部としての取付板66及び下部取付部としての底壁板26のうちの一方、本例では取付板66と粘性ダンパー21とを水平方向Hに関して連結していると共に事務所ビル6及び基礎2の水平方向Hに関する相対振動に起因して底壁板26に対して取付板66に一定以上の水平力が生じると切断、本例では水平方向Hに剪断されて取付板66と粘性ダンパー21との水平方向Hに関する該連結を解除する脆弱部としての括れ部67を有した連結解除ピン68と、連結解除ピン68の括れ部67への連結部材36付近を中心とするR方向の曲げモーメントの付加に起因する括れ部67での曲げ応力の発生を阻止する曲げ応力阻止手段70と、連結解除ピン68の一方の本体71を取付板66及び底壁板26のうちの一方、本例では取付板66に固定する固定手段72と、連結解除ピン68の他方の本体73を粘性ダンパー21の上基台39に固定する固定手段74とを具備している。
【0030】
連結解除ピン68は、固定手段72を介して取付板66に固定されていると共に一端面にねじ孔75を有した円柱状の本体71と、固定手段74を介して粘性ダンパー21の上基台39に固定されていると共に一端面にねじ孔76を有した円柱状の本体73と、両本体71及び73の間に介在された脆弱部としての括れ部67とを一体的に具備している。
【0031】
連結解除ピン68は、通常、両本体71及び73と脆弱部とが一体形成されたものからなるが、脆弱部を両本体71及び73よりも機械的強度の低い材料から形成してもよく、斯かる機械的強度の低い材料を括れ部67に用いてもよい。
【0032】
固定手段72は、複数個のボルト81により取付板66の下面82に固着されていると共に本体71がぴったりと嵌合されている凹所83を有した保持部材84と、保持部材84の中央部を貫通していると共に本体71のねじ孔75に螺合しているボルト85とを具備しており、固定手段74は、複数個のボルト86により上基台39の上面40に固着されていると共に本体73がぴったりと嵌合されている凹所88を有した保持部材89と、保持部材89の中央部を貫通していると共に本体73のねじ孔76に螺合しているボルト90とを具備しており、保持部材84の下面と保持部材89の上面とは隙間91をもって対面されており、隙間91の位置に括れ部67が配されている。
【0033】
従って、粘性ダンパー21の可動板29が配される円筒体33内に、振動伝達のために嵌挿された円柱部34を備える上基台39は、連結解除ピン68を介して、上部取付部である取付板66から吊り下げられている。そして、連結解除ピン68による吊り下げにより、円柱部34の底面59と円筒体33の内側底面60との間に、空間61が形成されることになる。
【0034】
曲げ応力阻止手段70は、取付板66及び底壁板26のうちの一方、本例では取付板66と粘性ダンパー21との間に介在されていると共に取付板66と粘性ダンパー21とのうちの少なくとも一方、本例では粘性ダンパー21に対して水平方向Hに移動自在である介在部材としての四個のボルト95(二個のみ図示)と、各ボルト95を保持するべく、受台42に対応して取付板66の下面82の四個の角部の夫々に複数のボルト96により固着されていると共に夫々ねじ孔97を有した四個の保持部材98とを具備している。
【0035】
連結解除ピン68の周りに配された複数個の支柱としてのボルト95の夫々は、対応の保持部材98のねじ孔97に螺着されていると共にその膨大頭部で水平方向Hに移動自在に対応の受台42の受面62に接触している。各ボルト95の対応の保持部材98のねじ孔97への螺入量は、当該各ボルト95に螺着されたロックナット99により固定されている。斯かる螺入量、換言すれば、各ボルト95の対応の保持部材98からの突出量は、ロックナット99を緩めることにより調節することができるようになっている。
【0036】
曲げ応力阻止手段70は、好ましい例では、上部取付部(取付板66)及び下部取付部(底壁板26)のうちの一方と粘性ダンパー21との間に介在されると共に上部取付部及び下部取付部のうちの一方と粘性ダンパーとのうちの少なくとも一方に対して水平方向Hに移動自在である介在部材(ボルト95)を具備しており、斯かる介在部材は、上部取付部及び下部取付部のうちの一方と粘性ダンパーとのうちの一方に一端で水平方向Hに移動自在に接触するか又は上部取付部及び下部取付部のうちの一方と粘性ダンパーとのうちの他方に他端で水平方向Hに移動自在に接触するか又は上部取付部及び下部取付部のうちの一方と粘性ダンパーとに一端及び他端で水平方向Hに移動自在に接触するようになっているとよく、また、連結解除ピン68の周りに配された複数個、好ましくは、少なくとも3個の支柱(ボルト95)からなっていてもよい。
【0037】
以上の制振機能付の免震建物1では、通常時には、
図1及び
図2に示すように、円柱部34が水平方向Hにおいて容器25のほぼ中央部に配され、ボルト95の夫々の膨大頭部が水平方向Hにおいて対応の受台42の受面62のほぼ中央部に接触している。この状態で、強風が生じて免震装置5の弾性層11の剪断変形により基礎2に対して事務所ビル6が水平方向Hに振動される場合であって、その振動が例えば強風等による所定振幅以下であると共にその振動を生起させる水平力の大きさが一定以下である場合には、括れ部67が剪断されることなしに、事務所ビル6の水平方向Hの振動が上基台39に伝達される結果、アイソレータ4に埋設されている鉛支柱3の水平方向Hの弾塑性変形に加えて、
図5に示すように、可動板29も事務所ビル6の水平方向Hの移動と共に水平方向Hに移動されて、可動板29の水平方向Hの移動により可動板29と固定板28との間の隙間の粘性体30が粘性剪断変形され、そして、鉛支柱3の水平方向Hの弾塑性変形に起因する抵抗力に加えて、粘性ダンパー21におけるこの粘性剪断変形に起因する抵抗力は、可動板29の水平方向Hの振動を減衰させ、これにより事務所ビル6の水平方向Hの振動を減衰させる。強風が収まると、免震装置5の弾性層11による原点復帰機能により免震建物1は、
図1及び
図2に示す状態に戻される。
【0038】
地震が生じて免震装置5の弾性層11の剪断変形により基礎2に対して事務所ビル6が水平方向Hに振動される場合であって、その振動を生起させる水平力の大きさが一定以下である場合も上記と同様であって、鉛支柱3の水平方向Hの弾塑性変形に起因する抵抗力と粘性ダンパー21における粘性剪断変形に起因する抵抗力とで事務所ビル6の水平方向Hの振動は減衰される。
【0039】
一方、地震が生じて免震装置5の弾性層11の剪断変形により基礎2に対して事務所ビル6が水平方向Hに振動される場合であって、その振動を生起させる水平力の大きさが一定以上である場合には、換言すれば、地震の加速度が大きい場合には、
図6に示すように、括れ部67が水平方向Hに剪断されて取付板66と粘性ダンパー21との水平方向Hに関する該連結、換言すれば、事務所ビル6と粘性ダンパー21との水平方向Hに関する連結が解除されて基礎2に対する事務所ビル6の水平方向Hの振動の上基台39への伝達がなされない結果、可動板29はその位置に停止されて減衰動作を行わないようになる一方、事務所ビル6の水平方向Hの移動で鉛支柱3が十分に変形され、大きな水平力に基づく事務所ビル6の水平方向Hの移動が鉛支柱3の弾塑性変形でもって好ましく早期に減衰されることになる。
【0040】
括れ部67の剪断後は、空間61の分だけ上基台39が落下する結果、受台42の夫々の受面62は、対応のボルト95の膨大頭部から離れることになる。
【0041】
ところで、免震建物1によれば、事務所ビル6に加わる強風又は地震に起因する水平力の大きさが一定以下である場合には、連結解除ピン68の周りに配されたボルト95の膨大頭部が水平方向Hに移動自在に対応の受台42の受面62に接触しているために、斯かる強風又は地震に起因して連結部材36付近を中心とするR方向の曲げモーメントが事務所ビル6を介して取付板66に生じても、R方向の曲げモーメントの括れ部67への付加が阻止されることとなり、而して、R方向の曲げモーメントによる括れ部67での曲げ応力の発生が阻止され、斯かる応力発生による機械的疲労を避けることができ、機械的疲労による括れ部67の意図しない破断(切断)をなくすることができることになる。
【0042】
即ち、地震による水平方向Hの振動に対して免震作動すると共に当該振動を減衰させる免震装置5を介して事務所ビル6を基礎2上で支承してなる免震建物1によれば、粘性ダンパー21が事務所ビル6及び基礎2に水平方向Hに関して連結されて事務所ビル6の水平方向Hの振動を減衰させるようになっており、基礎2に対して事務所ビル6に一定以上の水平力が生じると解除機構22がその括れ部67の剪断で事務所ビル6に対する粘性ダンパー21の該連結を解除するようになっているために、免震装置5に加えて粘性ダンパー21でもって風等による微小振動を効果的に早期に減衰できて強風時の制振効果を得ることができ、しかも、一定以上の水平力を生じさせる地震による大きな振動に対しては事務所ビル6に対する振動減衰に関して免震装置5のみを作動させるようにしているために、一定以上の水平力に起因する大きな振動に対しても作動させることができるように粘性ダンパー21のストロークを長大にする必要もない結果、小型の粘性ダンパー21を用いることができる上に、剪断解除機構22が、連結解除ピン68の括れ部67への水平力の付加を許容すると共に括れ部67での剪断を許容する一方、連結解除ピン68の括れ部67へのR方向の曲げモーメントの付加に起因する括れ部67での曲げ応力の発生を阻止する曲げ応力阻止手段70を具備しているために、R方向の曲げモーメントによる連結解除ピン68の括れ部67の機械的疲労を避けることができ、斯かる機械的疲労による連結解除ピン68の括れ部67の意図しない破断(切断)をなくすることができ、一定以上の水平力に起因する水平方向Hの剪断が連結解除ピン68の括れ部67に生じない限りにおいて、粘性ダンパー21でもって風等による微小振動をも効果的に早期に減衰できて強風時の制振効果を得ることができる。
【0043】
免震装置としては、鉛支柱3を用いる代わりに、摩擦を用いた摩擦系の免震装置を用いてもよく、また、基礎2に対して事務所ビル6に相対的に一定以上の水平力が生じる場合に、粘性ダンパー21と取付板66を介する事務所ビル6との水平方向Hの連結を解除する代わりに、粘性ダンパー21と底壁板26を介する基礎2との水平方向Hの連結を解除するようにしてもよい。また、空間61を設けないで、括れ部67の剪断後に上基台39が落下しないようにしてもよく、更には、空間61に弾性体を配して、連結解除ピン68の括れ部67に上基台39等の荷重に基づく上下方向の引っ張り力ができるだけ付加されないようにしてもよく、これら剪断後に上基台39が落下しないようにする場合には、剪断後も受面62とボルト95との接触が確保されるように受面62の広さを十分に大きくすると共に必要に応じて受面62とボルト95との接触面にグリース等の潤滑剤を介在させるか又は例えば受面62とボルト95との間に低摩擦部材を介在させるかのいずれか少なくとも一方の手段を適用してもよいが、剪断前に括れ部67に不要な水平方向Hの剪断力が加わらないようにするためには、受面62とボルト95との接触面を多少の摩擦抵抗が生じるように粗面にしてもよい。
【0044】
なお、括れ部67で剪断された連結解除ピン68を括れ部67で剪断されていない新たな連結解除ピン68と交換することにより、再度、解除機構22として免震建物1に用いることができる。
【0045】
次に、本発明に係る粘性系の振動減衰装置の好適な実施形態について説明する。本実施形態の粘性系の振動減衰装置には、連結解除ピン68の括れ部67(脆弱部)の切断を検知する検知手段が備えられる。
【0046】
検知手段110は
図2に示すように、加速度計111及び第2加速度計113と、これら加速度計111及び113に接続されたフーリエ解析手段112とから構成される。
【0047】
加速度計111は、基礎2側に作用する地震動による事務所ビル6の応答、即ち事務所ビル6に作用する振動加速度を観測するために、粘性ダンパー21の取付板66側、例えば事務所ビル6の適宜箇所に設けられる。加速度計111は、事務所ビル6の1階床面に設けることが好ましい。
【0048】
第2加速度計113は、基礎2側に作用する地震動の振動加速度を観測するために、基礎2側、例えば基礎2の適宜箇所に設けられる。
【0049】
フーリエ解析手段112には、加速度計111及び第2加速度計113夫々で観測された振動加速度が個々に入力され、フーリエ解析手段112は、入力されたこれら振動加速度に対し、フーリエ解析を実行する。
【0050】
フーリエ解析手段112は例えば、フーリエ解析の実行が可能なエクセル(登録商標)などの表計算ソフトを搭載したパソコンで構成される。パソコンの場合、解析結果を画面に表示したり、印刷したり、保存することができる。フーリエ解析手段112は、上記表計算ソフトを搭載したパソコンに限らず、どのようなものであってもよい。
【0051】
フーリエ解析手段112は、解析結果として、入力された振動加速度夫々から、事務所ビル6における卓越周波数及び基礎2における卓越周波数を算出し、出力する。
【0052】
本実施形態では、フーリエ解析手段112は、事務所ビル6及び基礎2に関して得られた卓越周波数から、さらに事務所ビル6と基礎2との間のフーリエ振幅比を算出し、出力する。
【0053】
フーリエ解析手段112の解析結果として、事務所ビル6及び基礎2夫々における卓越周波数を個々に検討するのに比して、フーリエ振幅比を検討すれば、連結解除ピン68の括れ部67の切断を、より明確に判断することができる。
【0054】
例えば、地震の発生前と発生後で、フーリエ振幅比が所定値以上変化したとき、括れ部67が破断したと判断することができる。
【0055】
フーリエ解析した結果の一例のグラフが
図7に示されている。横軸に周波数が表示され、縦軸にフーリエ振幅比が表示されている。
【0056】
実線Xは、粘性ダンパー21とアイソレータ4が免震に寄与している場合、一点鎖線Yは、粘性ダンパー21の括れ部67が破断されて、アイソレータ4だけが免震に寄与している場合を示している。
【0057】
本実施形態の検知手段110によれば、地震により括れ部67が破断すると、加速度計111及び第2加速度計113で観測された時系列の記録において、フーリエスペクトル比が、実線Xから一点鎖線Yに移行する。この際、卓越周波数の変化により、連結解除ピン68の括れ部67が破断したと判定することができる。
【0058】
基礎2側の地盤の加速度と、アイソレータ4や粘性ダンパー21を介した事務所ビル6側の加速度とは、入出力の関係にあり、これら両者のフーリエスペクトル比は、基礎2側から事務所ビル6側への伝達関数である。
【0059】
フーリエスペクトル比の変化は、伝達関数の変化があったことを意味し、応力の伝達機構に変化があったと判断される。
【0060】
同様に、フーリエ振幅比の変化、例えばフーリエ振幅比が大きくなって減衰効果が減じたという変化によっても、応力伝達機構に変化があったと推定することができ、連結解除ピン68の括れ部67が破断したと判定することができる。
【0061】
ただし、振動の特性によっては、フーリエスペクトル比とフーリエ振幅比のいずれか一方のみが変化し、他方が変化しない場合もあり得る。フーリエスペクトル比の変化があり、さらにフーリエ振幅比が大きくなった場合は、確実に連結解除ピン68の括れ部67が切断したと判定することができる。
【0062】
このため、いずれか一方のみが変化した場合は、「点検作業」を行うという目安になり、両方が変化した場合は、そもそも最初から「交換作業」を実施するという目安にすることができる。
【0063】
フーリエスペクトル比とフーリエ振幅比の変化に関し、連結解除ピン68の括れ部67が破断したと判断するための閾値は、予め構造解析等を行って決定しておくことが望ましい。
【0064】
例えば、
図7の例は、鉄骨造2階建て、基礎免震あり、高さ10m、建築面積1,500m2程度の構造物の場合であり、フーリエスペクトル比が0.1Hz以上低下し、かつフーリエ振幅比が2倍以上となったときに、連結解除ピン68が破断したと判断される。このとき、地震の発生前と発生後の常時微動による振動加速度の計測値を用いて比較することが望ましい。
【0065】
装置を復旧するときには、新しい連結解除ピン68に交換するだけでよく、検知手段110である加速度計111、第2加速度計113及びフーリエ解析手段112はメンテナンスフリーでそのまま引き続き使用することができる。
【0066】
本実施形態にあっては、加速度計111と第2加速度計113とフーリエ解析手段112を設けるだけという簡単な構成で、連結解除ピン68が切断されたか否かをいつでも、容易かつ確実に確認することができ、粘性系の振動減衰装置を適切に使用することができる。
【0067】
上記実施形態では、事務所ビル6側及び基礎2側夫々で観測された振動加速度から、フーリエ解析手段112により、これら事務所ビル6側及び基礎2側間のフーリエ振幅比の解析を実行する場合について説明したが、フーリエ解析手段112による解析によって事務所ビル6及び基礎2夫々の卓越周波数を算定するだけでもよく、このような場合でも、地震の発生前と発生後で変化した卓越周波数に基づいて連結解除ピン68の破断の判断を行うことができる。
【0068】
またさらに、上記実施形態では、事務所ビル6で観測される振動加速度に加えて、第2加速度計113で観測された基礎2に作用する振動加速度をフーリエ解析手段112に入力してフーリエ解析を実行するようにしたが、第2加速度計113を省略して加速度計111のみを備え、この加速度計111で観測された事務所ビル6の振動加速度のみを用いてフーリエ解析手段112により事務所ビル6側の卓越周波数を算定するだけであってもよく、このような場合でも、地震の発生前と発生後で、事務所ビル6側の卓越周波数が所定値以上変化したことにより、括れ部67が破断したと判断することができる。
【符号の説明】
【0069】
2 基礎
6 事務所ビル
21 粘性ダンパー
22 解除機構
26 底壁板
33 円筒体
34 円柱部
42 受台
61 空間
62 受面
66 取付板
67 括れ部
68 連結解除ピン
70 曲げ応力阻止手段
71 本体
73 本体
95 ボルト
98 保持部材
99 ロックナット
110 検知手段
111 加速度計
112 フーリエ解析手段
113 第2加速度計