(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】回転電機のコイル及び回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 3/40 20060101AFI20240311BHJP
【FI】
H02K3/40
(21)【出願番号】P 2021048184
(22)【出願日】2021-03-23
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤 史雄
(72)【発明者】
【氏名】松崎 栄仁
(72)【発明者】
【氏名】宮下 妃菜子
(72)【発明者】
【氏名】石塚 博明
(72)【発明者】
【氏名】藤田 崇
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-193520(JP,A)
【文献】特開2015-089181(JP,A)
【文献】特開2017-060320(JP,A)
【文献】特開平06-038424(JP,A)
【文献】特開2010-246247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル導体の外周側に半導電性の内部半導電層を設け、その外側に対地絶縁用の主絶縁層を設けた回転電機のコイルであって、
前記主絶縁層と前記内部半導電層の間に補強層を設けるとともに、前記内部半導電層の内周側に、第2の半導電層を設け
、
前記第2の半導電層が、前記内部半導電層より応力緩和特性の高い材料から構成されていることを特徴とする回転電機のコイル。
【請求項2】
コイル導体の外周側に半導電性の内部半導電層を設け、その外側に対地絶縁用の主絶縁層を設けた回転電機のコイルであって、
前記主絶縁層と前記内部半導電層の間に補強層を設けるとともに、前記内部半導電層の内周側に、第2の半導電層を設け、
前記第2の半導電層が、ガラス繊維を基材としシリコーン樹脂にカーボン粒子を混練した塗布層からなることを特徴とする回転電機のコイル。
【請求項3】
コイル導体の外周側に半導電性の内部半導電層を設け、その外側に対地絶縁用の主絶縁層を設けた回転電機のコイルであって、
前記主絶縁層と前記内部半導電層の間に補強層を設けるとともに、前記内部半導電層の内周側に、第2の半導電層を設け、
前記第2の半導電層と、前記コイル導体の溝部の空間に、線膨張係数が20×10
-6/℃以下である充填材を充填したことを特徴とする回転電機のコイル。
【請求項4】
請求項
3記載の回転電機のコイルにおいて、
前記充填材が1W/m・K以上の熱伝導率を有する事を特徴とする回転電機のコイル。
【請求項5】
請求項1乃至
4のいずれか1項記載の回転電機のコイルを具備することを特徴とする回転電機。
【請求項6】
請求項1乃至
4のいずれか1項記載の回転電機のコイルを具備することを特徴とする可変速揚水発電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転電機のコイル及び回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、発電機などの回転電機には、ロータまたはステータのいずれかにコイルを使用するものがあり、コイルの耐久性の向上が望まれている。
【0003】
発電機などの回転電機のコイル絶縁の構成について、従来の技術の一例を、
図3、
図4を参照して説明する。
【0004】
図3は、従来の回転電機のコイル絶縁の構造の一例を示している。
図3に示すように、主に銅線からなるコイル導体33の外側には、内部半導電層32が設けられ、その外側に対地絶縁用の主絶縁層31が形成されている。内部半導電層32とコイル導体33は、電気的な接続が保たれ、内部半導電層32の表面は、コイル導体33と同電位に保たれるとともに、主絶縁層31の外周側のアース電位と、一定の電界が形成される。
【0005】
図4は、上述した回転電機のコイルの断面の拡大模式図である。コイル導体33は、絶縁素線を積み重ねた構成になっており、その表面に内部半導電層32が配置され、さらにその外側に主絶縁層31が配置されている。一般的には、主絶縁層31は、マイカシートをエポキシ樹脂で含浸させたマイカテープを硬化させたものであり、内部半導電層32との界面にはマイカ層が存在する。
【0006】
このような構成の回転電機のコイルにおいては、内部半導電層32が均一な電位となり、主絶縁層31と良好な接触を保つ為、電気絶縁特性に優れたコイルを提供している。しかしながら、近年、過酷な運転環境、特に頻繁に起動停止を繰り返す発電機、例えば、可変速揚水発電機においては、コイル導体33と主絶縁層31の界面に生じた熱応力(せん断力)や、温度上昇による主絶縁層31自身の膨張によってコイル導体33と主絶縁層31の間の界面に生じる引張力によって徐々にコイル導体33と内部半導電層32の間が剥離する場合が生じる。そこで、これらの課題を解決する方法として、内部半導電層32と主絶縁層31との間に補強層を設けることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、内部半導体層と主絶縁層の間に補強層を設ける場合、以下のような問題が生じる。すなわち、コイル導体の表面に形成されている絶縁皮膜と内部半導電層との間の接着が強固でない場合、これらに剥離を生じることがあり、その際に、内部半導電層とコイル導体との熱伝達が低下し、ひいては、間接冷却型のコイルの場合においてはコイルの冷却性能を減じる可能性が生じる。
【0009】
かかる従来の課題を解決するため、本発明の目的は、コイル導体表面と内部半導電層の接触を良好に保ち、回転電機運転中の冷却特性の低下を防ぎ、かつ電気絶縁性能としても良好かつ信頼性の高い回転電機のコイル及び回転電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態の回転電機のコイルは、コイル導体の外周側に半導電性の内部半導電層を設け、その外側に対地絶縁用の主絶縁層を設けた回転電機のコイルであって、前記主絶縁層と前記内部半導電層の間に補強層を設けるとともに、前記内部半導電層の内周側に、第2の半導電層を設け、前記第2の半導電層が、前記内部半導電層より応力緩和特性の高い材料から構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
実施形態の回転電機のコイルによれば、コイル導体表面と内部半導電層の接触を良好に保ち、回転電機運転中の冷却特性の低下を防ぎ、かつ電気絶縁性能としても良好かつ信頼性の高い回転電機のコイル及び回転電機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る回転電機のコイルの要部概略構成を示す図。
【
図2】実施形態に係る回転電機の概略構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、実施形態について説明する。
【0014】
図1は、実施形態の回転電機のコイル断面の要部概略構成を示すものである。
図1に示すように、実施形態の回転電機のコイルは、コイル導体15の外周側に半導電性の内部半導電層13を設け、その外側に対地絶縁用の主絶縁層11を設けた構成となっている。主絶縁層11は、例えばマイカテープを巻回して構成されている。マイカテープは、マイカシートをエポキシ樹脂で含浸させて硬化したもの等を使用することができる。
【0015】
そして、実施形態の回転電機のコイルでは、さらに、主絶縁層11と内部半導電層13の間に補強層12を設けるとともに、内部半導電層13の内周側に、第2の半導電層14を設けた構成となっている。内部半導電層13としては、例えば、半導電性のテープ、半導電性のシート等が用いられる。これらとしては、例えば、不織布にカーボン等を入れて電気電導度を調整したもの等が使用される。
【0016】
上記のように内部半導電層13と主絶縁層11の界面に設けられた補強層12としては、例えば、ガラス布にエポキシ樹脂を含浸させた後に加熱乾燥してプリプレグ化したもの等を用いることができる。
【0017】
なお、この補強層12には、プリプレグ化していないガラス布を用いても良く、その場合は、ガラス布を巻回後に、エポキシ樹脂等の接着樹脂を塗布もしくは含浸処理を行うことによって、内部半導電層13とガラス布との間を樹脂により埋める処理を行っても良い。
【0018】
上記のように、本実施形態では、主絶縁層11と内部半導電層13との間に補強層12が設けられている。この補強層12は、主絶縁層11と内部半導電層13とをより強固に接着して補強する作用を発揮し、これによって、主絶縁層11と内部半導電層13との間に浮き(隙間)が生じて誘電損失の変化量が大きくなってしまうこと等を抑制することができる。
【0019】
また、本実施形態では、内部半導電層13とコイル導体15との間に、第2の半導電層14が配置されている。第2の半導電層14は、内部半導電層13と同様に導電性を有し、コイル導体15と電気的に接続され同じ電位となるものであり、主絶縁層11等のように絶縁性の材料から絶縁を目的として設けられたものではない。
【0020】
この第2の半導電層14としては、内部半導電層13に比較して応力緩和特性に優れる材質をとすることが好ましい。具体的にはこの第2の半導電層14としては、例えば、ガラス繊維を基材とし、シリコーン樹脂にカーボン粒子を混練した塗布層などから構成することができる。このような構成とすることによって、ある程度弾性変形することが可能となり、内部半導電層13に比較して応力緩和特性に優れた特性とすることができる。
【0021】
次に、上記構成の実施形態の回転電機のコイルにおける第2の半導電層14の作用について説明する。コイル導体15と内部半導電層13との間に第2の半導電層14を配置することにより、コイル導体15と内部半導電層13との間、および第2の半導電層14とコイル導体15との間での剥離を防止することができる。これは、第2の半導電層14が、コイル導体15の表面に存在する凹凸を緩和し、局所的な剥離を抑制する作用を発揮するからである。
【0022】
また、必要に応じて第2の半導電層14と、コイル導体15の溝部の空間に充填材を充填してもよい。この充填材としては、例えば、線膨張係数が20×10-6/℃以下の線膨張係数の低い充填材とすることが好ましい。また、この充填材としては、熱伝導率が良いものを使用することが好ましく、例えば、1W/m・K以上の熱伝導率を有する充填材を使用することが好ましい。
【0023】
上記構成の回転電機のコイルを用いて、誘電損失(tanδ)特性を測定した。その結果、第2の半導電層14を設置していない場合と比較し、良好な誘電損失(tanδ)特性が得られた。
【0024】
また、上記の回転電機のコイルを用いて、コイル導体15の通電加熱によるサーマルサイクル試験を実施し、実施後の剥離損傷を比較したところ、従来の第2の半導電層14を設置していない場合と比較して、内部半導電層13とコイル導体15との剥離が抑制されることが確認できた。
【0025】
図2に上記構成の回転電機のコイルを用いた回転電機100の構成例を示す。
図2に示した回転電機100は、可変速揚水発電機であり、
図2において、17は固定子コイル、18は固定子鉄心、19は回転子を示している。このような回転電機100の固定子コイル17、又は回転しコイル等として、実施形態の構成の回転電機のコイルを用いることができる。
【0026】
可変速揚水発電機は、一般的に、過酷な運転環境、特に頻繁に起動停止を繰り返すことが多く、運転中においては高温、例えば100℃以上の温度となり、停止中は周囲の環境温度、例えば、0℃乃至30℃程度の温度となる。このような過酷な運転環境で使用される回転電機100であっても、本実施形態の回転電機のコイルを使用することによってコイル導体15の表面と内部半導電層13との接触を良好に保ち、回転電機100の運転中の冷却特性の低下を防ぐことができ、かつ電気絶縁性能としても良好かつ信頼性の高い状態を維持することができる。
【0027】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0028】
11……主絶縁層、12……補強層、13……内部半導電層、14……第2の半導電層、15……コイル導体、17……固定子コイル、18……固定子鉄心、19……回転子、31……主絶縁層、32……内部半導電層、33……コイル導体、100……回転電機。