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特許7451497アデノ随伴ウイルスの形質導入効率を調節するための組成物および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】アデノ随伴ウイルスの形質導入効率を調節するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/864 20060101AFI20240311BHJP
   C07K 14/015 20060101ALI20240311BHJP
   C12N 7/01 20060101ALN20240311BHJP
   C12N 15/35 20060101ALN20240311BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C07K14/015 ZNA
C12N7/01
C12N15/35
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021509223
(86)(22)【出願日】2019-08-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-09
(86)【国際出願番号】 US2019047546
(87)【国際公開番号】W WO2020041498
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-07-14
(31)【優先権主張番号】62/720,859
(32)【優先日】2018-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511140770
【氏名又は名称】マサチューセッツ アイ アンド イヤー インファーマリー
(73)【特許権者】
【識別番号】516106623
【氏名又は名称】ザ スケペンス アイ リサーチ インスティテュート,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンデンベルゲ,ルク エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】ドゥデク,アマンダ
(72)【発明者】
【氏名】ラサルテ,ネレア ザバレタ
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/022608(WO,A2)
【文献】国際公開第2005/072364(WO,A2)
【文献】欧州特許第01572893(EP,B1)
【文献】国際公開第2017/083423(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0376240(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内へのアデノ随伴ウイルス(AAV)の形質導入効率を調節するインビトロ方法であって、遺伝子改変されたアデノ随伴ウイルス(AAV)を前記細胞に導入するステップを含み、前記AAVのカプシドが、異種VP1ポリペプチド配列を含むように遺伝子改変されており、前記異種VP1ポリペプチド配列配列番号1、8又は18で示される配列であり、かつ、GPR108依存性AAVが前記細胞の形質導入のためにGPR108の存在を必要としないようにするものである、前記方法。
【請求項2】
前記異種VP1ポリペプチドが、配列番号1で示される配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記異種VP1ポリペプチドが、AAV5 VP1タンパク質のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記異種VP1ポリペプチドが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV6.2、AAV7、AAV8、AAV9、Anc80、Anc81、Anc82、Anc83、Anc84、Anc110、Anc113、rh8c、rh10、PHP-B、8BPV2、または7M8のVP1タンパク質のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
アデノ随伴ウイルス(AAV)の細胞侵入を改変するインビトロ方法であって、
GPR108依存性AAVのVP1ポリペプチド中のN末端アミノ酸を、配列番号1、8又は18で示される配列で置換することにより、前記GPR108依存性AAVをGPR108非依存性となるように遺伝子操作するステップを含み、それによって前記AAVの細胞侵入を改変する、
前記方法。
【請求項6】
前記遺伝子操作されたGPR108非依存性AAVが、配列MXVDHPXEVGX101112FLGLEA(配列番号1)を有するVP1ポリペプチド配列を含み、配列中、XがSもしくはAもしくはTであり、XがFもしくはAもしくはTであり、XがPであり、XがDであり、XがWであり、XがLであり、XがEであり、XがEであり、XがGであり、X10がLもしくはIもしくはVであり、X11がRであり、かつ/またはX12がEもしくはQである、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記遺伝子操作されたGPR108非依存性AAVが、AAV5 VP1タンパク質に由来するVP1ポリペプチド配列を含む、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は全体として、改変されたアデノ随伴ウイルス(AAV)およびこのようなウイルスの形質導入効率を調節する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでの方法論は、主要なAAV侵入因子を同定するため、またはサブファミリーワイドの受容体および侵入因子の必要性を特徴付けするためには不十分であった。これまでの研究は、あまり許容状態ではない細胞系においてcDNAを過剰発現させて、最も多くはAAV2である(74、75、77)特定の血清型の形質導入を増大させる因子を同定することに主に焦点を置いていた(76、80、81)。これらの研究は、AAVの形質導入を増大させるいくつかのタンパク質を同定したが、これらのタンパク質が形質導入に影響するためのメカニズムは、過剰発現の際に細胞表面での付着の増大を多くの場合に示すことを除いて、あまり特徴付けされていない(78)。しかし、データにずれが存在し、これらの因子のノックダウンおよびノックアウト研究はAAVの形質導入において大きな欠陥を示さないことが多いため、これらの因子は、必要な侵入受容体として定義され得ない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本開示は、アデノ随伴ウイルス(AAV)が細胞に形質導入するメカニズムに関する。このメカニズムを理解することで、当業者が、細胞内へのAAVの侵入、ひいては形質導入効率を調節することが可能となる。
【0004】
本明細書において記載されるように、細胞内へのアデノ随伴ウイルス(AAV)の形質導入効率を調節する方法が提供される。このような方法は、典型的には、遺伝子改変されたアデノ随伴ウイルス(AAV)を細胞に導入するステップを含み、ここで、AAVカプシドは異種VP1ポリペプチド配列を含むように遺伝子改変されており、また、異種VP1ポリペプチド配列は、細胞の形質導入のためにGPR108受容体の存在を必要とするまたは形質導入のためにGPR108受容体の存在を必要としない。
【0005】
一部の実施形態において、異種VP1ポリペプチドまたはその部分は、配列番号1で示される配列を含む。これらの場合において、異種VP1ポリペプチド配列は、細胞の形質導入のためにGPR108受容体の存在を必要としない。配列番号1で示される配列を含むVP1ポリペプチドの一例は、AAV5 VP1タンパク質またはその一部分のアミノ酸配列である。
【0006】
一部の実施形態において、異種VP1ポリペプチドまたはその部分は、配列番号2で示される配列を含む。これらの場合において、異種VP1ポリペプチド配列は、形質導入のためにGPR108受容体の存在を必要とする。配列番号2で示される配列を含むVP1ポリペプチドの例は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV6.2、AAV7、AAV8、AAV9、Anc80、Anc81、Anc82、Anc83、Anc84、Anc110、Anc113、rh8c、rh10、PHP-B、8BPV2、または7M8のVP1タンパク質またはその一部分のアミノ酸配列である。
【0007】
同様に本明細書において記載されるように、アデノ随伴ウイルス(AAV)の細胞侵入を改変する方法が提供される。このような方法は、AAVをGPR108非依存性となるように遺伝子操作するステップを典型的には含み、遺伝子操作されたGPR108非依存性AAVは、配列MXVDHPXEVGX101112FLGLEA(配列番号1)を有するVP1ポリペプチド配列を含み、配列中、X1~12の各々は任意のアミノ酸である。あるいは、このような方法は、AAVをGPR108依存性とするように遺伝子操作するステップであって、遺伝子操作されたGPR108依存性AAVは、配列MXDGYLXD(T/N)LSX101112WW(K/A/D)L(K/Q)P(配列番号2)を有するVP1ポリペプチド配列を含み、配列中、X1~12の各々は任意のアミノ酸である、ステップを含み、それによってAAVの細胞指向性を改変する。
【0008】
典型的な遺伝子操作されたGPR108非依存性AAVは、配列
MXVDHPXEVGX101112FLGLEA(配列番号1)を有するVP1ポリペプチド配列を含み、配列中、XはSもしくはAもしくはTであり、XはFもしくはAもしくはTであり、XはPであり、XはDであり、XはWであり、XはLであり、XはEであり、XはEであり、XはGであり、X10はLもしくはIもしくはVであり、X11はRであり、かつ/またはX12はEもしくはQである。一部の実施形態において、遺伝子操作されたGPR108非依存性AAVは、AAV5 VP1タンパク質に由来するVP1ポリペプチド配列を含む。
【0009】
同様に、典型的な遺伝子操作されたGPR108依存性AAVは、配列
MXDGYLXD(T/N)LSX101112WW(K/A/D)L(K/Q)P(配列番号2)を有するVP1ポリペプチド配列を含み、配列中、XはSもしくはAもしくはTであり、XはFもしくはAもしくはTであり、XはPであり、XはDであり、XはWであり、XはLであり、XはEであり、XはEであり、XはGであり、X10はLもしくはIもしくはVであり、X11はRであり、かつ/またはX12はEもしくはQである。一部の実施形態において、遺伝子操作されたGPR108依存性AAVは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV6.2、AAV7、AAV8、AAV9、Anc80、Anc81、Anc82、Anc83、Anc84、Anc110、Anc113、rh8c、rh10、PHP-B、8BPV2、または7M8のVP1タンパク質に由来するVP1ポリペプチド配列を含む。
【0010】
さらに、細胞内へのアデノ随伴ウイルス(AAV)の形質導入効率を増大させる方法が提供される。このような方法は、細胞を細胞におけるGPR108の発現または活性を増大させる化合物と接触させるステップを典型的には含み、それによって細胞内へのAAVの形質導入効率を増大させる。
【0011】
細胞におけるGPR108の発現を増大させるために使用され得る代表的な化合物は、GPR108導入遺伝子を含む発現構築物である。一部の実施形態において、AAVは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV6.2、AAV7、AAV8、AAV9、Anc80、Anc81、Anc82、Anc83、Anc84、Anc110、Anc113、rh8c、rh10、PHP-B、8BPV2、または7M8である。一部の実施形態において、AAVは、遺伝子操作されたAAVである。
【0012】
同様に本明細書において記載されるように、細胞内へのアデノ随伴ウイルス(AAV)の形質導入効率を低下させる方法が提供される。このような方法は、細胞を細胞におけるGPR108の発現または活性を低下させる化合物と接触させるステップを典型的には含み、それによって細胞内へのAAVの形質導入効率を低下させる。
【0013】
細胞におけるGPR108の発現を低下させるために使用され得る代表的な化合物は、干渉RNA分子である。一部の実施形態において、干渉RNA分子は、siRNAまたはRNAiである。
【0014】
本明細書において記載される方法のいずれかにおいて使用される細胞は、インビボであり得る。代表的な細胞としては、肝細胞、腎臓細胞、心臓細胞、肺細胞、上皮細胞、内皮細胞、骨髄細胞(造血幹細胞を含む)が含まれる。
【0015】
さらに、細胞内への治療作用物質の取り込みを増大させる方法が提供される。このような方法は、細胞をAAV VP1ポリペプチドに連結した治療作用物質と接触させるステップを典型的には含み、ここで、VP1ポリペプチドは、配列MXVDHPXEVGX101112FLGLEA(配列番号1)を含み、配列中、X1~12の各々は任意のアミノ酸である。
【0016】
代表的な治療作用物質としては、タンパク質またはタンパク質複合体が含まれる。一部の実施形態において、治療作用物質は、GPR108に結合する結合因子にさらに連結している。GPR108に結合する代表的な結合因子としては、限定はしないが、抗体、アプタマー、および抗体ドメインが含まれる。
【0017】
さらに、配列番号1または配列番号2を含むVP1ポリペプチドに連結している治療作用物質を含む組成物が提供される。一部の実施形態において、治療作用物質は、タンパク質またはタンパク質複合体である。
【0018】
さらに、配列番号1を含む異種VP1配列を含むAAVカプシド配列が提供される。代表的な異種VP1配列は、配列番号18で示される配列を含む。
【0019】
配列番号2を含む異種VP1配列を含むAAVカプシド配列もまた提供される。代表的な異種VP1配列としては、配列番号19で示される配列が含まれる。
【0020】
一態様において、本開示は、細胞内へのアデノ随伴ウイルス(AAV)の形質導入効率を調節する方法を提供する。このような方法は、遺伝子改変されたアデノ随伴ウイルス(AAV)を細胞に導入するステップを含み、ここで、AAVカプシドは、異種VP1ポリペプチドまたはその部分を含むように遺伝子改変されており、異種VP1ポリペプチドまたはその部分は、VP1ポリペプチドの配列に応じて、細胞のGPR108依存性またはGPR108非依存性の形質導入に関与している。一部の実施形態において、異種VP1ポリペプチドまたはその部分は、AAV5のVP1ポリペプチドまたはその部分であり、このケースにおいて、AAVはGPR108非依存性である。一部の実施形態において、遺伝子改変されたAAVは、AAV受容体(AAVR)非依存性のAAVである。
【0021】
別の態様において、本開示は、細胞内への非AAV化合物の取り込みを調節する方法を扱う。このような方法は、細胞をGPR108依存性AAVのVP1ポリペプチドまたはその部分に連結した非AAV化合物と接触させるステップを含む。一部の実施形態において、非AAV化合物は、タンパク質またはタンパク質複合体である。一部の実施形態において、GPR108依存性AAVのVP1ポリペプチドまたはその部分は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV6.2、AAV7、AAV8、AAV9、Anc80、Anc81、Anc82、Anc83、Anc84、Anc110、Anc113、rh8c、rh10、PHP-B、8BPV2、および7M8に由来する。一部の実施形態において、非AAV化合物は、GPR108を結合する結合因子にさらに連結している。GPR108を結合する代表的な結合因子としては、限定はしないが、抗体、アプタマー、および抗体ドメインが含まれる。
【0022】
さらに別の態様において、本開示は、細胞内へのアデノ随伴ウイルス(AAV)の形質導入効率を増大させる方法を扱う。このような方法は、細胞を細胞におけるGPR108の発現または活性を増大させる化合物と接触させるステップを含み、それによって細胞内へのAAVの形質導入効率を増大させる。一部の実施形態において、細胞におけるGPR108の発現を増大させる化合物は、GPR108導入遺伝子を含む発現構築物である。
【0023】
さらに別の態様において、本開示は、細胞内へのアデノ随伴ウイルス(AAV)の形質導入効率を低下させる方法を提供する。このような方法は、細胞を細胞におけるGPR108の発現または活性を低下させる化合物と接触させるステップを含み、それによって細胞内へのAAVの形質導入効率を低下させる。一部の実施形態において、細胞におけるGPR108の発現を低下させる化合物は、干渉RNA分子である。代表的な干渉RNA分子としては、限定はしないが、siRNAおよびRNAiが含まれる。一部の実施形態において、細胞におけるGPR108の活性を低下させる化合物は、GPR108に特異的に結合する抗体(すなわち抗GPR108抗体)である。
【0024】
本明細書において記載される方法のいずれかにおける細胞は、インビボの細胞であり得る。代表的な細胞としては、限定はしないが、肝細胞、腎臓細胞、心臓細胞、肺細胞、上皮細胞、内皮細胞、骨髄細胞(造血幹細胞を含む)が含まれる。
【0025】
本開示は、現在使用されているAAV血清型にこれまで利用しにくかった新規な組織型または細胞型を標的化するために使用され得る、固有の細胞標的化特性および組織標的化特性を有する新規なカプシドの生成を可能にする。具体的には、本明細書において記載される方法および組成物は、AAVベクターを、細胞受容体であるGPR108を係合するように、またはGPR108の使用および必要性に対する依存性を失うように変更することを可能にし、これによって、AAVベクターは、GPR108発現細胞へのアクセスを獲得するか、または標的細胞型におけるGPR108発現によって制限されないようになる。
【0026】
本明細書において使用される場合、形質導入効率は、細胞への侵入および感染を獲得し得る複数のウイルスの割合を指す。
【0027】
本明細書において使用される場合、VP1ポリペプチド配列の文脈における「由来する」は、VP1ポリペプチド配列が生じたまたは由来した元である血清型を指す。VP1ポリペプチドは、任意の様式で発現され得、生成され得、または合成され得る。
【0028】
遺伝子操作されたウイルスは、核酸配列が変化しているウイルスを指す。ウイルスを遺伝子操作する方法は、当技術分野において知られており、また、本明細書においてさらに論じられる。
【0029】
「異種」ポリペプチドまたはその部分は、ポリペプチドの残り部分に対してまたは異種ポリペプチドがその中に存在する生物に対してネイティブではない、ポリペプチドまたはその一部を指す。
【0030】
「GPR108依存性」AAVは、細胞内への形質導入のためにGPR108の存在を必要とするAAVを指す。他方、「GPR108非依存性」AAVは、細胞内への形質導入のためにGPR108の存在を必要としないAAVを指す。
【0031】
「VP1タンパク質」は、典型的には、GPR108非依存性またはGPR108依存性のいずれかを示す特定のAAV血清型のVP1タンパク質またはその一部である。「VP1ポリペプチド」は、AAVのカプシドに組み込まれてGPR108依存性をAAVに付与するVP1タンパク質またはその一部に由来する分子である。本明細書において記載されるように、VP1ポリペプチドによってAAVに付与されるGPR108依存性は、通常、そのAAVで通常見られる野生型VP1タンパク質のGPR108依存性と比較して異なる。代表的なGPR108非依存性配列は、MXVDHPXEVGX101112FLGLEA(配列番号1、式中、X1~12の各々は任意のアミノ酸であり得る)であり、一方、代表的なGPR108依存性配列は、MXDGYLXD(T/N)LSX101112WW(K/A/D)L(K/Q)P(配列番号2、式中、X1~12の各々は任意のアミノ酸であり得る)である。
【0032】
別段の定義がない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、方法および組成物が属する分野の当業者によって一般に理解されている意味と同一の意味を有する。本明細書において記載されるものに類似のまたは同等の方法および材料が本方法および本組成物の実施または試験において使用され得るが、適切な方法および材料が以下に記載される。さらに、材料、方法、および例は例示的なものにすぎず、限定することを意図したものではない。本明細書において言及される全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、参照によってその全体が組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】血清型によるAAV細胞侵入受容体の利用のモデルを示す図である。
図2-1】図2Aは、2ベクターレンチウイルスGeCKO系の略図である。
図2-2】図2Bは、Huh7 AAVR KO細胞が図2Aにおいて記載されているベクターを使用したレンチCRISPR突然変異誘発を受けていることを実証する略図である。
図3図3Aは、ゲノムスケールのCRISPRノックアウト(GeCKO)ライブラリーのV2A半分におけるGFP+およびGFP-細胞のFACS選択を示すドットプロットである。 図3Bは、ゲノムスケールのCRISPRノックアウト(GeCKO)ライブラリーのV2B半分におけるGFP+およびGFP-細胞のFACS選択を示すドットプロットである。 図3Cは、増殖され、GeCKOライブラリーのV2A半分についての第2ラウンドの高MOI形質導入にかけられたGFP-細胞のFACS選択を示すドットプロットである。 図3Dは、増殖され、GeCKOライブラリーのV2B半分についての第2ラウンドの高MOI形質導入にかけられたGFP-細胞のFACS選択を示すドットプロットである。
図4図4Aは、潜在的なAAV制限因子を示唆する、GFPを高度に発現する細胞において強化されている遺伝子を同定するためのロバストランク凝集(RRA)分析を示す図である。 図4Bは、Huh7 AAVR KO Cas9細胞に、rh32.33 GFP+細胞集団において同定されている個々の遺伝子を標的化するsgRNAをコードするレンチウイルスで形質導入することによって作成された、CRISPR編集型ポリクローナル細胞集団へのrh32.33.CMV.ルシフェラーゼ.SVPAの形質導入の増加倍率を示す棒グラフである。
図5図5Aは、機能性によってグループ化された、第1ラウンドのGFP形質導入のRRAを示す図である。 図5Bは、機能性によってグループ化された、第2ラウンドのGFP形質導入のRRAを示す図である。
図6図6A~6Fは、hAd5ヘルパーウイルスの存在下で、AAVR非依存性血清型であるrh32.33もしくはAAV4(6A、6B)、またはAAVR非依存性血清型であるAAV5、Anc80、AAV9、もしくはAAV9.PHP-B(6C~6F)で形質導入された、WT(野生型)細胞、ノイラミニダーゼ1(NEU1)ノックアウト[KO]細胞、カテプシンA(CTSA)ヘテロ接合型(HET)細胞、またはCTSAノックアウト[KO]細胞において観察された発光のグラフである。 図6Gは、CTSA特異的またはNEU1特異的なsgRNAを有するレンチウイルスで形質導入し、その後、CMV.ルシフェラーゼ.SVPA導入遺伝子を発現する異なるAAVカプシドを形質導入した、Cas9を発現する様々なヒト細胞系において観察された、発光のグラフである。
図7図7Aおよび7Bは、示された濃度のノイラミニダーゼ阻害剤であるザナミビル(7A)またはDANA(7B)で前処理され、その後、ルシフェラーゼをコードする導入遺伝子をカプシドで包んでいる示されたカプシド血清型(黒:AAVR依存性の血清型、白:AAVR非依存性の血清型、実線:未知のグリカン付着因子、点線:付着に使用されるシアル酸)を形質導入された、Huh7細胞において観察された、発光のグラフである。
図8図8A~8Dは、2mMの示された化合物で前処理され、その後、コレラ菌(Vibrio cholera)由来のノイラミニダーゼで2時間処理され、その後、ルシフェラーゼをコードする導入遺伝子をカプシドで包んでいるrh32.33(8A)、AAV4(8B)、AAV5(8C)、またはAnc80(8D)で形質導入された、Huh7細胞において観察された、発光のグラフである。 図8Eは、示された血清型についての、WT細胞系および突然変異MEF細胞系における、細胞に結合したウイルスゲノムの棒グラフである。
図9図9Aは、現存のおよび推定上の進化上中間のAAV血清型の系統樹である。 図9Bは、CMV.ルシフェラーゼ.SVPA(AAVrh10、AAV8、AAVAnc82、AAV9、AAVAnc81、AAVAnc80、AAV3、AAV6.2、AAV1、AAVrh32.33、AAV4、AAV5)導入遺伝子、またはCMV.eGFP.T2A.ルシフェラーゼ.SVPA(AAVAnc83、AAVAnc110、AAV2)導入遺伝子で形質導入されたWT細胞またはGPR108 KO Huh7細胞において観察された発光のグラフである。 図9Cは、WT Huh7細胞と比較した、AAVR KO細胞、GPR108 KO細胞、またはダブルKO細胞における示された血清型の形質導入レベルのグラフである。
図10図10Aは、GPR108を欠失させ、次いで、GPR108レンチウイルスで安定的に形質導入し、その後、ルシフェラーゼをコードする導入遺伝子を発現する示された血清型を、ヘルパーウイルスを用いておよび用いずに形質導入した、H1 HeLa細胞において観察された、発光のグラフである。 図10Bは、flagタグ付けされたヒトGPR107またはGPR108をトランスフェクトされ、その後、ルシフェラーゼをコードする導入遺伝子を発現する示された血清型を形質導入された、Huh7 WT細胞またはGPR108 KO細胞において観察された、発光のグラフである。 図10Cは、flagタグ付けされたマウスGPR107またはGPR108をトランスフェクトされ、その後、ルシフェラーゼをコードする導入遺伝子を発現する示された血清型を形質導入された、Huh7 WT細胞またはGPR108 KO細胞において観察された、発光のグラフである。
図11図11A~11Bは、flagタグ付けされたヒトまたはマウスGPR107またはGPR108をトランスフェクトされ、そしてルシフェラーゼをコードする導入遺伝子を発現するrh32.33、AAV4、AAV5(11A)、ならびにAnc80、AAV9、およびAAV9.PHP-B(11B)で形質導入された、Hepa WT細胞またはGPR108 KO細胞において観察された、発光のグラフである。
図12図12Aは、非機能的なGPR107の膜配向の略図である。 図12Bは、GPR108の予測される膜配向の略図である。 図12Cは、C末端にあるflagタグによって可視化された、Huh7細胞におけるヒトおよびマウスGPR107構築物およびGPR108構築物の発現を実証する、ウェスタンブロットの画像である。 図12Dは、Hepa細胞におけるヒトおよびマウスGPR107およびGPR108の発現を実証するためのウェスタンブロット(抗flag抗体でプローブされている)画像である。
図13図13Aは、親カプシドAAV9または表面が露出したペプチド挿入カプシドAAV9.PHP-Bで形質導入されたWT細胞またはGPR108 KO Huh7細胞またはH1 HeLa細胞において観察された発光のグラフである。 図13Bは、グリカン結合欠損型AAV2HSPG-または親AAV2カプシドで形質導入されたWT細胞またはGPR108 KO Huh7細胞またはH1 HeLa細胞において観察された発光のグラフである。 図13Cは、示されているカプシド血清型について評価された、Huh7 WT細胞、AAVR KO細胞、GPR108 KO細胞、またはダブルKO細胞における、細胞に結合したウイルスゲノムについての結合アッセイのグラフである。
図14図14Aは、GPR108利用ドメインを決定するために使用されるキメラカプシドを示す略図である。 図14Bは、ルシフェラーゼをコードする導入遺伝子を発現する、示されているWTまたはキメラカプシドで形質導入されているHuh7 WT細胞、AAVR KO細胞、GPR108 KO細胞、またはダブルKO細胞において観察された発光のグラフである。
図15-1】図15Aは、AAV5およびAAV2の部分間のキメラスワップの略図である。
図15-2】図15Bは、示されているAAVで形質導入されたHuh7およびHuh7 GPR108 KOにおける、形質導入の48時間後のルシフェラーゼ発現(RLU/s)を示すグラフである。データは、5回の技術的反復の平均±SEMとして示されている。
図16】GPR108依存性を付与することが分かっている領域(AAV5(配列番号8)、AAV2(配列番号9)、AAV4(配列番号10)、AAVrh32.33(配列番号11)、AAVanc80L65(配列番号12)、AAV1(配列番号13)、AAV6.2(配列番号14)、AAV8(配列番号15)、AAV3(配列番号16)、およびAAV9(配列番号17))のアラインメントを示す図である。
図17-1】図17Aは、AAV2、AAV5、AAV2.5、AAV5.2、またはPBS(コントロール)における、1e11gc/マウスのバージョン1のcap2~5キメラで処理したC57BL/6Jマウスの6週間の追跡の間のインビボでのルシフェラーゼ発現(p/s/cm2/sr)のグラフである。データは、群当たり5頭の動物の平均±SEMとして示されている。 図17Bは、ルシフェラーゼ導入遺伝子を発現する示されているAAVで形質導入されている野生型MEFまたはGPR108 KO MEFにおける、形質導入の48時間後のルシフェラーゼ(RLU/s)のグラフである。データは、3つの独立した実験の平均±SEMとして示されている。
図17-2】図17Cは、ルシフェラーゼを発現する示されているAAVで形質導入されているHuh7、Huh7 AAVR KO、Huh7 GPR108 KO、またはHuh7ダブルKOにおける、形質導入の48時間後のルシフェラーゼ(RLU/s)のグラフである。データは、3つの独立した実験の平均±SEMとして示されている。
図18図18Aは、1e11gc/マウスの、ルシフェラーゼ導入遺伝子を有する示されているAAVでのC57BL/6JマウスおよびGPR108 KO マウスの処理の後8週間にわたる、インビボでのルシフェラーゼ発現(p/s/cm2/sr)のグラフである。データは、群当たり3頭の動物の平均±SEMとして示されている。 図18Bは、ベクター投与後14日目の、群ごとの代表的なマウスの画像である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本開示において記載されている研究は、遺伝子療法ベクターの侵入経路を理解するために使用されているウイルス侵入因子を同定するための高度にストリンジェントなゲノムワイドスクリーニングの最初の過程の1つである。3つの新規な宿主細胞侵入因子が同定され、特徴付けされ、そしてAAVR非依存性AAV血清型およびAAVR依存性AAV血清型の両方についての試験結果が記載されている。AAVRおよびGタンパク質結合型受容体108(GPR108)という2つの侵入因子の、高度に保存されている利用は、ほとんどのAAVが同一の侵入経路を共有していると考えられることを実証している。ほとんどのAAVがAAVRを結合し、適正な輸送のためにAAVRを必要とし、その後、エンドソーム脱出のためにGPR108を必要とする、新規な多因子侵入メカニズムが提示されている(図1)。
【0035】
図1は、AAV細胞侵入受容体の、本明細書において記載される研究に基づく、モデルの略図である。例えば、ほとんどのAAV血清型(例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV6.2、AAV7、AAV8、AAV9、Anc80、Anc81、Anc82、Anc83、Anc84、Anc110、Anc113、rh8c、rh10、PHP-B、8BPV2、および7M8)は、(例えば、ヒトおよびマウスの両方における)細胞侵入のためにAAVRおよびGPR108の両方を必要とし、AAVRおよびGPR108の両方は、遍在的に発現することが報告されている。その一方で、AAV5は、AAVRの代替ドメインを独自に使用し、GPR108は使用せず、同様に、エンドソーム脱出のために、現在知られていない共受容体を使用し、また、AAV4およびrh32.33は、ノイラミニダーゼ1(NEU1)およびカテプシンA(CTSA)の最小受容体複合体を使用し、同様に、エンドソーム脱出のためにGPR108受容体を使用する。
【0036】
本明細書において記載されるように、細胞侵入に関与するAAV配列は、固有の細胞標的化特性および組織標的化特性を有する新規なカプシドを生産するように操作することができ、現在のAAV血清型にこれまで利用しにくかった特定の組織または細胞型の標的化を可能にする。AAVは、あらゆるウイルスと同様に、宿主タンパク質ならびに侵入と増殖感染を可能にするいくつかの他のステップとのための他の共因子を係合する。ここで、本発明らは、AAVベクターをGPR108に依存するように改変することを可能にし、これによって、GPR108を発現する細胞および組織へのアクセスを可能にする、または逆に、AAVベクターをGPR108依存性でないようにし、これによって、ベクターを標的細胞におけるGPR108発現の必要性によって制限されないようにする、一般化可能な方法を記載する。さらに、本明細書において記載される侵入のメカニズムに基づいて、細胞内へのAAVの形質導入効率を、多くの異なる方法を使用して調節または変更することができる。例えば、本明細書において記載される方法は、アデノ随伴ウイルス(AAV)の細胞侵入を変化させるために使用することができる。
【0037】
細胞内へのAAVの侵入を少なくとも部分的に操作または制御する能力は、広範囲に及ぶ治療的意義を有する。AAVは、多くの異なる疾患または欠陥を処置するために治療的に使用され得、また、本明細書において記載される方法は、これらのAAVによる1つまたは複数の細胞の形質導入効率を調節するために使用され得る。例えば、AAVは、血友病、網膜色素変性症、嚢胞性線維症、レーバー先天性黒内障、リソソーム蓄積症、先天性代謝異常(例えば、フェニルケトン尿症を含む先天性アミノ酸代謝異常、プロピオン酸血症を含む先天性有機酸代謝異常、中鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症(MCAD)を含む先天性脂肪酸代謝異常)、癌、色盲、錐体杆体ジストロフィー、黄斑変性(例えば、加齢性黄斑変性)、リポポリペプチドリパーゼ欠損症、家族性高コレステロール血症、脊髄性筋萎縮症、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、アルツハイマー病、パーキンソン病、肥満、炎症性腸障害、糖尿病、鬱血性心不全、高コレステロール血症、難聴、冠動脈性心疾患、家族性腎アミロイドーシス、マルファン症候群、致死性家族性不眠症、クロイツフェルト・ヤコブ病、鎌状赤血球症、ハンチントン病、頭側頭葉変性症、アッシャー症候群、乳糖不耐性、脂質蓄積症(例えば、ニーマン・ピック病、C型)、バッテン病、先天性脈絡膜欠如、グリコーゲン蓄積症II型(ポンペ病)、毛細血管拡張性運動失調症(ルイ・バー症候群)、先天性甲状腺機能低下症、重症複合免疫不全(SCID)、および/または筋萎縮性側索硬化症(ALS)を含む広範な障害を処置するために、治療法(例えば遺伝子療法)を細胞に送達するために使用することができる。
【0038】
遺伝子操作されたアデノ随伴ウイルス(AAV)
本明細書において記載されるように、細胞内へのアデノ随伴ウイルス(AAV)の形質導入効率は、非天然の遺伝子改変されたアデノ随伴ウイルス(AAV)を生成することおよび複数の遺伝子改変されたAAVを細胞内に導入することによって、調節または変更され得る。VP1ポリペプチドまたはその部分は、AAV配列内のVP1固有のN末端部分を指す。VP1、VP2、およびVP3は、オーバーラップしているC末端タンパク質であり、これは、VP1およびVP2のN末端にあるVP12固有のドメイン(「VP12u」と呼ばれる)、ならびに固有のVP1ドメイン(「VP1u」と呼ばれる)を生じさせる。本明細書において実証されているように、GPR108の係合は、VP1uドメインにマッピングされている。
【0039】
本明細書において記載されるように、AAVカプシドタンパク質は、遺伝子操作されていない形態では細胞の形質導入のためにGPR108受容体の存在を必要としないAAVを細胞の形質導入のためにGPR108受容体の存在を必要とするようにする異種VP1ポリペプチド配列を含むように、遺伝子操作され得る。あるいは、AAVカプシドタンパク質は、遺伝子操作されていない形態では細胞の形質導入のためにGPR108受容体の存在を必要とするAAVを細胞の形質導入のためにGPR108受容体を必要としないようにする異種VP1ポリペプチド配列を含むように、遺伝子操作され得る。
【0040】
例えば、AAVは、AAVをGPR108非依存性にする(例えば、GPR108を必要としないようにする)配列MXVDHPXEVGX101112FLGLEA(配列番号1、配列中、Xは任意のアミノ酸であり得る)を有するVP1配列を導入するように遺伝子操作され得る。一部の実施形態において、XはSもしくはAもしくはTであり得、XはFもしくはAもしくはTであり得、XはPであり得、XはDであり得、XはWであり得、XはLであり得、XはEであり得、XはEであり得、XはGであり得、X10はLもしくはIもしくはVであり得、X11はRであり得、かつ/またはX12はEもしくはQであり得る。
【0041】
代表的なGPR108非依存性のVP1配列は、
MAAVDHPPDWLEEVGEGIREFLGLEA(配列番号18)
である。
【0042】
あるいは、AAVは、AAVをGPR108依存性にする(例えば、GPR108の存在を必要とするようにする)配列
MXDGYLXD(T/N)LSX101112WW(K/A/D)L(K/Q)P(配列番号2、配列中、Xは任意のアミノ酸であり得る)
を有するVP1配列を含むように遺伝子操作され得る。一部の実施形態において、XはSもしくはAもしくはTであり得、XはFもしくはAもしくはTであり得、XはPであり得、XはDであり得、XはWであり得、XはLであり得、XはEであり得、XはEであり得、XはGであり得、X10はLもしくはIもしくはVであり得、X11はRであり得、かつ/またはX12はEもしくはQであり得る。
【0043】
代表的なGPR108依存性のVP1配列は、
MSFDGYLPDWLEDTLSEGLREWWKLKP(配列番号19)
である。
【0044】
他の実施形態において、配列番号8(図16で示され、AAV5のVP1配列の一部分である)は、GPR108非依存性配列の一例であり、一方、配列番号9~17(図16で示され、それぞれが、AAV2、AAV4、rh32.33、AAVanc80L65、AAV1、AAV6.2、AAV8、AAV3、およびAAV9のVP1配列の一部分にそれぞれ対応する)は、GPR108依存性配列の例であるが、本明細書において示されるもの以外のVP1配列がGPR108非依存性またはGPR108依存性を付与し得ることが理解される。例えば、AAV7、Anc81、Anc82、Anc83、Anc84、Anc110、Anc113、rh8c、rh10、PHP-B、8BPV2、または7M8の同種VP1ポリペプチド(例えば、VP1タンパク質の対応する部分)もまた、GPR108依存性を付与し得る。
【0045】
本明細書において記載されるように、VP1ポリペプチドは、VP1ポリペプチドが由来した元であるAAV血清型のVP1タンパク質に基づいて、細胞のGPR108依存性またはGPR108非依存性の形質導入に関与する。したがって、AAVは、遺伝子操作されたAAVの細胞侵入および最終形質導入効率を改変するための異種VP1ポリペプチドを含むように遺伝子操作され得る。
【0046】
例えば、通常はGPR108依存性であるAAVを、AAVが細胞内へのGPR108非依存性の形質導入を示すようにする異種VP1ポリペプチドを含むように遺伝子改変することができるか、または、通常はGPR108非依存性であるAAVを、AAVが細胞内へのGPR108依存性の形質導入を示すようにする異種VP1ポリペプチドを含むように遺伝子改変することができる。
【0047】
一部の場合において、異種VP1ポリペプチドは、AAV5のVP1タンパク質またはその部分に由来する。本明細書において実証されているように、AAV5由来のVP1ポリペプチドは、さもなければGPR108依存性であるAAVに、GPR108非依存性を付与し得る。一部の場合において、異種VP1ポリペプチドを含むように遺伝子改変されているAAVは、AAV受容体(AAVR)非依存性のAAVである。AAVR非依存性のAAVは、当技術分野において知られており、これとしては、例えば、AAV4およびrh32.33が含まれる。例えば、AAVR非依存性のAAVは、本明細書において記載される方法を使用して、GPR108非依存性ともなるように遺伝子操作され得る。
【0048】
AAVの形質導入効率を調節する方法
本開示によって提供されるAAVの細胞侵入メカニズムの理解に基づいて、一部の場合において、細胞におけるGPR108の発現または活性を増大させることによって、細胞内へのアデノ随伴ウイルス(AAV)の形質導入効率を増大させることが望ましい場合がある。同様に、本開示によって提供されるAAVの細胞侵入メカニズムの理解に基づいて、一部の場合において、細胞を細胞におけるGPR108の発現または活性を低下させる化合物を接触させることによって、細胞内へのアデノ随伴ウイルス(AAV)の形質導入効率を低下させることが望ましい場合がある。
【0049】
細胞におけるタンパク質の発現または活性を増大させる方法は一般に知られており、これとしては、例えば、細胞内への、所望のタンパク質をコードする導入遺伝子(例えばGPR108導入遺伝子)を発現するまたは過剰発現する発現構築物の導入が、典型的には含まれる。同様に、タンパク質の発現または活性を低下させる方法は一般に知られており、これとしては、例えば、細胞において干渉RNAを発現させることが典型的には含まれる。干渉RNAは当技術分野において知られており、これとしては、限定はしないが、低分子干渉RNA(siRNA)およびRNA干渉(RNAi)分子が含まれる。
【0050】
ヒトGPR108配列ならびにマウスおよびラットGPR108配列は、当技術分野において知られている。例えば、NM_001080452(ヒトGPR108転写産物バリアント1)、NM_020171(ヒトGPR108転写産物バリアント2)、NP_001073921(ヒトGPR108タンパク質アイソフォーム1)、AF376726(マウスGPR108転写産物)、およびBC061996(ラットGPR108転写産物)を参照されたい。このような配列は、GPR108導入遺伝子を発現させるための発現構築物を生成するために使用され得るか、またはこのような配列は、1つもしくは複数の干渉RNAを生成するために使用され得る。GPR108に対する代表的な干渉RNA配列は、CGG ACA AGC CCA UUU GGA A(配列番号20)の配列(ワールド・ワイド・ウェブ上のscholarbank.nus.edu.sg/handle/10635/142828で入手可能な、Kaur、2018、シンガポール国立大学での博士論文における、指定されたsiRNA3)を有する。
【0051】
発現構築物は当技術分野において知られており、市販されているかまたは当技術分野において通常の組換えDNA技術によって生産され得る。発現構築物は、導入遺伝子に作動可能に連結している1つまたは複数の調節エレメントを典型的には含み、選択マーカー(例えば抗生物質耐性遺伝子)をコードする配列などの配列をさらに含み得る。核酸を発現するように設計された構築物は、キメラポリペプチドまたは融合ポリペプチド(すなわち、ポリペプチドのN末端またはC末端のいずれかで異種ポリペプチドに作動的に連結しているポリペプチド)をコードし得る。代表的な異種ポリペプチドは、コードされるポリペプチドの精製において使用され得るもの(例えば、6×Hisタグ、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST))である。
【0052】
調節エレメントとしては、核酸コード配列の発現を指示および調節する核酸配列が含まれる。調節エレメントの一例は、プロモーター配列である。調節エレメントとしてはまた、イントロン、エンハンサー配列、応答エレメント、または核酸(例えば導入遺伝子)の発現を調節する誘導性エレメントも含まれ得る。調節エレメントは、細菌由来、酵母由来、昆虫由来、哺乳動物由来、またはウイルス由来のものであり得、構築物は、異なる由来源から得られる調節エレメントの組み合わせを含有し得る。本明細書において使用される場合、作動可能に連結しているとは、発現のためのエレメントが、コード配列の発現を指示または調節するような様式で、構築物内でコード配列(例えば導入遺伝子)との相対的位置にあることを意味する。一部の場合において、作動可能に連結しているとは、インフレームを意味する。
【0053】
本明細書において記載される構築物は、宿主細胞に導入され得る。本明細書において使用される場合、「宿主細胞」は、核酸が導入される特定の細胞を指し、またこれとしては、このような細胞の子孫または潜在的子孫が含まれる。宿主細胞は、任意の原核細胞または真核細胞であり得る。例えば、核酸は、大腸菌(E. coli)などの細菌細胞において、あるいは昆虫細胞、酵母細胞、または哺乳動物細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)もしくはCOS細胞など)において発現させることができる。他の適切な宿主細胞は、当業者に知られている。
【0054】
本明細書において記載される、(例えば、GPR108の発現もしくは活性を増大もしくは低下させる化合物と、または遺伝子改変されたAAVと)接触している細胞は、インビトロで培養された細胞、あるいは、例えば動物モデルにおけるまたはヒト対象もしくは動物対象における組織の一部分におけるインビボの細胞であり得る。代表的な細胞型としては、限定はしないが、肝細胞、腎臓細胞、心臓細胞、筋肉細胞、脳細胞、肺細胞、上皮細胞、内皮細胞、および骨髄細胞(造血幹細胞を含む)、または眼もしくは内耳における細胞が含まれる。本明細書において記載される、接触している細胞は、例えば、腫瘍細胞または操作された細胞であり得る。
【0055】
インビボおよびインビトロの両方の、宿主細胞内に核酸を導入するための多くの方法が当業者に知られており、これとしては、限定はしないが、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、ポリエチレングリコール(PEG)形質転換、熱ショック、リポフェクション、マイクロインジェクション、およびウイルス介在性の核酸移入が含まれる。
【0056】
治療作用物質の送達
本明細書において記載される方法および組成物はまた、細胞内への治療作用物質の取り込みを調節するために使用することができる。例えば、タンパク質(例えば抗体、例えばモノクローナル抗体)またはタンパク質複合体などの治療作用物質を、GPR108依存性AAVのVP1ポリペプチドまたはその部分に連結させることができる。この様式で、治療作用物質を、AAVによって通常使用されるGPR108取り込みメカニズムを利用するように操作することができる。本明細書における開示に基づいて、GPR108依存性AAVのVP1ポリペプチドが、配列番号2で示されるコンセンサス配列を含み得ること、または、GPR108依存性AAVのVP1ポリペプチドが、取り込みのためにGPR108を必要とする任意のAAV(例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV6.2、AAV7、AAV8、AAV9、Anc80、Anc81、Anc82、Anc83、Anc84、Anc110、Anc113、rh8c、rh10、PHP-B、8BPV2、もしくは7M8)のVP1タンパク質もしくはその部分に由来し得ることが理解される。
【0057】
一部の場合において、さらなる結合因子をGPR108に対する親和性を有する治療作用物質にさらに連結させることが望ましい場合がある。このような結合因子は、限定はしないが、抗体、抗体ドメイン、またはアプタマーを含む、GPR108に結合する任意の分子または作用物質であり得る。例えば、治療作用物質のN末端は、コンセンサス配列を含むVP1ポリペプチド
MXDGYLXD(T/N)LSX101112WW(K/A/D)L(K/Q)P(配列番号2)に連結され得、細胞への治療作用物質の送達が可能となる。
【0058】
本開示に従って、当技術分野の技術の範囲内である従来の分子生物学、微生物学、生化学、および組換えDNA技術が利用され得る。このような技術は、文献において全て説明されている。本開示は以下の実施例においてさらに記載され、これらの実施例は、特許請求の範囲において記載されている方法および組成物の範囲を限定するものではない。
【実施例
【0059】
材料および方法
全ての細胞系は、5%COを有する37℃の加湿インキュベーター内で、10%FBS(GE Healthcare)および100IU/mLのペニシリン/ストレプトマイシン(Corning)を添加したダルベッコ改変イーグル最小培地DMEM(Corning)中で維持した。全ての細胞系はJan Carrette labから譲り受け、これまでに公開されている(Pillay et al., 2016, Nature, 530:108-12)。細胞を、標準的なプロトコルを使用して、PolyJetインビトロDNAトランスフェクション試薬(SignaGen、カタログ番号SL100688)を使用してトランスフェクトした。
【0060】
一次細胞MEFを、10%FBS(GE Healthcare)、55μMのベータ-メルカプトエタノール(Gibco)、15μg/mLの硫酸ゲンタマイシン(Thermo Fisher)、および非必須アミノ酸(Thermo Fisher)を添加したイスコフ改変ダルベッコ培地IMDM(Gibco)内で培養した。WTおよびGPR108 KO MEFはBrian SeedおよびGuoling Zhouから譲り受け、これまでに記載されている(Dong et al., 2018, Plos One, 13(10):e0205303)。
【0061】
合成に使用したNCBI配列は以下の通りであった:マウスGPR107、BAC26961、マウスGPR108、NP_084360、ヒトGPR107、AAK57695、ヒトGPR108、XP_290854。カプシドキメラを、(Excoffon et al., 2009, PNAS USA, 106:3865-70)において実証されているVP1ジャンクションでAAV2およびAAV5のヌクレオチド配列から生成させた。カプシドキメラはGenewizによって合成され、HindIII制限部位およびSpeI制限部位を使用してpAAVector2にサブクローニングした。
【0062】
高力価ベクターはMEEI/SERI Gene Transfer Vector Core(ワールド・ワイド・ウェブ上のvector.meei.harvard.edu)によって生産され、精製され、および滴定された。大規模ベクター調製物を、pHelp導入遺伝子、pAAVector2[Cap]導入遺伝子、およびpCMV.ルシフェラーゼ.SVPA、pCMV.eGFP.T2A.ルシフェラーゼ導入遺伝子またはpCMV.eGFP.WPRE.bGH導入遺伝子の2:1:1比でのポリエチレンイミン(Polysciences、カタログ番号24765-2)トリプルトランスフェクションによって生成した。520μgの全DNAを、1.375:1(w/w)のPEI Max:DNA比を使用して、10層のハイパーフラスコ内でトランスフェクトした。トランスフェクションの3日後、ベクターをタンジェンシャルフロー濾過によって濃縮し、以前に記載されているように(Lock et al., 2010, Hum. Gene Ther., 21:1259-71)イオジキサノール勾配超遠心分離によって精製した。
【0063】
キメラウイルスベクターおよび点突然変異ウイルスベクターを、10cmの細胞培養物プレート内で、同一のトランスフェクション方法によって、小規模で粗ウイルス調製物として生産した。トランスフェクションの3日後、細胞および上清を回収し、3回の凍結融解サイクルにかけ、次いで、粗ウイルス調製物を、4℃のThermoScientific FIBERLite F15-8x50cyローター内での10000RPMで10分間の遠心分離によって澄明化した。
【0064】
全てのルシフェラーゼ形質導入アッセイは、底が黒い96ウェルプレート内でウェル当たり10000個の細胞を播種することによって一晩行った。示されている場合、細胞はD10中の200pfu/細胞のWT hAd5(ペンシルベニア大学Vector core)と2時間プレインキュベートし、次いで、hAd5を含有する培地を除去し、その後、形質導入を行った。細胞を、50μLの無血清DMEM中の1×10VG/細胞のいずれかのAAVで、37℃で1時間形質導入し(AAVR回復実験)、次いで、D10を200μLの全容積まで添加したか、または、ウェル当たり100μlの粗ウイルス調製物(キメラカプシド実験および点突然変異カプシド実験)を37℃で1時間添加し、除去し、次いで、D10を添加した。形質導入レベルを、形質導入の48時間後に、ルシフェラーゼアッセイによって分析した。
【0065】
形質導入の2日後、細胞培養培地を除去し、細胞をウェル当たり20μLの1×レポーター溶解バッファー(Promega、カタログ番号)中に溶解し、次いで、-80℃で凍結した。解凍した後、ffLucの発現を、Synergy H1ハイブリッドマルチモードマイクロプレートリーダーで、100μLのルシフェリンバッファー[200mMのTris、pH8、10mMのMgCl2、300μMのATP、1×ホタルルシフェラーゼシグナルエンハンサー(Thermo、カタログ番号16180)、および150μg/mLのD-ルシフェリン]を使用して、相対発光量/sで測定した。
【0066】
[実施例1]
侵入のスクリーニングおよび分析
レンチウイルスを、レンチウイルス生産のための製造者のプロトコルを使用して、PolyJetインビトロDNAトランスフェクション試薬(SignaGen、カタログ番号SL100688)を使用して、一過性トランスフェクションによってHEK293T細胞(ATCC、マナサス、VA)から生産した。LentiCas9-blastおよび個々のsgRNA含有レンチウイルスを、10cmのディッシュ当たり4×10個細胞で一晩播種したHEK293T細胞において生産した。トランスフェクションの1時間前に、培地を、新鮮な事前に温めたD10に交換し、その後、psPAX2、pLentiCas9-BlastまたはLV04、およびpCMV-VSV-Gを10:10:1比でトランスフェクトした。培地をトランスフェクションの6時間後に新鮮なD10に交換し、上清のウイルスを48時間後に採取し、Sorvall卓上型遠心分離機において2000RPMで5分間遠心分離することによって澄明化し、そして、0.45ミクロンのフィルターを通して濾過した。大規模なGeC KOレンチウイルスを以前に記載されているように生産した(Joung et al., 2017, Nat. Protoc., 12:828-63)。
【0067】
簡潔に述べると、V2AおよびV2Bを、本明細書において記載されるプロトコルの大規模トランスフェクションを使用して、Corning HYPERflask培養管において、個々のレンチウイルスライブラリー調製物として生産した。上清のウイルスを、トランスフェクション後2日目および3日目に回収し、0.45ミクロンのフィルターを通して濾過し、そして、SW-28ローター内で24000PRMで2時間、4℃で超遠心分離することによって濃縮した。
【0068】
細胞系を、形質導入の前の晩に、6ウェルプレートのウェル当たり1×10個細胞で播種した。細胞を、8μg/μLのポリブレン(ThermoFisher Scientific、カタログ番号TR1003G)の存在下で、ウェル当たり1mLの上清レンチウイルスを使用して、卓上型での25℃および2500RPMで30分間のスピンフェクションによって形質導入した。スピンフェクションの後、培地を新鮮なD10に交換し、翌日、安定的に形質導入された細胞を、5μg/μLのピューロマイシン(Sigma Aldrich、カタログ番号P9620)を使用して2日間選択した。
【0069】
Cas9細胞に、本明細書において記載される個々の標的化sgRNAを発現するレンチウイルス(LV04構築物)で形質導入した。ピューロマイシン選択の少なくとも1週間後、個々の細胞クローンを、96ウェルプレート内でDMEM20%FBSプラス非必須アミノ酸およびペニシリン/ストレプトマイシン中で限界希釈することによって平板培養し、細胞の生存を増大させた。平板培養の2~3週間後、単細胞クローンを増殖させ、ノックアウトについてスクリーニングした。
【0070】
濃縮されたレンチCRISPRライブラリーを、ピューロマイシン選択の2日後に、ピューロマイシンの不存在下で、形質導入されていないコントロール細胞と比較した、形質導入された細胞の生存の%を決定することによって、Huh7 AAVR KO Cas9細胞について滴定した。
【0071】
Huh7 AAVR KO Cas9細胞に、8μg/μLのポリブレンでの25℃で30分間の上記のようなスピンフェクションによって、6ウェルプレート内で、0.3のMOIの濃縮されたV2AまたはV2Bレンチウイルスで形質導入し、その後、37℃および5%CO2で1.5インキュベートし、その後、新鮮なD10培地を添加した。ピューロマイシンを形質導入の24時間後に5μg/μLの濃度で添加して、sgRNA発現細胞を選択した。細胞をピューロマイシンと1週間培養して選択を行い、AAVでの選択の前に編集を生じさせた。突然変異誘発されたライブラリーの各半分から得た3000万個の細胞(V2A細胞およびV2B細胞)に、100000VG/細胞のrh32.33CMV.eGFP.WPREで形質導入した。細胞に、2つの15cmプレートのそれぞれにおける全容積が10mLの無血清DMEM中で1時間形質導入し、その後、10mLのDMEM20%FBSを添加し、そして翌日、細胞を分けた。
【0072】
細胞をFACS選別のためにトリプシン処理によって回収し、卓上型遠心分離機で、2000RPMで5分間回転させ、次いで、5mMのEDTAを有するPBS(カルシウムおよびマグネシウムを有さない)中に再懸濁した。FACS選別は、マサチューセッツ総合病院フローサイトメトリーコア(Simches Research Building)で、BD FACSAria Fusion Cell Sorter機器で行った。細胞を、20%FBSおよびペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEM中に回収した。選択された細胞を増殖させ、ゲノムDNAを、サンプル当たり全部で10個の細胞から抽出した。ライブラリーの各半分から得たGFPネガティブ細胞を半分に分け、配列決定したか、または同一の形質導入プロトコルを使用して第2の形質導入およびFACS選別にかけた。
【0073】
シーケンシングした後、生リードを、MaGECK分析パイプラインを使用して、既知のsgRNA配列にマッピングした。ライブラリーの各半分(V2AおよびV2B)内のコントロール集団に対して正規化した後に、有意値をライブラリー全体について決定し、データは、多重検定補正を行わずに、生のp値として報告されている。
【0074】
これらの遺伝子改変された細胞は、その遺伝子改変がAAVの標的化効率に影響したかどうかについて次に調べた細胞のライブラリーとして機能した。sgRNAのシーケンシングはこうして、AAVの標的化効率を増大または低下させた遺伝子改変の追跡を可能とした。この相関を次いで、ロバスト性について統計的に調べた。有意なヒットを、AAVの形質導入におけるそれらの役割についてさらに検証した。さらに、実施例2において記載するように、第2ラウンドの選択をライブラリーに対して行って、所見のロバスト性をさらに増大させた。
【0075】
[実施例2]
侵入のスクリーニングはrh32.33の侵入因子を同定する
CRISPRに基づく侵入スクリーニングを、代替AAV侵入経路に必要な細胞侵入因子を同定するように設計した。2ベクターレンチウイルスGeCKO系は、単一ベクター内のCas9を目的の細胞系に導入し、その後、ヒトゲノム全体に広がるsgRNAおよびmiRNAのライブラリーを導入した(図2A)(Shalem et al., 2014, Science, 343:84-7)。簡潔に述べると、細胞にベクター1[lentiCas9-Blast]で形質導入し、その後、Cas9の安定な発現のためにブラストサイジン選択を行った。Cas9に、次いで、ヒトゲノム全体を標的化するsgRNAを含有するライブラリーフォーマットのベクター2(lentiGuide-Puro)で形質導入して、細胞系ノックアウトライブラリーを生成した。
【0076】
レンチウイルスプラスミドは、AddgeneまたはSigmaから購入した。LentiCas9-blast(52962)、psPAX2(12260)、pCMV-VSV-G(8454)、GeCKO V2AおよびGeCKO V2B(1000000048および1000000049)は、Addgeneから購入した。スクリーニングの検証およびノックアウト実験に使用される個々の遺伝子を標的化する個々のsgRNAレンチウイルス構築物は、Sigma LV04ベクター骨格内のQuickPickグリセロールストッククローンとしてSigmaから購入した。
【0077】
レンチウイルスを、レンチウイルス生産のための製造者のプロトコルを使用して、PolyJetインビトロDNAトランスフェクション試薬(SignaGen、カタログ番号SL100688)を使用して、一過性トランスフェクションによってHEK293T細胞(ATCC、マナサス、VA)から生産した。LentiCas9-blastおよび個々のsgRNA含有レンチウイルスを、10cmのディッシュ当たり4×10個細胞で一晩播種したHEK293T細胞において生産した。トランスフェクションの1時間前に、培地を、新鮮な事前に温めたD10に交換し、その後、psPAX2、pLentiCas9-BlastまたはLV04、およびpCMV-VSV-Gを10:10:1比でトランスフェクトした。培地をトランスフェクションの6時間後に新鮮なD10に交換し、上清のウイルスを48時間後に採取し、Sorvall卓上型遠心分離機において2000RPMで5分間遠心分離することによって澄明化し、そして、0.45ミクロンのフィルターを通して濾過した。大規模なGeC KOレンチウイルスを以前に記載されているように生産した(Joung et al., 2017, Nat. Protoc., 12:828-63)。
【0078】
簡潔に述べると、V2AおよびV2Bを、上記のプロトコルの大規模トランスフェクションを使用して、Corning HYPERflask培養管において、個々のレンチウイルスライブラリー調製物として生産した。上清のウイルスを、トランスフェクション後2日目および3日目に回収し、0.45ミクロンのフィルターを通して濾過し、そして、SW-28ローター内で24000PRMで2時間、4℃で超遠心分離することによって濃縮した。濃縮されたlentiCRISPRライブラリーを、ピューロマイシン選択の2日後に、ピューロマイシンの不存在下で、形質導入されていないコントロール細胞と比較した、形質導入された細胞の生存の%を決定することによって、Huh7 AAVR KO Cas9細胞について滴定した。
【0079】
Huh7 AAVR KO細胞を、AAVR依存性の侵入でのいかなる考えられる冗長性もスクリーニングにおける偽陰性を生じさせないことを確実にするために、このスクリーニングに使用した。rh32.33.CMV.eGFP.WPREベクターで形質導入されたlentiCRISPR突然変異誘発細胞の複数ラウンドの形質導入、ならびにFACS選別と、その後のsgRNA普及率のIlluminaディーブシーケンシングとを使用して、AAVの制限またはAAVの侵入のいずれかに関与する細胞因子を同定した(図2B)。
【0080】
コントロール(選択されていない)細胞または選択された細胞のゲノムDNAを、Qiagen Blood & Cell Culture DNA Midi Kit(カタログ番号13343)を使用して抽出した。バーコードの追加およびIlluminaアダプターの追加を、以前に記載されているように行った(Joung et al., 2017, Nat. Protoc., 12:828-63)。簡潔に述べると、2ステップのPCRを、サンプル特異的なプライマーを使用して行って、sgRNA配列を特異的に増幅させ、記載されているように、Illumina MiSeq機でのマルチプレックスシーケンシングの間にサンプルを区別した(Joung et al., 2017, Nat. Protoc., 12:828-63)。
【0081】
lentiCRISPR(GeCKO)ライブラリー(V2A細胞およびV2B細胞)の各半分で突然変異誘発された3000万個の細胞(Sanjana et al., 2014, Nat. Methods, 11:783-4)に、高MOIのrh32.33.CMV.eGPF.WPREで形質導入した。最も高い≒15%の平均蛍光強度(MFI)を有する細胞を選択し、sgRNAの普及率をディープシーケンシングして、AAVの侵入または遺伝子発現を制限し得る細胞因子同定した(図3A図3B)。GFPネガティブであった細胞(図3A図3B)を選択し、半分に分け、そして、ディープシーケンシングしたかまたは別のラウンドの形質導入を行った。これらの細胞に同一MOIで形質導入し、GFPネガティブ細胞を選別し、そしてrh32.33侵入因子がさらに強化されるようにシーケンシングした(図3C図3D)。第2ラウンドの形質導入は、同一のMOIで行ったが、第1ラウンドの形質導入(図3A図3B)と比較して、GFPネガティブなままであった細胞のパーセンテージが高く(図3C図3D)、このことは、選択が、rh32.33の侵入に必要な欠失した遺伝子を強化させたことを示唆している。ゲノムDNAを異なる選択された細胞集団から抽出し、sgRNAを、ディーブシーケンシングのために、サンプル特異的なバーコードおよびIlluminaアダプターを追加した2ステップのネステッドPCR戦略によって増幅した(Joung et al., 2017, Nat. Protoc., 12:828-63)。
【0082】
サンプルをマルチプレックス化し、シーケンシングし、その後、V2AサンプルおよびV2Bサンプルを組み合わせて、ライブラリー全体におけるsgRNAの普及率を分析し、そして、リードを、lentiCRISPR V2ライブラリー内の既知の配列に戻しマッピングした。2ステップのネステッドPCR戦略を使用して、選択されていない(コントロール)細胞集団または第1ラウンドのGFP+またはGFP-細胞集団からのシーケンシングのためにsgRNAを増幅し、NGSアンプリコンにおいて、固有のサンプルバーコードおよびIlluminaアダプターを追加した。各選択条件は、sgRNAライブラリーの300倍を超える網羅を維持するために十分な、全部で700万を超える生リード、および370万を超える、既知のインプットsgRNA配列に完全にマッピングされたリードを生じさせた。
【0083】
遺伝的摂動によってAAV感染に対して不応性とされた細胞についてのこの第2ラウンドの選択において、このマルチプレックスライブラリーアプローチを介してさらに厳密な選択を行って、どの細胞因子がAAV感染の低減と関連しているかを同定した。宿主ゲノムにおけるsgRNAマーカーのシーケンシングによって同定されたこれらの共因子は、こうして、AAVの形質導入に関与する潜在的な所要の遺伝子およびタンパク質として見なされる。
【0084】
[実施例3]
潜在的AAV制限因子の同定
GFP陽性細胞のロバストランク凝集(RRA)分析およびMAGeCK分析(Li et al., 2014, Genome Biol., 15:554、およびLi et al., 2015, Genome Biol., 16:281)は、平均蛍光強度が高い、細胞において強化されているいくつかの因子を同定した(図4A):
- ACSL6:Acyl-CoA合成酵素長鎖ファミリーメンバー6は、脂肪酸からのAcyl-CoAの形成を触媒し、脂質代謝において主要な役割を有し得る。
- LETMD1:LETM1ドメイン含有1は、p53の調節および腫瘍形成において役割を有することが示唆されている。
- CALN1:Calneuron 1は、ゴルジから原形質膜への運搬を負に調節し、その欠失は、核へのAAVの運搬の際に輸送経路を変更する可能性があり得る。
- SSH3:Slingshotプロテインホスファターゼ3は、ADF/コフィリンタンパク質を活性化させることによって、アクチンダイナミクスにおいて役割を有し、これはまた、AAV侵入の輸送経路にも影響し得、これを変更し得る。
【0085】
GFP陽性のサブセットにおける最も大きなヒットは、特徴付けされていない膜貫通タンパク質であるTMEM125であった。GFP陽性の選択からのトップヒットのいくつかを標的化する個々のsgRNAを、レンチウイルスベクターを使用してHuh7 AAVR KO Cas9細胞に導入し、次いで、ピューロマイシン選択された細胞を、ルシフェラーゼアッセイを使用してrh32.33の形質導入レベルについて評価した。
【0086】
提示されているデータは、親細胞系(Huh7 AAVR KO Cas9)と比較した、CRISPR編集されたポリクローナル細胞集団における、10000VG/細胞のrh32.33.CMV.ルシフェラーゼ.SVPAでの形質導入から生じるRLUの増加倍率である。ポリクローナル細胞系は、Huh7 AAVR KO Cas9細胞に、rh32.33 GFP+細胞集団において同定された個々の遺伝子を標的化するsgRNAをコードするレンチウイルスで形質導入することによって生成させた。いくつかのsgRNA形質導入された細胞系は、親細胞系と比較して、最も顕著にはTMEM125およびGMEB2(グルココルチコイド調節エレメント結合タンパク質2)の形質導入の増大を示し、これらはそれぞれ、形質導入のおよそ100倍の増大を示した(図4B)。
【0087】
これらの結果は、GeCKOに基づく侵入スクリーニングが、AAVrh32.33についての潜在的な細胞制限因子を同定し得ることを実証している。
【0088】
[実施例4]
潜在的なAAVの侵入因子の同定
GFP-細胞集団の分析は、本明細書において記載されるように、GFP-集団において強化されていた、同定されたいくつかの遺伝子を生産し、これらのうちの最も顕著なものの1つは、GPR108であった(図5A)。この遺伝子は、ノイラミニダーゼ1(NEU1)およびカテプシンA(CTSA)などの非常に強化されていた他の遺伝子と同様に、第2ラウンドの形質導入の分析においてさらに強化された(図5B)。X軸は、機能性によってグループ化されたGeCKOライブラリー内の個々の遺伝子を示しており、Y軸は、RRA分析に基づく各ヒットの有意性を示している。バブルの直径は、選択されていないコントロールと比較して、選択された集団において強化されている、遺伝子当たりの個々のsgRNAの数に対応する。重要なことに、トップヒットの有意性は10近くのp値まで増大したが、他の遺伝子は、10の有意値の辺りで変化しないままであった。このことは、第2ラウンドの形質導入がrh32.33の侵入因子を強化するために非常に重要であったことを示唆している。GPR108が侵入因子として同定されたことで、GPR108依存性に関与するVP1領域の研究およびマッピングが行われた。
【0089】
[実施例5]
NEU1およびCTSAは、代替侵入経路血清型rh32.33およびAAV4の侵入に必要である
NEU1およびCTSAは共に複合体内に存在するため、また、NEU1の安定性および立体構造はCTSAに依存するため(Galijart et al., 1988, Cell, 54:755-64、およびBonten et al., 1995, J. Biol. Chem., 270:26441-5)、これらのタンパク質を、双方が代替AAV侵入経路に重要であるかどうかを決定するために試験した。rh32.33およびAAV4の2つのAAVR非依存性血清型を、NEU1 WTマウスもしくはNEU1 KOマウス、またはCTSA WTマウス、CTSAヘテロ接合型(HET)マウス、もしくはCTSA KOマウスに由来する、以前に公開されているマウス胚線維芽細胞(MEF)細胞系において試験した。rh32.33およびAAV4の両方は、NEU1 KO細胞およびCTSA KO細胞における形質導入の欠如を示し、CTSAヘテロ接合型細胞における影響はほとんどまたは全く観察されなかった(図6A図6B)。
【0090】
シアル酸を付着因子として使用するAAV5を含む、いくつかの他のAAV血清型を試験した。NEU1はシアル酸グリカンの生物学に関与するが、いずれのAAVR依存性血清型の形質導入においても違いは観察されなかった(図6C図6F)。このことは、NEU1およびCTSAがAAVR非依存性の侵入にとって特異的に必要であること、ならびにrh32.33およびAAV4が同一の代替侵入経路を使用すると思われることを実証している。ヒト細胞におけるNEU1の欠如の影響を、NEU1特異的またはCTSA特異的なsgRNAを様々なCas9細胞系に導入することによって、さらに評価した。完全なNEU1ノックアウト機能性を有するモノクローナル細胞系は同定されなかったが、細胞をポリクローナル状況下でピューロマイシン選択を行った後に試験した場合、rh32.33形質導入の大きな低下が、複数のNEU1 sgRNAを形質導入された細胞系において観察されたが、いずれの他の試験された血清型でも、低下は観察されなかった(図6G)。このことは、NEU1がヒト細胞およびマウス細胞の両方においてAAVR非依存性の侵入に必要であることを示唆している。
【0091】
[実施例6]
代替経路侵入に必要なNEU1の酵素活性
NEU1は酵素であるため、侵入スクリーニングにおいて同様に同定されたCTSA(図5C)は、NEU1の触媒的に活性な立体構造の維持に必要であり(D’Azzo et al., 1982, PNAS USA, 79:4535-9、およびVinogradova et al., 1998, Biochem. J., 330(Pt 2):641-50)、NEU1の酵素活性がその機能にとって必要であるかどうかを、rh32.33およびAAV4の侵入において試験した。2つの異なるシアル酸類似体ノイラミニダーゼ阻害剤化合物であるザナミビル(von Itzstein et al., 1993, Nature, 363:418-23)およびDANA(Meindl et al., 1974, Virology, 58:457-63)を使用して、Huh7細胞に対する用量応答を行い、異なるAAVR依存性血清型およびAAVR非依存性血清型の侵入に対する影響を評価した。2つの異なるAAVR依存性血清型であるAAV5およびAnc80、ならびに2つのAAVR非依存性血清型であるrh32.33およびAAV4を試験した。重要なことに、AAV4およびAAV5は共にシアル酸を付着因子として使用する(Kaludov et al., 2001, J. Virol., 75:6884-93、およびWalters et al., 2001, J. Biol. Chem., 276:20610-6)がそれらのAAVR依存性は異なるため、これらAAVを調べた。
【0092】
簡潔に述べると、ウェル当たり10000個の細胞を、阻害剤処理の1日前に、96ウェルプレート内で平板培養した。細胞を、示されている濃度のザナミビル(Sigma SML0492)またはDANA(EMD Millipore 252926)と24時間インキュベートし、その後、全容積が100μLのD10中で形質導入した。示されている場合、コントロール細胞または阻害剤処理された細胞を、無血清DMEM中のコレラ菌(Vibrio cholera)III型(Sigma Aldrich、カタログ番号N7885)から得た50mU/mLのノイラミニダーゼで処理し、その後、記載されているようにAAVの形質導入を行った。
【0093】
細胞の、短い1時間の前処理は、形質導入の低下を全く示さなかった。しかし、示された濃度のノイラミニダーゼ阻害剤ザナミビル(図7A)またはDANA(図7B)での、Huh7細胞の24時間の前処理と、その後の、10000VG/細胞の、CMV.ルシフェラーゼ.SVPA導入遺伝子を包んでいる示されているカプシド血清型の形質導入とは、rh32.33の形質導入をおよそ10倍、大きく低下させ、また、AAV4の侵入をわずかに低下させた(黒:AAVR依存性血清型、緑:AAVR非依存性血清型、実線:未知のグリカン付着因子、点線:付着に使用されたシアル酸)。AAVR非依存性の侵入の低下を示すためにノイラミニダーゼ阻害剤との長時間のプレインキュベーションが必要であることは、NEU1活性が侵入に必要な別のタンパク質プロセスまたは細胞プロセスの調節活性であり得るという意味で、侵入の欠陥がNEU1およびCTSAの機能の影響を受け得ることを示唆している。AAVR依存性血清型、AAV5、またはAnc80のいずれも、形質導入の低下を示さず、このことは、NEU1の活性がAAVR非依存性血清型の侵入に特異的に必要であることを実証している。
【0094】
NEU1およびCTSAは細胞のグリコシル化状態において役割を有するため、侵入の欠陥が、付着の欠陥をもたらす細胞表面でのグリコシル化の全体的な変更に起因するものではないことを確認することが求められた。これを行うために、細胞をまずザナミビルまたはDANAで24時間前処理し、その後、コレラ菌(Vibrio cholera)から得た組換えノイラミニダーゼで処理して、NEU1阻害に起因して細胞表面に蓄積している可能性がある全てのシアル酸を除去した。
【0095】
示されている事前に冷蔵されたベクターを次いで、氷上の細胞に添加し、1時間インキュベートしてベクターを付着させ、未結合のベクターを、氷冷したPBSを使用して洗い流し、次いで、形質導入を進行させ、ベクターの形質導入を、ルシフェラーゼアッセイを介して、異なる処理条件において、未処理コントロール細胞と比較した増加倍率によって評価した。
【0096】
図7で使用されているものと同一の4つのベクターを、これらの異なる血清型の付着と侵入に対するNEU1の機能を解明するために調べた。示されている細胞系を、24ウェルプレートで、ウェル当たり5×10個細胞で一晩平板培養した。細胞を氷上に10分間置き、次いで、ウェル当たり10VGの事前に冷蔵されたベクターをウェル当たり全容積200μLで添加した。ベクターを、オービタルシェーカープラットフォーム上で氷上の細胞に1時間結合させた。結合の後、細胞を、Mg2+およびCa2+を有する氷冷したPBSで3回洗浄し、次いで、ウェル当たりいずれかの100μLのPBSを添加し、プレートを-80℃で凍結した。結合アッセイプレートを3回の凍結解凍サイクルにかけ、その後、再懸濁し、CMVプライマー/プローブを使用して、本明細書において記載されるようにqPCRによってウイルスゲノム定量を行った。
【0097】
イオジキサノール精製したベクター調製物のDNase1耐性ウイルスゲノムを、CMVプロモーターを検出するプライマーおよびプローブのセットを使用して、TaqMan qPCR(ThermoFisher、カタログ番号4304449)によって定量した。ベクターの純度を、SDS-PAGE電気泳動によって評価した。
【0098】
Huh7細胞を2mMのザナミビルまたはDANAで24時間前処理し、その後、コレラ菌(Vibrio cholera)から得たノイラミニダーゼで2時間処理し、その後、CMV.ルシフェラーゼ.SVPA導入遺伝子を包んでいるrh32.33(図8A)、AAV4(図8B)、AAV5(図8C)、またはAnc80(図8D)で形質導入した。図8Eは、示された血清型についてのWT細胞系および突然変異MEF細胞系での、細胞に結合したウイルスゲノムのqPCRの結果である。
【0099】
ザナミビルまたはDANAで処理した細胞をノイラミニダーゼ処理した後、侵入阻害の逆転は観察されず(図8A)、このことは、rh32.33の侵入の欠陥が、細胞表面にある変更されたグリカン構造に起因するものではないことを示唆している。逆に、AAV4およびAAV5は共に、それらの好ましいグリカン付着因子である末端シアル酸部分が失われていることから予想されたように、外因性ノイラミニダーゼでの処理の後に形質導入の大きな低下を示した(図8B図8C)。Anc80は付着因子が知られておらず、AAVRを使用するため、NEU1阻害またはノイラミニダーゼ処理の影響は、予想された通り、Anc80の全ての形質導入で観察されなかった(図8D)。これらのデータは、NEU1およびCTSAの侵入の欠陥が、細胞表面上のグリカン構造の全体的な摂動に起因するものではない可能性が高いことを示唆している。ベクターの付着を直接的にアッセイするために、qPCRに基づく細胞結合アッセイを使用して、NEU1およびCTSAのWT MEF細胞またはKO MEF細胞へのベクターの付着を測定した。
【0100】
異なるベクターの付着における違いが実証されたが(例えば、rh32.33と比較してAAV4ではおよそ100倍の付着の増大(図8E))、WT細胞とNEU1 KO細胞またはCTSA KO細胞との主な違いは、試験したベクターのいずれでも観察されなかった。この結合アッセイは、NEU1 KO細胞およびCTSA KO細胞における形質導入の喪失が、細胞表面でのベクターの付着の欠陥に起因しないこと、およびこれらのタンパク質が、侵入受容体としてまたは多タンパク質侵入受容体複合体の一部として付着後の役割を有する可能性が高いことを実証している。
【0101】
[実施例7]
GPR108は、複数の細胞型におけるAAVR依存性血清型およびAAVR非依存性血清型の侵入に必要である
このスクリーニングにおいて同定された、最も顕著に強化された遺伝子は、特徴付けされていない7回膜貫通型Gタンパク質共役受容体様タンパク質であるGPR108であった(図5A図5B)。GPR108は、AAV5以外の全ての血清型の侵入に必要であり、ヘルパーウイルスに非依存性である。
【0102】
興味深いことに、このタンパク質はまた、AAVRを同定した最初のハプロイドスクリーニングにおいて潜在的な侵入因子であると同定された(Pillay et al., 2016, Nature, 530:108-12)。このことは、GPR108がrh32.33の侵入に対してだけではなく、他のAAV血清型の侵入にも重要であり得ることを示唆した。GPR108 KO Huh7細胞系を生成し、現存の血清型のパネルおよび推定上の祖先中間体カプシドを、ルシフェラーゼアッセイを介して、GPR108の利用について試験した(図9A)。
【0103】
WT Huh7細胞またはGPR108 KO Huh7細胞における全ての試験した血清型(CMV.ルシフェラーゼ.SVPA(AAVrh10、AAV8、AAVAnc82、AAV9、AAVAnc81、AAVAnc80、AAV3、AAV6.2、AAV1、AAVrh32.33、AAV4、AAV5)またはCMV.eGFP.T2A.ルシフェラーゼ.SVPA(AAVAnc83、AAVAnc110、AAV2))への、10000VG/細胞での、AAV5以外のhAd5ヘルパーウイルスでの形質導入は、WT Huh7細胞と比較して、GRP108 KO細胞において、10~100倍以上低下した(図9B)。
【0104】
AAVRおよびGPR108の両方が欠失した細胞(すなわち、ヘルパーウイルスの存在下または不存在下における、WT Huh7細胞と比較した、AAVR KO細胞、GPR108 KO細胞、またはダブルKO細胞)において、細胞がヘルパーウイルスに事前に感染していてもいなくても、全ての血清型の形質導入が完全に喪失していた(図9C)。
【0105】
GPR108 KOでの形質導入の喪失はまた、H1 HeLa細胞においても観察され(図10A)、このことは、この細胞侵入因子の必要性が、AAVで形質導入可能な全ての細胞系において保存されていることを示唆している。
【0106】
[実施例8]
AAVの侵入は、GPR108の安定なまたは一過性のトランスフェクションによって回復し得る
GPR108 KOの欠陥がGPR108タンパク質発現の喪失に起因することを確認するために、GRP108のcDNAを、レンチウイルスベクターを使用して、H1 HeLa GPR108 KO細胞に安定的に再導入した。
【0107】
GPR108が欠失したH1 HeLa細胞を生成し、次いで、KO細胞にGPR108レンチウイルスを安定的に形質導入し、その後、ヘルパーウイルスを伴っておよび伴わずに、示された血清型を10000VG/細胞で形質導入した。安定な再導入によって、全ての試験したGPR108依存性ベクターの形質導入を回復させることができたが、KOおよび回復は、GPR108非依存性AAV5の全体的な形質導入レベルに影響を有さなかった(図10A)。GPR108の検出に利用可能な機能的抗体はなく、そのため、c末端の3×アラニン-グリシンリンカーと、その後の、GPR108タンパク質発現を検出するためのflagタグとを含有する構築物を設計した。この構築物およびflagタグ付けされたホモログであるGPR107を、pcDNA3.1(-)にサブクローニングし、WT Huh7細胞またはGPR108 KO Huh7細胞に一過性トランスフェクトし、その後、様々なGPR108依存性血清型および非依存性血清型を形質導入した。flagタグ付けされた構築物の発現を、マウス抗flagクローンM2抗体(Sigma F1804)およびウサギ抗ベータアクチンローディングコントロール(Abcam ab8227)を使用して、全細胞溶解物のウェスタンブロットによって決定した。隣接するNotI制限部位およびBamHI制限部位を有する、Flagタグ付けされたGPR107構築物およびGPR108構築物は、Genewizによって合成され、その後、NotIおよびBamHI(NEB)制限部位を使用して、pcDNA3.1(-)プラスミドに制限酵素サブクローニングした。
【0108】
Huh7 WT細胞またはGPR108 KO細胞に、flagタグ付けされたヒトまたはマウスGPR107またはGPR108をトランスフェクトし、その後、hAd5ヘルパーウイルスの存在下で、示された血清型を形質導入した(10000VG/細胞のCMV.ルシフェラーゼ.SVPA導入遺伝子)。形質導入は野生型レベルまで完全には回復しなかったが、全てのGPR108依存性血清型で、GPR108のトランスフェクションからは明らかな回復の表現型が見られ、しかし、GPR107のトランスフェクションから見られなかった(図10B図10C)。これらのデータは、GPR108タンパク質の発現が、進化的に分岐している血清型であるAAV5以外のほとんどのAAVの侵入経路に必要であることを実証している。
【0109】
[実施例9]
GPR108の利用はマウスにおいて保存されている
ヒトおよびマウスGPR107およびGPR108は非常に類似した配列であるため、本発明者らは、GPR108がマウス細胞においてAAVの侵入に同様に使用されたかどうかを判定したいと考えた。マウス肝臓癌細胞系であるHepa細胞を、ヒトHuh7細胞に類似のマウスインビトロ系として使用した。flagタグ付けされたヒトまたはマウスGPR107またはGPR108をトランスフェクトされたHepa WT細胞またはGPR108 KO細胞における、rh32.33、AAV4、AAV5、[図11A]、ならびにAnc80、AAV9、およびAAV9.PHP-B[図11B]の形質導入(10000VG/細胞のCMV.ルシフェラーゼ.SVPA導入遺伝子)。興味深いことに、AAV5は高レベルまでHepa細胞に形質導入し得るが、一方、rh32.33およびAAV4などの他の血清型はそうではない(図11A)。このことは、GPR108の代わりの、代替因子であるAAV5の使用が、マウスにおいて高度に保存されている可能性が高いが、しかしマウスGPR108は一部の血清型ではヒトGPR108ほどには高度に機能的ではない可能性があることを示唆している。マウスGPR108に対するsgRNAをさらに使用して、Hepa GPR108 KO細胞系を生成した。Hepa細胞を形質導入された、試験したGPR108依存性血清型のうち、全てが、野生型と比較して、hepa GPR108 KO細胞において、形質導入の10~100倍の低下を示した(図11B)。GPR108または相同タンパク質GPR107のFlagタグ付けされたヒトまたはマウスcDNA(Edgar、2007、DNA Seq.、18:235~41)をhepa GPR108 KO細胞に再導入し、AAVの形質導入のわずかな増大が観察された(図11B)。
【0110】
興味深いことに、ヒト細胞において、マウスGPR108は形質導入をヒトGPR108構築物と類似のレベルまで回復させることができる(図10B図10C)。これらのヒトGPR108構築物は、タンパク質発現レベルが低いことに起因して形質導入をうまく回復させることができなかった可能性がある。したがって、これらの構築物の各々の発現を、ヒト細胞およびマウス細胞において、トランスフェクトされた細胞の溶解物からの抗flagウェスタンブロットを使用して評価した。
【0111】
GPR107およびGPR108は共に、7つの膜貫通ドメインを有し、大きな内腔側N末端および短い細胞質側C末端を有することが予測される、あまり特徴付けされていないタンパク質である(図12A図12B)。GPR107は、その機能に必要な、内腔側N末端ドメインにおけるジスルフィド結合およびフーリン切断部位の両方を有することが示されており(Tafesse et al., 2014, J. Biol. Chem., 289:24005-18)、アラニン-グリシンリンカーおよびflagタグもまた示されている(図12A)。GPR108のフーリン切断によって、およそ28kDaおよび34kDaの2つのペプチド断片が生じ、このうちの後者は、Huh7細胞において一過性トランスフェクションの後に抗flagウェスタンブロットによって視覚化されている(図12C)。ベータアクチンローディングコントロールは(図12D)に示されている。これらのデータは、GPR108およびGPR107が、予想された通り発現し、翻訳後修飾を受けていることを実証している。
【0112】
[実施例10]
GPR108はAAVの付着を促進しない
AAVの形質導入に関与する因子についての現在の理解は主に、AAVの付着に関与する因子の周辺にあり、細胞内のAAV侵入受容体の存在およびメカニズムについてはほとんど分かっていない。したがって、本発明者らは、GPR108がAAVの付着または侵入経路のさらに下流において役割を有しているかどうかを試験したいと考えた。指向性または結合特性を変更されている2つの異なるカプシド表面突然変異体を、それらの親AAVカプシドと共に、Huh7 GPR108 KO細胞およびH1 HeLa GPR108 KO細胞において試験した。
【0113】
まず、ルシフェラーゼアッセイは、WT細胞またはGPR108 KO Huh7細胞またはGPR108 KO H1 HeLa細胞に形質導入された、AAV9のペプチド挿入バリアントであるAAV9.PHP-B(Deverman et al., 2016, Nat. Biotechnol., 34:204-9)が、親カプシドであるAAV9と同様にGPR108に依存性であったことを実証した(図13A)。さらに、主要なAAV2付着因子であるヘパリン硫酸塩に結合し得る、点突然変異を有するAAV2バリアント(Vandenberghe et al., 2006, Nat. Med., 12:967-71)を試験した。HSPG-バリアント(グリカン結合欠損型AAV2HSPG-または親カプシドであるAAV2)は、試験した全ての細胞系(WT細胞またはGPR108 KO Huh7細胞またはGPR108 KO H1 HeLa細胞)において形質導入の全体的な低下を有していたが(図13B)、GPR108 KO細胞の形質導入は、それらの野生型対応物と比較して10~100倍低下し、このことは、GPR108の利用がAAVの付着に依存していないことを示唆している。これらのデータはGPR108が付着を促進しないことを示唆しているが、このことを直接試験することが望まれた。
【0114】
したがって、結合アッセイを記載されているように利用して、GPR108依存性血清型および非依存性血清型の付着を評価した。Huh7 WT細胞およびGPR108 KO細胞を試験し、また、AAVRは原形質膜で役割を有することが以前に示唆されていたため(Pillay et al., 2016, Nature, 530:108-12)、AAVR KO細胞およびダブルKO細胞も試験した(図13C)。試験した全てのベクターで、ノックアウト細胞系のいずれにおいても、細胞当たりの結合したウイルスゲノムの数に違いは見られなかったが、異なる血清型での結合したウイルスゲノムの数の違いは検出され、このことは、GPR108が付着を促進していないことを実証している。
【0115】
[実施例11]
GPR108の非依存性は伝わり得、AAVカプシドのホスホリパーゼ含有VP1ドメインに依存性である
侵入のためのGPR108の機能、およびいかにしてこれがカプシドを係合するかをさらに理解するために、キメラカプシドを使用して、GPR108の利用を指示するカプシドドメインを同定した。AAV5およびAAV2はGPR108の利用が異なるため、これら2つ血清型の間で生成されたキメラを使用した。類似の点突然変異を有するおよび有さない相反性キメラのセットを設計して、カプシドのどの領域がGPR108利用を指示するかを決定した(図14A)。これらのキメラを次いで、示されているWTカプシドまたはキメラカプシドで(100μLの粗ベクター調製物と、hAd5ヘルパーウイルス、CMV.eGPF.T2A.ルシフェラーゼ導入遺伝子)、Huh7 WT細胞、AAVR KO細胞、GPR108 KO細胞、またはダブルKO細胞において試験した。AAV2およびAAV5は共にAAVRを必要とするため、形質導入の予想された喪失が、AAVR KO細胞系およびダブルKO細胞系において、全ての試験した血清型で観察された(図14B)。興味深いことに、AAV5のVP1固有の領域を有するキメラの両方が、GPR108 KO Huh7細胞をWT細胞と類似のレベルまで形質導入し得た。残基581がGPR108利用において主要な役割を有することは分からなかったが、残基581は、全体的な形質導入レベルに対してわずかな影響を有していた。これらの実験は、AAVのVP1固有の領域がGPR108の利用を指示すること、およびこの細胞機能性が他のAAV血清型に伝わり得ることを実証している。
【0116】
[実施例12]
GPR108ドメインのさらに精度の高いマッピング
ドメインスワッピング実験を行って、GPR108ドメインをマッピングした。具体的には、AAV5およびAAV2のVP1内の示されているドメインを交換して、示されているキメラAAVを生産した(図15A)。GPR108依存性を付与すると以前に同定されている配列を、保存領域を破壊点として使用して3つの部分に分割してある、3つの異なるカプシドキメラを合成した。AAV5カプシドのGPR108依存性領域をAAV2カプシドにスワッピングし、ベクターを生産した。
【0117】
Huh7細胞に、野生型AAV(すなわち、AAV2もしくはAAV5)、または、本明細書において記載され、以下に示される、GFP.T2A.ルシフェラーゼ導入遺伝子を発現するキメラAAV(すなわち、AAV5-2-2.2(配列番号5)、AAV2-5-2.2(配列番号6)、もしくはAAV2-2-5.2(配列番号7))の等容量の粗ウイルス調製物で形質導入した。形質転換されたHuh7細胞におけるルシフェラーゼの量(RLU/s)を、形質導入の48時間後に決定し、GPR108がノックアウトされているHuh7細胞系(Huh7 GPR108 KO)におけるルシフェラーゼ発現と比較した。結果を図15Bに示す(5回の反復の平均±SEM)。
【0118】
【化1-1】
【0119】
【化1-2】
【0120】
【化1-3】
【0121】
Huh7およびHuh7 GPR108 KOにおける形質導入の分析は、新規なカプシドが野生型細胞を類似のレベルで形質導入し得ることを示したが、GPR108 KO細胞を形質導入し得た唯一のキメラは、AAV5の最初の41アミノ酸を有するものであった。
【0122】
AAV2のカプシド配列の関連する領域とAAV5のカプシド配列の関連する領域との間のアラインメントを作成した。
【0123】
【化2】
【0124】
GPR108依存性に関与する領域を、AAV5ならびにいくつかのGPR108依存性血清型(すなわち、AAV2、AAV4、AAVrh32.33、AAVanc80L65、AAV1、AAV6.2、AAV8、AAV3、およびAAV9)のアミノ酸配列を含む、いくつかの異なるAAVからアラインした(図16)。図16に示すように、このN末端配列はGPR108依存性血清型の間で高度に保存されており、一方、AAV5は、3つの主な領域が異なっている(囲まれている部分)。これらの領域はGPR108に対する依存性に関与している可能性が高く、GPR108非依存性コンセンサス配列(配列番号1)およびGPR108依存性コンセンサス配列(配列番号2)を生じさせるために使用された。したがって、GPR108非依存性のAAVは、以下のVP1コンセンサス配列を含み:
MXVDHPXEVGX101112FLGLEA(配列番号1)
(式中、X1~12の各々は任意のアミノ酸であり得る)、また
GPR108依存性のAAVは、以下のVP1コンセンサス配列を含む:
MXDGYLXD(T/N)LSX101112WW(K/A/D)L(K/Q)P(配列番号2)
(式中、X1~12の各々は任意のアミノ酸であり得る)。
【0125】
[実施例13]
安定性および性能の実験
AAV2、AAV5、およびこれら2つのキメラの安定性および性能を、インビボおよびインビトロで調べた。
【0126】
C57BL/6Jマウス(群当たり5頭の動物)を、CMV-EGPF.T2A.ルシフェラーゼ導入遺伝子を有する1e11gc/マウスのAAV2、AAV5、AAV2.5、AAV5.2、またはPBS(コントロール)で処理した。ルシフェラーゼの発現を、形質転換の後6週間にわたり、マウスにおいて調べた(p/s/cm/sr)。図17Aは、これらの実験の結果を示す(平均±SEM)。
【0127】
野生型MEF細胞(WT MEF)、またはGPR108 KOマウスに由来するMEF細胞(CPR108 KO MEF)に、GFP.T2A.ルシフェラーゼ導入遺伝子を有するAAV2ウイルス、AAV5ウイルス、AAV2.5ウイルス、またはAAV5.2ウイルスで形質導入した。細胞を200pfu/細胞のAd5で2時間処理し、その後、AAVに感染させた(MOI=1e4)。ルシフェラーゼの量(RLU/s)を形質導入の48時間後に調べた。図17Bは、3つの独立した実験の結果を示す(平均±SEM)。
【0128】
Huh7、Huh7 AAVR KO、Huh7 GPR108 KO、またはHuh7ダブルKOに、GFP.T2A.ルシフェラーゼ導入遺伝子を有するAAV2、AAV5、AAV2.5、またはAAV5.2ウイルスで形質導入した。細胞のセットを200pfu/細胞のAd5で2時間処理し、その後、AAVに感染させ(MOI=1e4)、一方、残りは、AAVで直接処理した。ルシフェラーゼの量(RLU/s)を形質導入の48時間後に測定した。図17Cは、3つの独立した実験の結果を示す(平均±SEM)。
【0129】
これらの結果は、GPR108依存性を変更するVP1ポリペプチドを使用して生産されたAAVが、マウスMEFをインビトロでおよびマウス組織をインビボで親野生型ベクターと類似のレベルで形質導入し得る、安定な構造体であることを実証している。
【0130】
[実施例14]
GPR108のインビボでの必要性
C57BL/6JマウスおよびGPR108 KOマウス(群当たり3頭の動物)を、CMV-ルシフェラーゼ導入遺伝子を有する1e11gc/マウスのAAV8ウイルス、AAVrh32.33ウイルス、AAV5ウイルス(またはコントロールとしてのPBS)で形質導入した。ルシフェラーゼの量を、形質導入後8週間の期間にわたり測定した(p/s/cm2/sr、平均±SEM)(図18A)。各群の代表のマウスを、示されているベクターでの形質導入の14日後に画像化した(図18B)。図18Aおよび図18Bで示す結果は、GPR108がAAVによるインビボでの形質導入に必要な侵入因子であることを実証している。
【0131】
他の実施形態
方法および組成物を多くの異なる態様と組み合わせて本明細書において記載してきたが、様々な態様についての先の記載は説明することを意図したものであり、方法および組成物の範囲を限定することを意図したものではないことを理解されたい。他の態様、利点、および改変は、以下の特許請求の範囲の範囲内である。
【0132】
本開示は、開示される方法および組成物に使用することができる、開示される方法および組成物と組み合わせて使用することができる、開示される方法および組成物の調製において使用することができる、ならびに開示される方法および組成物の産物である、方法および組成物を特徴付ける。これらのおよび他の材料は本明細書において開示されており、これらの方法および組成物の組み合わせ、サブセット、相互作用、群などが開示されていることが理解される。すなわち、これらの組成物および方法のそれぞれの様々な個々のおよび集合的な組み合わせおよび順列についての具体的な言及は明確に開示されていないかもしれないが、それぞれが具体的に検討され、本明細書において記載される。例えば、特定の組成物または特定の方法が開示され、論じられていれば、別段のことが具体的に示されていない限り、いくつかの組成物または方法が論じられており、組成物および方法の各組み合わせおよび順列が具体的に検討されている。同様に、これらの任意のサブセットまたは組み合わせもまた具体的に検討され、開示される。

以下に、本願の当初の特許請求の範囲に記載の発明を列挙する。
[発明1]
細胞内へのアデノ随伴ウイルス(AAV)の形質導入効率を調節する方法であって、遺伝子改変されたアデノ随伴ウイルス(AAV)を前記細胞に導入するステップを含み、前記AAVのカプシドが、異種VP1ポリペプチド配列を含むように遺伝子改変されており、前記異種VP1ポリペプチド配列が、前記細胞の形質導入のためにGPR108受容体の存在を必要とするまたは形質導入のためにGPR108受容体の存在を必要としない、前記方法。
[発明2]
前記異種VP1ポリペプチドまたはその部分が、配列番号1で示される配列を含む、発明1に記載の方法。
[発明3]
前記異種VP1ポリペプチドまたはその部分が、配列番号2で示される配列を含む、発明1に記載の方法。
[発明4]
前記異種VP1ポリペプチドが、AAV5 VP1タンパク質またはその一部分のアミノ酸配列を含む、発明1に記載の方法。
[発明5]
前記異種VP1ポリペプチドが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV6.2、AAV7、AAV8、AAV9、Anc80、Anc81、Anc82、Anc83、Anc84、Anc110、Anc113、rh8c、rh10、PHP-B、8BPV2、または7M8のVP1タンパク質またはその一部分のアミノ酸配列を含む、発明1に記載の方法。
[発明6]
前記異種VP1ポリペプチド配列が、形質導入のためにGPR108受容体の存在を必要とする、発明1に記載の方法。
[発明7]
前記異種VP1ポリペプチド配列が、前記細胞の形質導入のためにGPR108受容体の存在を必要としない、発明1に記載の方法。
[発明8]
アデノ随伴ウイルス(AAV)の細胞侵入を改変する方法であって、
AAVをGPR108非依存性となるように遺伝子操作するステップであって、前記遺伝子操作されたGPR108非依存性AAVは、配列MX VDHPX EVGX 10 11 12 FLGLEA(配列番号1)を有するVP1ポリペプチド配列を含み、配列中、X 1~12 の各々は任意のアミノ酸である、ステップ、または
AAVをGPR108依存性となるように遺伝子操作するステップであって、前記遺伝子操作されたGPR108依存性AAVは、配列MX DGYLX D(T/N)LSX 10 11 12 WW(K/A/D)L(K/Q)P(配列番号2)を有するVP1ポリペプチド配列を含み、配列中、X 1~12 の各々は任意のアミノ酸である、ステップ
を含み、それによって前記AAVの細胞侵入を改変する、前記方法。
[発明9]
前記遺伝子操作されたGPR108非依存性AAVが、配列MX VDHPX EVGX 10 11 12 FLGLEA(配列番号1)を有するVP1ポリペプチド配列を含み、配列中、X がSもしくはAもしくはTであり、X がFもしくはAもしくはTであり、X がPであり、X がDであり、X がWであり、X がLであり、X がEであり、X がEであり、X がGであり、X 10 がLもしくはIもしくはVであり、X 11 がRであり、かつ/またはX 12 がEもしくはQである、発明8に記載の方法。
[発明10]
前記遺伝子操作されたGPR108依存性AAVが、配列MX DGYLX D(T/N)LSX 10 11 12 WW(K/A/D)L(K/Q)P(配列番号2)を有するVP1ポリペプチド配列を含み、配列中、X がSもしくはAもしくはTであり、X がFもしくはAもしくはTであり、X がPであり、X がDであり、X がWであり、X がLであり、X がEであり、X がEであり、X がGであり、X 10 がLもしくはIもしくはVであり、X 11 がRであり、かつ/またはX 12 がEもしくはQである、発明8に記載の方法。
[発明11]
前記遺伝子操作されたGPR108非依存性AAVが、AAV5 VP1タンパク質に由来するVP1ポリペプチド配列を含む、発明8に記載の方法。
[発明12]
前記遺伝子操作されたGPR108依存性AAVが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV6.2、AAV7、AAV8、AAV9、Anc80、Anc81、Anc82、Anc83、Anc84、Anc110、Anc113、rh8c、rh10、PHP-B、8BPV2、または7M8のVP1タンパク質に由来するVP1ポリペプチド配列を含む、発明8に記載の方法。
[発明13]
細胞内へのアデノ随伴ウイルス(AAV)の形質導入効率を増大させる方法であって、前記細胞を前記細胞におけるGPR108の発現または活性を増大させる化合物と接触させるステップを含み、それによって前記細胞内への前記AAVの形質導入効率を増大させる、前記方法。
[発明14]
前記細胞におけるGPR108の発現を増大させる前記化合物が、GPR108導入遺伝子を含む発現構築物である、発明13に記載の方法。
[発明15]
前記AAVが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV6.2、AAV7、AAV8、AAV9、Anc80、Anc81、Anc82、Anc83、Anc84、Anc110、Anc113、rh8c、rh10、PHP-B、8BPV2、および7M8からなる群から選択される、発明13に記載の方法。
[発明16]
前記AAVが、遺伝子操作されたAAVである、発明13に記載の方法。
[発明17]
細胞内へのアデノ随伴ウイルス(AAV)の形質導入効率を低下させる方法であって、前記細胞を前記細胞におけるGPR108の発現または活性を低下させる化合物と接触させるステップを含み、それによって前記細胞内への前記AAVの形質導入効率を低下させる、前記方法。
[発明18]
前記細胞におけるGPR108の発現を低下させる前記化合物が、干渉RNA分子である、発明17に記載の方法。
[発明19]
前記干渉RNA分子が、siRNAおよびRNAiからなる群から選択される、発明18に記載の方法。
[発明20]
前記細胞がインビボである、発明1~19のいずれか一つに記載の方法。
[発明21]
前記細胞が、肝細胞、腎臓細胞、心臓細胞、肺細胞、上皮細胞、内皮細胞、骨髄細胞(造血幹細胞を含む)である、発明1~19のいずれか一つに記載の方法。
[発明22]
細胞内への治療作用物質の取り込みを増大させる方法であって、前記細胞をAAV VP1ポリペプチドに連結した前記治療作用物質と接触させるステップを含み、前記VP1ポリペプチドが、配列MX VDHPX EVGX 10 11 12 FLGLEA(配列番号1)を含み、配列中、X 1~12 の各々が任意のアミノ酸である、前記方法。
[発明23]
前記治療作用物質が、タンパク質またはタンパク質複合体である、発明22に記載の方法。
[発明24]
前記治療作用物質が、GPR108に結合する結合因子にさらに連結している、発明22に記載の方法。
[発明25]
GPR108に結合する前記結合因子が、抗体、アプタマー、および抗体ドメインからなる群から選択される、発明24に記載の方法。
[発明26]
配列番号1または配列番号2を含むVP1ポリペプチドに連結している治療作用物質を含む組成物。
[発明27]
前記治療作用物質が、タンパク質またはタンパク質複合体である、発明26に記載の組成物。
[発明28]
配列番号1を含む異種VP1配列を含むAAVカプシド配列。
[発明29]
前記異種VP1配列が配列番号18を含む、発明28に記載のAAVカプシド配列。
[発明30]
配列番号2を含む異種VP1配列を含むAAVカプシド配列。
[発明31]
前記異種VP1配列が配列番号19を含む、発明30に記載のAAVカプシド配列。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15-1】
図15-2】
図16
図17-1】
図17-2】
図18
【配列表】
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