(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】心房細動の判定および脳卒中の予測のための循環FGFBP-1(線維芽細胞成長因子結合タンパク質1)
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20240311BHJP
【FI】
G01N33/53 D
(21)【出願番号】P 2021510132
(86)(22)【出願日】2019-08-23
(86)【国際出願番号】 EP2019072624
(87)【国際公開番号】W WO2020039085
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-04-13
(32)【優先日】2018-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(73)【特許権者】
【識別番号】503285519
【氏名又は名称】ユニベルシテイト マーストリヒト
(73)【特許権者】
【識別番号】517079054
【氏名又は名称】アカデミシュ ジーケンハウス マーストリヒト
【氏名又は名称原語表記】ACADEMISCH ZIEKENHUIS MAASTRICHT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100187540
【氏名又は名称】國枝 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】ディートリッヒ,マヌエル
(72)【発明者】
【氏名】カストナー,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ツィーグラー,アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】ビーンヒューズ-テレン,ウルスラ-ヘンリケ
(72)【発明者】
【氏名】ロルニー,ビンツェント
(72)【発明者】
【氏名】ショッテン,ウルリヒ
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-502659(JP,A)
【文献】特開2004-049122(JP,A)
【文献】国際公開第2014/072500(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0202964(US,A1)
【文献】Natasja M.S. de Groot,Electropathological Substrate of Longstanding Persistent Atrial Fibrillation in Patients With Structural Heart Disease,Circulation,2010年10月26日,122(17),pp.1674-82,doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.109.910901
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53
G01N 33/68
C07K 16/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心房細動の判定を支援する方法であって、
a)被験者から提供された少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーFGFBP-1(線維芽細胞成長因子結合タンパク質1)の量を決定するステップ、または、バイオマーカーFGFBP-1(線維芽細胞成長因子結合タンパク質1)の量ならびにナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量を決定するステップ、ならびに
b)バイオマーカーFGFBP-1の決定された量に関する情報、または、バイオマーカーFGFBP-1の決定された量に関する情報および少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの決定された量に関する情報を医師に提供するステップ、
を含み、それにより、心房細動の判定を支援し、
バイオマーカーがポリペプチドであり、
前記サンプルが、血液、血清、又は血漿のサンプルである、方法。
【請求項2】
心房細動を判定するためのコンピュータ実装方法であって、
a)処理ユニットで、FGFBP-1の量の値を受け取ること、または、FGFBP-1の量の値ならびにナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量の少なくとも1つのさらなる値を受け取ることであって、ここで、前記FGFBP-1の量、または、前記FGFBP-1の量および少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量が、被験者からのサンプルにおいて決定されている、受け取ること、
b)前記処理ユニットによって、ステップ(a)で受け取った値または受け取った複数の値を基準または複数の基準と比較すること、ならびに
c)前記処理ユニットによって、前記比較ステップb)に基づいて心房細動を判定すること、
を含み、
バイオマーカーがポリペプチドであり、
前記サンプルが、血液、血清、又は血漿のサンプルである、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者における心房細動を判定するための方法に関し、当該方法は、被験者からのサンプル中のFGFBP-1の量を決定し、FGFBP-1の量を基準量と比較し、それにより心房細動を判定するステップを含む。さらに、本発明は、FGFBP-1の量に基づいて脳卒中を予測するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心房細動(AF)は、最も一般的なタイプの心不整脈であり、高齢者の間で最も蔓延している状態の1つである。心房細動は、不規則な心臓の鼓動を特徴とし、短時間の異常な鼓動から始まることが多く、時間の経過とともに増加し、永続的な状態となる場合がある。米国では推定270~610万人が心房細動を発症し、全世界で約3300万人が心房細動を発症している(Chugh S.S.et al.,Circulation 2014;129:837-47)。
【0003】
心房細動等の心不整脈の診断には、通常、不整脈の原因の特定、および不整脈の分類が含まれる。米国心臓病学会(ACC)、米国心臓協会(AHA)、および欧州心臓病学会(ESC)による心房細動の分類のガイドラインは、主に単純性および臨床上の関連性に基づいている。第1のカテゴリーは「最初に検出されたAF」と呼ばれる。このカテゴリーの人々は、最初にAFと診断され、以前に検出されなかったエピソードがあったかどうかは不明である。最初に検出されたエピソードが1週間以内に自然に停止したが、その後に別のエピソードが続く場合、カテゴリーは「発作性AF」に変わる。このカテゴリーの患者は最大7日間続くエピソードを持つが、発作性AFのほとんどの場合、エピソードは24時間以内に止まる。エピソードが1週間以上続く場合は、「持続性AF」に分類される。そのようなエピソードが電気的または薬理学的な心臓除細動によって停止できず、1年以上続く場合、分類は「永続性AF」に変更される。心房細動は脳卒中および全身性塞栓症の重要なリスクファクターであることから、心房細動の早期診断が非常に望ましい(Hart et al.,Ann Intern Med 2007,146(12):857-67;Go AS et al JAMA 2001;285(18):2370-5)。脳卒中は、高所得国における失われた障害調整生存年数(disability-adjusted-life years)の原因として、また世界中の死因として、虚血性心疾患に次いで、2番目となっている。脳卒中のリスクを低減するためには、抗凝固療法が最も適切な治療法と考えられる。
【0004】
心房細動の判定および脳卒中の予測を可能にするバイオマーカーが強く望まれている。
【0005】
Latini R.et al.(J Intern Med.2011 Feb;269(2):160-71)は、心房細動を有する患者の様々な循環バイオマーカー(hsTnT、NT-proBNP、MR-proANP、MR-proADM、コペプチン、およびCT-プロエンドセリン-1)を測定した。
【0006】
線維芽細胞成長因子結合タンパク質1(FGFBP-1)は、線維芽細胞成長因子結合タンパク質ファミリーに属している。FGFBP-1は、細胞外マトリックスの貯蔵から線維芽細胞結合因子(FGF)を放出する担体タンパク質として機能し、したがってFGFの細胞分裂活性を増強する。FGFBP-1は、組織の修復、血管新生、および腫瘍の増殖に関与する。
【0007】
血管新生および腫瘍増殖におけるFGFBP-1の役割は、Tassi et al.(Hypertension.2018;71:160-167)によって記載されている。Tomazewski et al.は、FGFBP1 mRNAレベルと高血圧の間の弱い相関関係について説明している(Journal of the American Society of Nephrology,2011,22(5),pp 947-55).しかしながら、FGFBP-1は心房細動とは関連付けられていない。
【0008】
心房細動の診断、心房細動患者のリスク層別化(脳卒中の発生等)、および心房細動の重症度の判定を含む、心房細動の判定のための信頼できる方法が必要である。さらに、脳卒中を予測するため方法を改善することが強く望まれている。
【0009】
本発明の根底にある技術的な課題は、上述のニーズに対応する方法の提供としてとらえることができる。この技術的な課題は、以下の特許請求の範囲および本明細書において特徴付けられる実施形態によって、解決される。
【0010】
有利には、被験者からのサンプル中のFGFBP-1の量を決定することで、心房細動の改善された判定が可能であるという本発明の研究との関連において発見された。本発明によれば、例えば、被験者が心房細動に罹患しているのか、または脳卒中に罹患するリスクがあるのかを診断することができる。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、被験者において心房細動を判定する方法であって、
a)被験者からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーFGFBP-1(線維芽細胞成長因子結合タンパク質1)の量と、任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量とを決定するステップ、ならびに
b)バイオマーカーFGFBP-1の量をFGFBP-1の基準量と比較し、そして任意に、少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量を、当該少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの基準量と比較するステップ、
を含み、それにより、心房細動を判定する、方法に関する。
【0012】
本発明は、さらに、心房細動の判定を支援する方法であって、
a)被験者から少なくとも1つのサンプルを提供するステップ、
b)ステップa)で提供される少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーFGFBP-1(線維芽細胞成長因子結合タンパク質1)の量と、任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量とを決定するステップ、ならびに
c)バイオマーカーFGFBP-1の決定された量、および任意に、少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの決定された量に関する情報を医師に提供するステップ、
を含み、それにより、心房細動の判定を支援する、方法に関する。
【0013】
さらに、本発明は、心房細動の判定を支援するための方法であって、
a)バイオマーカーFGFBP-1に対するアッセイと、任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1種のさらなるバイオマーカーに対するさらなるアッセイとを提供すること、ならびに
b)心房細動の判定における当該アッセイ(複数の場合がある)によって得られた、または得ることができるアッセイ結果の使用に関する指示を提供すること、
を含む、方法を意図する。
【0014】
また、本発明によれば、心房細動を判定するためのコンピュータ実装方法であって、
a)処理ユニットで、FGFBP-1の量の値と、任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量の少なくとも1つのさらなる値とを受け取ることであって、ここで、当該FGFBP-1の量、および任意に、少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量が、被験者からのサンプルにおいて決定されている、受け取ること、
b)当該処理ユニットによって、ステップ(a)で受け取った値(複数の場合がある)を基準(複数の場合がある)と比較すること、ならびに
c)当該比較ステップb)に基づいて心房細動を判定すること、
を含む、方法も包含される。
【0015】
本発明はさらに、被験者の脳卒中のリスクを予測する方法であって、
(a)被験者からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーFGFBP-1(線維芽細胞成長因子結合タンパク質1)の量と、任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量とを決定するステップ、
(b)当該被験者の臨床的脳卒中リスクスコアを判定するステップ、ならびに
(c)ステップa)およびb)の結果に基づいて、脳卒中のリスクを予測するステップ、
を含む、方法に関する。
【0016】
本発明はさらに、被験者の臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善する方法であって、
a)被験者からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーFGFBP-1(線維芽細胞成長因子結合タンパク質1)の量と、任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量とを決定するステップであって、被験者が既知の臨床的脳卒中リスクスコアを有する、決定するステップ、ならびに
b)FGFBP-1の量および/またはナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANGT2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量の値を、臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせるステップ、
を含み、それにより、当該臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度が改善される、方法に関する。
【0017】
本発明は、さらに、FGFBP-1に特異的に結合する薬剤と、ナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する薬剤、ESM-1に特異的に結合する薬剤、Ang2に特異的に結合する薬剤、およびIGFBP7に特異的に結合する薬剤からなる群から選択される少なくとも1種のさらなる薬剤と、を備える、キットに関する。
【0018】
さらに、本発明は、in vitroでの使用であって、a)心房細動の判定、b)被験者の脳卒中のリスクの予測、およびc)臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度の改善のための、
i)バイオマーカーFGFBP-1と、任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1種のさらなるバイオマーカー、および/または
ii)FGFBP-1に特異的に結合する少なくとも1種の薬剤と、任意に、ナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する薬剤、ESM-1に特異的に結合する薬剤、Ang2に特異的に結合する薬剤、およびIGFBP7に特異的に結合する薬剤からなる群から選択される少なくとも1種のさらなる薬剤、
のin vitroでの使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、被験者において心房細動を判定する方法であって、
a)被験者からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーFGFBP-1(線維芽細胞成長因子結合タンパク質1)の量を決定するステップ、および
b)バイオマーカーFGFBP-1の量をFGFBP-1の基準量と比較するステップ、
を含み、それにより、心房細動を判定する、方法に関する。
【0020】
本発明の方法の一実施形態では、該方法は、ステップa)の被験者からのサンプル中のナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量の決定、ならびにステップb)の基準量に対する少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量の比較をさらに含む。
【0021】
したがって、本発明は、被験者において心房細動を判定する方法であって
a)被験者からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーFGFBP-1(線維芽細胞成長因子結合タンパク質1)の量と、任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量とを決定するステップ、ならびに
b)バイオマーカーFGFBP-1の量をFGFBP-1の基準量と比較し、そして任意に、少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量を、当該少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの基準量と比較するステップ、
を含み、それにより、心房細動を判定する、方法に関する。
【0022】
心房細動(AF)の判定は、比較ステップb)の結果に基づくものとする。
【0023】
したがって、本発明の方法は、好ましくは、
a)被験者からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーFGFBP-1(線維芽細胞成長因子結合タンパク質1)の量と、任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量とを決定するステップ、
b)バイオマーカーFGFBP-1の量をFGFBP-1の基準量と比較し、そして任意に、少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量を、当該少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの基準量と比較するステップ、ならびに
c)比較ステップb)の結果に基づいて心房細動を判定するステップ、
を含む。
【0024】
本発明によって言及される方法は、本質的に上述のステップからなる方法、またはさらなるステップを含む方法、を含む。さらに、本発明の方法は、好ましくは、ex vivo、より好ましくはin vitroの方法である。さらに、それは、上記で明示的に述べられたものに加えて、ステップを含んでもよい。例えば、さらなるステップは、さらにマーカーを決定すること、および/または治療前のサンプルを採取すること、若しくは上記方法で得られた結果を評価することに関する場合がある。この方法は、手動で実行されてもよく、自動化によって支援されてもよい。好ましくは、ステップ(a)、(b)および/または(c)は、全体的または部分的に、自動化によって、例えば、ステップ(a)における決定またはステップ(b)におけるコンピュータを実装した計算のため、適切なロボットおよび感覚的機器によって、支援されてもよい。
【0025】
本発明によれば、心房細動が判定されるものとする。本明細書で使用される「心房細動を判定する(こと)」という用語は、好ましくは、心房細動の診断、発作性心房細動と持続性心房細動の区別、心房細動に関連する有害事象(脳卒中等)のリスクの予測、心電図検査(ECG)または心房細動の治療法の判定を受ける被験者の識別を指す。
【0026】
当業者によって理解されるように、本発明の判定は、通常、試験される被験者の100%について正しいことを意図していない。この用語は、好ましくは、被験者の統計的に有意な部分に対して、正しい判定(例えば、本明細書でいう治療法の診断、区別、予測、識別、または判定)を行うことができること、を必要とする。部分が統計的に有意であるかどうかは、例えば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン-ホイットニー検定などのさまざまな周知の統計評価ツールを使用して、当業者がさらに苦労することなく決定することができる。詳細は、Dowdy and Wearden,Statistics for Research,John Wiley&Sons,New York 1983に記載されている。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.4、0.1、0.05、0.01、0.005、または0.0001である。
【0027】
本発明によれば、「心房細動の判定」という表現は、心房細動の判定の補助として、したがって心房細動の診断の補助、発作性心房細動と持続性心房細動との区別の補助、心房細動に関連する有害事象のリスクの予測の補助、心電図検査(ECG)を受ける被験者の識別の補助として、または心房細動の治療法の判定の補助として理解される。最終的な診断は、原則として医師が行う。
【0028】
本発明の好ましい実施形態では、心房細動の判定は、心房細動の診断である。したがって、被験者が心房細動に罹患しているかどうかが診断される。
【0029】
したがって、本発明は、被験者における心房細動を診断するための方法であって、
a)患者に由来するサンプル中のFGFBP-1の量を決定するステップ、および
b)FGFBP-1の量を基準量と比較するステップ、
を含み、それにより、心房細動を診断する、方法を想定している。
【0030】
一実施形態では、前述の方法は、以下:
(a)被験者からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーFGFBP-1(線維芽細胞成長因子結合タンパク質1)の量と、任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量とを決定するステップ、ならびに
(b)バイオマーカーFGFBP-1の量をFGFBP-1の基準量と比較し、そして任意に、少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量を、当該少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの基準量と比較するステップ、
を含み、それにより、心房細動を判定する。
【0031】
好ましくは、心房細動を診断するための方法に関連して試験される被験者は、心房細動に罹患することが疑われる被験者である。しかしながら、被験者はすでにAFに罹患していると以前に診断されており、以前の診断を本発明の方法を実施することによって確認することも企図される。
【0032】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の判定は、発作性心房細動と持続性心房細動との区別である。したがって、被験者が発作性または持続性の心房細動に罹患しているかどうかが決定される。
【0033】
したがって、本発明は、被験者における発作性心房細動と持続性心房細動とを区別するための方法であって、
a)患者に由来するサンプル中のFGFBP-1の量を決定するステップ、および
b)FGFBP-1の量を基準量と比較するステップ、
を含み、それにより、発作性心房細動と持続性心房細動とを区別する、方法を想定している。
【0034】
一実施形態では、前述の方法は、以下:
a)被験者からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーFGFBP-1(線維芽細胞成長因子結合タンパク質1)の量と、任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量とを決定するステップ、ならびに
b)バイオマーカーFGFBP-1の量をFGFBP-1の基準量と比較し、そして任意に、少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量を、当該少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの基準量と比較するステップ、
を含み、それにより、発作性心房細動と持続性心房細動とを区別する。
【0035】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の判定は、心房細動(脳卒中等)に関連する有害事象のリスクの予測である。したがって、被験者は、当該有害事象に罹患するリスクがあるか否かが予測される。
【0036】
したがって、本発明は、被験者における心房細動に関連する有害事象のリスクを予測するための方法であって、
a)患者に由来するサンプル中のFGFBP-1の量を決定するステップ、および
b)FGFBP-1の量を基準量と比較するステップ、
を含み、それにより、心房細動に関連する有害事象のリスクを予測する、方法を想定している。
【0037】
一実施形態では、前述の方法は、以下:
a)被験者からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーFGFBP-1(線維芽細胞成長因子結合タンパク質1)の量と、任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量とを決定するステップ、ならびに
b)バイオマーカーFGFBP-1の量をFGFBP-1の基準量と比較し、そして任意に、少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量を、当該少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの基準量と比較するステップ、
を含み、それにより、心房細動と関連する有害事象のリスクを予測する。
【0038】
様々な有害事象を予測することができると考えられる。予測される好ましい有害事象は脳卒中である。
【0039】
したがって、本発明は、特に、被験者の脳卒中のリスクを予測する方法であって、
a)患者に由来するサンプル中のFGFBP-1の量を決定するステップ、および
b)基準量とFGFBP-1の量を比較するステップ、
を含み、それにより、脳卒中のリスクを予測する、方法を企図する。
【0040】
前述の方法は、ステップb)の比較結果に基づいて脳卒中を予測するステップc)をさらに含み得る。したがって、ステップa)、b)、c)は、好ましくは以下の通りである:
a)患者に由来するサンプル中のFGFBP-1の量を決定すること、および
b)FGFBP-1の量を基準量と比較すること、および
c)ステップb)の比較結果に基づいて脳卒中を予測すること。
【0041】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の判定は、心房細動の治療法の判定である。
【0042】
したがって、本発明は、被験者における心房細動の治療法を判定するための方法であって、
a)患者に由来するサンプル中のFGFBP-1の量を決定するステップ、および
b)FGFBP-1の量を基準量と比較するステップ、
を含み、それにより、心房細動の治療法を判定する、方法を想定している。
【0043】
一実施形態では、前述の方法は、以下:
a)被験者からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーFGFBP-1(線維芽細胞成長因子結合タンパク質1)の量と、任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量とを決定するステップ、ならびに
b)バイオマーカーFGFBP-1の量をFGFBP-1の基準量と比較し、そして任意に、少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量を、当該少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの基準量と比較するステップ、
を含み、それにより、心房細動に対する治療法を判定する。
【0044】
好ましくは、前述の区別、前述の予測、および心房細動の治療法の判定に関連する被験者は、心房細動に罹患している、特に心房細動に罹患していることがわかっている(したがって、既知の心房細動の病歴がある)被験者である。しかしながら、前述の予測方法に関して、被験者が心房細動の既知の病歴を有していないことも想定される。
【0045】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の判定は、心電図検査(ECG)を受けるべき被験者の識別である。したがって、心電図検査を受けるべき被験者を識別する。
【0046】
この方法は、
a)被験者からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーFGFBP-1(線維芽細胞成長因子結合タンパク質1)の量と、任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量とを決定するステップ、ならびに
b)バイオマーカーFGFBP-1の量をFGFBP-1の基準量と比較し、そして任意に、少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量を、当該少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの基準量と比較するステップ、
を含み得、それにより、心電図検査を受けるべき被験者を識別する。
【0047】
好ましくは、心電図検査を受けるべき被験者を識別する前述の方法に関連する被験者は、心房細動の既知の病歴がない被験者である。「心房細動の既知の病歴がない」という表現は、本明細書の他の場所で定義されている。
【0048】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の判定は、被験者の抗凝固療法の有効性の判定である。したがって、当該治療法の有効性が判定される。
【0049】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の判定は、被験者における脳卒中のリスクの予測である。したがって、本明細書でいう被験者が脳卒中のリスクがあるかどうかが予測される。
【0050】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の判定は、少なくとも1種の抗凝固薬の投与に適格であるか、または少なくとも1種の抗凝固薬の投与量を増やすのに適格である被験者の識別である。したがって、被験者が当該投与および/または当該投与量の増加に適格であるかどうかが判定される。
【0051】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の判定は、抗凝固療法の監視である。したがって、被験者が当該治療法に反応するかどうかが判定される。
【0052】
「心房細動」(「略して」AFまたはAFib)という用語は、当該技術分野において周知である。本明細書で使用される場合、この用語は、好ましくは、心房の機械的機能の結果としての悪化を伴う、非協調的な心房活動を特徴とする上室性頻拍性不整脈を指す。特に、この用語は、急速で不規則な鼓動を特徴とする異常な心臓のリズムを指す。心房細動は、心臓の2つの上部房と関連する。正常な心臓のリズムでは、洞房結節によって生成されたインパルスが心臓全体に広がり、心筋の収縮と血液のポンピングを引き起こす。心房細動では、洞房結節の規則的な電気インパルスが、不規則な心臓の鼓動を引き起こす、無秩序で急速な電気インパルスに置き換えられる。心房細動の症状は、心臓の動悸、失神、息切れ、または胸痛である。ただし、ほとんどのエピソードには症状がない。心電図では、心房細動は、振幅、形状、およびタイミングが変化する急速な振動または細動波による均一なP波の置換を特徴とし、心房室伝導が正常な場合に、不規則に頻繁に心室応答が速くなることに関連する。
【0053】
米国心臓病学会(ACC)、米国心臓協会(AHA)、および欧州心臓病学会(ESC)は、次の分類システムを提案する(これとともに、その全体が参考として組み込まれるFuster V.et al.,Circulation 2006 114(7):e257-354を参照のこと、例えば、文書の
図3を参照のこと):最初に検出されたAF、発作性AF、持続性AF、および永続性AF。
【0054】
AFがある全ての人々は、病初では、最初に検出されたAFと呼ばれるカテゴリーに属する。ただし、被験者は、以前に検出されなかったエピソードを持っている場合と持っていない場合があってもよい。心房細動が1年以上持続した場合、被験者は永続的な心房細動を患っており、特に洞調律への変換は起こらない(または医学的介入がある場合のみ起こる)。AFが7日を超えて続く場合、被験者は持続性AFを患っている。被験者は、心房細動を止めるには、薬理学的または電気的な介入が必要な場合がある。好ましくは、持続性AFはエピソードで発生するが、不整脈は、自発的に(つまり、医学的介入なしで)洞調律へ戻る変換はない。発作性心房細動は、好ましくは、最大7日間続く心房細動の断続的なエピソードを指す。発作性AFのほとんどの場合、エピソードが続くのは、24時間未満である。心房細動のエピソードは自発的に、つまり医学的介入なしに終了する。したがって、発作性心房細動のエピソードは、好ましくは自発的に終了するが、持続性心房細動は、好ましくは自発的に終了しない。好ましくは、持続性心房細動は、終結のための電気的または薬理学的な心臓除細動、またはアブレーション手技等の他の手技を必要とする(Fuster V.et al.,Circulation 2006;114(7):e257-354)。持続性AFと発作性AFの両方が再発する可能性があり、それによって発作性AFと持続性AFの区別がECG記録によって提供される。患者が2回以上のエピソードを経験した場合、AFを再発と見なす。不整脈が自発的に終了する場合、AF、特に再発性AFは発作性と指定される。AFは、7日以上続く場合は持続性と指定される。
【0055】
本発明の好ましい実施形態では、「発作性心房細動」という用語は、自発的に終了するAFのエピソードとして定義され、当該エピソードが継続するのは24時間未満である。代替の実施形態では、自発的に終了するエピソードは最大7日間続く。
【0056】
本明細書でいう「被験者」は、好ましくは哺乳動物である。哺乳動物としては、家畜動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、およびウマ)、霊長類(例えば、ヒト、およびサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、およびげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、被験者は、ヒト被験者である。
【0057】
好ましくは、試験される被験者は、任意の年齢であり、より好ましくは、試験される被験者は、50歳以上、より好ましくは60歳以上、そして最も好ましくは65歳以上である。さらに、試験される被験者は、70歳以上であることが想定される。
【0058】
加えて、試験される被験者は、75歳以上であることが想定される。また、被験者は、50歳から90歳の間であってよい。
【0059】
心房細動を判定する本発明の方法の好ましい一実施形態では、試験される被験者は、心房細動を患っている。したがって、被験者は心房細動の既知の病歴を有するものとする。したがって、被験者は、試験サンプルを取得する前に心房細動のエピソードを経験しているものとし、心房細動の以前のエピソードの少なくとも1つが、例えばECGによって診断されているものとする。例えば、心房細動の判定が発作性心房細動と持続性心房細動との区別である場合、または心房細動の判定が心房細動に関連する有害事象のリスクの予測である場合、または心房細動の判定が心房細動の治療法の判定である場合、被験者は心房細動に罹患していることが想定される。
【0060】
心房細動を判定する方法の別の好ましい実施形態では、例えば、心房細動の判定が心房細動の診断または心電図検査(ECG)を受けるべき被験者の識別である場合、試験される被験者は、心房細動に罹患していることが疑われる。
【0061】
好ましくは、心房細動に罹患していることが疑われる被験者は、心房細動を判定するための方法を実施する前に、心房細動の少なくとも1つの症状を示したことがある被験者である。当該症状は通常一過性であり、数秒で発生し、同じくらい早く消えることがある。心房細動の症状には、めまい、失神、息切れ、特に心臓の動悸が含まれる。好ましくは、被験者は、サンプルを入手する前の6ヶ月以内に心房細動の少なくとも1つの症状を示したことがある。
【0062】
代替的または追加的に、心房細動に罹患していることが疑われる被験者は、70歳以上の被験者とする。
【0063】
好ましくは、心房細動に罹患していることが疑われる被験者は、心房細動の既知の病歴がないものとする。
【0064】
本発明によれば、心房細動の既知の病歴がない被験者は、好ましくは、以前に、すなわち本発明の方法を実施する前に(特に、被験者からサンプルを得る前に)心房細動に罹患していると診断されていない被験者である。ただし、被験者は、以前に診断されなかった心房細動のエピソードを持っている場合と持っていない場合があってもよい。
【0065】
好ましくは、「心房細動」という用語は、全てのタイプの心房細動を指す。したがって、この用語は、発作性、持続性、または永続性の心房細動を包含することが好ましい。
【0066】
しかしながら、本発明の一実施形態では、試験される被験者は、永続性の心房細動に罹患していない。この実施形態では、「心房細動」という用語は、発作性および持続性の心房細動のみを指す。
【0067】
しかしながら、本発明の別の実施形態では、試験される被験者は、発作性および永続性の心房細動に罹患していない。この実施形態では、「心房細動」という用語は、持続性心房細動のみを指す。
【0068】
試験被験者は、サンプルが採取されたときに心房細動のエピソードを経験する場合と経験しない場合があってもよい。したがって、心房細動の判定の好ましい実施形態(心房細動の診断等)では、被験者は、サンプルが得られたときに心房細動のエピソードを経験していない。この実施形態では、被験者は、サンプルが得られたときに、正常洞調律を有するものとする(したがって、洞調律にあるものとする)。したがって、心房細動が(一時的に)なくても心房細動の診断が可能である。本発明の方法によれば、本明細書で言及されるバイオマーカーの上昇は、心房細動のエピソード後に保存されるべきであり、したがって、心房細動に罹患した被験者の診断を提供する。好ましくは、本発明の方法を実施した後(またはより正確には、サンプルが得られた後)、約3日以内、約1ヶ月以内、約3ヶ月以内、または約6ヶ月以内のAFの診断。好ましい実施形態では、エピソード後約6ヶ月以内の心房細動の診断が実行可能である。好ましい実施形態では、エピソード後約6ヶ月以内の心房細動の診断が実行可能である。したがって、本明細書でいう心房細動の判定、特に心房細動の判定に関連して本明細書でいう診断、リスクの予測または区別は、好ましくは心房細動の最後のエピソードから約3日後、より好ましくは約1ヶ月後、さらにより好ましくは約3ヶ月後、そして最も好ましくは約6ヶ月後に実施される。したがって、試験されるサンプルを、好ましくは心房細動の最後のエピソードの約3日後、より好ましくは約1ヶ月後、さらにより好ましくは約3ヶ月後、そして最も好ましくは約6ヶ月後に得ることが想定される。したがって、心房細動の診断は、好ましくはサンプルを得る前の約3日以内、より好ましくは約3ヶ月以内、最も好ましくは約6ヶ月以内に発生した心房細動のエピソードの診断も包含することが好ましい。
【0069】
しかしながら、サンプルを得るときに、被験者が心房細動のエピソードを経験することも想定される(例えば、脳卒中の予測に関して)。
【0070】
「サンプル」という用語は、体液のサンプル、分離された細胞のサンプル、または組織もしくは器官からのサンプルを指す。体液のサンプルは、周知の技術によって採取することができ、また血液、血漿、血清、尿、リンパ液、痰、腹水、またはその他の体分泌物もしくはその誘導体のサンプルが含まれる。組織または器官のサンプルを、例えば生検によって、任意の組織または器官から得てもよい。分離された細胞は、体液または組織もしくは器官から、遠心分離または細胞選別などの分離技術によって、得てもよい。例えば、バイオマーカーを発現または生成する細胞、組織、器官から、細胞、組織、器官のサンプルを採取してもよい。サンプルは、凍結、新鮮、固定(例えばホルマリン固定)、遠心分離、および/または包埋(例えばパラフィン包埋)等であり得る。もちろん、細胞サンプルには、サンプル中のバイオマーカー(複数の場合がある)の量を判定する前に、さまざまな周知の収集後の分取および保管技術(例えば、核酸および/またはタンパク質の抽出、固定、保管、凍結、限外濾過、濃縮、蒸発、遠心分離など)を実施することができる。
【0071】
本発明の好ましい一実施形態では、サンプルは、血液(すなわち、全血)、血清または血漿サンプルである。血清とは、血液が血餅になった後に採取される全血の液体分画のことである。血清を得るためには、遠心分離によって血餅を除去して、それから上清が収集される。血漿は、血の無細胞流動部分である。血漿サンプルを得るために、全血は、抗凝固剤処理されたチューブ(例えば、クエン酸塩処理またはEDTA処理されたチューブ)に収集される。遠心分離により細胞をサンプルから除去し、それから上清(すなわち、血漿サンプル)を得る。
【0072】
上記のように、被験者は洞調律にあるか、またはサンプルを得る時点でAF調律のエピソードに苦しんでいる可能性がある。
【0073】
本発明によれば、バイオマーカーFGFBP-1(線維芽細胞成長因子結合タンパク質-1)の量を決定するものとする。バイオマーカーは、当該技術分野において周知である。その他の名称は、FGFBP、HBP17、FGF-BP、およびFGF-BP1である。FGFBP-1タンパク質は、線維芽細胞成長因子に結合し、標的細胞に対する生物学的効果を増強することにより、細胞の増殖、分化、および遊走において重要な役割を果たす。コードされたタンパク質はまた、血管新生スイッチ分子として腫瘍増殖において役割を果たす可能性があり、この遺伝子の発現は、膵臓および結腸直腸腺癌を含むいくつかのタイプの癌に関連している(例えば、Beer et al.Oncogene 24:5269-5277(2005)を参照のこと)。
【0074】
好ましい実施形態では、ヒトFGFBP-1ポリペプチドの量が決定される。ヒトFGFBP-1の配列は、当該技術分野において周知である。例えば、配列はUniprotを介して判定することができ、エントリQ14512-1の配列を参照されたい。ヒトFGFBP-1の前駆体は234アミノ酸の長さを持ち、翻訳後に切断されて成熟型のFGFBP-1ポリペプチド(アミノ酸24~234)を放出する短いN末端シグナルペプチド(アミノ酸1~23)を含む。好ましくは、成熟形態の量、すなわちプロセッシングした形態の量が決定される。
【0075】
「ナトリウム利尿ペプチド」という用語は、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)型および脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)型のペプチドを含む。したがって、本発明によるナトリウム利尿ペプチドは、ANP型およびBNP型ペプチド、ならびにそれらの変異体を含む(例えば、Bonow RO.et al.,Circulation 1996;93:1946-1950を参照のこと)。
【0076】
ANP型のペプチドには、pre-proANP、proANP、NT-proANP、およびANPが含まれる。
【0077】
BNP型ペプチドには、pre-proBNP、proBNP、NT-proBNP、およびBNPが含まれる。
【0078】
pre-proペプチド(pre-proBNPの場合は134アミノ酸)は、酵素的に切断されてproペプチド(proBNPの場合は108アミノ酸)を放出する短いシグナルペプチドを含む。proペプチドはさらにN末端proペプチド(NT-proペプチド、NT-proBNPの場合は76アミノ酸)および活性ホルモン(BNPの場合は32アミノ酸、ANPの場合は28アミノ酸)に切断される。
【0079】
本発明による好ましいナトリウム利尿ペプチドは、NT-proANP、ANP、NT-proBNP、BNPである。ANPおよびBNPは活性ホルモンであり、それぞれの不活性な対応物であるNT-proANPおよびNT-proBNPよりも半減期が短い。BNPは血中で代謝されるが、NT-proBNPは無傷の分子として血中を循環するため、腎臓から排出される。
【0080】
本発明による最も好ましいナトリウム利尿ペプチドは、NT-proBNPおよびBNP、特にNT-proBNPである。上で簡単に論じたように、本発明により言及されるヒトNT-proBNPは、好ましくは、ヒトNT-proBNP分子のN末端部分に対応する長さ76アミノ酸を含むポリペプチドである。ヒトBNPおよびNT-proBNPの構造は、先行技術、例えば、国際公開第02/089657号パンフレット、同第02/083913号パンフレット、およびBonow RO.Et al.,New Insights into the cardiac natriuretic peptides.Circulation 1996;93:1946-1950に既に詳述されている。好ましくは、本明細書で使用されるヒトNT-proBNPは、欧州特許第0 648 228号明細書B1に開示されるヒトNT-proBNPである。
【0081】
IGFBP-7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)は、内皮細胞、血管平滑筋細胞、線維芽細胞、上皮細胞から分泌されることが知られている30kDaのモジュラー糖タンパク質である(Ono,Y.,et al、Biochem Biophys Res Comm 202(1994)1490-1496)。好ましくは、「IGFBP-7」という用語は、ヒトIGFBP-7を指す。タンパク質の配列は、当該技術分野で周知であり、例えば、UniProt(Q16270、IBP7_HUMAN)、またはGenBank(NP_001240764.1)を介してアクセスできる。バイオマーカーのIGFBP-7の詳細な定義は、例えば、国際公開第2008/089994号パンフレットに提供されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。IGFBP-7には2つのアイソフォーム、アイソフォーム1および2があり、これらは選択的スプライシングによって生成される。本発明の一実施形態では、両方のアイソフォームの総量が測定される(配列については、UniProtデータベースエントリ(Q16270-1およびQ16270-2)を参照のこと)。
【0082】
バイオマーカー内皮細胞特異的分子1(略してESM-1)は当技術分野でよく知られている。バイオマーカーは、しばしばエンドカンとも呼ばれる。ESM-1は分泌タンパク質であり、主にヒトの肺および腎臓組織の内皮細胞で発現される。パブリックドメインのデータは、甲状腺、肺、腎臓だけでなく、心臓組織でも発現することを示唆している。例えばProtein Atlas database(Uhlen M.et al.,Science 2015;347(6220):1260419)のESM-1のエントリを参照されたい。この遺伝子の発現はサイトカインによって調節されている。ESM-1は、20kDaの成熟ポリペプチドと30kDaのO-結合型グリカン鎖で構成されるプロテオグリカンである(Bechard D et al.,J Biol Chem 2001;276(51):48341-48349)。本発明の好ましい実施形態では、ヒトESM-1ポリペプチドの量を、被験者からのサンプルにおいて決定する。ヒトESM-1ポリペプチドの配列は当技術分野で周知であり(例えば、Lassale P.et al.,J.Biol.Chem.1996;271:20458-20464を参照のこと)、例えば、Uniprotデータベースを介して判定することができる。エントリQ9NQ30(ESM1_HUMAN)を参照のこと。ESM-1の2つのアイソフォーム、アイソフォーム1(Uniprot識別子Q9NQ30-1を有する)およびアイソフォーム2(Uniprot識別子Q9NQ30-2を有する)は、選択的スプライシングによって生成される。アイソフォーム1の長さは184アミノ酸である。アイソフォーム2では、アイソフォーム1のアミノ酸101~150が欠落している。アミノ酸1~19はシグナルペプチドを形成する(これは切断される可能性がある)。
【0083】
好ましい実施形態では、ESM-1ポリペプチドのアイソフォーム1、すなわち、UniProtアクセッション番号Q9NQ30-1に示されるような配列を有するアイソフォーム1の量が決定される。
【0084】
別の好ましい実施形態では、ESM-1ポリペプチドのアイソフォーム2、すなわち、UniProtアクセッション番号Q9NQ30-2に示されるような配列を有するアイソフォーム2の量が決定される。
【0085】
別の好ましい実施形態では、ESM-1ポリペプチドのアイソフォーム-1およびアイソフォーム2の量、すなわち総ESM-1が決定される。
【0086】
例えば、ESM-1の量は、ESM-1ポリペプチドのアミノ酸85~184に対するモノクローナル抗体(マウス抗体等)および/またはヤギポリクローナル抗体を用いて決定され得る。
【0087】
バイオマーカーであるアンジオポエチン-2(「Ang-2」と略され、しばしばANGPT2とも呼ばれる)は、当該技術分野において周知である。これは、天然に存在するAng-1とTIE2の両方に対する拮抗薬である(例えば、Maisonpierre et al.,Science 277(1997)55-60を参照のこと)。タンパク質は、ANG-1の不存在下で、TEK/TIE2のチロシンのリン酸化を誘導できる。VEGFなどの血管新生誘発物質が存在しない場合、ANG2を介した細胞マトリックス接触の緩みにより、結果として生じる血管退縮を伴う内皮細胞アポトーシスが誘発されることがある。VEGFと連携して、内皮細胞の遊走および増殖を促進することがあり、それ故に許容的な血管新生シグナルとして機能する。ヒトのアンジオポエチンの配列は、当該技術分野において周知である。Uniprotは、アンジオポエチン-2の3つのアイソフォームを収載する:アイソフォーム1(Uniprot識別子:O15123-1)、アイソフォーム2(識別子:O15123-2)およびアイソフォーム3(O15123-3)。好ましい一実施形態では、アンジオポエチン-2の総量が決定される。この総量は、好ましくは複合型および遊離型のアンジオポエチン-2の量の合計である。
【0088】
本明細書でいうバイオマーカー(FGFBP-1またはナトリウム利尿ペプチド等)の量を「決定する」という用語は、バイオマーカーの定量化を指し、例えば、本明細書の他の箇所に記載されている適切な検出方法を使用して、サンプル中のバイオマーカーのレベルを測定することである。「測定する」および「決定する」という用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0089】
一実施形態では、バイオマーカーの量は、サンプルをバイオマーカーと特異的に結合する薬剤と接触させ、それにより薬剤と上記バイオマーカーとの間に複合体を形成し、形成された複合体の量を検出し、それから上記バイオマーカーの量を測定することにより、決定される。
【0090】
本明細書でいうバイオマーカー(FGFBP-1等)は、当該技術分野で一般的に知られている方法を使用して検出することができる。検出方法は、一般に、サンプル中のバイオマーカーの量を定量化する方法(定量的方法)を包含する。以下の方法のどれがバイオマーカーの定性的および/または定量的検出に適しているかは、当業者に一般に知られている。サンプルは、例えば、ウエスタン法およびELISA、RIA、蛍光および発光ベースのイムノアッセイのようなイムノアッセイ、ならびに市販されている近接拡張アッセイを使用して、タンパク質について簡便にアッセイすることができる。バイオマーカーを検出するためのさらに適切な方法は、ペプチドまたはポリペプチドに特異的な物理的または化学的特性、例えば、その正確な分子量またはNMRスペクトル等を測定することを含む。上記方法は、例えば、バイオセンサー、イムノアッセイと連結した光学装置、バイオチップ、分析装置、例えば質量分析計、NMR分析器、またはクロマトグラフィー装置を含む。さらに、方法には、マイクロプレートELISAベースの方法、完全自動化またはロボットイムノアッセイ(ElecsysTMアナライザーなどで利用可能)、CBA(酵素的Cobalt Binding Assay、Roche-HitachiTMアナライザーなどで利用可能)、およびラテックス凝集アッセイ(例えば、Roche-HitachiTMアナライザーで使用可能)が含まれる。
【0091】
本明細書でいうバイオマーカータンパク質の検出については、そのようなアッセイ形式を使用する幅広いイムノアッセイ技術が利用可能であり、例えば、米国特許第4,016,043号明細書、第4,424,279号明細書、および第4,018,653号明細書を参照されたい。これらは、従来の競合結合アッセイだけでなく、非競合タイプの1部位および2部位または「サンドイッチ」アッセイの両方を含む。これらのアッセイは、標識された抗体の標的バイオマーカーへの直接結合も含む。
【0092】
電気化学発光標識を用いる方法は、周知である。そのような方法は、特殊な金属錯体の能力を利用して、酸化によって、励起状態となり、そこから基底状態へ減衰して、電気化学発光の放出を得る。総説については、Richter,M.M.,Chem.Rev.2004;104:3003-3036を参照のこと。
【0093】
一実施形態において、バイオマーカーの量を測定するのに使用される検出抗体(またはその抗原結合断片)は、ルテニウム化(ruthenylated)またはイリジウム化(iridinylated)されている。したがって、抗体(またはその抗原結合断片)は、ルテニウム標識を含むものとする。一実施形態では、上記ルテニウム標識は、ビピリジン-ルテニウム(II)錯体である。あるいは、抗体(またはその抗原結合断片)は、イリジウム標識を含むものとする。一実施形態では、上記イリジウム標識は、国際公開第2012/107419号パンフレットで開示される錯体である。
【0094】
FGFBP-1の決定のためのサンドイッチアッセイの実施形態では、アッセイは、(捕捉抗体として)FGFBP-1に特異的に結合するビオチン化された第1のモノクローナル抗体、および検出抗体としてFGFBP-1と特異的に結合するルテニウム化された第2のモノクローナル抗体のF(ab’)2-断片を含む)。2種の抗体は、サンプル中、FGFBP-1とサンドイッチイムノアッセイ複合体を形成する。
【0095】
ナトリウム利尿ペプチドの決定のためのサンドイッチアッセイの実施形態では、アッセイは、(捕捉抗体として)ナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合するビオチン化された第1のモノクローナル抗体、および検出抗体としてナトリウム利尿ペプチドと特異的に結合するルテニウム化された第2のモノクローナル抗体のF(ab’)2-断片を含む)。2種の抗体は、サンプル中、ナトリウム利尿ペプチドとサンドイッチイムノアッセイ複合体を形成する。
【0096】
ポリペプチド(例えば、FGFBP-1またはナトリウム利尿ペプチド)の量を測定することは、好ましくは、(a)ポリペプチドを当該ポリペプチドと特異的に結合する薬剤と接触させるステップ、(b)(任意に)結合していない薬剤を除去するステップ、(c)結合した結合剤、すなわちステップ(a)で形成された薬剤の複合体の量を測定するステップ、を含み得る。好ましい実施形態によれば、当該接触させるステップ、除去するステップおよび測定するステップは、分析装置ユニットにより実施され得る。一部の実施形態によれば、上記ステップは、上記システムの単一の分析装置ユニット、または互いに作動可能に連絡した2つ以上の分析装置ユニットにより実施され得る。例えば、特定の実施形態によれば、本明細書で開示される上記システムは、上記接触させるステップおよび除去するステップを実施するための第1の分析装置ユニット、ならびに上記測定するステップを実施する、輸送ユニット(例えば、ロボットアーム)により、上記第1の分析装置ユニットに作動可能に接続された第2の分析装置ユニットを含んでよい。
【0097】
バイオマーカーと特異的に結合する薬剤(本明細書では「結合剤」とも呼ばれる)は、結合した薬剤の検出および測定を可能にする標識に、共有結合または非共有結合をしてよい。標識化は、直接または間接の方法により行ってもよい。直接標識化は、標識を結合剤に直接的に(共有結合または非共有結合により)結合させることによって行われる。間接標識化は、第2の結合剤を第1の結合剤に(共有結合または非共有結合により)結合させることによって行われる。第2の結合剤は、第1の結合剤に特異的に結合するものとする。上記第2の結合剤は、適切な標識と結合する、および/または第2の結合剤に結合する第3の結合剤の標的(受容体)となり得る。好適な第2の、およびより高次の結合剤は、抗体、二次抗体、および周知のストレプトアビジン-ビオチン系(Vector Laboratories,Inc.)を含んでよい。結合剤または基質は、当該技術分野で公知の1種以上のタグで「タグ付け」されていてもよい。そうすることで、このようなタグは、より高次の結合剤の標的となり得る。好適なタグとしては、ビオチン、ジゴキシゲニン(digoxygenin)、His-タグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、myc-タグ、インフルエンザAウイルス赤血球凝集素(HA)、マルトース結合タンパク質等が挙げられる。ペプチドまたはポリペプチドの場合、タグは、好ましくはN末端および/またはC末端にある。好適な標識は、適切な検出方法で検出可能な任意の標識である。典型的な標識としては、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダンエステル、ルミノール、ルテニウム錯体、イリジウム錯体、酵素的に活性な標識、放射性標識、磁気標識(「例えば磁気ビーズ」、常磁性および超常磁性標識を含む)、および蛍光標識が挙げられる。酵素的に活性な標識としては、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、βガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、およびそれらの誘導体が挙げられる。検出のための好適な基質としては、ジアミノベンジジン(DAB)、3,3’-5,5’-テトラメチルベンジジン、NBT-BCIP(Roche Diagnosticsから既成品の保存溶液として入手可能な4-ニトロブルーテトラゾリウム塩化物および5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-リン酸塩)、CDP-Star(商標)(Amersham Bio-sciences)、ECF(商標)(Amersham Biosciences)が挙げられる。適切な酵素-基質の組み合わせにより、着色された反応産物、蛍光または化学発光が生じてもよく、これは、当該技術分野で公知の方法に従って(例えば感光膜または適切なカメラシステムを使用して)、決定することができる。酵素反応を測定することについては、上記の基準が同様に適用される。典型的な蛍光標識としては、蛍光タンパク質(例えば、GFPおよびその誘導体)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン、およびAlexa色素(例えばAlexa 568)が挙げられる。さらなる蛍光標識が、例えばMolecular Probes(オレゴン州)から入手可能である。また、蛍光標識としての量子ドットの使用が、企図される。放射性標識は、公知かつ適切な、例えば感光膜またはホスホイメージャー(phosphor imager)等の任意の方法により検出され得る。
【0098】
ポリペプチドの量はまた、好ましくは、以下の通り測定することもできる:(a)本明細書の別の箇所で記載されるようなポリペプチド用の結合剤を含む固体支持体を、ペプチドまたはポリペプチドを含むサンプルと接触させること、および(b)支持体に結合したペプチドまたはポリペプチドの量を測定すること。支持体を製造するための物質は、当該技術分野で周知であり、とりわけ、市販のカラム物質、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁気ビーズ、コロイド金属粒子、ガラスおよび/またはシリコンチップおよび表面、ニトロセルロースストリップ、メンブレン、シート、デュラサイト(duracyte)、反応トレイのウェルおよび壁、プラスチックチューブなどが挙げられる。
【0099】
さらなる一態様では、結合剤と少なくとも1種のマーカーとの間で形成された複合体から、形成された複合体の量の測定前に、サンプルが除去される。したがって、一態様では、結合剤は固体支持体に固定されてもよい。さらなる態様では、洗浄溶液を適用することによって、固体支持体上で形成された複合体からサンプルが除去され得る。
【0100】
「サンドイッチアッセイ」は、最も有用かつ通常使用されるアッセイに含まれ、サンドイッチアッセイ技術のいくつかのバリエーションを包含する。簡潔に言うと、典型的なアッセイでは、未標識の(捕捉)結合剤が固定化されているか、または固体基質上に固定化することができ、そして試験されるサンプルを、捕捉結合剤と接触させる。結合剤-バイオマーカー複合体を形成させるのに十分な期間のため、適切なインキュベート期間の後、検出可能なシグナルを生成できるレポーター分子で標識化された第2の(検出)結合剤が添加され、またインキュベートされ、結合剤-バイオマーカー-標識化された結合剤という別の複合体の形成に十分な時間を確保する。未反応の物質は洗い流されてよく、バイオマーカーの存在は、検出結合剤に結合したレポーター分子により生成されるシグナルの観察により、決定される。結果は、可視シグナルの単純な観察による定性的なものでもよく、既知量のバイオマーカーを含む対照サンプルとの比較による定量的なものであってもよい。
【0101】
典型的なサンドイッチアッセイのインキュベーションステップは、必要に応じて適切であるように変更することができる。このような変更には、例えば、2種以上の結合剤およびバイオマーカーがともにインキュベートされる同時インキュベーションが含まれる。例えば、分析されるサンプルおよび標識化された結合剤の両方が同時に、固定化された捕捉結合剤に添加される。また、分析されるサンプルおよび標識化された結合剤を最初にインキュベートし、その後、固相に結合した抗体、または固相に結合することができる抗体を添加することもできる。
【0102】
特異的な結合剤とバイオマーカーの間で形成される複合体は、サンプル中に存在するバイオマーカーの量に比例するものとする。適用される結合剤の特異性および/または感度が、特異的に結合され得る、サンプル中に含まれる少なくとも1種のマーカーの割合の程度を規定することと理解されるであろう。測定を実行する方法の詳細については、本明細書の別の箇所にも記載されている。形成された複合体の量は、サンプル中に実際に存在する量を反映するバイオマーカーの量に変換されるものとする。
【0103】
「結合剤」、「特異的な結合剤」、「検体に特異的な結合剤」、「検出剤」および「バイオマーカーに特異的に結合する薬剤」という用語は、本明細書では互換可能に使用される。好ましくは、該用語は、対応する線維芽細胞成長因子結合タンパク質(correFibroblast growth factor-binding proteing)バイオマーカーと特異的に結合する結合部分を含む薬剤に関する。「結合剤」、「検出剤」、「薬剤」の例は、核酸プローブ、核酸プライマー、DNA分子、RNA分子、アプタマー、抗体、抗体断片、ペプチド、ペプチド核酸(PNA)または化学物質である。好ましい薬剤は、決定されるバイオマーカーに特異的に結合する抗体である。本明細書で使用される「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、および所望の抗原結合活性を示す限り抗体断片(すなわちその抗原結合断片)を含むが、これらに限定されず、さまざまな抗体構造を包含する。好ましくは、抗体はポリクローナル抗体(または、それからの抗原結合断片)である。より好ましくは、抗体は、モノクローナル抗体(または抗原結合断片であり、したがって、さらに、本明細書の他の箇所で説明するように、(サンドイッチイムノアッセイにおいて)FGFBP-1の異なる位置で結合する2つのモノクローナル抗体が使用されることが想定される。したがって、FGFBP-1の量を決定するために少なくとも1種の抗体が使用される。
【0104】
一実施形態では、少なくとも1つの抗体は、マウスモノクローナル抗体である。別の実施形態では、少なくとも1つの抗体はウサギモノクローナル抗体である。他の実施形態では、本抗体は、ヤギポリクローナル抗体である。更に他の実施形態では、本抗体は、ヒツジポリクローナル抗体である。
【0105】
「特異的な結合」または「特異的に結合する」という用語は、結合する対の分子が、その他の分子に有意に結合しない条件下で、互いに結合することを示す結合反応を指す。「特異的な結合」または「特異的に結合する」という用語は、バイオマーカーとしてのタンパク質またはペプチドに関する場合、好ましくは、結合剤が、対応する線維芽細胞成長因子結合タンパク質バイオマーカーに少なくとも107M-1の親和性(「会合定数」Ka)で結合する結合反応を指す。「特異的な結合」または「特異的に結合する」という用語は、その標的分子に対して、好ましくは少なくとも108M-1、またはさらにより好ましくは少なくとも109M-1の親和性を指す。「特異的な」または「特異的に」という用語は、サンプル中に存在するその他の分子が、標的分子に特異的な結合剤に、有意に結合しないことを示すために使用される。
【0106】
一実施形態では、本発明の方法は、ヒトFGFBP-1、および非ヒトまたはキメラFGFBP-1特異的結合剤を含むタンパク質複合体を検出することに基づいている。そのような実施形態では、本発明は、被験者における心房細動を判定するための方法について読み、当該方法は、(a)当該被験者からのサンプルを非ヒトFGFBP-1特異的結合剤とインキュベートするステップ(b)(a)で形成されたFGFBP-1特異的結合剤とFGFBP-1の間の複合体を測定するステップ、および(c)測定された量の複合体を基準量と比較するステップ、を含む。基準量またはそれを超える複合体の量は、心房細動の診断(したがって存在)、持続性心房細動の存在、ECGを受けるべき被験者、または有害事象のリスクのある被験者を示す。基準量を下回る(または等しい)複合体の量は、心房細動がないこと、発作性心房細動が存在すること、ECGを受けてはならない被験者、または有害事象のリスクがない被験者を示す。
【0107】
「量」という用語は、本明細書で使用される場合、本明細書でいうバイオマーカー(例えば、FGFBP-1またはナトリウム利尿ペプチド)の絶対量、当該バイオマーカーの相対量または濃度とならんで、それらと相関するまたはそれらから導き出され得る任意の値またはパラメータを包含する。このような値またはパラメータは、直接測定により上記ペプチドから得られる、特定の物理的または化学的特性全てに由来する強度シグナル値、例えば、質量スペクトルまたはNMRスペクトルでの強度値を含む。さらに、本明細書の別の箇所で明示される間接測定により得られる値またはパラメータ全て、例えば、特異的に結合したリガンドから得られるペプチドまたは強度シグナルに応答して生物学的読み出しシステムにより決定される応答量、が包含される。上述の量またはパラメータに相関する値は、全ての標準的な数学的演算によっても得られるということを理解されたい。
【0108】
「比較する」という用語は、本明細書で使用される場合、被験者からのサンプル中のバイオマーカー(FGFBP-1、またはNT-proBNPもしくはBNPなどのナトリウム利尿ペプチドなど)の量を、本明細書の別の箇所で明示されるバイオマーカーの基準量と比較することを指す。比較する、は本明細書で使用される場合、通常、対応する線維芽細胞成長因子結合タンパク質パラメータまたは値の比較を指すということを理解すべきであり、例えば、絶対量は絶対基準量と比較され、濃度は基準濃度と比較され、またはサンプル中のバイオマーカーから得られる強度シグナルは第1のサンプルから得られる同じタイプの強度シグナルと比較される。比較は、手作業またはコンピュータを利用して実施され得る。したがって、比較を計算装置により実施してもよい。被験者からのサンプル中のバイオマーカーの決定量または検出量、および基準量についての値は、例えば、互いに比較することができ、また当該比較は、比較のためのアルゴリズムを実行するコンピュータプログラムにより自動的に実施され得る。上記評価を実施するコンピュータプログラムは、好適なアウトプット様式で、所望の判定を提供することになる。コンピュータを利用した比較において、決定量の値が、コンピュータプログラムにより、データベースに保存されている好適な基準に対応する線維芽細胞成長因子結合タンパク質の値と比較されてもよい。コンピュータプログラムは、比較結果をさらに評価してもよく、すなわち、好適なアウトプット様式で所望の判定を自動的に提供してもよい。コンピュータを利用した比較において、決定量の値が、コンピュータプログラムにより、データベースに保存されている好適な基準に対応する線維芽細胞成長因子結合タンパク質の値と比較されてもよい。コンピュータプログラムは、比較結果をさらに評価してもよく、すなわち、好適なアウトプット様式で所望の判定を自動的に提供してもよい。
【0109】
本発明によれば、バイオマーカーFGFBP-1の量、および任意に、少なくとも1種のさらなるバイオマーカー(ナトリウム利尿ペプチド等)の量を、基準と比較するものとする。基準は、好ましくは基準量である。「基準量」という用語は、当業者によく理解されている。基準量は、本明細書に記載の心房細動の判定を可能にしなければならないことを理解されたい。例えば、心房細動を診断するための方法に関連して、基準量は、好ましくは、(i)心房細動に罹患している被験者群、または(ii)心房細動に罹患していない被験者群、のいずれかに、被験者を割り当てることを可能にする量を指す。好適な基準量は、試験サンプルとともに、すなわち同時にまたは続いて分析される第1のサンプルから決定されてもよい。
【0110】
FGFBP-1の量は、FGFBP-1の基準量と比較されるが、少なくとも1種のさらなるバイオマーカー(ナトリウム利尿ペプチド等)の量は、当該少なくとも1種のさらなるバイオマーカー(ナトリウム利尿ペプチド等)の基準量と比較されることが理解されるべきである。2つ以上のマーカーの量が決定される場合、2つ以上のマーカーの量(FGFBP-1の量およびナトリウム利尿ペプチドの量等)に基づいて合計スコアを計算することも想定される。次のステップでは、このスコアが基準スコアと比較される。
【0111】
基準量は、原則として、統計学の標準的方法を適用することにより、所与のバイオマーカーの平均または平均値に基づいて、上記で特定したように被験者のコホートに対し算出され得る。特に、イベントの診断を目的とする方法などの試験が正確であるか否かは、受信者動作特性(ROC)により最もよく説明される(特に、Zweig MH.et al.,Clin.Chem.1993;39:561-577を参照のこと)。ROCグラフは、観察されたデータの全範囲にわたって決定閾値を継続的に変動させることにより生じる、すべての感度対特異性のペアのプロットである。診断方法の臨床成績は、その正確性、すなわち被験者を特定の予後または診断に正確に割り当てる能力に依存する。ROCプロットは、区別を行うのに適した閾値の全範囲について、感度対1-特異性をプロットすることにより、2つの分布間の重複を示す。y軸は、感度、すなわち真陽性率であり、真陽性試験結果の数および偽陰性試験結果の数の積に対する、真陽性試験結果の数の比率として定義される。それは影響を受けるサブグループからのみ計算される。x軸上は、偽陽性率、または1-特異性であり、これは、真陰性の数および偽陽性結果の数の積に対する、偽陽性結果の数の比率として定義される。これは特異性の指標であり、影響を受けないサブグループからのみ計算される。真陽性および偽陽性率は、2つの異なるサブグループからの試験結果を使用して完全に別々に算出されるため、ROCプロットはコホートにおけるイベントの有病率から独立している。ROCプロット上の各点は、特定の決定閾値に対応する感度/1-線維芽細胞成長因子結合タンパク質に対応する特異性のペアを表す。完全に区別されている(結果の2つの分布に重複がない)試験は、左上隅を通るROCプロットを有し、真陽性率は1.0、または100%(完全な感度)、偽陽性率は0(完全な特異性)となる。区別のない(2つのグループでの結果の分布が同一である)試験における理論上のプロットは、左下隅から右上隅への45°の対角線となる。ほとんどのプロットは、これらの2つの極値の間にある。ROCプロットが45°対角線を完全に下回る場合、これは、「陽性」の基準を「より高い」から「より低い」に入れ替え、逆もまた同様にすることで、容易に修正される。定性的には、プロットが左上隅に近いほど、試験全体の精度が高くなる。所望の信頼区間に応じて、ROC曲線から閾値を導き出すことができ、これにより、感度および特異性それぞれの適切なバランスで所与のイベントについての診断が可能になる。したがって、本発明の方法に使用される基準、すなわち心房細動を判定することを可能にする閾値は、好ましくは、上記のように上記コホートのROCを確立し、またそこから閾値量を導き出すことによって、生成され得る。診断方法における所望の感度および特異性に応じて、ROCプロットは、好適な閾値を導き出すことができる。例えば、心房細動に罹患している被験者を除外する場合(すなわちルールアウト)、最適な感度が望ましく、心房細動に罹患していると判定される被験者に対しては(すなわちルールイン)、最適な特異性が想定されることが理解されよう。一実施形態では、本発明の方法は、被験者が、心房細動および/または脳卒中の発生または再発等の心房細動に関連する有害事象のリスクがあるという予測を可能にする。
【0112】
好ましい実施形態では、本明細書における「基準量」という用語は、所定の値を指す。当該所定の値は、心房細動を判定し、したがって心房細動を診断すること、発作性心房細動と持続性心房細動を区別すること、心房細動に関連する有害事象のリスクを予測すること、心電図検査(ECG)を受けるべき被験者を識別すること、または心房細動の治療法を判定することを可能にするものとする。基準量は、判定の種類によって異なる場合があることを理解されたい。例えば、AFの区別のためのFGFBP-1の基準量は、通常、AFの診断のための基準量よりも高いであろう。しかしながら、これは当業者により考慮される。
【0113】
上記で述べたように、好ましくは、「心房細動を判定する(こと)」という用語は、好ましくは、心房細動の診断、発作性心房細動と持続性心房細動の区別、心房細動に関連する有害事象のリスクの予測、心電図検査(ECG)を受けるべき被験者の識別、または心房細動の治療法の判定を指す。以下では、本発明の方法のこれらの実施形態をより詳細に説明する。上記の定義はそれに応じて適用される。
【0114】
心房細動、例えば持続性心房細動を診断するための方法
本明細書で使用される「診断する」という用語は、本発明の方法に従って言及される被験者が心房細動(AF)に罹患しているか否かを判定することを意味する。
【0115】
全てのタイプのAFが診断され得る。好ましくは、心房細動は、発作性、持続性、または永続性のAFであり得る。より好ましくは、被験者が持続性心房細動に罹患しているかどうかが診断される。最も好ましくは、持続性心房細動が診断され、被験者は永続性AFに罹患していないことがわかっている。
【0116】
被験者がAFに罹患しているかどうかの実際の診断は、診断の確認(例えば、ホルターECG等のECGによる)等のさらなるステップを含み得る。したがって、本発明は、患者が心房細動に罹患する可能性を判定することを可能にする。基準量を超えるFGFBP-1の量を有する被験者は、心房細動に罹患する可能性が高いが、基準量を下回る(または等しい)FGFBP-1の量を有する被験者は、心房細動に罹患する可能性が低い。したがって、本発明の文脈において「診断」という用語は、被験者が心房細動に罹患しているかどうか、特に被験者が持続性心房細動に罹患しているかどうかを判定するために医師を支援することも包含する。
【0117】
好ましくは、基準量(複数の場合がある)と比較して増加した試験被験者からのサンプル中のある量のFGFBP-1(および任意に、ESM-1、Ang-2、IGFBP7および/またはナトリウム利尿ペプチド等のある量の少なくとも1種のさらなるバイオマーカー)は(複数の場合がある)心房細動に罹患している被験者を示し、および/または基準量(複数の場合がある)と比較して減少している被験者からのサンプル中のある量のFGFBP-1(および任意に、ESM-1、Ang-2、IGFBP7および/またはナトリウム利尿ペプチド等のある量の少なくとも1種のさらなるバイオマーカー)は、心房細動に罹患していない被験者を示している。
【0118】
好ましい実施形態では、基準量、すなわち基準量のFGFBP-1、および決定される場合には、少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの基準量は、心房細動に罹患している被験者と心房細動に罹患していない被験者とを区別することを可能にするものとする。好ましくは、当該基準量は所定の値である。
【0119】
一実施形態では、本発明の方法は、心房細動に罹患している被験者を診断することを可能とする。好ましくは、FGFBP-1の量(および任意に、ESM-1、Ang-2、IGFBP7および/またはナトリウム利尿ペプチド等の少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量)が(複数の場合がある)基準量を超えている場合、被験者はAFに罹患している。一実施形態では、FGFBP-1の量が基準量の特定のパーセンタイル(例えば、99パーセンタイル)の上限基準限界(URL)を超える場合、被験者はAFに罹患している。
【0120】
心房細動を診断する方法の一実施形態では、当該方法は、診断の結果に基づいて心房細動の治療法を推奨および/または開始するステップをさらに含む。好ましくは、被験者がAFに罹患していると診断された場合、治療法が推奨または開始される。心房細動の好ましい治療法は、本明細書の他の場所に開示されている(抗凝固療法等)。
発作性心房細動と持続性心房細動を区別する方法
【0121】
本明細書で使用される「区別する」という用語は、被験者における発作性心房細動と持続性心房細動とを区別することを意味する。本明細書で使用される用語は、好ましくは、被験者における発作性および持続性心房細動を差次的に診断することを含む。したがって、本発明の方法は、心房細動を有する被験者が発作性心房細動または持続性心房細動に罹患しているかどうかを判定することを可能にする。実際の区別は、区別の確認等のさらなるステップを含み得る。したがって、本発明の文脈における「区別」という用語は、発作性心房細動と持続性AFとを区別するために医師を支援することも包含する。
【0122】
好ましくは、基準量(複数の場合がある)と比較して増加した被験者からのサンプル中のある量のFGFBP-1(および任意に、ESM-1、Ang-2、IGFBP7および/またはナトリウム利尿ペプチド等のある量の少なくとも1種のさらなるバイオマーカー)は持続性心房細動に罹患している被験者を示し、および/または基準量(複数の場合がある)と比較して減少している被験者からのサンプル中のある量のFGFBP-1(および任意に、ESM-1、Ang-2、IGFBP7および/またはナトリウム利尿ペプチド等のある量の少なくとも1種のさらなるバイオマーカー)は、発作性心房細動に罹患している被験者を示している。両方のAFタイプ(発作性および持続性)で、FGFBP-1の量は非AF被験者の基準量と比較して増加している。
【0123】
好ましい実施形態では、基準量(複数の場合がある)は、発作性心房細動に罹患している被験者と持続性心房細動を罹患している被験者とを区別することを可能にするものとする。好ましくは、当該基準量は所定の値である。
【0124】
発作性心房細動と持続性心房細動を区別する上記の方法の実施形態では、被験者は永続性心房細動に罹患していない。
【0125】
心房細動に関連する有害事象のリスクを予測する方法
本発明の方法はまた、有害事象のリスクを予測するための方法を企図する。
【0126】
一実施形態では、本明細書に記載の有害事象のリスクは、心房細動に関連する任意の有害事象の予測であり得る。好ましくは、当該有害事象は、心房細動の再発(心臓除細動後の心房細動の再発等)および脳卒中から選択される。したがって、被験者(心房細動に罹患している)が将来、有害事象(脳卒中または心房細動の再発等)に罹患するリスクが予測されるものとする。
【0127】
さらに、心房細動に関連する当該有害事象は、被験者における心房細動の発生であり、心房細動の既知の病歴がないことが想定される。
【0128】
特に好ましい実施形態では、脳卒中のリスクが予測される。
【0129】
したがって、本発明の被験者の脳卒中のリスクを予測する方法であって、
a)患者に由来するサンプル中のFGFBP-1の量を決定するステップ、および
b)基準量とFGFBP-1の量を比較するステップ、
を含み、それにより、脳卒中のリスクを予測する、方法。
【0130】
特に、本発明は、被験者の脳卒中のリスクを予測する方法であって、
(a)被験者からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーFGFBP-1(線維芽細胞成長因子結合タンパク質1)の量と、任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量とを決定するステップ、ならびに
(b)バイオマーカーFGFBP-1の量をFGFBP-1の基準量と比較し、そして任意に、少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量を、当該少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの基準量と比較するステップ、
を含み、それにより、脳卒中のリスクを予測する、方法に関する。
【0131】
好ましくは、本明細書で使用される「リスクを予測する」という用語は、被験者が本明細書でいう有害事象(例えば、脳卒中)に罹患するであろう確率を判定することを指す。通常は、被験者が当該有害事象に罹患するリスクがある(また、それ故にリスクが高い)か、リスクがない(また、それ故にリスクが低い)かどうかが予測される。したがって、本発明の方法は、リスクのある被験者と、当該有害事象に罹患するリスクのない被験者とを区別することを可能にする。さらに、本発明の方法は、リスクが低い、平均、または高い被験者間の区別を可能にすることが想定される。
【0132】
上記のように、特定の時間枠内に当該有害事象に罹患するリスク(および確率)が予測されるものとする。本発明の好ましい実施形態では、予測ウィンドウは、約3カ月、約6カ月、または特に約1年の期間である。したがって、短期的なリスクが予測される。
【0133】
別の好ましい一実施形態では、予測ウィンドウは、約5年の期間である(例えば、脳卒中の予測の場合)。さらに、予測ウィンドウは、約6年の期間であってもよい(例えば、脳卒中の予測の場合)。あるいは、予測ウィンドウは約10年であってもよい。また、予測ウィンドウは、1~3年の期間であることが想定される。したがって、1~3年以内に脳卒中に罹患するリスクが予測される。また、予測ウィンドウは、1~10年の期間であることが想定される。したがって、1~10年以内に脳卒中に罹患するリスクが予測される。
【0134】
好ましくは、当該予測ウィンドウは、本発明の方法の完了から計算される。より好ましくは、当該予測ウィンドウは、試験されるサンプルが採取された時点から計算される。当業者によって理解されるように、リスクの予測は、通常、被験者の100%について正しいことを意図していない。ただし、この用語では、統計的に有意な被験者の部分を適切かつ正確に予測できる必要がある。部分が統計的に有意であるかどうかは、例えば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン-ホイットニー検定などのさまざまな周知の統計評価ツールを使用して、当業者がさらに苦労することなく決定することができる。詳細は、Dowdy and Wearden,Statistics for Research,John Wiley&Sons,New York 1983に記載されている。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005、または0.0001である。
【0135】
好ましい実施形態では、「当該有害事象に罹患するリスクを予測する」という表現は、本発明の方法によって分析される被験者が、当該有害事象に罹患するリスクがある被験者群、または当該有害事象(脳卒中など)に罹患するリスクがない被験者群のいずれかに割り当てられることを意味する。このように、被験者は、当該有害事象に罹患するリスクがあるか否かが予測される。本明細書で使用される「当該有害事象に罹患するリスクがある被験者」は、好ましくは当該有害事象に罹患するリスクが高い(好ましくは、予測ウィンドウ内)。好ましくは、上記リスクは、被験者のコホートにおける平均リスクと比較して上昇する。本明細書で使用される場合、「当該有害事象に罹患するリスクがない被験者」は、好ましくは、当該有害事象に罹患するリスクが低い(好ましくは予測ウィンドウ内)。好ましくは、上記リスクは、被験者のコホートにおける平均リスクと比較して低下する。当該有害事象に罹患するリスクがある被験者は、好ましくは約1年の予測ウィンドウ内で、少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%の心房細動の再発または発症などの当該有害事象に罹患するリスクがある。当該有害事象に罹患するリスクがない被験者は、好ましくは1年の予測ウィンドウ内で、好ましくは12%未満、より好ましくは10%未満の当該有害事象に罹患するリスクを有する。
【0136】
脳卒中の予測に関して、当該有害事象に罹患するリスクがある被験者は、好ましくは約5年、または特に約6年の予測ウィンドウ内で、好ましくは、少なくとも10%、またはより好ましくは少なくとも13%の当該有害事象に罹患するリスクがある。当該有害事象に罹患するリスクがない被験者は、好ましくは約5年、または特に約6年の予測ウィンドウ内で、好ましくは10%未満、より好ましくは8%未満、または最も好ましくは5%未満の当該有害事象に罹患するリスクがある。被験者が抗凝固療法を受けていない場合、リスクが高くなる可能性がある。これは当業者により考慮される。
【0137】
好ましくは、基準量(複数の場合がある)と比較して増加した被験者からのサンプル中のある量のFGFBP-1(および任意に、ESM-1、Ang-2、IGFBP7および/またはナトリウム利尿ペプチド等のある量の少なくとも1種のさらなるバイオマーカー)は心房細動に関連する有害事象のリスクがある被験者を示し、および/または基準量(複数の場合がある)と比較して減少している被験者からのサンプル中のある量のFGFBP-1(および任意に、ESM-1、Ang-2、IGFBP7および/またはナトリウム利尿ペプチド等のある量の少なくとも1種のさらなるバイオマーカー)は、心房細動と関連する有害事象のリスクがない被験者を示している。
【0138】
好ましい実施形態では、基準量(複数の場合がある)は、本明細書でいう有害事象のリスクがある被験者と、当該有害事象のリスクがない被験者との間の区別を可能にするものとする。好ましくは、当該基準量は所定の値である。
【0139】
予測される有害事象は、好ましくは脳卒中である。「脳卒中」という用語は、当該技術分野において周知である。本明細書で使用する場合、該用語は、好ましくは、虚血性脳卒中、特に脳虚血性脳卒中を指す。本発明の方法によって予測される脳卒中は、脳細胞への酸素の供給不足をもたらす脳またはその部分への血流の減少によって、引き起こされるものとする。特に、脳卒中は、脳細胞死によって、不可逆的な組織損傷をもたらす。脳卒中の症状は、当該技術分野において周知である。例えば、脳卒中の症状としては、顔、腕、脚、特に体の片側の突然のしびれや脱力、突然の混乱、会話や理解の障害、片目または両目の突然の見えづらさ、および突然の歩行困難、めまい、バランスまたは調整の喪失などが挙げられる。虚血性脳卒中は、主要な大脳動脈のアテローム血栓症または塞栓症によって、凝固障害または非アテローム性血管疾患によって、または全体的な血流の減少につながる心虚血によって引き起こされる可能性がある。上記虚血性脳卒中は、アテローム血栓性脳卒中、心塞栓性脳卒中およびラクナ脳卒中(lacunar stroke)からなる群から選択されることが好ましい。好ましくは、予測される脳卒中は、急性虚血性脳卒中、特に心塞栓性脳卒中である。心塞栓性脳卒中(しばしば塞栓性または血栓塞栓性脳卒中とも呼ばれる)は、心房細動によって引き起こされ得る。
【0140】
好ましくは、当該脳卒中は心房細動に関連しているものとする。より好ましくは、脳卒中は心房細動によって引き起こされるものとする。しかしながら、被験者が心房細動の病歴を持たないことも想定される。
【0141】
好ましくは、脳卒中と心房細動のエピソードとの間に時間的関係がある場合、脳卒中は心房細動と関連している。より好ましくは、脳卒中が心房細動によって引き起こされる場合、脳卒中は心房細動と関連している。脳卒中が心房細動によって引き起こされる可能性がある場合、最も好ましくは、脳卒中は心房細動に関連している。例えば、心塞栓性脳卒中(しばしば塞栓性または血栓塞栓性脳卒中とも呼ばれる)は、心房細動によって引き起こされる場合がある。好ましくは、AFに関連する脳卒中は、経口抗凝固によって予防することができる。また好ましくは、試験される被験者が心房細動に罹患している、および/またはその既知の病歴を有する場合、脳卒中は心房細動に関連していると見なされる。また、一実施形態では、被験者が心房細動に罹患している疑いがある場合、脳卒中は心房細動に関連していると見なすことができる。
【0142】
「脳卒中」という用語は、好ましくは、出血性脳卒中を含まない。
【0143】
有害事象(脳卒中など)を予測する前述の方法の好ましい一実施形態では、試験される被験者は、心房細動に罹患している。より好ましくは、被験者は、心房細動の既知の病歴を有する。有害事象を予測するための方法によれば、被験者は、好ましくは永続性心房細動、より好ましくは持続性心房細動、そして最も好ましくは発作性心房細動に罹患している。
【0144】
有害事象を予測する方法の一実施形態では、心房細動に罹患している被験者は、サンプルが得られるときに心房細動のエピソードを経験する。有害事象を予測する方法の別の実施形態では、心房細動に罹患している被験者は、サンプルが得られるときに心房細動のエピソードを経験しない(したがって、正常な洞調律を有するものとする)。さらに、リスクが予測される被験者は、抗凝固療法を受けている場合がある。
【0145】
有害事象を予測する方法の別の実施形態では、試験される被験者は、心房細動の既知の病歴を有していない。特に、被験者は心房細動に罹患していないことが想定される。
【0146】
本発明の方法は、個別化医療を支援することができる。好ましい実施形態では、被験者の脳卒中のリスクを予測する方法は、該被験者が脳卒中に罹患するリスクがあると識別された場合に、i)抗凝固療法を推奨するステップ、またはii)抗凝固療法の強化を推奨するステップをさらに含む。
【0147】
別の好ましい一実施形態では、被験者の脳卒中のリスクを予測する方法は、(本発明の方法によって)被験者が脳卒中に罹患するリスクがあると識別された場合、i)抗凝固療法を開始するステップ、またはii)抗凝固療法を強化するステップをさらに含む。
【0148】
試験被験者が抗凝固療法を受けている場合、および(本発明の方法によって)被験者が脳卒中に罹患するリスクがないと識別された場合、抗凝固療法の投与量を減らすことができる。したがって、投与量を減らすことが推奨される場合がある。投与量を減らすことで、副作用(出血等)に罹患するリスクが減る可能性がある。
【0149】
本明細書で使用される「推奨する」という用語は、被験者に適用できる治療法の提案を確立することを意味する。しかしながら、実際の治療法を適用することは、どんなものであれ、この用語に含まれないことを理解されたい。推奨される治療法は、本発明の方法によって提供される結果に依存する。
【0150】
特に、以下が適用される。
【0151】
試験される被験者が抗凝固療法を受けていない場合、被験者が脳卒中に罹患するリスクがあると識別されていれば、抗凝固療法の開始が推奨される。したがって、抗凝固療法を開始するものとする。
【0152】
試験される被験者がすでに抗凝固療法を受けている場合、被験者が脳卒中に罹患するリスクがあると識別されていれば、抗凝固療法の強化が推奨される。したがって、抗凝固療法を強化するものとする。
【0153】
好ましい一実施形態では、抗凝固療法は、抗凝固剤の投与量、すなわち現在投与されている凝固剤の投与量を増やすことにより強化される。
【0154】
特に好ましい一実施形態では、現在投与されている抗凝固剤のより効果的な抗凝固剤への置き換えを増やすことにより、抗凝固療法が強化される。したがって、抗凝固剤の置き換えが推奨される。
【0155】
Hijazi at al.,The Lancet 2016 387,2302-2311,(
図4)に示されているように、高リスク患者のより良い予防は、ビタミンK拮抗薬であるワルファリンと比較して経口抗凝固剤アピキサバンで達成されることが記載されている。
【0156】
したがって、試験される被験者は、ワルファリンまたはジクマロール等のビタミンK拮抗薬で治療される被験者であることが想定される。被験者が脳卒中に罹患するリスクがあると(本発明の方法により)識別された場合、ビタミンK拮抗薬を経口抗凝固剤、特にダビガトラン、リバーロキサバンまたはアピキサバンにより置き換えることが推奨される。ビタミンK拮抗薬による治療法が中止されることにより、経口抗凝固剤による治療法が開始される。
【0157】
心電図検査(ECG)を受けるべき被験者を識別する方法
本発明の方法のこの実施形態によれば、バイオマーカーで試験される被験者が、心電図検査(ECG)、すなわち心電図検査の判定を受けるべきかどうかが判定されるものとする。当該判定は、当該被験者において、診断のために、すなわち、AFの欠如の存在を検出するために実施されるものとする。
【0158】
本明細書で使用される「被験者を識別する」という用語は、好ましくは、被験者を識別するために、ECGを受ける被験者のサンプル中のFGFBP-1の量(および任意に、少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量)に関して生成された情報またはデータを使用することを指す。識別された被験者は、AFに罹患している可能性が高くなる。ECG判定は確認として行われる。
【0159】
心電図検査(略してECG)は、適切なECGによって心臓の電気的活動を記録するプロセスである。ECGデバイスは、心臓によって生成され、体全体から皮膚に広がる電気信号を記録する。電気信号の記録は、試験被験者の皮膚をECGデバイスに含まれる電極と接触させることによって達成される。記録を取得するプロセスは、非侵襲的でリスクがない。ECGは、心房細動の診断のために、すなわち、試験被験者において心房細動がないことの判定のために実施される。本発明の方法の実施形態では、ECGデバイスは、単極誘導デバイス(単極誘導手持型ECGデバイス等)である。別の好ましい実施形態では、ECGデバイスは、ホルターモニター等の12誘導ECGデバイスである。
【0160】
好ましくは、基準量(複数の場合がある)と比較して増加した試験被験者からのサンプル中のある量のFGFBP-1(および任意に、ESM-1、Ang-2、IGFBP7および/またはナトリウム利尿ペプチド等のある量の少なくとも1種のさらなるバイオマーカー)はECGを受けるべき被験体を示し、および/または基準量(複数の場合がある)と比較して減少している被験者からのサンプル中のある量のFGFBP-1(および任意に、ESM-1、Ang-2、IGFBP7および/またはナトリウム利尿ペプチド等のある量の少なくとも1種のさらなるバイオマーカー)は、ECGを受けなくてもよい被験者を示している。
【0161】
好ましい実施形態では、基準量は、ECGを受けるべき被験者とECGを受けなくてもよい被験者との区別を可能にしなければならない。好ましくは、当該基準量は所定の値である。
【0162】
心房細動の治療法の判定方法
本明細書で使用される場合、「心房細動の治療法を判定する」という用語は、好ましくは、心房細動を治療することを目的とする治療法の判定を指す。特に、治療法の有効性を判定するものとする。好ましい実施形態では、当該治療法は抗凝固療法である。したがって、本発明は、抗凝固療法を判定するための方法を包含する。
【0163】
判定される治療法は、心房細動を治療することを目的とする任意の治療法であり得る。好ましくは、当該治療法は、少なくとも1種の抗凝固剤の投与、リズムコントロール、レートコントロール、心臓除細動およびアブレーションからなる群から選択される。当該治療法は当技術分野でよく知られており、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるFuster V et al.Circulation 2011;123:e269-e367において概説されている。
【0164】
一実施形態では、治療法は、少なくとも1種の抗凝固剤の投与、すなわち抗凝固療法である。抗凝固療法は、好ましくは、上記被験者における抗凝固のリスクを低減することを目的とする治療法である。少なくとも1種の抗凝固剤を投与すること(すなわち、抗凝固療法)は、血液の凝固および関連する脳卒中を抑制または防止することを目的とする。
【0165】
好ましい一実施形態では、少なくとも1種の抗凝固剤は、ヘパリン、クマリン誘導体(すなわち、ビタミンK拮抗薬)、特にワルファリンまたはジクマロール、経口抗凝固剤、特にダビガトラン、リバーロキサバンまたはアピキサバン、組織因子経路阻害剤(TFPI)、アンチトロンビンIII、第IXa因子阻害剤、第Xa因子阻害剤、第Va因子と第VIIIa因子の阻害剤、およびトロンビン阻害剤(抗IIa型)からなる群から選択される。したがって、被験者は上記の少なくとも1種の薬剤を服用することが想定される。
【0166】
好ましい実施形態では、上記抗凝固剤は、ワルファリンまたはジクマロールなどのビタミンK拮抗薬である。ワルファリンまたはジクマロールなどのビタミンK拮抗薬は、安価であるが、不便で扱いにくく、また治療範囲において時間変動を伴う信頼性の低い治療が多いため、患者のコンプライアンスを改善する必要がある。NOAC(新しい経口抗凝固剤)は、直接第Xa因子阻害剤(アピキサバン、リバーロキサバン、ダレキサバン、エドキサバン)、直接トロンビン阻害剤(ダビガトラン)およびPAR-1拮抗薬(ボラパクサル、アトパキサール)を含む。
【0167】
別の好ましい実施形態では、抗凝固剤は経口抗凝固剤であり、特にアピキサバン、リバーロキサバン、ダレキサバン、エドキサバン、ダビガトラン、ボラパクサル、またはアトパキサールである。
【0168】
したがって、試験される被験者は、試験時(すなわち、サンプルを受け取る時)に、経口抗凝固剤またはビタミンK拮抗薬による治療法を受けている可能性がある。
【0169】
好ましい実施形態では、心房細動の治療法の判定は、当該治療法の監視である。この実施形態では、基準量は、好ましくは、以前に得られたサンプル(すなわち、ステップaの試験サンプルの前に得られたサンプル)におけるFGFBP-1の量である。
【0170】
任意に、本明細書でいう少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量は、FGFBP-1の量に加えて決定される。
【0171】
したがって、本発明は、被験者、好ましくは心房細動に罹患している被験者において、抗凝固療法を監視する方法等、心房細動の治療法を監視するための方法に関し、当該方法は、
(a)被験者からの第1のサンプルにおいて、バイオマーカーFGFBP-1(線維芽細胞成長因子結合タンパク質1)の量と、任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量とを決定するステップ、
(b)被験者からの第2のサンプルにおいて、バイオマーカーFGFBP-1(線維芽細胞成長因子結合タンパク質1)の量と、任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量とを決定するステップであって、当該第2のサンプルが上記第1のサンプルの後に得られたものである、決定するステップ、
(c)第1のサンプル中のFGFBP-1の量を上記第2のサンプル中のFGFBP-1の量と比較し、そして任意に、第1のサンプル中の上記少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量を、上記第2のサンプルにおける上記少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量と比較するステップ、
を含み、それにより、抗凝固療法などの治療法を監視する。
【0172】
上記方法の一施形態では、被験者は、心房細動に罹患している。上記の方法の他の実施形態では、被験者は心房細動に罹患していない。
【0173】
本明細書で使用される「監視する」という用語は、好ましくは、本明細書の他の場所で言及される治療法の効果を判定することに関する。したがって、治療法(抗凝固療法等)の有効性が監視される。
【0174】
前述の方法は、ステップc)で実施された比較ステップの結果に基づいて治療を監視するさらなるステップを含み得る。当業者によって理解されるように、リスクの予測は、通常、被験者の100%について正しいことを意図していない。ただし、この用語では、統計的に有意な被験者の部分を適切かつ正確に予測できる必要がある。したがって、実際の監視は、確認等のさらなるステップを含み得る。
【0175】
好ましくは、本発明の方法を実施することにより、被験者が上記治療法に反応するかどうかを判定することができる。被験者が第1のサンプルと第2のサンプルを取得する間に状態が改善した場合、被験者は治療に反応している。好ましくは、被験者は、第1のサンプルと第2のサンプルを取得する間に状態が悪化した場合、治療法に反応していない。
【0176】
あるいは、抗凝固療法に反応する被験者は、好ましくは、第1のサンプルと第2のサンプルを取得する間に脳卒中のリスクが減少する被験者である。抗凝固療法に反応しない被験者は、好ましくは、脳卒中のリスクが増加するか、または第1のサンプルと第2のサンプルを取得する間で変化しないままである被験者である。脳卒中のリスクが増加するか、減少するか、または変化しないままであるかどうかは、例えば、被験者の臨床的脳卒中リスクスコアを判定することによって決定することができる。好ましいスコアは、本明細書の他の場所に開示されている。
【0177】
好ましくは、第1のサンプルは、当該治療法の開始前に得られる。より好ましくは、サンプルを、1週間以内に、特に上記治療法の開始前の2週間以内に得る。しかしながら、第1のサンプルは、上記治療法の開始後(ただし、第2のサンプルが取得される前)に取得され得ることもまた企図される。この場合、進行中の治療法を監視する。
【0178】
したがって、第2のサンプルを第1のサンプルの後に取得するものとする。第2のサンプルは、上記治療法の開始後に得られるものであることを理解されたい。
【0179】
さらに、第2のサンプルは、第1のサンプルを取得した後、妥当な期間の後に取得されることが特に企図される。本明細書で言及されるバイオマーカーの量は、即座に(例えば、1分または1時間以内)変化しないことを理解されたい。したがって、この文脈における「妥当な」は、バイオマーカー(複数の場合がある)を調整することを可能にする間隔である第1および第2のサンプルを取得する間隔を指す。したがって、第2のサンプルを、好ましくは、当該第1のサンプルの少なくとも1ヶ月後、少なくとも3ヶ月、または特に、当該第1のサンプルの少なくとも6ヶ月後に得る。
【0180】
好ましくは、第1のサンプルのバイオマーカーの量と比較して、第2のサンプル中のバイオマーカー、すなわちFGFBP-1および任意にナトリウム利尿ペプチドの量(複数の場合がある)の減少、より好ましくは有意な減少、そして最も好ましくは統計的に有意な減少は、治療法に反応する被験者を示している。したがって、その治療法は効率的である。また、好ましくは、第1のサンプルにおけるバイオマーカー(複数の場合がある)の量(複数の場合がある)と比較して、第2のサンプルにおけるFGFBP-1の濃度の変化がないか、または濃度の増加、より好ましくは有意な増加、最も好ましくは統計的に有意な増加は、治療法に反応しない被験者を示している。したがって、その治療法は効率的ではない。
【0181】
「有意」および「統計的に有意」という用語は、当業者に知られている。したがって、増加または減少が有意であるか統計的に有意であるかは、様々な周知の統計評価ツールを使用して当業者によってさらに苦労することなく決定することができる。例えば、有意な増加または減少は、少なくとも10%、特に少なくとも20%の増加または減少である。
【0182】
治療法が心房細動の再発の被験者のリスクを低減する場合、被験者は通常、その治療法に応答すると見なされる。治療法が心房細動の再発の被験者のリスクを低減しない場合、被験者はその治療法に反応しないと見なされる。
【0183】
一実施形態では、被験者が治療法に応答しない場合、治療法の強度を増加させる。さらに、被験者が治療法に反応する場合、治療法の強度を低下させることが想定される。あるいは、被験者が治療法に反応した場合、その治療法を同じ強度で継続することができる。
【0184】
例えば、治療法の強度は、投与される薬剤の投与量を増やすことによって高めることができる。例えば、治療法の強度は、投与される薬剤の投与量を減らすことによって低下させることができる。これにより、出血等の望ましくない有害な副作用を回避できる可能性がある。同じ強度で治療法を継続する場合、投与される薬剤および投与量は変わらないままであってもよい。抗凝固療法の強度を高めることに関しては、例えば、被験者の抗凝固療法の有効性の判定に関連してなされた説明等、本明細書の他の場所でなされた説明を参照されたい。
【0185】
別の好ましい実施形態では、心房細動の治療法の判定は、心房細動の治療法のガイダンスである。本明細書で使用される「ガイダンス」という用語は、好ましくは、治療中のバイオマーカー、すなわちFGFBP-1の決定に基づいて、経口抗凝固の用量を増加または減少させる等、治療法の強度を調整することに関する。
【0186】
さらに好ましい実施形態では、心房細動の治療法の判定は、心房細動の治療法の層別化である。したがって、心房細動の特定の治療法に適格な被験者を識別するものとする。本明細書で使用される「層別化」という用語は、好ましくは、特定のリスク、識別された分子経路、および/または特定の薬物もしくは手順の予想される有効性に基づいて適切な治療法を選択することに関する。検出されたリスクに応じて、特に不整脈に関連する症状が最小限またはまったくない患者は、心拍数のコントロール、心臓除細動またはアブレーションに適格となり、そうでなければ抗血栓療法のみを受ける。
【0187】
本明細書での上記の定義および説明は、(特に明記されていない限り)以下について準用する。
【0188】
本発明はさらに、心房細動の判定を支援する方法であって
a)被験者から少なくとも1つのサンプルを提供するステップ、
b)ステップa)で提供される少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーFGFBP-1(線維芽細胞成長因子結合タンパク質1)の量と、任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量とを決定するステップ、ならびに
c)バイオマーカーFGFBP-1の決定された量、および任意に、少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの決定された量に関する情報を医師に提供するステップ、
を含み、それにより、心房細動の判定を支援する、方法に関する。
【0189】
医師は主治医、すなわちバイオマーカー(複数の場合がある)の決定を要求した医師でなければならない。上記方法は、心房細動の判定において主治医を支援するものとする。したがって、この方法は、心房細動を判定する方法に関連して上記で言及された診断、予測、監視、区別、識別を包含しない。
【0190】
サンプルを採取する上記方法のステップa)は、被験者からのサンプルの抽出を包含しない。好ましくは、上記被験者からサンプルを受け取ることによって、サンプルを得る。このように、サンプルを手渡すことができる。
【0191】
一実施形態では、上記の方法は、脳卒中の予測を支援する方法であって、
a)心房細動を判定する方法に関連して、特に心房細動を予測する方法に関連して、本明細書でいう被験者からの少なくとも1つのサンプルを提供するステップ、
b)バイオマーカーFGFBP-1の量と、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量とを決定するステップ、
c)決定された量のバイオマーカーFGFBP-1に関する情報、および任意に、決定された量の少なくとも1種のさらなるバイオマーカーに関する情報を医師に提供するステップ、
を含み、それにより、脳卒中の予測を支援する、方法である。
【0192】
本発明はさらに、
a)バイオマーカーFGFBP-1に対するアッセイと、任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1種のさらなるバイオマーカーに対するさらなるアッセイとを提供すること、ならびに
b)心房細動の判定における当該アッセイ(複数の場合がある)によって得られた、または得ることができるアッセイ結果の使用に関する指示を提供すること、
を含む、方法に関する。
【0193】
前述の方法の目的は、好ましくは、心房細動の判定を支援することである。
【0194】
本明細書に記載されるように、上記指示は、心房細動を判定する方法を実行するためのプロトコルを含むものとする。さらに、指示には、FGFBP-1の基準量の少なくとも1つの値と、任意に、ナトリウム利尿ペプチドの基準量の少なくとも1つの値が含まれているものとする。
【0195】
「アッセイ」は、好ましくは、バイオマーカーの量を決定するために適合されたキットである。「キット」という用語については、以下で説明する。例えば、当該キットは、バイオマーカーFGFBP-1に対する少なくとも1種の検出剤、ならびに任意に、ナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する薬剤、ESM-1に特異的に結合する薬剤、Ang2に特異的に結合する薬剤およびIGFBP7に特異的に結合する薬剤からなる群から選択される少なくとも1種のさらなる薬剤を備えるものとする。したがって、1~4種の検出剤が存在し得る。1~4種のバイオマーカーの検出剤は、1つのキットまたは別々のキットで提供され得る。
【0196】
上記試験によって得られた、または得ることができる試験結果は、バイオマーカー(複数の場合がある)の量の値である。
【0197】
一実施形態では、ステップb)は、(本明細書の他の箇所で記載されるように)脳卒中の予測における上記試験(複数の場合がある)によって得られた、または得ることができる試験結果を使用するための指示を提供することを含む。
【0198】
本発明はさらに、心房細動を判定するためのコンピュータ実装方法であって、
a)処理ユニットで、FGFBP-1の量の値と、任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量の少なくとも1つのさらなる値とを受け取ることであって、ここで、当該FGFBP-1の量、および任意に、少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量が、被験者からのサンプルにおいて決定されている、受け取ること、
b)当該処理ユニットによって、ステップ(a)で受け取った値(複数の場合がある)を基準(複数の場合がある)と比較すること、ならびに
c)当該比較ステップb)に基づいて心房細動を判定すること、
を含む、方法も包含される。
【0199】
上記の方法は、コンピュータ実装方法である。好ましくは、コンピュータ実装方法の全てのステップは、コンピュータ(またはコンピュータネットワーク)の1以上の処理ユニットによって実行される。したがって、ステップ(c)の判定は、処理ユニットによって実行される。好ましくは、当該判定は、ステップ(b)の結果に基づく。
【0200】
ステップ(a)で受け取った値(複数の場合がある)は、本書の他の場所で説明されているように、被験者からのバイオマーカーの量の決定から導き出されるものとする。好ましくは、値は、バイオマーカーの濃度の値である。値は通常、値を処理ユニットにアップロードまたは送信することによって処理ユニットによって受信される。あるいは、ユーザーインターフェースを介して値を入力することにより、処理ユニットが値を受け取ることができる。
【0201】
前述の方法の一実施形態では、ステップ(b)に示される基準(複数の場合がある)は、メモリから確立される。好ましくは、基準の値はメモリから確立される。
【0202】
本発明の前述のコンピュータ実装方法の実施形態では、ステップc)で行われる判定の結果は、結果を提示するように構成されたディスプレイを介して提供される。
【0203】
本発明の前述のコンピュータ実装方法の実施形態では、この方法は、ステップc)で行われた判定に関する情報を被験者の電子医療記録に転送するさらなるステップを含み得る。
脳卒中の予測方法
【0204】
上記のように、本明細書でいうバイオマーカーの決定は、心房細動に関連する脳卒中のリスク等の(ただしこれらに限定されない)脳卒中のリスクの予測を可能にする。
【0205】
本発明の基礎となる研究では、FGFBP-1(および、本明細書でいうさらなるバイオマーカー)の決定により、被験者の臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善できることがさらに示されている。したがって、臨床的脳卒中リスクスコアの決定とFGFBP-1の決定を組み合わせることにより、単独のFGFBP-1の決定または臨床的脳卒中リスクスコアの決定と比較して、脳卒中のより信頼性の高い予測が可能になる。
【0206】
したがって、脳卒中のリスクを予測するための方法は、FGFBP-1の量と臨床的脳卒中リスクスコアの組み合わせをさらに含んでもよい。FGFBP-1の量および臨床的リスクスコアの組み合わせに基づいて、試験被験者の脳卒中のリスクが予測される。
【0207】
前述の方法の一実施形態では、この方法は、FGFBP-1の量と基準量との比較をさらに含む。この場合、比較の結果は臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わされる。
【0208】
したがって、本発明は、特に、被験者の脳卒中のリスクを予測する方法であって、
a)患者に由来するサンプル中のFGFBP-1の量を決定するステップ、および
b)FGFBP-1の量の値を臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせるステップ、
を含み、それにより、当該被験者の脳卒中のリスクを予測する、方法に関する。
【0209】
本発明の方法によれば、被験者は、既知の臨床的脳卒中リスクスコアを有する被験者であることが想定される。したがって、臨床的脳卒中リスクスコアの値は、被験者について既知である。
【0210】
好ましい実施形態では、前述の方法のステップa)およびb)は以下の通りである:
a)被験者からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーFGFBP-1の量と、任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量とを決定することであって、被験者が既知の臨床的脳卒中リスクスコアを有する、決定すること、ならびに
b)FGFBP-1の量および/またはナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、Ang2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量の値を、臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせること、であって、それにより、当該被験者の脳卒中リスクが予測される。
【0211】
あるいは、本方法は、臨床的脳卒中リスクスコアの値を取得することまたは提供することを含んでもよい。
【0212】
好ましくは、上記値は数値である。一実施形態では、臨床的脳卒中リスクスコアは、医師が利用できる臨床ベースのツールの1つによって生成される。好ましくは、その値は、被験者の臨床的脳卒中リスクスコアの値を決定することによって提供されたものである。より好ましくは、値は、その被験者の患者記録データベースおよび病歴から得られる。したがって、上記スコアの値は、被験者の病歴または公開データを使用して決定することもできる。
【0213】
本発明によれば、FGFBP-1(および任意に、さらなるマーカー)の量を、臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせる。これは、好ましくは、FGFBP-1の量の値を臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせることを意味する。したがって、これらの値は、被験者が脳卒中に罹患するリスクを予測するために機能的に組み合わされる。これらの値を組み合わせることにより、単一の値を計算でき、それ自体を予測に使用することができる。
【0214】
臨床的脳卒中リスクスコアは、当該技術分野において周知である。例えば、上記のスコアは、Kirchhof P.et al.,(European Heart Journal 2016;37:2893-2962)に記載されており、開示内容全体が参照することで本明細書に組み込まれる。一実施形態では、上記スコアは、CHA2DS2-VAScスコアである。別の実施形態では、上記スコアは、CHADS2スコア(Gage BF.Et al.,JAMA,285(22)(2001),pp.2864-2870)およびABCスコア(Hijazi Z et al.,Lancet 2016;387(10035):2302-2311)である。
【0215】
本発明の方法はまた、臨床リスクスコアを判定するステップを含み得る。したがって、脳卒中に罹患するリスクは、
(a)被験者からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーFGFBP-1の量と、任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量とを決定すること、
(b)当該被験者の臨床的脳卒中リスクスコアを判定すること、ならびに
(c)ステップa)およびb)の結果に基づいて、脳卒中のリスクを予測すること、
によって予測される。
【0216】
臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善する方法
本発明はさらに、被験者の臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善する方法であって、
a)サンプル中のFGFBP-1の量を決定するステップ、
b)FGFBP-1の量の値を臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせるステップ、
を含み、それにり、当該臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度が改善される、方法に関する。
【0217】
この方法は、c)ステップb)の結果に基づいて、当該臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度が改善されるさらなるステップを含んでもよい。
【0218】
好ましい実施形態では、前述の方法のステップa)およびb)は以下の通りである:
c)被験者からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーFGFBP-1の量と、任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1種のさらなるバイオマーカーの量とを決定することであって、被験者が既知の臨床的脳卒中リスクスコアを有する、決定すること、ならびに
d)FGFBP-1の量および/またはナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、Ang2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量の値を、臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせること。それにより、当該臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度が改善される。
【0219】
本明細書での上記の定義および説明は、心房細動の判定方法、特に有害事象(脳卒中など)のリスクを予測する方法に関連して、好ましくは、上述の方法にも適用され、なお、例えば、被験者は、既知の臨床的脳卒中リスクスコアを有する被験者であることが想定される。あるいは、本方法は、臨床的脳卒中リスクスコアの値を取得することまたは提供することを含んでもよい。
【0220】
本発明によれば、FGFBP-1の量は、臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わされる。これは、好ましくは、FGFBP-1の量の値を臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせることを意味する。その結果、これらの値を機能的に組み合わせて、当該臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善させる。
【0221】
さらに、本発明は(特にin vitroでの使用、例えば、被験者からのサンプルにおける)使用であって、a)心房細動の判定、b)被験者の脳卒中のリスクの予測、およびc)臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度の改善のための、
i)バイオマーカーFGFBP-1と、任意に、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1種のさらなるバイオマーカー、および/または
ii)FGFBP-1に特異的に結合する少なくとも1種の薬剤と、任意に、ナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する薬剤、ESM-1に特異的に結合する薬剤、Ang2に特異的に結合する薬剤、およびIGFBP7に特異的に結合する薬剤からなる群から選択される少なくとも1種のさらなる薬剤、
のin vitroでの使用に関する。
【0222】
好ましくは、上述の使用は、in vitroでの使用である。さらに、検出剤は、好ましくは、モノクローナル抗体(またはその抗原結合断片)などの抗体である。
【0223】
本発明はまた、さらに、キットに関する。一実施形態では、本発明のキットは、FGFBP-1に特異的に結合する薬剤と、ナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する薬剤、ESM-1に特異的に結合する薬剤、Ang2に特異的に結合する薬剤、およびIGFBP7に特異的に結合する薬剤からなる群から選択される少なくとも1種のさらなる薬剤と、を備える。
【0224】
好ましくは、当該キットは、本発明の方法、すなわち心房細動を判定するための方法を実施するために適合されている。任意に、当該キットは、当該方法を実施するための指示を備えている。
【0225】
本明細書で使用される「キット」という用語は、好ましくは、別個にまたは単一の容器内に提供される、前述の構成要素の集合を指す。容器はまた、本発明の方法を実施するための指示を備えている。これらの指示は、マニュアルの形式であってもよく、または本発明の方法で言及される計算および比較を実行し、それに応じてコンピュータまたはデータ処理装置で実装されるときに判定もしくは診断を確立することができるコンピュータ・プログラム・コードによって提供され得る。コンピュータ・プログラム・コードは、光記憶媒体(例えば、コンパクトディスク)等のデータ記憶媒体若しくは装置上に、またはコンピュータ若しくはデータ処理装置に直接提供されてもよい。さらに、キットは、好ましくは、較正目的のため、バイオマーカーFGFBP-1の基準量を備え得る。好ましい実施形態では、キットは、較正の目的で、本明細書でいう少なくとも1種のさらなるバイオマーカー(ナトリウム利尿ペプチド、またはESM-1等)の基準量をさらに含む。
【0226】
一実施形態では、当該キットは、心房細動を判定するため、またはin vitroでリスクを予測するために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0227】
図面は以下を示す:
【
図1】マッピング研究におけるFGFBP1の測定:探索的AFibパネル:開胸手術、および持続性AFまたはSRの心外膜マッピングを受けている心房細動の病歴のある患者(マッピング研究)。循環FGFBP1レベルを判定した。左側の箱ひげ図は、SR患者および持続性AF患者のFGFBP-1分布を示す。右側のROCは、SRの患者と持続性AF患者を区別するFGFBP-1の診断能力を示す。
【
図2】脳卒中FGFBP1のリスクの予測(ビートAF研究):
図2は、FGFBP1の力価の上昇が脳卒中のリスクの増加に関連していることを示す。FGFBP1は、いくつかの臨床リスクスコアのC指数を改善した。
図2は、FGFBP-1値<=35対>35 NPXを持つことによって定義される、2つの群における脳卒中を伴わない生存を示す。
【実施例】
【0228】
本発明は、以下の実施例によって単に例示されるものである。上記実施例は、いかなる場合でも、本発明の範囲を限定する方法で解釈されないものとする。
【0229】
実施例1:循環FGFBP-1によるAFの判定
開胸手術を受けている患者に関連するマッピング研究。サンプルを麻酔および手術の前に得た。患者を、多電極アレイを使用した高密度心外膜マッピング(高密度マッピング)を使用して電気生理学的に特徴付けた。
【0230】
循環FGFBP-1レベルを、可能な限り最も合致させた(年齢、性別、併存疾患)、持続性心房細動患者16名および対照30名で決定した。FGFBP-1を、マッピング研究のサンプルで測定した。
【0231】
測定を、洞調律(SR)の患者30名と持続性心房細動(持続性AF)の患者16名で行った。
【0232】
図1は、SR(AUC 0.70)の患者と比較して、持続性AFの患者でFGFBP-1が有意に上昇していることを示している。したがって、FGFBP-1は持続性AFの診断を支援するために使用することができる。FGFBP-1値の上昇は、持続性AFの可能性が高いことを示す。
【0233】
実施例2:脳卒中の予測
循環FGFBP-1の脳卒中の発症リスクを予測する能力を、心房細動が確認された患者の前向き多施設登録において判定した(Conen D.,Forum Med Suisse 2012;12:860-862)。FGFBP-1を、Borgan(2000)に記載されている層別ケースコホートデザインを使用して測定した。
【0234】
フォローアップ(「イベント」)中に脳卒中を経験した70名の患者のそれぞれについて、1名の一致した対照を選択した。対照を、年齢、性別、高血圧の病歴、心房細動の種類、心不全の病歴(CHFの病歴)の人口統計学的および臨床的情報に基づいて一致させた。
【0235】
FGFBP-1の結果は、イベントのある67名の患者およびイベントのない66名の患者で利用可能であった。FGFBP-1をOlinkプラットフォームを使用して測定したため、絶対濃度値を利用可能であり、報告することができる。結果は任意の信号スケール(NPX)で報告される。
【0236】
FGFBP-1の一変量予後値を定量化するために、比例ハザードモデルを転帰脳卒中(outcome stroke)で使用した。FGFBP-1の一変量予後パフォーマンスを、FGFBP-1によって提供される予後情報の2つの異なる組み込みによって判定した。最初の比例ハザードモデルには、中央値(35NPX)で二値化されたFGFBP-1が含まれていたため、FGFBP-1が中央値以下の患者と、FGFBP-1が中央値を超える患者のリスクを比較した。
【0237】
2番目の比例ハザードモデルは、元のFGFBP-1レベルを含んだが、log2スケールに変換した。log2変換をモデル較正を改善するために実行した。
【0238】
症例対照コホートのナイーブ比例ハザードモデルからの推定値にはバイアスがかかるため(症例と対照の比率が変化するため)、加重比例ハザードモデルを使用した。加重は、Mark(2006)で説明されているように、症例対照コホートに選択される各患者の逆確率に基づいている。
【0239】
二分されたベースラインFGFBP-1測定(<=35 NPX対>35 NPX)に基づいて、2つの群の絶対生存率の推定値を取得するために、Mark(2006)で説明されているようにカプランマイヤープロットの加重バージョンを作成した。FGFBP-1の予後値が、既知の臨床的および人口統計学的リスク因子から独立しているかどうかを判断するために、変数である年齢、性別、CHF病歴、高血圧の病歴、脳卒中/TIA/血栓塞栓症の病歴、血管疾患の病歴、および糖尿病の病歴を追加して含む、加重比例コックスモデルを計算した。
【0240】
脳卒中の予後に関する既存のリスクスコアを改善するFGFBP-1の能力を判定するために、CHADS2、CHA2DS2-VAScおよびABCスコアをFGFBP-1(log2変換)によって拡張した。拡張を、FGFBP-1およびそれぞれのリスクスコアを独立変数として含む部分ハザードモデルを作成することによって行った。
【0241】
CHADS2およびCHA2DS2-VAScおよびABCスコアのc指標を、これらの拡張モデルのc指標と比較した。ケースコホート設定でのc指標の計算には、Ganna(2011)で提案されているようにc指標の加重バージョンを使用した。
【0242】
結果
表1は、2値化またはlog2変換されたFGFBP-1を含む、2つの一変量加重比例ハザードモデルの結果を示す。脳卒中を経験するリスクとFGFBP-1のベースライン値との関連は、両モデルともに非常に有意である。
【0243】
2値化されたFGFBP-1のハザード比は、ベースラインFGFBP-1>=35NPXの患者群は、ベースラインFGFBP-1<35NPX患者群に対して、脳卒中のリスクが1.38倍高くなることを意味する。これは、脳卒中イベントが発生するまで生存する確率を経時的に示すカプランマイヤー曲線を示す
図2にも示されている。
【0244】
ただし、p値が0.05を超えるとき、この場合は、2値化が最適ではないことを示している可能性がある。
【0245】
log2変換線形リスク予報値として、FGFBP-1を含む比例ハザードモデルの結果は、log2変換値FGFBP-1が脳卒中を経験するリスクに比例することを示唆する。ハザード比2.67は、FGFBP-1の2倍の増加が、脳卒中のリスクの2.67の増加に関連すると解釈され得る。
【表1】
【0246】
表2は、臨床的および人口統計学的変数を組み合わせたFGFBP-1(log2変換)を含む、比例ハザードモデルの結果を示す。これは、関連する臨床的および人口統計学的変数の予後効果を調整すると、FGFBP-1の予後効果が依然として安定であることを明確に示している。
【表2】
【0247】
表3は、CHADS
2スコアに、FGFBP-1(log2変換)を組み合わせた、加重比例ハザードモデルの結果を示す。また、このモデルでは、FGFBP-1は、予後情報をCHADS
2スコアに追加できる。
【表3】
【0248】
表4は、CHA
2DS
2-VAScスコアに、FGFBP-1(log2変換)を組み合わせた、加重比例ハザードモデルの結果を示す。また、このモデルでは、FGFBP-1は、予後情報をCHA
2DS
2-VAScスコアに追加できる。
【表4】
【0249】
表5は、ABCスコアに、FGFBP-1(log2変換)を組み合わせた、加重比例ハザードモデルの結果を示す。また、このモデルでは、FGFBP-1は、予後情報をリスクスコアに追加できる。
【表5】
【0250】
表6は、ケースコホート研究の選択に対する、FGFBP-1単独、CHADS2、CHA2DS2-VASc、ABCスコア、およびCHADS2、CHA2DS2-VASc、ABCスコアとFGFBP-1(log2)を組み合わせた加重比例ハザードモデルの推定c指標を示す。
【0251】
FGFBP-1を追加すると、3つのリスクモデル全てのc指標が改善されることがわかる。改善は、CHADS2、CHA2DS2-VASc、ABCスコアでそれぞれ0.040、0.025、0.042である。
【0252】
表6は、ケースコホート選択に対する、NTproBNP単独、ESM-1単独、Ang-2単独、IGFBP-7単独、CHA2DS2-VAScスコア、およびCHA2DS2-VAScスコアとNTproBNP(log2)、ESM-1(log2)、ANG-2(log2)、IGFBP-7(log2)とを組み合わせた加重比例ハザードモデルの推定c指標を示す。全てのバイオマーカーを追加すると、CHA2DS2-VAScスコアのc指標が改善することがわかる。CHA2DS2-VAScスコアの改善は、NTproBNP、ESM-1、Ang-2、IGFBP-7で0.002、0.064、0.036、0.006である。
【0253】
これに関連して、FGFBP1が確立されたマーカー(NTproBNPおよびChadsVasc)とならんでESM-1との相関が低いことは興味深い:a)FGFBP1対NTproBNP相関係数=0.04、b)FGFBP1対ESM1相関係数=0.31、c)FGFBP1対CHADsVASc。相関係数=0.05。これらのデータは、FGFBP1が補足情報を提供し、FGFBP1および/またはNTproBNPおよび/またはESM1および/またはCHADsVAScマーカーの組み合わせが、各マーカー単独と比較して脳卒中のリスクが高い患者の検出を改善する可能性があることを示唆している。
【表6】
【0254】
症例研究
心房細動のない患者でも虚血性脳卒中のリスクを知り、減らすことの関心が高まっている(Yao X et al,Am Heart J.2018;199:137-143)。例えば、脳卒中リスクを予測することは、脳卒中リスクの高いこれらの患者を識別し、経口抗凝固療法を用いた薬物研究に含めることにより、最適な治療戦略 を確立するために不可欠である。例えば、CHA2DS2-VAScスコアは、心房細動のない患者でも虚血性脳卒中の発生率を予測するが、絶対イベント率は低くなる(Mitchell LB et al,Heart.2014;100:1524-30)。したがって、FGFBP-1等のバイオマーカーが治療法の必要性およびOACの有効性を判定することを支援するように、心房細動のないこれらの患者が経口抗凝固療法(OAC)を受けるべきかどうか、およびどのCHA2DS2-VAScスコアで受けるべきか、またどの用量で受けるべきかは明確ではない。
【0255】
高血圧で心房細動の病歴のない76歳の女性患者が洞調律を示す。FGFBP-1を、患者から採取したEDTA血漿サンプルにおいて測定する。CHA2DS2-VAScスコア(高齢および高血圧)の臨床情報は、特定の脳卒中リスクを示しており、加えてFGFBP-1値は基準値を上回っている。力価の上昇は、脳卒中のリスクが高いことを示している。結果として、患者は抗凝固療法が認められる。
【0256】
心房細動の病歴のない65歳の男性患者が、診療所での診察を求める。洞調律を示すが、構造的心臓病と診断されている。脳卒中の病歴と全体的なCHA2DS2-VAScスコアが高いため、患者はすでに低用量で直接経口抗凝固療法を受けている。現在の脳卒中リスクを決定し、最終的な治療法の変更を結論付けるために、FGFBP-1を患者から得られた血清サンプルで測定する。観察されたFGFBP-1値は基準値を上回っている。FGFBP-1力価および他のリスクパラメータ(脳卒中の病歴)の上昇は脳卒中の残余リスクが高いことを示し、これは出血リスク(他の臨床情報で判定)よりも高い。結果として、抗凝固療法の投与量が増加される。
【0257】
糖尿病および駆出率の低下を伴う心不全の68歳の肥満女性患者が、息切れの急性症状を示している。以前の通院では、この患者は心房細動の病歴がない。全体的なCHA2DS2-VAScリスクスコアが高いことにより、医師はAFibがない場合でも経口抗凝固療法(低用量)を開始することを決定した。FGFBP-1レベルを、抗凝固療法の開始前後に測定する。患者は現在、抗凝固療法が効果的で、まだ必要なのかを疑問に思っている。脳卒中の現在のリスクを特定するために、患者から得られたEDTAサンプルにおいてFGFBP-1を測定する。観察されたFGFBP-1値は、基準値を下回り、治療開始と比較して低くなっている。FGFBP-1力価の低下は、効果的な抗凝固療法を示している。結果として、抗凝固療法が維持される。