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特許7451503モータサイクル用の自動制御されたブレーキ・バイ・ワイヤ式ブレーキシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】モータサイクル用の自動制御されたブレーキ・バイ・ワイヤ式ブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/34 20060101AFI20240311BHJP
   B60T 13/122 20060101ALI20240311BHJP
   B60T 13/138 20060101ALI20240311BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20240311BHJP
   B62L 3/00 20060101ALI20240311BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
B60T8/34
B60T13/122 A
B60T13/138 A
B60T13/74 G
B62L3/00 A
B60T8/17 B
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021515080
(86)(22)【出願日】2019-09-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 IB2019057769
(87)【国際公開番号】W WO2020058819
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-08-30
(31)【優先権主張番号】102018000008726
(32)【優先日】2018-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】521259127
【氏名又は名称】ブレンボ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
【氏名又は名称原語表記】BREMBO S.p.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(72)【発明者】
【氏名】ルカ・カッペレッティ
(72)【発明者】
【氏名】サムエレ・マッツォレーニ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア・ベッローニ
【審査官】宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/116265(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0188018(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03178712(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/34
B60T 13/122
B60T 13/138
B60T 13/74
B62L 3/00
B60T 8/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物用のブレーキシステム(4)であって、該ブレーキシステム(4)は、
レバー又はペダルによって操作可能で、かつ、前記乗物の前車軸(16)に設けられた第1のブレーキ装置(12)及び/又は前記乗物の後車軸(22)に設けられた第2のブレーキ装置(20)に選択的に接続可能で、前記第1のブレーキ装置(12)及び前記第2のブレーキ装置(20)のそれぞれがブレーキディスク又はブレーキドラム(14)に作用する、第1のマニアルアクチュエータ装置(8)を有し、
前記第1のマニアルアクチュエータ装置(8)は、制御弁(32)によって前記第1のブレーキ装置(12)又は前記第2のブレーキ装置(20)の油圧入力回路(28)に選択的に接続される油圧供給回路(24)が設けられ、
前記制御弁(32)は、油圧に関して前記第1のマニアルアクチュエータ装置(8)を前記第1のブレーキ装置(12)及び前記第2のブレーキ装置(20)から切り離した操作位置と、油圧に関して前記前記第1のマニアルアクチュエータ装置(8)を前記第1のブレーキ装置(12)及び前記第2のブレーキ装置(20)の少なくとも一方に接続する電気故障位置に位置付けされており、
前記ブレーキシステム(4)はさらに、
前記第1のブレーキ装置(12)及び前記前記第2のブレーキ装置(20)の前記油圧入力回路(28)と流体接続可能な、電気油圧式自動アクチュエータ装置(36)と、
前記油圧入力回路(28)を具備しない前記第1のブレーキ装置(12)又は前記第2のブレーキ装置(20)に関連付けられた電気機械式自動アクチュエータ装置(40)を備えており、
前記電気油圧式自動アクチュエータ装置(36)は前記乗物の前記前車軸(16)に関連付けされ、前記電気機械式自動アクチュエータ装置(40)は前記乗物の前記後車軸(22)に関連付けされるか、又は、前記電気油圧式自動アクチュエータ装置(36)は前記乗物の前記後車軸(22)に関連付けされ、前記電気機械式自動アクチュエータ装置(40)は前記乗物の前記前車軸(16)に関連付けされており、
前記ブレーキシステム(4)はさらに、
前記制御弁(32)、前記電気油圧式自動アクチュエータ装置(36)、前記電気機械式自動アクチュエータ装置(40)及び前記第1のマニアルアクチュエータ装置(8)に動作上接続されており、前記第1のマニアルアクチュエータ装置(8)の前記操作位置又は前記電気故障位置にしたがって、又は、前記乗物の動作状態にしたがって、前記電気油圧式自動アクチュエータ装置(36)、電気機械式自動アクチュエータ装置(40)及び前記制御弁(32)を操作する、一つの制御ユニット(44)、を備えた乗物用ブレーキシステム(4)。
【請求項2】
前記電気油圧式自動アクチュエータ装置(36)は、前記後車軸(22)に配置された前記第2のブレーキ装置(20)の前記油圧入力回路(28)に接続され、
前記電気機械式自動アクチュエータ装置(40)は、前記前車軸(16)に配置された前記第1のブレーキ装置(12)に接続された、請求項1の乗物用ブレーキシステム(4)。
【請求項3】
前記電気油圧式自動アクチュエータ装置(36)は、前記前車軸(16)に配置された前記第1のブレーキ装置(12)の前記油圧入力回路(28)に接続され、
前記電気機械式自動アクチュエータ装置(40)は、前記後車軸(22)に配置された前記第2のブレーキ装置(20)に接続された、請求項1の乗物用ブレーキシステム(4)。
【請求項4】
前記制御弁(32)は前記電気油圧式自動アクチュエータ装置(36)の上流側に配置されており、
前記油圧供給回路(24)からの流体は、前記油圧入力回路(28)に流体接続された電気油圧式自動アクチュエータ装置(36)の輸送室(48)に流れ込む、請求項1の乗物用ブレーキシステム(4)。
【請求項5】
前記制御弁(32)は、前記電気油圧式自動アクチュエータ装置(36)の下流で、前記油圧入力回路(28)の上流に配置されている、請求項1~3のいずれかに記載の乗物用ブレーキシステム(4)。
【請求項6】
前記制御弁(32)は、前記油圧入力回路(28)を前記油圧供給回路(24)又は前記電気油圧式自動アクチュエータ装置(36)の輸送室(48)に流体接続するように、前記制御ユニット(44)によって制御される、請求項5に記載の乗物用ブレーキシステム(4)。
【請求項7】
前記制御弁(32)は第1の逆止弁(52)と第2の逆止弁(56)が設けられ、
前記第1の逆止弁(52)は、前記電気油圧式自動アクチュエータ装置(36)の中の残圧を排出し、
前記第2の逆止弁(56)は、ブレーキ流体容器(60)に接続されて該ブレーキ流体容器(60)に流体を充填する機能を有する、請求項1~6のいずれかに記載の乗物用ブレーキシステム(4)。
【請求項8】
前記第1のブレーキ装置(12)及び前記第2のブレーキ装置(20)の少なくとも一つは、前記乗物のパーキング用に構成された電気パーキングブレーキ装置(100)が設けられている、請求項1~7のいずれかに記載の乗物用ブレーキシステム(4)。
【請求項9】
前記第1のブレーキ装置(12)及び前記第2のブレーキ装置(20)のそれぞれは、前記乗物のパーキング用に構成された電気パーキングブレーキ装置(100)が設けられている、請求項1~8のいずれかに記載の乗物用ブレーキシステム(4)。
【請求項10】
前記第1のマニアルアクチュエータ装置(8)は、レバー及び/又はペダルによって操作され、遮断弁(58)を介して受動シミュレータ(64)に接続されており、
前記遮断弁(58)は、前記第1のマニアルアクチュエータ装置(8)を前記受動シミュレータ(64)に選択的に切離する、請求項1~9のいずれかに記載の乗物用ブレーキシステム(4)。
【請求項11】
前記第1のマニアルアクチュエータ装置(8)には、前記制御ユニット(44)に操作上接続されたストロークセンサ又はアングルセンサ(72)が設けられ、
前記制御ユニット(44)には、前記電気油圧式自動アクチュエータ装置(36)及び前記電気機械式自動アクチュエータ装置(40)の動作信号に変換されるパラメータが前記ストロークセンサ又はアングルセンサ(72)から与えられる、請求項1~10のいずれかに記載の乗物用ブレーキシステム(4)。
【請求項12】
前記第1のマニアルアクチュエータ装置(8)には、前記制御ユニット(44)に操作上接続された圧力センサ(76)が設けられ、
前記制御ユニット(44)には、解釈されて前記電気油圧式自動アクチュエータ装置(36)及び前記電気機械式自動アクチュエータ装置(40)の動作信号に変換されるパラメータが与えられる、請求項1~11のいずれかに記載の乗物用ブレーキシステム(4)。
【請求項13】
前記第1のマニアルアクチュエータ装置(8)は油圧ポンプで、
前記油圧ポンプにはブレーキ流体容器(60)が設けられ、
前記ブレーキ流体容器(60)には、前記第1のブレーキ装置(12)及び前記第2のブレーキ装置(20)のパッドの摩耗を推定するために、前記ブレーキ流体容器(60)の中に流体のレベルセンサが設けられている、請求項1~6のいずれかに記載の乗物用ブレーキシステム(4)。
【請求項14】
前記電気機械式自動アクチュエータ装置(40)は、対応する前記第1のブレーキ装置(12)又は前記第2のブレーキ装置(20)のプッシャ(84)に運動学的に接続された電気モータ(80)を有し、
前記プッシャ(84)は、関連するブレーキディスク(14)又はブレーキドラムにブレーキ力を加えるのに適した、前記第1のブレーキ装置(12)又は前記第2のブレーキ装置(20)のパッド又はジョーの摩擦要素と機械的に関連付けられている、請求項1~12のいずれかに記載の乗物用ブレーキシステム(4)。
【請求項15】
前記電気モータ(80)は、前記電気モータ(80)の回転運動を前記プッシャ(84)の並進運動に変換するのに適した手段を有する運動システムによって前記プッシャ(84)に接続されている、請求項14に記載の乗物用ブレーキシステム(4)。
【請求項16】
前記電気モータ(80)を前記プッシャ(84)に接続する前記運動システムは、前記電気モータ(80)の回転センサ(88)と前記プッシャ(84)の変位センサを有し、対応する前記第1のブレーキ装置(12)又は前記第2のブレーキ装置(20)の有効作動に関するデータを前記制御ユニット(44)に与える、請求項15に記載の乗物用ブレーキシステム(4)。
【請求項17】
前記電気油圧式自動アクチュエータ装置(36)及び前記電気機械式自動アクチュエータ装置(40)の停止後にブレーキ動作を自動的にキャンセルできるように、前記電気モータ(80)を前記プッシャ(84)に接続する前記運動システムは可逆的である、請求項15又は16のいずれかの乗物用ブレーキシステム(4)。
【請求項18】
前記電気油圧式自動アクチュエータ装置(36)及び前記電気機械式自動アクチュエータ装置(40)の停止後もブレーキ動作を維持することを保証するために、前記電気モータ(80)を前記プッシャ(84)に接続する前記運動システムは不可逆的である、請求項15又は16のいずれかの乗物用ブレーキシステム(4)。
【請求項19】
前記電気油圧式自動アクチュエータ装置(36)は、前記油圧入力回路(28)によって、前記第1のブレーキ装置(12)又は前記第2のブレーキ装置(20)に流体接続されたポンプ(92)に運動学的に接続された電気モータ(80)を有し、
前記ポンプ(92)は、前記第1のブレーキ装置(12)又は前記第2のブレーキ装置(20)を作動する圧力を発揮する、請求項1~18のいずれかに記載の乗物用ブレーキシステム(4)。
【請求項20】
請求項1~19のいずれかの乗物用ブレーキシステム(4)において、
前記制御ユニット(44)は、
前記電気油圧式自動アクチュエータ装置(36)と前記電気機械式自動アクチュエータ装置(40)を交互に又は共に駆動するようにプログラムされており、
前記第1のマニアルアクチュエータ装置(8)によるブレーキ動作に対する要求が無い場合でも、前記乗物の安定制御を実施するために、前記システムの前記第1のブレーキ装置(12)と前記第2のブレーキ装置(20)のそれぞれのブレーキ動作を開始し又はブレーキ動作を強め、
ユーザによる実際のブレーキ要求に拘わらず、前記第1のブレーキ装置(12)及び前記第2のブレーキ装置(20)をさらに動作させないように、前記ブレーキシステム(4)のブレーキ動作を制御し、
前記乗物にブロッキング現象又は不安定現象が発生した場合、前記第1のブレーキ装置(12)又は前記第2のブレーキ装置(20)作用するブレーキ動作を減少させるかキャンセルする、乗物用ブレーキシステム(4)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータサイクル用の自動制御されたブレーキ・バイ・ワイヤ式ブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
「ブレーキ・バイ・ワイヤ」式のブレーキシステムは、従来の油圧式ブレーキシステムに比べて、ブレーキペダルとアクチュエータの間に分離機を有するシステムである。ブレーキペダルによって与えられたドライバのブレーキ要求は、電気油圧式アクチュエータ及び/又は電気機械式アクチュエータを駆動する制御ユニットによって管理される信号に変換される。
【0003】
この種のシステムの問題点の一つは、常用ブレーキ機能を損なう電力供給不足等の問題が発生すると、通常の動作を補償し得ないことである。
【0004】
このような従来の課題を解決する手段として、電気系統が故障した場合、ドライバが必要なブレーキ動作を行うことができるように、アクチュエータとマニアル作動装置との間の接続を自動的に回復する弁を使用することが考えられる。
【0005】
したがって、標準的動作状態では、マニアル式制御に作用する圧力を生成する。制御システムは、この圧力要求を解釈し、それを対応する圧力及びブレーキ動作に変換する。これにより、ユーザは、ブレーキシステムを直接制御することはない。しかし、ユーザのマニアル行為を、ブレーキシステムにおける対応するブレーキ動作の要求、さらには油圧及びブレーキ動作に転換するアクチュエータを有する制御ユニットが常に設けられている。
【0006】
したがって、ユーザによるシステムの直接制御は、電気系統が故障した場合又は自動作動システムの部品が故障した場合のみ行われる。この場合、ユーザの安全性やシステムのブレーキ性能を補償するために、システムはユーザのマニアル作動部とブレーキ装置の間の接続を即座に回復する。
【0007】
従来のシステムは、故障時にシステムの機能と安全性を保障するものであるが、比較的複雑で実施するには高価である。
【0008】
また、マニアル制御部(例えば、レバー及び/又はペダル)に作用するユーザによって設定されたブレーキ力を制御するための装置を設けることが知られている。
【0009】
この制御装置は、例えば、ユーザによって要求された過度のブレーキ動作を回避する機能を有する。このような過度のブレーキ動作により、乗物は安定性と制御を損なう車輪のブロッキングを生じ得る。
【0010】
このような状況は、滑りやすい路面や湿った非粘着性の路面を走行している場合、非常に危険である。モータサイクルの場合、典型的にはコーナーを回る際に該モータサイクルが傾いている場合、これらの条件は、路面状況に拘わらず危険である。
【0011】
また、乗物の安定性を動的に制御するために、制御装置もまた使用できる。実際、個々の車輪に適当なブレーキ力(制動力)を加えることにより、又は、例えば乗物の離れた車軸に加わるブレーキ力の分配を変えることにより、乗物の軌跡を修正するヨーモーメントを発生して動的制御を改善することが実際に知られている。
【0012】
従来の解決策は、典型的には、ABSシステムとして知られているアンチロックシステムを設けることである。このシステムは油圧回路を備えたブレーキシステムに作用して、実質的にブレーキシステムの油圧回路の圧力に介入し、油圧を下げ、一時的にロッキングする車輪の一つに加わるブレーキ力を減少ものである。乗物のそれぞれの車軸間のブレーキ力を可変的に変化させるために同様の操作が採用される。上述のように、乗物の軌跡を修正して動的安定性を改善するために、乗物の個々の車輪にブレーキトルクを加えることも可能である。
【0013】
しかし、従来の解決策はいくつかの欠点がある。
【0014】
まず始めに、油圧作動のブレーキ装置は、残留トルクの問題がある。
【0015】
すなわち、装置のマニアル作動制御を解除した後も、レバー操作されたかペダル操作されたかに拘わらず、ブレーキ力が残留トルクを発揮する。実際、パッドのスラストピストンが、マニアル作動制御の解除後、完全に後退位置に戻らず、その結果、パッドがディスクに接触した状態にとどまり、ディスクにしっかりと連結された車輪に残留ブレーキトルクを作用する。
【0016】
マニアル制御後にピストンを容易に引き戻す方法があり、それは「ロールバック」として一般に知られているが、その方法はピストン用に例えば戻りばねを有し、それは時間が経過すると有効でなくなる。
【0017】
また、油圧作動されるブレーキ装置は、システム作動温度に達すると、その挙動が変わる傾向にあり、例えば同じブレーキ動作に対して更なる動作ストロークが必要になる。
【0018】
この挙動は、同じ力又はペダルや操作レバーで得られる駆動ストロークに対して、常に一定でかつ繰り返し可能なブレーキ動作が得られることを好むユーザにとっては、しばしば否定的に知覚される。
【0019】
さらに、従来の油圧作動式ブレーキ装置によれば、アンチロック装置(ABS)又は安定制御装置の介入は、それがレバーであろうがペダルであろうが、マニアルブレーキ制御する際にユーザに知覚される。この感覚は、ブレーキ動作及び又は、乗物修正装置の介入後に油圧システムに誘発される圧力変化に対応して、マニアル制御時の振動を感じるユーザにとって、歓迎されるものでない。
【発明の開示】
【0020】
従来の技術に関連する上述の問題や制約を解消する必要が感じられる。
【0021】
特に、あらゆる使用状態において、危険なロッキングを回避すると共に乗物の安定制御に対して有効で且つ迅速な動作を採り得る、車輪のブレーキングを制御するために有効なブレーキシステムを提供する必要が感じられる。このシステムはまた、レバー又は作動ペダルをマニアル操作することによって加わるブレーキ力の繰り返しに関して、ユーザに対してシステムの挙動に対する正確なフィードバック提供できるものでなければならない。さらに、このブレーキシステムは、マニアル制御時にいやな振動をユーザに与えることなく、乗物のブレーキ制御と安定性に関して有効に介入できるものでなければならない。
【0022】
再度要約すると、正確で信頼性のあるブレーキ制御と安定性を提供できる乗物用ブレーキシステムを提供するとともに、あらゆる操作条件で操作の信頼性と一定性(パフォーマンスの繰り返し性)をユーザに同時に提供する乗物用ブレーキシステムを提供する必要が感じられる。
【0023】
また、このシステムは、実施に当たって出来るだけ簡単で且つ費用対効果の高いものであるべきである。
【0024】
この要求は、請求項1に係るモータサイクル用ブレーキシステムによって達成される。
【0025】
特に、この要求は、以下の構成を有するモータサイクル用ブレーキシステムによって満たされる。
【0026】
モータサイクル用ブレーキシステムは、
レバー及び/又はペダルによって操作可能で、かつ、乗物の前車軸に設けられた少なくとも第1のブレーキ装置及び/又は前記モータサイクルの前記前車軸又は後車軸に設けられた第2のブレーキ装置に選択的に接続可能で、各ブレーキ装置はブレーキディスク又はブレーキドラムに作用する、第1のマニアルアクチュエータ装置を有し、
【0027】
前記第1のマニアルアクチュエータ装置は、制御弁によって前記ブレーキ装置の少なくとも一方の油圧入力回路に選択的に接続される油圧供給回路が設けられ、
前記制御弁は、油圧に関して前記第1のマニアルアクチュエータ装置を前記ブレーキ装置から切り離した操作位置と、油圧に関して前記前記第1のマニアルアクチュエータ装置を前記ブレーキ装置の少なくとも一方に接続する電気故障位置に位置付けされており、
【0028】
前記ブレーキシステムはさらに、
前記ブレーキ装置を油圧で作動するために前記ブレーキ装置の少なくとも一つの前記油圧入力回路と流体接続可能な少なくとも一つの電気-油圧式自動アクチュエータ装置と、
【0029】
油圧入力回路を具備しない前記ブレーキ装置の少なくとも一つに関連付けられた、少なくとも一つの電気機械式自動アクチュエータ装置を備えており、
【0030】
前記電気油圧式自動作動装置は前記モータサイクルの前記前車軸に関連付けされ、前記電気機械式自動アクチュエータ装置は前記モータサイクルの前記後車軸に関連付けされるか、又は、前記電気油圧式自動作動装置は前記モータサイクルの前記後車軸に関連付けされ、前記電気機械式自動アクチュエータ装置は前記モータサイクルの前記前車軸に関連付けされており、
【0031】
前記ブレーキシステムはさらに、
前記少なくとも一つの電気油圧式自動アクチュエータ装置、前記少なくとも一つの電気機械式自動アクチュエータ装置及び前記第1のマニアルアクチュエータ装置に動作上接続されており、前記第1のマニアルアクチュエータ装置の前記位置又は構造にしたがって及び/又は前記モータサイクルの動作状態にしたがって、前記電気油圧式自動アクチュエータ装置、電気機械式自動アクチュエータ装置及び前記制御弁を操作する、一つの制御ユニット、を備えている。
【0032】
実施形態によれば、前記ブレーキシステムは、前記後車軸に配置されたブレーキ装置の油圧入力回路に流体接続された電気油圧式自動アクチュエータ装置と、前記乗物の前記間車軸に配置されたブレーキ装置に接続された少なくとも一つの電気機械式自動アクチュエータ装置を有する。
【0033】
実施形態によれば、前記ブレーキシステムは、前記後車軸に配置されたブレーキ装置の油圧入力回路に流体接続された電気油圧式自動アクチュエータ装置と、前記乗物の前記間車軸に配置されたブレーキ装置に接続された少なくとも一つの電気機械式自動アクチュエータ装置を有する。
【0034】
実施形態によれば、前記制御弁は前記電気油圧式自動アクチュエータ装置の上流側に配置されており、
前記油圧供給回路からの流体は、前記油圧入力回路に流体接続された電気油圧式自動アクチュエータ装置の輸送室に流れ込む。
【0035】
実施形態によれば、前記制御弁は、前記電気油圧式自動アクチュエータ装置の下流で、前記油圧入力回路の上流に配置されている。
【0036】
実施形態によれば、前記制御弁は、前記油圧入力回路を前記油圧供給回路又は前記電気油圧式自動アクチュエータ装置の輸送室に流体接続するように、前記制御ユニットによって制御される。
【0037】
実施形態において、前記制御弁は第1の逆止弁と第2の逆止弁が設けられ、
前記第1の逆止弁は、前記電気油圧式自動アクチュエータ装置(36)の中の残圧を排出し、
前記第2の逆止弁は、ブレーキ流体容器に接続されて該ブレーキ流体容器に流体を充填する機能を有する。
【0038】
実施形態において、前記ブレーキ装置の少なくとも一つは、前記乗物のパーキングを用に構成された電気パーキングブレーキ装置が設けられている。
【0039】
実施形態において、前記ブレーキ装置はそれぞれ、前記乗物のパーキング用に構成された電気パーキング装置が設けられている。
【0040】
実施形態において、前記第1のマニアルアクチュエータ装置は、レバー及び/又はペダルによって操作され、遮断弁を介して受動シミュレータに接続されており、
前記遮断弁は、前記第1のマニアルアクチュエータ装置を前記受動シミュレータに選択的に切離する。
【0041】
実施形態において、前記第1のマニアルアクチュエータ装置には、前記制御ユニットに操作上接続された少なくとも一つのストロークセンサ又はアングルセンサが設けられ、
前記制御ユニットには、解釈されて前記自動アクチュエータ装置の動作信号に変換されるパラメータが与えられる。
【0042】
実施形態において、前記第1のマニアルアクチュエータ装置には、前記制御ユニットに操作上接続された少なくとも一つの圧力センサが設けられ、
前記制御ユニットには、解釈されて前記自動アクチュエータ装置の動作信号に変換されるパラメータが与えられる。
【0043】
実施形態において、前記第1のマニアルアクチュエータ装置は油圧ポンプで、
前記油圧ポンプには、内部に流体レベルセンサが設けられた少なくともブレーキ流体容器が設けられ、
前記ブレーキ装置の前記パッドの摩耗を評価する。
【0044】
実施形態において、前記電気機械式自動アクチュエータ装置の少なくとも一つは、対応する前記ブレーキ装置のプッシャに運動学的に接続された電気モータを有し、
前記プッシャは、関連するブレーキディスク又はブレーキドラムにブレーキ力を加えるのに適したブレーキ装置のパッド又はジョーなどの摩擦要素と機械的に関連付けられている。
【0045】
実施形態において、前記電気モータ(80)は、前記電気モータの回転運動を前記プッシャの並進運動に変換するのに適した手段を有する運動システムによって前記プッシャに接続されている。
【0046】
実施形態において、少なくとも一つの電気モータをプッシャに接続する運動システムは、前記電気モータの回転センサと前記プッシャの変位センサを有し、対応するブレーキ装置の有効作動に関するデータを前記制御ユニットに与える。
【0047】
実施形態において、前記自動アクチュエータ装置の停止後前記ブレーキ動作を自動的にキャンセルできるように、少なくとも一つの電気モータをプッシャに接続する前記少なくとも一つの運動システムは可逆的である。
【0048】
実施形態において、前記自動アクチュエータ装置の停止後も前記ブレーキ動作を維持することを保証するために、少なくとも一つの電気モータをプッシャに接続する少なくとも一つの運動システムは不可逆的である。
【0049】
実施形態において、前記電気油圧式自動アクチュエータ装置の少なくとも一つは、前記油圧入力回路によって、少なくとも一つのブレーキ装置に流体接続されたポンプに運動学的に接続された電気モータを有し、
前記ポンプは、前記ブレーキ装置を作動する圧力を発揮する。
【0050】
実施形態において、前記制御ユニットは、電気油圧式自動アクチュエータ装置及び/又は電気機械式自動アクチュエータ装置を交互に又は共に駆動するようにプログラムされており、
【0051】
前記第1のマニアルアクチュエータ装置によるブレーキ動作に対する要求が無い場合でも、前記乗物の安定制御を実施するために、前記システムの各ブレーキ装置のブレーキ動作を開始し又はブレーキ動作を強め、
【0052】
ユーザによる実際のブレーキ要求に拘わらず、前記ブレーキ装置をさらに動作させないように、前記ブレーキシステムの前記ブレーキ動作を制御し、
【0053】
前記乗物にブロッキング現象又は不安定現象が発生した場合、前記ブレーキ装置(12,20)のぞれぞれに作用するブレーキ動作を減少させるかキャンセルする。
【0054】
本発明の別の特徴と利点は、好適で非限定的な実施形態に関する以下の説明から更に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1図1は、本発明の実施形態の変形例に係るブレーキシステムの概略図を示す。
図2図2は、本発明の実施形態の変形例に係るブレーキシステムの概略図を示す。
図3図3は、本発明の実施形態の変形例に係るブレーキシステムの概略図を示す。
図4図4は、本発明の実施形態の変形例に係るブレーキシステムの概略図を示す。
【0056】
以下に説明する実施形態に共通する要素及び要素部分は同じ参照符号で示す。
【発明の詳細な説明】
【0057】
図面を参照すると、符号4は、概略、乗物用(特に、モータサイクル用)のブレーキ・バイ・ワイヤ式ブレーキシステムを示す。
【0058】
モータサイクルの定義は、限定的ではなく、好ましくは、限るものではないが2つ以上の車輪を備えたモータサイクルをいう。
【0059】
ブレーキシステム4は、レバー及び/又はペダルによって操作可能な第1のマニアル式アクチュエータ装置8を有する。アクチュエータ装置8は、モータサイクルの前車軸16に設けられた少なくとも第1のブレーキ装置12、及び又は、モータサイクルの前車軸16又後車軸22に設けられた少なくとも第2のブレーキ装置20に選択的に接続可能である。
【0060】
各ブレーキ装置12,20は、ブレーキディスク14(ディスクブレーキの場合)又はドラム(図示しないドラムブレーキの場合)に作用する。
【0061】
第1のマニアルアクチュエータ装置8は油圧供給回路24に設けられている。油圧供給回路24は、制御弁32によって、ブレーキ装置12,20の少なくとも一方の油圧入力回路28に選択的に接続可能である。
【0062】
制御弁32は動作位置を取り得る。制御弁は、動作位置において、第1マニアルアクチュエータ装置8をブレーキ装置12,20から油圧上切り離し、電気障害位置において、第1マニアルアクチュエータ装置8をブレーキ装置12,20の少なくとも一方に油圧上接続する。以下により良く説明するように、その動作状態は、ブレーキ・バイ・ワイヤ式ブレーキシステムの標準動作に対応している。一方、電気障害状態は極端な場合を表しており、ブレーキシステム4の故障の場合、標準マニアル動作によるブレーキ動作が確実に行われる。
【0063】
ブレーキシステム4は、少なくとも一つの電気油圧式自動アクチュエータ装置36を有する。このアクチュエータ装置36は、それぞれの油圧動作に対して、ブレーキ装置12,20の少なくとも一つの油圧入力回路28と、油圧入力回路28を具備しない油圧装置12,20の少なくとも一つに関連付けられた少なくとも一つの電気機械式自動アクチュエータ装置40に、油流体接続可能である。
【0064】
言い換えると、電気油圧式自動アクチュエータ装置36は、油圧式作動部(したがって、油圧入力回路28)を備えたブレーキ装置に関連付けられる。一方、電子機械式自動アクチュエータ装置40は油圧入力回路の無いブレーキ装置に関連付けられる。
【0065】
図2,4において、電気油圧式自動アクチュエータ装置36は前車軸16に関連付けられ、電気機械式自動アクチュエータ装置40は後車軸22に関連付けられている。図1,3において、電気油圧式自動アクチュエータ装置36は後車軸22に関連付けられ、電気機械式自動アクチュエータ装置40は前車軸16に関連付けられている。
【0066】
排他的ではないが、一般的に、前車軸16には少なくとも2つのブレーキ装置が設けられる。これらのブレーキ装置は、乗物の同じ前車輪に連結されている(例えば、一対のディスクブレーキキャリパが、前車輪にキー結合された一対のブレーキディスクに関連付けられる。)。一方、後車軸22には一つのブレーキ装置だけが設けられる。
【0067】
ブレーキシステム4は、一つの制御ユニット44を有する。制御ユニット44は、制御弁32、少なくとも一つの電気油圧式自動アクチュエータ装置36、少なくとも一つの電気機械式自動アクチュエータ装置40、及び第1マニアルアクチュエータ装置8に動作上接続されており、以下に説明するように、第1マニアルアクチュエータ装置8の位置又は構造に応じて、及び/又は、モータサイクルの動的挙動に応じて、電気油圧式自動アクチュエータ装置36、電気機械式アクチュエータ装置40及び制御弁32を動作する。
【0068】
可能な実施形態(図1,3)によれば、ブレーキシステム4は、乗物の後車軸22に配置されたブレーキ装置12,20の油圧入力回路28に流体接続された電気油圧式自動アクチュエータ装置36と、乗物の前車軸16に配置されたブレーキ装置12,20に接続された少なくとも一つの電気機械式自動アクチュエータ装置40を有する。
【0069】
別の実施形態(図2,4)によれば、ブレーキシステム4は、乗物の前車軸16に配置された少なくとも一つのブレーキ装置12,20の油圧入力回路28に流体接続された電気油圧式自動アクチュエータ装置36と、乗物の後車軸22に設けられたブレーキ装置12,20に接続された少なくとも一つの電気機械式自動アクチュエータ装置40を有する。
【0070】
さらに理解を深めるために、図面に描かれたシステム内の油圧接続は符号Hで記されており、電気/電子接続は符号Eで記されている。
【0071】
制御弁32は、2つの異なる状態に応じて位置づけされる。
【0072】
第1の構成(図1,2)によれば、制御弁32は、電気油圧式自動アクチュエータ装置36の上流に配置されており、油圧供給回路24からの流体は、油圧入力回路28に流体接続された電気油圧式自動アクチュエータ装置36の輸送室48に流れ込む。
【0073】
この構成において、制御弁32は制御ユニット44によって制御され、油圧入力回路28と油圧供給回路24を交互に接続し遮断する。
【0074】
第2の構成(図3,4)によれば、制御弁32は電気油圧式自動アクチュエータ装置36の下流で油圧流力回路28の上流に配置されている。
【0075】
この構造において、制御弁32は制御ユニット44によって制御され、油圧入力回路28を油圧供給回路24と電気油圧式自動アクチュエータ装置36の輸送室48に接続する。
【0076】
可能な実施形態(図1,2)によれば、制御弁32には一対の逆止弁52、56が設けられている。したがって、この実施形態では、第1逆止弁52は、電気油圧式自動アクチュエータ装置36内に残った残留圧力を排出し、第2逆止弁56はブレーキ流体貯蔵容器60に接続することでそこに流体を充填する機能を発揮する。
【0077】
好ましくは、第1マニアルアクチュエータ装置8は、少なくともブレーキ流体貯蔵容器60が設けられた油圧ポンプである。ブレーキ流体貯蔵容器60は、ブレーキ装置12,20のパッドの摩耗を推定するために、その中に流体のレベルセンサが設けられている。
【0078】
ブレーキ流体貯蔵容器60は、油圧供給回路24と油圧入力回路28の中に収容されるブレーキ流体と同じブレーキ流体を収容する。ブレーキ流体貯蔵容器60の目的は、油圧供給回路24と油圧入力回路28に連続的にブレーキ流体を供給して、ブレーキ装置12,20の内側にある摩擦材料の消費を補うことである。
【0079】
可能な実施形態によれば、レバー及び/又はペダルによって動作される第1マニアルアクチュエータ装置8は、遮断弁68を介して受動シミュレータ64に接続されている。遮断弁68は、選択的に、第1マニアルアクチュエータ装置8を受動シミュレータ64に接続し、また第1マニアルアクチュエータ装置8を受動シミュレータ64から切り離す。
【0080】
受動シミュレータは、ユーザが例えばレバー又はペダルをマニアル操作してブレーキ動作を行う際に、ユーザに与える抵抗を生成できる任意のシミュレータを意味する。
【0081】
特に、通常動作中、すなわち、ブレーキ・バイ・ワイヤが通常に動作している場合、遮断弁68は第1マニアルアクチュエータ装置8を受動シミュレータ64に接続する。これにより、自動アクチュエータ装置36,40によって動作されるブレーキ装置に対して、ユーザは何ら直接的な行為を行うことがない。
【0082】
電気系統が故障した場合、遮断弁68は、第1マニアルアクチュエータ装置8を受動シミュレータ64から遮断し、第1マニアルアクチュエータ装置を油圧供給回路24と油圧入力回路28に接続する。これにより、ユーザは、自動アクチュエータ装置36,40を迂回して、ブレーキ装置を直接操作する。
【0083】
可能な実施形態によれば、第1マニアルアクチュエータ装置8には、少なくとも一つのストロークセンサ又はアングルセンサ72が設けられる。このセンサは、動作上一つの制御ユニット44に接続され、該制御ユニットにパラメータを提供する。パラメータは、解釈されて、自動アクチュエータ装置36,40に対する動作信号に変換される。
【0084】
制御ユニット44にパラメータを提供するように、第1マニアルアクチュエータ装置8に少なくとも一つの圧力センサ76を設けてもよい。圧力センサは、動作上制御ユニット44に接続され、該制御ユニットにパラメータを提供する。パラメータは、解釈されて、自動アクチュエータ装置30,40に対する動作信号に変換される。
【0085】
自動アクチュエータ装置36,40は、種々のタイプのものが利用できる。
【0086】
可能な実施形態によれば、電気機械式自動アクチュエータ装置40の少なくとも一つは、対応するブレーキ装置12,20のプッシャ4に運動学的に接続された電気モータ80を有する。プッシャ84は、関連するブレーキディスク14又はブレーキドラムにブレーキ動作を及ぼすのに適した、ブレーキ装置12,20の摩擦要素(例えば、パッド又はジョー)と機械的に関連付けされている。
【0087】
例えば、電気モータ80は、運動学的装置によって、プッシャ84に接続されている。運動学的装置は、電気モータ80の回転運動を、プッシャ84の並進運動に変換するのに適した手段を有する。
【0088】
少なくとも一つの電気モータ80をプッシャ84に接続する運動学的システムは、対応するブレーキ装置12,20の有効動作に関するデータを制御ユニット44に提供するために、電気モータ80の回転センサ88とプッシャ84の変位センサ90を有する。
【0089】
実施形態によれば、少なくとも一つの電気モータ80をプッシャ84に接続する上述の少なくとも一つの運動学的システムは、自動アクチュエータ装置36,40の停止後にブレーキ動作を自動的に解除できるように、可逆的である。
【0090】
少なくとも一つの電気モータ80をプッシャ84に接続する上述の少なくとも一つの運動学的システムは、自動アクチュエータ装置36,40の停止後もブレーキ動作を維持するように、不可逆的であってもよい。
【0091】
また、電気油圧式自動アクチュエータ装置36は、種々のタイプのものが利用できる。
【0092】
例えば、電気油圧式自動アクチュエータ装置36の少なくとも一つは、例えば、歯車装置96によって、ポンプ92に運動学的に接続された電気モータ80を有する。
【0093】
上述のポンプ92は、油圧有力回路28によって、少なくとも一つのブレーキ装置12,20に流体接続されており、ブレーキ装置12,20を作動させる圧力をポンプ92が発揮する。
【0094】
次に、ポンプは、輸送室48を介して、圧力ブレーキ流体を油圧入力回路28に送る。
【0095】
可能な実施形態によれば、上述のブレーキ装置12,20の少なくとも一つには、乗物を駐車するために構成された電気式パーキングブレーキ装置100が設けられる。
【0096】
好ましくは、ブレーキ装置12,20にはそれぞれ、乗物を駐車するために構成された電気式パーキングブレーキ装置が設けられる。
【0097】
本発明に係るブレーキシステムにはまた、第2マニアルアクチュエータ装置18を設けてもよい。第2マニアルアクチュエータ装置は、油圧供給回路24には接続されず、電気油圧式自動アクチュエータ装置36及び/又は電気機械式自動アクチュエータ装置40の電気アクチュエータに動作上接続される。
【0098】
上述のマニアルアクチュエータ装置18には、ストロークセンサ又はアングルセンサ72を設けてもよい。
【0099】
上述のように、制御ユニット44は、ブレーキ装置4の種々の装置の動作を管理し制御する。
【0100】
例えば、制御ユニット44は、電気油圧式自動アクチュエータ装置36及び/又は電気機械式自動アクチュエータ装置40が交互に又はそれらが協働して以下の工程を実行するようにプログラムされる。
【0101】
第1マニアルアクチュエータ装置8によるブレーキ動作に対する要求が無い場合であっても乗物を安定制御するために、ブレーキシステム4における各ブレーキ装置12,20のブレーキ動作を生成するか又は該ブレーキ動作を高める工程。
【0102】
ユーザによるブレーキ動作による実際の要求に拘わらず、ブレーキ装置12,20をさらに作動させることなく、車輪のブロッキング現象の始まりを防止するように、ブレーキシステム4によって発揮されたブレーキ動作を確認する工程。
【0103】
ブロッキングや乗物の不安定な現象が発生した場合、ブレーキ装置12,20の少なくとも一方又はそれぞれにおけるブレーキ動作を減じる又はキャンセルする工程。
【0104】
これにより、制御ユニット44は、乗物の安定性を受動制御と能動制御し、電気油圧式自動アクチュエータ装置36及び/又は電気機械式自動アクチュエータ装置40に適度に作用して、乗物の動的挙動をより良く制御するために、ユーザによって手動で設定されたブレーキモードを修正するか、または新たなブレーキモードを課す。
【0105】
上述の説明から理解されるように、本発明に係るブレーキシステムは、従来の課題を解消する。
【0106】
特に、本発明は、法規制にしたがって、緊急ブレーキの際にドライバの筋力を用いることによって第2の冗長エネルギ源を回避することができるので、従来のブレーキ・バイ・ワイヤシステムの費用と構造の複雑さを減少できる。
【0107】
本発明では、第1マニアルアクチュエータ装置と電気油圧式アクチュエータ装置との間に、ブレーキ流体を含む部屋を通る油圧バックアップ接続を設けることが好都合である。
【0108】
この構成によれば、公知のブレーキ・バイ・ワイヤの方式に比べて制御弁を節約できる。また、使用する弁は、公知の方法よりも大幅に低い圧力に耐え得る大きさにすることで十分である。
【0109】
本発明のシステムによれば、公知のブレーキ・バイ・ワイヤシステムに係る全部品数を簡略化し減少できる。
【0110】
同時に、各ブレーキ装置は、対応する個々の自動アクチュエータ装置によって作動される。これにより、それぞれの独立した車輪の能動的ブレーキングと受動的ブレーキングが素早く且つ信頼性をもって制御され得る。
【0111】
さらに、これにより、ユーザによるブレーキングの要求があった場合には受動的に、また、乗物が動的に不安定な状況にあることを認識した場合には車両の安定性を制御し、個々の車輪のブレーキングを自動で選択的に修正するということが可能である。
【0112】
このシステムはまた、ロッキング状態の車輪に作用するブレーキ力を減少させると共に個々の車輪を制動することによって、乗物の安定性を郵送に制御し、該乗物を最適な軌道に戻すことができる。複数のアクチュエータは、個々のアクチュエータが他のアクチュエータから独立しており、ブレーキ装置を動作する際に極めて速く動作する。
【0113】
このシステムはまた、マニアル操作されるレバー又は作動ペダルによって課せられるブレーキ力の再現性の点で、システムの挙動に関する正確なフィードバックを常にユーザに提供できる。
【0114】
ユーザは、マニアル式作動装置がレバーで操作されるかペダルで操作されるかに拘わらず、マニアル式作動装置のストロークを長くする感覚をユーザは得られなかった。その理由は、従来の解決策ではそのような作動ストローク/力は油圧システムのように接続されておらず、処理及び制御ユニットによって読み取られて解釈される、からである。したがって、ユーザは常に、レバーやペダルに設定された同じストローク/力に対して同じブレーキ力を与えるレバー又はペダルを利用可能である。ブレーキ装置の挙動における変化(例えば、温度膨張)が、処理及び制御ユニットによって読み取られ解釈されて補償される。そして、システムは、システムの動作中のそのような変化を知覚することがない。換言すれば、システムによって提供される同じブレーキ力(したがって減速)は、ユーザによって課せられるストロークや作動力に常に正確に対応する。例えば、システムはもはや動作の不変性と再現性を保証し得ない動作状態にあるとき、処理及び制御ユニットは、可能性としてある異常を検出し、それをユーザに知らせて、例えば乗物を停止してシステムを落ち着かせることを提示することができる。
【0115】
したがって、ブレーキシステム(アクチュエータ装置、ブレーキ装置、パッド又はジョー等)が低温であるか又は高温であるかに拘わらず、ブレーキ状態は安定して繰り返しユーザに知覚される。また、操作変動は、実際、処理及び制御ユニットによって自動的に埋め合わされる。
【0116】
また、処理ユニットがシステムに介入し、例えば、車輪のロッキングを防止する場合、システムはマニアル制御に迷惑な振動をユーザに対して与えることなく、ブレーキ動作を修正する。
【0117】
これにより、ユーザは、ブレーキシステムの再現性、信頼性、及び安全性を常に知覚する。
【0118】
これにより、ユーザは、乗物を完全に制御している感覚を得る。
【0119】
また、本発明に係るブレーキシステムは、ユーザによってカストマイズ又は校正することができる。実際、例えば、ブレーキシステムの感度を増減する作動要素を該作動要素(レバー又はペダル)についてユーザによって設定された同じ力及び/又はストロークに対比させる手段の設定を変更することにより、それは可能である。また、得られた同じ有効な減速に関して作動要素に与えられるフィードバックを変更するために、作動要素の対比手段の設定を任意に変更できる。
【0120】
環境条件(例えば、アスファルトの摩擦係数)、乗物の積載荷重(最大-最小荷重)、ユーザによって望まれる乗り心地(ツーリング、スポーツ、湿気、雪等)に応じて、ユーザによる動作に対応して、ブレーキシステムの感覚と迅速性を変更するために、処理及び制御ユニットの設定を変更することも可能である。
【0121】
また、本発明に係るブレーキシステムによれば、乗物の動的安定制御に精力的に介入して個々の車輪に加わるブレーキ力を生成し、これにより乗物の軌道が安定するように乗物に作用するヨーモーメントを誘発することができる。実際、乗物に加わるブレーキ動作又は減速動作に対して、処理及び制御ユニットは、異なる車軸の車輪に対して、ブレーキ動作を最適に分配することを選択できる。さらに、処理及び制御ユニットは、車輪に加わるブレーキ動作を緩めることによって、個々の車輪に作用するブロッキング減少の発生を回避できるだけでなく、車輪がスリップするのを防止し、スリップ初期段階で車輪にブレーキ力を加える。
【0122】
最後に、モータサイクルの後輪の浮き上がりを防止し、ブレーキ動作を複数の車軸間に均等に分配する(すなわち、そのように車輪を持ち上げる、前部の荷重移行を減少する。)。システムはまた、後輪走行又は後輪の持ち上がりを防止するために、後輪にブレーキ動作を加えることによって、逆の作用を行うことができる。
【0123】
また、油圧で駆動されるブレーキ装置を備えたブレーキシステムで発生するものと違って、本発明に係るシステムによれば、残留ブレーキトルクの問題がない。実際、可逆的な運動機構が介在されることにより、プッシャの戻り又は引き戻しが常に自動的に発生する。いずれの場合でも、従来の油圧システムと違って、プッシャに戻り動作を与えるために、該運動機構を逆方向に動作することが常に可能である。
【0124】
運動機構の可逆性はまた、それにおりブレーキを開放すると車輪がロッキングする危険を回避できるので、安全な要素である。
【0125】
いずれにしても、不可逆的運動機構の存在は、例えばパーキングブレーキ用のブレーキ装置を保持することを保証するためには有益である。この場合、代わりに、運動機構が不可逆的であることが有益である。この場合、マニアル作動要素を解除して例えばエンジンを停止した後、パーキングブレーキ用のブレーキ装置が車輪更には乗物をセーフティロックできる。
【0126】
また、本発明に係るシステムによれば、ブレーキ装置を作動するための油圧システムの使用を減らすことができる。これにより、油圧システムの導管に起因する荷重ロスが限られ、油圧回路における流体の吸湿性及び/又は加熱によるフェーディング現象が減少する。結果、例えばモータサイクルでは目に見える配管を減らして、ハンドルの美観を改善することができる。
【0127】
さらに、本発明のシステムによれば、電気系統が故障した場合でも、安全性と信頼性が保障される。実際、システムはマニアル式の緊急作動し、ユーザが緊急/常用ブレーキングを行い又は乗物のパーキングブレーキを作動して、乗物を停止することができる。
【0128】
したがって、電気系統が故障した場合、システムは常に緊急に油圧を作動させて、乗物を安全に停止できる。
【0129】
いずれにしても、処理及び制御ユニットと作動装置に電力を供給する電源装置の冗長性により、システムの故障は殆ど発生することがない。
【0130】
当業者は、不測の特定の要求を満足するために、上述したブレーキシステムにいくつかの改変や変更を加えることができ、それらの改変や変更は特許請求の範囲によって定義される本件発明の範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4