(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】ヒト化抗SIRPα抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20240311BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240311BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240311BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240311BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240311BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240311BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240311BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240311BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240311BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240311BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/28 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 U
A61K39/395 N
A61K45/00
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2021526658
(86)(22)【出願日】2019-11-15
(86)【国際出願番号】 EP2019081523
(87)【国際公開番号】W WO2020099653
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-10-25
(32)【優先日】2018-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516205959
【氏名又は名称】ビョンディス・ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】Byondis B.V.
【住所又は居所原語表記】Microweg 22, NL-6545 CM Nijmegen, Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【氏名又は名称】大宅 郁治
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】フェルヘイデン、ヘイスベルトゥス・フランシスクス・マリア
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-512487(JP,A)
【文献】特表2020-520370(JP,A)
【文献】国際公開第2017/178653(WO,A2)
【文献】国際公開第2018/190719(WO,A2)
【文献】国際公開第2018/057669(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12N 1/00- 7/08
A61K 39/00-39/44
A61K 45/00-45/08
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重鎖相補性決定領域(HCDR)1、HCDR2、HCDR3、軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、LCDR2及びLCDR3を含むヒト化抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片であって、前記抗体又はその抗原結合断片は、
a. 配列番号36で示されるアミノ酸配列を含むHCDR1;
b. 配列番号44で示されるアミノ酸配列を含むHCDR2;
c. 配列番号45で示されるアミノ酸配列を含むHCDR3;
d. 配列番号39で示されるアミノ酸配列を含むLCDR1;
e. 配列番号40で示されるアミノ酸配列を含むLCDR2;及び
f. 配列番号41で示されるアミノ酸配列を含むLCDR3;
を含むヒト化抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
前記抗体又はその抗原結合断片は、配列番号8のアミノ酸配列の重鎖可変領域(HCVR)及び配列番号9のアミノ酸配列の軽鎖可変領域(LCVR)を含む、請求項
1に記載のヒト化抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片。
【請求項3】
野生型のFc領域を有する同じ抗SIRPα抗体と比較して、ヒトFcα又はFcγ受容体との結合が低減した修飾Fc領域を含む、請求項1
又は2に記載のヒト化抗SIRPα抗体。
【請求項4】
アミノ酸置換L234A及びL235A;L234E及びL235A;L234A、L235A及びP329A;又はL234A、L235A及びP329Gを含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載のヒト化抗SIRPα抗体。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載のヒト化抗SIRPα抗体又は請求項1
若しくは2に記載の抗原結合断片、及び薬学的に許容される添加剤を含む、医薬組成物。
【請求項6】
医薬として使用するための請求項
5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
がんの治療に使用するための請求項
5に記載の医薬組成物であって、前記治療は治療用抗体の投与をさらに含み、前記がんは、好ましくは、ヒトの固形腫瘍又は血液悪性腫瘍である、医薬組成物。
【請求項8】
請求項
7に記載の医薬組成物であって、前記治療用抗体は、腫瘍細胞表面の膜に結合した標的に対するもので、ヒトの免疫エフェクター細胞上の活性化Fc受容体に結合するヒトのFc領域を含む、医薬組成物。
【請求項9】
請求項
7又は
8に記載の医薬組成物であって、前記ヒトの固形腫瘍は、(HER2陽性)乳癌、(EGFR陽性)結腸癌、(GD2陽性)神経芽腫、黒色腫、骨肉腫、(CD20陽性)B細胞リンパ腫、(CD38陽性)多発性骨髄腫、(CD52陽性)リンパ腫、(CD33陽性)急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、ろ胞性リンパ腫(FL)及びびまん性大細胞性B細胞リンパ腫(DLBCL)を含む非ホジキンリンパ腫(NHL)、肝細胞癌、多発性骨髄腫(MM)、膀胱癌、胃癌、卵巣癌、頭頸部癌、膵癌、腎癌、前立腺癌、肝細胞癌並びに肺癌からなる群から選択される、医薬組成物。
【請求項10】
請求項
7~
9のいずれか一項に記載の医薬組成物であって、前記治療は抗がん治療化合物の投与をさらに含む、医薬組成物。
【請求項11】
請求項
10に記載の医薬組成物であって、前記さらなる抗がん治療化合物は、標的治療薬、好ましくは免疫療法剤である、医薬組成物。
【請求項12】
請求項1~
4のいずれか一項に記載のヒト化抗SIRPα抗体又は請求項1
若しくは2に記載の抗原結合断片をコードするヌクレオチド配列を含有する核酸分子であって、前記核酸分子は、好ましくは、前記抗体のHCVR及びLCVRのうちの少なくとも1つをコードするヌクレオチド配列を含み、前記コードされたヌクレオチド配列は、好ましくは、宿主細胞中で、前記コードされたヌクレオチド配列の発現のための調節配列と動作可能に連結している、核酸分子。
【請求項13】
請求項
12に記載の核酸分子を含む宿主細胞。
【請求項14】
がんを治療するための医薬の製造における、請求項1~
4のいずれか一項に記載のヒト化抗SIRPα抗体、請求項1
若しくは2に記載の抗原結合断片、又は請求項
5に記載の医薬組成物の使用であって、前記治療は治療用抗体の投与をさらに含む、使用。
【請求項15】
前記がんはヒトの固形腫瘍又は血液悪性腫瘍である、請求項
14に記載の使用。
【請求項16】
前記治療用抗体は、腫瘍細胞表面の膜に結合した標的に対するもので、ヒトの免疫エフェクター細胞上の活性化Fc受容体に結合するヒトのFc領域を含む、請求項
14又は
15に記載の使用。
【請求項17】
前記膜に結合した標的は、アネキシンAl、AMHR2、AXL、BCMA、B7H3、B7H4、CA6、CA9、CA15-3、CA19-9、CA27-29、CA125、CA242、CCR2、CCR4、CCR5、CD2、CD4、CD16、CD19、CD20、CD22、CD27、CD30、CD33、CD37、CD38、CD40、CD44、CD47、CD52、CD56、CD70、CD74、CD79、CD98、CD115、CD123、CD138、CD203c、CD303、CD333、CEA、CEACAM、CLCA-1、CLL-1、c-MET、Cripto、CTLA-4、DLL3、EGFL、EGFR、EPCAM、EPh(例.EphA2又はEPhB3)、エンドセリンB型受容体(ETBR)、FAP、FcRL5(CD307)、FGF、FGFR(例.FGFR3)、FOLR1、フコシル-GM1、GCC、GD2、GPNMB、gp100、HER2、HER3、HMW-MAA、インテグリンα(例.αvβ3及びαvβ5)、IGF1R、IL1RAP、κミエローマ抗原、TM4SF1(又はL6抗原)、ルイスA様糖鎖、ルイスX、ルイスY、LIV1、メソテリン、MUC1、MUC16、NaPi2b、ネクチン-4、PD-1、PD-L1、プロラクチン受容体、PSMA、PTK7、SLC44A4、STEAP-1、5T4抗原(又はTPBG、栄養芽細胞糖タンパク質)、TF(組織因子)、トムゼン-フリーデンライヒ抗原(TF-Ag)、Tag72、TNF、TNFR、TROP2、VEGF、VEGFR及びVLAからなる群から選択される、請求項
16に記載の使用。
【請求項18】
前記ヒトの固形腫瘍は、(HER2陽性)乳癌、(EGFR陽性)結腸癌、(GD2陽性)神経芽腫、黒色腫、骨肉腫、(CD20陽性)B細胞リンパ腫、(CD38陽性)多発性骨髄腫、(CD52陽性)リンパ腫、(CD33陽性)急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、ろ胞性リンパ腫(FL)及びびまん性大細胞性B細胞リンパ腫(DLBCL)を含む非ホジキンリンパ腫(NHL)、肝細胞癌、多発性骨髄腫(MM)、膀胱癌、胃癌、卵巣癌、頭頸部癌、膵癌、腎癌、前立腺癌、肝細胞癌並びに肺癌からなる群から選択される、請求項
15に記載の使用。
【請求項19】
前記治療は抗がん治療化合物の投与をさらに含む、請求項
14~
18のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
前記さらなる抗がん治療化合物は、標的治療薬、好ましくは免疫療法剤である、請求項
19に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SIRPαに対するヒト化抗体、及び、場合によって抗がん治療と組み合わせた、がんの治療におけるこれらの抗体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
1990年代後半以降、腫瘍細胞上の抗原を認識する治療用抗体が、がんの治療に利用されている。これらの治療用抗体は、異なる経路で悪性細胞に作用することができる。抗体と悪性細胞上の標的との結合によって引き起こされるシグナル伝達は、細胞増殖の阻害又はアポトーシスをもたらす。治療用抗体のFc領域は、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、及び/又は抗体依存性細胞貪食(ADCP)を誘発することができる。別のメカニズムは、抗体に依存した(CD8+及び/又はCD4+)T細胞による抗腫瘍応答の誘導である可能性がある(抗体依存性の抗原提示(ADAP);DiLillo and Ravetch Cell 2015, 161(5), 1035-1045;Bournazos and Ravetch Immunity 2017, 47(2), 224-233)。これは、例えば樹状細胞などの抗原提示細胞上に発現するFc受容体を介して生じる。しかし、多くの場合、治療用抗体の単剤療法は十分に有効ではない。治療用抗体の有効性を改善する1つの方法は、ADCC及び/又はADCPを改善することである。これは、例えば、Fc領域のアミノ酸置換による(Richards et al. Mol. Cancer Ther. 2008, 7(8), 2517-2527)又はFc領域のグリコシル化に影響を与えることによる(Hayes et al. J. Inflamm. Res. 2016, 9, 209-219)Fcγ受容体に対する親和性の改善によって行われた。
【0003】
治療用抗体のADCC及び/又はADCPを改善する別の方法は、治療用抗体をシグナル調節タンパク質α(SIRPα)に対するアンタゴニスト抗体又は抗CD47抗体と組み合わせることである(国際公開第2009/131453号)。CD47-これは、最低でも複数のヒト腫瘍の内部及び/又は表面において上方制御されていることが判明している-が、単球、マクロファージ、樹状細胞及び好中球上に発現する抑制性免疫受容体SIRPαに結合すると、SIRPαは、食作用又は免疫エフェクター細胞のFc受容体に依存する他の細胞破壊機構によるがん細胞の破壊を防ぐ阻害シグナルを伝達する。抗CD47又は抗SIRPα抗体が作用すると仮定した場合のメカニズムの1つは、CD47-SIRPα結合により生じる抑制性シグナル伝達の遮断で、ADCC、ADCP及び/又はADAPの増加をもたらす(Tjeng et al. Proc Natl Acad Sci USA 2013, 110(27), 11103-11108;Liu et al. Nature Med. 2015, 21(10), 1209-1215)。
【0004】
CD47-SIRPα相互作用に関するほとんどの臨床研究は、抗CD47抗体の単剤療法及び治療用抗体との組合せに注目してきた(Weiskopf. Eur. J. Cancer 2017, 76, 100-109;Advani et al. N. Engl. J. Med. 2018, 379(18), 1711-1721)。CD47は、ほとんどの正常組織の細胞の表面で広く発現しているにもかかわらず、抗CD47抗体を抗がん治療に用いる研究が進んでいる。
【0005】
がんに対する抗SIRPα抗体単剤又は併用治療についての臨床研究は行われていない。抗SIRPα抗体に関する研究の多くは、CD47-SIRPα相互作用のメカニズムに関するもので、マウス抗体を使用するものである;マウス12C4及び1.23Aは、トラスツズマブでオプソニン化されたSKBR3細胞の好中球媒介ADCCを増加させることが報告された(Zhao et al. PNAS 2011, 108(45), 18342-18347)。国際公開第2015/138600号は、マウス抗ヒトSIRPα抗体KWAR23及びそのキメラFab断片を開示し、in vitroでセツキシマブを介した食作用を増加させることを開示する。国際公開第2018/026600号は、N297A変異を有するヒトIgG1のFcを含むヒト化KWAR23を開示する。国際公開第2013/056352号は、IgG4 29AM4-5及び他のIgG4のヒト抗SIRPα抗体を開示する。IgG4 29AM4-5は、8mg/kgで週3回、4週間の投与で、NSG(NOD scid γ)マウスの右大腿骨に注入した原発性のヒト急性骨髄性白血病(AML)細胞の生着を減少させた。国際公開第2017/178653号は、SIRPα1及びSIRPαBITに結合するが、SIRPγには結合しないキメラ抗SIRPα抗体HEFLBを開示する。ただ、抗体をヒト化するとSIRPαBITとの結合は維持されるが、SIRPα1には結合しなくなる。例えば、白人の51.3%は少なくとも1つのSIRPα1の対立遺伝子を有するので、それらの免疫細胞は(ヘテロ接合の場合少なくとも部分的に)SIRPαBITにのみ結合する抗体に反応しない(Treffers et al. Eur J Immunol. 2018, 48(2), 344-354)。国際公開第2018/057669号は、ヒトSIRPα1及び/又はヒトSIRPαBITのドメイン1に対するヒト化抗ニワトリSIRPα抗体を開示する。国際公開第2018/107058号は、マウス抗SIRPα抗体3F9及び9C2がSIRPβ1v1に結合しないことを開示し、これらの抗体はSIRPα特異的で、平衡結合定数はそれぞれ1.0×10-8及び8.0×10-8であることを示した。国際公開第2018/190719号は、ヒトSIRPγと結合するが、ヒトSIRPβ1とは結合しないヒト化抗SIRPα抗体を開示する。
【0006】
ヒトSIRPαは、アミノ末端のリガンド結合ドメインが高度に多型である(Takenaka et al. Nature Immun. 2007, 8(12), 1313-1323):SIRPαBIT(v1)及びSIRPα1(v2)は、最も一般的で最も相違する(13残基異なる)多形で、CD47に対するそれらの親和性は非常に類似する(Hatherley et al. J. Biol. Chem. 2014, 289(14), 10024-10028;Treffers et al. Eur J Immunol. 2018, 48(2), 344-354)。他の生化学的に特徴を有するヒトSIRPファミリーメンバーは、CD47には結合しない、少なくとも2つの多型(SIRPβ1v1及びSIRPβ1v2)を有するSIRPβ1、及び、T細胞及び活性化NK細胞で発現し、SIRPαと比較して約10分の1の親和性でCD47に結合するSIRPγである(van Beek et al. J Immunol. 2005, 175(12), 7781-7)。CD47-SIRPγ相互作用は抗原提示細胞とT細胞間の接触に関与し、T細胞活性化を共刺激し、T細胞増殖を促進する(Piccio et al. Blood 2005, 105, 2421-2427)。さらに、CD47-SIRPγ相互作用はT細胞の経内皮移動に影響を与える(Stefanidakis et al. Blood 2008, 112, 1280-1289)。
【0007】
公知の抗SIRPα抗体の欠点は、(i) ヒトSIRPγなどの他のヒトSIRPファミリーに結合して望ましくない副作用を引き起こす可能性があり、ヒトSIRPαに特異的ではないこと、又は、(ii) 一部の人々は抗SIRPα抗体が結合しないSIRPαの対立遺伝子変異体を有しているので、SIRPαの対立遺伝子変異体の1つ-例えば、SIRPα
BIT又はSIRPα
1-のみと結合するためその特異性が限られていて、単剤又は併用治療に適さないことである。例えば、先行技術の抗体KWAR23、SE5A5、29AM4-5及び12C4は特異的でなく、T細胞の増殖及び動員に悪影響を与える可能性があるヒトSIRPγにも結合する。逆に、例えば1.23A mAbは特異性が高すぎて、ヒトSIRPα多型変異体SIRPα
1のみを認識し、少なくとも白人において優勢な変異体SIRPα
BITを認識しない(Zhao et al. PNAS 2011, 108(45), 18342-18347;Treffers et al. Eur J Immunol. 2018, 48(2), 344-354)。また、国際公開第2017/178653号に開示されているヒト化抗体HEFLBは、たとえSIRPα
BITの対立遺伝子が1つ存在する場合でも、SIRPα
1に結合せず(SPR測定;実施例参照)、SIRPα
1キャリアの免疫エフェクター細胞の抗腫瘍活性を促進しない程、特異性が高すぎる(
図3)。
【0008】
後に公開された国際公開第2018/210793号のみが、2つの主要なSIRPα多型変異体であるSIRPαBIT及びSIRPα1への特異的結合を示し、SIRPγに結合せず、治療用抗体(抗体2~9)のADCCを増加させる、キメラ抗SIRPαアンタゴニスト抗体を開示する。国際公開第2018/210793号の表1には、2つのキメラ抗体のヒト化変異体が開示されている(抗体10~16)。
【0009】
まとめると、当該技術分野では、単独で又は他のがんに対する治療用抗体と組み合わせて、がんの治療に有用な、改善された抗SIRPα抗体が依然として必要とされている。より具体的には、ヒトSIRPγと結合しない又はヒトSIRPγとの結合性が低く若しくは減少され、それによって望ましくない副作用の危険性が低下し、かつ、抗SIRPα抗体がヒトSIRPα1及びヒトSIRPαBIT多型の両者に結合して、SIRPα1/SIRPαBITヘテロ接合、SIRPαBITホモ接合及びSIRPα1ホモ接合のヒトの大部分に適した、抗SIRPαアンタゴニスト抗体の必要性がある。これらの特性を有し、抑制性、すなわちSHP-1及び/又はSHP-2を介したSIRPαシグナル伝達を低下させる抗SIRPα抗体が必要である。そのような抗体は、単独で、又は好ましくはがんに対する治療用抗体と組み合わせて、がんの治療での使用に適している。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、単独で、又は好ましくは抗がん治療用抗体のようながん治療と組み合わせる、がんの治療での使用に適したSIRPαに対するヒト化抗体に関する。
【0011】
第一の側面では、本発明は、重鎖相補性決定領域(HCDR)及び軽鎖相補性決定領域(LCDR)、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2及びLCDR3を含むヒト化抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片に関し、前記抗体又はその抗原結合断片は、
a. 配列番号36で示されるアミノ酸配列を含むHCDR1;
b. 配列番号44で示されるアミノ酸配列を含むHCDR2;
c. 配列番号45で示されるアミノ酸配列を含むHCDR3;
d. 配列番号39で示されるアミノ酸配列を含むLCDR1;
e. 配列番号40で示されるアミノ酸配列を含むLCDR2;及び
f. 配列番号41で示されるアミノ酸配列を含むLCDR3;
を含む。
【0012】
好ましい態様では、抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片は、(a) 前記抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片が、配列番号51に示されるアミノ酸配列を有するヒトSIRPα1の細胞外ドメインを用いた25℃での表面プラズモン共鳴(SPR)(好ましくはBiaCore(登録商標))による分析において、少なくとも10-10M、好ましくは少なくとも10-11Mの結合親和性でヒトSIRPα1に結合する;(b) 前記抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片が、配列番号52に示されるアミノ酸配列を有するヒトSIRPαBITの細胞外ドメインを用いた25℃でのSPR(好ましくはBiaCore(登録商標))による分析において、少なくとも10-10M、好ましくは少なくとも10-11Mの結合親和性でヒトSIRPαBITに結合する;(c) 前記抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片が、配列番号56に示されるアミノ酸配列を有するカニクイザルSIRPαの細胞外ドメインを用いた25℃でのSPR(好ましくはBiaCore(登録商標))による分析において、少なくとも10-8M、好ましくは少なくとも10-9Mの結合親和性でカニクイザルSIRPαに結合する;(d) 前記抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片が、フローサイトメトリー、好ましくは蛍光活性化細胞選別(FACS)染色によるT細胞結合の測定において、ヒトSIRPγに結合しない;(e) 前記抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片が、配列番号55に示されるアミノ酸配列を有するヒトSIRPγの細胞外ドメインを用いた25℃でのSPR(好ましくはBiaCore(登録商標))による分析において、ヒトSIRPγに結合しない;並びに (f) 前記抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片が、IL-2酵素結合免疫吸着スポット(ELISpot)及び/又はT細胞増殖分析において、免疫原性ではない、からなる群の1つ以上の特性を有する。
【0013】
好ましい態様では、ヒト化抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片は、(a) 配列番号51に示されるアミノ酸配列を有するヒトSIRPα1の細胞外ドメインを用いた25℃でのSPR(好ましくはBiaCore(登録商標))による分析において、少なくとも10-10M、好ましくは少なくとも10-11Mの結合親和性でヒトSIRPα1に結合する;(b) 配列番号52に示されるアミノ酸配列を有するヒトSIRPαBITの細胞外ドメインを用いた25℃でのSPR(好ましくはBiaCore(登録商標))による分析において、少なくとも10-10M、好ましくは少なくとも10-11Mの結合親和性でヒトSIRPαBITに結合する;(c) 好ましくは、捕獲されたCD47からの解離に関するSPR(好ましくはBiaCore(登録商標))による分析において、より好ましくは、実施例6に記載のとおり、CD47とSIRPα1及びSIRPαBITとの結合を阻止する、並びに (d) T細胞フローサイトメトリー、好ましくは蛍光活性化細胞選別(FACS)染色において、ヒトSIRPγに結合しない。
【0014】
好ましい態様では、本発明は、a. 抗体の重鎖可変ドメインが、4つの重鎖フレームワーク領域HFR1~HFR4、及び3つの相補性決定領域HCDR1~HCDR3を含み、それらは、HFR1-HCDR1-HFR2-HCDR2-HFR3-HCDR3-HFR4の順で動作可能に連結しており、前記各重鎖フレームワーク領域は、配列番号8で示されるアミノ酸配列のフレームワークアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するか、又は、HFR1~HFR4は、表8~11に示した1つ以上のアミノ酸置換において、配列番号8で示されるアミノ酸配列と異なり、かつ、b. 抗体の軽鎖可変ドメインが、4つの軽鎖フレームワーク領域LFR1~LFR4、及び3つの相補性決定領域LCDR1~LCDR3を含み、それらは、LFR1-LCDR1-LFR2-LCDR2-LFR3-LCDR3-LFR4の順で動作可能に連結しており、前記各軽鎖フレームワーク領域は、配列番号9で示されるアミノ酸配列のフレームワークアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するか、又は、LFR1、LHR2及び/若しくはLFR4は、表12~14に示した1つ以上のアミノ酸置換において、配列番号9で示されるアミノ酸配列と異なる、ヒト化抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片に関する。
【0015】
好ましい態様では、本発明のヒト化抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片は、重鎖可変領域(HCVR)及び軽鎖可変領域(LCVR)を含み、抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片は、配列番号8のアミノ酸配列のHCVR及び配列番号9のアミノ酸配列のLCVRを含む。
【0016】
好ましい態様では、本発明のヒト化抗SIRPα抗体は、野生型のFc領域を有する同じ抗SIRPα抗体と比較して、ヒトFcα又はFcγ受容体との結合が低減した修飾Fc領域を含み、好ましくは、少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90%低減又は100%低減している。好ましい態様では、修飾されたヒトIgG1のFc領域は、EuナンバリングでL234、L235、G237、D265、D270、N297、A327、P328及びP329からなる群から選択される1つ以上の位置にアミノ酸置換を含む。より好ましくは、修飾されたヒトIgG1のFc領域は、アミノ酸置換L234A及びL235A;L234E及びL235A;L234A、L235A及びP329A;又はL234A、L235A及びP329Gを含む。より好ましくは、抗体は、アミノ酸置換L234A及びL235A、又はL234E及びL235Aを含む。最も好ましくは、抗体はアミノ酸置換L234A及びL235Aを含む。好ましい態様では、ヒトのFc領域は他のアミノ酸置換を有してない。
【0017】
第二の側面では、本発明は、本発明のヒト化抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片、及び薬学的に許容される添加剤を含む医薬組成物に関する。
【0018】
第三の側面では、本発明は、医薬として使用するための、本発明のヒト化抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片、又は本発明の医薬組成物に関する。
【0019】
第四の側面では、本発明は、がんの治療に使用するための、本発明のヒト化抗SIRPα抗体若しくはその抗原結合断片、又は本発明の医薬組成物に関し、前記治療はさらに治療用抗体の投与を含み、前記がんは、好ましくは、ヒトの固形腫瘍又は血液悪性腫瘍である。好ましくは、治療用抗体は、腫瘍細胞表面の膜に結合した標的に対するもので、ヒトの免疫エフェクター細胞上の活性化Fc受容体に結合するヒトのFc領域を含む。
【0020】
好ましい態様では、ヒトの固形腫瘍は、(HER2陽性)乳癌、(EGFR陽性)結腸癌、(GD2陽性)神経芽腫、黒色腫、骨肉腫、(CD20陽性)B細胞リンパ腫、(CD38陽性)多発性骨髄腫、(CD52陽性)リンパ腫、(CD33陽性)急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、ろ胞性リンパ腫(FL)及びびまん性大細胞性B細胞リンパ腫(DLBCL)を含む非ホジキンリンパ腫(NHL)、肝細胞癌、多発性骨髄腫(MM)、膀胱癌、胃癌、卵巣癌、頭頸部癌、膵臓癌、腎癌、前立腺癌、肝細胞癌並びに肺癌かならる群から選択される。好ましい態様では、治療は、例えば、標的治療薬、好ましくは免疫療法剤などの抗がん治療化合物をさらに投与することを含む。
【0021】
第五の側面では、本発明は、本発明のヒト化抗SIRPα抗体又は抗原結合断片をコードするヌクレオチド配列を含有する核酸分子に関し、前記核酸分子は、好ましくは、抗体のHCVR及びLCVRのうちの少なくとも1つをコードするヌクレオチド配列を含み、前記コードされたヌクレオチド配列は、好ましくは、宿主細胞中で、前記コードされたヌクレオチド配列の発現のための調節配列と動作可能に連結している。
【0022】
第六の側面では、本発明は、本発明の核酸分子を含む宿主細胞に関する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1a】フローサイトメトリーによる抗体とCD3
+T細胞で発現するSIRPγとの結合。平均蛍光強度(MFI)のデータを示す。2人の健康なヒトの測定値を記号で示す。
【
図1b】フローサイトメトリーによる抗体とCD3
+T細胞で発現するSIRPγとの結合。陽性細胞の割合(%)(
図1b)のデータを示す。2人の健康なヒトの測定値を記号で示す。
【
図2】標的細胞としてSKBR3 HER2陽性乳癌細胞を、エフェクター細胞としてヒト好中球を使用した場合の、トラスツズマブ(Tmab)単独、マウス12C4抗SIRPα抗体(mu12C4)とトラスツズマブの組合せ、マウス12C4の可変領域をヒトIgG
1の定常領域に移植した抗体(12C4huIgG
1)とトラスツズマブの組合せ、並びに、マウス12C4の可変領域をアミノ酸置換L234A及びL235Aを有するヒトIgG
1の定常領域に移植した抗体(12C4huIgG
1LALA、12C4-LALAともいう)とトラスツズマブの組合せの細胞毒性(%)として測定したADCCの比較。好中球は、2つのSIRPα
BIT対立遺伝子を有するヒトドナーから得た。トラスツズマブの濃度を、0、0.05、0.5及び5μg/mlと増加させ、また、抗SIRPα抗体の濃度も、0.2、2及び20μg/mlと増加させた。
【
図3】先行技術の抗SIRPα抗体のさまざまな濃度(μg/ml;用量反応曲線)と組み合わせた、トラスツズマブ(Tmab;10μg/ml)でオプソニン化されたSKBR3細胞の好中球が媒介するADCC。好中球は1つのSIRPα
1及び1つのSIRPα
BITの対立遺伝子を有するヘテロ接合のヒトドナーから得た。個々の好中球ドナーを記号で示す。棒は全てのドナーの平均である。対照として、未処理の細胞及び10μg/mlのトラスツズマブで処理した細胞を使用した。トラスツズマブに対する反応を100%としてデータを正規化している。G-CSF及びIFNγで一晩刺激した好中球を用いて実験を行った。ADCCをDELFIA細胞傷害アッセイで測定した。
【
図4】アミノ酸置換L234A及びL235Aを含むヒトIgG
1の定常領域を有する本発明の抗体1~6のさまざまな濃度(μg/ml;用量反応曲線)と組み合わせた、トラスツズマブ(Tmab;10μg/ml)でオプソニン化されたSKBR3細胞の好中球が媒介するADCC。好中球は1つのSIRPα
1及び1つのSIRPα
BITの対立遺伝子を有するヒトドナーから得た。個々の好中球ドナーを記号で示す。棒は全てのドナーの平均である。対照として、未処理の細胞及び10μg/mlのトラスツズマブで処理した細胞を使用した。トラスツズマブに対する反応を100%としてデータを正規化している。G-CSF及びIFNγで一晩刺激した好中球を用いて実験を行った。ADCCをDELFIA細胞傷害アッセイで測定した。
【
図5】アミノ酸置換L234A及びL235Aを含むヒトIgG
1の定常領域を有する本発明の抗体7~13のさまざまな濃度(μg/ml;用量反応曲線)と組み合わせた、トラスツズマブ(Tmab;10μg/ml)でオプソニン化されたSKBR3細胞の好中球が媒介するADCC。好中球は1つのSIRPα
1及び1つのSIRPα
BITの対立遺伝子を有するヒトドナーから得た。個々の好中球ドナーを記号で示す。棒は全てのドナーの平均である。トラスツズマブに対する反応を100%としてデータを正規化している。G-CSF及びIFNγで一晩刺激した好中球を用いて実験を行った。ADCCをDELFIA細胞傷害アッセイで測定した。
【
図6】先行技術の抗SIRPα抗体のさまざまな濃度(μg/ml;用量反応曲線)と組み合わせた、トラスツズマブ(Tmab;10μg/ml)でオプソニン化されたSKBR3細胞の好中球が媒介するADCC。好中球は2つのSIRPα
1対立遺伝子を有するヒトドナーから得た。個々の好中球ドナーを記号で示す。棒は全てのドナーの平均である。対照として、未処理の細胞及び10μg/mlのトラスツズマブで処理した細胞を使用した。トラスツズマブに対する反応を100%としてデータを正規化している。GM-CSFで100分間刺激した好中球を用いて実験を行い、ADCCを
51Cr放出アッセイで測定した。
【
図7】アミノ酸置換L234A及びL235Aを含むヒトIgG
1の定常領域を有する本発明の抗体7~13のさまざまな濃度(μg/ml;用量反応曲線)と組み合わせた、トラスツズマブ(Tmab;10μg/ml)でオプソニン化されたSKBR3細胞の好中球が媒介するADCC。好中球は2つのSIRPα
1対立遺伝子を有するヒトドナーから得た。個々の好中球ドナーを記号で示す。棒は全てのドナーの平均である。対照として、未処理の細胞及び10μg/mlのトラスツズマブで処理した細胞を使用した。トラスツズマブに対する反応を100%としてデータを正規化している。GM-CSFで100分間刺激した好中球を用いて実験を行い、ADCCを
51Cr放出アッセイで測定した。
【
図8】先行技術の抗SIRPα抗体のさまざまな濃度(μg/ml;用量反応曲線)と組み合わせた、トラスツズマブ(Tmab;10μg/ml)でオプソニン化されたSKBR3細胞の好中球が媒介するADCC。好中球は2つのSIRPα
BIT対立遺伝子を有するヒトドナーから得た。個々の好中球ドナーを記号で示す。棒は全てのドナーの平均である。対照として、未処理の細胞及び10μg/mlのトラスツズマブで処理した細胞を使用した。トラスツズマブに対する反応を100%としてデータを正規化している。GM-CSFで100分間刺激した好中球を用いて実験を行い、ADCCを
51Cr放出アッセイで測定した。
【
図9】アミノ酸置換L234A及びL235Aを含むヒトIgG
1の定常領域を有する本発明の抗体1~6のさまざまな濃度(μg/ml;用量反応曲線)と組み合わせた、トラスツズマブ(Tmab;10μg/ml)でオプソニン化されたSKBR3細胞の好中球が媒介するADCC。好中球は2つのSIRPα
BIT対立遺伝子を有するヒトドナーから得た。個々の好中球ドナーを記号で示す。棒は全てのドナーの平均である。対照として、未処理の細胞及び10μg/mlのトラスツズマブで処理した細胞を使用した。トラスツズマブに対する反応を100%としてデータを正規化している。GM-CSFで100分間刺激した好中球を用いて実験を行い、ADCCを
51Cr放出アッセイで測定した。
【
図10a】SIRPα
1/SIRPα
BITヘテロ接合の健康なドナーの全血のフローサイトメトリーによる、抗SIRPα抗体と顆粒球(左のパネル)、CD14
+単球(中央のパネル)及びCD3
+T細胞(右のパネル)との結合。それぞれの抗SIRPα抗体に関連するアイソタイプ対照もグラフ中に示す。データは、蛍光強度の中央値(MFI)として表す。
【
図11】フローサイトメトリーによる、抗SIRPα抗体と健康なドナーのバフィーコートから単離したSIRPγを発現するヒトCD3
+T細胞との結合。それぞれの抗SIRPα抗体に関連するアイソタイプ対照もグラフ中に示す。データは、蛍光強度の平均値(MFI)として表す。
【
図12a】さまざまな濃度の抗体6若しくはアイソタイプ対照の存在下、又は不存在下における、CD47リガンド細胞としてJurkat E6.1細胞を用いたJurkat SIRPα
BITシグナル伝達細胞の相対発光強度(RLU)で測定したSIRPαへのSHP-1の動員。最大信号の%は以下の式で求めた:[RLU/最大刺激のRLU(抗体なし)]×100結果を、2回の実験の平均±SEMとして示す。
【
図12b】Jurkat SIRPα
BITシグナル伝達細胞及びCD47リガンド細胞としてのJurkat E6.1細胞で測定した、3.3μg/mlの抗SIRPα抗体のSIRPα
BITシグナル伝達阻害効果。阻害効果は次のように計算した:100%-(3.3μg/mlにおける化合物の「最大信号の%」)。結果を、2回の実験の平均±SEMとして示す。
【
図13a】本発明の抗SIRPα抗体6及び参照抗体と組み合わせた、トラスツズマブ(10μg/ml)でオプソニン化されたSKBR3細胞の好中球が媒介するADCC。好中球は、2つのSIRPα
BIT対立遺伝子、2つのSIRPα
1対立遺伝子又は1つのSIRPα
BIT及び1つのSIRPα
1の対立遺伝子を有するヒトドナーから得た。棒は全てのドナーの平均±SEMである。対照として、未処理の細胞及び10μg/mlのトラスツズマブで処理した細胞を使用した。各抗体について、用量反応曲線は(左から右へ)10、1、0.1及び0.01μg/mlで作成した。aは抗体6及び参照抗体を示し、bはアイソタイプ対照を示す。トラスツズマブに対する反応を100%としてデータを正規化している。実験は、実施例10に記載したように行った。
【
図14a】本発明の抗SIRPα抗体6及び参照抗体と組み合わせた、セツキシマブ(5μg/ml)でオプソニン化されたA431細胞の好中球が媒介するADCC。好中球は、2つのSIRPα
BIT対立遺伝子、2つのSIRPα
1対立遺伝子又は1つのSIRPα
BIT及び1つのSIRPα
1の対立遺伝子を有するヒトドナーから得た。棒は全てのドナーの平均である。対照として、未処理の細胞及び5μg/mlのセツキシマブで処理した細胞を使用した。各抗体について、用量反応曲線は(左から右へ)10、1、0.1及び0.01μg/mlで作成した。aは抗体6及び参照抗体を示し、bはアイソタイプ対照を示す。セツキシマブに対する反応を100%としてデータを正規化している。実験は、実施例10に記載したように行った。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
定義
本明細書において使用する用語「抗体」は、2本の重鎖と2本の軽鎖を含有するモノクローナル抗体(mAb)を指す。抗体のアイソタイプは、IgA、IgE、IgG又はIgM抗体など任意のものであってもよい。抗体は、IgGAクロスアイソタイプであってもよい(Kelton et al. Chemistry and Biology, 2014, 21, 1603-1609)。好ましくは、抗体はIgG抗体、例えばIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4抗体であり、より好ましくはIgG1又はIgG2抗体である。本明細書では、用語「免疫グロブリン」(Ig)は、抗体と交換可能に使用される。本発明による抗体は、好ましくは、ヒト化抗体又はヒト抗体である。
【0025】
基本的な4本鎖抗体の単位は、2本の同じ軽鎖(L鎖)及び2本の同じの重鎖(H鎖)からなるヘテロ四量体の糖タンパク質である(IgM抗体は、5つの基本的なヘテロ四量体単位とJ鎖と呼ばれるポリペプチドからなり、10か所の抗原結合部位を含み、また、分泌されたIgA抗体は重合して、J鎖とともに2~5個の基本的な4本鎖単位を含む多価の集合体を形成することができる)。IgGでは、4本鎖単位は一般に約150,000ダルトンである。各L鎖は1つのジスルフィド共有結合でH鎖と結合し、2本のH鎖は、H鎖のアイソタイプに応じて1つ以上のジスルフィド結合で互いに結合する。しかし、IgGは、その機能を維持しながら、1つ以上のジスルフィド結合を欠いていてもよい。各H鎖及びL鎖には、規則的に間隔を置いた鎖内ジスルフィド架橋も存在する。各H鎖は、N末端に可変ドメイン(VH)と、それに続き、α鎖及びγ鎖のそれぞれで3つの定常ドメイン(CH)、μ及びεアイソタイプで4つのCHドメインを有する。一般に、H鎖は第1の定常領域と第2の定常領域との間にヒンジ領域を含む。各L鎖は、N末端に可変ドメイン(VL)があり、もう一方の末端には定常ドメイン(CL)がある。VLはVHと対をなし、CLは重鎖の最初の定常ドメイン(CH1)と対をなす。特定のアミノ酸残基は、L鎖とH鎖の可変ドメイン間のインターフェースを形成すると考えられている。VHとVLの対形成により単一の抗原結合部位が形成される。各クラスの抗体の構造と特性については、例えば、Basic and Clinical Immunology, 8th edition, Daniel P. Stites, Abba I. Terr and Tristram G. Parslow (eds.), Appleton & Lange, Norwalk, CT, page 71 and Chapter 6 (1994)を参照。
【0026】
脊椎動物のL鎖は、定常ドメインのアミノ酸配列に基づき、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2つの明確に異なる型のいずれかに分類することができる。免疫グロブリンは、重鎖(CH)の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、さまざまなクラス又はアイソタイプに分類することができる。免疫グロブリンには、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMの5つのクラスがあり、それぞれ、α、δ、ε、γ及びμと呼ぶ重鎖を有する。α及びγは、CHの配列のわずかな違いと機能に基づいてさらに分類され、例えば、ヒトでは以下のサブクラスがある:IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgAl及びIgA2。
【0027】
好ましくは、本発明の抗体は、ヒト化抗体又はヒト抗体である。さらにより好ましくは、抗体は、ヒト化又はヒトIgG抗体、最も好ましくは、ヒト化又はヒトIgG1 mAbである。抗体は、κ又はλ軽鎖、好ましくは(例えば、配列番号26で示すアミノ酸配列を有する)κ軽鎖を有していてもよく、すなわち、ヒト化又はヒトIgG1-κ抗体である。本発明の抗体は、一例を挙げると、1つ以上の突然変異を加え、例えば半減期を延長させるように、及び/又はエフェクター機能を低下させるように改変した定常領域を含んでいてもよい。
【0028】
本明細書における用語「モノクローナル抗体」及び「mAb」は、実質的に均質な抗体集団から得られる抗体を指し、すなわち、集団を構成する個々の抗体は、少量で存在し得る自然に発生する可能性のある突然変異体を除いて同一である。修飾語「モノクローナル」は、抗体の製造方法が特定の方法に限定されると解釈すべきではない。当該技術分野において、モノクローナル抗体を製造するいくつかの方法が公知である。例えば、本発明で有用なモノクローナル抗体は、所望の抗原を提示するペプチドの混合物で動物を免疫化することによって製造してもよい。続いて、Bリンパ球を単離してミエローマ細胞と融合させるか、又は馴化培地及びフィーダー細胞の存在下で単一のBリンパ球を数日間培養する。抗体を含むミエローマ又はBリンパ球の上清を試験して、適切なハイブリドーマ又はBリンパ球を選択する。モノクローナル抗体は、Koehler et al. Nature 1975, 256, 495-497によって最初に発表されたハイブリドーマ法で、適切なハイブリドーマから製造することができる。あるいは、適切なB細胞又はリンパ腫を溶解し、RNAを単離し、逆転写し、その配列を決定することができる。抗体は、細菌、真核生物又は植物細胞における組換えDNA法で製造することができる(例えば、米国特許第4,816,567号を参照)。
【0029】
抗体の「可変領域」又は「可変ドメイン」は、抗体の重鎖又は軽鎖のアミノ末端ドメインを指す。用語「可変」は、可変ドメインの特定のセグメントの配列が抗体間で大きく異なるという現実を指す。可変ドメインは抗原結合に関与し、特定の抗原に対する抗体の特異性を定める。しかし、抗体間の配列の相違は、可変ドメインの約110のアミノ酸全体に均等に分布していない。むしろ、可変領域は、それぞれアミノ酸長が約9~12であるが、例えば5アミノ酸残基である本発明のmAb中のHCDR1のように、これより短くても、長くてもよい、「超可変領域(HVR)」又は「相補性決定領域(CDR)」と呼ばれる極端に変化した短い領域によって分離された、アミノ酸長が15~30のフレームワーク領域(FR)と呼ばれる比較的不変の領域で構成される。天然の抗体の重鎖及び軽鎖の可変ドメインは主にβシート構造の4つのFRを含み、ループを形成し、場合によってはβシート構造の一部を形成する、3つのCDRによって接続される。各鎖中のCDRはFRによって近接して位置し、他の鎖のCDRとともに抗体の抗原結合部位の形成に関与する(Kabat et al. Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. 1991参照)。定常ドメインは、抗体と抗原の結合には直接関与していないが、ADCC及び/又はADCPにおける抗体の関与など、さまざまなエフェクター機能を示す。重鎖の可変ドメインは「VH」と呼ばれることがある。重鎖の可変ドメインは「VL」と呼ばれることがある。
【0030】
本明細書において使用する用語「抗原結合断片」には、望ましい生物学的及び/又は免疫学的活性を示す限り、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、scFv、及びrIgG断片が含まれる。用語「抗原結合断片」は、さらに、単鎖(sc)抗体、単一ドメイン(sd)抗体、ダイアボディ又はミニボディを含む。例えば、抗体のパパインによる分解により、「Fab」断片と呼ぶ2本の同一の抗原結合断片、及び容易に結晶化する「Fc」断片を得ることができる。Fab断片は、L鎖全体と、H鎖の可変領域ドメイン(VH)及び1本の重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)からなる。各Fab断片は抗原結合に関して1価、つまり、単一の抗原結合部位を有する。抗体のペプシン処理により、単一の大きなF(ab’)2断片を得ることができ、この断片は、2価の抗原結合活性を有する2つのジスルフィド結合で架橋したFab断片に対応し、依然として抗原と結合することができる。Fab’断片は、CH1ドメインのC末端に、抗体ヒンジ領域における1つ以上のシステインを含むいくつかの残基が存在する点でFab断片とは異なる。Fab’-SHは、定常ドメインのシステイン残基が遊離チオール基であるFab’のことである。F(ab’)2抗体断片は、もともと一対のFab’断片として得られ、鎖の間にヒンジシステインを有していた。抗体断片の他の化学的カップリングも知られている。Fc断片は、ジスルフィドで結合した2本のH鎖のC末端部分を含む。抗体のエフェクター機能は、Fc領域の配列によって決定され、この領域は、特定の細胞上のFc受容体(FcR)が認識する部分でもある。「Fv」は、完全な抗原認識部位及び抗原結合部位を含む最小の抗体断片である。この断片は、1つの重鎖可変領域ドメインと1つの軽鎖可変領域ドメインの密な非共有結合性会合による二量体からなる。単鎖Fv(scFv)では、1つの重鎖可変ドメインと1つの軽鎖可変ドメインがフレキシブルなペプチドリンカーを介して共有結合しており、その結果、重鎖と軽鎖は、2本鎖のFvと同様の「二量体」構造で会合することができる。これらの2つのドメインの折りたたみから、抗原結合に関与するアミノ酸残基であって、抗体に抗原結合特異性を付与する、6つの超可変ループ(H鎖及びL鎖からそれぞれ3つのループ)が生じる。しかし、単一の可変ドメイン(又は抗原に特異的な3つのCDRのみを有するFvの半分)も、結合部位全体と比較して親和性は低いものの、抗原を認識して結合する能力を有する。「sFv」又は「scFv」とも略される「単鎖Fv」は、単一のポリペプチド鎖で接続したVH及びVL抗体ドメインを含む抗体断片である。好ましくは、sFvポリペプチドは、VH及びVLドメインの間に、sFvが抗原に結合するための所望の構造を形成することを可能にするポリペプチドリンカーをさらに含む。sFvの総説については、Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg and Moore eds., Springer-Verlag, New York, pp. 269-315 (1994)を参照。“rIgG”は、約75,000ダルトンの還元されたIgGを指し、ヒンジ領域のジスルフィド結合のみ、例えば2-メルカプトエチルアミン(2-MEA)などの穏やかな還元剤で選択的に還元することによって得ることができる。
【0031】
用語「抗SIRPα抗体」又は「SIRPαに結合する抗体」は、SIRPαを標的とする診断薬及び/又は治療薬として使用することができる程度に十分な親和性でSIRPαに結合する抗体を指す。好ましくは、例えば、ラジオイムノアッセイ(RIA)、表面プラズモン共鳴(SPR)又は酵素免疫吸着法(ELISA)で測定した場合、抗SIRPα抗体と関係のない非SIRPタンパク質との結合は、抗体とSIRPαの結合の約10%未満である。関係のない標的との結合は、例えばRetrogenix(登録商標)などの細胞マイクロアレイ技術を使用して概要を明らかにすることもできる。
【0032】
「単離された抗体」は、特定され、自然環境から分離及び/又は回収された抗体である。自然環境における汚染成分は、抗体を治療に使用することを妨げる物質であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質性又は非タンパク質性溶質を含む。好ましい態様では、抗体は、(1) 純度がローリー法で95重量%を超えるまで、最も好ましくは99重量%以上に、(2) 回転カップ式自動配列決定装置を用いて、少なくともN末端の若しくは内部のアミノ酸配列の残基を決定するのに十分な程度まで、又は (3) 還元若しくは非還元条件のSDS-PAGEにおいてクーマシーブルー若しくは好ましくは銀染色を行った場合に均質になるまで、精製される。単離された抗体は、抗体の自然環境の少なくとも1つの成分は存在しないものの、組換え細胞内のin situでの抗体を含む。しかし、単離された抗体の製造では、通常、少なくとも1つの精製処理が行われる。
【0033】
「結合親和性」は、一般に、分子(例.抗体)の単一の結合部位と、その結合パートナー(例.抗原)との間の非共有相互作用の強さ合計を指す。他に明示されない限り、本明細書における「結合親和性」は、結合ペア(例.抗体及び抗原)間の1:1相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。本明細書において使用するパートナーYに対する分子Xの結合親和性は、特定の抗原抗体相互作用の平衡解離定数(「結合定数」;KDともいう)を指す。KDは、会合定数(kon)に対する解離定数(koff)の比率である。したがって、KDはkoff/konに等しく、モル濃度(M)で表される。その結果、KDの値が小さいほど結合の親和性が強くなる。親和性は、本明細書に記載の方法を含む当該技術分野において公知の一般的な方法によって測定することができる。一般に、低親和性の抗体は抗原にゆっくりと結合し、容易に解離する傾向にあり、高親和性の抗体は抗原に速く結合し、長く結合したままの傾向がある。結合親和性を測定するさまざまな方法が当該技術分野において知られており、そのいずれも本発明の目的に使用することができる。特定の例示的な態様を以下に説明する。通常、KD値は、表面プラズモン共鳴(SPR)を使用することによって、代表的には、当該技術分野において公知の方法(例.E.S. Day et al. Anal. Biochem. 2013, 440, 96-107)によるバイオセンサーシステム(例.BIAcore(登録商標))を使用して、例えば実施例に記載したような方法で求めることができる。あるいは、用語「結合親和性」は、例えば、ELISA又はフローサイトメトリーで求めた最大の結合の半分となる抗体の濃度(EC50)を指す場合もある。
【0034】
目的の抗原、例えばSIRPαに「結合する」抗体、は、当該抗原を発現する細胞又は組織を標的とする治療薬として有用で、他のタンパク質と強力に交差反応せず、当該抗原に十分な親和性で結合する抗体である。例えば、本発明の抗SIRPα抗体は、ヒトSIRPα、すなわち、少なくともヒトSIRPα1及びヒトSIRPαBIT、可能であればカニクイザルSIRPα、あるいはSIRPβ1v1及び/又はSIRPβ1v2に結合するが、SIRPγ又は無関係のタンパク質には結合しない。その様な態様では、抗体の「非標的」タンパク質への結合の程度は、蛍光活性化細胞選別(FACS)分析又は放射性免疫沈降アッセイ(RIPA)において、抗体と標的タンパク質の結合の、好ましくは約10%未満、より好ましくは約5%未満、より好ましくは約2%未満、より好ましくは約1%未満である。抗体と標的タンパク質の結合に関して、用語「特異的結合」、又は特定のポリペプチド若しくは特定のポリペプチド上のエピトープに「特異的に結合する」若しくは「特異的」であるとは、非特異的なものとは測定可能な程度に異なる結合を意味する。特異的結合は、例えば、一般に結合活性を持たない類似の構造の対照と比較した分子の結合の測定により求めることができる。例えば、特異的結合は、標識されていない過剰な標的といった標的に類似した対照との競合によって測定することができる。この場合、標識されていない過剰な標的により、プローブと標識された標的との結合が競合的に阻害されれば、特異的結合が示される。本明細書における用語「特異的結合」、又は特定のポリペプチド若しくは特定のポリペプチド上のエピトープに「特異的に結合する」若しくは「特異的」であるとは、例えば、25℃におけるSPRで、標的に対する少なくとも約10-7M以上、好ましくは少なくとも約10-8M、より好ましくは少なくとも約10-9M、さらにより好ましくは少なくとも約10-10M、さらにより好ましくは少なくとも約10-11M、さらにより好ましくは少なくとも約10-12M以上のKD(上述したように測定される)を有する分子によって示される。
【0035】
本明細書において使用する用語「低親和性」は、用語「結合しない」と交換可能であって、ELISAで求めたEC50が1500ng/mlを超える、及び/又は、好ましくは25℃におけるSPRで、例えば抗体と抗原の間のKDが、例えば10-7Mよりも大きく、10-6Mよりも大きく、又はさらに大きいというような、固定化された抗原と抗体との間で、特異的な結合が限られているか観察されない抗体と抗原の結合親和性を指す。
【0036】
本明細書における用語「高親和性」は、実施例に記載のように25℃におけるSPRで測定した場合に、KDが、通常、10-8M、10-9M、10-10M、10-11M未満、又はさらに低い抗体と抗原の結合親和性を指す。
【0037】
非ヒト(例.げっ歯類)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト抗体に由来する配列が最小限とされた抗体(例.非ヒト-ヒトキメラ抗体)である。非ヒト抗体をヒト化するさまざまな方法が当該技術分野において知られている。例えば、H鎖(VH)及びL鎖(VL)の可変領域(VR)における抗原が結合するCDRは、非ヒト、通常はマウス、ラット又はウサギの抗体に由来する。これらの非ヒトCDRは、結合親和性や特異性などの抗体の特性が少なくとも部分的に保持されるように、VH及びVL領域のヒトフレームワーク領域(FR1、FR2、FR3及びFR4)と組み合わせられる。ヒトFRにおけるアミノ酸を、対応する元の非ヒトのアミノ酸と交換して、低い免疫原性を維持しながら、結合親和性の改善といった抗体の性能をさらに洗練することができる。あるいは、非ヒト抗体は、そのアミノ酸配列を改変してヒトが産生する抗体との類似性を高めることによりヒト化することができる。例えば、元の非ヒトのFRのアミノ酸は、対応するヒト抗体のアミノ酸と交換し、抗体の結合親和性を維持しながら、免疫原性を低下させる。非ヒト抗体のヒト化の代表的な方法は、CDRをヒト抗体の対応する配列に置き換えることによるWinterらの方法(Jones et al. Nature 1986, 321, 522-525;Riechmann et al. Nature 1988, 332, 323-327;Verhoeyen et al. Science 1988, 239, 1534-1536)である。
【0038】
このようにヒト化された可変領域は、通常、ヒトの定常領域と組み合わせられる。一般に、ヒト化抗体は、通常、全て又は実質的に全てのCDRが非ヒト免疫グロブリンのCDRに対応し、全て又は実質的に全てのFRがヒト免疫グロブリン配列のFRである、2つの可変ドメインを含む。ヒト化抗体は、任意に、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部分も含む。詳細については、Jones et al. Nature 1986, 321, 522-525; Riechmann et al. Nature 1988, 332, 323-327及びPresta. Curr. Op. Struct. Biol. 1992, 2, 593-596を参照。以下の総説及びそこで引用されている文献も参照:Vaswani and Hamilton. Ann. Allergy, Asthma and Immunol. 1998, 1, 105-115;Harris. Biochem. Soc. Transactions 1995, 23, 1035-1038;and Hurle and Gross. Curr. Op. Biotech. (1994), 5, 428-433。
【0039】
本明細書において、用語「超可変領域」、「HVR」は、配列が超可変である、及び/又は抗原との結合に関与するループを形成する、抗体可変ドメインの領域を指す。一般に、抗体は6つの超可変領域を有する:VHに3つ(H1、H2、H3)、VLに3つ(L1、L2、L3)。いくつかの超可変領域を記述する方法があり、これらは本明細書に含まれる。超可変領域は、一般に、「相補性決定領域」又は「CDR」のアミノ酸残基(例.Kabatによるナンバリング;Kabat et al. Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD, 1991で番号を付与した場合、VLでは、残基24~34(L1)、50~56(L2)及び89~97(L3)、VHでは、約31~35(H1)、50~65(H2)及び95~102(H3));「超可変ループ」のアミノ酸残基(例.Chothiaによるナンバリング;Chothia and Lesk. J. Mol. Biol. 1987, 196, 901-917で番号を付与した場合、VLでは、残基24~34(L1),50~56(L2)及び89~97(L3)、VHでは、26~32(H1),52~56(H2)及び95~101(H3));並びに/又は、「超可変ループ」/CDRのアミノ酸残基(例.IMGTによるナンバリング;Lefranc et al. Nucl. Acids Res. 1999, 27, 209-212;Ruiz et al. Nucl. Acids Res. 2000, 28, 219-221で番号を付与した場合、VLでは、残基27~38(L1),56~65(L2)及び105~120(L3)、VHでは、27~38(H1),56~65(H2)及び105~120(H3))を含む。場合によっては、抗体は、Honneger及びPlunkthunによるナンバリング(Mol. Biol. 2001, 309, 657-670)で番号を付与した場合、VLでは残基28、36(L1)、63、74~75(L2)及び123(L3)、VHでは残基28、36(H1)、63、74~75(H2)及び123(H3)の1つ以上に対称的な挿入を有する。Dondelingerらは、いくつかのナンバリングシステムとその使用法を再検討した(Dondelinger et al. Frontiers in Immunology, 2018, 9, Art 2278)。本発明の抗体及び抗原結合断片のHVR/CDRは、Kabatによるナンバリングに従って特定され、番号を付与されることが好ましい。
【0040】
「フレームワーク」又は「FR」の残基は、本明細書において定義される超可変領域の残基以外の可変ドメインの残基である。
【0041】
本明細書における「ブロッキング」抗体又は「アンタゴニスト」抗体は、天然のリガンドが結合することを部分的に又は完全に妨ぐ抗体を意味する。例えば、抗SIRPαブロッキング抗体は、SIRPαとCD47の結合を防ぐ。好ましいブロッキング抗体又はアンタゴニスト抗体は、抗原の生物活性を実質的に又は完全に阻害する。
【0042】
用語「エピトープ」は、例えば抗体のような抗原結合タンパク質が結合する分子の一部である。この用語には、抗体又はT細胞受容体などの抗原結合タンパク質に特異的に結合することができる決定基が含まれる。エピトープは、連続的又は非連続的(例.ポリペプチド鎖中では、一次構造では互いに隣接していないが、三次構造を形成した分子内では隣接するアミノ酸残基が抗原結合タンパク質と結合する)である可能性がある。ある態様では、抗原結合タンパク質を製造するために用いるエピトープに含まれるアミノ酸残基をまったく含まないか、一部しか含まないにもかかわらず、当該エピトープと類似の三次元構造を含むという点で、エピトープは模倣的であるかもしれない。ほとんどの場合、エピトープはタンパク質の表面に存在するが、核酸などの他の分子上に存在する場合もある。エピトープ決定基には、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル、スルホニル又は硫酸基などの分子の表面の化学的に活性な基が含まれ、特定の三次元構造及び/又は特定の電荷を有していてもよい。一般に、特定の抗原に特異的な抗体は、タンパク質及び/又は高分子の混合物中の当該抗原上のエピトープを優先的に認識する。SIRPαの細胞外ドメインは、ドメインd1、d2又はd3が、例えばエピトープとなる可能性がある。
【0043】
本明細書において、用語「Fc領域」は、野生型及び変異体のFc領域を含む、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界は変化してもよく、ヒトIgGのFc領域は、通常、Cys226から、又はPro230からそのC末端までと定義される。Fc領域のC末端リジン(EUナンバリングでは残基447)は、例えば、抗体の産生若しくは精製中に、又は抗体の重鎖をコードする核酸の組換えにより、除去してもよい。したがって、インタクトな抗体の組成物は、全てのK447残基が除去された抗体の集団、K447残基が全く除去されていない抗体の集団、及びK447残基を有する抗体とK447残基を有さない抗体の混合物の抗体の集団を含んでいてもよい。
【0044】
「機能性Fc領域」は、野生型のFc領域の「エフェクター機能」を有する。抗体のエフェクター機能は、抗体のアイソタイプによって異なる。代表的な「エフェクター機能」には、補体成分1q(C1q)結合;CDC;Fc受容体結合;ADCC;ADCP;ADAP;細胞表面受容体(例.B細胞受容体;BCR)の下方調節及びB細胞活性化が含まれる。そのようなエフェクター機能は、一般に、Fc領域と結合ドメイン(例.抗体可変ドメイン)が結合していることを必要とし、例えば、本明細書で説明したさまざまなアッセイ法により評価することができる。
【0045】
「野生型のFc領域」は、自然界に見られるFc領域のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含む。野生型のヒトFc領域には、野生型のヒトIgG1 Fc領域(非A型及びA型アロタイプ)、野生型のヒトIgG2 Fc領域、野生型のヒトIgG3 Fc領域及び野生型のヒトIgG4 Fc領域並びに自然に生じたその変異体が含まれる。
【0046】
「変異型Fc領域」は、少なくとも1つのアミノ酸の修飾、好ましくは1つ以上のアミノ酸置換による、野生型のFc領域のアミノ酸配列とは異なる配列を含む。好ましくは、変異体Fc領域は、野生型のFc領域又は親ポリペプチドのFc領域と比較して、少なくとも1つのアミノ酸置換、例えば、約1~約10のアミノ酸置換、そして、好ましくは、野生型のFc領域又は親ポリペプチドのFc領域に約1~約5個のアミノ酸置換を有する。本明細書に記載の変異型Fc領域は、好ましくは、野生型のFc領域及び/又は親ポリペプチドのFc領域と少なくとも約80%の相同性、そして、最も好ましくは少なくとも約90%の相同性、より好ましくは少なくとも約95%の相同性を有する。
【0047】
「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害」(「抗体依存性細胞傷害」ともいう)又は「ADCC」は、特定の細胞傷害性細胞(例.ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、及び単球/マクロファージ)のFc受容体(FcR)に結合した分泌されたIgが、これらの細胞傷害性のエフェクター細胞が抗原を有する標的細胞に特異的に結合することを可能にする細胞傷害性の形態を指す。NK細胞はFcγRIIIAのみを発現するが、単球はFcγRI、FcγRIIA/B及びFcγRIIIAを発現する。ヒトの血液中で最も豊富な白血球である好中球もADCCを媒介し、これは一般にFcγRIIAを発現する(Zhao et al. Natl Acad Sci U S A. 2011, 108(45), 18342-7;Treffers et al. Eur J Immunol. 2018, 48(2), 344-354;Matlung et al. Cell Rep. 2018, 23(13), 3946-3959)。造血細胞におけるFcRの発現は、Bruhns and Joensson Immunol Rev. 2015, 268(1), 25-51の33ページ、表2に要約されている。対象とする分子のADCC活性を評価するために、米国特許第5,500,362号又は第5,821,337号に記載されているような、又は実施例に記載されているようなin vitroでのADCCアッセイを行うことができる。このようなアッセイに有用なエフェクター細胞には、単球及びNK細胞の混合物を含む末梢血単核細胞(PBMC)、又は単離した単球、好中球若しくはNK細胞が含まれる。あるいは、又は加えて、対象とする分子のADCC活性は、例えば、Clynes et al. Proc. Natl. Acad. Sci. (USA) 1998, 95, 652-656に記載の動物モデル、又はZhao et al, PNAS 2011に記載のB16F10モデルのような周知の腫瘍モデルにおいて、in vivoで評価することができる。「Fc受容体」又は「FcR」は、抗体のFc領域に結合する受容体を表す。好ましいFcRは野生型のヒトFcRである。さらに、好ましいFcRは、IgG抗体(γ受容体)に結合するもので、FcγRI、FcγRII及びFcγRIIIサブクラスの受容体を含み、これらの受容体のアレル変異体及び選択的スプライシングによる形態を含む。FcγRII受容体には、FcγRIIA(「活性化受容体」)及びFcγRIIB(「阻害受容体」)が含まれ、これらは主にその細胞質ドメインにおいて異なる類似のアミノ酸配列を有する。活性化受容体FcγRIIAは、細胞質ドメインにITAM(immunoreceptor tyrosine-based activation motif)を含む。阻害受容体FcγRIIBは、細胞質ドメインにITIM(immunoreceptor tyrosine-based inhibition motif)を含む(総説M. in Daeeron. Annu. Rev. Immunol. 1997, 15, 203-234を参照)。FcRの総説は、Ravetch and Kinet. Annu. Rev. Immunol. 1991, 9, 457-492;Capel et al. Immunomethods 1994, 4, 25-34及びde Haas et al. J. Lab. Clin. Med. 1995, 126, 330-341を参照。将来特定されるものも含む他のFcRが、本明細書における用語「FcR」に包含される。
【0048】
「ヒトエフェクター細胞」は、1つ以上のFcRを発現し、エフェクター機能を発揮する白血球である。好ましくは、細胞はFcεRIIA(好中球又は単球)又はFcγRIIIA(NK細胞又は単球)を発現し、ADCCによるエフェクター機能を発揮する。ADCCを媒介するヒト白血球には、PBMC、NK細胞、単球、マクロファージ及び好中球が含まれ、好中球が好ましい。エフェクター細胞は、天然の供給源、例えば血液、好ましくはヒトの血液から単離することができる。
【0049】
本明細書における用語「治療用抗体」は、ヒトの治療に適した、上記で定義された抗体又はその抗原結合断片を指す。ヒトの治療に適した抗体は、十分な品質を有し、安全で、ヒトの特定の疾患の治療に有効である。品質は、確立したGMPガイドラインで評価され、安全性及び有効性は、通常、欧州医薬品庁(EMA)又は米国食品医薬品局(FDA)といった医薬品規制当局の確立したガイドラインで評価される。これらのガイドラインは、当該技術分野において周知である。本明細書では、用語「治療用抗体」には抗SIRPα抗体は含まれない。本明細書における用語「治療用抗体」は、例えば抗CD20、抗HER2、抗GD2、抗EGFR又は抗CD70抗体などの抗がん抗体を意味する。
【0050】
「配列同一性」及び「配列類似性」は、2つの配列の長さに応じて、グローバル又はローカルアラインメントアルゴリズムを使用する、2つのアミノ酸配列又はヌクレオチド配列のアラインメントによって決定することができる。長さが類似する配列は、それらの全体にわたって配列を最適に整列させるグローバルアラインメントアルゴリズム(例.ニードルマン-ブンシュ)を使用して整列させることが好ましく、長さが実質的に異なる配列は、ローカルアラインメントアルゴリズム(例.スミス-ウォーターマン)を使用して整列させることが好ましい。配列は、(例えば、プログラムGAP又はBESTFITでデフォルトのパラメーターを使用して最適に整列された場合に)少なくとも特定の最小パーセンテージの配列同一性(以下に定義)を共有する場合、「実質的に同一」又は「本質的に類似」という可能性がある。GAPは、ニードルマン-ブンシュのグローバルアラインメントアルゴリズムを使用して、2つの配列をその全体(全長)にわたって整列させ、一致の数を最大にし、ギャップの数を最小にする。グローバルアラインメントは、2つの配列の長さが類似する場合に、配列の同一性を決定するために適切に用いられる。一般に、ギャップ開始ペナルティは、ヌクレオチドで50、タンパク質で8、ギャップ伸長ペナルティは、ヌクレオチドで3、タンパク質で2、というギャップのデフォルトパラメーターが使用される。使用されるデフォルトのスコア行列は、ヌクレオチドではnwsgapdnaであり、タンパク質ではBlosum62である(Henikoff & Henikoff. PNAS 1992, 89, 915-919)。配列同一性の割合算出における配列のアラインメント及びスコアは、Accelrys Inc.(9685 Scranton Road, San Diego, CA 92121-3752 USA)が提供するGCG Wisconsin Package, Version 10.3のようなコンピュータープログラムを使用するか、又は、プログラム「needle」(グローバルなニードルマン-ブンシュ アルゴリズムを使用)若しくは「water」のEmbossWIN version 2.10.0(ローカルなスミス-ウォーターマンを使用)のようなオープンソースソフトウェアで、上述したGAPと同じパラメーターを使用するか、若しくはデフォルトの設定(「needle」と「water」の両者とも、タンパク質、DNAともに、ギャップ開始ペナルティを10.0、ギャップ伸長ペナルティを0.5とし、スコア行列は、タンパク質の場合Blossum62、DNAの場合DNAFull)により決定することができる。配列の全長が実質的に異なる場合、スミス-ウォーターマンアルゴリズムのようなローカルアラインメントの使用が好ましい。あるいは、FASTA、BLASTなどのアルゴリズムを使用するパブリックデータベースの検索により、類似性の割合又は同一性を決定することもできる。
【0051】
上記アラインメントプログラムを使用して2つのアミノ酸配列が整列されると、アミノ酸配列Aとアミノ酸配列Bの配列同一性の%(あるいは、アミノ酸配列Bと特定の%の配列同一性を有する又は含むアミノ酸配列Aと表現することもできる)は、以下のように計算される:(X/Y)×100(式中、Xは、当該配列アラインメントプログラムによるAとBのアラインメントにおいて、当該プログラムによって一致と認定されたアミノ酸残基の数であり、YはBにおけるアミノ酸残基の総数である)。アミノ酸配列AとBで長さが等しくない場合、Bに対するAのアミノ酸配列同一性の%は、Aに対するBの配列同一性の%と等しくないことが理解される。
【0052】
場合によっては、アミノ酸の類似性を決定する際に、いわゆる「保存的アミノ酸置換」を考慮に入れることができる。「保存的アミノ酸置換」とは、類似の側鎖を有する残基の互換性を指す。例えば、脂肪族の側鎖を有するアミノ酸残基のグループは、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシンで;脂肪族ヒドロキシル基の側鎖を有するアミノ酸のグループはセリン及びスレオニンで;アミド含有基の側鎖を有するアミノ酸のグループはアスパラギン及びグルタミンで;芳香族の側鎖を有するアミノ酸のグループは、フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファンで;塩基性の側鎖を有するアミノ酸のグループは、リジン、アルギニン及びヒスチジンで;硫黄含有基の側鎖を持つアミノ酸のグループはシステイン及びメチオニンである。好ましい保存的アミノ酸置換のグループは、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン及びアスパラギン-グルタミンである。天然アミノ酸それぞれの代表的な保存的置換は以下のとおり:AlaとSer;ArgとLys;AsnとGln又はHis;AspとGlu;CysとSer又はAla;GlnとAsn;GluとAsp;GlyとPro;HisとAsn又はGln;IleとLeu又はVal;LeuとIle又はVal;LysとArg、Gln又はGlu;MetとLeu又はIle;PheとMet、Leu又はTyr;SerとThr;ThrとSer;TrpとTyr;TyrとTrp又はPhe;ValとIle又はLeu。
【0053】
「核酸構築物」又は「核酸ベクター」は、本明細書では、組換えDNA技術の使用による人工の核酸分子を意味すると理解される。したがって、用語「核酸構築物」は、天然の核酸分子(の一部)を含んでいてもよいが、天然の核酸分子それ自体は含まない。用語「発現ベクター」又は「発現構築物」は、これらを含む宿主細胞又は宿主生物において遺伝子を発現することができるヌクレオチド配列を指す。これらの発現ベクターは、通常、少なくとも適切な転写調節配列を含み、場合によっては3’転写終結シグナルも含む。発現エンハンサー要素など、発現に影響を与えるのに必要又は役立つ因子が存在してもよい。発現ベクターは、適切な宿主細胞に導入され、in vitroでの宿主細胞の培養によりコードされた配列を発現することができる。発現ベクターは、本発明の宿主細胞又は生物での複製に適している。
【0054】
本明細書において、用語「プロモーター」又は「転写調節配列」は、1つ以上のコードされた配列の転写を制御するように機能する核酸断片を指し、転写の方向に対して、コードされた配列の転写開始部位の上流に位置し、DNA依存性RNAポリメラーゼの結合部位、転写開始部位及び他のDNA配列の存在によって構造的に識別され、これには、転写因子結合部位、リプレッサー及びアクチベータータンパク質結合部位、及び直接的又は間接的に作用してプロモーターからの転写量を調節することが当業者に知られている他のヌクレオチド配列が含まれるが、これらに限定されるものではない。「構成的」プロモーターは、ほとんどの生理学的及び発生的条件において、大部分の組織で活性なプロモーターである。「誘導性」プロモーターは、例えば、化学的誘導物質の適用によって生理学的又は発生的に調節されるプロモーターである。
【0055】
本明細書において用語「動作可能に連結」されたとは、機能的関係にあるポリヌクレオチド要素の連結を指す。核酸は、別の核酸配列と機能的な関係に位置する場合、「動作可能に連結」されている。例えば、転写調節配列がコードされた配列の転写に影響を与える場合、それはコードされた配列に動作可能に連結している。動作可能に連結されているとは、連結しているDNA配列は、通常連続しており、2つのタンパク質コード領域を結合する必要がある場合は、連続して読み枠内にあることを意味する。
【0056】
本明細書における用語「ADC」は、これまでに説明した治療用抗体又はその抗原結合断片とリンカーを介して結合した細胞毒性薬を指す。ADC中の抗体又はその抗原結合断片は、抗SIRPα抗体ではない。通常、細胞毒性薬は非常に強力で、例えば、デュオカルマイシン、カリケアマイシン、ピロロベンゾジアゼピン(PBD)二量体、メイタンシノイド又はアウリスタチン誘導体である。リンカーは切断可能であり、例えば、切断可能なジペプチドであるバリン-シトルリン(vc)又はバリン-アラニン(va)が含まれ、例えば、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)のように切断可能ではないものも含まれる。
【0057】
本発明の抗体又はその断片
腫瘍の免疫回避機構ではSIRPαが重要な役割を果たすことが示されているが、SIRPαを標的とする治療法は承認されていない。
【0058】
SIRPα(CD172抗原様ファミリーA、CD172a、SHPS-1、MyD-1としても知られている)は、免疫エフェクター細胞上に存在する細胞外Ig様ドメインを有する膜貫通型糖タンパク質であるシグナル調節タンパク質(SIRP)の一種である。CD47(インテグリン関連タンパク質、IAPとしても知られている)はSIRPαのリガンドである。SIRPαのNH2末端のリガンド結合ドメインは高度に多型である(Takenaka et al. Nature Immun. 2007, 8(12), 1313-1323)。しかし、この多型はCD47との結合に大きく影響しない。SIRPαBIT(v1)及びSIRPα1(v2)は、最も一般的で、最も変化した(13残基相違する)多形である(Hatherley et al. J. Biol. Chem. 2014, 289(14), 10024-10028)。SIRPαは、CD47の他にサーファクタントタンパク質(SP-A及びSP-D)にも結合することができる(Gardai et al 2003, Janssen et al. 2008, Fournier et al. 2012)。実際、CD47はSIRPαのドメインD1に結合することができ、(同時に)SP-DはSIRPαのドメインD3に結合することができる。SIRPαと同様、サーファクタントタンパク質は、マクロファージ及び/又は好中球が関与する、例えばアポトーシス細胞及び微生物に対する自然免疫/炎症反応に影響を与える。他の生化学的な特徴を有するヒトSIRPのファミリーはSIRPβ1及びSIRPγである。SIRPファミリーの命名法は、van den Berg et al. J Immunology 2005, 175(12), 7788-9に記載されている。
【0059】
SIRPβ1(CD172Bとしても知られている)はCD47に結合せず(van Beek et al. J. Immunol. 2005, 175(12), 7781-7787, 7788-7789)、少なくとも2つのSIRPβ1多型変異体(SIRPβ1v1(ENSP00000371018)及びSIRPβ1v2(ENSP00000279477))が知られている。SIRPβ1の天然のリガンドはまだ不明であるが、抗SIRPβ1特異的抗体を使用したin vitroの研究は、SIRPβ1が、DAP12、Syk及びSLP-76のチロシンリン酸化と、それに続くMEK-MAPK-ミオシン軽鎖キナーゼカスケードの活性化の誘導によるマクロファージの食作用促進に関与していることを示している(Matozaki et al. J. Biol. Chem. 2004, 279(28), 29450-29460)。ヒトSIRPβ1は単球や顆粒球などの骨髄細胞で発現するが、リンパ球では発現しない(Hayashi et al. J. of Biol Chem. 2004, 279(28);Dietrich et al. The Journal of Immunology 2000, 164, 9-12)。
【0060】
SIRPγ(CD172Gとしても知られている)はT細胞及び活性化NK細胞で発現し、CD47との結合親和性はSIRPαの10分の1である。SIRPγとCD47の相互作用は、抗原提示細胞とT細胞の接触に関与し、T細胞の活性化を共刺激し、T細胞の増殖を促進する(Piccio et al. Blood 2005, 105, 2421-2427)。SIRPγとCD47の相互作用は、さらに、T細胞の経内皮移動に関与する(Stefanidakis et al. Blood 2008, 112, 1280-1289)。国際公開第2017/178653号は、SIRPαとSIRPγの特にCD47と相互作用する領域における配列の高い類似性のために、先行技術の抗SIRPα抗体もSIRPγに結合し、T細胞の増殖の阻害や免疫応答の低下などのヒトに望ましくない影響を及ぼすことを開示する。したがって、T細胞のSIRPγと結合しない本発明の抗SIRPα抗体は、T細胞のSIRPγと結合する抗SIRPα抗体とは対照的に、T細胞の血管外遊走をほとんど又は全く阻害しない、及び/又はT細胞の経内皮移動をほとんど又は全く阻害しないと仮定される。
【0061】
本発明は、少なくとも2つの優勢なヒトSIRPα多型変異体であるSIRPαBIT及びSIRPα1に対する特異的結合を示す抗SIRPαアンタゴニスト抗体に関する。好ましくは、本発明の抗SIRPα抗体は、ヒトSIRPγに対する親和性(好ましくは、実施例に記載の、CD3+T細胞FACS染色又は表面プラズモン共鳴(好ましくはBiaCore(登録商標))によって測定)が、低下しているか、低いか、最も好ましくは親和性がない。好ましくは、本発明の抗SIRPα抗体は、ヒトSIRPβ1v1及び/又はヒトSIRPβ1v2に対する親和性が低下しているか、低い。好ましくは、それらは治療用抗体のADCC及び/又はADCPを増加させる。好ましい態様では、本発明の抗SIRPα抗体は、カニクイザルSIRPαにも結合する。
【0062】
アンタゴニスト抗体は特定の抗原に対して親和性を有し、抗体が抗原と結合すると、受容体におけるアゴニスト又はインバースアゴニストの機能を阻害する。この場合、抗SIRPαアンタゴニスト抗体とSIRPαの結合は、SIRPαとCD47の結合を妨げると仮定される。抗SIRPαアンタゴニスト抗体は、CD47が結合するのと同じ部位、つまりオルソステリック部位に結合し、SIRPαとCD47のライゲーションを防ぎ、その結果、免疫エフェクター細胞のFc受容体に依存する作用を負に調節するシグナル伝達を阻害する可能性がある。又は、抗SIRPαアンタゴニスト抗体は、CD47が結合する部位のすぐそばに結合し、立体障害によりSIRPαとCD47の間の相互作用を妨げる可能性がある。あるいは、CD47と相互作用する部位の遠位にある抗体は、例えば受け入れることができないコンフォメーションを誘導することにより、SIRPαとCD47の結合を阻止する可能性がある。理論に拘束されることを望むものではないが、SIRPαとCD47の結合の阻止は、濃度3.3μg/mlの抗SIRPα抗体で実施例に記載のように測定した場合、SIRPαシグナル伝達カスケードを、好ましくは60%、より好ましくは少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、最も好ましくは少なくとも80%、減少又は防止すると仮定される。
【0063】
抗体が、例えば、SIRPβ1v1、SIRPβ1v2及びSIRPγなどの標的以外の抗原にも結合する場合、特に抗体がこれらの抗原に高い親和性で結合する場合、このような抗原は、抗体シンク(antibody sink)として機能する可能性がある。したがって、抗体のオフターゲット結合を最小限に抑えることにより抗体シンク効果が減少し、同じ特性を有する抗体と比較して、低用量でも有効であるか、又は、同じ用量で高い効果をもたらす可能性があると仮定される。
【0064】
現在、SIRPβ1の役割はよくわかっていない。したがって、本発明の抗体は、多型変異体(SIRPβ1v1及びSIRPβ1v2)に対して比較的低い結合親和性を有することが好ましい。一方、SIRPα(免疫受容体チロシン阻害モチーフ、ITIMによるシグナル伝達)及びSIRPβ1(免疫受容体チロシン活性化モチーフ、ITAMによるシグナル伝達)の活性化は、マクロファージやPMN/好中球などの免疫学的エフェクター細胞の機能に反対の影響を与えることが報告されている(van Beek et al. J. Immunol. 2005, 175(12), 7781-7787, 7788-7789)。さらに、マウスSIRPβ1受容体の誘発がマクロファージの食作用を促進することが報告されている(Hayashi et al. J. Biol. Chem. 2004, 279(28), 29450-29460)。Liuらは、抗体を介したSIRPβ1のライゲーションがfMLP駆動のPMN経上皮遊走を増強したと報告している(J. Biol. Chem. 2005, 280 (43), 36132-36140)。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、SIRPβ1にも結合する抗SIRPαブロッキング抗体がSIRPα及びSIRPβ1に対して反対の影響を与える可能性があると考えられる。最大の抗腫瘍細胞応答を得るために、SIRPβ1への影響を制限又は回避し、同時に、SIRPγとの結合を介した適応免疫細胞(T細胞)の遮断を回避しながら、SIRPαを遮断することによって自然免疫細胞(例.PMN/好中球及び/又はマクロファージ)の活動を刺激する抗体が必要である。
【0065】
本発明の抗体は、好ましくは、以下の特徴:(i) CD47とSIRPαBIT及びSIRPα1との結合を阻止することができる、(ii) ヒトCD3+T細胞に結合しない、(iii) SIRPαシグナル伝達を低減することができる、の全てを有する。好ましくは、SPRで測定した場合、本発明の抗体はSIRPβ1v1及び/又はSIRPβ1v2との結合が減少しているか、又は低い。対照的に、公知の抗SIRPα抗体は、単一の抗体中に全ての望ましい特異性を併せ持っていない(CD47とSIRPαBIT及びSIRPα1との結合を阻止することができる全ての抗体は、SIRPγとも結合する。HEFLBはSIRPγに結合しないでSIRPαBITを阻止することができるが、SIRPα1を阻止するどころか、結合する能力もない)。SIRPγと結合することなくSIRPα1及びSIRPαBITに結合することができる他の先行技術の抗体は、SIRPαとCD47の結合を阻止することができず、したがって、SHP-1動員の阻止で測定した場合に、SIRPαシグナル伝達を阻止しないか、又は高いIC50でのみ阻止する。SIRPα1及びSIRPαBITの両者に結合し阻止することができるにもかかわらず、SHP-1動員の阻止で測定した場合に、SE5A5は、SIRPαシグナル伝達を阻止することができない。これらの特性は、実施例に記載されているか、実施例で参照されているように特定される。
【0066】
第一の側面では、本発明は、SIRPαに結合する抗体又はその抗原結合断片を提供する。本発明の抗SIRPα抗体は、好ましくは、単離された抗体である。好ましくは、本発明の抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片は、霊長類のSIRPα、より好ましくはヒトSIRPα、最も好ましくは少なくとも対立遺伝子変異体SIRPα1及びSIRPαBITに結合する。好ましい態様では、抗体又はその抗原結合断片は、好ましくは、実施例に記載のヒトCD3+T細胞FACS染色、又はBiacore実験で測定した場合、従来技術の抗体と比較して、SIRPγに対する結合が低下し、より好ましくはSIRPγに対する結合が弱く、最も好ましくはSIRPγに結合しない。好ましくは、抗体又はその抗原結合断片は、治療用抗体のADCC及び/又はADCPを増加させる。好ましくは、本発明の抗SIRPα抗体は、実施例に記載のDELFIA又は51Cr放出アッセイで測定した場合、トラスツズマブ単独の場合と比較して、0.1μg/mlの抗SIRPα抗体で10μg/mlのトラスツズマブのADCCを少なくとも1.2倍、より好ましくは1.3倍、より好ましくは1.4倍、より好ましくは1.5倍、より好ましくは1.6倍、より好ましくは1.7倍、より好ましくは1.8倍、より好ましくは1.9倍、より好ましくは2.0倍、より好ましくは2.1倍、より好ましくは2.2倍、最も好ましくは1.3倍、増加させる。
【0067】
場合によっては本明細書に記載した他の態様と組み合わせて、好ましい態様では、本発明の抗SIRPα抗体は、ヒト化又はヒト抗SIRPα抗体であり、本発明の抗原結合断片は、ヒト化又はヒト抗SIRPα抗体からのこれまでに説明した抗原結合断片である。より好ましくは、本発明の抗SIRPα抗体は、ヒト化抗SIRPα抗体であり、本発明の抗原結合断片は、ヒト化抗SIRPα抗体に由来する。
【0068】
本発明のヒト化抗体又はその抗原結合断片は、好ましくは、抗体又は断片が投与される対象において、抗体に対する免疫原性応答をほとんど誘発しないか、全く誘発しない。非ヒト抗体、例えばマウス若しくはラット抗体などのげっ歯類抗体若しくはウサギ抗体、又は非ヒト-ヒトキメラ抗体は、潜在的にヒトの抗非ヒト抗体応答を誘発する可能性があり、その場合、本発明のヒト化抗体又はその抗原結合断片は、当該非ヒト抗体又は宿主対象における非ヒト-ヒトキメラ抗体と比較して、実質的に低下した免疫原性応答を誘発する、及び/又は、誘発すると予想される。好ましくは、ヒト化抗体は、ヒトの抗非ヒト抗体応答を最小限とするか誘発しない、及び/又は、最小限とすることが予想されるか誘発しないと予想される。免疫原性試験は、Baker et al. Immunogenicity of protein therapeutics 2010, 1(4), 314-322;Hrding et al. MAbs 2010, 2(3), 256-265又はJoubert et al. PLoS.One 2016, 11(8), e0159328に記載されているような当該技術分野において公知の方法で行うことができる。最も好ましくは、本発明の抗体は、臨床的に許容可能なレベル以下の、ヒトの抗非ヒト抗体応答、特にヒト抗ウサギ抗体(HARA)応答を誘発する。抗体が抗原に対する高い親和性及び他の好ましい生物学的特性を保持しながらヒト化されることがさらに重要である。
【0069】
CDRは、Kabat(Kabat et al. Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD 1991, NIH publication no. 91-3242, pp. 662, 680, 689)、Chothia(Chothia and Lesk. J. Mol. Biol. 1987, 196, 901-917; Antibody Engineering Vol. 2, Chapter 3 by Martin, 2010, Kontermann and Duebel Eds. Springer-Verlag Berlin Heidelberg)又はIMGT(Lefranc. The Immunologist 1999, 7, 132-136)の方法で決定することができる。本明細書で使用する重鎖及び軽鎖のCDRを、Kabatの方法で決定した。それらは、配列表中の表1aに示した配列番号のものである。本発明では、抗体の重鎖及び軽鎖定常領域における位置を示すためにEuナンバリングを使用する。「Euナンバリング」は、Kabat et al. Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD 1991, NIH publication no. 91-3242, pp. 662, 680, 689のEuインデックスを指す。
【0070】
好ましい態様では、本発明は抗SIRPα抗体、好ましくは、(a) SHGIS(配列番号36)を含むHCDR1;TIGTGVITYFASWAKG(配列番号44)を含むHCDR2;GSAWNDPFDP(配列番号45)を含むHCDR3;QASQSVYGNNDLA(配列番号39)を含むLCDR1;LASTLAT(配列番号40)を含むLCDR2;LGGGDDEADNT(配列番号41)を含むLCDR3;(b) SYVMG(配列番号30)を含むHCDR1;IISSSGSPYYASWVNG(配列番号31)を含むHCDR2;VGPLGVDYFNI(配列番号32)を含むHCDR3;RASQSINSYLA(配列番号33)を含むLCDR1;SASFLYS(配列番号34)を含むLCDR2;QSWHYISRSYT(配列番号35)を含むLCDR3;(c) SHGIS(配列番号36)を含むHCDR1;TIGTGVITYYASWAKG(配列番号37)を含むHCDR2;GSAWNDPFDY(配列番号38)を含むHCDR3;QASQSVYGNNDLA(配列番号39)を含むLCDR1;LASTLAT(配列番号40)を含むLCDR2;LGGGDDEADNV(配列番号46)を含むLCDR3;(d) SHGIS(配列番号36)を含むHCDR1;TIGTGVITYYASWAKG(配列番号37)を含むHCDR2;GSAWNDPFDY(配列番号38)を含むHCDR3;QASQSVYGNNDLA(配列番号39)を含むLCDR1;LASTLAT(配列番号40)を含むLCDR2;LGGGDDEADNT(配列番号41)を含むLCDR3;及び (e) SHGIS(配列番号36)を含むHCDR1;TIGTGGITYYASWAKG(配列番号42)を含むHCDR2;GSAWNDPFDI(配列番号43)を含むHCDR3;QASQSVYGNNDLA(配列番号39)を含むLCDR1;LASTLAT(配列番号40)を含むLCDR2;LGGGDDEADNT(配列番号41)を含むLCDR3、からなる群から選択される、重鎖相補性決定領域(HCDR)及び軽鎖相補性決定領域(LCDR)、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2及びLCDR3を含むヒト化抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片に関する。より好ましくは、本発明の抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片は、(a) SHGIS(配列番号36)を含むHCDR1;TIGTGVITYFASWAKG(配列番号44)を含むHCDR2;GSAWNDPFDP(配列番号45)を含むHCDR3;QASQSVYGNNDLA(配列番号39)を含むLCDR1;LASTLAT(配列番号40)を含むLCDR2;LGGGDDEADNT(配列番号41)を含むLCDR3;及び (b) SYVMG(配列番号30)を含むHCDR1;IISSSGSPYYASWVNG(配列番号31)を含むHCDR2;VGPLGVDYFNI(配列番号32)を含むHCDR3;RASQSINSYLA(配列番号33)を含むLCDR1;SASFLYS(配列番号34)を含むLCDR2;QSWHYISRSYT(配列番号35)を含むLCDR3、からなる群から選択されるHCDR及びLCDRを含む。
【0071】
場合によっては上述した態様と組み合わせて、好ましい態様では、本発明の抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片は、以下の機能の1つ以上を有する。
【0072】
好ましくは、抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片は、配列番号51で示されるアミノ酸配列のヒトSIRPα1細胞外ドメインを用い表面プラズモン共鳴(好ましくはBiaCore(登録商標))によって25℃で測定した場合に、10-9M未満のKDで、より好ましくは10-10M未満のKDで、さらにより好ましくは10-11M未満のKDでヒトSIRPα1と結合する。好ましくは、抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片は、配列番号52で示されるアミノ酸配列のヒトSIRPαBIT細胞外ドメインを用い表面プラズモン共鳴(好ましくはBiaCore(登録商標))によって25℃で測定した場合に、10-9M未満のKDで、より好ましくは10-10M未満のKDで、さらにより好ましくは10-11M未満のKDでヒトSIRPαBITと結合する。好ましくは、抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片は、配列番号56で示されるアミノ酸配列のカニクイザルSIRPα細胞外ドメインを用い表面プラズモン共鳴(好ましくはBiaCore(登録商標))によって25℃で測定した場合に、10-7M未満のKDで、より好ましくは10-8M未満のKDで、さらにより好ましくは10-9M未満のKDでカニクイザルSIRPαと結合する。好ましくは、抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片は、実施例に記載のヒトCD3+T細胞FACS染色で測定した場合に、ヒトSIRPγとの結合を検出することができない。好ましくは、抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片は、配列番号55で示されるアミノ酸配列のヒトSIRPγ細胞外ドメインを用い表面プラズモン共鳴(好ましくはBiaCore(登録商標))によって25℃で測定した場合に、ヒトSIRPγとの結合を示さない。好ましくは、抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片は、IL-2 ELIspot及び/又はT細胞増殖アッセイで測定した場合に免疫原性が認められない。好ましくは、抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片は、配列番号54で示されるアミノ酸配列のヒトSIRPβ1v2細胞外ドメインを用い表面プラズモン共鳴(好ましくはBiaCore(登録商標))によって25℃で測定した場合に、中程度から低い親和性でヒトSIRPβ1v2と結合する。好ましくは、KDは10-10Mを超え、より好ましくは10-9Mを超える。好ましくは、SIRPβ1v2との中程度から低親和性の結合と組み合わせて、抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片は、配列番号53で示されるアミノ酸配列のヒトSIRPβ1v1細胞外ドメインを用い表面プラズモン共鳴(好ましくはBiaCore(登録商標))によって25℃で測定した場合に、10-11Mを超える、より好ましくは3×10-11Mを超える、さらにより好ましくは10-10Mを超える、さらにより好ましくは10-9Mを超えるKDでヒトSIRPβ1v1と結合する。これらのアッセイは、実施例に記載されているか、実施例で参照されている。
【0073】
場合によっては上述した態様と組み合わせて、好ましい態様では、本発明は、これまでに説明した抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片に関し、前記抗体は、ヒトSIRPαBIT及びヒトSIRPα1と特異的に結合し、実施例に記載のCD3+T細胞染色及び/又はSPRで測定した場合にヒトSIRPγとの結合を検出することができない。ある態様では、上記抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片は、KDをSPRにより25℃で測定した場合(実施例参照)、ヒトSIRPαBITと10-9M未満のKDで、より好ましくは10-10M未満のKDで、さらにより好ましくは10-11M未満のKDで結合し、そして、ヒトSIRPα1と10-8M未満のKDで、より好ましくは10-9M未満のKDで、より好ましくは10-10M未満のKDで、さらにより好ましくは10-11M未満のKDで結合する。好ましくは、上記本発明の抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片は、KDをSPRにより25℃で測定した場合(実施例参照)、10-8Mを超えるKDで、より好ましくは10-7Mを超えるKDで、より好ましくは10-6Mを超えるKDで、さらにより好ましくは10-5Mを超えるKDでヒトSIRPγと結合するか、最も好ましくはヒトSIRPγとの結合を検出することができない。
【0074】
場合によっては上述した態様と組み合わせて、好ましい態様では、本発明の抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片は、(a) 配列番号51で示されるアミノ酸配列のヒトSIRPα1細胞外ドメインを用い表面プラズモン共鳴(SPR;好ましくはBiaCore(登録商標))によって25℃で測定した場合(実施例参照)、10-8M未満のKDで、より好ましくは10-9M未満のKDで、より好ましくは10-10M未満のKDで、さらにより好ましくは10-11M未満のKDでヒトSIRPα1と結合する;(b) 配列番号52で示されるアミノ酸配列のヒトSIRPαBIT細胞外ドメインを用いSPR(好ましくはBiaCore(登録商標))によって25℃で測定した場合(実施例参照)、10-9M未満のKDで、より好ましくは10-10M未満のKDで、さらにより好ましくは10-11M未満のKDでヒトSIRPαBITと結合する;(c) 好ましくはSPR(好ましくはBiaCore(登録商標))で捕捉したCD47からの解離の測定において、より好ましくは実施例6に記載のように、CD47とSIRPα1及びSIRPαBITとの結合を阻止する;及び (d) CD3+T細胞フローサイトメトリー、好ましくは、実施例に記載の蛍光活性化細胞選別(FACS)染色及び/又はSPRで測定した場合に、ヒトSIRPγとの結合を検出することができない。好ましくは、上述した態様と組み合わせて、抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片は、配列番号54で示されるアミノ酸配列のヒトSIRPβ1v2細胞外ドメインを用いSPR(好ましくはBiaCore(登録商標))によって25℃で測定した場合に、中程度から低い親和性でヒトSIRPβ1v2と結合する。好ましくは、KDは10-10Mを超え、より好ましくは10-9Mを超える。好ましくは、SIRPβ1v2との中程度から低親和性の結合と組み合わせて、抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片は、配列番号53で示されるアミノ酸配列のヒトSIRPβ1v1細胞外ドメインを用いSPR(好ましくはBiaCore(登録商標))によって25℃で測定した場合に、10-11Mを超える、より好ましくは3×10-11Mを超える、さらにより好ましくは10-10Mを超える、さらにより好ましくは10-9Mを超えるKDでヒトSIRPβ1v1と結合する。これらのアッセイは、実施例に記載されているか、参照されている。
【0075】
場合によっては上述した態様と組み合わせて、好ましい態様では、本発明は、抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片に関し、(a) 抗体の重鎖可変ドメインは、4つの重鎖フレームワーク領域HFR1~HFR4、及び3つの相補性決定領域HCDR1~HCDR3を含み、それらは、HFR1-HCDR1-HFR2-HCDR2-HFR3-HCDR3-HFR4の順で動作可能に連結しており、前記各重鎖フレームワーク領域は、配列番号1、3~6、8、10~15のいずれかで示されるアミノ酸配列のフレームワークアミノ酸配列と、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは好ましくは100%の配列同一性を有するか、又は、HFR1~HFR4は、表8~11に示した1つ以上のアミノ酸置換において、配列番号1、3~6、8、10~15で示されるアミノ酸配列のいずれかと異なる;かつ、(b) 抗体の軽鎖可変ドメインは、4つの軽鎖フレームワーク領域LFR1~LFR4、及び3つの相補性決定領域LCDR1~LCDR3を含み、それらは、LFR1-LCDR1-LFR2-LCDR2-LFR3-LCDR3-LFR4の順で動作可能に連結しており、前記各軽鎖フレームワーク領域は、配列番号2、7若しくは9のいずれかで示されるアミノ酸配列のフレームワークアミノ酸配列と、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは好ましくは100%の配列同一性を有するか、又は、LFR1、LHR2及び/若しくはLFR4は、表12~14に示した1つ以上のアミノ酸置換において、配列番号2、7若しくは9で示されるアミノ酸配列のいずれかと異なる。好ましい態様では、本発明は、抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片に関し、(a) 抗体の重鎖可変ドメインは、4つの重鎖フレームワーク領域HFR1~HFR4、及び3つの相補性決定領域HCDR1~HCDR3を含み、それらは、HFR1-HCDR1-HFR2-HCDR2-HFR3-HCDR3-HFR4の順で動作可能に連結しており、前記各重鎖フレームワーク領域は、配列番号8で示されるアミノ酸配列のフレームワークアミノ酸配列と、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは好ましくは100%の配列同一性を有するか、又は、HFR1~HFR4は、表8~11に示した1つ以上のアミノ酸置換において、配列番号8で示されるアミノ酸配列と異なる;かつ、(b) 抗体の軽鎖可変ドメインは、4つの軽鎖フレームワーク領域LFR1~LFR4、及び3つの相補性決定領域LCDR1~LCDR3を含み、それらは、LFR1-LCDR1-LFR2-LCDR2-LFR3-LCDR3-LFR4の順で動作可能に連結しており、前記各軽鎖フレームワーク領域は、配列番号9で示されるアミノ酸配列のフレームワークアミノ酸配列と、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは好ましくは100%の配列同一性を有するか、又は、LFR1、LHR2及び/若しくはLFR4は、表12~14に示した1つ以上のアミノ酸置換において、配列番号9で示されるアミノ酸配列と異なる。
【0076】
好ましくは、重鎖の可変ドメインのFR1、FR2、FR3及びFR4の各位置(Kabatのナンバリングによる)のアミノ酸残基は、FR1、FR2、FR3及びFR4について、それぞれ表8~11に示されているとおりであるか、その保存的アミノ酸置換であり、かつ、軽鎖の可変ドメインのFR1、FR2及びFR4の各位置(Kabatのナンバリングによる)のアミノ酸残基は、FR1、FR2及びFR4について、それぞれ表12~14に示されているとおりであるか、その保存的アミノ酸置換である。より好ましくは、フレームワーク領域内のアミノ酸残基は、表8~14の対応する位置に示されるアミノ酸残基から選択される。
【0077】
本発明の抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片は、好ましくは、(a) 配列番号36で示されるアミノ酸配列を含むHCDR1;配列番号44で示されるアミノ酸配列を含むHCDR2;配列番号45で示されるアミノ酸配列を含むHCDR3;配列番号39で示されるアミノ酸配列を含むLCDR1;配列番号40で示されるアミノ酸配列を含むLCDR2;配列番号41で示されるアミノ酸配列を含むLCDR3;配列番号8で示されるアミノ酸配列のフレームワークアミノ酸配列と少なくとも90%、より好ましくは少なくとも91%、より好ましくは少なくとも92%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%若しくは最も好ましくは100%の配列同一性を有するか、又は、表8~11に示した1つ以上のアミノ酸置換において、配列番号8で示されるアミノ酸配列と異なるHFR1~HFR4;配列番号9で示されるアミノ酸配列のフレームワークアミノ酸配列と少なくとも90%、より好ましくは少なくとも91%、より好ましくは少なくとも92%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%若しくは最も好ましくは100%の配列同一性を有するLFR1~LFR4、又は、表12~14に示した1つ以上のアミノ酸置換において、配列番号9で示されるアミノ酸配列と異なるLFR1、LFR2及び/若しくはLFR4;(b) 配列番号30で示されるアミノ酸配列を含むHCDR1;配列番号31で示されるアミノ酸配列を含むHCDR2;配列番号32で示されるアミノ酸配列を含むHCDR3;配列番号33で示されるアミノ酸配列を含むLCDR1;配列番号34で示されるアミノ酸配列を含むLCDR2;配列番号35で示されるアミノ酸配列を含むLCDR3;配列番号1、3、4、5、14若しくは15のいずれかで示されるアミノ酸配列のフレームワークアミノ酸配列と少なくとも90%、より好ましくは少なくとも91%、より好ましくは少なくとも92%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%若しくは最も好ましくは100%の配列同一性を有するか、又は、表8~11に示した1つ以上のアミノ酸置換において、配列番号1、3、4、5、14若しくは15のいずれかで示されるアミノ酸配列と異なるHFR1~HFR4;配列番号2で示されるアミノ酸配列のフレームワークアミノ酸配列と少なくとも90%、より好ましくは少なくとも91%、より好ましくは少なくとも92%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%若しくは最も好ましくは100%の配列同一性を有するLFR1~LFR4、又は、表12~14に示した1つ以上のアミノ酸置換において、配列番号2で示されるアミノ酸配列と異なるLFR1、LFR2及び/若しくはLFR4;(c) 配列番号36で示されるアミノ酸配列を含むHCDR1;配列番号37で示されるアミノ酸配列を含むHCDR2;配列番号38で示されるアミノ酸配列を含むHCDR3;配列番号39で示されるアミノ酸配列を含むLCDR1;配列番号40で示されるアミノ酸配列を含むLCDR2;配列番号46で示されるアミノ酸配列を含むLCDR3;配列番号6若しくは13で示されるアミノ酸配列のフレームワークアミノ酸配列と少なくとも90%、より好ましくは少なくとも91%、より好ましくは少なくとも92%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%若しくは最も好ましくは100%の配列同一性を有するか、又は、表8~11に示した1つ以上のアミノ酸置換において、配列番号6若しくは13で示されるアミノ酸配列と異なるHFR1~HFR4;配列番号7で示されるアミノ酸配列のフレームワークアミノ酸配列と少なくとも90%、より好ましくは少なくとも91%、より好ましくは少なくとも92%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%若しくは最も好ましくは100%の配列同一性を有するLFR1~LFR4、又は、表12~14に示した1つ以上のアミノ酸置換において、配列番号7で示されるアミノ酸配列と異なるLFR1、LFR2及び/若しくはLFR4;(d) 配列番号36で示されるアミノ酸配列を含むHCDR1;配列番号37で示されるアミノ酸配列を含むHCDR2;配列番号38で示されるアミノ酸配列を含むHCDR3;配列番号39で示されるアミノ酸配列を含むLCDR1;配列番号40で示されるアミノ酸配列を含むLCDR2;配列番号41で示されるアミノ酸配列を含むLCDR3;配列番号6、10若しくは11で示されるアミノ酸配列のフレームワークアミノ酸配列と少なくとも90%、より好ましくは少なくとも91%、より好ましくは少なくとも92%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%若しくは最も好ましくは100%の配列同一性を有するか、又は、表8~11に示した1つ以上のアミノ酸置換において、配列番号6、10若しくは11で示されるアミノ酸配列と異なるHFR1~HFR4;配列番号9で示されるアミノ酸配列のフレームワークアミノ酸配列と少なくとも90%、より好ましくは少なくとも91%、より好ましくは少なくとも92%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%若しくは最も好ましくは100%の配列同一性を有するLFR1~LFR4、又は、表12~14に示した1つ以上のアミノ酸置換において、配列番号9で示されるアミノ酸配列と異なるLFR1、LFR2及び/若しくはLFR4;並びに (e) 配列番号36で示されるアミノ酸配列を含むHCDR1;配列番号42で示されるアミノ酸配列を含むHCDR2;配列番号43で示されるアミノ酸配列を含むHCDR3;配列番号39で示されるアミノ酸配列を含むLCDR1;配列番号40で示されるアミノ酸配列を含むLCDR2;配列番号41で示されるアミノ酸配列を含むLCDR3;配列番号12で示されるアミノ酸配列のフレームワークアミノ酸配列と少なくとも90%、より好ましくは少なくとも91%、より好ましくは少なくとも92%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%若しくは最も好ましくは100%の配列同一性を有するか、又は、表8~11に示した1つ以上のアミノ酸置換において、配列番号12で示されるアミノ酸配列と異なるHFR1~HFR4;配列番号9で示されるアミノ酸配列のフレームワークアミノ酸配列と少なくとも90%、より好ましくは少なくとも91%、より好ましくは少なくとも92%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%若しくは最も好ましくは100%の配列同一性を有するLFR1~LFR4、又は、表12~14に示した1つ以上のアミノ酸置換において、配列番号9で示されるアミノ酸配列と異なるLFR1、LFR2及び/若しくはLFR4、
からなる群から選択されるHCDR、LCDR並びに重鎖及び軽鎖フレームワーク領域を含む。より好ましくは、本発明の抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片は、(a) 配列番号36で示されるアミノ酸配列を含むHCDR1;配列番号44で示されるアミノ酸配列を含むHCDR2;配列番号45で示されるアミノ酸配列を含むHCDR3;配列番号39で示されるアミノ酸配列を含むLCDR1;配列番号40で示されるアミノ酸配列を含むLCDR2;及び、配列番号41で示されるアミノ酸配列を含むLCDR3;で、(i) 配列番号8で示されるアミノ酸配列のフレームワークアミノ酸配列と少なくとも90%、より好ましくは少なくとも91%、より好ましくは少なくとも92%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%若しくは最も好ましくは100%の配列同一性を有するか、又は、表8~11に示した1つ以上のアミノ酸置換において、配列番号8で示されるアミノ酸配列と異なるHFR1~HFR4;並びに (ii) 配列番号9で示されるアミノ酸配列のフレームワークアミノ酸配列と少なくとも90%、より好ましくは少なくとも91%、より好ましくは少なくとも92%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%若しくは最も好ましくは100%の配列同一性を有するLFR1~LFR4、又は、表12~14に示した1つ以上のアミノ酸置換において、配列番号9で示されるアミノ酸配列と異なるLFR1、LFR2及び/若しくはLFR4、を含む。
【0078】
場合によっては上述した態様と組み合わせて、好ましい態様では、フレームワークの置換は、表8~14に示す残基に限定される。したがって、フレームワーク領域内の他の位置は置換されていないことが好ましく、置換は表8~14に示す残基又はその保存的アミノ酸に限定されることも好ましい。
【0079】
場合によっては上述した態様と組み合わせて、好ましい態様では、本発明の抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片は、(a) 配列番号8のアミノ酸配列のHCVR;配列番号9のアミノ酸配列のLCVR;(b) 配列番号1のアミノ酸配列のHCVR;配列番号2のアミノ酸配列のLCVR;(c) 配列番号3のアミノ酸配列のHCVR;配列番号2のアミノ酸配列のLCVR;(d) 配列番号4のアミノ酸配列のHCVR;配列番号2のアミノ酸配列のLCVR;(e) 配列番号5のアミノ酸配列のHCVR;配列番号2のアミノ酸配列のLCVR;(f) 配列番号6のアミノ酸配列のHCVR;配列番号7のアミノ酸配列のLCVR;(g) 配列番号10のアミノ酸配列のHCVR;配列番号9のアミノ酸配列のLCVR;(h) 配列番号6のアミノ酸配列のHCVR;配列番号9のアミノ酸配列のLCVR;(i) 配列番号11のアミノ酸配列のHCVR;配列番号9のアミノ酸配列のLCVR;(j) 配列番号12のアミノ酸配列のHCVR;配列番号9のアミノ酸配列のLCVR;(k) 配列番号13のアミノ酸配列のHCVR;配列番号7のアミノ酸配列のLCVR;(l) 配列番号14のアミノ酸配列のHCVR;配列番号2のアミノ酸配列のLCVR;及び (m) 配列番号15のアミノ酸配列のHCVR;配列番号2のアミノ酸配列のLCVR、からなる群から選択されるHCVR及びLCVRを含む。より好ましくは、本発明の抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片は、(a) 配列番号8のアミノ酸配列のHCVR及び配列番号9のアミノ酸配列のLCVR;(b) 配列番号1のアミノ酸配列のHCVR及び配列番号2のアミノ酸配列のLCVR;(c) 配列番号3のアミノ酸配列のHCVR及び配列番号2のアミノ酸配列のLCVR;(d) 配列番号4のアミノ酸配列のHCVR及び配列番号2のアミノ酸配列のLCVR;(e) 配列番号5のアミノ酸配列のHCVR及び配列番号2のアミノ酸配列のLCVR;(f) 配列番号14のアミノ酸配列のHCVR及び配列番号2のアミノ酸配列のLCVR;並びに (g) 配列番号15のアミノ酸配列のHCVR及び配列番号2のアミノ酸配列のLCVR、からなる群から選択されるHCVR及びLCVRを含む。最も好ましくは、本発明の抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片は、配列番号8のアミノ酸配列のHCVR及び配列番号9のアミノ酸配列のLCVRを含む。
【0080】
本発明の抗体は、ヒト(hu)SIRPαBIT及び(hu)SIRPα1の両者に結合することに加え、カニクイザル(cy)SIRPαにも結合する可能性があり、動物モデルにおけるin vivo研究が可能となる。他の種のSIRPαに対する本発明の抗体の親和性は除外されない。
【0081】
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、以下のいずれかによって作用する可能性があると考えられる。本発明の抗体は、CD47が結合するのと同じ部位に結合する可能性があり、SIRPαとCD47の結合を防ぎ、その結果、免疫エフェクター細胞のFc受容体に依存する作用を負に調節するシグナル伝達を阻害する。
【0082】
本発明による抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片は、好ましくは、公知の抗SIRPα抗体よりも特異的で、実施例に記載のヒトCD3+T細胞染色で測定した場合に、ヒトSIRPαBIT及びヒトSIRPα1の両者に対して優れた親和性を示し、ヒトSIRPγに対する親和性が低減しているか、より好ましくは、ヒトSIRPγに対する親和性が低いか、さらにより好ましくは、ヒトSIRPγに対して検出可能な親和性を有さない。
【0083】
ある態様では、本発明の抗SIRPα抗体は、軽鎖及び/又は重鎖の抗体定常領域を含む。当該技術分野において公知の抗体定常領域を使用することができる。軽鎖定常領域は、例えば、κ型又はλ型軽鎖定常領域、例えば、ヒトκ型又はλ型軽鎖定常領域であるかもしれない。重鎖定常領域は、例えば、α、δ、ε、γ又はμ型の重鎖定常領域、例えば、ヒトのα、δ、ε、γ又はμ型の重鎖定常領域であるかもしれない。ある態様では、軽鎖又は重鎖の定常領域は、天然の定常領域の断片、誘導体、改変体又は変異体である。
【0084】
ある特別な態様では、本発明の抗SIRPα抗体は、ヒト免疫エフェクター細胞上の活性化Fc受容体に結合するFc領域を含む。このような抗SIRPα抗体は、ADCC及び/又はADCPを誘発することができるので、SIRPα陽性腫瘍、好ましくは腎細胞癌又は黒色腫の単剤療法に好適であるかもしれない(Yanagita et al. JCI Insight 2017, 2(1), e89140)。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、そのような抗体によるがん細胞の破壊は、少なくとも部分的には、ADCCにより生じると考えられている。ヒト免疫エフェクター細胞は、さまざまな活性化Fc受容体を有しており、ライゲーションにより、食作用、トロゴサイトーシス、パーフォリン及びグランザイムの放出、サイトカインの放出、ADCC、ADCP、ADAP及び/又はその他のメカニズムを引き起こす。これらの受容体の例は、Fcγ受容体、例えば、FcγRI(CD64)、FcγRIIA(CD32a)、FcγRIIIA(CD16a)、FcγRIIIB(CD16b)、FcγRIIC(CD32c)、及びFcα受容体FcαRI(CD89)である。さまざまな天然抗体のアイソタイプがこれらのさまざまな受容体に結合する。例えば、IgG1はFcγRI、FcγRIIA、FcγRIIC、FcγRIIIA、FcγRIIIBに結合し、IgG2はFcγRIIA、FcγRIIC、FcγRIIIAに結合し、IgG3はFcγRI、FcγRIIA、FcγRIIC、FcγRIIIA、FcγRIIIBに結合し、IgG4はFcγRI、FcγRIIA、FcγRIIC、FcγRIIIAに結合し、そして、IgAはFcαRIに結合する。
【0085】
好ましい態様では、本発明の抗SIRPα抗体は、IgA又はIgGアイソタイプのFc領域を含む。より好ましくは、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4アイソタイプのFc領域を含む抗SIRPα抗体であり;IgG1、IgG2又はIgG4アイソタイプがさらに好ましい。最も好ましくは、IgG1アイソタイプのFc領域を含む抗SIRPα抗体であり;好ましくは、配列番号24で示されるアミノ酸配列である。
【0086】
ヒト免疫エフェクター細胞上の活性化Fc受容体に結合するFc領域を含む抗SIRPα抗体は、治療用抗体と併用して、CD47を発現するがんを治療するのに好適であるが、ヒト免疫エフェクター細胞上の活性化Fc受容体に結合するヒトFc領域を含む治療用抗体(トラスツズマブ)と組み合わせたキメラ抗SIRPαIgG
1抗体(すなわち、ADCC及び/又はADCPを誘導することができる抗体)のin vitroでのADCC実験は、マウス抗体を使用した以前の結果に基づいて予想されたように、ADCCの増加を示さなかった(
図2)。いかなる理論にも拘束されることを望むこのではないが、免疫エフェクター細胞(この場合は好中性顆粒球)上の活性化Fc受容体との結合に関して治療用抗体(この場合はトラスツズマブ)と競合する可能性がある抗SIRPα抗体は、カーランダー効果が発生する可能性があると考えられている(Kurlander J Immunol 1983, 131(1), 140-147)。したがって、抗SIRPαのFcテールは、食作用性免疫エフェクター細胞(例.顆粒球、マクロファージ又は樹状細胞)上のFc受容体にシスで結合し、それによってADCC、ADCP及び/又はADAPを減少又は防止する可能性がある。その結果、例えばFcテールを修飾することによる抗SIRPα抗体のFc領域とヒト免疫エフェクター細胞上の活性化Fc受容体との結合の減少は、治療用抗体(トラスツズマブ)によるADCCを改善することが示された(
図2)。したがって、好ましい態様では、(「本発明の抗体又はその断片の使用」の項でさらに説明するように)本発明は、ヒト免疫エフェクター細胞上のFc受容体との結合の低下及び/又は当該受容体に対する低い親和性を示し、治療用抗体との併用治療において有利に使用することができる抗SIRPα抗体に関する。そのような抗SIRPα抗体は、例えばIgG
4若しくはIgG
2のFcなど、Fc受容体に対する親和性が低い天然のFc領域を含んでいてもよく、又はそのような抗SIRPα抗体は、1つ以上のアミノ酸が別のアミノ酸で置換された修飾Fc領域を有していてもよい。あるいは、酵素的脱グリコシル化は、アミノ酸を変異させなくても、FcとFcγ受容体の結合を減少させる。ここで、結合の減少は、修飾されたFc領域を有する抗SIRPα抗体の活性化Fc受容体に対する親和性が、修飾されていないFc領域と同じ可変領域を有する抗SIRPα抗体の親和性よりも低いことを意味する。好ましくは、親和性は少なくとも2分の1に、少なくとも3分の1に、少なくとも4分の1に、少なくとも5分の1に、少なくとも10分の1に、少なくとも50分の1に、少なくとも100分の1に、少なくとも1000分の1に、減少する。活性化Fc受容体に対する抗体の結合親和性は、通常当該技術分野で公知の方法、例えば、Harrisonらが、J. Pharm. Biomed. Anal. 2012, 63, 23-28に記載した方法を使用し、SPR又はフローサイトメトリーで測定される。治療用抗体と組み合わせて、ヒトFcα若しくはFcγ受容体との結合が低減した、又はこれらの受容体との親和性が低い抗SIRPα抗体は、免疫エフェクター細胞のADCC、ADCP及び/又はADAPを増加させることにより、がん細胞の細胞破壊に特に効果的である。通常、本発明の抗SIRPα抗体のFc領域は、ヒト免疫エフェクター細胞上の活性化Fc受容体との結合を減少させるように修飾される。
【0087】
好ましい態様では、本発明の抗SIRPα抗体は、ヒトFcα若しくはFcγ受容体との結合が低減した、又はこれらの受容体との親和性が低い、好ましくはこれらの受容体と結合しない修飾されたFc領域を含む。例えば、Fcγ受容体とIgG1との結合は、L234、L235、G237、D265、D270、N297、A327、P328及びP329(Euナンバリング)からなる群から選択される1つ以上のIgG1のアミノ酸を置換することによって低減することができ;IgG2との結合は、例えば、以下のアミノ酸置換:V234A、G237A、P238S、H268A、V309L、A330S及び/若しくはP331S;又はH268Q、V309L、A330S及び/若しくはP331S(IgG1のEuナンバリングに類似のナンバリング)の1つ以上を行うことによって低減することができ(Vafa et al. Methods 2014, 65, 114-126);IgG3との結合は、例えば、アミノ酸置換L234A及びL235A、又はアミノ酸置換L234A、L235A及びP331Sを行うことによって低減することができ(Leoh et al. Mol. Immunol. 2015, 67, 407-415);IgG4との結合は、例えば、アミノ酸置換S228P、F234A及び/又はL235A(IgG1のEuナンバリングに類似のナンバリング)を行うことによって低減することができる(Parekh et al. mAbs 2012, 4(3), 310-318)。IgAとFcα受容体の結合は、例えば、アミノ酸置換L257R、P440A、A442R、F443R及び/又はP440R(一連のナンバリング)の1つ以上を行うことによって低減することができる(Pleass et al. J. Biol. Chem. 1999, 271(33), 23508-23514)。
【0088】
好ましくは、本発明の抗SIRPα抗体は、野生型のFc領域を有する同じ抗SIRPα抗体と比較して、ヒトFcα若しくはFcγ受容体との結合が低減した、又はこれらの受容体との親和性が低い、好ましくはこれらの受容体と結合しない修飾されたFc領域を含む。より好ましくは、修飾されたFc領域はIgGアイソタイプのFc領域である。さらにより好ましくは、修飾されたFc領域はIgG1、IgG2又はIgG4アイソタイプのFc領域である。好ましい態様では、本発明の抗SIRPα抗体は、L234、L235、G237、D265、D270、N297、A327、P328及びP329(Euナンバリング)からなる群から選択される1つ以上の位置に1つ以上のアミノ酸置換を含む修飾されたヒトIgG1のFc領域を有する。
【0089】
好ましい態様では、本発明の抗SIRPα抗体は、L234A、L234E、L235A、G237A、D265A、D265E、D265N、D270A、D270E、D270N、N297A、N297G、A327Q、P328A、P329A及びP329Gからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む修飾されたヒトIgG1のFc領域を有する。より好ましくは、1つ以上のアミノ酸置換は、L234A、L234E、L235A、G237A、D265A、D265E、D265N、N297A、P328A、P329A及びP329Gからなる群から選択される。あるいは、好ましくは、1つ以上のアミノ酸置換は、L234A、L234E、L235A、G237A、D265A、D265E、D265N、D270A、D270E、D270N、A327Q、P328A、P329A及びP329Gからなる群から選択される。さらにより好ましくは、本発明の抗SIRPα抗体は、L234A、L234E、L235A、G237A、D265A、D265E、D265N、P328A、P329A及びP329Gからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む修飾されたヒトIgG1のFc領域を有する。好ましい態様では、修飾されたヒトIgG1のFc領域は、アミノ酸置換 (i) L234A及びL235A、(ii) L234E及びL235A、(iii) L234A、L235A及びP329A、又は(iv) L234A、L235A及びP329Gを含む。最も好ましくは、修飾されたヒトIgG1のFc領域は、アミノ酸置換 (i) L234A及びL235A、又は (ii) L234E及びL235Aを含む。最も好ましくは、修飾されたヒトIgG1のFc領域は、アミノ酸置換L234A及びL235Aを含む。上述した態様と組み合わせて、好ましい態様では、修飾されたIgG1のFc領域は、アミノ酸置換N297A又はN297Gを含まない。最も好ましくは、修飾されたIgG1のFc領域はN297位におけるアミノ酸置換を含まない。したがって、Euナンバリングで297位のアミノ酸残基はアスパラギンであることが好ましい。この態様における抗SIRPα抗体は、好ましくは、配列番号25で示されるアミノ酸配列(配列の117及び118の位置にL234A及びL235A突然変異を有するアミノ酸配列)のIgG1遺伝子型の修飾されたFc領域を有する。
【0090】
本発明の抗体又はその断片の製造及び精製
本発明の抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片は、いくつかの従来の技術によって製造することができる。それらは、通常、当該技術分野において公知の技術により、組換え発現系で製造される。例えば、Shukla and Thoemmes (Trends in Biotechnol. 2010, 28(5), 253-261)、Harlow and Lane. Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1988及びSambrook and Russell. Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd edition, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY, 2001を参照。本発明の組換えポリペプチドの製造に、当該技術分野において公知の発現系を使用することができる。一般に、宿主細胞は、所望のポリペプチドをコードするDNAを含む組換え発現ベクターによって形質転換される。
【0091】
したがって、ある側面では、本発明は、本発明の抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子に関する。あるヌクレオチド配列は、本発明の抗SIRPα抗体の軽鎖可変ドメインを少なくとも含むポリペプチドをコードし、別のヌクレオチド配列は、本発明の抗SIRPα抗体の重鎖可変ドメインを少なくとも含むポリペプチドをコードする。したがって、好ましい態様では、核酸分子は、抗体のHCVR及びLCVRの少なくとも1つをコードするヌクレオチド配列を含む。好ましい核酸分子は、本発明の抗体がコードされたヌクレオチド配列を宿主細胞で発現させるために、当該配列と、例えば、プロモーター及びリーダー配列(シグナルペプチド、シグナル配列、標的化シグナル、局在化シグナル、局在化配列、輸送ペプチド又はリーダーペプチドともいう)といった発現調節配列が動作可能に連結している発現ベクターである。重鎖の好ましいリーダー配列を配列番号28に示す。軽鎖の好ましいリーダー配列を配列番号29に示す。本発明において使用する別の適切なリーダー配列を配列番号27に示す。
【0092】
別の側面では、本発明は、この項で上述した核酸分子を含む宿主細胞に関する。前記細胞は、好ましくは、単離された細胞又は培養された細胞である。使用することができる宿主細胞には、原核生物、酵母又は高等な真核細胞がある。原核生物には、例えば大腸菌若しくはバシラス綱(Bacilli)などのグラム陰性菌又はグラム陽性菌が含まれる。高等な真核細胞には、昆虫細胞及び哺乳類起源の樹立された細胞株が含まれる。適切な哺乳動物宿主細胞株の例には、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、サル腎臓細胞由来のCOS-7系統(Gluzman et al. Cell 1981, 23, 175)、ヒト胎児腎臓(HEK)293細胞、L細胞、C127細胞、3T3細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞株、及びMcMahan et al. EMBO J. 1991, 10, 2821に記載のアフリカミドリザル腎臓細胞株CVIに由来するCVI/EBNA細胞株が含まれる。細菌、真菌、酵母及び哺乳動物の細胞宿主において使用する適切なクローニング及び発現ベクターは、例えば、Pouwelsら(Cloning Vectors: A Laboratory Manual, Elsevier, New York, 1985)に記載されている。
【0093】
形質転換された細胞は、ポリペプチドの発現を促進する条件で培養することができる。したがって、ある側面では、本発明は、本発明の抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片を製造する方法に関し、前記方法は、ポリペプチドの発現を助長する条件下で、本明細書に記載の少なくとも1つの発現ベクターを含む細胞を培養する工程、及び、場合によってはポリペプチドを回収する工程を含む。
【0094】
本発明の抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片は、例えば、ハイドロキシアパタイトによるクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、アフィニティークロマトグラフィー(例.プロテインA-セファロース、プロテインG-セファロース)、イオン交換クロマトグラフィー(例.陰イオン交換クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、混合モード)又は疎水性相互作用クロマトグラフィーなどの従来のタンパク質精製手段により回収することができる(例えば、Low et al. J. Chromatography B 2007, 848, 48-63;Shukla et al. J. Chromatography B 2007, 848, 28-39を参照)。アフィニティークロマトグラフィーには、ラクダ由来の単一ドメイン(VHH)抗体断片による独自の親和性精製手段に基づくCaptureSelect(登録商標)リガンドを用いるアフィニティークロマトグラフィーが含まれる(例えば、Eifler et al. Biotechnology Progress 2014, 30(6), 1311-1318を参照)。本発明での使用が予定されている抗体には、内因性の汚染物質を実質的に含まない、実質的に均質な組換え抗SIRPα抗体が含まれる。
【0095】
本発明の抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片のアミノ酸配列の修飾が考えられている。例えば、抗体の結合親和性及び/又は他の生物学的特性の改善が望ましい場合がある。抗体のアミノ酸配列の変異体は、抗体をコードする核酸を適切に変更することにより、又はペプチド合成により製造される。そのような修飾には、例えば、抗体又はその抗原結合断片のアミノ酸配列の残基の欠失、付加及び/又は置換が含まれる。最終コンストラクトの所望の特性を得るために、欠失、付加及び置換の任意の組合せが行われる。アミノ酸の変更は、グリコシル化部位の数又は位置の変更など、抗体又はその抗原結合断片の翻訳後修飾も変化させる可能性がある。
【0096】
アミノ酸配列の付加には、アミノ末端及び/又はカルボキシル末端に1~100以上のアミノ酸残基を含むポリペプチドを融合すること、並びに単一又は複数のアミノ酸残基を配列内に挿入することが含まれる。末端付加の例には、N末端メチオニン残基を有する抗体又は細胞毒性ポリペプチドと融合した抗体が含まれる。抗体又はその抗原結合断片の他の付加変異体には、抗体又はその抗原結合断片の血清半減期を増加させる酵素又はポリペプチドとの融合が含まれる。
【0097】
別の変異体は、アミノ酸の置換による変異体である。これらの変異体は、抗体又はその抗原結合断片の少なくとも1つのアミノ酸残基が別のアミノ酸残基に置き換えられている。抗体又はその抗原結合断片のそのような置換変異の誘発には、上述したFRの変化、及び上述したように、受容体の活性化を防ぐためのFc領域とFc受容体の結合を低減させるための変化が含まれる。
【0098】
抗体の別のアミノ酸変異体は、抗体又はその抗原結合断片のグリコシル化のパターンが変更されている。変更とは、抗体又はその抗原結合断片の1つ以上の炭水化物の削除、及び/又は抗体又はその抗原結合断片に存在しない1つ以上のグリコシル化部位の追加を意味する。ポリペプチドのグリコシル化は、通常、N結合型又はO結合型のいずれかである。N結合型とは、アスパラギン残基の側鎖への炭水化物の結合を指す。トリペプチド配列、アスパラギン-X-セリン及びアスパラギン-X-スレオニン(Xはプロリン以外のアミノ酸)は、炭水化物がアスパラギン側鎖に酵素的に結合する認識配列である。したがって、ポリペプチド中のこれらのトリペプチド配列は、潜在的なグリコシル化部位である。O結合型グリコシル化とは、単糖又は単糖誘導体(例.N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース又はキシロース)の1つが、ヒドロキシアミノ酸(最も一般的にはセリン又はスレオニンであるが、5-ヒドロキシプロリン又は5-ヒドロキシリジンも使用できる)に結合することを指す。抗体へのグリコシル化部位の追加は、(N結合型グリコシル化部位の場合)上記トリペプチド配列の1つ以上を含むようにアミノ酸配列を変更することによって不都合なく達成される。変更は、(O結合型グリコシル化部位の場合)抗体の配列に1つ以上のセリン又はスレオニン残基を付加し、又はこれらの残基で置換することによっても行うことができる。抗体のアミノ酸配列の変異体をコードする核酸は、当該技術分野で公知のさまざまな方法によって製造される。これらの方法には、(天然のアミノ酸配列変異体の場合)天然からの単離、又はオリゴヌクレオチド媒介(又は部位特異的)変異誘発、PCR変異誘発、及び抗体若しくはその抗原結合断片の以前に製造された変異体か非変異体のカセット変異誘発による製造が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0099】
本発明の抗体又はその断片を含む組成物
別の側面では、本発明は、本発明の抗SIRPα抗体若しくはその抗原結合断片、又はその医薬誘導体若しくはプロドラッグを、1つ以上の薬学的に許容される添加剤、例えば、薬学的に許容される担体、アジュバント又は媒体と共に含む医薬組成物に関する。好ましくは、本発明は、本発明の抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片及び薬学的に許容される添加剤を含有する医薬組成物に関する。
【0100】
そのような医薬組成物は対象に投与するためのものである。本発明の医薬組成物は、それを必要とする対象に前記組成物の有効量を投与することにより、以下に示す治療方法において使用することができる。本明細書において使用する用語「対象」は、哺乳類として分類される全ての動物を指し、霊長類及びヒトを含むが、これらに限定されるものではない。対象は好ましくはヒトである。
【0101】
本明細書において使用する用語「薬学的に許容される添加剤」は、医薬投与と互換性のある全ての溶媒、分散媒体、コーティング剤、抗菌剤、抗真菌剤、等張化剤及び吸着遅延剤などを含むことを意図している(例えば、Handbook of Pharmaceutical Excipients, Rowe et al. Eds. 7th edition, 2012, www.pharmpress.comを参照)。薬学的に活性な物質のためのそのような媒体及び薬剤の使用は、当該技術分野において周知である。通常の媒体又は薬剤が活性化合物と適合しない場合を除き、組成物におけるそれらの使用を想定している。担体又は安定化剤を含む許容可能な添加剤は、使用する用量及び濃度でレシピエントに対して無毒であり、リン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、ヒスチジン、その他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;保存剤(ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウムクロリド;ベンザルコニウムクロリド、ベンゼトニウムクロリド;フェノール、ブチル、又はベンジルアルコール;メチル又はプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール及びm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース又はデキストリンを含む単糖、二糖及び他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;ショ糖、マンニトール、トレハロース又はソルビトールなどの糖類;ナトリウムなどの塩形成カウンターイオン;金属錯体(例.Zn-タンパク質複合体)及び/又はポリソルベート(例.TWEEN(登録商標))、ポロキサマー(例.PLURONIC(登録商標))、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン又はポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含む。
【0102】
補足的な活性化合物も本発明の医薬組成物に組み込むことができる。したがって、特定の態様では、本発明の医薬組成物は、特定の症状の治療に必要な複数の活性化合物、好ましくは互いに反対の影響を及ぼさず、補完的な活性を有する化合物を含んでいてもよい。そのような他の活性剤の有効な量は、とりわけ、医薬組成物中に存在する本発明の抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片の量、疾患、障害又は治療の種類などに依存する。
【0103】
ある態様では、本発明の抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片は、インプラント及びリポソームなどのマイクロカプセル化された送達系を含む放出制御製剤のような、身体からの前記化合物の急速な排出を保護する担体と共に製剤化される。エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル及びポリ乳酸などの生分解性、生体適合性ポリマーを使用することができる。そのような製剤の製法は当業者に明らかである。標的化リポソームを含むリポソーム懸濁液も、薬学的に許容される担体として使用することができる。これらは、例えば米国特許第4,522,811号又は国際公開第2010/095940号に記載されているように、当業者に公知の方法で製造することができる。
【0104】
本発明の抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片の投与経路は、経口、非経口、吸入又は局所である可能性がある。本明細書における用語「非経口」は、静脈内、動脈内、リンパ内、腹腔内、筋肉内、皮下、直腸又は膣への投与を含む。非経口の静脈内投与が好ましい。「全身投与」とは、経口、静脈内、腹腔内及び筋肉内投与を意味する。もちろん、治療又は予防に必要な抗体の量は、選択する抗体、治療すべき特性及び重症度、並びに対象によって異なる。さらに、抗体は、例えば抗体の用量を減少させてゆくパルス注入によって適切に投与してもよい。好ましくは、投薬は、投与が短時間であるか長時間であるかに部分的に依存して、注射、最も好ましくは静脈内又は皮下注射により行われる。
【0105】
したがって、特定の態様では、本発明の医薬組成物は、適切な一回投与剤形の滅菌溶液、懸濁液又は凍結乾燥製品などの非経口投与に適した形態であってもよい。注入に適した医薬組成物には、滅菌された水溶液(水溶性の場合)又は分散液、及び滅菌された注射可能な溶液又は分散液を即時調製するのための滅菌された粉末が含まれる。静脈内投与の場合、適切な担体には、生理食塩水、注射用水、CremophorEM(BASF, Parsippany, NJ)又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が含まれる。全ての場合において、組成物は滅菌されていなければならず、注入が容易な程度に流動性を有していなければならない。製造及び保管の際に安定でなければならず、細菌や真菌などの微生物の汚染の影響から守られている必要がある。担体は、例えば、水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、液体のポリエチレングリコールなどの薬学的に許容されるポリオール、及びそれらの適切な混合物を含む溶媒又は分散媒体である可能性がある。適切な流動性は、例えばレシチンなどのコーティングの使用、分散の場合は必要な粒子サイズの維持、及び界面活性剤の使用により維持することができる。微生物による影響の防止は、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどのさまざまな抗菌剤及び抗真菌剤によって達成することができる。多くの場合、組成物に、例えば、糖、マンニトール若しくはソルビトールなどの多価アルコール、又は塩化ナトリウムなどの等張化剤を配合することが好ましい。
【0106】
注入可能な組成物の長期吸収は、例えば、モノステアリン酸アルミニウム又はゼラチンなどの吸収を遅らせる薬剤を組成物に配合することで達成できる。
【0107】
滅菌注射液は、必要な量の活性化合物(例.ポリペプチド又は抗体)と必要に応じて上述した成分の1つ以上を適切な溶媒に加え、続いて滅菌ろ過することによって製造することができる。通常、分散液は、活性化合物を基本的な分散媒及び必要な上述した成分を含む滅菌媒体に加えることによって製造される。滅菌された注射可能な溶液を調製するのための滅菌された粉末の好ましい調製方法は、前もって滅菌ろ過した溶液から所望の成分及び有効成分の粉末を得る真空乾燥及び凍結乾燥である。
【0108】
特定の態様では、前記医薬組成物は静脈内(IV)又は皮下(SC)経路で投与する。増量剤、緩衝剤又は界面活性剤などの適切な添加剤を使用することができる。当該技術分野において周知であり、例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy. Allen Ed. 22nd edition, 2012, www.pharmpress.comを含むさまざまな資料に詳細に記載されている、非経口投与可能な組成物を製造するための標準的な方法で上記製剤を製造する。
【0109】
非経口の医薬組成物を一回投与剤形に製剤化し、投与を容易にして投与量を均一にすることは特に好都合である。本明細書において一回投与剤形は、治療する対象に対する1回の投薬に適した物理的に分かれた剤形を指し、各剤形は、所望の治療効果を生み出すように計算された必要な量の医薬担体込みの活性化合物(本発明の抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片)を含む。本発明の一回投与剤形の処方は、活性化合物に固有の特性及び達成すべき治療効果、並びに治療のために活性化合物を配合する技術に固有の制約によって決まり、また、それらに直接依存する。
【0110】
一般に、本発明の抗SIRPα抗体の有効な投与量は、選択した化合物の有効性、治療する障害の重症度及び対象の体重に依存する。しかし、活性化合物の代表的な1日の総投与量は、0.001~1,000mg/kg体重、好ましくは約0.01~約100mg/kg体重、最も好ましくは約0.05~10mg/kg体重で、通常、1日1回以上、例えば1日、1、2、3又は4回投与する。抗体の適切な用量を選択するためのガイダンスを利用することができる(例えば、Wawrzynczak (1996) Antibody Therapy, Bios Scientific Pub. Ltd, Oxfordshire, UK;Kresina (ed.) (1991) Monoclonal Antibodies, Cytokines and Arthritis, Marcel Dekker, New York, N.Y.;Bach (ed.) (1993) Monoclonal Antibodies and Peptide Therapy in Autoimmune Diseases, Marcel Dekker, New York, N.Y.;Baert et al. (2003) New Engl. J. Med. 1999, 348, 601-608;Milgrom et al. New Engl. J. Med. 1999, 341, 1966-1973;Slamon et al. New Engl. J. Med. 2001, 344, 783-792;Beniaminovitz et al. New Engl. J. Med. 2000, 342, 613-619;Ghosh et al. New Engl. J. Med. 2003, 348, 24-32;Lipsky et al. New Engl. J. Med. 2000, 343, 1594-1602を参照)。
【0111】
適切な用量は、例えば、治療に影響を与えることが当該技術分野において知られている若しくは疑われる、又は治療に影響を与えると予測されるパラメーター又は因子を使用して、臨床医が決定する。通常、用量は、最適用量よりも幾分少ない量で開始し、その後、副作用と比較して所望の又は最適な効果が達成されるまで、少しずつ増加する。重要な診断手段には、例えば、炎症又は炎症性サイトカインの量を診断する手段が含まれる。抗体又は抗体の断片は、持続注入で、又は、例えば、1日間隔、1週間間隔で、又は1週間に1~7回、投与することができる。あるいは、抗体又は抗体の断片は、1日1回、1日おき、週に2~3回、2週間に1回、3週間に1回、6週間に1回投与することができる。好ましい投与計画は、重大な副作用を回避する最大用量又は投与頻度を含む。一週あたりの総投与量又は平均投与量は、一般的に少なくとも0.05μg/kg体重、より一般的には少なくとも0.2μg/kg、最も一般的には少なくとも0.5μg/kg、典型的には少なくとも1μg/kg、より典型的には少なくとも10μg/kg、最も典型的には少なくとも100μg/kg、好ましくは少なくとも0.2mg/kg、より好ましくは少なくとも1.0mg/kg、最も好ましくは少なくとも2.0mg/kg、最適には少なくとも10mg/kg、より最適には少なくとも25mg/kg及び最も最適には少なくとも50mg/kgである(例えば、Yang et al. New Engl. J. Med. 2003 349, 427-434;Herold et al. New Engl. J. Med. 2002, 346, 1692-1698;Liu et al. J. Neurol. Neurosurg. Psych. 1999, 67, 451-456;Portielje et al. Cancer Immunol. Immunother. 2003, 52, 133-144を参照)。好ましくは一週あたりの総投与量又は平均投与量は、0.001~100mg/kg体重、好ましくは約0.01~約50mg/kg体重、好ましくは約0.05~約30mg/kg体重、最も好ましくは約0.1~10mg/kg体重である。
【0112】
医薬組成物は、容器、パック又はディスペンサーに、添付文書と共に含めることができる。
【0113】
本発明の抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片は、以下の項でより詳細に説明するように治療用抗体と組み合わせて使用することが好ましく、他の薬物と組み合わせて使用する可能性がある。治療用抗体は、同じ組成物の一部を形成するか、同時に又は異なる時間に投与するための別個の組成物として提供される可能性がある。場合によっては上述した態様と組み合わせて、他の薬物は、同じ組成物の一部を形成するか、同時に又は異なる時間に投与するための別個の組成物として提供される可能性がある。
【0114】
好ましくは、本発明の医薬組成物は、静脈内投与の前に(水への)溶解(すなわち、再構成)を必要とする凍結乾燥したケーキ状(凍結乾燥粉末)、又は投与前に解凍が必要な凍結(水)溶液の形態である。最も好ましくは、医薬組成物は凍結乾燥したケーキの形態である。本発明の(凍結乾燥前の)医薬組成物に配合する適切な薬学的に許容される添加剤には、緩衝液(例.クエン酸塩、酢酸塩、ヒスチジン又はコハク酸塩の水溶液)、凍結乾燥保護剤(例.ショ糖、トレハロース)、等張化剤(例.塩化ナトリウム)、界面活性剤(例.ポリソルベート又はヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン)及び増量剤(例.マンニトール、グリシン)が含まれる。凍結乾燥タンパク質製剤に使用する添加剤は、凍結乾燥の過程及び保管中のタンパク質の変性を防止する能力で選択される。
【0115】
本発明の抗体又はその断片の用途
本発明の抗SIRPα抗体、その抗原結合断片及び医薬組成物は、SIRPαを発現する、又はSIRPα及びCD47を発現する、好ましくは過剰発現する、疾患、状態及び症状の治療に、特にCD47を発現するがんの治療に有用である。
【0116】
したがって、さらなる側面では、本発明は、医薬として使用するための本発明の抗SIRPα抗体若しくはその抗原結合断片又は本発明の医薬組成物に関する。
【0117】
別の側面では、本発明はがんの治療、好ましくはCD47を発現するがんの治療に使用するための本発明の抗SIRPα抗体若しくはその抗原結合断片又は本発明の医薬組成物に関する。
【0118】
CD47は、急性骨髄性白血病(AML)、乳癌、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、ろ胞性リンパ腫(FL)及びびまん性大細胞性B細胞リンパ腫(DLBCL)を含む非ホジキンリンパ腫(NHL)、肝細胞癌、多発性骨髄腫(MM)、膀胱癌、結腸癌、胃癌、卵巣癌、頭頸部癌、神経芽腫、黒色腫、骨肉腫、膵癌、腎癌、前立腺癌、肝細胞癌、肺癌及び他の固形腫瘍を含むいくつかのヒトの腫瘍で発現することがわかっている(Chao et al. Curr Opin Immunol. 2012, 24(2), 225-232;Chao et al. Cell 2010, 142(5), 699-713;Roesner et al. Mol Cancer Ther. 2018)。正常な細胞と比較して、これらの腫瘍のいくつかで発現の増加が観察された(Russ et al. Blood Rev. 2018, doi: 10.1016/j.blre.2018.04.005)。腫瘍は、腫瘍細胞でのCD47のアップレギュレーションにより食作用を回避して、自然免疫系の監視から逃れることを可能にするという仮説が、他のCD47メカニズムに関する仮説と共に、立てられている(Chao et al. Curr Opin Immunol. 2012, 24(2), 225-232)。
【0119】
興味深いことに、Yanagitaらは、ヒトの腎細胞癌及び黒色腫がSIRPαを高度に発現していることを報告した(Yanagita et al. JCI Insight 2017, 2(1), e89140)。さらに、SIRPαの発現は一部の神経芽腫及び急性骨髄性白血病(AML)で認められる。Sosaleらは、肺癌及び膠芽腫におけるSIRPαの発現を報告した(Sosale et al. Mol.Ther.Methods Clin.Dev. 2016, 3, 16080)。Chenらは、星状細胞腫及び膠芽腫におけるSIRPαの発現を報告した(Chen et al. Cancer Res 2004, 64(1), 117-127)。中皮腫及びB細胞リンパ腫もSIRPα陽性である可能性がある。したがって、別の側面では、本発明は、SIRPαを発現する疾患、状態又は症状の治療に使用するため、特に、例えばヒトの腎細胞癌及び黒色腫などのSIRPαを発現するがんのみならず、例えば関節リウマチ、多発性硬化症及びおそらく多発血管炎(GPA)、顕微鏡的多発血管炎(MPA)並びに尋常性天疱瘡(PV)を伴う肉芽腫症などの自己免疫疾患の治療に使用するための、本発明の抗SIRPα抗体若しくはその抗原結合断片又は本発明の医薬組成物に関する。抗SIRPα抗体は、別の抗体が病原性の細胞又は感染した細胞を激減するために使用されるかどうかにかかわらず、疾患における当該別の抗体の有効性を高める可能性もある。SIRPαを発現する腫瘍の場合、野生型のヒトFcを含む本発明の抗SIRPα抗体が単剤療法に適している可能性がある。ある態様では、本発明は、SIRPα陽性のヒトの固形腫瘍及び血液悪性腫瘍、好ましくは腎細胞癌又は悪性黒色腫の治療に使用するための、ヒトの免疫エフェクター細胞上の活性化Fc受容体に結合するFc領域を含む抗SIRPα抗体に関する。好ましくは、ヒトの免疫エフェクター細胞上の活性化Fc受容体に結合するFc領域は、IgA又はIgGアイソタイプである。IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4アイソタイプのFc領域を有する抗SIRPα抗体がより好ましく、IgG1、IgG2又はIgG4アイソタイプがさらに好ましい。IgG1アイソタイプのFc領域を有する抗SIRPα抗体が最も好ましい。
【0120】
上述したように、好ましくはFcエフェクター機能が部分的又は完全に破壊されている本発明の抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片を使用して、治療用抗体のエフェクター機能を改善-例えばADCCの増加など-することができる。好ましくは、本発明のそのような抗体又はその抗原結合断片及び治療用抗体で治療されるがんは、SIRPαを発現しない。そのような治療方法は、好ましくは、1つ以上のさらなる抗がん治療と組み合わせる。上述した野生型のFc領域を有する同じ抗SIRPα抗体と比較して、ヒトFcα又はFcγ受容体との結合が低減した修飾Fc領域を含む抗SIRPα抗体は、エフェクター細胞として好中球を使用した際に、治療用抗体のin vitroでのADCCを増強することが見いだされた。実施例の抗体1~13は、SIRPα1/SIRPαBITヘテロ接合ドナーの好中球によるin vitroでのADCCが用量依存的に増加する。好ましい抗体は好中球のin vitroでのADCCを最大限に高めるが、好ましくは、T細胞増殖アッセイ及び/又はIL-2 ELIspotにおいてin vitroで免疫原性の兆候を示さないものである。最も好ましい抗体は、抗体1~6、12及び13であり、好ましくは抗体6である。
【0121】
好ましくは、治療用抗体は、欧州医薬品庁(EMA)又は食品医薬品局(FDA)などの医薬品規制当局が承認した抗体である。ほとんどの規制当局のオンラインデータベースで、抗体の承認を確認することができる。
【0122】
通常、本発明の抗SIRPα抗体(好ましくはそのFc領域の結合が減少したもの)又はその抗原結合断片と組み合わせて使用する治療用抗体は、アネキシンAl、AMHR2、AXL、BCMA、B7H3、B7H4、CA6、CA9、CA15-3、CA19-9、CA27-29、CA125、CA242、CCR2、CCR4、CCR5、CD2、CD4、CD16、CD19、CD20、CD22、CD27、CD30、CD33、CD37、CD38、CD40、CD44、CD47、CD52、CD56、CD70、CD74、CD79、CD98、CD115、CD123、CD138、CD203c、CD303、CD333、CEA、CEACAM、CLCA-1、CLL-1、c-MET、Cripto、CTLA-4、DLL3、EGFL、EGFR、EPCAM、EPh(例.EphA2又はEPhB3)、エンドセリンB型受容体(ETBR)、FAP、FcRL5(CD307)、FGF、FGFR(例.FGFR3)、FOLR1、フコシル-GM1、GCC、GD2、GPNMB、gp100、HER2、HER3、HMW-MAA、インテグリンα(例.αvβ3及びαvβ5)、IGF1R、IL1RAP、κミエローマ抗原、TM4SF1(又はL6抗原)、ルイスA様糖鎖、ルイスX、ルイスY、LIV1、メソテリン、MUC1、MUC16、NaPi2b、ネクチン-4、PD-1、PD-L1、プロラクチン受容体、PSMA、PTK7、SLC44A4、STEAP-1、5T4抗原(又はTPBG、栄養芽細胞糖タンパク質)、TF(組織因子)、トムゼン-フリーデンライヒ抗原(TF-Ag)、Tag72、TNF、TNFR、TROP2、VEGF、VEGFR及びVLAからなる群から選択される標的に結合するHCVR及びLCVRの少なくとも1つを含む単一特異性若しくは二重特異性抗体又は抗体断片である。
【0123】
そのような標的を発現するがんの非限定的な例は、(HER2陽性)乳癌、(EGFR陽性)結腸癌、(GD2陽性)神経芽腫、黒色腫、骨肉腫、(CD20陽性)B細胞リンパ腫、(CD38陽性)多発性骨髄腫、(CD52陽性)リンパ腫、(CD33陽性)急性骨髄性白血病(AML)である。
【0124】
好ましい抗体は単一特異性の治療用抗体である。より好ましい抗体は、腫瘍細胞表面の膜に結合した標的に対する治療用抗体である。
【0125】
好ましい態様では、腫瘍細胞表面の膜に結合した標的に対する治療用抗体は、ヒトの免疫エフェクター細胞上の活性化Fc受容体に結合するヒトのFc領域を含む。ヒトの免疫エフェクター細胞上の活性化Fc受容体に結合するヒトのFc領域を含む治療用抗体は、活性化Fc受容体との結合を介してADCC及び/又はADCPを誘導することができる。ヒトIgG、IgE、又はIgAアイソタイプの治療用抗体は、ヒトの免疫エフェクター細胞上の活性化Fc受容体に結合するヒトのFc領域を含む。
【0126】
本発明で使用する好ましい治療用抗体は、IgG又はIgAアイソタイプの治療用抗体である。より好ましい抗体は、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4抗体などのIgGアイソタイプの治療用抗体である。さらにより好ましい抗体は、IgG1又はIgG2アイソタイプの治療用抗体である。最も好ましい抗体は、IgG1アイソタイプの治療用抗体である。
【0127】
本発明の抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片と組み合わせて使用するのに適した治療用抗体には、アレムツズマブ(例.多発性硬化症の治療)、オビヌツズマブ(例.CLL、FLの治療)、オファツズマブ(例.MMの治療)、ダラツムマブ(例.MMの治療)、トラスツズマブ(例.HER2過剰発現乳癌、胃癌、胃食道接合部腺癌の治療)、ジヌツキシマブ(例.小児神経芽腫の治療)、パニツムマブ、セツキシマブ(例.頭頸部癌、大腸癌の治療)、リツキシマブ、オファツムマブ(例.NHL、CLL、FL、DLBCLの治療)、ウブリツキシマブ、マルジェツキシマブ、ペルツズマブ、ベルツズマブ、ブレンツキシマブ、エロツズマブ、イブリツモマブ、イファボツズマブ(ifabotuzumab)、ファルレツズマブ、オティアツズマブ(otiertuzumab)、カロツキシマブ、エプラツズマブ、イネビリズマブ、ルムレツズマブ、モガムリズマブ、ロイコツキシマブ(leukotuximab)、イサツキシマブ、オポルツズマブ、エンシツキシマブ、セミプリマブ、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、デュルバルマブ、アベルマブ、アテゾリズマブ、スパルタリズマブ、ティスレリズマブ、カムレリズマブ、シンチリマブ、セミプリマブが含まれる。このような治療用抗体は、抗体薬物複合体(ADC)の一部としても提供することができる。本発明による抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片と組み合わせて使用するのに適したADCには、トラスツズマブ デュオカルマジン、トラスツズマブ デルクステカン、トラスツズマブ エムタンシン、ゲムツズマブオ ゾガマイシン、イノツズマブ オゾガマイシン、ポラツズマブ ベドチン、ナラツキシマブ エムタンシン、イブリツモマブ チウキセタン及びブレンツキシマブ ベドチンが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0128】
本発明の抗体又はその抗原結合断片と治療用抗体は、同じ製剤に含まれていてもよいし、異なる製剤として投与してもよい。投与は同時に行うことも、逐次に行うこともでき、いかなる順でも効果を有する。
【0129】
したがって、好ましい態様では、本発明は、腫瘍細胞表面の膜に結合した標的に対する治療用抗体と組み合わせて、ヒトの固形腫瘍及び血液悪性腫瘍の治療に使用するためのヒトの免疫エフェクター細胞上の活性化Fc受容体に結合するヒトのFc領域を含む、本発明の抗SIRPα抗体又はその抗原結合断片に関し、ここで、前記抗SIRPα抗体は、野生型のFc領域を有する同じ抗SIRPα抗体と比較して、ヒトFcα又はFcγ受容体との結合が低減した修飾Fc領域、好ましくは、L234、L235、G237、D265、D270、N297、A327、P328及びP329(Euナンバリング)からなる群から選択される位置に1つ以上のアミノ酸置換を含む修飾されたヒトIgG1のFc領域を有する。
【0130】
場合によっては他の態様と組み合わせて、ある態様では、本発明は、特にがんの治療において、CD47が発現している、好ましくは過剰発現している疾患、状態又は症状を治療するための薬剤の製造における、本発明の抗SIRPα抗体若しくはその抗原結合断片又は本発明の医薬組成物の使用に関する。本発明により治療するがんの非限定的な例は、これまでの記述を参照されたい。好ましい態様では、本発明の抗SIRPα抗体若しくはその抗原結合断片又は本発明の医薬組成物は、上述した治療用抗体と同時又は逐次に投与する。
【0131】
場合によっては他の態様と組み合わせて、ある態様では、本発明は、ヒトの腎細胞癌又は黒色腫などのSIRPαを発現するがんを治療するための薬剤の製造における、本発明の抗SIRPα抗体若しくはその抗原結合断片又は本発明の医薬組成物の使用に関する。好ましい態様では、本発明の抗SIRPα抗体若しくはその抗原結合断片又は本発明の医薬組成物は、上述した治療用抗体と同時又は逐次に投与する。
【0132】
場合によっては他の態様と組み合わせて、ある態様では、本発明は、がん、特に腫瘍細胞がCD47又はSIRPαを発現するがんを治療するための方法に関し、この方法は、前記治療を必要とする対象に、本発明の抗SIRPα抗体若しくはその抗原結合断片又は本発明の医薬組成物の治療有効量を投与することを含む。特定の態様では、がんは、CD47を発現し、過剰発現する可能性のある腫瘍細胞であることを特徴とする。本発明により治療するCD47を発現するがんの非限定的な例は、これまでの記述を参照されたい。別の態様では、SIRPαを発現するがんは、ヒトの腎細胞癌、黒色腫、神経芽腫又は急性骨髄性白血病(AML)である。
【0133】
本発明の抗SIRPα抗体若しくはその抗原結合断片又は本発明の組成物は、治療用抗体と組み合わせて使用する場合に、CD47を発現する腫瘍細胞の増殖を阻害することが好ましい。「CD47を発現する腫瘍細胞の増殖の阻害」又は「増殖阻害」は、(CD47が発現又は過剰発現している)がん細胞の測定可能な増殖阻害の達成である。好ましい増殖阻害性の抗SIRPα抗体は、CD47発現腫瘍細胞の増殖を、適切な対照であって、通常、試験する抗体で処理していない腫瘍細胞と比較して、20%を超えて、好ましくは約20%~約50%、さらにより好ましくは50%を超えて(例.約50%~約100%)阻害する。ある態様では、増殖の阻害は、細胞培養において約0.1~30mg/ml又は約0.5nM~200nMの抗体濃度で測定することができ、腫瘍細胞を抗体に曝露してから1~10日後に求められる。in vivoでの腫瘍細胞の増殖阻害は、例えば、欧州特許第2474557号(B1)に記載されているようなさまざまな方法で測定することができる。約1mg/kg体重~約100mg/kg体重の抗SIRPα抗体を投与することにより、抗体の最初の投与から約5日~3ヶ月以内、好ましくは約5~30日以内に腫瘍のサイズ又は細胞増殖が減少した場合、当該抗体はin vivoで増殖阻害性である。
【0134】
「細胞死を誘導する」抗体は、生存細胞を生存不能にする抗体である。前記細胞はCD47を発現する細胞である。in vitroでの細胞死は、ADCCによって誘導される細胞死と区別するために、補体及び免疫エフェクター細胞の不存在下で測定してもよい。したがって、細胞死のアッセイは、免疫エフェクター細胞の不存在下で加熱により不活化した血清を使用して(すなわち、補体の不存在下で)行うことができる。抗体が細胞死を誘導できるかどうかを判断するために、ヨウ化プロピジウム(PI)、トリパンブルー、又は7-AADの取り込みによって評価される膜の完全性の喪失を、未処理の細胞と比較して評価するか(Moore et al. Cytotechnology 1995; 17, 1-11参照)、細胞生存率の喪失を評価する(テトラゾリウム還元、レザズリン還元、プロテアーゼマーカー及びATP検出)ことができる。
【0135】
「治療有効量」という表現は、以前に説明したように、がんの治療に有効な量を意味し、この量は、所望の応答をもたらすのに、又は、例えば、転移若しくは原発腫瘍の進行、サイズ若しくは成長の症状若しくは徴候を改善するのに十分な量である可能性がある。特定の対象に対する治療有効量は、症状、対象の全身状態、投与の方法、経路及び用量、並びに副作用の程度などの要因に応じて変化する場合がある。応答評価基準が説明されている(RECIST;Eisenhauer et al. European Journal of Cancer 2009; 45, 228-247;Schwartz et al. European Journal of Cancer 2016; 62, 138-145;Cheson et al. Journal of Clinical Oncology 2003; 21(24), 4642-4649;Moghbel et al. Journal of Nuclear Medicine 2016, 57(6), 928-935、これらの文献全体が本明細書に組み込まれる)。好ましくは、効果は、腫瘍の停滞(すなわち、減少ではなく現状維持)、病変の数の減少、又はベースラインの腫瘍サイズと比較した腫瘍サイズの少なくとも約10%、好ましくは少なくとも20%、30%、50%、70%、さらには90%以上の減少、好ましくは、ベースラインの直径の合計を参照として使用し、標的病変の直径の合計の少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%の減少をもたらす。組み合わせた場合、治療有効量は成分の組合せに比例し、効果は個々の成分のみには限定されない。治療上有効な量は、好ましくは少なくとも約10%、好ましくは少なくとも約20%、好ましくは少なくとも約30%、又はより好ましくは少なくとも約50%、症状を調節する。あるいは、移動の調節は、さまざまな型の細胞の移動又は輸送が影響を受けることを意味する。そのような結果、例えば、影響を受ける細胞の数の統計的に有意で定量化可能な変化が生じる。これは、一定期間内に、又は標的領域内に引き寄せられる標的細胞数の減少である可能性がある。原発腫瘍の進行、サイズ、播種又は成長の速度も監視することができる。
【0136】
好ましい態様では、本発明は、治療用抗体と組み合わせて、そして、さらに1つ以上の他の抗がん療法と組み合わせて、CD47を発現する疾患、状態又は症状、特にがん、より具体的にはヒトの固形腫瘍又は血液悪性腫瘍の治療に使用するための、上述した抗SIRPα抗体若しくはその抗原結合断片又は医薬組成物に関する。適切な他の抗がん療法には、外科手術、化学療法、放射線療法、ホルモン療法及び例えば血管新生阻害剤などの小分子標的療法が含まれるが、これらに限定されるものではない。上述した抗SIRPα抗体若しくはその抗原結合断片又は医薬組成物は、1つ以上の他の抗がん療法の使用と組み合わせた、ヒトの固形腫瘍及び血液悪性腫瘍の治療における、同時の又は逐次の使用のためのものである可能性がある。特に、上述した抗SIRPα抗体若しくはその抗原結合断片又は医薬組成物は、1つ以上の他の抗がん療法を行った後に、ヒトの固形腫瘍及び血液悪性腫瘍の治療に使用するためのものである可能性がある。
【0137】
好ましくは、本発明は、1つ以上のさらなる抗がん治療化合物と組み合わせて、CD47を発現する疾患、状態又は症状の治療に使用するための上述した抗SIRPα抗体若しくはその抗原結合断片又は医薬組成物に関する。本明細書における「抗がん治療化合物」は、治療用抗体を含まないことを意図している。治療用抗体は、これまでに定義したとおりである。したがって、好ましくは上記治療用抗体と組み合わせた上述の抗SIRPα抗体若しくはその抗原結合断片又は医薬組成物は、1つ以上の他の抗がん治療化合物の使用の前、後又は同時に、ヒトの固形腫瘍及び血液悪性腫瘍の治療に使用するためのものである可能性がある。
【0138】
適切な抗がん治療化合物には、細胞毒性剤、すなわち、細胞の機能を阻害又は防止する、及び/又は細胞の破壊を引き起こす物質が含まれる。この用語は、化学療法剤、すなわち、がんの治療に有用な化学物質、放射性同位元素などの放射線治療薬、ホルモン療法薬、標的治療薬及び免疫療法剤を含むことを意図している。適切な化学療法剤には、ナイトロジェンマスタード、ニトロソ尿素類、テトラジン類及びアジリジン類などのアルキル化剤;葉酸拮抗薬、フルオロピリミジン類、デオキシヌクレオシド類似体及びチオプリン類などの代謝拮抗剤;ビンカアルカロイド及びタキサンなどの微小管阻害剤;トポイソメラーゼI及びII阻害剤、並びに、アントラサイクリン及びブレオマイシンなどの細胞傷害性抗生物質が含まれる。例えば、化学療法レジメンは、CHOP(シクロホスファミド、ドキソルビシン(ヒドロキシダウノルビシン)、ビンクリスチン(オンコビン)及びプレドニゾン)、ICE(イダルビシン、シタラビン及びエトポシド)、ミトキサントロン、シタラビン、DVP(ダウノルビシン、ビンクリスチン及びプレドニゾン)、ATRA(オールトランス型レチノイン酸)、イダルビシン、Hoelzer化学療法レジメン、ABVD(ブレオマイシン、ダカルバジン、ドキソルビシン及びビンクリスチン)、CEOP(シクロホスファミド、エピルビシン、ビンクリスチン及びプレドニゾロン)、2-CdA(2-クロロデオキシアデノシン)、FLAG&IDA(フルダラビン、シタラビン、フィルグラスチム(filgastrim)及びイダルビシン)(その後のG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)又はGM-CSF治療は行っても行わなくてもよい)、VAD(ビンクリスチン、ドキソルビシン及びデキサメタゾン)、M&P(メルファラン及びプレドニゾン)、C(シクロホスファミド)-毎週、ABCM(アドリアマイシン、ブレオマイシン、シクロホスファミド及びマイトマイシンC)、MOPP(メクロレタミン、ビンクリスチン、プレドニゾン及びプロカルバジン)及びDHAP(デキサメタゾン、シタラビン及びシスプラチン)からなる群から選択することができる。好ましい化学療法レジメンはCHOPである。適切な放射線治療薬には、131I-メタヨードベンジルグアニジン(MIBG)、リン酸ナトリウムとしての32P、223Ra塩化物、89Sr塩化物及び153Smジアミンテトラメチレンホスホネート(EDTMP)などの放射性同位元素が含まれる。ホルモン療法薬として使用する適切な薬剤には、アロマターゼ阻害剤などのホルモン合成の阻害剤及びGnRHアナログ、並びに、選択的エストロゲン受容体モジュレーター及び抗アンドロゲンなどのホルモン受容体拮抗薬が含まれる。本明細書で使用する標的治療薬は、腫瘍の形成及び増殖に関与する特定のタンパク質を妨害する治療薬であり、小分子薬、ペプチド又はペプチド誘導体である可能性がある。標的小分子薬の例には、エベロリムス、テムシロリムス及びラパマイシンなどのmTOR阻害剤、イマチニブ、ダサチニブ及びニロチニブなどのキナーゼ阻害剤、ソラフェニブ及びレゴラフェニブなどのVEGF阻害剤、並びに、ゲフィチニブ、ラパチニブ及びエルロチニブなどのEGFR/HER2阻害剤が含まれる。ペプチド又はペプチド誘導体の標的治療薬の例には、ボルテゾミブ及びカルフィルゾミブなどのプロテアソーム阻害剤が含まれる。免疫療法剤には、サイトカイン(IL-2及びIFN-α)のような免疫応答を誘導、増強若しくは抑制する薬剤、サリドマイド、レナリドミド及びポマリドミドなどの免疫調節薬、タリモジン ラヘルパレプベクのような治療用がんワクチン、樹状細胞ワクチン、養子T細胞及びキメラ抗原受容体修飾T細胞などの細胞ベースの免疫療法剤、又はモキセツモマブ パスードトクスのような免疫毒素が含まれる。
【0139】
上述した治療方法のいずれも、例えば、哺乳動物、好ましくは霊長類、例えば非ヒト霊長類、そして最も好ましくはヒトを含む、そのような治療を必要とする対象に適用することができる。
【0140】
この明細書及び特許請求の範囲において、動詞「含む、含有する(comprise)」及びその活用は、その単語に続く項目は含まれるが、特に言及されていない項目は除外されないことを意味する非限定的な意味で使用される。さらに、不定冠詞「a」又は「an」は、要素が1つだけであることを文脈が明確に要求しない限り、要素が複数存在する可能性を排除するものではない。したがって、不定冠詞「a」又は「an」は、通常「少なくとも1つ」を意味する。
【0141】
本明細書で引用されている全ての特許及び参考文献は、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0142】
以下の実施例は、例示することのみを目的として記載され、決してこの発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0143】
実施例1 抗体の一過性発現
a) cDNA構築物及び発現ベクターの製造
抗体の重鎖可変領域(HCVR)のアミノ酸配列を、それぞれ、N末端でリーダー配列(抗体1~13では配列番号28)と、C末端でヒトIgG1 HC定常ドメインのLALA変異体(配列番号25)と結合させた(in silico)。抗体12C4、12C4-LALA、29AM4-5-LALA又はKWAR23-LALAのHCVRのアミノ酸配列を、それぞれ、N末端でリーダー配列HAVT20(配列番号27)と、C末端でヒトIgG1 HC定常ドメインのLALA変異体(配列番号25)又は野生型のヒトIgG1 HC定常ドメイン(配列番号24)と結合させた。KWAR23は、標準的なアダリムマブの重鎖定常ドメインを有するが、LALA変異を欠く。HEFLB重鎖はIgG4であり、国際公開第2017/178653号の配列番号42のように使用した。得られたアミノ酸配列を、ヒト(Homo sapiens)細胞での発現のためにコドン最適化したcDNA配列に逆翻訳した。同様に、抗体1~13、12C4、12C4-LALA、29AM4-5-LALA、KWAR23、KWAR23-LALA及び(ヒト化)HEFLBの軽鎖可変領域(LCVR)のN末端に、リーダー配列(抗体1~13では配列番号29、12C4、12C4-LALA、29AM4-5-LALA、KWAR23、KWAR23-LALA及び(ヒト化)HEFLBでは配列番号27)を、C末端にヒト抗体κ軽鎖定常領域(配列番号26)を結合することで、構築物のLCVRのcDNA配列を得た。表1a~cに示したHCVR及びLCVRの配列を使用した。抗SIRPα抗体SE5A5(マウスIgG1κ)は、Biolegend(San Diego、USA;精製抗ヒトCD172a/b(SIRPα/β)抗体)から入手した。表1cに示す抗SIRPα比較抗体及び表1dに示すアイソタイプ対照のcDNA構築物及び発現ベクターを、同様に調製した。
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
b) ベクター構築及びクローニング戦略
抗体鎖の発現には、CMV:TKpA発現カセットを含有する哺乳動物発現ベクター(pcDNA3.4;ThermoFisher)を使用した。HC又はLC発現カセットのいずれかを含む最終ベクター(それぞれ、CMV:HC:TKpA、CMV:LC-TKpA)を大腸菌NEB5-α細胞に移し、増殖させた。トランスフェクション用の最終発現ベクターの大規模調製は、Maxi-又はMega-prepキット(Qiagen)を使用した。
【0149】
c) 哺乳動物細胞での一過性発現
市販のExpi293F細胞(Thermo Fisher)に、ExpiFectamineトランスフェクション剤を使用して、以下に示す製造元の指示に従って発現ベクターをトランスフェクトした:300mlのFortiCHO培地に75×107個の細胞を播種し、300μgの発現ベクターと800μlのトランスフェクション剤を組み合わせて細胞に添加した。トランスフェクションの1日後、培養物に1.5mlのエンハンサー1及び15mlのエンハンサー2を添加した。トランスフェクションの6日後、4,000gで15分間遠心分離し、PESボトルフィルター/MF75フィルター(Nalgene)でろ過して、細胞培養上清を回収した。抗体をアフィニティークロマトグラフィーで精製した。
【0150】
実施例2 抗体の結合と特異性
実験
表面プラズモン共鳴(SPR)による分析
表面プラズモン共鳴装置(BiaCore(登録商標)T200システム、GE Life Sciences)を使用して、25℃で親和性のシングルサイクルカイネティクス解析を行った。(ランニングバッファー(150mMのNaCl、3mMのEDTA及び0.005%(v/v)のポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(界面活性剤P20)を含むpH7.4の10mM HEPES緩衝液)で)20倍希釈したビオチンCAPture試薬(GE Life Sciences)を、10μl/分で60秒間、注入した後、ランニングバッファーに、5μg/mlのSIRP抗原を10μl/分で60秒間、注入することにより、ビオチン化分子に適したチップ(センサーチップCAP、GE Life Sciences)の表面に、ビオチン化SIRP抗原(配列番号51~56)を捕捉した。ベースラインの安定化を1分に設定した後に、ランニングバッファーに4段階で増加する濃度の抗SIRP抗体を注入した。結合時間を各ステップ150秒とし、続いて、最高濃度の後に解離時間を600秒として、全て30μl/分の流速で行った。再生は、6Mのグアニジン-HCl、0.25MのNaOH溶液で行った(流量30μl/分で120秒)。非SIRP(ブランク)固定リファレンスフローチャネルのランニングバッファー注入により、測定したセンサーグラムに対してダブルブランクサブトラクションを行った。測定を行った全ての抗SIRP抗体について、センサーグラムに1:1ラングミュアモデルをフィッティングさせた。速度論的(kinetic)パラメーター(会合速度定数[ka]、解離速度定数[kd]、及び平衡解離定数又は結合親和性とも呼ばれる結合定数[KD])は、BiaCore(登録商標)T200評価ソフトウェア(v3.1)を用いて計算した。
【0151】
フローサイトメトリーによる分析
ヒトSIRPαBIT抗原を内因的に発現するU937細胞(ヒト単球細胞株)、及び、ヒトSIRPα1若しくはSIRPαBIT又はcySIRPα抗原のいずれかを発現するCHO-Sチャイニーズハムスター卵巣細胞(ExpiCHO-S)からスクリーニングされ、単離された非操作サブクローンに由来する細胞(96ウェルプレートで、1ウェルにつき100,000細胞)を、氷冷FACSバッファー(0.1%(v/w)のBSA(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)及び0.02%(v/w)のNaN3(Sigma-Aldrich)を含む1×PBS(LONZA))で3回洗浄し、氷冷FACSバッファーで希釈したさまざまな濃度の一次mAb(1ウェルにつき50μl)を添加した。4℃で30分間のインキュベーション後、細胞を氷冷FACSバッファーで3回洗浄し、1ウェルにつき50μlの二次mAb(ヒト抗体の場合、AffiniPure F(ab')2断片ヤギ抗ヒトIgG-APC、1:6,000希釈(Jackson Immuno Research)、マウス抗体の場合、AffiniPure Fab断片ヤギ抗マウスIgG (H+L)-Alexa Fluor 488、1:1,000希釈(Jackson Immuno Research))を添加した。4℃で30分間経過後、細胞を2回洗浄し、150μlのFACSバッファーに再懸濁した。フローサイトメトリー(BD FACSVerse, Franklin Lakes, NJ)で蛍光強度を測定し、U937細胞では蛍光強度の中央値(MFI-Median)として、ExpiCHO-S細胞では平均蛍光強度(MFI-Mean)として示した。GraphPad Prism(version 7.02 for Windows(登録商標), GraphPad, San Diego, CA)で可変勾配(4つのパラメーター)のシグモイド用量反応方程式を使用し、非線形回帰によって曲線をフィッティングした。4パラメーターのロジスティックフィットを使用し、曲線の下部と上部の中間のμg/ml単位の濃度として、EC50値を計算した。
【0152】
結果
SPR
抗体1~13及び参照抗体と、ヒトSIRPα1(huSIRPα1)、ヒトSIRPαBIT(huSIRPαBIT)、カニクイザルSIRPα(cySIRPα)、ヒトSIRPγ(huSIRPγ)、ヒトSIRPβ1v1(huSIRPβ1v1)及びヒトSIRPβ1v2(huSIRPβ1v2)との結合のKD値(「平衡解離定数」又は「結合親和性」ともいう結合定数)を表2にまとめて示す。抗体1~13はhuSIRPαBIT及びhuSIRPα1の両者に結合し、huSIRPγには結合しない。抗体1~13の一部、例えば抗体6は、SIRPγとの関係が弱いか、応答単位(RU)が非常に低く、以下の実施例の細胞結合実験に示されているように、無関係のように思われる。ヒト化HEFLBはhuSIRPαBIT変異体のみを認識し、huSIRPα1、huSIRPγ及びcySIRPαは認識しない。KWAR23、29AM4-5、SE5A5及び12C4抗体は、huSIRPγを含む全てのSIRP変異体と結合する。
【0153】
【0154】
フローサイトメトリー
さまざまな抗体と、細胞上に発現したhuSIRPα1、huSIRPαBIT及び/又はcySIRPαとの結合を、フローサイトメトリーで測定した。表3に示すように、結合を曲線の下部と上部の中間の抗体濃度(μg/ml)であるEC50値として示す。抗体1~13は、huSIRPαBIT(ExpiCHO-S細胞で一過性に発現するか、U937細胞で内因的に発現する)及びhuSIRPα1に結合する。抗体1~4、6、12、13は、低μg/mlでcySIRPαに結合する。これらの抗体は、同じEC50値の範囲(低μg/ml)で、huSIRPαBITを内因的に発現するU937細胞にも結合する。参照抗体KWAR23、KWAR23huIgG1LALA、12C4huIgG1LALA、12ChuIgG1、29AM4-5huIgG1LALA及びHEFLBは、U937細胞に発現したhuSIRPαBITに対して同様の結合を示す。HEFLBは、huSIRPα1及びcySIRPαと結合しない。
【0155】
【0156】
実施例3 ヒトSIRPγへの結合-T細胞FACS染色
実験
フローサイトメトリーによる分析
末梢血単核細胞(PBMC)を、健康なヒトの新鮮な血液からパーコールによる勾配を使用して分離した。HEPES+バッファー(132mMのNaCl、6mMのKCl、1mMのCaCl2、1mMのMgSO4、1.2mMのリン酸カリウム、20mMのHEPES、5.5mMのグルコース及び0.5%(w/v)ヒト血清アルブミン、pH7.4)で細胞を洗浄し、FACSバッファー(PBS+ヒトアルブミン1%(w/v)バッファー、ヒトアルブミン200g/ml、Sanquin Plasma Products B.V., Amsterdam, Netherlands)に1×106/mlの濃度で再懸濁し、遠心分離後、PBS+20%正常ヤギ血清(NGS)に再懸濁した。続いて、細胞(96ウェルプレートで、1ウェルにつき200,000細胞)を試験抗体の存在下、又は、対照条件として二次抗体のみ(二次ヤギ抗ヒトIgG Alexa 633 F(ab')2断片、希釈率1:1000、Jackson Immuno Research、及び二次ヤギ抗マウスIgG Alexa 633 F(ab’)2断片、希釈率1:250、Invitrogen)で、氷上で30分間インキュベートした。次いで、細胞をFACSバッファーで洗浄し、抗ヒトCD3 FITC抗体(希釈率1:100、Invitrogen)とそれぞれの二次抗体(抗ヒト又は抗マウス)の混合物に再懸濁し、暗所、氷上で30分間インキュベートした。その後、細胞をFACSバッファーで洗浄し、150μlのFACSバッファーに再懸濁し、フローサイトメトリー(LSRII HTS又はLSRFortessa, BD Biosciences, CA, USA)で蛍光強度を測定し、蛍光強度の中央値(MFI-Median)及び陽性細胞の割合として示した。
【0157】
結果
図1に、抗体とCD3
+T細胞で発現するSIRPγとの結合を示す(平均蛍光強度(
図1a);陽性細胞の割合(
図1b))。ヒト化HEFLB以外の全ての参照抗体は、SIRPγとの結合を示した。抗体1~13は、ヒトCD3
+T細胞との結合を示さず、細胞ベースの環境ではSIRPγに結合しないことを確認した。
【0158】
実施例4 競合的抗SIRPα抗体の評価
実験
フローサイトメトリーによる分析
ヒトSIRPαBIT抗原を内因的に発現するU937細胞(ヒト単球細胞株)、及びヒトSIRPα1又はSIRPαBIT抗原のいずれかを一時的に発現するCHO-Sチャイニーズハムスター卵巣細胞(ExpiCHO-S)からスクリーニングされ、単離された非操作サブクローンに由来する細胞(96ウェルプレートで、1ウェルにつき100,000細胞)を、0.1%(v/w)のBSA(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)及び0.02%(v/w)のNaN3(Sigma-Aldrich)を含む氷冷FACSバッファー(1×PBS(LONZA))で2回洗浄した後、氷冷FACSバッファーで希釈したさまざまな濃度の一次抗体(1ウェルにつき50μl)を添加した。4℃で30分間のインキュベーション後、細胞を氷冷FACSバッファーで2回洗浄した。次いで、1ウェルにつき50μlの二次mAbを添加した(AffiniPure(登録商標)F(ab’)2断片ヤギ抗ヒトIgG-APC、1:6,000希釈、Jackson Immuno Research)。4℃で30分間経過後、細胞を2回洗浄し、150μlのFACSバッファーに再懸濁した。FACSVerse(BD Biosciences)を使用したフローサイトメトリーで蛍光強度を測定し、U937細胞では蛍光強度の中央値(MFI-Median)として、ExpiCHO-S細胞では平均蛍光強度(MFI-Mean)として示した。GraphPad Prism(version 7.02 for Windows(登録商標), GraphPad, San Diego, CA)で可変勾配(4つのパラメーター)を使用し、非線形回帰によって曲線をフィッティングした。4パラメーターのロジスティックフィットを使用し、曲線の下部と上部の中間のμg/ml単位の濃度として、EC50値を計算した。
【0159】
表面プラズモン共鳴(SPR)による分析
BiaCore(登録商標)T200 instrument(GE life Sciences)により、25℃で親和性のシングルサイクルカイネティクス解析を行った。ビオチンCAPtureキット(GE life Sciences)を使用して、AVIタグ付きビオチン化SIRP抗原を捕捉した。ビオチン捕捉試薬の注入によりストレプトアビジン表面を調製した。続いて、ビオチン化SIRP変異体を、約40~50応答単位(RU)の捕捉レベルまでランニングバッファー(150mMのNaCl、3mMのEDTA及び0.005%(v/v)の界面活性剤P20を含有する10mMのHEPESバッファー、pH7.4)に注入した。1分間のベースライン安定化の後、150秒の結合時間で4段階で増加する濃度の抗SIRPα抗体を注入した。両者とも流速30μl/分で、解離を600秒間観察した。予想されるKD付近の濃度範囲を選択した。6Mのグアニジン-HCl、0.25MのNaOH溶液を用い、製造元の指示に従って再生を行った。(ビオチン捕捉試薬が結合した)リファレンスフローチャネルとランニングバッファー注入により、得られたセンサーグラムに対してダブルリファレンスサブトラクションを行った。試験を行った全ての抗SIRP抗体について、センサーグラムに1:1ラングミュアモデルをフィッティングさせた。BiaCore(登録商標)T200評価ソフトウェア(v3.1)を使用して、速度論的パラメーター(ka、kd及びKD)を計算した。huSIRPβ1v1及びhuSIRPβ1v2を単量体の形で試験した。推定KDは、試験した濃度の範囲内である。報告されたKD値が1.0×10-11未満の場合、速度論的パラメーターが機器の仕様の範囲外であるため、親和性を正確に求めることができなかった。
【0160】
結果
フローサイトメトリー
SIRPα抗体の細胞上のhuSIRPα1及びhuSIRPαBITとの結合をフローサイトメトリーで比較した。結合をEC50値として表4に示す。試験を行った全ての抗体は、huSIRPαBIT(ExpiCHO-S細胞で一過性に発現又はU937細胞で内因的に発現)及びhuSIRPα1に対する結合を示す。ほとんどの抗体は低μg/mlの範囲にEC50値を示すが、AB115-LALA、3F9-LALA及び7H9-LALAは、U937細胞との結合において1μg/mlを超えるEC50値を示す。さらに、3F9-LALAは、ExpiCHO-S細胞に発現したhuSIRPα1及びhuSIRPαBITに対して1μg/mlを超えるEC50値で結合する。注目すべきことに、対応するアイソタイプ対照はこれらの細胞のいずれにも結合しない。
【0161】
【0162】
SPR
SPRを使用して、SIRPα抗体のヒトSIRPβ変異体β1v1及びβ1v2に対する選択性を比較し、その結果を表5に要約する。3F9-LALA以外の全ての抗体はhuSIRPβ1v1を認識した。試験した全ての抗体はhuSIRPβ1v2に結合し、抗体6のKDが最も高く、したがって親和性が最も低い。注目すべきことに、対応するアイソタイプ対照はhuSIRPβ1v1及びhuSIRPβ1v2とは結合しない。
【0163】
【0164】
実施例5 一次細胞(顆粒球、単球及びT細胞)に対する抗SIRPα抗体の結合
実験
フローサイトメトリーによる分析:全血
ヘパリン処理した全血試料を健康なドナー(Sanquin blood bank Nijmegen, the Netherlands)から得、室温で一晩保存した。全血試料を1×BD FACS(登録商標)Lysing Solution(349202, BD Biosciences)に室温で15分間溶解し、FACSバッファー(0.1%のBSA及び2mMのEDTAを含むPBS)で洗浄した。96ウェルマイクロタイタープレート(353910, Falcon)を使用し、1ウェルにつき1.5×105個の細胞を、50μlの抗SIRPα抗体(濃度範囲は10μg/ml又は90μg/mlから開始し、3.16倍希釈)により、4℃で30分間染色した。FACSバッファーで洗浄した後、細胞をFACSバッファー中の、1:800希釈 抗ヒトCD3-PBクローンUCHT1(558117, BD Biosciences)、1:800希釈 抗ヒトCD14-FITCクローンMφP9(345784, BD Biosciences)及び1:6000希釈 APC標識ヤギ抗ヒトIgG F(ab')2二次抗体(109-136-098, Jackson ImmunoResearch)のカクテルにより、4℃で30分間インキュベートした。FACSバッファーによる洗浄後、凝集を避けるために細胞をボルテックスで混合し、1ウェルにつき50μlのBD Cytofix(登録商標)Fixation Buffer(4.2%PFA、554655, BD Biosciences)により、室温で15分間インキュベートし、分析前に洗浄した。試料をFACSVerse(BD Biosciences)で回収し、FlowJoソフトウェア(BD Biosciences)で分析した。顆粒球をFSC-A/SSC-Aでゲートし、続いてCD14でゲートした。T細胞及び単球は最初にFSC-A/SSC-Aでゲートした。次いで、T細胞はCD3+CD14-細胞として、単球はCD14+CD3-細胞として特定した。
【0165】
フローサイトメトリーによる分析:単離したT細胞
T細胞は、健康なヒトの末梢血単核細胞(PBMC、Sanquin blood bank Nijmegen, the Netherlands)から、ネガティブセレクション(11344D Dynabeads Untouched Human T Cell Kit, ThermoFisher Scientific)で分離した。HEPES+バッファー(132mMのNaCl、6mMのKCl、1mMのCaCl2、1mMのMgSO4、1.2mMのリン酸カリウム、20mMのHEPES、5.5mMのグルコース及び0.5%(w/v)ヒト血清アルブミン、pH7.4)で細胞を洗浄し、単離バッファー(PBS+ヒトアルブミン1%(w/v)バッファー、ヒトアルブミン200g/ml、Sanquin Plasma Products B.V., Amsterdam, Netherlands)に1×106/mlの濃度で再懸濁し、遠心分離後、FACSバッファー(0.1%(v/w)のBSA(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)及び0.02%(v/w)のNaN3(Sigma-Aldrich)を含む1倍PBS(LONZA))に再懸濁した。細胞(96ウェルプレートで100,000細胞/ウェル)を、氷冷FACSバッファーで洗浄し、氷冷FACSバッファーで希釈したさまざまな濃度の一次抗体(1ウェルにつき50μl)を添加した。4℃で30分間のインキュベーション後、細胞を氷冷FACSバッファーで2回洗浄し、次いで、1ウェルにつき50μlの二次抗体を添加した(ヒト抗体の場合、AffiniPure(登録商標)F(ab')2断片ヤギ抗ヒトIgG-APC、1:6,000希釈(Jackson Immuno Research)、マウス抗体の場合、AffiniPure(登録商標)Fab断片ヤギ抗マウスIgG (H+L)-Alexa Fluor 488、1:1,000希釈(Jackson Immuno Research))。4℃で30分間経過後、細胞を2回洗浄し、150μlのFACSバッファーに再懸濁した。ACSVerse(BD Biosciences)を使用したフローサイトメトリーで蛍光強度を測定し、平均蛍光強度(MFI-Mean)として示した。GraphPad Prism(version 7.02 for Windows(登録商標), GraphPad, San Diego, CA)で可変勾配(4つのパラメーター)を使用し、非線形回帰によって曲線をフィッティングした。4パラメーターのロジスティックフィットを使用し、曲線の下部と上部の中間のμg/ml単位の濃度として、EC50値を計算した。
【0166】
結果
フローサイトメトリー:全血
さまざまなSIRPα抗体と一次細胞の結合をフローサイトメトリーで測定した。代表的な健康なSIRPα
1/SIRPα
BITヘテロ接合ドナーの用量反応曲線を
図10a~dに示す。応答の正確な高さは二次抗体にも依存する可能性があり、必ずしもSIRPα抗体の特徴ではないことに注意する必要がある。代わりに、EC
50値は検出抗体とは無関係であることから、比較する必要がある。EC
50値の概要を表6に示す。正確なEC
50値はさまざまであるが、全ての抗体はSIRPα
1/SIRPα
BITヘテロ接合ドナーの顆粒球及び単球と結合する。HEFLB以外の全ての抗体は、SIRPα
1ホモ接合ドナーの顆粒球及びCD14
+単球と、変化するEC
50値で結合する。これらのデータは、HEFLBがSIRPα
1にも結合しない表2及び3のSPR及び細胞データと一致する。ヒト血液中のCD3
+T細胞はSIRPα又はSIRPβを発現せず、SIRPγのみを発現することから、CD3
+T細胞との結合はSIRPγとの結合と解釈することができる。ほとんどの抗体はCD3
+T細胞と結合するが、抗体6、AB3-LALA、3F9-LALA、7H9-LALA及びHEFLBはCD3
+T細胞と結合しない。この全血染色アッセイでは、AB136-LALAはより高い抗体濃度でT細胞と結合する。これは、Ab136がSIRPγに結合するという国際公開第2018/057669号の開示と一致しているようであるが、KDは低くなっている。
【0167】
【0168】
フローサイトメトリーによる分析:単離したT細胞
異なるアプローチによりさまざまな抗体のSIRPγ依存性T細胞結合を確認するために、(SIRPα又はSIRPβ陽性骨髄細胞の不存在下で)単離された初代T細胞を抗体のパネルで染色した。結果を
図11に示す。ほとんどの抗体はT細胞と結合するが、抗体6、AB3-LALA、3F9-LALA、7H9-LALA、SE5A5及びHEFLBはT細胞と結合しない。さらに、AB136-LALAは高抗体濃度で結合する。
【0169】
したがって、抗体6とhuSIRPβ1v2の親和性は、上述した広範なパネルで試験した比較抗SIRPα抗体のいずれのものよりも低いことをこの実施例は示す。また、非T細胞結合抗体6とSIRPβ1v1の親和性は、SIRPγに対する親和性が低いか、親和性がないAB136-LALA、7H9-LALA及びHEFLBの親和性と同等であり、SIRPγに対する親和性が低いか、親和性がないAB3及びSE5A5の親和性よりも低かった。
【0170】
概して、抗体6は、SIRPα対立遺伝子の両者に結合する高い効力を有し、同時に、他の非抑制性SIRPファミリーメンバーであるSIRPβ1v1、SIRPβ1v2及びSIRPγとの結合が比較的低いか存在しない。
【0171】
実施例6 CD47阻止能
実験
CD47阻止能
CD47とSIRPα1又はSIRPαBITとの結合を阻止する抗SIRPα抗体の能力を評価するために、SIRPα1又はSIRPαBITを抗SIRPα抗体とプレインキュベートし、次いで、捕捉されたCD47からの解離を試験した。簡単に説明すると、ビオチンCAPtureキット(GE life Sciences)を使用して、AVIタグ付きビオチン化CD47-Fcを捕捉した。ビオチン捕捉試薬の注入によりストレプトアビジン表面を調製した。続いて、ビオチン化CD47-Fcを、約100RUの捕捉レベルまでランニングバッファー(150mMのNaCl、3mMのEDTA及び0.005%(v/v)の界面活性剤P20を含有する10mMのHEPESバッファー、pH7.4)に注入した。10μg/mlのSIRPα1又は10μg/mlのSIRPαBITと5倍モル過剰の抗体を含む混合物を、周囲温度で30分間プレインキュベートし、CD47-Fc表面に5μl/分で120秒間注入した。製造元の指示に従って、6Mのグアニジン-HCl、0.25MのNaOH(3:1)で再生する前に、解離を300秒間観察した。ダブルリファレンスサブトラクション後の視覚的評価によって、ブロッキング/非ブロッキング抗体の特性を評価した。
【0172】
結果
CD47阻止能
SPRを使用して、CD47の結合を阻止するSIRPα標的抗体の能力を調査した(表7)。抗体6を含むほとんどの抗体は、CD47-SIRPαBITとCD47-SIRPα1の相互作用を阻止するが、AB3-LALA、AB136-LALA、3F9-LALA及び7H9-LALAは、CD47-SIRPαBITとCD47-SIRPα1の相互作用を阻止せず、したがって、それらは非ブロッキングである。さらに、HEFLBはCD47-SIRPαBIT相互作用のみを阻止し、CD47-SIRPα1相互作用は阻止せず、このことは、HEFLBによるSIRPα1認識の欠如と一致する。
【0173】
【0174】
実施例7 SHP-1動員阻止能
実験
DiscoverX(登録商標)におけるPathHunterEnzyme Fragment Complementationテクノロジーを使用して、SIRPαBITシグナル伝達を分析した。このアッセイでは、CD47欠損Jurkat細胞は、SIRPαBIT
+でタグ付けされ、Prolink(PK)及びEnzyme Acceptor(EA)と融合したシグナル伝達タンパク質SHP-1のSH2ドメインを過剰発現するように遺伝子操作されている。これらのJurkat SIRPαBITシグナル伝達細胞とCD47を発現する細胞(CD47リガンド細胞)をインキュベートすると、SHP-1とSIRPαBITが相互作用し、PK及びEAを補完する。これにより、基質を切断して化学発光シグナルを生成することが可能な活性なβ-ガラクトシダーゼ酵素が生成する。この系は、SIRPαへのSHP-1の動員に拮抗するSIRPα標的抗体の能力の研究に使用することができる。Jurkat SIRPαBITシグナル伝達細胞とさまざまな濃度の抗SIRPα抗体を、CD47リガンド細胞と共にインキュベートした。Jurkat E6.1細胞をCD47リガンド細胞として使用し、384ウェルプレートを使用してアッセイした。最初に、12.5μlのJurkat SIRPαBITシグナル伝達細胞懸濁液(80万細胞/ml)を各ウェルに添加し、続いて、さまざまな濃度の抗SIRPα抗体溶液(11倍濃縮)2.5μlを添加した。アッセイは、EC80(160万Jurkat E6.1細胞/ml)で12.5μlのCD47リガンド細胞懸濁液を添加することにより開始した。プレートを37℃、5%CO2で4時間インキュベートした。インキュベーション後、(0.1%のBSAを含むPBSで)2倍希釈した試薬A(DiscoverX検出キット)を2μl添加した。プレートをシェーカーを用い、暗所、室温で30分間インキュベート(300rpm)した。次いで、(0.1%のBSAを含むPBSで)2倍希釈した試薬B(DiscoverX検出キット)を10μl添加した。プレートをシェーカーを用い、暗所、室温で1時間インキュベート(300rpm)した。Envision(登録商標)システム(Perkin Elmer)を使用して、0.1秒/ウェルの積分時間で発光を測定した。全ての細胞懸濁液は、細胞プレーティング培地(DiscoverX)で調製し、抗体は0.1%BSA(Sigma)を含むPBSで希釈した。GraphPad Prism 8ソフトウェアでグラフを分析した。最大信号の%は以下の式で求めた;
[相対発光強度(RLU)/最大刺激のRLU(抗体なし)]×100。
阻害効果は次のように計算した:
100%-(3.3μg/mlにおける化合物の「最大信号の%」)。
【0175】
結果
SIPRαの活性化は抑制性シグナルカスケードにつながる。CD47の結合により、SIRPαの細胞質ドメインのITIM(immunoreceptor tyrosine-based inhibition motif)がリン酸化され、Src相同性領域2ドメイン含有ホスファターゼ-1(SHP-1)の動員と活性化を引き起こす。SHP-1は、活性化FcγRを含む特定の基質のタンパク質脱リン酸化を介して抑制性シグナル伝達を媒介する。これは免疫応答の抑制につながる。CD47欠損Jurkat SIRPα
BITシグナル伝達細胞を使用して、SIRPαが媒介するシグナル伝達を阻害するSIRPα標的抗体の能力を調査した。これらの細胞をJurkat E6.1細胞を含むCD47とインキュベートすると、SIRPα
BITがSHP-1を動員し、化学発光シグナルが生じる。抗体6は、用量依存的にこのシグナルに拮抗することができる(
図12a)。他のSIRPα標的抗体のSIRPα
BITシグナル伝達に拮抗する能力を、固定用量(3.3μg/ml)で試験した(
図12b)。SIRPα
BITシグナル伝達を阻害する効果は、SE5A5を除く全てのCD47-SIRPαブロッキング抗体で同様である(白いバーで示す)。非ブロッキング抗体AB3-LALA、AB136-LALA、3F9-LALA及び7H9-LALA(黒いバーで示す)は、ブロッキング抗体と比較してシグナル伝達阻害効果が低いか、阻害効果を有さず、したがって、SIRPαを介したシグナル伝達にあまり拮抗しないか、拮抗することができないようである。
【0176】
概して、非ブロッキング抗体とは対照的に、抗体6はCD47と一対のSIRPα対立遺伝子の両者との結合を阻止し、このことはシグナル伝達の高い阻害につながる。
【0177】
実施例8 抗体依存性細胞傷害(ADCC)
実験
DELFIA(登録商標)細胞毒性分析(非放射性分析)
SIRPα1及びSIRPαBITがヘテロ接合であるドナーの好中球を、Zhao et al. PNAS 2011, 108(45), 18342-18347に記載の方法で分離し、培養した。新たに単離した好中球を、ヒトG-CSF(10ng/ml)及びIFNγ(50ng/ml)とともに一晩培養した。非放射性ユーロピウムTDA(EuTDA)細胞傷害アッセイ(DELFIA(登録商標)、PerkinElmer)により、抗体依存性細胞傷害(ADCC)を確認した。SKBR3(ヒトHER2陽性乳癌細胞株)細胞を標的細胞として用い、ビス(アセトキシメチル)2,2':6',2''-ターピリジン-6,6''-ジカルボキシレート)(BATDA試薬、DELFIA)により、37℃で5分間標識した。PBSで2回洗浄後、ウルトラローIgGのウシ胎児血清(FBS, Gibco)が10%(v/v)添加されたIMDM培地が入った96穴U底プレートに、1ウェルにつき5×103の標的細胞を入れ、エフェクターと標的細胞の比が50:1となるように、適切な抗体の存在下、37℃、5%CO2で4時間インキュベートした。インキュベーション後、上澄みを回収し、ユーロピウム溶液(DELFIA, PerkinElmer)に加え、分光蛍光光度計(Envision, PerkinElmer)でユーロピウム2,2':6',2"-ターピリジン-6,6"-ジカルボン酸(EuTDA)の蛍光を測定した。細胞毒性の割合(%)は、
[(実験的放出-自発的放出)/(全放出-自発的放出)]×100%
として計算した。全ての状態を2回及び/又は3回測定した。
【0178】
51
Cr放出分析(放射性分析)
SIRPα
1又はSIRPα
BITがホモ接合であるドナーの好中球を、Zhao et al. PNAS 2011, 108(45), 18342-18347に記載の方法で分離した。全ての
51Cr放出アッセイ実験では、
図2に示した点以外、新たに単離した好中球をヒトGM-CSF10ng/mlとともに100分間培養した。
51Cr放出アッセイにより、抗体依存性細胞傷害(ADCC)を確認した。SKBR3(ヒト乳癌細胞株)細胞を標的細胞として用い、100μCiの
51Cr(Perkin-Elmer)により、37℃で90分間標識した。PBSで2回洗浄後、ウシ胎児血清が10%(v/v)添加されたIMDM培地が入った96穴U底プレートに、1ウェルにつき5×10
3の標的細胞を入れ、エフェクターと標的細胞の比が50:1となるように、適切な抗体の存在下、37℃、5%CO
2で4時間インキュベートした。インキュベーション後、上澄みを回収し、ガンマカウンター(Wallac)で放射線を分析した。細胞毒性の割合(%)は、
[(実験的放出-自発的放出)/(全放出-自発的放出)]×100%
として計算した。全ての状態を2回及び/又は3回測定した。
【0179】
結果
12C4をヒト化することでADCCが喪失し、これは、IgG
1
定常領域のエフェクター機能を低下させることにより回復した
51Cr放出アッセイで測定した細胞毒性(%)としてのADCCアッセイの結果を
図2に示す。SIRPα
BITホモ接合ドナーの好中球をエフェクター細胞として使用した場合、トラスツズマブ単独では、SKBR3細胞で測定された細胞毒性(%)は、マウス12C4抗体(mu12C4)とトラスツズマブの組合せの細胞毒性%よりも低い。12C4の可変領域とヒトIgG
1の定常領域に移植した抗体(12C4huIgG
1)とトラスツズマブの組合せでは、低濃度の12C4huIgG
1の場合、トラスツズマブ単独と同様の細胞毒性(%)を示す。12C4huIgG
1の濃度が高くなると、細胞毒性(%)が低下する。12C4の可変領域をアミノ酸置換L234A及びL235Aを有するヒトIgG
1の定常領域に移植した抗体(12C4huIgG
1)とトラスツズマブの組合せは、トラスツズマブ単独と比較して、細胞毒性(%)が増加し、0.2μg/mlの12C4huIgG
1とトラスツズマブの組合せと比較して、細胞毒性(%)が増加している。
【0180】
トラスツズマブによるADCCの濃度依存性増加
アミノ酸置換L234A及びL235A(LALA)を含むヒトIgG
1の定常領域を有する抗体1~13又は参照抗体がさまざまな濃度(μg/ml;用量反応曲線)で存在する場合の、トラスツズマブ(10μg/ml)のSRBR3 HER2陽性乳癌細胞に対するADCC/細胞毒性の割合を、
図3~9に示す。SIRPα
1/SIRPα
BITヘテロ接合ドナーに対するADCCは、12C4huIgG
1では用量依存的に減少し、ヒト化HEFLBでは明確な効果は認められず、KWAR23huIgG
1及びSE5A5では効果は最小限で、KWAR23-LALAリファレンス抗体では用量依存的に増加する(
図3)のに対して、抗体1~13の場合、用量依存的に増加した(
図4及び5)。SIRPα
1又はSIRPα
BITホモ接合のバックグラウンドについて、抗体7~13及び参照抗体も試験した(
図6~9)。全ての抗体は、より多様な結果を示すようである。
【0181】
実施例9 免疫原性
CD4+T細胞エピトープは、in vivoにおける免疫原性(抗薬物抗体)の重要な推進力である。ex vivo T細胞アッセイを使用して、抗SIRPα抗体6のT細胞エピトープに対するT細胞応答を検出した。Abzena(Cambridge, UK)においてCD4+T細胞応答を誘導する能力について、EpiScreen(登録商標)タイムコースT細胞アッセイによる免疫原性評価のために抗体6を用いた。(HLAアロタイプに基づく)ヨーロッパ及び北米の50人の健康なドナーのPBMCを試験用試料とインキュベートした。増殖アッセイ([3H]-チミジン取り込み)及びサイトカイン分泌アッセイ(IL-2 ELISpot)により、T細胞応答を測定した。T細胞増殖アッセイ及びIL-2 ELISpotの組合せにおいて、抗体6は免疫原性ではないことが判明した。
【0182】
実施例10 抗体依存性細胞傷害(ADCC);比較実験
実験
SIRPα
1又はSIRPα
BITがホモ接合又はヘテロ接合であるドナーのヒト好中球を、Zhao et al. PNAS 2011, 108(45), 18342-18347に記載の方法で分離した。次いで、好中球を10ng/mlの顆粒球単球コロニー刺激因子(GM-CSF、Peprotech)で30分間刺激した。抗体依存性細胞傷害(ADCC)を、
51Cr放出アッセイ(PerkinElmer)により、Zhao et al. PNAS 2011, 108(45), 18342-18347に記載の方法で確認した。簡潔に説明すると、SKBR3(ヒト乳癌細胞株)細胞を標的細胞として用い、100μCiの
51Cr(Perkin-Elmer)により、37℃で90分間標識した。PBSで2回洗浄後、1ウェルにつき5×10
3の標的細胞を、トラスツズマブ(SKBR3の最終濃度10μg/ml)又はセツキシマブ(A431の最終濃度5μg/ml)でオプソニン化し、ローIgGのウシ胎児血清(FBS)が10%(v/v)添加されたIMDM培地が入った96穴U底プレートに入れ、エフェクターと標的細胞の比が50:1となるように、
図13~14に示す抗体の用量反応の範囲の存在下、37℃、5%CO
2で4時間インキュベートした。インキュベーション後、上澄みを回収し、LumaPlates(Perkin Elmer)に移し、MicroBetaカウンター(Perkin Elmer)で放射線を分析した。細胞毒性の割合(%)は、
[(実験的放出-自発的放出)/(全放出-自発的放出)]×100%
として計算した。全ての状態を2回又は3回測定した。
【0183】
結果
抗体依存性細胞傷害(ADCC)
抗SIRPα抗体の効果は、エフェクター細胞としてGM-CSFで活性化した初代ヒト好中球を使用し、がんを標的とする治療用抗体及び腫瘍標的細胞のさまざまな組合せを使用したADCC実験で試験した(
図13a~b、14a~b)。後者には、HER2発現SKBR3乳癌細胞とトラスツズマブの組合せ(
図13)及びEGFR発現A431がん細胞とセツキシマブの組合せ(
図14)を含んだ。抗体6は、両方のがん標的抗体-標的がん細胞の組合せの両者の好中球ADCCを増強することができた。他のいくつかの抗SIRPα抗体についても同様の所見が得られたが、例えば、40A-1、40A-2、3F9-LALA、7H9-LALA、12C4、29AM4-5-LALA、SE5A5については得られなかった。
【0184】
概して、抗体6は、非抑制性SIRPファミリーメンバーであるSIRPβ1v1、SIRPβ1v2及びSIRPγに対する親和性が比較的低いか存在しない唯一の抗体であり、機能アッセイでは、SIRPαBIT及びSIRPα1遺伝子型の両者に対して強力なADCCを示すと同時に、下流のシグナル伝達を効果的に阻害する。
【0185】
配列表。抗体1~13は、重鎖(HC)及び軽鎖(LC)可変領域(VR)のアミノ酸配列(Kabatの方法に従って求めたVR残基;配列のナンバリングは、Kabatによるナンバリングではなく、アミノ酸の順番である。)中の、CDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列に下線を付与。
【0186】
【0187】
【0188】
【0189】
【0190】
【0191】
【0192】
【0193】
【0194】
【0195】
【0196】
【0197】
【0198】
【0199】
【0200】
【0201】
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【配列表】