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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】熱電変換素子
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/852 20230101AFI20240311BHJP
   C01G 3/12 20060101ALI20240311BHJP
   C01G 5/00 20060101ALI20240311BHJP
   C01B 19/04 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
H10N10/852
C01G3/12
C01G5/00 Z
C01B19/04 B
C01B19/04 G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021542047
(86)(22)【出願日】2020-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2020024772
(87)【国際公開番号】W WO2021039074
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2019158547
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592032636
【氏名又は名称】学校法人トヨタ学園
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(72)【発明者】
【氏名】足立 真寛
(72)【発明者】
【氏名】山本 喜之
(72)【発明者】
【氏名】竹内 恒博
【審査官】加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-534562(JP,A)
【文献】HE, Ying et al.,High Thermoelectric Performance in Non-Toxic Earth-Abundant Copper Sulfide,ADVANCED MATERIALS,2014年03月26日,Vol. 26,pp. 3974-3978,<DOI: 10.1002/adma.201400515>
【文献】BYEON, Dogyun et al.,Discovery of colossal Seebeck effect in metallic Cu2Se,nature communications,2019年01月08日,(2019) 10:72,pp. 1-7,<DOI: 10.1038/s41467-018-07877-5>
【文献】BYEON, Dogyun et al.,Dynamical variation of carrier concentration and colossal Seebeck effect in Cu2S low-temperature pha,Journal of Alloys and Compounds,2020年02月05日,Vol. 826,pp. 154155-1-154155-6,<DOI: 10.1016/j.jallcom.2020.154155>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/852
C01G 3/12
C01G 5/00
C01B 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱を電気に変換する熱電変換素子であって、
第1の母材元素Aと、第2の母材元素Bとから構成され、化学量論比に従った化合物Aに対してxの値がcだけ小さいAx-cで表される化合物半導体から構成される熱電変換材料部と、
前記熱電変換材料部と接触して配置される第1の電極と、
前記熱電変換材料部と接触し、前記第1の電極と離れて配置される第2の電極と、を備え、
A-Bの状態図は、
低温相に対応する第1領域と、
高温相に対応する第2領域と、
前記低温相と前記高温相とによって挟まれた、前記低温相と前記高温相とが共存する共存相に対応する第3領域と、を含み、
前記第1領域と前記第3領域との境界の温度は、cの変化に伴って単調に変化する、熱電変換素子。
【請求項2】
前記化合物半導体は、カルコゲン化合物である、請求項1に記載の熱電変換素子。
【請求項3】
前記第1の母材元素は、Cuであり、
前記第2の母材元素は、Sであり、
前記化学量論比に従った化合物Aは、CuSであり、
cの値は、0よりも大きく、0.01よりも小さい、請求項1に記載の熱電変換素子。
【請求項4】
前記第1の母材元素は、Cuであり、
前記第2の母材元素は、Seであり、
前記化学量論比に従った化合物Aは、CuSeであり、
cの値は、0よりも大きく、0.143よりも小さい、請求項1に記載の熱電変換素子。
【請求項5】
前記第1の母材元素は、Agであり、
前記第2の母材元素は、Sであり、
前記化学量論比に従った化合物Aは、AgSであり、
cの値は、0よりも大きく、0.002よりも小さい、請求項1に記載の熱電変換素子。
【請求項6】
前記第1の母材元素は、Cuであり、
前記第2の母材元素は、Teであり、
前記化学量論比に従った化合物Aは、CuTeであり、
cの値は、0.02よりも大きく、0.22よりも小さい、請求項1に記載の熱電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱電変換素子に関するものである。
【0002】
本出願は、2019年8月30日出願の日本出願第2019-158547号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0003】
近年、石油などの化石燃料に代わるクリーンなエネルギーとして、再生可能なエネルギーが注目されている。再生可能なエネルギーには、太陽光、水力および風力を利用した発電のほか、温度差を利用した熱電変換による発電が含まれる。熱電変換においては、熱が電気へと直接変換されるため、変換の際に余分な廃棄物が排出されない。また、熱電変換を利用した発電装置は、モータなどの駆動部を必要としないため、装置のメンテナンスが容易であるなどの特長がある。
【0004】
熱電変換を実施するための材料(熱電変換材料)を用いた温度差(熱エネルギー)の電気エネルギーへの変換効率ηは以下の式(1)で与えられる。
【0005】
η=ΔT/T・(M-1)/(M+T/T)・・・(1)
【0006】
ηは変換効率、ΔTはTとTとの差、Tは高温側の温度、Tは低温側の温度、Mは(1+ZT)1/2、ZT=αST/κ、ZTは無次元性能指数、αはゼーベック係数、Sは導電率、Tは温度、κは熱伝導率である。変換効率はZTの単調増加関数である。ZTを増大させることが、熱電変換材料の開発において重要である。
【0007】
熱電材料としてCuSe1-xを用いる技術が報告されている(例えば、非特許文献1)。また、熱電材料としてCu1.94Al0.02Seを用いる技術が報告されている(例えば、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Huili Liu et al.、“Ultrahigh Thermoelectric Performance by Electron and Phonon Critical Scattering in Cu2Se1-xIx”、Advanced Materials 2013,25,6607-6612
【文献】Bin Zhong et al.、“High superionic conduction arising from alighned large lamellae and large figure of merit in ulk Cu1.94Al0.02Se”、Applied Physics Letters 105,123902 (2014)
【発明の概要】
【0009】
本開示に従った熱電変換素子は、熱を電気に変換する熱電変換素子であって、第1の母材元素Aと、第2の母材元素Bとから構成され、化学量論比に従った化合物Aに対してxの値がcだけ小さいAx-cで表される化合物半導体から構成される熱電変換材料部と、熱電変換材料部と接触して配置される第1の電極と、熱電変換材料部と接触し、第1の電極と離れて配置される第2の電極と、を備える。A-Bの状態図は、低温相に対応する第1領域と、高温相に対応する第2領域と、低温相と高温相とによって挟まれた、低温相と高温相とが共存する共存相に対応する第3領域と、を含む。第1領域と第3領域との境界の温度は、cの変化に伴って単調に変化する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施の形態1に係る熱電変換素子の構造を示す概略断面図である。
図2図2は、Cu-Sの状態図の一部を示す図である。
図3図3は、Cu-Sの状態図のうちの共存相に対応する第3領域が位置する部分を拡大して概略的に示す図である。
図4図4は、実施の形態1における熱電変換素子に含まれる熱電変換材料部のゼーベック係数αと温度との関係を示すグラフである。
図5図5は、Cu-Seの状態図である。
図6図6は、図5中の破線で囲む領域を拡大した図である。
図7図7は、実施の形態2における熱電変換素子に含まれる熱電変換材料部のゼーベック係数αと温度との関係を示すグラフである。
図8図8は、Ag-Sの状態図である。
図9図9は、Ag-Sの状態図の一部を拡大して示す図である。
図10図10は、Ag-Sの状態図の一部を拡大して示す図である。
図11図11は、Cu-Teの状態図の一部を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示が解決しようとする課題]
熱電変換素子において、使用時に熱電変換材料を構成する化合物半導体の導電型を変化させることができれば、温度センサ等に用いることができるため、有効に利用することができる。すなわち、熱電変換材料を構成する化合物半導体の導電型を変化させることができる熱電変換素子が求められている。
【0012】
そこで、熱電変換材料を構成する化合物半導体の導電型を変化させることができる熱電変換素子を提供することを目的の1つとする。
【0013】
[本開示の効果]
上記熱電変換素子によれば、熱電変換材料を構成する化合物半導体の導電型を変化させることができる。
【0014】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。本開示に係る熱電変換素子は、熱を電気に変換する熱電変換素子であって、第1の母材元素Aと、第2の母材元素Bとから構成され、化学量論比に従った化合物Aに対してxの値がcだけ小さいAx-cで表される化合物半導体から構成される熱電変換材料部と、熱電変換材料部と接触して配置される第1の電極と、熱電変換材料部と接触し、第1の電極と離れて配置される第2の電極と、を備える。A-Bの状態図は、低温相に対応する第1領域と、高温相に対応する第2領域と、低温相と高温相とによって挟まれた、低温相と高温相とが共存する共存相に対応する第3領域と、を含む。第1領域と第3領域との境界の温度は、cの変化に伴って単調に変化する。
【0015】
本発明者らは、Ax-cで表される化合物半導体から構成される熱電変換材料部について、A-Bの状態図における低温相に対応する第1領域と共存相に対応する第3領域との境界の温度に着目した。そして、境界の温度がcの変化に伴って単調に変化する温度範囲で上記熱電変換素子を使用すると、熱電変換材料部を構成する化合物半導体の導電型が変化することを見出した。そして、本発明者らは鋭意検討し、熱電変換材料部を構成する化合物半導体の導電型が上記温度範囲で変化することを利用し、本開示の熱電変換素子を構成するに至った。すなわち、本開示の熱電変換素子によると、境界の温度が変化する温度範囲で使用される際に、使用される上記温度範囲に応じて、熱電変換材料部を構成する化合物半導体の導電型を変化させることができる。
【0016】
このような熱電性能を発現する理由については、例えば以下のように考えることができる。Ax-cで表される化合物半導体から構成される熱電変換材料部について、上記温度範囲内において例えば昇温による温度変化の際にAx-cに対して組成の異なる結晶が生成され、上記化合物半導体が一方の導電型、例えばn型として機能することが考えられる。さらに昇温すると、組成の異なる結晶以外の材料の部分において、母材元素の一方の含有比率が高くなり、より一方の導電型の傾向が強い熱電変換材料として機能する。その後さらに昇温すると、Ax-cで表される化合物半導体の高温相に達し、その結果、他方の導電型、例えばp型として機能することが考えられる。よって、本開示の熱電変換素子によると、上記温度範囲での使用により、熱電変換材料部を構成する化合物半導体の導電型を変化させることができると考えられる。
【0017】
上記熱電変換素子において、化合物半導体は、カルコゲン化合物であってもよい。このようなカルコゲン化合物は、熱伝導率が比較的低い。上記したように変換効率はZTの単調増加関数であるため、熱伝導率を低くしてZTを増大させることができる。よって、このような熱電変換素子は、熱電変換効率を向上することができる。
【0018】
上記熱電変換素子において、第1の母材元素は、Cuであってもよい。第2の母材元素は、Sであってもよい。化学量論比に従った化合物Aは、CuSであってもよい。cの値は、0よりも大きく、0.01よりも小さくてもよい。このような熱電変換素子は、より確実に熱電変換材料部を構成する化合物半導体の導電型を変化させることができる。
【0019】
上記熱電変換素子において、第1の母材元素は、Cuであってもよい。第2の母材元素は、Seであってもよい。化学量論比に従った化合物Aは、CuSeであってもよい。cの値は、0よりも大きく、0.143よりも小さくてもよい。このような熱電変換素子は、より確実に熱電変換材料部を構成する化合物半導体の導電型を変化させることができる。
【0020】
上記熱電変換素子において、第1の母材元素は、Agであってもよい。第2の母材元素は、Sであってもよい。化学量論比に従った化合物Aは、AgSであってもよい。cの値は、0よりも大きく、0.002よりも小さくてもよい。このような熱電変換素子は、より確実に熱電変換材料部を構成する化合物半導体の導電型を変化させることができる。
【0021】
上記熱電変換素子において、第1の母材元素は、Cuであってもよい。第2の母材元素は、Teであってもよい。化学量論比に従った化合物Aは、CuTeであってもよい。cの値は、0.02よりも大きく、0.22よりも小さくてもよい。このような熱電変換素子は、より確実に熱電変換材料部を構成する化合物半導体の導電型を変化させることができる。
【0022】
[本開示の実施の形態の詳細]
次に、本開示の熱電変換素子の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付しその説明は繰り返さない。
【0023】
(実施の形態1)
本開示に係る熱電変換素子の一実施の形態である実施の形態1を、図1を参照しつつ説明する。図1は、実施の形態1に係る熱電変換素子の構造を示す概略断面図である。
【0024】
図1を参照して、本開示の実施の形態1に係る熱電変換素子11は、熱を電気に変換する熱電変換素子であって、いわゆるI型(ユニレグ)熱電変換素子11である。I型熱電変換素子11は、熱電変換材料部12と、金属線13と、高温側電極14と、第1低温側電極15と、第2低温側電極16と、配線17とを備える。
【0025】
熱電変換材料部12は、第1の母材元素Aと、第2の母材元素Bとから構成され、化学量論比に従った化合物Aに対してxの値がcだけ小さいAx-cで表される化合物半導体から構成される。熱電変換材料部12を構成する化合物半導体は、カルコゲン化合物である。このようなカルコゲン化合物は、熱伝導率が比較的低い。上記したように変換効率はZTの単調増加関数であるため、熱伝導率を低くしてZTを増大させることができる。よって、このような熱電変換素子11は、熱電変換効率を向上することができる。熱電変換材料部12の構成については、後に詳述する。
【0026】
金属線13の材質は、例えばBi、コンスタンタン、またはAlである。金属線13は、導電性であれば良く、好ましくは熱伝導率が低い方が良い。
【0027】
熱電変換材料部12と金属線13とは、間隔をおいて並べて配置される。第1電極としての高温側電極14は、熱電変換材料部12の一方の端部21から金属線13の一方の端部22まで延在するように配置される。高温側電極14は、熱電変換材料部12の一方の端部21および金属線13の一方の端部22の両方に接触するように配置される。高温側電極14は、熱電変換材料部12の一方の端部21と金属線13の一方の端部22とを接続するように配置される。高温側電極14は、導電材料、例えば金属からなっている。高温側電極14は、熱電変換材料部12および金属線13にオーミック接触している。
【0028】
第2電極としての第1低温側電極15は、熱電変換材料部12の他方の端部23に接触して配置されている。第1低温側電極15は、高温側電極14と離れて配置される。第1低温側電極15は、導電材料、例えば金属からなっている。第1低温側電極15は、熱電変換材料部12にオーミック接触している。
【0029】
同じく第2電極としての第2低温側電極16は、金属線13の他方の端部24に接触して配置される。第2低温側電極16は、高温側電極14および第1低温側電極15と離れて配置される。第2低温側電極16は、導電材料、例えば金属からなっている。第2低温側電極16は、金属線13にオーミック接触している。
【0030】
配線17は、金属などの導電体からなる。配線17は負荷(抵抗)を介して、第1低温側電極15と第2低温側電極16とを電気的に接続する。
【0031】
I型熱電変換素子11において、例えば熱電変換材料部12の一方の端部21および金属線13の一方の端部22の側が高温、熱電変換材料部12の他方の端部23および金属線13の他方の端部24の側が低温、となるように温度差が形成されると、熱電変換材料部12においては、一方の端部21側から他方の端部23側に向けてキャリア(例えばp型となった場合、正孔)が移動する。このとき、金属線13においては、一方の端部22側から他方の端部24側に向けて異なるタイプのキャリア(例えば電子)が移動する。その結果、配線17には、矢印Iの向きに電流が流れる。このようにして、I型熱電変換素子11において、第1電極としての高温側電極14、第2電極としての第1低温側電極15および第2低温側電極16を利用して熱電変換材料部12および金属線13により温度差、すなわち、熱エネルギーを変換して得られた電気エネルギーを出力することができる。また、使用時に熱電変換材料を構成する化合物半導体の導電型を変化させることができれば、流れる電流が変化し、これに伴い出力される電気エネルギーが変化する。この変化に基づいて、I型熱電変換素子11を、例えば温度センサ等に用いることができる。
【0032】
次に、上記した熱電変換材料部12の構成について説明する。上記したように、熱電変換材料部12は、第1の母材元素Aと、第2の母材元素Bとから構成され、化学量論比に従った化合物Aに対してAx-cで表される化合物半導体から構成される。具体的には、第1の母材元素AはCuであり、第2の母材元素BはSである。熱電変換材料部12は、化学量論比に従った化合物CuS、この場合、xの値を2とし、yの値を1としたCuSに対して、Cu2-cSで表される化合物半導体から構成される。また、cの値は、0よりも大きく、0.01よりも小さい。
【0033】
このような熱電変換材料部12は、例えば以下の製造方法で製造することができる。まずCuの粉末と、Sの粉末とを準備する。ここで、熱電変換材料部12を構成する化合物半導体をCu2-cSとして表した場合に、xの値が0よりも大きく、0.01よりも小さくなるよう、CuおよびSの配合比率を調整する。これらの粉末を混合してプレスし、ペレット状に固めて圧粉体を得る。次に、得られたペレット状の圧粉体の一部を加熱して結晶化させる。
【0034】
圧粉体の一部の加熱は、例えば抵抗加熱ワイヤといった加熱ヒータを有するチャンバー内で行う。チャンバー内は減圧されている。具体的には、チャンバー内の真空度を例えば1×10-4Pa程度にする。そして、圧粉体を加熱ヒータでおおよそ1秒程度加熱する。変化点に達すると圧粉体の一部が結晶化する。圧粉体の一部を結晶化させた後に加熱を停止する。この場合、改めて加熱を行わなくとも、自己発熱により結晶化が促進される。すなわち、結晶化の進行に伴う圧粉体の自己発熱により圧粉体の残部を結晶化させる。その後、高周波加熱炉で一度溶融させた後、結晶を作製する。このようにして実施の形態1における熱電変換素子11に含まれる熱電変換材料部12を構成する化合物半導体を得る。
【0035】
次に、第1の母材元素Cuと第2の母材元素Sとの組成比の関係について説明する。図2は、Cu-Sの状態図の一部を示す図である。図2において、横軸はSの含有割合(at%)を示し、縦軸は温度(K)を示す。図2は、Sの含有割合が33.33at%付近~34.25at%前後の範囲を拡大した図である。
【0036】
図2を参照して、Cu-Sの状態図には、Sの含有割合が33.33at%~34.25at%の範囲において、低温相(LTP)と、高温相(HTP)と、低温相と高温相によって挟まれた、低温相と高温相とが共存する共存相(LTP+HTP)と、が示されている。すなわち、Cu-Sの状態図は、低温相に対応する第1領域31Aと、高温相に対応する第2領域32Aと、低温相と高温相とによって挟まれた、低温相と高温相とが共存する共存相に対応する第3領域33Aと、を含む。図2に示すように、第1領域31Aと第3領域33Aとの境界34Aは、傾斜している。本実施形態においては、第1領域31Aと第3領域33Aとの境界34Aの温度は、cの変化に伴って単調に変化する。具体的には、cが大きくなるにつれ、すなわち、Sの含有比率が小さくなるにつれ、境界34Aの温度は高くなっている。なお、第2領域32Aと第3領域33Aとの境界35Aについても傾斜している。
【0037】
ここで、実施の形態1におけるI型熱電変換素子11は、境界34Aの温度が変化する温度範囲で使用される。具体的には、cの変化に伴って境界34Aの温度が変化する温度範囲で使用される。
【0038】
図3は、Cu-Sの状態図のうちの共存相に対応する第3領域33Aが位置する部分を拡大して概略的に示す図である。図3は、図2において破線で囲んだ領域を拡大して示す図である。図3を参照して、Cu-Sの化合物半導体の状態について説明する。Cu2-cSで示される化合物半導体において、点41Aで示すあるcの値の組成の化合物半導体の温度を上昇させると、境界34Aに沿い、組成の異なる結晶が生成される。ここで、熱電変換材料部12を構成する化合物半導体は、n型となる。その後、温度上昇に伴い、境界34Aに沿って組成が変化するため、n型の化合物半導体の濃度が高くなっていく。すなわち、熱電変換材料部12を構成する化合物半導体において、Cuの含有比率が多くなるように組成がずれていく。そして、さらに高温になると、境界34A上の点42Aから境界35A上の点43Aの位置に移行し、高温相の状態となる。高温相の状態においては、熱電変換材料部12を構成する化合物半導体は、p型となる。このようにして、上記温度範囲で熱電変換材料部12を構成する化合物半導体の導電型は、n型からp型に変化する。
【0039】
図4は、実施の形態1における熱電変換素子11に含まれる熱電変換材料部12のゼーベック係数αと温度との関係を示すグラフである。図4において、横軸は温度を示し、縦軸はゼーベック係数(μVK-1)を示す。横軸の温度については、左側が低温側となり、右側が高温側となる。
【0040】
図4を参照して、Cu2-cSで示される熱電変換材料部12の温度を上昇させていくと、ゼーベック係数は、450(μVK-1)程度を示し、ある温度Tに到達するとゼーベック係数が急激に小さくなる。そして、温度Tに達すると、ゼーベック係数が正の値から負の値へ大きく変化する。ゼーベック係数の変化として、具体的には、ゼーベック係数が、約+450(μVK-1)から約-150(μVK-1)になる。その後、温度上昇に伴い、再びゼーベック係数が大きくなり、温度Tにおいて負の値から正の値へ転じる。その後、さらに温度上昇に伴いゼーベック係数が急激に大きくなり、温度Tに達すると約+600(μVK-1)になる。
【0041】
このゼーベック係数が正の値から負の値へ変化する温度、そして、負の値から正の値へ変化する温度において、熱電変換材料部12を構成する化合物半導体の導電型が変化する。よって、上記熱電変換素子11は、境界の温度が変化する温度範囲で使用される際に、使用される上記温度範囲に応じて、熱電変換材料部12を構成する化合物半導体の導電型を変化させることができる熱電変換素子となっている。
【0042】
なお、実施の形態1における熱電変換素子11において、cの値は、0よりも大きく、0.01よりも小さい。すなわち、上記したcの値について、0<c<0.01の関係を有する。具体的には、母材元素の比率がCu66.6633.34~Cu66.6733.33の範囲にある化合物半導体が採用される。このような熱電変換素子11は、より確実に熱電変換材料部を構成する化合物半導体の導電型を変化させることができる。すなわち、このようにすることにより、より確実に上記した熱電変換素子を得ることができる。
【0043】
(実施の形態2)
次に、他の実施の形態である実施の形態2について説明する。実施の形態2の熱電変換素子は、熱電変換材料部における第2の母材元素BとしてSeを選択している点において実施の形態1の場合とは異なっている。実施の形態2における熱電変換素子において、第1の母材元素は、Cuである。第2の母材元素は、Seである。化学量論比に従った化合物Aは、CuSeである。cの値は、0よりも大きく、0.143よりも小さい。
【0044】
図5は、Cu-Seの状態図である。図6は、Cu-Seの状態図の一部を拡大して示す図である。図6は、図5中の破線で囲む領域を拡大した図である。図5において、横軸はSeの含有割合(at%)を示し、縦軸は温度(℃)を示す。図6において、横軸はSeの含有割合(at%)を示し、縦軸は温度(K)を示す。
【0045】
図5および図6を参照して、実施の形態2における熱電変換素子に含まれる熱電変換材料部を構成する化合物半導体については、Cu-Seの状態図において、低温相と、高温相と、共存相と、が示されている。すなわち、Cu-Seの状態図は、低温相に対応する第1領域31Bと、高温相に対応する第2領域32Bと、低温相と高温相とによって挟まれた、低温相と高温相とが共存する共存相に対応する第3領域33Bと、を含む(特に図6参照)。図5および図6に示すように、第1領域31Bと第3領域33Bとの境界34Bは、傾斜している。本実施形態においては、第1領域31Bと第3領域33Bとの境界34Bの温度は、上記した実施の形態1の場合と同様に、cの変化に伴って単調に変化する。具体的には、cが大きくなるにつれ、すなわち、Seの含有比率が小さくなるにつれ、境界34Bの温度は高くなっている。なお、第2領域32Bと第3領域33Bとの境界35Bについても傾斜している。
【0046】
ここで、実施の形態2に示すI型熱電変換素子は、境界34Bの温度が変化する温度範囲で使用される。具体的には、cの変化に伴って境界34Bの温度が変化する温度範囲で使用される。
【0047】
図7は、実施の形態2における熱電変換素子に含まれる熱電変換材料部のゼーベック係数αと温度との関係を示すグラフである。図7において、横軸は温度(K)を示し、縦軸はゼーベック係数(μVK-1)を示す。
【0048】
図7を参照して、熱電変換材料部の温度を上昇させていくと、325Kから345K辺りで一度ゼーベック係数αが正の値から大きく負の値にまで低くなる。その後、温度上昇に伴い、負の値から大きく正の値まで高くなる。
【0049】
このゼーベック係数が正の値から負の値へ変化する温度、そして、負の値から正の値へ変化する温度において、熱電変換材料部を構成する化合物半導体の導電型が変化する。よって、実施の形態2における熱電変換素子は、境界の温度が変化する温度範囲で使用される際に、使用される上記温度範囲に応じて、熱電変換材料部を構成する化合物半導体の導電型を変化させることができる熱電変換素子となっている。
【0050】
なお、実施の形態2における熱電変換素子において、cの値は、0よりも大きく、0.143よりも小さい。すなわち、上記したcの値について、0<c<0.143の関係を有する。具体的には、母材元素の比率がCu65.00Se35.00~Cu66.67Se33.33の範囲にある化合物半導体が採用される。このような熱電変換素子は、より確実に熱電変換材料部を構成する化合物半導体の導電型を変化させることができる。すなわち、このようにすることにより、より確実に上記した熱電変換素子を得ることができる。
【0051】
(実施の形態3)
次に、さらに他の実施の形態である実施の形態3について説明する。実施の形態3の熱電変換素子は、熱電変換材料部における第1の母材元素AとしてAgを選択し、第2の母材元素BとしてSを選択している点において実施の形態1の場合とは異なっている。実施の形態3における熱電変換素子において、第1の母材元素は、Agである。第2の母材元素は、Sである。化学量論比に従った化合物Aは、AgSである。cの値は、0よりも大きく、0.002よりも小さい。
【0052】
図8は、Ag-Sの状態図である。図9および図10は、Ag-Sの状態図の一部を拡大して示す図である。図9は、図8中の破線で囲む領域を拡大した図である。図10は、図9中の破線で囲む領域を拡大した図である。図8図9および図10において、横軸はSの含有割合(at%)を示し、縦軸は温度(℃)を示す。
【0053】
図8図9および図10を参照して、実施の形態3における熱電変換素子に含まれる熱電変換材料部を構成する化合物半導体については、Ag-Sの状態図において、低温相と、高温相と、共存相と、が示されている。すなわち、Ag-Sの状態図は、低温相に対応する第1領域31Cと、高温相に対応する第2領域32Cと、低温相と高温相とによって挟まれた、低温相と高温相とが共存する共存相に対応する第3領域33Cと、を含む(特に図10参照)。図9および図10に示すように、第1領域31Cと第3領域33Cとの境界34Cは、傾斜している。本実施形態においては、第1領域31Cと第3領域33Cとの境界34Cの温度は、cの変化に伴って単調に変化する。具体的には、cが大きくなるにつれ、すなわち、Sの含有比率が小さくなるにつれ、境界34Bの温度は低くなっている。なお、第2領域32Cと第3領域33Cとの境界35Cについても傾斜している。
【0054】
ここで、実施の形態3に示すI型熱電変換素子は、境界34Cの温度が変化する温度範囲で使用される。具体的には、cの変化に伴って境界34Cの温度が変化する温度範囲で使用される。
【0055】
このような実施の形態3における熱電変換素子は、境界の温度が変化する温度範囲で使用される際に、使用される上記温度範囲に応じて、熱電変換材料部を構成する化合物半導体の導電型を変化させることができる熱電変換素子となっている。
【0056】
なお、実施の形態3における熱電変換素子において、cの値は、0よりも大きく、0.002よりも小さい。すなわち、上記したcの値について、0<c<0.002の関係を有する。具体的には、母材元素の比率がAg67.00232.998~Ag66.66733.333の範囲にある化合物半導体が採用される。このような熱電変換素子は、より確実に熱電変換材料部を構成する化合物半導体の導電型を変化させることができる。すなわち、このようにすることにより、より確実に上記した熱電変換素子を得ることができる。
【0057】
(実施の形態4)
次に、さらに他の実施の形態である実施の形態4について説明する。実施の形態4の熱電変換素子は、熱電変換材料部における第2の母材元素BとしてTeを選択している点において実施の形態1の場合とは異なっている。実施の形態4における熱電変換素子において、第1の母材元素は、Cuである。第2の母材元素は、Teである。化学量論比に従った化合物Aは、CuTeである。cの値は、0.02よりも大きく、0.22よりも小さい。
【0058】
図11は、Cu-Teの状態図の一部を拡大して示す図である。図11において、横軸はTeの含有割合(at%)を示し、縦軸は温度(℃)を示す。
【0059】
図11を参照して、実施の形態4における熱電変換素子に含まれる熱電変換材料部を構成する化合物半導体については、Cu-Teの状態図において、低温相と、高温相と、共存相と、が示されている。すなわち、Cu-Teの状態図は、低温相に対応する第1領域と、高温相に対応する第2領域と、低温相と高温相とによって挟まれた、低温相と高温相とが共存する共存相に対応する第3領域と、を含む。図11に示すように、第1領域と第3領域との境界34D,34E,34F,34G,34H,34I,34J,34K,34L,34M,34N,34O,34P,34Q,34R,34S,34T,34U,34V,34W,34X,34Y,34Z,35D,35E,35F,35G,35H,35I,35J,35K,35Lは、傾斜している。本実施形態においては、第1領域と第3領域との境界34D,34E,34F,34G,34H,34I,34J,34K,34L,34M,34N,34O,34P,34Q,34R,34S,34T,34U,34V,34W,34X,34Y,34Z,35D,35E,35F,35G,35H,35I,35J,35K,35Lの温度は、cの変化に伴って単調に変化する。
【0060】
ここで、実施の形態4に示すI型熱電変換素子は、境界34D,34E,34F,34G,34H,34I,34J,34K,34L,34M,34N,34O,34P,34Q,34R,34S,34T,34U,34V,34W,34X,34Y,34Z,35D,35E,35F,35G,35H,35I,35J,35K,35Lの温度が変化する温度範囲で使用される。具体的には、cの変化に伴って境界34D,34E,34F,34G,34H,34I,34J,34K,34L,34M,34N,34O,34P,34Q,34R,34S,34T,34U,34V,34W,34X,34Y,34Z,35D,35E,35F,35G,35H,35I,35J,35K,35Lの温度が変化する温度範囲で使用される。
【0061】
このような実施の形態4における熱電変換素子は、境界の温度が変化する温度範囲で使用される際に、使用される上記温度範囲に応じて、熱電変換材料部を構成する化合物半導体の導電型を変化させることができる熱電変換素子となっている。
【0062】
なお、実施の形態4における熱電変換素子において、cの値は、0.02よりも大きく、0.22よりも小さい。すなわち、上記したcの値について、0.02<c<0.22の関係を有する。具体的には、母材元素の比率がCu66.4Te33.6~Cu64.0Te36.0の範囲にある化合物半導体が採用される。このような熱電変換素子は、より確実に熱電変換材料部を構成する化合物半導体の導電型を変化させることができる。すなわち、このようにすることにより、より確実に上記した熱電変換素子を得ることができる。
【0063】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなく、請求の範囲によって規定され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0064】
11 熱電変換素子
12 熱電変換材料部
13 金属線
14 高温側電極
15 第1低温側電極(低温側電極)
16 第2低温側電極(低温側電極)
17 配線
21,22,23,24 端部
31A,31B,31C 第1領域
32A,32B,32C 第2領域
33A,33B,33C 第3領域
34A,34B,34C,34D,34E,34F,34G,34H,34I,34J,34K,34L,34M,34N,34O,34P,34Q,34R,34S,34T,34U,34V,34W,34X,34Y,34Z,35A,35B,35C,35D,35E,35F,35G,35H,35I,35J,35K,35L 境界
41A,42A,43A 点
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10
図11