(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】加圧ローラ、像加熱装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20240311BHJP
【FI】
G03G15/20 515
(21)【出願番号】P 2022129391
(22)【出願日】2022-08-15
【審査請求日】2023-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 亨
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-281833(JP,A)
【文献】特開平11-010256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像形成装置の定着部に用いられる、回転駆動される加圧ローラであって、
外周に弾性層及び表層を有する筒状の芯金と、
加圧ローラの回転軸線方向における前記芯金の一端に圧入される第1の圧入部を有するとともに、回転駆動力を受ける第1の軸部と、
前記回転軸線方向における前記芯金の他端に圧入される第2の圧入部を有する第2の軸部と、
を備える加圧ローラにおいて、
前記第1の圧入部と前記第2の圧入部は、前記芯金の前記一端の側から前記他端の側に向かうほど回転方向の下流側に向かう傾斜方向に延びる凹凸で構成された斜目ローレット形状を有することを特徴とする加圧ローラ。
【請求項2】
加圧ローラの回転ベクトルに対する前記斜目ローレット形状の前記凹凸の延びる方向がなす角度θが鋭角であることを特徴とする請求項1に記載の加圧ローラ。
【請求項3】
前記角度θが30°以上60°以下であることを特徴とする請求項2に記載の加圧ローラ。
【請求項4】
前記第1の軸部と前記第2の軸部の線膨張係数は、前記芯金の線膨張係数より小さいことを特徴とする請求項1に記載の加圧ローラ。
【請求項5】
前記第1の軸部と前記第2の軸部は、鉄鋼材からなり、
前記芯金は、アルミニウム合金からなることを特徴とする請求項1に記載の加圧ローラ。
【請求項6】
前記芯金は、三ツ矢管であることを特徴とする請求項5に記載の加圧ローラ。
【請求項7】
前記芯金は、中空パイプであることを特徴とする請求項5に記載の加圧ローラ。
【請求項8】
ヒータと、
前記ヒータが内側に配置される筒状のフィルムと、
前記フィルムを介して前記ヒータに圧接され、前記ヒータとともに前記フィルムとの間にニップを形成する加圧ローラと、
を備え、
前記加圧ローラが、請求項1~7のいずれか1項に記載の加圧ローラであることを特徴とする像加熱装置。
【請求項9】
前記ヒータは、前記フィルムの内面に接触し、
前記加圧ローラは、前記ニップを前記ヒータとともに形成することを特徴とする請求項8に記載の像加熱装置。
【請求項10】
記録材に画像を形成する画像形成部と、
記録材に形成された画像を記録材に定着する定着部と、
を有する画像形成装置において、
前記定着部が、請求項8に記載の像加熱装置であることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、レーザビームプリンタ、プリンタ、マイクロフィルムリーダプリンタ、記録機等の画像形成装置に使用される像加熱装置に用いられる加圧ローラに関する。該画像形成装置は、電子写真、静電記録、磁気記録等の画像形成プロセス手段により、加熱溶融性の樹脂等よりなるトナーを用いて、記録材の記録面に、直接転写方式もしくは間接転写方式で、目的の画像情報に対応した未定着トナー画像を形成担持させる。記録材としては、紙、印刷紙、記録材シート、エレクトロファックスシート、静電記録シート、OHTシート、光沢紙、光沢フィルムなどが挙げられる。未定着トナー画像は、画像形成装置に備えられる定着装置により、該画像を担持している記録材面上に永久固着画像として加熱定着処理される。さらに、記録材上の定着済みトナー画像を再度加熱することにより画像の光沢度を向上させる光沢付与装置が用いられる場合もある。本発明は、そのような定着装置や光沢付与装置等の像加熱装置に用いられる加圧ローラに関するものである。特に、熱膨張の大きいパイプや三ツ矢管に熱膨張の小さい軸を圧入した芯金を使用した定着装置の加圧ローラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アルミパイプの両端に軸を圧入し、圧入する軸の圧入部に平目ローレットを設けたローラ芯金が開示されている。また、特許文献2には、熱膨張の大きいアルミパイプに熱膨張の小さい鉄軸を圧入し、抜け止めのピンを打ったローラ芯金を用いた、画像形成装置に用いられるローラが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-010256号公報
【文献】特開2007-122022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されたように、ローラ芯金を、アルミパイプにアルミ軸を圧入した芯金で構成する場合には、次の課題1~4がある。
【0005】
(課題1)
加熱される箇所(定着装置の加圧ローラ芯金など)にこの芯金を使用し、回転トルクを下げるため、鉄鋼製ベアリングを軸受けとして使用すると、アルミ軸の方が熱膨張が大きいためベアリングを痛めてしまう可能性がある。
【0006】
(課題2)
例えば、圧入する軸を鉄鋼製ベアリングと同じ鉄鋼製軸にすると、ベアリングと軸の熱膨張率はほぼ同じためベアリングを痛める課題1の解決は図られる。しかし、鉄鋼製軸よりアルミパイプの方が熱膨張率が大きいため、圧入部の温度が高くなると圧入代(圧入部の穴内径と、圧入軸の軸径及びローレット径との差)が小さくなり、圧入強度が低下してしまう可能性がある。
【0007】
特許文献1では、圧入軸に回転強度のため平目ローレット形状を付けているものの、熱膨張し圧入代が小さくなった状態では長手方向の引き抜き強度が低下してしまう可能性が有る。また、特許文献1では、引き抜き強度のため、圧入部の穴側インロー内部をマイナス仕上げの逆テーパ形状とし軸の差し込み部をプラス仕上げとしているものの、熱膨張率
差により嵌め合い代が減少してしまい、引き抜き強度が低下してしまう可能性が有る。ここで、インローとは、2つの部品が嵌り合う部分において、一方が凹形、もう一方が凸形であるような入れ子構造のことを呼ぶ。
【0008】
(課題3)
例えば、室温時(圧入加工時)の圧入代を大きく設定し、熱膨張しても強度に必要な圧入代を確保できるようにすることが考えられる。しかし、この手法では、圧入加工時の必要な加工圧が高くなってしまい、圧入機の上限圧を超えてしまい加工できない、最後まで圧入できない、圧入した軸が傾くなどの不具合の可能性がある。
【0009】
ここで、特許文献2に開示されているローラは、熱膨張の大きいアルミパイプに熱膨張の小さい鉄鋼製軸を圧入し、熱膨張による圧入代低下による回転強度低下、引き抜き強度低下を防止するため、貫通ピンを設けたものである。
【0010】
(課題4)
しかし、特許文献2に開示されているローラでは、貫通ピンを通すための孔加工が必要であるため、複雑な構成になる。また、圧入部が小径の場合、貫通ピンの径も小さくなるため、貫通孔を空けることが難しくなったり、貫通ピン自体の強度が低下するため、回転強度、引き抜き強度などが低下する可能性がある。
【0011】
本発明の目的は、両端に軸部材を圧入した芯金を用いる加圧ローラにおいて、熱膨張時の圧入部の緩み、抜けを簡易な構成で防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明における加圧ローラは、
画像形成装置の定着部に用いられる、回転駆動される加圧ローラであって、
外周に弾性層及び表層を有する筒状の芯金と、
加圧ローラの回転軸線方向における前記芯金の一端に圧入される第1の圧入部を有するとともに、回転駆動力を受ける第1の軸部と、
前記回転軸線方向における前記芯金の他端に圧入される第2の圧入部を有する第2軸部と、
を備える加圧ローラにおいて、
前記第1の圧入部と前記第2の圧入部は、前記芯金の前記一端の側から前記他端の側に向かうほど回転方向の下流側に向かう傾斜方向に延びる凹凸で構成された斜目ローレット形状を有することを特徴とする。
上記目的を達成するために、本発明における像加熱装置は、
ヒータと、
前記ヒータが内側に配置される筒状のフィルムと、
前記フィルムを介して前記ヒータに圧接され、前記ヒータとともに前記フィルムとの間にニップを形成する加圧ローラと、
を備え、
前記加圧ローラが、本発明の加圧ローラであることを特徴とする。
上記目的を達成するために、本発明における画像形成装置は、
記録材に画像を形成する画像形成部と、
記録材に形成された画像を記録材に定着する定着部と、
を有する画像形成装置において、
前記定着部が、本発明の像加熱装置であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、両端に軸部材を圧入した芯金を用いる加圧ローラにおいて、熱膨張時
の圧入部の緩み、抜けを簡易な構成で防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施例1における加圧ローラの圧入芯金の構成概略図
【
図2】本実施例1における画像形成装置の構成概略図
【
図3】本実施例1における定着装置としての像加熱装置の構成概略図
【
図4】本実施例1における圧入芯金の圧入加工時圧入方向説明図
【
図5】本実施例1における圧入軸に生じる応力方向の説明図
【
図7】本実施例1における圧入芯金の圧入代と加工時圧入荷重とのグラフ
【
図8】本実施例1における圧入代の熱膨張による変化のグラフ
【
図9】比較例1と実施例1での加熱膨張時の圧入部緩み、ズレ確認結果
【
図10】本実施例2における加圧ローラの圧入芯金の概略構成図
【
図11】本実施例2における加圧ローラの構成概略図
【
図12】比較例2と実施例2での加熱膨張時の圧入部緩み、ズレ確認結果
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。なお、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状それらの相対配置などは、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものである。また、本実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。実施形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0016】
(実施例1)
1.画像形成装置の構成
図2は、本発明の実施例に係る画像形成装置の概略断面図である。本実施例の画像形成装置100は、電子写真方式を利用して記録材P上に画像を形成するレーザビームプリンタである。プリント信号が発生すると、画像情報に応じて変調されたレーザ光をスキャナユニット21が出射し、帯電ローラ16によって所定の極性に帯電された感光ドラム19表面を走査する。これにより感光ドラム19に静電潜像を形成する。この静電潜像に対して現像ローラ17からトナーが供給されることで、感光ドラム19上の静電潜像は、トナー像として現像される。一方、給紙カセット11に積載された記録材Pは、ピックアップローラ12によって一枚ずつ給紙され、搬送ローラ対13によってレジストローラ対14に向けて搬送される。更に、記録材Pは、感光ドラム19上のトナー像が感光ドラム19と転写ローラ20で形成される転写位置に到達するタイミングに合わせて、レジストローラ対14から転写位置へ搬送される。記録材Pが転写位置を通過する過程で、感光ドラム19上のトナー像は記録材Pに転写される。その後、記録材Pは、画像形成装置100の定着部(像加熱部)としての定着装置200で加熱・加圧され、トナー像は記録材Pに加熱定着される。定着済みのトナー像を担持する記録材Pは、搬送ローラ対26、27によって画像形成装置100上部のトレイに排出される。記録材Pに転写されずに感光ドラム19上に残留したトナーは、ドラムクリーナ18によって清掃される。
【0017】
モータ30の駆動電力や、定着装置200のヒータへ供給される電力は、商用交流電源401から供給される。画像形成装置100や定着装置200等が備える感光ドラム19や各種ローラ部材等の駆動部材は、モータ30から供給される駆動力によって駆動する。定着装置200は、ヒータ(加熱源)の駆動手段としての制御部400の電源回路から電力が供給されて定着動作を行う。
【0018】
上述した、感光ドラム19、帯電ローラ16、スキャナユニット21、現像ローラ17
、転写ローラ20が、記録材Pに未定着画像を形成する画像形成部を構成している。また、本実施例では、感光ドラム19、帯電ローラ16、現像ローラ17を含む現像ユニット、ドラムクリーナ18を含むクリーニングユニットが、プロセスカートリッジ15として画像形成装置100の装置本体に対して着脱可能に構成されている。
【0019】
本実施例の画像形成装置100は、記録材Pの搬送方向に直交する方向における最大通紙幅が約216mmであり、A4縦サイズ[幅210mm×長さ297mm]の普通紙を約300mm/secの搬送速度で毎分約50枚程度をプリントすることができる。
【0020】
2.定着装置の構成
図3は、本実施例の像加熱装置としての定着装置200の断面図である。定着装置200は、筒状のフィルム202と、フィルム202の内面に接触するヒータ300と、フィルム202を介してヒータ300と共に定着ニップNを形成する加圧ローラ208と、金属ステー204と、ヒータ保持部材201を有する。定着フィルム202の内側に配設されたヒータ300と、定着フィルム202の外側に配設された加圧ローラ208とが、定着フィルム202を介して互いに圧接することにより、定着フィルム202と加圧ローラ208との間に定着ニップ部Nが形成される。
【0021】
フィルム202は、筒状に形成された複層構成の高耐熱性定着フィルム202であり、ポリイミド等の耐熱樹脂、または、ステンレス等の金属を基層としている。また、フィルム202の表面は、耐熱性に優れ、トナーの付着防止のため、PFA等の離型性にすぐれた高機能フッ素樹脂を被覆した離型層としている。更に、上記基層と離型層の間にシリコーンゴム等の高耐熱性ゴムを弾性層として形成しても良い。
【0022】
加圧ローラ208は、芯金209の外周に弾性層210及び表層211を有する構成を有する。かかる構成とすることで、加圧ローラ208として適切な硬度とすることができ定着装置200に応じた定着ニップNを得るものとする。本実施例では、加圧ローラ208は、外径が約Φ25mmで、外径Φ20mmの芯金209上に、厚み約2.45mmの弾性層210を設け、その上に同じく厚み約0.05mmの表層211を設けている。
【0023】
ヒータ300は、耐熱樹脂製のヒータ保持部材201に保持されている。ヒータ300の裏面には、ヒータ300の温度を検知するためのサーミスタ212が配設されている。金属ステー204は、不図示の加圧力を受けて、ヒータ保持部材201を加圧ローラ208に向けて押圧する。
【0024】
制御部400は、PC等の外部入力機器からのプリント信号の入力に応じて、モータ30を駆動する。加圧ローラ208は、モータ30からの回転駆動力を受けて矢印R1方向に回転する。加圧ローラ208が回転することによって、定着フィルム202は矢印R2方向に従動回転する。
【0025】
また、制御部400は、通電制御手段としてのトライアック(不図示)をオンする。これにより、電源(不図示)からヒータ300の発熱体に通電が行われ、ヒータ300が発熱する。制御部400は、サーミスタ212の出力信号を取り込み、その出力信号に基づいてトライアックによってヒータ300に通電する電力を制御し、ヒータ300の温度を所定温度に制御する。ヒータ300の温度が所定温度に制御され、かつ加圧ローラ208の回転によって定着フィルム202の回転周速度が所定の速度で定常化した状態において、未定着トナー像が形成された記録材Pが定着ニップNに導入される。定着ニップNにおいて記録材Pを挟持搬送しつつ、ヒータ300からの熱を定着フィルム202を通して与えることで、記録材P上の未定着トナー像は定着処理される。
【0026】
定着フィルム202表面は、未定着トナー像の定着のため、約180℃程度になるように制御される。
【0027】
3.加圧ローラ構成
本実施例では、本発明の加圧ローラが、定着装置200に使用される加圧ローラ208として適用される。
【0028】
図1に、本実施例における加圧ローラ208の芯金209の構成概略図を示す。
図1は、加圧ローラ208の芯金209の構成を説明する模式図であって、(a)は加圧ローラ208の回転軸線を含む断面図であり、(b)は(a)のA矢視図である。本実施例では、アルミニウム合金製の三ツ矢管(以下、アルミ三ツ矢管)の両端にそれぞれ鉄鋼製軸部材を圧入した芯金を用いている。
【0029】
本実施例における芯金209は、アルミ三ツ矢管部501と、鉄鋼材製の圧入軸502、503と、を備える。アルミ三ツ矢管部501は、外パイプ部511と、内パイプ部521と、三ツ矢リブ部531と、を備える。内パイプ部521は、外パイプ部511の内側(外パイプ部511の内周面に囲まれた領域)に外パイプ部511と同心に配置され、周方向に等間隔に配置された三つの三ツ矢リブ部531によって、外パイプ部511と一体的に連結されている。
【0030】
外パイプ部511は、外径約Φ20mm、肉厚1.5mm、内パイプ部521は、外径約Φ10mm、肉厚1.5mm、三ツ矢リブ部531は、肉厚1.5mmのものを用いている。三ツ矢管部501は、軽量で熱伝導率の良いアルミニウム合金のA6063(比重約2.69、熱伝導率λ=約0.21W/mk、線膨張係数約23.4×10^(-6)/℃)を用いている。
【0031】
第1の軸部としての圧入軸502は、アルミ三ツ矢管部501の長手方向(加圧ローラ208の回転軸線方向)の一端に圧入され、第2の軸部としての圧入軸503は、アルミ三ツ矢管部501の長手方向の他端に圧入される。定着装置200あるいは画像形成装置100が備える、これら圧入軸502、503の軸受けとしては、トルク低減及び長寿命対応として鉄鋼製ベアリングを本実施例では使用している。このため、アルミ三ツ矢管部501の端部に圧入する軸部材としては、強度の点と鉄鋼製ベアリングと熱膨張率(線膨張係数)を合わせる点から、鉄鋼製の軸を使用している。圧入軸502、503は、一例として、SUM23(比重7.9、熱伝導率約74W/mk、線膨張係数約11.7×10^(-6)/℃)などの鉄鋼を用いている。
【0032】
圧入軸502、503は、それぞれ、アルミ三ツ矢管部501の端部に圧入される圧入部512、513と、アルミ三ツ矢管部501から露出し、定着装置200あるいは画像形成装置100の不図示の軸受に軸支される軸部522、523と、を有する。圧入軸502の軸部522の先端には、駆動のためのギアを取り付けるためDカット形状部522aが設けられており、不図示のギアが取り付けられる。加圧ローラ208は、装置本体から伝達される駆動力をDカット形状部522aに取り付けられるギアにより受けることで、図示の矢印B方向に回転駆動される。
【0033】
圧入軸502、503の圧入部512、513には、それぞれ、切削や転造加工より形成されるローレット形状部504が設けられている。本実施例では、ローレット形状部504として、斜目ローレットを使用しており、本実施例では、一例として傾き30°の斜目ローレットを用いている。
【0034】
図5は、本実施例における圧入軸に生じる応力方向の説明図であり、(a)は第1の軸
部としての圧入軸502に生じる応力方向、(b)は第2の軸部としての圧入軸503に生じる応力方向をそれぞれ示している。
【0035】
図5(a)に示すように、圧入軸502の駆動回転に伴い、圧入方向へ向けた応力F1が生ずる。すなわち、圧入軸502がトルクTで矢印T方向に駆動回転されると、図中のP方向にT=P×d/2(d:外径)から求まるPの力で、圧入軸502が回転しようとする。圧入軸502には、図中に示すような傾きの斜目ローレット形状部504が設けられている。すなわち、斜目ローレット形状部504は、加圧ローラ208の回転軸線方向における一端側から他端側に向かうほど回転方向の下流側に向かう傾斜方向に延びる凹部と凸部で構成されている。そのため、アルミ三ツ矢管部501に対し圧入軸502が斜目ローレット形状部504の傾きに沿ってS方向に移動しようとする。その結果、圧入軸502には、図中のF1方向に移動しようとする応力F1が生ずることになる。
【0036】
圧入軸502の回転駆動に伴いアルミ三ツ矢管部501が回転する。
図5(b)に示すように、アルミ三ツ矢管部501は、矢印T方向に回転する際に、圧入軸503の斜目ローレット形状部504の傾きに沿ってS方向へ移動しようとする。すると、圧入軸503は、アルミ三ツ矢管部501からの反力S’を受ける。この反力S’により、圧入軸503には、圧入方向へ向けた応力F2が生じることになる。
【0037】
斜目ローレット形状部504のある一点における回転ベクトルと、この回転ベクトルと平行な仮想線をトルクTの方向にねじり傾けていき斜目ローレット形状部504の凹部又は凸部の延びる方向と平行になったときの該仮想線と、がなす角度をθとする。この角度θを、回転ベクトルに対するローレット形状部の傾きと定義する。
【0038】
斜目ローレット形状部504の傾きθは、圧入軸502、503を圧入方向へ向ける応力を生じさせるために、鋭角であることが必要である。すなわち、斜目ローレット形状部504を構成する凹凸部が延びる方向が、加圧ローラ208の回転軸線方向における一端側から他端側に向かうほど回転方向の下流側に向かう傾斜方向であることが必要となる。ただし、θが鋭角であったったとしてもj、その大きさが大き過ぎると、回転トルクTに対して生じるF1、F2が小さいことに加え、圧入軸502、503をアルミ三ツ矢管部501に圧入加工する際の抵抗が大きくなってしまう。一方、θが鋭角であったったとしても、その大きさが小さ過ぎると、圧入軸502、503をアルミ三ツ矢管部501に圧入加工する際の抵抗は小さいものの、回転トルクTに対して生じるF1、F2が小さくなってしまう。したがって、回転ベクトルに対する斜目ローレット形状部504の傾きθは、30°以上60°以下程度が好ましい。
【0039】
図6は、比較例1、2に係る加圧ローラの芯金構成を示す模式的断面図であり、(a)は比較例1に係る加圧ローラの芯金の加圧ローラ回転軸線を含む断面図であり、(b)は比較例2に係る加圧ローラの芯金の加圧ローラ回転軸線を含む断面図である。
【0040】
図6(a)に示す比較例1に係る加圧ローラは、圧入軸502b、503bの圧入部のローレット形状部504bが、平目ローレット形状で構成されている。すなわち、ローレット形状部504bを構成する凹凸部が、加圧ローラの回転軸線方向に沿った方向に延びており、回転ベクトルに対するローレット形状部の傾きθがゼロとなる構成となっている。このため、回転強度に対しては強いものの、アルミ三ツ矢管部501に対する圧入軸502b、503bの引き抜き方向に対しては、ローレット形状部504bが抵抗とはならないため、強度は弱くなってしまう。特に、熱膨張によって圧入代が減少した状態では、顕著に弱くなる。
【0041】
図6(b)に示す比較例2に係る加圧ローラは、圧入軸502c、503cの圧入部の
ローレット形状部504cが、綾目ローレット(クロスローレット)形状で構成されている。すなわち、ローレット形状部504bを構成する凹凸部が、加圧ローラ208の回転軸線方向における一端側から他端側に向かうほど回転方向の上流側に向かう傾斜方向に延びる部分を含んでいる。よって、圧入軸502c、503cを圧入方向とは逆方向へ向ける応力が生じる構成となっている。
【0042】
これらの比較例1、2のローレット形状では、回転駆動により圧入軸を圧入方向へ向けた応力は発生しない。比較例1の平目ローレット形状では、回転方向に対して、ローレット形状の傾きが無いため、圧入軸502b、503bを圧入方向へ向けた応力が発生しない。また、比較例2の綾目ローレット形状では、回転方向に対して、ローレット形状の傾きは有るものの、傾き形状がクロス形状のため、傾きによる圧入方向へ向けた応力が打ち消し合ってしまい、圧入軸502c、503cを圧入方向へ向けた応力は発生しない。
【0043】
図4は、本実施例に係る芯金209において、圧入軸502、503がアルミ三ツ矢管部501に圧入される前の様子を示す模式的分解断面図である。
図4に示すように、d1は、アルミ三ツ矢管部501において圧入軸502、503の圧入部512、513が圧入される部分である被圧入部542、543の穴径(内パイプ部521の内径)である。また、d2は、圧入軸502、503の圧入部512、513においてローレット形状部504が設けられていない領域における外径、d3は、斜目ローレット形状部504の外径である。また、
図1に示したL1は、斜目ローレット形状部504における長手幅、L2は、圧入部512、513の長手幅である。
【0044】
図7に、被圧入部542、543の穴径d1を約Φ7.5とし、d2、d3、L1、L2を適時設定して圧入代を変化させたときの、室温(20℃)時において必要な圧入荷重を確認した結果を示す。圧入代が大きくなるにつれて必要な圧入荷重が増加し、圧入代90umで必要圧入荷重は約57kNになる。圧入穴側の材質であるアルミニウム合金の方が熱膨張率が大きいため、高温熱膨張時は常温(20℃)時よりも圧入代が減少してしまう。
【0045】
図8に、本実施例における熱膨張時の圧入代の変化を示す。常温(20℃)時に圧入代が10umのものは、温度が高くなり熱膨張するにつれ圧入代は減少し、約135℃以上になるとアルミ三ツ矢管部の穴径の方が大きくなってしまい圧入代はマイナスになってしまう。
【0046】
図9に、比較例1(平目ローレット形状)の加圧ローラ及び本実施例1の加圧ローラを用い、駆動回転させた場合の圧入部の回転方向のズレ、長手方向のズレを温度を振って確認した結果を示します。回転方向のズレに関しては、比較例1と実施例1とで大きな差は見られなかったものの、長手方向のズレに関しては比較例1に比べ実施例1がより高い温度においてもズレは見られなかった。
【0047】
以上説明したように、本実施例によれば、圧入軸に斜目ローレット形状を設け、回転ベクトルに対する斜目ローレット形状の傾きの角度を鋭角とすることで、簡易な構成で熱膨張時の圧入強度を改善することが可能となる。
【0048】
(実施例2)
本発明の実施例2について説明する。ここでは、実施例2において実施例1と異なる点についてのみ説明する。実施例2の構成においてここで特に説明しないものは、実施例1と同様である。
【0049】
図10は、本実施例2における加圧ローラの芯金の構成概略図を示す。実施例1と異な
り、実施例2の加圧ローラでは、芯金209bが、アルミ三ツ矢管では無くアルミニウム合金製の中空パイプ(以下、アルミパイプ)501bで構成される。アルミパイプ501bを通して長手方向の熱の移動を良くし非通紙昇温を低減させるため、パイプ501bの肉厚を3mmと厚くしている。また、本実施例では、アルミパイプ501bの材質としてアルミニウム合金のA5052(比重2.68、熱伝導率λ=約0.14W/mk、線膨張率約23.8×10^(-6)/℃)を用いている。これは、三ツ矢管にくらべパイプは長手撓みが大きいため、縦弾性係数の大きいアルミ材のA5052(縦弾性係数:A5052 7000.6kN/mm
2、A6063 68.6kN/mm
2)を用いている。
【0050】
圧入軸502d、503dの圧入部512d、513dの径は、約Φ14.5としている。実施例1に比べ圧入部512d、513dの位置が加圧ローラ表面に近づいたため、加圧ローラ表面からの伝熱により圧入部512d、513dの温度が高くなりやすい。このため、アルミパイプ501bのアルミ材として、実施例1のアルミ三ツ矢管部(A6063)より熱伝導率の低いA5052のアルミニウム合金を用いている(熱伝導率:A5052 λ=約0.14W/mk、A6063 λ=約0.21W/mk)。
【0051】
図11は、実施例2における加圧ローラ208bの構成概略図であって加圧ローラ208bの一端部(回転駆動力を受ける側の端部)を回転軸線方向に見た図である。弾性層210にソリッドゴムでは無く、気泡を含むゴムを弾性層に用いることで加圧ローラ表面からの熱を圧入部512d、513dに伝熱させにくくしている。
【0052】
図12に本実施例2での確認結果を示す。本実施例では、綾目ローレット形状部504c(
図6(b))を用いた芯金を備える比較例2の加圧ローラと比較して効果を確認した。長手方向ズレに関して、綾目ローレット形状部504cは、引き抜き方向に対してローレット形状が抵抗となるため、比較例1の平目ローレット形状部504b(
図9)に比べ強い。しかし、熱膨張して圧入代が小さい状態では、回転駆動による圧入方向への応力が生じないため、実施例2の斜目ローレット形状部504よりも弱い。このため、比較例2(綾目ローレット形状例)に比べ実施例2の方が、より高い温度(熱膨張が大きい)でも長手方向のズレ、緩みは見られなかった。
【0053】
以上説明したように、本実施例によれば、圧入軸に斜目ローレット形状を設け、駆動回転方向に対する斜目ローレット形状の傾きの角度を鋭角とすることで、簡易な構成で熱膨張時の圧入強度を改善することが可能となる。
【0054】
なお、本発明においてのヒータの構成は、上記実施例の構成に限定されるものではない。例えば、電磁誘導によりフィルムの導電層を発熱させるようなIH定着器や、フィルムの内部空間の中央にハロゲンヒータを配置したような定着器などに対しても、本発明は好適に適用することができる。
【0055】
また、芯金の管構造も、実施例1のような三ツ矢管構造に限定されるものではなく、四ツ矢菅、あるいは五ツ矢菅であってもよい。
【0056】
本発明の実施の形態の開示は、以下の構成を含む。
(構成1)
画像形成装置の定着部に用いられる、回転駆動される加圧ローラであって、
外周に弾性層及び表層を有する筒状の芯金と、
加圧ローラの回転軸線方向における前記芯金の一端に圧入される第1の圧入部を有するとともに、回転駆動力を受ける第1の軸部と、
前記回転軸線方向における前記芯金の他端に圧入される第2の圧入部を有する第2の軸
部と、
を備える加圧ローラにおいて、
前記第1の圧入部と前記第2の圧入部は、前記芯金の前記一端の側から前記他端の側に向かうほど回転方向の下流側に向かう傾斜方向に延びる凹凸で構成された斜目ローレット形状を有することを特徴とする加圧ローラ。
(構成2)
加圧ローラの回転ベクトルに対する前記斜目ローレット形状の前記凹凸の延びる方向がなす角度θが鋭角であることを特徴とする構成1に記載の加圧ローラ。
(構成3)
前記角度θが30°以上60°以下であることを特徴とする構成2に記載の加圧ローラ。
(構成4)
前記第1の軸部と前記第2の軸部の線膨張係数は、前記芯金の線膨張係数より小さいことを特徴とする構成1~3のいずれか一の構成に記載の加圧ローラ。
(構成5)
前記第1の軸部と前記第2の軸部は、鉄鋼材からなり、
前記芯金は、アルミニウム合金からなることを特徴とする構成1~4のいずれか一の構成に記載の加圧ローラ。
(構成6)
前記芯金は、三ツ矢管であることを特徴とする構成1~5のいずれか一の構成に記載の加圧ローラ。
(構成7)
前記芯金は、中空パイプであることを特徴とする構成1~5のいずれか一の構成に記載の加圧ローラ。
(構成8)
ヒータと、
前記ヒータが内側に配置される筒状のフィルムと、
前記フィルムを介して前記ヒータに圧接され、前記ヒータとともに前記フィルムとの間にニップを形成する加圧ローラと、
を備え、
前記加圧ローラが、構成1~7のいずれか一の構成に記載の加圧ローラであることを特徴とする像加熱装置。
(構成9)
前記ヒータは、前記フィルムの内面に接触し、
前記加圧ローラは、前記ニップを前記ヒータとともに形成することを特徴とする構成8に記載の像加熱装置。
(構成10)
記録材に画像を形成する画像形成部と、
記録材に形成された画像を記録材に定着する定着部と、
を有する画像形成装置において、
前記定着部が、構成8又は9に記載の像加熱装置であることを特徴とする画像形成装置。
【符号の説明】
【0057】
200…定着装置、208…加圧ローラ、209…芯金、210…弾性層、211…表層、501…アルミ三ツ矢管部、502、503…圧入軸、504…斜目ローレット形状部