(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240311BHJP
【FI】
B41J2/01 307
(21)【出願番号】P 2022141486
(22)【出願日】2022-09-06
(62)【分割の表示】P 2019192460の分割
【原出願日】2018-02-14
【審査請求日】2022-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2017028022
(32)【優先日】2017-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 哲洋
(72)【発明者】
【氏名】高中 康之
(72)【発明者】
【氏名】石川 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 誠司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 典子
(72)【発明者】
【氏名】下山 昇
(72)【発明者】
【氏名】木田 朗
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-218761(JP,A)
【文献】特開2009-072925(JP,A)
【文献】特開2013-067080(JP,A)
【文献】特開2000-301710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する複数の吐出口が設けられた吐出口面を有し画像を記録する記録動作を行う記録ヘッドと、
前記記録動作を行う記録位置と、前記記録動作を行わない待機位置と、の間で、前記記録ヘッド
の長軸方向の回転軸の周りに前記記録ヘッドを回転させる第1移動と、前記回転軸を重力方向に移動する第2移動と、を行う移動手段と、を備え、
前記移動手段は、前記記録ヘッドをガイドする固定された第1ガイド部材と、当該第1ガイド部材と異なり前記記録ヘッドをガイドする第2ガイド部材と、を有し、
前記吐出口面は、前記記録ヘッドが前記記録位置に位置する場合よりも、前記記録ヘッドが前記待機位置に位置する場合のほうが水平に近
く、
前記移動手段は、前記記録ヘッドが前記待機位置から前記記録位置へ移動する場合に、前記第2移動により前記記録ヘッドを下降させた後に、前記第1移動と前記第2移動を並行して行うことを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記記録ヘッドは、前記記録ヘッドと記録媒体を第1方向において相対移動することで前記記録動作を実行し、
前記回転軸は前記第1方向に対して垂直であることを特徴とする請求項
1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記移動手段は、前記記録ヘッドを移動しながらガイドする第3ガイド部材を有することを特徴とする請求項1
または2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記記録ヘッドが前記記録位置に位置する場合、前記吐出口面は水平方向に対して第1の角度で保持され、前記記録ヘッドが前記待機位置に位置する場合、前記吐出口面は前記水平方向に対して前記第1の角度より小さい第2の角度で保持されることを特徴とする請求項1から
3のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項5】
前記記録ヘッドは、前記複数の吐出口が記録媒体の幅に相当する領域に設けられたフルライン式であることを特徴とする請求項1から
4のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項6】
前記記録ヘッドは記録データに基づいて前記記録動作を行うことを特徴とする請求項1から
5のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項7】
前記記録ヘッドは、カラーインクジェット記録ヘッドであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを吐出して画像を記録する記録ヘッドを備える記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、インクジェットヘッドを用いる記録装置において、記録動作時には水平方向にインクが吐出するように、維持(メンテナンス)動作時には鉛直下方にインクが吐出するように、記録ヘッドの向きと位置を変更する構成が開示されている。特許文献1によれば、記録動作のための位置から維持動作のための位置に記録ヘッドを移す際、まず記録ヘッドを記録媒体から離れる方向へ直線移動させた後、回転軸を中心に回転移動させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1によれば、記録ヘッドを直線移動させるための機構と記録ヘッドを回転移動させるための機構とが個別に用意され、これらを順番に作動させている。このため、記録ヘッドの移動に係る機構や制御が複雑になり、移動に係る時間も長くなってしまう。
【0005】
上記課題に鑑みて本発明は、直線移動と回転移動を伴う記録ヘッドの移動を、より簡易な構成で短時間に実行することが可能な記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そのために本発明は、体を吐出する複数の吐出口が設けられた吐出口面を有し画像を記録する記録動作を行う記録ヘッドと、前記記録動作を行う記録位置と、前記記録動作を行わない待機位置と、の間で、前記記録ヘッドの長軸方向の回転軸の周りに前記記録ヘッドを回転させる第1移動と、前記回転軸を重力方向に移動する第2移動と、を行う移動手段と、を備え、前記移動手段は、前記記録ヘッドをガイドする固定された第1ガイド部材と、当該第1ガイド部材と異なり前記記録ヘッドをガイドする第2ガイド部材と、を有し、前記吐出口面は、前記記録ヘッドが前記記録位置に位置する場合よりも、前記記録ヘッドが前記待機位置に位置する場合のほうが水平に近く、前記移動手段は、前記記録ヘッドが前記待機位置から前記記録位置へ移動する場合に、前記第2移動により前記記録ヘッドを下降させた後に、前記第1移動と前記第2移動を並行して行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、直線移動と回転移動を伴う記録ヘッドの移動を、より簡易な構成で短時間に実行することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図4】第1カセットから給送された記録媒体の搬送経路図である。
【
図5】第2カセットから給送された記録媒体の搬送経路図である。
【
図6】記録媒体の裏面に記録動作を行う場合の搬送経路図である。
【
図7】記録装置がメンテナンス状態にあるときの図である。
【
図8】メンテナンスユニットの構成を示す斜視図である。
【
図10】記録ヘッドを移動させる機構を説明する図である。
【
図11】記録ヘッドを移動させる機構を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本実施形態で使用するインクジェット記録装置1(以下、記録装置1)の内部構成図である。図において、x方向は水平方向、y方向(紙面垂直方向)は後述する記録ヘッド8において吐出口が配列する方向、z方向は鉛直方向をそれぞれ示す。
【0010】
記録装置1は、プリント部2とスキャナ部3を備える複合機であり、記録動作と読取動作に関する様々な処理を、プリント部2とスキャナ部3で個別にあるいは連動して実行することができる。スキャナ部3は、ADF(オートドキュメントフィーダ)とFBS(フラットベッドスキャナ)を備えており、ADFで自動給紙される原稿の読み取りと、ユーザによってFBSの原稿台に置かれた原稿の読み取り(スキャン)を行うことができる。なお、本実施形態はプリント部2とスキャナ部3を併せ持った複合機であるが、スキャナ部3を備えない形態であってもよい。
図1は、記録装置1が記録動作も読取動作も行っていない待機状態にあるときを示す。
【0011】
プリント部2において、筐体4の鉛直方向下方の底部には、記録媒体(カットシート)Sを収容するための第1カセット5Aと第2カセット5Bが着脱可能に設置されている。第1カセット5AにはA4サイズまでの比較的小さな記録媒体が、第2カセット5BにはA3サイズまでの比較的大きな記録媒体が、平積みに収容されている。第1カセット5A近傍には、収容されている記録媒体を1枚ずつ分離して給送するための第1給送ユニット6Aが設けられている。同様に、第2カセット5B近傍には、第2給送ユニット6Bが設けられている。記録動作が行われる際にはいずれか一方のカセットから選択的に記録媒体Sが給送される。
【0012】
搬送ローラ7、排出ローラ12、ピンチローラ7a、拍車7b、ガイド18、インナーガイド19およびフラッパ11は、記録媒体Sを所定の方向に導くための搬送機構である。搬送ローラ7は、記録ヘッド8の上流側および下流側に配され、不図示の搬送モータによって駆動される駆動ローラである。ピンチローラ7aは、搬送ローラ7と共に記録媒体Sをニップして回転する従動ローラである。排出ローラ12は、搬送ローラ7の下流側に配され、不図示の搬送モータによって駆動される駆動ローラである。拍車7bは、記録ヘッド8の下流側に配される搬送ローラ7及び排出ローラ12と共に記録媒体Sを挟持して搬送する。
【0013】
ガイド18は、記録媒体Sの搬送経路に設けられ、記録媒体Sを所定の方向に案内する。インナーガイド19は、y方向に延在する部材で湾曲した側面を有し、当該側面に沿って記録媒体Sを案内する。フラッパ11は、両面記録動作の際に、記録媒体Sが搬送される方向を切り替えるための部材である。排出トレイ13は、記録動作が完了し排出ローラ12によって排出された記録媒体Sを積載保持するためのトレイである。
【0014】
本実施形態の記録ヘッド8は、フルラインタイプのカラーインクジェット記録ヘッドであり、記録データに従ってインクを吐出する吐出口が、
図1におけるy方向に沿って記録媒体Sの幅に相当する分だけ複数配列されている。記録ヘッド8が待機位置にあるとき、記録ヘッド8の吐出口面8aは、
図1のように鉛直下方を向きキャップユニット10によってキャップされている。記録動作を行う際は、後述するプリントコントローラ202によって、吐出口面8aがプラテン9と対向するように記録ヘッド8の向きが変更される。プラテン9は、y方向に延在する平板によって構成され、記録ヘッド8によって記録動作が行われる記録媒体Sを背面から支持する。記録ヘッド8の待機位置から記録位置への移動については、後に詳しく説明する。
【0015】
インクタンクユニット14は、記録ヘッド8へ供給される4色のインクをそれぞれ貯留する。インク供給ユニット15は、インクタンクユニット14と記録ヘッド8を接続する流路の途中に設けられ、記録ヘッド8内のインクの圧力及び流量を適切な範囲に調整する。本実施形態では循環型のインク供給系を採用しており、インク供給ユニット15は記録ヘッド8へ供給されるインクの圧力と記録ヘッド8から回収されるインクの流量を適切な範囲に調整する。
【0016】
メンテナンスユニット16は、キャップユニット10とワイピングユニット17を備え、所定のタイミングにこれらを作動させて、記録ヘッド8に対するメンテナンス動作を行う。メンテナンス動作については後に詳しく説明する。
【0017】
図2は、記録装置1における制御構成を示すブロック図である。制御構成は、主にプリント部2を統括するプリントエンジンユニット200と、スキャナ部3を統括するスキャナエンジンユニット300と、記録装置1全体を統括するコントローラユニット100によって構成されている。プリントコントローラ202は、コントローラユニット100のメインコントローラ101の指示に従ってプリントエンジンユニット200の各種機構を制御する。スキャナエンジンユニット300の各種機構は、コントローラユニット100のメインコントローラ101によって制御される。以下に制御構成の詳細について説明する。
【0018】
コントローラユニット100において、CPUにより構成されるメインコントローラ101は、ROM107に記憶されているプログラムや各種パラメータに従って、RAM106をワークエリアとしながら記録装置1全体を制御する。例えば、ホストI/F102またはワイヤレスI/F103を介してホスト装置400から印刷ジョブが入力されると、メインコントローラ101の指示に従って、画像処理部108が受信した画像データに対して所定の画像処理を施す。そして、メインコントローラ101はプリントエンジンI/F105を介して、画像処理を施した画像データをプリントエンジンユニット200へ送信する。
【0019】
なお、記録装置1は無線通信や有線通信を介してホスト装置400から画像データを取得しても良いし、記録装置1に接続された外部記憶装置(USBメモリ等)から画像データを取得しても良い。無線通信や有線通信に利用される通信方式は限定されない。例えば、無線通信に利用される通信方式として、Wi-Fi(Wireless Fidelity)(登録商標)やBluetooth(登録商標)が適用可能である。また、有線通信に利用される通信方式としては、USB(Universal Serial Bus)等が適用可能である。また、例えばホスト装置400から読取コマンドが入力されると、メインコントローラ101は、スキャナエンジンI/F109を介してこのコマンドをスキャナ部3に送信する。
【0020】
操作パネル104は、ユーザが記録装置1に対して入出力を行うための機構である。ユーザは、操作パネル104を介してコピーやスキャン等の動作を指示したり、印刷モードを設定したり、記録装置1の情報を認識したりすることができる。
【0021】
プリントエンジンユニット200において、CPUにより構成されるプリントコントローラ202は、ROM203に記憶されているプログラムや各種パラメータに従って、RAM204をワークエリアとしながら、プリント部2が備える各種機構を制御する。コントローラI/F201を介して各種コマンドや画像データが受信されると、プリントコントローラ202は、これを一旦RAM204に保存する。記録ヘッド8が記録動作に利用できるように、プリントコントローラ202は画像処理コントローラ205に、保存した画像データを記録データへ変換させる。記録データが生成されると、プリントコントローラ202は、ヘッドI/F206を介して記録ヘッド8に記録データに基づく記録動作を実行させる。この際、プリントコントローラ202は、搬送制御部207を介して
図1に示す給送ユニット6A、6B、搬送ローラ7、排出ローラ12、フラッパ11を駆動して、記録媒体Sを搬送する。プリントコントローラ202の指示に従って、記録媒体Sの搬送動作に連動して記録ヘッド8による記録動作が実行され、印刷処理が行われる。
【0022】
ヘッドキャリッジ制御部208は、記録装置1のメンテナンス状態や記録状態といった動作状態に応じて記録ヘッド8の向きや位置を変更する。インク供給制御部209は、記録ヘッド8へ供給されるインクの圧力が適切な範囲に収まるように、インク供給ユニット15を制御する。メンテナンス制御部210は、記録ヘッド8に対するメンテナンス動作を行う際に、メンテナンスユニット16におけるキャップユニット10やワイピングユニット17の動作を制御する。
【0023】
スキャナエンジンユニット300においては、メインコントローラ101が、ROM107に記憶されているプログラムや各種パラメータに従って、RAM106をワークエリアとしながら、スキャナコントローラ302のハードウェアリソースを制御する。これにより、スキャナ部3が備える各種機構は制御される。例えば、コントローラI/F301を介してメインコントローラ101がスキャナコントローラ302内のハードウェアリソースを制御することにより、ユーザによってADFに搭載された原稿を、搬送制御部304を介して搬送し、センサ305によって読み取る。そして、スキャナコントローラ302は読み取った画像データをRAM303に保存する。なお、プリントコントローラ202は、上述のように取得された画像データを記録データに変換することで、記録ヘッド8に、スキャナコントローラ302で読み取った画像データに基づく記録動作を実行させることが可能である。
【0024】
図3は、記録装置1が記録状態にあるときを示す。
図1に示した待機状態と比較すると、キャップユニット10が記録ヘッド8の吐出口面8aから離間し、吐出口面8aがプラテン9と対向している。本実施形態において、プラテン9の平面は水平方向に対して約45度傾いており、記録位置における記録ヘッド8の吐出口面8aも、プラテン9との距離が一定に維持されるように水平方向に対して約45度傾いている。
【0025】
記録ヘッド8を
図1に示す待機位置から
図3に示す記録位置に移動する際、プリントコントローラ202は、メンテナンス制御部210を用いて、キャップユニット10を
図3に示す退避位置まで降下させる。これにより、記録ヘッド8の吐出口面8aは、キャップ部材10aと離間する。その後、プリントコントローラ202は、ヘッドキャリッジ制御部208を用いて記録ヘッド8の鉛直方向の高さを調整しながら45度回転させ、吐出口面8aをプラテン9と対向させる。記録動作が完了し、記録ヘッド8が記録位置から待機位置に移動する際は、プリントコントローラ202によって上記と逆の工程が行われる。
【0026】
次に、プリント部2における記録媒体Sの搬送経路について説明する。記録コマンドが入力されると、プリントコントローラ202は、まず、メンテナンス制御部210およびヘッドキャリッジ制御部208を用いて、記録ヘッド8を
図3に示す記録位置に移動する。その後、プリントコントローラ202は搬送制御部207を用い、記録コマンドに従って第1給送ユニット6Aおよび第2給送ユニット6Bのいずれかを駆動し、記録媒体Sを給送する。
【0027】
図4(a)~(c)は、第1カセット5Aに収容されているA4サイズの記録媒体Sが給送されるときの搬送経路を示す図である。第1カセット5A内の1番上に積載された記録媒体Sは、第1給送ユニット6Aによって2枚目以降の記録媒体から分離され、搬送ローラ7とピンチローラ7aにニップされながら、プラテン9と記録ヘッド8の間の記録領域Pに向けて搬送される。
図4(a)は、記録媒体Sの先端が記録領域Pに到達する直前の搬送状態を示す。記録媒体Sの進行方向は、第1給送ユニット6Aに給送されて記録領域Pに到達する間に、水平方向(x方向)から、水平方向に対して約45度傾いた方向に変更される。
【0028】
記録領域Pでは、記録ヘッド8に設けられた複数の吐出口から記録媒体Sに向けてインクが吐出される。インクが付与される領域の記録媒体Sは、プラテン9によってその背面が支持されており、吐出口面8aと記録媒体Sの距離が一定に保たれている。インクが付与された後の記録媒体Sは、搬送ローラ7と拍車7bに案内されながら、先端が右に傾いているフラッパ11の左側を通り、ガイド18に沿って記録装置1の鉛直方向上方へ搬送される。
図4(b)は、記録媒体Sの先端が記録領域Pを通過して鉛直方向上方に搬送される状態を示す。記録媒体Sの進行方向は、水平方向に対し約45度傾いた記録領域Pの位置から、搬送ローラ7と拍車7bによって鉛直方向上方に変更されている。
【0029】
記録媒体Sは、鉛直方向上方に搬送された後、排出ローラ12と拍車7bによって排出トレイ13に排出される。
図4(c)は、記録媒体Sの先端が排出ローラ12を通過して排出トレイ13に排出される状態を示す。排出された記録媒体Sは、記録ヘッド8によって画像が記録された面を下にした状態で、排出トレイ13上に保持される。
【0030】
図5(a)~(c)は、第2カセット5Bに収容されているA3サイズの記録媒体Sが給送されるときの搬送経路を示す図である。第2カセット5B内の1番上に積載された記録媒体Sは、第2給送ユニット6Bによって2枚目以降の記録媒体から分離され、搬送ローラ7とピンチローラ7aにニップされながら、プラテン9と記録ヘッド8の間の記録領域Pに向けて搬送される。
【0031】
図5(a)は、記録媒体Sの先端が記録領域Pに到達する直前の搬送状態を示す。第2給送ユニット6Bに給送されて記録領域Pに到達するまでの搬送経路には、複数の搬送ローラ7とピンチローラ7aおよびインナーガイド19が配されることで、記録媒体SはS字上に湾曲されてプラテン9まで搬送される。
【0032】
その後の搬送経路は、
図4(b)および(c)で示したA4サイズの記録媒体Sの場合と同様である。
図5(b)は、記録媒体Sの先端が記録領域Pを通過して鉛直方向上方に搬送される状態を示す。
図5(c)は、記録媒体Sの先端が排出ローラ12を通過して排出トレイ13に排出される状態を示す。
【0033】
図6(a)~(d)は、A4サイズの記録媒体Sの裏面(第2面)に対して記録動作(両面記録)を行う場合の搬送経路を示す。両面記録を行う場合、第1面(表面)を記録した後に第2面(裏面)に記録動作を行う。第1面を記録する際の搬送工程は
図4(a)~(c)と同様であるので、ここでは説明を省略する。以後、
図4(c)以後の搬送工程について説明する。
【0034】
記録ヘッド8による第1面への記録動作が完了し、記録媒体Sの後端がフラッパ11を通過すると、プリントコントローラ202は、搬送ローラ7を逆回転させて記録媒体Sを記録装置1の内部へ搬送する。この際、フラッパ11は、不図示のアクチュエータによってその先端が左側に傾くように制御されるため、記録媒体Sの先端(第1面の記録動作における後端)はフラッパ11の右側を通過して鉛直方向下方へ搬送される。
図6(a)は、記録媒体Sの先端(第1面の記録動作における後端)が、フラッパ11の右側を通過する状態を示す。
【0035】
その後記録媒体Sは、インナーガイド19の湾曲した外周面に沿って搬送され、再び記録ヘッド8とプラテン9の間の記録領域Pに搬送される。この際、記録ヘッド8の吐出口面8aに、記録媒体Sの第2面が対向する。
図6(b)は、第2面の記録動作のために、記録媒体Sの先端が記録領域Pに到達する直前の搬送状態を示す。
【0036】
その後の搬送経路は、
図4(b)および4(c)で示した第1面記録の場合と同様である。
図6(c)は、記録媒体Sの先端が記録領域Pを通過して鉛直方向上方に搬送される状態を示す。この際、フラッパ11は、不図示のアクチュエータにより先端が右側に傾いた位置に移動するように制御される。
図6(d)は、記録媒体Sの先端が排出ローラ12を通過して排出トレイ13に排出される状態を示す。
【0037】
次に、記録ヘッド8に対するメンテナンス動作について説明する。
図1でも説明したように、本実施形態のメンテナンスユニット16は、キャップユニット10とワイピングユニット17とを備え、所定のタイミングにこれらを作動させてメンテナンス動作を行う。
【0038】
図7は、記録装置1がメンテナンス状態のときの図である。記録ヘッド8を
図1に示す待機位置から
図7に示すメンテナンス位置に移動する際、プリントコントローラ202は、記録ヘッド8を鉛直方向において上方に移動させるとともにキャップユニット10を鉛直方向下方に移動させる。そして、プリントコントローラ202は、ワイピングユニット17を退避位置から
図7における右方向に移動させる。その後、プリントコントローラ202は、記録ヘッド8を鉛直方向下方に移動させメンテナンス動作が可能なメンテナンス位置に移動させる。
【0039】
一方、記録ヘッド8を
図3に示す記録位置から
図7に示すメンテナンス位置に移動する際、プリントコントローラ202は、記録ヘッド8を45度回転させつつ鉛直方向上方に移動させる。そして、プリントコントローラ202は、ワイピングユニット17を退避位置から右方向に移動させる。その後プリントコントローラ202は、記録ヘッド8を鉛直方向下方に移動させて、メンテナンスユニット16によるメンテナンス動作が可能なメンテナンス位置に移動させる。
【0040】
図8(a)はメンテナンスユニット16が待機ポジションにある状態を示す斜視図であり、
図8(b)はメンテナンスユニット16がメンテナンスポジションにある状態を示す斜視図である。
図8(a)は
図1に対応し、
図8(b)は
図7に対応している。記録ヘッド8が待機位置にあるとき、メンテナンスユニット16は
図8(a)に示す待機ポジションにあり、キャップユニット10は鉛直方向上方に移動しており、ワイピングユニット17はメンテナンスユニット16の内部に収納されている。キャップユニット10はy方向に延在する箱形のキャップ部材10aを有し、これを記録ヘッド8の吐出口面8aに密着させることにより、吐出口からのインクの蒸発を抑制することができる。また、キャップユニット10は、キャップ部材10aに予備吐出等で吐出されたインクを回収し、回収したインクを不図示の吸引ポンプに吸引させる機能も備えている。
【0041】
一方、
図8(b)に示すメンテナンスポジションにおいて、キャップユニット10は鉛直方向下方に移動しており、ワイピングユニット17がメンテナンスユニット16から引き出されている。ワイピングユニット17は、ブレードワイパユニット171とバキュームワイパユニット172の2つのワイパユニットを備えている。
【0042】
ブレードワイパユニット171には、吐出口面8aをx方向に沿ってワイピングするためのブレードワイパ171aが吐出口の配列領域に相当する長さだけy方向に配されている。ブレードワイパユニット171を用いてワイピング動作を行う際、ワイピングユニット17は、記録ヘッド8がブレードワイパ171aに当接可能な高さに位置決めされた状態で、ブレードワイパユニット171をx方向に移動する。この移動により、吐出口面8aに付着するインクなどはブレードワイパ171aに拭き取られる。
【0043】
ブレードワイパ171aが収納される際のメンテナンスユニット16の入り口には、ブレードワイパ171aに付着したインクを除去するとともにブレードワイパ171aにウェット液を付与するためのウェットワイパクリーナ16aが配されている。ブレードワイパ171aは、メンテナンスユニット16に収納される度にウェットワイパクリーナ16aによって付着物が除去されウェット液が塗布される。そして、次に吐出口面8aをワイピングしたときにウェット液を吐出口面8aに転写し、吐出口面8aとブレードワイパ171a間の滑り性を向上させている。
【0044】
一方、バキュームワイパユニット172は、y方向に延在する開口部を有する平板172aと、開口部内をy方向に移動可能なキャリッジ172bと、キャリッジ172bに搭載されたバキュームワイパ172cとを有する。バキュームワイパ172cは、キャリッジ172bの移動に伴って吐出口面8aをy方向にワイピング可能に配されている。バキュームワイパ172cの先端には、不図示の吸引ポンプに接続された吸引口が形成されている。このため、吸引ポンプを作動させながらキャリッジ172bをy方向に移動すると、記録ヘッド8の吐出口面8aに付着したインク等は、バキュームワイパ172cによって拭き寄せられながら吸引口に吸い込まれる。この際、平板172aと開口部の両端に設けられた位置決めピン172dは、バキュームワイパ172cに対する吐出口面8aの位置合わせに利用される。
【0045】
本実施形態では、ブレードワイパユニット171によるワイピング動作を行いバキュームワイパユニット172によるワイピング動作を行わない第1のワイピング処理と、両方のワイピング処理を順番に行う第2のワイピング処理を実施することができる。第1のワイピング動作を行う際、プリントコントローラ202は、まず、記録ヘッド8を
図7のメンテナンス位置よりも鉛直方向上方に退避させた状態で、ワイピングユニット17をメンテナンスユニット16から引き出す。そして、プリントコントローラ202は、記録ヘッド8をブレードワイパ171aに当接可能な位置まで鉛直方向下方に移動させた後、ワイピングユニット17をメンテナンスユニット16内へ移動させる。この移動により、吐出口面8aに付着するインク等はブレードワイパ171aに拭き取られる。すなわち、ブレードワイパ171aは、メンテナンスユニット16から引き出された位置からメンテナンスユニット16内へ移動する際に吐出口面8aをワイピングする。
【0046】
ブレードワイパユニット171が収納されると、プリントコントローラ202は、次にキャップユニット10を鉛直方向上方に移動させ、キャップ部材10aを記録ヘッド8の吐出口面8aに密着させる。そして、プリントコントローラ202は、その状態で記録ヘッド8を駆動して予備吐出を行わせ、キャップ部材10a内に回収されたインクを吸引ポンプによって吸引する。
【0047】
一方、第2のワイピング処理を行う際、プリントコントローラ202は、まず、記録ヘッド8を
図7のメンテナンス位置よりも鉛直方向上方に退避させた状態で、ワイピングユニット17をメンテナンスユニット16からスライドさせて引き出す。そして、プリントコントローラ202は、記録ヘッド8をブレードワイパ171aに当接可能な位置まで鉛直方向下方に移動させた後、ワイピングユニット17をメンテナンスユニット16内へ移動させる。これにより、ブレードワイパ171aによるワイピング動作が吐出口面8aに対して行われる。次に、プリントコントローラ202は、再び記録ヘッド8を
図7のメンテナンス位置よりも鉛直方向上方に退避させた状態で、ワイピングユニット17をメンテナンスユニット16からスライドさせて所定位置まで引き出す。続いて、プリントコントローラ202は、記録ヘッド8を
図7に示すワイピング位置に下降させながら、平板172aと位置決めピン172dを用いて吐出口面8aとバキュームワイパユニット172の位置決めを行う。その後、プリントコントローラ202は、上述したバキュームワイパユニット172によるワイピング動作を実行する。プリントコントローラ202は、記録ヘッド8を鉛直方向上方に退避させ、ワイピングユニット17を収納した後、第1のワイピング処理と同様に、キャップユニット10によるキャップ部材内への予備吐出と回収したインクの吸引動作を行う。
【0048】
図9は、本実施形態のインクジェット記録装置1で採用する循環型インク供給システムを示す図である。循環型インク供給システムは、インクタンクユニット14、インク供給ユニット15、記録ヘッド8が連結されて構成される。ここでは、1色のインクについての循環システムを示しているが、実際にはこのような循環システムが、インク色ごとに用意されている。
【0049】
インクタンクユニット14には、比較的大容量のインクを貯留するメインタンク141が設置されている。インク供給ユニット15には、バッファタンク151と、これに連結する3つのポンプP0、P1、P2が含まれている。循環ポンプP1およびP2は、供給システム中のインクが循環ポンプP1からバッファタンク151を経由して循環ポンプP2方向へ移動するように、循環経路全体のインクを流動させる。補充ポンプP0は、バッファタンク151内のインク残量が少なくなった時に作動し、メインタンク141より新たなインクを補充する。
【0050】
記録ヘッド8は、インク吐出ユニット80と、循環ユニット81と、負圧制御ユニット82を有している。インク吐出ユニット80は吐出データに従ってインク滴を吐出するための構造を備えている。本実施形態では、個々の記録素子にヒータを配備し、当該ヒータに電圧を印加することによってインク内に膜沸騰を生じさせ、泡の成長エネルギに伴って吐出口からインクを吐出させる方式を採用する。負圧制御ユニット82は、インク吐出ユニット80において、インクが正常な方向に適切な圧力で流れるように調整する。インク循環ユニット81は、バッファタンク151、負圧制御ユニット82およびインク吐出ユニット80の間で、インクの供給や回収を制御する。
【0051】
バッファタンク151から循環ユニット81に供給されたインクは、フィルタ811を介して負圧制御ユニット82に供給される。負圧制御ユニット82には、高流圧でインクを流出する負圧制御ユニットHと、低流圧でインクを流出する負圧制御ユニットLが配されている。負圧制御ユニットHから流出されたインクと負圧制御ユニットLより流出されたインクは、それぞれ別の経路で循環ユニット81を介しインク吐出ユニット80に供給される。
【0052】
インク吐出ユニット80には、複数のノズルがy方向に配列される記録素子基板80aが更にy方向に複数配置され、長尺のノズル列が形成されている。また、負圧制御ユニットHによって高流圧で供給されるインクを導くための共通供給流路80bと、負圧制御ユニットLによって低流圧で供給されるインクを導くための共通回収流路80cも、インク吐出ユニット80内に形成されている。さらに個々の記録素子基板80aには、共通供給流路80bと接続する個別流路と、共通回収流路80cと接続する個別流路が形成されている。このため、個々の記録素子基板80aには、高圧力を有する共通供給流路80bより流入し、低圧力を有する共通供給流路80cへ流出するような、インクの流れが生成される。そして、記録素子基板80aで吐出動作が行われると、循環するインクの一部は吐出によって消費されるが、残りのインクは共通回収流路80cを経て循環ユニット81に還流され、循環ポンプP1を経てバッファタンク151に戻される。
【0053】
このような循環型インク供給システムにおいては、記録素子基板80aの吐出動作で発生する熱が循環するインクによって奪われるので、吐出動作が連続して行われても蓄熱に伴う吐出不良を抑えることができる。また、吐出動作に伴って発生する泡や増粘インク、さらに異物などが停滞しにくい構成のため、すべてのノズルの吐出状態を良好に維持することができる。
【0054】
特に、吐出動作に伴って発生した泡は上方へと移動する性質があるため、本実施形態のように吐出口面8a即ちインク吐出ユニット80を傾けた状態で記録動作を行うと、特定の記録素子基板80aや特定の吐出口に泡が滞留するおそれが生じる。しかしながら、循環型インク供給システムを採用すれば、発生した泡も共通回収流路80cを介して確実に回収できるため、吐出動作時における記録ヘッド8の姿勢の自由度も増す。結果として、
図3のような記録位置も可能となり装置の小型化することができる。
【0055】
但し、その一方で、メンテナンス位置においては、個々の記録素子基板80aおよび個々の吐出口に対し重力の影響を均等に作用させるために吐出口面8aは水平になっていることが望ましい。このため、記録ヘッド8は、
図1に示す待機位置、
図3に示す記録位置、および
図7に示すメンテナンス位置の間を適宜移動する必要が生じ、簡潔で短時間に移動可能な構成が求められる。
【0056】
図10(a)~(e)は、待機位置、記録位置およびメンテナンス位置の間で記録ヘッド8を移動させる機構を説明するための図である。
図10(a)は
図1の待機位置、
図10(b)は待機位置から記録位置への第1遷移図、
図10(c)は待機位置から記録位置への第2遷移図を示す。また、
図10(d)は
図3の記録位置、
図10(e)は
図7のメンテナンス位置にそれぞれ相当する。
【0057】
記録ヘッド8のy方向両端の側面には、他部材との係合部となる第1ピン801、第2ピン802、第3ピン803が突出している。第1ピン801は図における記録ヘッド8の左側上部に設けられ、第1本体ガイド501に係合し、第1ガイド501aに沿って移動可能である。第1ガイド501aの上部は鉛直方向にのびる直線形状となっている。第1ガイド501aの下部は
図10における右側に屈曲する形状となっており、第1ピン801をこの屈曲形状に沿って移動させることによって記録ヘッド8を回転移動させる。
【0058】
第2ピン802は記録ヘッド8の下部に設けられ、第2本体ガイド502に係合し、第2ガイド502aに沿って移動可能である。第2ガイド502aの一部は、
図10における右下に向けてS字状に屈曲する形状となっており、第2ピン802をこの屈曲形状に沿って移動させることによって記録ヘッド8を回転移動させる。第1本体ガイド501および第2本体ガイド502は記録装置1に固定されている。
【0059】
第3ピン803は記録ヘッド8の上部に設けられ、駆動ギア504によって装置本体に対してスライドするスライド部材503に係合し、第3ガイド503aに沿って移動可能である。第3ガイド503aの一部は山型に屈曲しており、第3ピン803が第3ガイド503aに沿って
図10における左側に向けて移動することによって記録ヘッド8が回転移動する。
【0060】
スライド部材503はL字状ガイド部材であり、その左側面に形成されているギアレール503bが装置本体に固定された駆動ギア504と噛合っており、駆動ギア504の回転に伴い上下にスライド可能になっている。このとき、記録ヘッド8の第3ピン803が第3ガイド503aに支持されているため、記録ヘッド8はスライド部材503とともに上下に移動する。この上下移動に伴って、第1ピン801は第1ガイド501aに沿って、第2ピン802は第2ガイド502aに沿ってそれぞれ移動する。なお、駆動ギア504の回転方向および回転量は、プリントコントローラ202の指示のもと、ヘッドキャリッジ制御部208によって制御される。
【0061】
図10(a)に示す待機位置において、吐出口面8aはキャップ10によりキャッピングされる。駆動ギア504はギアレール503bの途中に位置している。第1ピン801は第1ガイド501aの直線部分に位置し、第2ピン802は第2ガイド502aの直線部分に位置するため、記録ヘッド8の吐出口面8aは水平状態にある。
【0062】
記録ヘッド8が
図10(a)に示す待機位置から
図10(d)に示す記録位置に移行する際、プリントコントローラ202は、駆動ギア504を図の時計回りに回転させる。
図10(b)は、駆動ギア504の回転によってスライド部材503が鉛直下方へスライドしている途中の第1遷移図を示す。
【0063】
スライド部材503のスライドによって、第1ピン801は第1ガイド501aの直線部分の途中まで下降し、第2ピン802は第2ガイド502aのS字状の屈曲形状の途中に位置する。そのため記録ヘッド8は、鉛直下方への移動に加えて、第2ガイド502aの屈曲に沿って回転移動を始める。
図10(c)は、
図10(b)からさらにスライド部材503が鉛直下方へスライドしている途中の第2遷移図を示す。
【0064】
第1ピン801は第1ガイド501aの直線部分を更に下降し、第2ピン802は第2ガイド502aのS字状の屈曲形状の途中に位置する。記録ヘッド8は、第2ガイド502aの屈曲に沿って移動したことにより、記録位置と同じ約45度まで回転移動が完了している。スライド部材503がさらに鉛直下方へスライドすることによって、記録ヘッド8は
図10(c)に示す第2遷移位置から右下へ向けて直線移動することで、
図10(d)に示す記録位置に移動する。
【0065】
記録ヘッド8が右下へ直線移動できるように、第1ガイド501aの下部と第2ガイド502aの下部のガイド方向は略平行となっている。第2遷移位置から記録位置への直線移動によって、プラテン9に対する記録ヘッドの位置決めが行われる。上述した移動によって、駆動ギア504をギアレール503bの上端まで移動させる。
【0066】
上述した移動の際、第1ピン801および第2ピン802はそれぞれ屈曲する第1ガイド501aと第2ガイド502aに沿って下降しながら右方向に移動する。よって、記録ヘッド8が記録位置に位置するときの第1ピン801と第2ピン802の水平方向成分の相対的な距離は、記録ヘッド8が待機位置に位置するときの相対的な距離よりも大きくなる。反対に、記録ヘッド8が記録位置に位置するときの第1ピン801と第2ピン802の鉛直方向成分の相対的な距離は、記録ヘッド8が待機位置に位置するときの相対的な距離よりも小さくなる。結果、記録ヘッド8全体が反時計回りに約45度回転し、その吐出口面8aはプラテン9と対向する。
【0067】
一方、このような回転に伴い、第3ピン803は第3ガイド503aに沿って図の左方向に移動する。第3ピン803が第3ガイド503aに当接することで、約45度回転した記録ヘッドの位置を固定することができる。
【0068】
記録ヘッド8が
図10(b)の記録位置から
図10(e)に示すメンテナンス位置に移動する際、プリントコントローラ202は、駆動ギア504を反時計回りに回転させる。メンテナンス位置において、吐出口面8aはブレードワイパユニット171によってワイピングされる。駆動ギア504の回転によってスライド部材503は鉛直上方へスライドし、第2遷移図及び第1遷移図の状態を経由して、駆動ギア504がギアレール503bの下端に位置するようにする。これにより、第1ピン801は第1ガイド501aの直線部分に戻り、第2ピン802は第2ガイド502aの直線部分に戻る。また、記録ヘッド8は
図10(a)に示す待機位置を通過して、各ガイドのほぼ上端に到達する。一方、第3ピン803は第3ガイド503aの右端部に戻る。すなわち、記録ヘッド8は時計回り方向に回転しながら鉛直上方に移動し、
図1に示す待機位置よりも更に上方において吐出口面8aが水平となる向きで停止する。
【0069】
なお、
図10(a)と10(e)では、メンテナンス位置と待機位置とで記録ヘッド8の鉛直方向の位置を比較するためにキャップユニット10を同じ高さに示している。しかし、待機位置にある記録ヘッド8がメンテナンス位置に移動する際には、実際のキャップユニット10は、記録ヘッド8の鉛直方向上方への移動と並行して吐出口面8aから離間するように鉛直方向下方に移動している。
【0070】
以上説明したように本実施形態によれば、記録ヘッド8の第1ピン801、第2ピン802及び第3ピン803が、第1ガイド501a、第2ガイド502a及び第3ガイド503aそれぞれに沿って移動することにより、記録ヘッド8の位置と向きが変更される。そしてこのような記録ヘッド8の位置と向きの変更すなわち記録ヘッド8の直線移動と回転移動は、1つの駆動源および1つの駆動ギア504の回転によって同時に進行されている。結果、直線移動を行うための機構と回転移動を行うための機構とが個別に用意される構成に比べ、より簡易な構成のもと、記録ヘッド8の移動を短時間で行うことが可能となる。
【0071】
図11(a)~(d)は、
図10(a)~(e)に示す記録ヘッド8の移動機構の変形例である。本変形例は、主に第2ガイド502a及び第3ガイド503aの形状が異なる。また、第2ガイド502aの形状に合わせて、第2ピン802も異なる位置に配されている。
図11(a)は待機位置、
図11(b)は待機位置から記録位置へ移動する際の遷移図、
図11(c)は記録位置、
図11(d)はメンテナンス位置にそれぞれ相当する。
【0072】
本変形例において第2ガイド502aは緩やかな屈曲形状を有し、下部は第1ガイド501aの下部と略平行にのびる直線形状である。第2ガイド502aが
図10よりも下方に設けられていることから、第2ピン802も
図10より下方に設けられている。第3ガイド503aは、
図10と比較して第3ピン803が直線的に移動可能な形状となっている。
図11の変形例は、
図10と比較して第2ピン802及び第3ピン803の鉛直方向における移動が少ないため、よりスムーズに記録ヘッド8を待機位置から記録位置へ移動させることが可能である。
【0073】
なお、上記実施形態では、記録位置では吐出口面8aが水平方向から45度傾いた向きに、メンテナンス位置では吐出口面8aが水平となる向きに記録ヘッド8を配置した。しかし、本発明はこのような角度に限定されるものではない。記録位置における吐出口面8aが、メンテナンス位置における吐出口面8aよりも鉛直に近い姿勢であれば、記録ヘッド8の移動を簡易な構成で行う本発明は有効に機能する。
【0074】
また、以上では、記録位置とメンテナンス位置との間で移動する途中に、吐出口面8aが水平である待機位置を設ける構成で説明したが、本発明はこのような構成に限定されるものでもない。待機位置において吐出口面8aは水平と鉛直の間であってもよいし、待機位置は記録位置またはメンテナンス位置のどちらか一方と同じ位置であっても良い。
【0075】
さらに、以上説明した実施形態では、インク内に膜沸騰を生じさせ、泡の成長エネルギによって吐出口からインクを吐出させる方式の記録ヘッドで説明したが、本発明はこのような記録ヘッドに限定されるものではない。また、循環型インク供給システムについても、本発明において必須の構成ではない。
【0076】
但し、泡の成長エネルギによってインクを吐出させる方式の記録ヘッドにおいては、循環型インク供給システムによって泡を除去することが安定した吐出のために有効であり、且つ循環型インク供給システムによって記録時における記録ヘッドの姿勢の自由度も増す。すなわち、上記方式の記録ヘッドと循環型インク供給システムの組み合わせによって、
図3の姿勢での記録動作と記録装置の小型化が実現され、本発明のような簡易な構成で記録ヘッドを移動させる機能の有効性も高まる。
【符号の説明】
【0077】
1 インクジェット記録装置
8 記録ヘッド
8a 吐出口面
9 プラテン
16 メンテナンスユニット
207 搬送制御部
208 ヘッドキャリッジ制御部
S 記録媒体