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特許7451740表示素子用封止剤、その硬化物および表示装置
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  • 特許-表示素子用封止剤、その硬化物および表示装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】表示素子用封止剤、その硬化物および表示装置
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/844 20230101AFI20240311BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20240311BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20240311BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
H10K50/844
H10K59/10
G09F9/30 309
G09F9/30 365
C09K3/10 B
C09K3/10 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022550605
(86)(22)【出願日】2021-09-16
(86)【国際出願番号】 JP2021034147
(87)【国際公開番号】W WO2022059738
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2020157659
(32)【優先日】2020-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】富田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】舘野 航太郎
【審査官】小久保 州洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/082996(WO,A1)
【文献】特開2016-222840(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0372704(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107936906(CN,A)
【文献】特開2012-092273(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC H10K 50/844
H10K 50/10
H10K 59/10
G09F 9/30
C09K 3/10
DB名 CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(A)~(C):
(A)重合性化合物
(B)重合開始剤
(C)酸化防止剤
を含有する表示素子用封止剤であって、
当該表示素子用封止剤の硬化物のガラス転移温度が90℃以上200℃未満であり、
前記成分(A)は、脂環構造を有するジ(メタ)アクリル化合物および鎖状構造を有するジ(メタ)アクリル化合物を含み、前記表示素子用封止剤中の前記脂環構造を有するジ(メタ)アクリル化合物の含有量は、前記重合性化合物100質量部に対し、25質量部以上である、表示素子用封止剤。
【請求項2】
前記成分(C)がヒンダードフェノール化合物である、請求項1に記載の表示素子用封止剤。
【請求項3】
前記成分(C)が、ジブチルヒドロキシトルエンおよびペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]の少なくとも1つである、請求項1または2に記載の表示素子用封止剤。
【請求項4】
有機EL表示素子の封止用である、請求項1乃至いずれか1項に記載の表示素子用封止剤。
【請求項5】
請求項1乃至いずれか1項に記載の表示素子用封止剤を硬化してなる硬化物。
【請求項6】
基板と、
前記基板上に配置された表示素子と、
前記表示素子を被覆する封止層と、
を含み、
前記封止層が、請求項1乃至いずれか1項に記載の表示素子用封止剤の硬化物により構成されている、表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示素子用封止剤、その硬化物および表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
表示素子の分野において、封止剤の特性を向上させるための検討がなされている。以下、有機EL表示装置を例に挙げて説明する。
有機EL素子は、消費電力が少ないことから、ディスプレイや照明装置などに用いられつつある。有機EL素子は、大気中の水分や酸素によって劣化しやすいことから、各種シール部材で封止されて使用されており、実用化に向けては各種シール部材の水分や酸素の耐久性の向上が望まれている。
【0003】
有機ELの封止方法としては、たとえば、有機EL素子上に1層目の無機材料膜を被覆させた上に樹脂層を形成し、さらに2層目の無機材料膜を被覆させる方法が用いられている。上記無機材料膜によって被覆する方法としては、たとえば、スパッタリング法や電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマCVD法等によって、窒化珪素や酸化珪素からなる無機材料膜を形成する方法が挙げられる。
【0004】
特許文献1(国際公開第2018/70488号)には、有機EL素子封止用に用いた場合に塗布性や低透湿性に優れる組成物を提供するための技術として、特定の(メタ)アクリレートを特定量含む組成物が提案されている。同文献には、「組成物から得られる硬化体のガラス転移温度が200℃以上だと、本実施形態の組成物の硬化体上に無機パッシベーション膜を、CVD等の手法によって成膜する際に、熱膨張により無機パッシベーション膜の成膜ムラによるピンホールの発生が起こらなくなり、有機EL素子の信頼性が向上する」と記載されている(段落0089)。
【0005】
特許文献2(特表2017-523549号公報)においては、耐プラズマ性に優れた有機バリア層を実現することができ、有機発光素子の信頼性を向上できる有機発光素子封止用組成物を提供することを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2018/070488号
【文献】特表2017-523549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らが上記特許文献に記載の技術について検討したところ、特許文献1においては、硬化体のガラス転移温度が高いため、フレキシブル性が要求されるデバイスには適さない場合があると予想される点で、改善の余地があった。
【0008】
また、特許文献2に記載の技術においては、封止用組成物が特定の骨格のシリコン系ジ(メタ)アクリレートを含むため、ガラス転移温度が高く、やはりフレキシブル性が要求されるデバイスには適さない場合があると予想される点で、改善の余地があった。
【0009】
本発明は、耐プラズマ性に優れ、フレキシブル性が高い樹脂層を形成できる、表示素子用封止剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、以下に示す表示素子用封止剤、硬化物および表示装置が提供される。
[1] 以下の成分(A)~(C):
(A)重合性化合物
(B)重合開始剤
(C)酸化防止剤
を含有する表示素子用封止剤であって、
当該表示素子用封止剤の硬化物のガラス転移温度が90℃以上200℃未満である、表示素子用封止剤。
[2] 前記成分(C)がヒンダードフェノール化合物である、[1]に記載の表示素子用封止剤。
[3] 前記成分(C)が、ジブチルヒドロキシトルエンおよびペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]の少なくとも1つである、[1]または[2]に記載の表示素子用封止剤。
[4] 前記成分(A)が(メタ)アクリロイル基を含む化合物である、[1]乃至[3]いずれか1項に記載の表示素子用封止剤。
[5] 有機EL表示素子の封止用である、[1]乃至[4]いずれか1項に記載の表示素子用封止剤。
[6] [1]乃至[5]いずれか1項に記載の表示素子用封止剤を硬化してなる硬化物。
[7] 基板と、
前記基板上に配置された表示素子と、
前記表示素子を被覆する封止層と、
を含み、
前記封止層が、[1]乃至[5]いずれか1項に記載の表示素子用封止剤の硬化物により構成されている、表示装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐プラズマ性に優れ、フレキシブル性が高い樹脂層を形成できる、表示素子用封止剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態における有機EL表示装置の構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には共通の符号を付し、適宜説明を省略する。また、本実施形態において、各成分について、それぞれ、1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、数値範囲を表す「~」は、以上、以下を表し、上限値および下限値をいずれも含む。
【0014】
(表示素子用封止剤)
本実施形態において、表示素子用封止剤(以下、適宜単に「封止剤」とも呼ぶ。)は、素子の封止に用いられる組成物であって、以下の成分(A)~(C)を含み、硬化物のガラス転移温度が90℃以上200℃未満である。
(A)重合性化合物
(B)重合開始剤
(C)ヒンダードアミン
はじめに、封止剤の構成成分について具体例を挙げて説明する。
【0015】
(成分(A))
成分(A)は、重合性化合物である。成分(A)は、重合性の官能基を有する化合物であればよく、好ましくはラジカル重合性の官能基を有する化合物である。
【0016】
ラジカル重合性官能基の具体例として、(メタ)アクリロイル基およびビニル基からなる群から選択される1または2以上の基が挙げられる。硬化性を向上させる観点から、成分(A)が(メタ)アクリロイル基を含む化合物であることが好ましい。
ここで、本明細書において、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基とメタクリロイル基のうちの少なくとも一方を意味する。また、(メタ)アクリルとは、アクリルまたはメタクリルのうちの少なくとも一方を意味する。また、(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートのうちの少なくとも一方を意味する。
【0017】
(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリル化合物の具体例として、モノ(メタ)アクリル化合物、ジ(メタ)アクリル化合物、3官能以上の(メタ)アクリル化合物が挙げられる。
【0018】
モノ(メタ)アクリル化合物の具体例としては、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、4-ターシャルブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレ-ト、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジキシルエチル(メタ)アクリレート、エチルジグリコール(メタ)アクリレート、環状トリメチロールプロパンフォルマルモノ(メタ)アクリレート、イミド(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、エトキシ化コハク酸(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ω-カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、オクチル/デシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、カプロラクトン(メタ)アクリレート、エトキシ化(4)ノニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(350)モノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(550)モノ(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メチルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、トリブロモフェニル(メタ)アクリレート、エトキシ化トリブロモフェニル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレートのエチレンオキサイド付加物、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレートのプロピレンオキサイド付加物、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、3-メタクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド、及び3-(メタ)アクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド等が挙げられる。
【0019】
ジ(メタ)アクリル化合物の具体例として、ジオールのジ(メタ)アクリレート、(ポリ)アルキレングリコールのジ(メタ)アクリレートが挙げられ、さらに具体的には、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(たとえばA-HD-N、新中村化学工業社製)、1,9-ノナンジオールジアクリレート(たとえばA-NOD-N、新中村化学工業社製;ライトアクリレート1,9ND-A、共栄社化学社)、1,10-デカンジオールジアクリレート(たとえばA-DOD-N、新中村化学工業社製)、ネオペンチルグリコールジアクリレート(たとえばA-NPG、新中村化学工業社製;ライトアクリレートNP-A、共栄社化学社製)、エチレングリコールジアクリレート(たとえばSR206NS、アルケマ社製)、ポリエチレングリコールジアクリレート(たとえばA-400、新中村化学工業社製)、ポリプロピレングリコールジアクリレート(たとえばAPG-400、新中村化学工業社製)、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(ジメチロール-トリシクロデカンジアクリレート)(たとえばA-DCP、新中村化学工業社製;ライトアクリレートDCP-A、共栄社化学社製)、1,3-ブタンジオールジメタクリレート(たとえばBG、新中村化学工業社製)、1,4-ブタンジオールジメタクリレート(たとえばBD、新中村化学工業社製)、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート(たとえばHD-N、新中村化学工業社製)、1,9-ノナンジオールジメタクリレート(たとえばNOD-N、新中村化学工業社製)、1,10-デカンジオールジメタクリレート(たとえばDOD-N、新中村化学工業社製)、1,12-ドデカンジオールジアクリレート(たとえばSR262、サートマー社製)ネオペンチルグリコールジメタクリレート(たとえばNPG、新中村化学工業社製)が挙げられる。
【0020】
3官能以上の多官能(メタ)アクリル化合物の具体例として、トリメチロールプロパントリアクリレート(たとえばA-TMPT、新中村化学工業社製;ライトアクリレートTMP-A、共栄社化学社製)、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート(たとえばA-TMPT-EO、新中村化学工業社製)、エトキシ化グリセリントリアクリレート(たとえばA-GLY-6E、新中村化学工業社製)、プロポキシ化グリセリントリアクリレート(たとえばA-GLY-3P、新中村化学工業社製)等の3官能(メタ)アクリル化合物;
ペンタエリスリトールテトラアクリレート(たとえばA-TMMT、新中村化学工業社製)、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(たとえばATM-4E、新中村化学工業社製)、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(たとえばAD-TMP-L、新中村化学工業社製)等の4官能(メタ)アクリル化合物;
ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(たとえばM-402、東亞合成社製)等の5官能(メタ)アクリレート化合物;および
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(たとえばGM66G0H、國精化學社製)等の6官能(メタ)アクリル化合物が挙げられる。
【0021】
表示装置、たとえば有機EL表示装置の長期使用時の耐久性を向上させる観点から、成分(A)は、好ましくは一分子中に2以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリル化合物を含み、より好ましくはジ(メタ)アクリル化合物を含み、さらに好ましくは脂環構造を有するジ(メタ)アクリル化合物および鎖状構造を有するジ(メタ)アクリル化合物を含む。
【0022】
脂環構造を有するジ(メタ)アクリル化合物は、分子構造中に脂環式炭化水素構造を有し、脂環式炭化水素構造における炭素数は、耐熱性向上の観点から、好ましくは4以上であり、より好ましくは5以上、さらに好ましくは6以上であり、また、好ましくは14以下であり、より好ましくは12以下、さらに好ましくは10以下である。
脂環式炭化水素構造は、飽和炭化水素構造であってよいし不飽和炭化水素構造であってもよい。耐熱性向上の観点から、脂環式炭化水素構造は、好ましくは飽和炭化水素構造である。
【0023】
また、脂環式炭化水素構造は、単環式炭化水素構造であってもよいし、縮合環式炭化水素構造や橋架環式炭化水素基構造の多環式炭化水素構造であってもよい。脂環構造を有するジ(メタ)アクリル化合物は、分子構造中にこれらの脂環式炭化水素構造を含む基を含んでもよく、好ましくは脂環式炭化水素構造を含む2価の基を含む。
単環式炭化水素基の具体例として、シクロヘキシレン基、シクロヘキシル基等のシクロアルカン構造を有する基;シクロデカトリエンジイル基、シクロデカトリエン基等のシクロアルケン骨格を有する基が挙げられる。
多環式炭化水素基の具体例として、トリシクロデカンジイル基、ジシクロペンタニル基、ジシクロペンテニル基等のジシクロペンタジエン骨格を有する基;ノルボルナンジイル基、イソボルナンジイル基、ノルボルニル基、イソボルニル基等のノルボルナン骨格を有する基;アダマンタンジイル基、アダマンチル基等のアダマンタン骨格を有する基などが挙げられる。
【0024】
脂環構造を有するジ(メタ)アクリル化合物における環式炭化水素基は、耐プラズマ性向上の観点および低透湿性の観点から、好ましくはジシクロペンタジエン骨格を有する基である。
また、脂環構造を有するジ(メタ)アクリル化合物は、耐プラズマ性向上の観点および低透湿性の観点から、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレートを含み、より好ましくはトリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレートである。
【0025】
封止剤中の脂環構造を有するジ(メタ)アクリル化合物の含有量は、耐熱性向上の観点から、重合性化合物100質量部に対し、好ましくは5質量部以上であり、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは15質量部以上、さらにより好ましくは20質量部以上、よりいっそう好ましくは25質量部以上、さらにまた好ましくは30質量部以上である。
また、インクジェット塗布性をより好ましいものとする観点から、封止剤中の脂環構造を有するジ(メタ)アクリル化合物の含有量は、重合性化合物100質量部に対し、好ましくは60質量部以下であり、より好ましくは58質量部以下、さらに好ましくは56質量部以下、さらにより好ましくは50質量部以下である。
【0026】
鎖状構造を有するジ(メタ)アクリル化合物は、具体的には、分子構造中に鎖状構造を有するとともに、(メタ)アクリル基を2個以上有する(メタ)アクリレートであり、強度向上の観点から、好ましくは(メタ)アクリル基を2個有する(メタ)アクリレートである。
【0027】
鎖状構造を有するジ(メタ)アクリル化合物において、鎖状構造は、直鎖構造であっても、分岐を有する構造であってもよい。
鎖状構造は、インクジェット塗布性をより好ましいものとする観点から、好ましくは直鎖または分岐鎖を有する2価の炭化水素基を含む。2価の炭化水素基の炭素数は、モノマー入手容易性の観点から、たとえば1以上であり、好ましくは2以上、より好ましくは4以上である。また、耐熱性向上の観点から、2価の炭化水素基の炭素数は、好ましくは20以下、より好ましくは14以下である。
【0028】
鎖状構造を有するジ(メタ)アクリル化合物の具体例として、アルカンジオールのジ(メタ)アクリレート、(ポリ)アルキレングリコールのジ(メタ)アクリレートが挙げられ、好ましくはジ(メタ)アクリル化合物の具体例として前述したもののうち、アルカンジオールのジ(メタ)アクリレート、(ポリ)アルキレングリコールのジ(メタ)アクリレートからなる群から選択される1または2以上の化合物である。
耐プラズマ性向上、インクジェット法での塗布安定性向上および低誘電率の効果のバランスを高める観点から、鎖状構造を有するジ(メタ)アクリル化合物は、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレートおよびネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートからなる群から選択される1または2以上の(メタ)アクリレートである。
【0029】
封止剤中の鎖状構造を有するジ(メタ)アクリル化合物の含有量は、インクジェット塗布性をより好ましいものとする観点から、重合性化合物100質量部に対し、好ましくは5質量部以上であり、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは15質量部以上、さらにより好ましくは20質量部以上、よりいっそう好ましくは25質量部以上である。
また、耐プラズマ性向上の観点から、封止剤中の鎖状構造を有するジ(メタ)アクリル化合物の含有量は、重合性化合物100質量部に対し、好ましくは60質量部以下であり、より好ましくは58質量部以下、さらに好ましくは56質量部以下、さらにより好ましくは50質量部以下である。
【0030】
封止剤中の成分(A)の含有量は、硬化物の強度を向上させる観点から、封止剤の全組成に対し、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは85質量%以上、さらにより好ましくは90質量%以上、よりいっそう好ましくは93質量%以上である。
また、封止材料の耐候性を向上させる観点から、封止剤中の成分(A)の含有量は、封止剤の全組成に対し、好ましくは99.9質量%以下であり、より好ましくは99.5質量%以下、さらに好ましくは99質量%以下、よりいっそう好ましくは98質量%以下である。
【0031】
(成分(B))
成分(B)は重合開始剤である。低温で安定的に硬化物を形成する観点から、成分(B)は、好ましくは、紫外線または可視光線の照射によりラジカルまたは酸を発生する化合物である光重合開始剤である。光重合開始剤としては、アシルフォスフィンオキサイド系開始剤、オキシフェニル酢酸エステル系開始剤、ベンゾイルギ酸系開始剤およびヒドロキシフェニルケトン系開始剤等が挙げられる。
【0032】
光重合開始剤の具体例としては、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、4,4'-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、キサントン、チオキサントン、イソプロピルキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2-エチルアントラキノン、アセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-4'-イソプロピルプロピオフェノン、イソプロピルベンゾインエーテル、イソブチルベンゾインエーテル、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、カンファーキノン、ベンズアントロン、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4,4'-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,4,4'-トリ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3',4,4'-テトラ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3',4,4'-テトラ(t-ヘキシルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3'-ジ(メトキシカルボニル)-4,4'-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,4'-ジ(メトキシカルボニル)-4,3'-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、4,4'-ジ(メトキシカルボニル)-3,3'-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2-(4'-メトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(3',4'-ジメトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(2',4'-ジメトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(2'-メトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4'-ペンチルオキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、4-[p-N,N-ジ(エトキシカルボニルメチル)]-2,6-ジ(トリクロロメチル)-s-トリアジン、1,3-ビス(トリクロロメチル)-5-(2'-クロロフェニル)-s-トリアジン、1,3-ビス(トリクロロメチル)-5-(4'-メトキシフェニル)-s-トリアジン、2-(p-ジメチルアミノスチリル)ベンズオキサゾール、2-(p-ジメチルアミノスチリル)ベンズチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール、3,3'-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)、2-(o-クロロフェニル)-4,4',5,5'-テトラフェニル-1,2'-ビイミダゾール、2,2'-ビス(2-クロロフェニル)-4,4',5,5'-テトラキス(4-エトキシカルボニルフェニル)-1,2'-ビイミダゾール、2,2'-ビス(2,4-ジクロロフェニル)-4,4',5,5'-テトラフェニル-1,2'-ビイミダゾール、2,2'-ビス(2,4-ジブロモフェニル)-4,4',5,5'-テトラフェニル-1,2'-ビイミダゾール、2,2'-ビス(2,4,6-トリクロロフェニル)-4,4',5,5'-テトラフェニル-1,2'-ビイミダゾール、3-(2-メチル-2-ジメチルアミノプロピオニル)カルバゾール、3,6-ビス(2-メチル-2-モルフォリノプロピオニル)-9-n-ドデシルカルバゾール、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパノン、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-1-プロパノン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノ-1-プロパノン、2-(ジメチルアミノ)-1-(4-モルホリノフェニル)-2-ベンジル-1-ブタノン、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン、オキシ-フェニル-酢酸2-[2-オキソ-2-フェニル-アセトキシ-エトキシ]-エチルエステル、オキシ-フェニル-酢酸2-[2-ヒドロキシ-エトキシ]-エチルエステル、ベンゾイルギ酸メチル、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィン酸エステル、1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-1,2-オクタンジオン2-(O-ベンゾイルオキシム)]、1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-エタノン-1-(O-アセチルオキシム)などを挙げることができる。
【0033】
これらの中でも、硬化性を向上させる観点から、光重合開始剤は、好ましくは、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパノン、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-1-プロパノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、オキシ-フェニル-酢酸2-[2-オキソ-2-フェニル-アセトキシ-エトキシ]-エチルエステル、オキシ-フェニル-酢酸2-[2-ヒドロキシ-エトキシ]-エチルエステル、ベンゾイルギ酸メチル、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド(TPO)および2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィン酸エステルからなる群から選択される1または2以上の化合物である。
【0034】
光重合開始剤の市販品としては、Irgacure184、Irgacure651、Irgacure127、Irgacure1173、Irgacure500、Irgacure2959、Irgacure754、IrgacureMBF、IrgacureTPO(以上、BASF製)、Omnirad TPO H(IGM Resins社製)などが好ましい。
【0035】
封止剤中の成分(B)の含有量は、硬化性を向上させる観点から、封止剤の全組成に対し、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上、さらにより好ましくは2質量%以上である。
また、封止剤の着色を抑制する観点から、封止剤中の成分(B)の含有量は、封止剤の全組成に対し、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは6質量%以下、さらにより好ましくは5質量%以下である。
【0036】
(成分(C))
成分(C)は、酸化防止剤である。酸化防止剤の具体例としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤を挙げることができる。中でも、耐プラズマ性を向上させる観点から、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく、さらに具体的にはヒンダードフェノール化合物が好ましい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、酸素との反応で生成するラジカルを受け取って安定なフェノキシラジカルに変化するフェノール性水酸基を有する物質である。
【0037】
ヒンダードフェノール化合物としては、ジブチルヒドロキシトルエンすなわち2,6-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-メチルフェノール(和光純薬社製、BHT)、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシトルエン、ペンタエリトリトール-テトラキス〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(BASF社製、商品名IRGANOX1010;ADEKA社製、AO-60)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(BASF社製、商品名IRGANOX1076)などが挙げられる。
【0038】
リン系酸化防止剤としては、2,2-メチレンビス(4,6-ジt-ブチルフェニル)オクチルホスファイト(ADEKA社製;商品名:アデカスタブHP-10)、トリス(2,4-ジt-ブチルフェニル)ホスファイト(BASF社製;商品名:IRGAFOS168)などの亜リン酸エステルが挙げられる。
【0039】
封止材料のフレキシブル性および耐プラズマ性を向上させる観点から、成分(C)は、ジブチルヒドロキシトルエンおよびペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]の少なくとも1つである。
【0040】
封止剤中の成分(C)の含有量は、封止材料のフレキシブル性を向上させる観点から、封止剤の全組成に対し、好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上、さらにより好ましくは0.3質量%以上である。
また、封止材料の硬化性向上の観点から、封止剤中の成分(C)の含有量は、封止剤の全組成に対し、好ましくは2質量%以下であり、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.8質量%以下、さらにより好ましくは0.6質量%以下である。
【0041】
成分(C)と成分(A)との量比については、封止材料のフレキシブル性を向上すさせ観点から、封止剤中の成分(C)の含有量は、成分(A)100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上であり、より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.2質量部以上、さらにより好ましくは0.3質量部以上である。
また、封止材料の硬化性向上の観点から、封止剤中の成分(C)の含有量は、成分(A)100質量部に対して、好ましくは2質量部以下であり、より好ましくは1質量部以下、さらに好ましくは0.8質量部以下、さらにより好ましくは0.6質量部以下である。
【0042】
本実施形態において、封止剤は、成分(A)~(C)から構成されてもよいし、成分(A)~(C)以外の成分を含んでもよい。たとえば、封止剤が成分(D):重合禁止剤をさらに含んでもよい。
【0043】
(成分(D))
成分(D)は重合禁止剤である。成分(D)の具体例として、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(フリーラジカル)、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(フリーラジカル)、4-アミノー2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(フリーラジカル)、4-パータミド-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(フリーラジカル)、4-アセトアミド-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(フリーラジカル)、4-カルボキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(フリーラジカル)、4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(フリーラジカル)4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(フリーラジカル)が挙げられる。
【0044】
封止剤中の成分(D)の含有量は、耐プラズマ性を向上させる観点、および、封止剤が適用される素子のダメージを抑制する観点から、封止剤の全組成に対し、好ましくは0.001質量%以上であり、より好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.005質量%以上である。
また、封止材料の硬化性向上の観点から、封止剤中の成分(D)の含有量は、封止剤の全組成に対し、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.75質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
【0045】
(その他成分)
成分(A)~(C)以外の成分の具体例として、上述の成分(D)の他、粘着付与剤、充填剤、硬化促進剤、可塑剤、界面活性剤、熱安定剤、難燃剤、帯電防止剤、消泡剤、レベリング剤および紫外線吸収剤からなる群から選択される1または2以上の添加剤が挙げられる。
【0046】
次に、封止剤の特性を説明する。
封止剤の硬化物のガラス転移温度(Tg)は、封止材料の耐熱性向上の観点から、90℃以上であり、好ましくは110℃以上、より好ましくは130℃以上である。
また、屈曲性向上の観点から、封止剤の硬化物のTgは、200℃未満であり、好ましくは190℃以下、より好ましくは180℃以下である。
【0047】
ここで、ガラス転移温度(Tg)は以下の手順で測定される。
封止剤の硬化物は、100μm厚のテフロン(登録商標)シートを型枠として、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム間に未硬化の封止剤を挟みこみ、波長395nmのUV-LEDで照度1000mW/cm2、積算光量1500mJ/cm2の条件で硬化させ、得られる。
得られた硬化物をカッターで幅10mm×長さ40mmの大きさに切りだす。
そして、動的粘弾性測定装置「DMS6100」(セイコーインスツルメンツ社製)により、大気中にて切りだした硬化物に1Hzの周波数をかけながら、室温から250℃まで5℃/分で昇温しながら、tanδを測定して、tanδのピークトップの温度を硬化物のTgとする。
【0048】
本実施形態において、Tgが特定の範囲にある封止剤は、たとえば、樹脂組成物に含まれる成分および配合割合を適切に選択するとともに、製造条件を調整することにより得ることができる。
【0049】
封止剤の性状は限定されず、封止材料のフレキシブル性および耐プラズマ性を向上させる観点、および、インクジェット法等の塗布法による硬化材料の形成に好適であるという観点から、封止剤は好ましくは液状である。
【0050】
また、実施形態において、樹脂膜等の封止材料を安定的に形成する観点から、封止剤は、好ましくは塗布に用いられる封止剤であり、より好ましくはインクジェット法による塗布に用いられる封止剤である。
【0051】
E型粘度計を用いて25℃、20rpmにて測定される封止剤の粘度は、インクジェット吐出性向上の観点から、好ましくは5mPa・s以上であり、より好ましくは8mPa・s以上、さらに好ましくは10mPa・s以上である。
また、インクジェット吐出性向上の観点から、上記封止剤の粘度は、好ましくは30mPa・s以下であり、より好ましくは28.5mPa・s以下、さらに好ましくは27mPa・s以下である。
【0052】
封止剤の硬化物の誘電率は、封止剤の封止特性を向上させる観点から、好ましくは4.0以下であり、より好ましくは3.8以下、さらに好ましくは3.6以下である。
また、封止剤の硬化物の誘電率は、たとえば1.0以上とすることができる。
ここで、封止剤の硬化物の誘電率は、波長395nmのUV-LEDで照度1000mW/cm2、積算光量1500mJ/cm2の条件で硬化性組成物を硬化させて得られる硬化物について、周波数100kHzにて測定される誘電率である。
【0053】
次に、封止剤の製造方法を説明する。
封止剤の製造方法は限定されず、たとえば、成分(A)~(C)、および、適宜その他の成分、たとえば必要に応じて添加する各種添加剤を混合することを含む。各成分を混合する方法として、たとえば、遊星式撹拌装置、ホモディスパー、万能ミキサー、バンバリーミキサー、ニーダー、2本ロール、3本ロール、押出機等の公知の各種混練機を単独または併用して、常温下または加熱下で、常圧下、減圧下、加圧下または不活性ガス気流下等の条件下で均一に混練する方法が挙げられる。
【0054】
また、得られた封止剤を用いて封止材料を形成することもできる。たとえば、封止剤を基材上に塗布し、乾燥してもよい。塗布には、インクジェット法、スクリーン印刷、ディスペンサー塗布等の公知の手法を用いることができる。また、乾燥は、たとえば成分(A)が重合しない温度に加熱すること等によりおこなうことができる。得られる封止材料の形状に制限はなく、たとえば膜状または層状とすることができる。
【0055】
封止材料は、たとえば本実施形態における封止剤を硬化してなる硬化物であり、さらに具体的には封止剤の光硬化物である。
封止剤を光硬化する方法としては、たとえば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、エキシマレーザ、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプ、ナトリウムランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、LEDランプ、蛍光灯、太陽光、電子線照射装置等の光源を使用して光照射して硬化する方法が挙げられる。
【0056】
本実施形態において、封止剤が成分(A)~(C)を組み合わせて含むとともに、Tgが特定の範囲にあるため、かかる封止剤を用いることにより、耐プラズマ性に優れ、フレキシブル性が高い樹脂層を形成できることができる。かかる樹脂層を封止材料として用いることにより、信頼性に優れる表示装置を得ることができる。
【0057】
また、本実施形態において得られる封止剤は、たとえば表示素子、好ましくは有機EL表示素子の封止用に好適に用いられる。本実施形態によれば、耐プラズマ性に優れ、フレキシブル性が高い樹脂層を形成できる封止剤を得ることができるため、たとえば、表示装置の製造工程における表示素子のダメージを効果的に抑制することができ、表示装置の製造安定性を向上させることも可能となる。
以下、有機EL表示装置を例に、表示装置の構成例を挙げる。
【0058】
(有機EL表示装置)
本実施形態において、有機EL表示装置は、封止剤の硬化物により構成された層を有する。有機EL素子を、本実施形態の封止剤を硬化させて得られる樹脂層で保護することにより、有機EL素子内への水分の浸入を充分に防止して有機EL素子の性能および耐久性を高く維持することができる。
【0059】
有機EL表示装置は、トップエミッション構造であっても、ボトムエミッション構造であってもよい。
有機EL素子は、基板上に配置され、本実施形態における封止剤を硬化させて得られる樹脂層により保護される前に、上記有機EL素子を含む領域を覆うように予め無機材料膜で被覆されていることが好ましい。
【0060】
図1は、本実施形態における有機EL表示装置の構成例を示す断面図である。図1に示した表示装置100は、有機EL表示装置であって、基板(基材層50)と、基材層50上に配置された有機EL素子(発光素子10)と、発光素子10を被覆する封止層22(オーバーコート層22またはバリア性層22であってもよい)と、を含む。そして、たとえば封止層22が、本実施形態における封止剤の硬化物により構成されている。
また、図1においては、表示装置100が、発光素子10よりも観察側に位置する層として、バリア性層21(タッチパネル層21または表面保護層21であってもよい)、封止層22(オーバーコート層22またはバリア性層22であってもよい)、平坦化層23(封止層23であってもよい)、バリア性層24を有している。平坦化層23は、発光素子10を覆うように基材層50上に設けられており、バリア性層24は、平坦化層23の表面に設けられている。封止層22は、平坦化層23およびバリア性層24を覆うように基材層50上に設けられている。また、封止層22上にバリア性層21が設けられている。
【0061】
基材層50の材料は限定されず、たとえば、ガラス基板、シリコン基板、プラスチック基板等種々のものを用いることができる。基板上に複数のTFT(薄膜トランジスタ)および平坦化層を備えたTFT基板を用いることもできる。
【0062】
バリア性層24すなわち前述の無機材料膜を構成する無機材料としては、たとえば、窒化珪素(SiNx)、酸化珪素(SiOx)、酸化アルミニウム(Al23)等が挙げられる。無機材料膜は、1層でもよく、複数種の層の積層体でもよい。
無機材料膜によって発光素子10を被覆する方法は、たとえば上記無機材料膜が窒化珪素や酸化珪素からなる場合には、スパッタリング法や電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマCVD法等が挙げられる。
【0063】
このうち、スパッタリング法は、たとえば、キャリアガスとしてアルゴンや窒素等の単独または混合ガスを用い、室温、電力50~1000W、圧力0.001~0.1Torrの条件でおこなうことができる。
また、ECRプラズマCVD法は、たとえば、SiH4とO2との混合ガス又はSiH4とN2との混合ガスを用い、温度30℃~100℃、圧力10mTorr~1Torr、周波数2.45GHz、電力10~1000Wの条件でおこなうことができる。
【0064】
発光素子10を、本実施形態の封止剤を硬化させて得られる樹脂層、たとえば封止層22により保護する方法としては、たとえば、発光素子10上に封止剤を塗工し硬化する方法等が挙げられる。塗工する方法としては、インクジェット法を用いることが好ましい。
樹脂層の厚さは限定されないが、封止性能とフレキシブル性能を向上させる観点から、たとえば0.1~50μmであり、好ましくは1~20μmである。
【0065】
また、表示装置100においては、発光素子10を大気中の水分や酸素から保護する効果を高くするため、上述の樹脂層上にさらに無機材料膜(バリア性層24)を積層することが好ましい。樹脂層上に積層される無機材料膜を構成する無機材料や形成方法としては、上述した発光素子10を被覆する無機材料膜と同様である。
上記樹脂層上に形成される無機材料膜の厚さは限定されないが、封止性能を向上させる観点から、たとえば0.01~10μmであり、好ましくは0.1~5μmである。
【0066】
表示装置100においては、発光素子10上に、バリア性層24および封止層22が設けられており、封止層22が本実施形態における封止剤を硬化させて得られる樹脂層により構成されているため、信頼性に優れた表示装置100を得ることができる。具体的には、封止層22の上部にバリア性層24を形成する際にプラズマ処理工程をおこなう際にも、バリア性層24へのダメージを抑制することができ、また、たとえばSiNx膜であるバリア性層24へのピンホールの発生を抑制することができる。このため、たとえば85℃程度の温度帯で保存した際にアウトガスを発生しにくいため、発光素子10へのダメージを抑制することができる。また、封止層22を構成する樹脂層自体がプラズマ処理で劣化しにくいため、発光素子10へのダメージを抑制することができる。
【実施例
【0067】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0068】
はじめに、以下の例において用いた材料を示す。
(A)UV硬化樹脂1:ジメチロール-トリシクロデカンジアクリレート、ライトアクリレートDCP-A、共栄社化学社製
(A)UV硬化樹脂2:トリメチロールプロパントリアクリレート、ライトアクリレートTMP-A、共栄社化学社製
(A)UV硬化樹脂3:ネオペンチルグリコールジアクリレート、ライトアクリレートNP-A、共栄社化学社製
(A)UV硬化樹脂4:1.9-ノナンジオールジアクリレート、ライトアクリレート1,9ND-A、共栄社化学社製
(A)UV硬化樹脂5:ラウリルアクリレート、ライトアクリレートL-A、共栄社化学社製
(B)UVラジカル開始剤1:2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキサイド、Omnirad TPO H、IGM Resins社製
(C)酸化防止剤1:ジブチルヒドロキシトルエン、BHT、東京化成工業社製
(C)酸化防止剤2:ペンタエリスリトール テトラキス[3-(3,5-ジ-tブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、AO-60、ADEKA社製
(D)重合禁止剤:4-Hydroxy-2,2,6,6-tetramethylpiperidine 1-Oxyl Free Radical、東京化成工業社製
【0069】
(実施例1~10、比較例1~11)
表1または表2に示した配合組成となるように各成分を配合して、封止剤として液状の硬化性組成物を得た。
各例で得られた封止剤またはその硬化物の物性を以下の方法で測定した。測定結果を表1および表2にあわせて示す。
【0070】
(ガラス転移温度)
各例で得られた封止剤の硬化物を以下の手順で得た。すなわち、100μm厚のテフロン(登録商標)シートを型枠として、PETフィルム間に未硬化の封止剤を挟みこみ、波長395nmのUV-LEDで照度1000mW/cm2、積算光量1500mJ/cm2の条件で硬化させ、硬化物を得た。
得られた硬化物をカッターで幅10mm×長さ40mmの大きさに切りだした。
そして、動的粘弾性測定装置「DMS6100」(セイコーインスツルメンツ社製)により、大気中にて切りだした硬化物に1Hzの周波数をかけながら、室温から250℃まで5℃/分で昇温しながら、tanδを測定して、tanδのピークトップの温度を硬化物のTgとした。
Tgが90℃以上200℃未満のものを合格(○)とし、90℃未満または200℃以上のものを不合格(×)とした。
【0071】
(粘度)
各例で得られた硬化性組成物の粘度を、E型粘度計(LV DV-II+ Pro、BROOKFIELD社製)を用いて25℃、20rpmにて測定した。
【0072】
(誘電率)
誘電率測定のための硬化物を得るための塗膜を以下の方法により作製した。すなわち、得られた封止剤を、インクジェットカートリッジDMC-11610(富士フイルムDimatix社製)に導入した。そのインクジェットカートリッジをインクジェット装置DMP-2831(富士フイルムDimatix社製)にセットし、吐出状態の調整を行った後、無アルカリガラス上にアルミニウムを100nmの厚みで蒸着した基板に、硬化後の厚みが10μmとなるように、5cm×5cmのサイズで塗布した。
得られた塗膜を5分間、室温(25℃)でボックスに入れて窒素をフローさせた後、波長395nmの紫外線を照度1000mW/cm2、積算光量1500mJ/cm2の条件で照射し、硬化膜を形成した。
その後、インクジェット塗布面にアルミニウムを100nmの厚みで蒸着し、LCRメーターHP4284A(アジレント・テクノロジー社製)にて、自動平衡ブリッジ法により条件100kHzにて誘電率を測定した。
【0073】
(評価方法)
プラズマ処理工程における有機EL素子ダメージを以下の方法で評価した。
各例で得られた封止剤を、インクジェットカートリッジDMC-11610(富士フイルムDimatix社製)に導入した。そのインクジェットカートリッジをインクジェット装置DMP-2831(富士フイルムDimatix社製)にセットし、吐出状態の調整を行った後、ガラス基板に、硬化後の厚みが10μmとなるように、15mm×15mmのサイズで塗布した。
得られた塗膜を5分間、室温(25℃)でボックスに入れて窒素をフローさせた後、波長395nmの紫外線を1500mW/cm2で1秒間照射し、硬化膜を形成した。
【0074】
硬化膜が形成されたサンプルに、2500W ICP電源、300W RF電源、DCバイアス200V、アルゴン(Ar)流量50sccm、10mtorrの圧力条件で1分間プラズマ処理した。
その後、SiNxターゲットを用いてRFスパッタリング法により、膜厚100nmの無機封止層(SiNx膜)を形成した。
一方、対向基板にOLED素子を蒸着して、無機封止層が形成された基板と貼り合わせて評価用試料を得た。
【0075】
各例で得られた試料の信頼性試験を85℃の条件で実施した。具体的には、各例で得られた試料を85℃にて100時間保存した後の発光面積率(%)を以下の方法で求めた。すなわち、Motic Images Plusソフト(島津理化社製)を用いて初期状態と100時間保存後の発光面積を算出し、発光面積率を求め、以下の基準で評価した。◎および○のものを合格とした。
◎:85%以上
○:75%以上85%未満
△:50超~75%未満
×:50%以下
【0076】
(耐屈曲性)
各例で得られた硬化性組成物を、インクジェットカートリッジDMC-11610(富士フイルムDimatix社製)に導入した。そのインクジェットカートリッジをインクジェット装置DMP-2831(富士フイルムDimatix社製)にセットし、吐出状態の調整を行った後、6cm×6cmのPETフィルム(25μm、A31)に、硬化後の厚みが10μmとなるように、5cm×5cmのサイズで塗布した。得られた塗膜を5分間、室温(25℃)でボックスに入れて窒素をフローさせた後、波長395nmの紫外線を1500mW/cm2で1秒間照射し、硬化膜を形成した。
得られた硬化膜を測定試料として耐屈曲性を評価した。屈曲試験機(DML HP、ユアサシステム社製)にて、屈曲半径を1mmに設定し、測定試料を両面テープ(ナイスタックNW-15、ニチバン社製)にて固定し、1分間に30回の屈曲速度で30万回屈曲試験を行った。30万回屈曲終了後、10分以内に外観を目視にて確認を行い、白濁の有無を評価した。
評価基準を以下に示す。◎および〇のものを合格とした。
◎:白濁なし
〇:破断しないが、白濁あり
×:破断あり
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
表1および表2より、各実施例で得られた封止剤は、プラズマ照射に対する有機EL素子ダメージの抑制効果に優れるとともに、耐屈曲性に優れるものであった。
【0080】
この出願は、2020年9月18日に出願された日本出願特願2020-157659号を基礎とする優先権を主張し、その開示のすべてをここに取り込む。
【符号の説明】
【0081】
10 発光素子
21 バリア性層、タッチパネル層または表面保護層
22 封止層、オーバーコート層、またはバリア性層
23 平坦化層または封止層
24 バリア性層
50 基材層
100 表示装置
図1