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特許7451780ポリイミド前駆体組成物、それから形成されたポリイミドフィルム、及びそれを用いた半導体素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】ポリイミド前駆体組成物、それから形成されたポリイミドフィルム、及びそれを用いた半導体素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20240311BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240311BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20240311BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240311BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
C08G73/10
C08J5/18 CFG
C08L79/08
H01L21/304 622L
H01L21/68 N
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023003098
(22)【出願日】2023-01-12
(65)【公開番号】P2023106326
(43)【公開日】2023-08-01
【審査請求日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】10-2022-0008379
(32)【優先日】2022-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】503454506
【氏名又は名称】東友ファインケム株式会社
【氏名又は名称原語表記】DONGWOO FINE-CHEM CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】132, YAKCHON-RO, IKSAN-SI, JEOLLABUK-DO 54631, REPUBLIC OF KOREA
(73)【特許権者】
【識別番号】521388564
【氏名又は名称】株式会社エコプロエイチエヌ
【氏名又は名称原語表記】EcoProHN CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100137095
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】ドン キ キム
(72)【発明者】
【氏名】ヨン チョル パク
(72)【発明者】
【氏名】ウン サン リ
(72)【発明者】
【氏名】ソン ムク チェ
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/147939(WO,A1)
【文献】特開平09-208698(JP,A)
【文献】特開2003-292619(JP,A)
【文献】特開2017-188438(JP,A)
【文献】特開2017-141317(JP,A)
【文献】国際公開第2018/194133(WO,A1)
【文献】特開2021-150571(JP,A)
【文献】特開平02-261862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00-73/26
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08J 5/18
H01L 21/304、21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化学式1または化学式2で表されるイミド前駆体を含む、ポリイミド前駆体組成物。
【化1】
【化2】
(前記の化学式1および化学式2において、Xは炭素数6~30の2価の脂肪族炭化水素基または炭素数6~30の2価の芳香族炭化水素基であり、
Yは炭素数4~30の4価の脂肪族炭化水素基または炭素数6~30の4価の芳香族炭化水素基であり、
は環状エーテル基含有化合物に由来する部分(moiety)であり、
前記環状エーテル基含有化合物は、t-ブチルグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、グリシジルプロパルギルエーテル、グリシジルフェニルエーテル、グリシジルメチルエーテル、グリシジルメタクリレート、グリシジルラウリルエーテル、グリシジルイソプロピルエーテル、グリシジルアクリレート、グリシジル4-t-ブチルベンゾエート、グリシジル2-メトキシフェニルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、ジグリシジル4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボキシレート、ジグリシジル1,2-シクロヘキサンジカルボキシレート、ブチルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2,2-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)プロパン、および1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルからなる群より選択される少なくとも1つを含み、
nおよびmはそれぞれ5~100の整数である。)
【請求項2】
前記イミド前駆体は、ジアミン化合物、ジアンハイドライド化合物および前記環状エーテル基含有化合物を含む単量体ブレンドの反応物である、請求項1に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項3】
前記ジアミン化合物は、下記化学式3で表される化合物を含む、請求項に記載のポリイミド前駆体組成物。
【化3】
(前記化学式3において、Xは炭素数6~30の2価の脂肪族炭化水素基または炭素数6~30の2価の芳香族炭化水素基である。)
【請求項4】
前記ジアミン化合物は、下記の化学式5~化学式9で表される化合物の少なくとも1つを含む、請求項に記載のポリイミド前駆体組成物。
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【請求項5】
前記ジアンハイドライド化合物は、下記化学式4で表される化合物を含む、請求項に記載のポリイミド前駆体組成物。
【化9】
(前記化学式4において、Yは炭素数4~30の4価の脂肪族炭化水素基または炭素数6~30の4価の芳香族炭化水素基である。)
【請求項6】
前記ジアンハイドライド化合物は、下記の化学式10~化学式14で表される化合物の少なくとも1つを含む、請求項に記載のポリイミド前駆体組成物。
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【請求項7】
前記単量体ブレンドにおける前記環状エーテル基含有化合物の含有量は、前記ジアンハイドライド化合物100モルに対して10モル~150モルである、請求項に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項8】
前記単量体ブレンドにおける前記ジアミン化合物の含有量は、前記ジアンハイドライド化合物100モルに対して80モル~120モルである、請求項に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項9】
請求項1に記載のポリイミド前駆体組成物の硬化物を含む、ポリイミドフィルム。
【請求項10】
レーザーリフトオフ(LLO)用の離型層用途である、請求項に記載のポリイミドフィルム。
【請求項11】
厚さ4500Åで測定した波長308nmにおける光透過率が25%以下である、請求項に記載のポリイミドフィルム。
【請求項12】
半導体基板の上面上に、請求項1のポリイミド前駆体組成物から形成された離型層およびキャリア基板を含むキャリア積層体を形成するステップと、
前記半導体基板の底面を研磨するステップと、
前記キャリア積層体を前記半導体基板から除去するステップとを含む、半導体素子の製造方法。
【請求項13】
前記キャリア積層体を前記半導体基板から除去するステップは
前記離型層にレーザー光を照射するステップと、
前記離型層を前記半導体基板から剥離するステップとを含む、請求項12に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項14】
前記半導体基板の前記上面上に前記キャリア積層体を形成するステップの前に、前記半導体基板の前記上面上に回路素子を形成するステップをさらに含み、
前記半導体基板の前記底面を研磨するステップは、前記キャリア積層体が下を向くように前記半導体基板を反転させることを含む、請求項12に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項15】
前記半導体基板の前記上面上に前記キャリア積層体を形成するステップの前に、前記半導体基板の前記上面上に粘着剤層を形成するステップをさらに含み、
前記キャリア積層体を前記半導体基板から除去するステップの後に、前記粘着剤層を前記半導体基板から除去するステップをさらに含む、請求項12に記載の半導体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド前駆体組成物、それから形成されたポリイミドフィルム、及びそれを用いた半導体素子の製造方法に関する。より詳細には、ポリイミド構造を形成できるポリイミド前駆体組成物、それから形成されたポリイミドフィルム、及びそれを用いた半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド(PI)共重合体は、主鎖にヘテロイミド環を有するポリマーであり、芳香族ジアンハイドライドと芳香族ジアミンを縮重合し、イミド化することにより製造できる。ポリイミド共重合体は高い耐熱性、難燃性および機械的物性を有し、低誘電率を有することから、電子材料、コーティング材料、成形材料、複合材料などの広範な分野に適用することができる。
【0003】
近年、半導体素子、ディスプレイ装置などの電子素子の分野では、高解像度構造を実現するためにパターンの臨界寸法が減少している。例えば、スマートフォンなどの電子機器が軽量化、薄型化および小型化することにより、それを構成する半導体素子、PCB、フリップチップ(Flip chip)などの電子部品の薄型化、小型化および高集積化が求められている。
【0004】
半導体素子の製造工程では、半導体素子の小型化および薄型化のために、半導体基板に対して、例えばバックグラインド(back grinding)などの研削工程を行うことができる。この場合には、粘着剤を用いて支持基板上に半導体素子を貼り付けることができる。
【0005】
しかしながら、半導体基板上に貼り付けられた粘着剤により、工程中や製造後に基板の反りが発生することがあり、剥離または離型時に半導体素子が損傷することがある。そこで、改善された剥離特性および耐熱性などを有し、工程中の損傷を最小限に抑えることができる離型層の開発が必要である。
【0006】
韓国公開特許第10-2007-0114280号公報では、ポリイミドフィルムの一例を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】韓国公開特許第10-2007-0114280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、向上した信頼性および安定性を有するポリイミド前駆体組成物を提供することである。
【0009】
本発明の課題は、前記ポリイミド前駆体組成物から形成され、向上した耐熱性および優れたデボンディング特性を有するポリイミドフィルムを提供することである。
【0010】
本発明の課題は、前記ポリイミド前駆体組成物を用いた半導体素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
1.下記の化学式1または化学式2で表されるイミド前駆体を含む、ポリイミド前駆体組成物。
【化1】
【化2】
(前記の化学式1および化学式2において、Xは炭素数6~30の2価の脂肪族炭化水素基または炭素数6~30の2価の芳香族炭化水素基であり、Yは炭素数4~30の4価の脂肪族炭化水素基または炭素数6~30の4価の芳香族炭化水素基であり、Zは炭素数4~30の環状エーテル基含有化合物に由来する部分(moiety)であり、nおよびmはそれぞれ5~100の整数である。)
【0012】
2.前記項目1において、前記環状エーテル基含有化合物は、環状エーテル基の他に、線状エーテル基またはエステル基(-COO-)をさらに含む、ポリイミド前駆体組成物。
【0013】
3.前記項目2において、前記環状エーテル基含有化合物は、t-ブチルグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、グリシジルプロパルギルエーテル、グリシジルフェニルエーテル、グリシジルメチルエーテル、グリシジルメタクリレート、グリシジルラウリルエーテル、グリシジルイソプロピルエーテル、グリシジルアクリレート、グリシジル4-t-ブチルベンゾエート、グリシジル2-メトキシフェニルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、ジグリシジル4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボキシレート、ジグリシジル1,2-シクロヘキサンジカルボキシレート、ブチルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2,2-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)プロパンおよび1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルからなる群より選択される少なくとも1つを含む、ポリイミド前駆体組成物。
【0014】
4.前記項目1において、前記イミド前駆体は、ジアミン化合物、ジアンハイドライド化合物および前記エポキシ化合物を含む単量体ブレンドの反応物である、ポリイミド前駆体組成物。
【0015】
5.前記項目4において、前記ジアミン化合物は、下記化学式3で表される化合物を含む、ポリイミド前駆体組成物。
【化3】
(前記化学式3において、Xは炭素数6~30の2価の脂肪族炭化水素基または炭素数6~30の2価の芳香族炭化水素基である。)
【0016】
6.前記項目5において、前記ジアミン化合物は、下記の化学式5~化学式9で表される化合物の少なくとも1つを含む、ポリイミド前駆体組成物。
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【0017】
7.前記項目4において、前記ジアンハイドライド化合物は、下記化学式4で表される化合物を含む、ポリイミド前駆体組成物。
【化9】
(前記化学式4において、Yは炭素数4~30の4価の脂肪族炭化水素基または炭素数6~30の4価の芳香族炭化水素基である。)
【0018】
8.前記項目7において、前記ジアンハイドライド化合物は、下記の化学式10~化学式14で表される化合物の少なくとも1つを含む、ポリイミド前駆体組成物。
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【0019】
9.前記項目4において、前記単量体ブレンドにおける前記環状エーテル基含有化合物の含有量は、前記ジアンハイドライド化合物100モルに対して10モル~150モルである、ポリイミド前駆体組成物。
【0020】
10.前記項目4において、前記単量体ブレンドにおける前記ジアミン化合物の含有量は、前記ジアンハイドライド化合物100モルに対して80モル~120モルである、ポリイミド前駆体組成物。
【0021】
11.前記項目1に記載のポリイミド前駆体組成物の硬化物を含む、ポリイミドフィルム。
【0022】
12.前記項目11において、レーザーリフトオフ(LLO)用の離型層用途である、ポリイミドフィルム。
【0023】
13.前記項目11において、厚さ4500Åで測定した波長308nmにおける光透過率が25%以下である、ポリイミドフィルム。
【0024】
14.半導体基板の上面上に、前記項目1に記載のポリイミド前駆体組成物から形成された離型層およびキャリア基板を含むキャリア積層体を形成するステップと、前記半導体基板の底面を研磨するステップと、前記キャリア積層体を前記半導体基板から除去するステップとを含む、半導体素子の製造方法。
【0025】
15.前記項目14において、前記キャリア積層体を前記半導体基板から除去するステップは、前記離型層にレーザー光を照射するステップと、前記離型層を前記半導体基板から剥離するステップとを含む、半導体素子の製造方法。
【0026】
16.前記項目14において、前記半導体基板の前記上面上に前記キャリア積層体を形成するステップの前に、前記半導体基板の前記上面上に回路素子を形成するステップをさらに含み、
前記半導体基板の前記底面を研磨するステップは、前記キャリア積層体が下を向くように前記半導体基板を反転させることを含む、半導体素子の製造方法。
【0027】
17.前記項目14において、前記半導体基板の前記上面上に前記キャリア積層体を形成するステップの前に、前記半導体基板の前記上面上に粘着剤層を形成するステップをさらに含み、
前記キャリア積層体を前記半導体基板から除去するステップの後に、前記粘着剤層を前記半導体基板から除去するステップをさらに含む、半導体素子の製造方法。
【発明の効果】
【0028】
例示的な実施形態によるポリイミド前駆体組成物は、ジアミン化合物およびジアンハイドライド化合物から形成されたイミド前駆体を含むことができる。これにより、ポリイミド前駆体組成物から高い耐熱性および機械的物性を有するポリイミドを形成することができる。
【0029】
前記イミド前駆体は、分子末端に環状エーテル基含有化合物に由来する有機基を有することができる。環状エーテル基含有化合物に由来する構造により、ポリイミド前駆体組成物の経時安定性を向上させることができる。これにより、高温/多湿の過酷な条件で長期保存しても、ポリイミド前駆体組成物は低い粘度を有することができ、ポリイミド前駆体組成物から形成されるフィルムの厚さ変化率を低くすることができる。
【0030】
また、前記ポリイミド前駆体組成物から形成されたポリイミドフィルムは、紫外線領域の波長帯で高い吸光度を有することができ、レーザーデボンディング特性を改善することができる。これにより、ポリイミドフィルムに低いエネルギー強度を有する剥離レーザーが照射されても、例えば半導体基板に対して改善されたデボンディング(debonding)特性を有することができる。
【0031】
前記ポリイミドフィルムは、半導体素子の製造工程に適用することができ、例えば、半導体素子とキャリア基板との間の離型層として用いることができる。この場合には、半導体素子を、クラック、破断などの物理的衝撃および腐食などの化学的損傷なしにキャリア基板から容易に剥離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、例示的な実施形態による半導体素子の製造方法を説明するための概略断面図である。
図2図2は、例示的な実施形態による半導体素子の製造方法を説明するための概略断面図である。
図3図3は、例示的な実施形態による半導体素子の製造方法を説明するための概略断面図である。
図4図4は、例示的な実施形態による半導体素子の製造方法を説明するための概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の実施形態によるポリイミド前駆体組成物(以下、「前駆体組成物」と略記することもある)は、ジアミン(diamine)化合物、ジアンハイドライド(dianhydride)化合物および環状エーテル(cyclic ether)基含有化合物に由来する構造を含むことができる。
【0034】
また、本発明は、前記ポリイミド前駆体組成物から形成されたポリイミドフィルムおよび前記ポリイミド前駆体組成物を用いた半導体素子の製造方法を提供する。
【0035】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明することとする。
【0036】
<ポリイミド前駆体組成物>
例示的な実施形態によるポリイミド前駆体組成物は、下記の化学式1または化学式2で表されるイミド前駆体を含む。
【0037】
【化15】
【0038】
【化16】
【0039】
前記の化学式1および化学式2において、Xは炭素数6~30の2価の有機基であってもよい。例えば、Xは、炭素数6~30の2価の脂肪族炭化水素基または炭素数6~30の2価の芳香族炭化水素基であってもよい。
【0040】
本明細書で使用される用語「脂肪族炭化水素基」とは、直鎖、分岐鎖または脂環族炭化水素基を含み、芳香族環を含まない有機基を意味し得る。本明細書で使用される用語「芳香族炭化水素基」とは、少なくとも1つの芳香族環を含む有機基を意味し得る。
【0041】
例えば、前記2価の脂肪族炭化水素基は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、シクロアルキレン基、シクロアルケニレン基、またはシクロアルキニレン基であってもよい。例えば、前記2価の芳香族炭化水素基は、アリーレン基、アルキルアリーレン基またはアリールアルキレン基であってもよい。
【0042】
前記2価の脂肪族炭化水素基および2価の芳香族炭化水素基は、酸素、窒素、硫黄、フッ素の少なくとも1つのヘテロ原子を含有することができる。前記ヘテロ原子は主骨格(main chain)または枝(branched chain)に存在することができ、例えば、前記2価の有機基はトリフルオロメチル基(-CF)、エーテル基(-O-)、チオエーテル基(-S-)、カルボニル基(-C(=O)-)、スルフィニル基(-(S=O)-)またはスルホニル基(-SO-)などを含むことができる。
【0043】
好ましくは、前記Xは炭素数6~30の2価の芳香族炭化水素基であってもよい。
【0044】
Yは炭素数4~30の4価の有機基であってもよい。例えば、Yは炭素数4~30の4価の脂肪族炭化水素基または炭素数6~30の4価の芳香族炭化水素基であってもよい。
【0045】
前記4価の有機基は、酸素、窒素、硫黄、フッ素の少なくとも1つのヘテロ原子を含有することができる。前記ヘテロ原子は主骨格または枝に存在することができ、例えば、前記4価の有機基はトリフルオロメチル基(-CF)、エーテル基(-O-)、チオエーテル基(-S-)、カルボニル基(-C(=O)-)、スルフィニル基(-(S=O)-)またはスルホニル基(-SO-)などを含むことができる。
【0046】
好ましくは、前記Yは炭素数6~30の4価の芳香族炭化水素基であってもよい。
【0047】
Zは、炭素数4~30の環状(cyclic)エーテル基含有化合物に由来する有機基であってもよい。例えば、Zは、前記環状エーテル基含有化合物に由来する部分(moiety)を含むことができる。本明細書で使用される用語「環状エーテル基」とは、単環、多環、複素環などの環構造を有し、環構造内にエーテル基を含有する官能基を意味し得る。
【0048】
イミド前駆体が前記環状エーテル基含有化合物に由来するZ単位を有することにより、ポリイミドフィルムのレーザー剥離特性を改善できるとともに、組成物の経時安定性および保存安定性を向上させることができる。
【0049】
いくつかの実施形態では、前記環状エーテル基含有化合物は、環状エーテル基の他に、線状(linear)エーテル基(-O-)またはエステル基(-C(=O)O-)をさらに含むことができる。本明細書で使用される用語「線状エーテル基」とは、線状構造の鎖内にエーテル基を含有する官能基を意味し得る。
【0050】
例えば、前記Zは、線状エーテル基若しくはエステル基を含む炭素数4~30の脂肪族炭化水素基、または線状エーテル基若しくはエステル基を含む炭素数6~30の芳香族炭化水素基であってもよい。
【0051】
この場合、紫外線領域の光に対するイミド前駆体の吸光度を高く維持しつつ、組成物の長期保存によるイミド前駆体の分解(decomposition)およびゲル化(gelation)を防止することができる。これにより、樹脂組成物の経時安定性を向上させることができ、それから形成されたポリイミドフィルムの物性およびレーザーデボンディング特性を改善することができる。
【0052】
前記の化学式1および化学式2において、nおよびmはそれぞれ5~100の整数であってもよい。
【0053】
例えば、nおよびmが5未満であると、イミド前駆体から形成されたポリイミドの耐熱性および機械的物性が低下することがある。例えば、nおよびmが100を超えると、組成物の保存安定性が低下することがあり、長期保存時の組成物の粘度が増加することがある。そのため、ポリイミドフィルムの物性および成膜特性が低下することがある。
【0054】
例示的な実施形態によると、前記イミド前駆体は、ジアミン化合物、ジアンハイドライド化合物および環状エーテル基含有化合物を含む単量体ブレンドの反応物であってもよい。例えば、前記イミド前駆体は、ジアミン化合物、ジアンハイドライド化合物および環状エーテル基含有化合物の共重合体を含むことができる。
【0055】
一実施形態では、前記の化学式1および化学式2におけるXはジアミン化合物に由来する構造であってもよく、例えばジアミン化合物の残基であってもよい。一実施形態では、前記の化学式1および化学式2におけるYはジアンハイドライド化合物に由来する構造であってもよく、例えばジアンハイドライド化合物の残基であってもよい。
【0056】
いくつかの実施形態では、前記ジアミン化合物は、下記化学式3で表される化合物を含むことができる。
【0057】
【化17】
【0058】
前記化学式3において、Xは炭素数6~30の2価の有機基であってもよく、例えば、炭素数6~30の2価の脂肪族炭化水素基または炭素数6~30の2価の芳香族炭化水素基であってもよい。
【0059】
好ましくは、Xは炭素数6~30の2価の芳香族炭化水素基であってもよい。
【0060】
例えば、前記ジアミン化合物は、3,4-オキシジアニリン(3,4-oxydianiline)、4,4-オキシジアニリン(4,4-oxydianiline、ODA)、4,4-メチレンジアニリン(4,4-methylene dianiline)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(1,3-bis(3-aminophenoxy)benzene)、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(1,4-bis(4-aminophenoxy)benzene)、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]-スルホン(bis[4-(3-aminophenoxy)phenyl]-sulfone)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-スルホン(bis[4-(4-aminophenoxy)phenyl]sulfone)、2,2-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(2,2-Bis(trifluoromethyl)benzidine)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-フェニル]ヘキサフルオロプロパン(2,2-bis[4-(4-aminophenoxy)-phenyl]hexafluoropropane)、2,2-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(2,2-Bis(trifluoromethyl) benzidine、TFMB)、3,3-スルホニルジアニリン(3,3-Sulfonyldianiline)、4,4-ジアミノジフェニルスルホン(4,4-Diaminodiphenylsulfone)、4,4-(1,3-フェニレンジオキシ)ジアニリン(4,4-(1,3-Phenylenedioxy)dianiline)、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオリン(9,9-Bis(4-amino-3-fluorophenyl)fluorine)、4-アミノフェニル4-アミノベンゾエート(4-Aminophenyl 4-aminobenzoate)、4,4-ジアミノベンズアニリド(4,4-Diaminobenzanilide)、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオリン(9,9-bis(4-aminophenyl)fluorine)などを含むことができる。これらは単独でまたは2以上を組み合わせて使用することができる。
【0061】
例えば、前記ジアミン化合物は、下記の化学式5~化学式9で表される化合物の少なくとも1つを含むことができる。
【0062】
【化18】
【0063】
【化19】
【0064】
【化20】
【0065】
【化21】
【0066】
【化22】
【0067】
いくつかの実施形態では、前記ジアンハイドライド化合物は、下記化学式4で表される化合物を含むことができる。
【0068】
【化23】
【0069】
前記化学式4において、Yは炭素数4~30の4価の有機基であってもよく、例えば、炭素数4~30の脂肪族炭化水素基または炭素数6~30の4価の芳香族炭化水素基であってもよい。
【0070】
好ましくは、Yは炭素数6~30の4価の芳香族炭化水素基であってもよい。
【0071】
例えば、前記ジアンハイドライド化合物は、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(3,3’,4,4’-Benzophenonetetracarboxylic dianhydride、BTDA)、ピロメリット酸二無水物(Pyromellitic dianhydride, PMDA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(3,3'4,4'-Biphenyl tetracarboxylicacid dianhydride、BPDA)、2,3,3’,4-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(2,3,3',4-biphenyl tetracarboxylicacid dianhydride, a-BPDA)、4,4-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(4,4’-(Hexafluoroisopropylidene)diphthalic anhydride、6FDA)、 4,4’-オキシジフタル酸無水物(4,4'-oxydiphthalic Anhydride、ODPA)、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(3,3',4,4'-Diphenylsulfone-tetracarboxylic Dianhydride, DSDA)、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(2,2-bis [4-(3,4-dicarboxyphenoxy) phenyl] propane dianhydride、BPADA)、ヒドロキノンジフタル酸無水物(Hydroquinone diphthalic anhydride、HQDA)または1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(1,2,4,5,-Cyclohexane-tetracarboxylic dianhydride、CHDA)などを含むことができる。これらは単独でまたは2以上を組み合わせて使用することができる。
【0072】
例えば、前記ジアンハイドライド化合物は、下記の化学式10~化学式14で表される化合物の少なくとも1つを含むことができる。
【0073】
【化24】
【0074】
【化25】
【0075】
【化26】
【0076】
【化27】
【0077】
【化28】
【0078】
例示的な実施形態によると、前記環状エーテル基含有化合物は、エポキシ(epoxy)基含有化合物を含むことができる。この場合、エポキシ基により、環状エーテル基含有化合物とアミン基との反応性を改善することができる。これにより、重合反応時の環状エーテル基化合物の非反応率を低減することができ、環状エーテル基化合物間の自己架橋反応を抑制できるので、イミド前駆体の構造的安定性および経時安定性を向上させることができる。
【0079】
いくつかの実施形態では、前記エポキシ基含有化合物は、t-ブチルグリシジルエーテル(tert-Butyl Glycidyl Ether)、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(Neopentyl Glycol Diglycidyl Ether)、グリシジルプロパルギルエーテル(Glycidyl Propargyl Ether)、グリシジルフェニルエーテル(Glycidyl Phenyl Ether)、グリシジルメチルエーテル(Glycidyl Methyl Ether)、グリシジルメタクリレート(Glycidyl Methacrylate)、グリシジルラウリルエーテル(Glycidyl Lauryl Ether)、グリシジルイソプロピルエーテル(Glycidyl Isopropyl Ether)、グリシジルアクリレート(Glycidyl Acrylate)、グリシジル4-t-ブチルベンゾエート(Glycidyl 4-tert-Butylbenzoate)、グリシジル2-メトキシフェニルエーテル(Glycidyl 2-Methoxyphenyl Ether)、エチレングリコールジグリシジルエーテル(Ethylene Glycol Diglycidyl Ether)、エチルグリシジルエーテル(Ethyl Glycidyl Ether)、ジグリシジル4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボキシレート(Diglycidyl 4-Cyclohexene-1,2-dicarboxylate)、ジグリシジル1,2-シクロヘキサンジカルボキシレート(Diglycidyl 1,2-Cyclohexanedicarboxylate)、ブチルグリシジルエーテル(Butyl Glycidyl Ether)、ベンジルグリシジルエーテル(Benzyl Glycidyl Ether)、アリルグリシジルエーテル(Allyl Glycidyl Ether)、2,2-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)プロパン(2,2-Bis(4-glycidyloxyphenyl)propane)、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(1,4-Butanediol Diglycidyl Ether)からなる群より選択される少なくとも1つを含むことができる。
【0080】
例示的な実施形態によると、前記単量体ブレンドにおける前記ジアミン化合物の含有量は、前記ジアンハイドライド化合物100モルに対して80モル~120モルであってもよく、好ましくは90モル~110モル、より好ましくは95モル~105モルであってもよい。
【0081】
前記範囲内では、ジアミン化合物とジアンハイドライド化合物の反応性および効率に優れたものとすることができ、適切な分子量および高い重合度を有するイミド前駆体を形成することができる。また、それから形成されたポリイミド膜の機械的物性および熱的安定性を改善することができる。
【0082】
例示的な実施形態によると、前記単量体ブレンドにおける前記環状エーテル基含有化合物の含有量は、前記ジアンハイドライド化合物100モルに対して10モル~150モルであってもよく、好ましくは50モル~100モルであってもよい。
【0083】
例えば、前記環状エーテル基含有化合物の含有量が10モル未満であると、環状エーテル基含有化合物とポリアミック酸の末端アミン基との反応性が低下することがある。そのため、非反応のポリアミック酸、例えば末端に環状エーテル基含有化合物に由来する単位が結合していないイミド前駆体が生成されることがある。これにより、化学式1または化学式2で表されるイミド前駆体の収率が低下することがあり、樹脂組成物の経時安定性および保存性が低下することがある。
【0084】
例えば、前記環状エーテル基含有化合物の含有量が150モルを超えると、環状エーテル基含有化合物同士が互いに反応することがある。この場合には、ポリアミック酸化合物の末端アミン基と環状エーテル基含有化合物との反応性が低くなり、イミド前駆体の収率が低下することがある。これにより、ポリイミド前駆体組成物の経時安定性が低下することがあり、自己反応した環状エーテル基含有化合物のため、ポリイミドフィルムの耐熱性および機械的物性が劣化することがある。
【0085】
一実施形態では、前記イミド前駆体は、ジアミン化合物とジアンハイドライド化合物を反応させて形成されたポリアミック酸化合物と、環状エーテル基含有化合物とを反応させることにより形成することができる。
【0086】
例えば、ポリアミック酸化合物は、ジアミン化合物とジアンハイドライド化合物を混合し、0℃~20℃の温度で24時間~48時間反応させることにより製造できる。この場合、ジアンハイドライド単量体の酸無水物基が開環してジアミン単量体のアミン基(-NH)と縮合反応することにより、アミド(amide)構造を有するポリアミック酸を形成することができる。
【0087】
一実施形態では、前記ポリアミック酸と水を混合し、20℃~70℃の温度で12時間~48時間反応させ、両末端にそれぞれカルボキシル基およびアミン基を有するポリアミック酸化合物を製造することができる。
【0088】
水はポリアミック酸化合物の分解反応を起こすことができ、イミド前駆体の分子量および粘度を調整する役割を果たすことができる。例えば、ポリアミック酸化合物と反応する水の含有量を調整することにより、所望のレベルの粘度を有するイミド前駆体を製造することができる。
【0089】
例えば、添加された水の含有量は、前記ジアンハイドライド化合物100モル部に対して0.1~10モルであってもよい。前記水の含有量が0.1モル以下であると、前記イミド前駆体の粘度が高くなることがあり、コーティング性および成膜特性が低下することがある。前記水の含有量が10モルを超えると、イミド前駆体の分子量が低くなり、ポリイミドの物性が低下することがある。
【0090】
前記製造されたポリアミック酸化合物と環状エーテル基含有化合物を混合した後、20℃~70℃の温度で24時間~72時間反応させ、前記の化学式1または化学式2で表されるイミド前駆体を製造することができる。
【0091】
この場合、環状エーテル基含有化合物の環状エーテル基が開環し、ポリアミック酸化合物の末端に位置するアミン基(-NH)と縮合反応することができる。これにより、環状エーテル基含有化合物に由来するZ構造が、イミド前駆体の末端に位置することができる。
【0092】
例示的な実施形態によると、前記樹脂組成物は界面活性剤及び/又は溶媒をさらに含むことができる。
【0093】
例えば、前記溶媒は、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、シクロヘキサノン、3-エトキシプロピオン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、1-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルプロピオンアミド、ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、1-エチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルイソブチルアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N-エチルホルムアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、r-ブチロラクトン、α-アセトラクトン、β-プロピオラクトン、δ-バレロラクトンなどが挙げられる。これらは単独でまたは2以上を組み合わせて使用することができる。
【0094】
例えば、前記界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリエチレングリコールジエステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、脂肪酸変性ポリエステル類、3級アミン変性ポリウレタン類、ポリエチレンイミン類などを含むことができる。市販の界面活性剤としては、KP(信越化学工業株式会社製)、ポリフロー(POLYFLOW)(共栄社化学株式会社製)、エプトップ(EFTOP)(株式会社トーケムプロダクツ製)、メガパック(MEGAFAC)(DIC株式会社製)、フロラード(Flourad)(住友スリーエム株式会社製)、アサヒガード(Asahi guard)、サーフロン(Surflon)(以上、旭硝子株式会社製)、ソルスパース(SOLSPERSE)(ゼネカ社製)、エフカ(EFKA)(EFKA CHEMICALS社製)またはPB821(味の素株式会社製)などが挙げられる。これらは単独でまたは2以上を組み合わせて使用することができる。
【0095】
一実施形態では、前記界面活性剤の含有量は、前記イミド前駆体100重量部に対して0.01重量部~10重量部であってもよい。
【0096】
前記範囲内では、樹脂組成物の塗布性、コーティング性を向上させることができ、コーティング層の厚さ均一性および成膜性を改善することができる。また、コーティング層の厚さを薄く形成することができ、半導体素子の製造工程における微細加工を可能とすることができる。
【0097】
例えば、前記樹脂組成物のコーティング方法としては、スピンコート、スリットコート、ディップコート、スプレーコート、ディスペンス、スクリーン印刷、インクジェット印刷、オフセット印刷、ナイフコート、ロールコート、カーテンコートなどが挙げられる。
【0098】
<ポリイミドフィルム>
例示的な実施形態によるポリイミドフィルムは、前述のポリイミド前駆体組成物の硬化物を含むことができる。例えば、ポリイミドフィルムは、前記イミド前駆体のイミド化(imidization)によって形成されたポリイミドを含むことができる。前記イミド前駆体は、ベーキングまたは熱硬化工程によりポリイミド構造に変換することができる。
【0099】
前記ポリイミド前駆体組成物を基板上に塗布した後、熱硬化工程によってポリイミドフィルムを形成することができる。例示的な実施形態によると、前記熱硬化工程は約350℃以下の温度で行われる低温硬化工程を含み、いくつかの実施形態では100℃~300℃の範囲で行うことができる。
【0100】
例示的な実施形態によると、厚さ4500Åおよび波長308nmで測定した前記ポリイミドフィルムの光透過率は25%以下であってもよい。例えば、前記ポリイミドフィルムは、波長308nmに対して高い吸光度を有するとともに、低い感度を有することができる。これにより、ポリイミドフィルムはレーザー源から放出された308nmの波長帯のレーザーエネルギーをほとんど吸収することができ、短い照射時間と少ない光量でもポリイミドを容易に分解することができる。
【0101】
いくつかの実施形態では、前記ポリイミドフィルムのガラス転移温度(glass transition temperature、Tg)は320℃以上であってもよく、例えば320℃~350℃であってもよい。例えば、ガラス転移温度は、10℃/minの昇温速度で25℃から400℃に昇温して測定することができる。
【0102】
いくつかの実施形態では、前記ポリイミドフィルムの熱分解温度(decomposition temperature、Td1%)は350℃以上であってもよく、好ましくは370℃以上であってもよく、より好ましくは380℃以上であってもよい。例えば、熱分解温度は、窒素ガス雰囲気下で常温から10℃/minの昇温速度で加熱し、重量が初期重量に対して1%減少したときの温度であってもよい。
【0103】
前記範囲内では、ポリイミドフィルムの熱的安定性を改善することができる。これにより、半導体素子の製造工程またはCMP工程などの研磨工程時に加わる熱によるポリイミドフィルムの収縮、破断、浮き現象を防止することができる。
【0104】
また、例示的な実施形態によるイミド前駆体は、分子構造の末端にエポキシ化合物に由来する構造単位Zを有することにより、レーザーのエネルギーマージンを高くするとともに、耐熱性を共に向上することができる。これにより、前述の樹脂組成物から形成されたポリイミドフィルムは、デボンディング特性に優れ、熱的安定性をより向上できる。
【0105】
例えば、前記ポリイミドフィルムは、半導体素子の製造工程において、レーザーリフトオフ(laser-lift off、LLO)用に用いられる離型層用途に適用できる。
【0106】
<半導体素子の製造方法>
図1図4は、例示的な実施形態による半導体素子の製造方法を説明するための概略断面図である。
【0107】
図1を参照すると、半導体基板100の上面上に離型層122およびキャリア基板124を含むキャリア積層体120を形成することができる。例えば、半導体基板100の上面上に離型層122を配置することができ、離型層122の上面上にキャリア基板124を配置することができる。
【0108】
離型層122は、前述のポリイミド前駆体組成物の硬化物を含むことができる。
【0109】
一実施形態では、前記ポリイミド前駆体組成物を半導体基板100の上面上に塗布し、加熱乾燥してコーティング層を形成することができる。その後、前記コーティング層上にキャリア基板124を貼り付けた後、コーティング層を熱硬化してイミド前駆体をイミド化することができる。これにより、半導体基板100上にポリイミドを含む離型層122を形成することができる。
【0110】
一実施形態では、キャリア基板124の底面上に前述のポリイミド前駆体組成物を塗布し、加熱乾燥して離型層122を形成することができる。その後、離型層122が半導体基板100の上面に向くように、半導体基板100の上面上にキャリア積層体120を貼り付けることができる。
【0111】
半導体基板100は、シリコン基板、ゲルマニウム基板またはシリコン-ゲルマニウム基板のような単一半導体基板、またはシリコン・オン・インシュレータ(silicon-on-insulator:SOI)基板若しくはゲルマニウム・オン・インシュレータ(germanium-on-insulator:GOI)基板のような複合基板、金属酸化物多結晶基板などを含むことができる。
【0112】
キャリア基板124はガラス基板であってもよく、単結晶シリコン、単結晶ゲルマニウムのような半導体物質を含むことができ、ポリシリコンを含むように形成することもできる。
【0113】
いくつかの実施形態では、半導体基板100の上面上には、回路素子105を形成することができる。例えば、キャリア積層体120を形成する前に、半導体基板100の上面上に回路素子105を先に形成することができる。
【0114】
例えば、回路素子105は、ソース(source)、ドレイン(drain)、ゲート(gate)電極、キャパシタ電極、コンタクト(contact)、回路パターン、配線などのトランジスタ素子、または共通電極、画素電極および有機発光層(EL)などのダイオード素子などの導電性パターンを含むことができる。
【0115】
一実施形態では、キャリア積層体120を形成する前に、半導体基板100の上面上に粘着剤層110を先に形成することができる。例えば、半導体基板100の上面上に粘着剤組成物を塗布し、硬化して粘着剤層110を形成した後、粘着剤層110の上面上に離型層120を形成することができる。
【0116】
例えば、粘着剤層110は、低粘着特性および低い剥離力を有する樹脂を含むことができ、例えば、シロキサン系樹脂またはアクリル系樹脂などを含むことができる。
【0117】
図2を参照すると、半導体基板100の底面を研磨して平坦化することができる。一実施形態では、キャリア積層体120が形成された半導体基板100を研磨装置200にロードし、バックグラインド(back grinding)工程を行うことができる。
【0118】
例えば、キャリア積層体120が研磨装置内で下に向くように半導体基板100を反転させることができる。この場合、半導体基板100の底面が研磨装置200の研磨パッドを向くことができる。
【0119】
研磨工程は、半導体基板100の上面上に形成されたパターン構造物105が露出しないように行うことができる。半導体基板100がキャリア基板130で支持された状態で研磨工程を行うことができるので、パターン構造物105が損傷することなく半導体基板100の底面を均一に研磨することができる。これにより、半導体素子の薄型化、軽量化および高集積化を可能とすることができる。
【0120】
いくつかの実施形態では、前記研磨工程は、超微細研削(super fine grining)工程または化学機械研磨工程(Chemical Mechanical Polishing、CMP)によって行うことができる。一実施形態では、前記研磨工程はCMP工程によって行うことができる。
【0121】
図3及び図4を参照すると、離型層120上に紫外線領域の光を照射することができ、例えば、290nm~380nmの波長帯のレーザー光を照射することができる。
【0122】
例えば、離型層122に前記範囲の波長を有するレーザー光を照射する場合、ポリイミドが炭化(carbonization)しながら半導体基板100または粘着剤層110に対する離型層122の接触面を分解することができる。これにより、離型層122を半導体基板100または粘着剤層110から剥離(delamination)することができる。
【0123】
キャリア基板124を半導体基板100から剥離する工程の例としては、熱によってキャリア積層体120を剥離する熱デボンディング(heat debonding)工程、機械的にキャリア積層体120を剥離する機械的デボンディング(mechanical debonding)工程、または離型層122を有機溶媒で溶解してキャリア積層体120を分離する溶媒デボンディング(solvent debonding)工程などが挙げられる。しかし、前述の剥離工程は、高温、強い機械的な力および溶媒によって行っているので、半導体素子のクラック、損傷、腐食などを発生させることがある。
【0124】
例示的な実施形態による半導体素子の製造方法によると、離型層122が前述のイミド前駆体から形成されたポリイミドを含むことにより、例えば、レーザーリフトオフ(laser lift-off、LLO)工程を可能とすることができる。これにより、レーザー光の照射によって、相対的に少ない力でも離型層122の剥離を可能とすることができる。
【0125】
例えば、ポリイミドは、主鎖に含まれるイミド構造により、紫外線領域の光、例えば波長308nmのレーザー光に対して強い吸収特性を有することができる。これにより、レーザー光が照射された領域にエネルギーを集中させることができ、当該領域で高い熱を発生させることができる。この場合、離型層122内で発生した熱エネルギーによってポリイミドが分解するか、または粘着剤層110の表面とポリイミドとの化学的結合(chemical bond)が壊れることにより、離型層122を粘着剤層110から剥離することができる。
【0126】
したがって、離型層122が290nm~380nmの波長帯の光に対して高い吸収特性を有するほど、レーザー剥離工程に必要となるレーザーエネルギー密度(laser energy density、E/D)を低減することができる。この場合には、剥離工程の時間を短縮することができて工程性を向上させることができ、照射されたレーザーによる半導体基板100の損傷を防止することができる。
【0127】
離型層122およびキャリア基板124を半導体基板100から剥離することにより、回路素子105が形成された半導体基板100を含む半導体素子を提供することができる。
【0128】
例えば、離型層122の一端を把持してキャリア基板124の上面方向に向けて垂直に力を加えることにより、キャリア積層体120を半導体基板100または粘着剤層110から剥離することができる。
【0129】
いくつかの実施形態では、半導体基板100と離型層122との間に粘着剤層110をさらに含む場合、粘着剤層110を半導体基板100から剥離することによって半導体素子を提供できる。粘着剤層110は低い粘着力を有するので、低い剥離力であっても回路素子105を損傷することなく容易に剥離することができる。
【0130】
一実施形態では、剥離層120を半導体基板100から剥離する前に、半導体基板100の底面をダイシングテープ(dicing tape)300に貼り付けることができる。半導体基板100をダイシングテープ300に固定することにより、離型層122およびキャリア基板124を半導体基板100から容易に分離することができる。
【0131】
以下、本発明の理解を助けるために好適な実施例を提示するが、これらの実施例は本発明を例示するものに過ぎず、添付の特許請求の範囲を制限するものではない。これらの実施例に対し、本発明の範疇および技術思想の範囲内で種々の変更および修正を加えることが可能であることは当業者にとって明らかであり、これらの変形および修正が添付の特許請求の範囲に属することも当然のことである。
【0132】
実施例1
四口丸底フラスコに溶媒のγ-ブチロラクトン(GBL)を投入し、2,2-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)および4,4-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)を固形分20wt%となるように1:1のモル比で添加し、10℃で24時間反応させた。その後、ジアンハイドライド単量体1モルに対して水を0.1モル比で添加し、50℃で24時間反応させた。その後、ジアンハイドライド単量体1モルに対して、グリシジルイソプロピルエーテル(Glycidyl Isopropyl Ether)を0.1モル比で添加して50℃で48時間反応させ、粘度40cpsのイミド前駆体組成物を製造した。
【0133】
実施例2~20
反応単量体を下記表1に示す成分とモル比で混合した以外は、実施例1と同様にしてイミド前駆体組成物を製造した。
【0134】
比較例1
四口丸底フラスコに溶媒のγ-ブチロラクトン(GBL)を投入し、2,2-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)および4,4-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)を固形分20wt%となるように1:1のモル比で添加し、10℃で24時間反応させた。その後、ジアンハイドライド単量体1モルに対して水を0.1モル比で添加して50℃で24時間反応させ、粘度39cpsのイミド前駆体組成物を製造した。
【0135】
比較例2~4
反応単量体を下記表1に示す成分とモル比で混合した以外は、比較例1と同様にしてイミド前駆体組成物を製造した。
【0136】
【表1】
【0137】
表1に示す具体的な成分名は以下の通りである。
ジアミン単量体(A)
A-1:2,2-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(2,2'-Bis(trifluoromethyl)benzidine、TFMB)
A-2:4,4-メチレンジアニリン(4,4'-Methylene dianiline、MDA)
A-3:4,4-オキシジアニリン(4,4'-Oxy dianiline, ODA)
ジアンハイドライド単量体(B)
B-1: 4,4-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(4,4'-(Hexafluoroisopropylidene)diphthalic anhydride、6FDA)
B-2: 3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(3,3'4,4'-Biphenyl tetracarboxylicacid dianhydride、BPDA)
B-3: 3,3’,4’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(3,3',4,4'-Benzophenonetetracarboxylic dianhydride、BTDA)
B-4: 4,4’-オキシジフタル酸無水物(4,4'-oxydiphthalic Anhydride、ODPA)
環状エーテル基含有単量体(C)
C-1:グリシジルイソプロピルエーテル(Glycidyl Isopropyl Ether)
C-2:t-ブチルグリシジルエーテル(tert-Butyl Glycidyl Ether)
C-3:エチルグリシジルエーテル(Ethyl Glycidyl Ether)
【0138】
実験例
(1)経時安定性の評価:粘度変化率の測定
実施例及び比較例のポリイミド前駆体組成物の初期粘度を、粘度測定器(DV3T、Brookfield社製)を用いて、25℃の温度及び10rpm~60rpmの回転速度の条件で測定した。その後、40℃の温度で4週間放置した後、25℃の温度及び10rpm~60rpmの回転速度の条件で保存後に粘度を測定した。
初期粘度に対する保存後の粘度の変化値を百分率で計算し、粘度変化率を測定した。
【0139】
(2)コーティング膜の厚さ変化率の測定
実施例及び比較例によるポリイミド前駆体組成物をガラス基板上に1500rpmの回転速度でスピンコートした。その後、真空オーブン(convection oven)を用いて真空状態で280℃の温度で1時間熱処理して厚さ4500Åのコーティング膜を製造した。
実施例及び比較例によるコーティング膜の初期厚さを測定した。その後、コーティング膜を40℃の温度で4週間放置した後、保存後の厚さを測定し、初期厚みに対する厚さの変化値を百分率で計算し、厚さ変化率を測定した。
【0140】
【表2】
【0141】
表1及び表2を参照すると、実施例によるイミド前駆体組成物の場合は、高温で長期間放置した後も粘度の変化が少ないことを確認できる。また、それから形成されたコーティング膜の場合は、厚さの変化率が相対的に少ないことを確認できる。
【0142】
これに対して、比較例によるイミド前駆体組成物の場合は、粘度が大きく変化し、コーティング膜の厚さ変化率が非常に大きいことを確認できる。
【0143】
これらのことから、エポキシ化合物に由来する構造を含むイミド前駆体は、高い経時安定性を有し、過酷な条件で長期保存しても粘度の変化およびコーティング膜の厚さの変化が小さいことを確認できる。
【0144】
ポリイミドフィルムの製造
実施例及び比較例によるポリイミド前駆体組成物をガラス基板上に1500rpmの回転速度でスピンコートした。その後、真空オーブン(convection oven)を用いて真空状態で120℃の温度で1時間加熱乾燥してコーティング膜を形成した。その後、製造されたコーティング膜を真空状態で280℃の温度で1時間熱処理して、厚さ4500Åのポリイミドフィルムを製造した。
【0145】
(3) 熱分解温度(Td)の測定
実施例及び比較例によるポリイミドフィルムに対して、熱重量分析装置(TGA Q500、TA instrument)を用いて熱分解温度(decomposition temperature、Td)を測定した。具体的には、10℃/minの昇温速度で0℃から600℃に昇温し、ポリイミドフィルムの初期重量が1%減少したときの温度を測定して熱分解温度(Td)を測定した。
【0146】
(4)熱膨張係数(CTE)の測定
実施例及び比較例によるポリイミドフィルムを熱機械分析器(TMA 2940、TA instrument)を用いて、10℃/minの昇温速度及び5gの荷重条件で50℃~150℃における熱膨張係数(CTE)を測定した。
【0147】
(5)ガラス転移温度(Tg)の測定
実施例及び比較例によるポリイミドフィルムについて、示差走査型熱量計(DSC 200F3、Netzsch)を用いてガラス転移温度(glass transition temperature、Tg)を測定した。具体的には、10℃/minの昇温速度で25℃から400℃に昇温してガラス転移温度(Tg)を測定した。
【0148】
(6)レーザー剥離性の評価
実施例及び比較例によるポリイミドフィルムに対して、レーザー発振器(XeClエキシマpm848、Light Machinery)を用いて波長308nmの光を照射した。具体的には、レーザー照射のエネルギー密度は200mJ/cmであり、レーザー重畳率(overlap)は50%とした。
その後、ポリイミドフィルムの一端に垂直に力を加えて、ポリイミドフィルムをガラス基板から剥離した。ポリイミドフィルムがガラス基板上に残留した程度を観察し、レーザー剥離性を評価した。評価基準は以下の通りである。
<評価基準>
○:ガラス基板上にポリイミドフィルムの残渣が観察されない
×:ガラス基板上にポリイミドフィルムの残渣が観察される
【0149】
(7)透過率の測定
実施例及び比較例によるポリイミドフィルムの波長308nmにおける光透過率を、UV分光分析器(UV-3600、Shimadzu社製)を用いて測定した。
【0150】
【表3】
【0151】
表1及び表3を参照すると、実施例によるポリイミドフィルムの場合は、耐熱性を高く維持しつつ308nmにおける高い吸光度を有し、レーザー照射によるデボンディング特性が向上することを確認できる。
【0152】
これに対して、比較例によるポリイミドフィルムの場合は、波長308nmにおける低い吸光度を有し、レーザー照射による剥離性が劣化することを確認できる。
【0153】
これらのことから、エポキシ化合物に由来する構造により、紫外線領域の波長、例えば波長308nmにおける吸光度を高くすることができ、これによりレーザーデボンディング特性をより改善できることを確認できる。
図1
図2
図3
図4