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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】実機環境腐食性評価方法および試験片
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20240311BHJP
【FI】
G01N17/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023021632
(22)【出願日】2023-02-15
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳生 里紗
(72)【発明者】
【氏名】幡野 浩
(72)【発明者】
【氏名】染谷 竜太
(72)【発明者】
【氏名】久保 貴博
(72)【発明者】
【氏名】寺田 慎一
(72)【発明者】
【氏名】井山 浩一
(72)【発明者】
【氏名】木村 賢一
【審査官】野口 聖彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-044633(JP,A)
【文献】特開平06-201680(JP,A)
【文献】特開2013-171001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの試験片と、
評価の対象となる実機の内部の任意の箇所に前記試験片を取り付ける治具と、
を用いて行う方法であり、
前記実機を構成する少なくとも1つの部材の表面に接触または近接する位置であり、かつ前記部材の表面に生じる腐食環境を前記部材と前記試験片とで共有する共有位置に、前記試験片を前記治具で取り付け、
前記試験片を取り付けてから評価の対象となる期間が経過した後に、前記試験片を取り外し、
取り外した前記試験片の表面の腐食を解析した結果に基づいて、前記部材の表面に生じる腐食性の評価を行うものであり
前記実機は、排熱回収ボイラであり、
前記部材は、前記排熱回収ボイラの伝熱管であり、
前記共有位置は、前記伝熱管のフィンの隙間である、
実機環境腐食性評価方法。
【請求項2】
少なくとも1つの試験片と、
評価の対象となる実機の内部の任意の箇所に前記試験片を取り付ける治具と、
を用いて行う方法であり、
前記実機を構成する少なくとも1つの部材の表面に接触または近接する位置であり、かつ前記部材の表面に生じる腐食環境を前記部材と前記試験片とで共有する共有位置に、前記試験片を前記治具で取り付け、
前記試験片を取り付けてから評価の対象となる期間が経過した後に、前記試験片を取り外し、
取り外した前記試験片の表面の腐食を解析した結果に基づいて、前記腐食環境を模擬する模擬機を構築し、
前記模擬機の内部の任意の箇所に前記試験片を取り付け、
前記模擬機に前記試験片を取り付けてから評価の対象となる期間が経過した後に、前記模擬機の内部から前記試験片を取り外し、
前記模擬機から取り外した前記試験片の表面の腐食を解析した結果に基づいて、前記部材の表面に生じる腐食性の評価を行う、
実機環境腐食性評価方法。
【請求項3】
少なくとも1つの試験片と、
評価の対象となる実機の内部の任意の箇所に前記試験片を取り付ける治具と、
を用いて行う方法であり、
前記実機を構成する少なくとも1つの部材の表面に接触または近接する位置であり、かつ前記部材の表面に生じる腐食環境を前記部材と前記試験片とで共有する共有位置に、前記試験片を前記治具で取り付け、
前記試験片を取り付けてから評価の対象となる期間が経過した後に、前記試験片を取り外し、
取り外した前記試験片の表面の腐食を解析した結果に基づいて、前記部材の表面に生じる腐食性の評価を行うものであり、
前記試験片は、少なくとも1つの第1試験片と少なくとも1つの第2試験片とを含み、
前記第1試験片の少なくとも一部は、前記部材と同一形状を成し、前記第2試験片を保持する構造を有し、かつ前記治具により前記共有位置に保持されるものであり、
前記第2試験片は、前記第1試験片と異なる形状を成し、かつ前記第1試験片により前記共有位置に保持されるものである、
実機環境腐食性評価方法。
【請求項4】
前記第1試験片は、前記第2試験片を保持する少なくとも1つの凹部を有し、前記凹部に前記第2試験片の一部が遊嵌された状態で、前記第1試験片と前記第2試験片が前記実機に取り付けられる、
請求項3に記載の実機環境腐食性評価方法。
【請求項5】
前記第1試験片は、複数の前記凹部を有し、それぞれの前記凹部が前記第1試験片の異なる側面に設けられており、
前記第1試験片が取り付けられる箇所に応じて複数の前記凹部のうち前記第2試験片を保持させる前記凹部を選択する、
請求項4に記載の実機環境腐食性評価方法。
【請求項6】
前記共有位置は、前記部材の表面に生じる腐食成分を含む水膜を共有する位置、前記部材の表面に生じる流体の流れを共有する位置、または、前記部材の表面に付着する腐食生成物、付着物もしくは湿分を共有する位置の少なくともいずれかである、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の実機環境腐食性評価方法。
【請求項7】
前記試験片の取り付け前と取り外し後に、前記試験片の重量、厚み、表面粗さ、表面付着成分の少なくとも1つを測定し、測定値の変化量に基づいて、前記部材の表面に生じる腐食性の評価を行う、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の実機環境腐食性評価方法。
【請求項8】
前記試験片の表面に付着した成分の分析、前記試験片の構造の解析、前記試験片の形態の分析、前記試験片の表面の観察、前記試験片の断面の分析、前記試験片の重量の測定、前記試験片の厚みの測定、前記試験片の表面粗さの測定の少なくともいずれかを行い、前記部材の表面に生じる腐食性の評価を行う、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の実機環境腐食性評価方法。
【請求項9】
コンピュータを用いて行う方法であり、
前記コンピュータは、前記試験片の表面の腐食を解析した結果の入力に応じて、前記部材の表面に生じる腐食性の推定を行い、かつ推定した結果または前記実機の腐食対策を示す情報の少なくとも一方を出力する、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の実機環境腐食性評価方法。
【請求項10】
前記治具は、前記試験片を前記部材に括り付ける少なくとも1本のワイヤを含む、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の実機環境腐食性評価方法。
【請求項11】
前記腐食環境は、前記部材の表面に、燃焼ガス、蒸気、液体、二相流の少なくともいずれかが通過する環境である、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の実機環境腐食性評価方法。
【請求項12】
前記部材は、排熱回収ボイラの伝熱管、前記排熱回収ボイラのドレイン管、前記排熱回収ボイラの給水管、前記排熱回収ボイラの煙道、管束板、防振板、架台の少なくともいずれかであり、
前記腐食環境は、前記部材の表面に、燃焼ガス、蒸気、液体、二相流の少なくともいずれかが通過する環境である、
請求項2から請求項5のいずれか1項に記載の実機環境腐食性評価方法。
【請求項13】
前記腐食環境は、前記部材の表面に、硫化物または硫黄を含むイオン、塩化物または塩素を含むイオン、硝酸化合物または硝酸を含むイオン、アンモニア化合物またはアンモニアを含むイオン、炭酸化合物または炭酸を含むイオンの少なくともいずれかが付着する環境である、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の実機環境腐食性評価方法。
【請求項14】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の実機環境腐食性評価方法に用いる試験片。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、実機環境腐食性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、サステイナブルな社会の実現に向けて、エネルギーの脱炭素化が叫ばれている。太陽光発電、風力発電、水力発電などの再生エネルギーと呼ばれる発電方式は、その重要性を増している。一方、各種方式は、そのエネルギー供給の安定性に多くの課題を有し、安定供給の実現に向けた数多の研究開発が進められている。現状のエネルギー供給の主力であり、エネルギー供給の安定性から、今後再生エネルギーを支える柱のひとつに、コンバインドサイクル発電方式がある。コンバインドサイクル発電方式のプラントは、ガスタービンを燃焼ガスによって駆動し、このガスタービンから排気される排ガスを排熱回収ボイラ(Heat Recovery Steam Generator:HRSG)に送る。この排熱回収ボイラは、その主たる部分が、伝熱管と呼ばれるフィン付きの配管で構成されており、伝熱管の外面に排ガスを流通させ、伝熱管内を流通する熱水または蒸気により、排ガスの余熱を移送する。このコンバインドサイクル発電方式は、排ガスの余熱を利用して蒸気を生成し、得られた蒸気を蒸気タービンに導いて発電機を駆動している。これにより、従来の各種発電方式以上の高効率の発電が実現される。
【0003】
一方、コンバインドサイクル発電方式に不可欠な機器である排熱回収ボイラは、その機器内部において、腐食環境が形成され易い機器でもある。この排熱回収ボイラは、運転時は高温となり、停止時は外気温度と同等の温度となることから、その機器内部に高湿度の環境が形成され易く、特に停止時にリスクが高まる。機器内部の高湿度化は、降雨などによる外部環境の湿度の影響も受け、熱交換器の伝熱管またはスタブなどの部材が、腐食発生のリスクを有する。また、排熱回収対象である排ガスに含まれる成分には、腐食成分が含まれるケースもあり、より腐食し易い環境が形成されてしまうことも想定される。
【0004】
排熱回収ボイラは、数階建ての規模を有する大型機器であり、伝熱管の本数は、数百から数千本にもなる。伝熱管の腐食により錆層が形成される場合、伝熱管の主たる要求性能である熱伝達は、錆層により阻害されるため、熱伝達効率が低下する。また、腐食により機器の損傷が生じた場合、部材の減肉または局部腐食による薄肉化が生じ、機器としての耐久性が低下する。また、伝熱管の外面に腐食が発生し、粗錆層が形成されると、プラントの起動時に、ガスタービンから排熱回収ボイラに送り込まれる排ガスの気流によって剥離が生じる。この剥離した錆は、煙突などを通って排熱回収ボイラから外部環境へと排出されるおそれがある。加えて、腐食の進行と錆層の剥離が繰り返されると、伝熱管自体の減肉と薄肉化を加速する要因となり得る。そのため、排熱回収ボイラに腐食が発生しないよう、排熱回収ボイラに設置前に、その部材に対して、防錆対策として塗装または溶射を行うことが検討されている。
【0005】
排熱回収ボイラの構成は、高い熱回収効率を得るために最適化されており、多くの場合、伝熱管が密集して配置されている。従って、排熱回収ボイラをプラントに設置した後に、伝熱管またはスタブなどの部材に対し、塗装または溶射による防錆対策を施すことは、実質的に不可能であるとされている。特に、塗装または溶射は、防錆対象表面を適切に被覆する必要がある。また、不充分な塗膜または溶射層の形成は、機能発現を阻害して有効な効果を得られないリスクを有する。また、排熱回収ボイラの設置後に発生し、進行した錆については、排熱回収ボイラを起動させる前に、錆の除去を行う気吹掃除などのメンテナンスが行われる。しかし、排熱回収ボイラの内部は、伝熱管などが密集し、入り組んでいるため、腐食対策、錆の飛散対策の作業が困難である。
【0006】
これら背景に加え、プラントにおける伝熱管の腐食対策の難しさの一因として、プラント毎の腐食性の差が挙げられる。国内のプラントにおいても、その実機環境が有する腐食性、例えば、伝熱管を腐食させる程度は、排ガスが含有する成分の種類、その濃度、周辺環境、運転状況により大きく異なる。さらに、燃料ガスの変更、燃料ガスに付随する付臭剤の変更、周辺施設の変遷などの腐食の原因となる成分が付着する要因が多数あり、伝熱管の腐食程度の予測が非常に困難である。
【0007】
この様な背景を受け、燃焼ガス中の金属成分を計測するために、煙道内に火炎形成装置を設置し、発光強度からガス中の微量成分濃度を算出するため、高精度で微量成分濃度を計測する技術が知られている。例えば、排熱回収ボイラの内部の各所に類似の装置を設置することは、物理的に可能である。しかし、熱を移送する内部流体と排ガスの間で、配管各所の温度が決まる排熱回収ボイラは、その配管各所で温度状況が異なる。従って、ガス中の微量成分濃度の算出のみで環境の腐食性を評価することは難しい。
【0008】
また、実機の表面における、硫酸による腐食を検知する手段として、実機に直接腐食センサを設置する技術が知られている。例えば、低圧節炭器近傍に、硫酸による腐食電流を測定するための腐食センサが設置され、この腐食センサが硫酸による腐食電流を検知する。この手法では、腐食センサを張り付けた箇所において生じる硫酸起因の腐食程度を測定することができる。一方、排熱回収ボイラの伝熱管の形状は、非常に複雑で、通液のための母管部分と無数の伝熱フィンからなり、腐食センサを安定して設置可能な箇所が限られる。また、腐食要因がひとつでないプラントにおいては、別要因の影響を含めて腐食速度を算出することが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第3182913号公報
【文献】特許第6137772号公報
【文献】特開平11-287888号公報
【文献】特開2005-351715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、実機の内部の部材が晒される環境における腐食の程度を把握することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施形態に係る実機環境腐食性評価方法は、少なくとも1つの試験片と、評価の対象となる実機の内部の任意の箇所に前記試験片を取り付ける治具と、を用いて行う方法であり、前記実機を構成する少なくとも1つの部材の表面に接触または近接する位置であり、かつ前記部材の表面に生じる腐食環境を前記部材と前記試験片とで共有する共有位置に、前記試験片を前記治具で取り付け、前記試験片を取り付けてから評価の対象となる期間が経過した後に、前記試験片を取り外し、取り外した前記試験片の表面の腐食を解析した結果に基づいて、前記部材の表面に生じる腐食性の評価を行うものであり、前記実機は、排熱回収ボイラであり、前記部材は、前記排熱回収ボイラの伝熱管であり、前記共有位置は、前記伝熱管のフィンの隙間である
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態により、実機の内部の部材が晒される環境における腐食の程度を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態の伝熱管と第1試験片と第2試験片を示す側面図。
図2図1のII-II断面図。
図3図1のIII-III断面図。
図4】第2試験片を示す平面図。
図5図4のV-V断面図。
図6】第1試験片と第2試験片の組み立て方を示す断面図。
図7】組み立て後の第1試験片と第2試験片を示す断面図。
図8】第2実施形態の伝熱管と第1試験片と第2試験片を示す側面図。
図9】第3実施形態の伝熱管と第1試験片と第2試験片を示す側面図。
図10】第4実施形態の伝熱管と第1試験片を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、図面を参照しながら、実機環境腐食性評価方法および試験片の実施形態について詳細に説明する。まず、第1実施形態について図1から図7を用いて説明する。
【0015】
図1の符号1は、第1実施形態の部材としての伝熱管である。この伝熱管1は、腐食性の評価の対象となる実機としての排熱回収ボイラの内部に設けられており、複数の伝熱管1で熱交換器が構成されている。図1は、垂直方向に延びる1本の伝熱管1が図示されているが、水平方向に延びる1本の伝熱管1であってもよい。
【0016】
排熱回収ボイラとしては、コンバインドサイクル発電方式の発電プラントに設けられているものがある。コンバインドサイクル発電方式とは、ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた二重の発電方式である。例えば、最初に圧縮空気の中で燃料を燃焼して燃焼ガスを発生させて、その燃焼ガスでガスタービンを回して発電が行われる。そして、ガスタービンから排出される排ガスの余熱を使って水を蒸気にして、その蒸気で蒸気タービンを回して発電が行われる。このコンバインドサイクル発電方式は、通常の火力発電方式より多くの電力を発生させることができる。
【0017】
排熱回収ボイラは、排ガスの余熱を使って水を蒸気にする装置である。排熱回収ボイラの伝熱管1の内部を水と蒸気が流れ、伝熱管1の外部を排ガスが通過する。この排ガスには、伝熱管1を腐食させる様々な成分が含まれている。
【0018】
また、運転中の発電プラントが停止すると、排熱回収ボイラに対する排ガスの供給が停止し、伝熱管1の周囲の雰囲気の温度が下がる。すると、伝熱管1の周囲の雰囲気に含まれている水分が凝縮し、伝熱管1の表面に水膜(結露水、凝縮水)が生じるようになる。この水膜にも、伝熱管1を腐食させる様々な成分が含まれている。
【0019】
発電プラントの起動と停止が繰り返されると、伝熱管1の表面に対する排ガスと水膜の付着が繰り返されることになる。排ガスと水膜のような腐食因子の付着により伝熱管1の表面の腐食が進行してしまう。
【0020】
環境の腐食性の確認可能な方法としては、例えば、排ガス計測がある。排ガス計測は、排熱回収ボイラの全体を通過するガス成分を捉えることができる。一方、排ガスを継続して計測・分析することは、コスト的にも負担が大きく、スポットでの不定期の測定に留まることが多かった。そのため、従来は、排熱回収ボイラを構成する部材、例えば、伝熱管1の一部を切って抜管し、抜管した部分を補修または閉止し、採取した伝熱管1の一部を用いて腐食性の確認を行っていた。
【0021】
この方法では、環境の腐食性の把握は困難であるが、環境の腐食性により生ずる腐食生成層、腐食成分、減肉程度などを把握することができる。また、伝熱管1の母管2(図2)の残肉厚計測も可能である。従って、この方法は、経年の腐食程度、耐用年数の確認には有効な方法である。しかし、この方法は、破壊測定、破壊検査となってしまうため、多数の伝熱管1が密集して配列される排熱回収ボイラの内部の補修溶接作業などの実際に困難を伴う作業が発生する。さらに、溶接箇所の健全性の確保の課題がある。また、伝熱管1の採取箇所については、補修せずに閉止板を打って一部の流れを使用しないようにする運用方法も行われている。しかし、排熱回収ボイラの本来の性能を犠牲にするため、影響が懸念される。
【0022】
この他、伝熱管1のフィン3(図2)のみを、樹脂で固めて切り出すことで、フィン3を採取する方法もなされている。しかし、この方法でも、伝熱管1の一部が、フィン3の採取のため破壊されてしまうため、破壊測定、破壊検査となってしまう。健全な機器では影響が少ない、僅かな破壊採取、破壊測定であっても、破壊を伴う採取による排熱回収ボイラへのリスクと影響が強く懸念される。
【0023】
そこで、本実施形態では、実機に高負荷をかけずに、実機の内部の部材が晒される環境における腐食の程度を把握することを目的としている。さらに、本実施形態は、実機が暴露される環境の腐食性を、半定量的に検出、把握し、効果的な抑制手法、腐食対策の提案を実現するものである。
【0024】
図1から図2に示すように、伝熱管1は、母管2とその周囲に多数設けられたフィン3から成る。1枚のフィン3は、平面視で四角形状を成している。複数のフィン3は、母管2の周方向に円盤状に並んでいる。円盤状に並んだフィン3の部分が、母管2の軸方向(上下方向)に沿って多段に配置されている。例えば、伝熱管1のフィン3が円盤状に並んだ部分は、母管2の軸方向に均等に並んで配置されている。
【0025】
なお、フィン3の配置形態には、様々な態様がある。例えば、フィン3が母管2の周囲に螺旋状に並んで配置されているものもある。さらに、フィン3の形状にも、様々な形態がある。例えば、それぞれのフィン3に折り目が着いている所謂ドックイヤーと呼ばれるフィン3もある。また、平面視で三角形状または他の形状を成すフィン3もある。
【0026】
本実施形態の実機環境腐食性評価方法は、第1試験片10と第2試験片20と治具を用いて伝熱管1の腐食性の評価うものである。図1の例では、1本の第1試験片10と4枚の第2試験片20が設けられている。第1実施形態の治具は、第1試験片10を伝熱管1に括り付ける少なくとも1本のワイヤ30を含む。また、治具は、管束板、防振板、架台など、伝熱管1以外の実機の補助具に括り付けることが可能な取り付け具を有することも可能である。このようにすれば、実機である排熱回収ボイラの性能に影響をきたす改造をすることなく、かつ実機への過大な負荷を加えることなく、第1試験片10を実機に取り付けることができる。
【0027】
第1試験片10は、ステンレス製のワイヤ30で伝熱管1の任意の箇所に取り付けられている。第2試験片20は、第1試験片10に保持され、この第1試験片10を介して伝熱管1の任意の箇所に取り付けられている。
【0028】
つまり、第1試験片10および第2試験片20は、排熱回収ボイラを構成する部材である伝熱管1の表面に接触または近接する位置にワイヤ30で取り付けられる。ここで、第1試験片10および第2試験片20は、伝熱管1の表面に生じる腐食環境を、伝熱管1と、第1試験片10および第2試験片20とで共有する共有位置に取り付けられる。なお、伝熱管1の表面に生じる腐食環境とは、伝熱管1の「表面のみ」に生じるものであり、伝熱管1の表面から離れた位置では異なる環境であることを示す。
【0029】
この共有位置は、伝熱管1の表面に生じる腐食成分を含む水膜を共有する位置、伝熱管1の表面に生じる流体の流れを共有する位置、または、伝熱管1の表面に付着する腐食生成物、付着物もしくは湿分を共有する位置の少なくとも1つである。このようにすれば、伝熱管1の表面に生じる腐食環境を、伝熱管1と、第1試験片10および第2試験片20とで共有することができる。
【0030】
第1実施形態の共有位置は、伝熱管1の軸方向に並ぶ複数のフィン3の隙間Gである。このようにすれば、第1試験片10および第2試験片20が伝熱管1のフィン3に接触または近接した位置に設けられるため、伝熱管1の腐食の評価をすることができる。熱交換器としての排熱回収ボイラの伝熱管1は、その内部と外部で温度差がある流体が流れるため腐食し易い。本実施形態では、第1試験片10および第2試験片20の解析により、その腐食環境を把握することができる。
【0031】
第1試験片10および第2試験片20が取り付けられる位置は、作業者であるユーザが、手作業で取り付け易い位置でよい。また、取り付ける時期は、任意の時期でよく、例えば、排熱回収ボイラのメンテナンス時でもよいし、排熱回収ボイラの製造時でもよい。
【0032】
そして、第1試験片10および第2試験片20を取り付けてから評価の対象となる期間が経過した後に、ユーザは、第1試験片10および第2試験片20を取り外す。この取り外した第1試験片10および第2試験片20の表面の腐食を解析した結果に基づいて、ユーザが、伝熱管1の表面に生じる腐食性の評価を行う。なお、腐食性の評価には、腐食環境における耐食性と耐久性の評価が含まれる。
【0033】
第1試験片10は、伝熱管1とほぼ同一形状を成している。この第1試験片10は、伝熱管1と親和性がある類似形状となっている。
【0034】
第1試験片10は、円筒形状を成す管部11と、その周囲に設けられた円盤状を成す複数枚の円盤部12を備える。例えば、1本の管部11の周面に6枚の円盤部12が上下方向、または管部11が水平に配置されている場合は水平方向に均等に並んで配置されている。
【0035】
第1試験片10の管部11は、伝熱管1と同じ外径および内径を有している。第1試験片10の円盤部12は、伝熱管1のフィン3が円盤状に並んだ部分とほぼ同じ形状を成す。例えば、フィン3の突出寸法と円盤部12の突出寸法が同一となっている。また、円盤部12の厚みは、フィン3の厚みと同一となっている。また、円盤部12同士の間の離間寸法は、フィン3同士の上下方向の隙間Gの寸法と同一となっている。このようにすれば、伝熱管1の形状により生じる腐食性の変化を、第1試験片10により評価することができる。
【0036】
なお、第1試験片10は、伝熱管1の構造と同じ構造でもよい。例えば、第1試験片10の円盤部12が、伝熱管1の複数枚のフィン3で構成される円盤状の部分のような形態にされてもよい。さらに、第1試験片10は、伝熱管1の構造と異なる構造でもよい。例えば、第1試験片10において、伝熱管1に対向する側面のみが、伝熱管1と同一形状にされてもよい。
【0037】
なお、伝熱管1が螺旋状に並ぶフィン3を有する場合、第1試験片10の円盤部12が螺旋状であってもよい。
【0038】
また、第1試験片10は、治具としてのワイヤ30により共有位置に保持されるものである。例えば、第1試験片10の管部11にワイヤ30の一部が通され、このワイヤ30が伝熱管1に括り付けられる。
【0039】
また、第1試験片10は、第2試験片20を保持する構造を有する。第1実施形態の第1試験片10において、伝熱管1に対向する側面には、第2試験片20が嵌るスリット状(溝状)を成す複数の凹部13が形成されている。これらの凹部13は、管部11の周方向に沿って切り欠かれた開口である。管部11の周面のほぼ半周に亘って凹部13が切り欠かれている。図1の例では、4枚の第2試験片20のそれぞれに対応する4つが第1試験片10に形成されている。そのため、1箇所に第1試験片10が取り付けられることで、複数の第2試験片20の取り付けが可能となっている。
【0040】
なお、第2試験片20が1枚の場合は、凹部13も1つでもよい。第1実施形態では、第1試験片10を伝熱管1の腐食性の評価に用いることに加えて、この第1試験片10が、第2試験片20を保持するための器具(治具)として機能するようになる。
【0041】
それぞれの第2試験片20は、少なくとも第1試験片10と異なる形状を成し、かつ第1試験片10により共有位置に保持されるものである。これらの第2試験片20は、腐食の解析がし易い形状にすることができる。
【0042】
第1実施形態の第2試験片20は、平板状を成す(図4)。第2試験片20が平板状を成すことで、ユーザが顕微鏡などを用いて第2試験片20の表面の腐食箇所40(図5)を観察し易くなる。さらに、ユーザが第2試験片20の表面の付着物または腐食生成物41(図5)の採取もし易くなる。なお、第2試験片20には、第1試験片10に保持させるために用いる2つの孔部21(図4)が形成されている。
【0043】
また、第1試験片10に凹部13が形成さている箇所は、第2試験片20のぐらつきを許容する箇所となっている。例えば、凹部13の幅が、第2試験片20の厚みよりも大きくなるように形成されている。そして、この凹部13に第2試験片20の一部が遊嵌された状態で、第1試験片10と第2試験片20が伝熱管1に取り付けられている。このようにすれば、第1試験片10および第2試験片20を、伝熱管1に対する親和性、熱伸び熱収縮に対する追従性を確保し得る構造とすることができる。
【0044】
また、第1試験片10および第2試験片20は、伝熱管1を構成する材料と同じ材料で形成されてもよいし、伝熱管1を構成する材料よりも腐食性が劣る材料で形成されてもよい。例えば、第1試験片10および第2試験片20が伝熱管1を構成する材料と同じ材料である場合には、実際の腐食の状態を再現することができる。また、第1試験片10および第2試験片20が劣る材料で形成されている場合には、実際の腐食の期間よりも短い期間で第1試験片10および第2試験片20を腐食させることができ、将来の腐食の状態を早期に再現することができる。
【0045】
次に、第1試験片10と第2試験片20の組み立て方について説明する。図6に示すように、第1試験片10は、保持棒14とナット15とスペーサ16とを備えている。図6の例では、1本の保持棒14が図示されているが、実際には、第2試験片20の2つの孔部21にそれぞれ挿通される2本の保持棒14が設けられている(図3)。本実施形態では、理解を助けるために片方の保持棒14を参照して説明する。
【0046】
図7に示すように、保持棒14の表面には、雄ネジが形成されており、ナット15が螺合される。例えば、保持棒14が、第2試験片20の孔部21に挿通された状態で、保持棒14の上下にナット15が螺合される。また、4枚の第2試験片20の間には、スペーサ16が設けられる。それぞれのスペーサ16は、円筒形状を成し、保持棒14が挿通される。図7の例では、保持棒14の上下に短寸のスペーサ16が配置され、保持棒14の中央に長寸のスペーサ16が配置されている。
【0047】
図6に示すように、ユーザが第1試験片10と第2試験片20を組み立てるときには、まず、保持棒14に上部のナット15を螺合させておき、この保持棒14を第1試験片10の管部11の上側の開口から挿入する。そして、ユーザは、最上段の凹部13に1枚目の第2試験片20を挿入し、この第2試験片20の孔部21に保持棒14を挿入する。次に、ユーザは、上部の短寸のスペーサ16を第1試験片10の管部11の下側の開口から挿入し、このスペーサ16に保持棒14を挿入する。そして、ユーザは、2枚目の第2試験片20を2段目の凹部13に挿入し、この第2試験片20の孔部21に保持棒14を挿入する。次に、ユーザは、中央の長寸のスペーサ16を第1試験片10の管部11の下側の開口から挿入し、このスペーサ16に保持棒14を挿入する。さらに、ユーザは、3枚目の第2試験片20、下部の短寸のスペーサ16、4枚目の第2試験片20の順に保持棒14に挿通させる。最後に、ユーザは、下部のナット15を第1試験片10の管部11の下側の開口から挿入し、このナット15を保持棒14に螺合させる(図7)。
【0048】
なお、ユーザは、それぞれのスペーサ16の長さ寸法、または、ナット15の締め付け具合を調整することで、第2試験片20のぐらつきを生じさせることもできるし、第2試験片20がぐらつかないように固定することもできる。
【0049】
図1に示すように、第1試験片10および第2試験片20が伝熱管1に取り付けられると、伝熱管1のフィン3の隙間Gに、第1試験片10の円盤部12と第2試験片20とが入り込む。このとき、第1試験片10の円盤部12および第2試験片20の表面は、伝熱管1のフィン3の表面に接触または近接する。
【0050】
なお、近接する場合において、その間の距離は、少なくともフィン3の表面に発生する水膜が、第1試験片10の円盤部12および第2試験片20の表面に伝わる距離であればよい。また、接触する場合には、伝熱管1のフィン3の隙間Gに、第1試験片10の円盤部12および第2試験片20が嵌合されてもよい。
【0051】
なお、伝熱管1は、排熱回収ボイラの運転時と停止時の温度変化を受け、熱により伸縮する。従って、フィン3のピッチも一様でなく、規則性が乱れた箇所も存在する。これに対して本実施形態では、第2試験片20のぐらつきを許容しているため、フィン3の規則性が乱れた箇所にも取り付けることができる。
【0052】
また、この第2試験片20の厚みは、第1試験片10の円盤部12の厚みよりも薄いもの、例えば、半分以下の厚みを有するものでもよい。また、第1実施形態の凹部13の幅が広げられることで、第2試験片20の傾斜角度の変更をしてもよい。このようにすれば、熱により伸縮する伝熱管1であっても、第2試験片20が熱伸縮に対する追従性を有するようになる。
【0053】
第1試験片10が伝熱管1に取り付けられたときに、第2試験片20が、第1試験片10と伝熱管1の間に挟持されてもよい。このようにすれば、第2試験片20が第1試験片10の凹部13に遊嵌された状態でも、伝熱管1に取り付けられた後に、第2試験片20が固定されるようになる。
【0054】
第1実施形態の第1試験片10は、実機と嵌合する構造となっている。そして、第1試験片10に、第2試験片20を保持させてさらなる試験を行うことができる。
【0055】
排熱回収ボイラは、排ガスが排圧を有する状態で通過する機器であり、従来の不充分な固定では、試験片の離脱、落下が生じるおそれがある。また、実機に高い負荷をかけて試験片を固定することは、実機の損傷などに直結する。しかし、第1実施形態では、第1試験片10の離脱が防止できるようになり、ナット15の締め位置により、第2試験片20と実機との接触の調整も可能となる。
【0056】
なお、第1試験片10は、腐食の生じ難い、ステンレス製のワイヤ30などを使用して、管束板、防振板など、伝熱管1以外の部材に固定してもよい。伝熱管1に対してワイヤ30が接触することによる、伝熱管1への機械的な影響を抑止することができる。
【0057】
図2から図3に示すように、第1試験片10および第2試験片20が伝熱管1のフィン3に接触または近接されている。このようにすれば、腐食環境、例えば、結露による水膜、腐食成分が溶け込んだ腐食成分を含む水膜を、第1試験片10および第2試験片20が共有することができる。
【0058】
また、第1試験片10の円盤部12と第2試験片20の端縁が、伝熱管1の母管2の外周面に接触または近接される。このようにすれば、フィン3のみならず、母管2の表面に生じる腐食環境を、第1試験片10および第2試験片20が共有することができる。
【0059】
例えば、図4から図5に示すように、伝熱管1から取り外した第2試験片20には、フィン3が接触していた部分が腐食箇所40となる。ユーザは、この腐食箇所40を観察したり、腐食箇所40の付着物を採取したりすることで、その腐食の程度を把握することができる。
【0060】
また、ユーザは、第1試験片10および第2試験片20の取り付け前と取り外し後に、第1試験片10および第2試験片20の重量、厚み、表面粗さ、表面付着成分の少なくとも1つを測定する。そして、ユーザは、この測定したときの測定値の変化量に基づいて、伝熱管1の表面に生じる腐食性の評価を行う。このようにすれば、第1試験片10および第2試験片20の変化量に基づいて、伝熱管1の表面に生じる腐食性の評価を行うことができる。
【0061】
特に、腐食による変化量を定量的に把握することができる。腐食状況は、実機の運転開始から確認時期までの総時間の蓄積が実機の状況に影響した結果であり、その腐食の進行レベルを把握することが極めて困難である。しかし、本実施形態では、定量的な数値を把握、例えば、試験開始前の状況を定量的に把握可能な第1試験片10および第2試験片20を設けることにより、試験開始から採取までの期間によって生じた結果として腐食程度を把握することができる。
【0062】
なお、第1試験片10および第2試験片20の解析の際、色彩判定による面積算出が併用されてもよい。例えば、第1試験片10および第2試験片20の表面において、伝熱管1の腐食環境を共有していた箇所の面積が算出され、かつ重量増加の主要範囲として計算される。このようにすれば、高い精度で腐食環境を把握することができる。さらに、第1試験片10および第2試験片20が、非破壊で伝熱管1から取外しができることにより、伝熱管1を切断する必要がない。そのため、伝熱管1の切断時の振動などによる、腐食層の剥離または破損などが生じ難く、腐食により生成された影響層の損失を回避することもできる。
【0063】
また、ユーザは、第1試験片10および第2試験片20の表面に付着した成分の分析、第1試験片10および第2試験片20の構造の解析を行う。また、ユーザは、第1試験片10および第2試験片20の形態の分析、第1試験片10および第2試験片20の表面の観察を行う。
【0064】
また、ユーザは、第1試験片10および第2試験片20の断面の分析、第1試験片10および第2試験片20の重量の測定を行う。また、ユーザは、第1試験片10および第2試験片20の厚みの測定、第1試験片10および第2試験片20の表面粗さの測定を行う。
【0065】
そして、ユーザは、これらの分析などに基づいて、伝熱管1の表面に生じる腐食性の評価を行う。このようにすれば、腐食因子の推定と腐食量の算出を行うことができる。また、腐食性の半定量化を行うことができる。
【0066】
本実施形態の実機環境腐食性評価方法は、その一部にコンピュータが用いられてもよい。例えば、本実施形態のコンピュータは、第1試験片10および第2試験片20の表面の腐食を解析した結果の入力に応じて、伝熱管1の表面に生じる腐食性の推定を行い、かつ推定した結果または排熱回収ボイラの腐食対策を示す情報の少なくとも一方を出力する。このようにすれば、コンピュータによる推定に基づいて、ユーザが腐食対策を提案することができる。
【0067】
コンピュータは、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)などのハードウェア資源を有し、CPUが各種プログラムを実行することで、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて実現される。さらに、本実施形態の実機環境腐食性評価方法は、各種プログラムをコンピュータに実行させることで実現される。
【0068】
なお、コンピュータは、腐食解析に必要な情報が蓄積されたデータベースを備える。このデータベースは、メモリ、HDD、クラウドコンピューティングのリソースに記憶され、検索または蓄積ができるよう整理された情報の集まりである。
【0069】
第1実施形態で評価の対象となる部材として、排熱回収ボイラの伝熱管1が例示されているが、その他の態様でもよい。例えば、評価の対象となる部材は、排熱回収ボイラのドレイン管、排熱回収ボイラの給水管、排熱回収ボイラの煙道、管束板、防振板、架台など、伝熱管1以外の実機の補助具などでもよい。また、腐食環境は、部材の表面に、燃焼ガス、蒸気、液体、二相流の少なくともいずれかが通過する環境、または部材の表面に腐食生成物、付着物もしくは湿分が付着する環境である。このようにすれば、排熱回収ボイラで生じる様々な腐食環境を評価することができる。
【0070】
また、腐食環境は、部材の表面に、硫化物または硫黄を含むイオン、塩化物または塩素を含むイオン、硝酸化合物または硝酸を含むイオンの少なくともいずれかが付着する環境である。さらに、腐食環境は、アンモニア化合物またはアンモニアを含むイオン、炭酸化合物または炭酸を含むイオンの少なくともいずれかが付着する環境でもよい。このようにすれば、様々な腐食因子に起因する腐食環境を評価することができる。
【0071】
例えば、第1試験片10および第2試験片20には、腐食環境に応じて、腐食の他、硫酸アンモニウムの成分の付着、飛来微細粒子による摩耗などの変化が生じる。これらの変化に対し、イオンクロマトグラフィー(Ion Chromatography:IC)、プラズマ発光分析(Inductively Coupled Plasma:ICP)、エネルギー分散型X線分光法(Energy dispersive X-ray spectrometry:EDS)、電子線マイクロアナライザー(Electron Probe Micro Analyzer:EPMA)などの成分分析により、腐食成分の推定が行われる。
【0072】
また、腐食成分、付着成分の構造分析としては、フーリエ変換赤外分光装置(Fourier Transform Infrared Spectroscopy:FT-IR)、ラマン分光法(Raman spectrometric method raman spectroscopy)、X線回折法(X-Ray Diffraction:XRD)、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)、オージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy:AES)などの構造分析が用いられる。
【0073】
また、形態分析としては、走査線電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)などによる拡大分析が行われる。また、錆、付着成分は、これらが呈する色彩の情報も重要であり、顕微鏡による表面観察なども行われる。また、断面分析は、顕微鏡観察、SEM観察などにより、マクロ的およびミクロ的な情報が得られる。
【0074】
また、半定量的な腐食量の算定方法としては、第1試験片10および第2試験片20の重量測定により、腐食環境への暴露前と暴露後の重量変化が変化量として測定される。同様に、厚み測定、表面粗さ測定が行われる場合もある。ここで、重量変化、厚み変化は、腐食または付着により、その変位量の意味づけが異なる。例えば、錆形成による重量増加と成分付着による重量増加は、その増加量が持つ意味が同義でない。本実施形態では、重量変化、厚み変化、粗さ変化のいずれかに際し、その要因を併行して検証することで、第1試験片10および第2試験片20の腐食程度が適切に把握される。
【0075】
例えば、重量変化のデータについては、第1試験片10および第2試験片20の分析または解析が行われ、付着物または腐食に起因する成分が観察または分析される。ユーザは、純水またはそれに準ずる液体を用いた抽出方法で、第1試験片10および第2試験片20から腐食成分を抽出し、その腐食成分の含有濃度を算出する。この腐食成分の含有濃度は、第1試験片10および第2試験片20の全体に付着した腐食成分から、その濃度を算出するものである。
【0076】
この方法では、図4に示すように、第2試験片20の暴露により影響を受けた箇所が可視化される。この影響を受けた箇所は、例えば、結露水の影響を受け、伝熱管1の表面における腐食成分の溶け込み、付着に準ずる状況を形成し得る。この可視化された部分の面積の第2試験片20の表面全体に占める割合が算出さることで、本来の付着成分の濃度が算出される。この比率の算出には、画像データによる解析を用いることもできるし、設計値基準での算出もできる。
【0077】
また、伝熱管1のフィン3が幅方向に減肉を呈するケースでは、その分を加味して算出が行われる。また、構造解析が併用されることで、分析された成分が、実機でどのような化合物が存在するかを推定する手助けになる。特に、第1試験片10および第2試験片20の採取時に得られる乾いた状態での化合物の分析のみならず、湿式状態での化合物の状態の分析、第2試験片20に対する反応の推定にも用いることができる。
【0078】
第1試験片10および第2試験片20が腐食環境に暴露されると、第1試験片10および第2試験片20の影響を受ける箇所において腐食する事象が生じるケースがある。なお、図5では、第2試験片20の腐食箇所40が例示されているが、第1試験片10の円盤部12でも以下の第2試験片20の説明と同様の現象が生じる。
【0079】
図5に示すように、伝熱管1のフィン3の腐食が進行すると、フィン3の減肉が進行する。ここで、第2試験片20における、フィン3との接触箇所または近接箇所に、腐食生成物41が生じる。ユーザは、腐食生成物41に含まれる元素の分析、腐食生成物41の同定を行い、腐食要因を推定するとともに、第2試験片20の重量測定により、腐食により生じる重量の変化を測定する。併せて、ユーザは、第2試験片20から腐食成分、腐食による生成物、付着物の成分の抽出と、ふき取りによる除去後、第2試験片20の断面の観察により、第2試験片20の残肉厚を測定する。
【0080】
従来の試験法では、実機からの水膜の供与、腐食成分の溶け込みが無く、軽微な腐食しか生じないケースもあった。しかし、本実施形態の実機環境腐食性評価方法では、第2試験片20が減肉されるばかりか、第2試験片20の表面に腐食生成物41、付着物、湿分が生じるようになる。このように、実機の表面で生じる腐食に類似した事象が生じた第2試験片20を解析することができる。
【0081】
腐食生成物41などの付着物層、付着物、湿分は、腐食に関与し得る成分、またはその一部を推定し得る一因となる。腐食生成物41は、腐食の反応機構、腐食に関与し得る成分、またはその一部を推定し得る一因となる。減肉量は、実機の腐食環境における腐食速度を推定し得る一因となる。また、第2試験片20の腐食箇所40の面積比率は、重要な要素となる。
【0082】
なお、第2試験片20の材料には、実機の部材と同じ材料が好ましい。その他、実機の部材と腐食速度の相関性が見える材料、例えば、腐食の進行が2倍の材料などを使用し、比較的短時間で実機の腐食環境およびその腐食性を半定量化することも有効である。
【0083】
なお、腐食環境の異なる2つ以上のプラントに、本実施形態の第1試験片10および第2試験片20が設けれ、それぞれのプラントで解析が行われてもよい。このようにすれば、2つのプラント間における環境の腐食性の差を可視化および比較することができる。また、同一プラントにおいて、経時的に第1試験片10および第2試験片20の経過を確認することにより、運用による影響、ガス種の影響、外部因子による急速な腐食環境の悪化などについても差分として検出することができる。
【0084】
本実施形態の実機環境腐食性評価方法が用いられることで、実機の腐食環境を半定量化、可視化し、その腐食環境に即した、有効な腐食対策、腐食抑制手法の提案をすることができる。さらに、ユーザが、その腐食抑制手法の妥当性を検証することにより、抑制技術の信頼性を向上し得る。
【0085】
例えば、ユーザは、第2試験片20(図4)に腐食抑制対策を施す。複数枚の第2試験片20が用いられる場合には、それぞれ異なる腐食抑制対策を施してもよい。
【0086】
図5に示すように、防錆塗装を施した第2試験片20のうち、フィン3に接触または近接している箇所が腐食環境の影響を受ける。腐食抑制手法として、防錆塗料が有効性を有する場合、第2試験片20のフィン3に接触または近接している箇所に、顕著な減肉は生じない。また、過剰な腐食環境により、防錆塗料に変化が生じる場合にも、その可視化が可能である。なお、防錆塗料は、一例にすぎず、代替え材料の提案、ガス種の変更などについても、その影響を半定量化、可視化することが可能となる。また、対策の有効性を実機の環境で検証できるのみならず、実機から得られた第2試験片20の解析データを元に、実機の模擬環境試験が可能となる。併せて、同一の対策であっても、複数のプラント間による腐食環境の差異により、その効果の持続性の有無を検証することができる。
【0087】
また、ユーザは、第1試験片10および第2試験片20の表面の腐食を解析した結果に基づいて、腐食環境を模擬する模擬機を構築してもよい。そして、ユーザは、模擬機の内部の任意の箇所に第1試験片10および第2試験片20を取り付け、取り付けてから評価の対象となる期間が経過した後に、模擬機の内部から第1試験片10および第2試験片20を取り外す。さらに、ユーザは、取り外した第1試験片10および第2試験片20の表面の腐食を解析した結果に基づいて、伝熱管1の表面に生じる腐食性の評価を行ってもよい。このようにすれば、実機のみならず、模擬機を用いて様々な腐食環境を再現し、腐食対策の効果を可視化しつつ、その有効性を検証することができる。
【0088】
第1試験片10および第2試験片20は、低圧節炭器を始めとする、比較的温度の低い箇所への配置が有効である。例えば、低圧節炭器は、伝熱管1または関連する配管の内部を流通する熱交換媒体、例えば、水の温度が低く、伝熱管1の外面温度が、内部を流通する排ガス温度よりも低くなる場合がある。これは、一時的または断続的に、結露または相対的に湿度の高い環境を形成する場合がある。このような実機の動作により生ずる特殊な温度環境、水膜環境は、炉内への単純な暴露では再現されない。本実施形態によれば、第1試験片10および第2試験片20が、接触または近接による実機の腐食環境を共有し得る状態を形成するため、実機に近い腐食程度を把握できる。
【0089】
また、第1試験片10および第2試験片20は、脱硝触媒の後方に位置する、高圧域の伝熱管1の近傍に配置することが有効である。この領域は、高温の排ガスが高速で伝熱管1または他の部材に接触する箇所である。排ガス中に含まれる腐食成分、不純物濃度が高いプラントでは、この領域に第1試験片10および第2試験片20を設けることで、熱交換効率に最も影響を与える箇所の腐食環境レベルを把握することができる。そして、実機の性能に影響を与える領域の健全性、損傷リスクを検出することができる。
【0090】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について図8を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0091】
第2実施形態の第1試験片10Aは、管部11の周面において、一方の面と他方の面の両方に凹部13,13Aが形成されている。図8の例では、一方(紙面右側)の凹部13の幅よりも、他方(紙面左側)の凹部13Aの幅の方が広くなっている。ユーザは、第1試験片10Aを取り付ける伝熱管1のフィン3の隙間Gの幅に応じて、一方と他方の凹部13,13Aのうち、いずれの凹部13を用いて第2試験片20を取り付けるかを適宜選択することができる。
【0092】
また、伝熱管1にフィン3が螺旋状に並んでいる場合、第1試験片10Aの凹部13もフィン3の螺旋の傾きに応じて傾いて形成されている。また、実機の種類に応じて伝熱管1のフィン3の螺旋の傾きが異なる場合がある。例えば、螺旋の向きが逆向きの場合があり得る。その場合に、一方の凹部13と他方の凹部13Aの傾きが異なるようにしておく。ユーザは、第1試験片10Aを取り付ける伝熱管1のフィン3の螺旋の傾きに応じて、一方と他方の凹部13,13Aのうち、いずれの凹部13を用いて第2試験片20を取り付けるかを適宜選択することができる。
【0093】
なお、第2実施形態では、一方の面と他方の面の両方に凹部13,13Aが形成されているが、その他の態様でもよい。例えば、第1試験片10Aの管部11の軸に対して、線対称または点対称を成す位置に、それぞれの種類の異なる凹部13,13Aが形成されていてもよい。
【0094】
なお、1本の第1試験片10Aに対してそれぞれ種類が異なる凹部13,13Aが形成される場合には、凹部13,13Aの幅の広狭によって種類を分けてもよいし、凹部13,13Aの角度で種類を分けてもよい。ここで、凹部13,13Aの角度とは、例えば、管部11の軸に対して90度を基準の角度とした場合に、この基準に対する凹部13,13Aの傾きのことである。
【0095】
第2実施形態の第1試験片10Aは、複数の凹部13,13Aを有し、それぞれの凹部13,13Aが第1試験片10Aの異なる側面に設けられている。ユーザは、第1試験片10Aが取り付けられる箇所に応じて複数の凹部13,13Aのうち第2試験片20を保持させる凹部13を選択する。このようにすれば、実機の部材の形状に応じて第1試験片10Aと第2試験片20を取り付ける構造を確保しつつ、より多くの箇所に第1試験片10Aと第2試験片20を取り付けることができる。
【0096】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について図9を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0097】
第3実施形態の治具は、ワイヤ30と固定金具31を備える。固定金具31は、例えば、側面視でL字状を成す部材であり、隣接する伝熱管1同士を繋ぐ所定のフレーム4に対して、螺合部材32などを用いて取り付けられている。この固定金具31に対してワイヤ30が括り付けられ、このワイヤ30により第1試験片10Bおよび第2試験片20が固定されている。このようにすれば、伝熱管1に直に第1試験片10Bおよび第2試験片20を固定する必要がなくなり、伝熱管1に加わる機械的な負荷を回避することができる。
【0098】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について図10を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0099】
第4実施形態の第1試験片10Cには、凹部13(図1)が形成されておらず、第1試験片10Cのみが伝熱管1に取り付けられる構成となっている。このようにすれば、第1試験片10Cの構造を簡素化することができ、かつ第2試験片20(図1)を組み込む必要もないので、取り付け作業を簡素化することができる。
【0100】
以上、実機環境腐食性評価方法および試験片が、第1実施形態から第4実施形態に基づいて説明されているが、いずれかの実施形態において適用された構成が他の実施形態に適用されてもよいし、各実施形態において適用された構成が組み合わされてもよい。
【0101】
なお、前述の実施形態は、実機として排熱回収ボイラを例示しているが、実機は、プラントに設置される排熱回収ボイラ以外の他の構造物でもよい。
【0102】
なお、前述の実施形態は、1本の第1試験片10が伝熱管1に取り付けられる態様を例示しているが、その他の態様でもよい。例えば、2本以上の第1試験片10が伝熱管1に取り付けられてもよい。また、隣接して並ぶ複数の伝熱管1のそれぞれに第1試験片10が取り付けられてもよい。
【0103】
なお、前述の実施形態は、第1試験片10および第2試験片20の両方が伝熱管1に取り付けられる態様を例示しているが、その他の態様でもよい。例えば、第2試験片20のみが伝熱管1に取り付けられてもよい。
【0104】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、部材の表面に生じる腐食環境を部材と試験片とで共有する共有位置に、試験片を治具で取り付けることにより、実機の内部の部材が晒される環境における腐食の程度を把握することができる。
【0105】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態またはその変形は、発明の範囲と要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0106】
1…伝熱管、2…母管、3…フィン、4…フレーム、10,10A,10B,10C…第1試験片、11…管部、12…円盤部、13,13A…凹部、14…保持棒、15…ナット、16…スペーサ、20…第2試験片、21…孔部、30…ワイヤ、31…固定金具、32…螺合部材、40…腐食箇所、41…腐食生成物、G…隙間。
【要約】
【課題】実機の内部の部材が晒される環境における腐食の程度を把握する。
【解決手段】実機環境腐食性評価方法は、少なくとも1つの試験片10,20と、評価の対象となる実機の内部の任意の箇所に試験片10,20を取り付ける治具30と、を用いて行う方法であり、実機を構成する少なくとも1つの部材1の表面に接触または近接する位置であり、かつ部材1の表面に生じる腐食環境を部材1と試験片10,20とで共有する共有位置に、試験片10,20を治具30で取り付け、試験片10,20を取り付けてから評価の対象となる期間が経過した後に、試験片10,20を取り外し、取り外した試験片10,20の表面の腐食を解析した結果に基づいて、部材1の表面に生じる腐食性の評価を行う。
【選択図】図1
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