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特許7451818Diffusion Chamber型人工膵島器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】Diffusion Chamber型人工膵島器
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/02 20060101AFI20240311BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20240311BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20240311BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
A61F2/02
A61L27/38 120
A61L27/40
A61L27/18
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023192562
(22)【出願日】2023-11-10
【審査請求日】2023-11-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523427984
【氏名又は名称】高尾 洋之
(73)【特許権者】
【識別番号】502004515
【氏名又は名称】大河原 久子
(74)【代理人】
【識別番号】100168952
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 壮一郎
(72)【発明者】
【氏名】大河原 久子
(72)【発明者】
【氏名】高尾 洋之
(72)【発明者】
【氏名】浅島 誠
(72)【発明者】
【氏名】若狭 尚弘
【審査官】大橋 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-190259(JP,A)
【文献】国際公開第2023/023006(WO,A1)
【文献】特表2000-507202(JP,A)
【文献】国際公開第2023/118360(WO,A1)
【文献】特表平08-502667(JP,A)
【文献】特開2014-159477(JP,A)
【文献】特表2013-537820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/02
A61L 27/38
A61L 27/40
A61L 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート製のリングホルダーと、
前記リングホルダーの上下両開口端面にUV接着されたポリカーボネート製の免疫隔離膜とを備えることを特徴とするDiffusion Chamber型人工膵島器。
【請求項2】
請求項1に記載のDiffusion Chamber型人工膵島器において、
前記リングホルダーの側面には、Diffusion Chamber型人工膵島器の内部に設けられた内腔に細胞と培養床を注入するための細孔が開口していることを特徴とするDiffusion Chamber型人工膵島器。
【請求項3】
請求項2に記載のDiffusion Chamber型人工膵島器において、
前記細孔は、前記内腔に細胞と培養床が注入された後に、ピンを挿入して該ピンを生体に毒性のない接着剤を用いて固定することによって閉鎖されることを特徴とするDiffusion Chamber型人工膵島器。
【請求項4】
請求項2または3に記載のDiffusion Chamber型人工膵島器において、
前記細孔は、前記リングホルダーの側面に2つ設けられ、一方から細胞と培養床が前記内腔に注入され、他方は空気の排出孔となることを特徴とするDiffusion Chamber型人工膵島器。
【請求項5】
請求項4に記載のDiffusion Chamber型人工膵島器において、
前記細孔には前記内腔に注入された細胞と培養床の入れ替えを行うためのチューブが設置されることを特徴とするDiffusion Chamber型人工膵島器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Diffusion Chamber型人工膵島器に関する。
【背景技術】
【0002】
次のような人工臓器用チャンバーが知られている。この人工臓器用チャンバーでは、シリコーンゴムリングの上下両開口端面にポリカーボネート製の免疫隔離膜を接着してなる容器の中に膵細胞とその機能を維持する細胞培養床を封入する構造になっている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-190259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の人工臓器用チャンバーのように、シリコン製のリングホルダーにポリカーボネート製の免疫隔離膜を接着した場合には、異種素材であるリングホルダーと免疫隔離膜を接着させるために工業用接着剤を用いたり加熱処理を行った。それ故、免疫隔離膜が剥離したり、接着部が敗れるなど破損したり、接着剤による毒性などの安全性に問題があるといった課題があった。このため、このような課題を解決するための技術が求められているが、従来はこのための技術について何ら検討されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によるDiffusion Chamber型人工膵島器は、ポリカーボネート製のリングホルダーと、リングホルダーの上下両開口端面にUV接着されたポリカーボネート製の免疫隔離膜とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、リングホルダーと免疫隔離膜をどちらもポリカーボネート製にして、リングホルダーと免疫隔離膜をUV接着するようにした。このようにリングホルダーと免疫隔離膜をUV接着することによって、従来のように工業用接着剤を用いたり加熱処理を行う場合と比較して接着力を上げることができるため、免疫隔離膜が剥離したり、接着部が敗れるなど破損したりすることを防ぐことができる。また、接着剤を用いないため接着剤の毒性などの問題も解消して安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】Diffusion Chamber型人工膵島器1の形状を示す図である。
図2】リングホルダー2の形状を示した図である。
図3】Diffusion Chamber型人工膵島器1の内部構造を示した図である。
図4】Diffusion Chamber型人工膵島器1の細孔4a、4bにチューブ6を設置した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
膵島移植は糖尿病患者の生活の質だけでなく、生命予後も改善し得る根本療法の一つである。しかしながら、移植後の膵島細胞は早期拒絶反応に依って破壊され、治療が効果的に得られなかった。本実施の形態におけるDiffusion Chamber(ディフュージョンチャンバー)型人工膵島器は、このような問題を解消するために、免疫抑制剤を必要としない異種移植可能な人工膵島Device(Bio-artificial endocrine pancreas : Bio-AEP)として開発された。
【0009】
図1は、本実施の形態におけるDiffusion Chamber型人工膵島器の形状を示す図である。図1に示すように、Diffusion Chamber型人工膵島器1は、ポリカーボネート製のリングホルダー2の上下両開口端面に、ポリカーボネート製の免疫隔離膜3を接着して構成される。本実施の形態におけるDiffusion Chamber型人工膵島器1では、リングホルダー2と免疫隔離膜3はUV接着される。なお、Diffusion Chamber型人工膵島器1の形状を円形としたのは、移植の際に移植近辺の組織に必要以上に刺激を与えないためである。
【0010】
図2は、リングホルダー2の形状を示した図である。図2において、図2(A)はリングホルダー2を上面から見た図を示している。また、図2(B)はリングホルダー2を縦側面から見た図、すなわちリングホルダー2を図2(A)の右側から見た場合の側面を示す図であり、図2(C)はリングホルダー2を横側面から見た図、すなわちリングホルダー2を図2(A)の下側から見た場合の側面を示す図である。リングホルダー2は、図2(A)に示すようにリング状に構成されている。該リングホルダー2の両開口端面、すなわち上下両面に免疫隔離膜3が接着される。これによって、Diffusion Chamber型人工膵島器1の内部には細胞と培養床を封入するための空間、すなわち内腔が設けられる。
【0011】
また、図2(C)に示すように、リングホルダー2の側面には、Diffusion Chamber型人工膵島器1の内部に設けられた空間(内腔)に細胞と培養床を注入するための細孔4が開口している。この細孔4は、リングホルダー2の図2(C)とは反対側の側面にも設けられる。リングホルダー2の側面に設けられた2つの細孔4は、一方から細胞と培養床が注入され、他方は空気の排出孔となる。例えば、リングホルダー2の側面の対称位置に2つの細孔4を設ければ、一方が細胞と培養床の注入孔として機能し、他方は空気の排出孔として機能する。
【0012】
Diffusion Chamber型人工膵島器1の内部に設けられた空間(内腔)に細胞と培養床を注入した後は、2つの細孔4に孔を塞ぐためのピンを挿入し、このピンを生体に毒性のない接着剤を用いて固定する。これによって2つの細孔4は物理的に閉鎖される。なお、Diffusion Chamber型人工膵島器1内の内腔に膵島細胞が注入されると、本実施の形態におけるDiffusion Chamber型人工膵島器1は、患者に移植可能なDiffusion Chamber型人工膵島となる。
【0013】
図3は、Diffusion Chamber型人工膵島器1の内部に設けられた細孔4と内腔5を示した図である。なお、図3では、Diffusion Chamber型人工膵島器1の内部構造を破線で示している。図3に示す例では、破線で示すように、2つの細孔4a及び4bは、リングホルダー2の側面の対称位置に開口しており、内腔5に接続している。
【0014】
なお、リングホルダー2の側面に設けられた細孔4a及び4bは、新たな膵島細胞と細胞培養床を入れ替える際には、一方の細孔は細胞等の注入口となり、他方の細孔は既存細胞等の流出口となる。例えば、人工膵島を移植した後に、移植膵島細胞からのインスリン分泌の機能低下を来したときには新たな膵島細胞と細胞培養床を入れ替える必要がある。このときは、図4に示すように、細孔4aと細孔4bにチューブ6を接続し、細孔4aに設置したチューブ6から新たな膵島細胞と細胞培養床を注入すると、細孔4bに設置したチューブ6から既存細胞等が排出される。これによって、一旦移植したDiffusion Chamber型人工膵島1を、再手術することなく、細孔4a及び細孔4bに設置したチューブを用いて新旧膵島細胞等の入れ替えを行うことができる。また、新旧膵島細胞等の入れ替えを容易に行うことができ、患者への肉体的負担や経済的負担を軽減することができる。なお、図4に示す例では、チューブ6の先端には、チューブの先端を塞ぐための栓7が設けられている。
【0015】
本実施の形態では、リングホルダー2は、例えば、外径30mm、内径20mm、厚さ2mmのポリカーボネート製、または外径47mm、内径30mm、厚さ2mmのポリカーボネート製とする。そして、細孔4の径は0.7mmとする。また、免疫隔離膜3は、厚さ(Thickness)10μmのポリカーボネート製とし、微細孔の大きさ(pore size)は0.1μm、微細孔密度(pore density)は6E8cmとする。なお、リングホルダー2の外径、内径、厚さと、免疫隔離膜3のThickness、pore size、pore densityは、本発明の目的を達成することができるものであれば、上記の内容に限定されない。
【0016】
本実施の形態におけるDiffusion Chamber型人工膵島器1では、上述したようにリングホルダー2と免疫隔離膜3はUV接着されるようにした。これは、本実施の形態では、リングホルダー2と免疫隔離膜3の素材をどちらもポリカーボネート製としたことによって、UV接着が可能になった。また、従来のように接着剤を用いて接着する場合、免疫隔離膜3が剥離したり、接着部が敗れるなど破損したり、接着剤による毒性などの安全性に問題があるといった課題があったが、本実施の形態では、UV接着によって接着力を上げることができるため、免疫隔離膜3が剥離したり、接着部が敗れるなど破損したりすることを防ぐことができる。また、接着剤を用いないため接着剤の毒性などの問題も解消して安全性を向上させることができる。なお、ポリカーボネート素材同士をUV接着するための方法は、公知の技術のため説明を省略する。
【0017】
また、本実施の形態におけるDiffusion Chamber型人工膵島器1では、Diffusion Chamber型人工膵島器1の内部に設けられた空間、すなわち内腔5に細胞と培養床を注入した後は、2つの細孔4aおよび4bには、孔を塞ぐためのピンを挿入して物理的に閉鎖するようにした。事前の検討では、生体に毒性のない接着剤を用いて細孔4を塞ぐ事を試みた。しかしながら、この場合は、細孔4が完全に乾いていれば接着剤が固まり孔を完全に塞ぐことは可能であったが、濡れていると接着が不完全となり漏れが生じるという問題があった。このため、本実施の形態では、孔を塞ぐのに適したピンを細孔4に挿入し、このピンを生体に毒性のない接着剤を用いて固定するようにして、上記のような問題を解消した。
【0018】
次に、Diffusion Chamber型人工膵島器1を皮下移植するための方法について説明する。出願人は、移植部位を安全かつ拒絶反応を制御しうる腹腔内移植から低襲撃性の皮下移植に着眼点を移した結果、本実施の形態におけるDiffusion Chamber型人工膵島器1を以下のように皮下移植することにした。皮下移植を行う場合、皮下は腹腔内と比較して血管に乏しく、移植後の膵島細胞は酸素と栄養不足により大半が死滅するという問題があった。この問題を解消するために、Diffusion Chamber型人工膵島器1の上下両面にbFGF含有コラーゲン・スポンジを設置したところ、皮下移植したDiffusion Chamber型人工膵島器1の周辺に豊富な血管網が作成されるのを確認することができた。このように、本実施の形態におけるDiffusion Chamber型人工膵島器1を皮下移植する際に、Diffusion Chamber型人工膵島器1の上下両面にbFGF含有コラーゲン・スポンジを設置した例では、Diffusion Chamber型人工膵島器1の周辺に豊富な血管網が作成され、Diffusion Chamber型人工膵島器1周辺の膠原繊維層が薄くなり、新生血管の出現が認められた。また、Diffusion Chamber型人工膵島器1の周辺に炎症所見が認められなかった。
【0019】
以上説明した本実施の形態によれば、以下のような作用効果を得ることができる。
(1)Diffusion Chamber型人工膵島器1は、ポリカーボネート製のリングホルダー2と、リングホルダー2の上下両開口端面にUV接着されたポリカーボネート製の免疫隔離膜3とを備えるようにした。このように、リングホルダー2と免疫隔離膜3の素材をどちらもポリカーボネート製にしてUV接着することによって、接着剤で接着した場合よりも接着力を上げることができる。さらに、リングホルダー2と免疫隔離膜3の接着力が上がったことによって、接着剤で接着した場合に生じる免疫隔離膜3が剥離したり、接着部が敗れるなど破損したりする問題を解消することができる。また、接着剤を用いないため、接着剤の毒性の問題も解消して安全性を向上させることができる。
【0020】
(2)リングホルダー2の側面には、Diffusion Chamber型人工膵島器1の内部に設けられた空間、すなわち内腔5に細胞と培養床を注入するための細孔4が開口している。これによって、使用者は、リングホルダー2の側面に設けられた細孔4から内腔5に細胞と培養床を注入することができる。
【0021】
(3)細孔4は、内腔5に細胞と培養床を注入した後に、ピンを挿入して該ピンを生体に毒性のない接着剤を用いて固定することによって閉鎖するようにした。これによって、細孔4からの漏れを防ぐことができる。また、ピンは生体に毒性のない接着剤を用いて固定するようにしたため、安全性も確保することができる。
【0022】
(4)細孔4は、リングホルダー2の側面に2つ設けられ、、一方から細胞と培養床が注入され、他方は空気の排出孔となるようにした。これによって、細胞と培養床を注入する際に、注入側とは反対側の細孔4から内部の既存空気を排出することができる。このことは、細孔4から細胞等を注入する際に、内腔5の圧を上げることなく安全に注入することが可能となる。
【0023】
(5)細孔4aと細孔4bには内腔5に注入された細胞と培養床の入れ替えを行うためのチューブ6を設置できるようにしたため、一方の細孔に設置したチューブ6から新たな膵島細胞と細胞培養床を注入すると、他方の細孔に設置したチューブ6から既存細胞等を排出することができる。これによって、一旦移植したDiffusion Chamber型人工膵島1を、再手術することなく、細孔4a及び細孔4bに設置したチューブを用いて新旧膵島細胞等の入れ替えを行うことができる。また、新旧膵島細胞等の入れ替えを容易に行うことができ、患者への肉体的負担や経済的負担を軽減することができる。
【0024】
なお、本発明の特徴的な機能を損なわない限り、本発明は、上述した実施の形態における構成に何ら限定されない。
【符号の説明】
【0025】
1 Diffusion Chamber型人工膵島器
2 リングホルダー
3 免疫隔離膜
4 細孔
5 内腔
6 チューブ
7 チューブの栓
【要約】
【課題】Diffusion Chamber型人工膵島器を提供すること。
【解決手段】Diffusion Chamber型人工膵島器1は、ポリカーボネート製のリングホルダー2と、リングホルダー2の上下両開口端面にUV接着されたポリカーボネート製の免疫隔離膜3とを備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4