(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】Vベルト
(51)【国際特許分類】
F16G 5/06 20060101AFI20240311BHJP
F16G 5/20 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
F16G5/06 Z
F16G5/06 A
F16G5/06 C
F16G5/20 B
(21)【出願番号】P 2023555209
(86)(22)【出願日】2023-08-02
(86)【国際出願番号】 JP2023028251
【審査請求日】2023-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2022140821
(32)【優先日】2022-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004152
【氏名又は名称】弁理士法人お茶の水内外特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】木村 勝起
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-041509(JP,A)
【文献】特開2002-081506(JP,A)
【文献】特許第6680941(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 5/06
F16G 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト長手方向に延びる心線が埋設された接着ゴム層と、
前記接着ゴム層のベルト内周側に積層された圧縮ゴム層と、を有し、
前記圧縮ゴム層を形成するゴム組成物が、
接着処理されたアラミド短繊維を含み、かつ、ベルト幅方向に採取したゴム組成物試験片のJIS K6394に基づいて、周波数10Hz、及び試験温度25℃として引張方法により測定される動歪0.1%歪の貯蔵弾性率(E’)の値をX(MPa)、ベルト長手方向に採取したゴム組成物試験片の伸長率の値をY(%)としたとき、下記(1)、(2)をともに満足することを特徴とするVベルト:
(1)X>800、
(2)Y>-42.05・ln(X)+340。
【請求項2】
前記ゴム組成物が、ゴム成分としてエチレン-αオレフィンエラストマーを含むことを特徴とする請求項
1に記載のVベルト。
【請求項3】
前記ゴム組成物が、不飽和カルボン酸金属塩を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のVベルト。
【請求項4】
コグドVベルトであることを特徴とする請求項1または2に記載のVベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Vベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
一般産業機械や、四輪車、二輪車等の輸送機器等において、伝動ベルトが広く用いられている。伝動ベルトには、長期間利用することができ、交換頻度を減らすことができるように、耐久性が強く要求される。例えば、特許文献1には、耐候性、耐寒性に優れたEPDMゴムを用いた、耐久性に優れた伝動ベルトが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、耐久性に優れた新規なVベルトを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための、本発明の構成は以下のとおりである。
1.ベルト長手方向に延びる心線が埋設された接着ゴム層と、
前記接着ゴム層のベルト内周側に積層された圧縮ゴム層と、を有し、
前記圧縮ゴム層を形成するゴム組成物が、ベルト幅方向に採取したゴム組成物試験片のJIS K6394に基づいて、周波数10Hz、及び試験温度25℃として引張方法により測定される動歪0.1%歪の貯蔵弾性率(E’)の値をX(MPa)、ベルト長手方向に採取したゴム組成物試験片の伸長率の値をY(%)としたとき、下記(1)、(2)をともに満足することを特徴とするVベルト。
(1)X>800
(2)Y>-42.05・ln(X)+340
2.前記ゴム組成物が、接着処理されたアラミド短繊維を含むことを特徴とする1.に記載のVベルト。
3.前記ゴム組成物が、ゴム成分としてエチレン-αオレフィンエラストマーを含むことを特徴とする1.または2.に記載のVベルト。
4.前記ゴム組成物が、不飽和カルボン酸金属塩を含むことを特徴とする1.~3.のいずれかに記載のVベルト。
5.コグドVベルトであることを特徴とする1.~4.のいずれかに記載のVベルト。
【発明の効果】
【0006】
本発明のVベルトは、耐久性に優れている。本発明のVベルトは、低速、高速いずれの動力伝達でも耐久性に優れており、交換頻度を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施態様であるダブルコグドVベルトの模式図。
【
図2】実施例、比較例で得られたダブルコグドVベルトの貯蔵弾性率と伸長率との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のVベルトは、ベルト長手方向に延びる心線が埋設された接着ゴム層と、この接着ゴム層のベルト内周側に積層された圧縮ゴム層と、を有し、
圧縮ゴム層を形成するゴム組成物が、ベルト幅方向に採取したゴム組成物試験片のJIS K6394に基づいて、周波数10Hz、及び試験温度25℃として引張方法により測定される動歪0.1%歪の貯蔵弾性率(E’)の値をX(MPa)、ベルト長手方向に採取したゴム組成物試験片の伸長率の値をY(%)としたとき、下記(1)、(2)をともに満足することを特徴とする。なお、「ln」は、自然対数である。
(1)X>800
(2)Y>-42.05・ln(X)+340
【0009】
図1に、本発明の一実施態様であるダブルコグドVベルトの模式図を示す。
一実施態様であるダブルコグドVベルト1は、略ベルト長手方向に延びる心線111が埋設された接着ゴム層11と、接着ゴム層11のベルト内周側に積層された圧縮ゴム層12と、接着ゴム層11のベルト外周側に積層された伸長ゴム層13とが積層一体化したベルト本体10を有する。圧縮ゴム層12の内周面に下コグ12a、伸長ゴム層13の外周面には上コグ13aが形成されている。圧縮ゴム層12には、そのベルト内周面を被覆するように底面補強布121が埋設されている。
なお、本発明のVベルトは、ダブルコグドVベルトに限定されず、コグドVベルト、ローエッジVベルト、ラップドVベルト、Vリブドベルト等とすることができる。
【0010】
・圧縮ゴム層
圧縮ゴム層12は、その幅方向断面が、上底が下底より長い等脚台形状であり、ベルト長手方向に沿って、長手方向断面が略正弦波形状である下コグ12aが一定ピッチで配設されている。圧縮ゴム層12は、そのベルト内周面を被覆するように底面補強布121が埋設されているが、底面補強布を設けないこともできる。
【0011】
圧縮ゴム層12は、ゴム組成物から形成されている。このゴム組成物が含むゴム成分としては、例えば、エチレン-α-オレフィンエラストマー、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、水素添加アクリロニトリルゴム(H-NBR)、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ニトリルゴム(NBR)等が挙げられ、これらの1種または2種以上を混合して使用することができる。エチレン-α-オレフィンエラストマーとしては、例えば、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンブテンゴム(EBM)、エチレンオクテンゴム(EOM)等が挙げられる。これらの中で、エチレン-α-オレフィンエラストマー(EPDM、EPM等)、クロロプレンゴム(CR)を含むことが好ましく、EPDMを含むことがより好ましい。ゴム成分におけるエチレン-α-オレフィンエラストマーの含有量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは100質量%であり、ゴム成分は、エチレン-α-オレフィンエラストマー以外に、クロロプレンゴム(CR)、水素添加アクリロニトリルゴム(H-NBR)、天然ゴム(NR)等を含んでいてもよい。
【0012】
EPDMは、エチレンの含有量が40質量%以上60質量%以下であるものが好ましく、45質量%以上55質量%以下であることがより好ましく、50質量%以上53質量%以下であることがさらに好ましい。EPDMのジエン含量は、4質量%以上14質量%以下であることが好ましく、6質量%以上12質量%以下であることがより好ましく、7質量%以上8質量%以下であることがさらに好ましい。ジエン成分としては、ジシクロペンタジエン(DCPD)、5-エチリデン-2-ノルボルネン(ENB)、1,4-ヘキサジエン(1,4-HD)等を使用することができ、これらの中でENBを含むことが好ましい。EPDMは、1種又は組成等が異なる2種以上を混合して使用することもできる。
EPDMは、125℃におけるムーニー粘度が40以下であることが、未架橋ゴム組成物を均一に混練することができるため好ましく、このムーニー粘度は35以下であることがより好ましく、30以下であることがさらに好ましい。
【0013】
ゴム成分を架橋させるための架橋剤は、有機過酸化物、硫黄、ポリアミン、オキシム、ニトロソ、さらに、これらの1種又は2種以上を使用することもできる。また、ゴム組成物は、電子線等が用いられて架橋していてもよい。これらの中で、耐摩耗性の点から、有機過酸化物を用いることが好ましい。
有機過酸化物としては、ゴム成分を架橋できるものを特に制限することなく使用することができ、例えば、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ)-p-ジイソプロピルベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチルジ(t-ブチル)ヘキシン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン等が挙げられる。有機過酸化物は、これらのうちの1種又は2種以上を使用することができる。有機過酸化物の含有量は、通常、ゴム成分100質量部に対して、例えば0.5質量部以上10質量部以下であることが好ましく、1質量部以上7質量部以下であることがより好ましく、2.5質量部以上4質量部以下であることがさらに好ましい。
【0014】
ゴム組成物は、共架橋剤を含有することが好ましい。共架橋剤としては、例えば、不飽和カルボン酸金属塩、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を使用することができる。不飽和カルボン酸金属塩とは、少なくとも1つのカルボキシル基を有する不飽和カルボン酸と金属との塩である。不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸などのモノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのジカルボン酸等が挙げられる。金属としては、例えば、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、バリウム、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、アルミニウム、錫、鉛等が挙げられる。不飽和カルボン酸の金属に対するモル比(不飽和カルボン酸のモル数/金属のモル数)は好ましくは2mol/1molである。不飽和カルボン酸金属塩としては、例えば、アクリル酸亜鉛、ジメタクリル酸亜鉛、ジメタクリル酸マグネシウム等が挙げられる。
【0015】
これらの中で、共架橋剤としてジメタクリル酸亜鉛、またはN,N’-m-フェニレンビスマレイミドを含むことが好ましい。ジメタクリル酸亜鉛を含む場合、その含有量は、ゴム成分100質量部に対して、5質量部以上60質量部以下が好ましく、10質量部以上50質量部以下がより好ましく、25質量部以上45質量部以下がさらに好ましい。N,N’-m-フェニレンビスマレイミドを含む場合、その含有量は、ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下が好ましく、2質量部以上10質量部以下がより好ましく、3質量部以上7質量部以下がさらに好ましい。
【0016】
ゴム組成物は、短繊維を含むことが好ましい。短繊維としては、パラアラミド短繊維、メタアラミド短繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール短繊維、ナイロン6短繊維、ナイロン6,6短繊維、ナイロン4,6短繊維、ポリエチレンテレフタレート短繊維、ポリエチレンナフタレート短繊維、セルロース繊維、パルプや綿等の天然繊維等の1種又は2種以上を使用することができる。短繊維は、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス水溶液に浸漬した後に加熱するRFL処理を施すこともできる。ゴム成分100質量部に対する全短繊維の配合量は、10質量部以上35質量部以下であることが好ましい。
【0017】
短繊維の繊維長は、1mm以上10mm以下であることが好ましく、2mm以上3.5mm以下であることがより好ましい。
短繊維の繊維径は、5μm以上50μm以下であることが好ましく、7μm以上20μm以下であることがより好ましく、11μm以上13μm以下であることがさらに好ましい。
短繊維はフィラメントの集合体であるが、短繊維を構成するフィラメントの繊度は、1dtex以上5dtex以下であることが好ましく、1.4dtex以上1.6dtex以下であることがより好ましい。
【0018】
短繊維として、アラミド短繊維を含むことが好ましく、接着処理したアラミド短繊維を含むことがより好ましい。アラミド短繊維は、パラ系であることが好ましい。接着処理としては、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス水溶液に浸漬した後に加熱するRFL処理、ゴム糊に浸漬した後に乾燥させる接着処理、エポキシ樹脂やポリイソシアネート樹脂等の溶液からなる接着剤溶液に浸漬した後に加熱する接着処理のいずれか1以上を施すことができる。アラミド短繊維は、材質、繊維長、繊維径、フィラメントの繊度、接着処理の有無等が異なる2種以上を使用することができる。接着処理したアラミド短繊維を含む場合、ゴム組成物全体に対する接着処理したアラミド短繊維の配合量は、ゴム成分100質量部に対して10質量部以上35質量部以下であることが好ましく、15質量部以上33質量部以下であることがより好ましく、20質量部以上30質量部以下であることがさらに好ましい。
【0019】
ゴム組成物は、その他に、補強剤、加工助剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、老化防止剤、プロセスオイル、スコーチ防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、軟化剤、発泡剤、発泡助剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤、可塑剤等の添加剤を含むことができる。なお、本発明において、これらの添加剤は任意であり、含まなくてもよい。ただし、本発明において「含む」とは、その剤の効果を発揮できる濃度で配合することを意味し、「含まない」はその剤の効果を発揮しない濃度での配合を排除するものではない。
【0020】
補強材としては、シリカ、カーボンブラック、酸化チタン、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、硫酸バリウム、珪藻土、クレー、タルク、酸化亜鉛等の無機粒子の1種又は2種以上を配合することができる。無機粒子の配合量は、ゴム成分100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、20質量部以上がより好ましい。また、この配合量の上限は、100質量部以下が好ましく、90質量部以下がより好ましい。
無機粒子としては、カーボンブラックを用いることが導電性付与、補強性、紫外線劣化防止性等の点から好ましい。配合するカーボンブラックは特に制限されず、例えば、チャネルブラック;SAF、ISAF、N-339、HAF、N-351、MAF、FEF、SRF、GPF、ECF、N-234などのファーネスブラック;FT、MTなどのサーマルブラック;アセチレンブラック、ケッチェンブラックEC300J、ケッチェンブラックEC600JD等が挙げられ、1種又は2種以上を配合することができる。これらの中で、ISAF、HAF、FEFが好ましい。
【0021】
加工助剤としては、例えば、ステアリン酸、ポリエチレンワックス、脂肪酸の金属塩等が挙げられる。加工助剤は、これらのうち1種又は2種以上を使用することができる。加工助剤の含有量は、例えば、ゴム成分100質量部に対して、0.5質量部以上2質量部以下である。
加硫促進剤としては、例えば、チウラム系(例えばTETD、TT、TRAなど)、チアゾール系(例えばMBT、MBTSなど)、スルフェンアミド系(例えばCZなど)、ジチオカルバミン酸塩系(例えばBZ-Pなど)のもの等が挙げられる。加硫促進剤は、これらのうち1種又は2種以上を使用することができる。加硫促進剤の含有量は、例えば、ゴム成分100質量部に対して、2質量部以上5質量部以下である。
【0022】
加硫促進助剤としては、例えば、酸化亜鉛(亜鉛華)や酸化マグネシウムなどの金属酸化物、金属炭酸塩、脂肪酸及びその誘導体等が挙げられる。加硫促進助剤は、これらのうち1種又は2種以上を使用することができる。加硫促進助剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、3質量部以上7質量部以下である。
老化防止剤としては、例えば、アミン-ケトン系老化防止剤、ジアミン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤等が挙げられる。老化防止剤は、これらのうち1種又は2種以上を使用することができる。老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下である。
プロセスオイルとしては、例えば、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、エステル系オイル、芳香族オイル等が挙げられる。プロセスオイルは、これらのうち1種又は2種以上を使用することができる。プロセスオイルの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1~40質量部、より好ましくは0.1~20質量部である。
【0023】
本発明の圧縮ゴム層を形成するゴム組成物は、ベルト幅方向に採取したゴム組成物試験片のJIS K6394に基づいて、周波数10Hz、及び試験温度25℃として引張方法により測定される動歪0.1%歪の貯蔵弾性率(E’)の値をX(MPa)、ベルト長手方向に採取したゴム組成物試験片の伸長率の値をY(%)としたとき、下記(1)、(2)をともに満足する。
(1)X>800
(2)Y>-42.05・ln(X)+340
なお、貯蔵弾性率は、JIS K6394:2007に基づいて、歪み1%時の荷重の1.3倍の荷重を負荷したときの歪みを平均歪みとし、歪み振幅0.1%、周波数10Hz、及び試験温度25℃として引張方法により測定される値である。また、伸長率は、JIS K6251:2017に基づいて測定される値である。
【0024】
(1)貯蔵弾性率(E’)の値X(MPa)は、特にギア比の小さな低速駆動時の優れた耐久性を得る観点から、850MPa以上であることが好ましく、950MPa以上であることがより好ましく、1000MPa以上であることがさらに好ましい。
(2)ゴム組成物試験片の伸長率の値Y(%)は、特にギア比の大きな高速駆動時の優れた耐久性を得る観点から、Y>-42.05・ln(X)+342以上であることが好ましく、Y>-42.05・ln(X)+345以上であることがより好ましく、Y>-42.05・ln(X)+350以上であることがさらに好ましい。
【0025】
底面補強布121は、例えば、合成繊維や天然繊維で形成された織布、編物、不織布等で構成されている。また、伸長ゴム層13の外周面にも背面補強布を設けることができる。これらの補強布は、ゴム組成物との接着性を向上するために、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス水溶液に浸漬した後に加熱するRFL処理、ゴム糊に浸漬した後に乾燥させる接着処理、エポキシ樹脂やポリイソシアネート樹脂等の溶液からなる接着剤溶液に浸漬した後に加熱する接着処理のいずれか1以上を施すことができる。
【0026】
・接着ゴム層、伸長ゴム層
接着ゴム層11、伸長ゴム層13は、いずれもゴム組成物から形成されている。接着ゴム層11、伸長ゴム層13を形成するゴム組成物は、それぞれ上記した圧縮ゴム層12を形成するためのゴム組成物と同様のものを使用することができ、圧縮ゴム層12を形成するゴム組成物と同一であってもよく、異なっていてもよい。
接着ゴム層11は、ベルト長手方向に延びる心線111が埋設されている。
【0027】
心線111は、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維、パラ系アラミド繊維、ビニロン繊維等の撚り糸や組紐等の線材で構成されている。心線111は、接着ゴム層11を形成するゴム組成物との接着性を向上するために、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス水溶液に浸漬した後に加熱するRFL処理、ゴム糊に浸漬した後に乾燥させる接着処理、エポキシ樹脂やポリイソシアネート樹脂等の溶液からなる接着剤溶液に浸漬した後に加熱する接着処理のいずれか1以上を施すことができる。
【0028】
・製造方法
本発明のVベルトの製造方法は特に制限されず、公知の方法により製造することができ、例えば、以下の方法が挙げられる。
各種材料を混練して未架橋の圧縮ゴム層用ゴム組成物を得て、シート状に成形して未架橋のゴムシートを得る。
外周面に周方向に連設された下コグ形成溝を備える円筒型の金型の外周面に、未架橋のゴムシートを巻き付ける。この外周に離型紙を巻き付けた後、その上からゴムスリーブを被せ、これを加硫缶内に配置して密閉するとともに、加硫缶内に高温及び高圧の蒸気を充填し、その状態を所定時間だけ保持する。このとき、未架橋のゴムシートが流動して下コグ形成溝に圧入されるとともに、その架橋が半分程度進行し、内周側に下コグが形成された円筒状の下コグ複合体が成型される。この際、ゴムシートが短繊維を含む場合、その列理方向が円筒型の軸方向となるように、すなわち、ベルト幅方向となるように配することが好ましい。
【0029】
ゴムスリーブを外して冷却した後、下コグ複合体の外周部を研削し厚みを調整する。
次いで、下コグ複合体の外周面上に、接着ゴム層を形成するための未架橋ゴムシートを巻き付け、その上に心線を螺旋状に巻き付け、さらにその上に接着ゴム層を形成するための未架橋ゴムシートと伸長ゴム層を形成するための未架橋ゴムシートを順に巻き付けて未架橋スラブを成形する。
この未架橋スラブに、内周面に周方向に連設された上コグ形成溝を備えるゴムスリーブを被せ、次いで、未架橋スラブに第2ゴムスリーブを被せ、これを加硫缶内に配置して密閉するとともに、加硫缶内に高温及び高圧の蒸気を充填し、その状態を所定時間だけ保持する。このとき、下コグ複合体の本架橋が進行するとともに、接着ゴム層と芯線とが複合一体化する。また、伸長ゴム層を形成するための未架橋ゴムシートが流動して上コグ形成溝に圧入されるとともに、その架橋が進行し、円筒状のベルトスラブが成型される。
【0030】
加硫缶内から蒸気を排出して密閉を解き、ゴムスリーブを外して冷却した後、金型からベルトスラブを脱型する。
ベルトスラブを所定幅に幅切りした後、V側面を形成するように切断して、ダブルコグドVベルトが得られる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明について実施例を挙げてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
下記表1に示す配合で圧縮ゴム層を形成し、上記の方法により、周長1200mm、最大幅33mm、最大厚さ16mmのダブルコグドVベルトを得た。なお、ダブルコグドVベルトの伸長ゴム層及び接着ゴム層は、EPDMをゴム成分とする架橋ゴム組成物で形成した。心線は、パラアラミド繊維の撚り糸で構成した。底面補強布は、PET繊維の織布で構成した。
圧縮ゴム層を形成するゴム組成物は、短繊維と架橋剤以外の剤をバンバリーミキサーで混練、冷却した後、短繊維と架橋剤とを投入して混練した。
【0032】
【0033】
EPDM1:T7241 JSR社製、エチレン含量:52質量%、ENB含量:7.7質量%、ML(125℃)27
EPDM2:X-4010M 三井化学社製、エチレン含量:54質量%、ENB含量:7.6質量%、ML(100℃)8
EPDM3:EP123 JSR社製、エチレン含量:58質量%、ENB含量:4.5質量%、ML(125℃)19.5
EPDM4:NORDEL IP 4725P ダウ社製、エチレン含量:70質量%、ENB含量:4.9質量%、ML(125℃)25
EPDM5:NORDEL IP 4770P ダウ社製、エチレン含量:70質量%、ENB含量:4.9質量%、ML(125℃)70
なお、実施例2、5で使用した複数のEPDMの混合物であるゴム組成物のML(125℃)は、それぞれ20.7、35.2である。
【0034】
酸化亜鉛:酸化亜鉛3種 堺化学社製
ステアリン酸:ステアリン酸S50 新日本理化社製
滑剤:ストラクトールWB16 エスアンドエスジャパン社製
老化防止剤:ノクラックMB 大内新興化学工業社製
ISAFカーボンブラック:シースト6 東海カーボン社製、算術平均粒子径:22nm、窒素吸着比表面積:119m2/g
FEFカーボンブラック:シーストSO 東海カーボン社製、算術平均粒子径:43nm、窒素吸着比表面積:42m2/g
プロセスオイル:サンパー2280 サン石油社製
共架橋剤1:トリメチロールプロパントリメタクリレート(ハイクロスM 精工化学社製)
共架橋剤2:N,N’-m-フェニレンビスマレイミド(バルノックPM 大内新興化学工業社製)
共架橋剤3:メタクリル酸亜鉛(アクターZMA 川口化学工業社製)
架橋剤1:(有機過酸化物系、パーヘキサ25B-40 日油社製、純度40質量%)
架橋剤2:(有機過酸化物系、ペロキシモンF-40 日油社製、純度40質量%)
アラミド短繊維A:(RFL処理、パラ系、CFH3050 帝人社製、繊維径12.3μm、繊維長3.0mm)
アラミド短繊維B:(RFL処理、パラ系、BKD7041E 東レ・デュポン社製、繊維径17μm、繊維長3.0mm)
ナイロン短繊維:(RFL処理、6,6-ナイロン、CFN3000 旭化成社製、繊維径27.3μm、繊維長3.0mm)
アラミド短繊維A’:(アラミド短繊維AのRFL未処理)
【0035】
(評価方法)
実施例、比較例で得られたダブルコグドVベルトについて、下記評価を行った。結果を表2に示す。また、貯蔵弾性率と伸長率との関係を
図2に示す。
<貯蔵弾性率E’>
ダブルコグドVベルトの圧縮ゴム層から、ベルト幅方向に30mm、ベルト長手方向に10mm、厚み1mmの大きさの試験片を切り出し、JIS K6394:2007に基づいて、引張方法により25℃における貯蔵弾性率E’を測定した。測定条件は、歪み1%時の荷重の1.3倍の荷重を負荷したときの歪みを平均歪みとし、歪み振幅0.1%、周波数10Hz、及び試験温度25℃とした。
<伸長率EB>
ダブルコグドVベルトの圧縮ゴム層から、ベルト長手方向に50mm、幅方向に10mm,厚み1mmの大きさの試験片を切り出し、JIS K6251:2017に基づいて、25℃における切断時の伸長率を測定した。
【0036】
<ベルト走行試験>
無断変速式のベルト走行試験機を用い、ベルト走行試験を行った。なお、従動プーリは、ダブルコグドVベルトに一定のベルト張力を発生させるように、定荷重DW(デッドウエイト)を負荷できるように構成されている。
・低速レイアウト
ダブルコグドVベルトを、駆動プーリの巻き掛け径が99mm、従動プーリの巻き掛け径が263mmとなるように懸装し、従動プーリに1800Nの定荷重DWを負荷してベルト張力を発生させることにより低速レイアウトを構成した。
その後、雰囲気温度30℃下で、駆動プーリを7500rpmで回転させて低速のベルト走行を開始した。そして、ダブルコグドVベルトが切断するまでベルト走行を行い、ベルト走行開始から切断までの時間を低速ベルト寿命とした。なお、ベルト走行の最長時間を200時間とした。
【0037】
・高速レイアウト
ダブルコグドVベルトを、駆動プーリの巻き掛け径が210mm、従動プーリの巻き掛け径が165mmとなるように懸装し、従動プーリに2300Nの定荷重DWを負荷してベルト張力を発生させることにより高速レイアウトを構成した。
その後、雰囲気温度100℃下で、駆動プーリを9400rpmで回転させて高速のベルト走行を開始した。そして、ダブルコグドVベルトが切断するまでベルト走行を行い、ベルト走行開始から切断までの時間を高速ベルト寿命とした。なお、ベルト走行の最長時間を50時間とした。
【0038】
【0039】
比較例1、2で得られたダブルコグドVベルトは、低速レイアウトでのベルト寿命が短く、比較例3~5で得られたダブルコグドVベルトは、高速レイアウトでのベルト寿命が短く、耐久性に劣っていた。
それに対し、本発明である実施例1~6で得られたダブルコグドVベルトは、低速レイアウト、高速レイアウトのどちらでもベルト寿命が長く、耐久性に優れていた。
【符号の説明】
【0040】
1 ダブルコグドVベルト
10 ベルト本体
11 接着ゴム層
111 心線
12 圧縮ゴム層
12a 下コグ
121 底面補強布
13 伸長ゴム層
13a 上コグ
【要約】
耐久性に優れた新規なVベルトを提供することを課題とする。解決手段として、ベルト長手方向に延びる心線が埋設された接着ゴム層と、前記接着ゴム層のベルト内周側に積層された圧縮ゴム層と、を有し、
前記圧縮ゴム層を形成するゴム組成物が、ベルト幅方向に採取したゴム組成物試験片のJIS K6394に基づいて、周波数10Hz、及び試験温度25℃として引張方法により測定される動歪0.1%歪の貯蔵弾性率(E’)の値をX(MPa)、ベルト長手方向に採取したゴム組成物試験片の伸長率の値をY(%)としたとき、下記(1)、(2)をともに満足することを特徴とするVベルトを提供する。
(1)X>800
(2)Y>-42.05・ln(X)+340