(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】オリゴ糖の分離
(51)【国際特許分類】
B01D 15/32 20060101AFI20240312BHJP
A23L 33/125 20160101ALI20240312BHJP
B01D 61/02 20060101ALI20240312BHJP
B01D 61/14 20060101ALI20240312BHJP
B01J 20/26 20060101ALI20240312BHJP
C12P 19/00 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
B01D15/32
A23L33/125
B01D61/02 500
B01D61/14 500
B01J20/26 G
C12P19/00
(21)【出願番号】P 2021528358
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(86)【国際出願番号】 IB2019061093
(87)【国際公開番号】W WO2020128945
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-24
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】508278309
【氏名又は名称】グリコム・アクティーゼルスカブ
【氏名又は名称原語表記】Glycom A/S
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】ハンジン,ニコライ
(72)【発明者】
【氏名】ジョンデリウス ヘデロス,マーカス
(72)【発明者】
【氏名】シャサーニュ,ピエール
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-130297(JP,A)
【文献】特開昭62-120394(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01405856(EP,A1)
【文献】特開2009-291120(JP,A)
【文献】国際公開第2017/182965(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0065290(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0127987(US,A1)
【文献】特表2005-536204(JP,A)
【文献】国際公開第2002/100875(WO,A1)
【文献】特開2008-228640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 -30/96
B01J 20/26 -20/292
G01N 33/48 -33/98
B01D 15/32
B01D 61/02 -61/14
C12P 19/00
A23L 33/125
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の親水性の中性オリゴ糖を第2の親水性の中性オリゴ糖から分離する方法であって、
当該第1及び第2のオリゴ糖を含む水溶液に対し、臭素化されたポリスチレンのジビニルベンゼン架橋物(BPS-DVB)固定媒体上でのクロマトグラフィー処置を行う工程を含
み、
前記第1のオリゴ糖及び前記第2のオリゴ糖のうちの一方(高オリゴ糖)に含まれる単糖単位の数は、他方のオリゴ糖(低オリゴ糖)に含まれる単糖単位の数よりも多く、
前記第1及び第2のオリゴ糖の両方がGlcNAc-又はGalNAc-残基を含む、方法。
【請求項2】
前記BPS-DVB固定媒体のブロム化レベルが、乾燥重量基準
で25-61w/w%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1及び第2のオリゴ糖は、水性培地中での発酵によって細胞内で生産させてから、当該水性培地中へ分泌させ、移動させ、又は、取り込ませる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記発酵に用いる細胞がE.coliである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
下記工程のうちの少なくとも1つが、前記BPS-DVB固定媒体上でのクロマトグラフィーに先行して行われる、請求項3又は4に記載の方法:
a)前記水性培地を清澄化して、当該水性培地から
、細胞、細胞構成物、及び、発酵過程から生じた不溶性代謝物並びに不溶性残骸
から選ばれる粒子及び異物を除去し、清澄化した水性媒体を得る工程、
b)前記水性培地、又は、前記工程a)の清澄化した水性媒体から、実質的に全ての蛋白質を除去して、蛋白質フリー水性媒体を得る工程、
c)前記水性培地、前記工程a)の清澄化した水性媒体、又は、前記工程b)の蛋白質フリー水性媒体から、塩及び帯電した成分を除去する工程。
【請求項6】
前記工程b)において、前記工程a)の清澄化した水性媒体から、実質的に全ての蛋白質を除去して、蛋白質フリー水性媒体を得る、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前
記工程a)、b)及び/又はc)
は、限外ろ過、ナノろ過、イオン交換処理、及び、任意に活性炭処理を含む、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記高オリゴ糖は、前記低オリゴ糖よりも少なくとも2つ多い単糖単位を含む、請求項
1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1のオリゴ糖及び前記第2のオリゴ糖のうちの一方は、他方のオリゴ糖よりも多くのGlcNAc-又はGalNAc-残基を含む、請求項
1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記高オリゴ糖は、低オリゴ糖よりも多くのGlcNAc-又はGalNAc-残基を含む、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
前記低オリゴ糖は4糖であり、前記高オリゴ糖は6糖又は7糖である、請求項
1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記第1のオリゴ糖及び第2のオリゴ糖は
、人乳オリゴ糖(HMOs)である、請求項1
~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記4糖はLNnTであり、前記6糖はpLNnHである、請求項
11に記載の方法。
【請求項14】
前記4糖はLNTであり、前記6糖はpLNH IIである、請求項
11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵又は酵素プロセスによって生産された、2つの親水性の中性オリゴ糖の各々を互いから分離するための方法、好ましくは、少なくとも2つの中性人乳オリゴ糖(HMOs)の各々を互いから分離するための方法に関する。特に、少なくとも2つのオリゴ糖のうちの1つが、他のオリゴ糖よりも高い分子量を有し、それらは、疎水性の固定相上で分配現象を示すものである。
【背景技術】
【0002】
近年、分泌オリゴ糖のような複雑な炭水化物類を工業的に生産する試みが、益々行われるようになった。そのような化合物は、生物体内にある数多くの生物学的プロセスにおいて役目があるため、このような試みが行われている。人乳オリゴ糖(HMOs)のような分泌オリゴ糖は、栄養学的及び治療学的な適用に関して、特に重要な商業ターゲットになっている。人乳オリゴ糖は、人の発育において重要な機能があるゆえに、ここ数年間、大きな関心を集めている。現在までに140を超えるHMOsの構造が特定されており、おそらく、さらに相当な数が人乳中に存在する (Urashima et al.: Milk oligosaccharides, Nova Biomedical Books, 2011; Chen Adv. Carbohydr. Chem. Biochem. 72, 113 (2015)) 。
【0003】
可能な限り数多くのHMOsについて工業的な量のHMOsを作り出すために、低コストの方法が模索された結果、世界中の研究者及び企業が、幼児、子供及び成人用の栄養学的な又は治療学的な処方におけるHMOsの使用について研究、創出、開発することが出来た。現在では、HMOsは酵素によって、又は、大抵の場合、形質転換させた単一細胞、特にE.coliを用いる発酵により製造されている。しかしながら、これらの方法では、目的とするHMOが供給されるのと一緒に他のオリゴ糖/HMO副生物が随伴する。一般的には、2'-FLには大抵の場合、DFL及び/又は3-FLが随伴し(例えば、EP-A-2896628, WO 2015/032412, WO 2015/106943を参照)、LNnT発酵培養液にはラクト-N-トリオースII(GlcNAcβ1 -3Galβ1 -4Glc)及びpLNnH(Galβ1 -4GlcNAcβ1 -3 Galβ1 -4GlcNAcβ1 -3 Galβ1 -4Glc)のような、高オリゴ糖が含まれ(例えば、WO 01/04341, Priem et al. Glycobiology 12, 235 (2002), Gebus et al. Carbohydr. Res. 361, 83 (2012), WO 2017/182965を参照)、LNTにはラクト-N-トリオースII及びpLNH II(Galβ1-3GlcNAcβ1-3Galβ1-3GlcNAcβ1-3Galβ1-4Glc)のような高オリゴ糖が混入する(例えば、WO 2015/049331, WO 2017/182965を参照)。
【0004】
WO 2017/182965は、発酵によって作られたオリゴ糖混合物を、(バイオマス、酸、塩基、有機又は無機の塩、蛋白質、蛋白質の断片、DNA、エンドトキシン、生物由来アミン、着色物のような)非炭水化物成分から分離する方法を提案しており、当該方法は、限外ろ過、ナノろ過、及び、H+型の強陽イオン交換樹脂で処理した直後に遊離塩基型の弱陰イオン交換樹脂で処理する工程を含むイオン交換樹脂の適用を含む。しかしながら、この方法は、オリゴ糖成分の各々を互いから明確に分離するものではない。
【0005】
EP-A-2896628は、次の工程を含む、発酵培養液から2'-FLを精製するための方法:限外ろ過、強陽イオン交換樹脂処理(H+型)、中和、強陰イオン交換樹脂処理(Cl-型)、中和、ナノろ過/ダイアフィルトレーション、活性炭処理、電気透析、強陽イオン交換樹脂処理(Na+型)、強陰イオン交換樹脂処理(Cl-型)、活性炭処理、及び、電気透析、を記述しており、クロマトグラフィーを適用しないことを強調している。当該方法は、94-94.5%の純度(HPLCによる)をもつ2'-FLを供給するものではあるが、この出願には、最終生成物中に約5%存在する(3-FL、DFL及びラクトースのような)主要な炭水化物混入物の量が、当該方法によって低減されるのか否かについて記載されていない。
構造が近いオリゴ糖の各々を互いから分離することは、それらの特性がきわめて類似しているため困難な課題である。ゲルろ過は確かに一つの選択肢であるが(例えば、Priem et al., Glycobiology 12, 235 (2002)を参照。)、工業的に有利な方法とはいえず、実験室規模の方法だと考えられる。
【0006】
WO 2015/049331は、次の操作手順を含む、発酵培養液からLNTを精製するための方法:透明粒子不含有溶液とする手順、電気透析/ナノろ過、第1のシミュレーションされた移動床(SMB)を用いた強陽イオン交換樹脂クロマトグラフィー、電気透析、限外ろ過、を記述している。ある一定のSMBパラメータを用いることにより、ラフィネ―ト中でLNT及びLNTよりも大きな中性オリゴ糖が分画されるのに対して、LNTよりも小さい炭水化物(ラクトース、単糖)は、抽出分画中に濃縮される。LNTを高オリゴ糖からさらに精製するために、第2のSMBクロマトグラフィーを異なるパラメータを用いて実施することにより、抽出分画中にLNTが濃縮する。
【0007】
しかしながら、発酵プロセスにおいてしばしば生成し随伴している炭水化物副生物からLNT、LNnT及びその他の中性HMOsを分離及び精製するために、代替性があり、より効率的で、ロバスト性があり、及び/又は費用効果が高く、工業的スケールアップに適している手順が、依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】EP-A-2896628
【文献】WO 2015/032412
【文献】WO 2015/106943
【文献】WO 01/04341
【文献】WO 2015/049331
【文献】WO 2017/182965
【文献】Urashima et al.: Milk oligosaccharides, Nova Biomedical Books, 2011; Chen Adv. Carbohydr. Chem. Biochem. 72, 113 (2015)
【文献】Priem et al. Glycobiology 12, 235 (2002)
【文献】Gebus et al. Carbohydr. Res. 361, 83 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の概要
本発明によれば、水性媒体中で第2の親水性の中性オリゴ糖から第1の親水性の中性オリゴ糖を分離するための方法が提供され、当該方法は、ジビニルベンゼンにより架橋されたポリスチレン(PS-DVB)からなり、その芳香環が臭素化された疎水性固定相を用いるクロマトグラフィーにより水性媒体を処理する工程を含む。水性媒体が臭素化PS-DVB(BPS-DVB)疎水性固定クロマトグラフィー媒体に接触すると、オリゴ糖のうちの一方が固体状の固定相によって、他方のオリゴ糖よりも多量に保持され、それぞれのオリゴ糖が濃縮又は分離された分画を得ることが出来る。
【0011】
一実施形態において、親水性の中性オリゴ糖のうちの一方に含まれる単糖単位の数は、他方の親水性の中性オリゴ糖に含まれる単糖単位の数よりも高い。
他の実施形態において、親水性の中性オリゴ糖のうちの一方は、他方のオリゴ糖よりも少なくとも2つ多い単糖単位からなる。
他の実施形態において、親水性の中性オリゴ糖のうちの一方は、少なくとも一つのN-アセチルグルコサミニル(GlcNAc-)又はN-アセチルガラクトサミニル(GalNAc-)残基を含むが、他方のオリゴ糖は含まない。
他の実施形態において、親水性の中性オリゴ糖のうちの一方は、GlcNAc-又はGalNAc-残基を、他方のオリゴ糖よりも多く含む。
【0012】
一実施形態において、親水性の中性オリゴ糖の少なくとも一方は、人乳オリゴ糖又はその前駆体である。
一実施形態において、第1及び第2の親水性の中性オリゴ糖は、人乳オリゴ糖又はその前駆体である。
一実施形態において、第1及び第2の親水性の中性オリゴ糖は人乳オリゴ糖であり、それらのうち一方は、他方のオリゴ糖よりも少なくとも2つ多い単糖単位からなる。
一実施形態において、第1及び第2の親水性の中性オリゴ糖は人乳オリゴ糖であり、それらのうち一方は4糖であり、他方のオリゴ糖は6糖である。
【0013】
一実施形態において、親水性の中性オリゴ糖の少なくとも一方は、GlcNAc-残基を含む人乳オリゴ糖である。
一実施形態において、第1及び第2の親水性の中性オリゴ糖は人乳オリゴ糖であり、その両方がGlcNAc-残基を含む。
一実施形態において、第1及び第2の親水性の中性オリゴ糖は人乳オリゴ糖であり、その両方がGlcNAc-残基を含み、それらのうち一方は他方のオリゴ糖よりも少なくとも2つ多い単糖単位からなる。
一実施形態において、第1及び第2の親水性の中性オリゴ糖は人乳オリゴ糖であり、それらのうち一方はGlcNAc-残基を、他方のオリゴ糖よりも多く含む。
一実施形態において、第1及び第2の親水性の中性オリゴ糖は人乳オリゴ糖であり、その両方がGlcNAc-残基を含み、それらのうち一方はGlcNAc-残基を、他方のオリゴ糖よりも多く含む。
【0014】
一実施形態において、第1及び第2の親水性の中性オリゴ糖は人乳オリゴ糖であり、それらのうち一方は他方のオリゴ糖よりも少なくとも2つ多い単糖単位からなり、当該高オリゴ糖(すなわち、より多くの単糖単位を有するもの)はGlcNAc-残基を、低オリゴ糖よりも多く含む。
一実施形態において、第1及び第2の親水性の中性オリゴ糖は人乳オリゴ糖であり、それらのうち一方はGlcNAc-残基を2つ、好ましくは厳密に2つ含む6糖であり、他方のオリゴ糖はGlcNAc-残基を1つ、好ましくは厳密に1つ含む4糖である。
【0015】
一実施形態において、人乳オリゴ糖又はその前駆体は、水性培地中での発酵によって、特にE.coliによって、細胞内で生産され、当該水性培地中へ分泌される。
一実施形態において、人乳オリゴ糖又はその前駆体を含む水性媒体を、前記BPS-DVBクロマトグラフィーにより処理する前に、下記工程のうちの1つ又は両方を行う:
a)前記水性媒体を清澄化して、粒子及び異物を除去し、好適には細胞構成物及び発酵過程から生じた不溶性代謝物並び不溶性残骸も除去する、
b)前記水性媒体から、好適には工程a)で水性媒体を清澄化した後に、実質的に全ての蛋白質を除去する。
【0016】
一実施形態において、第1及び第2のオリゴ糖はLNnT及びpLNnHを含む。
一実施形態において、第1及び第2のオリゴ糖はLNT及びpLNH IIを含む。
【発明を実施するための形態】
【0017】
詳細な説明
一般的には、高い極性をもつオリゴ糖を分離するために、高疎水性固定クロマトグラフィー媒体(逆相クロマトグラフィー、RPC)を利用することは適していない(WO 2017/221208を参照)。本発明者らは驚くべきことに、もしも固体状のクロマトグラフィー相が、ジビニルベンゼンにより架橋されたポリスチレンであってその芳香環が臭素化されたもの(BPS-DVB)で構成される場合には、RPCがこの課題に利用可能であるかもしれないことを発見した。
【0018】
本発明によれば、第1の親水性の中性オリゴ糖の少なくとも一部を第2の親水性の中性オリゴ糖から分離するための方法が提供される。当該方法において、オリゴ糖は好ましくは発酵又は生体外の酵素プロセスにより生産されたものである。当該方法は、第1及び第2のオリゴ糖を含む水溶液に対し、臭素化されたポリスチレンのジビニルベンゼン架橋物(BPS-DVB)固定媒体上でクロマトグラフィーを行う工程を含む。
好ましくは、前記BPS-DVB樹脂のブロム化レベルは約25-61w/w%であり、例えば25-35w/w%である。
【0019】
上記のクロマトグラフィー手法に基づく分離プロセスは、研究開発の実験室からパイロットプラントを経て工業的フルスケールに至るまでに亘り、バッチプロセス及び多段カラム構成の両方におけるロバスト性が立証された。固体相及び当該固体相と組み合わせたクロマトグラフィーの運転は、例えば水溶性アルコールを用いるグラジュエントを適用した方式により行うことが出来るが、有機溶剤を用いずに(純水で)運転を完了させることもできる。そのプロセスは、高温(例えば、上限が60℃)において効果的に機能し、微生物の成長リスクを低減する点、及び、生産性を増大させる点で有益となる。また、固体相は、例えば、酢酸水溶液を用いて完全に再生するので、食品関連の加工に適している。
【0020】
本発明において、用語「逆相クロマトグラフィー」又はRPCとは、好ましくは、疎水性の固定された(すなわち充填された)又は懸濁された相と、分離すべき成分を含む極性(すなわち水溶性)の移動相とを用いるクロマトグラフィーのいかなる方法をも意味する。
用語「親水性の中性オリゴ糖」とは、好ましくは、少なくとも2つの単糖単位を含む糖ポリマー、すなわち、ジ-、トリ-、テトラ-又はより高単糖単位を含むオリゴ糖を意味する。オリゴ糖は、内部グリコシド結合により互いに連結しあった単糖単位を含有する線状又は分岐状の構造を有し得る。オリゴ糖は、好ましくは2つから8つ、より好ましくは2つから6つの単糖単位残基により構成される。当該オリゴ糖を作り上げる単糖単位は、明白に中性の単糖であり、それらはアルドン酸、(シアル酸のような)ケト-アルドン酸、アルダル酸、アルドウロン酸のような酸性の単糖ではあり得ず、遊離アミノ基を有するもののような塩基性の単糖残基でもない。中性単糖単位の水酸基は保護されていないため、単糖によって作り上げられたオリゴ糖も、非保護である。中性の単糖単位は、アルドース類(例えばD-グルコース、D-ガラクトース、D-マンノース、D-リボース、D-アラビノース、L-アラビノース、D-キシロースなど)、ケトース類(例えばD-フルクトース、D-ソルボース、D-タガトースなど)、デオキシ糖類(L-ラムノース、L-フコースなど)及びN-アセチル化デオキシ-アミノ糖(例えばN-アセチルグルコサミン、N-アセチルマンノサミン、N-アセチルガラクトサミンなど)から構成される、5個-9個の、好ましくは5個-6個の炭素原子を含む単糖から選択することが出来る。
【0021】
用語「臭素化されたポリスチレンのジビニルベンゼン架橋物」、「ジビニルベンゼンで架橋され、かつ、臭素化されたポリスチレン」又は、「BPS-DVB」とは、スチレンとジビニルベンゼンとの修飾された共重合体であって、スチレンモノマーの少なくとも一部が臭素化スチレンで置き換えられている(ここで、臭素は芳香環上に存在する)か、又は、ポリスチレン-ジビニルベンゼン共重合体が臭素化剤によって臭素化されているものを指す。
用語「C1-C4アルコール」とは、メタノール、エタノール、プロパノール又はブタノールのような、1個から4個の炭素原子を含むアルキルアルコールを意味する。好ましいC1-C4アルコールは、イソプロパノールである。
【0022】
用語「水性媒体[発酵又は酵素プロセスから得られる]」とは、好ましくは、少なくとも1つの親水性の中性オリゴ糖を生産するための酵素的な又は発酵のプロセスから生じた水性懸濁物を意味する。
用語「清澄化した水性媒体」とは、好ましくは、プロセスから生じ懸濁している粒子又は混入物を除去するための処理、特に、後続する精製工程を妨げ得る細胞、細胞構成物、発酵プロセスから生じた不溶性の代謝物及び残骸を除去するための処理が行われた水性媒体、例えば、酵素プロセスの水性媒体又は発酵培養液を意味する。そのような清澄化処理は、遠心分離、凝集、任意の超音波処理を用いる凝集、重力ろ過、マイクロろ過、限外ろ過、発泡分離、又は、真空ろ過(例えば、Celite(登録商標)filter aid を包含し得るセラミックフィルターを通過させる)などによる従来の手法で行うことが出来る。
用語「蛋白質フリー水性媒体」とは、好ましくは、実質的に全てのタンパク質を除去するための処理、好ましくは、蛋白質と共に、ペプチド、アミノ酸、RNA、DNA並びにそれらの断片、及び、後続する精製工程を妨げ得るエンドトキシン並びに糖脂質を除去するための処理が行われた水性媒体、例えば、酵素プロセスの水性媒体又は発酵培養液を意味する。そのような蛋白質、アミノ酸、RNA及びDNAの除去は、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、限外ろ過、ナノろ過、又は、サイズ排除クロマトグラフィーなどによる従来の手法で成し遂げることが出来る。
【0023】
用語「高オリゴ糖」とは、その重合の程度が、他のオリゴ糖よりも高いこと、すなわち、他のオリゴ糖よりも多くの単糖単位を含むことを意味している。
用語「低オリゴ糖」とは、その重合の程度が、他のオリゴ糖よりも低いこと、すなわち、他のオリゴ糖よりも少ない単糖単位を含むことを意味している。
【0024】
クレームされた分離方法は、従来の手法で行うことが出来る。第1及び第2の親水性の中性オリゴ糖を含む水溶液が、クロマトグラフィーの移動相として用いられる。有機溶媒、好ましくはC1-C4アルコールが水溶液に添加されてもよい。水溶液のpHは、好ましくは3~8の間、より好ましくは4~7の間である。必要な場合には、酸、塩基又は緩衝剤の水溶液を添加することによる従来の手法で、pHを所望の値に調整することが出来る。
分離は、実験室スケール又は工業的スケールの、従来のクロマトグラフィーのカラム又は容器を用いて容易に行うことができ、当該カラム又は容器内には、BPS-DVB樹脂が充填されていても又は懸濁されていても(例えばビーズとして)、いずれであってもよい。好ましくは、分離方法はカラム内で実施される。
【0025】
分離の程度は、溶出液の性質、流通/溶出速度、捕集した分画の容積、樹脂質量又は樹脂床容積に対する第1及び第2のオリゴ糖の質量など、多数のパラメータに依存する。これらのパラメータは、慣例的なスキルを用いて最適化することが出来る。
用語「分離」とは、第1及び第2のオリゴ糖の各々を互いから完全に分離すること、すなわち、それらを、互いに他を含有しない純粋な形態で、分画から捕集及び分離することを意味する。さらに当該用語「分離」は、当該オリゴ糖の少なくとも一方を、純粋な形態で、少なくとも一つの分画から得ることが出来るか、又は、分画中に存在する第1及び第2のオリゴ糖の割合が供給液とは異なっており、それによって当該オリゴ糖のうちの一方が濃縮されるという、部分的な分離をも意味する。
【0026】
上記したBPS-DVBクロマトグラフィーを用いて第2の親水性の中性オリゴ糖からの第1の親水性の中性オリゴ糖の分離を行った後、精製又は濃縮された第1の及び/又は第2のオリゴ糖は、水溶性分画から分離することが出来る。この分離において、それ(又はそれら)は、例えば蒸発、結晶化、凍結乾燥又は噴霧乾燥などによる従来の手法で捕集される。
【0027】
好ましくは、BPS-DVB固定媒体上でのクロマトグラフィーは、次の工程を含む:
- 第1及び第2の親水性の中性オリゴ糖を含む水溶液を、BPS-DVB媒体上に装填する、
- 任意にC1-C4アルコールを含有する水を用いて溶出する、そして、
- 当該オリゴ糖のうちの一方を含む又は当該オリゴ糖のうちの一方が濃縮された分画を捕集する。
クロマトグラフィーの後、BPS-DVB媒体を水-混和性の有機溶剤を含有する水を用いて溶出することにより再生し、再使用することが出来る。
また好ましくは、第1及び第2の親水性の中性オリゴ糖を含む水溶液は、第1及び第2のオリゴ糖が生産された/含まれている発酵培養液又は水性反応媒体に前処理を行ったものである。
【0028】
本方法の一態様は、第1及び第2の親水性の中性オリゴ糖の各々を互いから、少なくとも部分的に分離する工程を含んでおり、当該方法においてオリゴ糖は、水性培地中での発酵によって、好ましくはE.coliによって細胞内で生産され、当該水性培地中へ分泌され、移送され、又は、取り込まれたものである。当該方法は、BPS-DVBクロマトグラフィーの前に、次の前処理工程を含んでいてもよい:
a)前記水性培地を清澄化して、当該水性培地から、粒子及び異物、また好ましくは細胞、細胞構成物、及び、発酵過程から生じた不溶性代謝物並びに不溶性残骸を除去し、清澄化した水性媒体を得る工程、及び/又は、
b)前記水性培地、好ましくは、前記工程a)の清澄化した水性媒体から、実質的に全ての蛋白質を除去して、蛋白質フリー水性媒体を得る工程、及び/又は、
c)前記水性培地、前記工程a)の清澄化した水性媒体、又は、前記工程b)の蛋白質フリー水性媒体から、塩及び帯電した成分を除去する工程。
したがって、前記工程a)由来の清澄化した水性媒体、前記工程b)由来の蛋白質フリー水性媒体、又は、前記工程c)で得られた水性媒体が、BPS-DVB樹脂上に装填される。
【0029】
当該方法の他の態様は、第1及び第2の親水性の中性オリゴ糖の各々を互いから、少なくとも部分的に分離する工程を含んでおり、当該方法においてオリゴ糖のうち少なくとも一方は、水性媒体中での生体外の酵素プロセスにより生産されたものである。生体外酵素反応の混合物は、一般的に生産された目的物であるオリゴ糖のほか、蛋白質、蛋白質断片、無機塩、未反応の炭水化物アクセプター(一般的にはラクトース)又はドナー、糖様副生物、炭水化物残基(一般的には単糖又は二糖)などを含有している。
当該方法は、BPS-DVBクロマトグラフィーの前に、次の前処理工程を含んでいてもよい:限外ろ過(UF)、ナノろ過(NF)及び任意の活性炭(AC)処理。UFは、高分子量の懸濁固形物、一般的には蛋白質又は蛋白質断片を、水性媒体の可溶成分から分離する工程を含み、水性媒体は浸透物となって限外ろ過膜を通過する。この限外ろ過浸透物(UFP)は、生産されたオリゴ糖及び当該オリゴ糖に随伴する他の炭水化物生成物を含有する水溶液である。NF工程は、UF工程又は任意工程のAC処理に後続してもよい;この工程は、生産されたオリゴ糖及び当該オリゴ糖に随伴する他の炭水化物生成物を含有している前処理された水性媒体を濃縮するため、及び/又は、イオン、主に1価イオン、及び、単糖のように、オリゴ糖生成物よりも低い分子量を有する有機材料を除去するために、好適に用いられ得る。この点に関し、生産されたオリゴ糖及び当該オリゴ糖に随伴する他のオリゴ糖は、NF保持物(NFR)中に蓄積される。NFは、浸透物分子をより効果的に除去するために、例えば、浸透物の導電率が塩の非存在又は極めて少量の存在を示すまで除去するために、水を用いるダイアフィルトレーションと組み合わせることが出来る。任意のAC工程は、UF工程、NF工程又はBPS-DVB樹脂クロマトグラフィーに後続してもよい。AC処理は、必要に応じ、色材及び/又は塩のような水溶性混入物を除去又は少なくともその量を低減するために役立つ。
【0030】
クレームされた分離プロセスの一実施形態においては、酵素的な、又は、好ましくは発酵プロセス、特にE.coli又は酵母から直接的に取得することができ、第1及び第2の水溶液の中性オリゴ糖を含有する水性媒体を、次の工程により処理する:
1)前記水性媒体を清澄化して、懸濁している粒子及び異物、特に細胞、細胞構成物、及び、発酵過程から生じた不溶性代謝物並びに不溶性残骸を除去する;それから、
2)前記工程1)で得られた水溶液から、実質的に全てのタンパク質と共に、ペプチド、アミノ酸、RNA、DNA、及び、後続する精製工程を妨げ得るエンドトキシン並びに糖脂質を除去する;それから、
3)前記工程2)で得られた水溶液から、BPS-DVB上のクロマトグラフィーにより第1及び第2のオリゴ糖を分離する。
【0031】
工程1)において、第1及び第2のオリゴ糖を含有する水性媒体は、例えば遠心分離又はろ過による従来の手法で、清澄化される。好ましくは、水性媒体は、先ず凝集を行ってから遠心分離又はろ過を行うことにより、残留している不溶性の粒子及び異物と共に、細胞と、細胞構成物と、不溶性の代謝物並びに残骸とを除去する。
工程2)において、蛋白質及びこれに関連する不純物は、例えば限外ろ過、ナノろ過、タンジェンシャルフローハイパフォーマンスろ過、タンジェンシャルフロー限外ろ過、アフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過、サイズ排除クロマトグラフィー、活性炭処理による従来の手法で、水性媒体から除去される。活性炭処理は、必要に応じ、色材及び/又は塩のような水溶性混入物を除去又は少なくともその量を低減するために役立つ。イオン交換クロマトグラフィーは、塩、着色物、蛋白質、アミノ酸、脂質及びDNAのような、帯電した成分を効率よく除去する。
【0032】
好ましい及び/又は開示された実施形態を含め、第1の親水性の中性オリゴ糖をBPS-DVB上のクロマトグラフィーにより第2の親水性の中性オリゴ糖から分離する方法において、第1及び第2のオリゴ糖は、少なくとも1つの構造的特徴によって互いに異なっている。例えば、少なくとも1つの単糖単位が異なるとか、単糖単位の数が異なるとか、又は、内部グリコシド結合のうちの少なくとも1つの配向が異なる(αであるのか、ベータであるのかということ)などである。
一実施形態において、オリゴ糖のうちの一方は、他方のオリゴ糖よりも1つ多い単糖単位から構成される。他の実施形態において、オリゴ糖のうちの一方は、他方のオリゴ糖よりも2つ又は2つ以上多い単糖単位から構成され、その例としては、オリゴ糖のうちの一方は3糖であり、他方のオリゴ糖は5糖であるとか、オリゴ糖のうちの一方は4糖であり、他方のオリゴ糖は6糖であるなどがある。
他の実施形態において、オリゴ糖のうちの一方は少なくとも1つのGlcNAc-又はGalNAc-単位、好ましくはGlcNAc-単位を含むが、他方のオリゴ糖はそれらを含まない。
他の実施形態において、オリゴ糖のうちの一方は他方のオリゴ糖よりも多くのGlcNAc-又はGalNAc-単位、好ましくはGlcNAc-単位を含む。
【0033】
好ましくは、オリゴ糖のうちの一方は、他方のオリゴ糖の構造を含むものであり、すなわち、オリゴ糖のうちの一方は、他方のオリゴ糖のグリコシル化誘導体である。より好ましくは、グリコシル化反応は、少なくとも2つの単糖を付加することを含む。よりさらに好ましくは、第1及び第2のオリゴ糖によって共有される構造は、ラクトース又はそのグリコシル化誘導体である。
【0034】
また、好ましくは、第1及び第2の親水性の中性オリゴ糖は、ラクトース(Galβ1-4Glc)残基を還元末端に含む。より好ましくは、第1及び第2の親水性の中性オリゴ糖は、下記式1により表される。
【0035】
【0036】
R1は、フコシル基又はHである、
R2は、フコシル基又はHである、
R3は、H、N-アセチル-グルコサミニル基、N-アセチル-ラクトサミニル基、及び、ラクト-N-ビオシル基から選ばれ、N-アセチル-ラクトサミニル基又はラクト-N-ビオシル基は、1つ又はそれよりも多いN-アセチル-グルコサミニル基、N-アセチル-ラクトサミニル基、及び/又は、ラクト-N-ビオシル基を含むグリコシル残基を有していてもよく、;いずれのN-アセチル-ラクトサミニル基及びラクト-N-ビオシル基も、1つ又はそれよりも多いフコシル残基で置換されていてもよい、
R4は、H、N-アセチル-グルコサミニル基、及び、N-アセチル-ラクトサミニル基から選ばれ、N-アセチル-ラクトサミニル基は、任意に、1つ又はそれよりも多いN-アセチル-グルコサミニル基、N-アセチル-ラクトサミニル基、及び/又は、1つ又はそれよりも多いラクト-N-ビオシル基を含むグリコシル残基で置換されていてもよく、;いずれのN-アセチル-ラクトサミニル基及びラクト-N-ビオシル基も、1つ又はそれよりも多いフコシル残基で置換されていてもよい;
【0037】
よりさらに好ましくは、式1は、下記式1a、1b又は1cにより表される。
【0038】
【0039】
上記式において、R1及びR2は、上記定義のとおりである、
R3aは、N-アセチル-グルコサミニル基、又は、N-アセチル-グルコサミニル基、N-アセチル-ラクトサミニル基及び/又はラクト-N-ビオシル基を含むグリコシル残基で任意に置換されたN-アセチル-ラクトサミニル基であり、;いずれのN-アセチル-ラクトサミニル基及びラクト-N-ビオシル基も、1つ又はそれよりも多いフコシル残基で置換されていてもよい、
R4aは、H、又は、N-アセチル-グルコサミニル基、又は、N-アセチル-グルコサミニル基又はラクト-N-ビオシル基で任意に置換されたN-アセチル-ラクトサミニル基であり、;いずれのN-アセチル-ラクトサミニル基及びラクト-N-ビオシル基も、1つ又はそれよりも多いフコシル残基で置換されていてもよい、
R3bは、N-アセチル-グルコサミニル基、又は、N-アセチル-グルコサミニル基、N-アセチル-ラクトサミニル基及び/又はラクト-N-ビオシル基を含むグリコシル残基で任意に置換されたラクト-N-ビオシル基であり、;いずれのN-アセチル-ラクトサミニル基及びラクト-N-ビオシル基も、1つ又はそれよりも多いフコシル残基で置換されていてもよい、
R4bは、H、又は、N-アセチル-グルコサミニル基、又は、1つ又は2つのN-アセチル-グルコサミニル基、N-アセチル-ラクトサミニル基及び/又は1つのラクト-N-ビオシル基で任意に置換されたN-アセチル-ラクトサミニル基であり、;いずれのN-アセチル-ラクトサミニル基及びラクト-N-ビオシル基も、1つ又はそれよりも多いフコシル残基で置換されていてもよい;
【0040】
よりさらに好ましくは、式1a及び1bは次のとおり特徴づけられる:
- R3aのグリコシル残基内のN-アセチル-ラクトサミニル基は、他のN-アセチル-ラクトサミニル基に対し1-3内部グリコシド結合で付加される、
- R3aのグリコシル残基内のラクト-N-ビオシル基は、N-アセチル-ラクトサミニル基に対し1-3内部グリコシド結合で付加される、
- R4aのグリコシル残基内のラクト-N-ビオシル基は、N-アセチル-ラクトサミニル基に対し1-3内部グリコシド結合で付加される、
- R4bのグリコシル残基内のN-アセチル-ラクトサミニル基は、他のN-アセチル-ラクトサミニル基に対し1-3又は1-6内部グリコシド結合で付加される、
- R4bのグリコシル残基内のラクト-N-ビオシル基は、N-アセチル-ラクトサミニル基に対し1-3内部グリコシド結合で付加される。
【0041】
よりさらに好ましくは、式1a、1b及び1cで表される化合物は、人乳オリゴ糖である。ここで、式1aの好ましい化合物は、ラクト-N-ネオテトラオース、パラ-ラクト-N-ヘキサオース、パラ-ラクト-N-ネオヘキサオース、ラクト-N-ネオヘキサオース、パラ-ラクト-N-オクタオース、又は、ラクト-N-ネオオクタオースであり、それら全ては1つ又はそれよりも多いフコシル残基で任意に置換されていてもよい;式1bの好ましい化合物は、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ヘキサオース、ラクト-N-オクタオース、イソ-ラクト-N-オクタオース、ラクト-N-デカオース、又は、ラクト-N-ネオデカオースであり、それら全ては1つ又はそれよりも多いフコシル残基で任意に置換されていてもよい。特に、式1a又は1bの化合物は、N-アセチル-ラクトサミニル基及び/又はラクト-N-ビオシル基に付加しているフコシル残基が、
- ラクト-N-ビオシル基のガラクトースに、1-2内部グリコシド結合で連結している、及び/又は、
- ラクト-N-ビオシル基のN-アセチル-グルコサミンに、1-4内部グリコシド結合で連結している、及び/又は、
- N-アセチル-ラクトサミニル基のN-アセチル-グルコサミンに、1-3内部グリコシド結合で連結していることにより、特徴づけられる。
【0042】
最も好ましい態様によれば、下位式1a、1b及び1cの化合物は、以下よりなる群から選ばれる:ラクトース、2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、2’,3-ジフコシルラクトース、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース、LNFP I、LNFP II、LNFP III、LNFP V、LNFP VI、LNDFH I、LNDFH II、LNDFH III、pLNnH、モノフコシル化pLNnH、pLNnH II、モノフコシル化pLNH II、及び、ラクト-N-トリオース II。
【0043】
一実施形態において、第1及び第2の親水性の中性オリゴ糖のうちの一方は、GlcNAc又はGalNAc単位をその構造中に含まないが、他方のオリゴ糖は含む。
一実施形態において、第1及び第2の親水性の中性オリゴ糖は両方とも、GlcNAc又はGalNAc単位、好ましくはGlcNAc単位をその構造中に含む。
一実施形態において、第1及び第2の親水性の中性オリゴ糖のうちの一方は、他方のオリゴ糖よりも多いGlcNAc又はGalNAc単位、好ましくはGlcNAc単位をその構造中に含む。好ましい実施形態において、第1及び第2のオリゴ糖は、式1aで表され、より好ましくは、R1がH、R3aがN-アセチル-ラクトサミニル基及び/又はラクト-N-ビオシル基で任意に置換されたN-アセチル-ラクトサミニル基であり;いずれのN-アセチル-ラクトサミニル基及びラクト-N-ビオシル基も、1つ又はそれよりも多いフコシル残基で置換されていてもよく、及び、R4aがHである。よりさらに好ましくは、オリゴ糖のうちの一方は4糖、例えばLNnTであり、他方のオリゴ糖は5糖又は6糖、例えばpLNnHである。
【0044】
他の好ましい実施形態によれば、第1及び第2のオリゴ糖は、式1bで表され、より好ましくは、R1がH、R3bがN-アセチル-グルコサミニル基、N-アセチル-ラクトサミニル基及び/又はラクト-N-ビオシル基を含むグリコシル残基で任意に置換されたラクト-N-ビオシル基;いずれのN-アセチル-ラクトサミニル基及びラクト-N-ビオシル基も、1つ又はそれよりも多いフコシル残基で置換されていてもよく、及び、R4bがHである。よりさらに好ましくは、オリゴ糖のうちの一方は4糖、例えばLNTであり、他方のオリゴ糖は5糖又は6糖、例えばpLNH IIである。
【実施例】
【0045】
実施例
包括的説明:使用前に、PS-DVB又はBPS-DVB樹脂を30%酢酸溶液中に2時間混合し、脱気した。それから、それらをガラス製カラムに充填し、導電率が500μS/cm未満に到達するまで水で洗浄した。
【0046】
[実施例1]
2本のガラス製カラム(l:40cm、d:26mm)にPurosorb PAD428 BPS-DVB樹脂、及び、Sepabeads SP825L PS-DVB(非臭素化)樹脂を、それぞれ充填した。LNnT(500mg)及びpLNnH(115mg、4.35:1の割合)の混合物を10mlの水に溶解した溶液のクロマトグラフィーを、流速およそ2.5ml/minとし各樹脂上で行った。分画(およそ20ml)を捕集し、HPLCにより分析した。
結果:
Purosorb PAD428 臭素化PS-DVB樹脂については、LNnT:pLNnHを8.7:1の割合で含有している分画3-分画10(96ml、およそ0.5-1.67ベッド体積)を貯蔵した(LNnTの77%を回収した。)。
Sepabeads SP825L PS-DVB樹脂については、LNnT:pLNnHを4.7:1の割合で含有している分画2-分画8(104ml、およそ0.3-1.17ベッド体積)を貯蔵した(LNnTの98%を回収した。)。
BPS-DVB樹脂は、LNnTを、その割合が2倍ほどに濃縮したのに対し、非臭素化PS-DVB樹脂は、実用的な分離が見られなかった。
【0047】
[実施例2]
ガラス製カラム(l:40cm、d:26mm)にPurosorb PAD428 BPS-DVB樹脂を充填した。LNnT(1.2g)及びpLNnH(0.25g、4.8:1の割合)の混合物を20mlの水に溶解した溶液のクロマトグラフィーを、流速およそ4ml/minとし各樹脂上で行った。分画(およそ30ml)を捕集し、HPLCにより分析した。
LNnT:pLNnHを7.65:1の割合で含有している分画2-分画10(240ml、およそ0.5-2.6ベッド体積)を貯蔵し、LNnTの90%を回収した。
【0048】
[実施例3]
ガラス製カラム(l:40cm、d:26mm)にSepabeads SP207 BPS-DVB樹脂を充填した。LNnT(1.5g)、pLNnH(100mg)及びF-pLNnH(Galβ1-4[Fucα1-3]GlcNAcβ1-3Galβ1-4GlcNAcβ1-3Galβ1-4Glc、WO 2016/063261を参照、50mg;30:2:1の割合)の混合物を30mlの水に溶解した溶液のクロマトグラフィーを、流速およそ6ml/minとし各樹脂上で行った。分画(およそ30ml)を捕集し、HPLCにより分析した。
分画3-分画14(400ml)を貯蔵した。その分画は、LNnT:pLNnH:Galβ1-4[Fucα1-3]GlcNAcβ1-3Galβ1-4GlcNAcβ1-3Galβ1-4Glcを129:2.6:1の割合で含有していた。
【0049】
[実施例4]
LNnTを、LacZ-、LacY+、phenotypeの遺伝子改変E.coliを用いる発酵により生産した。ここで、当該細胞は、UDP-GlcNAc のGlcNAcを、当該細胞に取り込まれたラクトースに転移させることができるβ-1,3-N-アセチル-グルコサミニルトランスフェラーゼをエンコードする組み換え遺伝子、UDP-Galのガラクトシル残基をN-アセチル-グルコサミニル化ラクトースに転移させることができるβ-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼをエンコードする組み換え遺伝子、及び、UDP-GlcNAc及びUDP-Gal方向への生合成経路をエンコードする遺伝子を有する。
発酵は、外部から添加したラクトース及び適当な炭素源の存在下で当該細胞を培養することにより実施し、それによって、LNnTがラクト-N-トリオース II、pLNnH及びラクトースを随伴して発酵培養液中に生産された。
【0050】
培養液に対し、UF、ダイアフィルトレーションと組み合わせたNF、活性炭を用いた脱色、及び、イオン交換処理(陽イオンと陰イオンの両方)により、標準的な細胞除去操作を行った。得られた溶液は、LNnT(30g/l)、ラクトース、ラクト-N-トリオース II及びpLNnH(10.6%vs. LNnT)を含有していた。当該溶液を、Sepabeads SP207 BPS-DVB樹脂を充填したカラムに装填(ベッド容積100ml当たり約1.6gのLNnT)し、0.02%のイソプロパノールを含有する水を用いて溶出させた。およそ1.1-2.1ベッド容積の分画を捕集した。
HPLC分析は、LNnTの82%が回収され、その一方で、pLNnHの量が0.3%vs. LNnTまで低減されたことを示した。
【0051】
[実施例5]
LNTを、LacZ-、LacY+、phenotypeの遺伝子改変E.coliを用いる発酵により生産した。ここで、当該細胞は、UDP-GlcNAc のGlcNAcを、当該細胞に取り込まれたラクトースに転移させることができるβ-1,3-N-アセチル-グルコサミニルトランスフェラーゼをエンコードする組み換え遺伝子、UDP-Galのガラクトシル残基をN-アセチル-グルコサミニル化ラクトースに転移させることができるβ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼをエンコードする組み換え遺伝子、及び、UDP-GlcNAc及びUDP-Gal方向への生合成経路をエンコードする遺伝子を有する。
発酵は、外部から添加したラクトース及び適当な炭素源の存在下で当該細胞を培養することにより実施し、それによって、LNTがラクト-N-トリオース II、pLNH II及びラクトースを随伴して発酵培養液中に生産された。
【0052】
培養液に対し、UF、ダイアフィルトレーションと組み合わせたNF、活性炭を用いた脱色、及び、イオン交換処理(陽イオンと陰イオンの両方)により、標準的な細胞除去操作を行った。得られた溶液は、LNT(20.7g/kg、HPLCによる純度:76.1%)、ラクトース、ラクト-N-トリオース II及びpLNH II(3.23%vs. LNT)を含有していた。当該溶液を凍結乾燥した。凍結乾燥粉末(3.40g)の試料を45mlの水に溶解し、当該溶液を、Sepabeads SP207 BPS-DVB樹脂を充填したカラム(カラム径:1.6cm、ベッド容積:170ml)に装填し、水(1.5ベッド容積)を用いて溶出させてから、20%メタノールを用いて溶出させた。分画の容量は170mlであった。分画11-分画26を貯蔵し、凍結乾燥し、2.85gの固形物が得られた。
HPLC分析は、LNTの純度が81.3%まで増大し、その一方で、pLNH IIの量が0.25%vs. LNTまで低減されたことを示した。