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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】壁構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
E04H9/02 321B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019162228
(22)【出願日】2019-09-05
(65)【公開番号】P2021038613
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-06-23
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】八木 毅
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 純平
(72)【発明者】
【氏名】高津 比呂人
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】実開平06-065571(JP,U)
【文献】特開平10-238159(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00-9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート造の柱梁架構の上梁に固定された上部壁体と、
前記柱梁架構の下梁に固定されると共に前記上部壁体と横方向に間隔をあけて配置され、前記柱梁架構が損傷限界まで変形した際に前記上部壁体と接触して前記柱梁架構が塑性変形を始める下部壁体と、
を備えた壁構造。
【請求項2】
前記柱梁架構の柱は、層間変位角が1/200となった際に損傷限界となる強度である、請求項1に記載の壁構造。
【請求項3】
前記上部壁体と前記下部壁体とは、柱梁架構の柱との間に開口部を有すると共に、開口周比が0.4以下である非耐力壁である、請求項1に記載の壁構造。
【請求項4】
前記上部壁体と前記下部壁体とは、柱梁架構の柱との間にスリットが設けられた袖壁である、請求項1に記載の壁構造。
【請求項5】
前記上部壁体の下端部に形成された第一係合部と、
前記下部壁体の上端部に形成され、前記柱梁架構が損傷限界まで変形した際に前記第一係合部と接触する第二係合部と、
を備えた請求項1~4の何れか1項に記載の壁構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、上下に隣り合う2本の梁のうちの上側の梁に結合された上部壁と、下側の梁に結合された下部壁と、を有する方立壁が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-25478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の方立壁は、上部壁と下部壁との間に隙間が設けられており、地震時における方立壁の損傷が抑制されている。しかしながらこの方立壁は地震の揺れに抵抗することが難しい。
【0005】
本発明は上記事実を考慮して、小規模の地震時には壁体の損傷が抑制され、大規模の地震時には架構の変形を抑制できる壁構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の壁構造は、鉄筋コンクリート造の柱梁架構の上梁に固定された上部壁体と、前記柱梁架構の下梁に固定されると共に前記上部壁体と横方向に間隔をあけて配置され、前記柱梁架構が損傷限界まで変形した際に前記上部壁体と接触して前記柱梁架構が塑性変形を始める下部壁体と、を備えている。
【0007】
請求項1に記載の壁構造では、地震等によって柱梁架構に水平力が作用すると、柱梁架構は横方向に変形する。柱梁架構の上梁に固定された上部壁体と、下梁に固定された下部壁体とは横方向に間隔をあけて配置されている。そして、柱梁架構の変形量が所定値以上になると、上部壁体と下部壁体とが接触する。
【0008】
すなわち、地震時における柱梁架構の変形量が所定値未満の場合、上部壁体及び下部壁体が接触しないため、上部壁体及び下部壁体の損傷が抑制される。一方、柱梁架構の変形量が所定値以上になると、上部壁体と下部壁体との間で応力が伝達され水平力に抵抗する。このため柱梁架構の変形を抑制できる。したがって、小規模の地震時には壁体の損傷が抑制され、大規模の地震時には柱梁架構の変形を抑制できる。
請求項2の壁構造は、請求項1に記載の壁構造において、前記柱梁架構の柱は、層間変位角が1/200となった際に損傷限界となる強度である。
請求項3の壁構造は、請求項1に記載の壁構造において、前記上部壁体と前記下部壁体とは、柱梁架構の柱との間に開口部を有すると共に、開口周比が0.4以下である非耐力壁である。
請求項4の壁構造は、請求項1に記載の壁構造において、前記上部壁体と前記下部壁体とは、柱梁架構の柱との間にスリットが設けられた袖壁である。
【0009】
請求項5の壁構造は、請求項1~4の何れか1項に記載の壁構造において、前記上部壁体の下端部に形成された第一係合部と、前記下部壁体の上端部に形成され、前記柱梁架構が損傷限界まで変形した際に前記第一係合部と接触する第二係合部と、を備えている。
【0010】
請求項5に記載の壁構造では、柱梁架構の変形量が所定値以上になると、上部壁体の下端部に形成された第一係合部と、下部壁体の上端部に形成された第二係合部とが接触する。このため、柱梁架構の変形量が所定値以上になると、第一係合部及び第二係合部を介して上部壁体と下部壁体との間で応力が伝達され水平力に抵抗する。このため柱梁架構の変形を抑制できる。
【0011】
一態様の壁構造は、柱梁架構の上梁に固定された上部壁体と、前記柱梁架構の下梁に固定されると共に前記上部壁体と横方向に間隔をあけて配置された下部壁体と、前記上部壁体及び前記下部壁体に弛んだ状態で連結されると共に、前記柱梁架構が所定値以上変形した際に突っ張る連結部材と、を備えている。
【0012】
一態様の壁構造では、地震等によって柱梁架構に水平力が作用すると、柱梁架構は横方向に変形する。柱梁架構の上梁に固定された上部壁体と、下梁に固定された下部壁体とは横方向に間隔をあけて配置されている。そして、柱梁架構の変形量が所定値以上になると、上部壁体及び前記下部壁体に連結された連結部材が突っ張る。
【0013】
すなわち、地震時における柱梁架構の変形量が所定値未満の場合、上部壁体及び下部壁体が接触しないため、上部壁体及び下部壁体の損傷が抑制される。一方、柱梁架構の変形量が所定値以上になると、連結部材が突っ張ることで上部壁体と下部壁体との間で応力が伝達され水平力に抵抗する。このため柱梁架構の変形を抑制できる。したがって、小規模の地震時には壁体の損傷が抑制され、大規模の地震時には柱梁架構の変形を抑制できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、小規模の地震時には壁体の損傷が抑制され、大規模の地震時には架構の変形を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(A)は本発明の第1実施形態に係る壁構造の一例を示す立面図であり、(B)は地震時に架構が変形した状態を示す立面図である。
図2】(A)は架構に入力される水平方向の荷重と架構の層間変位との関係を示すグラフであり、(B)は上部壁体及び下部壁体に入力される水平方向の荷重と架構の層間変位との関係を示すグラフであり、(C)は架構、上部壁体及び下部壁体に入力される水平方向の荷重と架構の層間変位との関係を示すグラフである。
図3】(A)は凸部の側面と凹部の側面との間隔を変えた変形例を示す立面図であり、(B)は地震時に架構が変形した状態を示す立面図である。
図4】(A)は凸部の側面と凹部の側面との間隔を変えた変形例において架構に入力される水平方向の荷重と架構の層間変位との関係を示すグラフであり、(B)は上部壁体及び下部壁体に入力される水平方向の荷重と架構の層間変位との関係を示すグラフであり、(C)は架構、上部壁体及び下部壁体に入力される水平方向の荷重と架構の層間変位との関係を示すグラフである。
図5】(A)は上部壁体に凸部を形成し下部壁体に凹部を形成した変形例を示す立面図であり、(B)は上部壁体を上梁の突起部とした変形例を示す立面図であり、(C)は上部壁体と下部壁体との間に嵌合部材を配置した変形例を示す立面図であり、(D)は上部壁体と下部壁体とで袖壁を形成した変形例を示す立面図であり、(E)は上部壁体と下部壁体とをそれぞれ上梁及び下梁から突出した突起物として形成した変形例を示す立面図である。
図6】(A)は本発明の第2実施形態に係る壁構造の一例を示す立面図であり、(B)は地震時に架構が変形した状態を示す立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係る壁構造について、図面を参照しながら説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。また、各図面において重複する構成及び符号については、説明を省略する場合がある。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において構成を省略する、又は異なる構成と入れ替える等、適宜変更を加えて実施することができる。
【0017】
[第1実施形態]
<壁構造>
図1(A)に示すように、本実施形態に係る壁構造20は、柱梁架構10(以下、架構10と称す)の上梁12Aに固定された上部壁体30と、架構10の下梁12Bに固定されると共に上部壁体30と横方向に間隔をあけて配置され、架構10が所定値以上変形した際に上部壁体30と接触する下部壁体40と、を備えている。
【0018】
(柱梁架構)
架構10は、鉄筋コンクリート造の架構であり、複数の柱14と、互いに隣り合う柱14に架け渡された梁12とを備えて形成されている。本明細書においては、上下に隣り合う梁12を、それぞれ上梁12A及び下梁12Bと称す場合がある。架構10においては、上梁12A、下梁12B及び隣り合う2本の柱14によって、鉛直構面H(以下、構面Hと称す)が形成されている。
【0019】
(上部壁体)
上部壁体30は鉄筋コンクリート製の壁体であり、上端部が上梁12Aの下面中央部に固定され、下端部が後述する下部壁体40と間隔(上下方向の間隔)を空けて配置されている。上部壁体30を形成するコンクリートは鋼製の繊維で補強され、ひび割れが抑制されている。
【0020】
上部壁体30の上端部から上梁12Aの内部に亘って、図示しない接合鉄筋がコンクリートに埋設されている。これにより、上部壁体30と上梁12Aとが接合されている。また、上部壁体30の内部には、図示しない壁筋が配筋されている。なお、壁筋を上梁12Aの内部まで配筋することで接合鉄筋として兼用することもできる。
【0021】
上部壁体30の下端部には、凹部32が形成されている。具体的には上部壁体30の下端面30Aの中央部が、上方向にオフセットして(凹んで)凹部32が形成されている。なお、凹部32は、本発明における第一係合部の一例である。
【0022】
(下部壁体)
下部壁体40は、鉄筋コンクリート製の壁体であり、上部壁体30と同一面内(構面H内)において、上部壁体30の下方に配置されている。下部壁体40の下端部は、下梁12Bの上面中央部に固定されている。また、下部壁体40の上端部は、上部壁体30と間隔を空けて配置されている。具体的には、下部壁体40の上端面40Aと、上部壁体30の下端面30Aとが隙間を空けて配置されている。
【0023】
下部壁体40を形成するコンクリートは鋼製の繊維で補強され、ひび割れが抑制されている。なお、上部壁体30及び下部壁体40のコンクリートを補強する繊維は、グラスファイバーや炭素繊維等としてもよい。
【0024】
下部壁体40の下端部から下梁12Bの内部に亘って、図示しない接合鉄筋がコンクリートに埋設されている。これにより、下部壁体40と下梁12Bとが接合されている。また、下部壁体40の内部には、図示しない壁筋が配筋されている。なお、壁筋を下梁12Bの内部まで配筋することで接合鉄筋として利用することもできる。
【0025】
下部壁体40の上端部には、凸部42が形成されている。具体的には下部壁体40の上端面40Aの中央部が、上方向にオフセットして(突出して)凸部42が形成されている。なお、凸部42は、本発明における第二係合部の一例である。
【0026】
凸部42は、上部壁体30における凹部32の内側に配置されている。具体的には、凸部42の両側面42Aが凹部32の両側面32Aに対して横方向に間隔δ1を空けて配置されるように、凸部42が形成されている。なお、「横方向」とは図1(A)に矢印Xで示す方向であり、また、梁12の延設方向である。さらに、上部壁体30、下部壁体40及び構面Hの面内に沿う方向である。
【0027】
なお、上部壁体30及び下部壁体40は束壁22を形成している。換言すると、構面Hに配置された束壁22が、上部壁体30及び下部壁体40を含んで形成されている。束壁22は、両側の柱14との間に開口部Vをそれぞれ形成する非耐力壁である。
【0028】
<地震時の挙動>
図1(B)には、地震時に架構10が変形(せん断変形)し、上部壁体30及び下部壁体40が横方向に相対変位した状態が図示されている。地震時に架構10に横方向の荷重Pが入力されると、架構10は横方向に変形する。これにより上梁12Aが下梁12Bに対して横方向へ変位する。
【0029】
なお、図1(A)における間隔δ1、図1(B)における架構10の変位量は、説明を分かりやすくするために誇張して表示されている。図3(A)、(B)及び図6(A)、(B)についても同様である。
【0030】
上梁12Aには上部壁体30が固定され下梁12Bには下部壁体40が固定されている。このため、上部壁体30は上梁12Aの変位に伴って、下梁12B及び下部壁体40に対して横方向へ変位する。そして図1(B)に示すように、上梁12Aの下梁12Bに対する変位(層間変位)が、凸部42と凹部32との間隔δ1に達すると、凸部42の側面42Aと凹部32の側面32Aとが接触する。
【0031】
ここで、上梁12Aと下梁12Bとの間隔(中心軸の間隔)は階高L(図1(A)参照)とされている。層間変位がδ1の時の層間変位角θ1は、(θ1≒δ1/L)と近似される。
【0032】
本実施形態においては、凸部42と凹部32との間隔δ1は、架構10が損傷限界まで変形した状態における層間変位δcrと略一致している(δ1≒δcr)。また、層間変位角が1/200となった際に架構10が損傷限界(弾性限界)に達するように、柱14の強度が設定されている(θ1=θcr=1/200 θcr:架構10が損傷限界まで変形した状態における層間変位角)。すなわち、凸部42と凹部32とは、その間隔δ1が階高Lの約1/200となるように形成されている(δ1=L×θ1=L/200)。
【0033】
図2(A)には、架構10に入力される水平方向の荷重Pと、上梁12Aと下梁12Bとの相対変位(層間変位)δと、の関係が示されている。ここに示すように、層間変位δがδ1に達するまでは、架構10は弾性変形する。層間変位δがδ1より大きくなると、架構10は塑性変形を始める。
【0034】
図2(B)には、上部壁体30及び下部壁体40に入力される水平方向の荷重Pと層間変位δとの関係が示されている。層間変位δがδ1に達するまでは、上部壁体30及び下部壁体40は互いに接触しないため、荷重Pは入力されない。
【0035】
層間変位δがδ1より大きくなると、上部壁体30の凹部32と下部壁体40の凸部42とが互いに接触して押圧し合う。これにより上部壁体30と下部壁体40とが弾性変形する。
【0036】
図2(C)には、架構10、上部壁体30及び下部壁体40に入力される水平方向の荷重Pと層間変位δとの関係が示されている。すなわち図2(C)には、架構10、上部壁体30及び下部壁体40を組み合わせた壁構造20の耐力が示されている。
【0037】
ここに示すように、壁構造20においては、層間変位δがδ1に達するまでは、架構10が弾性変形する。層間変位δがδ1より大きくなると、架構10が塑性変形を始める一方、上部壁体30と下部壁体40とが弾性変形する。
【0038】
<作用>
本実施形態に係る壁構造20では、地震等によって架構10に水平力が作用すると、架構10は横方向に変形する。架構10の上梁12Aに固定された上部壁体30と、下梁12Bに固定された下部壁体40とは間隔をあけて配置されている。そして、架構10の変形量が所定値以上になると、上部壁体30と下部壁体40とが接触する。
【0039】
具体的には、架構10が変形し、上梁12Aと下梁12Bとの相対変位(層間変位)δが、架構10の損傷限界となる層間変位δ1以上になると、上部壁体30の凹部32と、下部壁体40の凸部42とが、接触する。
【0040】
ここで、本実施形態において「架構10の変形量が所定値以上になる」とは、「層間変位が架構10の損傷限界となる層間変位δ1{=L/200(Lは階高)}以上になる」ことを指す。また、「層間変位角が架構10の損傷限界となる層間変位角θ1(=1/200)以上になる」ことを指す。
【0041】
地震時における架構10の変形量が所定値未満の場合、上部壁体30及び下部壁体40が接触しないため、上部壁体30及び下部壁体40の損傷が抑制される。
【0042】
一方、架構10の変形量が所定値以上になると、上部壁体30と下部壁体40との間で、凹部32と凸部42とを介して応力が伝達され、水平力に抵抗する。これにより架構10の変形を抑制できる。したがって、小規模の地震時には壁体(上部壁体30及び下部壁体40を含んで形成された束壁22)の損傷が抑制され、大規模の地震時には架構10の変形を抑制できる。
【0043】
また、本実施形態においては、上部壁体30及び下部壁体40を形成するコンクリートは鋼製の繊維で補強され、ひび割れが抑制されている。これにより、上部壁体30及び下部壁体40はコンクリートが剥落し難く、圧潰され難い。
【0044】
なお、本実施形態においては、凸部42の両側面42Aが凹部32の両側面32Aに対して横方向に間隔δ1を空けて配置されている。これにより、架構10の層間変位がδ1以上になったときに凹部32と凸部42とが接触する。
【0045】
但し、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば図3(A)に示すように、凸部42の両側面42Aを、凹部32の両側面32Aに対して横方向に間隔δ2(<δ1)を空けて配置してもよい。
【0046】
この場合、図3(B)に示すように、架構10の層間変位がδ2以上になったときに、凹部32と凸部42とが接触する。すなわち、架構10の層間変位が、架構10の損傷限界となる層間変位になる前に、上部壁体30と下部壁体40とが接触する。
【0047】
架構10の層間変位がδ2以上になったときに凹部32と凸部42とが接触するこの実施形態においては、図4(A)に示すように、層間変位δがδ1に達するまで架構10が弾性変形する。係る点に関しては、架構10の層間変位がδ1以上になったときに凹部32と凸部42とが接触する実施形態と同様である。
【0048】
一方、図4(B)に示すように、層間変位δがδ2より大きくなると、上部壁体30の凹部32と下部壁体40の凸部42とが互いに接触して押圧し合い、上部壁体30と下部壁体40とが弾性変形する。
【0049】
これにより図4(C)に示すように、層間変位δがδ2に達するまでは架構10が弾性変形し、層間変位δがδ2より大きくなると、架構10、上部壁体30及び下部壁体40が弾性変形する。架構10は、層間変位δがδ1になるまで弾性変形を続ける。
【0050】
また、本実施形態においては、上部壁体30に凹部32を形成し、下部壁体40に凸部42を形成したが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば図5(A)に示すように、上部壁体50Aに凸部52Aを形成し、下部壁体60Aに凹部62Aを形成してもよい。また、図5(B)に示すように、上部壁体50Bを上梁12Aから下向きに突出する突出部として形成し、この突出部としての上部壁体50Bを、下部壁体60Bにおける凹部62Bの内側に配置してもよい。
【0051】
また、図5(C)に示すように、上部壁体50C及び下部壁体60Cの双方に凹部(創部52C、62C)を形成し、それぞれの凹部に嵌合部材70を配置する構成としてもよい。なお、嵌合部材70は、下部壁体60Cの凹部62Cに載置され、下部壁体60Cの一部を構成している。嵌合部材70は、繊維補強コンクリートで形成してもよいし鋼材で形成してもよい。
【0052】
また、本実施形態においては、上部壁体30と下部壁体40とで束壁を形成しているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば図5(D)に示すように、上部壁体50Dと下部壁体60Dとで袖壁を形成してもよい。上部壁体50Dの下端面からは凸部52Dが下向きに突出し、下部壁体60Dの上端面からは凸部62Dが上向きに突出している。
【0053】
上部壁体50Dと下部壁体60Dとで袖壁を形成する場合、上部壁体50Dと柱14との間には破線で示すスリットSを設けることが好ましい。同様に、下部壁体60Dと柱14との間にもスリットSを設けることが好ましい。スリットSは、上部壁体50D及び下部壁体60Dと柱14との間に設けられる隙間である。スリットSを設けることで、柱14にせん断ひび割れを生じ難くできる。
【0054】
さらに、上記の各実施形態においては、上部壁体30と下部壁体40とが、それぞれ束壁や袖壁などの壁体の一部を形成しているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば図5(E)に示すように、上部壁体50Eを上梁12Aから下向きに突出する突起物とし、下部壁体60Eを下梁12Bから上向きに突出する突起物としてもよい。上部壁体50Eは、下部壁体60Eの両側に、下部壁体60Eと横方向に間隔をあけて配置されている。
【0055】
このように、本発明における上部壁体30及び下部壁体40は、架構10の構面Hにおいて非耐力壁とされていればよく、様々な態様をとることができる。なお、「非耐力壁」とは、一例として、以下の式で示す開口周比roが0.4以下であるものを指す。
【0056】
ro=√{(ho×lo)/(h×l)}
ho:開口部の高さ
lo:開口部の幅
h:上梁12A及び下梁12Bの中心間距離(上述した階高L)
l:隣り合う柱14の中心間距離
【0057】
[第2実施形態]
図6(A)に示す第2実施形態に係る壁構造24においては、第1実施形態の上部壁体30及び下部壁体40に代えて、上部壁体80及び下部壁体90が設けられている。上部壁体80及び下部壁体90は、束壁26を形成している。以下の説明においては、第1実施形態と異なる構成について説明する。第1実施形態と同様の構成及び効果については、同じ符号を付して説明を省略する。
【0058】
上部壁体80は上部壁体30における凹部32を省略した壁体である。同様に、下部壁体90は下部壁体40における凸部42を省略した壁体である。そして、凹部32及び凸部42に代えて、連結部材100が設けられている。
【0059】
連結部材100は、ポリアリレート繊維で形成され、上部壁体80及び下部壁体90に弛んだ状態で連結されている。具体的には、連結部材100は、上端部が上部壁体80に埋設され、下端部が下部壁体90に埋設されている。連結部材100における上端部と下端部との間の部分である中間部は上部壁体80と下部壁体90との間の隙間に弛んだ状態で配置されている。
【0060】
地震時に架構10に横方向の荷重Pが入力されると、架構10が変形し、上梁12Aと下梁12Bとの相対変位(層間変位)δが、架構10の損傷限界となる層間変位δ1以上になると、連結部材100は弛みが無くなって突っ張る。
【0061】
この壁構造24では、連結部材100が突っ張ることで引っ張り力に抵抗する。これにより上部壁体80と下部壁体90との間で応力が伝達され、水平力に抵抗する。これにより架構10の変形を抑制できる。したがって、小規模の地震時には壁体の損傷が抑制され、大規模の地震時には架構10の変形を抑制できる。
【0062】
また、連結部材100は、複数本(本実施形態では2本)配置されている。これにより、1本のみ配置する構成と比較して架構10の変形抑制効果を高くできる。また、引っ張り力によって1本の連結部材100が破断した場合も、残りの連結部材100が耐力を発揮することができる。
【0063】
なお、本実施形態においては連結部材100としてポリアリレート繊維を用いているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば連結部材100としてアラミド繊維や炭素繊維を用いてもよい。また、これらの繊維は、紐状に形成してもよく帯状に形成してもよい。さらに、連結部材としては、繊維に代えて、チェーンやワイヤ等を用いてもよい。すなわち、引っ張り耐力を備えた引張材を用いればよい。このように、本発明は様々な態様で実施できる。
【符号の説明】
【0064】
10 柱梁架構
12A 上梁
12B 下梁
30 上部壁体
32 凹部(第一係合部)
40 下部壁体
42 凸部(第二係合部)
50A 上部壁体
50B 上部壁体
50C 上部壁体
50D 上部壁体
50E 上部壁体
52A 凸部(第一係合部)
52D 凸部(第一係合部)
60A 下部壁体
60B 下部壁体
60C 下部壁体
60D 下部壁体
60E 下部壁体
62A 凹部(第二係合部)
62D 凸部(第二係合部)
70 嵌合部材(下部壁体)
80 上部壁体
90 下部壁体
100 連結部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6