(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】車両買取システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 30/0601 20230101AFI20240312BHJP
【FI】
G06Q30/0601 310
(21)【出願番号】P 2020041475
(22)【出願日】2020-03-11
【審査請求日】2023-01-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトの掲載日 令和1年9月12日 ウェブサイトのアドレス https://gulliver-auto.com/ 公開者 株式会社IDOM
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトの掲載日 令和1年12月26日 ウェブサイトのアドレス https://221616.com/idom/news/press/20191226-24697.html 公開者 株式会社IDOM
(73)【特許権者】
【識別番号】300065327
【氏名又は名称】株式会社IDOM
(74)【代理人】
【識別番号】100096725
【氏名又は名称】堀 明▲ひこ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100171697
【氏名又は名称】原口 尚子
(72)【発明者】
【氏名】阿部 直揮
【審査官】貝塚 涼
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-272713(JP,A)
【文献】特開平11-066148(JP,A)
【文献】特開2019-152917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザが操作するユーザ端末とネットワークを介して通信し、前記ユーザの車両の買取価格を算出するためのサーバを有する車両買取システムであって、
前記サーバは、車種を含む複数の車両情報を前記ユーザ端末から受信し、該受信した複数の車両情報を用いて対象車両の買取価格を算出し、該算出された買取価格を前記ユーザ端末に表示させ、前記ユーザ端末からの要求に応じて、車両情報データベースから前記対象車両と一つ以上の車両情報を共通にする類似車両を抽出し、前記対象車両の車両情報及び算出された買取価格と、前記類似車両の車両情報及び算出された買取価格とを、これら買取価格の差異に関連する一つ以上の車両情報を比較可能に前記ユーザ端末に表示させ、
ここで、前記サーバは、対象車両の取引価格を予測するための価格算出部を有し、
該価格算出部が、学習用取引実績の複数種類の特徴量と前記学習用取引実績の価格とを含む学習データを複数の学習用取引実績それぞれについて取得する学習データ取得手段と、前記学習データ取得手段が前記複数の学習用取引実績それぞれについて取得した複数の学習データに基づいて識別器を生成する識別器生成手段と、を備え、
前記識別器生成手段は、前記複数の学習データに基づいて、前記特徴量を説明変数として使用したランダムフォレスト法にて複数の識別器を生成し、
前記複数の識別器のアンサンブルにより前記対象車両の取引価格の予測値が算出され、該予測値に基づいて前記買取価格が決定されることを特徴とする車両買取システム。
【請求項2】
前記ユーザ端末からの要求が、対象車両より買取価格が高い車両と比較するか、及び/又は対象車両より買取価格が低い車両と比較するかの選択を含み、該選択に応じて前記類似車両が抽出されることを特徴とする請求項1に記載された車両買取システム。
【請求項3】
前記サーバは、さらに、車両の売買の時期に関連する情報を用いて前記買取価格を算出することを特徴とする請求項1に記載された車両買取システム。
【請求項4】
前記説明変数が、車両情報を加工し作成された複数の項目と、売買年月に基づいて車両情報を加工し作成された少なくとも一つの項目とを含んで成ることを特徴とする請求項
1に記載された車両買取システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中古車等の車両を査定し買取するためのシステムに関する。特に、専門の査定士等による実車の査定を要さずオンラインでユーザ、事業者双方にとって適切な買取価格を提示することができ、ユーザエクスペリエンスを向上させることができる車両買取システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、適正かつ容易に中古車の買取価格を査定するために、車の種類と車検証に記載されているデータとを関連づけた車種データベースと、中古車の種類と該中古車の市場における落札価格とを関連づけた相場データベースと、査定車の車検証のイメージを読み取るスキャナと、車検証のイメージから車検証に記載されているデータを取得するデータ認識手段と、車種データベースを参照することにより上記データから査定車の種類を特定する査定車特定手段と、特定された査定車の種類における落札価格を相場データベースから取得する相場価格取得手段と、この落札価格に基づいて査定車の買取価格を査定する査定手段とを備えた査定システムが提案された(特開2002-163498号公報)。
【0003】
利用者の端末から必要事項を入力すると、自動的に対象車両の査定価格が算出され、査定価格決定の際には、データベースシステムに蓄積された過去の査定価格を用いる他、自己評価点、写真評価点及びアピール点等に関する種々の観点に基づいて査定価格が算出され、将来の予想販売価格も表示される、インターネット等の通信回線を介して利用できる車両査定及び販売システムが提案された(特開2008-065474号公報)。
【0004】
一般的な中古車のみならず、損害車についても適切な査定を行い、その査定結果の情報をユーザに提供するためのシステムであって、損害車の買取りを中古車買取事業者に依頼するユーザが操作する情報処理装置であるユーザ端末と、ユーザの損害車の買取りの査定を行う損害車査定サーバとを有し、損害車査定サーバが損害車の損傷の程度の情報を含む損傷情報をユーザ端末から受信し、受信した損傷情報に基づいて買取査定額を算出する損害車査定システムが提案された(特開2018-205876号公報)。
【0005】
車種やモデル、距離などの情報から、AIを利用して適切な車両価格を予測し、売り手と買い手の双方に該価格を表示する個人間の中古車取引のシステムが知られている(人工知能&IoTビジネス,日経BP社,2016年 7月15日,第82-83頁)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-163498号公報
【文献】特開2008-065474号公報
【文献】特開2018-205876号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】人工知能&IoTビジネス,日経BP社,2016年 7月15日,第82-83頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
中古車の買取価格はさまざまな方法で算出され提示され得るが、概して提示された価格で直ちに売却できるものではなく、実際に売却する際には結局専門の査定士等による実車の査定を要したり、提示された価格で売りに出しても取引が成立しないことがあった。提示した価格で事業者が実際に買取を行うサービスがあっても、事業全体として適切な買取価格を必ずしも提示するものではなかった。ユーザは提示された買取価格が適切かどうか容易に判断することができず、十分に納得して車を手放すことができなかった。
【0009】
本発明は、中古車等の適切な買取価格を算出することができるシステムを提供することを目的とする。査定に係るコストが十分に低減され、事業者にとってもユーザにとっても適切な買取価格を提示する車両の買取システムを提供することを目的とする。買取価格算出の根拠をユーザに説明することができ、そのことによってユーザが納得して車両を売却することができるシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明の一つの態様は、ユーザが操作するユーザ端末とネットワークを介して通信し、ユーザの車両の買取価格を算出するためのサーバを有する車両買取システムであって、サーバは、車種を含む複数の車両情報をユーザ端末から受信し、該受信した複数の車両情報を用いて対象車両の買取価格を算出し、該算出された買取価格を前記ユーザ端末に表示させ、ユーザ端末からの要求に応じて、車両情報データベースから対象車両と一つ以上の車両情報を共通にする類似車両を抽出し、対象車両の車両情報及び算出された買取価格と、類似車両の車両情報及び算出された買取価格とを、これら買取価格の差異に関連する一つ以上の車両情報を比較可能に前記ユーザ端末に表示させることを特徴とする。
【0011】
上記のようにすることで、ユーザは提示された買取価格が妥当であるかどうか判断しやすくなり、納得して車両を売却することができる。
【0012】
上記システムにおいて、ユーザ端末からの要求が、対象車両より買取価格が高い車両と比較するか、及び/又は対象車両より買取価格が低い車両と比較するかの選択を含み、該選択に応じて類似車両が抽出されることが好ましい。
【0013】
例えばユーザは、提示された買取価格が「安い」と感じると、それよりも「高い」買取価格となった類似車両を確認したい場合がある。「高い」根拠が明確になれば、提示された買取価格が必ずしも「安い」わけではなく、「妥当である」と納得し得る。またユーザは、提示された買取価格より「低い」買取価格となった類似車両と比較確認することで、自己の車両のどの項目が査定にプラスに働いか確認することができ、価格の決定方法に対するユーザの関心に応えることができる。
【0014】
上記サーバは、さらに、車両の売買の時期に関連する情報を用いて買取価格を算出することが好ましい。
【0015】
中古車の価格は変動しやすく、時間が経つほど低くなる傾向にあり、いつ売買が行われる(行われた)かということは重要なパラメータであり得る。車両の売買等取引時期に関する情報を用いて買取価格を算出することで、買取後の売却を想定した買取価格を算出し得る。
【0016】
サーバは、対象車両の取引価格を予測するための価格算出部を有し、該価格算出部が、学習用取引実績の複数種類の特徴量と学習用取引実績の価格とを含む学習データを複数の学習用取引実績それぞれについて取得する学習データ取得手段と、学習データ取得手段が複数の学習用取引実績それぞれについて取得した複数の学習データに基づいて識別器を生成する識別器生成手段と、を備え、識別器生成手段は、複数の学習データに基づいて、特徴量を説明変数として使用したランダムフォレスト法にて複数の識別器を生成し、複数の識別器のアンサンブルにより対象車両の取引価格の予測値が算出され、該予測値に基づいて買取価格が決定されることを特徴とする。
【0017】
説明変数は、車両情報を加工し作成された複数の項目と、売買時期に基づいて車両情報を加工し作成された少なくとも一つの項目とを含んで成ることが好ましい。このようにすることで、車両の「モデルの古さ」等の説明変数を用いて識別器を生成し得る。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、車両の取引価格の予測値を自動で高精度に算出することができる。査定に係るコストが低減され、且つ高精度に車両の売却価格を予測できるので、車両の買取及び販売を行う事業者は予測された売却価格に基づいて利益等を細かく計算することができ、適切な買取価格をユーザに提示することができる。ユーザは、類似する車両の買取価格を比較参照することができ、手軽に且つ十分に納得して車両を売却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は本発明に係る車両査定システムを概略的に示す。
【
図2】
図2は本発明に係るWeb/Apサーバ及びDBサーバを概略的に示す。
【
図3】
図3(a)はユーザ情報DB、
図3(b)はAA相場DB、
図3(c)は車両情報DBのデータ構造を模式的に示す。
【
図5】
図5は本発明に係る価格算出を概略的に説明する図である。
【
図7】
図7(A)は再査定処理フローを示し、
図7(B)は価格比較処理フローを示す。
【
図8】
図8は本発明の一つの実施例の比較画面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明のさまざまな特徴が、本発明の限定を意図するものではない好適な実施例とともに説明される。同一の参照符号は、同一の装置、機能、処理等を指す場合がある。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る車両買取システム1を含むネットワーク構成を概略的に示す構成図である。ネットワーク構成は、本発明に係る車両買取システム1、該システム1とインターネット等通信ネットワークNを介して通信を行うユーザ端末2、及び外部システム3、4等を含む。
【0022】
車両査定システム1は、ウェブアプリケーション(Web/Ap)サーバ10、データベース(DB)装置を管理するデータベース(DB)サーバ20を含む。それぞれ中央処理装置(CPU)、RAM、ROM、ハードディスクなどを実装し、適切なオペレーティングシステム(OS)の制御の下でプログラミング言語を実行し、各種処理を実行するための機能手段を提供する。サーバに格納されるプログラムは、HTML、JavaScript(登録商標)、ネイティブプログラム(オブジェクトコード)等で構築される。DBサーバ20ではデータベース管理システム(DBMS、RDBMS)が稼動している。Web/Apサーバ10やDBサーバ20は、インターネット上で記憶資源や計算資源などの資源をサービスとして提供ないし利用する形態であるクラウドコンピューティングにおけるパブリッククラウド型のサーバから構成されてよく、グループ企業等で広く使用するようにプライベートクラウド型のサーバから構成されてもよい。業務用PC30は、システム1の運用に係る事業者の本部のオペレータが、システム1の適切な運用のために使用することができる。
【0023】
ユーザの車両Vの情報を入力、送信するために使用されるユーザ端末2は、公知のカメラデバイスやブラウザソフトウェアを搭載する、スマートフォン等の高機能端末やタブレット型高機能端末等であってよい。これらはオペレーティングシステム(OS)とウェブブラウザ等の基本的なアプリケーション群がセットになったiPhone(登録商標) OS(iOS)、Android等を含むプラットフォームを搭載している。ユーザ端末2はデスクトップPC等であってもよい。
図1では1つのユーザ端末2が図示されているが、これらは概して複数である。
【0024】
外部システム3、4は公知のサーバ装置等から構成され、外部システム3は、オートオークション(AA)相場情報を提供するシステムであってよい。システム1は外部システム3と通信することにより直近のAA相場情報等を取得することができ、該情報を用いてユーザの車両の買取価格を算出し得る。外部システム4は、自動車検査登録情報提供システム(AIRIS/MOTAS)等であってよい。システム1は、例えば、ユーザ端末2から送信された車両のナンバープレートを含む写真から車両のナンバー(自動車登録番号/車両番号)を認識し、該ナンバーを基に外部システム4から自動車登録情報の提供を受けるように構成され得る。他にシステム1は、ネットワークNを介して、損害保険会社や金融機関等のシステム(図示せず)との間でデータの送受信を行うことができる。
【0025】
図2に車両買取システム1に係るWeb/Apサーバ10、DBサーバ20の機能ブロック図が示される。
【0026】
Web/Apサーバ10は、ネットワークインターフェース(NIC)11を介してネットワークNから各種情報及び要求を受領する。
【0027】
サーバ10のデータ処理部17は、RDB(Relational Database)に対するデータの登録や検索、検索結果の作成などを行うことができ、各DBに対するデータ追加、検索結果生成、データ削除、データ更新などの処理を可能とする。サーバ10の各部が取得、作成したデータは、データ処理部17、ストレージインターフェース18を介して各データベースに格納されてよい。
【0028】
Web/Apサーバ10は、ユーザの車両の買取に係る処理を実行するために、ユーザ情報管理部12、車両情報管理部13、価格算出部14、買取情報管理部15、価格比較部16を備える。
【0029】
DBサーバ20は、ユーザ情報DB21、車両情報DB22、AA相場DB23、及び基本情報DB24を備える。
【0030】
ユーザ情報管理部12は、ユーザの情報をユーザ情報DB21に登録、管理するための電子機器、電子回路及びプログラムから成る。
【0031】
図3(a)に、ユーザ情報DB21のデータ構造が模式的に示される。ユーザ情報DB21は、ユーザIDに紐づけられた車両ID、個人情報等を含み得る。個人情報はユーザの氏名、住所、免許証、振込口座の情報等を含み得る。ユーザは本発明に係るアプリケーションプログラムをユーザ端末2にダウンロードしユーザID及びパスコードを付与され、アプリケーション画面(図示せず)に従って各種情報を登録することができる。
【0032】
車両情報管理部13は、車両ID毎の詳細な情報を車両情報DB22に登録、管理するための電子機器、電子回路及びプログラムから成る。
【0033】
図3(c)に、車両情報DB22のデータ構造が模式的に示される。車両情報は車両ID毎にメーカー、車種、型式、初度登録年月、走行距離、車体色、車検残月、グレード、シフト、生産国、車両の状態(キズの程度、修復歴の有無等)に関する情報を含んでよい。これらの情報は、ユーザ端末2を介して取得され、ユーザはアプリケーション画面(図示せず)に従って車両を所定角度から(例えば、ナンバープレートが画面の所定位置におさめるように)撮影したり、車検証を撮影したり、車検証の二次元バーコードを読取したり、オドメータを撮影したり、適宜手入力等を行うことができる。車両情報管理部13は撮影された写真を認識したり、外部システム4に照会する等して車両情報の複数の項目の内容を取得し、車両情報DB22に格納することができる。
【0034】
本発明に係る車両買取システム1は、車両の買取と販売を通して行う事業者により運用されてよい。事業者は、買取した車両がいつどのように売却(販売)されるか計画しコントロールし得る。具体的に事業者は、ユーザの査定申込から売却申請(売却申込)までの期間を設定し、売却申請から各種手続を行って車両を引受(買取)する期間、及びその車両を売却するまでの期間を見積もることができる。例えば、査定の申込から一週間だけ売却申請を受付し、売却申請から二週間以内に車両の引き渡しを完了し、その一週間後にオークションで売却する場合、売却日は査定の申込日から約一か月後に設定され得る。なお、売却はオークションにおける卸売であってよく、店舗における小売等であってもよい。
【0035】
中古車の価格は変動しやすく、その要因はさまざまあるが、概して中古車の価格は時間が経つほど低下する傾向にある。「時間が経つほど」とは、「車が古くなるほど」を意味すると考えられる。車両の「古さ」を表す情報として「初度登録年月(年式)」等が考えられるが、「初度登録年月」だけでは「古さ」を端的に(定量的に)表さない場合がある。中古車が日本国内において初登録された年度からの経過年数によって「~年落ち」などということがあるが、「ある時点」と「初度登録年月」の差は「古さ」を表し得る。中古車の売買時の「モデルの古さ」は、「初度登録年月」と「売買年月」との差によって表され得る。
【0036】
車両情報管理部13は、車両情報を車両情報DB22に格納するときに、車両の売買時期の情報を合わせて格納してよい。売買時期の情報は、車両の「古さ」等を表すための基準年月日(範囲であってもよい)として格納されてよい(
図3(c))。基準年月日はユーザが査定の申込を行った日(査定申込年月日)と同じであってよく、事業者が買取した車両を売却する予定の年月日であってもよい。中古車の価格は季節(月)によって変動することもあり、売却する予定の年月日の基準年月日とすることがより好ましい場合があると考えられる。
【0037】
価格算出部14(
図2)は学習データ取得手段14aと識別器生成手段14bとを備え、事業者が車両を買取する価格を車両情報を用いて算出するための電子機器、電子回路及びプログラムから成る。
【0038】
学習データ取得手段14aは、オートオークション(AA)相場DB23に蓄積されているAAで売買された車両のデータを対象としてその直近から数カ月程度分のデータを、学習用データセットを作成する目的で抽出することができる。「直近から数カ月分」とは、中古車の価格は変動が大きいため、あまり古いデータを用いても精度の高い予測ができないためである。
【0039】
図3(b)にAA相場DB23のデータ構造が模式的に示される。学習データ取得手段14aは、例えば、価格を算出する対象である車両の「メーカー」と「車種」に基づいてAA相場DB23から同じメーカー・車種のデータを抽出してよい。あるいは、価格算出対象である車両の「メーカー」、「車種」及び「型式」に基づいてAA相場DB23から同じメーカー・車種・型式のデータを抽出してよい。
【0040】
学習データ取得手段14aは、AA相場DB23から抽出したデータを、
図4に示されるような複数の説明変数を持つデータに加工することができる。
図4は、メーカーβの車種αの加工データの例を示す。この例では、「型式」データは車種αに関連する型式1、2、3、4及び5それぞれの真偽型(0/1変数)であってよい。車種αに関連する型式のリスト、型式毎のグレードのリスト、車種ごとの車体色のリスト等は、基本情報DB24(
図2)に予め格納されていることが好ましく、適宜参照され得る。「モデルの古さ」は、初度登録年月と売買年月日の差に基いてよく、例えば、初度登録年月の10年6カ月後に取引された車両の「モデルの古さ」は「10.5」であり得る。学習データ取得手段14aは、多数の車両のデータの各車両の複数の特徴量(説明変数)の各データとその売買価格とを互いに対応づけたデータを学習データセットとして取得することができる。
【0041】
識別器生成手段14bは、取得した学習データセットを用いて、ランダムフォレストによって識別器を生成する。ランダムフォレストとは、ランダムサンプリングされた学習データ(トレーニングデータ)に基づいて、学習を行って多数の決定木を生成する方法であり、説明変数である特徴量もランダムにサンプリングされる。識別器生成部14bは、各学習データのうち、各特徴量を各説明変数とし、取引価格を目的変数として識別器を生成することができる。識別器の生成では、取得した学習データのうち一部を使用して識別器を生成し、残りの学習データを使用して生成した識別器をテストすることで、最適な識別器を生成することができる。識別器は多数の決定木から成り、決定木の本数は100本であってよく、500本であってもよく、1000本であってもよく、これらに限定されなくてよい。
【0042】
本発明におけるデータセットは比較的小さく構造化されているため、ランダムフォレストによる機械学習で精度の高い結果が得られると考えられる。機械学習エンジンはしかしながら、ランダムフォレスト(RF)に限らず、ディープラーニング(DL)、ニューラルネットワーク(NN)、ロジスティック回帰、サポートベクターマシン(SVM)等のアルゴリズムを用いるものであってもよい。
【0043】
価格算出部14は、ユーザ端末2から受信した車両情報の特徴量を算出し、算出した特徴量を識別器の各決定木に入力し、各決定木は取引価格を出力する。出力された複数の取引価格の平均値が、対象車両についての取引予測価格になり得る。
【0044】
図5に、価格算出部14による対象車両の取引予測価格の算出が模式的に示される。生成された決定木T1、T2、・・・Tnに、対象車両の特徴量を入力し、各決定木T1、T2、・・・Tnはそれぞれ取引価格を出力し、それらの平均値が取引予測価格となる。
【0045】
ユーザの車両情報から
図4と同様に特徴量が算出されてよい。このとき「モデルの古さ」は、「初度登録年月」と、売却予定年月日等の「基準年月日(範囲)」の差に基づいて算出されてよい。「車検残月」は基準年月日における車検残月(具体的な値又は有無)であってよく、「売買月」は「売却予定月」であってよい。なお、AA相場DB23に含まれる項目(特徴量)で、ユーザからの車両情報には含まれない項目(特徴量)があり得る。例えば、AA相場DB23は概して、査定士等による目視の「評価点」の項目を含み、ユーザによる車両情報は「評価点」を含まない。価格算出部14は、「評価点」等ユーザからの車両情報に含まれない項目を除いてデータを取得し識別器を生成してよい。あるいは、「状態」に係る情報(
図3(c))を所定の計算式により評価点に換算し、これを評価点として識別器に入力して予測価格を算出してもよい。
【0046】
本発明に係る発明者は、事業者が買取を行った車両が実際に、上記のように予測された価格に極めて近い価格でオートオークション(AA)で売却されること確認している。これは、本発明における特徴量の選択等機械学習のための前処理が適切であり、またAAで取引される車両が十分にコモディティ化されているためと考えられる。
【0047】
なお、システム1はAA相場に限らず、事業者の店舗で販売された車両等の小売相場DB(図示せず)を含んでよく、対象車両の小売価格を予測し、これに基づいて買取価格を決定してもよい。
【0048】
本発明によれば、査定士等による目視の査定を要することなく低コストで取引価格の高精度な予測が可能なので、事業として継続可能な利益等を差し引いても、ユーザに提示される買取価格は極めて合理的なものとなり得る。ランダムフォレストの特徴として価格の算出において重要な要素を知ることができ、後述の処理B等によりユーザに分かりやすく説明することができるので、買取価格に対するユーザの高い納得感を得ることができる。
【0049】
買取情報管理部15は(
図2)、買取処理フローに従って、算出された買取価格や、査定日と関連して当該買取価格で買取が可能な期間等を車両ID毎に車両情報DB22に登録、管理するための電子機器、電子回路及びプログラムから成る。
【0050】
図6に本発明に係る買取処理フローが模式的に示される。サーバ10は、ユーザ端末2から車両情報等を受信し車両の査定要求を受信すると(S101)、前述したように買取対象車両の予測取引価格を算出し、予測取引価格に基づいて買取価格1を算出する(S103)。中古車の価格は変動しやすいため、当該買取価格1での買取は所定の短い期間1(例えば、一週間)だけ受付され得る。
【0051】
算出結果はユーザに提示され、その際にユーザ満足度(例えば、「納得」「まあまあ」「不満」等)の入力が受付され得る(S105)。フィードバックを受付することで、ユーザ満足度を把握することができ、処理プログラムの精度向上等に役立てることができる。ユーザの納得感を得るため、ユーザの要求に応じて後述するように再査定処理Aや、価格比較処理Bを実行する場合がある(S107)。期間1(又は後述する期間2)内にユーザがアプリケーション画面上の売却申請ボタン(図示せず)をタップ等することで売却の申請がされると(S109)、売却申請日が車両情報DB22に登録される(S111)。売却申請日が登録された車両について、システム1のオペレータはPC30等を用いて、買取価格1(又は買取価格2)が適切かどうかチェックすることが好ましい。当該チェックは実車の査定を伴うものではないが、このようにすることで、自動的に算出された値に万が一不具合があったり、直近の相場データでの再度の価格算出によって予測価格が大きく変動している場合等に買取価格を変更し得る。従って、改めて算出される買取価格3は、買取価格1(又は買取価格2)と等しい場合があり、異なる場合もある。買取価格3を提示(S111)した後短い期間3(例えば、2日)以内にユーザがアプリケーション画面上の売却決定ボタンをタップ等することで(S113)、買取処理が行われる(S115)。最終的な買取価格は買取価格3となる。買取処理においては、例えば、車両の引渡に要する書類や引渡し日、引渡し店舗の情報等をユーザ端末2のアプリケーション画面上に表示することができ、ユーザの口座への振込金額や振込日が車両情報DB22に登録される。
【0052】
上記は概して、算出された買取価格1が一万円以上等買取可能な例であって、(対象車両が希少車両等に該当せず)価格算出部14により買取価格が瞬時に算出されるケースについて説明された。他の処理フローとして、対象車両の算出された買取価格が一万円未満や実質的に0円である場合、算出結果を提示した後(S105)、廃車手続のための画面を送信する場合がある(図示せず)。対象車両が車両情報に基づいて現状事故車に該当すると判断された場合、査定要求を受信した後(S101)、買取価格の算出を行うことなく現状事故車を取り扱う提携サイトに誘導する場合がある(図示せず)。買取価格の算出時にAAにおける取引実績が少ない等により算出エラーとなった場合、手動(オペレータ)による査定に切替え、手動による査定価格を受付後に査定結果をユーザ端末に提示する場合がある(S105)。
【0053】
図7(A)に再査定処理Aのフローが示される。処理Aにおいては、例えば、買取価格1に十分に納得できないユーザが車両の装備やオプション、使用の状況など追加情報を入力して(
図3(c)参照)再査定を要求した場合に(S201)、手動査定に切替ることができる。追加情報が車両情報DB22に入力されると、システム1のオペレータは当該追加情報に基づいて、予測価格2/買取価格2を決定し、PC30等を用いて車両情報DB22に入力することができ、入力された買取価格2はユーザに提示される(S203)。買取価格2は買取価格1と等しい場合もあり、追加情報に基づいて買取価格1より高い(あるいは低い)場合もあり得る。サーバ10は、買取価格2が提示されてから所定の期間2(例えば、一週間)だけユーザからの売却申請を受付し、当該期間内に申請が無い場合は処理を終了し、改めてユーザからの査定要求を受付することができる(S109)。
【0054】
価格比較部16(
図2)は、ユーザからの要求に応じて価格比較画面をユーザ端末2に送信し表示させるための電子機器、電子回路及びプログラムから成る。
【0055】
図7(B)に、価格比較処理Bのフローが示される。ユーザから価格比較要求を受信すると(S301)、価格比較部16はユーザの車両に類似する車両の買取価格(1、2、又は3)を含む車両情報を車両情報DB22から抽出し提示する(S303)。類似する車両とは、例えば、同一メーカーの同一車種の車両であってよく、さらに型式/グレード等を共通にする車両であってもよい。ユーザはアプリケーション画面上で、「自分の車より価格が高い」又は「自分の車より価格が低い」車両と比較するように選択ボタン等(図示せず)により選択することができ、価格比較部16は、類似車両からユーザの選択に応じて買取価格がより高い、又はより低い車両を一台抽出し、ユーザに提示することができる。類似車両が複数ある場合、一台の抽出は査定日がより直近のものを選択してよく、ランダムに行われてよい。
【0056】
図8に、ユーザが自分の車より価格が高い車両を選択した場合の例示的な比較画面Cが示される。左の列にユーザの車両情報(の一部)と買取価格、右の列に抽出された類似車両の車両情報(一部)と買取価格が示される。画面に表示される車両情報は、価格の差異に関連する項目内容を含み、当該項目内容は配色等により目立つように表示され得る。
【0057】
ランダムフォレストでは、結果に対して重要な特徴量を所定のメソッド(例えば、feature_importances)により取り出すことができる。従って、「価格の差異に関連する項目内容」とは、対象車両の予測価格の算出において重要であった特徴量(説明変数)に関連する車両情報の項目内容であってよい。または、経験的に価格の差異に関連すると考えられる所定の項目(例えば、年式や走行距離等)であってもよい。図示の例では、類似車両はユーザの車両(対象車両)に比較して年式がやや高く、走行距離が少なく、修理歴がなく、その分買取価格が高くなっていると考えられる。価格に影響する項目とその内容が比較可能に提示されるので、ユーザの買取価格に対する納得感が得られやすい。
【0058】
処理Bにおいて抽出する車両の数は上限があってよく、例えば、一日数台(1、2、3、4、又は5台程度)であってよい。価格比較部16は、ユーザの比較要求が上限数に達するまで類似車両を提示することができる(S305)。
【0059】
本発明に係る車両買取システムによれば、買取から売却まで行う事業者により車両の適切な買取価格がユーザに提示される。ユーザはスマートフォン等の容易な操作により車両を事業者に売却することができ、類似する車両との車両情報の比較により買取価格の妥当性を確認することができる。
【0060】
本発明の思想及び態様から離れることなく多くのさまざまな修正が可能であることは当業者の知るところである。したがって、言うまでもなく、本発明の態様は例示に過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【符号の説明】
【0061】
10 車両買取ウェブアプリケーションサーバ
20 車両買取データベースサーバ