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特許7451932熱電変換材料及びそれを用いた熱電変換素子
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  • 特許-熱電変換材料及びそれを用いた熱電変換素子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】熱電変換材料及びそれを用いた熱電変換素子
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/856 20230101AFI20240312BHJP
   H10N 10/855 20230101ALI20240312BHJP
   H10N 10/857 20230101ALI20240312BHJP
   H10K 10/00 20230101ALI20240312BHJP
   H10K 85/20 20230101ALI20240312BHJP
   H10K 85/60 20230101ALI20240312BHJP
【FI】
H10N10/856
H10N10/855
H10N10/857
H10K10/00
H10K85/20
H10K85/60
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019190190
(22)【出願日】2019-10-17
(65)【公開番号】P2021064766
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】安藤 類
(72)【発明者】
【氏名】岩田 貫
(72)【発明者】
【氏名】倉内 啓輔
【審査官】田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/133029(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/129877(WO,A1)
【文献】特開2015-092557(JP,A)
【文献】国際公開第2014/156717(WO,A1)
【文献】特開2014-192190(JP,A)
【文献】特開2014-146678(JP,A)
【文献】特開2013-084947(JP,A)
【文献】特開2014-033190(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0069814(US,A1)
【文献】特表2009-522765(JP,A)
【文献】特開2015-070250(JP,A)
【文献】特開2019-106410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/856
H10N 10/855
H10N 10/857
H10K 10/00
H10K 85/20
H10K 85/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電材料(A)、有機化合物(B)(但し、導電材料(A)を除く)及び有機化合物(C)(但し、導電材料(A)かつ有機化合物(B)を除く)を含有してなり、下記(1)~(3)をすべて満たし、且つ、有機化合物(B)のHOMOと導電材料(A)のHOMOとの差が0.1~2.0eVであり、有機化合物(C)のHOMOと有機化合物(B)のHOMOとの差が0.1~2.0eVである、p型熱電変換材料。
(1) 0<((有機化合物(B)のHOMO)―(導電材料(A)のHOMO))×((有機化合物(C)のHOMO)―(導電材料(A)のHOMO))
(2) |(有機化合物(B)のHOMO)-(導電材料(A)のHOMO)|<|(有機化合物(C)のHOMO)-(導電材料(A)のHOMO)|
(3) 有機化合物(B)の導電材料(A)に対する吸着性が、有機化合物(C)の導電材料(A)に対する吸着性より大きい。
(但し、HOMOは最高被占軌道のエネルギー準位を表す。また、導電材料(A)が金属材料である場合は、導電材料(A)のHOMOは、導電材料(A)のフェルミ準位を表す。)
【請求項2】
導電材料(A)が、炭素材料を含んでなる、請求項1に記載のp型熱電変換材料。
【請求項3】
炭素材料が、カーボンナノチューブを含んでなる、請求項2に記載のp型熱電変換材料。
【請求項4】
請求項1~3いずれか1項に記載のp型熱電変換材料を含んでなる熱電変換膜と、電極とを有し、熱電変換膜及び電極が互いに電気的に接続されている熱電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料及びそれを用いた熱電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
熱エネルギーと電気エネルギーを相互に変換できる熱電変換材料は、熱電発電素子やペルチェ素子のような熱電変換素子に用いられている。熱電変換素子は、熱を電力に変換する素子であり、半導体や金属の組合せによって構成される。代表的な熱電変換素子としては、p型半導体単独、n型半導体単独、又はp型半導体とn型半導体との組合せ、に分類される。熱電変換素子では、半導体の両端に温度差が生じるように熱を加えると起電力が生じるゼーベック効果を利用する。より大きな電位差を得るために、熱電変換素子では、一般的に、材料としてp型半導体とn型半導体とを組合せて使用する。
【0003】
また、熱電変換素子は、多数の素子を板状、又は円筒状に組合せてなる熱電モジュールとして使用される。熱エネルギーを直接電力に変換することが出来、例えば、体温で作動する腕時計、地上用発電及び人工衛星用発電における電源として利用できる。熱電変換素子の性能は、熱電変換材料の性能、及びモジュールの耐久性等に依存する。
【0004】
非特許文献1に記載されているとおり、熱電変換材料の性能を表す指標として、無次元熱電性能指数(ZT)が用いられる。また、熱電変換材料の性能を表す指標として、パワーファクターPF(=S2・σ)を用いる場合もある。
上記無次元熱電性能指数「ZT」は、下式(6)により表される。
ZT=(S2・σ・T)/κ 式(6)
ここで、Sはゼーベック係数(V/K)、σは導電率(S・m)、Tは絶対温度(K)、κは熱伝導率(W/(m・K))である。熱伝導率κは下式(7)で表される。
κ=α・ρ・C 式(7)
ここで、αは熱拡散率(m2/s)、ρは密度(kg/m3)、及びCは比熱容量(J/(kg・K))である。
すなわち、熱電変換の性能(以下、熱電特性とも称す)を向上させるには、ゼーベック係数又は導電率を向上させ、その一方で熱伝導率を低下させることが重要である。
【0005】
代表的な熱電変換材料として、例えば、常温から500Kまではビスマス・テルル系(Bi-Te系)、常温から800Kまでは鉛・テルル系(Pb-Te系)、及び常温から1000Kまではシリコン・ゲルマニウム系(Si-Ge系)などの無機材料が知られている。 しかし、無機材料は一般的に加工性に乏しいため、様々な形状、フルキシブル性を有する熱電変換素子を作成することは困難である。
【0006】
そこで近年、有機材料からなる熱電変換素子に関する検討が進められている。有機材料は、優れた成形性を有し、印刷技術等による製造方法を利用することができるという長所を有する。例えば、特許文献1には、特定構造の繰り返し単位を含む分散剤とカーボンナノチューブ(以下「CNT」と略記することがある)とを含有する熱電変換材料およびそれを用いた熱電変換素子が開示されている。しかしながら、特許文献1に開示されている熱電変換素子では、熱電変換素子として十分な起電力が得られてはいなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2015/050113号
【非特許文献】
【0008】
【文献】梶川武信著、「熱電変換技術ハンドブック(初版)」、エヌ・ティー・エス出版、19頁(2008年)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、高い起電力を得ることができる熱電変換素子と、そのような熱電変換素子を作製することができる熱電変換材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、導電材料(A)、有機化合物(B)(但し、導電材料(A)を除く)及び有機化合物(C)(但し、導電材料(A)かつ有機化合物(B)を除く)を含有してなり、下記(1)~(3)をすべて満たす熱電変換材料に関する。
(1) 0<((有機化合物(B)のHOMO)―(導電材料(A)のHOMO))×((有機化合物(C)のHOMO)―(導電材料(A)のHOMO))
(2) |(有機化合物(B)のHOMO)-(導電材料(A)のHOMO)|<|(有機化合物(C)のHOMO)-(導電材料(A)のHOMO)|
(3) 有機化合物(B)の導電材料(A)に対する吸着性が、有機化合物(C)の導電材料(A)に対する吸着性より大きい。
(但し、HOMOは最高被占軌道のエネルギー準位を表す。また、導電材料(A)が金属材料である場合は、導電材料(A)のHOMOは、導電材料(A)のフェルミ準位を表す。)
【0011】
また、本発明は、導電材料(A)が、炭素材料を含んでなる上記熱電変換材料に関する。
【0012】
また、本発明は、炭素材料が、カーボンナノチューブを含んでなる上記熱電変換材料に関する。
【0013】
また、本発明は、上記熱電変換材料を含んでなる熱電変換膜と、電極とを有し、熱電変換膜及び電極が互いに電気的に接続されている熱電変換素子に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によって、高い起電力を得ることができる熱電変換素子を作製することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(a)は、本発明の実施形態である熱電変換素子の上面図を表し、(b)は、熱電変換素子の起電力の測定方法を説明する模式図を表す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
<導電材料(A)>
導電材料(A)とは、電気を通じる材料を指す。熱電変換材料中の導電材料(A)の含有量を増やすことで導電性を向上させることができる。
導電材料(A)は、導電性を有する材料(炭素材料、金属材料、導電性高分子等)であれば、特に制限されず、例えば、炭素材料としては、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラフェン(グラフェンナノプレートを含む)等が挙げられる。また、金属材料としては、金、銀、銅、ニッケル、クロム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、インジウム、ケイ素、アルミニウム、タングステン、モリブデン、ゲルマニウム、ガリウム及び白金等の金属粉、並びに ZnSe、CdS、InP、GaN、SiC、SiGeこれらの合金、並びにこれらの複合粉が挙げられる。また、核体と、前記核体物質とは異なる物質で被覆した微粒子、具体的には、例えば、銅を核体とし、その表面を銀で被覆した銀コート銅粉等が挙げられる。また、例えば酸化銀、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ルテニウム、ITO(スズドープ酸化インジウム)、AZO(アルミドープ酸化亜鉛)、及びGZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)等の金属酸化物の粉末、並びにこれらの金属酸化物で表面被覆した粉末等が挙げられる。導電性高分子としては、PEDOT/PSS(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸から成る複合物)、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリパラフェニレン等が挙げられる。
【0017】
黒鉛としては、薄片状黒鉛として、日本黒鉛工業社製のCMX、UP-5、UP-10、UP-20、UP-35N、CSSP、CSPE、CSP、CP、CB-150、CB-100、ACP、ACP-1000、ACB-50、ACB-100、ACB-150、SP-10、SP-20、J-SP、SP-270、HOP、GR-60、LEP、F#1、F#2、F#3、中越黒鉛工業所社製のBF-3AK、FBF、BF-15AK、CBR、CPB-6S、CPB-3、96L、96L-3、K-3、SC-120、SC-60、HLP、CP-150、SB-1、伊藤黒鉛工業社製のEC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50、西村黒鉛社製の10099M、PB-99等が挙げられる。球状天然黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のCGC-20、CGC-50、CGB-20、CGB-50等が挙げられる。土状黒鉛としては、日本黒鉛工業社製の青P、AP、AOP、P#1、中越黒鉛社製のAPR、K-5、AP-2000、AP-6、300F、150F等が挙げられる。人造黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のPAG-60、PAG-80、PAG-120、PAG-5、HAG-10W、HAG-150、中越黒鉛社製のG-4AK、G-6S、G-3G-150、G-30、G-80、G-50、SMF、EMF、SFF、SFF-80B、SS-100、BSP-15AK、BSP-100AK、WF-15C、SECカーボン社製のSGP-100、SGP-50、SGP-25、SGP-15、SGP-5、SGP-1、SGO-100、SGO-50、SGO-25、SGO-15、SGO-5、SGO-1、SGX-100、SGX-50、SGX-25、SGX-15、SGX-5、SGX-1等が挙げられる。
【0018】
導電性炭素繊維やカーボンナノチューブとしては、昭和電工社製のVGCF等の気相法炭素繊維、名城ナノカーボン社製のEC1.5,EC1.5-P、楠本化成社製のTUBALL、ゼオンナノテクノロジー社製のZEONANO等の単層カーボンナノチューブ、CNano社製のFloTube9000、FloTube7000、FloTube2000、Nanocyl社製のNC7000、Knano社製の100T、200P等が挙げられる。
【0019】
カーボンブラックとしては、東海カーボン社製のトーカブラック#4300、#4400、#4500、#5500、デグサ社製のプリンテックスL、コロンビヤン社製のRaven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA、Conductex SC ULTRA、Conductex 975 ULTRA、PUERBLACK100、115、205、三菱化学社製の#2350、#2400B、#2600B、#3050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B、キャボット社製のMONARCH1400、1300、900、VulcanXC-72R、BlackPearls2000、TIMCAL社製のEnsaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、SuperP-Li等のファーネスブラック)、ライオン社製のEC-300J、EC-600JD等のケッチェンブラック、電気化学工業社製のデンカブラック、デンカブラックHS-100、FX-35等のアセチレンブラックが挙げられる。
【0020】
上記導電材料(A)の内、ゼーベック係数と導電率との両立の観点で、導電材料(A)は炭素材料を含んでなることが好ましい。また、炭素材料は、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラフェンを含んでなることが好ましく、カーボンナノチューブを含んでなることがより好ましい。また、カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブを含んでなることが好ましい。
【0021】
導電材料(A)の形状は、特に限定されず、不定形、凝集状、鱗片状、微結晶状、球状、フレーク状、ワイヤー状等を適宜用いることができる。また、導電材料(A)は1種のみでもよいし、2種以上を含んでいても良い。
【0022】
<有機化合物>
次に、有機化合物(B)および有機化合物(C)について説明する。有機化合物(B)と有機化合物(C)は、各々固有の物性によって決まるものではなく、導電材料(A)を含めた相対的な物性の違いによって決まるものである。具体的には、上記(1)~(3)の要件を満たすものである。(1)および(2)は、更に下記(4)および(5)に大別することができる。
(4) 導電材料(A)のHOMOが、有機化合物(B)のHOMOより大きく、かつ有機化合物(B)のHOMOが、有機化合物(C)のHOMOより大きい場合。
(5) 導電材料(A)のHOMOが、有機化合物(B)のHOMOより小さく、かつ有機化合物(B)のHOMOが、有機化合物(C)のHOMOより小さい場合。
【0023】
本発明における熱電変換のメカニズムは以下のように考えられる。導電材料(A)に対する吸着性が、有機化合物(C)よりも有機化合物(B)の方が大きいと、導電材料(A)の表面には有機化合物(C)よりも有機化合物(B)が優先的に吸着されると考えられる。熱電変換が生じるには、導電材料(A)、有機化合物(B)、有機化合物(C)間でキャリア移動が生じる必要があるが、その際、有機化合物(C)のHOMOよりも有機化合物(B)のHOMOが導電材料(A)のHOMOに近いと、導電材料(A)と表面近傍に存在する有機化合物(B)間のキャリア移動が円滑になり、有機化合物(B)と有機化合物(C)間のキャリア移動も円滑になるため、導電材料(A)、有機化合物(B)、有機化合物(C)間でのキャリア移動が効率よく行われ、熱電変換効率が高まるものと考えられる。
【0024】
有機化合物(B)のHOMOと導電材料(A)のHOMOは0.1~2.0eV離れていることが好ましく、0.1~1.5eV離れていることがより好ましい。また、有機化合物(C)のHOMOと有機化合物(B)のHOMOは0.1~2.0eV離れていることが好ましく、0.1~1.5eV離れていることがより好ましい。例えば、導電材料(A)のHOMOが、-5.1eVである場合、有機化合物(B)のHOMOは、-7.1~-5.2または-5.0~-3.0であることが好ましい。導電材料(A)のHOMOが、-5.1eVであり、有機化合物(B)のHOMOが、-5.4eVである場合、有機化合物(C)のHOMOは、-7.5~-5.5eVであることが好ましい。導電材料(A)のHOMOが、-5.1eVであり有機化合物(B)のHOMOが-5.0eVである場合、有機化合物(C)のHOMOは、-4.9~-2.9eVであることが好ましい。
【0025】
また、導電材料(A)に対する表面吸着及び均一化を促進し、さらに分子割合を増加させるために、有機化合物(B)の分子量は、小さいほうが好ましく、分子量または質量平均分子量(Mw)は、好ましくは5,000以下であり、より好ましくは3,000以下である。有機化合物(B)および有機化合物(C)は、いずれも有機半導体であることが好ましい。
【0026】
上記の条件を満たす、有機化合物(B)および有機化合物(C)としては、ペリレン骨格、ピロロピロール骨格、フェノチアジン骨格、チアゾロチアゾール骨格、オキサゾロチアゾール骨格、オキサゾロオキサゾール骨格、ベンゾビスチアゾール骨格、ベンゾビスオキサゾール骨格、チアゾロベンゾオキサゾール骨格、チオキサントン骨格、フルオレン骨格、オキサゾール骨格、フタロシアニン骨格のいずれかの骨格を有する化合物であることが好ましい。好ましい態様の例を挙げると、導電材料(A)がカーボンナノチューブである場合、有機化合物(B)としては、ピロロピロール骨格またはフェノチアジン骨格を有する化合物であることが好ましく、有機化合物(C)としては、チオキサントン骨格、フルオレン骨格またはオキサゾール骨格を有する化合物であることが好ましい。
【0027】
また、前記有機化合物(B)、有機化合物(C)は、熱電変換材料中でゼーベック係数の向上に寄与する。有機化合物(B)、有機化合物(C)の含有量を増やすことでゼーベック係数を向上させることができるが、導電性が低下するため、ゼーベック係数と導電率との両立の観点から、有機化合物(B)および有機化合物(C)の合計は、導電材料(A)の全量に対して、上限値が、300質量%以下が好ましく、200質量%以下がより好ましい。また、下限値は、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。
【0028】
(溶剤)
溶剤は、前記導電材料(A)と有機化合物(B)と有機化合物(C)の混合する際の媒体として使用され、インキ化による塗工性向上が可能とする。使用できる溶剤としては、導電材料(A)と有機化合物(B)と有機化合物(C)とを溶解又は良分散できれば特に限定されず、有機溶剤や水を挙げることができ、2種以上を組み合わせて用いてもよい。但し、本明細書でいう有機溶剤とは、有機化合物(B)および有機化合物(C)以外のものを指す。有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1、3-ブチレングリコール、イソボルニルシクロヘキサノール、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリフルオロエタノール、m-クレゾール、及びチオジグリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の芳香族類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、N-メチルピロリドン等から、必要に応じて適宜選択することができる。
溶剤としては、N-メチルピロリドンが好ましい。
【0029】
(無機熱電変換材料)
本発明の熱電変換材料は、熱電変換効率を高めるために、必要に応じて、無機熱電変換材料を含んでもよい。無機熱電材料の一例として、Bi-(Te、Se)系、Si-Ge系、Mg-Si系、Pb-Te系、GeTe-AgSbTe系、(Co、Ir、Ru)-Sb系、(Ca、Sr、Bi)Co25系等を挙げることができる。より具体的には、Bi2Te3、PbTe、AgSbTe2、GeTe、Sb2Te3、NaCo24、CaCoO3、SrTiO3、ZnO、SiGe、Mg2Si、FeSi2、Ba8Si46、MnSi1.73、ZnSb、Zn4Sb3、GeFe3CoSb12、及びLaFe3CoSb12からなる群から選択される少なくとも1種を使用することができる。このとき、上記無機熱電変換材料に不純物を加えて極性(p型、n型)や導電率を制御して利用してもよい。無機熱電変換材料を使用する場合、その使用量は、成膜性や膜強度に影響しない範囲で調整する。
【0030】
熱電変換材料を含む分散液を製造する場合には、例えば、熱電変換材料と溶剤と必要に 応じてその他成分とを混合した後、分散機や超音波を用いて分散することで得ることが できる。
【0031】
分散機としては、特に制限はなく、例えば、ニーダー、アトライター、ボールミル、ガラスビーズやジルコニアビーズ等を使用したサンドミル、スキャンデックス、アイガーミル、ペイントコンディショナー、ペイントシェイカー等のメディア分散機、コロイドミル等を使用することができる。
<熱電変換素子>
本発明の熱電変換素子は、上記熱電変換材料を含んでなる熱電変換膜と、電極とを有し、上記熱電変換膜及び上記電極は互いに電気的に接続されているものである。熱電変換膜は、導電性及び熱電特性に加えて、耐熱性及び可撓性の点でも優れる。そのため、高品質な熱電変換素子を容易に作製することができる。
【0032】
熱電変換膜は、基材上に熱電変換材料を塗布して得られる膜であってもよい。熱電変換材料は優れた成形性を有するため、塗布法によって良好な膜を得ることが容易である。熱電変換膜の形成には、主に湿式製膜法が用いられる。具体的には、スピンコート法、スプレー法、ローラーコート法、グラビアコート法、ダイコート法、コンマコート法、ロールコート法、カーテンコート法、バーコート法、インクジェット法、ディスペンサー法、シルクスクリーン印刷、フレキソ印刷等の各種手段を用いた方法が挙げられる。塗布する厚み、及び材料の粘度等に応じて、上記方法から適宜選択することができる。
【0033】
熱電変換膜の膜厚は、特に限定されるものではないが、後述するように、熱電変換膜の厚さ方向又は面方向に温度差を生じ、かつ伝達できるように、一定以上の厚みを有するように形成されることが好ましい。熱電特性の点から、熱電変換膜の膜厚は、0.1~500μmの範囲が好ましく、1~300μmの範囲が好ましく、1~200μmの範囲がさらに好ましい。
【0034】
基材の材料としては、特に制限はないが、不織布、紙、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、ポリイミド、ボリカーボネート、セルローストリアセテート等のプラスチックフィルム、又はガラス等を用いることができる。
【0035】
基材と熱電変換膜との密着性を向上させる目的で、基材表面に様々な処理を行うことができる。具体的には、熱電変換材料の塗布に先立ち、UVオゾン処理、コロナ処理、プラズマ処理、又は易接着処理を行ってもよい。
【0036】
電極の材料は、金属、合金、及び半導体から選択することができる。一実施形態において、導電率が高く、熱電変換膜の接触抵抗が低いことが好ましいことから、金属及び合金が好ましい。具体例として、電極は、金、銀、銅、及びアルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。電極は、銀を含むことがさらに好ましい。
【0037】
電極は、真空蒸着法、電極材料箔や電極材料膜を有するフィルムの熱圧着、電極材料の微粒子を分散したペーストの塗布等の方法によって形成することができる。プロセスが簡便な観点で、電極材料箔や電極材料膜を有するフィルムの熱圧着、電極材料を分散したペーストの塗布による方法が好ましい。
【実施例
【0038】
以下、実験例により、本発明をより具体的に説明する。なお、例中、「部」とあるのは「質量部」を、「%」とあるのは「質量%」をそれぞれ意味するものとする。また、「NMP」とは、N-メチルピロリドンを示す。
【0039】
<吸着性の測定方法>
導電材料(A)に対する吸着性は、以下の方法によって測定した。NMP55部、有機化合物(B)(または有機化合物(C))0.001部を秤量して混合し完全に溶解させた(「液a」とする)。さらに導電材料(A)0.0025部を加えて24時間撹拌し、フィルターで導電材料(A)を除いたろ液を得た(「液b」とする)。液a、液bそれぞれについて、分光光度計(U-4100 日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて25℃において300~800nmの波長範囲の吸収スペクトルを測定した。下記の式に従って有機化合物(B)(または有機化合物(C))の導電材料(A)に対する吸着率を算出し、吸着性を下記のとおり分類した。
・式:有機化合物(B)(または有機化合物(C))の導電材料(A)に対する吸着率(%)=((液aの極大吸収波長における吸光度-液bの極大吸収波長における吸光度)÷液aの極大吸収波長における吸光度)×100
AD1:吸着率が0%以上25%未満である。
AD2:吸着率が25%以上50%未満である。
AD3:吸着率が50%以上75%未満である。
AD4:吸着率が75%以上である。
(測定条件)
溶媒:NMP
セル:石英セル
光路長:10mm
【0040】
<HOMO、フェルミ準位の測定方法>
導電材料(A)、有機化合物(B)および有機化合物(C)のHOMOの測定は、単一の各成分をITOガラス基板上に張った導電テープの上に固着させ、測定サンプルとした後、光電子分光法(理研計器社製:AC-2)により測定した。測定値を表1に記載した。
【0041】
<熱電変換材料の製造>
[実施例1]
(分散液1)
ピグメントレッド255(東京化成工業社製)0.2部、2-イソプロピルチオキサントン (東京化成工業社製)0.2部、SWCNT(OCSiAl社製)0.4部、NMP79.2部をそれぞれ秤量して混合し、熱電変換材料の分散液1を得た。
【0042】
[実施例2~16、比較例1]
(分散液2~17)
材料の種類及び配合量を表1に示す内容にそれぞれ変更した以外は、分散液1の製造方法と同様にして、熱電変換材料の分散液2~17をそれぞれ得た。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に記載した材料を以下に示す。
導電材料(A)
GNP:XG Sciences社製 グラフェンナノプレートレット「xGNP M5」
黒鉛:中越黒鉛工業所社製 膨張黒鉛SMF
MWCNT:KUMHO PETROCHEMICAL社製 多層カーボンナノチューブ「K-nanos-100P」
SWCNT:OCSiAl社製 単層カーボンナノチューブ「TUBALLナノチューブ」
有機化合物(B)および(C)
B1:ピグメントレッド255(東京化成工業社製)
B2:メチレングリーン(富士フイルム和光純薬社製)
B3:2,5-ビス(2-エチルヘキシル)3,6-ジ(2-チエニル)-2,5-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピロール-1,4-ジオン(東京化成工業社製)
B5:N,N’-ビス[4-(ジフェニルアミノ)フェニル]-N,N’-ジフェニルベンジジン(東京化成工業社製)
C1:2-イソプロピルチオキサントン(東京化成工業社製)
C2:2,2’’-ビ-9,9’スピロビ[9H-フルオレン](Aldrich社製)
C3:2,5-ジフェニル-1,3,4-オキサジアゾール(東京化成工業社製)
C4:1,4,8,11,15,18,22,25-オクタブトキシ-29H,31H-フタロシアニン(Sigma-Aldrich社製)
C6:フロキシンB(東京化成工業社製)
【0045】
(合成例:有機化合物(B4))
コハク酸ジメチル20.0g、4-(ジメチルアミノ)ベンゾニトリル48.0g、水素化ナトリウム31.6gをアミルアルコール400gに溶解し、8時間還流させた 。冷却した後、沈殿物をろ過し、酢酸、メタノールで洗浄することにより、紫色固体11.8gを得た。その後、得られた固体10g、ヨードメタン15.6g、ナトリウムブトキシド10.3gをジメチルアセトアミド300gに溶解し、8時間還流させた。放冷後、上記混合物をメタノール1000mlに入れ、固体を析出させ、ろ集後、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製を行い、有機化合物(B4)8.3gを得た。
【0046】
【化1】
【0047】
<有機化合物の合成>
(合成例1:有機化合物(C5))
ニトロベンゼン20ml中に、3-アミノペリレン5.0g、3-ブロモ-9-(m-トリル)-9H-カルバゾール15.9g、水酸化ナトリウム1.5g、及び酸化銅1.0gを加え、窒素雰囲気下、200℃にて50時間加熱撹拌した。放冷後、上記混合物を500mlの水で希釈し、トルエンで抽出した。抽出液を濃縮した後、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製を行い、有機化合物(C5)7.2gを得た。

【0048】
【化2】
【0049】
(起電力の測定)
得られた分散液1~17を、シート状基材である厚さ50μmのポリイミドフィルム上にアプリケータを用いてそれぞれ塗布した後、120℃で30分間加熱乾燥して、ポリイミド基材上に、膜厚3μmの熱電変換膜を有する積層体を得た。得られた積層体を1cm×5cmの大きさに切り取り、銀ペーストを用いて積層体の両端に電気的に接続されるように、厚さ10μm、1cm×1cmの形状を有する電極を作製し、熱電変換素子を得た。各熱電変換素子について、熱電変換膜及び銀回路が内側になるように(図1に示すA-A’線に沿うように)折り曲げ、その状態のまま、80℃に加熱したホットプレート上に設置した。なお、折り曲げの程度は、図1のB-B’間の距離が10mmになるようにそれぞれ調整した。上記のように折り曲げたサンプルをホットプレート上に設置して5分後の塗膜間の起電力(mV)について起電力計(KEITHLEY2400 テクトロニクス社製)を用いて測定した。測定は、20℃で実施した。比較例1の起電力の絶対値を1としたとき、各実施例における起電力の絶対値との相対値を表1に示す。
【0050】
表1が示すように、本発明の熱電変換素子は、高い起電力を示した。本発明における熱電変換のメカニズムは以下のように考えられる。導電材料(A)に対する吸着性が、有機化合物(C)よりも有機化合物(B)の方が大きいと、導電材料(A)の表面には有機化合物(C)よりも有機化合物(B)が優先的に吸着されると考えられる。熱電変換が生じるには、導電材料(A)、有機化合物(B)、有機化合物(C)間でキャリア移動が生じる必要があるが、その際、有機化合物(C)のHOMO値よりも有機化合物(B)のHOMO値が導電材料(A)のHOMO値に近いと、導電材料(A)と表面近傍に存在する有機化合物(B)間のキャリア移動が円滑になり、有機化合物(B)と有機化合物(C)間のキャリア移動も円滑になるため、導電材料(A)、有機化合物(B)、有機化合物(C)間でのキャリア移動が効率よく行われ、熱電変換効率が高まるものと考えられる。これに対して、比較例1では、有機化合物(B)の導電材料(A)に対する吸着性が、有機化合物(C)の導電材料(A)に対する吸着性より大きく、有機化合物(C)のHOMO値よりも有機化合物(B)のHOMO値が導電材料(A)のHOMO値から離れている。その結果、上記の(1)および(2)の要件は満たしているが、(3)の要件を満たしていないことになり、有機化合物(C)間のキャリア(電子または正孔)の移動効率が低くなるため、低い起電力を示したものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の実施形態である熱電変換材料は、高い起電力を得ることができるため、上記材料を使用して、高性能の熱電変換素子を提供することができる。
【符号の説明】
【0052】
10:熱電変換素子の試験サンプル
101:熱電変換膜
102:電極
20:ホットプレート
図1