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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】粘着剤組成物及び粘着性製品
(51)【国際特許分類】
   C09J 153/00 20060101AFI20240312BHJP
   C08F 293/00 20060101ALI20240312BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20240312BHJP
【FI】
C09J153/00
C08F293/00
C09J7/38
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019194782
(22)【出願日】2019-10-25
(65)【公開番号】P2021066842
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 伸幸
(72)【発明者】
【氏名】中村 賢一
(72)【発明者】
【氏名】安藤 聡子
(72)【発明者】
【氏名】時田 絵美子
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-512560(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0250952(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102585123(CN,A)
【文献】国際公開第2018/151034(WO,A1)
【文献】特開2015-151452(JP,A)
【文献】特開2001-234147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
C08F 293/00-299/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移点が50℃以上である重合体ブロックAと、ガラス転移点が10℃以下であり(メタ)アクリル系単量体に由来する構造単位を主体とする重合体ブロックBとを有し、かつ1分子内における前記重合体ブロックAと前記重合体ブロックBとの合計数が4個以上であるマルチブロック共重合体を含有し、
前記マルチブロック共重合体は、前記重合体ブロックAと前記重合体ブロックBとの合計量に対する前記重合体ブロックAの割合が5モル%以上40モル%以下である、粘着剤組成物。
【請求項2】
前記マルチブロック共重合体は、前記重合体ブロックAを1分子内に3個以上有する、請求項に記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
前記マルチブロック共重合体は、前記重合体ブロックAとして、スチレン系化合物に由来する構造単位及びイミド基含有ビニル化合物に由来する構造単位よりなる群から選択される少なくとも一種を有する重合体ブロックを含む、請求項1又は2に記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
前記マルチブロック共重合体は、前記重合体ブロックAとして、第1の重合体ブロックと、前記第1の重合体ブロックとは構成単量体単位の組成が異なる第2の重合体ブロックとを有する、請求項1~のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
前記第1の重合体ブロックは、スチレン系化合物に由来する構造単位を有する重合体ブロックであり、
前記第2の重合体ブロックは、(メタ)アクリル系単量体に由来する構造単位を有する重合体ブロックである、請求項に記載の粘着剤組成物。
【請求項6】
前記第1の重合体ブロック及び前記第2の重合体ブロックは、イミド基含有ビニル化合物に由来する構造単位を有する、請求項又はに記載の粘着剤組成物。
【請求項7】
前記重合体ブロックBは、(メタ)アクリル酸アルキル化合物及び(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル化合物よりなる群から選択される少なくとも一種に由来する構造単位を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項8】
前記重合体ブロックBは、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル化合物に由来する構造単位を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項9】
前記マルチブロック共重合体は、前記重合体ブロックAと前記重合体ブロックBとの合計数が5個であるペンタブロック共重合体である、請求項1~のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項10】
支持体と、請求項1~のいずれか一項に記載の粘着剤組成物を用いて前記支持体の上に形成された粘着剤層と、を備える、粘着性製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤組成物及び粘着性製品に関し、詳しくは、(メタ)アクリル系粘着性ポリマーを含有する粘着剤組成物及び粘着性製品に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系粘着剤は、耐候性及び透明性に優れ、更に設計の自由度が高い等の利点を有することから幅広い用途において使用されている。また、アクリル系粘着剤の被着対象物についても、例えばプラスチックや紙類、金属、木材、ガラス、繊維生地等といった種々の素材が適用されている(例えば、特許文献1や特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1には、繊維生地と繊維生地との間にアクリル系樹脂等の粘着性の素材を部分的に配した熱接着テープを挿入し、加熱融着させて生地同士を接着することが開示されている。また、特許文献2には、ガラス転移点が30℃以上200℃以下であり、かつ数平均分子量が500以上10,000以下であるビニル重合体と、アクリル系粘着性ポリマーとを含有する繊維生地接合用の粘着剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-338908号公報
【文献】特開2019-11382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の熱接着テープにより生地と生地とを接合する方法の場合、接着強度が十分でなく、接着部分に引張応力が掛かったり繰り返し使用されたりすると接着部分に剥がれが生じるおそれがある。
【0006】
アクリル系粘着剤を用いて製造された物品は、高温環境で利用されることも想定される。例えば、アクリル系粘着剤によって繊維生地同士を貼り合わせて製造された衣服は、乾燥機の使用や熱水洗濯により80℃程度の高温環境に曝されることがある。しかしながら、アクリル系粘着剤は高温環境下において凝集力が低下しやすく、高温環境での使用によって接着部分に剥がれが生じることが懸念される。また、繊維生地同士をミシン等による縫製ではなく粘着剤により貼り合わせた、いわゆる無縫製の衣料品では、高温条件下での剥離強度が高いことに加え、室温条件下での剥離強度が高く、引張応力や繰り返しの使用に対しても剥がれが生じにくいことが求められる。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、高温条件下及び室温条件下における剥離強度が高い粘着剤層を得ることができる粘着剤組成物を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定構造を有する(メタ)アクリル系粘着性ポリマーを含有する粘着剤組成物とすることにより上記課題を解決できることを見出した。本発明は、こうした知見に基づいて完成したものである。本発明によれば以下の手段が提供される。
【0009】
〔1〕ガラス転移点が50℃以上である重合体ブロックAと、ガラス転移点が10℃以下であり(メタ)アクリル系単量体に由来する構造単位を主体とする重合体ブロックBとを有し、かつ1分子内における前記重合体ブロックAと前記重合体ブロックBとの合計数が4個以上であるマルチブロック共重合体を含有する、粘着剤組成物。
【0010】
〔2〕前記マルチブロック共重合体は、前記重合体ブロックAと前記重合体ブロックBとの合計量に対する前記重合体ブロックAの割合が5モル%以上40モル%以下である、〔1〕の粘着剤組成物。
〔3〕前記マルチブロック共重合体は、前記重合体ブロックAを1分子内に3個以上有する、〔1〕又は〔2〕の粘着剤組成物。
〔4〕前記マルチブロック共重合体は、前記重合体ブロックAとして、スチレン系化合物に由来する構造単位及びイミド基含有ビニル化合物に由来する構造単位よりなる群から選択される少なくとも一種を有する重合体ブロックを含む、〔1〕~〔3〕のいずれか1の粘着剤組成物。
【0011】
〔5〕前記マルチブロック共重合体は、前記重合体ブロックAとして、第1の重合体ブロックと、前記第1の重合体ブロックとは構成単量体単位の組成が異なる第2の重合体ブロックとを有する、〔1〕~〔4〕のいずれか1の粘着剤組成物。
〔6〕前記第1の重合体ブロックは、スチレン系化合物に由来する構造単位を有する重合体ブロックであり、前記第2の重合体ブロックは、(メタ)アクリル系単量体に由来する構造単位を有する重合体ブロックである、〔5〕の粘着剤組成物。
〔7〕前記第1の重合体ブロック及び前記第2の重合体ブロックは、イミド基含有ビニル化合物に由来する構造単位を有する、〔5〕又は〔6〕の粘着剤組成物。
【0012】
〔8〕前記重合体ブロックBは、(メタ)アクリル酸アルキル化合物及び(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル化合物よりなる群から選択される少なくとも一種に由来する構造単位を有する、〔1〕~〔7〕のいずれか1の粘着剤組成物。
〔9〕前記重合体ブロックBは、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル化合物に由来する構造単位を有する、〔1〕~〔7〕のいずれか1の粘着剤組成物。
〔10〕前記マルチブロック共重合体は、前記重合体ブロックAと前記重合体ブロックBとの合計数が5個であるペンタブロック共重合体である、〔1〕~〔9〕のいずれか1の粘着剤組成物。
〔11〕支持体と、上記〔1〕~〔10〕のいずれか1の粘着剤組成物を用いて前記支持体の上に形成された粘着剤層と、を備える、粘着性製品。
【発明の効果】
【0013】
本発明の粘着剤組成物によれば、高温条件下及び室温条件下のいずれにおいても高い剥離強度を示す粘着剤層を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示について詳しく説明する。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。また、「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基を意味する。
【0015】
《粘着剤組成物》
本発明の粘着剤組成物は、ハードセグメントである重合体ブロックAと、ソフトセグメントである重合体ブロックBとを有するマルチブロック共重合体(以下、「マルチブロック共重合体(P)」ともいう)を含有する。以下に、本粘着剤組成物に配合されるマルチブロック共重合体(P)、及び必要に応じて配合される成分について詳しく説明する。
【0016】
<マルチブロック共重合体(P)>
マルチブロック共重合体(P)は、重合体ブロックAと重合体ブロックBとを合計で4個以上有する。マルチブロック共重合体(P)は、ミクロ相分離構造の形成等により擬似架橋を形成し得る共重合体である。粘着剤層において共重合体が擬似架橋構造を形成すると凝集力が向上する傾向があり、接着強度を高くできる点で好ましい。
【0017】
(重合体ブロックA)
重合体ブロックAは、ガラス転移点が50℃以上である重合体ブロックである。重合体ブロックAのガラス転移点(以下、「ガラス転移点TgA」ともいう)が50℃以上であることにより、マルチブロック共重合体(P)が良好な耐熱性及び耐久性を有するものとすることができる。マルチブロック共重合体(P)は、重合体ブロックAを1分子内に複数個有していることが好ましい。マルチブロック共重合体(P)が重合体ブロックAを1分子内に複数個有する場合、複数個の重合体ブロックAの各ブロックの構造は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0018】
重合体ブロックAを構成する単量体としては、スチレン系化合物、イミド基含有ビニル化合物、(メタ)アクリル系単量体等が挙げられる。
【0019】
スチレン系化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-エチルスチレン、m-エチルスチレン、p-エチルスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-イソブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、o-メトキシスチレン、m-メトキシスチレン、p-メトキシスチレン、p-クロロメチルスチレン、p-クロロスチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。スチレン系化合物としては、これらのうちの1種又は2種以上を使用することができる。
【0020】
重合体ブロックAが、スチレン系化合物に由来する構造単位を有する場合、重合体ブロックAの全構成単量体単位に対する、スチレン系化合物に由来する構造単位の含有量は、好ましくは5モル%以上であり、より好ましくは10モル%以上であり、更に好ましくは20モル%以上である。また、重合体ブロックAの全構成単量体単位に対する、スチレン系化合物に由来する構造単位の含有量の上限は特に限定されず、100モル%以下で設定することができる。スチレン系化合物に由来する構造単位の含有量の上限は、重合体ブロックAの全構成単量体単位に対して、好ましくは95モル%以下であり、より好ましくは90モル%以下であり、更に好ましくは80モル%以下である。
【0021】
イミド基含有ビニル化合物としては、マレイミド、N-置換マレイミド化合物等のマレイミド化合物;N-メチルイタコンイミド、N-エチルイタコンイミド、N-ブチルイタコンイミド、N-オクチルイタコンイミド、N-2-エチルヘキシルイタコンイミド、N-シクロヘキシルイタコンイミド、N-ラウリルイタコンイミド等のイタコンイミド化合物;N-メチルシトラコンイミド、N-エチルシトラコンイミド、N-ブチルシトラコンイミド、N-オクチルシトラコンイミド、N-2-エチルヘキシルシトラコンイミド、N-シクロヘキシルシトラコンイミド、N-ラウリルシトラコンイミド等のシトラコンイミド化合物;N-(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)コハク酸イミド、N-(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)マレイミド、N-(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)フタル酸イミド、N-(4-(メタ)アクリロイルオキシブチル)コハク酸イミド、N-(4-(メタ)アクリロイルオキシブチル)マレイミド、N-(4-(メタ)アクリロイルオキシブチル)フタル酸イミド等の(メタ)アクリルイミド化合物等が挙げられる。イミド基含有ビニル化合物としては、マレイミド化合物を好適に用いることができる。
【0022】
マレイミド化合物には、マレイミド及びN-置換マレイミド化合物が含まれる。N-置換マレイミド化合物としては、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-n-プロピルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-n-ブチルマレイミド、N-イソブチルマレイミド、N-tert-ブチルマレイミド、N-ペンチルマレイミド、N-ヘキシルマレイミド、N-ヘプチルマレイミド、N-オクチルマレイミド、N-ラウリルマレイミド、N-ステアリルマレイミド等のN-アルキル置換マレイミド化合物;N-シクロペンチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のN-シクロアルキル置換マレイミド化合物;N-ベンジルマレイミド等のN-アラルキル置換マレイミド化合物;N-フェニルマレイミド、N-(4-ヒドロキシフェニル)マレイミド、N-(4-アセチルフェニル)マレイミド、N-(4-メトキシフェニル)マレイミド、N-(4-エトキシフェニル)マレイミド、N-(4-クロロフェニル)マレイミド、N-(4-ブロモフェニル)マレイミド等のN-アリール置換マレイミド化合物等が挙げられる。重合体ブロックAの製造に使用するマレイミド化合物は、上記のうち、マルチブロック共重合体(P)の耐熱性及び接着性をより優れたものとすることができる点で、下記式(1)で表される化合物が好ましい。
【化1】
(式(1)中、Rは水素原子、炭素数1~3のアルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基、又は、フェニル基の任意の位置にヒドロキシ基、炭素数1~2のアルコキシ基、アセチル基又はハロゲン原子が結合した置換フェニル基を表す。)
【0023】
イミド基含有ビニル化合物に由来する構造単位の含有量は、重合体ブロックAの全構成単量体単位に対して、100モル%以下の範囲で適宜設定することができる。重合体ブロックAがイミド基含有ビニル化合物に由来する構造単位を含む場合、耐熱性及び接着性に優れるマルチブロック共重合体(P)を得ることができる点で好ましい。イミド基含有ビニル化合物に由来する構造単位の含有量は、重合体ブロックAの全構成単量体単位に対して、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、更に好ましくは20モル%以上である。
【0024】
イミド基含有ビニル化合物に由来する構造単位の含有量の上限については、重合体ブロックAの全構成単量体単位に対して、好ましくは90モル%以下、より好ましくは70モル%以下、更に好ましくは65モル%以下である。特に、イミド基含有ビニル化合物に由来する構造単位の含有量が70モル%以下であると、マルチブロック共重合体(P)の接着性を十分に確保することができるためより好ましい。なお、重合体ブロックAにおいて、単量体に由来する構造単位の含有量の説明は、マルチブロック共重合体(P)が重合体ブロックAを1分子内に複数個有する場合、複数個の重合体ブロックAにおける合計の含有量を表す。
【0025】
(メタ)アクリル系単量体としては、(メタ)アクリル酸アルキル化合物、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル化合物、(メタ)アクリルアミド化合物等が挙げられる。これらのうち、(メタ)アクリル酸アルキル化合物は、(メタ)アクリル酸の鎖状アルキルエステルであり、その具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n-ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル及び(メタ)アクリル酸ドデシル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキル化合物としては、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
【0026】
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル化合物としては、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシメチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸n-プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸n-ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸エトキシプロピル、(メタ)アクリル酸n-プロポキシプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブトキシプロピル、(メタ)アクリル酸メトキシブチル、(メタ)アクリル酸エトキシブチル、(メタ)アクリル酸n-プロポキシブチル、(メタ)アクリル酸n-ブトキシブチル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル化合物としては、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
【0027】
(メタ)アクリルアミド化合物としては、(メタ)アクリルアミド、tert-ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、N-メチロールアクリルアミド、N-メトキシメチルアクリルアミド、N-メトキシブチルアクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。(メタ)アクリルアミド化合物としては、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
【0028】
重合体ブロックAが(メタ)アクリル系単量体に由来する構造単位を有する場合、(メタ)アクリル系単量体に由来する構造単位の含有量は、重合体ブロックAの全構成単量体単位に対して、2モル%以上であることが好ましく、5モル%以上であることがより好ましく、10モル%以上であることが更に好ましい。また、重合体ブロックAの全構成単量体単位に対する、(メタ)アクリル系単量体に由来する構造単位の含有量の上限は特に限定されないが、重合体ブロックAの全構成単量体単位に対して、70モル%以下であることが好ましく、50モル%以下であることがより好ましく、40モル%以下であることが更に好ましい。
【0029】
スチレン系化合物は、イミド基含有ビニル化合物(好ましくはマレイミド化合物)の重合性を向上させる性質を有する。したがって、重合体ブロックAの構成単量体単位としてイミド基含有ビニル化合物を用いた場合、スチレン系化合物を併用することによって、イミド基含有ビニル化合物の重合性を向上させることが好ましい。マルチブロック共重合体(P)が、スチレン系化合物に由来する構造単位とイミド基含有ビニル化合物に由来する構造単位とを有する重合体ブロックを含む場合、当該重合体ブロックにおいて、イミド基含有ビニル化合物に由来する構造単位1モルに対する、スチレン系化合物に由来する構造単位の含有量は、好ましくは0.01~100モルであり、より好ましくは0.1~10モルであり、更に好ましくは0.2~5モルであり、特に好ましくは0.5~1.5モルである。
【0030】
重合体ブロックAは、耐熱性及び接着性により優れたマルチブロック共重合体(P)を得ることができる点で、これらのうち、スチレン系化合物及びイミド基含有ビニル化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物に由来する構造単位(以下、「構造単位U1」ともいう)を少なくとも有していることが好ましく、スチレン系化合物及びイミド基含有ビニル化合物と、(メタ)アクリル酸アルキル化合物及び(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物に由来する構造単位とを有していることがより好ましい。重合体ブロックAにおいて構造単位U1の割合は、重合体ブロックAが有する全構成単量体単位に対して、30モル%以上であることが好ましく、50モル%以上であることがより好ましく、70モル%以上であることが更に好ましい。重合体ブロックAが有する構造単位U1は、1種又は2種以上とすることができる。
【0031】
マルチブロック共重合体(P)が1分子内に複数種の重合体ブロックAを有する場合、マルチブロック共重合体(P)は、重合体ブロックAとして、第1の重合体ブロックAと、第1の重合体ブロックAとは構成単量体単位の組成が異なる第2の重合体ブロックAとを有する。この場合、マルチブロック共重合体(P)が有する複数個の重合体ブロックAにおいて、更に重合体ブロックAと重合体ブロックAとが相分離することにより、重合体ブロックAからなる相分離構造をより小さくすることが可能になる。これにより、第1の重合体ブロックA及び第2の重合体ブロックAのうち一方のガラス転移点以上の温度で重合体が軟化しやすくなり、被着体に密着することができ、高温条件下においてより高い剥離強度を示すマルチブロック共重合体(P)を得ることが可能になる点で好ましい。
【0032】
第1の重合体ブロックA及び第2の重合体ブロックAの構成単量体単位の組成は特に限定されない。凝集力を向上させる観点から、第1の重合体ブロックAは、スチレン系化合物に由来する構造単位を有していることが好ましく、高いガラス転移点を示す重合体ブロックを得る観点及び反応性の観点から、スチレン系化合物に由来する構造単位と、イミド基含有ビニル化合物に由来する構造単位とを有していることが好ましい。第1の重合体ブロックAにおいて、スチレン系化合物に由来する構造単位は、好ましくは10モル%以上であり、より好ましくは20モル%以上であり、更に好ましくは30モル%以上である。また、第1の重合体ブロックAにおけるスチレン系化合物に由来する構造単位は、好ましくは90モル%以下であり、より好ましくは80モル%以下であり、更に好ましくは70モル%以下である。
【0033】
第2の重合体ブロックAは、熱圧着時の流動性をより向上できる点で、第1の重合体ブロックAに含まれる単量体単位と、重合体ブロックBに含まれる単量体単位とを有していることが好ましい。こうした観点から、第2の重合体ブロックAは、(メタ)アクリル系単量体に由来する構造単位を有することが好ましく、(メタ)アクリル系単量体に由来する構造単位と、イミド基含有ビニル化合物に由来する構造単位とを有していることがより好ましい。これらのうち、熱圧着時の流動性と高温条件下での剥離強度とを両立させる観点から、第2の重合体ブロックAは、(メタ)アクリル酸アルキル化合物及び(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル化合物よりなる群から選択される少なくとも一種に由来する構造単位と、イミド基含有ビニル化合物に由来する構造単位とを有することが好ましく、炭素数1~4のアルキル基を有するアクリル酸アルキル化合物及び炭素数2~3のアルコキシアルキル基を有するアクリル酸アルコキシアルキル化合物よりなる群から選択される少なくとも1種と、マレイミド化合物に由来する構造単位とを有することが特に好ましい。
【0034】
重合体ブロックAは、マルチブロック共重合体(P)の作用を損なわない範囲において、上記の単量体と共重合可能な単量体であって上記以外の単量体に由来する構造単位を有していてもよい。当該単量体としては、例えば、アミド基含有ビニル化合物(N-ビニルアセトアミド、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルイソブチルアミド等)、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、及びN,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
重合体ブロックAのガラス転移点TgAは、50℃以上であればよいが、マルチブロック共重合体(P)に良好な耐熱性及び高温環境下での良好な接着性を付与する観点から、好ましくは60℃以上であり、より好ましくは70℃以上であり、更に好ましくは80℃以上である。また、ガラス転移点TgAは、使用可能な構成単量体単位の自由度が高い点、及び接合時の加熱温度を低くできる点で、350℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましく、270℃以下であることが更に好ましく、260℃以下であることが特に好ましい。
【0036】
マルチブロック共重合体(P)が第1の重合体ブロックA及び第2の重合体ブロックAを有する場合、第1の重合体ブロックAのガラス転移点と、第2の重合体ブロックAのガラス転移点とは異なる温度であることが好ましい。具体的には、第1の重合体ブロックAのガラス転移点は、120℃以上であることが好ましく、130℃以上であることがより好ましく、150℃以上であることが更に好ましく、170℃以上であることが特に好ましい。第2の重合体ブロックAのガラス転移点は、120℃未満であることが好ましく、110℃以下であることがより好ましい。また、第1の重合体ブロックAのガラス転移点と第2の重合体ブロックAのガラス転移点との温度差が、好ましくは30℃以上、より好ましくは50℃以上、更に好ましくは70℃以上であると、熱圧着時の流動性と高温条件下での剥離強度との両立を図る効果が十分に得られるため好適である。
【0037】
なお、本明細書において、重合体のガラス転移点は、示差走査熱量測定(DSC)によって測定した値である。測定方法の詳細は、後述する実施例に記載の操作に従うことができる。各重合体ブロックのガラス転移点は、測定対象の重合体ブロックの単独重合体を製造し、その単独重合体のDSC測定を行うことによって求めた値である。重合体のガラス転移点は、構成単量体の種類や組成等を変えることにより任意に選択することができる。
【0038】
重合体ブロックAの数平均分子量は、500~40,000の範囲にあることが好ましい。数平均分子量が500以上であると、マルチブロック共重合体(P)の凝集力を十分に確保することができ、40,000以下であると、被着体に対する剥離強度を十分に高くすることができる点で好ましい。重合体ブロックAの数平均分子量は、より好ましくは1,000以上であり、更に好ましくは2,000以上、より更に好ましくは6,000以上、特に好ましくは9,000以上である。また、重合体ブロックAの数平均分子量は、より好ましくは35,000以下であり、更に好ましくは30,000以下、特に好ましくは25,000以下である。重合体ブロックAの分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算値である。
【0039】
なお、マルチブロック共重合体(P)の1分子中に重合体ブロックAが複数個存在する場合、「重合体ブロックAの数平均分子量」とは、マルチブロック共重合体(P)1分子が有する複数個の重合体ブロックA全体の数平均分子量を意味する。例えば、マルチブロック共重合体(P)がABABA型のペンタブロック共重合体である場合、当該ペンタブロック共重合体における重合体ブロックAの数平均分子量は、3個の重合体ブロックAの数平均分子量を足し合わせた値である。
【0040】
マルチブロック共重合体(P)が第1の重合体ブロックA及び第2の重合体ブロックAを有する場合、重合体ブロックAの1個あたりの数平均分子量(すなわち、1個の第1の重合体ブロックA及び1個の第2の重合体ブロックAのそれぞれの数平均分子量)は、500~30,000の範囲にあることが好ましい。重合体ブロックAの1個あたりの数平均分子量は、より好ましくは1,000以上であり、更に好ましくは1,500以上であり、特に好ましくは2,000以上である。また、重合体ブロックAの1個あたりの数平均分子量は、より好ましくは25,000以下であり、更に好ましくは20,000以下、特に好ましくは15,000以下である。
【0041】
重合体ブロックAは、重合体ブロックBと相分離する性質を有しているとよい。かかる性質を有することで、マルチブロック共重合体(P)がミクロ相分離構造を形成しやすくなる点で好適である。本願出願時の技術常識に基づいて当業者であれば容易に、重合体ブロックBと相分離する重合体ブロックAを設計することができる。例えば、公知の溶解性パラメータであるSP値の算出方法(例えばFedors法)により計算した重合体ブロックAのSP値を重合体ブロックBのSP値と比較したときの差分ΔSP(絶対値)を0.01以上とする。差分ΔSPは、例えば0.05以上、また例えば0.1以上、また例えば0.2以上、また例えば0.5以上であってもよい。Fedors法による場合、SP値は、R.F.Fedorsにより著された「PolymerEngineering andScience」14(2),147(1974)に記載の計算方法によって算出することができる。また、SP値は、意図するマルチブロック共重合体(P)の構造を電子顕微鏡、原子間力顕微鏡又は小角X線散乱等で観察することにより、ブロック間の相分離性を容易に推測することもできる。
【0042】
(重合体ブロックB)
重合体ブロックBは、ガラス転移点が10℃以下である重合体ブロックであり、粘着性を示す。重合体ブロックBのガラス転移点(以下、「ガラス転移点TgB」ともいう)が10℃以下であることにより、マルチブロック共重合体(P)が良好な粘着性を示すようになる。マルチブロック共重合体(P)は、重合体ブロックBを1分子内に1個のみ有していてもよいし、複数個有していてもよい。マルチブロック共重合体(P)が有する重合体ブロックBの個数は、効率良く製造する観点から、好ましくは1個又は2個である。マルチブロック共重合体(P)が重合体ブロックBを1分子内に複数個有する場合、複数個の重合体ブロックBの各ブロックの構造は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0043】
重合体ブロックBは、(メタ)アクリル系単量体に由来する構造単位を主体とする重合体ブロックである。重合体ブロックBが有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構造単位は、重合体ブロックBの全構成単量体単位に対して、50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることが更に好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。なお、重合体ブロックBにおいて、単量体に由来する構造単位の含有量の説明は、マルチブロック共重合体(P)が重合体ブロックBを1分子内に複数個有する場合、複数個の重合体ブロックBにおける合計の含有量をいう。
【0044】
重合体ブロックBは、ガラス転移点TgBが十分に低く、良好な粘着性を有する重合体を得ることができる点で、構成単量体単位として、下記式(2)で表される化合物に由来する構造単位を有することが好ましい。
CH=CR-C(=O)-O-(RO)n-R …(2)
(式(2)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数2~6の直鎖状又は分岐状アルキレン基を表し、Rは水素原子、炭素数1~20のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基を表す。nは0又は1~100の整数を表す。nが2以上の場合、式中の複数のRは、互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0045】
上記式(2)で表される化合物としては、(メタ)アクリル酸アルキル化合物、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル化合物、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル化合物、及び、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。これらの具体例について、(メタ)アクリル酸アルキル化合物及び(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル化合物としては、重合体ブロックAの製造に用いることができる単量体として例示した(メタ)アクリル酸アルキル化合物及び(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル化合物等をそれぞれ例示することができる。
【0046】
(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル化合物としては、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル及び(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等が挙げられる。
【0047】
ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート化合物は、上記式(2)中のnが2以上の化合物である。nは、好ましくは50以下、より好ましくは30以下である。ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート化合物として、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0048】
重合体ブロックBは、(メタ)アクリル酸アルキル化合物及び(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体(以下、「単量体C1」ともいう)に由来する構造単位を有していることが好ましい。重合体ブロックBにおいて、単量体C1に由来する構造単位の含有量は、重合体ブロックBの全構成単量体単位に対して、20~100モル%であることが好ましく、50~100モル%であることがより好ましく、80~100モル%であることが更に好ましく、90~100モル%であることが一層好ましく、95~100モル%であることが特に好ましい。単量体C1に由来する構造単位の含有量が上記範囲にあると、粘着物性の点で良好なマルチブロック共重合体(P)を得ることができる傾向にある。
【0049】
単量体C1としては、上記の中でも、柔軟性に優れたマルチブロック共重合体(P)を得ることができる点で、炭素数4~12のアルキル基を有するアクリル酸アルキル化合物及び炭素数2~8のアルコキシアルキル基を有するアクリル酸アルコキシアルキル化合物よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。また、粘着性能を加味した場合、単量体C1は、炭素数4~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキル化合物及び炭素数2~3のアルコキシアルキル基を有するアクリル酸アルコキシアルキル化合物よりなる群から選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0050】
重合体ブロックBは、上記式(2)で表される化合物に由来する構造単位のみを有していてもよいが、上記式(2)で表される化合物とは異なる化合物であって、かつ上記式(2)で表される化合物と共重合可能な化合物(以下、「他の単量体」ともいう)に由来する構造単位を更に有していてもよい。他の単量体は、(メタ)アクリル系単量体であってもよく、(メタ)アクリル系単量体以外の単量体であってもよい。他の単量体としては、1種又は2種以上を使用することができる。
【0051】
重合体ブロックBの製造に際し、架橋性官能基を有するビニル単量体を使用することにより、重合体ブロックBを、架橋性構造単位を有する構造とすることができる。重合体ブロックBが架橋性構造単位を有することにより、粘着剤組成物を用いて得られる粘着剤層の耐熱性及び高温接着性を向上できる点で好ましい。架橋性官能基を有するビニル単量体としては、特に限定されないが、例えば、不飽和カルボン酸、不飽和酸無水物、ヒドロキシ基含有ビニル化合物、エポキシ基含有ビニル化合物、反応性ケイ素基含有ビニル化合物等が挙げられる。
【0052】
架橋性官能基を有するビニル単量体の具体例としては、不飽和カルボン酸として、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、桂皮酸、不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステル(マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等のモノアルキルエステル)等を;不飽和酸無水物として、例えば無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等を;
ヒドロキシ基含有ビニル化合物として、上記式(2)で表される化合物として例示した重合体ブロックAの製造に用いることができる単量体として例示した(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル化合物及びポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート化合物、アリルアルコール等の不飽和アルコール、並びにo-ヒドロキシスチレン、m-ヒドロキシスチレン及びp-ヒドロキシスチレン等の水酸基含有スチレン系化合物等を;
エポキシ基含有ビニル化合物として、(メタ)アクリル酸グリシジル、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物等を;
反応性ケイ素基含有ビニル化合物として、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン等のビニルシラン化合物;(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸トリエトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸メチルジメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸ジメチルメトキシシリルプロピル等のシリル基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物、トリメトキシシリルプロピルビニルエーテル等のシリル基含有ビニルエーテル化合物、並びにトリメトキシシリルウンデカン酸ビニル等のシリル基含有ビニルエステル化合物等を、それぞれ挙げることができる。また、架橋性官能基を有するビニル単量体として、オキサゾリン基含有ビニル化合物又はイソシアネート基含有ビニル化合物等を使用してもよい。重合体ブロックBの製造に際し、架橋性官能基を有するビニル単量体としては、1種又は2種以上を使用することができる。
【0053】
重合体ブロックBが架橋性構造単位を有する場合、架橋性構造単位の含有量は、重合体ブロックBの全構成単量体単位に対して、好ましくは0.01モル%以上であり、より好ましくは0.1モル%以上であり、更に好ましくは0.5モル%以上である。重合体ブロックBにおける架橋性構造単位の含有量を0.01モル%以上とすることにより、良好な架橋構造を形成させ、より高い耐熱性及び高温条件下においてより良好な接着性を示すマルチブロック共重合体(P)を得やすくなる。また、架橋性構造単位の含有量の上限は特に制限されるものではないが、得られる粘着剤層の柔軟性を十分に確保する観点から、重合体ブロックBの全構成単量体単位に対して、好ましくは30モル%以下であり、より好ましくは20モル%以下であり、更に好ましくは15モル%以下であり、特に好ましくは10モル%以下である。
【0054】
重合体ブロックBが有する架橋性構造単位は、上記の中でも(メタ)アクリル系単量体に由来する構造単位であることが好ましい。これらの中でも、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル化合物、エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物、及びシリル基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体に由来する構造単位であることがより好ましい。また、重合体ブロックBの粘着力が高くなる傾向があることから、架橋性構造単位は、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル化合物に由来する構造単位であることが特に好ましい。(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル化合物としては、粘着性能の観点から、炭素数2~8のヒドロキシアルキル基を有する化合物が好ましく、炭素数2又は3のヒドロキシアルキル基を有する化合物が特に好ましい。
【0055】
重合体ブロックBが(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル化合物に由来する構造単位を有する場合、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル化合物に由来する構造単位の含有量は、良好な架橋構造を形成させる観点から、重合体ブロックBの全構成単量体単位に対して、好ましくは0.01モル%以上であり、より好ましくは0.1モル%以上であり、更に好ましくは0.5モル%以上である。また、粘着剤層の柔軟性を十分に確保する観点から、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル化合物に由来する構造単位の含有量は、重合体ブロックBの全構成単量体単位に対して、好ましくは20モル%以下であり、より好ましくは12モル%以下であり、更に好ましくは7モル%以下である。
【0056】
他の単量体としては、上記の他、例えば、(メタ)アクリル酸の脂肪族環式エステル化合物、(メタ)アクリル酸のアルケニルエステル化合物、(メタ)アクリル酸の芳香族エステル化合物、脂肪族ビニル化合物、芳香族ビニル化合物、アミド基含有ビニル化合物、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート化合物、多官能(メタ)アクリレート化合物、多官能アルケニル化合物、ニトリル基含有不飽和化合物、不飽和ジカルボン酸のジアルキルエステル化合物等が挙げられる。これらの使用量は、本発明の効果を損なわない範囲において、各化合物に応じて適宜設定することができる。
【0057】
(マルチブロック共重合体(P)の構造)
マルチブロック共重合体(P)は、重合体ブロックAと重合体ブロックBとを1分子内に合計4個以上有する限り、重合体ブロックA及び重合体ブロックBの1分子内における個数や、各重合体ブロックの組成等は特に限定されない。マルチブロック共重合体(P)は、高温条件下において高い剥離強度を示しながら、室温条件下での剥離強度についても十分に高くできる点で、重合体1分子において、ハードセグメントである重合体ブロックAの割合を多くしつつ、重合体ブロックAの個数を多くするとよい。
【0058】
こうした観点から、マルチブロック共重合体(P)においては、重合体ブロックAの個数を重合体ブロックBの個数よりも多くすることが好ましく、具体的には、1分子内における重合体ブロックAの個数が3個以上であることが好ましい。重合体ブロックAの個数は、マルチブロック共重合体(P)を製造する際の効率性の観点から、より好ましくは3個以上10個以下であり、更に好ましくは3個以上6個以下である。また、1分子内における重合体ブロックBの個数は特に限定されないが、高温条件下及び室温条件下のいずれにおいても剥離強度が十分に高いマルチブロック共重合体(P)を効率的に製造する観点から、1個又は2個が好ましく、1個であることがより好ましい。
【0059】
高温条件下及び室温条件下における剥離強度の改善効果と製造効率性との両立を図る観点から、マルチブロック共重合体(P)は、重合体ブロックAと重合体ブロックBとの合計数が4~7個であるブロック共重合体であることが好ましい。マルチブロック共重合体(P)の具体例としては、以下の(1)~(9)のブロック共重合体等が挙げられる。なお、以下の(1)~(9)中、A及びAは共に重合体ブロックAであり、これらのうちAは第1の重合体ブロック、Aは第2の重合体ブロックである。
【0060】
(1) 重合体ブロックA/重合体ブロックB/重合体ブロックA/重合体ブロックAからなる(ABA)テトラブロック共重合体。
(2) 重合体ブロックA/重合体ブロックA/重合体ブロックB/重合体ブロックA/重合体ブロックAからなる(ABA)ペンタブロック共重合体。
(3) 重合体ブロックA/重合体ブロックA/重合体ブロックB/重合体ブロックA/重合体ブロックAからなる(ABA)ペンタブロック共重合体。
(4) 重合体ブロックA/重合体ブロックB/重合体ブロックA/重合体ブロックB/重合体ブロックAからなる(ABABA)ペンタブロック共重合体。
(5) 重合体ブロックA/重合体ブロックB/重合体ブロックA/重合体ブロックB/重合体ブロックAからなる(ABABA)ペンタブロック共重合体。
(6) 重合体ブロックA/重合体ブロックB/重合体ブロックA/重合体ブロックB/重合体ブロックAからなる(ABABA)ペンタブロック共重合体。
(7) 重合体ブロックA/重合体ブロックB/重合体ブロックA/重合体ブロックB/重合体ブロックA/重合体ブロックAからなる(ABABA)ヘキサブロック共重合体。
(8) 重合体ブロックA/重合体ブロックB/重合体ブロックA/重合体ブロックB/重合体ブロックA/重合体ブロックB/重合体ブロックAからなる(ABABABA)ヘプタブロック共重合体。
(9) 重合体ブロックA/重合体ブロックA/重合体ブロックB/重合体ブロックA/重合体ブロックB/重合体ブロックA/重合体ブロックAからなる(ABABA)へプタブロック共重合体。
【0061】
マルチブロック共重合体(P)が対称な構造を有する重合体であると、重合体ブロックA及び重合体ブロックBが擬似架橋構造を形成しやすく、高温条件下及び室温環境下での剥離強度に優れたブロック共重合体を得ることができる点で好ましい。こうした観点から、マルチブロック共重合体(P)は、上記の(1)~(9)のうち、(2)~(4)、(8)及び(9)が好ましく、(2)~(4)がより好ましい。また、マルチブロック共重合体(P)は、製造効率が良い点で、重合体ブロックAと重合体ブロックBとの合計数が5個であるペンタブロック共重合体であることが好ましい。
【0062】
マルチブロック共重合体(P)は、重合体ブロックA及び重合体ブロックB以外の重合体ブロック(以下、「他の重合体ブロック」ともいう)を更に有するものであってもよい。マルチブロック共重合体(P)中における他の重合体ブロックの割合は、マルチブロック共重合体(P)の全単量体単位に対し、10モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましく、1モル%以下であることが更に好ましい。
【0063】
マルチブロック共重合体(P)における重合体ブロックAと重合体ブロックBとの比率は、重合体ブロックAと重合体ブロックBとの合計量に対する重合体ブロックAの割合(以下、「ハードセグメント比率」ともいう)が5モル%以上であることが好ましい。ハードセグメント比率が5モル%以上であると、相分離構造を形成し擬似架橋点となり得る重合体ブロックAと、ソフトセグメントとなる重合体ブロックBとを有する重合体により、高温条件下において優れた剥離強度を示す粘着剤が得られやすい。また、ハードセグメント比率が40モル%以下であると、熱による接合時に粘着剤層中の重合体が十分な流動性を示すため高い接着強度を確保でき、室温条件下での剥離強度を高くできるため好ましい。
【0064】
こうした観点から、ハードセグメント比率は、7モル%以上であることがより好ましく、10モル%以上であることが更に好ましく、11モル%以上であることがより更に好ましい。また、ハードセグメント比率は、30モル%以下であることがより好ましく、25モル%以下であることが更に好ましく、20モル%以下であることがより更に好ましく、17モル%以下であることが特に好ましい。なお、ハードセグメント比率は、モノマーの仕込み量と、ガスクロマトグラフ(GC)測定によるモノマー消費量とから算出した値である。
【0065】
マルチブロック共重合体(P)の数平均分子量(Mn)は、良好な接着性を発揮する観点から、10,000以上が好ましく、30,000以上がより好ましく、50,000以上が更に好ましく、80,000以上が特に好ましい。また、マルチブロック共重合体(P)のMnは、良好な流動性、塗工性等の加工性を十分に確保する観点から、1,000,000以下が好ましく、700,000以下がより好ましく、500,000以下が更に好ましく、300,000以下が特に好ましい。マルチブロック共重合体(P)のMnの範囲は、好ましくは10,000以上1,000,000以下であり、より好ましくは30,000以上700,000以下であり、更に好ましくは50,000以上500,000以下である。なお、マルチブロック共重合体(P)の分子量は、GPCにより測定したポリスチレン換算値である。
【0066】
マルチブロック共重合体(P)につき、重量平均分子量(Mw)とMnとの比(Mw/Mn)で表される分子量分布は、擬似架橋構造を形成させて粘着物性(接着性、凝集性等)を十分に確保する観点から、5.0以下が好ましく、4.0以下がより好ましく、3.5以下が更に好ましい。マルチブロック共重合体(P)のMw/Mnの下限は特に限定されず、1.0以上とすることができる。
【0067】
なお、本発明の粘着剤組成物によれば高温下及び室温下のいずれにおいても高い剥離強度を示す粘着剤層を形成できる理由は定かではないが、以下のようなことが考えられる。ハードセグメント(重合体ブロックA)とソフトセグメント(重合体ブロックB)とを有するブロック共重合体により粘着剤層を形成した場合、粘着剤層においては、ハードセグメントとソフトセグメントとのミクロ相分離により、ハードセグメントからなる海島構造がソフトセグメント中に形成される。このとき、ブロック共重合体として、ハードセグメント(A)-ソフトセグメント(B)-ハードセグメント(A)からなるトリブロック共重合体を用いた場合には海島構造が比較的大きくなるのに対し、マルチブロック共重合体(P)とした場合には、ハードセグメントの細分化により海島構造をより小さくすることが可能となる。これにより、マルチブロック共重合体(P)は、ハードセグメントとソフトセグメントとが混ざりやすくなっていると考えられる。このため、マルチブロック共重合体(P)は、室温及び高温の条件下ではハードセグメントが架橋点となって高い接着強度を示す一方、より高温である熱圧着時ではハードセグメントが流動しやすく(すなわち、マルチブロック共重合体(P)が流動しやすく)、これにより、マルチブロック共重合体(P)が被着体に強固に接着するものと推測される。
【0068】
<マルチブロック共重合体(P)の製造方法>
マルチブロック共重合体(P)は、重合体ブロックA及び重合体ブロックBを有し、かつ重合体ブロックA及び重合体ブロックBの合計数が4個以上である重合体を得ることができる限り、製造方法に特段の制限を受けるものではなく、公知の製造方法により得ることができる。マルチブロック共重合体(P)の製造方法としては、例えば、リビングラジカル重合及びリビングアニオン重合等の各種制御重合法を利用する方法や、官能基を有する重合体同士をカップリングする方法等を挙げることができる。これらの中でも、操作が簡便であり、広い範囲の単量体に対して適用することができる観点から、リビングラジカル重合法が好ましい。
【0069】
リビングラジカル重合は、バッチプロセス、セミバッチプロセス、乾式連続重合プロセス、連続攪拌槽型プロセス(CSTR)等のいずれのプロセスを採用してもよい。また、重合形式は、溶剤を用いないバルク重合、溶剤系の溶液重合、水系の乳化重合、ミニエマルション重合又は懸濁重合等の各種態様に適用することができる。
【0070】
リビングラジカル重合法の種類についても特段の制限はなく、可逆的付加-開裂連鎖移動重合法(RAFT法)、ニトロキシラジカル法(NMP法)、原子移動ラジカル重合法(ATRP法)、有機テルル化合物を用いる重合法(TERP法)、有機アンチモン化合物を用いる重合法(SBRP法)、有機ビスマス化合物を用いる重合法(BIRP法)及びヨウ素移動重合法等の各種重合方法を採用することができる。これらの中でも、重合の制御性と実施の簡便さの観点から、RAFT法、NMP法及びATRP法が好ましい。
【0071】
RAFT法では、特定の重合制御剤(RAFT剤)及び一般的なフリーラジカル重合開始剤の存在下、可逆的な連鎖移動反応を介して制御された重合が進行する。RAFT剤としては、ジチオエステル化合物、ザンテート化合物、トリチオカーボネート化合物及びジチオカーバメート化合物等、公知の各種RAFT剤を使用することができる。RAFT剤は活性点を1箇所のみ有する一官能のものを用いてもよいし、二官能以上のものを用いてもよい。マルチブロック型構造のブロック共重合体を効率的に得やすい点では、二官能型のRAFT剤を用いることが好ましい。また、RAFT剤の使用量は、用いる単量体及びRAFT剤の種類等により適宜調整される。
【0072】
RAFT法による重合の際に用いる重合開始剤としては、アゾ化合物、有機過酸化物及び過硫酸塩等の公知のラジカル重合開始剤を使用することができるが、安全上取り扱い易く、ラジカル重合時の副反応が起こりにくい点からアゾ化合物が好ましい。アゾ化合物の具体例としては、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)等が挙げられる。ラジカル重合開始剤は、1種類のみ使用してもよく、2種以上を併用してもよい。ラジカル重合開始剤の使用割合は特に制限されないが、重合反応を安定的に行うとともに分子量分布がより小さい重合体を得る点から、RAFT剤1モルに対し、ラジカル重合開始剤の使用量を0.01モル以上0.5モル以下とすることが好ましく、0.01モル以上0.2モル以下とすることがより好ましい。
【0073】
RAFT法による重合反応の際の反応温度は、好ましくは40℃以上100℃以下であり、より好ましくは45℃以上90℃以下であり、更に好ましくは50℃以上80℃以下である。反応温度が40℃以上であると、重合反応を円滑に進めることができる点で好ましい。また、反応温度が100℃以下であると、副反応を抑制できるとともに、使用できる開始剤や溶剤に関する制限が緩和される点で好ましい。
【0074】
NMP法では、ニトロキシドを有する特定のアルコキシアミン化合物等をリビングラジカル重合開始剤として用い、リビングラジカル重合開始剤に由来するニトロキシドラジカルを介して重合を進行させる。マルチブロック共重合体(P)の製造において、ニトロキシドラジカルの種類に特に制限はなく、商業的に入手可能のニトロキシド系重合開始剤を用いることができる。アクリレートを含む単量体を重合する際の重合制御性の観点から、ニトロキシド化合物として下記式(3)で表される化合物を用いることが好ましい。
【化2】
(式(3)中、Rは炭素数1~2のアルキル基又は水素原子であり、Rは炭素数1~2のアルキル基又はニトリル基であり、Rは-(CH)m-、mは0~2の整数であり、R及びRは、それぞれ独立に炭素数1~4のアルキル基である。式中の複数のRは、互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0075】
上記式(3)で表されるニトロキシド化合物は、70~80℃程度の加熱により一次解離し、ビニル系単量体と付加反応を起こす。この際、2以上のビニル基を有するビニル系単量体にニトロキシド化合物を付加することにより多官能性の重合前駆体を得ることが可能である。次いで、上記重合前駆体を加熱下で二次解離することにより、ビニル系単量体をリビング重合することができる。この場合、重合前駆体は分子内に2以上の活性点を有するため、より分子量分布の狭い重合体を得ることができる。マルチブロック共重合体(P)を効率的に得やすい観点から、分子内に活性点を2つ有する二官能型の重合前駆体を用いることが好ましい。ニトロキシド化合物の使用量は、用いる単量体及びニトロキシド化合物の種類等により適宜調整される。
【0076】
マルチブロック共重合体(P)をNMP法により製造する場合、上記式(3)で表されるニトロキシド化合物1モルに対し、下記式(4)で表されるニトロキシドラジカルを0.001~0.2モルの範囲で添加して重合を行ってもよい。
【化3】
(式(4)中、R及びRは、それぞれ独立に炭素数1~4のアルキル基である。式中の複数のRは互いに同一でも異なっていてもよく、式中の複数のRは互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0077】
上記式(4)で表されるニトロキシドラジカルを0.001モル以上添加することにより、ニトロキシドラジカルの濃度が定常状態に達する時間を短縮することができる。これにより、重合をより高度に制御することが可能となり、より分子量分布の狭い重合体を得ることができる点で好ましい。一方、ニトロキシドラジカルの添加量が多すぎると重合が進行しない場合がある。ニトロキシド化合物1モルに対するニトロキシドラジカルのより好ましい添加量は、0.01~0.5モルの範囲であり、更に好ましい添加量は0.05~0.2モルの範囲である。
【0078】
NMP法における反応温度は、好ましくは50℃以上140℃以下であり、より好ましくは60℃以上130℃以下であり、さらに好ましくは70℃以上120℃以下であり、特に好ましくは80℃以上120℃以下である。反応温度が50℃以上であれば、重合反応を円滑に進めることができる。一方、反応温度が140℃以下であれば、ラジカル連鎖移動等の副反応が抑制される傾向がある。
【0079】
ATRP法では、一般に有機ハロゲン化物を開始剤とし、触媒に遷移金属錯体を用いて重合反応が行われる。開始剤である有機ハロゲン化物は、一官能性のものを用いてもよいし、二官能以上のものを用いてもよい。マルチブロック共重合体(P)を効率的に得やすい点では、二官能性の化合物を用いることが好ましい。ハロゲンの種類としては、臭化物及び塩化物が好ましい。ATRP法における反応温度は、好ましくは20℃以上200℃以下であり、より好ましくは50℃以上150℃以下である。反応温度を20℃以上とすると、重合反応を円滑に進めることができる点で好ましい。
【0080】
リビングラジカル重合法により、重合体ブロックA/重合体ブロックA/重合体ブロックB/重合体ブロックA/重合体ブロックAからなるペンタブロック共重合体を得る場合、例えば、各ブロックを順次重合することにより目的とするペンタブロック共重合体を得てもよい。この場合、まず、第1重合工程として、重合体ブロックAの構成単量体を用いて重合体ブロックAを得る。次いで、第2重合工程として、重合体ブロックAの構成単量体を用いて重合体ブロックAを得て、更に第3重合工程として、重合体ブロックBの構成単量体を用いて重合し、次いで、第4重合工程として、重合体ブロックAの構成単量体を用いて重合し、更に第5重合工程として、重合体ブロックAの構成単量体を用いて重合することによりABA型のペンタブロック共重合体を得ることができる。重合開始剤としては、上記した一官能性の重合開始剤又は重合前駆体を用いることが好ましい。
【0081】
以下に示す3段階の重合工程を含む方法により製造した場合は、より効率的に目的物が得られる点で好ましい。すなわち、第1重合工程として、重合体ブロックAの構成単量体を用いて重合体ブロックAを得た後、第2重合工程として、重合体ブロックAの構成単量体を重合して重合体ブロックAを得る。これにより、重合体ブロックA-重合体ブロックA-重合体ブロックAからなる、A型のトリブロック共重合体を得ることができる。さらに、第3重合工程として、重合体ブロックBの構成単量体を重合して重合体ブロックBを得る。これにより、重合体ブロックA-重合体ブロックA-重合体ブロックB-重合体ブロックA-重合体ブロックAからなる、ABA型のペンタブロック共重合体を得ることができる。この場合、重合開始剤としては、二官能性の重合開始剤、重合前駆体及び重合制御剤のうち1種以上を用いることが好ましい。この方法によれば、各ブロックを順次重合して製造する場合に比べて、製造工程を簡略化することができる。
【0082】
マルチブロック共重合体(P)の重合は、必要に応じて連鎖移動剤の存在下で実施してもよい。連鎖移動剤は公知のものを使用することができ、具体的には、エタンチオール、1-プロパンチオール、2-プロパンチオール、1-ブタンチオール、2-ブタンチオール、1-ヘキサンチオール、2-ヘキサンチオール、2-ブチルブタン-1-チオール、1,1-ジメチル-1-ペンタンチオール、1-ドデカンチオール、tert-テトラデカンチオール、1-ヘキサデカンチオール及び1-オクタデカンチオール等の炭素数2~20のアルキル基を有するアルキルチオール化合物の他、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、2-メルカプトエタノール等が挙げられる。連鎖移動剤としては、これらのうちの1種又は2種以上を用いることができる。
【0083】
マルチブロック共重合体(P)の製造に際しては、リビングラジカル重合において公知の重合溶媒を用いることができる。具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン及びアニソール等の芳香族化合物;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル及び酢酸ブチル等のエステル化合物;アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン化合物;ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、アルコール、水等が挙げられる。また、重合溶媒を使用せず、塊状重合等の態様で行ってもよい。
【0084】
<その他の成分>
マルチブロック共重合体(P)は、単独でも粘着剤材料として使用できるが、必要に応じて、マルチブロック共重合体(P)以外の重合体や添加剤等の成分(以下、「その他の成分」ともいう。)を粘着剤組成物に配合して使用してもよい。以下に、本粘着剤組成物に配合されてもよいその他の成分について説明する。
【0085】
(架橋剤)
マルチブロック共重合体(P)が重合体ブロックA及び重合体ブロックBの少なくとも一方に架橋性官能基を有する場合、当該架橋性官能基と反応可能な架橋剤を粘着剤組成物に配合してもよい。また、必要に応じて更に加熱処理等を施すことにより、用途に応じた粘着剤を得ることができる。
【0086】
架橋剤(硬化剤)としては、グリシジル基を2つ以上有するグリシジル化合物、イソシアネート基を2つ以上有するイソシアネート化合物、アジリジニル基を2つ以上有するアジリジン化合物、オキサゾリン基を有するオキサゾリン化合物、金属キレート化合物、ブチル化メラミン化合物等が挙げられる。これらの中でも、高温条件下における粘着物性に優れる点でイソシアネート化合物が好ましい。
【0087】
架橋剤の具体例としては、グリシジル化合物として、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、テトラグリシジルキシレンジアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル等の多官能グリシジル化合物を;
イソシアネート化合物として、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、p-フェニレンジイソシアネート(PPDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)等の芳香族イソシアネート化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、リシンジイソシアネート(LDI)等の脂肪族イソシアネート化合物;イソホロンジイソシアネート(IPDI)、シクロヘキシルジイソシアネート(CHDI)、水添化XDI(H6XDI)、水添化MDI(H12MDI)等の脂環族イソシアネート化合物;ウレタン変性体、2量体、3量体、カルボジイミド変性体、ウレア変性体、イソシアヌレート変性体、オキサゾリドン変性体、イソシアネート基末端プレポリマー等の変性イソシアネート化合物等を;
アジリジン化合物として、1,6-ビス(1-アジリジニルカルボニルアミノ)ヘキサン、1,1’-(メチレン-ジ-p-フェニレン)ビス-3,3-アジリジル尿素、エチレンビス-(2-アジリジニルプロピオネート)、2,4,6-トリアジリジニル-1,3,5-トリアジン、トリメチロールプロパン-トリス-(2-アジリジニルプロピオネート)等を、それぞれ挙げることができる。
【0088】
粘着剤組成物が架橋剤を含有する場合、その含有量は特に限定されないが、マルチブロック共重合体(P)の含有量に対して、通常、0.01~10質量%であり、好ましくは0.03~5質量%、より好ましくは0.05~2質量%である。
【0089】
(粘着付与剤)
粘着剤組成物は、更に粘着付与剤を含有するものであってもよい。粘着付与剤としては、例えば、ロジンエステル、ガムロジン、トール油ロジン、水添ロジンエステル、マレイン化ロジン、不均化ロジンエステル等のロジン誘導体;テルペンフェノール樹脂、α-ピネン、β-ピネン、リモネン等を主体とするテルペン系樹脂;(水添)石油樹脂;クマロン-インデン系樹脂;水素化芳香族コポリマー;スチレン系樹脂;フェノール系樹脂;キシレン系樹脂;(メタ)アクリル酸エステルオリゴマー等が挙げられる。粘着付与剤は、1種単独で使用されてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0090】
粘着付与剤としては、透明性等の観点から、(メタ)アクリル酸エステルオリゴマーを好適に使用することができる。粘着付与剤として使用する(メタ)アクリル酸エステルオリゴマーのガラス転移点は、通常、10~300℃であり、好ましくは15~250℃、より好ましくは20~200℃、更に好ましくは30~150℃である。(メタ)アクリル酸エステルオリゴマーのガラス転移点が上記範囲内であると、(メタ)アクリル酸エステルオリゴマーの添加による接着性の向上効果をより高くすることができる。より具体的には、ガラス転移点が30~150℃、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量が500~10,000である(メタ)アクリル酸エステルオリゴマーを好適に使用することができる。
【0091】
粘着付与剤の含有量は、マルチブロック共重合体(P)の全量に対して、好ましくは0~40質量%であり、より好ましくは0~20質量%であり、更に好ましくは0~10質量%である。
【0092】
その他、粘着剤組成物に配合される添加剤としては、例えば、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、難燃剤、防かび剤、シランカップリング剤、充填剤、着色剤等が挙げられる。添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲において、各種化合物に応じて適宜設定することができる。
【0093】
本粘着剤組成物は、マルチブロック共重合体(P)、及び必要に応じて配合されるその他の成分が溶剤に溶解又は分散された液状の組成物であってもよい。粘着剤組成物の調製に使用する溶剤としては、マルチブロック共重合体(P)を溶解可能な有機溶媒、又はマルチブロック共重合体(P)を分散可能な水媒体が挙げられる。当該有機溶媒の具体例としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、炭化水素系溶媒等が挙げられる。有機溶媒は、これらの1種でもよく、2種以上の混合溶媒であってもよい。
【0094】
粘着剤組成物が液状である場合、粘着剤組成物における固形分濃度(すなわち、粘着剤組成物の全体質量に対する、粘着剤組成物中の溶剤以外の成分の質量の割合)は、特に限定されないが、好ましくは1~70質量%である。固形分濃度が1質量%以上であると、十分な厚みを有する粘着剤層を形成することができる点で好ましい。また、固形分濃度が70質量%以下であると、良好な塗工性を確保でき、均一な厚みの粘着剤層を形成しやすい点で好適である。粘着剤組成物における固形分濃度は、より好ましくは5~50質量%であり、更に好ましくは10~45質量%である。
【0095】
本粘着剤組成物をセパレーター等の支持体上に塗工して粘着剤層を形成することにより、例えば粘着シートや粘着テープ等といった粘着性製品を得ることができる。この粘着性製品は、被着体どうしを貼り合わせるための粘着剤として用いることができる。
【0096】
支持体としては、各種樹脂材料からなる樹脂フィルム(セパレーター)や、基材等が用いられる。セパレーターを形成する樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、アセテート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。基材としては、特に限定されないが、例えば、繊維生地、樹脂フィルム、エラストマーシート、紙類、金属フィルム等が挙げられる。
【0097】
粘着剤層の形成は、例えば、液状の粘着剤組成物を公知の塗工方法により支持体に塗布し、好ましくは加熱等の乾燥処理によって溶媒を除去することにより行う。粘着剤層を形成するための加熱温度及び加熱時間は、溶媒を除去可能であればよく、粘着剤組成物の溶媒や固形分濃度等に応じて適宜設定され得る。
【0098】
粘着性製品は、剥離強度の異なる2種のセパレーターにより粘着剤層が挟持された、いわゆる基材レスの態様であってもよいし、接合対象の一方を基材とするものあってもよい。また、粘着性製品の形状についても特段の制限はなく、使用状況に応じて適宜設定される。例えば粘着シートは、枚葉状であってもよく、ロール状であってもよく、短冊状に裁断されていてもよく、あるいは接合箇所に応じた任意の形状を有していてもよい。粘着性製品における粘着剤層の厚さは、接合対象や、接合箇所の面積及び形状等により適宜設定すればよい。粘着剤層の厚さは、通常、1~200μmである。また、粘着性製品の粘着剤層を所望の厚さとするために、複数の粘着剤層を積層することによって粘着性製品の粘着剤層を形成してもよい。
【0099】
本粘着剤組成物を用いて形成された粘着剤層を被着体に接合するには、まず、粘着剤層を被着体に貼り合わせた積層体を加熱(好ましくは加熱圧着)することにより行うことができる。加熱圧着により粘着剤層を被着体に接合する場合、接合時の圧力は、所望の接合強度が得られるように適宜設定すればよい。また、加熱温度は、用いる被着体の耐熱温度以下とすることが好ましい。本粘着剤組成物を用いて形成された粘着剤層は、被着体を繊維生地とした場合に、熱圧着時に樹脂が繊維生地の網目に含浸しても接合箇所が柔軟であり、かつ高強度で接着することができる点で好ましい。
【0100】
本発明の粘着剤組成物は、粘着剤組成物及び粘着性製品は、種々の用途に適用することができる。具体的には、例えば衣料品(服飾雑貨を含む。)、電子機器、自動車用内装品又は外装品、光学機器、手芸用品、玩具類、生活雑貨、家庭用品、家具類等に適用することができる。特に、本開示の粘着剤組成物は、繊維類に対しても生地の柔軟性及び風合いを保持することができ、しかも接着性が高い粘着剤層を形成可能であることから、繊維生地(例えば、織物、編物、不織布、レース、皮革(天然皮革、合成皮革、人工皮革等)、毛皮等)に対して好適に使用することができ、中でも特に、衣料用の繊維生地に好適に使用できる。
【0101】
接合する繊維生地は特に制限されず、衣料用や手芸用等に使用される繊維生地、例えばポリエステル、ポリアミド及びアクリル繊維等の合成繊維;レーヨン、キュプラ等の再生繊維;アセテート等の半合成繊維;木綿、麻、羊毛等の天然繊維等を適宜用いることができる。また、接合する繊維生地の表面には撥水処理等が施されていてもよい。本粘着剤組成物を用いて製造される衣料についても特に限定されず、例えば、日常着用している洋服や和服、民族服、下着(例えば、無縫製でのランジェリー製品やインナー製品等)、上着、トップス、ボトムス、アウトドア用品、作業着、制服、礼服、水着、スポーツウェア、靴下、帽子、靴等といった幅広い用途の衣料品の製造時や手芸用途等に、粘着剤として利用することができる。
【実施例
【0102】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下において「部」及び「%」は、特に断らない限り質量部及び質量%を意味する。実施例及び比較例で使用した重合体の分析方法及び製造方法は以下のとおりである。
【0103】
<分子量測定>
ゲル浸透クロマトグラフ装置(型式名「HLC-8320」、東ソー社製)を用いて、下記の条件よりポリスチレン換算による数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を得た。また、得られた値から分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
○測定条件
カラム:東ソー社製TSKgel SuperMultiporeHZ-M×4本
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン
検出器:RI
流速:600μL/min
なお、重合体が同じ単量体組成の重合体ブロックを1分子中に複数個有する場合、その重合体ブロックの合計の数平均分子量を「Total数平均分子量」と表す。すなわち、ABA型のペンタブロック共重合体の場合、重合体ブロックAの「Total数平均分子量」は、当該ペンタブロック共重合体が有する2個の重合体ブロックAの数平均分子量の合計の値である。
【0104】
<重合体のハードセグメント比率>
重合体のハードセグメント比率は、モノマーの仕込み量と、ガスクロマトグラフ(GC)測定によるモノマー消費量とから同定・算出した。
【0105】
<ガラス転移点(Tg)の測定>
重合体のガラス転移点(Tg)は、示差走査熱量計を用いて得られた熱流束曲線のベースラインと、変曲点での接線との交点から決定した。熱流束曲線は、試料約10mgを-50℃まで冷却し、5分間保持した後、10℃/minで300℃まで昇温し、引き続き-50℃まで冷却し、5分間保持した後、10℃/minで350℃まで昇温する条件で得た。
測定機器:エスアイアイ・ナノテクノロジー社製DSC6220
測定雰囲気:窒素雰囲気下
なお、各重合体ブロックのガラス転移温度は、測定対象の重合体ブロックの単独重合体を製造し、上記の測定方法に従い示差走査熱量(DSC)測定を行うことにより求めた。
【0106】
1.重合体の合成
[合成例1]
攪拌機、温度計を装着した3Lフラスコに、RAFT剤としてジベンジルトリチオカーボネート(以下、「DBTTC」ともいう)(1.33g)、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(以下、「ABN-E」ともいう)(0.17g)、単量体としてスチレン(以下、「Stともいう)(26g)、及び、N-フェニルマレイミド(以下、「PhMI」ともいう)(44g)、溶媒としてアセトニトリル(330g)を仕込み、窒素バブリングで十分脱気し、70℃の恒温槽で重合を開始した。3時間後、室温まで冷却して反応を停止した。得られた重合体ブロックAは、Mn10,400であった。次に、重合体ブロックAの入った3Lフラスコに、単量体としてアクリル酸2-メトキシエチル(以下、「MEA」ともいう)(45g)及びPhMI(60g)を仕込み、窒素バブリングで十分脱気し、70℃の恒温槽で重合を開始した。6時間後、室温まで冷却して反応を停止した。得られた重合体ブロックAは、Mn19,200であった。さらに、重合体ブロックAの入った3Lフラスコに、重合開始剤としてABN-E(0.17g)、単量体としてMEA(776g)、アクリル酸2-ヒドロキシエチル(以下「HEA」ともいう)(50g)、アクリル酸n-ブチル(以下、「BA」という)(169g)を仕込み、窒素バブリングで十分脱気し、70℃の恒温槽で重合を開始した。6時間後、室温まで冷却し、アセトニトリルを追加することで固形分濃度が30%になるように調整し、ABA型のマルチブロック共重合体(以下「重合体(P-1)」ともいう)を含有する粘着剤溶液を得た。得られたマルチブロック共重合体は、Mn118,000、Mw/Mn2.06であった。
【0107】
[合成例2]
使用したRAFT剤、重合開始剤、単量体、並びに溶媒の種類及び量を表1に記載したように変更した以外は合成例1と同様の操作により、ABA型のマルチブロック共重合体(以下、「重合体(P-2)」ともいう)を含有する粘着剤溶液を得た。得られたマルチブロック共重合体は、Mn86,000、Mw/Mn3.24であった。なお、重合体ブロックAを合成した時点での分子量(すなわち、重合体ブロックAのTotal数平均分子量)は、Mn10,700、重合体ブロックAを合成した時点での分子量は、Mn16,300であった。
【0108】
[合成例3]
使用したRAFT剤、重合開始剤、単量体、並びに溶媒の種類及び量を表2に記載したように変更した以外は合成例1と同様にして重合を行うことによりABABA型のマルチブロック共重合体(以下、「重合体(P-3)」ともいう)を含有する粘着剤溶液を得た。具体的には、まず、重合体ブロックA及び重合体ブロックABAを順に得て、次いで、重合体ブロックABAが入った3Lフラスコに、単量体としてSt及びMEAを重合開始剤と共に仕込み、重合(2回目の重合体ブロックAの重合)を行うことにより重合体(P-3)を含有する粘着剤溶液を得た。得られたマルチブロック共重合体は、Mn118,000、Mw/Mn1.98であった。なお、重合体ブロックAを合成した時点での分子量は、Mn9,800、重合体ブロックABAを合成した時点での分子量は、Mn108,200であった。
【0109】
[合成例4]
内容積3Lの4つ口フラスコに、MEA(421g)、HEA(21g)、BA(78g)、及び酢酸エチル(770g)を仕込み、この混合液を窒素ガスのバブリングにより十分に脱気し、混合液の内温を75℃に上昇させ、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬社製、V-65)(0.35g)を仕込み、重合を開始した。5時間後、酢酸エチルを固形分が30質量%になるように追加して、アクリル系粘着性ポリマー(以下、「重合体(Q-1)」ともいう)の酢酸エチル溶液を得た。得られた重合体(Q-1)は、Mn92,0000、Mw/Mn8.72、Tg=-35℃であった。
【0110】
[合成例5]
使用したRAFT剤、重合開始剤、単量体、並びに溶媒の種類及び量を表1に記載したように変更した以外は合成例1と同様にして重合体ブロックAを合成し、反応を停止させた後、メタノールから再沈殿精製及び真空乾燥することで重合体ブロックAを得た。次いで、得られた重合体ブロックA、並びに表1に示す単量体及び重合開始剤を仕込み、合成例1と同様にして重合を行うことにより、ABA型のトリブロック共重合体(以下、「重合体(Q-2)」ともいう)を含有する粘着剤溶液を得た。得られたトリブロック共重合体は、Mn160,000、Mw/Mn1.77であった。なお、重合体ブロックAを合成した時点での分子量は、Mn10,900であった。
【0111】
[合成例6]
使用したRAFT剤、重合開始剤、単量体、並びに溶媒の種類及び量を表1に記載したように変更した以外は合成例5と同様の操作を行うことにより、ABA型のトリブロック共重合体(以下、「重合体(Q-3)」ともいう)を含有する粘着剤溶液を得た。得られたトリブロック共重合体は、Mn145,800、Mw/Mn1.81であった。重合体ブロックAを合成した時点での分子量は、Mn20,800であった。
【0112】
【表1】
【0113】
【表2】
【0114】
なお、合成例5、6では、再沈殿精製及び乾燥して回収した重合体ブロックAを用いて重合体ブロックBを合成したのに対し、合成例1、2では、重合体ブロックAを含有する重合体溶液を用いて重合体ブロックBを合成したため、表1では、「重合体ブロックBの合成」の「重合体ブロックA」の欄に「※」と表記した。表1中、「-」の表記は、その化合物を使用しなかったことを意味する。
【0115】
2.粘着剤組成物の調製及び評価
[実施例1]
上記合成例1で得られた重合体(P-1)の固形分濃度が30質量%の粘着剤組成物を、厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート(PET)製セパレーター上に、乾燥後の粘着剤層の厚みが100μmとなるように塗布した。粘着剤組成物を100℃で6分間乾燥することにより酢酸エチルを除去した。乾燥後、上記セパレーターとは剥離力の異なる厚さ38μmのPET製セパレーターを貼り合わせて、両面セパレーター付き粘着フィルム試料を得た。得られた粘着フィルム試料を用いて、以下に示す方法により評価を行った。評価結果を表3に示す。また、表3には、重合体の組成比及び物性を併せて示す。なお、表3のモノマー欄に記載の数値は、重合体のモノマー組成[モル%]を表す。重合体のモノマー組成は、仕込み量とGC測定によるモノマー消費量とから算出した。
【0116】
<23℃剥離強度の評価>
10mm幅にカットした粘着フィルム試料により、ポリエステル生地2枚を貼り合わせ、ポリエステル生地/粘着フィルム/ポリエステル生地の順に積層された積層体を得た。得られた積層体を熱プレス処理(条件:130℃、3kg/cm、10秒間)により圧着した。圧着後の積層体を試験片とし、引張り試験機INSTRON 5566A(インストロンジャパン社製)を用いて、測定温度23℃、試験片幅10mm、剥離速度300mm/分の条件でT型剥離強度[N/10mm]を測定した。
<80℃剥離強度の評価>
剥離強度の測定温度を23℃から80℃に変更した以外は「23℃剥離強度の評価」と同様にしてT型剥離強度[N/10mm]を測定した。
【0117】
[実施例2、3及び比較例1~3]
合成例2~6のそれぞれで得られた粘着剤組成物(固形分濃度30質量%)を用いて、実施例1と同様に各種評価を行った。結果を表3に示す。
【0118】
【表3】
【0119】
表3に示すように、マルチブロック共重合体(P)を含有する粘着剤組成物を用いた実施例1~3ではいずれも、80℃剥離強度は3.3N/10mm以上と高い値を示し、また23℃剥離強度についても11.3N/10mm以上と高い値を示した。これらの結果から、実施例1~3の粘着剤組成物は、高温下及び室温下のいずれにおいても生地どうしが剥離しにくいという結果が得られた。
【0120】
一方、ソフトセグメントのみからなる重合体(Q-1)を用いた比較例1では、80℃剥離強度及び23℃剥離強度のいずれも実施例1~3より低く、特に80℃剥離強度は0.2N/mmと最も低い値であった。また、トリブロック共重合体である重合体(Q-1)を用いた比較例2では、23℃剥離強度については実施例1~3と同等であったものの、80℃剥離強度の値が1.2N/10mmと低く、高温条件下において接着部分が剥離しやすかった。ハードセグメントの割合が実施例2と同等であるトリブロック共重合体(重合体(Q-3))を用いた比較例3では、80℃剥離強度及び23℃剥離強度のいずれも実施例1~3よりも低かった。
【0121】
以上の結果から、マルチブロック共重合体(P)を含有する粘着剤組成物によれば、高温条件下及び室温条件下のいずれにおいても高い剥離強度を示す粘着剤が得られることが明らかとなった。