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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 13/02 20060101AFI20240312BHJP
   B60G 17/018 20060101ALI20240312BHJP
   G05B 11/36 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
G05B13/02 L
B60G17/018
G05B11/36 G
G05B11/36 501E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019202587
(22)【出願日】2019-11-07
(65)【公開番号】P2021077030
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 彰人
【審査官】西井 香織
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-135120(JP,A)
【文献】国際公開第2019/087500(WO,A1)
【文献】Alireza Ghods, Diane J. Cook,Activity2Vec: Learning ADL Embeddings from Sensor Data with a Sequence-to-Sequence Model,2019 KDD workshop on Applied data science in Healthcare,米国,Cornell University,2019年07月12日,https://arxiv.org/pdf/1907.05597.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 13/02
B60G 17/018
G05B 11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時系列データを検出するセンサからの出力に基づく、ノイズを含んだセンサ信号を取得し、前記センサ信号に対応した前記ノイズを含む第1信号と、前記ノイズが除去された前記第1信号を示す第2信号と、の対応関係を学習するようにトレーニングされたリカレントニューラルネットワークに基づいて、前記センサ信号に含まれる前記ノイズを低減するノイズ低減処理部と、
前記ノイズ低減処理部からの出力に基づいてアクチュエータを制御する制御処理部と、
を備え
前記ノイズが除去された前記第1信号を示す前記第2信号は、実測値の位相に対する推定値の位相の遅れが抑制されている、
制御装置。
【請求項2】
前記センサは、車両の状態量に関する前記時系列データを検出する状態量センサを含む、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記状態量センサは、前記車両の前記状態量としての前記車両の上下方向の変位に関する前記時系列データを検出する変位センサを含み、
前記アクチュエータは、前記車両のサスペンションを制御するサスペンションアクチュエータを含む、
請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記センサと前記ノイズ低減処理部との間に設けられ、前記センサからの出力に対する信号処理を実行する信号処理部をさらに備え、
前記ノイズ低減処理部は、前記信号処理部からの出力を前記センサ信号として取得し、当該センサ信号に含まれる、少なくとも前記センサによる前記時系列データの検出時に発生する前記ノイズおよび前記信号処理部による前記信号処理に起因して発生する前記ノイズを低減する、
請求項1~3のうちいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記信号処理部は、前記信号処理として微分処理または積分処理を実行する、
請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記ノイズ低減処理部と前記制御処理部との間に設けられ、前記ノイズ低減処理部から出力される前記ノイズが低減された前記センサ信号に対する信号処理を実行する信号処理部をさらに備え、
前記ノイズ低減処理部は、前記センサからの出力を前記センサ信号として取得し、当該センサ信号に含まれる、少なくとも前記センサによる前記時系列データの検出時に発生する前記ノイズを低減し、
前記制御処理部は、前記ノイズ低減処理部からの出力に応じた前記信号処理部からの出力に基づいて、前記アクチュエータを制御する、
請求項1~3のうちいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項7】
前記リカレントニューラルネットワークは、LSTM(Long short-term memory)に基づくSeq2Seq(Sequence to Sequence)モデルにより構成されている、
請求項1~6のうちいずれか1項に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、時系列データを検出するセンサからの出力に基づくセンサ信号に基づく制御を実行するにあたり、センサ信号に含まれる高周波帯域のノイズをローパスフィルタによって低減する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-135120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来の技術では、低周波帯域のノイズを低減しきることができないとともに、高周波帯域において位相の遅れが発生することがある。この場合、センサ信号に基づく制御の性能が低下することがある。
【0005】
そこで、本開示の課題の一つは、センサ信号のノイズをより適切に低減し、センサ信号に基づく制御の性能が低下するのを抑制することが可能な制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一例としての制御装置は、時系列データを検出するセンサからの出力に基づくセンサ信号であって、ノイズを含んだセンサ信号を取得し、センサ信号に対応したノイズを含む第1信号と、ノイズが除去された第1信号を示す第2信号と、の対応関係を学習するようにトレーニングされたリカレントニューラルネットワークに基づいて、センサ信号に含まれるノイズを低減するノイズ低減処理部と、ノイズ低減処理部からの出力に基づいてアクチュエータを制御する制御処理部と、を備える。
【0007】
上述した制御装置によれば、適切にトレーニングされたリカレントニューラルネットワークに基づいて、センサ信号のノイズをより適切に低減し、センサ信号に基づく制御の性能が低下するのを抑制することができる。
【0008】
上述した制御装置において、センサは、車両の状態量に関する時系列データを検出する状態量センサを含む。このような構成によれば、車両の状態量に関する時系列データを利用した制御の性能が低下するのを抑制することができる。
【0009】
この場合において、状態量センサは、車両の状態量としての車両の上下方向の変位に関する時系列データを検出する変位センサを含み、アクチュエータは、車両のサスペンションを制御するサスペンションアクチュエータを含む。このような構成によれば、車両の上下方向の変位に関する時系列データを利用したサスペンションの制御の性能が低下するのを抑制することができる。
【0010】
また、上述した制御装置は、センサとノイズ低減処理部との間に設けられ、センサからの出力に対する信号処理を実行する信号処理部をさらに備え、ノイズ低減処理部は、信号処理部からの出力をセンサ信号として取得し、当該センサ信号に含まれる、少なくともセンサによる時系列データの検出時に発生するノイズおよび信号処理に起因して発生するノイズを低減する。このような構成によれば、少なくともセンサによる時系列データの検出時に発生するノイズおよび信号処理部による信号処理部による信号処理に起因して発生するノイズを低減し、信号処理の結果の精度を向上させ、当該信号処理の結果に基づく制御の性能が低下するのを抑制することができる。
【0011】
この場合において、信号処理部は、信号処理として微分処理または積分処理を実行する。このような構成によれば、微分処理または積分処理の結果の精度を向上させ、当該信号処理の結果に基づく制御の性能が低下するのを抑制することができる。
【0012】
また、上述した制御装置は、ノイズ低減処理部と制御処理部との間に設けられ、ノイズ低減処理部から出力されるノイズが低減されたセンサ信号に対する信号処理を実行する信号処理部をさらに備え、ノイズ低減処理部は、センサからの出力をセンサ信号として取得し、当該センサ信号に含まれる少なくともセンサによる時系列データの検出時に発生するノイズを低減し、制御処理部は、ノイズ低減処理部からの出力に応じた信号処理部からの出力に基づいて、アクチュエータを制御する。このような構成によれば、少なくともセンサによる時系列データの検出時に発生するノイズを低減することで信号処理の結果の精度を向上させ、当該信号処理の結果に基づく制御の性能が低下するのを抑制することができる。
【0013】
また、上述した制御装置において、リカレントニューラルネットワークは、LSTM(Long short-term memory)に基づくSeq2Seq(Sequence to Sequence)モデルにより構成されている。このような構成によれば、リカレントニューラルネットワークを時系列データのノイズの低減に適した形に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施形態にかかる制御装置の構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
図2図2は、実施形態にかかるノイズ低減ネットワークの構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
図3図3は、実施形態にかかるノイズ低減ネットワークのエンコーダ部の構成の一例を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
図4図4は、実施形態にかかるノイズ低減ネットワークのデコーダ部の構成の一例を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
図5図5は、比較例にかかる技術によるノイズの低減の結果の一例を示した例示的かつ模式的な図である。
図6図6は、実施形態にかかる技術によるノイズの低減の結果の一例を示した例示的かつ模式的な図である。
図7図7は、実施形態の変形例にかかる制御装置の構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施形態および変形例を図面に基づいて説明する。以下に記載する実施形態および変形例の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および効果は、あくまで一例であって、以下の記載内容に限られるものではない。
【0016】
<実施形態>
図1は、実施形態にかかる制御装置100の構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【0017】
図1に示されるように、実施形態にかかる制御装置100は、センサ30からの出力に応じて、アクチュエータ50を制御するように構成されている。制御装置100は、たとえばプロセッサおよびメモリなどのハードウェア資源を備えたマイクロコンピュータとして構成される。
【0018】
なお、以下では、一例として、センサ30およびアクチュエータ50が車両に搭載される、すなわち制御装置100が車両に搭載されるマイクロコンピュータであるECU(Electronic Control Unit)として構成される例について説明する。しかしながら、実施形態の技術は、車両の制御以外の一般的な制御にも適用することが可能である。
【0019】
また、以下では、一例として、センサ30が、車両の状態量に関する時系列データを検出する状態量センサ、より具体的には車両の上下方向の変位に関する時系列データを検出する変位センサ(車高センサ)として構成され、アクチュエータ50が、車両のサスペンションを制御するサスペンションアクチュエータとして構成される例について説明する。しかしながら、実施形態では、センサ30およびアクチュエータ50が互いに対応していれば、センサ30およびアクチュエータ50の組み合わせがどのような形であってもよい。
【0020】
ここで、従来、時系列データを検出する上記のようなセンサ30からの出力に基づくセンサ信号に基づく制御を実行するにあたり、センサ信号に含まれる高周波帯域のノイズをローパスフィルタによって低減する技術が知られている。
【0021】
しかしながら、上記のような従来の技術では、低周波帯域のノイズを低減しきることができないとともに、高周波帯域において位相の遅れが発生することがある(実例は後述する図5参照)。この場合、センサ信号に基づく制御の性能が低下することがある。
【0022】
そこで、実施形態は、制御装置100を以下のように構成することで、センサ信号のノイズをより適切に低減し、センサ信号に基づく制御の性能が低下するのを抑制することを実現する。
【0023】
より具体的に、制御装置100は、信号処理部110と、ノイズ低減処理部120と、制御処理部130と、を備えている。これらの構成は、たとえば、マイクロコンピュータとして構成された制御装置100のプロセッサがメモリに記憶されたコンピュータプログラムを読み出して実行した結果として、すなわちハードウェアとソフトウェアとの協働により実現されうる。ただし、実施形態では、これらの構成の少なくとも一部または全部が専用の回路(circuitry)のようなハードウェアのみによって実現されてもよい。
【0024】
信号処理部110は、センサ30からの出力に対する信号処理を実行する。信号処理とは、たとえば、微分処理である。これにより、センサ30が車高センサとして構成されている場合に、信号処理部110は、車高センサの検出結果を微分し、サスペンションのストロークの変化速度を示すセンサ信号を出力することが可能である。
【0025】
信号処理部110から出力されるセンサ信号には、EMI(Electromagnetic Interference)およびEMS(Electromagnetic Susceptibility)などに分類可能な様々なノイズが含まれうる。たとえば、センサ信号には、センサ30による時系列データの検出時に外部環境または内部環境の影響で電磁的または機械的要因により発生するノイズ、および信号処理部110による信号処理に起因して発生するノイズなどが含まれうる。
【0026】
ノイズ低減処理部120は、センサ信号に含まれるノイズを低減する。より具体的に、ノイズ低減処理部120は、ノイズ低減ネットワーク121を用いて、信号処理部110から出力されるセンサ信号に含まれるノイズを低減する。
【0027】
ノイズ低減ネットワーク121は、以下の図2図4に示されるように、センサ信号に対応したノイズを含む第1信号と、ノイズが除去された第1信号を示す第2信号と、の対応関係を学習するようにトレーニングされたリカレントニューラルネットワーク(RNN)として構成される。
【0028】
図2は、実施形態にかかるノイズ低減ネットワーク121の構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【0029】
図2に示されるように、実施形態にかかるノイズ低減ネットワーク121は、Seq2Seq(Sequence to Sequence)モデルとして構成されている。より具体的に、ノイズ低減ネットワーク121は、ノイズを含んだセンサ信号の入力を受け付けてエンコード処理を実行するエンコーダ部121aと、エンコーダ部121aによるエンコーダ結果に基づいてデコード処理を実行し、ノイズを含まないセンサ信号を出力するデコーダ部121bと、を備えている。
【0030】
たとえば、図2に示される例では、エンコーダ部121aへの入力として、所定の時間間隔でプロットされた黒丸で示されるデータx、x、x、x、x、…が例示されている。これらのデータx、x、x、x、x、…を示す黒丸は、おおよそは正弦波状の一点鎖線L200に沿ってプロットされているが、当該一点鎖線L200と完全に一致するようにはプロットされていないので、ノイズを含んだセンサ信号に対応する。
【0031】
一方、図2に示される例では、デコーダ部121bからの出力として、所定の時間間隔でプロットされた黒丸で示されるデータy、y、y、y、y、…が例示されている。これらのデータy、y、y、y、y、…を示す黒丸は、正弦波状の一点鎖線L200と一致するようにプロットされているので、ノイズを含まないセンサ信号に対応する。
【0032】
実施形態にかかるノイズ低減ネットワーク121は、上述したデータx、x、x、x、x、…のような、ノイズを含んだセンサ信号の時刻ごとの出力を示す時系列データの入力を受けて、上述したデータy、y、y、y、y、…のような、ノイズを含まないセンサ信号の時刻ごとの出力を示す時系列データを出力するように、機械学習により予めトレーニングされている。
【0033】
なお、図2に示される例では、ノイズを含まないセンサ信号が正弦波の波形を有している構成が例示されているが、これはあくまで一例である。実施形態では、正弦波の波形を有するセンサ信号ではなく、正弦波以外の波形を有するセンサ信号が用いられる構成も考えられる。
【0034】
以下、図3および図4を参照して、実施形態にかかるノイズ低減ネットワーク121のエンコーダ部121aおよびデコーダ部121bの具体的な構成について説明する。ただし、以下の図3および図4に示される構成は、あくまで一例である。
【0035】
図3は、実施形態にかかるノイズ低減ネットワーク121のエンコーダ部121aの構成の一例を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【0036】
図3に示されるように、実施形態にかかるエンコーダ部121aは、LSTM(Long short-term memory)に基づいて構成されている。すなわち、エンコーダ部121aは、複数(たとえばN個)のLSTMブロックB11、B12、…B1Nを用いて構成されている。各LSTMブロックB11、B12、…B1Nの構成は、入力ゲート、出力ゲート、および忘却ゲートを備えた一般的な構成である。
【0037】
LSTMブロックB11は、データxの入力を受けて、入力に応じた出力を示すデータhと、記憶セルを示すデータcと、を次のLSTMブロックB12に受け渡す。LSTMブロックB12以降のブロックも同様に動作し、N個目のLSTMブロックB1Nは、データxの入力を受けて、入力に応じた出力を示すデータhと、記憶セルを示すデータcと、をエンコーダ部121aの外部(つまりデコーダ部121b)に受け渡す。
【0038】
図4は、実施形態にかかるノイズ低減ネットワーク121のデコーダ部121bの構成の一例を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【0039】
図4に示されるように、実施形態にかかるデコーダ部121bも、上述したエンコーダ部121aと同様に、LSTMに基づいて構成されている。すなわち、デコーダ部121bも、複数(たとえばN個)のLSTMブロックB21、B22、…B2Nを用いて構成されている。各LSTMブロックB21、B22、…B2Nの構成は、上述したLSTMブロックB11、B12、…B1Nと同様に、入力ゲート、出力ゲート、および忘却ゲートを備えた一般的な構成である。
【0040】
ただし、デコーダ部121bは、上述したエンコーダ部121aと異なり、LSTMブロックB21、B22、…B2Nに対応した複数(たとえばN個)の変換層L、L、…Lを備えている。これらの変換層L、L、…Lは、それぞれ、LSTMブロックB21、B22、…B2Nからの出力を示すデータH、H…、Hを、センサ信号に対応したデータy、y、…yに変換する。
【0041】
LSTMブロックB21は、エンコーダ部121aからのデータhおよびcの入力を受けて、入力に応じた出力を示すデータHを変換層Lに受け渡すとともに、当該データHと、記憶セルを示すデータCと、を次のLSTMブロックB22に受け渡す。LSTMブロックB22以降のブロックも同様に動作し、N個目のLSTMブロックB2Nは、入力に応じた出力を示すデータhを変換層Lに受け渡す。
【0042】
このように、実施形態にかかるノイズ低減ネットワーク121は、LSTMに基づくSeq2Seqモデルにより構成されたリカレントニューラルネットワークに基づいて構成される。より具体的に、実施形態では、ノイズを含むセンサ信号に対応した第1信号と、ノイズが除去された第1信号を示す第2信号と、の対応関係を上記のようなリカレントニューラルネットワークが学習するように、LSTMブロックB11、B12、…B1Nと、LSTMブロックB21、B22、…B2Nと、変換層L、L、…Lと、に設定すべき重みおよびバイアスのトレーニングを実行された結果として、ノイズ低減ネットワーク121が構成される。
【0043】
なお、実施形態において、学習用の教師データとしての第2信号は、たとえば、Forward-Backward Filteringの手法に基づくフィルタ処理を第1信号に対して実行することで生成される。この手法によれば、第1信号から、ノイズの低減と位相の遅れの回避とが両立した第2信号を生成することが可能である。
【0044】
図1に戻り、制御処理部130は、ノイズ低減処理部120からの出力に基づいて、アクチュエータ50を制御するための指令値を算出する。より具体的に、制御処理部130は、アクチュエータ50がサスペンションアクチュエータとして構成されている場合に、ノイズ低減処理部120から出力される、位相の遅れが抑制されつつノイズが低減されたセンサ信号に基づいて、車両の乗り心地および走行安定性を高い次元で両立するための指令値を算出することが可能である。
【0045】
ここで、実施形態にかかる技術によるノイズの低減の効果(結果)について、比較例と対比しながら簡単に説明する。以下では、一例として、ノイズを低減する技術を適用する対象が、サスペンションのストロークの変化速度を示すセンサ信号であることを前提として説明する。
【0046】
図5は、比較例にかかる技術によるノイズの低減の結果の一例を示した例示的かつ模式的な図である。比較例にかかる技術では、前述した従来の技術と同様の発想で、単純なローパスフィルタを通してセンサ信号から(高周波帯域の)ノイズが低減される。
【0047】
図5の(A)は、比較例にかかる技術によりノイズが低減されたセンサ信号の低周波帯域における波形の例を示している。図5の(A)に示される例において、破線L510は、サスペンションのストロークの変化速度の実測値に対応し、実線L511は、車高センサの検出結果を微分することで得られるサスペンションのストロークの変化速度の推定値に対応する。破線L510と実線L511とを比較すれば分かるように、比較例にかかる技術では、推定値のノイズが十分に低減されていないと言える。
【0048】
また、図5の(B)は、比較例にかかる技術によりノイズが低減されたセンサ信号の高周波帯域における波形の例を示している。図5の(B)に示される例において、破線L520は、サスペンションのストロークの変化速度の実測値に対応し、実線L521は、車高センサの検出結果を微分することで得られるサスペンションのストロークの変化速度の推定値に対応する。破線L520と実線L521とを比較すれば分かるように、比較例にかかる技術では、推定値のノイズは低減されているが、実測値の位相に対する推定値の位相の遅れが発生していると言える。
【0049】
このように、比較例にかかる技術では、低周波帯域のノイズを低減しきることができないとともに、高周波帯域において位相の遅れが発生するので、推定値を制御に利用すると、不都合が発生しやすいと言える。しかしながら、実測値を取得するためのセンサを実際に車両に搭載するのは困難であるので、車高センサの検出結果に基づいて取得される推定値の精度を向上させることが望まれる。
【0050】
そこで、実施形態にかかる技術によれば、次の図6に示されるように、車高センサの検出結果に基づいて取得される推定値の精度を向上させることができる。
【0051】
図6は、実施形態にかかる技術によるノイズの低減の結果の一例を示した例示的かつ模式的な図である。実施形態にかかる技術では、前述したように、機械学習により予めトレーニングされたノイズ低減ネットワーク121により、センサ信号からノイズが低減される。
【0052】
図6の(A)は、実施形態にかかる技術によりノイズが低減されたセンサ信号の低周波帯域における波形の例を示している。図6の(A)に示される例において、破線L610は、サスペンションのストロークの変化速度の実測値に対応し、実線L611は、車高センサの検出結果を微分することで得られるサスペンションのストロークの変化速度の推定値に対応する。破線L610と実線L611とを比較すれば分かるように、実施形態にかかる技術では、推定値と実測値とが略一致しているので、推定値のノイズが十分に低減されていると言える。
【0053】
また、図6の(B)は、実施形態にかかる技術によりノイズが低減されたセンサ信号の高周波帯域における波形の例を示している。図6の(B)に示される例において、破線L620は、サスペンションのストロークの変化速度の実測値に対応し、実線L621は、車高センサの検出結果を微分することで得られるサスペンションのストロークの変化速度の推定値に対応する。破線L620と実線L621とを比較すれば分かるように、実施形態にかかる技術では、推定値と実測値とが略一致しているので、推定値のノイズが十分に低減されており、かつ、上述した図5の(B)に示されるような位相の遅れが発生しないと言える。
【0054】
このように、実施形態にかかる技術によれば、比較例にかかる技術と異なり、低周波帯域および高周波帯域のいずれのノイズも十分に低減することができるとともに、位相の遅れが発生しない。したがって、実施形態にかかる技術によれば、車高センサにより取得される推定値の精度を向上させることができるので、ノイズに起因して制御の性能が低下するのを抑制することができる。
【0055】
以上説明したように、実施形態にかかる制御装置100は、ノイズ低減処理部120と、制御処理部130と、を備えている。
【0056】
ノイズ低減処理部120は、時系列データを検出するセンサ30からの出力に基づくセンサ信号であって、ノイズを含んだセンサ信号を取得し、ノイズ低減ネットワーク121に基づいて、センサ信号に含まれるノイズを低減する。ノイズ低減ネットワーク121は、センサ信号に対応したノイズを含む第1信号と、ノイズが除去された第1信号を示す第2信号と、の対応関係を学習するようにトレーニングされたリカレントニューラルネットワークである。制御処理部130は、ノイズ低減処理部120からの出力に基づいてアクチュエータ50を制御する。
【0057】
上記のような構成によれば、適切にトレーニングされたノイズ低減ネットワーク121に基づいて、センサ信号のノイズをより適切に低減し(図6参照)、センサ信号に基づく制御の性能が低下するのを抑制することができる。
【0058】
ここで、実施形態において、センサ30は、車両の状態量に関する時系列データを検出する状態量センサを含む。このような構成によれば、車両の状態量に関する時系列データを利用した制御の性能が低下するのを抑制することができる。
【0059】
より具体的に、実施形態において、上記の状態量センサは、車両の状態量としての車両の上下方向の変位に関する時系列データを検出する変位センサ(車高センサ)を含み、アクチュエータ50は、車両のサスペンションを制御するサスペンションアクチュエータを含む。このような構成によれば、車両の上下方向の変位に関する時系列データを利用したサスペンションの制御の性能が低下するのを抑制することができる。
【0060】
また、実施形態にかかる制御装置100は、信号処理部110をさらに備えている。信号処理部110は、センサ30とノイズ低減処理部120との間に設けられ、センサ30からの出力に対する信号処理を実行する。ノイズ低減処理部120は、信号処理部110からの出力をセンサ信号として取得し、当該センサ信号に含まれる、少なくともセンサ20による時系列データの検出時に発生するノイズおよび信号処理部110による信号処理に起因して発生するノイズを低減する。このような構成によれば、少なくともセンサ20による時系列データの検出時に発生するノイズおよび信号処理部110による信号処理に起因して発生するノイズを低減し、信号処理の結果の精度を向上させ、当該信号処理の結果に基づく制御の性能が低下するのを抑制することができる。
【0061】
なお、実施形態において、信号処理部110は、信号処理として微分処理を実行する。このような構成によれば、微分処理の結果の精度を向上させ、当該信号処理の結果に基づく制御の性能が低下するのを抑制することができる。
【0062】
また、実施形態において、ノイズ低減ネットワーク121は、LSTMに基づくSeq2Seqモデルにより構成されている。このような構成によれば、ノイズ低減ネットワーク121を時系列データのノイズの低減に適した形に構成することができる。
【0063】
<変形例>
なお、上述した実施形態では、センサ30が車高センサであり、アクチュエータ50がサスペンションアクチュエータである構成が例示されている。しかしながら、本開示にかかる技術は、センサによる検出結果を利用してアクチュエータを制御する構成であれば、どのような構成にも適用することが可能である。すなわち、本開示にかかる技術は、車高センサ以外の車載センサによる検出結果を利用してサスペンションアクチュエータ以外の車載アクチュエータを制御する構成にはもちろん、車両以外の分野の一般的なセンサによる検出結果を利用して一般的なアクチュエータを制御する構成にも適用することが可能である。
【0064】
また、上述した実施形態では、微分処理に起因して発生するノイズを低減する構成が主に例示されている。しかしながら、本開示にかかる技術は、積分処理に起因して発生するノイズを低減する構成にも適用することが可能である。したがって、本開示にかかる技術は、たとえば、変位と速度と加速度と加加速度との間の変換処理、および角度と角速度と角加速度と角加加速度との間の変換処理などといった、微分処理または積分処理を伴う様々な状態量の変換処理に起因して発生するノイズを低減する構成に適用することが可能である。
【0065】
また、上述した実施形態では、ノイズの低減に用いるリカレントニューラルネットワークが、LSTMに基づくSeq2Seqモデルにより構成されている。しかしながら、変形例として、GRU(Gated Reccurent Unit)またはBi-directional RNNなどを利用してノイズの低減に用いるリカレントニューラルネットワークを構成することも考えられる。また、変形例として、上述した実施形態にかかる構成に対して、Attention機能の追加、多層化、双方向化、およびSkip Connectionの追加などをさらに実施する構成も考えられる。
【0066】
また、上述した実施形態では、信号処理の後にノイズの低減が実行される構成が例示されている。しかしながら、変形例として、次の図7に示されるような、ノイズの低減の後に信号処理が実行される構成も考えられる。
【0067】
図7は、実施形態の変形例にかかる制御装置700の構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【0068】
図7に示されるように、変形例にかかる制御装置700は、センサ30と信号処理部110との間に、ノイズ低減ネットワーク721を利用してセンサ30から出力されるセンサ信号のノイズを低減するノイズ低減処理部720を備えている。この変形例において、信号処理部110は、ノイズ低減処理部720からの出力に対して信号処理を実行し、制御処理部130は、信号処理部110からの出力に基づいてアクチュエータ50を制御する。
【0069】
すなわち、図7に示される変形例において、信号処理部110は、ノイズ低減処理部720と制御処理部130との間に設けられており、ノイズ低減処理部720から出力されるノイズが低減されたセンサ信号に対する信号処理を実行する。ノイズ低減処理部720は、センサ30からの出力をセンサ信号として取得し、当該センサ信号に含まれる少なくともセンサ30による時系列データの検出時に発生するノイズを低減し、制御処理部130は、ノイズ低減処理部720からの出力に応じた信号処理部110からの出力に基づいて、アクチュエータ50を制御する。
【0070】
なお、図7に示される変形例において、ノイズ低減ネットワーク721は、上述した実施形態にかかるノイズ低減ネットワーク121と同様に、リカレントニューラルネットワークとして構成される。ノイズ低減ネットワーク721は、センサ30による時系列データの検出時に発生するノイズを低減するように、すなわちセンサ30からの出力に含まれるノイズを適切に低減するように、適切に準備された教師データなどに基づいて予めトレーニングされている。
【0071】
図7に示される変形例によれば、少なくともセンサ30による時系列データの検出時に発生するノイズを低減することで信号処理の結果の精度を向上させ、当該信号処理の結果に基づく制御の性能が低下するのを抑制することができる。
【0072】
以上、本開示の実施形態および変形例を説明したが、上述した実施形態および変形例はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上述した新規な実施形態および変形例は、様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上述した実施形態および変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0073】
30 センサ(状態量センサ、変位センサ)
50 アクチュエータ(サスペンションアクチュエータ)
100、700 制御装置
110 信号処理部
120、720 ノイズ低減処理部
121、721 ノイズ低減ネットワーク
130 制御処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7