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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】インシュレータ及びモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/34 20060101AFI20240312BHJP
   H02K 21/16 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
H02K3/34 C
H02K21/16 M
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019231572
(22)【出願日】2019-12-23
(65)【公開番号】P2021100345
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】舘 洸史
(72)【発明者】
【氏名】平光 明
(72)【発明者】
【氏名】吉川 浩
(72)【発明者】
【氏名】中尾 正義
(72)【発明者】
【氏名】水野 雄太
【審査官】尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/090513(WO,A1)
【文献】特開2018-191469(JP,A)
【文献】国際公開第2019/142693(WO,A1)
【文献】特開2002-284446(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/00- 3/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状部と前記環状部から径方向に突出する複数のティースとを有するステータコアと、前記ティースにそれぞれ巻回される絶縁電線との間に介在するように用いられ、
前記ティースの外面を覆うボビンを備え、
前記ボビンは、前記ステータコアの軸方向から見た場合に、前記ボビンに対して前記絶縁電線を巻く際の1巻き目の開始位置に対応する部位である根本側の部位が当該1巻き目の巻き開始を前記ステータコアにおける周方向側から沿わせるための部位である巻き開始部を有する段状部を有し、
前記段状部の前記巻き開始部は、前記軸方向から見た場合に、前記ボビンに対して1巻き目の開始以後の巻きを前記周方向側から沿わせるための部位である巻き部と比較して前記周方向の他のボビンが隣接する側となる外側に突出しており、
前記段状部について、前記軸方向から見た場合に、前記巻き部と比較して前記ステータコアの周方向における大きさは前記絶縁電線の線径を中心として製造公差を加味した範囲に設定されているとともに、前記ステータコアの径方向における大きさは前記絶縁電線の線径の半分を中心として製造公差を加味した範囲に設定されている
ことを特徴とするインシュレータ。
【請求項2】
前記範囲に加味する前記製造公差は、前記線径の1~2割程度に設定されている請求項1に記載のインシュレータ。
【請求項3】
前記巻き部は、前記絶縁電線をそれぞれ位置決めした状態で沿わせるための電線溝を有しており、
前記電線溝は、前記1巻き目の開始位置側の2巻き目と、3巻き目とに対応する溝が繋がっている請求項1又は請求項2に記載のインシュレータ。
【請求項4】
一の前記ボビンには前記絶縁電線として複数相のうち一相の電線が巻かれるものであり、
前記ボビン毎に対応するものであり、前記ボビンに巻かれた電線から延びる渡り線を案内するための案内部を備えており、
前記案内部は、一の前記ボビンに巻かれた前記一相の電線から延びる渡り線について、異なる前記ボビンに巻かれた異なる相の電線から延びる渡り線との接触を抑制するべく各相の前記渡り線を個別に係止することで互いに離間させるための部位である係止部を各相の前記渡り線毎に有し、
各係止部は、当該係止部を有する前記案内部に対応する前記ボビンに巻かれた前記一相の電線から延びる渡り線に対応する前記係止部の前記ステータコアの周方向の大きさが前記異なる相の電線から延びる渡り線に対応する前記係止部と比較して大きく構成されている請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載のインシュレータ。
【請求項5】
前記各係止部のうち、当該係止部を有する前記案内部に対応する前記ボビンに巻かれた前記一相の電線から延びる渡り線に対応する前記係止部は、当該一相の電線の巻き終わりを次に向かう前記ボビンへと案内するべく沿わせるための傾斜部を有する請求項4に記載のインシュレータ。
【請求項6】
永久磁石を備えたロータと、前記ロータの外周を取り囲むステータとを備えたモータであって、
前記ステータは、前記ステータコアと、請求項1~5のうちいずれか一項に記載のインシュレータと、前記絶縁電線とを有しているモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インシュレータ及びモータに関する。
【背景技術】
【0002】
ステータと、ステータの内周側に設けられたロータとを備えるモータにおいて、ステータは、複数のティースを有するステータコアを備え、各ティースには、ボビンを介してコイルがそれぞれ整列巻されている。例えば、特許文献1に記載のモータでは、コイルの巻き乱れを抑えるべく、ボビンに対してコイルを巻き始める際に、当該ボビンに設けられた凸部の円弧状の角部に密着させながらコイルを沿わせるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-336757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1では、ボビンに設けられた凸部に円弧状の角部を設けているものの、当該凸部へのコイルの密着が不十分な状況が発生すると、コイルの巻き始めの1巻き目に対して2巻き目が当該1巻き目の内側、すなわちボビン側に入り込んでしまい、コイルの巻き方が各ティース間で差が出てしまいコイルの巻き乱れを生じてしまう。
【0005】
本発明の目的は、絶縁電線の巻き乱れを抑えられるインシュレータ及びモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するインシュレータは、環状部と前記環状部から径方向に突出する複数のティースとを有するステータコアと、前記ティースにそれぞれ巻回される絶縁電線との間に介在するように用いられ、前記ティースの外面を覆うボビンを備え、前記ボビンは、前記ステータコアの軸方向から見た場合に、前記ボビンに対して前記絶縁電線を巻く際の1巻き目の開始位置に対応する部位である根本側の部位が当該1巻き目の巻き開始を前記ステータコアにおける周方向側から沿わせるための部位である巻き開始部を有する段状部を有し、前記段状部の前記巻き開始部は、前記軸方向から見た場合に、前記ボビンに対して1巻き目の開始以後の巻きを前記周方向側から沿わせるための部位である巻き部と比較して前記周方向の他のボビンが隣接する側となる外側に突出するようにしている。
【0007】
ところで、ボビンに対して絶縁電線は、基本的に巻き部に沿うように巻かれることになるが、ボビンへの巻き開始をする際、R状に曲がった状態の絶縁電線をさらにその周方向に捩じりながら巻き部に引き込むことになる。この場合、R状に曲がった状態の絶縁電線の捩じれに起因して、インシュレータへの絶縁電線の密着が不十分な状況が発生し、当該インシュレータに対して絶縁電線が浮いてしまう。
【0008】
これに対して、上記構成によれば、段状部の巻き開始部は、巻き部と比較してステータスコアの周方向における他のボビンが隣接する側となる外側に突出しているので、当該巻き部に対して絶縁電線を巻く際には、巻き開始部を迂回させるように絶縁電線を這わせることになる。これにより、基本的には、絶縁電線を巻く際には、巻き開始部の迂回を通じてR状に曲がった状態の絶縁電線の捩じれに応じた経路を確保することができる。つまり、従来であれば、1巻き目の開始でボビンに対して絶縁電線が浮いてしまう状況でも、巻き開始部の迂回を通じて少なくとも1巻き目の巻き開始部、すなわちボビンへの接触の状態を確保し易くなる。この場合、1巻き目を少なくとも2巻き目のステータコアの周方向における外側に位置決めすることができ、当該位置決めが各ティース間で担保される。したがって、絶縁電線の巻き方が各ティース間で差が出ることを抑え、絶縁電線の巻き乱れを抑えることができる。
【0009】
上記インシュレータにおいて、前記段状部について、前記軸方向から見た場合に、前記ステータコアの周方向における大きさは前記絶縁電線の線径を中心として製造公差を加味した範囲に設定されているとともに、前記ステータコアの径方向における大きさは前記絶縁電線の線径の半分を中心として製造公差を加味した範囲に設定されていることが好ましい。
【0010】
上記構成によれば、ステータコアの周方向における大きさが絶縁電線の線径を中心として製造公差を加味した範囲に設定された段状部を通じて、1巻き目を少なくとも2巻き目のステータコアの周方向における外側への位置決めを好適に実現することができる。また、ステータコアの径方向における大きさが絶縁電線の線径を中心として製造公差を加味した範囲に設定された段状部を通じて、2巻き目を少なくとも1巻き目に対して上記径方向側に線径の半分ずらすことができる。この場合、ボビンに絶縁電線を2層以上巻く際に、各層の線間に互い違いに絶縁電線を巻くこと、すなわち俵巻を好適に実現することができる。したがって、巻き乱れの抑えられた整列巻を実現するのに効果的である。
【0011】
また、上記インシュレータにおいて、前記巻き部は、前記絶縁電線をそれぞれ位置決めした状態で沿わせるための電線溝を有しており、前記電線溝は、前記1巻き目の開始位置側の2巻き目と、3巻き目とに対応する溝が繋がっていることが好ましい。
【0012】
上記構成のように構成することで、1巻き目の巻き開始以後は、巻き部に対して絶縁電線をそれぞれ位置決めすることができる。
ただし、ボビンへの絶縁電線を巻く際、上記段状部を通じて迂回されるように絶縁電線を這わせたとしても、当該絶縁電線を1周させる前の段階では、テンションが十分でない状況が発生する場合がある。これは、2巻き目、すなわち巻き部への1巻き目等、比較的巻き開始に近いところで発生し易いと考えられる。例えば、2巻き目についてテンションが不十分な状況が発生して、当該状況に起因して巻き位置が3巻き目の位置にずれる場合、上記構成によれば、2巻き目について、実際の3巻き目の際にかかるテンションを通じて本来の2巻き目の位置への矯正がなされる。したがって、テンションが不十分な状況の発生に対して対処することができる。
【0013】
また、上記インシュレータにおいて、一の前記ボビンには前記絶縁電線として複数相のうち一相の電線が巻かれるものであり、前記ボビン毎に対応するものであり、前記ボビンに巻かれた電線から延びる渡り線を案内するための案内部を備えており、前記案内部は、一の前記ボビンに巻かれた前記一相の電線から延びる渡り線について、異なる前記ボビンに巻かれた異なる相の電線から延びる渡り線との接触を抑制するべく各相の前記渡り線を個別に係止することで互いに離間させるための部位である係止部を各相の前記渡り線毎に有し、各係止部は、当該係止部を有する前記案内部に対応する前記ボビンに巻かれた前記一相の電線から延びる渡り線に対応する前記係止部の前記ステータコアの周方向の大きさが前記異なる相の電線から延びる渡り線に対応する前記係止部と比較して大きく構成されていることが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、渡り線について、各相の電線の接触を抑制することができる。しかも、ボビンに巻かれた一相の巻き終わりについては他の部分よりも大きいテンションが作用するところ、これに容易に耐えられうる構造をインシュレータに付加することができる。
【0015】
また、上記インシュレータにおいて、前記各係止部のうち、当該係止部を有する前記案内部に対応する前記ボビンに巻かれた前記一相の電線から延びる渡り線に対応する前記係止部は、当該一相の電線の巻き終わりを次に向かう前記ボビンへと案内するべく沿わせるための傾斜部を有することが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、ボビンに巻かれた一相の巻き終わりを好適に対応する係止部へと案内をすることができ、絶縁電線の取り回しを容易にすることができる。
上記課題を解決するモータは、永久磁石を備えたロータと、前記ロータの外周を取り囲むステータとを備え、前記ステータは、前記ステータコアと、上記のいずれかのインシュレータと、前記絶縁電線とを有していることが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、上述の如く、1巻き目を少なくとも2巻き目のステータコアの周方向における外側に位置決めすることができるモータを構築することができる。そして、このようなモータによれば、絶縁電線を整列巻する場合にも巻き乱れを抑えることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のインシュレータ及びモータによれば、絶縁電線の巻き乱れを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】モータ装置の軸方向断面図。
図2】コイルを巻いた状態の各相についてボビンを示す図。
図3】コイルを巻く前の状態の各相についてボビンを示す図。
図4】一のボビンについてその拡大図を示す図。
図5図4の段状部を拡大して示す図。
図6】(a)~(c)は、案内部についてその構成を説明する図。
図7】ボビンに対して電線巻き用の機械で自動的に電線を巻く方法を説明する図。
図8】整列巻で電線を巻いた状態を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
インシュレータを有するモータをモータユニットに適用した一実施形態について図面に従って説明する。
図1に示すように、モータユニット1は、モータ軸2aを有するモータ2と、モータ2の駆動を制御する基板3とをユニット化したものである。なお、本実施形態において、モータユニット1は、例えば、車両に搭載される電動ポンプに内蔵されるものである。基板3は、モータ2への電力の供給を制御する。モータ2及び基板3は、円筒状のハウジング4に収容されている。
【0021】
モータ2は、ハウジング4の内周に固定されたステータ21を有している。ステータ21の内周側にはモータ軸2aが配置され、モータ軸2aには当該モータ軸2aと一体回転する円筒状のロータ22が外嵌されている。ロータ22の外周には、当該ロータ22の周方向に異なる極性(N極、S極)が交互に並んで配置される複数の永久磁石23が固定されている。
【0022】
ステータ21は、環状のステータコア30と、表面が絶縁被膜された絶縁電線(以下「電線」という)40と、樹脂材料で構成されたインシュレータ50とを有している。
図2に示すように、ステータコア30は、ハウジング4の内周に固定される部位である円環状の環状部31と、当該環状部31の内周面からステータコア30の径方向内側に向かって延びる複数(本実施形態では12個)のティース32とを有している。各ティース32は、環状部31の内周面において、ステータコア30の周方向に等間隔を空けて配置されている。以下の説明では、「径方向」、「周方向」、及び「軸方向」はステータコア30を基準とした径方向、周方向、及び軸方向をそれぞれ示すものとする。
【0023】
インシュレータ50は、ステータコア30の外面の一部を除いて大部分を覆っており、環状部31の外面の全体を覆うインシュレータ本体51と、当該インシュレータ本体51から各ティース32に沿って延びるようにして当該各ティース32の外面の一部を覆うボビン52とを有している。
【0024】
図2は、複数のうち相の異なる各相の電線40が巻装された3つのティース32を示している。各ティース32は、その先端の一部を除いて環状部31側の根本からボビン52によって外面が覆われている。ボビン52の外面には、対応する一相の電線40が巻装されている。つまり、各ティース32には、ボビン52、すなわちインシュレータ50を介在して対応する各相(U相、V相、W相の3相)のモータ側バスバーにそれぞれ接続される、例えば、エナメル等で表面が絶縁被膜された電線40がそれぞれ巻装されている。
【0025】
具体的には、図3及び図4に示すように、電線40が巻かれる前の状態のボビン52は、略四角柱状をなしておりティース32の環状部31側の根本から径方向内側のロータ22と対向する部位である先端部32aの間を結ぶ中間部32bのうち、先端部32aを露出させた状態で中間部32bの外面を覆っている。
【0026】
ボビン52は、インシュレータ本体51側、すなわちティース32の根本側の部位に対応する部位である根本部位61と、当該根本部位61からティース32の中間部32bに沿って延びる部位である本体部位62とを有している。ボビン52は、図中、紙面表裏方向である軸方向から見た場合に、インシュレータ本体51と、本体部位62との間が根本部位61を通じて段状をなすように接続されている。また、ボビン52は、径方向及び周方向から見た場合に、インシュレータ本体51と、本体部位62との間が根本部位61を通じてR形状をなすように接続されている。本実施形態において、根本部位61は段状部に相当する。
【0027】
根本部位61及び本体部位62は、電線40を巻く際の当該電線40を沿わせるための巻き面をそれぞれ有している。
本実施形態において、一相の電線40は、対応する複数(本実施形態では4個)のボビン52のうち、一のボビン52に対してインシュレータ本体51側から引き込まれてティース32の先端部32aに向かって螺旋状に巻かれて行き、当該先端部32aに達してインシュレータ本体51側に戻るように螺旋状に巻かれる。その後、一相の電線40は、インシュレータ本体51側から引き出されて次のボビン52へと延びるように巻かれる。なお、一相の電線40は、インシュレータ本体51側から引き出される際、当該インシュレータ本体51側から引き込まれた側である、図3中等、紙面表側から見た場合の反時計回り方向側とは反対側である、図2中等、紙面表側から見た場合の時計回り方向側から引き出される。また、ボビン52に巻かれた一相の電線40から延びる線である渡り線40aは、各図中、紙面表側から見た場合に反時計回り方向にボビン52からボビン52へと次々と渡されて行く。このような電線40を巻く作業は、電線巻き用の機械Mで自動的に行われる。
【0028】
上記前提の下、根本部位61は、その外周面である巻き部61aを有している。電線40はボビン52に対してインシュレータ本体51側から引き込まれて巻かれて行き、その引き込みは各図中、紙面表側から行われ、当該紙面表側から見た場合に反時計回り方向から行われる。つまり、段状をなす部位である根本部位61は、電線40を巻く際の1巻き目の開始位置に対応する部位となる。根本部位61の巻き部61aは、電線40を巻く際の1巻き目の巻き開始を、周方向を含む外側から沿わせるための巻き面である。また、巻き部61aにおいて、周方向外側のなかでも、各図中、紙面表側から見た場合に反時計回り方向側は、ボビン52に対して電線40を巻く際の1巻き目の巻き開始を周方向外側から沿わせるための巻き開始部61bとなる。なお、本実施形態において、巻き部61aの周方向外側のなかでも、各図中、紙面表側から見た場合に時計回り方向側は、巻き開始部61bと同様の後述の寸法A,Bを有しており、電線40の巻き開始ではないが1巻き目が巻かれることになる。
【0029】
本体部位62は、その外周面である巻き部62aを有している。本体部位62の巻き部62aは、電線40を巻く際の1巻き目の開始以後の巻きを、周方向を含む外側から沿わせるための巻き面である。
【0030】
より詳しくは、図5に示すように、根本部位61の巻き部61a、すなわち巻き開始部61bについて、径方向の大きさである寸法Aは、電線40の線径の半分を中心として製造公差として、例えば、当該線径の1~2割程度を加味した範囲の値に設定されている。なお、寸法Aの最適値は、電線40の線径の半分である。また、この場合の製造公差としては、大きくても線径の半分の5割を超えない範囲が好ましい。
【0031】
また、図5に示すように、根本部位61の巻き部61a、すなわち巻き開始部61bについて、周方向の大きさである寸法Bは、電線40の線径を中心として製造公差として、例えば、当該線径の1~2割程度を加味した範囲の値に設定されている。なお、上記寸法Bの最適値は、電線40の線径である。また、この場合の製造公差としては、大きくても線径の5割を超えない範囲が好ましい。つまり、巻き開始部61bは、軸方向から見た場合に、本体部位62の巻き部62aと比較して周方向の他のボビン52が隣接する側となる外側である周方向外側に突出している。
【0032】
図3及び図4の説明に戻り、本体部位62は、周方向の両面と、軸方向の両面との間をそれぞれ繋ぐ部位である4つの隅部62bを有している。各隅部62bは、同一形状の平行に並べられた複数(本実施形態では7本)の電線溝62cを有している。各電線溝62cは、本体部位62の厚み方向に深さを有し、表面がR形状をなしている。本実施形態において、R形状は、電線40の外周の約半分と一致するように設定されている。各電線溝62cは、本体部位62を径方向の内側から見た場合に、根本部位61からティース32の先端部32aに向かって反時計回りに螺旋を描く経路の一部をなすように非連続的に延びているとともに、径方向に等間隔を空けて平行に並べられている。そして、電線40は、各電線溝62cに沿うことで、ボビン52に1巻きずつ螺旋を描くように位置決めされることになる。
【0033】
また、各隅部62bのうち、根本部位61の巻き開始部61bに最も近い隅部である巻き開始隅部62dにおいて、電線溝62cは、巻き開始部61b側から1つ目と、2つ目との溝が繋がるように構成されている。つまり、巻き開始隅部62dの電線溝62cは、巻き開始部61b側から1つ目と、2つ目との溝の間に隔たりがないように構成されている。なお、巻き開始隅部62dの電線溝62cについて、巻き開始部61b側から1つ目の溝には電線40の2巻き目が巻かれ、2つ目の溝には電線40の3巻き目が巻かれる。
【0034】
また、インシュレータ本体51は、当該インシュレータ本体51から軸方向に沿って延び、径方向に厚みを有する壁状の案内部71を有している。案内部71は、各ボビン52の根本部位61に隣接した位置にそれぞれ設けられており、ボビン52の数と同一数(本実施形態では12個)だけ設けられている。なお、本実施形態において、各案内部71は、インシュレータ本体51から基板3側(図1中、上側)に向かって延びている。
【0035】
具体的には、図6(a),(b),(c)に示すように、各案内部71には、当該各案内部71から径方向外側(各図中、紙面表側から裏側)に向かって延び、インシュレータ本体51側に突出する爪状の複数(本実施形態では3個)の係止部81がそれぞれ設けられている。案内部71において、各係止部81は、軸方向での位相、すなわち位置が一致して重ならないように、それぞれ当該軸方向に間隔を空けてずれて配置されている。また、各係止部81は、周方向での位相、すなわち位置が一致して重ならないように、それぞれ当該周方向に間隔を空けてずれて配置されている。そして、各ボビン52から引き出された電線40である渡り線40aは、各案内部71において、各係止部81に径方向外側から引っ掛けられて軸方向及び径方向への抜け落ちがないように係止されることで、各図中、紙面表側から見た場合に反時計回り方向にインシュレータ本体51に沿って取り回しがなされる。
【0036】
本実施形態において、各係止部81のうち、最もインシュレータ本体51に近接するものは、U相に対応するボビン52(U)から引き出された電線40であるU相に対応する渡り線40a(U)を、異なる相に対応する渡り線40a(V),40a(W)と接触しないように独立して係止する機能を有するU相用の係止部81(U)である。また、各係止部81のうち、最もインシュレータ本体51から離間するものは、W相に対応するボビン52(W)から引き出された電線40であるW相に対応する渡り線40a(W)を、異なる相に対応する渡り線40a(U),(V)と接触しないように独立して係止する機能を有するW相用の係止部81(W)である。また、係止部81(U)及び係止部81(W)の間のものは、V相に対応するボビン52(V)から引き出された電線40であるV相に対応する渡り線40a(V)を、異なる相に対応する渡り線40a(U),40a(W)と接触しないように独立して係止する機能を有するV相用の係止部81(V)である。つまり、各案内部71では、各相に対応する渡り線40a(U),40a(V),40a(W)を個別に係止することで互いに離間させるように係止部81(U),81(V),81(W)が一つずつ設けられている。
【0037】
より詳しくは、図6(a)に示すように、ボビン52(U)に設けられた案内部71において、U相の渡り線40a(U)に対応する係止部である係止部81(U)は、その周方向の大きさが他の渡り線40a(V),40a(W)に対応する係止部である係止部81(V),81(W)と比較して、例えば、2割等、数割程度大きく構成されている。この場合、係止部81(U)において、周方向両側のうち電線40の巻き開始側とは反対側である図中、左側には、ボビン52(U)に巻かれたU相の電線40の巻き終わりを次に向かうボビン52へと案内するべく沿わせるための傾斜部81a(U)が設けられている。
【0038】
また、図6(b)に示すように、ボビン52(V)に設けられた案内部71において、V相の渡り線40a(V)に対応する係止部である係止部81(V)は、その周方向の大きさが他の渡り線40a(U),40a(W)に対応する係止部である係止部81(U),81(W)と比較して、例えば、2割等、数割程度大きく構成されている。この場合、係止部81(V)において、周方向両側のうち電線40の巻き開始側とは反対側である図中、左側には、ボビン52(V)に巻かれたV相の電線40の巻き終わりを次に向かうボビン52へと案内するべく沿わせるための傾斜部81a(V)が設けられている。
【0039】
また、図6(c)に示すように、ボビン52(W)に設けられた案内部71において、W相の渡り線40a(W)に対応する係止部である係止部81(W)は、その周方向の大きさが他の渡り線40a(U),40a(V)に対応する係止部である係止部81(U),81(V)と比較して、例えば、2割等、数割程度大きく構成されている。この場合、係止部81(W)において、周方向両側のうち電線40の巻き開始側とは反対側である図中、左側には、ボビン52(W)に巻かれたW相の電線40の巻き終わりを次に向かうボビン52へと案内するべく沿わせるための傾斜部81a(W)が設けられている。
【0040】
そして、各ボビン52(U)から引き出された電線40の巻き終わりは、係止部81(U)に設けられた傾斜部81a(U)に沿うことで、各図中、紙面表側から見た場合に反時計回り方向にインシュレータ本体51に沿って取り回しがなされる。これは、各ボビン52(V),52(W)からそれぞれ引き出された電線40の巻き終わりについても同様である。
【0041】
また、図3及び図4の説明に戻り、インシュレータ本体51には、各案内部71の周方向に対して、各図中、紙面表側から見た場合に反時計回り方向側に隣接するように巻き開始溝72がそれぞれ設けられている。各巻き開始溝72は、インシュレータ本体51の軸方向に深さを有し、表面がR形状をなしている。本実施形態において、R形状は、電線40の外周の約半分と一致するように設定されている。各巻き開始溝72は、各案内部71を沿う周方向から径方向に向きを変えてボビン52に向かう経路の一部をなすように延びている。そして、電線40は、各巻き開始溝72に沿うことで、周方向から径方向に曲げられながらボビン52に向かうように案内されることになる。
【0042】
以下、本実施形態の作用を説明する。
図7に示すように、ボビン52に対して電線40は、電線巻き用の機械Mの作業を通じて、基本的に本体部位62の巻き部62aに沿うように巻かれることになるが、ボビン52への巻き開始をする際、R状に曲がった状態の電線40をその周方向に捩じりながら本体部位62の巻き部62aに引き込むことになる。この場合、電線40において、R状に曲がった状態の部位であるR状部位Cでの捩じれに起因して、インシュレータ50、すなわちインシュレータ本体51への電線40の密着が不十分な状況が発生し、当該インシュレータ本体51に対して電線40が浮いてしまう。
【0043】
具体的には、電線巻き用の機械MのノズルMaは、その先端からR状部位Cを有した状態で電線40を送り出しながら案内部71等、インシュレータ本体51の径方向外側を周方向に沿って移動する。この場合、ノズルMaは、当該ノズルMaの軸方向がステータコア30の軸方向と一致する状態を保ちながらのインシュレータ本体51の径方向外側の周方向への移動を通じて、当該インシュレータ本体51の径方向外側を周方向に沿ってR状部位を有した状態で電線40を這わせる。
【0044】
続いて、ノズルMaは、当該ノズルMaの軸方向をステータコア30の軸方向と一致する状態からステータコア30の径方向と一致する状態となるように、当該径方向への傾倒を通じてインシュレータ本体51側からボビン52側へと電線40を引き込む状態となる。
【0045】
これにより、ノズルMaのステータコア30の径方向への傾倒にしたがって、電線40は、さらにその周方向への捩じりを伴ってR状部位Cがインシュレータ本体51に対して浮くような状態でインシュレータ本体51側からボビン52側へと引き込まれる。
【0046】
この場合、本実施形態によれば、ボビン52における根本部位61の巻き開始部61bは、本体部位62の巻き部62aと比較して周方向外側に突出しているので、当該巻き部62aに対して電線40を巻く際には、巻き開始部61bを迂回させるように電線40を這わせることになる。これにより、基本的には、電線40を巻く際には、巻き開始部61bの迂回を通じてR状に曲がった状態の電線40の捩じれに応じた経路を確保することができる。つまり、従来であれば、1巻き目の開始でボビン52に対して電線40が浮いてしまう状況でも、巻き開始部61bの迂回を通じて少なくとも1巻き目の巻き開始部61b、すなわちボビン52への接触の状態を確保し易くなる。
【0047】
この場合、図8に示すように、図中に何巻き目の電線40であるか番号を付して示したうち、「1」を付した1巻き目の電線40を、少なくとも「2」を付した2巻き目の電線40の周方向外側に位置決めすることができる。
【0048】
以下、本実施形態の効果を説明する。
(1)本実施形態では、図8に示したように、1巻き目を2巻き目の電線40の周方向外側に位置決めすることができ、当該位置決めが各ティース32間で担保される。したがって、電線40の巻き方が各ティース32間で差が出ることを抑え、電線40の巻き乱れを抑えることができる。
【0049】
(2)本実施形態において、周方向における大きさが電線40の線径を中心として製造公差を加味した範囲に設定されたボビン52の根本部位61を通じて、1巻き目を少なくとも2巻き目の周方向外側への位置決めを好適に実現することができる。
【0050】
この場合、図8に示すように、上述の如く、1巻き目を、少なくとも2巻き目の周方向外側に位置決めすることができる。
また、径方向における大きさが電線40の線径を中心として製造公差を加味した範囲に設定されたボビン52の根本部位61を通じて、2巻き目を少なくとも1巻き目に対して径方向側に線径の半分ずらすことができる。
【0051】
この場合、図8に示すように、図中、左側の「2」~「8」、又は右側の「1」~「7」を付した1層目と、図中、左側の「1」,「9」~「14」、又は右側の「8」~「14」を付した2層目とのように、ボビン52に電線40を2層以上巻く際に、各層の線間に互い違いに電線40を巻くこと、すなわち俵巻を好適に実現することができる。したがって、巻き乱れの抑えられた整列巻を実現するのに効果的である。
【0052】
(3)本実施形態において、ボビン52における本体部位62の巻き部62aは、電線40をそれぞれ位置決めした状態で沿わせるための電線溝62cを有することで、1巻き目の巻き開始以後は、本体部位62の巻き部62aに対して電線40をそれぞれ位置決めすることができる。
【0053】
ただし、ボビン52への電線40を巻く際、根本部位61を通じて迂回されるように電線40を這わせたとしても、当該電線40を1周させる前の段階では、テンションが十分でない状況が発生する場合がある。これは、2巻き目、すなわち本体部位62の巻き部62aへの1巻き目等、比較的巻き開始に近いところで発生し易いと考えられる。例えば、2巻き目についてテンションが不十分な状況が発生して、当該状況に起因して巻き位置が3巻き目の位置にずれる場合、本実施形態によれば、2巻き目について、実際の3巻き目の際にかかるテンションを通じて本来の2巻き目の位置への矯正がなされる。したがって、テンションが不十分な状況の発生に対して対処することができる。
【0054】
(4)本実施形態では、各ボビン52に対応するように、各相の渡り線40a(U),40a(V),40a(W)をそれぞれ個別に係止する係止部81(U),81(V),81(W)を有する案内部71をそれぞれ備えるようにしている。このため、本実施形態によれば、各相の渡り線について、各相の渡り線40a(U),40a(V),40a(W)の接触を抑制することができる。しかも、各案内部71において、ボビン52に巻か割れる相に対応する各係止部81(U),81(V),81(W)について、その周方向の大きさが他の係止部81と比較して大きく構成されている。このため、本実施形態によれば、ボビン52に巻かれた一相の巻き終わりについては他の部分よりも大きいテンションが作用するところ、これに容易に耐えられうる構造をインシュレータ50に付加することができる。
【0055】
(5)本実施形態では、各案内部71において、ボビン52に巻かれる相に対応する各係止部81(U),81(V),81(W)には、当該相に対応する電線40の巻き終わりを次に向かうボビン52へと案内するべく沿わせるための傾斜部81aが設けられている。このため、本実施形態によれば、ボビン52に巻かれた一相の巻き終わりを好適に対応する係止部81へと案内をすることができ、電線40の取り回しを容易にすることができる。
【0056】
(6)上記実施形態を適用したインシュレータ50によれば、上述の如く、1巻き目を少なくとも2巻き目の外側に位置決めすることができるモータ2を構築することができる。そして、このようなモータ2、すなわちモータユニット1によれば、電線40を整列巻する場合にも巻き乱れを抑えることができる。
【0057】
上記実施形態は次のように変更してもよい。また、以下の他の実施形態は、技術的に矛盾しない範囲において、互いに組み合わせることができる。
・各案内部71に設けられた各係止部81(U),81(V),81(W)は、傾斜部81aを設けないで構成することもできる。
【0058】
・各案内部71に設けられた各係止部81(U),81(V),81(W)は、いずれの案内部71においても周方向の大きさを同一に構成することもできる。
・各案内部71に設けられた各係止部81(U),81(V),81(W)は、ボビン52の間で電線40にかかるテンションに大小がある場合、テンションの大小に応じて他の係止部と比較して周方向を大きくする際の割合を案内部71毎に変えるようにしてもよい。
【0059】
・各案内部71に設けられた各係止部81(U),81(V),81(W)は、少なくとも軸方向での位置が重ならなければよく、周方向での位置が重なるように構成することもできる。
【0060】
・インシュレータ本体51では、各案内部71が設けられていればよく、各係止部81(U),81(V),81(W)については削除することもできる。
・ボビン52において、本体部位62に設けられた各電線溝62cは、巻き部62aの全体に連続的に延びるように設けられるようにしてもよい。
【0061】
・ボビン52において、本体部位62の各隅部62bのうち、根本部位61の巻き開始部61bに最も近い隅部である巻き開始隅部62dにおいて、電線溝62cは、巻き開始部61b側から1つ目と、2つ目との溝が分割された構成であってもよい。
【0062】
・ボビン52において、根本部位61の巻き部61a、すなわち巻き開始部61bについて、寸法Aは、1巻き目を、少なくとも2巻き目の周方向外側に位置決めすることができる範囲の値であれば適宜変更可能である。また、寸法Bは、ボビン52に電線40を2層以上巻く際に、各層の線間に互い違いに電線40を巻くように俵巻を実現することができる範囲の値であれば適宜変更可能である。
【0063】
・ボビン52において、根本部位61の巻き部61aの周方向外側のなかでも、図3中等、紙面表側から見た場合に反時計回り方向側が上記寸法A,Bの構成を少なくとも有していればよく、時計回り方向側は巻き開始部61bと同様の後述の寸法A,Bを有さず、本体部位62を径方向に延長させた構成としてもよい。
【0064】
・インシュレータ50は、インシュレータ本体51と、ボビン52とを一体化したものでなくてもよく、例えば、インシュレータ本体51と、ボビン52とを分割した構成とすることもできる。
【0065】
・上記実施形態では、車両に搭載される電動ポンプに内蔵されるものに適用したが、例えば、車両に搭載される電動パワーステアリング装置に用いられるものや、車両以外に搭載される各種装置に用いられるものに適用してもよい。
【符号の説明】
【0066】
2…モータ
21…ステータ
22…ロータ
30…ステータコア
31…環状部
32…ティース
40…電線(絶縁電線)
40a…渡り線
50…インシュレータ
51…インシュレータ本体
52…ボビン
61…根本部位(段状部)
61b…巻き開始部
62…本体部位
62a…巻き部
62c…電線溝
71…案内部
81…係止部
81a…傾斜部
A…寸法
B…寸法
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8