(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】蓄電素子
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0525 20100101AFI20240312BHJP
H01G 11/38 20130101ALI20240312BHJP
H01G 11/46 20130101ALI20240312BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20240312BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240312BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240312BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240312BHJP
【FI】
H01M10/0525
H01G11/38
H01G11/46
H01M4/587
H01M4/62 Z
H01M4/525
H01M4/505
(21)【出願番号】P 2019232142
(22)【出願日】2019-12-23
【審査請求日】2022-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】尾木 謙太
(72)【発明者】
【氏名】熊林 慧
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 明彦
【審査官】儀同 孝信
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-266467(JP,A)
【文献】特開平08-298114(JP,A)
【文献】特開2011-065929(JP,A)
【文献】特開2010-199077(JP,A)
【文献】特開2002-110155(JP,A)
【文献】米国特許第5908715(US,A)
【文献】特開2007-265831(JP,A)
【文献】特開2014-216299(JP,A)
【文献】国際公開第2010/109889(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/046077(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0525
H01G 11/38
H01G 11/46
H01M 4/587
H01M 4/62
H01M 4/525
H01M 4/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質を含む負極合剤層を備える負極と、
正極活物質を含む正極合剤層を備える正極と、
を備えており、
上記負極合剤層にカウンターカチオンが金属イオンであるセルロース誘導体を含み、
上記負極活物質が主成分として難黒鉛化性炭素を含み、
上記難黒鉛化性炭素の真密度をA[g/cm
3]としたとき、満充電状態における上記負極の充電電気量B[mAh/g]が、下記式1を満たす蓄電素子。
-580×A+1258≦B≦-830×A+1800 ・・・1
【請求項2】
上記金属イオンがナトリウムイオンである請求項1に記載の蓄電素子。
【請求項3】
上記正極活物質がニッケル、コバルト及びマンガンを含むリチウム遷移金属酸化物を主成分とし、
上記リチウム遷移金属酸化物におけるニッケル、コバルト及びマンガンの総和に対するニッケルのモル比率が0.5以上である請求項1又は請求項2に記載の蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン非水電解質二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極を有する電極体、及び電極間に介在する非水電解質を備え、両電極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
このような蓄電素子の負極の活物質には、黒鉛や非黒鉛質炭素、非晶質炭素といった炭素材料が広く用いられている。例えば、高容量化を目的として負極活物質として単位質量あたりの充放電可能容量が深い難黒鉛化性炭素質材料を用いたリチウムイオン二次電池が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、電池の高容量化を目的として負極活物質に難黒鉛化性炭素を用いて負極の充電深度を深くすると、負極電位が卑となり、充電時に金属リチウムの析出を起こすことによる充放電サイクル後の抵抗増加が生じるおそれがある。従って、高容量化を目的として負極の充電深度が深い電池の負極活物質に難黒鉛化性炭素を用いた場合においても、充放電サイクル後の抵抗の増加に対する抑制効果に優れる蓄電素子が求められている。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、充電深度が深い負極の活物質に難黒鉛化性炭素を用いた場合に、充放電サイクル後の抵抗の増加に対する抑制効果に優れる蓄電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の一側面は、負極活物質を含む負極合剤層を備える負極と、正極活物質を含む正極合剤層を備える正極とを備えており、上記負極合剤層にカウンターカチオンが金属イオンであるセルロース誘導体を含み、上記負極活物質が主成分として難黒鉛化性炭素を含み、上記難黒鉛化性炭素の真密度をA[g/cm3]としたとき、満充電状態における上記負極の充電電気量B[mAh/g]が、下記式1を満たす蓄電素子である。
-580×A+1258≦B≦-830×A+1800 ・・・1
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、充電深度が深い負極の活物質に難黒鉛化性炭素を用いた場合に、充放電サイクル後の抵抗の増加に対する抑制効果に優れる蓄電素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る蓄電素子の構成を示す模式的斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
【
図3】試験例における負極活物質中の難黒鉛化炭素の真密度と満充電状態の負極の充電電気量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者は、種々実験を行った結果, 負極合剤層に含まれる難黒鉛化性炭素の真密度Aと、該難黒鉛化性炭素に電荷担体(リチウムイオン二次電池の場合、リチウムイオン)の析出を抑制しつつ吸蔵することができる電荷担体量(充電電気量B)との間に一定の相関関係があることに思い至り、さらに負極合剤層のバインダーを適切に選定することによって、上記電荷担体の析出をより効果的に抑制し得ることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の一実施形態に係る蓄電素子は、負極活物質を含む負極合剤層を備える負極と、正極活物質を含む正極合剤層を備える正極とを備えており、上記負極合剤層にカウンターカチオンが金属イオンであるセルロース誘導体を含み、上記負極活物質が主成分として難黒鉛化性炭素を含み、上記難黒鉛化性炭素の真密度をA[g/cm3]としたとき、満充電状態における上記負極の充電電気量B[mAh/g]が、下記式1を満たす。
-580×A+1258≦B≦-830×A+1800 ・・・1
【0011】
当該蓄電素子は、高容量化を目的として充電深度が深い負極の活物質に難黒鉛化性炭素を用いた場合に電荷担体の析出を抑制し、充放電サイクル後の抵抗の増加に対する抑制効果に優れる。この理由については定かでは無いが、以下の理由が推測される。負極の活物質に難黒鉛化性炭素を用いた場合に、負極の充電深度を深くすると、負極電位が卑にシフトするため、電荷担体が析出しやすくなるおそれがある。当該蓄電素子は、難黒鉛化性炭素の真密度をA[g/cm3]としたとき、満充電状態における上記負極の充電電気量B[mAh/g]が-830×A+1800以下であることで、充電電気量Bが適度な大きさとなり、過剰に電荷担体の析出が生じることを抑制できる。一方、上記負極の充電電気量B[mAh/g]が-580×A+1258以上の範囲においては、負極合剤層のバインダーとして、耐還元性に優れ、負極電位が卑の状態においても還元分解されにくいと考えられるカウンターカチオンが金属イオンであるセルロース誘導体を用いることで、充放電サイクル後の抵抗の増加を抑制できる。従って、当該蓄電素子は、充電深度が深い負極の活物質に難黒鉛化性炭素を用いた場合に、充放電サイクル後の抵抗の増加に対する抑制効果に優れる。
ここで、「満充電状態」とは、電池設計で決められた定格容量を確保するための定格上限電圧となるまで充電された状態をいう。また、定格容量に関する記載がない場合は、当該蓄電素子が採用している充電制御装置を用いて充電を行った際に、該充電操作が停止制御されるときの充電終止電圧となるまで充電された状態をいう。例えば、当該蓄電素子を、(1/3)CAの電流で上記定格上限電圧または上記充電終止電圧となるまで定電流充電した後、上記定格上限電圧または上記充電終止電圧にて0.01CAとなるまで定電流定電圧(CCCV)充電を行った状態が、ここでいう「満充電状態」の典型例である。
【0012】
上記金属イオンがナトリウムイオンであることが好ましい。上記金属イオンがナトリウムイオンであることで、充放電サイクル後の抵抗の増加に対する抑制効果をより向上できる。
【0013】
上記正極活物質がニッケル、コバルト及びマンガンを含むリチウム遷移金属酸化物を主成分とし、上記リチウム遷移金属酸化物におけるニッケル、コバルト及びマンガンの総和に対するニッケルのモル比率が0.5以上であることが好ましい。上記リチウム遷移金属酸化物におけるニッケル、コバルト及びマンガンの総和に対するニッケルのモル比率を上記範囲とすることで、当該蓄電素子の容量を高めるとともに、上述した効果がより良く発揮され得る。
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る蓄電素子について詳説する。
【0015】
<蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子は、負極と、正極と、上記正極及び上記負極間に介在するセパレータと、非水電解質とを備えている。以下、蓄電素子の好ましい一例として、非水電解質二次電池について説明する。上記正極及び負極は、通常、セパレータを介して積層又は巻回により交互に重畳された電極体を形成する。この電極体は電池容器に収納され、この電池容器内に非水電解質が充填される。
【0016】
[負極]
負極は、負極基材と、上記負極基材の少なくとも一方の面に直接又は間接に積層される負極合剤層とを備える。負極合剤層は、負極活物質を含む。負極は、負極基材と負極合剤層との間に配される中間層を備えていてもよい。
【0017】
(負極基材)
負極基材は、導電性を有する基材である。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はそれらの合金が用いられ、銅又は銅合金が好ましい。また、負極基材の形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、負極基材としては銅箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。なお、「導電性」を有するとは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が1×107Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が1×107Ω・cm超であることを意味する。
【0018】
負極基材の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上25μm以下がより好ましく、4μm以上20μm以下がさらに好ましく、5μm以上15μm以下が特に好ましい。負極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材の強度を高めつつ、蓄電素子の体積あたりのエネルギー密度を高めることができる。「基材の平均厚さ」とは、所定の面積の基材を打ち抜いた際の打ち抜き質量を、基材の真密度及び打ち抜き面積で除した値をいう。
【0019】
(負極合剤層)
負極合剤層は、負極活物質を含むいわゆる負極合剤から形成される。
【0020】
上記負極活物質としては、主成分として難黒鉛化性炭素を含む。負極活物質が主成分として難黒鉛化性炭素を含むことで、当該蓄電素子の容量を高めることができる。また、上記負極合剤としては、上記難黒鉛化性炭素以外のその他の負極活物質を含んでいてもよい。なお、上記「負極活物質における主成分」とは、最も含有量の多い成分を意味し、負極活物質の総質量に対して90質量%以上含まれる成分をいう。
【0021】
(難黒鉛化性炭素)
難黒鉛化性炭素とは、放電状態においてX線回折法から測定される(002)面の平均格子面間隔d(002)が0.36nmより大きく0.42nmより小さい炭素物質である。難黒鉛化性炭素は、通常、微小な黒鉛の結晶がランダムな方向に配置され、結晶層と結晶層との間にナノオーダーの空隙を有する材料をいう。上記難黒鉛化性炭素としては、フェノール樹脂焼成体、フラン樹脂焼成体、フルフリルアルコール樹脂焼成体等を挙げることができる。
【0022】
ここで、「放電状態」とは、負極活物質として炭素物質を含む負極を作用極として、金属Liを対極として用いた単極電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態をいう。開回路状態での金属Li対極の電位は、Liの酸化還元電位とほぼ等しいため、上記単極電池における開回路電圧は、Liの酸化還元電位に対する炭素材料を含む負極の電位とほぼ同等である。つまり、上記単極電池における開回路電圧が0.7V以上であることは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されていることを意味する。
【0023】
難黒鉛化性炭素の真密度Aとしては、真密度Aと充電電気量Bとの関係が前記式を満たす限りにおいて特に限定されないが、その下限としては、1.4[g/cm3]が好ましく、1.45[g/cm3]がより好ましい。いくつかの態様において、真密度Aは、1.5[g/cm3]以上であってもよく、1.55[g/cm3]以上であってもよく、1.6[g/cm3]以上であってもよい。上記真密度の上限としては、1.8[g/cm3]が好ましく、1.7[g/cm3]がより好ましい。いくつかの態様において、真密度Aは、1.65[g/cm3]以下であってもよく、1.58[g/cm3]以下であってもよく、1.52[g/cm3]以下であってもよい。難黒鉛化性炭素の真密度が小さすぎると原料由来の不純物や反応活性面が増えることで不可逆容量が大きくなってしまい、真密度が大きすぎると結晶構造間へのリチウムイオン吸蔵可能量が少なくなってしまう。すなわち、上記範囲であることで、不可逆容量を抑制したまま、リチウムイオン吸蔵可能量を大きくすることができる。真密度は、ブタノールを用いたピクノメーター法で測定される。
【0024】
上記負極活物質の総質量に対する上記難黒鉛化性炭素の含有量の下限としては、90質量%が好ましい。難黒鉛化性炭素の含有量を上記下限以上とすることで、当該蓄電素子の容量をより高めることができる。一方、上記負極活物質の総質量に対する上記難黒鉛化性炭素の含有量の上限としては、例えば100質量%であってもよい。
【0025】
(他の負極活物質)
難黒鉛化性炭素以外に含まれていてもよい他の負極活物質としては、易黒鉛化性炭素、黒鉛、Si、Sn等の金属、これら金属の酸化物、又は、これら金属と炭素材料との複合体等が挙げられる。
【0026】
負極合剤層中の負極活物質の含有量は特に限定されないが、その下限としては、50質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましい。一方、この含有量の上限としては、99質量%が好ましく、98質量がより好ましい。
【0027】
上記負極合剤層は、カウンターカチオンが金属イオンであるセルロース誘導体を含む。セルロース誘導体は、塗工等により負極合剤層を形成する際の増粘剤として機能する成分である。セルロース誘導体は、セルロースが有するヒドロキシ基の水素原子が、他の基で置換された構造を有する化合物である。カウンターカチオンを有するセルロース誘導体としては、カルボキシアルキルセルロース(カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシエチルセルロース、カルボキシプロピルセルロース等)、アルキルセルロース(メチルセルロース、エチルセルロース等)、ヒドロキシアルキルセルロース(ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等)、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、アセチルセルロース等を挙げることができる。これらの中でも、カルボキシアルキルセルロースが好ましく、CMCがより好ましい。上記セルロース誘導体は1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記カウンターカチオンとなる金属イオンとしては、例えばナトリウムイオン、マグネシウムイオン、リチウムイオン等が挙げられる。
【0028】
負極合剤層における上記セルロース誘導体の含有量は特に制限されないが、その下限としては、0.1質量%である。上記セルロース誘導体の含有量の下限としては、0.3質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましい。一方、上記セルロース誘導体の含有量の上限としては、例えば10質量%である。上記セルロース誘導体の含有量の上限としては、5質量%が好ましく、3質量%がより好ましい。いくつかの態様において、セルロース誘導体の含有量の上限は、2質量%であってもよく、1.5質量%(例えば1.2質量%)であってもよい。セルロース誘導体の含有量を上記下限以上とすることで、負極合剤層を形成する際の負極合剤ペーストに十分な粘性を与えることができ、効率的に負極合剤層を形成することができる。一方、セルロース誘導体の含有量を上記上限以下とすることで、前述した性能向上効果(例えば充放電サイクル後の抵抗の増加を抑制する効果)がより良く発揮され得る。
【0029】
(その他の任意成分)
負極合剤は、必要に応じて導電剤、バインダー、フィラー等の任意成分を含む。
【0030】
上記難黒鉛化性炭素も導電性を有するが、上記導電剤としては、導電性材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、黒鉛、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、非黒鉛化炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛化炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。
【0031】
上記バインダーとしては、水系バインダー及び非水系バインダーのいずれも用いることができるが、水系バインダーが好ましい。水系バインダーと非水系バインダーとを併用してもよい。水系バインダーとは、合剤を調製する際に、水系溶媒に溶解又は分散可能なバインダーを意味する。なお、水系溶媒とは、水、又は水を主体とする混合溶媒を意味する。混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶媒(低級アルコールや低級ケトン等)を例示することができる。また、非水系バインダーとは、合剤を調製する際に、非水系溶媒に溶解又は分散可能なバインダーを意味する。非水系溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等を例示することができる。インダーとしては、公知のものを使用することができ、例えばフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重含体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等)、酢酸ビニル共重合体、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリル酸変性SBR、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、フッ素ゴム、アラビアゴム、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリプロピレンオキサイド(PPO)、ポリエチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体(PEO-PPO)などを用いることができる。これらの中でも、結着性や抵抗上昇抑制性の観点から、SBR、アクリル酸変性SBR、EPDM、スルホン化EPDM、フッ素ゴム、アラビアゴム等のゴム系バインダーが好ましく、SBRがより好ましい。なお、バインダーがリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。負極合剤層におけるバインダーの含有量の下限としては、1質量%が好ましく、2質量%がより好ましい。一方、バインダーの含有量の上限としては、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。バインダーの含有量を上記範囲とすることで、当該非水電解質蓄電素子の低温下での入力性能等をより高めることなどができる。
【0032】
フィラーは、特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。負極合剤層においてフィラーを使用する場合、負極合剤層全体に占めるフィラーの割合は、およそ8.0質量%以下とすることができ、通常はおよそ5.0質量%以下(例えば1.0質量%以下)とすることが好ましい。
【0033】
(中間層)
上記中間層は、負極基材の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで負極基材と負極合剤層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダー及び導電性粒子を含有する組成物により形成できる。
【0034】
当該蓄電素子は、上記難黒鉛化性炭素の真密度をA[g/cm3]としたとき、満充電状態における上記負極の充電電気量B[mAh/g]が、下記式1を満たす。
-580×A+1258≦B≦-830×A+1800 ・・・1
当該蓄電素子は、難黒鉛化性炭素の真密度をA[g/cm3]としたとき、満充電状態における上記負極の充電電気量B[mAh/g]が-830×A+1800以下であることで、充電電気量Bが適度な大きさとなり、過剰に金属リチウムの析出が生じることを抑制できる。また、上記負極の充電電気量Bが-580×A+1258以上の範囲においては、負極合剤層のバインダーとして、耐還元性に優れ、負極電位が卑の状態においても還元分解されにくいと考えられるカウンターカチオンが金属イオンであるセルロース誘導体を用いることで、充放電サイクル後の抵抗の増加を抑制できる。従って、当該蓄電素子は、充電深度が深い負極の活物質に難黒鉛化性炭素を用いた場合に、充放電サイクル後の抵抗の増加に対する抑制効果に優れる。
【0035】
上記負極12の充電電気量Bは、以下の手順で測定するものとする。
(1)グローブボックス内で上記対象となる電池を放電末期(低SOC領域)まで放電して解体する。
(2)酸素濃度5ppm以下の雰囲気に制御した上記グローブボックス内で、正極板及び負極板を取り出して小型ラミネートセルを組み立てる。
(3)小型ラミネートセルを充電して前記満充電状態とした後、上記蓄電素子で定格容量が得られたときの下限電圧にて0.01CAまで定電流定電圧(CCCV)放電を行う。
(4)酸素濃度5ppm以下の雰囲気に制御したグローブボックス内で、小型ラミネートセルを解体し、負極を取り出して対極としてリチウム金属を配置した小型ラミネートセルに組みなおす。
(5)負極電位が2.0V(vs.Li/Li+)となるまで、0.01CAの電流密度で追加放電を行い、負極を完全放電状態に調整する。
(6)上記(3)及び(5)における合計電気量を小型ラミネートセルにおける正負極対向部の負極質量で割り算して充電電気量とする。
【0036】
[正極]
正極は、正極基材と、上記正極基材の少なくとも一方の面に直接又は間接に積層される正極合剤層とを備える。正極合剤層は、正極活物質を含む。正極は、正極基材と正極合剤層との間に配される中間層を備えていてもよい。
【0037】
(正極基材)
上記正極基材21は、導電性を有する基材である。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ及びコストのバランスからアルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。また、正極基材21の形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、正極基材21としてはアルミニウム箔が好ましい。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H4000(2014)に規定されるA1085、A3003等が例示できる。
【0038】
(正極合剤層)
正極合剤層は、正極活物質を含むいわゆる正極合剤から形成される。上記正極活物質としては、例えば、公知の正極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン非水電解質二次電池用の正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。正極活物質としては、例えば、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LixNi1-x]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγCo(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixCo(1-x)]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγMn(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixNiγMnβCo(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)、Li[LixNiγCoβAl(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物として、LixMn2O4、LixNiγMn(2-γ)O4等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4、Li3V2(PO4)3、Li2MnSiO4、Li2CoPO4F等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。
【0039】
正極活物質としては、ニッケルを含むニッケル含有リチウム遷移金属酸化物であることが好ましい。上記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物におけるリチウムを除く金属元素の総和に対するニッケルのモル比率が0.5以上(例えば0.5以上1以下)であることが好ましく、0.55以上(例えば0.6以上0.9以下)であることがより好ましい。特に好ましい正極活物質の例として、ニッケル、コバルト及びマンガンを含むリチウム遷移金属酸化物を主成分とし、上記リチウム遷移金属酸化物におけるニッケル、コバルト及びマンガンの総和に対するニッケルのモル比率が0.5以上(例えば0.5以上0.9
以下、典型的には0.6以上0.8以下)であるものが挙げられる。上記リチウム遷移金属酸化物におけるニッケル、コバルト及びマンガンの総和に対するニッケルのモル比率を上記範囲とすることで、当該蓄電素子の容量を高めることができる。
【0040】
正極合剤層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。正極合剤層においては、これら化合物の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0041】
正極合剤層中の正極活物質の含有量は特に限定されないが、その下限としては、50質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましい。一方、この含有量の上限としては、99質量%が好ましく、98質量%がより好ましい。
【0042】
満充電状態における上記負極の充電電気量Bは、例えば、上記正極合剤層における単位面積当たりの上記正極活物質の質量Pに対する上記負極合剤層における単位面積当たりの上記負極活物質の質量Nの比N/Pを変えることによって調整することができる。ある一態様では、上記難黒鉛化性炭素の真密度をA[g/cm3]としたとき、上記正極合剤層における単位面積当たりの上記正極活物質の質量Pに対する上記負極合剤層における単位面積当たりの上記負極活物質の質量Nの比N/Pが、下記式2を満たすことが好ましい。
0.57×A-0.53≦N/P≦0.83×A-0.77 ・・・2
従来の難黒鉛化性炭素を用いた電池に上記式2を満たすN/Pを適用した場合、通常の充電深度よりも深くなることで、負極電位が卑となり、充電時に金属リチウムの析出を起こすことによる充放電サイクル後の抵抗増加が生じるおそれがある。しかしながら、当該蓄電素子は、負極合剤層のバインダーとして、耐還元性に優れ、負極電位が卑の状態においても還元分解されにくいと考えられるカウンターカチオンが金属イオンであるセルロース誘導体を上記式2を満たすN/Pの範囲で用いることで、充放電サイクル後の抵抗の増加に対する抑制効果を発揮できる。
【0043】
(その他の任意成分)
正極合剤は、必要に応じて導電剤、バインダー、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、バインダー、フィラー等の任意成分は、上記負極で例示した材料から選択できる。
【0044】
上記導電剤としては、導電性材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、上記負極で例示した材料から選択できる。導電剤を使用する場合、正極合剤層全体に占める導電剤の割合は、およそ1.0質量%から20質量%とすることができ、通常はおよそ2.0質量%から15質量%(例えば3.0質量%から6.0質量%)とすることが好ましい。
【0045】
上記バインダーとしては、上記負極で例示した材料から選択できる。バインダーを使用する場合、正極合剤層全体に占めるバインダーの割合は、およそ0.50質量%から15質量%とすることができ、通常はおよそ1.0質量%から10質量%(例えば1.5質量%から3.0質量%)とすることが好ましい。
【0046】
上記フィラーとしては、上記負極で例示した材料から選択できる。フィラーを使用する場合、正極合剤層全体に占めるフィラーの割合は、およそ8.0質量%以下とすることができ、通常はおよそ5.0質量%以下(例えば1.0質量%以下)とすることが好ましい。
【0047】
(中間層)
上記中間層は、正極基材21の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで正極基材21と正極合剤層との接触抵抗を低減する。負極と同様、中間層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダー及び導電性粒子を含有する組成物により形成できる。
【0048】
[非水電解質]
上記非水電解質としては、一般的な非水電解質二次電池(蓄電素子)に通常用いられる公知の非水電解質が使用できる。上記非水電解質は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩を含む。なお、上記非水電解質は、固体電解質等であってもよい。
【0049】
上記非水溶媒としては、一般的な蓄電素子用非水電解質の非水溶媒として通常用いられる公知の非水溶媒を用いることができる。上記非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、エステル、エーテル、アミド、スルホン、ラクトン、ニトリル等を挙げることができる。これらの中でも、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを少なくとも用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、特に限定されないが、例えば5:95から50:50とすることが好ましい。
【0050】
上記環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、カテコールカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等を挙げることができ、これらの中でもECが好ましい。
【0051】
上記鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート等を挙げることができ、これらの中でもEMCが好ましい。
【0052】
上記電解質塩としては、一般的な蓄電素子用非水電解質の電解質塩として通常用いられる公知の電解質塩を用いることができる。上記電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等を挙げることができるが、リチウム塩が好ましい。
【0053】
上記リチウム塩としては、LiPF6、LiPO2F2、LiBF4、LiClO4、LiN(SO2F)2等の無機リチウム塩、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、LiC(SO2C2F5)3等の水素がフッ素で置換された炭化水素基を有するリチウム塩などを挙げることができる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPF6がより好ましい。
【0054】
上記非水電解質における上記電解質塩の濃度の下限としては、0.1mol/dm3が好ましく、0.3mol/dm3がより好ましく、0.5mol/dm3がさらに好ましく、0.7mol/dm3が特に好ましい。一方、この上限としては、特に限定されないが、2.5mol/dm3が好ましく、2.0mol/dm3がより好ましく、1.5mol/dm3がさらに好ましい。
【0055】
上記非水電解質には、その他の添加剤が添加されていてもよい。また、上記非水電解質として、常温溶融塩、イオン液体などを用いることもできる。
【0056】
[セパレータ]
セパレータは、上記負極及び上記正極の間に介在する。上記セパレータとしては、例えば織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が用いられる。これらの中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。上記セパレータの主成分としては、強度の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。また、これらの樹脂を複合してもよい。
【0057】
なお、セパレータと電極(通常、正極)との間に、無機層が積層されていてもよい。この無機層は、耐熱層等とも呼ばれる多孔質の層である。また、多孔質樹脂フィルムの一方の面又は両面に無機層が形成されたセパレータを用いることもできる。上記無機層は、通常、無機粒子及びバインダーとで構成され、その他の成分が含有されていてもよい。
【0058】
[蓄電素子の具体的構成]
本実施形態の蓄電素子の形状については特に限定されるものではなく、例えば、円筒型電池、パウチフィルム型電池、角型電池、扁平型電池、コイン型電池、ボタン型電池等が挙げられる。
【0059】
図1に蓄電素子の一例としての角型の非水電解質二次電池1を示す。なお、同図は、電池容器内部を透視した図としている。セパレータを挟んで巻回された正極及び負極を有する電極体2が角型の電池容器3に収納される。正極は正極集電体41を介して正極端子4と電気的に接続されている。負極は負極集電体51を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0060】
[蓄電素子の製造方法]
当該蓄電素子の製造方法は、負極を作製すること、正極を作製すること、非水電解質を調製すること、セパレータを介して正極及び負極を積層又は巻回することにより交互に重畳された電極体を形成すること、電極体を容器に収容すること、並びに上記容器に上記非水電解質を注入することを備える。上記正極は、正極基材に直接又は中間層を介して上記正極合剤層を積層することにより得ることができる。上記正極合剤層の積層は、正極基材に、正極合剤ペーストを塗工することにより行う。また、上記負極は、上記正極と同様、負極基材に直接又は中間層を介して上記負極合剤層を積層することにより得ることができる。上記負極合剤層の積層は、負極基材に、難黒鉛化炭素を含む負極合剤ペーストを塗工することにより行う。上記正極合剤ペースト及び負極合剤ペーストは、分散媒を含んでいてもよい。この分散媒としては、例えば、水、水を主体とする混合溶媒等の水系溶媒;N-メチルピロリドン、トルエン等の有機系溶媒を用いることができる。
【0061】
上記負極、正極、非水電解質等をケースに収容する方法は、公知の方法により行うことができる。収容後、収容口を封止することにより蓄電素子を得ることができる。上記製造方法によって得られる蓄電素子を構成する各要素についての詳細は上述したとおりである。
【0062】
当該蓄電素子によれば、充電深度が深い負極の活物質に難黒鉛化性炭素を用いた場合に金属リチウムの析出を抑制し、充放電サイクル後の抵抗の増加に対する抑制効果に優れる。
【0063】
[その他の実施形態]
なお、本発明の蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0064】
上記実施形態においては、当該蓄電素子が非水電解質二次電池である形態を中心に説明したが、その他の蓄電素子であってもよい。その他の蓄電素子としては、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)等が挙げられる。非水電解質二次電池としては、リチウムイオン非水電解質二次電池が挙げられる。
【0065】
本発明は、複数の上記蓄電素子を備える蓄電装置としても実現することができる。この場合、蓄電装置に含まれる少なくとも一つの蓄電素子に対して、本発明の技術が適用されていればよい。また、単数個又は複数個の本発明の蓄電素子(セル)を用いることにより組電池を構成することができ、さらにこの組電池を用いて蓄電装置を構成することができる。上記蓄電装置は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として用いることができる。さらに、上記蓄電装置は、エンジン始動用電源装置、補機用電源装置、無停電電源装置(UPS)等の種々の電源装置に用いることができる。
【0066】
図2に、電気的に接続された二以上の蓄電素子1が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した蓄電装置30の一例を示す。蓄電装置30は、二以上の蓄電素子1を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一以上の蓄電素子の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【実施例】
【0067】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
[例1から例21]
(負極の作製)
負極活物質である難黒鉛化性炭素、バインダーであるスチレン-ブタジエンゴム(SBR)、増粘剤であるカルボキシメチルセルロース(CMC)、及び分散媒である水を混合して負極合剤ペーストを調製した。難黒鉛化性炭素とスチレン-ブタジエンゴムと(カルボキシメチルセルロース(CMC)との質量比率は固形分換算で97.4:2.0:0.6とした。
【0069】
負極合剤ペーストは、水の量により粘度を調整し、マルチブレンダーミルを用いた混練により作製した。この負極合剤ペーストを銅箔の両面に塗工した。次に、乾燥することにより負極合剤層を作製した。上記乾燥後、所定の充填密度となるように負極合剤層にロールプレスを行い、負極を得た。
【0070】
(正極の作製)
正極活物質であるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、導電剤であるアセチレンブラック(AB)、バインダーであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)及び非水系分散媒であるN-メチルピロリドン(NMP)を用いて正極合剤ペースト(正極合剤層形成用材料)を調製した。なお、正極活物質、バインダー及び導電剤の質量比率は固形分換算で94.5:4.0:1.5とした。この正極合剤ペーストを、アルミ箔の一端縁に非積層部が形成されるように、アルミ箔の両面に塗工した。次に、乾燥することにより正極合剤層を作製した。上記乾燥後、所定の充填密度となるように正極合剤層にロールプレスを行い、正極を得た。また、例1から例28のN/Pを表1に示す。ここで、正極活物質であるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物のニッケル、コバルト及びマンガンのモル比(Ni:Co:Mn比)は、6.0:2.0:2.0とした。
【0071】
(非水電解質)
非水電解質は、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)の体積比率が30:70となるように混合した溶媒に、塩濃度が1.2mol/dm3となるようにLiPF6を溶解させて調製した。
【0072】
(セパレータ)
セパレータには、厚さ14μmのポリエチレン微多孔膜を用いた。
【0073】
(蓄電素子)
上記正極と負極とセパレータとを積層し、電極体を作製した。その後、電極体を容器に封入した。次に、容器と蓋板とを溶接後、上記非水電解質を注入して封口した。この様にして例1から例21の電池(蓄電素子)を得た。
【0074】
[評価]
(難黒鉛化炭素の真密度)
難黒鉛化性炭素の真密度の測定は、以下の手順でおこなった。
放電状態の難黒鉛化炭素を水中に浸漬させ、バインダー及び増粘剤を除去した後に、25℃で12時間真空乾燥した後に難黒鉛化炭素を取り出した。次に、この難黒鉛化炭素を120℃で2時間乾燥し、デシケーター中で室温まで冷却した。比重瓶の質量(m1)を正確に量り、難黒鉛化炭素を約3g入れて、質量を正確に量った(m2)。次に、比重瓶に1-ブタノールを底から20mm程度の深さになるまで静かに加え、真空デシケーター中に入れ、徐々に排気して圧力を2.0kPaから2.6kPaに維持した。この圧力を20分間保ち、気泡の発生が止まった後に、比重瓶を真空デシケーターから取り出し、更に1-ブタノールを加えた。30±0.5℃の恒温水槽に比重瓶を30分間浸し、1-ブタノール液面を標線に合わせた。比重瓶を取り出し、外側をよく拭いて質量正確に量った。再び恒温水槽に15分間浸し、1-ブタノール液面を標線に合わせ、比重瓶を取り出して外側をよくふき取り、質量を量った。この工程を3回繰り返し、3回繰り返した時の各質量の平均値を(m4)とする。次に、同じ比重瓶に1-ブタノールを満たし、上記と同様に恒温水槽に浸し、標線に合わせた後に質量を量る工程を4回繰り返し、4回繰り返した時の各質量その平均値を(m3)とする。また、使用直前に脱気した水を比重瓶に入れ、前記と同様に恒温水槽に浸し、標線に合わせた後に質量を量る工程を4回繰り返しその平均値を(m5)とする。下記式2により真密度Aを計算した。なお、下記式2において、dは30℃における比重であり、d=0.9946である。
A=(m2-m1)/(m2-m1-(m4-m3))×((m3-m1)/(m5-m1))×d ・・・2
【0075】
(負極の充電電気量)
負極の充電電気量は、上述の方法で測定した。
【0076】
(充放電サイクル後のDCR(直流抵抗)増加率)
(1)初期放電容量確認試験
25℃の恒温槽内において充電電流13.6A、充電終止電圧4.32Vの条件で、充電電流が0.4A以下になるまで定電流定電圧(CCCV)充電を行い、その後、20分間の休止期間を設けた。その後、放電電流40.9A、放電終止電圧2.4Vで定電流(CC)放電を行った。このときの放電容量を「初期放電容量」とした。
(2)充放電サイクル試験
「初期放電容量」測定後の各蓄電素子について、45℃の恒温槽内において充電電流13.6A、充電終止電圧4.32Vの条件で、充電電流が0.4A以下になるまで定電流定電圧(CCCV)充電を行い、その後、10分間の休止期間を設けた。その後、放電電流40.9A、放電終止電圧2.4Vで定電流(CC)放電を行い、その後、10分間の休止期間を設けた。この充放電サイクルを1000サイクル実施した。1000サイクル実施後に、「初期容量」の測定試験と同様の条件で放電容量を測定し、このときの放電容量を「1000サイクル後の容量」とした。
(3)充放電サイクル後のDCR増加率
上記充放電サイクル試験後の蓄電素子のDCRを評価した。充放電サイクル試験後の各蓄電素子について、初期放電容量測定後及び1000サイクル試験後の各蓄電素子を、25℃の恒温槽内で、上記放電容量測定方法と同条件で測定した放電容量の50%SOC分の充電電気量を13.6Aの電流値で定電流充電した。上記条件で電池のSOCを50%にした後、各々40.9A、81.8A、122.7A、300.0Aの電流値で10秒間放電させ、放電開始10秒後の電圧を縦軸に、放電電流値を横軸にプロットして得た電流-電圧性能のグラフから、その勾配に相当する値であるDCR値を求めた。そして、各試験例について、25℃における「充放電サイクル試験開始前のDCR」に対する「充放電サイクル試験後のDCR」の比率(「充放電サイクル試験実施後のDCR」/「充放電サイクル試験開始前のDCR」)を算出し、「DCR増加率[%]」を求めた。このDCR増加率について、表1に例1のDCR増加率に対する各試験例のDCR増加率の割合[%]を示す。
【0077】
下記表1に、例1から例21の難黒鉛化炭素の真密度、セルロース誘導体のカウンターカチオン、負極の充電電気量、N/P比、例1のDCR増加率に対する各試験例のDCR増加率の割合を示す。また、例1から例21における負極活物質中の難黒鉛化炭素の真密度と満充電状態の負極の充電電気量との関係を
図3に示す。
【0078】
【0079】
表1及び
図3に示されるように、上記難黒鉛化性炭素の真密度をA[g/cm
3]としたとき、満充電状態における上記負極の充電電気量B[mAh/g]が、-580×A+1258≦B≦-830×A+1800の範囲であり、負極合剤層にカウンターカチオンが金属イオンであるセルロース誘導体を含む例1から例5、例12、例14および例18は、充放電サイクル後のDCR増加率に対する抑制効果が良好であった。
【0080】
一方、上記負極の充電電気量Bが、-580×A+1258≦B≦-830×A+1800の範囲であるが、負極合剤層にカウンターカチオンが金属イオンでないセルロース誘導体を含む例7、例13、例15および例19は、充放電サイクル後の抵抗の増加に対する抑制効果が低下した。
また、負極の充電電気量Bが、-580×A+1258未満の例8、例9、例16、例17、例20及び例21は、セルロース誘導体のカウンターカチオンに係わらずDCR増加率は良好であった。
さらに、上記負極の充電電気量Bが、-830×A+1800超の例6、例10及び例11は、負極合剤層にカウンターカチオンが金属イオンであるセルロース誘導体を含むにも係わらず、充放電サイクル後の抵抗の増加に対する抑制効果が低下した。
当該蓄電素子は、満充電状態における上記負極の充電電気量Bが、-580×A+1258≦B≦-830×A+1800を満たす特定の範囲である場合において、カウンターカチオンが金属イオンであるセルロース誘導体を含むことで、負極の充電深度が比較的深い場合であっても充放電サイクル後の抵抗の増加を抑制できることがわかる。
【0081】
以上の結果、当該蓄電素子は、充電深度が深い負極の活物質に難黒鉛化性炭素を用いた場合に充放電サイクル後の抵抗の増加に対する抑制効果に優れることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車などの電源として使用される非水電解質二次電池をはじめとした蓄電素子として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0083】
1 蓄電素子
2 電極体
3 電池容器
4 正極端子
41 正極集電体
5 負極端子
51 負極集電体
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置