IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 味の素株式会社の特許一覧

特許7452018冷凍されたパイ用生地およびその製造方法、ならびに揚げパイおよびその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】冷凍されたパイ用生地およびその製造方法、ならびに揚げパイおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/26 20060101AFI20240312BHJP
   A21D 2/18 20060101ALI20240312BHJP
   A21D 2/16 20060101ALI20240312BHJP
   A21D 13/60 20170101ALI20240312BHJP
   A21D 13/19 20170101ALI20240312BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20240312BHJP
   A21D 10/00 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
A21D2/26
A21D2/18
A21D2/16
A21D13/60
A21D13/19
A21D13/80
A21D10/00
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2020003213
(22)【出願日】2020-01-10
(65)【公開番号】P2020110148
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2019002955
(32)【優先日】2019-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100158724
【弁理士】
【氏名又は名称】竹井 増美
(72)【発明者】
【氏名】小西 潤治
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-219793(JP,A)
【文献】特開2012-213367(JP,A)
【文献】特開平08-066147(JP,A)
【文献】みらいぶプラス [オンライン], 2016.09.10 [検索日 2023.09.06], インターネット:<URL:https://www.milive-plus.net/食品物性学/食品物性学2/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/26
A21D 2/18
A21D 2/16
A21D 13/60
A21D 13/19
A21D 13/80
A21D 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイ用生地の厚さが3.0mm~3.9mmであり、かつ、生地中に外部から添加されたグリアジンならびにアルギン酸エステルおよびイヌリンからなる群より選択される1種以上を含有する、冷凍されたパイ用生地であって、外部から添加されたグリアジンの含有量が、パイ用生地の調製に用いる穀粉100g当たり0.2g~0.8gであり、アルギン酸エステルの含有量が、パイ用生地の調製に用いる穀粉100g当たり0.1g~0.8gであり、イヌリンの含有量が、パイ用生地の調製に用いる穀粉100g当たり0.25g~10gである、パイ用生地
【請求項2】
乳化剤をさらに含有する、請求項1に記載のパイ用生地。
【請求項3】
多層のパイ用生地であり、直径が0.5mm~4mmの貫通する細孔を当該パイ用生地1cmあたり1個以上有する、請求項1または2に記載のパイ用生地。
【請求項4】
直径0.5mm~4mmの貫通する細孔を生地1cmあたり1個~10個有する、請求項に記載のパイ用生地。
【請求項5】
多層のパイ用生地であり、直径が0.5mm~4mmの貫通する細孔を当該パイ用生地1cmあたり0.1個以上有する、請求項1または2に記載のパイ用生地。
【請求項6】
直径0.5mm~4mmの貫通する細孔を生地1cmあたり0.5個~10個有する、請求項に記載のパイ用生地。
【請求項7】
フィリングとしてチョコレートを包含する、請求項1~のいずれか1項に記載のパイ用生地。
【請求項8】
揚げパイ用である、請求項1~のいずれか1項に記載のパイ用生地。
【請求項9】
外部から添加されたグリアジンならびにアルギン酸エステルおよびイヌリンからなる群より選択される1種以上を含有する生地であって、外部から添加されたグリアジンの含有量が、パイ用生地の調製に用いる穀粉100g当たり0.2g~0.8gであり、アルギン酸エステルの含有量が、パイ用生地の調製に用いる穀粉100g当たり0.1g~0.8gであり、イヌリンの含有量が、パイ用生地の調製に用いる穀粉100g当たり0.25g~10gである生地を調製する工程、およびパイ用生地の厚さを3.0mm~3.9mmとする工程を含む、冷凍されたパイ用生地の製造方法。
【請求項10】
生地が乳化剤をさらに含有する、請求項に記載の製造方法。
【請求項11】
生地を重ねて多層のパイ用生地とする工程、および、直径0.5mm~4mmの貫通する細孔を、当該多層パイ用生地1cmあたり1個以上設けるように穿孔処理を施す工程を含む、請求項9または10に記載の製造方法。
【請求項12】
直径0.5mm~4mmの貫通する細孔を生地1cmあたり1個~10個設けるように穿孔処理を施す工程を含む、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
生地を重ねて多層のパイ用生地とする工程、および、直径0.5mm~4mmの貫通する細孔を、当該多層パイ用生地1cmあたり0.1個以上設けるように穿孔処理を施す工程を含む、請求項9または10に記載の製造方法。
【請求項14】
直径0.5mm~4mmの貫通する細孔を生地1cmあたり0.5個~10個設けるように穿孔処理を施す工程を含む、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
フィリングとしてチョコレートを包含する工程を含む、請求項14のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項16】
冷凍されたパイ用生地が揚げパイ用である、請求項15のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項17】
生地中に外部から添加されたグリアジンならびにアルギン酸エステルおよびイヌリンからなる群より選択される1種以上を含有し、フィリングを包含する、揚げパイであって、生地中の外部から添加されたグリアジンの含有量が、パイ用生地の調製に用いる穀粉100g当たり0.2g~0.8gであり、アルギン酸エステルの含有量が、パイ用生地の調製に用いる穀粉100g当たり0.1g~0.8gであり、イヌリンの含有量が、パイ用生地の調製に用いる穀粉100g当たり0.25g~10gである、揚げパイ
【請求項18】
生地中に乳化剤をさらに含有する、請求項17に記載の揚げパイ。
【請求項19】
折りたたまれた生地が重ねられた多層構造を有し、直径が0.5mm~4mmの貫通する細孔を1cmあたり1個以上有する、請求項17または18に記載の揚げパイ。
【請求項20】
直径0.5mm~4mmの貫通する細孔を生地1cmあたり1個~10個有する、請求項19に記載の揚げパイ。
【請求項21】
折りたたまれた生地が重ねられた多層構造を有し、直径が0.5mm~4mmの貫通する細孔を1cmあたり0.1個以上有する、請求項17または18に記載の揚げパイ。
【請求項22】
直径0.5mm~4mmの貫通する細孔を生地1cmあたり0.5個~10個有する、請求項21に記載の揚げパイ。
【請求項23】
請求項1~のいずれか1項に記載のパイ用生地を解凍せずに油ちょうする工程を含む、揚げパイの製造方法。
【請求項24】
油ちょうが160℃~210℃の温度で3分間~4分間行われる、請求項23に記載の揚げパイの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冷凍されたパイ用生地およびその製造方法、当該冷凍されたパイ用生地を用いて作製された揚げパイおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パイは中世ヨーロッパで食され始めて以来、長い歴史を有する食品であり、小麦粉とバターなどから作った生地に、甘く煮た果実類、ナッツ類、食肉類などの食材を包み込んだ後にオーブンで焼く、または油で揚げた料理または菓子である。バターの代わりに、また、バターとともにマーガリン、ショートニング、ラード等も用いられる。
パイには多くの種類があるが、フィリング(本発明においては中具と称する場合もある)としてチョコレートを用いるチョコレートパイの歴史は比較的浅く、チョコレートが安価に流通し始めた19世紀後半のヨーロッパにその起源を有する。
【0003】
フィリングとしてチョコレートを用いるチョコレートパイは老若男女を問わず人気のある食品である。その製造方法については数多く報告されているが、家庭で良く用いられる伝統的な方法は以下の通りである。
(1)まず、小麦粉に水と食塩を加えて良く混合する。
(2)溶かしたバターを加えてさらに混合する。
(3)生地を四角に伸ばし、冷やしておいたバターの塊を包む。
(4)バターを包んだ生地を麺棒などで叩き、平たく伸ばす。
(5)平らになった生地に打ち粉をし、麺棒で平たく伸ばす。
(6)生地を三つ折りにしてしばらく放置する。
(7)最初の伸ばしと直交する方向に再度伸ばし、三つ折りにする。
(8)三つ折りにする工程を3~6回程度行う。
(9)生地をしばらく放置した後、適宜切り、フィリングとしてチョコレートを包み、焼成または油ちょう(油で揚げる(フライ))する。
上記伝統的製法以外にも、最初からバター等の脂質を加えて均一に混合するなどの改良法が多数報告されている。また、工業的にパイを製造する場合には効率性を重視した簡便な製造方法が採用されている。
【0004】
1960年代の高度経済成長期には食の洋風化が進み、わが国においてもパイが急速に普及し、洋菓子店、レストラン等で提供されるようになった。チョコレートパイも広く洋菓子店、レストラン等で扱われ、人気の食品となった。
この当時のチョコレートパイは、上述したような伝統的な製造方法またはその改良法により製造されていた。それらの方法で製造されたチョコレートパイは品質的には素晴らしいが、製造に時間を要するという大きな課題があった。
上記課題に鑑み、1970年代に冷凍されたパイ用生地(以下、「冷凍パイ用生地」と称することがある)が開発され、日本でも広く流通するようになった。冷凍パイ用生地は長期に渡り、冷凍保存ができるという利点に加えて、解凍後に焼成または油ちょうするだけでよく、従来の煩雑な製造工程を必要としないため、洋菓子店、レストラン等で広く用いられている。とりわけ、揚げチョコレートパイを提供するファーストフード店において冷凍パイ用生地は好まれ、揚げチョコレートパイはファーストフード店の重要なメニューとして定着している。
【0005】
ファーストフード店では、顧客からのオーダーに応じて調理を開始する。従って、可能な限り短時間で調理できる冷凍パイ用生地、すなわち、解凍することなく油で揚げるだけで、良好な食感とボリュームを有するチョコレートパイの製造が可能な冷凍パイ用生地が長年求められて来た。この課題に対し、冷凍パイ用生地に穿孔処理を施すことが極めて有効であることが見出され、多層構造を有するパイ用生地に、特定の直径を有する貫通する細孔を1cmあたり1個以上形成して用いる技術が提案されている(特許文献1)。かかる穿孔処理を施した冷凍パイ用生地を用いると、約6分程度という短い油ちょう時間で良質な揚げチョコレートパイが得られるため、ファーストフード店で近年広く用いられている。
【0006】
しかし、ファーストフード店等では、一度に多くの顧客が来店し注文が殺到する場合があり、良好な食感とボリュームを有する揚げチョコレートパイをより短時間で提供することが望まれている。より詳細には、3分~4分程度の短時間の油ちょう処理で良好な食感とボリュームのある揚げチョコレートパイの提供が望まれている。
しかしながら、3分~4分程度の短時間の油ちょうでは、パイの内部芯温が十分上昇しない等の理由より、良好な食感とボリュームを有する揚げチョコレートパイを提供することが困難であり、これが揚げチョコレートパイを提供するファーストフード店における大きな課題となっていた。
【0007】
また、パイを含む小麦粉製品の生地の改良についても多くの報告が存在する。その1つとしてグリアジンをパン、クッキー等の小麦製品に添加して生地の伸展性を改良する方法が報告されているが、当該報告には油ちょうしたパイおよびチョコレートパイに関しては全く記載されていない(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第3799600号公報
【文献】特許第4129259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、3分~4分程の短時間の油ちょうによる揚げパイの製造に適する、冷凍されたパイ用生地およびその製造方法を提供することにある。
さらには、3分~4分程の短時間の油ちょうであっても、優れた食感とボリュームを有する揚げパイ、およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、フィリングを包むパイ用生地の厚さを、従来の生地よりも薄くするとともに、生地中にグリアジンを含有させることで上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、以下の技術的事項から構成される。
[1]パイ用生地の厚さが3.0mm~3.9mmであり、かつ、生地中にグリアジンを含有する、冷凍されたパイ用生地。
[2]グリアジンを、パイ用生地の調製に用いる穀粉100g当たり0.2g~0.8g含有する、[1]に記載のパイ用生地。
[3]アルギン酸エステルおよびイヌリンからなる群より選択される1種以上をさらに含有する、[1]または[2]に記載のパイ用生地。
[4]乳化剤をさらに含有する、[1]~[3]のいずれかに記載のパイ用生地。
[5]多層のパイ用生地であり、直径が0.5mm~4mmの貫通する細孔を当該パイ用生地1cmあたり1個以上有する、[1]~[4]のいずれかに記載のパイ用生地。
[6]直径0.5mm~4mmの貫通する細孔を生地1cmあたり1個~10個有する、[5]に記載のパイ用生地。
[7]多層のパイ用生地であり、直径が0.5mm~4mmの貫通する細孔を当該パイ用生地1cmあたり0.1個以上有する、[1]~[4]のいずれかに記載のパイ用生地。
[8]直径0.5mm~4mmの貫通する細孔を生地1cmあたり0.5個~10個有する、[7]に記載のパイ用生地。
[9]フィリングとしてチョコレートを包含する、[1]~[8]のいずれかに記載のパイ用生地。
[10]揚げパイ用である、[1]~[9]のいずれかに記載のパイ用生地。
[11]グリアジンを含有する生地を調製する工程、およびパイ用生地の厚さを3.0mm~3.9mmとする工程を含む、冷凍されたパイ用生地の製造方法。
[12]パイ用生地の調製に用いる穀粉100g当たり0.2g~0.8gのグリアジンを含有する、[11]に記載の製造方法。
[13]生地がアルギン酸エステルおよびイヌリンからなる群より選択される1種以上をさらに含有する、[11]または[12]に記載の製造方法。
[14]生地が乳化剤をさらに含有する、[11]~[13]のいずれかに記載の製造方法。
[15]生地を重ねて多層のパイ用生地とする工程、および、直径0.5mm~4mmの貫通する細孔を、当該多層パイ用生地1cmあたり1個以上設けるように穿孔処理を施す工程を含む、[11]~[14]のいずれかに記載の製造方法。
[16]直径0.5mm~4mmの貫通する細孔を生地1cmあたり1個~10個設けるように穿孔処理を施す工程を含む、[15]に記載の製造方法。
[17]生地を重ねて多層のパイ用生地とする工程、および、直径0.5mm~4mmの貫通する細孔を、当該多層パイ用生地1cmあたり0.1個以上設けるように穿孔処理を施す工程を含む、[11]~[14]のいずれかに記載の製造方法。
[18]直径0.5mm~4mmの貫通する細孔を生地1cmあたり0.5個~10個設けるように穿孔処理を施す工程を含む、[17]に記載の製造方法。
[19]フィリングとしてチョコレートを包含する工程を含む、[11]~[18]のいずれかに記載の製造方法。
[20]冷凍されたパイ用生地が揚げパイ用である、[11]~[19]のいずれかに記載の製造方法。
[21]生地中にグリアジンを含有し、フィリングを包含する、揚げパイ。
[22]生地中にアルギン酸エステルおよびイヌリンからなる群より選択される1種以上をさらに含有する、[21]に記載の揚げパイ。
[23]生地中に乳化剤をさらに含有する、[21]または[22]に記載の揚げパイ
[24]折りたたまれた生地が重ねられた多層構造を有し、直径が0.5mm~4mmの貫通する細孔を1cmあたり1個以上有する、[21]~[23]のいずれかに記載の揚げパイ。
[25]直径0.5mm~4mmの貫通する細孔を生地1cmあたり1個~10個有する、[24]に記載の揚げパイ。
[26]折りたたまれた生地が重ねられた多層構造を有し、直径が0.5mm~4mmの貫通する細孔を1cmあたり0.1個以上有する、[21]~[23]のいずれかに記載の揚げパイ。
[27]直径0.5mm~4mmの貫通する細孔を生地1cmあたり0.5個~10個有する、[26]に記載の揚げパイ。
[28][1]~[10]のいずれかに記載のパイ用生地を解凍せずに油ちょうする工程を含む、揚げパイの製造方法。
[29]油ちょうが160℃~210℃の温度で3分間~4分間行われる、[28]に記載の揚げパイの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、3分~4分程度の短時間の油ちょうによる揚げパイの製造に適する、冷凍されたパイ用生地およびその製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、3分~4分程の短時間の油ちょうであっても、良好な食感とボリュームを有する揚げパイおよびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、冷凍されたパイ用生地(以下、本明細書にて「本発明の冷凍パイ用生地」とも称する)を提供する。
本発明の冷凍パイ用生地は、生地の厚さが3.0mm~3.9mmであり、グリアジンを含有する。
グリアジンは、小麦粉に含まれるグルテンという蛋白質を構成する蛋白質である。グルテンはグリアジンとグルテニンという蛋白質により構成され、両者が網目状に複雑につながった構造を有する。本発明においては、グリアジンは、パイの原料として使用される小麦粉中のグルテンに由来するものではなく、外部から添加される点に特徴がある。
【0014】
本発明において、「生地」とは、小麦粉や、必要に応じて澱粉や他の穀粉を含む穀粉(以下、本明細書において、これら生地の調製に用いる穀粉を「原料穀粉」と称することがある)に、水、卵、食塩等を加えて捏ね上げたものである。なお、必要に応じて、さらに砂糖、油脂(バター、マーガリン、植物油脂など)、乳製品(脱脂粉乳、ヨーグルトなど)などを加えてもよい。
原料穀粉に含まれる小麦粉としては、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、全粒粉、デュラム小麦粉等、通常パイの製造に用いられるものを特に制限されることなく用いることができる。また、上述したように、小麦粉以外の穀粉や澱粉を小麦粉に加えて原料穀粉として用いても構わない。小麦粉以外の穀粉としては、パイの製造に用いられるものであれば、特に制限されることなく用いることができ、たとえば、大麦粉、ライ麦粉、燕麦粉、トウモロコシ粉、大豆粉、米粉等が挙げられる。
また、澱粉についても、食品用の澱粉であれば特に制限されることなく用いることができ、トウモロコシ澱粉、小麦澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉等、種々の植物を原料とする澱粉を用いることができる。
さらに、前記した植物を原料として製造される澱粉に、物理的または化学的な処理を施した加工澱粉を用いることもできる。かかる加工澱粉としては、酸処理澱粉、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、アセチル化酸化澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酢酸澱粉、酸化澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉、ヒドロキシプロピルリン酸架橋澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉、リン酸化澱粉、リン酸架橋澱粉、澱粉グリコール酸ナトリウム等が挙げられる。
小麦粉以外の穀粉や澱粉は、必要に応じて1種または2種以上を用いることができる。
【0015】
本発明においては、グリアジンは、上記した原料穀粉に添加される。グリアジンとしては、小麦グルテンから自ら分離して調製したものを用いてもよいし、また、市販されている製品を用いても構わない。市販されている製品としては、アサマ化成株式会社製の「グリアA」等が挙げられる。
本発明の冷凍パイ用生地におけるグリアジンの含有量は、小麦粉等の原料穀粉100g当たり、0.2g~0.8gであり、好ましくは0.4g~0.6gである。
【0016】
本発明の冷凍パイ用生地には、グリアジンに加えて、アルギン酸エステルおよびイヌリンからなる群より選択される1種以上を含有させることができる。アルギン酸エステルとイヌリンは、それぞれ1種を単独で含有させてもよく、また、それぞれ1種以上を組み合わせて含有させてもよい。
本発明の冷凍パイ用生地に、アルギン酸エステルやイヌリンを含有させることにより、3分~4分程の短時間の油ちょうでも、得られる揚げパイの食感がより好ましくなり、ボリュームが出る。
【0017】
本発明の冷凍パイ用生地に含有されるアルギン酸エステルは、海藻類に含まれ、β-D-マンヌロン酸とα-L-グルロン酸とにより構成される多糖類であるアルギン酸のカルボキシル基の少なくとも一部がエステル化された化合物である。本発明においては、構成糖であるβ-D-マンヌロン酸とα-L-グルロン酸の割合や配列順序、エステルの種類により特に制限されることなく用いることができる。
アルギン酸エステルの分子量は特に制限されないが、サイズ排除クロマトグラフィー-多角度光散乱測定システム(size exclusion chromatography-multi light scattering(SEC-MALS))により測定される重量平均分子量が250,000~350,000程度のものが好ましく用いられる。また、エステル化度についても特に制限されないが、好ましくは20重量%~95重量%であり、より好ましくは60重量%~95重量%であり、さらに好ましくは75重量%~95重量%である。
【0018】
本発明で用いるアルギン酸エステルは、天然物に由来するものであってもよいし、合成して得られるものであってもよい。
アルギン酸エステルを天然物から得る場合には、海藻類などからアルギン酸を得た上でエステル化するのが好ましい。
具体的には、高分子量のアルギン酸が豊富に含まれている褐藻類等をたとえば希硫酸で洗浄し、炭酸ナトリウム水溶液で抽出してから硫酸で沈殿させて高分子量のアルギン酸を得、これを常法に従ってエステル化することによってアルギン酸エステルとすることができる。あるいは、褐藻類等をたとえば希硫酸または希塩酸等の希鉱酸で洗浄し、炭酸ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液で抽出してから塩化カルシウム等のカルシウム塩で沈殿させてアルギン酸カルシウムを得た後、硫酸または塩酸等の鉱酸で脱カルシウムして高分子量のアルギン酸を得、得られたアルギン酸を常法にしたがってエステル化することによってアルギン酸エステルとすることができる。
低分子量のアルギン酸エステルを調製する場合は、高分子量のアルギン酸を低分子化した後にエステル化してもよいし、高分子量のアルギン酸をエステル化した後に低分子化してもよい。低分子化する方法としては、高分子量のアルギン酸に酵素(アルギン酸リアーゼ等)を作用させる方法、次亜塩素酸ナトリウムや過酸化水素等と反応させる方法、熱分解する方法、加圧分解する方法等を採用することができる。
【0019】
また、本発明で用いるアルギン酸エステルは、本発明の効果を損なわない範囲内で、官能基や架橋構造を有していてもよい。また、アルギン酸エステルには、アルギン酸やアルギン酸塩、アルギン酸エステル以外のアルギン酸誘導体が混在していてもよい。
【0020】
本発明においては、アルギン酸エステルとして、上記したように天然物からアルギン酸を抽出、精製し、次いでエステル化して用いてもよく、また、公知の方法により、合成して用いることもできるが、各社から提供されている市販の製品を用いることもできる。本発明の目的には、海藻由来のアルギン酸エステルが好ましく用いられる。
市販されているアルギン酸エステルとしては、アルギン酸プロピレングリコールエステルが挙げられ、キッコーマンバイオケミファ株式会社より提供されているダックロイドシリーズ、株式会社キミカより提供されているキミロイドシリーズ、太陽化学株式会社より提供されているメンソフトAPG等が挙げられる。
なお、本発明において、アルギン酸エステルは、1種を単独で用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0021】
本発明の冷凍パイ用生地に含有されるイヌリンは、主に果糖が重合してなる多糖類であり、種々の植物によって生成される。本発明の目的には、サイズ排除クロマトグラフィーにより測定される重量平均分子量が2,000~3,000程度のものが好ましく用いられる。もちろん、上記の重量平均分子量を有するものに限定されるわけではない。
本発明においては、チコリー等のイヌリンを高含有量で含む植物を原料にイヌリンを抽出、分離し、精製(脱塩、脱色等)する方法や、砂糖を原料として、イヌリン合成酵素により砂糖に果糖を付加して製造する方法等により、製造して用いることもできるが、各社から提供されている市販の製品を用いることもできる。
なお、本発明において、イヌリンは、1種を単独で用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0022】
本発明の冷凍パイ用生地において、アルギン酸エステルおよびイヌリンからなる群より選択される1種以上は、パイ生地の調製に用いる小麦粉等の原料穀粉100重量部に対し、それらの総含有量として、好ましくは0.2重量部~0.8重量部含有され、より好ましくは0.4重量部~0.6重量部含有される。
【0023】
また、本発明の別の実施態様において、アルギン酸エステルは、パイ生地の調製に用いる小麦粉等の原料穀粉100重量部に対し、好ましくは0.2重量部~0.8重量部含有され、より好ましくは0.4重量部~0.6重量部含有される。イヌリンは、パイ生地の調製に用いる小麦粉等の原料穀粉100重量部に対し、好ましくは0.5重量部~10.0重量部含有され、より好ましくは0.5重量部~3.0重量部含有される。なお、アルギン酸エステルのみを含有する場合、イヌリンのみを含有する場合、アルギン酸エステルとイヌリンを含有する場合のいずれにおいても、前記各含有量は変わらない。
【0024】
本発明の冷凍パイ用生地には、さらに乳化剤を含有させてもよい。乳化剤としては、食品産業において用いられているものであれば、特に制限されず、例えば、脂肪酸モノグリセリド、レシチン、ステアロイル乳酸ナトリウム(SSL)、ステアロイル乳酸カルシウム(CSL)、ジアセチル酒石酸モノグリセリド(DATEM)などを用いることができる。また、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いても構わない。
乳化剤の含有量は、乳化剤の全量として、パイ用生地の調製に用いる小麦粉等の原料穀粉100g当たり通常0.2g~0.8gであり、好ましくは0.4g~0.6gである。
【0025】
さらに本発明の冷凍パイ用生地には、必要により、キサンタンガム、グアガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の多糖類、ホエイ、カゼインなどを含有させてもよい。
【0026】
本明細書において、「パイ用生地」とは、小麦粉等の原料穀粉に、上記したグリアジン等の成分を含有させて調製される生地に、マーガリン、バター、ショートニング等を添加して折りたたみ、再度展延して折りたたむ操作を繰り返して調製される層状の生地をいう。生地を折りたたむ際においてマーガリン、バター等は、通常、前記生地100重量部に対し20重量部~80重量部、好ましくは30重量部~60重量部の比率で添加される。
本発明のパイ用生地は、上記折りたたみ層を通常8層以上、32層以下重ねた多層構造を有し、好ましくは、16層以上、24層以下重ねた多層構造を有する。
また、チップ状マーガリンを生地に混ぜて折りたたみ層を形成させた練りパイも、本発明の「パイ用生地」に含まれる。
さらに、上記したパイ用生地で、後述するフィリングを包んだ状態のものも、本発明の「パイ用生地」に含まれる。なお、本明細書では、フィリングを包含するパイ用生地を、特に「パイ用成形生地」と称する場合もある。
【0027】
本発明の冷凍パイ用生地は、8層以上、32層以下、好ましくは16層以上、24層以下の多層とし、直径0.5mm~4mmの貫通する細孔を有するように、穿孔処理を施すことが好ましい。前記の貫通する細孔は、当該多層のパイ用生地1cmあたり1個以上有するように形成されることが好ましく、1個~10個有するように形成されることがより好ましい。
また、本発明の他の実施態様において、上記穿孔処理は、多層のパイ用生地1cmあたり好ましくは0.1個以上、より好ましくは0.3個以上、さらに好ましくは0.5個~10個有するように施される。
グリアジンの添加とともに、かかる穿孔処理を施すことにより、解凍せずとも3分~4分程の短時間の油ちょう調理により、ボリュームがあり、より食感の良好な揚げパイを得ることができる。なお、上記穿孔処理は、たとえば、上記特許文献1に記載された方法で行うことができる。勿論、他の方法を用いても構わない。
上記多層のパイ用生地の厚さは、3.0mm~3.9mmに調整され、好ましくは3.5mm~3.8mmに調整される。このようにパイ用生地の厚さを3.0mm~3.9mm、好ましくは3.5mm~3.8mmに調整することが本発明においては重要である。
また、上記多層としたパイ用生地にフィリングを包含させた後の厚さ、すなわちパイ用成形生地の厚さは、12mm~38mmとすることが好ましい。
【0028】
本発明の冷凍パイ用生地は、フィリングを包含し得る。
本発明においては、「フィリング(中具ともいう)」として、チョコレート、クリーム(チョコレートクリーム、バタークリーム、チーズクリーム、カスタードクリーム、生クリーム、フラワーペースト等)、ジャム(イチゴジャム、オレンジジャム、マーマレード等)、餡(小豆餡、栗餡、芋餡、落花生餡等)、惣菜(カレー、シチュー、ビーフシチュー、グラタン、トマトソース、ピザソース等)などを用いることができる。
本発明においては、バタークリーム、チョコレート等の無水のフィリングがより好ましく用いられ、チョコレートが最も好ましく用いられる。
フィリングは、本発明の冷凍パイ用生地100重量部に対し、通常30重量部~70重量部、好ましくは35重量部~65重量部包含され得る。
フィリングとしてチョコレートを用いる場合は、本発明の冷凍パイ用生地100重量部に対し、通常は20重量部~80重量部、好ましくは35重量部~65重量部用いられる。
【0029】
本発明の冷凍パイ用生地は、上記原料に水を加えて混錬し、捏ね上げて生地を生成した後、圧延と折りたたみを繰り返し、多層として穿孔処理を施した後、あるいはさらにフィリングを包み込んで成形した後に、冷凍処理して製造することができる。
なお、上記パイ用生地でフィリングを包み、成形した後に冷凍して調製される冷凍パイ用生地を、本明細書において「冷凍パイ用成形生地」とも称する。
【0030】
冷凍処理としては、食品の冷凍に用いられる冷凍手段を用いることができ、-20℃のフリーザーでの冷凍や、急速冷凍等が挙げられる。
フィリングを包含する態様の本発明の冷凍パイ用生地(冷凍パイ用成形生地)は、冷凍したまま、または解凍して、油ちょうを行うことができるが、解凍せずに油ちょうして、揚げパイとするのに最も適する。本発明の冷凍パイ用生地を用いて得られた揚げパイは、3分~4分程の短時間の油ちょうを行うことにより、良好な食感とボリュームを有する。
なお、本発明の冷凍パイ用生地は油ちょう処理に最も適するが、焼成することもできる。
【0031】
本発明の冷凍パイ用生地は、フィリングとしてチョコレートを含むチョコレートパイの製造に好適に用いられる。
本明細書にて「チョコレートパイ」とは、上記生地に、フィリングとしてチョコレートを包み込み、焼成または油ちょうして作製される料理または菓子であり、生地と油脂の層を薄く多数重ねたものが加熱されて、生地と油脂層の水分の蒸発、層間の空気の膨張等により、生地が薄くはがれるという特徴を有する。
【0032】
また、「チョコレート」とは、公正取引委員会・消費者庁告示第15号のチョコレート利用食品の表示に関する公正競争規約・施行規則に記載されているチョコレート利用食品をいう。チョコレート利用食品には、チョコレート類(チョコレート生地、準チョコレート生地、カカオマス、ココアバター、ココアケーキ、ココアパウダー(ココア)およびカカオエキスパウダー)を使用したチョコレートスプレッドA、チョコレートスプレッドB、チョコレートシロップ、チョコレートフラワーペーストがあり、いずれも本発明において、フィリングとして用いることができる。
【0033】
本発明はまた、冷凍されたパイ用生地の製造方法(以下、本明細書にて「本発明の冷凍パイ用生地の製造方法」ともいう)を提供する。
本発明の冷凍パイ用生地の製造方法は、グリアジンを含有する生地を調製する工程、および冷凍パイ用生地の厚さを3.0mm~3.9mmとする工程を含む。
【0034】
グリアジンを含有する生地を調製する工程において、本発明の冷凍パイ用生地の調製に用いられる原材料、たとえば、小麦粉等の原料穀粉および食塩に、グリアジンを添加する。本工程において、グリアジンともにアルギン酸エステルおよびイヌリンからなる群より選択される1種以上を添加するのが好ましい。さらに、必要により、乳化剤を添加してもよい。
本工程において添加されるグリアジン、アルギン酸エステル、イヌリンおよび乳化剤ならびにこれらの添加量については、本発明の冷凍パイ用生地について上記した通りである。
【0035】
さらに、必要に応じてバター、マーガリン等の油脂、砂糖、乳製品、卵等を添加し、その後に水を加えて混練して生地とする。
また、グリアジン、アルギン酸エステルおよびイヌリンからなる群より選択される1種以上、乳化剤は予め原料穀粉に加えておいてもよく、また、水、卵等とともに、もしくは、水等を加えて混練した後に添加してもよい。
【0036】
本発明の冷凍パイ用生地の調製に用いられる原材料とグリアジン等との混合または混練は、縦型ミキサー、スパイラルミキサー、スラントミキサー、横型ミキサー等の混合機または混練機を用いて、室温にて、好ましくは8分~20分、より好ましくは10分~16分行われる。捏ね上げ温度については、好ましくは14℃~24℃、より好ましくは16℃~22℃である。
【0037】
本発明の冷凍パイ用生地の製造方法は、上記工程で調製されたグリアジンを含有する生地を用いてパイ用生地を調製する工程を含む。
本工程では、上記生地をマーガリン、バター等とともに折りたたみ、圧延と折りたたみを繰り返して、折りたたみ層を生成する。かかる圧延と折りたたみは、手動で行ってもよいが、万能延ばし機等を用いて行うこともできる。
生成される折りたたみ層は、8層以上32層以下、好ましくは16層以上24層以下となるように重ねて、多層のパイ用生地を調製する。マーガリン、バター等は、上記生地100重量部に対し20重量部~80重量部、好ましくは30重量部~60重量部用いられる。
調製された多層のパイ用生地の厚さは、3.0mm~3.9mm、より好ましくは3.5mm~3.8mmに調整する。
【0038】
本発明の冷凍パイ用生地の製造方法は、さらに、多層のパイ用生地に穿孔処理を施す工程を含むことが好ましい。穿孔処理によりパイ用生地に形成される貫通する細孔の直径、個数については、上記した通りである。
かかる穿孔処理は、特許文献1に記載されるように、必要な太さのピケを用いて、手動または機械的に行うことができる。
【0039】
本発明の冷凍パイ用生地の製造方法には、さらに通常の冷凍パイ用生地の製造方法に含まれる工程、たとえばフィリングを包み込んで成形する工程、冷凍処理する工程が含まれ得る。冷凍処理については、本発明の冷凍パイ用生地において上記した通りである。また、成形する工程では、パイ用生地は所望の形状に成形される。
フィリングとしては、本発明の冷凍パイ用生地において上記したものを用いることができ、チョコレートが最も好ましく用いられる。
なお、フィリングを包含するパイ用生地(パイ用成形生地)の厚さは、本発明の冷凍パイ用生地において上記した通りである。
【0040】
本発明の冷凍パイ用生地の製造方法により、解凍し、フィリングを包むことにより、パイの調製に簡便に用いることのできる冷凍パイ用生地を提供することができる。
また、本発明の冷凍パイ用生地の製造方法により、フィリングを包含し、冷凍したまま、または解凍して、焼成または油ちょうを行うことのできる冷凍パイ用生地(冷凍パイ用成形生地)を提供することができる。
本発明の冷凍パイ用生地の製造方法は、冷凍されたパイ用成形生地を解凍せずに油ちょうし、揚げパイを製造するのに特に適する。
【0041】
さらに本発明は、揚げパイを提供する。
ここで、「揚げパイ」とは、フィリングを包含するパイ用生地(パイ用成形生地)を油ちょうして調製されるパイをいう。
本発明の揚げパイは、生地中に、小麦粉等の原料穀粉に対し外部から添加されたグリアジンを含有する。
また、本発明の揚げパイにおいて、アルギン酸エステルおよびイヌリンからなる群より選択される1種以上をグリアジンとともに含有させると、より好ましい食感とボリュームを有する揚げパイを得ることができるため、好ましい。さらに、必要により、乳化剤を含有させてもよい。
なお、生地中に含有されるグリアジン、アルギン酸エステル、イヌリンおよび乳化剤ならびにこれらの含有量については、本発明の冷凍パイ用生地において上記した通りである。
【0042】
また、本発明の揚げパイにおいて、包含されるフィリングについては、本発明の冷凍パイ用生地において上記した通りであるが、無水のフィリングを包含するものが好ましく、チョコレートを包含するものがより好ましい。
【0043】
従って、本発明は、特に好ましい態様として、揚げチョコレートパイを提供する。
ここで、「揚げチョコレートパイ」とは、フィリングとしてチョコレートを包含するパイ用生地(パイ用成形生地)を油ちょうして調製されるパイをいう。
【0044】
揚げチョコレートパイ等の本発明の揚げパイにおけるグリアジン含有量は、特に限定されないが、通常揚げパイ100gあたり0.05g~0.4gである。
また、本発明の揚げパイにおけるアルギン酸エステルおよびイヌリンからなる群より選択される1種以上の含有量は、通常揚げパイ100gあたり0.05g~0.4gである。
さらに、本発明の揚げパイにおける乳化剤の含有量は、通常揚げパイ100gあたり0.05g~0.4gである。
【0045】
揚げチョコレートパイ等の本発明の揚げパイは、折りたたまれた生地が、8層以上32層以下、好ましくは16層以上、24層以下となるように重ねられた多層構造を有し、好ましくは貫通する細孔を有する。貫通する細孔の直径およびパイ生地1cmあたりの個数については、本発明の冷凍パイ用生地について上記した通りであり、かかる細孔を形成するために施される穿孔処理については、本発明の冷凍パイ用生地の製造方法について上記した通りである。
【0046】
本発明の揚げパイは、良好な食感とボリュームを有し、上述したように、フィリングとしてチョコレートを包含する揚げチョコレートパイとして、特に好ましく提供される。
【0047】
本発明はまた、揚げパイの製造方法を提供する。
本発明の揚げパイの製造方法は、上記した本発明の冷凍パイ用生地に、フィリングを包含させて油ちょうすること、または、フィリングを包含する本発明の冷凍パイ用生地(冷凍パイ用成形生地)を油ちょうすることを含む。
本発明の冷凍パイ用生地に、フィリングを包含させる工程は、冷凍パイ用生地を解凍してから行うことができる。
また、フィリングを包含する本発明の冷凍パイ用生地(冷凍パイ用成形生地)は、冷凍したまま、または解凍した後に油ちょうすることができるが、冷凍された状態でも、3分~4分程度の短時間の油ちょうにより揚げパイを提供することができるため、解凍せずに冷凍したまま油ちょうすることが好ましい。
【0048】
油ちょうはフライヤー等の調理器具を用いて行うことができ、通常は160℃~210℃、好ましくは180℃~190℃にて、好ましくは3分間~4分間行う。
なお、油ちょうは、通常用いられる食用油、たとえば、菜種油、キャノーラ油、大豆油、コーン油、オリーブ油、ひまわり油、紅花油、胡麻油、荏胡麻油、亜麻仁油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、綿実油、グレープシード油、カカオバター、サラダ油等の植物性油脂;牛脂、豚脂、バター等の動物性油脂を用いて行うことができる。また、これらの植物性油脂や動物性油脂に水素添加して調製された水素添加油脂(硬化油)や、これらの油脂をエステル交換して調製したエステル交換油等も用いられる。さらには前記水素添加油脂やエステル交換油を用いたショートニング等を用いて行うこともできる。
【0049】
本発明の揚げパイの製造方法により、3分~4分程の短時間の油ちょうであっても、食感が良好で、かつ、ボリュームのある揚げパイを提供することができる。
なお、本発明の揚げパイの製造方法は、フィリングとしてチョコレートを包含する揚げチョコレートパイの製造に特に好ましく用いることができる。
【実施例
【0050】
以下に本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0051】
[実施例1]冷凍パイ用成形生地
強力粉(「カメリヤ」、日清製粉株式会社製)500g、薄力粉(「バイオレット」、日清製粉株式会社製)500g、食塩15g、マーガリン(「ルミナスレグノ」、月島食品工業株式会社製)60g、アルギン酸プロピレングリコールエステル(「ダックロイドPFR」、キッコーマンバイオケミファ株式会社製、褐藻類由来、エステル化度=75重量%以上、重量平均分子量=294,300)5g、グリアジン(「グリアA」、アサマ化成株式会社製)2g、および水500gを原料とした。
全原料を縦型ミキサー(「HPI-30M」、関東混合機工業株式会社製)に入れ、低速で8分間、中速で5分間、室温(20℃)にて混合した後、捏ね上げ温度を16℃となるようにして生地を製造した。
次に、マーガリン(「ロールインマーガリン セベリアーノ」、カネカ食品株式会社製)476gを生地の中央部に置いた後、万能延ばし機(「リバースシート」、株式会社鎌田機械製作所製)で圧延と折りたたみを繰り返して、24層の厚さ3.5mmのシート状のパイ用生地を得た。
次いで、太さ1.5mmφ(直径)、縦間隔10mm、横間隔5mmのピケを用いて、順次一列ごとずらして直径1.5mmの貫通する細孔を形成した。その後、長さ、幅ともに10.5cmの正方形にカットした。カットされた前記パイ用生地の重さは38gであった。前記貫通する細孔は、生地1cmあたり1個観察された。
正方形にカットしたパイ用生地の中心部にチョコレート20gを入れて、パイ用生地を片側から折込み、三角形に合わせ、中心部を押さえて、厚さが15.4mmのパイ用成形生地を得た。なお、折込み時に水で生地を軽く湿らせ、接着を完全なものとした。-35℃のブラストフリーザーで40分間冷却して、実施例1の冷凍パイ用成形生地を得た。得られた冷凍パイ用成形生地は-20℃の冷凍庫で15日間保存した。
【0052】
[実施例2~4、比較例1、参考例1、2]冷凍パイ用成形生地
上記実施例1において、グリアジンの含有量を変化させた以外は同様にして、冷凍パイ用成形生地を作製し、実施例2~4、比較例1、参考例1、2とした(表1)。
なお、実施例2~4、比較例1および参考例1、2の各冷凍パイ用成形生地においても、直径1.5mmの貫通する細孔が生地1cmあたり1個観察された。
【0053】
【表1】
【0054】
上記実施例1~4、比較例1および参考例1、2の各冷凍パイ用成形生地は、扁平な三角形の形状を示した。該冷凍パイ用成形生地の中心部をナイフでカットして、パイ用成形生地の下記3層の厚さを、それぞれノギスにより測定した。
実施例1~4、比較例1および参考例1、2の冷凍パイ用成形生地のいずれにおいても、上層、フィリング層(中具の層)、下層の厚さはそれぞれ3.5mm、8.4mm、3.5mmであり、全体の厚さは15.4mmであった。なお、全体の厚さは冷凍前の厚さと同一であった。
【0055】
[試験例1]実施例1~4、比較例1および参考例1、2の各冷凍パイ用成形生地を用いて作製した揚げパイの食感の評価
実施例1~4、比較例1および参考例1、2の各冷凍パイ用成形生地を冷凍庫から取り出し、直ちに、油温182℃の油中で3分30秒間油ちょうした。油ちょう後、油を切り、紙製容器に入れて食感についての官能評価に供した。
【0056】
食感についての官能評価は、揚げチョコレートパイの評価に5年以上携わっている経験豊かな20歳~55歳のパネラー10名により行い、食感の好ましさを5点満点(5点:非常に良好~3点:普通~1点:悪い)として評価した。各揚げチョコレートパイについての評価点は、試食後にパネラー全員で協議して決定した。また、ボリューム感についても、試食後にパネラー全員で協議して最終的なコメントとした。
各揚げチョコレートパイについての評価点およびコメントを表2に示した。
【0057】
【表2】
【0058】
表2に示されるように、実施例1~4、比較例1および参考例1、2の冷凍パイ用成形生地を用いて作製した揚げチョコレートパイについては、いずれも良好なボリューム感が認められた。
実施例1~4の冷凍パイ用成形生地を用いて作製した揚げチョコレートパイは、いずれも官能評価において4.5点以上の高い評価点を得ており、良好な食感を有すると評価された。特に、実施例2および3の冷凍パイ用成形生地を用いて作製した揚げチョコレートパイでは、極めて高い評価が得られた。
グリアジンを含有しない比較例1の冷凍パイ用成形生地を用いて作製した揚げチョコレートパイでは、官能評価の評価点は2.0点であり、食感がやや低下することが認められた。
また、原料穀粉100gあたりのグリアジン含有量が0.1gである参考例1、および、原料穀粉100gあたりのグリアジン含有量が1gである参考例2の冷凍パイ用成形生地を用いて作製した揚げチョコレートパイは、それぞれ若干食感が悪いと評価された。
上記試験例の結果から、良好な食感とボリューム感を有する揚げパイを得るには、冷凍パイ用生地にグリアジンを含有させることが必要であること、グリアジンの含有量を、原料穀粉100gあたり0.2g~0.8gとすることが好ましいことが示唆された。
【0059】
[実施例5]冷凍パイ用成形生地
強力粉(「カメリヤ」、日清製粉株式会社製)500g、薄力粉(「バイオレット」、日清製粉株式会社製)500g、食塩15g、マーガリン(「ルミナスレグノ」、月島食品工業株式会社製)60g、アルギン酸プロピレングリコールエステル(「ダックロイドPFR」、キッコーマンバイオケミファ株式会社製、褐藻類由来、エステル化度=75重量%以上、重量平均分子量=294,300)5g、グリアジン(「グリアA」、アサマ化成株式会社製)4g、乳化剤としてステアロイル乳酸カルシウム(「ベルフ」、株式会社武蔵野科学研究所製)5gおよび水500gを原料とした。
全原料を縦型ミキサー(「HPI-30M」、関東混合機工業株式会社製)に入れ、低速で8分間、中速で5分間、室温(20℃)にて混合した後、捏ね上げ温度を17℃となるようにして生地を製造した。
次に、マーガリン(「ロールインマーガリン セベリアーノ」、カネカ食品株式会社製)476gを生地の中央部に置いた後、万能延ばし機(「リバースシート」、株式会社鎌田機械製作所製)で圧延と折りたたみを繰り返して、16層の厚さ3.0mmのシート状のパイ用生地を得た。
次いで、太さ1.5mmφ(直径)、縦間隔10mm、横間隔5mmのピケを用いて、順次一列ごとずらして直径1.5mmの貫通する細孔を形成した。その後、長さ、幅ともに10.5cmの正方形にカットした。カットされた前記パイ用生地の重さは38gであった。前記貫通する細孔は、生地1cmあたり1個観察された。
正方形にカットしたパイ用生地の中心部にチョコレート20gを入れて、パイ用生地を片側から折込み、三角形に合わせ、中心部を押さえて厚さが14.4mmのパイ用成形生地を得た。なお、折込み時に水で生地を軽く湿らせ、接着を完全なものとした。-35℃のブラストフリーザーで40分間冷却して、実施例5の冷凍パイ用成形生地を得た。得られた冷凍パイ用成形生地は-20℃の冷凍庫で15日間保存した。
【0060】
[実施例6~9、比較例2、3]冷凍パイ用成形生地
上記実施例5において、パイ用生地の厚さを変化させた以外は同様にして、冷凍パイ用成形生地を作製し、実施例6~9および比較例2、3とした(表3)。
なお、実施例6~9および比較例2、3の各冷凍パイ用成形生地においても、直径1.5mmの貫通する細孔が生地1cmあたり1個観察された。
【0061】
【表3】
【0062】
上記実施例5~9および比較例2、3の各冷凍パイ用成形生地は、扁平な三角形の形状を示した。該冷凍パイ用成形生地の中心部をナイフでカットして、パイ用成形生地の下記3層の厚さを、それぞれノギスにより測定した。
実施例5~9および比較例2、3の冷凍パイ用成形生地のいずれにおいても、上層、下層の厚さはそれぞれ2.8mm~4.2mmであり、フィリング層(中具の層)の厚さは全て3.8mmであった。また、全体の厚さは冷凍前の厚さと同一であった。
【0063】
[試験例2]実施例5~9および比較例2、3の各冷凍パイ用成形生地を用いて作製した揚げパイの食感の評価
実施例5~9および比較例2、3の各冷凍パイ用成形生地を用いて、試験例1の場合と同様に作製した揚げチョコレートパイについて食感を評価した。揚げチョコレートパイの食感については、試験例1の場合と同様に、揚げチョコレートパイの評価に5年以上携わっている経験豊かな20歳~55歳の10名のパネラーにより、5点満点で官能評価を行った。
官能評価の評価点は、試験例1の場合と同様に、試食後に全員で協議して決定した。各揚げチョコレートパイについての評価点およびコメントを表4に示した。
【0064】
【表4】
【0065】
表4に示されるように、実施例5~9および比較例2、3の冷凍パイ用成形生地を用いて作製した揚げチョコレートパイについては、いずれも良好なボリューム感が認められた。
実施例5~9の冷凍パイ用成形生地を用いて作製した揚げチョコレートパイは、いずれも官能評価において4.5点以上の高い評価点を得ており、良好な食感を有すると評価された。特に、実施例7および8の冷凍パイ用成形生地を用いて作製した揚げチョコレートパイについては、極めて高い評価が得られた。
パイ用生地の厚さが2.8mmである比較例2の冷凍パイ用成形生地を用いて作製した揚げチョコレートパイについては、官能評価点が2.9点で、食感が若干劣ると評価された。また、パイ用生地の厚が4.2mmである比較例3の冷凍パイ用成形生地を用いて作製した揚げチョコレートパイでは、官能評価点が2.7点で、パイが軟化しており、食感が悪いと評価された。
上記試験例の結果から、良好な食感とボリューム感を有する揚げパイを得るには、冷凍パイ用生地において、生地の厚さを3.0mm~3.9mmとする必要があることが示唆された。
【0066】
[実施例10]冷凍パイ用成形生地
強力粉(「カメリヤ」、日清製粉株式会社製)500g、薄力粉(「バイオレット」、日清製粉株式会社製)500g、食塩15g、マーガリン(「ルミナスレグノ」、月島食品工業株式会社製)60g、グリアジン(「グリアA」、アサマ化成株式会社製)4g、および水500gを原料とした。
全原料を縦型ミキサー(「HPI-30M」、関東混合機工業株式会社製)に入れ、低速で8分間、中速で5分間、室温(20℃)にて混合した後、捏ね上げ温度を16℃となるようにして生地を製造した。
次に、マーガリン(「ロールインマーガリン セベリアーノ」、カネカ食品株式会社製)476gを生地の中央部に置いた後、万能延ばし機(「リバースシート」、株式会社鎌田機械製作所製)で圧延と折りたたみを繰り返して、24層の厚さ3.5mmのシート状のパイ用生地を得た。
次いで、太さ1.5mmφ(直径)、縦間隔10mm、横間隔5mmのピケを用いて、順次一列ごとずらして直径1.5mmの貫通する細孔を形成した。その後、長さ、幅ともに10.5cmの正方形にカットした。カットされた前記パイ用生地の重さは38gであった。前記貫通する細孔は、生地1cmあたり1個観察された。
正方形にカットしたパイ用生地の中心部にチョコレート20gを入れて、パイ用生地を片側から折込み、三角形に合わせ、中心部を押さえて厚さが15.4mmのパイ用成形生地を得た。なお、折込み時に水で生地を軽く湿らせ、接着を完全なものとした。-35℃のブラストフリーザーで40分間冷却して、実施例10の冷凍パイ用成形生地を得た。得られた冷凍パイ用成形生地は-20℃の冷凍庫で10日間保存した。
【0067】
上記実施例10の冷凍パイ用成形生地は、扁平な三角形の形状を示した。該冷凍パイ用成形生地の中心部をナイフでカットして、パイ用成形生地の下記3層の厚さを、それぞれノギスにより測定した。その結果、上層、フィリング層(中具の層)、下層の厚さはそれぞれ3.5mm、8.4mm、3.5mmであり、全体の厚さは15.4mmであった。なお、全体の厚さは冷凍前の厚さと同一であった。
【0068】
[試験例3]実施例10の冷凍パイ用成形生地を用いて作製した揚げパイの食感の評価
実施例10の冷凍パイ用成形生地を冷凍庫から取り出し、直ちに、油温185℃の油中で3分30秒間油ちょうした。油ちょう後、油を切り、紙製容器に入れて食感についての官能評価に供した。
【0069】
食感についての官能評価は、揚げチョコレートパイの評価に5年以上携わっている経験豊かな20歳~55歳のパネラー10名により、試験例1の場合と同様に行った。食感、ボリューム感についても、試食後にパネラー全員で協議して最終的なコメントとした。
【0070】
その結果、実施例10の冷凍パイ用成形生地を用いて、3分30秒間という短時間の油ちょうにより作製した揚げチョコレートパイについても、良好なボリューム感とサクサクとした好ましい食感を有するとの評価が得られた。
【0071】
[実施例11] 冷凍パイ用成形生地
強力粉(「カメリヤ」、日清製粉株式会社製)500g、薄力粉(「バイオレット」、日清製粉株式会社製)500g、食塩15g、マーガリン(「ルミナスレグノ」、月島食品工業株式会社製)60g、アルギン酸プロピレングリコールエステル(「ダックロイドPFR」、キッコーマンバイオケミファ株式会社製、褐藻類由来、エステル化度=75重量%以上、重量平均分子量=294,300)1g、グリアジン(「グリアA」、アサマ化成株式会社製)4g、水500gを原料とした。
全原料を縦型ミキサー(「HPI-30M」、関東混合機工業株式会社製)に入れ、低速で8分間、中速で5分間、室温(20℃)にて混合した後、捏ね上げ温度を17℃となるようにして生地を製造した。
次に、マーガリン(「ロールインマーガリン セベリアーノ」、カネカ食品株式会社製)476gを生地の中央部に置いた後、万能延ばし機(「リバースシート」、株式会社鎌田機械製作所製)で圧延と折りたたみを繰り返して、16層の厚さ3.0mmのシート状のパイ用生地を得た。
次いで、太さ1.5mmφ(直径)、縦間隔10mm、横間隔5mmのピケを用いて、順次一列ごとずらして直径1.5mmの貫通する細孔を形成した。その後、長さ、幅ともに10.5cmの正方形にカットした。カットされた前記パイ用生地の重さは38gであった。前記貫通する細孔は、生地1cmあたり1個観察された。
正方形にカットしたパイ用生地の中心部にチョコレート20gを入れて、パイ用生地を片側から折込み、三角形に合わせ、中心部を押さえて厚さが14.4mmのパイ用成形生地を得た。なお、折込み時に水で生地を軽く湿らせ、接着を完全なものとした。-35℃のブラストフリーザーで40分間冷却して、実施例11の冷凍パイ用成形生地を得た。得られた冷凍パイ用成形生地は-20℃の冷凍庫で15日間保存した。
【0072】
[実施例12~15、参考例3]冷凍パイ用成形生地
上記実施例11において、アルギン酸プロピレングリコールエステルの添加量を、表5に示すように変化させた以外は同様にして、冷凍パイ用成形生地を作製し、実施例12~15および参考例3とした。
なお、実施例12~15および参考例3の各冷凍パイ用生地においても、直径1.5mmの貫通する細孔が生地1cmあたり1個観察された。
【0073】
[実施例16] 冷凍パイ用成形生地
強力粉(「カメリヤ」、日清製粉株式会社製)500g、薄力粉(「バイオレット」、日清製粉株式会社製)500g、食塩15g、マーガリン(「ルミナスレグノ」、月島食品工業株式会社製)60g、グリアジン(「グリアA」、アサマ化成株式会社製)4g、イヌリン(「フジFF」、フジ日本精糖株式会社製、平均分子量=2,500)2.5g、水500gを原料とした。
全原料を縦型ミキサー(「HPI-30M」、関東混合機工業株式会社製)に入れ、低速で8分間、中速で5分間、室温(20℃)にて混合した後、捏ね上げ温度を17℃となるようにして生地を製造した。
次に、マーガリン(「ロールインマーガリン セベリアーノ」、カネカ食品株式会社製)476gを生地の中央部に置いた後、万能延ばし機(「リバースシート」、株式会社鎌田機械製作所製)で圧延と折りたたみを繰り返して、16層の厚さ3.0mmのシート状のパイ用生地を得た。
次いで、太さ1.5mmφ(直径)、縦間隔10mm、横間隔5mmのピケを用いて、順次一列ごとずらして直径1.5mmの貫通する細孔を形成した。その後、長さ、幅ともに10.5cmの正方形にカットした。カットされた前記パイ用生地の重さは38gであった。前記貫通する細孔は、生地1cmあたり1個観察された。
正方形にカットしたパイ用生地の中心部にチョコレート20gを入れて、パイ用生地を片側から折込み、三角形に合わせ、中心部を押さえて厚さが14.4mmのパイ用成形生地を得た。なお、折込み時に水で生地を軽く湿らせ、接着を完全なものとした。-35℃のブラストフリーザーで40分間冷却して、実施例16の冷凍パイ用成形生地を得た。得られた冷凍パイ用成形生地は-20℃の冷凍庫で15日間保存した。
【0074】
[実施例17~21、参考例4]冷凍パイ用成形生地
上記実施例16において、イヌリンの添加量を表5に示すように変化させた以外は同様にして、冷凍パイ用成形生地を作製し、実施例17~21および参考例4とした。
なお、実施例17~21および参考例4の各冷凍パイ用成形生地においても、直径1.5mmの貫通する細孔が生地1cmあたり1個観察された。
【0075】
[実施例22] 冷凍パイ用成形生地
強力粉(「カメリヤ」、日清製粉株式会社製)500g、薄力粉(「バイオレット」、日清製粉株式会社製)500g、食塩15g、マーガリン(「ルミナスレグノ」、月島食品工業株式会社製)60g、アルギン酸プロピレングリコールエステル(「ダックロイドPFR」、キッコーマンバイオケミファ株式会社製、褐藻類由来、エステル化度=75重量%以上、重量平均分子量=294,300)4g、グリアジン(「グリアA」、アサマ化成株式会社製)4g、イヌリン(「フジFF」、フジ日本精糖株式会社製、平均分子量=2,500)30g、水500gを原料とした。
全原料を縦型ミキサー(「HPI-30M」、関東混合機工業株式会社製)に入れ、低速で8分間、中速で5分間、室温(20℃)にて混合した後、捏ね上げ温度を17℃となるようにして生地を製造した。
次に、マーガリン(「ロールインマーガリン セベリアーノ」、カネカ食品株式会社製)476gを生地の中央部に置いた後、万能延ばし機(「リバースシート」、株式会社鎌田機械製作所製)で圧延と折りたたみを繰り返して、16層の厚さ3.0mmのシート状のパイ用生地を得た。
次いで、太さ1.5mmφ(直径)、縦間隔10mm、横間隔5mmのピケを用いて、順次一列ごとずらして直径1.5mmの貫通する細孔を形成した。その後、長さ、幅ともに10.5cmの正方形にカットした。カットされた前記パイ用生地の重さは38gであった。前記貫通する細孔は、生地1cmあたり1個観察された。
正方形にカットしたパイ用生地の中心部にチョコレート20gを入れて、パイ用生地を片側から折込み、三角形に合わせ、中心部を押さえて厚さが14.4mmのパイ用成形生地を得た。なお、折込み時に水で生地を軽く湿らせ、接着を完全なものとした。-35℃のブラストフリーザーで40分間冷却して、実施例22の冷凍パイ用成形生地を得た。得られた冷凍パイ用成形生地は-20℃の冷凍庫で15日間保存した。
【0076】
【表5】
【0077】
上記実施例11~22および参考例3、4の各冷凍パイ用成形生地は、扁平な三角形の形状を示した。該冷凍パイ用成形生地の中心部をナイフでカットして、パイ用成形生地の下記3層の厚さを、それぞれノギスにより測定した。
実施例11~22および参考例3、4の冷凍パイ用成形生地のいずれにおいても、上層、フィリング層(中具の層)、下層の厚さはそれぞれ3.0mm、8.4mm、3.0mmであり、全体の厚さは14.4mmであった。なお、全体の厚さは冷凍前の厚さと同一であった。
【0078】
[試験例4]実施例11~22および参考例3、4の各冷凍パイ用成形生地を用いて作製した揚げパイの食感の評価
実施例11~22および参考例3、4の各冷凍パイ用成形生地を用いて、試験例1の場合と同様に作製した揚げチョコレートパイについて食感を評価した。揚げチョコレートパイの食感については、試験例1の場合と同様に、揚げチョコレートパイの評価に5年以上携わっている経験豊かな20歳~55歳の10名のパネラーにより、5点満点で官能評価を行った。
官能評価の評価点は、試験例1の場合と同様に、試食後に全員で協議して決定した。実施例および参考例の各揚げチョコレートパイの食感についての評価結果を、表6に示した。
【0079】
【表6】
【0080】
表6に示されるように、実施例11~22および参考例3、4の冷凍パイ用成形生地を用いて作製した揚げチョコレートパイについては、いずれも良好なボリューム感が認められた。
実施例11~22の冷凍パイ用成形生地を用いて作製した揚げチョコレートパイは、いずれも官能評価において4.5点以上の高い評価点を得ており、良好な食感を有すると評価された。特に、実施例13、14、17~19および22の冷凍パイ用成形生地を用いて作製した揚げチョコレートパイについては、極めて高い評価が得られた。
一方、参考例3および4の冷凍パイ用成形生地を用いて作製した揚げチョコレートパイは、食感が若干劣ると評価された。
上記試験例の結果から、グリアジンに加えて、アルギン酸エステルまたはイヌリン、あるいはそれらの双方を冷凍パイ用生地に含有させることにより、冷凍パイ用生地を用いて得られる揚げパイの食感が向上することが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0081】
以上詳述したように、本発明により、3分~4分程度の短時間の油ちょうによる揚げパイの製造に好適な、冷凍されたパイ用生地を提供することができる。
また、本発明により、上記のような短時間の油ちょうにより、好ましい食感とボリュームを有する揚げパイを提供することができる。
【0082】
本願は、わが国で出願された特願2019-002955を基礎としており、その内容は本明細書にすべて包含されるものである。