IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特許-モータ制御システム 図1
  • 特許-モータ制御システム 図2
  • 特許-モータ制御システム 図3
  • 特許-モータ制御システム 図4
  • 特許-モータ制御システム 図5
  • 特許-モータ制御システム 図6
  • 特許-モータ制御システム 図7
  • 特許-モータ制御システム 図8
  • 特許-モータ制御システム 図9
  • 特許-モータ制御システム 図10
  • 特許-モータ制御システム 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】モータ制御システム
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/028 20160101AFI20240312BHJP
   H02P 5/46 20060101ALI20240312BHJP
   B64C 27/08 20230101ALI20240312BHJP
   B64D 27/24 20240101ALI20240312BHJP
   B64D 45/00 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
H02P29/028
H02P5/46 D
B64C27/08
B64D27/24
B64D45/00 A
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020008981
(22)【出願日】2020-01-23
(65)【公開番号】P2021118573
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 陽介
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特許第4539218(JP,B2)
【文献】特開2016-088111(JP,A)
【文献】特開2018-098932(JP,A)
【文献】特開2017-093151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/028
H02P 5/46
B64C 27/08
B64D 27/24
B64D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転翼(30)と連結するモータ(20)を制御するモータ制御システム(10)であって、
バッテリ装置(70)から供給される直流電圧を交流電圧に変換し、前記モータに供給するインバータ回路(11)と、
前記インバータ回路の動作を制御するインバータ制御部(121)と、
モータ電流センサ(13)により検出される前記モータを流れる電流の電流値を取得するモータ電流取得部(122)と、
電圧センサ(14)により検出される前記インバータ回路への入力電圧の電圧値を取得する入力電圧取得部(123)と、
前記モータ電流センサと前記電圧センサとのうちの少なくとも一方の異常発生を示す異常情報を取得する異常情報取得部(127)と、
を備え、
前記インバータ制御部は、前記異常情報取得部により前記異常情報が取得された場合に、前記モータ制御システムとは異なる装置から、前記インバータ回路の制御に利用可能な制御値を取得し、取得された前記制御値を利用して前記インバータ回路を制御し、
前記バッテリ装置と前記モータ制御システムとの間の給電ラインに設けられているバッテリ電流センサ(81)から、前記バッテリ装置を流れる電流の電流値を取得するバッテリ電流取得部(124)を、さらに備え、
前記制御値は、前記バッテリ電流取得部による取得値であり、
前記異常情報は、少なくとも前記モータ電流センサの異常発生を示し、
前記インバータ制御部は、前記モータ電流センサが異常である場合に、前記バッテリ電流取得部による取得値を利用して前記インバータ回路を制御し、
前記モータの回転数を検出する回転数センサ(15)から、前記回転数を取得する回転数取得部(126)をさらに備え、
前記インバータ制御部は、前記モータ電流センサが異常である場合に、
入力される前記回転翼の目標トルクと、前記回転数取得部による取得値と、前記入力電圧取得部による取得値と、から算出される目標電流値と、
前記バッテリ電流取得部による取得値と、
の差分を減少させるように、前記インバータ回路を制御する、
モータ制御システム。
【請求項2】
回転翼(30)と連結するモータ(20)を制御するモータ制御システム(10)であって、
バッテリ装置(70)から供給される直流電圧を交流電圧に変換し、前記モータに供給するインバータ回路(11)と、
前記インバータ回路の動作を制御するインバータ制御部(121)と、
モータ電流センサ(13)により検出される前記モータを流れる電流の電流値を取得するモータ電流取得部(122)と、
電圧センサ(14)により検出される前記インバータ回路への入力電圧の電圧値を取得する入力電圧取得部(123)と、
前記モータ電流センサと前記電圧センサとのうちの少なくとも一方の異常発生を示す異常情報を取得する異常情報取得部(127)と、
を備え、
前記インバータ制御部は、前記異常情報取得部により前記異常情報が取得された場合に、前記モータ制御システムとは異なる装置から、前記インバータ回路の制御に利用可能な制御値を取得し、取得された前記制御値を利用して前記インバータ回路を制御し、
前記モータ制御システムは、自らの前記モータ制御システムである自システムとは異なる他の前記モータ制御システムである他システムを搭載する電動航空機(200)に搭載され、
前記制御値は、前記他システムにおいて前記インバータ制御部が前記インバータ回路を制御する際に用いる目標電圧値であり、
前記異常情報は、少なくとも前記モータ電流センサの異常発生を示し、
前記インバータ制御部は、前記モータ電流センサが異常である場合に、前記他システムから前記目標電圧値を取得し、取得された前記目標電圧値を利用して前記インバータ回路を制御する、モータ制御システム。
【請求項3】
請求項に記載のモータ制御システムにおいて、
前記モータの回転数を検出する回転数センサ(15)から、前記回転数を取得する回転数取得部(126)をさらに備え、
前記インバータ制御部は、前記モータ電流センサが異常である場合に、前記他システムが有する前記回転数センサである他回転数センサの検出値を取得し、取得された前記他回転数センサの検出値と、自システムの前記回転数取得部による取得値と、の比を利用して、取得された前記目標電圧値を調整し、調整された前記目標電圧値を利用して前記インバータ回路を制御する、モータ制御システム。
【請求項4】
請求項または請求項に記載のモータ制御システムにおいて、
前記電動航空機は、前記自システムを含む3つ以上の前記モータ制御システムを搭載し、
前記他システムは、前記自システムを除く2つ以上の前記モータ制御システムのうち、前記自システムの動作に類似する動作を行う類似システムである、モータ制御システム。
【請求項5】
請求項に記載のモータ制御システムにおいて、
前記類似システムは、入力される前記回転翼の目標トルクと、前記モータの出力するトルクの実測値または推定値と、のうちの少なくとも1つについての前記自システムとの差分が、前記2つ以上の前記モータ制御システムのうちで最も小さいモータ制御システムである、モータ制御システム。
【請求項6】
請求項に記載のモータ制御システムにおいて、
前記類似システムは、前記2つ以上の前記モータ制御システムのうち、前記自システムが制御する前記モータが連結されている回転翼と同じ用途の回転翼と連結する前記モータを制御するモータ制御システムである、モータ制御システム。
【請求項7】
請求項に記載のモータ制御システムにおいて、
前記3つ以上の前記モータ制御システムは、前記電動航空機の浮上用の前記回転翼である浮上用回転翼(31a~31f)と連結する前記モータを制御するモータ制御システムと、前記電動航空機の推進用の前記回転翼である推進用回転翼(32a~32b)と連結する前記モータを制御するモータ制御システムと、の合計2種類のモータ制御システムを含み、
前記類似システムは、前記2つ以上の前記モータ制御システムのうち、前記自システムと同じ種類の前記モータ制御システムである、モータ制御システム。
【請求項8】
請求項に記載のモータ制御システムにおいて、
前記類似システムは、前記自システムが制御する前記モータと連結する前記回転翼に対し、鉛直方向に見たときの前記電動航空機の機体の重心位置(CM)を中心として点対称の位置にある前記回転翼、または、前記重心位置を通る前記機体の軸線に対して線対称の位置にある前記回転翼と連結する前記モータを制御するモータ制御システムである、モータ制御システム。
【請求項9】
請求項に記載のモータ制御システムにおいて、
前記類似システムは、前記自システムが制御するモータと連結する前記回転翼の回転軸と一致する回転軸を有する前記回転翼と連結する前記モータを制御するモータ制御システムである、モータ制御システム。
【請求項10】
回転翼(30)と連結するモータ(20)を制御するモータ制御システム(10)であって、
バッテリ装置(70)から供給される直流電圧を交流電圧に変換し、前記モータに供給するインバータ回路(11)と、
前記インバータ回路の動作を制御するインバータ制御部(121)と、
モータ電流センサ(13)により検出される前記モータを流れる電流の電流値を取得するモータ電流取得部(122)と、
電圧センサ(14)により検出される前記インバータ回路への入力電圧の電圧値を取得する入力電圧取得部(123)と、
前記モータ電流センサと前記電圧センサとのうちの少なくとも一方の異常発生を示す異常情報を取得する異常情報取得部(127)と、
を備え、
前記インバータ制御部は、前記異常情報取得部により前記異常情報が取得された場合に、前記モータ制御システムとは異なる装置から、前記インバータ回路の制御に利用可能な制御値を取得し、取得された前記制御値を利用して前記インバータ回路を制御し、
前記モータ制御システムは、自らの前記モータ制御システムである自システムとは異なる他の前記モータ制御システムである他システムを搭載する電動航空機(200)に搭載され、
前記電動航空機は、前記バッテリ装置と前記モータ制御システムとの間の給電ラインに設けられているバッテリ電流センサ(81)をさらに搭載し、
前記モータ制御システムは、
前記モータの回転数を検出する回転数センサ(15)から、前記回転数を取得する回転数取得部(126)と、
バッテリ電流センサ(81)から、前記バッテリ装置を流れる電流の電流値を取得するバッテリ電流取得部(124)と、
をさらに備え、
前記制御値は、前記他システムが有する前記入力電圧取得部による取得値であり、
前記インバータ制御部は、
入力される前記回転翼の目標トルクと、前記回転数取得部による取得値と、前記他システムが有する前記入力電圧取得部による取得値と、から算出される目標電流値と、
前記バッテリ電流取得部による取得値と、
の差分を減少させるように、前記インバータ回路を制御する、モータ制御システム。
【請求項11】
請求項10に記載のモータ制御システムにおいて、
前記電動航空機は、前記自システムを含む3つ以上の前記モータ制御システムを搭載し、
前記制御値は、前記他システムにおいて前記インバータ制御部が前記インバータ回路を制御する際に用いる目標電圧値であり、
前記他システムは、前記自システムを除く2つ以上の前記モータ制御システムのうち、前記自システムの動作に類似する動作を行う類似システムである、モータ制御システム。
【請求項12】
請求項11に記載のモータ制御システムにおいて、
前記類似システムは、入力される前記回転翼の目標トルクと、前記回転翼の出力するトルクの実測値または推定値と、のうちの少なくとも1つについての前記自システムとの差分が、前記2つ以上の前記モータ制御システムのうちで最も小さいモータ制御システムである、モータ制御システム。
【請求項13】
請求項11に記載のモータ制御システムにおいて、
前記類似システムは、前記2つ以上の前記モータ制御システムのうち、前記自システムが制御する前記モータが連結されている前記回転翼と同じ用途の前記回転翼と連結する前記モータを制御する前記モータ制御システムである、モータ制御システム。
【請求項14】
請求項13に記載のモータ制御システムにおいて、
前記3つ以上の前記モータ制御システムは、前記電動航空機の浮上用の前記回転翼である浮上用回転翼(31a~31f)と連結する前記モータを制御するモータ制御システムと、前記電動航空機の推進用の前記回転翼である推進用回転翼(32a~32b)と連結する前記モータを制御するモータ制御システムと、の合計2種類のモータ制御システムを含み、
前記類似システムは、前記2つ以上の前記モータ制御システムのうち、前記自システムと同じ種類の前記モータ制御システムである、モータ制御システム。
【請求項15】
請求項11に記載のモータ制御システムにおいて、
前記類似システムは、前記自システムが制御する前記モータと連結する前記回転翼に対し、鉛直方向に見たときの前記電動航空機の機体の重心位置(CM)を中心として点対称の位置になる前記回転翼、または、前記重心位置を通る前記機体の軸線に対して線対称の位置にある前記回転翼と連結する前記モータを制御するモータ制御システムである、モータ制御システム。
【請求項16】
請求項11に記載のモータ制御システムにおいて、
前記類似システムは、前記自システムが制御する前記モータと連結する前記回転翼の回転軸と一致する回転軸を有する前記回転翼と連結する前記モータを制御するモータ制御システムである、モータ制御システム。
【請求項17】
回転翼(30)と連結するモータ(20)を制御するモータ制御システム(10)であって、
バッテリ装置(70)から供給される直流電圧を交流電圧に変換し、前記モータに供給するインバータ回路(11)と、
前記インバータ回路の動作を制御するインバータ制御部(121)と、
モータ電流センサ(13)により検出される前記モータを流れる電流の電流値を取得するモータ電流取得部(122)と、
電圧センサ(14)により検出される前記インバータ回路への入力電圧の電圧値を取得する入力電圧取得部(123)と、
前記モータ電流センサと前記電圧センサとのうちの少なくとも一方の異常発生を示す異常情報を取得する異常情報取得部(127)と、
を備え、
前記インバータ制御部は、前記異常情報取得部により前記異常情報が取得された場合に、前記モータ制御システムとは異なる装置から、前記インバータ回路の制御に利用可能な制御値を取得し、取得された前記制御値を利用して前記インバータ回路を制御し、
前記バッテリ装置と前記モータ制御システムとの間の給電ラインに設けられているバッテリ電流センサ(81)から、前記バッテリ装置を流れる電流の電流値を取得するバッテリ電流取得部(124)と、
前記モータの回転数を検出する回転数センサ(15)から、前記回転数を取得する回転数取得部(126)と、
をさらに備え、
前記異常情報は、少なくとも前記電圧センサの異常発生を示し、
前記インバータ制御部は、前記電圧センサが異常である場合に、前記バッテリ電流取得部による取得値と、前記回転数取得部により取得される前記回転数と、前記モータに対する目標トルクと、を利用して、前記入力電圧の電圧値を推定する、モータ制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータ制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、航空機や車両や船舶等の移動体の電動化に伴い、モータを制御するモータ制御システムが移動体に搭載されて用いられる。例えば、モータ制御システムは、eVTOL(electric Vertical Take-Off and Landing aircraft)等の電動航空機の回転翼や、船舶のスクリューや、車両や電車の車輪を回転駆動させるモータを制御するために、移動体に搭載される場合がある。モータ制御システムは、例えば、モータに電力を供給するインバータ回路と、インバータ回路の動作を制御するインバータ制御部とを含むシステムとして構成される。このようなモータ制御システムでは、モータの故障診断を行うことが望まれる。特許文献1には、モータの故障診断方法として、モータを流れる相電流をベクトルコントロール回路により検出し、検出された相電流における所定の特徴の有無(特定周波数の信号の有無)により故障の有無が判断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-49178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、ベクトルコントローラといった相電流を検出するセンサ(以下、「モータ電流センサ」と呼ぶ)が異常の場合は考慮されていない。このため、モータ電流センサが異常の場合には、モータの故障診断を行うことができない。加えて、モータ電流センサが異常の場合には、かかるモータ電流センサにより検出される電流値を利用してインバータ回路をフィードバック制御することができなくなるという問題もある。このような問題は、モータ電流センサに限らず、バッテリ装置からインバータ回路への入力電圧を検出する電圧センサが異常の場合にも共通する。このため、モータ電流センサと電圧センサとのうちの少なくとも一方が異常である場合にも、インバータ回路を制御可能な技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一形態として、回転翼(30)と連結するモータ(20)を制御するモータ制御システム(10)が提供される。このモータ制御システムは、バッテリ装置(70)から供給される直流電圧を交流電圧に変換し、前記モータに供給するインバータ回路(11)と、前記インバータ回路の動作を制御するインバータ制御部(121)と、モータ電流センサ(13)により検出される前記モータを流れる電流の電流値を取得するモータ電流取得部(122)と、電圧センサ(14)により検出される前記インバータ回路への入力電圧の電圧値を取得する入力電圧取得部(123)と、前記モータ電流センサと前記電圧センサとのうちの少なくとも一方の異常発生を示す異常情報を取得する異常情報取得部(127)と、を備え、前記インバータ制御部は、前記異常情報取得部により前記異常情報が取得された場合に、前記モータ制御システムとは異なる装置から、前記インバータ回路の制御に利用可能な制御値を取得し、取得された前記制御値を利用して前記インバータ回路を制御する。
【0006】
この形態のモータ制御システムによれば、モータ電流センサと電圧センサとのうちの少なくとも一方の異常発生を示す異常情報が取得された場合に、モータ制御システムとは異なる装置から、インバータ回路の制御に利用可能な制御値を取得し、取得された制御値を利用してインバータ回路を制御するので、モータ電流センサと電圧センサとのうちの少なくとも一方が異常である場合にも、インバータ回路を制御できる。
【0007】
本開示は、種々の形態で実現することも可能である。例えば、モータ制御システムを搭載する移動体、電動航空機、車両および船舶、モータ制御方法、これらの装置や方法を実現するためのコンピュータプログラム、かかるコンピュータプログラムを記録した一時的でない記録媒体等の形態で実現することができる。また、本開示は、以下の形態により実現されてもよい。
[形態1]回転翼(30)と連結するモータ(20)を制御するモータ制御システム(10)であって、バッテリ装置(70)から供給される直流電圧を交流電圧に変換し、前記モータに供給するインバータ回路(11)と、前記インバータ回路の動作を制御するインバータ制御部(121)と、モータ電流センサ(13)により検出される前記モータを流れる電流の電流値を取得するモータ電流取得部(122)と、電圧センサ(14)により検出される前記インバータ回路への入力電圧の電圧値を取得する入力電圧取得部(123)と、前記モータ電流センサと前記電圧センサとのうちの少なくとも一方の異常発生を示す異常情報を取得する異常情報取得部(127)と、を備え、前記インバータ制御部は、前記異常情報取得部により前記異常情報が取得された場合に、前記モータ制御システムとは異なる装置から、前記インバータ回路の制御に利用可能な制御値を取得し、取得された前記制御値を利用して前記インバータ回路を制御し、前記バッテリ装置と前記モータ制御システムとの間の給電ラインに設けられているバッテリ電流センサ(81)から、前記バッテリ装置を流れる電流の電流値を取得するバッテリ電流取得部(124)を、さらに備え、前記制御値は、前記バッテリ電流取得部による取得値であり、前記異常情報は、少なくとも前記モータ電流センサの異常発生を示し、前記インバータ制御部は、前記モータ電流センサが異常である場合に、前記バッテリ電流取得部による取得値を利用して前記インバータ回路を制御し、前記モータの回転数を検出する回転数センサ(15)から、前記回転数を取得する回転数取得部(126)をさらに備え、前記インバータ制御部は、前記モータ電流センサが異常である場合に、入力される前記回転翼の目標トルクと、前記回転数取得部による取得値と、前記入力電圧取得部による取得値と、から算出される目標電流値と、前記バッテリ電流取得部による取得値と、の差分を減少させるように、前記インバータ回路を制御する、モータ制御システム。
[形態2]回転翼(30)と連結するモータ(20)を制御するモータ制御システム(10)であって、バッテリ装置(70)から供給される直流電圧を交流電圧に変換し、前記モータに供給するインバータ回路(11)と、前記インバータ回路の動作を制御するインバータ制御部(121)と、モータ電流センサ(13)により検出される前記モータを流れる電流の電流値を取得するモータ電流取得部(122)と、電圧センサ(14)により検出される前記インバータ回路への入力電圧の電圧値を取得する入力電圧取得部(123)と、前記モータ電流センサと前記電圧センサとのうちの少なくとも一方の異常発生を示す異常情報を取得する異常情報取得部(127)と、を備え、前記インバータ制御部は、前記異常情報取得部により前記異常情報が取得された場合に、前記モータ制御システムとは異なる装置から、前記インバータ回路の制御に利用可能な制御値を取得し、取得された前記制御値を利用して前記インバータ回路を制御し、前記モータ制御システムは、自らの前記モータ制御システムである自システムとは異なる他の前記モータ制御システムである他システムを搭載する電動航空機(200)に搭載され、前記制御値は、前記他システムにおいて前記インバータ制御部が前記インバータ回路を制御する際に用いる目標電圧値であり、前記異常情報は、少なくとも前記モータ電流センサの異常発生を示し、前記インバータ制御部は、前記モータ電流センサが異常である場合に、前記他システムから前記目標電圧値を取得し、取得された前記目標電圧値を利用して前記インバータ回路を制御する、モータ制御システム。
[形態3]回転翼(30)と連結するモータ(20)を制御するモータ制御システム(10)であって、バッテリ装置(70)から供給される直流電圧を交流電圧に変換し、前記モータに供給するインバータ回路(11)と、前記インバータ回路の動作を制御するインバータ制御部(121)と、モータ電流センサ(13)により検出される前記モータを流れる電流の電流値を取得するモータ電流取得部(122)と、電圧センサ(14)により検出される前記インバータ回路への入力電圧の電圧値を取得する入力電圧取得部(123)と、前記モータ電流センサと前記電圧センサとのうちの少なくとも一方の異常発生を示す異常情報を取得する異常情報取得部(127)と、を備え、前記インバータ制御部は、前記異常情報取得部により前記異常情報が取得された場合に、前記モータ制御システムとは異なる装置から、前記インバータ回路の制御に利用可能な制御値を取得し、取得された前記制御値を利用して前記インバータ回路を制御し、前記モータ制御システムは、自らの前記モータ制御システムである自システムとは異なる他の前記モータ制御システムである他システムを搭載する電動航空機(200)に搭載され、前記電動航空機は、前記バッテリ装置と前記モータ制御システムとの間の給電ラインに設けられているバッテリ電流センサ(81)をさらに搭載し、前記モータ制御システムは、前記モータの回転数を検出する回転数センサ(15)から、前記回転数を取得する回転数取得部(126)と、バッテリ電流センサ(81)から、前記バッテリ装置を流れる電流の電流値を取得するバッテリ電流取得部(124)と、をさらに備え、前記制御値は、前記他システムが有する前記入力電圧取得部による取得値であり、前記インバータ制御部は、入力される前記回転翼の目標トルクと、前記回転数取得部による取得値と、前記他システムが有する前記入力電圧取得部による取得値と、から算出される目標電流値と、前記バッテリ電流取得部による取得値と、の差分を減少させるように、前記インバータ回路を制御する、モータ制御システム。
[形態4]回転翼(30)と連結するモータ(20)を制御するモータ制御システム(10)であって、バッテリ装置(70)から供給される直流電圧を交流電圧に変換し、前記モータに供給するインバータ回路(11)と、前記インバータ回路の動作を制御するインバータ制御部(121)と、モータ電流センサ(13)により検出される前記モータを流れる電流の電流値を取得するモータ電流取得部(122)と、電圧センサ(14)により検出される前記インバータ回路への入力電圧の電圧値を取得する入力電圧取得部(123)と、前記モータ電流センサと前記電圧センサとのうちの少なくとも一方の異常発生を示す異常情報を取得する異常情報取得部(127)と、を備え、前記インバータ制御部は、前記異常情報取得部により前記異常情報が取得された場合に、前記モータ制御システムとは異なる装置から、前記インバータ回路の制御に利用可能な制御値を取得し、取得された前記制御値を利用して前記インバータ回路を制御し、前記バッテリ装置と前記モータ制御システムとの間の給電ラインに設けられているバッテリ電流センサ(81)から、前記バッテリ装置を流れる電流の電流値を取得するバッテリ電流取得部(124)と、前記モータの回転数を検出する回転数センサ(15)から、前記回転数を取得する回転数取得部(126)と、をさらに備え、前記異常情報は、少なくとも前記電圧センサの異常発生を示し、前記インバータ制御部は、前記電圧センサが異常である場合に、前記バッテリ電流取得部による取得値と、前記回転数取得部により取得される前記回転数と、前記モータに対する目標トルクと、を利用して、前記入力電圧の電圧値を推定する、モータ制御システム。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施形態としてのモータ制御システムを適用した電動航空機の構成を模式的に示す上面図である。
図2】電動航空機の機能的な構成を示すブロック図である。
図3】モータ、モータ制御システムおよびバッテリ装置における電気的な接続を模式的に示す説明図である。
図4】第1実施形態におけるモータ制御処理の手順を示すフローチャートである。
図5】第1実施形態におけるステップS115の詳細手順を示す説明図である。
図6】第1実施形態におけるステップS204の詳細手順を示す説明図である。
図7】通常制御の手順を示す説明図である。
図8】第1実施形態におけるステップS120およびS125の詳細手順を示す説明図である。
図9】第2実施形態におけるステップS120およびS125の詳細手順を示す説明図である。
図10】第3実施形態におけるステップS120、S122、S123およびS125の詳細手順を示す説明図である。
図11】第4実施形態におけるステップS204の詳細手順を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1実施形態:
A1.装置構成:
図1に示す電動航空機200は、eVTOL(electric Vertical Take-Off and Landing aircraft)とも呼ばれ、鉛直方向に離着陸可能であり、また、水平方向への推進が可能な有人航空機である。電動航空機200は、機体210と、8つの回転翼30と、各回転翼に対応して配置されている8つのモータ20およびモータ制御システム10とを備える。
【0010】
機体210は、電動航空機200において8つの回転翼30、モータ20およびモータ制御システム10を除いた部分に相当する。機体210は、本体部220と、主翼250と、尾翼280とを備える。
【0011】
本体部220は、電動航空機200の胴体部分を構成する。本体部220は、軸線AXを対象軸として左右対称の構成を有する。本実施形態において、「軸線AX」とは、電動航空機200の重心位置CMを通り、電動航空機200の前後方向に沿った軸を意味している。また、「重心位置CM」とは、乗員が搭乗していない空虚重量時における電動航空機200の重心位置を意味する。本体部220の内部には、図示しない乗員室が形成されている。
【0012】
主翼250は、右翼260と左翼270とにより構成されている。右翼260は、本体部220から右方向に延びて形成されている。左翼270は、本体部220から左方向に延びて形成されている。右翼260と左翼270とには、それぞれ回転翼30、モータ20およびモータ制御システム10が2つずつ配置されている。尾翼280は、本体部220の後端部に形成されている。
【0013】
8つの回転翼30のうちの4つは、本体部220の上面の中央部に配置されている。これら4つの回転翼30は、主に機体210の揚力を得るための浮上用回転翼31a~31dとして機能する。浮上用回転翼31aと浮上用回転翼31bは、重心位置CMよりも前方において、軸線AXを中心として互いに線対称の位置に配置されている。浮上用回転翼31cと浮上用回転翼31dは、重心位置CMよりも後方において、軸線AXを中心として互いに線対称の位置に配置されている。8つの回転翼30のうちの2つは、右翼260および左翼270に配置されている。具体的には、右翼260の先端部の上面に浮上用回転翼31eが配置され、左翼270の先端部の上面に浮上用回転翼31fが配置されている。
【0014】
また、8つの回転翼30のうちのさらに2つは、右翼260および左翼270にそれぞれ配置され、主に機体210の水平方向の推進力を得るための推進用回転翼32a、32bとして機能する。右翼260に配置された推進用回転翼32aと、左翼270に配置された推進用回転翼32bは、軸線AXを中心として互いに線対称の位置に配置されている。各回転翼30は、それぞれの回転軸(後述のシャフト29)を中心として、互いに独立して回転駆動される。各回転翼30は、互いに等角度間隔で配置された3つのブレードをそれぞれ有する。
【0015】
図2に示すように、各回転翼30に対応する合計8つのモータ20およびモータ制御システム10は、電駆動システム100の一部として構成されている。電駆動システム100は、予め設定されている飛行プログラム、或いは、乗員や外部からの操縦に応じて各モータ20を制御し、回転翼30を回転駆動させるシステムである。
【0016】
図3に示すように、モータ20は、本実施形態では、4極3相6コイルのブラシレスモータにより構成され、後述するインバータ回路11から供給される電圧および電流に応じた回転運動を出力する。モータ20は、ステータ21と、ロータ23と、永久磁石24とを備える。ステータ21には、6つのステータコイル22が周方向に等間隔で並んで配置されている。モータ20は、いわゆるインナーロータタイプのモータであり、ロータ23は、ステータコイル22に対して径方向内側に配置されている。ロータ23の軸心には、シャフト29が接合されている。図3に示すように、モータ20は、シャフト29を介して回転翼30と連結されている。図2に示すように、永久磁石24は、ロータ23の外周表面に配置された合計4つの磁石からなる。永久磁石24では、N極とS極とが周方向に沿って交互に配置されている。なお、モータ20を、ブラシレスモータに代えて、誘導モータやリラクタンスモータ等の任意のモータにより構成してもよい。
【0017】
8つのモータ制御システム10は、互いにほぼ同じ構成を有する。モータ制御システム10は、モータ20を制御するシステムである。図2および図3に示すように、各モータ制御システム10は、インバータ回路11と、制御装置12と、モータ電流センサ13と、電圧センサ14と、回転数センサ15とを備える。
【0018】
図3に示すように、インバータ回路11は、U相、V相、W相の各相に設けられた合計3つのレグを有する。各レグはスイッチング素子111と循環ダイオードとからなる上下2つのアームを有し、後述のバッテリ装置70から供給される直流電圧を、三相交流電圧に変換してモータ20に供給する。このとき、インバータ回路11は、制御装置12から供給される制御信号に応じたデューティ比でスイッチング素子111をスイッチングさせる。本実施形態において、スイッチング素子111は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)等のパワー素子であるトランジスタにより構成されている。
【0019】
制御装置12は、モータ20を駆動するための制御を実行する。本実施形態において、制御装置12は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)を有するコンピュータにより構成されている。制御装置12が有するCPUは、ROMに記憶されている制御プログラムをRAMに展開して実行することにより、図3に示すように、インバータ制御部121、モータ電流取得部122、入力電圧取得部123、バッテリ電流取得部124、バッテリ電圧取得部125、回転数取得部126、および異常情報取得部127として機能する。
【0020】
インバータ制御部121は、インバータ回路11に出力する制御信号を調整することにより、インバータ回路11の動作を制御する。モータ電流取得部122は、モータ電流センサ13により検出される相電流の電流値を取得する。相電流とは、モータ20におけるU相、V相およびW相の各相を流れる電流を意味する。入力電圧取得部123は、電圧センサ14により検出されるバッテリ装置70からインバータ回路11に入力される入力電圧の電圧値を取得する。バッテリ電流取得部124は、後述のバッテリ電流センサ81により検出される電流値を取得する。バッテリ電圧取得部125は、バッテリ装置70の出力電圧の値を取得する。後述するように、バッテリ装置70は、バッテリ電圧センサ72を備えており、バッテリ電圧取得部125は、かかるバッテリ電圧センサ72による検出値を取得する。回転数取得部126は、回転数センサ15により検出されるモータ20の回転数を取得する。
【0021】
異常情報取得部127は、モータ電流センサ13および電圧センサ14の異常発生を示す情報(以下、「異常情報」と呼ぶ)を取得する。本実施形態では、異常情報取得部127は、モータ電流センサ13および電圧センサ14を診断対象として異常の有無を診断することにより、異常情報を取得する。かかる異常診断方法は、公知の任意の方法を採用できる。例えば、後述の統合制御部120から制御装置12に入力されるトルク指令値(「目標トルク」とも呼ばれる)から求められる電流値と、モータ電流センサ13の検出値との差分の絶対値を求め、かかる差分の絶対値が所定の閾値を超えている場合には、モータ電流センサ13が異常であると判断し、所定の閾値を超えていない場合には正常であると判断してもよい。また、モータ20が正常である場合に検出される相電流の範囲を予め特定しておき、かかる範囲を超える電流値がモータ電流センサ13により検出された場合に、モータ電流センサ13が異常であると判断してもよい。また、例えば、予めバッテリ71のSOC(State Of Charge)と、バッテリ装置70からインバータ回路11に入力される入力電圧との関係を、予め実験等により求めてテーブルとして設定しておき、バッテリ装置70(より正確には、後述のマイクロプロセッサ73)から後述のバッテリ71のSOCを取得してテーブルを参照して入力電圧の値を特定し、特定された入力電圧値と、電圧センサ14により検出される電圧値との差分の絶対値が所定の閾値を超えている場合に、電圧センサ14が異常であると判断してもよい。なお、異常情報取得部127は、モータ制御システム10の電源がオンすると、モータ電流センサ13および電圧センサ14の異常の有無を繰り返し診断する。
【0022】
モータ電流センサ13は、図3に示すように、インバータ回路11とモータ20との間の各相の給電ラインに配置され、各相電流を検出する。電圧センサ14は、バッテリ装置70からインバータ回路11に入力される入力電圧の電圧値を検出する。回転数センサ15は、ロータ23の位置を検出すると共に、モータ20の回転数を検出する。
【0023】
図2に示すように、電駆動システム100は、上述の8つのモータ20およびモータ制御システム10に加えて、電動統括ECU110を備える。電動統括ECU110は、電駆動システム100を全体制御する。本実施形態において、電動統括ECU110は、CPU、ROM、RAMを備えるコンピュータ(ECU)により構成されている。電動統括ECU110が備えるCPUは、ROMに予め記憶されている制御プログラムをRAMに展開して実行することにより、統合制御部120として機能する。
【0024】
統合制御部120は、予め設定されている飛行プログラム或いはユーザによる操縦桿の操舵等に応じて、各モータ制御システム10を制御する。このとき、統合制御部120は、各モータ制御システム10に対してトルク指令値を定期的に送信する。「トルク指令値」は、モータ20の出力トルクを指令する値である。本実施形態において、トルク指令値の送信間隔は、100msec(ミリ秒)である。なお、100msecに限らず任意の期間であってもよい。トルク指令値は、本開示における目標トルクに相当する。
【0025】
図2に示すように、電動航空機200には、上述の電駆動システム100に加えて、飛行を行うための様々な構成要素が搭載されている。具体的には、電動航空機200には、センサ群40と、ユーザインターフェイス部50(「UI部」50と呼ぶ)と、通信装置60と、バッテリ装置70と、バッテリ電流センサ81とが搭載されている。
【0026】
センサ群40は、高度センサ41、位置センサ42、速度センサ43を含む。高度センサ41は、電動航空機200の現在の高度を検出する。位置センサ42は、電動航空機200の現在位置を緯度および経度として特定する。本実施形態において、位置センサ42は、GNSS(Global Navigation Satellite System)により構成されている。GNSSとしては、例えば、GPS(Global Positioning System)を用いてもよい。速度センサ43は、電動航空機200の速度を検出する。
【0027】
UI部50は、電動航空機200の乗員に対し、電動航空機200の制御用および動作状態のモニタ用のユーザインターフェイスを供給する。ユーザインターフェイスとしては、例えば、キーボードやボタンなどの操作入力部や、液晶パネルなどの表示部などが含まれる。UI部50は、例えば、電動航空機200のコクピットに設けられている。乗組員は、UI部50を用いて、電動航空機200の動作モードの変更や、各モータ制御システム10の動作試験を実行できる。
【0028】
通信装置60は、他の電動航空機や、地上の管制塔などと通信を行う。通信装置60としては、例えば、民間用VHF無線機などが該当する。なお、通信装置60は、民間用VHF以外にも、IEEE802.11において規定されている無線LANや、IEEE802.3において規定されている有線LANなどの通信を行う装置として構成されてもよい。
【0029】
バッテリ装置70は、電動航空機200における電力供給源の1つとして機能する。バッテリ装置70は、各モータ制御システム10のインバータ回路11を介してモータ20に三相交流電力を供給する。図3に示すように、バッテリ装置70は、バッテリ71と、バッテリ電圧センサ72と、マイクロプロセッサ73とを備える。バッテリ71は、本実施形態においては、リチウムイオン電池により構成されている。なお、バッテリ71は、リチウムイオン電池に代えて、ニッケル水素電池等の任意の二次電池により構成されていてもよく、二次電池に代えて、または二次電池に加えて、燃料電池や発電機等の任意の電力供給源により構成されてもよい。バッテリ電圧センサ72は、バッテリ71の出力電圧を検出する。マイクロプロセッサ73は、バッテリ電圧センサ72により検出された電圧値を取得し、また、各モータ制御システム10(制御装置12)からの要求に応じて、取得した電圧値を送信する。
【0030】
バッテリ電流センサ81は、バッテリ装置70とモータ制御システム10(インバータ回路11)との間の給電ラインに設けられている。バッテリ電流センサ81は、バッテリ装置70から各モータ制御システム10に供給される電流値を検出する。
【0031】
上記構成を有するモータ制御システム10では、後述するモータ制御処理を実行することにより、モータ電流センサ13または電圧センサ14が異常である場合にもモータ20を制御することができる。
【0032】
A2.モータ制御処理:
図4に示すモータ制御処理は、各モータ制御システム10において、モータ制御システム10の電源がオンすると実行される。モータ制御処理とは、モータ20の動作を制御する処理を意味する。
【0033】
異常情報取得部127は、各相のモータ電流センサ13が異常であるか否かを判定する(ステップS105)。いずれか一つのモータ電流センサ13が異常であると判定された場合、すなわち、モータ電流センサ13の異常発生を示す異常情報が取得された場合(ステップS105;YES)、インバータ制御部121は、正常なモータ電流センサ13の数は1以上であるか否かを判定する(ステップS110)。
【0034】
正常なモータ電流センサ13の数は1以上であると判定された場合(ステップS110:YES)、インバータ制御部121は、正常なモータ電流センサ13による検出値を利用して、インバータ回路11を制御する(ステップS115)。
【0035】
図5に示すように、ステップS115は、ステップS202、S204、S206およびS208を備える。インバータ制御部121は、回転数センサ15により検出されるモータ20の回転数と、統合制御部120から入力されるトルク指令値に基づき、電圧位相θvを特定する(ステップS202)。また、インバータ制御部121は、電圧振幅Vを特定する(ステップS204)。このステップS204の詳細な手順については、後述する。
【0036】
電圧位相θvと電圧振幅Vとが特定されると、インバータ制御部121は、特定された電圧位相θvと電圧振幅Vから3相変換処理を行い(ステップS206)、各相の目標電圧値Vu、Vv、Vwを求める。具体的には、インバータ制御部121は、まず、d軸電圧Vdを下記式(1)により求め、q軸電圧Vqを下記式(2)により求める。
Vd=Vcosθv ・・・(1)
Vq=Vsinθv ・・・(2)
次に、インバータ制御部121は、d軸電圧Vdとq軸電圧Vqとを、公知の変換式(変換行列)に当てはめて各相の目標電圧Vu、Vv、Vwを求める。そして、インバータ制御部121は、目標電圧値Vu、Vv、Vwに基づき、各相を駆動する際のデューティ比を特定し、かかるデューティ比となるように、制御信号を生成して各アームに出力する(ステップS208)。
【0037】
上述のステップS204は、図6に示すように、ステップS212、S214、S216、S218、S220、およびS222を備える。モータ電流取得部122は、正常なモータ電流センサ13による検出値を取得する(ステップS212)。正常なモータ電流センサ13が2つである場合には、モータ電流取得部122は、いずれか一方のモータ電流センサ13により検出される電流値を取得する。インバータ制御部121は、ステップS212により取得された電流値を公知の演算式に当てはめて電流振幅値を求める(ステップS214)。ステップS212およびS214と並行して、インバータ制御部121は、統合制御部120からトルク指令値T*を取得する(ステップS216)。インバータ制御部121は、ステップS216により取得されたトルク指令値T*を公知の演算式に当てはめて、d軸目標電流値Id*およびq軸目標電流値Iq*を求める(ステップS218)。インバータ制御部121は、ステップS218で求められたd軸目標電流値Id*およびq軸目標電流値Iq*を、下記式(3)に当てはめて電流振幅値Iampを求める(ステップS220)。
【数1】
【0038】
インバータ制御部121は、ステップS214で求められた電流振幅値と、ステップS220で求められた電流振幅値Iampとの差分を減少させるようにPI(Proportional-Integral)制御を行って(ステップS222)、電圧振幅Vを特定する。
【0039】
図4に示すように、上述のステップS105において、各電流センサ13が異常でないと判定された場合(ステップS105:NO)、異常情報取得部127は、電圧センサ14が異常であるか否かを判定する(ステップS130)。電圧センサ14が異常でないと判定された場合(ステップS130:NO)、インバータ制御部121は、各相のモータ電流センサ13による検出値と、電圧センサ14による検出値とを利用してインバータ回路11を制御する(ステップS135)。このステップS135は、つまり、正常状態におけるインバータ回路11の制御(以下、「通常制御」と呼ぶ)を意味する。
【0040】
図7に示すように、通常のインバータ回路11の制御において、インバータ制御部121は、統合制御部120からのトルク指令値T*を取得し(ステップS402)、かかるトルク指令値T*に基づきd軸目標電流値Id*とq軸目標電流値Iq*とを求める(ステップS404)。これと並行して、インバータ制御部121は、各モータ電流センサ13により検出される電流値Iu,Iv、Iwを取得し(ステップS406)、得られた電流値Iu,Iv、Iwを公知の変換式に当てはめる演算によって、d軸電流値Idおよびq軸電流値Iqを求める(ステップS408)。そして、d軸電流値Idおよびq軸電流値Iqが、d軸目標電流値Id*およびq軸目標電流値Iq*に近づくようにPI制御を実行して、d軸目標電圧値Vdと、q軸目標電圧値Vqとを求める(ステップS410)。こうして得られたd軸目標電圧値Vdおよびq軸目標電圧値Vqを、公知の変換式に当てはめる演算によって、各相の目標電圧値Vu、Vv、Vwを求め(ステップS412)、かかる目標電圧値Vu、Vv、Vwを実現するための制御信号を生成して、各アームに出力する。
【0041】
図4に示すように、上述のステップS130において、電圧センサ14が異常であると判定された場合、すなわち、電圧センサ14の異常発生を示す異常情報が異常情報取得部127により取得された場合(ステップS130:YES)、インバータ制御部121は、自らのモータ制御システム10(以下、「自システム10」とも呼ぶ)とは異なる装置から、インバータ回路11の制御に必要な制御値を取得する(ステップS120)。なお、上述のステップS110において、正常なモータ電流センサ13の数は1以上でない、つまり、すべてのモータ電流センサ13が異常であると判定された場合(ステップS110:NO)も、ステップS120が実行される。インバータ制御部121は、ステップS120で取得された制御値を利用してインバータ回路11を制御する(ステップS125)。ステップS120およびS125の詳細な手順について、図8を用いて説明する。
【0042】
図8に示すように、上述のステップS120は、ステップS302、S304、S306およびS308を備える。また、上述のステップS125は、ステップS310およびS312を備える。
【0043】
バッテリ電流取得部124は、バッテリ電流センサ81による検出値、すなわち、バッテリ装置70から各モータ制御システム10に供給される電流(以下、「バッテリ電流」と呼ぶ)の値を取得する(ステップS302)。インバータ制御部121は、統合制御部120からトルク指令値を取得する(ステップS304)。バッテリ電圧取得部125は、バッテリ電圧センサ72による検出値、すなわち、バッテリ71の出力電圧値を取得する(ステップS306)。回転数取得部126は、回転数センサ15の検出値、すなわち、モータ20の回転数を取得する(ステップS308)。上述のステップS302~S308は、互いに並行して実行される。なお、これらステップSステップS302~S308を所定の順番で順次実行してもよい。上述の説明からも理解できるように、第1実施形態においては、「自システムとは異なる他の装置」とは、バッテリ電流センサ81およびバッテリ電圧センサ72を意味する。また、バッテリ電流およびバッテリ装置70の出力電圧値は、本開示における「制御値」に相当する。
【0044】
インバータ制御部121は、ステップS304で取得されたトルク指令値と、ステップS306で取得されたバッテリ71の出力電圧と、ステップS308で取得されたモータ20の回転数とを用いて、バッテリ目標電流値を算出する(ステップS310)。バッテリ目標電流値とは、トルク指令値とバッテリ71の出力電圧とモータ20の回転数とから推定されるバッテリ電流値である。インバータ制御部121は、以下の式(4)により、バッテリ目標電流値を算出する。下記式(4)において、Ib*は、バッテリの目標電流値を示し、T*はトルク指令値(Nm)を示し、Nはモータ20の回転数(rpm)を示し、Vbはバッテリの出力電圧(V)を示す。
Ib*=N×(2π×T*÷60)÷Vb ・・・(4)
【0045】
インバータ制御部121は、ステップS302で取得されるバッテリ電流の値と、ステップS310で算出されるバッテリ目標電流値Ib*との差分を減少させるように、より正確には、ステップS302で取得されるバッテリ電流の値が、ステップS310で算出されるバッテリ目標電流値Ib*に近づくように、PI制御を行って、各相の目標電圧値Vu、Vv、Vwを求め、かかる目標電圧値Vu、Vv、Vwを実現するための制御信号を生成して、各アームに出力する(ステップS312)。
【0046】
以上説明した第1実施形態のモータ制御システム10によれば、モータ電流センサ13と電圧センサ14とのうちの少なくとも一方が異常である場合に、換言すると、モータ電流センサ13と電圧センサ14とのうちの少なくとも一方の異常を示す異常情報が異常情報取得部127により取得された場合に、モータ制御システム10とは異なる装置から、インバータ回路11の制御に利用可能な制御値を取得し、取得された制御値を利用してインバータ回路11を制御するので、モータ電流センサ13とバッテリ電圧センサ81とのうちの少なくとも一方が異常である場合にも、インバータ回路11を制御できる。
【0047】
また、一部のモータ電流センサ13が異常である場合に、異常でないモータ電流センサ13の検出値を利用してインバータ回路11を制御するので、モータ電流センサ13が異常でない場合と大きく変わることなく、インバータ回路11を制御できる。また、すべてのモータ電流センサ13が異常である場合に、バッテリ電流取得部124による取得値、すなわち、バッテリ71を流れる電流の電流値を利用してインバータ回路11を制御するので、かかる場合も、モータ電流センサ13が異常でない場合と大きく変わることなく、インバータ回路11を制御できる。
【0048】
また、インバータ制御部121は、モータ電流センサ13がすべて異常である場合、および電圧センサ14が異常である場合に、入力されるトルク指令値T*と、回転数取得部126による取得値と、入力電圧取得部123による取得値と、から算出される目標電流値と、バッテリ電流取得部124による取得値と、の差分を減少させるように、インバータ回路11を制御するので、モータ電流センサ13が異常でない場合と大きく変わることなく、インバータ回路11を制御できる。
【0049】
また、インバータ制御部121は、電圧センサ14が異常である場合に、バッテリ電流取得部124による取得値と、回転数取得部126により取得される回転数と、トルク指令値T*と、を利用して、バッテリ装置70からの入力電圧の電圧値を推定するので、入力電圧の電圧値を精度良く推定できる。
【0050】
B.第2実施形態:
第2実施形態における電駆動システム100を含む電動航空機200の構成は、第1実施形態と同じであるので、同一の構成には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。第2実施形態のモータ制御処理は、図9に示すように、ステップS120およびS125の詳細手順において、第1実施形態のモータ制御処理と異なる。第2実施形態のモータ制御処理におけるその他の手順は第1実施形態と同じであるので、同一の手順には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0051】
図9において上段は、類似システムにおける通常制御の手順を示している。類似システムとは、自システム(自らのモータ制御システム10)とは異なる他のモータ制御システム10(以下、「他システム」と呼ぶ)のうち、自システムの動作に類似する動作を行うシステムを意味する。具体的には、本実施形態では、下記条件aおよび条件bの両方の条件に合致する他システムを、類似システムと呼ぶ。
(条件a)自システムが制御するモータ20に連結されている回転翼30と同じ用途の回転翼30と連結するモータ20を制御するモータ制御システム10である。
(条件b)自システムが制御するモータ20と連結する回転翼30に対し、鉛直方向に見たときの重心位置CMを中心として点対称の位置にある回転翼30、または、重心位置CMを通る軸線AXに対して線対称の位置にある回転翼30(以下、「対称位置回転翼30」とも呼ぶ)と連結するモータ20を制御するモータ制御システム10である。
【0052】
上記条件aは、例えば、自システムが浮上用回転翼に対応するモータ制御システム10である場合には、他の浮上用回転翼に対応するモータ制御システム10であることを意味する。また、例えば、自システムが推進用回転翼に対応するモータ制御システム10である場合には、他の推進用回転翼に対応するモータ制御システム10であることを意味する。同じ用途の回転翼30に連結するモータ20を制御するモータ制御システム10同士は、互いに同様な動作を行う可能性が高い。
【0053】
上記条件bは、例えば、図1に示す浮上用回転翼31aに対応するモータ制御システム10が自システムである場合、軸線AXを中心として線対称の位置にある浮上用回転翼31b、または、重心位置CMを中心として点対称の位置にある浮上用回転翼31dが該当する。また、例えば、図1に示す推進用回転翼32aが自システムである場合、軸線AXを中心として線対称の位置にある推進用回転翼32bが該当する。電動航空機200が飛行する際(昇降や推進する際)には、機体210の姿勢を水平方向と平行に維持する必要がある。このため、軸線AXを中心として互いに線対称位置に配置されている2つの回転翼30または、重心位置CMを中心として違いに点対称位置に配置されている2つの回転翼30は、互いに同様な回転数で動作する。このため、これら2つの回転翼30に対応する2つのモータ制御システム10同士は、互いに同様な動作を行う可能性が高い。
【0054】
なお、図9の上段に示す通常制御の手順は、図7を用いて上述した手順と同じである。図9において下段は、自システムにおけるステップS120およびS125の処理を示している。つまり、すべてのモータ電流センサ13が異常である場合、または、電圧センサ14が異常である場合のステップS120およびS125の手順を示している。
【0055】
第2実施形態のステップS120では、インバータ制御部121は、他システムの通常制御のステップS410で求められたd軸目標電圧値Vdおよびq軸目標電圧値Vqを取得する。第2実施形態のステップS125では、インバータ制御部121は、ステップS120により得られたd軸目標電圧値Vdおよびq軸目標電圧値Vqを、公知の変換式に当てはめる演算によって、各相の目標電圧値Vu、Vv、Vwを求め、かかる目標電圧値Vu、Vv、Vwを実現するための制御信号を生成して、各アームに出力する。
【0056】
すなわち、第2実施形態では、ステップS120における「自システムとは異なる装置」とは、他システムを意味する。また、第2実施形態では、d軸目標電圧値Vdおよびq軸目標電圧値Vqは、本開示の制御値に相当する。
【0057】
以上説明した第2実施形態のモータ制御システム10は、第1実施形態のモータ制御システム10と同様な効果を有する。加えて、インバータ制御部は、モータ電流センサ13がすべて異常である場合および電圧センサ14が異常である場合に、類似システムから目標電圧値(d軸目標電圧値Vdおよびq軸目標電圧値Vq)を取得し、取得された目標電圧値を利用してインバータ回路11を制御するので、自システムのインバータ回路11を、すべてのモータ電流センサ13が異常でない場合および電圧センサ14が異常でない場合と大きく変わることなく制御できる。
【0058】
また、ステップS120における目標電圧値の取得先である類似システムは、自システムが制御するモータ20が連結されている回転翼30と同じ用途の回転翼30と連結するモータ20を制御するモータ制御システム10、すなわち、対称位置回転翼に対応するモータ制御システム10であるので、取得した目標電圧値に基づき、自システムのインバータ回路11を、すべてのモータ電流センサ13および電圧センサ14が異常でない場合に対してより大きく変わることなく制御できる。
【0059】
また、ステップS120における目標電圧値の取得先である類似システムは、鉛直方向に見たときの電動航空機200の機体210の重心位置CMを中心として点対称の位置になる回転翼30、または、重心位置CMを通る機体の軸線AXに対して線対称の位置にある回転翼30と連結するモータ20を制御するモータ制御システム10であるので、取得した目標電圧値に基づき、自システムのインバータ回路11を、すべてのモータ電流センサ13が異常でない場合および電圧センサ14が異常でない場合に対してより大きく変わることなく制御できる。
【0060】
C.第3実施形態:
第3実施形態における電駆動システム100を含む電動航空機200の構成は、第1および第2実施形態と同じであるので、同一の構成には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。第3実施形態のモータ制御処理は、図10に示すように、ステップS122およびS123を追加して実行する点において、図4~7、9に示す第2実施形態におけるモータ制御処理と異なる。第3実施形態におけるモータ制御処理のその他の手順は、第2実施形態と同じであるので、同一の手順には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0061】
ステップS120において類似システムから目標電圧値(d軸目標電圧値Vdおよびq軸目標電圧値Vq)を取得するのと並行して、インバータ制御部121は、類似システムにおける回転数センサ15の検出値、すなわちモータ20の回転数を取得し、また、回転数取得部126は自システムにおけるモータ20の回転数を取得する(ステップS122)。インバータ制御部121は、ステップS120により取得された目標電圧値を、ステップS122により取得された自システムと類似システムとのモータ20の回転数の比に基づき補正する(ステップS123)。このステップS123では、予め設定されているマップm1を用いて目標電圧値が補正される。図10に示すように、マップm1では、モータ20の回転数Nと目標電圧値Vとが互いに対応付けられている。具体的には、回転数Nと目標電圧値Vとが比例関係となるように対応付けられている。したがって、例えば、回転数N1に対応付けられている目標電圧V1に比べて、より大きな回転数N2に対応付けられている目標電圧値V2は、より大きな値となっている。このため、類似システムに対する自システムの回転数が大きい場合、目標電圧値も回転数の比に応じてより大きな値に補正される。ステップS123の完了後、補正後の目標電圧値Vを用いて上述のステップS125が実行される。
【0062】
以上説明した第3実施形態のモータ制御システム10は、第2実施形態のモータ制御システム10と同様な効果を有する。加えて、類似システムにおける回転数センサの検出値と、自システムの回転数センサの検出値の比を利用して、取得された目標電圧値を補正し補正された目標電圧値を利用してインバータ回路11を制御するので、自システムにおけるモータ回転数に応じたより適切な目標電圧値を利用してインバータ回路11を制御できる。
【0063】
D.第4実施形態:
第4実施形態における電駆動システム100を含む電動航空機200の構成は、第1実施形態と同じであるので、同一の構成には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。第4実施形態のモータ制御処理は、図11に示すように、ステップS204(電圧幅の特定)の詳細手順において、第1実施形態のモータ制御処理と異なる。第4実施形態のモータ制御処理におけるその他の手順は第1実施形態と同じであるので、同一の手順には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0064】
図11に示すように、第4実施形態のステップS204は、ステップS232およびS234を備える。回転数取得部126は、回転数センサ15の検出値、すなわちモータ20の回転数Nを取得する(ステップS232)。インバータ制御部121は、ステップS232で取得された回転数Nに基づき電圧振幅Vを特定する(ステップS234)。このステップS234では、予め設定されているマップm2を用いて電圧振幅が特定される。図11に示すように、マップm2では、モータ20の回転数Nと電圧振幅Vとが互いに対応付けられている。具体的には、回転数Nと電圧振幅Vとが比例関係となるように対応付けられている。かかる対応関係は、予め実験やシミュレーションなどにより特定される。ステップS234により特定された電圧振幅は、図5を用いて上述したとおり、ステップS206の処理に用いられる。
【0065】
以上説明した第4実施形態のモータ制御システム10は、第1実施形態のモータ制御システム10と同様な効果を有する。加えて、電圧振幅Vを、モータ20の回転数Nに基づき、マップm2を参照して特定できるので、ステップS204に要する時間を短くでき、また、ステップS204の処理負荷を軽減できる。
【0066】
E.他の実施形態:
(E1)第2および第3実施形態では、類似システムは、上記2つの条件a、bのいずれにも合致する他システムであったが、本開示はこれに限定されない。上記条件a、bのうちの少なくとも一方に代えて、または、条件a、bに加えて、下記条件c、d、eのうちの少なくとも1つに合致する他システムが類似システムであってもよい。
(条件c)各他システムに入力されるトルク指令値T*と、自システムに入力されるトルク指令値T*との差分のうち、最も小さな差分に対応する他システムである。
(条件d)各他システムに対応するモータ20の出力するトルクの実測値または推定値と、自システムに対応するモータ20の出力するトルクの実測値または推定値との差分のうち、最も小さな差分に対応する他システムである。
(条件e)各他システムのモータ20の回転数と、自システムのモータ20の回転数との差分のうち、最も小さな差分に対応する他システムである。
上記条件c、d、eのうちの少なくとも1つに合致する他システムは、自システムと同様な動作を行っている可能性が高い。
【0067】
(E2)各実施形態では、単一のシャフト29には、単一の回転翼30が配置されていたが、単一の回転翼30に代えて、複数の回転翼30が配置されてもよい。また、各実施形態では、各回転翼30の回転軸は互いに異なっていたが、換言すると、各回転翼30は鉛直方向に重複していなかったが、本開示はこれに限定されない。少なくとも一部の回転翼30については、自身の回転軸と同じ回転軸を有する他の回転翼30が、鉛直方向にずれて配置されていてもよい。かかる構成においては、同じ回転軸を有する複数の回転翼30は、互いに異なるモータ制御システム10により制御されるモータ20によってそれぞれ回転駆動される。かかる構成においては、自システムが制御するモータ20と連結する回転翼30の回転軸と一致する回転軸を有する回転翼30と連結するモータ20を制御するモータ制御システム10を、類似システムとしてもよい。自システムが制御するモータ20と連結する回転翼30の回転軸と一致する回転軸を有する回転翼30は、自システムが制御するモータ20と連結する回転翼30と同様に回転制御される。このため、かかる回転翼30と連結するモータ20を制御する他システムは、自システムと同様な動作を行う。
【0068】
(E3)第1実施形態では、図8に示すステップS125において、インバータ制御部121は、ステップS302で取得されるバッテリ電流の値と、ステップS310で算出されるバッテリ目標電流値Ib*との差分を減少させるように、より正確には、ステップS302で取得されるバッテリ電流の値が、ステップS310で算出されるバッテリ目標電流値Ib*に近づくように、PI制御を行っていたが本開示はこれに限定されない。トルク指令値T*とモータ20の回転数Nとの積は、モータ20の仕事量に相当する。また、バッテリ71の出力電圧とバッテリ電流値との積は、バッテリ71の出力電力に相当する。そこで、インバータ制御部121は、上述のモータ20の仕事量および出力電力をそれぞれ算出し、モータ20の仕事量と出力電力との差分が減少するようにPI制御を行ってもよい。
【0069】
(E4)各実施形態において、モータ20は、電駆動システム100の一部であったが、本開示はこれに限定されない。モータ20は、電駆動システム100とは別体に構成されてもよい。また、電流センサ13、電圧センサ14、回転数センサ15のうちの少なくとも1つは、モータ制御システム10とは別体に構成されてよい。
【0070】
(E5)各実施形態では、モータ20の制御に利用可能な制御値は、電動航空機200に搭載されている装置、具体的には、バッテリ電流センサ81、バッテリ電圧センサ72、および他システムから取得されていたが、本開示はこれに限定されない。例えば、通信装置60を介してネットワークに接続された任意の装置から制御値が取得されてもよい。例えば、他の電動航空機200に搭載されているバッテリ電流センサ、バッテリ電圧センサ、およびモータ制御システムから制御値が取得されてもよい。
【0071】
(E6)第2および第3実施形態では、制御値を類似システムから取得していたが、類似システムに代えて、類似システムとは異なる他の任意の他システムから取得してもよい。
【0072】
(E7)各実施形態では、モータ電流センサ13が異常である場合と、電圧センサ14が異常である場合のいずれにおいても、自システムとは異なる他の装置から制御値を取得して、インバータ回路11の制御を継続していたが、これら2つの場合のうちのいずれか一方の場合のみ、自システムとは異なる他の装置から制御値を取得して、インバータ回路11の制御を継続してもよい。かかる構成においては、異常情報は、モータ電流センサ13または電圧センサ14のいずれか一方の異常発生を示してもよい。すなわち、一般には、モータ電流センサ13と電圧センサ14とのうちの少なくとも一方の異常発生を示す異常情報を取得する異常情報取得部127を、本開示のモータ制御システムに用いてもよい。
【0073】
(E8)各実施形態では、異常情報取得部127は、モータ電流センサ13および電圧センサ14を診断対象として異常の有無を診断することにより、異常情報を取得していたが、本開示はこれに限定されない。例えば、各モータ制御システム10において、制御装置12は、モータ電流センサ13および電圧センサ14の検出値を電動統括ECU110に送信し、電動統括ECU110は、受信した検出値に基づきモータ電流センサ13および電圧センサ14の異常発生の有無を診断し、その診断結果を各モータ制御システム10に送信する構成においては、異常情報取得部127は、電動統括ECU110から送信される診断結果を受信することにより、異常情報を取得してもよい。
【0074】
(E9)各実施形態におけるモータ制御システム10、電駆動システム100、統合制御部120、電動航空機200等の構成はあくまでも一例であり、様々に変更可能である。例えば、電動航空機200が搭載する回転翼30の数は、8つに限らず任意の複数の数であってもよい。また、例えば、モータ制御システム10および電駆動システム100は、電動航空機200に限らず、自動車や列車などの電動車両や、船舶などの任意の移動体に搭載されてもよい。また、統合制御部120は、電動航空機200に搭載されずに、例えば、地上の管制塔などに設置されたサーバ装置により構成されてもよい。かかる構成においては、通信装置60を介した通信により各モータ制御システム10を制御するようにしてもよい。同様に、異常情報取得部127も電動航空機200に搭載されずに、例えば、地上の管制塔などに設置されたサーバ装置により構成されてもよい。かかる構成においては、インバータ制御部121は、通信装置60を介した通信により異常の有無の診断結果を受け取ってもよい。
【0075】
(E10)本開示に記載の統合制御部120、インバータ制御部121、モータ電流取得部122、入力電圧取得部123、バッテリ電流取得部124、バッテリ電圧取得部125、回転数取得部126、異常情報取得部127及びそれら手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の統合制御部120、インバータ制御部121、モータ電流取得部122、入力電圧取得部123、バッテリ電流取得部124、バッテリ電圧取得部125、回転数取得部126、異常情報取得部127及びそれら手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の統合制御部120、インバータ制御部121、モータ電流取得部122、入力電圧取得部123、バッテリ電流取得部124、バッテリ電圧取得部125、回転数取得部126、異常情報取得部127及びそれら手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0076】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した形態中の技術的特徴に対応する各実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0077】
10…モータ制御システム、11…インバータ回路、13…モータ電流センサ、14…電圧センサ、20…モータ、30…回転翼、70…バッテリ装置、121…インバータ制御部、122…モータ電流取得部、123…入力電圧取得部、127…異常情報取得部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11