(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両のモータトルク制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/08 20060101AFI20240312BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20240312BHJP
B60K 6/547 20071001ALI20240312BHJP
B60W 20/00 20160101ALI20240312BHJP
B60W 20/20 20160101ALI20240312BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20240312BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20240312BHJP
B60L 9/18 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
B60W10/08 900
B60K6/48 ZHV
B60K6/547
B60W20/00
B60W20/20
B60L50/16
B60L15/20 K
B60L9/18 J
(21)【出願番号】P 2020011876
(22)【出願日】2020-01-28
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 芳輝
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-184689(JP,A)
【文献】特開2014-046696(JP,A)
【文献】特開2004-320852(JP,A)
【文献】特開2016-121708(JP,A)
【文献】特開2012-091599(JP,A)
【文献】国際公開第2014/097351(WO,A1)
【文献】特開2010-252526(JP,A)
【文献】特開平11-164408(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0274969(US,A1)
【文献】特開平08-193533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 20/50
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンとモータとが自動クラッチを介して接続され、前記モータと変速機とがマニュアルクラッチを介して接続されたハイブリッド車両のモータトルク制御装置であって、
前記ハイブリッド車両の制御モードとして、前記自動クラッチを解放して前記モータの動力で走行するEVモードと、前記自動クラッチを係合して前記エンジン、または前記エンジン及び前記モータの動力で走行するHEVモードとを有し、
少なくともアクセル開度に基づいて算出されるドライバ要求トルクに基づいて前記EVモードと前記HEVモードとを切り替える制御部を備え、
前記制御部は、
前記マニュアルクラッチの係合前に、前記HEVモード時の前記モータの回転速度の変化率を基準として、前記EVモード時の前記モータの回転速度の変化率が、その基準と略同一となるように、前記EVモード時には、エンジン慣性モーメント相当のトルクを前記モータのトルクに加算または減算する補正を行なうハイブリッド車両のモータトルク制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記EVモード時に、前記モータの回転速度の変化率が大きくなるほど、前記モータのトルクを
、前記ドライバ要求トルクに対して減少させる請求項1に記載のハイブリッド車両のモータトルク制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記EVモード時で、かつ、前記マニュアルクラッチが解放状態または前記変速機がニュートラル状態であるときに、前記HEVモード時の動力源側の慣性モーメントと前記EVモード時の動力源側の慣性モーメントの比に基づいて前記モータのトルクを
、前記ドライバ要求トルクに対して減少させる請求項1または請求項2に記載のハイブリッド車両のモータトルク制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記HEVモード時で、かつ、前記マニュアルクラッチが解放状態または前記変速機がニュートラル状態であるときに、前記HEVモード時の動力源側の慣性モーメントと前記EVモード時の動力源側の慣性モーメントの比に基づいて前記モータのトルクを
、前記HEVモード用のモータ要求トルクに対して増加させる請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のハイブリッド車両のモータトルク制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記HEVモード時には、前記モータの回転速度の変化率に基づいて前記モータのトルクを
、前記HEVモード用のモータ要求トルクに対して増加させ、前記EVモード時には、前記モータの回転速度の変化率に基づいて前記モータのトルクを
、前記ドライバ要求トルクに対して減少させる請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のハイブリッド車両のモータトルク制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両のモータトルク制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジンから駆動輪までの動力伝達経路上にモータ・ジェネレータとマニュアルトランスミッションが配置され、エンジンとモータ・ジェネレータとの間に自動クラッチを備え、モータとマニュアルトランスミッションとの間にマニュアルクラッチを備えたハイブリッド車両が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなハイブリッド車両において、モータ・ジェネレータのみを駆動源とするEV走行モード中は、駆動輪にモータ・ジェネレータのみが接続されるため、モータ・ジェネレータの慣性モーメントが発生する。エンジン及びモータ・ジェネレータを駆動源とするハイブリッド走行モード中は、エンジンとモータ・ジェネレータが駆動輪に接続されるため、エンジンとモータ・ジェネレータの両慣性モーメントが発生する。両者を比較すると、EV走行モード時の慣性モーメントのほうが小さいため、相対的にEV走行モード中のモータ・ジェネレータの回転速度変化率が大きくなる。
【0005】
この慣性モーメントの違いにより、EV走行モードではハイブリッド走行モードに比べてハイブリッド車両の加減速度が大きくなりやすい。このため、EV走行モードとハイブリッド走行モードの両モードで運転者が同一の運転操作を行なったとしても、運転者の運転操作に対してモード毎の車両挙動が異なる為、運転者に違和感を覚えさせるおそれがあった。より具体的には、変速時にモータ・ジェネレータの出力と変速機の入力側の回転数を同期させることが難しくなり、EV走行モードとハイブリッド走行モードとの間で車両挙動がバラツクおそれがあった。
【0006】
そこで、本発明は、制御モードの違いにより、運転者の運転操作に対する車両挙動が著しく異なる状況を抑制させることができるハイブリッド車両のモータトルク制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明は、エンジンとモータとが自動クラッチを介して接続され、前記モータと変速機とがマニュアルクラッチを介して接続されたハイブリッド車両のモータトルク制御装置であって、前記ハイブリッド車両の制御モードとして、前記自動クラッチを解放して前記モータの動力で走行するEVモードと、前記自動クラッチを係合して前記エンジン、または前記エンジン及び前記モータの動力で走行するHEVモードとを有し、少なくともアクセル開度に基づいて算出されるドライバ要求トルクに基づいて前記EVモードと前記HEVモードとを切り替える制御部を備え、前記制御部は、前記マニュアルクラッチの係合前に、前記HEVモード時の前記モータの回転速度の変化率を基準として、前記EVモード時の前記モータの回転速度の変化率が、その基準と略同一となるように、前記EVモード時には、エンジン慣性モーメント相当のトルクを前記モータのトルクに加算または減算する補正を行なうものである。
【発明の効果】
【0008】
このように、本発明によれば、制御モードの違いにより、運転者の運転操作に対する車両挙動が著しく異なる状況を抑制させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両の概略構成図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両に搭載されたECUによって参照されるドライバ要求トルクを算出するマップの例を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両に搭載されたECUによって実行されるモータトルク制御処理の手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両のモータトルク制御処理による、加速時にマニュアルトランスミッションの変速段を1速段から2速段へ変速する場合のモータジェネレータのトルク指令値とMG回転速度の変化を示すタイムチャートである。
【
図5】
図5は、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両のモータトルク制御処理による、減速時にマニュアルトランスミッションの変速段を3速段から2速段へ変速する場合のモータジェネレータのトルク指令値とMG回転速度の変化を示すタイムチャートである。
【
図6】
図6は、本発明の一実施例の第1の他の態様に係るハイブリッド車両に搭載されたECUによって実行されるモータトルク制御処理の手順を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、本発明の一実施例の第2の他の態様に係るハイブリッド車両に搭載されたECUによって実行されるモータトルク制御処理の手順を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、本発明の一実施例の第3の他の態様に係るハイブリッド車両に搭載されたECUによって実行されるモータトルク制御処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施の形態に係るハイブリッド車両のモータトルク制御装置は、エンジンとモータとが自動クラッチを介して接続され、モータと変速機とがマニュアルクラッチを介して接続されたハイブリッド車両のモータトルク制御装置であって、ハイブリッド車両の制御モードとして、自動クラッチを解放してモータの動力で走行するEVモードと、自動クラッチを係合してエンジン、またはエンジン及びモータの動力で走行するHEVモードとを有し、少なくともアクセル開度に基づいて算出されるドライバ要求トルクに基づいてEVモードとHEVモードとを切り替える制御部を備え、制御部は、モータの回転速度の変化率が、EVモード時とHEVモード時で略同一となるようにモータのトルクを補正するよう構成されている。
【0011】
これにより、本発明の一実施の形態に係るハイブリッド車両のモータトルク制御装置は、制御モードの違いにより、運転者の運転操作に対する車両挙動が著しく異なる状況を抑制させることができる。
【実施例】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施例に係るモータトルク制御装置を搭載したハイブリッド車両について詳細に説明する。
【0013】
図1において、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両1は、エンジン2と、モータとしてのモータジェネレータ3と、変速機としてのマニュアルトランスミッション4と、ディファレンシャル5と、駆動輪6と、制御部としてのECU(Electric Control Unit)10と、を含んで構成されている。
【0014】
エンジン2には、複数の気筒が形成されている。本実施例において、エンジン2は、各気筒に対して、吸気行程、圧縮行程、膨張行程および排気行程からなる一連の4行程を行なうように構成されている。
【0015】
モータジェネレータ3は、インバータ30を介してバッテリ31から供給される電力によって駆動する電動機としての機能と、マニュアルトランスミッション4から入力される逆駆動力または、エンジン2から入力される駆動力によって発電を行う発電機としての機能とを有する。
【0016】
インバータ30は、ECU10の制御により、バッテリ31から供給された直流電力を三相の交流電力に変換してモータジェネレータ3に供給したり、モータジェネレータ3によって生成された三相の交流電力を直流電力に変換してバッテリ31を充電したりする。バッテリ31は、例えばリチウムイオン電池などの二次電池によって構成されている。
【0017】
マニュアルトランスミッション4は、エンジン2又はモータジェネレータ3、若しくは双方から出力された回転を複数の変速段のいずれかに応じた変速比で変速して出力する手動変速機によって構成されている。マニュアルトランスミッション4は、ディファレンシャル5を介して左右の駆動輪6に接続されている。
【0018】
マニュアルトランスミッション4で成立可能な変速段としては、例えば低速段である1速段から高速段である5速段までの走行用の変速段と、後進段とがある。走行用の変速段の段数は、ハイブリッド車両1の諸元により異なり、上述の1速段から5速段に限られるものではない。
【0019】
マニュアルトランスミッション4における変速段は、運転者により操作されるシフトレバー40の操作位置に応じて切り替えられるようになっている。シフトレバー40の操作位置は、シフトポジションセンサ41により検出される。シフトポジションセンサ41は、ECU10に接続されており、検出結果をECU10に送信するようになっている。
【0020】
マニュアルトランスミッション4には、ニュートラルスイッチ42が設けられている。ニュートラルスイッチ42は、ECU10に接続されている。ニュートラルスイッチ42は、マニュアルトランスミッション4においていずれの変速段も成立していない状態、つまりニュートラル状態であることを検出するもので、マニュアルトランスミッション4がニュートラル状態にあるときにONされるスイッチである。
【0021】
エンジン2とモータジェネレータ3との間の動力伝達経路には、自動クラッチ7が設けられている。自動クラッチ7としては、例えば摩擦クラッチを用いることができる。エンジン2とモータジェネレータ3とは、自動クラッチ7を介して接続されている。
【0022】
自動クラッチ7は、クラッチアクチュエータ70によって作動され、エンジン2とモータジェネレータ3との間で動力を伝達する係合状態と、動力を伝達しない解放状態とが切り替えられるようになっている。クラッチアクチュエータ70は、ECU10に接続され、ECU10によって制御されるようになっている。
【0023】
モータジェネレータ3とマニュアルトランスミッション4との間の動力伝達経路には、マニュアルクラッチ8が設けられている。モータジェネレータ3とマニュアルトランスミッション4とは、マニュアルクラッチ8を介して接続されている。
【0024】
マニュアルクラッチ8は、運転者により操作されるクラッチペダル80の踏み込み量に連動して作動する機械式のクラッチである。マニュアルクラッチ8としては、例えば摩擦クラッチを用いることができる。
【0025】
クラッチペダル80の踏み込み量は、クラッチペダルセンサ81によって検出される。クラッチペダルセンサ81は、ECU10に接続されており、クラッチペダル80の踏み込み量に応じた信号をECU10に送信するようになっている。
【0026】
ECU10は、クラッチペダル80の踏み込み量が、所定のクラッチ係合判定閾値より小さい場合、マニュアルクラッチ8が係合状態にあると判定する。ECU10は、クラッチペダル80の踏み込み量が、所定のクラッチ解放判定閾値より大きい場合、マニュアルクラッチ8が解放状態にあると判定する。
【0027】
ハイブリッド車両1は、運転者により操作されるアクセルペダル90を備えている。アクセルペダル90の踏み込み量は、アクセル開度センサ91によって検出される。アクセル開度センサ91は、ECU10に接続されており、アクセルペダル90の踏み込み量をアクセル開度として検出し、当該アクセル開度に応じた信号をECU10に送信するようになっている。
【0028】
ECU10は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、バックアップ用のデータなどを保存するフラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートとを備えたコンピュータユニットによって構成されている。
【0029】
コンピュータユニットのROMには、各種定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットをECU10として機能させるためのプログラムが格納されている。すなわち、CPUがRAMを作業領域としてROMに格納されたプログラムを実行することにより、コンピュータユニットは、本実施例におけるECU10として機能する。
【0030】
ECU10には、上述したセンサ類のほか、車速センサ11が接続されている。車速センサ11は、ハイブリッド車両1の車速を検出し、検出結果をECU10に送信するようになっている。
【0031】
ECU10は、ハイブリッド車両1の制御モードを切り替えるようになっている。本実施例における制御モードとしては、EVモードとHEVモードとが設定されている。
【0032】
EVモードは、自動クラッチ7を解放状態とし、モータジェネレータ3の動力によりハイブリッド車両1を走行させる制御モードである。HEVモードは、自動クラッチ7を係合状態とし、エンジン2、又はエンジン2及びモータジェネレータ3の動力によりハイブリッド車両1を走行させる制御モードである。
【0033】
ECU10は、アクセル開度センサ91によって検出されたアクセル開度と、モータジェネレータ3の回転速度(以下「MG回転速度」という)とに応じて、EVモードとHEVモードとを切り替えるようになっている。
【0034】
ECU10は、例えば、アクセル開度とMG回転速度とに基づいて、ドライバ要求トルクを算出する。ECU10は、例えば、アクセル開度とMG回転速度とからドライバ要求トルクが決まる
図2に示すようなマップによりドライバ要求トルクを算出する。
図2において、「ASP=」の右側の値がアクセル開度であり、左側の線が、そのアクセル開度でのドライバ要求トルクを算出するマップになっている。ECU10は、例えば、アクセル開度からドライバ要求トルクが決まるマップによりドライバ要求トルクを算出してもよい。
【0035】
ECU10は、例えば、ドライバ要求トルクに基づいて、EVモードとHEVモードとを切り替える。
【0036】
本実施例において、ECU10は、単位時間当たりのMG回転速度の変化量であるMG回転速度変化率がEVモードとHEVモードで略同一となるようにモータジェネレータ3のトルクを補正する。ここで、略同一とは、例えば、MG回転速度変化率がEVモードとHEVモードで所定の範囲内にある場合をいう。また、EVモードとHEVモードで運転者の運転操作に対しての車両挙動が著しく異なることがない程度の範囲内にあることである。
【0037】
ECU10は、例えば、EVモード時に、MG回転速度変化率が大きくなるほど、モータジェネレータ3のトルクを減少させる。
【0038】
ECU10は、例えば、EVモード時に、以下の式(1)により算出するMG補正トルクをドライバ要求トルクから減算してモータジェネレータ3のトルク指令値であるMGトルク指令値とする。
MG補正トルク[Nm]=エンジン慣性モーメント[kgm2]×MG回転速度変化率[rad/s2]...(1)
【0039】
エンジン慣性モーメントは、自動クラッチ7よりエンジン2側の慣性モーメントの総和であり、ハイブリッド車両1の固定値である。
【0040】
このMG補正トルクは、自動クラッチ7が係合された状態でMG回転速度が変化した場合に、エンジン2側の慣性モーメントにより生ずる慣性トルクに相当するトルクである。
【0041】
以上のように構成された本実施例に係るモータトルク制御装置によるモータトルク制御処理について、
図3を参照して説明する。なお、以下に説明するモータトルク制御処理は、ECU10が動作を開始すると開始され、予め設定された時間間隔で実行される。
【0042】
ステップS1において、ECU10は、ハイブリッド車両1の各種センサ情報を取得する。ステップS1の処理を実行した後、ECU10は、ステップS2の処理を実行する。
【0043】
ステップS2において、ECU10は、アクセル開度とMG回転速度とに基づき、
図2に示すマップを補間演算してドライバ要求トルクTdrを算出する。ステップS2の処理を実行した後、ECU10は、ステップS3の処理を実行する。
【0044】
ステップS3において、ECU10は、ハイブリッド車両1の制御モードがEVモードであるか否かを判定する。ハイブリッド車両1の制御モードがEVモードであると判定した場合には、ECU10は、ステップS4の処理を実行する。ハイブリッド車両1の制御モードがEVモードでないと判定した場合には、ECU10は、ステップS7の処理を実行する。
【0045】
ステップS4において、ECU10は、単位時間当たりのMG回転速度の変化量であるMG回転速度変化率を算出する。ステップS4の処理を実行した後、ECU10は、ステップS5の処理を実行する。
【0046】
ステップS5において、ECU10は、MG回転速度変化率に応じたMG補正トルクを、前述した式(1)により算出する。ステップS5の処理を実行した後、ECU10は、ステップS6の処理を実行する。
【0047】
ステップS6において、ECU10は、ドライバ要求トルクTdrからMG補正トルクを減算した値をMGトルク指令値とする。ステップS6の処理を実行した後、ECU10は、モータトルク制御処理を終了する。
【0048】
ステップS7において、ECU10は、HEVモードでの制御に従いMGトルク指令値を算出する。HEVモード時は、マニュアルクラッチ8よりエンジン2側の動力源側の慣性モーメントは通常の内燃機関と同等であるため、慣性モーメントを補正する制御は実行しない。ステップS7の処理を実行した後、ECU10は、モータトルク制御処理を終了する。
【0049】
このようなモータトルク制御処理による動作について
図4及び
図5を参照して説明する。
図4は、加速時にマニュアルトランスミッション4の変速段を1速段から2速段へ変速する場合である。
【0050】
時刻t0からt1では、1速段でアクセルペダル90が踏み込まれて走行している。ドライバ要求トルクTdrは、アクセル開度とMG回転速度に応じて
図2に示すマップから算出される。
【0051】
時刻t1の時点で変速を行なうためにアクセルペダル90が戻され始めるのと同時にクラッチペダル80が踏まれ始める。そして、時刻t3でマニュアルクラッチ8が解放状態となり、その時点でアクセルペダル90は完全に戻された状態となっており、ドライバ要求トルクTdrは負の値となる。従って、動力源側の回転速度が低下し始める。
【0052】
HEVモードの場合、動力源側の慣性モーメントは、エンジン2とモータジェネレータ3の慣性モーメントの合計であり、かつモータジェネレータ3の慣性モーメントはエンジン2に比べて小さいので、動力源側の回転速度の低下は通常の車両に近い低下速度となる。このため、時刻t4でマニュアルトランスミッション4のギアが抜かれ、時刻t6でギアインされて時刻t7でマニュアルクラッチ8が係合開始するころには、マニュアルトランスミッション4のインプットシャフトの回転速度とMG回転速度がほぼ同期しており、マニュアルクラッチ8はなめらかにクラッチ係合することができる。
【0053】
一方、EVモードの場合、動力源側の慣性モーメントはモータジェネレータ3の慣性モーメントのみとなるので、従来の方法では動力源側の回転速度の低下速度は速くなり、時刻t5の時点でマニュアルトランスミッション4のインプットシャフトの回転速度と同期する同期回転速度より低いアイドル回転速度相当まで低下してしまう。アイドル回転速度相当以下まで回転速度が低下すると、ドライバ要求トルクTdrが正の値となるので、MG回転速度はアイドル回転速度相当の回転速度が維持される。そして、時刻t7でマニュアルクラッチ8が係合し始めるとMG回転速度がマニュアルトランスミッション4のインプットシャフトの回転速度まで引き上げられ、引き込みショックが発生する。
【0054】
本実施例では、EVモードの場合に、MG回転速度変化率に応じてMGトルク指令値に補正を行なう。
図4の例では、アクセルオフによりMG回転速度を低下させて回転同期が行なわれるので、MG回転速度変化率は負の値となり、この値にエンジン慣性モーメント相当の値を乗算して、ドライバ要求トルクTdrから減算補正するので、MGトルク指令値は増加し、負の値ではあるがゼロに近い値となる。そのため、MG回転速度の低下速度は遅くなり、HEVモードとほぼ同等とすることができる。その結果、マニュアルクラッチ8の係合タイミングがHEVモード時と同じタイミングであっても、MG回転速度とマニュアルトランスミッション4のインプットシャフトの回転速度をほぼ同期させることができ、なめらかにクラッチ係合することができる。
【0055】
図5は、減速時にマニュアルトランスミッション4の変速段を3速段から2速段へ変速する場合である。
【0056】
時刻t10からt11では、3速段でアクセルペダル90が離されて走行している。ドライバ要求トルクTdrは、アクセル開度とMG回転速度に応じて
図2に示すマップから算出される。この場合、ドライバ要求トルクTdrは負の値となる。
【0057】
時刻t11の時点で変速を行なうためにアクセルペダル90が離されたままクラッチペダル80が踏まれ始める。そして、時刻t13でマニュアルクラッチ8が解放状態となり、動力源側の回転速度が低下し始める。
【0058】
HEVモードの場合、動力源側の慣性モーメントは、エンジン2とモータジェネレータ3の慣性モーメントの合計であり、かつモータジェネレータ3の慣性モーメントはエンジン2に比べて小さいので、動力源側の回転速度の低下は通常の車両に近い低下速度となる。このため、時刻t14でマニュアルトランスミッション4のギアが抜かれ、回転同期のため時刻t15の時点までアクセルペダル90が踏まれ、時刻t16でギアインされて時刻t17でマニュアルクラッチ8が係合開始するころには、マニュアルトランスミッション4のインプットシャフトの回転速度とMG回転速度がほぼ同期しており、マニュアルクラッチ8がなめらかにクラッチ係合することができる。
【0059】
一方、EVモードの場合、動力源側の慣性モーメントはモータジェネレータ3の慣性モーメントのみとなるので、図中、第1の従来のEVモードの線で示すように、従来の方法では動力源側の回転速度の変化速度は速くなり、時刻t15の時点でマニュアルトランスミッション4のインプットシャフトの回転速度と同期する同期回転速度より高い回転速度まで上昇してしまう。その後はアクセルペダル90が離されているのでMG回転速度は低下するが同期回転速度には至らず、時刻t17でマニュアルクラッチ8が係合し始めるとMG回転速度がマニュアルトランスミッション4のインプットシャフトの回転速度まで低下し、ショックが発生する。
【0060】
例えば、図中、第2の従来のEVモードの線で示すように、運転者が、アクセルペダル90を踏み込んでいる時間を短くして回転を同期させようと、時刻t15'の時点でアクセルペダル90を離した場合、時刻t17でマニュアルクラッチ8が係合し始めるときのMG回転速度は同期回転速度より低下してしまう。
【0061】
このように、モータジェネレータ3の回転速度変化が大きいため、アクセル操作で回転同期させようとしても非常に難しい。
【0062】
本実施例では、EVモードの場合に、MG回転速度変化率に応じてMGトルク指令値に補正を行なう。
図5の例では、時刻t14から時刻t15にかけてアクセルオンによりMG回転速度を上昇させて回転同期が行なわれるので、MG回転速度変化率は正の値となり、この値にエンジン慣性モーメント相当の値を乗算して、ドライバ要求トルクTdrから減算補正するので、MGトルク指令値は減少し、正の値ではあるがゼロに近い値となる。そのため、MG回転速度の上昇速度は遅くなり、HEVモードとほぼ同等とすることができる。その結果、マニュアルクラッチ8の係合タイミングがHEVモード時と同じタイミングであっても、MG回転速度とマニュアルトランスミッション4のインプットシャフトの回転速度をほぼ同期させることができ、なめらかにクラッチ係合することができる。
【0063】
以上、変速時について説明したが、変速時以外においても、ハイブリッド車両1が加速や減速する場合には、動力源側の回転速度が変化するため、動力源側の慣性モーメントの影響を受ける。
【0064】
具体的には、HEVモード時よりEVモード時の方が動力源側の慣性モーメントが小さいため、マニュアルトランスミッション4が同じ変速段で、同じアクセル開度でも、EVモード時の方が加速度、減速度共に大きくなる。
【0065】
本実施例では、EVモード時に、エンジン2の慣性モーメントにより発生する慣性トルクに相当するトルクを、ドライバ要求トルクから減算補正するので、EVモード時であってもHEVモードと同等の加減速度とすることができる。
【0066】
このように、本実施例では、ECU10は、単位時間当たりのMG回転速度の変化量であるMG回転速度変化率がEVモードとHEVモードで略同一となるようにモータジェネレータ3のトルクを補正する。
【0067】
これにより、MG回転速度変化率がEVモードとHEVモードで略同一となるようにモータジェネレータ3のトルクが補正される。このため、EVモードとHEVモードにおいて、運転者の運転操作に対する加減速の度合いが際立って異なることがなく、制御モードの違いにより運転者の運転操作に対する車両挙動が著しく異なる状況を抑制させることができる。
【0068】
また、マニュアルトランスミッション4の変速時には、EVモードとHEVモードで運転者がそれぞれ同じ操作を行なった場合、モータジェネレータ3からマニュアルトランスミッション4のインプットシャフトに対して出力される回転速度が同程度となり、車両挙動が大きく変わらず、運転者が制御モードの特性を把握せずとも滑らかに変速を行なうことができる。
【0069】
また、変速時以外においても、EVモードとHEVモードのそれぞれで運転者の操作量(クラッチペダル80、アクセルペダル90、シフト操作等)に対して運転者が同程度の加減速度を感じることができる。また、制御モードの違いによる車両挙動の違いによって運転者が違和感を覚えることを抑えることができる。
【0070】
また、本実施例では、ECU10は、EVモード時に、MG回転速度変化率が大きくなるほど、モータジェネレータ3のトルクを減少させる。
【0071】
これにより、EVモード時に、MG回転速度変化率が大きくなるほど、モータジェネレータ3のトルクが減らされ、EVモード時とHEVモード時のそれぞれで同程度の加減速度となるため、滑らかな変速を行なうことができる。
【0072】
また、変速時以外であっても、EVモード時とHEVモード時で同程度の加減速度となるため、制御モードによって運転者が操作量を変更する必要がない。例えば、同じアクセル踏み込みを行なったときは、EVモード時とHEVモード時で同じ加速感が得られる。
【0073】
本実施例の第1の他の態様としては、
図1におけるECU10は、制御モードがEVモードでかつ、マニュアルクラッチ8が解放状態またはマニュアルトランスミッション4がニュートラル状態のとき、HEVモード時の動力源側の慣性モーメントと、EVモード時の動力源側の慣性モーメントとの比に基づいてモータジェネレータ3のトルクを減少させる。
【0074】
ECU10は、例えば、EVモード時の動力源側の慣性モーメント(すなわち、モータジェネレータ3の慣性モーメント)と、HEVモード時の動力源側の慣性モーメント(すなわち、モータジェネレータ3の慣性モーメント+エンジン2の慣性モーメント)の比で、ドライバ要求トルクを乗算補正してモータジェネレータ3のトルク指令値とする。
【0075】
このようにすることで、EVモードにおいて、変速のためにマニュアルクラッチ8が解放状態とされた場合は、モータジェネレータ3のトルクが、トライバ要求による原動機トルクに対して小さい慣性モーメントに対応した値に補正されるので、モータジェネレータ3の回転速度変化率をEVモード時とHEVモード時でほぼ同じとすることができる。
【0076】
以上のように構成された本実施例の第1の他の態様に係るモータトルク制御装置によるモータトルク制御処理について、
図6を参照して説明する。なお、以下に説明するモータトルク制御処理は、ECU10が動作を開始すると開始され、予め設定された時間間隔で実行される。
【0077】
ステップS11において、ECU10は、ハイブリッド車両1の各種センサ情報を取得する。ステップS11の処理を実行した後、ECU10は、ステップS12の処理を実行する。
【0078】
ステップS12において、ECU10は、アクセル開度とMG回転速度とに基づき、
図2に示すマップを補間演算してドライバ要求トルクTdrを算出する。ステップS12の処理を実行した後、ECU10は、ステップS13の処理を実行する。
【0079】
ステップS13において、ECU10は、ハイブリッド車両1の制御モードがEVモードであるか否かを判定する。ハイブリッド車両1の制御モードがEVモードであると判定した場合には、ECU10は、ステップS14の処理を実行する。ハイブリッド車両1の制御モードがEVモードでないと判定した場合には、ECU10は、ステップS19の処理を実行する。
【0080】
ステップS14において、ECU10は、マニュアルクラッチ8が解放状態であるか否かを判定する。マニュアルクラッチ8が解放状態であると判定した場合、ECU10は、ステップS16の処理を実行する。マニュアルクラッチ8が解放状態でないと判定した場合、ECU10は、ステップS15の処理を実行する。
【0081】
ステップS15において、ECU10は、マニュアルトランスミッション4がニュートラル状態であるか否かを判定する。マニュアルトランスミッション4がニュートラル状態であると判定した場合、ECU10は、ステップS16の処理を実行する。マニュアルトランスミッション4がニュートラル状態でないと判定した場合、ECU10は、ステップS18の処理を実行する。
【0082】
ステップS16において、ECU10は、モータジェネレータ3の慣性モーメント/(モータジェネレータ3の慣性モーメント+エンジン2の慣性モーメント)をMGトルク補正係数として算出する。ステップS16の処理を実行した後、ECU10は、ステップS17の処理を実行する。
【0083】
ステップS17において、ECU10は、ドライバ要求トルクTdrにMGトルク補正係数を乗算した値をMGトルク指令値とする。ステップS17の処理を実行した後、ECU10は、モータトルク制御処理を終了する。
【0084】
ステップS18において、ECU10は、ドライバ要求トルクTdrをMGトルク指令値とする。ステップS18の処理を実行した後、ECU10は、モータトルク制御処理を終了する。
【0085】
ステップS19において、ECU10は、HEVモードでの制御に従いMGトルク指令値を算出する。HEVモード時は、マニュアルクラッチ8よりエンジン2側の動力源側の慣性モーメントは通常の内燃機関と同等であるため、慣性モーメントを補正する制御は実行しない。ステップS19の処理を実行した後、ECU10は、モータトルク制御処理を終了する。
【0086】
このように、本実施例の第1の他の態様では、ECU10は、制御モードがEVモードでかつ、マニュアルクラッチ8が解放状態またはマニュアルトランスミッション4がニュートラル状態のとき、HEVモード時の動力源側の慣性モーメントと、EVモード時の動力源側の慣性モーメントとの比に基づいてモータジェネレータ3のトルクを減少させる。
【0087】
これにより、変速時に、EVモードとHEVモードでMG回転速度変化率が同程度となるため、制御モードによって運転者が変速の操作を変更する必要を無くすことができる。
【0088】
また、変速開始直後のモータジェネレータ3の実動作(回転速度)を判定することなく補正を行なうことができ、素早く補正をかけることができる。
【0089】
本実施例の第2の他の態様としては、
図1におけるECU10は、制御モードがHEVモード時には、MG回転速度変化率に基づいてモータジェネレータ3のトルクを増加させ、制御モードがEVモード時には、MG回転速度変化率に基づいてモータジェネレータ3のトルクを減少させる。
【0090】
HEVモード時は、エンジン2の慣性モーメントにより、車両挙動の応答性が緩やかになるため、MG回転速度変化率が緩やかであれば、モータジェネレータ3により応答性を高める方向に補正をかけ、運転者の操作に対して車両挙動の応答性を高める。
【0091】
EVモード時は、HEVモード時よりは慣性モーメントが小さいため、車両挙動の応答性が過敏になりやすいので、応答性が緩やかになる方向へモータジェネレータ3のトルクを補正する。
【0092】
全体としては、HEVモード時とEVモード時で車両挙動の応答性が同程度となるように補正をかける。
【0093】
ECU10は、例えば、EVモード時に、以下の式(2)により算出するMG補正トルクをドライバ要求トルクから減算してMGトルク指令値とする。
MG補正トルク=α×エンジン2の慣性モーメント[kgm2]× MG回転速度変化率[rad/s2]...(2)
【0094】
ECU10は、例えば、HEVモード時に、以下の式(3)により算出するMG補正トルクをHEVモード用のMGトルク指令値に加算してモータジェネレータ3のトルク指令値とする。
MG補正トルク=(1-α)×エンジン2の慣性モーメント[kgm2]×MG回転速度変化率[rad/s2]...(3)
【0095】
ここで、αは、ゼロから1の間の適合用数値であり、実験等により求められる。αの値を小さくするほどエンジンイナーシャを見かけ上小さくすることができる。
【0096】
以上のように構成された本実施例の第2の他の態様に係るモータトルク制御装置によるモータトルク制御処理について、
図7を参照して説明する。なお、以下に説明するモータトルク制御処理は、ECU10が動作を開始すると開始され、予め設定された時間間隔で実行される。
【0097】
ステップS21において、ECU10は、ハイブリッド車両1の各種センサ情報を取得する。ステップS21の処理を実行した後、ECU10は、ステップS22の処理を実行する。
【0098】
ステップS22において、ECU10は、アクセル開度とMG回転速度とに基づき、
図2に示すマップを補間演算してドライバ要求トルクTdrを算出する。ステップS22の処理を実行した後、ECU10は、ステップS23の処理を実行する。
【0099】
ステップS23において、ECU10は、単位時間当たりのMG回転速度の変化量であるMG回転速度変化率を算出する。ステップS23の処理を実行した後、ECU10は、ステップS24の処理を実行する。
【0100】
ステップS24において、ECU10は、ハイブリッド車両1の制御モードがEVモードであるか否かを判定する。ハイブリッド車両1の制御モードがEVモードであると判定した場合には、ECU10は、ステップS25の処理を実行する。ハイブリッド車両1の制御モードがEVモードでないと判定した場合には、ECU10は、ステップS27の処理を実行する。
【0101】
ステップS25において、ECU10は、MG回転速度変化率に応じたEVモード時のMG補正トルクを、前述した式(2)により算出する。ステップS25の処理を実行した後、ECU10は、ステップS26の処理を実行する。
【0102】
ステップS26において、ECU10は、ドライバ要求トルクTdrからMG補正トルクを減算した値をMGトルク指令値とする。ステップS26の処理を実行した後、ECU10は、モータトルク制御処理を終了する。
【0103】
ステップS27において、ECU10は、MG回転速度変化率に応じたHEVモード時のMG補正トルクを、前述した式(3)により算出する。ステップS27の処理を実行した後、ECU10は、ステップS28の処理を実行する。
【0104】
ステップS28において、ECU10は、HEVモードでの制御に従いMGトルク指令値を算出し、HEVモード用のMGトルク指令値にMG補正トルクを加算した値をMGトルク指令値とする。ステップS28の処理を実行した後、ECU10は、モータトルク制御処理を終了する。
【0105】
このように、本実施例の第2の他の態様では、ECU10は、制御モードがHEVモード時には、MG回転速度変化率に基づいてモータジェネレータ3のトルクを増加させ、制御モードがEVモード時には、MG回転速度変化率に基づいてモータジェネレータ3のトルクを減少させる。
【0106】
これにより、HEVモード時には、運転者の運転操作に対して従来よりもハイブリッド車両1の応答性を高めつつ、EVモード時とHEVモード時とで同程度の速度変化となり、EVモード時とHEVモード時で運転者の操作量を変更する必要がなく、車両挙動から運転者が感じる違和感を抑えることができる。
【0107】
本実施例の第3の他の態様としては、
図1におけるECU10は、マニュアルクラッチ8が解放状態またはマニュアルトランスミッション4がニュートラル状態のとき、制御モードがHEVモード時には、HEVモード時の動力源側の慣性モーメントと、EVモード時の動力源側の慣性モーメントとの比に基づいてモータジェネレータ3のトルクを増加させ、制御モードがEVモード時には、HEVモード時の動力源側の慣性モーメントと、EVモード時の動力源側の慣性モーメントとの比に基づいてモータジェネレータ3のトルクを減少させる。
【0108】
ECU10は、例えば、EVモード時に、以下の式(4)により算出するMGトルク補正係数をドライバ要求トルクに乗算してMGトルク指令値とする。
MGトルク補正係数=モータジェネレータ3の慣性モーメント/{(モータジェネレータ3の慣性モーメント+エンジン2の慣性モーメント)×α}...(4)
【0109】
ECU10は、例えば、HEVモード時に、以下の式(5)により算出するMGトルク補正係数をドライバ要求トルクに乗算してMGトルク指令値とする。
MGトルク補正係数={(モータジェネレータ3の慣性モーメント+エンジン2の慣性モーメント)×(1-α)}/(モータジェネレータ3の慣性モーメント-1)...(5)
【0110】
ここで、αは、ゼロから1の間の適合用数値であり、実験等により求められる。αの値を小さくするほどエンジンイナーシャを見かけ上小さくすることができる。
【0111】
なお、HEVモード時のマニュアルクラッチ8が解放状態またはマニュアルトランスミッション4がニュートラル状態のときのエンジン2に対するトルク指令値はドライバ要求トルクで制御される。
【0112】
以上のように構成された本実施例の第3の他の態様に係るモータトルク制御装置によるモータトルク制御処理について、
図8を参照して説明する。なお、以下に説明するモータトルク制御処理は、ECU10が動作を開始すると開始され、予め設定された時間間隔で実行される。
【0113】
ステップS31において、ECU10は、ハイブリッド車両1の各種センサ情報を取得する。ステップS31の処理を実行した後、ECU10は、ステップS32の処理を実行する。
【0114】
ステップS32において、ECU10は、アクセル開度とMG回転速度とに基づき、
図2に示すマップを補間演算してドライバ要求トルクTdrを算出する。ステップS32の処理を実行した後、ECU10は、ステップS33の処理を実行する。
【0115】
ステップS33において、ECU10は、マニュアルクラッチ8が解放状態であるか否かを判定する。マニュアルクラッチ8が解放状態であると判定した場合、ECU10は、ステップS35の処理を実行する。マニュアルクラッチ8が解放状態でないと判定した場合、ECU10は、ステップS34の処理を実行する。
【0116】
ステップS34において、ECU10は、マニュアルトランスミッション4がニュートラル状態であるか否かを判定する。マニュアルトランスミッション4がニュートラル状態であると判定した場合、ECU10は、ステップS35の処理を実行する。マニュアルトランスミッション4がニュートラル状態でないと判定した場合、ECU10は、ステップS39の処理を実行する。
【0117】
ステップS35において、ECU10は、ハイブリッド車両1の制御モードがEVモードであるか否かを判定する。ハイブリッド車両1の制御モードがEVモードであると判定した場合には、ECU10は、ステップS36の処理を実行する。ハイブリッド車両1の制御モードがEVモードでないと判定した場合には、ECU10は、ステップS37の処理を実行する。
【0118】
ステップS36において、ECU10は、HEVモード時の動力源側の慣性モーメントと、EVモード時の動力源側の慣性モーメントとの比に基づいてEVモード時のMGトルク補正係数を、前述した式(4)により算出する。ステップS36の処理を実行した後、ECU10は、ステップS38の処理を実行する。
【0119】
ステップS37において、ECU10は、HEVモード時の動力源側の慣性モーメントと、EVモード時の動力源側の慣性モーメントとの比に基づいてHEVモード時のMGトルク補正係数を、前述した式(5)により算出する。ステップS37の処理を実行した後、ECU10は、ステップS38の処理を実行する。
【0120】
ステップS38において、ECU10は、ドライバ要求トルクTdrにMGトルク補正係数を乗算した値をMGトルク指令値とする。ステップS38の処理を実行した後、ECU10は、モータトルク制御処理を終了する。
【0121】
ステップS39において、ECU10は、ハイブリッド車両1の制御モードがEVモードであるか否かを判定する。ハイブリッド車両1の制御モードがEVモードであると判定した場合には、ECU10は、ステップS40の処理を実行する。ハイブリッド車両1の制御モードがEVモードでないと判定した場合には、ECU10は、ステップS41の処理を実行する。
【0122】
ステップS40において、ECU10は、ドライバ要求トルクTdrをMGトルク指令値とする。ステップS40の処理を実行した後、ECU10は、モータトルク制御処理を終了する。
【0123】
ステップS41において、ECU10は、HEVモードでの制御に従いMGトルク指令値を算出する。ステップS41の処理を実行した後、ECU10は、モータトルク制御処理を終了する。
【0124】
このように、本実施例の第3の他の態様では、ECU10は、マニュアルクラッチ8が解放状態またはマニュアルトランスミッション4がニュートラル状態のとき、制御モードがHEVモード時には、HEVモード時の動力源側の慣性モーメントと、EVモード時の動力源側の慣性モーメントとの比に基づいてモータジェネレータ3のトルクを増加させ、制御モードがEVモード時には、HEVモード時の動力源側の慣性モーメントと、EVモード時の動力源側の慣性モーメントとの比に基づいてモータジェネレータ3のトルクを減少させる。
【0125】
これにより、変速時に、EVモードとHEVモードでMG回転速度変化率が同程度となるため、制御モードによって運転者が変速の操作を変更する必要を無くすことができる。
【0126】
また、変速開始直後のモータジェネレータ3の実動作(回転速度)を判定することなく補正を行なうことができ、素早く補正をかけることができる。
【0127】
本実施例では、各種センサ情報に基づきECU10が各種の判定や算出を行なう例について説明したが、これに限らず、ハイブリッド車両1が外部サーバ等の車外装置と通信可能な通信部を備え、該通信部から送信された各種センサの検出情報に基づき車外装置によって各種の判定や算出が行なわれ、その判定結果や算出結果を通信部で受信して、その受信した判定結果や算出結果を用いて各種制御を行なってもよい。
【0128】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正及び等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0129】
1 ハイブリッド車両
2 エンジン
3 モータジェネレータ(モータ)
4 マニュアルトランスミッション(変速機)
7 自動クラッチ
8 マニュアルクラッチ
10 ECU(制御部)
42 ニュートラルスイッチ
81 クラッチペダルセンサ
91 アクセル開度センサ