(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】半導体装置および半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/29 20060101AFI20240312BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20240312BHJP
H01L 25/07 20060101ALI20240312BHJP
H01L 25/18 20230101ALI20240312BHJP
【FI】
H01L23/30 D
H01L25/04 C
(21)【出願番号】P 2020014222
(22)【出願日】2020-01-30
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 悠一
【審査官】庄司 一隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-289849(JP,A)
【文献】特開2018-067592(JP,A)
【文献】特開2018-113428(JP,A)
【文献】特開2018-012748(JP,A)
【文献】特開2000-022052(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0197729(US,A1)
【文献】特開平03-296250(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0296364(US,A1)
【文献】特開2011-192774(JP,A)
【文献】特開2015-023183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/29
H01L 25/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上に設けられた半導体素子と、
前記半導体素子のおもて面に設けられた、前記半導体素子に電気的に接続された電極層と、
前記電極層上に、選択的に設けられた第1保護膜と、
前記電極層上の前記第1保護膜以外の部分に、前記第1保護膜と接して設けられた金属膜と、
前記金属膜と前記第1保護膜とが接する部分を覆う第2保護膜と、
前記金属膜に接合され、前記電極層の電位を外部に取り出す外部接続用端子と、
前記第1保護膜、前記第2保護膜および前記外部接続用端子を覆う封止樹脂と、
を備え、前記第1保護膜は無機物の第1フィラーが添加され
、
前記第1保護膜の線膨張係数α1、前記第2保護膜の線膨張係数α2および前記封止樹脂の線膨張係数α3は、α2>α1>α3の関係を満たすことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記第2保護膜は無機物の第2フィラーが添加され、
前記第1保護膜に添加された第1フィラーの濃度は、前記第2保護膜に添加された第2フィラーの濃度より大きいことを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第1保護膜に添加された第1フィラーの平均粒径は、前記第2保護膜に添加された第2フィラーの平均粒径より小さいことを特徴とする請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記第1フィラーおよび前記第2フィラーの平均粒径は、10nm以上250nm以下であることを特徴とする請求項2または3に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第1フィラーおよび前記第2フィラーは、SiO
2またはSiCであることを特徴とする請求項2~4のいずれか一つに記載の半導体装置。
【請求項6】
前記第1保護膜および前記第2保護膜は、ポリイミド膜であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一つに記載の半導体装置。
【請求項7】
半導体基板上に半導体素子を形成する第1工程と、
前記半導体素子のおもて面に、前記半導体素子に電気的に接続された電極層を形成する第2工程と、
前記電極層上に、無機物の第1フィラーが添加された第1保護膜を選択的に形成する第3工程と、
前記電極層上の前記第1保護膜以外の部分に、金属膜を形成する第4工程と、
前記金属膜と前記第1保護膜とが接する部分を覆う第2保護膜を形成する第5工程と、
前記金属膜に接合され、前記電極層の電位を外部に取り出す外部接続用端子を形成する第6工程と、
前記第1保護膜、前記第2保護膜および前記外部接続用端子を覆う封止樹脂を形成する第7工程と、
を含み、
前記第1保護膜の線膨張係数α1、前記第2保護膜の線膨張係数α2および前記封止樹脂の線膨張係数α3は、α2>α1>α3の関係を満たすことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体装置および半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワー半導体モジュールは、1つまたは複数のパワー半導体チップを内蔵して変換接続の一部または全体を構成し、かつ、パワー半導体チップと積層基板または金属基板との間が電気的に絶縁された構造を持つパワー半導体デバイスである。パワー半導体モジュールは、産業用途としてエレベータなどのモータ駆動制御インバータなどに使われている。さらに近年では、車載用モータ駆動制御インバータに広く用いられるようになっている。車載用インバータでは、燃費向上のため小型・軽量化や、エンジンルーム内の駆動用モータ近傍に配置されることから、高温動作での長期信頼性が求められる。
【0003】
ここで、車載用パワー半導体モジュールは、産業用パワー半導体モジュールに比べ、設置空間の制約から小型、軽量化が求められる。また、モータを駆動するための出力パワー密度が高くなるため、運転時における半導体チップ温度が高くなるとともに、高温動作時の長期信頼性の要求も高まってきている。このため、高温動作・長期信頼性を有したパワー半導体モジュール構造が要求されてきている。
【0004】
ところが、従来の金属ワイヤによる金属ワイヤ配線方式ではワイヤ太さが通電時の電流密度に影響し、動作に必要な電流を流すにはワイヤ本数を増やす必要がある。このため、金属ワイヤ配線方式では、複数の金属ワイヤで半導体チップ上面と電極パターン間を接続する必要があり、パワー半導体モジュールのワイヤ接合面積が増えることでパワー半導体モジュール自体が大きくなる。
【0005】
そこで、これらを解決するために、従来の金属ワイヤ配線方式から、リードフレーム配線方式の検討が進められている。リードフレーム配線方式とは、金属板の型加工により成形されたリードフレーム配線を用いて、半導体チップを支持固定し、半導体チップと電極パターンとを接続する方式である。
【0006】
図9は、従来構造のパワー半導体モジュールの電極部の構成を示す断面図である。
図9に示すように、半導体基板上の半導体素子120上にソース電極となるAl(アルミニウム)電極121が設けられている。半導体基板上の半導体素子120は、半導体基板上にMOSゲート(金属-酸化膜-半導体からなる絶縁ゲート)構造(素子構造)が形成されている半導体素子である。
【0007】
半導体素子の電極周囲には、半導体素子内部へのイオンの拡散を防止し、半導体素子を絶縁するために、Al電極121上に第1保護膜(パッシベーション膜)122が成膜されている。従来、第1保護膜122として、SiN(窒化シリコン)膜、無機材料が使用されているが、有機材料であるポリイミド膜も多く使用されている。ポリイミド膜は、スピンコート法やインクジェット法などの湿式方式で成膜が行われ、無機材料の成膜よりも成膜が簡易であるという効果がある。
【0008】
また、リードフレーム配線106をAl電極121にはんだ125で接合しやすくするためにNi(ニッケル)等のめっき膜124が設けられる。なお、めっき膜124とは無電解めっきなどのめっき法によって形成される膜である。めっき膜124は安価で厚い膜を金属電極上に選択的に形成できるので多く用いられている。しかし、めっき膜124に限られない。第1保護膜122は、めっき膜124を形成する際、めっき膜124のめっきが外部に流れ出ないようにする機能を有する。
【0009】
また、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)等のパワー半導体モジュールでは、めっき膜124と第1保護膜122が接する部分を選択的に覆うようにポリイミド膜である第2保護膜123が設けられる。第2保護膜123は、めっき膜124と第1保護膜122との隙間を覆い、例えば、はんだ125などが半導体素子側へ侵入することを防止する機能を有する。 第2保護膜123は、はんだ125を形成する際のマスクとして機能する。
【0010】
めっき膜124上に、はんだ125を介して、リードフレーム配線106が設けられ、パワー半導体モジュールは、封止樹脂108で封止されている。
図9では、パワー半導体モジュールの電極部が封止樹脂108で封止されている部分を示している。
【0011】
半導体チップと絶縁層との密着性を向上するため、半導体チップの回路形成面上に、少なくとも切り欠き部を覆うように第1絶縁層を形成し、第1絶縁層を覆うように第2絶縁層を形成し、第2絶縁層は無機フィラーを含んで構成される半導体装置が公知である(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来構造では、ポリイミド膜(第1保護膜122)は、Niのめっき膜124とAl電極121の双方に接触しており、異なる材料と接している。塗布されるポリイミド膜は、硬化後に化学的、電気的に高い安定性を持ち、耐熱、絶縁性を有するため、保護膜としての性質は良好である。一般に、ポリイミド膜は、化学的、電気的安定性が高く、それ故に他材料との反応性が低く、密着性が弱い場合がある。
【0014】
ここで、めっき膜124としてNiを用いた場合、ポリイミド膜の密着性の弱さから、ポリイミド膜の第1保護膜122とめっき膜124との界面で剥離が生じる場合がある。このために、第1保護膜122とめっき膜124との界面をさらに覆うように、ポリイミド膜の第2保護膜123をインクジェット法で塗布することが行われている。
【0015】
しかしながら、保護膜を2層構造にした場合でも、パワー半導体モジュールに対して、信頼性試験としてヒートサイクル試験を実施すると、第1保護膜122と第2保護膜123との界面、または第1、第2保護膜122、123と封止樹脂108との界面で剥離が生じる場合がある。
【0016】
これは、2層構造の場合の第1保護膜122と第2保護膜123との界面、または第1、第2保護膜122、123と封止樹脂108との界面での密着性が悪いことによる。ポリイミドは一度加熱形成すると、表面エネルギーが高く、末端基が生じにくく(濡れ性が悪い)、同種のポリイミドとの密着性が悪くなっている。同じ理由で、ポリイミドとエポキシ樹脂との密着性が悪くなっている。
【0017】
図10は、各素材の線膨張係数(α)を示す表である。
図10では、線膨張係数(CTE:Coefficient of Thermal Expansion)を示し、単位は10
-6/Kである。
図10に示すように、ポリイミド、エポキシ、銅(Cu)、酸化珪素(SiO
2)では、線膨張係数が大きく異なっている。このため、ヒートサイクル試験で、熱が加わると、線膨張係数が大きい素材と線膨張係数が小さい素材との膨張差が大きくなり、これらの素材の界面で大きな熱応力が生じる。パワー半導体モジュールの電極部では、ポリイミドとエポキシ、ポリイミドとニッケルの線膨張係数が大きく異なっているため、第1、第2保護膜122、123と封止樹脂108との界面、およびめっき膜124と第1保護膜122との界面に、大きな熱応力が生じる。特に、Niめっき膜の厚さが1μm以上となると顕著である。
【0018】
この熱応力により、密着性が悪くなっている第1保護膜122と第2保護膜123との界面、または第1、第2保護膜122、123と封止樹脂108との界面で剥離が生じて、第1保護膜122および第2保護膜123による絶縁性が破壊されてしまう。
【0019】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、第1保護膜と第2保護膜との界面、および第1、第2保護膜と封止樹脂との界面での剥離を防ぐことができる半導体装置および半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。なお、Al電極上の金属層がめっき膜である例に説明したが、これに限定されることなく、特に、前記金属膜が1μm以上の膜厚を有する場合、本発明によれば、第1保護膜と第2保護膜との界面、および第1、第2保護膜と封止樹脂との界面での剥離を防ぐことができる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる半導体装置は、次の特徴を有する。半導体装置は、半導体基板上に半導体素子が設けられる。前記半導体素子のおもて面に、前記半導体素子に電気的に接続された電極層が設けられる。前記電極層上に、選択的に第1保護膜が設けられる。前記電極層上の前記第1保護膜以外の部分に、前記第1保護膜と接して金属膜が設けられる。前記金属膜と前記第1保護膜とが接する部分を覆う第2保護膜が設けられる。前記金属膜に接合され、前記電極層の電位を外部に取り出す外部接続用端子が設けられる。前記第1保護膜、前記第2保護膜および前記外部接続用端子を覆う封止樹脂が設けられる。前記第1保護膜は無機物の第1フィラーが添加されている。前記第1保護膜の線膨張係数α1、前記第2保護膜の線膨張係数α2および前記封止樹脂の線膨張係数α3は、α2>α1>α3の関係を満たす。
【0021】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記第2保護膜は無機物の第2フィラーが添加され、前記第1保護膜に添加された第1フィラーの濃度は、前記第2保護膜に添加された第2フィラーの濃度より大きいことを特徴とする。
【0022】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記第1保護膜に添加された第1フィラーの平均粒径は、前記第2保護膜に添加された第2フィラーの平均粒径より小さいことを特徴とする。
【0023】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記第1フィラーおよび前記第2フィラーの平均粒径は、10nm以上250nm以下であることを特徴とする。
【0024】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記第1フィラーおよび前記第2フィラーは、SiO2またはSiCであることを特徴とする。
【0026】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記第1保護膜および前記第2保護膜は、ポリイミド膜であることを特徴とする。
【0027】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、次の特徴を有する。まず、半導体基板上に半導体素子を形成する第1工程を行う。次に、前記半導体素子のおもて面に、前記半導体素子に電気的に接続された電極層を形成する第2工程を行う。次に、前記電極層上に、無機物の第1フィラーが添加された第1保護膜を選択的に形成する第3工程を行う。次に、前記電極層上の前記第1保護膜以外の部分に、金属膜を形成する第4工程を行う。次に、前記金属膜と前記第1保護膜とが接する部分を覆う第2保護膜を形成する第5工程を行う。次に、前記金属膜に接合され、前記電極層の電位を外部に取り出す外部接続用端子を形成する第6工程を行う。次に、前記第1保護膜、前記第2保護膜および前記外部接続用端子を覆う封止樹脂を形成する第7工程を行う。前記第1保護膜の線膨張係数α1、前記第2保護膜の線膨張係数α2および前記封止樹脂の線膨張係数α3は、α2>α1>α3の関係を満たす。
【0028】
上述した発明によれば、第1保護膜または第2保護膜に第1、第2フィラーが添加されている。これにより、第1、第2保護膜、封止樹脂および金属膜(めっき膜)間での線膨張係数の違いを縮小させ、線膨張係数の違いによる熱応力を低下させることができる。このため、急激な温度変化が生じた場合でも、第1保護膜と第2保護膜との界面、第1、第2保護膜と封止樹脂との界面、金属膜と第1、第2保護膜との界面、および金属膜と封止樹脂との界面での剥離を防ぐことができ、半導体装置の信頼性を向上できる。
【0029】
また、フィラー添加により、第1、第2保護膜の表面に第1、第2フィラーが表出し、表面積が大きくなり、アンカー効果が増大する。これにより、第1、第2保護膜と封止樹脂との接合面積および第1保護膜と第2保護膜との接合面積が大きくなり、密着性が向上する。
【発明の効果】
【0030】
本発明にかかる半導体装置および半導体装置の製造方法によれば、第1保護膜と第2保護膜との界面、および第1、第2保護膜と封止樹脂との界面での剥離を防ぐことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの構成を示す断面図である。
【
図2】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの電極部の構成を示す断面図である。
【
図3】フィラー添加量とフィラーを添加したポリイミド樹脂の線膨張係数との関係を示す表である。
【
図4】フィラー添加量とフィラーを添加したエポキシ樹脂の線膨張係数との関係を示す表である。
【
図5】フィラー添加量と、フィラーを添加したポリイミド樹脂およびフィラーを添加したエポキシ樹脂の線膨張係数との関係を示すグラフである。
【
図6】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの電極部の製造途中の状態を示す断面図である(その1)。
【
図7】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの電極部の製造途中の状態を示す断面図である(その2)。
【
図8】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの電極部の製造途中の状態を示す断面図である(その3)。
【
図9】従来構造のパワー半導体モジュールの電極部の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。
図1は、実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの構成を示す断面図である。
【0033】
(実施の形態)
図1に示すように、パワー半導体モジュール50は、パワー半導体チップ1と、絶縁基板2と、接合材3a、3b、3cと、電極パターン4と、金属基板5と、リードフレーム配線6と、樹脂ケース7と、封止樹脂8と、金属端子9と、金属ワイヤ10と、を備える。
【0034】
パワー半導体チップ1は、IGBTあるいはダイオードチップ等の半導体素子である。絶縁性を確保するセラミック基板等の絶縁基板2のおもて面(パワー半導体チップ1側)および裏面(金属基板5側)には、銅(Cu)板などからなる電極パターン4が設けられている。なお、絶縁基板2の少なくとも片面に電極パターン4が設けられた基板を積層基板12とする。おもて面の電極パターン4上には、はんだなどの接合材3bにてパワー半導体チップ1が接合される。裏面の電極パターン4上には、はんだなどの接合材3cにて放熱フィン(不図示)が設けられた金属基板5が接合される。また、パワー半導体チップ1の上面(接合材3bと接する面と反対側の面)には、電気接続用の配線としてリードフレーム配線6の一端がはんだなどの接合材3aにて接合される。リードフレーム配線6の他端は、接合材3bにて電極パターン4と接合される。なお、パワー半導体チップ1のおもて面電極と電極パターン4等との接続にリードフレームを用いた例を説明しているが、アルミニウムワイヤなどでもよい。その際、ワイヤボンディングでおもて面電極と接合しても良い。しかし、リードフレームを用いた場合はより効果を有する。なお、リードフレームは、導電性の点から銅または銅を主とする銅合金が用いられる。また、ニッケルまたはニッケルを主とするニッケル合金をリードフレームに被覆してもよい。例えばNiP(ニッケルリン)めっきなどである。
【0035】
樹脂ケース7は、パワー半導体チップ1と積層基板12と金属基板5とが積層された積層組立体に組み合わされる。例えば、樹脂ケース7は、積層組立体とシリコンなどの接着剤を介して接着されている。また、樹脂ケース7内部には、積層基板12上のパワー半導体チップ1を絶縁保護するため、エポキシなどの硬質樹脂等の封止樹脂8が充填されている。実施の形態では、封止樹脂8としてエポキシなどの硬質樹脂を用いており、蓋を使用していない。また、金属ワイヤ10がパワー半導体チップ1と金属端子9との間を接続している。金属端子9は樹脂ケース7を貫通して、外部に突き出ている。
【0036】
図2は、実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの電極部の構成を示す断面図である。
図2は
図1の点線で囲まれた部分の拡大図である。
図2に示すように、半導体基板上の半導体素子20(
図1のパワー半導体チップ1に対応)上にエミッタ電極(半導体素子20がIGBTである場合)となるAl電極21(おもて面電極)が設けられている。なお、このおもて面電極はAlのほかAl-Si合金などのAlを主とするAl合金や、金などが用いられる。Al電極21上にポリイミド膜で構成された第1保護膜22が選択的に成膜されている。より具体的には、Al電極21の中央部を露出するようにAl電極21の周囲を囲む第1保護膜層22が形成される。そして、露出しているAl電極21の上に金属層として、Niなどのめっき膜24がめっき法により形成される。めっき法によれば安価で厚い膜(1から10μm)を金属電極上に選択的に形成できるので多く用いられているので、ここでは前記金属層はめっき膜24としているが、めっき膜24に限定されるものではない。また、NiまたはNiP(ニッケルリン)やNiB(ニッケルボロン)などのNi合金でもよく、銅やアルミニウムや金でもよい。また、これらの積層膜でもよい。前記金属層は、素子のAl電極21等のおもて面電極と接続端子との接続のための接合性や強度の観点から設けられ、その合計の膜厚は、1μmから10μmが用いられ、3μmから5μmがより好ましく用いられる。例えば、Niめっき膜の上にさらにAuめっき膜を形成してもよい。Auめっき膜を形成することにより、Niめっき膜を含む電極部を酸化から防止することができ、また、はんだとの濡れ性もよいため好ましい。なお、Niめっき膜の膜厚は、はんだ等による接続および強度の点から1μmから10μmが好ましく、3μmから5μmがより好ましい。また、Auめっき膜の膜厚は、酸化防止と濡れ性、およびコストの点から0.02μmから1μmが好ましく、0.04μmから0.1μmがより好ましい。Niのめっき膜24上に、リードフレーム配線6を接合するためのはんだ25(
図1の接合材3aに対応)が設けられる。また、めっき膜24の周りにめっき膜24と第1保護膜22が接する部分を選択的に覆うようにポリイミド膜で構成された第2保護膜23が設けられる。
【0037】
めっき膜24上に、はんだ25を介して、Al電極21の電位を外部に取り出すリードフレーム配線6が設けられ、パワー半導体モジュールは、封止樹脂8で封止されている。実施の形態では、第1保護膜22および第2保護膜23としてポリイミド膜を例に説明するが、化学的、電気的安定性が高く、他材料との反応性が低く、密着性が弱く、耐熱、絶縁性を有する膜であれば、ポリイミド膜以外の膜でも第1保護膜22および第2保護膜23に使用可能である。また、Al電極21とリードフレーム配線6との接合は、電気的に接続されれば、はんだ以外の接合でも可能である。
【0038】
実施の形態では、第1保護膜22または第2保護膜23に所定の粒径の無機物の第1、第2フィラー26、27が添加されている。第1保護膜22に添加されるフィラーを第1フィラー26、第2保護膜23に添加されるフィラーを第2フィラー27とする。第1保護膜22は、第2保護膜23よりも封止樹脂8と接触する面積が大きいため、少なくとも第1保護膜22に無機物の第1フィラー26が添加されている。また、第1保護膜22および第2保護膜23に無機物の第1、第2フィラー26、27が添加されていることがより好ましい。つまり、第2保護膜にも第2フィラー27が添加されることがより好ましい。無機物の第1、第2フィラー26、27は、線膨張係数の小さな絶縁体、例えば、SiO2、SiCなどから構成されていることが好ましい。
【0039】
ここで、第1、第2フィラー26、27は粒状の形状で、第1、第2フィラー26、27の平均粒径は5nm以上20nm以下であることが好ましい。この範囲であれば、第1保護膜22、第2保護膜層23、封止樹脂8との密着性を向上することができる。第1保護膜層22の膜厚は、電極の厚さから、1μmから30μmであることが好ましく、第1フィラー26の平均粒子径は少なくとも第1保護膜層22の膜厚より小さいことが好ましい。さらに、第1保護膜層22、第2保護膜層23はフォトリソグラフィやインクジェット法などで形成されるが、その際の製造上の観点からも平均粒径は5nm以上20nm以下であることが好ましい。フォトリソグラフィを用いる場合、全面に保護膜用の材料を形成し、所定の箇所以外をエッチャント等で除去する。しかし、その際、フィラーの粒子径が上記範囲より大きいと、リフトオフによってエッチャントで除去されず、残ってしまい不具合を生じる。また、インクジェット法を用いる場合も、フィラーの粒子径が上記範囲より大きいと、ノズル内部やノズル周囲付近にフィラーが固着しやすくなり、精度よく形成することができなくなる。また、第1保護膜22に添加される第1フィラー26の平均粒径をΦ1、第2保護膜23に添加される第2フィラー27の平均粒径をΦ2とすると、Φ1<Φ2であることが好ましい。第1保護膜22は絶縁耐圧(絶縁性)を確保し、電極との密着性を高める必要があるため、第1フィラー26の粒径は小さいことが好ましい。また、第2保護膜23の第2フィラー27はアンカー効果による封止樹脂8との密着性を高めるために、第2フィラー27の粒径は第1フィラー26の粒径より大きいことが好ましい。そして、Φ1<Φ2とすると、第1保護膜層22と第2保護膜層23の密着性が向上する。
【0040】
また、第1保護膜22に添加される第1フィラー26の濃度をn1、第2保護膜23に添加される第2フィラー27の濃度をn2とすると、第1、第2フィラー26、27のアンカー効果により、密着性を向上させるためには、n1>n2の関係を満たすことが好ましい。
【0041】
図3は、フィラー添加量とフィラーを添加したポリイミド樹脂の線膨張係数との関係を示す表である。
図3は、ポリイミド樹脂に添加するフィラー量を10wt%(重量%)~30wt%まで変化させた場合の線膨張係数CTE(単位、10
-6/K)の変化を示す。
【0042】
図4は、フィラー添加量とフィラーを添加したエポキシ樹脂の線膨張係数との関係を示す表である。
図4は、エポキシ樹脂に添加するフィラー量を61wt%~73wt%まで変化させた場合の線膨張係数CTE(単位、10
-6/K)の変化を示す。
【0043】
図5は、フィラー添加量と、フィラーを添加したポリイミド樹脂およびフィラーを添加したエポキシ樹脂の線膨張係数との関係を示すグラフである。
図5では、縦軸は、ポリイミド樹脂またはエポキシ樹脂の線膨張係数CTEを示し、単位は、10
-6/Kである。横軸は、ポリイミド樹脂またはエポキシ樹脂に添加したフィラー量を示し、単位はwt%である。
【0044】
図3~
図5では、フィラーとして、SiO
2から構成され、形状が球状で、平均粒径が10nmのフィラーを用いた。また、ポリイミド樹脂として、感光性ポリイミド(あるいは旭化成株式会社PIMEL(登録商標)(パイメル(登録商標))を用いた。また、エポキシ樹脂として、日立化成株式会社CELを用いた。
【0045】
図3~
図5に示すように、ポリイミド樹脂やエポキシ樹脂にSiO
2のフィラーを添加すると線膨張係数が低下する。Niのめっき膜24の線膨張係数は、ポリイミド樹脂やエポキシ樹脂の線膨張係数より低いため、フィラーを添加することでポリイミド樹脂やエポキシ樹脂の線膨張係数を、Niのめっき膜24の線膨張係数に近くすることができる。これにより、めっき膜24と第1、第2保護膜22、23との界面、およびめっき膜24と封止樹脂8との界面における線膨張係数の違いにより発生する熱応力を低減させることができる。このため、ヒートサイクル試験等でパワー半導体モジュールに、急激な温度変化が生じた場合でも、めっき膜24と第1、第2保護膜22、23との界面およびめっき膜24と封止樹脂8との界面での剥離を防ぐことができる。なお、
図2では、めっき膜24と封止樹脂8とは接してはいないが、リードフレーム配線6が接続されていないところでは、めっき膜24と封止樹脂8とは接している。
【0046】
また、
図5に示すように、添加するSiO
2のフィラー量を調整することで、エポキシ樹脂の線膨張係数を、ポリイミド樹脂の線膨張係数と同程度にすることができる。例えば、
図3および
図4に示すように、ポリイミド樹脂に10wt%のフィラーを添加し、エポキシ樹脂に75.1wt%のフィラーを添加することで、線膨張係数を同程度(α=18.5)にすることができる。
【0047】
これにより、封止樹脂8と第1、第2保護膜22、23との界面における線膨張係数の違いにより発生する熱応力を低減させることができる。このため、ヒートサイクル試験等でパワー半導体モジュールに、急激な温度変化が生じた場合でも、封止樹脂8と第1、第2保護膜22、23との界面での剥離を防ぐことができる。
【0048】
さらに、第1、第2保護膜22、23に無機物の第1、第2フィラー26、27を添加することにより、第1、第2保護膜22、23の表面に第1、第2フィラー26、27が表出し、表面積が大きくなり、アンカー効果が増大する。これにより、第1、第2保護膜22、23と封止樹脂8との接合面積および第1保護膜22と第2保護膜23との接合面積が大きくなり、密着性が向上する。
【0049】
また、無機物の第1、第2フィラー26、27は、エポキシ樹脂などの硬質樹脂から構成される封止樹脂8との密着性がよいため、第1、第2フィラー26、27が添加された第1、第2保護膜22、23と封止樹脂8との密着性が向上する。
【0050】
このように、無機物の第1、第2フィラー26、27が密着性を向上させるため、無機物の第1、第2フィラー26、27により、第1保護膜22と第2保護膜23との界面、および封止樹脂8と第1、第2保護膜22、23との界面で、第1保護膜22と第2保護膜23との剥離を防ぐことができる。
【0051】
また、線膨張係数の違いによる熱応力を低減させるため、第1保護膜22の線膨張係数α1、第2保護膜23の線膨張係数α2、封止樹脂8の線膨張係数α3は、α2>α1>α3の関係を満たすことが好ましい。このため、第1、第2フィラー26、27の密着性を向上させるためには、第1フィラー26の濃度n1と第2フィラー27の濃度n2は、n1>n2の関係を満たすことが好ましい。また、|α2-α3|はα3の20%以下とすることが望ましい。なお、|α2-α3|は、α2とα3の差の絶対値である。さらに、|α2-α1|、|α1-α3|はα1の20%以下、より好ましくはα1の10%以下が好ましい。つまり、2種類の層が接するときは、それぞれの線膨張係数の差が一方の線膨張係数の20%以下、より好ましくは10%以下とすることで熱応力による剥がれを防止することができる。また、リードフレームを用いる場合は、リードフレームの線膨張係数αLFと、封止樹脂の線膨張係数α3についても、|αLF-α3|はα3の20%以下、より好ましくはα1の10%以下が好ましい。
【0052】
(実施の形態にかかる半導体装置の製造方法)
次に、実施の形態にかかる半導体装置の製造方法について、説明する。
図6~
図8は、実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの電極部の製造途中の状態を示す断面図である。まず、従来技術による半導体装置の製造方法と同様に、半導体基板上に半導体素子20を形成する。例えば、半導体装置がIGBTである場合、半導体基板上にエピタキシャル成長によりドリフト層、ベース層を形成し、イオン中でイオンを注入することにより、おもて面にエミッタ領域を形成し、裏面にコレクタ領域を形成する。次に、おもて面に熱酸化等でゲート絶縁膜を選択的に形成する。
【0053】
次に、例えばスパッタ法により、半導体素子のエミッタ領域に電気的に接続されたAl電極21を形成する。次に、例えば、フォトリソグラフィ技術により、Al電極21上に選択的に第1保護膜22を形成する。この際、SiO
2、SiCなどの無機物フィラーが添加された樹脂により、第1保護膜22を形成することで、第1フィラー26が添加された第1保護膜22を形成する。第1保護膜22は、化学的、電気的に安定して、耐熱性および絶縁性に優れた材料から形成する。例えば、第1保護膜22は、例えば、イミド結合を含む高分子樹脂であるポリイミド膜を用いて形成する。ここまでの状態が、
図6に記載される。
【0054】
次に、第1保護膜22をマスクとして用いて、Al電極21上の、第1保護膜22が設けられていない部分に、選択的にめっき膜24を形成する。めっき膜24は、例えば、Niで形成する。
【0055】
次に、例えば、インクジェット法でめっき膜24と第1保護膜22とが隣接する部分を覆うように第2保護膜23を選択的に形成する。第2保護膜23は、第1保護膜22と同じ材料の膜を用いて形成する。この場合も、SiO
2、SiCなどの無機物フィラーが添加された樹脂により、第2保護膜23を形成することで、第2フィラー27が添加された第2保護膜23を形成する。ここまでの状態が、
図7に記載される。
【0056】
次に、第1保護膜22および第2保護膜23をはんだ付け時のマスクとして用いて、めっき膜24にはんだ25を形成する。ここまでの状態が、
図8に記載される。このようにして、パワー半導体チップ1が形成される。
【0057】
図1のパワー半導体モジュールの製造方法は、従来技術によるパワー半導体モジュールと同様である。パワー半導体モジュールの製造方法では、まず、積層基板12にパワー半導体チップ1を実装し、パワー半導体チップ1と、絶縁基板2上に設けられた電極パターン4とを、はんだ25(接合材3b)を介して、リードフレーム配線6で電気的に接続する。次に、これらを金属基板5に接合して、パワー半導体チップ1、積層基板12および金属基板5からなる積層組立体を組み立てる。この積層組立体に樹脂ケース7をシリコンなどの接着剤で接着する。
【0058】
次に、金属ワイヤ10でパワー半導体チップ1と金属端子9との間を接続し、樹脂ケース7内にエポキシなどの硬質樹脂等の封止樹脂8を充填する。これにより、
図1に示す実施の形態にかかるパワー半導体モジュールが完成する。なお、封止樹脂8がエポキシ樹脂等の硬質樹脂でない場合、封止樹脂8が外に漏れないようにするため、蓋を取り付けるようにする。
【0059】
以上、説明したように、実施の形態の半導体装置および半導体装置の製造方法によれば、第1保護膜または第2保護膜にフィラーが添加されている。これにより、第1、第2保護膜、封止樹脂およびめっき膜間での線膨張係数の違いを縮小させ、線膨張係数の違いによる熱応力を低下させることができる。このため、急激な温度変化が生じた場合でも、第1保護膜と第2保護膜との界面、第1、第2保護膜と封止樹脂との界面、めっき膜と第1、第2保護膜との界面、およびめっき膜と封止樹脂との界面での剥離を防ぐことができ、半導体装置の信頼性を向上できる。
【0060】
また、フィラー添加により、第1、第2保護膜の表面に第1、第2フィラーが表出し、表面積が大きくなり、アンカー効果が増大する。これにより、第1、第2保護膜と封止樹脂との接合面積および第1保護膜と第2保護膜との接合面積が大きくなり、密着性が向上する。
【0061】
以上において本発明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であり、上述した各実施の形態において、例えば各部の寸法や不純物濃度等は要求される仕様等に応じて種々設定される。また、上述した各実施の形態では、半導体として、シリコンの他、炭化珪素、窒化ガリウム(GaN)などのワイドバンドギャップ半導体にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上のように、本発明にかかる半導体装置および半導体装置の製造方法は、インバータなどの電力変換装置や種々の産業用機械などの電源装置や自動車のイグナイタなどに使用されるパワー半導体装置に有用である。
【符号の説明】
【0063】
1 パワー半導体チップ
2 絶縁基板
3a、3b、3c 接合材
4 電極パターン
5 金属基板
6、106 リードフレーム配線(外部接続用端子)
7 樹脂ケース
8、108 封止樹脂
9 金属端子
10 金属ワイヤ
12 積層基板
20、120 半導体基板上の半導体素子
21、121 Al電極
22、122 第1保護膜
23、123 第2保護膜
24、124 めっき膜
25、125 はんだ
26 第1フィラー
27 第2フィラー
50 パワー半導体モジュール