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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】ウインチドラム乱巻検出装置
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20240312BHJP
   B66C 13/00 20060101ALI20240312BHJP
   B66D 1/54 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
G06T7/00 350C
B66C13/00 D
B66D1/54 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020020629
(22)【出願日】2020-02-10
(65)【公開番号】P2021128352
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100131152
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100145229
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 雅則
(74)【代理人】
【識別番号】100201352
【弁理士】
【氏名又は名称】豊田 朝子
(72)【発明者】
【氏名】木原 瑞希
【審査官】秦野 孝一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-168697(JP,A)
【文献】特開2018-165926(JP,A)
【文献】国際公開第2019/233635(WO,A1)
【文献】特開2001-118742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00
B66C 13/00
B66D 1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラムに巻かれたワイヤーロープを撮影して画像データを生成する撮像装置と、
前記撮像装置が生成した画像データを分析するニューラルネットワークの学習済モデルを含み、前記ワイヤーロープが前記ドラムに整列して巻かれている正常巻状態であるか、前記ドラムに巻かれた前記ワイヤーロープが整列していない乱巻状態であるかを判定する乱巻判定部と、
を備え
前記乱巻判定部は、
前記画像データから前記ワイヤーロープが前記ドラムに巻かれた状態の潜在変数を取得する圧縮ニューラルネットワークと、
前記圧縮ニューラルネットワークが取得した前記潜在変数から、前記画像データと同じ次元の再生データを生成する復元ニューラルネットワークと、
前記圧縮ニューラルネットワークに入力された前記画像データと、前記復元ニューラルネットワークが生成した前記再生データとを比較して、画像の異なる箇所を検出する比較部と、
を含み、
前記圧縮ニューラルネットワークおよび前記復元ニューラルネットワークは、前記ワイヤーロープが前記ドラムに整列して巻かれている正常巻状態で撮影して生成された画像データを学習データとして、前記画像データと前記再生データの差が定めた範囲に収まるように機械学習させたニューラルネットワークの学習済モデルであり、
前記乱巻判定部は、前記画像データと前記学習済モデルが生成した再生データとの差が定めた範囲を超える場合に、前記画像データが前記乱巻状態であると判定する、
ウインチドラム乱巻検出装置。
【請求項2】
ドラムに巻かれたワイヤーロープを撮影して画像データを生成する撮像装置と、
前記撮像装置が生成した画像データを分析するニューラルネットワークの学習済モデルを含み、前記ワイヤーロープが前記ドラムに整列して巻かれている正常巻状態であるか、前記ドラムに巻かれた前記ワイヤーロープが整列していない乱巻状態であるかを判定する乱巻判定部と、
を備え、
前記乱巻判定部は、
前記ワイヤーロープが前記ドラムに整列して巻かれている正常巻状態の画像データ、および、前記ドラムに巻かれた前記ワイヤーロープが整列していない乱巻状態の画像データ、を学習データとしてニューラルネットワークに機械学習させた、前記画像データを前記正常巻状態と前記乱巻状態とに分類するニューラルネットワークの学習済モデル
を含み、
前記ニューラルネットワークの学習済モデルは、前記撮像装置が生成した画像データが、ロープ隙間、乗り上げ、多重乗り上げ、および、ロープ緩みを含む乱巻の各状態、ならびに前記正常巻状態、のそれぞれに分類される確率を出力し、
前記乱巻判定部は、前記学習済モデルが出力したそれぞれに分類される確率から、前記画像データが前記正常巻状態であるか前記乱巻状態であるかを判定する、
ウインチドラム乱巻検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウインチのドラムに巻かれたワイヤーロープが整列してない乱巻状態を検出するウインチドラム乱巻検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クレーンの荷を吊るワイヤーロープには大きな張力がかかるので、ドラムに巻かれたワイヤーロープが整列していない乱巻状態で運転を続けると、ワイヤーロープが損傷し極めて危険である。そこで、乱巻状態を検出する方法が提案されている。
【0003】
特許文献1には、移動式クレーンの監視カメラの表示制御装置が記載されている。特許文献1の表示制御装置では、上部旋回体の後方や運転室の反対側方などの死角となる部署や、ウインチドラムの乱巻状態を監視するために複数個の監視カメラを設けている。そして、運転室に1個のモニターを設けて各監視カメラからの画像を切り換えて表示している。
【0004】
特許文献2のロープ乱巻検出装置は、巻取ドラムに加工したロープ溝にロープを巻き込むロープ巻取装置において、送り方向を巻取ドラムと平行にして設けたねじ送り装置と、巻取ドラムとねじ送り装置との間に設けられ、ロープ巻き取り繰り出し時のロープの水平速度と同じ速度を被送り体に与える減速比を有する動力伝達装置と、ねじ送り装置の送りねじ部に被送り体として設けたボスと、ボスに設けたロープ検出器とを備えた構成を有し、ロープ溝に巻き込まれて水平移動するロープの水平移動速度と同じ速度でロープ検出器を移動させ、ロープ溝から外れてロープの水平速度に変化を生じると、ロープがロープ検出器の中心から外れてロープ検出器が乱巻き状態になりはじめたことを検出する。
【0005】
特許文献3の乱巻検知装置は、軸心方向両端部にロープが対称的に巻回される巻上ドラムの外周面に検知バーが対向し、ロープの段巻きに伴って該検知バーが巻上ドラムの外周面から離反して乱巻を検知する巻上ドラムの乱巻検知装置であって、ロープの巻回されない巻上ドラムの中央部と、該巻上ドラム中央部に対向する検知バー中央部との間隔が、ロープ径よりも小さくなるように、検知バー中央部が、該中央部を挟む両端部よりも大径とされていることを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-137035号公報
【文献】特開昭58-6892号公報
【文献】特開平04-129997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の監視カメラの画像を運転室のモニターに表示する方法では、オペレータが目視でワイヤーロープの巻き取り状態を判断する。オペレータは常にウインチドラムの画像を見ているわけではないので、乱巻状態の発生を見逃す可能性がある。
【0008】
特許文献2のロープ乱巻検出装置および特許文献3の乱巻検知装置は、機械的作用でスイッチを作動させて乱巻を検知する。しかし、いずれの装置でもワイヤーロープはドラム上に1層しか巻かれないことが前提である。ドラム上にワイヤーロープが多層に巻かれる揚程の大きいクレーンには、特許文献の乱巻検出装置を適用することができない。
【0009】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたもので、ドラムに巻かれるワイヤーロープの層数によらずに、乱巻が発生したことを検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の観点に係るウインチドラム乱巻検出装置は、
ドラムに巻かれたワイヤーロープを撮影して画像データを生成する撮像装置と、
前記撮像装置が生成した画像データを分析するニューラルネットワークの学習済モデルを含み、前記ワイヤーロープが前記ドラムに整列して巻かれている正常巻状態であるか、前記ドラムに巻かれた前記ワイヤーロープが整列していない乱巻状態であるかを判定する乱巻判定部と、
を備え
前記乱巻判定部は、
前記画像データから前記ワイヤーロープが前記ドラムに巻かれた状態の潜在変数を取得する圧縮ニューラルネットワークと、
前記圧縮ニューラルネットワークが取得した前記潜在変数から、前記画像データと同じ次元の再生データを生成する復元ニューラルネットワークと、
前記圧縮ニューラルネットワークに入力された前記画像データと、前記復元ニューラルネットワークが生成した前記再生データとを比較して、画像の異なる箇所を検出する比較部と、
を含み、
前記圧縮ニューラルネットワークおよび前記復元ニューラルネットワークは、前記ワイヤーロープが前記ドラムに整列して巻かれている正常巻状態で撮影して生成された画像データを学習データとして、前記画像データと前記再生データの差が定めた範囲に収まるように機械学習させたニューラルネットワークの学習済モデルであり、
前記乱巻判定部は、前記画像データと前記学習済モデルが生成した再生データとの差が定めた範囲を超える場合に、前記画像データが前記乱巻状態であると判定する
【0012】
本発明の第2の観点に係るウインチドラム乱巻検出装置は、
ドラムに巻かれたワイヤーロープを撮影して画像データを生成する撮像装置と、
前記撮像装置が生成した画像データを分析するニューラルネットワークの学習済モデルを含み、前記ワイヤーロープが前記ドラムに整列して巻かれている正常巻状態であるか、前記ドラムに巻かれた前記ワイヤーロープが整列していない乱巻状態であるかを判定する乱巻判定部と、
を備え、
前記乱巻判定部は、
前記ワイヤーロープが前記ドラムに整列して巻かれている正常巻状態の画像データ、および、前記ドラムに巻かれた前記ワイヤーロープが整列していない乱巻状態の画像データ、を学習データとしてニューラルネットワークに機械学習させた、前記画像データを前記正常巻状態と前記乱巻状態とに分類するニューラルネットワークの学習済モデル
を含み、
前記ニューラルネットワークの学習済モデルは、前記撮像装置が生成した画像データが、ロープ隙間、乗り上げ、多重乗り上げ、および、ロープ緩みを含む乱巻の各状態、ならびに前記正常巻状態、のそれぞれに分類される確率を出力し、
前記乱巻判定部は、前記学習済モデルが出力したそれぞれに分類される確率から、前記画像データが前記正常巻状態であるか前記乱巻状態であるかを判定する
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ドラムに巻かれたワイヤーロープを撮影した画像データを分析するニューラルネットワークの学習済モデルを含み、ワイヤーロープが正常巻状態であるか乱巻状態であるかを判定するので、ドラムに巻かれるワイヤーロープの層数によらずに、乱巻が発生したことを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態に係るウインチドラム乱巻検出装置の構成を示すブロック図
図2】実施の形態1に係る画像分析部の機能構成を示すブロック図
図3】実施の形態1に係るニューラルネットワークの例を示す図
図4】ワイヤーロープがドラムに整列して巻かれている正常巻状態を示す図
図5】ドラムに巻かれたワイヤーロープにロープ隙間が発生した状態を示す図
図6】ドラムに巻かれたワイヤーロープに乗り上げが発生した状態を示す図
図7】ドラムに巻かれたワイヤーロープに多重乗り上げが発生した状態を示す図
図8】ドラムに巻かれたワイヤーロープにロープ緩みが発生した状態を示す図
図9】実施の形態2に係るニューラルネットワークの例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお図中、同一または同等の部分には同一の符号を付す。
【0017】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態に係るウインチドラム乱巻検出装置の構成を示すブロック図である。ウインチドラム乱巻検出装置1は、ウインチのドラム2に巻かれたワイヤーロープ3が整列していない乱巻状態の場合に、乱巻状態であることを検出する。ドラム2に巻かれたワイヤーロープ3は、図示しないガイドシーブおよびトップシーブを経由して、荷を吊るフックに伸びている。図1では、ドラム2が断面で表されている。
【0018】
ウインチドラム乱巻検出装置1は、ドラム2に巻かれたワイヤーロープ3を撮影して画像データを生成する撮像装置10と、撮像装置10が生成した画像データから、ドラム2に巻かれたワイヤーロープ3が乱巻状態であるか正常巻状態であるかを判定する乱巻判定部11と、を備える。撮像装置10が撮影するワイヤーロープ3の画像は、ドラム2のどの位置でもよいが、乱巻を早く検出するためには、ワイヤーロープ3が巻き取られるドラム2上の巻き取り位置4を画像に含むことが望ましい。撮像装置10は、ドラム2のどの位置で乱巻が発生しても検出できるように、ドラム2の軸方向全長を撮影できることが望ましい。
【0019】
乱巻判定部11は、画像取得部12、画像分析部13、判定部14、および報知部15を備える。画像取得部12は、撮像装置10が生成した画像データを取得する。撮像装置10は、ドラム2に巻かれたワイヤーロープ3を撮影して、例えば、1秒間に30フレームの画像データを生成するが、画像取得部12はそのうち、ドラム2が1回転する間に、互いに一部が重複してドラム2の全周をカバーする複数の画像データを取り込む。画像取得部12は、ドラム2が一定角度、例えば90°回転するごとに画像データを取り込み、ドラム2が1回転する間に一定枚数、例えば4枚の画像データを取得する。
【0020】
撮像装置10は、静止画像を撮影するカメラでもよい。その場合、画像取得部12は、ドラム2の回転に合わせて撮像指令を撮像装置10に送り、撮像装置10からその時の画像データを取得する。画像取得部12が取得する画像データは、ドラム2の回転に同期していなくてもよい。例えば、ドラム2が最大回転速度で回転する場合に、ドラム2が1回転する間に、互いに一部が重複してドラム2の全周をカバーする複数の画像データを取り込む速さの一定周期で、画像データを取得してもよい。
【0021】
画像分析部13は、画像データを分析するニューラルネットワークの学習済モデルを含み、ドラム2に巻かれたワイヤーロープ3の巻き取り状態を分析する。画像取得部12または画像分析部13は、画像データを分析する前に、画素の平均輝度、最大輝度、および最小輝度がそれぞれ画像データの間で同じ値になるように画像データを正規化してもよい。判定部14は、画像分析部13の分析に基づいて、乱巻状態であるか正常巻状態であるかを判定し、乱巻状態であると判定した場合に、乱巻状態であることを報知部15に伝える。
【0022】
報知部15は、判定部14から乱巻状態であることが伝えられると、オペレータに乱巻が発生したことを報知する。報知部15は、例えば、警報器を鳴動させたり、警告灯を点灯もしくは点滅させたり、表示装置に乱巻状態であることを表示させたりする。報知部15は報知に替えて、または、報知に加えて、図示しない制御装置に指令して、ウインチドラムの作動を停止させてもよい。
【0023】
乱巻判定部11は、I/Oインターフェース、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)を備える。CPUは、例えばマイクロプロセッサ等であって、様々な処理や演算を実行する中央演算処理部である。乱巻判定部11は、ROMに記憶されている制御プログラムを読み出して、RAMをワークメモリとして用いながら、CPUで制御プログラムを実行させることによって、画像取得部12、画像分析部13、判定部14、および、報知部15の動作を行う。
【0024】
図2は、実施の形態1に係る画像分析部の機能構成を示すブロック図である。実施の形態1では、画像分析部13は、圧縮ニューラルネットワーク16、復元ニューラルネットワーク17、および、比較部18を備える。
【0025】
圧縮ニューラルネットワーク16は、画像データから確率分布を使って潜在変数を取得する。潜在変数は、例えば、ワイヤーロープ3の巻き径、ワイヤーロープ3の1層の巻き数、巻き取り位置4の移動方向(左から右か、右から左か)、ワイヤーロープ3の巻き位置(ドラム端からの本数)、ワイヤーロープ3の接触角、ワイヤーロープ3の径、ドラム2の長さ(フランジ間隔)、および、フランジ直径までの巻き取り可能な残り層数、または、それらを組み合わせた変数である。
【0026】
復元ニューラルネットワーク17は、圧縮ニューラルネットワーク16が取得した潜在変数から、画像データと同じ次元の再生データを生成する。比較部18は、圧縮ニューラルネットワーク16に入力された画像データと、復元ニューラルネットワーク17が生成した再生データとを比較して、画像の異なる箇所を検出する。
【0027】
図3は、実施の形態1に係るニューラルネットワークの例を示す図である。圧縮ニューラルネットワーク16および復元ニューラルネットワーク17は、それぞれ人工ニューロン(以下、単にニューロンという)から構成されるノードを含む入力層もしくは出力層、および中間層、ならびに、互いに隣接する層の間でノードを相互に接続するエッジから構成される。中間層は、1層以上のn層を含む。入力層の各ノードi(i=1...k)には、画像データのそれぞれの画素値xが入力される。中間層では、それぞれ前の層の出力が結合され活性化関数で演算された結果が後の層に伝達されて、最終的に出力層の各ノードj(j=1...k)から再生データの画素値zが出力される。
【0028】
圧縮ニューラルネットワーク16は、畳み込み層とプーリング層を繰り返すことにより、入力層に入力された画像データx~xの特徴を圧縮して、潜在変数y~yを得る。復元ニューラルネットワーク17は、潜在変数y~yから逆に、データの分布を確率として、分布法則に従った確率モデルで、画像データx~xと同じ次元の再生データz~zを生成し、出力層から出力する。
【0029】
圧縮ニューラルネットワーク16および復元ニューラルネットワーク17は、ワイヤーロープ3がドラム2に整列して巻かれている正常巻状態で撮影して生成された画像データを学習データとして、画像データと再生データの差が定めた範囲に収まるように機械学習させておく。機械学習させる画像データは、少なくとも、ワイヤーロープ3がドラム2に2層以上に巻かれている場合の正常巻状態の画像データを含む。学習用の画像データは、ワイヤーロープ3がドラム2に1層しか巻かれていない場合の正常巻状態を含むことが望ましい。
【0030】
比較部18は、画像データと再生データを対応する画素ごとに比較して、画素値の差が閾値以上の相違画素を抽出する。相違画素を復元誤差として、誤差逆伝播(バックプロパゲーション)により、圧縮ニューラルネットワーク16および復元ニューラルネットワーク17の重みを調節する。
【0031】
例えば、相違画素の数が規定の数以下で、かつ、相違画素間の最小距離が規定以上になるように、圧縮ニューラルネットワーク16および復元ニューラルネットワーク17を機械学習させる。圧縮ニューラルネットワーク16および復元ニューラルネットワーク17は、ニューラルネットワークの学習済モデルである。
【0032】
画像分析部13は、図3に示すニューラルネットワークの学習済モデルを用いて、画像データから再生データを生成する。圧縮ニューラルネットワーク16および復元ニューラルネットワーク17は、正常巻状態の画像データで機械学習されているので、ドラム2に巻かれたワイヤーロープ3が整列していない乱巻状態の画像データから得られる潜在変数でも、ワイヤーロープ3がドラム2に整列して巻かれている正常巻状態の再生データを生成する。正常巻状態の画像データでは、画像データと再生データとの差が規定以下であるが、乱巻状態の画像データでは、再生データが正常巻状態になるので、画像データと再生データとの差が規定より大きくなる。
【0033】
比較部18は、画像データと再生データを対応する画素ごとに比較して、画素値の差が閾値以上の相違画素を抽出する。比較部18は、抽出した相違画素を判定部14に送る。判定部14は、画像データと再生データとを比較し、閾値より大きい差がある場合に異常と判定する。判定部14は、例えば、相違画素の数が定めた数を超え、さらに、画像の中で定めた大きさの範囲に偏在している場合に、2つの画像に相違があると判断し、画像データが乱巻状態であると判定する。
【0034】
図4は、ワイヤーロープがドラムに整列して巻かれている正常巻状態を示す図である。正常巻状態では、ワイヤーロープ3は巻き取り位置4で常に、直前に巻かれたワイヤーロープ3と、下層のワイヤーロープ3またはドラム2の側面に接している。巻き取り位置4は、例えば左のフランジから右のフランジに向かって順次移動し、巻き取り位置4が右のフランジに達すると、直前に巻かれたワイヤーロープ3に乗り上げて、巻き取り位置4が右のフランジから左のフランジに向かって順次移動する。巻き取り位置4の移動を左右交互に繰り返して、ワイヤーロープ3はドラム2に多層に巻かれる。
【0035】
図5は、ドラムに巻かれたワイヤーロープにロープ隙間が発生した状態を示す図である。ロープ隙間5とは、巻き取り位置4で直前に巻かれたワイヤーロープ3に接しないで、隣り合うワイヤーロープ3の間に隙間を生じる状態である。ロープ隙間5が生じた状態で、ワイヤーロープ3の巻き取りを続けると、上の層のワイヤーロープ3がロープ隙間5に落ち込み、ワイヤーロープ3が損傷する。ロープ隙間5は乱巻状態の一種である。比較部18では、ロープ隙間5の部分が相違画素として検出される。
【0036】
図6は、ドラムに巻かれたワイヤーロープに乗り上げが発生した状態を示す図である。ワイヤーロープ3の乗り上げ6とは、ドラム2の中間で直前に巻かれたワイヤーロープ3の上にワイヤーロープ3が乗り上げた状態である。乗り上げたワイヤーロープ3は、乗り上げた箇所で通常より大きな力がかかり、またドラム2の軸方向に規制されないので、ロープ隙間5を生じたり、さらに乗り上げ6を発生させる。比較部18では、乗り上げた部分が相違画素として検出される。ドラム2の端では、フランジに接するワイヤーロープ3にフランジで折り返されたワイヤーロープ3が乗り上げるのは正常なので、乱巻の乗り上げ6ではない。
【0037】
図7は、ドラムに巻かれたワイヤーロープに多重乗り上げが発生した状態を示す図である。多重乗り上げ7とは、ドラム2の端でフランジに接するワイヤーロープ3にフランジで折り返されて乗り上げたワイヤーロープ3に、さらにワイヤーロープ3が乗り上げた状態である。ドラム2の中間でも多重乗り上げ7が発生することがあり得るが、多重乗り上げ7の前に乗り上げが発生している。多重乗り上げ7では、乗り上げられたワイヤーロープ3が乗り上げたワイヤーロープ3の張力を支えきれずに一気に下の層に崩れ、その衝撃でワイヤーロープ3が損傷する。あるいは、ワイヤーロープ3がフランジを乗り越えて、脱索することがある。比較部18では、多重乗り上げ7の部分が相違画素として検出される。
【0038】
図8は、ドラムに巻かれたワイヤーロープにロープ緩みが発生した状態を示す図である。ロープ緩み8は、ドラム2に巻かれたワイヤーロープ3の上の層と下の層の間に隙間が生じた状態である。ワイヤーロープ3を送り出して荷を下降させているときに、荷が着地してからさらにドラム2を送り出し方向に回転させた場合に発生する。ロープ緩み8が発生すると、緩んだワイヤーロープ3は、下の層との摩擦がなく、ドラム2の軸方向に規制されないので、ロープ隙間5を生じ、ロープ緩み8の状態でワイヤーロープ3を巻き取ると、ロープ隙間5や乗り上げ6を生じる。比較部18では、ロープ緩み8の部分が相違画素として検出される。
【0039】
判定部14はさらに、相違画素の配列を認識して、乱巻の各状態であるロープ隙間5、乗り上げ6、多重乗り上げ7、およびロープ緩み8を判別してもよい。
【0040】
実施の形態1のウインチドラム乱巻検出装置1によれば、正常巻状態の画像データで画像データと再生データの差が小さくなるように機械学習させた圧縮ニューラルネットワーク16および再生ニューラルネットワークを用いて、画像データと再生データの差が定めた範囲を超える場合に、画像データが乱巻状態であると判定するので、ドラム2に巻かれるワイヤーロープ3の層数によらずに、乱巻が発生したことを検出することができる。実施の形態1では、正常巻状態の画像データで機械学習させるので、乱巻状態の画像データがなくてもウインチドラム乱巻検出装置1を実現することができる。
【0041】
実施の形態2.
図9は、実施の形態2に係るニューラルネットワークの例を示す図である。実施の形態2でも、ウインチドラム乱巻検出装置1は、図1に示されるように、撮像装置10および乱巻判定部11から構成され、乱巻判定部11は、画像取得部12、画像分析部13、判定部14および報知部15を備える。実施の形態2では、画像分析部13は、画像データを乱巻状態の各状態、すなわち例えば、ロープ隙間5、乗り上げ6、多重乗り上げ7、および、ロープ緩み8の各状態と、正常巻状態とに分類する分類ニューラルネットワーク19である。
【0042】
分類ニューラルネットワーク19は、それぞれ人工ニューロン(以下、単にニューロンという)から構成されるノードを含む入力層、中間層および出力層、ならびに、互いに隣接する層の間でノードを相互に接続するエッジから構成される。中間層は、1層以上のn層を含む。入力層の各ノードi(i=1...k)には、画像データのそれぞれの画素値xiが入力される。中間層では、それぞれ前の層の出力が結合され活性化関数で演算された結果が後の層に伝達されて、最終的に出力層に出力される。中間層で、畳み込み層とプーリング層を繰り返すことにより、画像データを乱巻状態の各状態と正常巻状態に分類する。出力層は、乱巻状態の各状態と正常巻状態の数のノードを有し、ノードj(j=1...M)はそれぞれ、画像データが状態jに分類される確率pjを出力する。
【0043】
分類ニューラルネットワーク19には、乱巻状態の各状態および正常巻状態に分類されている複数の画像データを入力し、画像データが分類されている状態と、分類ニューラルネットワーク19の出力との差をバックプロパゲーションして各パラメータを調整することで、機械学習させておく。機械学習させる画像データは、少なくとも、ワイヤーロープ3がドラム2に2層以上に巻かれている場合の乱巻状態の各状態および正常巻状態の画像データを含む。学習に用いる画像データは、ワイヤーロープ3がドラム2に1層しか巻かれていない場合の乱巻状態の各状態および正常巻状態を含むことが望ましい。
【0044】
乱巻判定部11は、分類ニューラルネットワーク19の学習済みモデルに画像データを入力し、分類ニューラルネットワーク19の出力である確率が最も大きいノード、すなわち最も確からしい状態を、画像データが分類されるべき状態と判定する。判定部14は、画像分析部13としての分類ニューラルネットワーク19の出力である各状態に分類される確率から、画像データが正常巻状態であるか乱巻状態であるかを判定する。
【0045】
判定部14は、乱巻状態であると判定した場合に、乱巻状態であることを報知部15に伝える。報知部15は、判定部14から乱巻状態であることが伝えられると、オペレータに乱巻が発生したことを報知する。報知部15は、例えば、警報器を鳴動させたり、警告灯を点灯もしくは点滅させたり、表示装置に乱巻状態であることを表示させたりする。報知部15は報知に替えて、または、報知に加えて、図示しない制御装置に指令して、ウインチドラムの作動を停止させてもよい。
【0046】
分類ニューラルネットワーク19は、正常巻状態を複数の状態に分類してもよい。例えば、ワイヤーロープ3の巻き取り位置4がドラム2の左端にある状態、巻き取り位置4がドラム2の中間で左から右に移動している状態、巻き取り位置4がドラム2の中間で右から左に移動している状態、ならびに、巻き取り位置4がドラム2の右端にある状態に、正常巻状態を分類することができる。
【0047】
実施の形態2のウインチドラム乱巻検出装置1によれば、乱巻状態の各状態および正常巻状態の画像データで機械学習させたニューラルネットワークの学習済モデルを用いて、画像データを分類するので、ドラム2に巻かれるワイヤーロープ3の層数によらずに、乱巻が発生したことを検出することができる。実施の形態2では、さらに、乱巻状態のいずれであるかを分類して検出することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 ウインチドラム乱巻検出装置
2 ドラム
3 ワイヤーロープ
4 巻き取り位置
5 ロープ隙間
6 乗り上げ
7 多重乗り上げ
8 ロープ緩み
10 撮像装置
11 乱巻判定部
12 画像取得部
13 画像分析部
14 判定部
15 報知部
16 圧縮ニューラルネットワーク
17 復元ニューラルネットワーク
18 比較部
19 分類ニューラルネットワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9