(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】伸線装置
(51)【国際特許分類】
B21C 1/00 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
B21C1/00 P
(21)【出願番号】P 2020023791
(22)【出願日】2020-02-14
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前川 太志
(72)【発明者】
【氏名】山内 祐人
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-124629(JP,A)
【文献】特開平01-252315(JP,A)
【文献】特開2010-201478(JP,A)
【文献】実公平03-031460(JP,Y2)
【文献】特開昭52-014563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 1/00 - 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料よりなる線材の表層部を除去する皮削部と、
前記皮削部の下流に設けられ、前記皮削部で表層部の除去を受けた前記線材を伸線する伸線部と、
前記伸線部の下流に設けられ、前記皮削部および前記伸線部を連続的に通過させて、前記線材を牽引する第一の動力部と、
前記皮削部と前記伸線部の間に設けられ、前記線材に面接触して、前記線材を、
巻き取ることなく、線状に維持したまま、前記皮削部から前記伸線部に向かって送る第二の動力部と、を有
し、
前記線材を上流から下流へと移動させる動力源として、前記第一の動力部のみを用いた場合には、前記伸線部を通過する際に前記線材に印加される引張荷重の方が、前記皮削部を通過する際に前記線材に印加される引張荷重よりも大きくなることを特徴とする伸線装置。
【請求項2】
前記第二の動力部は、1対のローラチェーンによって、前記線材を対向する方向から挟み込み、前記ローラチェーンの運動によって、前記線材を前記皮削部から前記伸線部に向かって送るチェーン搬送装置であることを特徴とする請求項1に記載の伸線装置。
【請求項3】
前記第二の動力部と、前記皮削部または前記伸線部との間に、前記線材が前記皮削部から前記伸線部に到着するまでの時間に変調を与えることができる速度変調部を有することを特徴とする請求項1または2に記載の伸線装置。
【請求項4】
前記速度変調部は、前記線材に、可逆的に余長を設けることにより、前記線材が前記皮削部から前記伸線部に到着するまでの時間に変調を与えることを特徴とする請求項3に記載の伸線装置。
【請求項5】
前記速度変調部は、
ダンサロール装置よりなることを特徴とする請求項4に記載の伸線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸線装置に関し、さらに詳しくは、金属材料よりなる線材の表層部を除去するとともに伸線を行う伸線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材等、金属材料よりなる線材に対して、歪みの付与等を目的として、伸線加工が行われるが、伸線加工を行う前の段階で、表層部の組織を除去する皮削等の処理が行われることも多い。このように、線材の皮削や伸線等の加工を段階的に行うに際し、各段階の加工を行うたびに線材をコイル状に巻き取る形態が一般的であるが、巻き取りを経るたびに、線材の表面に傷が形成される可能性がある。特に、皮削によって傷を除去した後に、金属材料の巻き取りや別の装置への運搬等によって新たな傷が形成されると、皮削によって得られた傷の少ない線材表面の状態が損なわれてしまう。
【0003】
そこで、皮削後の線材の巻き取りによる傷の発生を避けることができる伸線装置として、皮削と伸線を連続的に行うことができる鋼材伸線装置が、特許文献1に開示されている。特許文献1においては、線材として形成された鋼材を、所定の移動速度で軸線に沿って移動させながら、鋼材を伸線し、鋼材に塑性加工を行う伸線部と、鋼材の表層部を除去して、上記の移動速度と等しい速度で伸線部に供給する皮削部と、を有する鋼材伸線装置としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1においては、皮削部における皮削と、伸線部における伸線を連続して行うために、伸線部の下流に設けた鋼材巻き取り装置によって、線材を巻き取って軸線方向に移動させ、皮削部と伸線部を順に通過させている。皮削部と伸線部のそれぞれにおいて、線材に抵抗が発生するため、特許文献1に記載されるように、共通の鋼材巻き取り装置によって伸線部の下流から線材を牽引し、皮削部と伸線部の両方に線材を通過させる場合には、線材が伸線部を通過する際に線材に印加される引張荷重が、皮削部を通過する際に印加される引張荷重よりも大きくなりやすい。すると、皮削部と伸線部の間で、線材を軸線方向の両側に引張る張力が、線材に印加される。
【0006】
このように、皮削部と伸線部の間で、線材に張力が印加されると、線材に負荷が生じてしまう。特に、線材の径が細く、伸線部における伸線時の抵抗と、皮削部における皮削時の抵抗の和よりも、材料強度が低い場合には、皮削部と伸線部の間で、線材が引き伸ばされ、線径の減少(引き細り)や、断線が発生する可能性がある。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、金属材料よりなる線材の皮削と伸線を行うに際し、皮削部と伸線部の間での線材の引き細りや断線を避けながら、皮削と伸線を連続的に行うことができる伸線装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明にかかる伸線装置は、金属材料よりなる線材の表層部を除去する皮削部と、前記皮削部の下流に設けられ、前記皮削部で表層部の除去を受けた前記線材を伸線する伸線部と、前記伸線部の下流に設けられ、前記皮削部および前記伸線部を連続的に通過させて、前記線材を牽引する第一の動力部と、前記皮削部と前記伸線部の間に設けられ、前記線材に面接触して、前記線材を、線状に維持したまま、前記皮削部から前記伸線部に向かって送る第二の動力部と、を有するものである。
【0009】
ここで、前記第二の動力部は、1対のローラチェーンによって、前記線材を対向する方向から挟み込み、前記ローラチェーンの運動によって、前記線材を前記皮削部から前記伸線部に向かって送るチェーン搬送装置であるとよい。
【0010】
また、前記伸線装置は、前記第二の動力部と、前記皮削部または前記伸線部との間に、前記線材が前記皮削部から前記伸線部に到着するまでの時間に変調を与えることができる速度変調部を有するとよい。この場合に、前記速度変調部は、前記線材に、可逆的に余長を設けることにより、前記線材が前記皮削部から前記伸線部に到着するまでの時間に変調を与えるものであるとよい。さらに、前記速度変調部は、ダンサロール装置よりなるとよい。
【発明の効果】
【0011】
上記発明にかかる伸線装置は、伸線部の下流に設けられ、皮削部と伸線部を順に通過させて線材を牽引する第一の動力部に加えて、皮削部と伸線部の間に設けられ、線材を皮削部から伸線部に向かって送る第二の動力部を有している。第一の動力部のみで線材を牽引するとすれば、皮削部と伸線部の間で線材に張力が発生し、引き細りや断線が起こる可能性があるが、第二の動力部によって、皮削部から伸線部に向かう力を線材に印加することで、皮削部と伸線部の間の線材に印加される張力を低減し、引き細りや断線につながりうる負荷が線材に印加されるのを、抑制することができる。特に、第二の動力部が、線材に面接触して、線材を皮削部から伸線部に送るものであることで、線材に与える負荷を小さく抑え、また線材への傷等の形成を抑えながら、線材を効果的に皮削部から伸線部に向かって送ることができる。
【0012】
ここで、第二の動力部が、1対のローラチェーンによって、線材を対向する方向から挟み込み、ローラチェーンの運動によって、線材を皮削部から伸線部に向かって送るチェーン搬送装置である構成によれば、簡素な構成により、線材に面接触して、線材を皮削部から伸線部に送る形態の第二の動力部を設けることができる。
【0013】
また、伸線装置が、第二の動力部と、皮削部または伸線部との間に、線材が皮削部から伸線部に到着するまでの時間に変調を与えることができる速度変調部を有する場合には、第一の動力部と第二の動力部での線材の移動速度の差や、皮削部における皮削の速度と伸線部における伸線の速度との間に差が生じた場合でも、それらの速度の差を速度変調部によって吸収し、皮削部と伸線部による線材の連続加工を、安定して継続することができる。
【0014】
この場合に、速度変調部が、線材に、可逆的に余長を設けることにより、線材が皮削部から伸線部に到着するまでの時間に変調を与えるものである構成によれば、線材が皮削部から伸線部に到着するまでの時間に対して、効果的に変調を与えることができる。また、変調の有無を、伸線装置の状態等に応じて選択することができる。
【0015】
さらに、速度変調部が、ダンサロール装置よりなる場合には、簡素な構成により、速度変調部を伸線装置に設けることができる。また、余長の形成の有無や形成する余長の大きさの変更によって、速度変調の有無や程度を、簡便に選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる伸線装置の概略を示す図である。
【
図2】上記伸線装置に設置可能な
ダンサロール装置の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施形態にかかる伸線装置について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
本実施形態にかかる伸線装置において加工の対象とするのは、金属材料よりなる長尺状の線材である。対象となる金属材料は特に限定されるものではないが、鋼材、特に、伸線によって歪みを付与することで、硬さ等、材料特性を向上させられる鋼材であることが好ましい。
【0019】
[伸線装置の概要]
図1に、本実施形態にかかる伸線装置1の概略を示す。伸線装置1は、線材Wを、軸線に沿った移動方向Dに、上流から下流へと移動させながら、線材Wに対して、加工を施す。伸線装置1は、線材Wに対して加工を施す装置として、上流側から、皮削部30と、伸線部50と、を有する。皮削部30においては、線材Wの表層部を除去する皮削を行い、表層部に形成された傷や、酸化物等のスケールを除去する。伸線部50においては、皮削部30で皮削を受けた線材Wを伸線する。
【0020】
さらに、伸線装置1は、伸線部50の下流に、第一の動力部としての線材巻き取り装置80を有するとともに、皮削部30と伸線部50の間に、第二の動力部として、チェーン搬送装置40を有している。線材巻き取り装置80およびチェーン搬送装置40は、線材Wを移動方向Dに移動させる動力源として機能する。
【0021】
本実施形態にかかる伸線装置1は、チェーン搬送装置40を有することを除き、特許文献1に開示された鋼材伸線装置と同様の構成を有するものとすることができる。以下に、その全体構成について簡単に説明する。
【0022】
伸線装置1は、上記の伸線部50および皮削部30、また線材巻き取り装置80およびチェーン搬送装置40に加え、線材Wの加工および移動を補助する各種部材を備えることが好ましい。
図1に示した伸線装置1に備えられている装置は、上流側から順に、線材供給装置10、通線装置20、皮削部30、チェーン搬送装置40、伸線部50、検査部70、線材巻き取り装置80となっている。
【0023】
伸線装置1において、線材Wは、線材巻き取り装置80によって、移動方向Dに移動される。コイル状に巻かれて線材供給装置10に設置された線材Wが、伸線装置1の各部を通過して、線材巻き取り装置80において、再度コイル状に巻き取られる。この線材巻き取り装置80による巻き取り操作によって、線材Wは、移動方向Dの上流から下流に向かう張力を受け、移動方向Dに沿って牽引され、皮削部30および伸線部50を含む各構成装置を連続的に通過する。線材供給装置10は、線材巻き取り装置80による牽引によって線材Wを受動的に繰り出す。
【0024】
線材供給装置10から線材巻き取り装置80に向かって、移動方向Dに沿って線材Wが牽引される経路の途中に、チェーン搬送装置40が設けられている。チェーン搬送装置40は、線材Wを皮削部30から伸線部50に向かって送り、移動方向Dに沿った線材Wの移動を補助する。チェーン搬送装置40の構成と動作については、後に詳しく説明する。
【0025】
通線装置20は、ピンチロール21および矯正ロール22を備え、線材供給装置10においてコイル状に巻かれていた線材Wを直線状に矯正したうえで、皮削部30に供給する役割を果たす。
【0026】
皮削部30は、上記のように、線材Wの表層部を除去し、表層部に形成された傷やスケールを除くものである。皮削部30は、フライスカッター等のカッターを備え、線材Wの表層部の組織を切削するものであることが好ましい。例えば、線材Wを収容する皮削用ダイスの内周面に、線材Wの全周を囲むようにカッターを設けておき、皮削用ダイスを通過する線材Wの全周を同時に切削する形態を挙げることができる。この場合には、線材Wを移動方向Dに移動させながら、線材Wの表面の全域を、効率的に皮削することができる。皮削部30の構成の詳細としては、特許文献1に開示されたものを採用すればよい。
【0027】
皮削部30によって皮削を受けた線材Wは、線材巻き取り装置80による牽引とチェーン搬送装置40による送り運動により、伸線部50に移動される。伸線部50は、上記のように、伸線によって線材Wを縮径するものであり、鋼材等よりなる線材Wに、歪みを付与することができる。伸線部50は、線材Wを引き抜きによって伸線する伸線ダイスを有している。伸線部50はさらに、伸線ダイスにおける引き抜き抵抗を低減するために、伸線ダイスに導入される線材Wの表面に潤滑剤を供給する潤滑剤供給部や、冷媒を用いて伸線ダイスを冷却する冷却部を備えることが好ましい。伸線部50の構成の詳細についても、特許文献1に開示されたものを採用すればよい。
【0028】
皮削部30における皮削と伸線部50における伸線を受けた線材Wは、検査部70による検査を経て、線材巻き取り装置80において、コイル状に巻き取られる。
【0029】
[2つの動力部による線材の移動]
上記のように、本実施形態にかかる伸線装置1においては、線材Wを移動方向Dに移動させるための動力源として、伸線装置1の最下流に設けられた第一の動力部としての線材巻き取り装置80と、皮削部30と伸線部50の間に設けられた第二の動力部としてのチェーン搬送装置40とを有している。
【0030】
特許文献1に開示された鋼材伸線装置のように、線材Wを移動方向Dに移動させる動力源として、線材巻き取り装置80のみを備える場合でも、皮削部30と伸線部50を順に連続的に通過させて、線材Wを一括して牽引することは、可能である。しかし、その場合には、伸線部50において、伸線ダイスから線材Wに引き抜き抵抗が与えられるため、伸線部50を通過する際に線材Wに印加される引張荷重の方が、皮削部30を通過する際に線材Wに印加される引張荷重よりも大きくなりやすい。皮削部30においても、カッターとの接触によって、線材Wに抵抗が発生している状況で、伸線部50の位置と皮削部30の位置で線材Wに印加される引張荷重に上記のような差が生じると、皮削部30と伸線部50の間に張り渡された線材Wに、軸線方向に沿って、上流側を皮削部30側に引張り、下流側を伸線部50側に引張る張力が発生することになる。
【0031】
皮削部30と伸線部50の間で、線材Wに張力が発生すると、その部位の線材Wに負荷が印加される。特に、線径が細く、皮削部30における抵抗と伸線部50における抵抗の和よりも、材料強度が小さい場合には、皮削部30と伸線部50の間で、引き細りや断線が発生する可能性がある。
【0032】
そこで、本実施形態にかかる伸線装置1においては、皮削部30と伸線部50の間における線材Wへの張力印加を緩和する観点から、皮削部30と伸線部50の間に、第二の動力部として、チェーン搬送装置40が設けている。チェーン搬送装置40によって、線材Wに、皮削部30から伸線部50に向かう力を与え、線材Wを皮削部30から伸線部50に向かって送ることで、皮削部30と伸線部50の間で線材Wを軸線方向両側に引張る方向に印加される張力を、低減することができる。これにより、線材巻き取り装置80での牽引によって皮削部30と伸線部50の間で線材Wに印加される張力を低減し、引き細りや断線の発生を抑制することができる。
【0033】
チェーン搬送装置40は、チェーントラックとも称されるものであり、1対のローラチェーン41,41が、上下に相互に対向して配置されている。ローラチェーン41,41は、それぞれ、1対のスプロケット42,42によって回転駆動される。チェーン搬送装置40が伸線装置1に組み込まれた状態において、1対のローラチェーン41,41は、線材Wを挟んで対向し、それぞれ重力方向上方および下方から、線材Wに面接触する。つまり、線材Wの軸線方向に沿って、ある長さ領域にわたって、線材Wの表面に接触する。このように1対のローラチェーン41,41で線材Wを挟み込んだ状態で、スプロケット42,42により、ローラチェーン41,41を回転させる。ローラチェーン41,41の回転方向は、線材Wに接触した面が、移動方向Dの上流側から下流側に向かって運動するように設定する。このローラチェーン41,41の運動により、線材Wは、移動方向Dに沿って、皮削部30から伸線部50へと送られる。なお、チェーン搬送装置40においては、1対のローラチェーン41,41は、上記のように、上下に相互に対向して配置され、上下方向から線材Wを挟み込む形態の他、水平方向に相互に対向して配置され、水平方向から線材Wを挟み込むように構成されてもよい。
【0034】
皮削部30と伸線部50の間に設ける第二の動力部として、上記のようなチェーン搬送装置40を用いることで、線材Wに負荷や傷を与えることなく、効率的に線材Wを皮削部30から伸線部50に向かって送ることができるが、第二の動力部の具体的な形態は、チェーン搬送装置40に限られず、線材Wを線状に維持したままで、つまり線材Wを一旦コイル状等に巻き取ることなく、線材Wを皮削部30から伸線部50に向かって送ることができるものであればよい。ただし、上記のチェーン搬送装置40のように、線材Wに面接触して線材Wを送る形態のものを用いれば、例えば線材Wを把持して移動方向Dに牽引する形態を採用する場合と比較して、搬送によって線材Wに過剰な負荷が生じることや、線材Wの表面に傷等の損傷が発生することを避けて、皮削部30による皮削を経て得られた傷等の少ない表面を維持したまま、線材Wの搬送を行いやすい。上記のように、線材Wを対向する方向から挟んで送るチェーン搬送装置40以外に、線材Wに面接触して搬送を行う第二の動力部の形態として、線材Wに重力方向下方で接触して線材Wを送るコンベア装置等を例示することができる。
【0035】
[速度変調部の導入]
上記の伸線装置1には、さらに、速度変調部を設置することができる。速度変調部は、線材Wが皮削部30から伸線部50に到着するまでの時間に変調を与えるものであり、チェーン搬送装置40と伸線部50との間、つまりチェーン搬送装置40の下流側に設けられる。
【0036】
上記の伸線装置1は、線材巻き取り装置80とチェーン搬送装置40の2種の動力部によって、線材Wを移動方向Dに移動させているが、それら2種の動力部40,80による線材Wの移動速度、つまり線材巻き取り装置80による線材Wの牽引速度とチェーン搬送装置40による線材Wの送り速度とを同調させるのは、困難となる場合がある。それらの速度の間に差があると、皮削部30による皮削と、伸線部50による伸線を、同じ速度で、継続して行うことが難しくなる。線材巻き取り装置80による牽引速度の方が速い場合には、皮削部30と伸線部50の間の位置や、伸線部50において、線材Wに過剰な張力が印加される可能性が生じる。逆に、チェーン搬送装置40による送り速度の方が速い場合には、皮削部30を通過する線材Wに過剰な張力が印加されることや、伸線部50を通過する線材Wに撓みが生じて伸線を正常に行えなくなることが起こり得る。
【0037】
そこで、速度変調部により、皮削部30とチェーン搬送装置40の間、あるいはチェーン搬送装置40と伸線部50の間を線材Wが移動するのに要する時間を調整することで、線材巻き取り装置80による線材Wの牽引速度とチェーン搬送装置40による線材Wの送り速度との差を吸収することができる。例えば、チェーン搬送装置40による送り速度が、線材巻き取り装置80による牽引速度よりも速い場合に、線材Wが皮削部30から伸線部50に到達するまでの時間を、速度変調部によって長くすることで、チェーン搬送装置40による送り速度の速さを吸収し、線材Wの移動速度および線材Wに印加される負荷を一定に保ったままで、線材Wを皮削部30から伸線部50に送ることが可能となる。
【0038】
速度変調部は、線材巻き取り装置80による線材Wの牽引速度とチェーン搬送装置40による線材Wの送り速度を同調させることに加え、皮削部30で線材Wを皮削する速度と、伸線部50で線材Wを伸線する速度との間の差を吸収することにも効果を有する。一般に、伸線部50において、伸線ダイスを用いた伸線を良好な条件で実施できる速度は、皮削部30において、カッターを用いた皮削を良好な条件で実施できる速度よりも遅い傾向があり、伸線部50における伸線速度と皮削部30における皮削速度を揃えることが難しい場合がある。しかし、速度変調部によって、皮削部30による皮削を終えた線材Wが伸線部50に導入されるまでの時間を長く取ることで、伸線部50における伸線を遅い速度で行うことが可能となる。また、皮削部30に不具合が生じた場合や、皮削部30での皮削が不十分であった場合等に、速度変調部によって、皮削部30を通過した線材Wが伸線部50に導入されるまでの時間に余裕を確保することで、伸線部50の運転を停止することなく、皮削部30の運転を一旦停止して対策を講じることや、線材Wに皮削の追加等の処置を施すことも、可能となる。また、伸線部50に不具合が生じた場合等に、速度変調部で時間を確保しながら、皮削部30の運転を停止することなく、皮削を継続することも、可能となる。
【0039】
具体的な速度変調部の例として、
ダンサロール装置を用いる形態を挙げることができる。
図2に、
ダンサロール装置90の構成の概略を示す。
ダンサロール装置90は、2つの補助ロール91,92と、
ダンサロール93とを有している。ここでは、
ダンサロール装置90よりなる速度変調部を、チェーン搬送装置40と伸線部50の間に設ける形態を示している。
【0040】
2つの補助ロール91,92は、相互に離間して設けられ、それぞれ線材Wに第一の方向(例えば下方)から当接している。ダンサロール93は、線材Wの移動方向Dに沿って、2つの補助ロール91,92の中間に相当する位置に設けられている。そして、ダンサロール93は、第一の方向と、反対側の第二の方向(例えば下方)とを結ぶ方向に沿って、退避位置P1と作動位置P2との間を、往復移動可能となっている(運動m1)。退避位置P1においては、ダンサロール93は、線材Wよりも第二の方向側に位置し、線材Wに当接しない。一方、作動位置P2においては、ダンサロール93は、2つの補助ロール91,92よりも第一の方向側に位置する。
【0041】
図2中に破線で示すように、
ダンサロール93が退避位置P1にある間は、2つの補助ロール91,92の間に、線材Wが余長なく張り渡され、チェーン搬送装置40によって伸線部50に送られている。この状態から、
ダンサロール93を作動位置P2に移動させると、
図2中に実線で示すように、
ダンサロール93が線材Wに第一の方向から当接し、線材Wを伴った状態で、作動位置P2に配置されることになる。これにより、線材Wは、上流側の補助ロール91から、作動位置P2にある
ダンサロール93までの間を張り渡され、さらに
ダンサロール93から下流側の補助ロール92までの間を張り渡された状態となる。つまり、
ダンサロール93が退避位置P1にある状態と比べ、チェーン搬送装置40と伸線部50の間に存在する線材Wの総長が長くなり、線材Wに余長が設けられることになる。このようにして、皮削部30と伸線部50の間の線材Wに余長を設けることで、線材Wの各部位が皮削部30から伸線部50に到達するまでの時間を長くすることができる。
【0042】
ダンサロール93を退避位置P1と作動位置P2の間で可逆的に移動させることで、線材Wが皮削部30から伸線部50に到着するまでの時間に変調が与えられない状態と、変調が与えられ、その時間が長くなった状態とを、選択的に切り替えることができる。さらに、ダンサロール93を退避位置P1から第二の方向に移動させる距離を、変更可能としておけば、線材Wに設ける余長の大きさを変更することができ、変調の程度、つまり線材Wが皮削部30から伸線部50に到着するまでの時間の長さを調節することも可能となる。すると、伸線装置1の状態、例えば線材巻き取り装置80による線材Wの牽引速度やチェーン搬送装置40による線材Wの送り速度、また皮削部30における皮削および伸線部50における伸線にかかる条件等に応じて、変調の有無や程度を選択し、2つの動力部40,80の間の速度の差や、皮削速度と伸線速度の差を、効果的に吸収することができる。
【0043】
線材Wに可逆的に余長を設けることにより、線材Wが皮削部30から伸線部50に到着するまでの時間に変調を与えることができる速度変調部としては、上記のようなダンサロール装置90を用いる以外の形態も考えられる。例えば、チェーン搬送装置40と、皮削部30または伸線部50の間に、線材Wが自重によって撓むことができる部位を設けておくことが考えられる。あるいは、公知の貯線装置を速度変調部として用いることもできる。例えば、チェーン搬送装置40と、皮削部30または伸線部50との間に、線材Wを巻き取ることで余長を発生させる形態の貯線装置を用いることが考えられる。ただし、それらの形態と比較して、上記のようなダンサロール装置90を用いる形態の方が、線材Wへの余長形成の有無や程度を高自由度に選択可能であるとともに、線材Wに負荷や傷等の損傷を与えずに余長の形成を行いやすい。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に特に限定されることなく、種々の改変を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 伸線装置
10 線材供給装置
20 通線装置
30 皮削部
40 チェーン搬送装置(第二の動力部)
50 伸線部
70 検査部
80 線材巻き取り装置(第一の動力部)
90 ダンサロール装置
91,92 補助ロール
93 ダンサロール
D 移動方向
W 線材
P1 退避位置
P2 作動位置