(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】道路勾配推定装置、道路勾配推定システムおよび道路勾配推定方法
(51)【国際特許分類】
B60W 40/076 20120101AFI20240312BHJP
G01S 17/42 20060101ALI20240312BHJP
G01S 7/4863 20200101ALI20240312BHJP
【FI】
B60W40/076
G01S17/42
G01S7/4863
(21)【出願番号】P 2020024306
(22)【出願日】2020-02-17
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 啓子
(72)【発明者】
【氏名】柳井 謙一
(72)【発明者】
【氏名】若林 宏之
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 浩二
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-225806(JP,A)
【文献】国際公開第2012/117542(WO,A1)
【文献】特開2012-063236(JP,A)
【文献】特開2010-085240(JP,A)
【文献】特開2017-150902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 40/00 ~ 40/13
G01S 17/00 ~ 17/95
G01S 7/48 ~ 7/51
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(50)に用いられる道路勾配推定装置(100)であって、
ライダー(Lidar)(20)または撮像装置(30)から取得される環境光画像または撮像画像を用いて道路上における注目領域(FA)を決定する注目領域決定部(101)と、
ライダーを制御して検出点群を取得する検出点群取得部(101)であって、前記注目領域における検出点群の分解能または信号強度を増大させて、注目検出点群を取得可能な検出点群取得部
であり、前記ライダーの垂直方向または水平方向の分解能を増大させて前記注目検出点群として高分解能検出点群を取得する検出点群取得部と、
前記注目検出点群を用いて道路勾配を推定する勾配推定部(101)と、を備え
、
前記ライダーは複数の受光素子(220)により構成される受光素子アレイ(22)を有し、
前記検出点群取得部は、予め定められた数の前記複数の受光素子を受光単位として前記検出点群を取得し、
前記検出点群取得部は、
前記受光単位を構成する前記受光素子の数を減少させて前記受光単位の数を増大させることにより、垂直方向または水平方向の分解能を増大させる、道路勾配推定装置。
【請求項2】
車両(50)に用いられる道路勾配推定装置(100)であって、
ライダー(Lidar)(20)または撮像装置(30)から取得される環境光画像または撮像画像を用いて道路上における注目領域(FA)を決定する注目領域決定部(101)と、
ライダーを制御して検出点群を取得する検出点群取得部(101)であって、前記注目領域における検出点群の分解能または信号強度を増大させて、注目検出点群を取得可能な検出点群取得部と、
前記注目検出点群を用いて道路勾配を推定する勾配推定部(101)と、を備え、
前記ライダーの垂直方向は前記車両から離間する方向に対応し、
前記検出点群取得部は、前記車両から離間するにつれて前記ライダーの垂直方向の分解能を増大させて前記注目検出点群として高分解能検出点群を取得する、道路勾配推定装置。
【請求項3】
請求項
2に記載の道路勾配推定装置において、
前記ライダーは、前記車両から離間する方向に対応して配置されている複数の受光素子(220)により構成される受光素子アレイ(22)を有し、
前記検出点群取得部は、予め定められた数の前記複数の受光素子を受光単位として前記検出点群を取得し、
前記検出点群取得部は、
前記車両から離間するにつれて前記受光単位を構成する前記受光素子の数を減少させて前記受光単位の数を増大させることにより、垂直方向の分解能を増大させる、道路勾配推定装置。
【請求項4】
請求項
1または請求項
3に記載の道路勾配推定装置において、
前記検出点群取得部は、さらに、前記注目領域における単位走査角における前記検出点群の取得回数を増大させる、道路勾配推定装置。
【請求項5】
請求項1に記載の道路勾配推定装置において、
前記検出点群取得部は、前記注目領域における単位走査角における前記検出点群の取得回数を増大させることにより前記検出点群の信号強度を増大させる、道路勾配推定装置。
【請求項6】
請求項1から
5のいずれか一項に記載の道路勾配推定装置において、
前記検出点群取得部は、前記検出点群の検出率が予め定められた基準検出率以下の場合に、前記注目検出点群を取得する、道路勾配推定装置。
【請求項7】
請求項
6に記載の道路勾配推定装置において、
前記検出点群取得部は、前記検出率として、基準の検出点群データまたは過去の検出点群データに対する現在の検出点群データにおける最大検出距離の比および道路上における検出点数の比の少なくともいずれか一方を用いる、道路勾配推定装置。
【請求項8】
請求項1から
7のいずれか一項に記載の道路勾配推定装置において、
前記撮像画像は複数のフレーム画像により形成され、
前記注目領域決定部は、現在のフレーム画像(CFc)よりも過去の前フレーム画像(CFp)を用いて決定された前注目領域(FAp)を用いて現在の注目領域(FAc)を決定する、道路勾配推定装置。
【請求項9】
車両(50)に用いられる道路勾配推定装置(100)であって、
ライダー(Lidar)(20)または撮像装置(30)から取得される環境光画像または複数のフレーム画像により形成されている撮像画像を用いて道路上における注目領域(FA)を決定する注目領域決定部(101)であって、現在のフレーム画像(CFc)よりも過去の前フレーム画像(CFp)を用いて決定された前注目領域(FAp)を用いて現在の注目領域(FAc)を決定する注目領域決定部と、
ライダーを制御して検出点群を取得する検出点群取得部(101)であって、前記現在の注目領域における検出点群の分解能または信号強度を増大させて、注目検出点群を取得可能な検出点群取得部と、
前記注目検出点群を用いて道路勾配を推定する勾配推定部(101)と、を備え、
前記注目領域決定部は、
前記前フレーム画像に道路上の対象物が検出されている場合には、前記現在
のフレーム
画像から、検出された前記道路上の対象物を検出して前記現在の注目領域を決定し、
前記道路上の対象物が検出されていない場合には、前記現在
のフレーム
画像から、区画線(BL)を検出して前記現在の注目領域を決定する、道路勾配推定装置。
【請求項10】
請求項1から
9のいずれか一項に記載の道路勾配推定装置において、
前記勾配推定部は、前記撮像画像を用いて前記注目領域が決定され得ない場合、または、前記注目領域の近傍における決定にとどまる場合に、前記検出点群と前記環境光画像とを用いて道路勾配を推定する、道路勾配推定装置。
【請求項11】
車両(50)に搭載される道路勾配推定システム(10)であって、
請求項1から
10のいずれか一項に記載の道路勾配推定装置(100)と、
前記撮像装置と、
前記ライダーと、
を備える、道路勾配推定システム。
【請求項12】
車両(50)における道路勾配推定方法であって、
撮像装置(30)またはライダー(Lidar)から取得される撮像画像または環境光画像を用いて道路上における注目領域(FA)を決定し、
前記ライダーは複数の受光素子(220)により構成される受光素子アレイ(22)を有し、
受光単位を構成する予め定められた数の前記受光素子の数を減少させて前記受光単位の数を増大させることにより、前記ライダーの垂直方向または水平方向の分解能を増大させて前記注目領域における検出点群の分解
能を増大させ
た注目検出点群
として高分解能検出点群を取得し、
前記注目検出点群を用いて道路勾配を推定すること、を備える、道路勾配推定方法。
【請求項13】
車両(50)における道路勾配推定方法であって、
撮像装置(30)またはライダー(Lidar)から取得される撮像画像または環境光画像を用いて道路上における注目領域(FA)を決定し、
前記ライダーの垂直方向は前記車両から離間する方向に対応し、前記車両から離間するにつれて前記ライダーの垂直方向の分解能を増大させて、前記注目領域における検出点群の分解能を増大させた注目検出点群として高分解能検出点群を取得し、
前記注目検出点群を用いて道路勾配を推定すること、を備える、道路勾配推定方法。
【請求項14】
車両(50)における道路勾配推定方法であって、
撮像装置(30)またはライダー(Lidar)から取得される
環境光画像または複数のフレーム画像により形成されている撮像画像を用いて道路上における注目領域(FA)を決定し、
現在のフレーム画像(CFc)よりも過去の前フレーム画像(CFp)を用いて決定された前注目領域(FAp)を用いて現在の注目領域(FAc)を決定し、前記現在の注目領域(FAc)を決定することは、
前記前フレーム画像に道路上の対象物が検出されている場合には、前記現在のフレーム画像から、検出された前記道路上の対象物を検出して前記現在の注目領域を決定し、
前記道路上の対象物が検出されていない場合には、前記現在のフレーム画像から、区画線(BL)を検出して前記現在の注目領域を決定することを備え、
前記
現在の注目領域における検出点群の分解能または信号強度を増大させて注目検出点群を取得し、
前記注目検出点群を用いて道路勾配を推定すること、を備える、道路勾配推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は車両において用いられる道路勾配を推定するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラまたはライダーを用いて白線の3次元車両座標軸または3次元測距データを取得し、道路の相対的勾配を算出し、さらに車両が備えるスロットル開度等を検出する移動体センサからの検出データを用いて絶対的な道路勾配を予測する技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【0004】
しかしながら、従来の道路勾配予測技術では、カメラおよびライダーによる検出データ、すなわち、撮像画像データおよび検出点データを用いて道路の勾配を高精度で予測することは考慮されていない。また、カメラまたはライダーのいずれか一方が用いられており、カメラまたはライダーに不具合が発生した場合やカメラまたはライダーの検出性能が低い場合には道路勾配を予測できないという問題もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、撮像画像および検出点を用いて道路勾配の推定精度を向上させることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の態様として実現することが可能である。
【0007】
第1の態様は、車両に用いられる道路勾配推定装置を提供する。第1の態様に係る道路勾配推定装置は、撮像装置またはライダー(Lidar)から取得される撮像画像または環境光画像を用いて道路上における注目領域を決定する注目領域決定部と、ライダーを制御して検出点群を取得する検出点群取得部であって、前記注目領域における検出点群の分解能または信号強度を増大させて注目検出点群を取得可能であり、前記ライダーの垂直方向または水平方向の分解能を増大させて前記注目検出点群として高分解能検出点群を取得する検出点群取得部と、前記注目検出点群を用いて道路勾配を推定する勾配推定部と、を備え、前記ライダーは複数の受光素子(220)により構成される受光素子アレイ(22)を有し、前記検出点群取得部は、予め定められた数の前記複数の受光素子を受光単位として前記検出点群を取得し、前記検出点群取得部は、前記受光単位を構成する前記受光素子の数を減少させて前記受光単位の数を増大させることにより、垂直方向または水平方向の分解能を増大させる。
【0008】
第1の態様に係る車両における道路勾配推定装置によれば、撮像画像および検出点を用いて道路勾配の推定精度を向上させることができる。
【0009】
第2の態様は、車両における道路勾配推定方法を提供する。第2の態様に係る道路勾配推定方法は、撮像装置から取得される撮像画像またはライダー(Lidar)から取得される環境光画像を用いて道路上における注目領域を決定し、前記ライダーは複数の受光素子により構成される受光素子アレイを有し、受光単位を構成する予め定められた数の前記受光素子の数を減少させて前記受光単位の数を増大させることにより、前記ライダーの垂直方向または水平方向の分解能を増大させて前記注目領域における検出点群の分解能を増大させた注目検出点群として高分解能検出点群を取得し、前記注目検出点群を用いて道路勾配を推定すること、を備える。
【0010】
第2の態様に係る車両における道路勾配推定方法によれば、撮像画像および検出点を用いて道路勾配の推定精度を向上させることができる。なお、本開示は、車両における道路勾配推定プログラムまたは当該プログラムを記録するコンピュータ読み取り可能記録媒体としても実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態に係る道路勾配推定装置が搭載された車両の一例を示す説明図。
【
図2】第1の実施形態において用いられるライダーの概略構成を示す説明図。
【
図3】第1の実施形態において用いられる受光素子アレイを模式的に示す説明図。
【
図4】第1の実施形態に係る道路勾配推定装置の機能的構成を示すブロック図。
【
図5】第1の実施形態に係る道路勾配推定装置によって実行される勾配推定処理の処理フローを示すフローチャート。
【
図6】撮像画像における注目領域の決定を説明するための説明図。
【
図7】高分解能処理時における検出点群の一例を示す説明図。
【
図9】検出点群により規定される道路を環境光画像によって外挿する様子を示す説明図。
【
図11】前注目領域を用いて現在注目領域を決定する様子を示す説明図。
【
図12】過去に検出された対象物を用いて現在の対象物を検出する際に実行される処理フローを示すフローチャート。
【
図13】従来におけるライダーの垂直方向における分解能を例示する説明図。
【
図14】第5の実施形態におけるライダーの垂直方向における分解能を例示する説明図。
【
図15】車両から離間するにつれてライダーの垂直方向における分解能を増大させるための受光素子アレイにおける受光単位を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示に係る車両における道路勾配推定装置、道路勾配推定システムおよび道路勾配推定方法について、いくつかの実施形態に基づいて以下説明する。
【0013】
第1の実施形態:
図1に示すように、第1の実施形態に係る車両における道路勾配推定装置100は、車両50に搭載されて用いられる。道路勾配推定装置100は、ライダー(Lidar:Light Detection and Ranging)20およびカメラ30から車両50の周囲情報を取得する。道路勾配推定システム10は、少なくとも、道路勾配推定装置100、ライダー20およびカメラ30を備える。なお、車両50は、この他に。車輪速度センサ、ヨーレートセンサ、運転支援を実行するために運転支援制御装置を備えていても良い。ライダー20は、前方検知を目的とする場合、例えば、車両50の前部に配置され、カメラ30は、例えば、車両50のフロントガラスの上部に配置されている。本明細書における道路勾配とは、より具体的には、相対的な道路勾配、すなわち、道路勾配変化を意味するが、記載を簡潔にするために、以下では「道路勾配」の用語を用いる。
【0014】
図2に示すように、測距装置であるライダー20は、受光部21、発光部24、走査鏡26、電動機40および回転角センサ41を備えている。ライダー20は、例えば水平方向に走査する場合、水平方向に予め定められた走査角範囲NRを有しており、走査角範囲NRを複数の角度に分割した単位走査角を単位として発光部24による検出光の照射および受光部21による反射光の受光を実行することによって走査角範囲NRの全体にわたる検出点の取得が実行され、測距が実現される。単位走査角は、ライダー20の分解能またはライダー20により得られる測距結果の解像度を規定し、単位走査角が小さくなるに連れて、すなわち検出点数が多くなるに連れて水平方向HDにおける分解能および解像度は高くなる。ライダー20における検出点の取得、すなわち、発光および受光処理は、走査角範囲NRを一方向へ往走査する際、あるいは、走査角範囲NRを双方向へ往復走査する際に実行される。
【0015】
受光部21は、受光素子アレイ22および受光制御部23、並びに図示しない受光レンズを備え、発光部24から照射される検出光の反射光の受光に応じて、検出点を示す検出信号を出力する受光処理を実行する。受光素子アレイ22は、
図3に示すように、複数の受光素子220が縦横方向、すなわち二次元に配列されている平板状の光センサであり、例えば、SPAD(Single Photon Avalanche Diode)、その他のフォトダイオードが各受光素子を構成する。なお、受光処理の最小単位、すなわち検出点に対応する受光単位として受光画素の用語が用いられることがあり、受光単位は、単一の受光素子によって構成される受光画素221、または、複数の受光素子によって構成される受光画素222のいずれかを意味する。受光素子アレイ22において、受光画素、すなわち、受光単位を構成する受光素子数を減少させるにつれて、受光単位、すなわち、検出点数は増大する。本実施形態においては、例えば、8個の受光素子220から構成される受光画素222を受光単位として、基準分解能による基準受光処理が実行される。本実施形態において、垂直方向VDの分解能を増大させる際には、道路勾配推定装置100からの指示を受けた受光制御部23は、1個の受光素子220から構成される受光画素221を受光単位として受光処理を実行し、基準受光処理よりも分解能が高い高分解能受光処理が実現される。なお、受光画素221、222に含まれる受光素子220の数は例示に過ぎず、それぞれ2個以上および9個以上であっても良く、また、受光画素221に含まれる受光素子220の数が受光画素222に含まれる受光素子220よりも少なければ良い。また、受光素子アレイ22は、複数の受光素子220が縦方向または横方向に一次元に配列されている光センサであっても良い。
【0016】
受光制御部23は、発光部24によって発光が実行される単位走査角を単位として、各受光画素に入射された入射光量または入射光強度に応じた入射光強度信号を出力する受光処理を実行する。具体的には、受光制御部23は、受光画素221、222を単位として、単位走査角毎に、各受光画素221、222を構成する受光素子が入射光量に応じて発生させる電流、または、電流から変換された電圧を取り出して入射光強度信号として道路勾配推定装置100へ出力する。あるいは、各受光画素を構成する受光素子が受光する光子の合計個数に応じた入射光強度信号が道路勾配推定装置100へ出力されるということができる。したがって、繰り返しの走査により受光回数が増大するにつれて信号強度は高くなる。なお、一般的にSPADでは、1つの受光素子220によって得られる入射光量は少ないので、受光画素222のように8個の受光素子220からの入射強度信号を図示しない加算器により加算してS/Nの向上が図られる。したがって、垂直方向VDにおける分解能を高めるために、1個の受光素子により構成される受光画素221が用いられる高分解能受光処理時には、8個の受光素子により構成される受光画素222が用いられる基準受光処理時よりも、信号強度の低下、すなわち、S低下が発生する。この信号強度の低下は、後述するように、水平方向HDにおける特定の走査範囲における検出点群の取得回数、すなわち、単位走査角における発光および受光処理回数を増大させることによる入射光強度信号の増大により補填または低減される。
【0017】
発光部24は、図示しない発光制御部、発光素子およびコリメータレンズを備え、単位走査角単位で検出光を照射する。発光素子は、例えば、例えば、1または複数の赤外レーザダイオードであり、検出光として赤外レーザ光を出射する。発光部24は垂直方向に単一の発光素子を備えていても良く、複数の発光素子を備えていても良い。複数の発光素子が備えられる場合には走査タイミングに応じて発光する発光素子が切り換えられ得る。発光制御部は、道路勾配推定装置100から単位走査角毎に入力される発光素子の発光を指示する発光制御信号に応じて、パルス駆動波形の駆動信号によって発光素子を駆動して赤外レーザ光の発光を実行する。発光部24は、高分解能受光処理の実行時には、特定の走査範囲に対して繰り返して検出光を出射する。発光部24から照射される赤外レーザ光は、走査鏡26によって反射され、ライダー20の外部、すなわち、対象物の検出が所望される範囲に向けて射出される。
【0018】
電動機40は、図示しない電動機ドライバを備える。電動機40には、電動機40の回転角度を検出するための回転角センサ41が配置されている。電動機ドライバは、回転角センサ41から回転角信号の入力を受けて道路勾配推定装置100によって出力される回転角度指示信号を受けて電動機40に対する印加電圧を変更して電動機40の回転角度を制御する。電動機40は、例えば、超音波モータ、ブラシレスモータ、ブラシモータ、ボイスコイルモータであり、走査角範囲NRにおいて往復動を行うための周知の機構を備えている。電動機40の出力軸の先端部には、走査鏡26が取り付けられている。走査鏡26は、発光部24から出射された検出光を水平方向HDに走査させる反射体、すなわち、鏡体であり、電動機40によって往復駆動されることによって水平方向HDにおける走査角範囲NRの走査が実現される。走査鏡26は、例えば、120度、180度といった走査角範囲で検出光の走査および反射光の受光を実現する。ライダー20により重点的あるいは集中的に検出点を取得すべき注目領域FAにおいて、走査角範囲NRの他の領域における検出回数よりも高い検出回数で取得される検出点群は注目検出点群として他の検出点群とは区別され、走査角範囲NRの他の領域を対象とする走査時と比較して高い信号強度を有する高信号強度検出点群と呼ぶことができる。注目検出点群をなす各検出点の信号強度が増大される結果、高分解能受光処理により低下する入射光強度信号の信号強度、すなわち、S低下を補うことができる。走査鏡26はさらに、単一の発光素子が備えられている場合や垂直方向VDの全域に検出光を射出できない場合には、水平方向HDに加えて垂直方向VDへの走査、すなわち垂直方向VDにおける走査位置の変更を実現しても良い。水平方向HDおよび垂直方向VDへの走査を実現するために、走査鏡26は、多面鏡体、例えば、ポリゴンミラーであっても良く、あるいは、垂直方向VDへ揺動される機構を備える単面鏡体、あるいは、垂直方向VDへ揺動される別の単面鏡体を備えていても良い。なお、走査鏡26は、電動機40により回転駆動されて回転走査を実行しても良く、この場合には、走査角範囲NRに対応して発光部24および受光部21による発光・受光処理が実行されれば良い。特定走査角範囲CRにおける走査の速度を他の走査角範囲NRにおける走査の速度よりも遅くさせることによって、水平方向HDにおける分解能が高められ得る。本実施形態においては、垂直方向VDにおける分解能を増大させる例について説明するが、垂直方向VDに代えて水平方向HDの分解能のみが増大されても良く、あるいは、垂直方向VDおよび水平方向HDの双方における分解能が増大されても良い。水平方向HDに対する分解能の増大は、走査鏡26による単位走査角を小さくまたは単位走査速度を遅くすることによって実現され得る。
【0019】
発光部24から照射された検出光は、走査鏡26によって反射され、単位走査角SAを単位として水平方向の走査角範囲NRにわたり走査される。検出光が物標によって反射された反射光は、走査鏡26によって、受光部21へと反射され、単位走査角SA毎に受光部21に入射される。受光処理が実行される単位走査角SAは、順次インクリメントされ、この結果、所望の走査角範囲NRにわたる受光処理のための走査が可能となる。なお、垂直方向VDの全域に検出光を照射できない場合には、水平方向HDへの各走査時に垂直方向VDにおける照射位置が変更されて複数回の水平方向HDへの走査が実行される。発光部24および受光部21は走査鏡26と共に電動機40によって回転されても良く、走査鏡26とは別体であり、電動機40によって回転されなくても良い。さらに、走査鏡26が備えられることなく、アレイ状に配置された複数の発光素子および受光素子アレイ22とを備え、レーザ光を順次外界に対して直接照射し、反射光を直接受光する構成を備えていても良い。
【0020】
道路勾配推定装置100は、演算部としての中央処理装置(CPU)101、記憶部としてのメモリ102、入出力部としての入出力インタフェース103および図示しないクロック発生器を備えている。CPU101、メモリ102、入出力インタフェース103およびクロック発生器は内部バス104を介して双方向に通信可能に接続されている。メモリ102は、カメラ30またはライダー20から取得される撮像画像または環境光画像を用いて道路上における注目領域を決定する処理、ライダー20を制御して注目領域における注目検出点群を取得する処理、より具体的には、注目領域FAにおいてライダー20による検出点群の取得回数、すなわち発光・受光処理の回数を増大させて注目領域FAにおける検出点群の入射光強度信号を増大させる処理、注目領域FAにおける検出点群の分解能を増大させて注目検出点群として高分解能検出点群を取得する処理、高分解能検出点群を用いて道路勾配を推定する勾配推定処理を実行するための勾配推定プログラムPr1を不揮発的且つ読み出し専用に格納するメモリ、例えばROMと、CPU101による読み書きが可能なメモリ、例えばRAMとを含んでいる。メモリ102のうち読み書き可能な領域102aには、検出済みの対象物に関する情報、例えば、座標位置情報、形状情報といった情報が対象物履歴ORとして格納されている。CPU101、すなわち、道路勾配推定装置100は、メモリ102に格納されている勾配推定プログラムPr1を読み書き可能なメモリに展開して実行することによって、注目領域決定部、検出点群取得部、勾配推定部として機能する。なお、CPU101は、単体のCPUであっても良く、各プログラムを実行する複数のCPUであっても良く、あるいは、複数のプログラムを同時実行可能なマルチタスクタイプのCPUであっても良い。
【0021】
入出力インタフェース103には、受光部21、発光部24、カメラ30、電動機40および回転角センサ41がそれぞれ制御信号線を介して接続されている。発光部24に対しては発光制御信号が送信され、受光部21からは入射光強度信号が受信され、電動機40に対しては回転角度指示信号が送信され、回転角センサ41からは回転角信号が受信される。本実施形態においては、さらに、高分解能受光処理の実行時に、受光部21から受光制御部23に対して受光単位を変更する受光単位変更信号が送信される。
【0022】
カメラ30は、CCD等の撮像素子または撮像素子アレイを1つ備える撮像装置であり、可視光を受光することによって対象物の外形情報または形状情報を検出結果である画像データとして出力するセンサである。カメラ30は、図示しない画像処理部を備えており、画像データに対して、例えば、セマンティック・セグメンテーションを用いた対象物の分類処理を実行し、同一の対象物を示す画素を結合することで各対象物を示す画像領域を抽出する。本実施形態においては、カメラ30は、一般的に白線と呼ばれる区画線や道路境界線を抽出し、あるいは、道路上における立体物、例えば、中央分離帯、ガードレール、縁石、チャッターバー、キャッツアイ、先行車両を抽出する。カメラ30から出力される画像データはモノクロであっても良い。この場合には、セグメンテーションに際して輝度値が用いられる。カメラ30は、1つであっても2つ以上であっても良い。
【0023】
第1の実施形態に係る道路勾配推定装置100により実行される勾配推定処理について説明する。
図5に示す処理ルーチンは、例えば、車両の制御システムの始動時から停止時まで、または、スタートスイッチがオンされてからスタートスイッチがオフされるまで、所定の時間間隔、例えば、数100msec単位にて繰り返して実行される。CPU101が勾配推定プログラムPr1を実行することによって
図5に示す勾配推定処理が実行される。
【0024】
CPU101は、入出力インタフェース103を介して、カメラ30によって撮像された撮像画像を取得する(ステップS100)。CPU101は、撮像画像から道路上における注目領域を判別可能であるか否かを判定する(ステップS102)。道路上とは自車両の前方の路面上、あるいは、自車両の前方の路面端や路肩といった自車両の予定走路を規定可能な前方領域を意味する。注目領域は、道路勾配の推定に有用な道路上または道路端における対象物に対応する領域であり、ライダー20による検出点の取得を集中的、すなわち、検出点の取得回数を増大させる対象となる領域である。対象物には、例えば、一般的に白線と呼ばれる区画線や道路境界線、中央分離帯、ガードレール、縁石、チャッターバー、キャッツアイ、アスファルト、先行車両が含まれる。なお、本実施形態においては、以下、区画線や道路境界線を白線と呼ぶ。CPU101は、撮像画像からこれら対象物が抽出できる場合には、注目領域を判別可能であると判定し、抽出できない場合には注目領域を判別できないと判定する。なお、撮像画像からのこれら対象物の抽出は、上述の通りカメラ30が供える画像処理部によって実行され、CPU101に対して、対象物の抽出の可否が通知されても良く、あるいは、カメラ30から未処理の画像データがCPU101に送信され、CPU101において実行されても良い。また、注目領域FAは、ライダー20によって取得される環境光画像を用いて決定されても良い。具体的な処理手順は撮像画像と同様である。なお、環境光画像は、発光部24からの検出光に依存しない検出結果画像であり、後に詳述する。
【0025】
CPU101は、撮像画像から注目領域を判別可能でないと判定すると(ステップS102:No)、ステップS110に移行する。注目領域を判別可能でない場合には、高分解能処理の実行対象領域を特定できないからである。注目領域を判別可能でない場合には、例えば、撮像画像に対象物が含まれていない場合、撮像画像のSNが低く画素値を用いた対象物の判別ができない場合が含まれる。CPU101は、撮像画像から注目領域を判別可能であると判定すると(ステップS102:Yes)、
図6に示すように、撮像画像CF中における注目領域FAを決定する(ステップS104)。注目領域FAの決定は、撮像画像CFにおいて抽出された対象物を囲む注目領域としての領域の決定であり、例えば、領域を規定可能な位置座標の決定であり、特定走査角範囲CRを決定するための処理である。より具体的には、対象物の輪郭範囲を特定するための領域の複数点の位置座標であっても良く、画像上における対象物の面積に応じて予め用意されている対象物を囲む矩形領域の四隅の位置座標であっても良い。
図6の例では、対象物として白線BLが抽出され、白線BLを囲む予め用意された略矩形枠によって注目領域FAが規定されている。
【0026】
CPU101は、ライダー20によって取得された検出点群データを取得し、決定された注目領域に対する高分解能処理が必要であるか否かを判定する(ステップS106)。高分解能処理が必要であるか否かは、例えば、ライダー20によって取得された検出点群データの検出率DRが予め定められた基準検出率に対応する判定しきい値DRr以下であるか否かによって決定される。検出率DRとしては、例えば、過去の検出点群データがメモリ102に格納されている場合には、過去の検出点群データに対する今回の検出点群データの、最大検出距離の比、および路面上における検出点数の比が用いられ、過去の検出点群データがメモリ102に格納されていない場合には、予め定められた標準の検出点群データに対する今回の検出点群データの、最大検出距離の比、および路面上における検出点数の比が用いられる。なお、標準の検出点群データを用いて求められた検出率DRは、過去の検出点群データとしてメモリ102に格納される。さらに、過去の履歴を考慮する検出率に加えて、あるいは、過去の履歴を考慮する検出率とは別に、天候情報を用いて検出率が決定されていても良い。CPU101は、外部との通信により得られた環境情報としての天気予報情報、あるいは、自車両におけるワイパースイッチのオン情報を用いて、例えば、天候が雨や雪の場合には、検出率DRは判定しきい値DRr以下であると判定し、天候が雨や雪以外の場合には、検出率DRは判定しきい値DRrより大きいと判定しても良い。なお、天候情報としては、濃霧情報や太陽の高度情報といった、ライダー20の検出精度に影響を与える可能性のある情報が用いられても良い。
【0027】
CPU101は、検出率DRが判定しきい値DRr以下である、すなわち、DR≦DRrであると判定すると、高分解能処理が必要であると判定し(ステップS106:Yes)、高分解能処理を実行する(ステップS108)。高分解能処理においては、CPU101は、発光部24、すなわち、発光制御部に対して基準回数よりも高い回数、基準間隔よりも短い間隔、あるいは基準回数よりも多い回数で、発光制御信号を出力する。CPU101はまた、受光制御部23に対して、8個の受光素子220から構成される受光画素222を用いる基準受光処理に代えて、1個の受光素子220から構成される受光画素221を用いる高分解能受光処理を実行させる受光制御信号を出力する。この結果、注目領域FAに対して、
図7のライダー20による検出フレームLFに示されるように、通常処理時における検出点Dnpの数よりも、水平方向HDおよび垂直方向VDにおいて検出点Dhpの数を増大させる高分解能処理が実現される。この結果、
図7に示すように、注目領域FAにおける検出点Dhpが増大され、分解能が高められて白線BLの検出精度が向上される。なお、既述のように、垂直方向VDにおける検出点の数を増大させるために1個の受光素子220から構成される受光画素221を用いることによりSレベルは低下するが、特定走査角範囲CRにおける検出群の取得回数を増大させることによって、一定の走査周期を維持しつつ、各受光画素221の受光回数並びに受光処理回数が増大するので入射光強度信号のSレベルは増大し、結果として、通常処理時におけるSNと同等のSNが実現され得る。
【0028】
CPU101は、検出率DRが判定しきい値DRrより大きい、すなわち、DR>DRrであると判定すると、高分解能処理は不要であると判定し(ステップS106:No)、通常処理を実行する(ステップS110)。通常処理においては、CPU101は、発光部24に対して基準回数で発光制御信号を出力し、受光制御部23に対して、8個の受光素子220から構成される受光画素222を用いる基準受光処理を実行させる受光制御信号を出力する。この結果、
図7に示される検出点Dnpが得られる通常処理が実現される。なお、通常処理は基準受光処理または基準分解能処理と言うこともできる。
【0029】
CPU101は、高分解能処理または通常処理によって得られた検出点群を用いて勾配推定処理を実行して(ステップS112)、本処理ルーチンを終了する。
図7の例では、注目領域FAは右側の白線を例にとって示されているが、左側の白線についても同様に注目領域FAが決定され、高分解能処理が実行されても良い。勾配推定処理は、自車両の進行方向における道路の勾配の推定を行う処理である。したがって、自車両の進行方向に対して左右に位置する道路端あるいは白線は略平行であり、道幅も略一定であるという前提の下、道路端あるいは道路境界を示す少なくとも一本の線分が特定されれば、道路の領域が規定され、さらに二本以上の線分が特定されれば道路の領域の規定精度が向上される。具体的には、特定された道路の領域に含まれる検出点群を用いて平面を規定し、規定された平面を用いて勾配が推定される。検出点群を用いる勾配推定は、既知の手法、例えば、RANSAC(Random Sample Consensus)法、最小二乗法を用いることにより実行される。平面は、ax+by+cz+d=0(式1)によって規定される。この条件下において、RANSACを用いて、式2の係数、a、b、c、dを算出して前方路面を三次元座標上において規定する。得られた係数により規定される平面の法線を求め、予め規定されている基準平面の基準法線に対して算出された法線がなす角度を求める。これによって、前方路面の勾配が推定される。なお、基準平面は、自車両が載る水平面であり、自車両が現在載っている現在路面の勾配については、基準平面と現在路面の勾配が一致している状態からの勾配変化、すなわち、勾配差を履歴としてメモリ102に格納しておくことによって補正することができる。さらに、自車両の左右における道路端または白線に対応する2つの線分について勾配が求められることによって、勾配の推定精度はさらに向上する。また、左右の線分を構成する各検出点の座標位置情報を用いることによって、道路の左右方向への傾斜を推定することもできる。
【0030】
以上説明した第1の実施形態に係る道路勾配推定装置100によれば、カメラ30を用いて道路上における注目領域FAを決定し、決定された注目領域FAにおける検出点群の分解能を増大させて高分解能検出点群が取得される。したがって、白線の有無や白線の明瞭度に左右されることなく、自車両の前方における道路の勾配を推定するために用いられる対象物を特定し、特定した対象物から得られる検出点の分解能が向上され、路面の勾配の推定精度を向上させることができる。より具体的には、受光部21における受光画素の数、すなわち、受光単位を増大させることによって、垂直方向VDにおける検出点群数が増大され、注目領域FAにおける垂直方向VDの分解能が増大される。この分解能の増大により注目検出点群、特には、高信号強度検出点群が取得可能となる。また、カメラ30の撮像画像を用いて道路上、すなわち、自車両の前方領域における注目領域FAを決定することによって、自車両の前方における路面の規定に有用な走査領域を特定することが可能となり、注目領域FAに対応する特定走査角範囲CRにおける検出点群の取得回数を増大させることができる。特定走査角範囲CRにおける検出点群の取得回数が増大されることによって、予め定められている走査間隔を延ばすことなく、検出点群の入射光強度信号の信号強度を高めて、垂直方向VDへの分解能の増大に伴う各検出点の入射光強度信号の強度低下を補填し、高分解能で十分な信号強度の特定検出点群を得ることができる。この結果、垂直方向VDにおける高密度の検出点群を用いて平面、すなわち、路面の抽出精度を向上させることが可能となり、道路の勾配の推定精度を向上させることができる。また、道路勾配が変化する場合における勾配の推定精度を向上させることができる。なお、垂直方向VDにおける分解能の増大は、受光単位の増大の他に、垂直方向VDへの走査を実行することによって、検出点数を増大させることによって実現されても良い。道路の勾配の推定精度が増大することにより、白線が片側にのみ存在する道路についても道路勾配を推定することが可能となり、白線の曲率の算出精度を向上させることができる。また、道路勾配に合わせて、車両における原動機の制御を適確化することができる。例えば、内燃機関と電動機とを備える、いわゆるハイブリッド車両において内燃機関および電動機による動力分配を適切に制御することができる。
【0031】
第1の実施形態に係る道路勾配推定装置100においては、垂直方向VDにおける分解能の増大に加えて、水平方向HDにおける検出点群の分解能が増大されてもよい。この結果、垂直方向VDおよび水平方向HDにおける高密度の検出点群を用いて平面、すなわち、路面の抽出精度をさらに向上させることが可能となり、道路の勾配の推定精度をさらに向上させることができる。また、道路勾配が変化する場合における勾配の推定精度をさらに向上させることができる。水平方向HDにおける検出点群の分解能の増大は、例えば、電動機ドライバに対する回転角度指示信号の送信回数を通常処理時よりも多くする、すなわち、単位走査角を小さくすることにより実行され得る。さらに、第1の実施形態における垂直方向と水平方向とを入れ替えて上述の処理が実行されても良い。すなわち、ライダー20が縦横90°回転された状態で配置され、すなわち、
図3に示す受光素子アレイ22が90°回転された状態で配置され、上記説明における垂直方向を水平方向と読み替え、水平方向を垂直方向と読み替えて、道路勾配推定装置100が実現されても良い。
【0032】
上記の勾配推定処理においては、平面を用いて勾配が推定された。これに対して、線分を用いて勾配が推定されても良い。本実施形態においては、白線に対応する線分を検出するための分解能が高められているので、線分を精度良く規定することが可能となり、一本の線分が用いられる場合であっても勾配の推定精度が向上される。具体的には、特定された線分を構成する各検出点の3次元の座標情報(x、y、z)を用い、自車両の座標系においてz軸が垂直方向VDの座標軸である場合、各検出点のz座標の増分または減分を用いて線分の勾配を求めることができる。点群から直線を求めるためには、既述のRANSAC法、最小二乗法、が用いられる。線分は、ax+by+c=0(式1)によって規定される。この条件下において、RANSACを用いて、式1の係数、a、b、cを算出して前方路面の道路端または白線を示す線分が規定される。予め規定されている基準平面に対して規定された線分がなす角度を求めることにより、前方路面の勾配が推定される。
【0033】
第1の実施形態に係る道路勾配推定装置100によれば、カメラ30およびライダー20の双方を用いて道路勾配が推定されるので、一方に不具合が発生した場合であっても、道路の勾配推定を継続することができる。
【0034】
上記の説明においては、特定検出点群として、垂直方向VDにおける分解能を増大し、注目領域FAに対応する特定走査角範囲CRにおいてライダー20により検出点群の取得回数を増大させて分解能の増大に伴う入射光強度の低下を補填して高分解能検出点群を取得し、道路勾配が推定された。これに対して、注目領域における分解能を増大させることなく、注目領域に対応する特定走査角範囲CRにおいてライダー20による検出点群の取得回数を増大させることにより、入射光強度信号の信号強度を増大させた高信号強度検出点群を注目検出点群として取得し、道路勾配が推定されても良い。すなわち、特定走査角範囲CRに対するライダー20による検出点群の取得回数の増大は注目検出点群、特には、高信号強度検出点群の取得に該当する。この場合には、垂直方向VDにおける分解能を高めることができない受光素子220が用いられる場合、あるいは、水平方向HDにおいて分解能を高めることができない電動機40または走査鏡26が用いられる場合であっても、道路勾配の推定精度を向上させることができる。すなわち、白線等の対象物に対応する検出点群を示す入射光強度信号の信号強度が高められることにより、白線等の対象物の検出精度が向上し、路面の抽出精度が向上され、道路勾配の推定精度が向上される。
【0035】
第1の実施形態において、高分解能受光処理が実行される場合には、走査鏡26は、特定走査角範囲CRにおいて繰り返し往復動されても良い。このように、走査鏡26が、特定走査角範囲CRに絞って走査を繰り返すことによっても特定走査角範囲CRにおける検出点群をなす各検出点の信号強度を増大させることが可能となる。
【0036】
第2の実施形態:
第1の実施形態においては、勾配推定プログラムPr1は、注目領域FAにおいて得られる高分解能検出点群を用いて路面の勾配を推定するが、第2の実施形態においては、勾配推定プログラムPr1は、注目領域FAを決定できず、あるいは、注目領域FAを近傍でしか決定できず、高分解能検出点群を得ることができない場合に、通常の検出点群に加えて、ライダー20により得られる環境光画像を補完的に用いて路面の勾配を推定するように構成されている。一般的に、路面は近傍においてのみライダー20の反射点を検出できる場合があり、このような場合においても環境光画像が用いられる。なお、第2の実施形態に係る道路勾配推定装置の構成は第1の実施形態に係る道路勾配推定装置100の構成と同様であるから同一の符合を付すことで説明を省略する。一般的に、ライダー20は、発光部24により検出光を照射し、検出光に応じた反射光を受光部21が受光することによって検出点群を検出、取得する。受光部21は、予め定められたしきい値を超える入射信号強度の入力に応じて検出点の存在を識別・検知するが、受光部21に対しては随時、外乱光とも呼ばれる環境光も入射されている。ライダー20は、カメラ30により検出される可視光領域とは異なる赤外領域の入射光を受光するので、各受光画素による環境光の受光結果は赤外の画素画像を形成し、
図8に示すような環境光画像LFとして用いられ得る。
図8において環境光画像LFには白線BLが含まれており、白線BLによって規定される道路、あるいは、路面が抽出可能となる。
【0037】
道路勾配推定装置100は、環境光の強度が予め定められたしきい値よりも高い場合に環境光画像を用いても良い。環境光画像LFは、発光部24からの検出光に依存しない検出結果画像であり、夜間や日中の影領域においては、所望の信頼度を満足する環境光画像を得ることができず、結果として検出点群を補完する精度の良い勾配推定処理を実行できない。環境光の強度は、例えば、受光部21によって受光される信号強度の最大値や平均値を用いて予め定められたしきい値と比較される。道路勾配推定装置100は、環境光の強度が予め定められたしきい値よりも強い場合には、検出点群に加えて環境光画像を用いて勾配推定処理を実行し、環境光の強度が予め定められたしきい値よりも弱い場合には、環境光画像を用いることなく検出点群のみを用いて勾配推定処理を実行する。なお、環境光画像LFにおける路面の勾配は、抽出された路面の法線を算出し、既述の手法により求められる。道路勾配推定装置100は、例えば、検出点群を用いて得られた勾配と、環境光画像を用いて得られた勾配とを用いて、平均または加重平均により勾配を得ることができる。この場合には、カメラ30によって注目領域FAを特定できず、高分解能処理を実行できない場合であっても、道路の勾配を精度良く推定することができる。
【0038】
さらに、
図9に示すように、ライダー20により検出点群Dnpが得られない遠方の路面領域に対して、環境光画像LFにより得られる抽出路面ESLを用いて路面を外挿し、遠方の路面の勾配が推定されても良い。この結果、検出光に応答する路面からの反射光が得られない遠方の路面の勾配を推定することができる。なお、外挿は、得られている検出点群Dnpにより規定される平面の勾配と、抽出路面ESLの勾配とが近似または一致する場合に実行される。これにより、手前の路面と遠方の路面との連続性が保証される。
【0039】
第3の実施形態:
第3の実施形態に係る道路勾配推定装置は、勾配推定プログラムPr1が注目領域FAを決定するに際して過去に決定された注目領域FAの履歴を用いて注目領域FAを決定する点で第1の実施形態に係る道路勾配推定装置100と異なる。なお、第3の実施形態に係る道路勾配推定装置のその他の構成は第1の実施形態に係る道路勾配推定装置100と同様であるから同一の符合を付して説明を省略する。
【0040】
図10および
図11を参照して、注目領域FAの履歴を用いる勾配推定処理について詳述する。過去に決定された注目領域FAとは、例えば、カメラ30による撮像により得られるフレーム画像において、現在フレーム画像CFcよりも時間的に過去の前フレーム画像CFpを用いて決定された前注目領域FApである。なお、カメラ30におけるフレームレートは60fps程度であり、前フレーム画像CFpと現在フレーム画像CFcとの間の時間差は、数十ミリ秒である。第3の実施形態に係る道路勾配推定装置100は、前注目領域FApを用いて、現在フレーム画像CFcにおける現在注目領域FAcを決定する。前注目領域FApを用いるとは、前注目領域FApを規定する座標位置情報を用いることを意味し、現在フレーム画像CFcにおいて、前注目領域FApの座標位置情報を用いることによって、現在フレーム画像CFcの全画素あるいは全領域を走査することなく、白線BLが存在する領域または白線BLの近似領域において現在注目領域FAcの決定処理を開始することができる。この結果、注目領域FAを決定するための演算処理量を低減し、注目領域FAを決定するまでに要する時間を低減することができる。なお、過去のフレーム画像CFpは、メモリ102に格納されて得る。
【0041】
第4の実施形態:
第4の実施形態に係る道路勾配推定装置は、勾配推定プログラムPr1が注目領域FAを決定するに際して過去に検出された対象物の履歴を用いて注目領域FAを決定する点で第1の実施形態に係る道路勾配推定装置100と異なる。なお、第4の実施形態に係る道路勾配推定装置のその他の構成は第1の実施形態に係る道路勾配推定装置100と同様であるから同一の符合を付して説明を省略する。
【0042】
図12を参照して、過去に検出された対象物の履歴を用いる勾配推定処理について詳述する。なお、
図12に示す処理ルーチンは、
図5に示す処理ルーチンと同様にして所定時間間隔で繰り返し実行される。過去に検出された対象物とは、例えば、カメラ30による撮像により得られるフレーム画像において、現在フレーム画像CFcよりも時間的に過去の前フレーム画像CFpを用いて検出された道路上の物体である。第4の実施形態に係る道路勾配推定装置100、すなわち、CPU101は、対象物の履歴の有無を判定する(ステップS200)。対象物の検出履歴は、メモリ102の領域102aに対象物履歴ORとして格納されており、検出済みの対象物に関する情報、例えば、座標位置情報、形状情報といった情報が格納されている。CPU101は、対象物履歴ORに対象物の検出が記録されていない場合には(ステップS200:No)、ステップS206に移行する。CPU101は、対象物履歴ORに対象物の検出が記録されている場合には(ステップS200:Yes)、記録されている履歴対象物と同一の対象物を探索する(ステップ202)。具体的には、CPU101は、対象物履歴ORに格納されている座標位置情報や形状情報を用いて現在フレーム画像CFcから該当する対象物を抽出する。CPU101は、探索が成功、すなわち、現フレーム画像Cfcにおいて、過去に検出された対象物と一致する対象物が検出された場合には(ステップS204:Yes)、検出された対象物を用いて注目領域FAを決定することを決定し、本処理ルーチンを終了する。
【0043】
CPU101は、過去に検出された対象物と一致する対象物が検出されない場合には(ステップS204:No)、ステップS206に移行する。CPU101は、現在フレーム画像CFcに対する白線の探索を実行して(ステップS206)、白線を用いて注目領域FAを決定することを決定し、本処理ルーチンを終了する。
【0044】
第4の実施形態に係る道路勾配推定装置100によれば、過去に検出された対象物の情報を用いて、現在フレーム画像CFcから対象物を抽出し、注目領域FAを決定することができる。過去に検出された対象物を用いることによって、カメラ30のフレーム画像における対象物の誤検出を抑制または防止することが可能となり、また、対象物を特定し、注目領域FAを決定するまでに要する演算処理量の低減、並びに時間の低減を図ることができる。
【0045】
第5の実施形態:
第5の実施形態に係る道路勾配推定装置は、勾配推定プログラムPr1が、車両50から離間するにつれて、ライダーの垂直方向における分解能を増大させる点で第1の実施形態に係る道路勾配推定装置100と異なる。なお、第5の実施形態に係る道路勾配推定装置のその他の構成は第1の実施形態に係る道路勾配推定装置100と同様であるから同一の符合を付して説明を省略する。
【0046】
図13に示すように、従来のライダー20pでは、ライダー20pの垂直方向における路面の検出点の密度は、車両50から離間するにつれて低くなる。すなわち、車両50の鉛直方向を垂直角度0°とする場合、垂直角度が大きくなるにつれてライダー20pの垂直方向における路面の検出点の密度は低くなり、あるいは、検出間隔は広くなり得られる検出結果の分解能が低下する。例えば、車両50の近傍、すなわち、垂直角度が小さい領域、においては、検出点の間隔は狭く、また、ライダー20pから路面までの距離も短いため、反射光を得やすい。これに対して、車両50の遠方、すなわち、垂直角度が大きい領域、においては、検出点の間隔は広く、また、ライダー20pから路面までの距離も長いため、反射光を得にくい。この結果、車両50から離間するにつれて、検出点間の距離が増大して検出点密度が低下する。そこで、
図14に示すように、CPU101は、車両から離間するにつれてライダー20の垂直方向の分解能を増大させて注目検出点群として高分解能検出点群を取得する。具体的には、
図15に示すように、受光制御部23は、受光素子アレイ22において、ライダー20の垂直方向に対応する方向に配置されている受光素子220により構成される受光画素が、車両50から離間するにつれて少ない数の受光素子220を有するように受光制御を実行する。
図15の例においては、車両50に最も近い位置に対応する受光画素22eは5つの受光素子220により構成され、車両50から最も遠い位置に対応する受光画素22aは1つの受光素子220により構成されている。受光素子22eから受光素子22aに向かって、4つの受光素子220によって構成される受光画素22d、3つの受光素子220によって構成される受光画素22c、2つの受光素子220によって構成される受光画素22bといったように順次、受光画素を構成する受光素子数は低減される。すなわち、車両50からの距離の大小によらず、検出点の間隔D1は一定となるように受光素子アレイ22における受光画素を構成する受光素子数が設定される。第5の実施形態によれば、車両50から離間する方向に向かって、分解能が増大されるので、車両50からの距離によらず、同一の分解能を得ることが可能となり、この結果、車両50からの距離の大小にかかわらず、物体の検出精度を維持することができる。なお、受光画素を構成する受光素子220の数は例示であり、車両50から離間するにつれて受光素子数が少なくなればどのような数であっても良い。なお、上記説明においては、車両から離間するにつれて受光素子アレイ22における受光画素を構成する受光素子数を低減することにより、車両から離間するにつれて垂直方向の分解能を増大させて注目検出点群として高分解能検出点群が取得されている。これに対して、垂直方向に走査可能なライダー20が用いられる場合には、受光素子アレイ22における受光画素の調整を行わず、車両から離間するにつれて単位走査角を小さくすることによって、車両から離間するにつれて垂直方向の分解能を増大させて、注目検出点群として高分解能検出点群が取得されても良い。
【0047】
その他の実施形態:
(1)第1~第5の実施形態において推定される勾配を用いる応用例について説明する。例えば、自車両の進行方向における道路の勾配を予め高い精度で取得することによって、スロットル開度や変速段を調整し、上り勾配であれば車速の低下の抑制または防止を図り、下り勾配であれば、車速の増加の抑制または防止を図ることができる。
【0048】
(2)対象物の抽出に際しては、
・白線、中央分離帯、およびアスファルトの抽出には、カメラ30の撮像画像およびライダー20の環境光画像が用いられ、
・ガードレールおよび縁石の抽出には、カメラ30の撮像画像、ライダー20の環境光画像、およびライダー20の検出点が用いられ、
・チャッターバーおよびキャッツアイの抽出には、ライダー20の強反射の検出点が用いられ、
・先行車両の抽出には、カメラ30の撮像画像、ライダー20の環境光画像、ライダー20の検出点、およびミリ波レーダの検出点が含まれる。
【0049】
(3)上記各実施形態においては、CPU101が勾配推定プログラムPr1を実行することによって、ソフトウェア的に注目領域FAを決定し、高分解能処理を実行し、勾配を推定する道路勾配推定装置100が実現されているが、予めプログラムされた集積回路またはディスクリート回路によってハードウェア的に実現されても良い。すなわち、上記各実施形態における制御部およびその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つまたは複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部およびその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部およびその手法は、一つまたは複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0050】
以上、実施形態、変形例に基づき本開示について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本開示の理解を容易にするためのものであり、本開示を限定するものではない。本開示は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本開示にはその等価物が含まれる。たとえば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0051】
10…道路勾配推定システム、20…ライダー、30…カメラ、40…電動機、100…道路勾配推定装置、101…CPU、102…メモリ、103…入出力インタフェース、104…内部バス、50…車両、Pr1…勾配推定プログラム。