IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セイコーエプソン株式会社の特許一覧

特許7452074印刷制御装置、印刷方法および印刷制御プログラム
<>
  • 特許-印刷制御装置、印刷方法および印刷制御プログラム 図1
  • 特許-印刷制御装置、印刷方法および印刷制御プログラム 図2
  • 特許-印刷制御装置、印刷方法および印刷制御プログラム 図3
  • 特許-印刷制御装置、印刷方法および印刷制御プログラム 図4
  • 特許-印刷制御装置、印刷方法および印刷制御プログラム 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】印刷制御装置、印刷方法および印刷制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/21 20060101AFI20240312BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240312BHJP
   B41J 2/525 20060101ALI20240312BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
B41J2/21
B41J2/01 401
B41J2/525
G06T1/00 510
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020026269
(22)【出願日】2020-02-19
(65)【公開番号】P2021130237
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096703
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 俊之
(72)【発明者】
【氏名】荒崎 真一
【審査官】大浜 登世子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-041009(JP,A)
【文献】特開2006-015494(JP,A)
【文献】特開2004-202922(JP,A)
【文献】特開2015-054503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
B41J 2/525
G06T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
色変換に用いる色変換ルックアップテーブルを記憶する記憶部と、
入力画像データを、前記色変換ルックアップテーブルを参照して色変換することにより所定のインク色空間で表現された画像データである印刷データを生成する印刷データ生成部と、
前記印刷データに基づく印刷媒体への印刷を印刷部に実行させる印刷制御部と、を備え、
前記色変換ルックアップテーブルは、前記印刷部における印刷媒体の温度を示す温度情報入力色空間の次元数の色情報組み合わせて前記次元数を1増やした情報と、前記インク色空間の色情報と、の対応関係を規定している1つの色変換ルックアップテーブルであり
前記印刷データ生成部は、前記入力色空間で表現された入力画像データに、前記印刷部から入力した前記温度情報組み合わせた画素単位のデータを前記1つの色変換ルックアップテーブルに入力して変換することにより前記印刷データを生成し、
前記印刷制御部は、前記印刷部による印刷の少なくとも一部を、前記印刷データ生成部による印刷データの生成と並行して実行させる、ことを特徴とする印刷制御装置。
【請求項2】
前記印刷部から入力した前記温度情報が所定の温度範囲外の値である場合に、前記印刷データの生成および前記印刷部による印刷を中断し、その後に前記印刷部から入力する前記温度情報が前記温度範囲内の値となるまで前記印刷データの生成および前記印刷部による印刷の再開を待機する、ことを特徴とする請求項1に記載の印刷制御装置。
【請求項3】
前記印刷部から入力した前記温度情報が前記温度範囲外の値である場合に、前記温度情報が前記温度範囲内の値となるように、前記印刷部における印刷媒体または印刷媒体を支持する支持部の温度を調整可能な温度調整部を制御する、ことを特徴とする請求項2に記載の印刷制御装置。
【請求項4】
前記印刷部から入力した前記温度情報が前記温度範囲外の値である場合に、前記印刷データ生成部は、ページ単位の印刷データの生成を終えてから印刷データの生成を中断し、前記印刷制御部は、ページ単位の印刷データに基づく印刷を前記印刷部に実行させてから前記印刷部による印刷を中断する、ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の印刷制御装置。
【請求項5】
入力画像データを、色変換ルックアップテーブルを参照して色変換することにより所定のインク色空間で表現された画像データである印刷データを生成する印刷データ生成工程と、
前記印刷データに基づく印刷媒体への印刷を印刷部が実行する印刷工程と、を備え、
前記色変換ルックアップテーブルは、前記印刷部における印刷媒体の温度を示す温度情報入力色空間の次元数の色情報組み合わせて前記次元数を1増やした情報と、前記インク色空間の色情報と、の対応関係を規定している1つの色変換ルックアップテーブルであり
前記印刷データ生成工程では、前記入力色空間で表現された入力画像データに、前記印刷部から入力した前記温度情報組み合わせた画素単位のデータを前記1つの色変換ルックアップテーブルに入力して変換することにより前記印刷データを生成し、
前記印刷工程の少なくとも一部を、前記印刷データ生成工程と並行して実行する、ことを特徴とする印刷方法。
【請求項6】
印刷制御プログラムであって、
入力画像データを、色変換ルックアップテーブルを参照して色変換することにより所定のインク色空間で表現された画像データである印刷データを生成する印刷データ生成機能と、
前記印刷データに基づく印刷媒体への印刷を印刷部に実行させる印刷制御機能と、をプロセッサーに実行させ、
前記色変換ルックアップテーブルは、前記印刷部における印刷媒体の温度を示す温度情報入力色空間の次元数の色情報組み合わせて前記次元数を1増やした情報と、前記インク色空間の色情報と、の対応関係を規定している1つの色変換ルックアップテーブルであり
前記印刷データ生成機能は、前記入力色空間で表現された入力画像データに、前記印刷部から入力した前記温度情報組み合わせた画素単位のデータを前記1つの色変換ルックアップテーブルに入力して変換することにより前記印刷データを生成し、
前記印刷制御機能は、前記印刷部による印刷の少なくとも一部を、前記印刷データ生成機能による印刷データの生成と並行して実行させる、ことを特徴とする印刷制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷制御装置、印刷方法および印刷制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
印刷要求がなされたときに、インクジェットプリンターの内部温度が40℃以下であるときには通常時用の色変換用のルックアップテーブル(以下、LUT)を用いて印刷データを生成し、40℃を超えているときには、ユーザーによる後続動作の選択を経て、高温時用の色変換用のLUTを用いて印刷データを生成する印刷指示装置が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006‐15494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インクは温度に応じて粘度が変化する。そのため、印刷ヘッドから吐出されて印刷媒体に着弾したインクの粘度は、印刷媒体の温度の影響を受ける。印刷媒体へ着弾したインクの広がり方、つまり印刷媒体を被覆する程度は、その粘度に応じて変わるため、印刷媒体の温度に応じて印刷結果の色が異なり、印刷品質が安定しないという課題があった。また、前記文献では、複数の温度に応じて用意したLUTのうち使用するLUTを、温度に応じて切り替える処理が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
印刷制御装置は、色変換に用いる色変換LUTを記憶する記憶部と、入力画像データを、前記色変換LUTを参照して色変換することにより所定のインク色空間で表現された画像データである印刷データを生成する印刷データ生成部と、前記印刷データに基づく印刷媒体への印刷を印刷部に実行させる印刷制御部と、を備え、前記色変換LUTは、前記印刷部における印刷媒体の温度を示す温度情報入力色空間の次元数の色情報組み合わせて前記次元数を1増やした情報と、前記インク色空間の色情報と、の対応関係を規定している1つの色変換LUTであり、前記印刷データ生成部は、前記入力色空間で表現された入力画像データに、前記印刷部から入力した前記温度情報組み合わせた画素単位のデータを前記1つの色変換LUTに入力して変換することにより前記印刷データを生成し、前記印刷制御部は、前記印刷部による印刷の少なくとも一部を、前記印刷データ生成部による印刷データの生成と並行して実行させる。
【0006】
印刷方法は、入力画像データを、色変換LUTを参照して色変換することにより所定のインク色空間で表現された画像データである印刷データを生成する印刷データ生成工程と、前記印刷データに基づく印刷媒体への印刷を印刷部が実行する印刷工程と、を備え、前記色変換LUTは、前記印刷部における印刷媒体の温度を示す温度情報入力色空間の次元数の色情報組み合わせて前記次元数を1増やした情報と、前記インク色空間の色情報と、の対応関係を規定している1つの色変換LUTであり、前記印刷データ生成工程では、前記入力色空間で表現された入力画像データに、前記印刷部から入力した前記温度情報組み合わせた画素単位のデータを前記1つの色変換LUTに入力して変換することにより前記印刷データを生成し、前記印刷工程の少なくとも一部を、前記印刷データ生成工程と並行して実行する。
【0007】
印刷制御プログラムは、入力画像データを、色変換LUTを参照して色変換することにより所定のインク色空間で表現された画像データである印刷データを生成する印刷データ生成機能と、前記印刷データに基づく印刷媒体への印刷を印刷部に実行させる印刷制御機能と、をプロセッサーに実行させ、前記色変換LUTは、前記印刷部における印刷媒体の温度を示す温度情報入力色空間の次元数の色情報組み合わせて前記次元数を1増やした情報と、前記インク色空間の色情報と、の対応関係を規定している1つの色変換LUTであり、前記印刷データ生成機能は、前記入力色空間で表現された入力画像データに、前記印刷部から入力した前記温度情報組み合わせた画素単位のデータを前記1つの色変換LUTに入力して変換することにより前記印刷データを生成し、前記印刷制御機能は、前記印刷部による印刷の少なくとも一部を、前記印刷データ生成機能による印刷データの生成と並行して実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】印刷制御装置等の構成を簡易的に示すブロック図。
図2】印刷部の構成を簡易的に示す図。
図3】印刷方法を示すフローチャート。
図4】色変換LUTおよび色変換LUTの生成工程の例を説明するための図。
図5】中断・再開処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、各図を参照しながら本発明の実施形態を説明する。なお各図は、本実施形態を説明するための例示に過ぎない。各図は例示であるため、比率や形状が正確でなかったり、互いに整合していなかったり、一部が省略されていたりする場合がある。
【0010】
1.装置構成:
図1は、本実施形態にかかる印刷システム40の構成を簡易的に示している。
印刷システム40は、印刷制御装置10、記憶部20および印刷部30を含む。印刷制御装置10は、制御部11、表示部13、操作受付部14、通信IF15等を備える。IFは、インターフェイスの略である。制御部11は、プロセッサーとしてのCPU11a、ROM11b、RAM11c等を有する一つ又は複数のICや、その他の不揮発性メモリー等を含んで構成される。
【0011】
制御部11では、プロセッサーつまりCPU11aが、ROM11bや、その他のメモリー等に保存された一つ以上のプログラム12に従った演算処理を、RAM11c等をワークエリアとして用いて実行することにより種々の制御を行う。制御部11は、プログラム12に従うことにより、印刷データ生成部12aや印刷制御部12bとして機能する。プログラム12は、印刷制御プログラムに該当する。なお、プロセッサーは、一つのCPUに限られることなく、複数のCPUや、ASIC等のハードウェア回路により処理を行う構成であってもよいし、CPUとハードウェア回路とが協働して処理を行う構成であってもよい。
【0012】
表示部13は、視覚情報を表示するための手段であり、例えば、液晶ディスプレイや、有機ELディスプレイ等により構成される。表示部13は、ディスプレイと、ディスプレイを駆動するための駆動回路とを含む構成であってもよい。操作受付部14は、ユーザーによる操作を受け付けるための手段であり、例えば、物理的なボタンや、タッチパネルや、マウスや、キーボード等によって実現される。むろん、タッチパネルは、表示部13の一機能として実現されるとしてもよい。
【0013】
表示部13や操作受付部14は、印刷制御装置10の構成の一部であってもよいが、印刷制御装置10に対して外付けされた周辺機器であってもよい。通信IF15は、印刷制御装置10が公知の通信規格を含む所定の通信プロトコルに準拠して有線又は無線で外部と接続するための一つまたは複数のIFの総称である。
【0014】
記憶部20は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)や、SSD(Solid State Drive)により実現される。SSDは、フラッシュメモリーにより構成され、HDDと比較してデータの読み書きが高速である。ROM11bやRAM11cを記憶部20の一部と解してもよい。
【0015】
印刷部30は、搬送部31や印刷ヘッド32を含んでいる。印刷部30は、インクジェット方式により、例えばシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)といった複数の色のインクを印刷媒体へ吐出して印刷を実行する。印刷部30の具体例については、図2を用いて後述する。
【0016】
印刷制御装置10と記憶部20とは、互いに独立した装置であってもよいし、印刷制御装置10の一部に記憶部20が含まれる構成であってもよい。また、印刷制御装置10は、複数の装置が互いに通信可能に接続されることにより構成されたシステムであってもよい。
【0017】
印刷部30が、印刷制御装置10や記憶部20から独立した装置であるとき、これを印刷装置、記録装置、画像形成装置、プリンター等と呼んでもよい。
あるいは、印刷システム40全体が、一台の装置40によって実現されるとしてもよい。つまり、一台の印刷装置の中に、印刷制御装置10、記憶部20および印刷部30が含まれると解してもよい。
【0018】
図2は、印刷部30の構成を示している。印刷部30は、繰出軸50および巻取軸51を備える。繰出軸50および巻取軸51にロール状に巻き付けられた1枚のシートPが、搬送経路Pcに沿って張架されている。シートPは、印刷媒体である。シートPは、繰出軸50から巻取軸51へ向かう搬送方向Dsへ搬送されつつ印刷が施される。搬送方向Dsは、搬送経路Pcに沿う方向である。
【0019】
図2の例では、搬送経路Pcは、複数の直線や曲線が組み合わされて形成されているため、搬送方向Dsは搬送経路Pcの各位置で異なっている。シートPの種類は、紙系とフィルム系とに大別される。具体例を挙げると、紙系には上質紙、キャスト紙、アート紙、コート紙等があり、フィルム系には合成紙、PET(Polyethylene terephthalate)、PP(Polypropylene)等がある。
【0020】
印刷部30は、概略、繰出軸50からシートPを繰り出す繰出部1と、繰出部1から繰り出されたシートPに印刷を施すプロセス部2と、プロセス部2により印刷が施されたシートPを巻取軸51に巻き取る巻取部3とを備える。図2において左から右へ並ぶ繰出部1、プロセス部2および巻取部3は、印刷部30の筐体33に収容されている。搬送経路Pcにおいて、繰出部1は、プロセス部2および巻取部3に対して上流に位置する。また、搬送経路Pcにおいて、巻取部3は、繰出部1およびプロセス部2に対して下流に位置する。以下では、搬送経路Pcの上流、下流を、単に、上流、下流と表記する。
【0021】
繰出部1は、繰出軸50と、繰出軸50から引き出されたシートPを巻き掛ける従動ローラー52とを有する。繰出軸50が図2の紙面において時計回りに回転することで、繰出軸50に巻き付けられたシートPが従動ローラー52を経由してプロセス部2へと繰り出される。プロセス部2は、繰出部1から繰り出されたシートPを回動ドラム54で支持しつつ、回動ドラム54の外周面に沿って配置されたプロセスユニットPUにより処理を適宜行って、シートPに画像を印刷する。プロセス部2では、回動ドラム54の上流位置に前駆動ローラー53が設けられ、回動ドラム54の下流位置に後駆動ローラー55が設けられている。前駆動ローラー53から後駆動ローラー55へと搬送されるシートPが回動ドラム54に支持される。
【0022】
前駆動ローラー53は図2の紙面において時計回りに回転することで、繰出部1から繰り出されたシートPを下流へ搬送する。前駆動ローラー53に対してはニップローラー53nが設けられている。ニップローラー53nは、シートPに当接することにより、前駆動ローラー53との間でシートPを挟み込んでいる。
【0023】
回動ドラム54は、図2の紙面に垂直な方向の中心線を持つ円筒形状のドラムである。図2の例では、回動ドラム54が、印刷媒体を支持する「支持部」に該当する。印刷媒体を支持する支持部を、プラテンとも呼ぶ。回動ドラム54は、その円筒形状の中心線を通って軸方向に延びる回動軸300を有している。回動軸300は、不図示の支持機構によって回動可能に支持されており、回動ドラム54は、回動軸300を中心に回動する。このような回動ドラム54の外周面に、前駆動ローラー53から後駆動ローラー55へと搬送されるシートPが巻き掛けられる。回動ドラム54は、シートPとの間の摩擦力を受けてシートPの搬送方向Dsに従動回転しつつ、シートPを支持する。
【0024】
プロセス部2には、回動ドラム54へ巻き掛けられているシートPの範囲の両端でシートPを折り返す従動ローラー56,57が設けられている。従動ローラー56は、前駆動ローラー53と回動ドラム54との間でシートPを巻き掛けて、シートPを折り返す。従動ローラー57は、回動ドラム54と後駆動ローラー55との間でシートPを巻き掛けて、シートPを折り返す。このように回動ドラム54の上流および下流のそれぞれの位置でシートPを折り返すことで、シートPの回動ドラム54へ巻き掛けられる範囲を長く確保することができる。
【0025】
後駆動ローラー55は、回動ドラム54から従動ローラー57を経由して搬送されてきたシートPを巻き掛ける。そして、後駆動ローラー55は図2の紙面において時計回りに回転することで、シートPを巻取部3へと搬送する。後駆動ローラー55に対してはニップローラー55nが設けられている。ニップローラー55nは、シートPに当接することにより、後駆動ローラー55との間でシートPを挟み込んでいる。
【0026】
プロセスユニットPUは、複数の印刷ヘッド32と、UV照射器34とを備える。個々の印刷ヘッ32を区別する場合に、適宜、符号32c,32m,32y,32kを用いる。また、プロセスユニットPUはキャリッジ35を備える。キャリッジ35は、印刷ヘッド32c,32m,32y,32kを搭載している。複数の印刷ヘッド32およびUV照射器34は、回動ドラム54の外周に沿って、回動ドラム54の外周面に対向するように配置されている。例えば、印刷ヘッド32c,32m,32y,32kは、この順にC、M、Y、Kのインクに対応し、対応する色のインクをインクジェット方式により吐出可能である。印刷ヘッド32は、回動ドラム54の外周面に対向する対向面に不図示のノズルを複数有し、印刷データに基づいてインクをノズルから吐出したり吐出しなかったりする。ノズルが吐出するインクを、インク滴と呼んだりドットと呼んだりもする。印刷ヘッド32を、印字ヘッド、インクジェットヘッド、液体吐出ヘッド、等と呼んでもよい。各印刷ヘッド32がインクを吐出することで、回動ドラム54が支持するシートPにカラー画像が印刷される。
【0027】
印刷ヘッド32が使用するインクとして、紫外線の照射を受けることで硬化するUV(Ultra violet)インクが用いられる。UVインクを、光硬化性インクとも呼ぶ。シートPに着弾したインクを硬化させてシートPに定着させるために、UV照射器34が設けられている。UV照射器34は、回動ドラム54の外周面に対向する対向面から紫外線を照射する。図2の例では、各印刷ヘッド32よりも下流にUV照射器34が配置されている。従って、印刷ヘッド32c,32m,32y,32kからシートPに吐出されたCMYKの各インクは、UV照射器34からの紫外線を受けて硬化する。
【0028】
回動ドラム54へシートPを巻き掛ける作業性や印刷ヘッド32のメンテナンス等を考慮して、キャリッジ35は、図2の紙面に垂直な方向に延びる不図示のガイドレールに沿って当該方向へ移動可能な構成となっている。キャリッジ35とキャリッジ35に搭載された複数の印刷ヘッド32をまとめて、カラー印刷を実現するための一つの印刷ヘッドと見なしてもよい。UV照射器34もキャリッジ35に搭載されていてもよい。UV照射器34は複数台在ってもよい。プロセス部2により印刷が施されたシートPは、後駆動ローラー55によって巻取部3へと搬送される。巻取部3は、シートPの端を巻き付けた巻取軸51の他に、巻取軸51と後駆動ローラー55との間でシートPを巻き掛ける従動ローラー58を有する。巻取軸51が図2の紙面において時計回りに回転することにより、後駆動ローラー55から搬送されてきたシートPが従動ローラー58を経由して巻取軸51に巻き取られる。
【0029】
繰出軸50、巻取軸51、回動ドラム54および各ローラーや、これらを適宜回転させるための不図示のモーターは、シートPを搬送する搬送部31の具体例である。シートPを搬送するために搬送経路Pcの途中に設けられるローラーの数や配置は、図2に示した態様に限定されない。また、プロセス部2が印刷に用いるインクの色も、上述した色に限定されない。
【0030】
UV照射器34が照射する紫外線によりシートP上のインクが硬化するときの反応熱により、シートPを支持する回動ドラム54の温度が上昇することがある。また、回動ドラム54に支持されるシートPは、回動ドラム54に接するため、シートPの温度は回動ドラム54の温度の影響を受ける。図2における符号61は、温度センサー61を示す。温度センサー61は、回動ドラム54に支持されているシートPの温度を直接あるいは間接的に検知する。つまり、温度センサー61は、回動ドラム54に支持されているシートPの温度を検知するものであってもよいし、シートPを支持する回動ドラム54の温度を検知するものであってもよい。温度センサー61は、検知した温度を示す温度情報Tを、制御部11へ出力する。このような温度情報Tは、印刷部30における印刷媒体の温度を直接あるいは間接的に示す情報である。
【0031】
符号60は、温度調整部60を示す。回動ドラム54は、印刷部30が置かれた環境の気温や上述したような反応熱の影響により温度が変化する。回動ドラム54の温度が低すぎたり高すぎたりすると回動ドラム54が支持するシートPにおける印刷品質が安定しないため、印刷部30は、回動ドラム54やシートPの温度を安定させるために温度調整部60を有する。温度調整部60は、例えば、回動ドラム54へ送風することにより回動ドラム54を冷却可能なファンを有する。また、温度調整部60は、回動ドラム54を加温可能なヒーターを有するとしてもよい。
【0032】
2.印刷方法:
図3は、本実施形態にかかる印刷方法をフローチャートにより示している。印刷方法は、制御部11がプログラム12に従った処理を行うことにより実現される。図3では印刷方法を構成する、印刷データを生成する印刷データ生成処理と、生成された印刷データを用いる印刷制御処理と、を並列に記載している。
【0033】
ステップS100では、印刷データ生成部12aは、印刷対象の画像を入力する。印刷対象の画像とは、操作受付部14を通じてユーザーから受けた印刷指示により印刷対象として指定された画像データであり、1ページ以上のコンテンツを表現している。ここで言うコンテンツとは、例えば、文字、写真、CG等様々である。印刷データ生成部12aは、指定された画像データを、この画像データの所定の保存元から入力する。ステップS100で入力した画像データを入力画像データと呼ぶ。
【0034】
入力画像データは、所定の入力色空間で色情報が規定された画素を複数有するビットマップデータである。むろん、印刷データ生成部12aは、入力した時点の入力画像データのフォーマットを適宜変換して、所定の入力色空間で色情報が規定された画素を複数有するビットマップデータを取得してもよい。入力色空間は、例えば、RGB(レッド、グリーン、ブルー)色空間である。この場合、入力画像データは、画素毎にRGBの階調値の組み合わせを色情報として有する。1色の階調値は、例えば、0~255の256階調で表現される。
【0035】
ステップS110では、印刷データ生成部12aは、印刷部30から温度情報Tを入力する。これにより、印刷データ生成部12aは、図2の例によれば温度センサー61が検知した現在回動ドラム54に支持されているシートPの温度を入力することができる。
【0036】
ステップS120では、印刷データ生成部12aは、入力画像データの色変換処理を行う。印刷データ生成部12aは、入力画像データを、色変換LUT80を参照して色変換することにより、所定のインク色空間で表現された画像データを生成する。色変換LUT80は、予め生成されて記憶部20に記憶されている。インク色空間は、上述の例のように印刷部30がCMYKインクを印刷に使用する機種であれば、CMYK表色系ということになる。
【0037】
このような色変換処理は、一般的に、RGB毎の階調値の組み合わせであるRGBデータとCMYK毎の階調値の組み合わせであるインク量データとの対応関係を、複数のRGBデータについて規定した色変換LUTを参照して行われる。
これに対して本実施形態では、色変換LUT80は、温度情報TとRGBデータとの組み合わせであるTRGBデータと、インク色空間の色情報つまりインク量データと、の対応関係を、複数のTRGBデータについて規定している。そして、色変換処理では、印刷データ生成部12aは、入力画像データを構成する画素毎のRGBデータとステップS110で入力した温度情報Tとの組み合わせを、色変換LUT80を参照して変換する。色変換処理の結果、画素毎にインク量データを有する画像データが生成される。
【0038】
ここで、色変換LUT80について説明する。
図4は、色変換LUT80および色変換LUT80の生成工程の例を説明するための図である。色変換LUT80の生成工程は、印刷制御装置10が予め実行するとしてもよいし、印刷制御装置10以外の情報処理装置が予め実行するとしてもよい。ここでは、印刷制御装置10が色変換LUT80の生成工程を実行すると仮定する。図4内の上段には、印刷部30がシートPに印刷したカラーチャート70の一部を示している。符号70の隣に括弧書きで記した「T=T1」等は、カラーチャート70を印刷したときの温度情報Tである。つまり、制御部11は、温度調整部60を制御して温度情報T=T1である状況を作り出した上で、印刷部30にカラーチャート70の印刷を実行させる。カラーチャート70は、複数のカラーパッチの集合である。カラーチャート70を構成する各カラーパッチは、互いに異なるインク量データで夫々の色が定義されている。
【0039】
同様に、図4内の中段には、温度情報T=T2とした状況で印刷部30が印刷したカラーチャート70の一部を示し、図4内の下段には、温度情報T=T3とした状況で印刷部30が印刷したカラーチャート70の一部を示している。例として、T1は20℃であり、T2は25℃であり、T3は30℃であるとする。つまり、制御部11は、同じカラーチャート70を、温度情報Tが異なる複数の状況で印刷部30に印刷させる。
【0040】
制御部11は、印刷されたカラーチャート70のカラーパッチ毎の色彩値を、カラーチャート70の測色により取得する。色彩値は、例えば、CIE(国際照明委員会)が規定したL色空間によるL値である。以下では、「*」の表記を省略する。図4では、温度情報T=T1に対応するカラーチャート70のカラーパッチを測色して得られた色彩値を、Lと記載している。便宜上、各カラーパッチのインク量データをCと統一表現すると、制御部11は、インク量データCと色彩値Lとの対応関係をカラーパッチの個数分、得る。
【0041】
同様に、図4では、温度情報T=T2に対応するカラーチャート70のカラーパッチを測色して得られた色彩値をLと記載している。制御部11は、インク量データCと色彩値Lとの対応関係をカラーパッチの個数分得る。同様に、図4では、温度情報T=T3に対応するカラーチャート70のカラーパッチを測色して得られた色彩値をLと記載している。制御部11は、インク量データCと色彩値Lとの対応関係をカラーパッチの個数分得る。
【0042】
共通のカラーパッチに対応する色彩値L、色彩値L、色彩値Lは、同じインク量データCに基づいて印刷された色であるが、印刷時のシートPの温度の影響により、それらは互いに相違する。印刷媒体の温度が高い方が、印刷媒体に着弾したドットはより広がって印刷媒体を被覆する。そのため、印刷媒体の温度が高いと、印刷結果の色が濃くなる傾向がある。
【0043】
制御部11は、RGB色空間における格子点Rと、インク量データCと色彩値Lとの対応関係と、に基づいて温度情報T=T1に対応するRGBデータとインク量データとの対応関係を生成する。ここでは、格子点Rは、RGB色空間に一定或いはほぼ一定の複数階調値の間隔で点在する複数の格子点についての統一表現である。制御部11は、格子点RのRGBデータを公知の変換式によりLab値へ変換することにより、機器非依存のLab色空間において、格子点Rにインク量データを対応付ける。つまり、格子点RのLab値と一致或いはほぼ一致するLab値を実現するインク量データを、インク量データCと色彩値Lとの対応関係を用いて補間演算等により決定する。制御部11は、このようなLab色空間を介した格子点Rとインク量データとの対応付けを、各格子点Rについて行う。これにより、温度情報T=T1に対応するRGBデータとインク量データとの対応関係として、格子点Rとインク量データCとの対応関係を得る。
【0044】
同様に、制御部11は、RGB色空間における格子点Rと、インク量データCと色彩値Lとの対応関係と、に基づいて温度情報T=T2に対応するRGBデータとインク量データとの対応関係を生成する。図4に示すように、温度情報T=T2に対応するRGBデータとインク量データとの対応関係として、格子点Rとインク量データCとの対応関係を得る。
【0045】
同様に、制御部11は、RGB色空間における格子点Rと、インク量データCと色彩値Lとの対応関係と、に基づいて温度情報T=T3に対応するRGBデータとインク量データとの対応関係を生成する。図4に示すように、温度情報T=T3に対応するRGBデータとインク量データとの対応関係として、格子点Rとインク量データCとの対応関係を得る。
【0046】
制御部11は、このような温度情報TとRGBデータとインク量データとの対応関係を、図4に示すような1つの色変換LUT80とし、記憶する。色変換LUT80において、T=20は温度情報T1を意味する。同様に、色変換LUT80において、T=25は温度情報T2を意味し、T=30は温度情報T3を意味する。
【0047】
色変換LUT80において、例えば、TRGB=20,0,0,0に対応するインク量データ、つまり温度情報Tが20℃であるときのシートPに黒色を再現するために必要なインク量データは、CMYK=20,20,20,255と規定されている。このような、CMYK=20,20,20,255は、インク量データCの一例である。
また、色変換LUT80において、TRGB=25,0,0,0に対応するインク量データ、つまり温度情報Tが25℃であるときのシートPに黒色を再現するために必要なインク量データは、CMYK=15,15,15,245と規定されている。このような、CMYK=15,15,15,245は、インク量データCの一例である。
また、色変換LUT80において、TRGB=30,0,0,0に対応するインク量データ、つまり温度情報Tが30℃であるときのシートPに黒色を再現するために必要なインク量データは、CMYK=10,10,10,240と規定されている。このような、CMYK=10,10,10,240は、インク量データCの一例である。
【0048】
このように、色変換LUT80によれば、同じ色をシートPに再現するために必要なインク量データは、温度情報Tに応じて異なり、温度情報Tが高ければインク量を少なくする傾向がある。従って、色変換LUT80を参照して色変換処理を行うことにより、ステップS110で入力した温度情報Tの違いによらず、同じRGBに対して、このRGBが表す色をシートPにおいて正確に再現するインク量データを得ることができる。
【0049】
ステップS120における、色変換LUT80を参照する色変換処理は、画素単位でTRGBデータという4次元情報を色変換LUT80に入力して、CMYKの4次元情報であるインク量データを出力するだけの処理である。言うまでもないが、印刷データ生成部12aは、入力のTRGBデータが色変換LUT80に規定されている何れかのTRGBと一致する場合には、この一致するTRGBに対応するCMYKをそのまま変換結果として出力すればよい。印刷データ生成部12aは、入力のTRGBデータが色変換LUT80に規定されている何れのTRGBとも一致しない場合には、色変換LUT80に規定されているTRGBのうち、入力のTRGBデータに近似する幾つかのTRGBに対応するCMYKを用いた補間演算により、変換結果としてのCMYKを算出して出力すればよい。
【0050】
ステップS130では、印刷データ生成部12aは、ステップS120で生成した、画素毎にインク量データを有する画像データについてハーフトーン処理を実行する。ハーフトーン処理により、画像データは、画素毎かつCMYK毎に、インクの吐出(ドットオン)またはインクの非吐出(ドットオフ)を規定したデータとなる。むろん、ドットオンの情報は、例えば大ドット、中ドット、小ドットというような複数サイズのドットのうちのどれを吐出するかを規定する情報であってもよい。ハーフトーン処理は、例えば、ディザ法や誤差拡散法により実行可能である。このようなハーフトーン処理によれば、画像データの画素が有するCMYK毎の階調値は、256階調表現の情報から2値や4値といった情報へ変換される。
【0051】
ステップS120の色変換処理後の画像データや、ステップS130のハーフトーン処理後の画像データは、インク色空間で表現された画像データであり、これを印刷データと呼ぶ。
ステップS140では、印刷データ生成部12aは、ステップS130までの処理により生成した印刷データを記憶部20へ書き込む。
【0052】
ステップS150では、印刷データ生成部12aは、入力画像データの最終ページまでステップ140の処理を終えたか否かを判定する。つまり、印刷データ生成部12aは、入力画像データを構成する全てのページについて、印刷データとして記憶部20へ書き込み終えた場合に、ステップS150で“Yes”と判定し、印刷データ生成処理を終える。印刷データ生成処理を、印刷データ生成工程とも言う。一方、印刷データ生成部12aは、入力画像データについて、ステップS140までの処理を終えていないページが残っている場合には、ステップS150で“No”と判定し、ステップS110へ戻る。ステップS150から進んだステップS110では、印刷データ生成部12aは、再び印刷部30から最新の温度情報Tを入力し、ステップS120へ進む。
【0053】
ステップS150の判定を行うタイミングは様々である。印刷データ生成部12aは、例えば、入力画像データを構成するページ毎の印刷データの書き込みが終わる度に、ステップS150の判定を行うとしてもよい。あるいは、印刷データ生成部12aは、1ページよりも小さいサイズの画像分の印刷データの書き込みを終える度に、ステップS150の判定を行うとしてもよい。
【0054】
印刷制御部12bは、記憶部20に書き込まれた印刷データを記憶部20から読み出して、印刷データを印刷部30へ転送する(ステップS200)。印刷データの転送を受けた印刷部30は、搬送部31がシートPを搬送するとともに、転送された印刷データに基づいて印刷ヘッド32を駆動することにより、印刷データが表現する画像をシートPへ印刷する。また、印刷部30は、UV照射器34を駆動してシートP上のインクへの紫外線照射を実行させる。つまり、印刷制御部12bは、印刷データを印刷部30へ転送することにより、印刷データに基づく印刷媒体への印刷を印刷部30に実行させる。印刷部30が印刷制御部12bによる制御下で印刷を実行する工程を印刷工程と呼ぶ。
【0055】
印刷制御部12bがステップS200を実行するタイミングは、当然、印刷データ生成部12aによる印刷データの書き込みがある程度進んだ後である。例えば、印刷制御部12bは、ステップS100の画像入力から予め設定された所定時間が経過するまで待機し、この所定時間が経過したタイミングでステップS200を実行する。あるいは、印刷制御部12bは、記憶部20への印刷データの書き込みを監視し、所定量以上の印刷データが記憶部20へ蓄積された場合に、ステップS200を実行するとしてもよい。例えば、入力画像データが複数ページで構成されている場合に、印刷制御部12bは、この複数ページのうちの先頭ページを含む一部のページについて印刷データの生成および記憶部20への書き込みがされたタイミングで、ステップS200を開始するとしてもよい。
【0056】
このように本実施形態では、印刷制御部12bは、ステップS150で“Yes”と判定されたことを待ってステップS200を開始する訳ではない。印刷制御部12bは、印刷データ生成部12aによる印刷データ生成処理が実行されている期間と並行して、既に書き込まれた印刷データを順に読み出して印刷部30へ転送し、印刷を実行させる。すなわち、印刷制御部12bは、印刷部30による印刷の少なくとも一部を、印刷データ生成部12aによる印刷データの生成と並行して実行させる。印刷制御部12bは、ステップS200において、その時点で記憶部20に書き込まれていて印刷部30へ転送済みでない印刷データを全て読み出して印刷部30へ転送したら、ステップS210の判定を行う。
【0057】
ステップS210では、印刷制御部12bは、最終ページの印刷データについてステップS200の処理を終えたか否かを判定する。つまり、印刷制御部12bは、入力画像データを構成する全てのページについて、それらの印刷データの印刷部30への転送を終えた場合に、ステップS210で“Yes”と判定し、印刷制御処理を終える。例えば、入力画像データの最終ページの最後の行に対応する印刷データには、最後の印刷データである旨を示す特定の情報が付されており、印刷制御部12bは、この特定の情報が付された印刷データを読み出して転送したときに、ステップS210で“Yes”と判定すればよい。一方、印刷制御部12bは、最終ページの印刷データについてステップS200の処理を終えていない場合は、ステップS210で“No”と判定し、ステップS200を再び行う。
【0058】
3.まとめ:
このように本実施形態によれば、印刷制御装置10は、色変換に用いる色変換LUT80を記憶する記憶部20と、入力画像データを、色変換LUTを参照して色変換することにより所定のインク色空間で表現された画像データである印刷データを生成する印刷データ生成部12aと、印刷データに基づく印刷媒体への印刷を印刷部30に実行させる印刷制御部12bと、を備える。色変換LUT80は、印刷部30における印刷媒体の温度を示す温度情報Tと入力色空間の色情報との組み合わせと、インク色空間の色情報と、の対応関係を規定している。印刷データ生成部12aは、入力色空間で表現された入力画像データと印刷部30から入力した温度情報Tとの組み合わせを、色変換LUT80を参照して変換することにより印刷データを生成し、印刷制御部12bは、印刷部30による印刷の少なくとも一部を、印刷データ生成部12aによる印刷データの生成と並行して実行させる。
【0059】
前記構成によれば、印刷データ生成部12aは、入力画像データと印刷部30から入力した温度情報Tとの組み合わせを色変換LUT80で変換して印刷データを生成する。そのため、UV照射器34による紫外線照射等の影響で印刷媒体の温度が変動し得る環境において、そのときの印刷媒体の温度に応じて色情報、つまりインク量データが調整された印刷データが得られ、結果的に、印刷媒体の温度にかかわらず一定である入力画像データが表現する色を、印刷媒体の温度に応じて安定して印刷媒体に再現することができる。また、従来のように、予め用意された複数の色変換LUTのうち使用するLUTを切り替えて色変換処理を行うといった手間を省くことができ、処理負担を軽減できる。
【0060】
印刷データ生成部12aが印刷データの生成を行う期間と、生成された印刷データに基づいて印刷部30が印刷を行う期間とが全く別であれば、印刷データの生成時に印刷媒体の温度を取得しても、印刷時の印刷媒体の温度は不明であるため、適切な印刷データを生成することはできない。つまり、印刷データの生成を全て終えた後で、印刷データに基づく印刷を開始するような構成においては、本実施形態にかかる色変換LUT80を用いた色変換処理は、有用な効果を発揮しない。これに対して本実施形態では、印刷データ生成部12aによる印刷データの生成と、印刷部30による印刷とは、少なくとも一部が並行して行われる。そのため、印刷時の印刷媒体の温度に応じてインク量データが調整された最適な印刷データが得られ、印刷媒体の温度変動の影響を排した安定した品質の印刷結果を提供することが可能となる。
【0061】
また、これまでの説明によれば本実施形態は、入力画像データを、色変換LUT80を参照して色変換することにより所定のインク色空間で表現された画像データである印刷データを生成する印刷データ生成工程と、印刷データに基づく印刷媒体への印刷を印刷部30が実行する印刷工程と、を備える印刷方法を開示する。つまり、印刷データ生成工程では、入力色空間で表現された入力画像データと印刷部30から入力した温度情報Tとの組み合わせを、色変換LUT80を参照して変換することにより印刷データを生成し、印刷工程の少なくとも一部を、印刷データ生成工程と並行して実行する。
【0062】
また、本実施形態によれば、印刷制御プログラム12は、入力画像データを、色変換LUT80を参照して色変換することにより所定のインク色空間で表現された画像データである印刷データを生成する印刷データ生成機能と、印刷データに基づく印刷媒体への印刷を印刷部30に実行させる印刷制御機能と、をCPU11a等のプロセッサーに実行させる。印刷データ生成機能は、入力色空間で表現された入力画像データと印刷部30から入力した温度情報Tとの組み合わせを、色変換LUT80を参照して変換することにより印刷データを生成し、印刷制御機能は、印刷部30による印刷の少なくとも一部を、印刷データ生成機能による印刷データの生成と並行して実行させる。
【0063】
4.変形例:
本実施形態に含まれる変形例について説明する。
制御部11は、印刷部30から入力した温度情報Tが所定の温度範囲外の値である場合に、印刷データの生成および印刷部30による印刷を中断し、その後に印刷部30から入力する温度情報Tが前記温度範囲内の値となるまで印刷データの生成および印刷部30による印刷の再開を待機する、としてもよい。
【0064】
図5は、このような変形例にかかる中断・再開処理をフローチャートにより示している。制御部11は、図3のステップS110で印刷部30から温度情報Tを入力したことを契機として図5の中断・再開処理を開始する。ステップS300では、印刷データ生成部12aは、現在得ている最新の温度情報Tが所定の温度範囲内であるか否かを判定する。この温度範囲の下限を温度Ta、上限を温度Tbとする。温度Ta,Tbの値は特に限定されないが、例えば、Ta=18℃、Tb=33℃である。温度Ta,Tbは、色変換LUT80を用いて温度情報Tに応じた適切なインク量データを算出できると想定される温度情報Tの下限および上限と言える。
【0065】
印刷データ生成部12aは、Ta≦T≦Tbが成立しない場合、ステップS300で“No”と判定してステップS310へ進む。一方、Ta≦T≦Tbが成立する場合、印刷データ生成部12aはステップS300で“Yes”と判定してステップS330へ進む。
【0066】
ステップS310では、印刷データ生成部12aは、印刷データの生成を中断する。印刷データの生成の中断とは、具体的にはステップS120~S140の処理を停止することである。また、印刷制御部12bは、印刷部30に印刷の中断を指示して印刷データに基づく印刷を中断させる。印刷の中断とは、具体的にはステップS200の処理を停止すること及び印刷部30の搬送部31や印刷ヘッド32やUV照射器34の動作を停止することである。ステップS310を中断処理と呼ぶ。
【0067】
中断処理を経て、ステップS320では、印刷データ生成部12aは、ステップS110と同様に印刷部30から温度情報Tを入力する。ステップS320で温度情報Tを入力した印刷データ生成部12aは、ステップS300へ進む。ステップS320の後のステップS300では、印刷データ生成部12aは、当然、直前のステップS320で入力した温度情報Tを用いて判定を行う。
なお、ステップS300の判定の時点で中断処理がされている状態であれば、制御部11は、ステップS300の“No”の判定から進んだステップS310では特に何もせず、つまり中断処理がされている状態を維持して、ステップS320へ進む。
【0068】
ステップS330では、印刷制御部12bは、印刷部30に搬送部31や印刷ヘッド32やUV照射器34の動作停止の解除を指示し、シートPの搬送や印刷や紫外線照射を実行可能な状態にする。ステップS330を経て図5のフローチャートが終了する。図5のフローチャートの終了を契機として、印刷データ生成部12aはステップS120を実行し、印刷制御部12bはステップS200を適宜のタイミングで実行する。つまり、ステップS300で“Yes”の判定後、ステップS330を経て図5のフローチャートを終えることが、ステップS310による中断を解除することにあたる。ステップS330を解除処理と呼ぶ。
【0069】
なお、ステップS110を契機として開始した図5のフローチャートの最初のステップS300で“Yes”と判定した場合は、制御部11は、ステップS330では実質的に何もせずに図5のフローチャートを終え、図3で説明したフローチャートを進行する。
このような変形例によれば、印刷制御装置10は、印刷部30から入力した印刷媒体の温度を示す温度情報Tが、高すぎたり低すぎたりする場合には、温度情報Tが適正な温度範囲内の値となるまで印刷データの生成および印刷部30による印刷を中断する。これにより、品質の低い印刷結果が得られることを回避できる。
【0070】
上述のように印刷部30の動作を一時的に停止することにより、所定の温度範囲外の値であった温度情報Tが自然に前記温度範囲内となることもある。ただし、印刷制御装置10は、印刷部30から入力した温度情報Tが前記温度範囲外の値である場合に、温度情報Tが前記温度範囲内の値となるように、印刷部30における印刷媒体または印刷媒体を支持する支持部の温度を調整可能な温度調整部60を制御するとしてもよい。図2の説明では、温度調整部60は、支持部としての回動ドラム54の温度を調整して間接的にシートPの温度を調整するものであるが、温度調整部60の概念には、シートPを直接に冷却したり加温したりして温度を調整するものを含んでもよい。
【0071】
具体的には、印刷制御部12bは、ステップS300で“No”と判定された場合に、T>Tbであれば、温度調整部60による冷却の強度を上げたり、温度調整部60による加温を停止したりすればよい。また、ステップS300で“No”と判定された場合に、T<Taであれば、印刷制御部12bは、温度調整部60による冷却を停止させたり、温度調整部60による加温の強度を上げたりすればよい。このように、温度情報Tが前記温度範囲外の値である場合に、温度調整部60を制御して積極的に印刷媒体の温度を調整することにより、印刷データの生成や印刷の中断期間を短縮することができる。
【0072】
印刷部30から入力した温度情報Tが前記温度範囲外の値である場合に、印刷データ生成部12aは、ページ単位の印刷データの生成を終えてから印刷データの生成を中断し、印刷制御部12bは、ページ単位の印刷データに基づく印刷を印刷部30に実行させてから印刷部30による印刷を中断する、としてもよい。つまり、図5のステップS300で“No”と判定したとき、ステップS310の中断処理を必ずしも即座に実行する訳ではない。印刷データ生成部12aは、ステップS300で“No”と判定した時点で、入力画像データを構成するいずれかのページの途中まで印刷データの生成と記憶部20への書き込みを終えている場合、この処理途中のページの最後の行までの印刷データの生成と記憶部20への書き込みを終え、次のページについて色変換処理を開始する前のタイミングで、ステップS120~S140の処理を停止すればよい。
【0073】
また、印刷制御部12bは、印刷データ生成部12aがステップS300で“No”と判定した時点で、いずれかのページの印刷データの途中までの転送を終えているとする。この場合は、印刷制御部12bは、転送途中のページの最後の行までの印刷データの印刷部30への転送を終え、次のページにかかる印刷データの転送を開始する前のタイミングで、印刷データの転送を停止し、かつ、印刷部30には転送を受けた分の印刷データに基づく印刷を終えてから搬送部31や印刷ヘッド32やUV照射器34の動作を停止することを印刷部30に指示する。印刷部30は、印刷制御部12bからの指示に従った停止の処理を行う。このような構成によれば、中断処理をしたことによりページの途中で画質が変わったりページ単位の印刷結果が破綻したりすることを回避できる。
【0074】
その他、印刷部30の具体的態様は上述した例に限定されない。例えば、印刷媒体を支持する支持部は、円筒形状の回動ドラム54ではなく、平坦な面で印刷媒体を支持する構造であってもよい。印刷ヘッド32は、印刷媒体の搬送方向と交差する主走査方向に長尺であり移動せずにインクの吐出を行う、いわゆるラインヘッドであってもよいし、主走査方向へ移動しながらインク吐出を行うシリアル型のヘッドであってもよい。印刷媒体は、図2に示したシートPのような連続する媒体であってもよいし、単票紙のようなページ単位の媒体であってもよい。
【0075】
本実施形態にかかる印刷媒体の温度情報Tを色変換処理の入力パラメーターの一つとする態様は、UV照射器34による紫外線照射以外の理由で印刷媒体の温度が変動し得る環境においても有用である。入力画像データが採用する入力色空間は、RGB色空間に限定されず、例えば、CMYK色空間であってもよい。印刷部30が使用するインクはCMYKインクに限定されない。印刷部30は、CMYKインク加えて、例えば、オレンジ(Or)やグリーン(G)といったインクを使用する機種であってもよい。従って、色変換LUT80としては、上述したようなTRGBからCMYKへの変換関係を規定するLUT以外にも、TRGBからCMYKOrGへの変換関係を規定するLUTや、TCMYKからCMYKへの変換関係を規定するLUTや、TCMYKからCMYKOrGへの変換関係を規定するLUT等を想定することができる。
【符号の説明】
【0076】
10…印刷制御装置、11…制御部、11a…CPU、11b…ROM、11c…RAM、12…プログラム、12a…印刷データ生成部、12b…印刷制御部、20…記憶部、30…印刷部、31…搬送部、32…印刷ヘッド、34…UV照射器、40…印刷システム、54…回動ドラム、60…温度調整部、61…温度センサー、70…カラーチャート、80…色変換LUT、P…シート
図1
図2
図3
図4
図5