(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】セルロースナノファイバー含有炭酸エステル分散体およびセルロースナノファイバー含有ポリウレタンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/02 20060101AFI20240312BHJP
C08G 18/44 20060101ALI20240312BHJP
C08G 18/00 20060101ALI20240312BHJP
C08B 15/00 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C08J3/02 A CEP
C08G18/44
C08G18/00 L
C08B15/00
(21)【出願番号】P 2020027645
(22)【出願日】2020-02-21
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮田 勇悟
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 じゆん
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/172058(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 15/
C08J 3/
C08G 18/
C08L 1/,75/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝固点が35℃以下の炭酸エステルの存在下、セルロース系原料を解繊することを特徴とするセルロースナノファイバー含有炭酸エステル分散体の製造方法
であって、
前記炭酸エステルがエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとの混合物であり、前記エチレンカーボネートと前記プロピレンカーボネートとの混合比が、質量比率で、2:8~8:2である、製造方法。
【請求項2】
炭酸エステルが環状カーボネートである請求項1に記載のセルロースナノファイバー含有炭酸エステル分散体の製造方法。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の製造方法で得られたセルロースナノファイバー含有炭酸エステル分散体とジオール化合物を反応させることを特徴とするセルロースナノファイバー含有ポリカーボネートジオールの製造方法。
【請求項4】
請求項
3に記載の製造方法で得られたセルロースナノファイバー含有ポリカーボネートジオールとイソシアナート化合物を反応させることを特徴とするセルロースナノファイバー含有ポリウレタンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバー含有炭酸エステル分散体の製造方法に関する。また、セルロースナノファイバー含有炭酸エステル分散体を利用したセルロースナノファイバー含有ポリカーボネートジオールおよびセルロースナノファイバー含有ポリウレタンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンは、耐久性の高い人工皮革や合成皮革、接着剤、塗料、コーティング剤、フィルム、光学材料等の分野で広く使用されている。
特に、ポリカーボネートジオール(以下、PCDという)をポリウレタンの原料にする場合、ポリエステルジオールおよびポリエーテルジオールの場合と比べて、耐加水分解性や耐薬品性に優れた耐久性の高いポリウレタンが得られることが知られている。
【0003】
また、PCDを皮革、塗料およびコーティング剤用途に使用した場合、前記の特性以外に耐湿熱性、耐摩耗性および耐候性に優れるため、自動車の内装材として、例えば、座席シート向けの人工皮革や合成皮革および外装用塗料の原料として用いられている。さらに、接着用途においても、耐久性や柔軟性に優れた接着剤として自動車、電子機器および電気機器等に使用されている。
【0004】
しかしながら、カーボネート結合はエステル結合と比べると柔軟性に欠けるため、カーボネート結合だけを有するPCDから製造されるポリウレタンは、ポリエステルポリオールから製造されるポリウレタンより柔軟性が劣り、特に低温における柔軟性、伸び、曲げおよび弾性回復性が悪いため、可撓性に欠けもろいという問題がある。
【0005】
一方、セルロースナノファイバー(以下、CNFという)は、パルプ等を原料にして水媒体中で機械的または化学的解繊処理によって得られる、太さがナノメートルオーダーであり、アスペクト比の高いセルロース繊維である。
また、CNFは軽量であるが鉄の5倍の強度を有し、熱膨張率が低く、低温から高温まで弾性率が変化しない特性を有するため、CNFを用いた複合材料は軽量、高強度、低膨張率および温度変化に強いことが期待される。
【0006】
しかしながら、水に分散させたCNF濃度は1~20質量%と低いため、樹脂と複合化させる場合には大量の水の除去が必要になるという問題がある。
また、樹脂中でパルプを解繊する場合、樹脂は一般的に粘度が高いので強力な機械力が必要となり、また、酸化処理など化学的に解繊したCNFは親水性が高いため精製や表面処理が必要など、CNFは工業的に取り扱い難い材料である。
【0007】
近年、ポリウレタンにCNFを配合して物性を改善することが検討され、例えば、ポリオール中でセルロースを微細化して得られたCNFを含有するポリオール組成物と、ポリイソシアナートとを反応させて得られるポリウレタン樹脂を含有するポリウレタン樹脂組成物が開示されている(特許文献1)。
しかしながら、特許文献1に記載のポリウレタン樹脂組成物を得るために、ポリオール中でセルロースを解繊した原料を使用しており、ポリウレタン樹脂に要求される物性を確保するには、分子量の高いポリオールが必要となる。
例えば、ポリエステルポリオールやポリエーテルポリオールに比べ、高機能なPCDは分子量が1000~2000のものが良く使われ、該ポリカーボネートポリオールの一部は常温で固体であり、50℃に加熱して、粘度は1000~15000mPa・sである。このような粘度の高いポリオール中での解繊では、必要なせん断力が得にくく、解繊が不充分となりやすい。
一方、加熱しながら強力な機械力を加えた場合、解繊は促進されるが、CNFやポリオールの着色等の劣化が生じやすくなる。
【0008】
一方、CNFを分散させた炭酸エステルとジオール化合物を反応させて得られるCNF含有PCD分散体に、イソシアネート化合物を反応させて得られるCNF含有ポリウレタンが、機械強度や耐薬品性に優れていることが開示されている(特許文献2)。
また、CNFを分散させた炭酸エステルを得る方法として、炭酸エステル溶媒の共存下にセルロース系原料の1種であるバイオマスを機械的に粉砕する方法が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2013-194162号公報
【文献】国際公開WO2019/172058
【文献】特開2017-23921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2および特許文献3に記載されたCNF含有炭酸エステル分散体の製造方法では、凝固点が高い炭酸エステルを使用した場合、高圧条件でパルプを解繊する際に装置内で炭酸エステルが凝固するため、安定した製造を行うことができないことがわかった。
本発明は、機械強度や耐薬品性に優れているCNF含有ポリウレタンの原料となるCNF含有炭酸エステル分散体を、安定的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明者らは、鋭意検討した結果、凝固点が35℃以下の炭酸エステル中でセルロース系原料を解繊して得られるCNF含有炭酸エステル分散体とジオール化合物を反応させて得られるCNF含有PCD分散体と、イソシアナート化合物を反応させて得られるCNF含有ポリウレタンが、機械強度や耐薬品性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の第1発明は、凝固点が35℃以下の炭酸エステルの存在下、セルロース系原料を解繊することを特徴とするCNF含有炭酸エステル分散体の製造方法である。
【0013】
また、本発明の第2発明は、炭酸エステルが環状カーボネートである第1発明に記載のCNF含有炭酸エステル分散体の製造方法である。
【0014】
また、本発明の第3発明は、炭酸エステルがエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとの混合物である第1発明または第2発明に記載のCNF含有炭酸エステル分散体の製造方法である。
【0015】
本発明の第4発明は、第1発明~第3発明のいずれかの方法で得られたCNF含有炭酸エステル分散体とジオールを反応させることを特徴とするCNF含有ポリカーボネートジオールの製造方法である。
【0016】
本発明の第5発明は、第4発明で得られたCNF含有ポリカーボネートジオールとイソシアナート化合物を反応させることを特徴とするCNF含有ポリウレタンの製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の製造方法によれば、セルロース系原料を解繊する機器類への負荷が少なく、CNF含有炭酸エステル分散体を安定的に製造することができる。さらに、CNF含有炭酸エステル分散体を原料とするCNFを含有するポリウレタンは、機械強度や耐熱性等の特性に優れた高機能な複合材料として、人工皮革、合成皮革、接着剤、塗料およびコーティング剤等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例1に用いたセルロース系原料の解繊装置の概略図である。
【
図2】実施例1で得られたCNF含有炭酸エステル分散体の顕微鏡写真である。
【
図3】実施例4で得られたCNF含有ポリウレタンの引張試験のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、凝固点35℃以下の炭酸エステルの存在下にセルロース系原料を解繊することを特徴とする、CNF含有炭酸エステル分散体の製造方法である。
【0020】
本発明におけるセルロース系原料とは、セルロースを主体とした材料であれば特に限定はなく、例えば、パルプ、天然セルロース、再生セルロースおよびセルロース原料を機械的処理することで解重合した微細セルロースなどが挙げられる。なお、セルロース系原料として、パルプを原料とする結晶セルロースなどの市販品をそのまま使用することができる。
【0021】
セルロース系原料の解繊処理に際しては、セルロース系原料を予め精製した後、炭酸エステル中で解繊することが好ましい。予め精製しない場合、セルロース系原料に含まれる不純物が、炭酸エステル中に溶けることで、ジオール化合物とのエステル交換反応を阻害する恐れがある。
セルロース系原料の精製方法は特に限定されないが、以下に示す精製方法が例示される。圧力容器にセルロース系原料と水を仕込んだ後、圧力容器を加熱および加圧し、上澄み液を除去しながら、水の添加と加熱および加圧操作を繰り返した後、ろ過および水洗をして、ケーキ状のセルロースを得た後、減圧乾燥させ、精製したセルロース系原料を得る。
【0022】
本発明におけるセルロース系原料を解繊する装置としては、ボールミル、ビーズミル、ハンマーミル、ロッドミル、ディスクミル、カッターミル、ジェットミル、ウォータージェット装置、石臼式磨砕機、押出成形機、リファイナー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、高速ホモジナイザー、水中カウンターコリジョン装置等いずれも使用可能であるが、特にウォータージェット装置を使用することが望ましい。
【0023】
使用する炭酸エステルとしては、ジオール化合物と反応によってPCDを与えることができる環状カーボネート類および鎖状カーボネート類が挙げられる。これらの混合物、あるいは水との混合液の状態で使用することもできる。
環状カーボネート類としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の炭素数2~4のアルキレン基を有するアルキレンカーボネート類が挙げられる。
また、鎖状カーボネート類としては、ジアルキルカーボネートが好ましく、構成するアルキル基の炭素数は1~5個であることが好ましく、特に好ましくは1~4個である。具体例としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート等の対称鎖状アルキルカーボネート類、エチルメチルカーボネート、メチル-n-プロピルカーボネート、エチル-n-プロピルカーボネート等の非対称鎖状アルキルカーボネート類等のジアルキルカーボネートが挙げられる。
【0024】
本発明では、炭酸エステルに分散した状態で、セルロース系原料が解繊処理されるため、例えば、高温・高圧条件で解繊した場合には炭酸エステルの凝固点が上昇して、装置内で凝固する恐れがある。その意味で、炭酸エステルの凝固点は重要であり、凝固点が35℃以下であることが必要である。さらに、より安全な条件で解繊するためには、凝固点が20℃以下であることが好ましく、10℃以下であることがさらに好ましい。
【0025】
前記凝固点の観点から、炭酸エステルとしては、凝固点が35℃以下の環状カーボネートであることが好ましく、これらの中でも、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートおよびブチレンカーボネートが好ましく、さらに、これらの混合物を用いることも可能で、得られるCNF含有ポリウレタンの物性が優れることから、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとの混合物が特に好ましい。
なお、エチレンカーボネートは単独の凝固点が38℃であるが、プロピレンカーボネート等と混合して凝固点を35℃以下の混合物として使用できる。
エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとの混合物において、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートの混合比としては、質量比率で、1:9~9:1であることが好ましく、2:8~8:2であることがさらに好ましく、3:7~7:3あることが特に好ましい。
【0026】
炭酸エステルの凝固点が35℃以下であれば、使用する解繊機器類への負荷が少なくなるため、解繊機器類の故障が少なく、安定的にセルロース系材料を解繊することができる。また、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとの混合物を用いると、CNF含有炭酸エステル分散体を原料にして、物性に優れたCNF含有ポリウレタンが得られる。
【0027】
例えば、炭酸エステルとして、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとが5:5である混合物を用いて、パルプ粉砕装置で、セルロース系材料であるパルプの解繊処理を行うことにより、顕微鏡観察において、0.2~1μmを中心とした繊維径で、かつ、10~100μmを中心とした繊維長であるCNF含有炭酸エステルが生成する。
【0028】
また、本発明の製造方法で得られたCNF炭酸エステル分散体とジオール化合物を反応させて、CNF含有PCD分散体を得ることができる。この場合、CNFには粉砕前のセルロース系原料が含まれていても良い。
CNF含有炭酸エステル分散体を用いて、ジオール化合物との反応により、CNFが分散したPCD分散体を得る方法としては、公知なPCDを製造する方法が適用され、例えば、特開2015-044986号公報および特開2017-025155号公報に記載の方法などが挙げられる。
これら場合、CNF自体は反応に寄与しないので、CNFが含有されていても同様な反応が起こる。
【0029】
例えば、PCDはエステル交換反応と重縮合反応からなる2段階の反応を経て得ることができる。CNFを含む炭酸エステルとジオール化合物を20:1~1:10のモル比で混合し、常圧または減圧下で100~300℃の温度で反応させ、副生するエチレングリコールおよび未反応のエチレンカーボネートを留出させ、2~10単位の低分子量PCDを得、次いで減圧下で100~300℃で未反応の原料ジオール化合物とエチレンカーボネートを留出させるとともに、低分子量のPCDを重縮合させる。原料ジオール化合物の留出量を加減することによって、所定の分子量のPCDを得ることができる。
なお、2種類以上の原料ジオール化合物を用いてPCDを製造する場合は、留出する原料ジオール化合物の組成をガスクロマトグラフ等で分析することで、PCDの組成比を求めることができ、PCDの組成比は反応中に原料ジオール化合物を追加することで任意の組成比に調整できる。
【0030】
例えば、1,6-ヘキサンジオール(以下、HDOという)骨格を有し、分子量が1000のPCDは、以下に示す方法で得ることができる。
精留塔を取り付けた反応装置に、1質量%のCNFを含むエチレンカーボネート/プロピレンカーボネート混合物を400g、HDOを450g、触媒としてテトラブチルチタネートを0.8g仕込み、50torrで徐々に昇温する。絶えず留出があるように内温を160℃~170℃まで上げ、留出が止まった時点で終了する。この第一段の反応では、HDOへのECの付加やECとHDOの間でエステル交換反応が起こり、オリゴマーが生成し、留出物は主としてエチレングリコールである。
次いで、精留塔を取り外し、減圧度を5torr~0torrまで上げ、絶えず留出があるように内温を150℃~185℃へ上げる。留出が止まり、所定の水酸基価に達した時点で終了とする。第二段の反応では、未反応のECやエチレングリコールの留出および低分子量のカーボネートジオール同士の重縮合でHDOが留出し、分子量が増大する。留出物は主としてHDOとなる。
【0031】
また、前記反応には、必要に応じて三級アミン触媒や有機金属系触媒等を用いてもよいが、触媒を失活させる工程が不要となり、反応液の着色が低減する利点があることから、無触媒で反応することが好ましい。
【0032】
さらに、前記CNF含有PCD分散体とイソシアナート化合物を反応させて、CNF含有のポリウレタンを得ることができる。
前記イソシアナート化合物としては、分子中にイソシアナート基を2個以上有する、例えば、トリレンジイソシアナート、ジフェニルメタンジイソシアナ-ト、キシリレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート、水添ジフェニルメタンジイソシアナート、水添キシリレンジイソシアナートおよびヘキサメチレンジイソシアナート等を用いることができる。
【0033】
前記イソシアナート化合物と反応するPCDの水酸基としては、JIS K 1557-1(プラスチック?ポリウレタン原料ポリオール試験方法?第1部:水酸基価の求め方)に準じて求めた水酸基価を用いればよい。PCDの水酸基とイソシアネート化合物のイソシアネート基のモル比([NCO/OH])は一般的に1.0以下であるが、ウレタンプレポリマーを製造する場合は1.0を超えるモル比とするのが好ましい。
例えば、ポリウレタンシートを作製する場合は、PCDとイソシアナート化合物を常温から70℃で混合し、真空脱泡後、必要に応じて触媒を添加して混合後、再度真空脱泡して金型に注型し、40℃~110℃で3時間~12時間加熱硬化させて、ポリウレタンシートを作製する。
【0034】
前記CNF含有PCD分散体は、炭酸エステル中でセルロース原料を解砕した分散体または粉体化したCNFを炭酸エステルに分散させた分散体を原料としている。
セルロース原料を水より疎水的な媒体中で解砕した場合、生成するCNFは水中で解砕したCNFよりも疎水的な表面を有し、有機媒体中での分散性に優れることが知られている。
したがって、水より疎水性の炭酸エステル中で解砕して得られたCNFも水中で解砕したCNFより疎水的で、そのため炭酸エステル中での分散性が良好であるとともに、これを原料として製造したPCD中のCNFも分散性が良好であり、更に、CNF含有PCD分散体を原料とするCNF含有ポリウレタン中のCNFの分散性も良好である。
親水的なCNFは一般的に疎水的な樹脂中では凝集や増粘等の課題が生じやすく、期待した特性が発揮されない場合があるが、本発明の製造方法によれば、これらの課題を解消または低減でき、より高機能なポリウレタンを得ることが可能となる
【0035】
例えば、以下の方法でCNF含有のポリウレタンを製造することができる。
粉体化したCNFを1~5質量%の濃度で自転公転攪拌機により炭酸エステル中に分散させ、その炭酸エステルと1,6-ヘキサンジオール(HDO)との反応から得られた、CNFを含むセルロースが分散したPCDとジシクロヘキシルメタンジイソシアナート(HMDI)を反応させることにより、CNF含有ポリウレタンが製造できる。
ウレタン化を促進する触媒としてジブチルスズジラウレートなどを用いて、PCDとイソシアナートからなる組成物100質量部に対し、0.04質量部の添加量で硬化する。常温で可使時間は約20分であり、得られたポリウレタンは熱可塑性である。CNFを含むセルロースは分子内に多くの水酸基を含んでいるが、硬化を極端に促進または遅延することはなく、触媒の添加量を加減することで硬化時間の調整は可能である。また、CNFを含むセルロースの存在によってゲル化したポリウレタンは生じない。
【実施例】
【0036】
以下、実施例および比較例により本発明を詳しく説明する。
なお、炭酸エステルの混合物の凝固点は、DSC(装置:DCS Q100TA、Instrument社製)測定により求めた。すなわち、炭酸エステルの混合物を60℃の状態から10℃/minで-80℃まで冷却することで凝固させ、-80℃から10℃/minで80℃まで昇温することで融解させた時の融解熱ピークのトップを凝固点とした。
<実施例1>
セルロース系原料としてパルプ(KCフロックW-100GK)1.0質量%を含むエチレンカーボネート(東亞合成社製)/プロピレンカーボネート(富士フィルム和光純薬社製)=8/2(質量比)混合物(凝固点26℃)を、石臼式磨砕機(スーパーマスコロイダー MKCA6-5Jα、増幸産業社製) で予備粉砕して、1250g(約1L)の分散体を得た。
これを
図1に示すウォータージェット装置(スターバーストラボ HJP-25008、スギノマシン社製)に仕込み、ボール衝突型の微粒化チャンバーを用いて200MPaでの連続処理を50回実施することでCNF含有エチレンカーボネート/プロピレンカーボネート(質量比8/2)分散体720gを得た。
上記解繊中、パルプ解繊装置のプランジャ周りのシールパッキンの破損がなく、安定して運転することができた。得られた分散体中のCNFは、繊維径が0.2~1.0μmの繊維が個々に分離して存在しており、分散性は良好であった。繊維長は10~100μmのものが主として存在していた。
図2に実施例1で得られた分散体の顕微鏡写真(400倍)を示す。
【0037】
<実施例2>
炭酸エステルが、エチレンカーボネート/プロピレンカーボネート(質量比5/5)混合物(凝固点9℃)である以外は、実施例1と同じ方法で実施することでCNF含有エチレンカーボネート/プロピレンカーボネート(質量比5/5)分散体720gを得た。
上記解繊中、プランジャ周りのシールパッキンの破損がなく、安定して運転できた。得られた分散体中のCNFは繊維径が0.2~1.0μmの繊維が個々に分離して存在しており、分散性は良好であった。繊維長は10~100μmのものが主として存在していた。
【0038】
<比較例1>
分散媒がエチレンカーボネート単品(エチレンカーボネートが凝固しないように装置仕込時に60℃とした)である以外は、実施例1と同じ方法で実施した。その結果、10パス時点からプランジャ周りのシールパッキンが破損し、そこから液がリークしてしまい、試験を断念せざるを得ない状態となった。
【0039】
<実施例3>
実施例1で得られたCNF含有分散体を加圧することで、CNF濃度が2.2質量%まで濃縮された分散体を得た。この分散体232gと、1,5-ペンタンジオール(富士フィルム和光純薬社製)104gと、1,6-ヘキサンジオール(富士フィルム和光純薬社製)118gとを混合し、撹拌しながら加熱を開始した。液温が100℃となった時点に、テトラブチルチタネート(富士フィルム和光純薬社製)0.225gを添加した後、液温を160℃まで上昇させた。
次いで、真空ポンプで内部を40Torrまで減圧し、蒸留を開始した。蒸留が進むにつれ加熱と減圧を進め、液温186℃、圧力0.3Torrとなった時点で蒸留を停止することで、CNF含有PCD141gを得た。蒸留の留分等から、CNF濃度は3.2質量%であり、PCDの分子量は、滴定により730と判明した。
【0040】
<実施例4>
実施例3で得られたCNF含有PCD5.50gと、ジシクロヘキシルメタン4,4'-ジイソシアネート(東京化成社製)2.32gと、ジブチルスズジラウレート(富士フィルム和光純薬社製)5.5mgとを樹脂製カップに入れ、真空遊星撹拌機(V-mini300、EME社製)にて、1000rpmの公転速度でmix6分、うちvacume5分の条件(1分間の自転・公転のあと、5分間の真空引きしながらの自転・公転)で撹拌し、これを35℃で16時間、および60℃で6時間の条件で重合反応させて、CNF含有ポリウレタンを得た(CNF濃度は2.3質量%)。
【0041】
実施例4で得られたCNF含有ポリウレタンを0.5cm×7cm×0.2cmの短冊状に切り出したものを、島津オートグラフAG50KNXDplus(島津製作所社製)の引張試験装置で、チャック間距離3cmとし、空気圧によるチャック締め付けを行い、60℃において200mm/minの速度で引っ張ることで引張強度を測定した。
CNF含有ポリウレタンは、CNFを含まないポリウレタン(CNFを含まないエチレンカーボネート/プロピレンカーボネート(質量比8/2)混合物から合成したPCDを用いた以外は実施例4と同じ方法で合成したポリウレタン)に比べて引張強度が向上することが確認された(
図3)。また、CNF含有ポリウレタンは引っ張り途中で切れることはなかったが、CNFを含まないポリウレタンは途中で破断した。以上より、実施例1で得られたCNF含有炭酸エステル分散体を原料として製造したポリウレタンについて、CNFによる補強効果が確認された。
【符号の説明】
【0042】
1:ホッパ、2:送液ポンプ、3:増圧機、4:プランジャ、5:シールパッキン、6:微粒化チャンバー、7:熱交換器、8:回収部