(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】ノック判定装置及びノック制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20240312BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
F02D45/00 368A
G01H17/00 B
(21)【出願番号】P 2020030926
(22)【出願日】2020-02-26
【審査請求日】2022-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】土屋 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 雅徳
(72)【発明者】
【氏名】田中 攻
(72)【発明者】
【氏名】西垣 和浩
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-227400(JP,A)
【文献】特開2002-364448(JP,A)
【文献】特開2006-336604(JP,A)
【文献】特開平11-294248(JP,A)
【文献】特開2017-207015(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
G01H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(90)の各燃焼サイクル内の
膨張行程内における所定のクランクアングルの期間としての各単位期間(G)に、前記内燃機関に発生する振動を検出する検出部(29)と、検出された前記振動の所定周波数帯成分の振動波形に基づいて、ノックの有無についてのノック判定を行うノック判定部(35)とを有する、ノック判定装置(95)において、
前記振動波形に含まれている所定の各一連の振動の波形を個別波形(Wo)として、
同一の前記単位期間内の前記振動波形に複数の前記個別波形が含まれる際に、各前記個別波形
が終了したか否か判定する終了判定部(34)と
、
各前記個別波形の特徴(Ps,Pm,Pe)
として、前記個別波形において振動強度が最初に所定の第1閾値を上回った点である開始点(Ps)と、前記個別波形において振動強度が最大となる点である最大点(Pm)と、前記個別波形において振動強度が最後に前記第1閾値を下回った点である終了点(Pe)とを抽出する特徴抽出部(33)と、を有し、
前記終了判定部は、前記振動波形の振動強度が所定の第1閾値(Y1)を上回った状態から前記第1閾値を下回ってから、その下回った状態が所定の終了判定時間(Xf)以上継続したことを条件に、一の前記個別波形が終了したと判定し、
前記ノック判定部は、前記特徴抽出部により前記特徴が抽出され
且つ前記終了判定部により終了したと判定された各前記個別波形について
、前記開始点から前記最大点までの時間である増加時間(Ts)が所定の増加時間閾値(Xs)よりも小さく、且つ前記最大点から前記終了点までの時間である減衰時間(Te)が所定の減衰時間閾値(Xe)よりも大きいことを条件にノック有と判定
し、
前記振動の所定周波数帯成分は、所定の下限周波数以上且つ所定の上限周波数以下の振動であり、前記終了判定時間は、前記下限周波数の逆数以上且つ前記逆数の2倍以下の長さの時間である、ノック判定装置。
【請求項2】
内燃機関(90)の各燃焼サイクル内の膨張行程内における所定のクランクアングルの期間としての各単位期間(G)に、前記内燃機関に発生する振動を検出する検出部(29)と、検出された前記振動の所定周波数帯成分の振動波形に基づいて、ノックの有無についてのノック判定を行うノック判定部(35)とを有する、ノック判定装置(95)において、
前記振動波形に含まれている所定の各一連の振動の波形を個別波形(Wo)として、
同一の前記単位期間内の前記振動波形に複数の前記個別波形が含まれる際に、各前記個別波形が終了したか否か判定する終了判定部(34)と、
各前記個別波形の特徴(Ps,Pm,Pe)として、前記個別波形において振動強度が最初に所定の第1閾値を上回った点である開始点(Ps)と、前記個別波形において振動強度が最大となる点である最大点(Pm)と、前記個別波形において振動強度が最後に前記第1閾値を下回った点である終了点(Pe)とを抽出する特徴抽出部(33)と、を有し、
前記終了判定部は、前記振動波形の振動強度が所定の第1閾値(Y1)を上回った状態から前記第1閾値を下回ってから、その下回った状態が所定の終了判定時間(Xf)以上継続したことを条件に、一の前記個別波形が終了したと判定し、
前記ノック判定部は、前記特徴抽出部により前記特徴が抽出され且つ前記終了判定部により終了したと判定された各前記個別波形について、前記最大点における振動強度である最大強度(V)を前記開始点から前記最大点までの時間である増加時間(Ts)で割った増加率(V/Ts)が所定の増加率閾値(Zs)よりも大きく、且つ前記最大強度を前記最大点から前記終了点までの時間である減衰時間(Te)で割った減衰率(V/Te)が所定の減衰率閾値(Ze)よりも小さいことを条件にノック有と判定し、
前記振動の所定周波数帯成分は、所定の下限周波数以上且つ所定の上限周波数以下の振動であり、前記終了判定時間は、前記下限周波数の逆数以上且つ前記逆数の2倍以下の長さの時間である、ノック判定装置。
【請求項3】
前記特徴抽出部は、前記個別波形における振動強度の最大値が第2閾値(Y2)よりも大きいことを条件に、当該個別波形の
前記特徴を抽出する、請求項
1又は2に記載のノック判定装置。
【請求項4】
前記特徴抽出部は、前記個別波形における振動強度の最大値が前記第1閾値よりも大きい第2閾値(Y2)よりも大きいことを条件に、当該個別波形の
前記特徴を抽出する、請求項
1又は2に記載のノック判定装置。
【請求項5】
前記特徴抽出部は、前記特徴の抽出作業として、前記個別波形の仮特徴
としての前記特徴の抽出作業と、前記個別波形の
前記仮特徴を前記個別波形の
前記特徴に確定する作業とを行うものであり、
前記終了判定部により一の前記個別波形が終了したと判定されたことを条件に、前記特徴抽出部は、前記一の個別波形の
前記仮特徴を前記個別波形の
前記特徴に確定すると共に、次の前記個別波形の
前記仮特徴
としての前記特徴の抽出作業を開始する、請求項1~
4のいずれか1項に記載のノック判定装置。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載のノック判定装置(95)と、前記ノック判定部によりノック有と判定された際に、前記ノックを抑える制御を行うノック制御部(36)とを有するノック制御装置(96)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関におけるノックの有無についてのノック判定を行うノック判定装置、及びそのノック判定の結果に基づきノックを抑える制御を行うノック制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ノック判定装置の中には、検出部とノック判定部とを有するものがある。検出部は、内燃機関の各燃焼サイクル内の所定期間に、内燃機関に発生する振動を検出する。ノック判定部は、その検出された振動の所定周波数帯成分の振動波形の特徴が、ノック波形の特徴か否かに基づいてノック判定を行う。そして、そのようなノック判定装置を示す文献としては、次の特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のノック判定装置では、所定期間内に複数のノイズが発生した場合、それら複数のノイズによる振動波形の全体一纏めの特徴が、ノック波形の特徴か否かに基づいてノック判定を行うことになる。そのため、複数のノイズによる振動波形であるにも関わらず、その振動波形の特徴を一のノック波形の特徴と誤判定してしまうおそれがある。また、所定期間内にノイズとノックとの双方が発生した場合、それらノイズとノックとの双方による振動波形の全体一纏めの特徴が、ノック波形の特徴か否かに基づいてノック判定を行うことになる。そのため、ノイズとノックとの双方による振動波形であるにも関わらず、その振動波形の特徴を、一のノイズ波形の特徴と誤判定してしまうおそれがある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、複数のノイズによる振動波形の特徴を、一のノック波形の特徴と誤判定したり、ノイズとノックとの双方による振動波形の特徴を、一のノイズ波形の特徴と誤判定したりするのを抑制して、ノック判定の精度を向上させることを、主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のノック判定装置は、検出部とノック判定部とを有する。前記検出部は、内燃機関の各燃焼サイクル内の所定期間に、前記内燃機関に発生する振動を検出する。前記ノック判定部は、検出された前記振動の所定周波数帯成分の振動波形に基づいて、ノックの有無についてのノック判定を行う。
【0007】
以下では、前記振動波形に含まれている所定の各一連の振動の波形を個別波形とする。ノック判定は、各前記個別波形の終了部を判定して前記個別波形どうしの境を認識する終了判定部と、前記境の認識に基づいて各前記個別波形の特徴の抽出作業を行う特徴抽出部と、を有する。そして、前記ノック判定部は、前記特徴抽出部により前記特徴が抽出された各前記個別波形について当該特徴がノック波形の特徴か否かを判定し、いずれかの前記個別波形の特徴が前記ノック波形の特徴と判定されることを条件にノック有と判定する。
【0008】
本発明によれば、振動波形に含まれているいずれかの個別波形の特徴がノック波形の特徴と判定されることを条件に、ノック有と判定されることになる。そのため、振動波形の全体一纏めの特徴がノック波形の特徴か否かに基づいてノック判定を行う場合に比べて、複数のノイズによる振動波形を一のノック波形と誤判定したり、ノイズとノックとの双方による振動波形を一のノイズ波形と誤判定したりするのを抑制できる。そのため、ノック判定の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態のノック判定装置及びその周辺を示す概略図
【
図2】ノック判定装置及びその周辺を示すブロック図
【
図3】複数の個別波形を含む振動波形の例を示すグラフ
【
図5】ノック判定装置による制御を示すフローチャート
【
図6】そのフローに伴う各パラメータの変化を示すタイムチャート
【
図8】ノイズとノックとの双方による振動波形を示すグラフ
【
図9】第2実施形態において、特徴が抽出された個別波形の例を示すブラフ?
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実施できる。
【0011】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態のノック判定装置95及びノック制御装置96が設置されている内燃機関90を示す断面図である。内燃機関90は、エンジンブロック11、ピストン12、吸気バルブ13、排気バルブ14等を有する。内燃機関90に対しては、電子スロットル41、インジェクタ42、点火コイル43及びそれらを制御するECU30等が設置されている。
【0012】
ECU30は、運転者からの速度要求を、アクセルセンサ21を介して入力する。その入力に基づいて、空気量や燃料噴射量や点火タイミング等を制御する。具体的には、電子スロットル41を制御することにより空気量を制御し、インジェクタ42を制御することにより燃料噴射量を制御し、点火コイル43を制御することにより点火タイミングを制御する。
【0013】
エンジンブロック11には、検出部29が設置されている。その検出部29は、内燃機関90の各燃焼サイクル内における所定期間であるゲート期間Gに、内燃機関90に発生する振動を検出する。ゲート期間Gは、内燃機関90にノックが発生した際にそのノックによる振動が発生する期間であり、具体的には、例えば、膨張行程内における所定の60CA(クランクアングル)の期間である。
【0014】
図2は、ノック判定装置95及びノック制御装置96を示すブロック図である。ECU30は、デジタル変換部31と、バンドパスフィルタ32と、特徴抽出部33と、終了判定部34と、ノック判定部35と、ノック制御部36とを有する。
【0015】
そして、検出部29とデジタル変換部31とバンドパスフィルタ32と特徴抽出部33と終了判定部34とノック判定部35とが、ノック判定装置95を構成している。そのノック判定装置95とノック制御部36とが、ノック制御装置96を構成している。
【0016】
検出部29は、ゲート期間Gにおいて内燃機関90に発生した振動をアナログ信号で検出する。デジタル変換部31は、そのアナログ信号をデジタル変換する。バンドパスフィルタ32は、そのデジタル変換された振動情報における振動波形から、所定周波数帯(例えば、14kHz程度±1kHz)成分を抽出する。具体的には、バンドパスフィルタ32は、所定の下限周波数(例えば、14kHz程度-1kHz)以上、且つ所定の上限周波数(例えば、14kHz程度+1kHz)以下の振動を抽出することにより、上記の所定周波数帯の振動を抽出する。
【0017】
以下では、バンドパスフィルタ32により抽出された振動の振動波形に含まれている所定の各一連の振動の波形を、「個別波形Wo」という。終了判定部34は、各個別波形Woの終了部を判定して個別波形Woどうしの境を認識する。特徴抽出部33は、その境の認識に基づいて各個別波形Woの特徴Ps,Pm,Peの抽出作業を行う。
【0018】
具体的には、特徴抽出部33は、まず、一の個別波形Woの仮特徴の抽出作業を行う。そして、終了判定部34により当該一の個別波形Woが終了したと判定されたことを条件に、特徴抽出部33は、当該一の個別波形Woの仮特徴を正式な特徴Ps,Pm,Peとして確定すると共に、次の個別波形Woの仮特徴の抽出作業を開始する。すなわち、その正式な確定により、特徴Ps,Pm,Peが正式に抽出される。すなわち、特徴抽出部33は、個別波形Woの特徴Ps,Pm,Peの抽出作業として、個別波形Woの仮特徴の抽出作業と、その仮特徴を正式な特徴Ps,Pm,Peに確定する作業とを行う。
【0019】
ノック判定部35は、特徴が抽出された各個別波形Woについて当該特徴がノック波形の特徴か否かを判定する。そして、ノック判定部35は、いずれかの個別波形Woの特徴がノック波形の特徴と判定されることを条件にノック有と判定する。他方、いずれの個別波形Woの特徴もノック波形の特徴と判定されない場合には、ノック無と判定する。
【0020】
ノック制御部36は、ノック判定部35によりノック有と判定されない限りは、ECU30が内燃機関90を通常の点火タイミングで制御することを許容する通常制御を行う。他方、ノック判定部35によりノック有と判定された際には、ノック制御部36は、点火タイミングを通常制御の場合に比べて遅らせるノック抑制制御を行う。
【0021】
図3は、複数の個別波形Woを含む振動波形の例を示すグラフである。グラフの横軸は時間を示し、グラフの縦軸は振動強度を示している。
【0022】
特徴抽出部33は、個別波形Woの仮特徴として、仮開始点と仮最大点と仮終了点とを抽出する。そして、終了判定部34により一の個別波形Woが終了したと判定されたことを条件に、その一の個別波形Woの仮開始点と仮最大点と仮終了点とを、それぞれ正式な開始点Psと最大点Pmと終了点Peとして確定する。以下では、仮開始点と仮最大点と仮終了点とを「仮3点」といい、開始点Psと最大点Pmと終了点Peとを「3点Ps,Pm,Pe」という。仮3点の抽出作業及びそれらを正式な3点Ps,Pm,Peに確定する作業については後述する。
【0023】
開始点Psは、個別波形Woにおいて振動強度が最初に第1閾値Y1を上回った点である。最大点Pmは、振動強度が第1閾値Y1よりも大きい第2閾値Y2よりも大きく、且つ個別波形Woにおいて振動強度が最大となる点である。よって、個別波形Woにおいて振動強度が最大となる点が第2閾値Y2よりも小さい場合には、その個別波形Woについては最大点Pmが抽出されない。それにより、その個別波形Woについては、その特徴がノック波形の特徴か否か判定されることなく、事実上ノック波形ではないものとみなされる。終了点Peは、個別波形Woにおいて振動強度が最後に第1閾値Y1を下回った点である。
【0024】
終了判定部34は、振動強度が第1閾値Y1を上回った状態から第1閾値Y1を下回ってから、その下回った状態が所定の終了判定時間Xf以上継続したことを条件に、一の個別波形Woが終了したと判定する。その終了判定時間Xfは、バンドパスフィルタ32により抽出される振動、すなわち終了判定部34で扱う振動の下限周波数(例えば、14kHz程度-1kHz)の逆数(この場合、75μs程度)以上且つその逆数の2倍(この場合、150μs程度)以下の長さの時間(例えば90μs程度)である。この下限周波数の逆数は、一振動周期の上限に相当する。よって、終了判定時間Xfは、終了判定部34で扱う振動の一振動周期の上限以上且つその上限の2倍以下の長さの時間である。
【0025】
図4は、特徴抽出部33により3点Ps,Pm,Peが抽出された個別波形Woの例を示すグラフである。以下では、開始点Psから最大点Pmまでの時間を「増加時間Ts」とし、最大点Pmから終了点Peまでの時間を「減衰時間Te」とする。3点Ps,Pm,Peは、個別波形Woの一次的特徴に相当し、増加時間Ts及び減衰時間Teは、個別波形Woの二次的特徴に相当する。
【0026】
ノック判定部35は、
図4(a)に示すように、個別波形Woの増加時間Tsが所定の増加時間閾値Xsよりも小さく、且つ個別波形Woの減衰時間Teが所定の減衰時間閾値Xeよりも大きいことを条件に、その個別波形Woをノック波形と判定する。他方、
図4(b)に示すように、個別波形Woの増加時間Tsが増加時間閾値Xsよりも大きい場合や、
図4(c)に示すように、個別波形Woの減衰時間Teが減衰時間閾値Xeよりも小さい場合は、その個別波形Woをノック波形ではないと判定する。
【0027】
図5は、ノック判定部35による制御を示すフローチャートである。以下では、仮開始点の時点を「仮開始時点」といい、仮最大点における振動強度を「仮最大強度」といい、仮最大点の時点を「仮最大時点」といい、仮終了点の時点を「仮終了時点」という。また、仮終了時点からの経過時間を「仮終了後時間」という。また、開始点Psの時点を「開始時点」といい、最大点Pmにおける振動強度を「最大強度」といい、最大点Pmの時点を「最大時点」といい、終了点Peの時点を「終了時点」という。また、ゲート期間Gの開始からの経過時間を、単に「経過時間」という。以上の各パラメータうち仮終了後時間以外は、このフローを開始する初期状態においては、全てクリアされた未抽出の状態、言い換えれば「0」が抽出されている状態になっている。他方、仮終了後時間は、このフローを開始する初期状態においては、終了判定時間Xfと同じ値かそれよりも大きい値に初期設定されている。
【0028】
まず、S101~S103に基づく、基本作業について説明する。ゲート期間Gが開始される(S101)と、まず、経過時間が所定のゲート閾値XGよりも小さいか否かを判定する(S102)。ゲート閾値XGよりも小さいと判定した場合(S102:YES)、経過時間を示すカウントをプラスして(S103)、次のS111に進む。
【0029】
次に、S111~S114に基づく仮開始時点の抽出作業について説明する。S111では、現在の振動強度が第1閾値Y1よりも大きいか否か判定する(S111)。第1閾値Y1よりも大きいと判定した場合(S111:YES)、現在カウントされている仮終了後時間が終了判定時間Xfよりも大きいか否かを判定する(S112)。終了判定時間Xfよりも大きい場合(S112:YES)、現在の経過時間を仮開始時点として抽出して(S113)、次のS114に進む。他方、仮終了後時間が終了判定時間Xfよりも小さい場合(S112:NO)、S113をスキップして、そのままS114に進む。S114では、現在カウントされている仮終了後時間、及び現在抽出されている仮終了点をクリアして、次のS121に進む。
【0030】
次に、S121~S123に基づく仮最大強度及び仮最大時点の抽出作業について説明する。S121では、現在の振動強度が所定の第2閾値Y2よりも大きいか否かを判定する(S121)。第2閾値Y2よりも小さいと判定した場合(S121:NO)、仮最大強度等を抽出することなくS102に戻る。他方、S121で現在の振動強度が第2閾値Y2よりも大きいと判定した場合(S121:YES)、現在の振動強度が、現在抽出されている仮最大強度よりも大きいか否かを判定する(S122)。現在抽出されている仮最大強度よりも小さいと判定された場合(S122:NO)、仮最大強度を抽出(更新)することなくS102に戻る。他方、S122で現在の振動強度が、現在抽出されている仮最大強度よりも大きいと判定した場合(S122:YES)、現在の振動強度を仮最大強度として抽出すると共に、現在の経過時間を仮最大時点として抽出する(S123)。
【0031】
次に、S131~S133に基づく仮終了時点の抽出作業について説明する。S111で、振動強度が第1閾値Y1よりも小さいと判定された場合(S111:NO)、仮開始時点を抽出済みであるか否か判定する(S131)。抽出済みでないと判定した場合(S131:NO)、仮終了時点を抽出することなく、仮終了後時間を示すカウンタをプラスして(S130)、S102に戻る。他方、S131で、仮開始時点を抽出済みであると判定した場合(S131:YES)、仮終了時点を抽出済みであるか否かを判定する(S132)。抽出済みでないと判定した場合(S132:NO)、現在の経過時間を仮終了時点として抽出する(S133)と共に、仮終了後時間を示すカウンタをプラスして(S130)、S102に戻る。
【0032】
次に、S141~S142に基づく個別波形Woの終了判定について説明する。S132で仮終了時点を抽出済みと判定した場合(S132:YES)、仮終了後時間が終了判定時間Xfよりも大きいか否かを判定する(S141)。終了判定時間Xfよりも小さいと判定した場合(S141:NO)、個別波形Woが終了したことを確認できないので、仮終了後時間を示すカウンタをプラスして(S130)、S102に戻る。他方、S141で、仮終了後時間が終了判定時間Xf以上であると判定した場合(S141:YES)、個別波形Woが終了したと判定する(S142)。
【0033】
次に、S144~S146に基づく仮3点を正式な3点Ps,Pm,Peに確定する作業について説明する。S143の後は、仮最大時点を抽出済みであるか否かを判定する(S144)。抽出済みでないと判定した場合(S144:NO)、終了した個別波形Woは、ノック判定を行うまでもなくノック波形ではないと判定できるので、3点Ps,Pm,Peの確定を行うことなく、経過時間及び仮終了後時間以外の各パラメータをクリアする(S145)と共に、仮終了後時間を示すカウンタをプラスして(S130)、S102に戻る。他方、S144で仮最大時点を抽出済みと判定した場合、仮開始時点と仮最大強度と仮最大時点と仮終了時点とを、それぞれ開始時点と最大強度と最大時点と終了時点として確定する(S146)。それにより、仮3点が正式な3点Ps,Pm,Peとして確定する。
【0034】
次に、S151~S154に基づくノック判定について説明する。S146の後は、抽出された個別波形Woの特徴がノック波形の特徴か否か判定する(S151)。具体的には、前述のとおり、3点Ps,Pm,Peに基づいて増加時間Tsと減衰時間Teとを算出し、その増加時間Tsが増加時間閾値Xsよりも小さく、且つ減衰時間Teが減衰時間閾値Xeよりも大きいか否かに基づいて、個別波形Woの特徴がノック波形の特徴か否か判定する(S151)。ノック波形の特徴と判定した場合(S151:YES)、ノック有と判定する(S152)。この場合、ノック制御部36は、前述のノック抑制制御を行う。
【0035】
他方、S151で個別波形Woの特徴をノック波形の特徴でないと判定した場合(S151:NO)を、経過時間及び仮終了後時間以外の各パラメータをクリアする(S153)と共に、仮終了後時間を示すカウンタをプラスして(S130)、S102に戻る。そして、いつまでもS152に進むことなく時間が経過して、S102で経過時間がゲート閾値XGよりも大きいと判定した場合(S102:NO)、ノック無と判定する(S154)。この場合、ノック制御部36は前述の通常制御を行う。
【0036】
図6は、上記のフローに伴う各パラメータの変化を示すタイムチャートである。ここでは、
図6(b)に示す振動波形が発生したものとする。所定の第1タイミングt1でゲート期間Gが開始されると、
図6(a)に示すゲートフラグがONになると共に、
図6(c)に示す経過時間及び
図6(h)に示す仮終了後時間が増加を開始する。その後の第2タイミングt2で、
図6(b)に示す振動強度が第1閾値Y1を上回ると、
図6(d)に示す仮開始時点として、その時点における経過時間が抽出される。それに伴い、
図6(h)に示す仮終了後時間がクリアされる。
【0037】
その後の第3タイミングt3の直前で、
図6(b)に示す振動強度が第2閾値Y2を上回ると共に、その直後の第3タイミングt3で振動強度が、
図6(e)に示すそれまでの仮最大強度(0)よりも大きくなる。それにより、
図6(e)(f)に示すように、その時点における振動強度及び経過時間が、それぞれ仮最大強度及び仮最大時点として抽出される。これと同様に第4タイミングt4でも、その時点における振動強度及び経過時間が、それぞれ仮最大強度及び仮最大時点として抽出(更新)される。
【0038】
そして、第2タイミングt2よりも後においては、
図6(b)に示す振動強度が第1閾値Y1を下回る毎に、
図6(g)に示すように、その時点における経過時間が仮終了時点として抽出され、
図6(h)に示すように、仮終了後時間が増加を開始する。しかし、仮終了後時間が終了判定時間Xfに達する前に、
図6(b)に示す振動強度が第1閾値Y1を上回る度に、
図6(g)(f)に示す仮終了時点及び仮終了後時間がクリアされる。その後の第5タイミングt5で、
図6(h)に示す仮終了後時間が終了判定時間Xfに達すると、仮3点が正式な3点Ps,Pm,Peとして確定してノック判定が行われる。それに伴い、
図6(d)~(g)に示す各パラメータ、すなわち経過時間及び仮終了後時間以外の各パラメータがクリアされる。その後は再び、これら各パラメータの抽出作業が開始される。
【0039】
その後の第6タイミングt6において、
図6(c)に示す経過時間がゲート閾値XGに達すると、
図6(a)に示すゲートフラグがオフになるとともに、
図6(c)~(h)に示す各パラメータがクリアされ、このゲート期間Gにおけるノック判定が終了する。
【0040】
図7は、ゲート期間Gにおいて、最初に第1ノイズN1が発生し、次に第2ノイズN2が発生した場合の振動波形を示すグラフである。第1ノイズN1は、振動強度が大きく且つ振動強度の増加及び減衰が急激なノイズである。他方、第2ノイズN2は、振動強度が小さいノイズである。
【0041】
図7(a)は、この振動波形について、比較例のノック判定装置でノック判定を行った場合を示している。この比較例のノック判定装置は、本実施形態でいう終了判定部34等の機能を有していない。そのため、この比較例では、ゲート期間Gの全範囲内において、振動強度が最初に第1閾値Y1を上回った点を開始点Psとし、振動強度が最大となった点を最大点Pmとし、振動強度が最後に第1閾値Y1を下回った点を終了点Peとする。
【0042】
そのため、この比較例では、最初に発生した第1ノイズN1の振動強度が最初に第1閾値Y1を上回った点が開始点Psとなり、その第1ノイズN1の振動強度が最大となった点が最大点Pmとなる。そして、次に発生した第2ノイズN2の振動強度が最後に第1閾値Y1を下回った点が終了点Peとなる。この場合、増加時間Tsが増加時間閾値Xsよりも小さくなり、且つ減衰時間Teが減衰時間閾値Xeよりも大きくなることにより、振動波形はノック波形であると誤判定されてしまう。すなわち、複数のノイズN1,N2による振動波形が、一のノック波形と誤認されてしまい、ノック有と判定されてしまう。
【0043】
その点、本実施形態では、
図7(b)に示すように、第1ノイズN1による振動波形と第2ノイズN2による振動波形とが、終了判定部34等の機能により、それぞれ別々の個別波形Woとして認識されることになる。そして、第1ノイズN1については、減衰時間Teが減衰時間閾値Xeよりも小さいことで、ノック波形ではないと判定される。また、第2ノイズN2については、最大点が抽出されないことにより、ノック判定を行うまでもなく、ノック波形ではないと判定される。そのため、ノック無と判定される。以上のように、本実施形態によれば、比較例と違い、複数のノイズN1,N2による振動波形が一のノック波形と誤判定されるのを回避できる。
【0044】
図8(a)(b)は、ゲート期間Gにおいて、最初にノイズNが発生し、次にノックKが発生した場合の振動波形を示すグラフである。
【0045】
図8(a)は、この振動波形について、上記と同様の比較例のノック判定装置で、ノック判定を行った場合を示している。この比較例では、最初に発生したノイズNの振動強度が最初に第1閾値Y1を上回った点が開始点Psとなり、次に発生したノックKの振動強度が最大となった点が最大点Pmとなり、そのノックKの振動強度が最後に第1閾値Y1を下回った点が終了点Peとなる。この場合、増加時間Tsは増加時間閾値Xsよりも大きくなってしまう。そのため、振動波形はノック波形ではないと誤判定されてしまう。すなわち、ノイズNとノックKとの双方による振動波形が、一のノイズ波形と誤認されてしまい、ノック無と判定される。
【0046】
その点、本実施形態では、
図8(b)に示すように、ノイズNによる振動波形とノックKによる振動波形とが、終了判定部34等の機能により、それぞれ別々の個別波形Woとして認識されることになる。そして、最初に発生したノイズNについては、最大点Pmが抽出されていないことにより、ノック波形ではないと判定される。しかし、ノックKについては、増加時間Tsが増加時間閾値Xsよりも小さく且つ減衰時間Teが減衰時間閾値Xeよりも大きいことにより、ノック波形であると判定される。そのため、ノック有と判定される。そのため、比較例の場合とは違い、ノイズNとノックKとの双方による振動波形が一のノイズ波形と誤判定されるのを回避できる。
【0047】
本実施形態によれば、ゲート期間Gに発生する振動波形に含まれているいずれかの個別波形Woの特徴がノック波形の特徴と判定されることを条件に、ノック有と判定されることになる。そのため、ゲート期間Gに発生する振動波形の全体一纏めの特徴がノック波形の特徴か否かに基づいてノック判定を行う場合(比較例)に比べて、複数のノイズによる振動波形を一のノック波形と誤判定したり、ノイズとノックとの双方による振動波形を一のノイズ波形と誤判定したりするのを抑制できる。そのため、ノック判定の精度を向上させることができる。
【0048】
また、次に示す効果も得られる。終了判定部34は、振動強度が所定の第1閾値Y1を上回った状態から下回ってから、その下回った状態が所定の終了判定時間Xf以上継続したことを条件に、個別波形Woが終了したと判定する。そのため、簡単に個別波形Woの終了を判定できる。
【0049】
また、終了判定時間Xfは、前述の通り、終了判定部34で扱う振動の一振動周期の上限(例えば75μs程度)よりも長い(例えば90μs程度)。そのため、終了判定部34は、その一振動周期以上の時間の間に、振動強度が第1閾値Y1を上回らなかったか否かを確認できる。それにより、精度よく個別波形Woが終了したか否かを判定できる。
【0050】
また、終了判定時間Xfは、上記の下限周波数の逆数の2倍(例えば150μs程度)よりも短い(例えば90μs程度)。そのため、終了判定に無駄に多くの時間を費やすのを回避できる。そのため、その後に行う、仮3点を正式な3点Ps,Pm,Peに確定する作業及びノック判定を、速やかに開始することができる。
【0051】
また、次に示す効果も得られる。個別波形Woにおける振動強度の最大値が小さい場合には、その個別波形Woはノック波形ではない可能性が高い。その点、本実施形態では、仮最大強度が抽出されていることを条件に、すなわち、個別波形Woにおける振動強度の最大値が第2閾値Y2よりも大きいことを条件に、当該個別波形Woの特徴Ps,Pm,Peを抽出(確定)する。それにより、個別波形Woにおける振動強度の最大値が第2閾値Y2よりも小さい場合には、そもそもノック判定を行わないようにすることができ、それにより、ノック判定を効率的且つ迅速に進行することができる。
【0052】
また、特徴抽出部33は、個別波形Woの特徴の抽出作業として、個別波形Woの仮特徴の抽出作業と、その仮特徴を正式な特徴Ps,Pm,Peに確定する作業とを行う。具体的には、終了判定部34により一の個別波形Woが終了したと判定されたことを条件に、特徴抽出部33は、当該一の個別波形Woの仮特徴を正式な特徴に確定すると共に、次の個別波形Woの仮特徴の抽出作業を開始する。それにより、各個別波形Woの特徴Ps,Pm,Peの抽出作業を効率的に進めることができる。
【0053】
また、開始点Psと最大点Pmと終了点Peとの3点Ps,Pm,Peを用いることにより、少ない情報で効率的に個別波形Woの特徴を捉えることができる。そのため、特徴抽出部33やノック判定部35の処理の負担を軽減して、それらの処理を迅速に行うことができる。
【0054】
また、増加時間Tsと減衰時間Teとを用いることにより、少ない情報で効率的にノック判定を行うことができる。そのため、ノック判定部35の処理の負担を軽減して、ノック判定を迅速に行うことができる。
【0055】
また、ノック制御部36は、ノック判定部35によりノック有と判定された際に、ノック抑制制御を行う。そのため、ノック判定の結果を有効活用して、ノック抑制制御を行うことができる。
【0056】
[第2実施形態]
次に第2実施形態について説明する。以下の実施形態においては、それ以前の実施形態のものと同一の又は対応する部材等については、同一の符号を付する。本実施形態については、第1実施形態をベースにこれと異なる点を中心に説明する。
【0057】
図9は、特徴抽出部33により3点Ps,Pm,Peが抽出された個別波形Woの例を示すグラフである。以下では、最大点Pmにおける振動強度を「最大強度V」といい、その最大強度Vを増加時間Tsで割ったものを「増加率V/Ts」といい、最大強度Vを減衰時間Teで割ったものを「減衰率V/Ts」という。
【0058】
図9(a)に示すように、ノック判定部35は、個別波形Woの増加率V/Tsが所定の増加率閾値Zsよりも大きく、且つ減衰率V/Teが所定の減衰率閾値Zeよりも小さいことを条件に、その個別波形Woをノック波形と判定する。他方、
図9(b)に示すように、個別波形Woの増加率V/Tsが増加率閾値Zsよりも小さい場合や、
図9(c)に示すように、減衰率V/Teが減衰率閾値Zeよりも大きい場合は、その個別波形Woをノック波形でないと判定する。
【0059】
本実施形態によれば、増加時間Tsと減衰時間Teとに加えて、最大強度Vも用いてノック判定を行うことにより、より精度よくノック判定を行うことができる。
【0060】
[他の実施形態]
以上の実施形態は、例えば次のように変更して実施できる。例えば、各実施形態では、プラスマイナスまで考慮した振動の強さを振動強度としているが、その振動の強さの絶対値を振動強度として、各実施形態を実施してもよい。
【0061】
また例えば、第1実施形態等では、振動強度が第1閾値Y1を下回った状態が終了判定時間Xf以上継続したことを条件に、個別波形Woが終了したと判定するが、それに代えて又は加えて、次の条件を設定してもよい。すなわち、仮終了時点後の振動強度の最初の極大値が第1閾値Y1よりも小さいことを、代わりの又は追加の条件にしてもよい。
【0062】
また例えば、第1実施形態等では、3点Ps,Pm,Peのみを用いてノック判定を行っているが、追加の点を加えた4点以上を用いてノック判定を行うようにしてもよい。また例えば、第1実施形態では、増加時間閾値Xsや減衰時間閾値Xeは固定であるが、最大点Pmにおける振動強度に基づいて変化するようにしてもよい。
【0063】
また例えば、第1実施形態等では、個別波形Woが終了したと判定されることに加えて、個別波形Woの仮最大点が抽出されていること、すなわち、振動強度が過去に第2閾値Y2を上回っていることを追加の条件に、当該個別波形Woの仮特徴を正式な特徴Ps,Pm,Peに確定して、ノック判定を行う。この追加の条件をなくして、仮最大点が抽出されていなくても、仮特徴を正式な特徴Ps,Pm,Peとして確定して、ノック判定を行うようにしてもよい。
【0064】
また、第1実施形態等では、ノック制御部36は、ノック判定部35によりノック有と1回判定されることを条件にノック抑制制御を行うが、ノック有と複数回判定されることを条件にノック抑制制御を行うようにしてもよい。この場合には、より慎重にノック抑制制御に移行できる。
【符号の説明】
【0065】
10…内燃機関、29…検出部、33…特徴抽出部、34…終了判定部、35…ノック判定部、94…ノック判定装置、G…ゲート期間、Ps…開始点、Pm…最大点、Pe…終了点、Wo…個別波形。