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特許7452106液体吐出ヘッド、液体吐出装置、および、液体吐出ヘッドの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド、液体吐出装置、および、液体吐出ヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20240312BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
B41J2/14 607
B41J2/14 305
B41J2/14
B41J2/14 613
B41J2/14 611
B41J2/16 501
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020038524
(22)【出願日】2020-03-06
(65)【公開番号】P2021138075
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼部 本規
(72)【発明者】
【氏名】望月 慎高
(72)【発明者】
【氏名】穗苅 吉宏
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-029012(JP,A)
【文献】特開2007-320298(JP,A)
【文献】特開2000-006395(JP,A)
【文献】特開2007-090871(JP,A)
【文献】特開2012-250529(JP,A)
【文献】特開2009-083262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するための圧力が前記液体に付与される圧力室を区画する複数の区画壁を有する圧力室区画部と、
前記圧力室に面する壁面を有する振動板と、
第1電極と、
圧電体と、
第2電極と、が第1方向に順番に設けられた液体吐出ヘッドであって、
前記複数の区画壁は、第1区画壁および第2区画壁を含み、
前記圧力室は、前記第1方向と交差する第2方向において前記第1区画壁と前記第2区画壁との間にあり、
前記振動板の前記壁面は、前記第2方向において前記第1区画壁までの距離が前記第2区画壁までの距離以下である第1位置にある第1部分と、前記第2方向において前記第1位置と前記第1区画壁との間の第2位置にある第2部分と、を含み、
前記第2部分の前記第1方向における位置は、前記第1部分の前記第1方向における位置よりも、前記第1方向の反対側にあり、
前記第2電極は、前記第1位置と前記第2位置の両方に存在し、
前記第1電極は、前記第1位置には存在し、前記第2位置には存在しない、
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記第1位置は、前記第2方向において前記第1区画壁と前記第2区画壁との間の中間に位置し、
前記第2位置は、前記第2方向において前記圧力室の端部に対応する位置である、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
液体を吐出するための圧力が前記液体に付与される圧力室を区画する複数の区画壁を有する圧力室区画部と、
前記圧力室に面する壁面を有する振動板と、
圧電体と、が第1方向に順番に設けられた液体吐出ヘッドであって、
前記複数の区画壁は、第1区画壁および第2区画壁を含み、
前記圧力室は、前記第1方向と交差する第2方向において前記第1区画壁と前記第2区画壁との間にあり、
前記振動板の前記壁面は、前記第2方向において前記第1区画壁までの距離が前記第2区画壁までの距離以下である第1位置にある第1部分と、前記第2方向において前記第1位置と前記第1区画壁との間の第2位置にある第2部分と、を含み、
前記第2部分の前記第1方向における位置は、前記第1部分の前記第1方向における位置よりも、前記第1方向の反対側にあり、
前記第1位置は、前記第2方向において前記第1区画壁と前記第2区画壁との間の中間に位置し、
前記第2位置は、前記第2方向において前記圧力室の端部に対応する位置であり、
前記圧電体は、前記第1位置と前記第2位置の両方に存在する、
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記第1方向の長さを厚さとして、
前記振動板の前記第2位置における厚さは、前記振動板の前記第1位置における厚さよりも薄いことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記第1方向の長さを厚さとして、
前記振動板の前記第2位置における厚さは、前記振動板の前記第1位置における厚さよりも厚いことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記振動板は、前記第1方向に順番に、弾性層、および、絶縁層を含み、
前記第1方向の長さを厚さとして、
前記弾性層の前記第2位置における厚さは、前記弾性層の前記第1位置における厚さよりも厚いことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
液体を吐出するための圧力が前記液体に付与される圧力室を区画する複数の区画壁を有する圧力室区画部と、
前記圧力室に面する壁面を有する振動板と、
圧電体と、が第1方向に順番に設けられた液体吐出ヘッドであって、
前記複数の区画壁は、第1区画壁および第2区画壁を含み、
前記圧力室は、前記第1方向と交差する第2方向において前記第1区画壁と前記第2区画壁との間にあり、
前記振動板の前記壁面は、前記第2方向において前記第1区画壁までの距離が前記第2区画壁までの距離以下である第1位置にある第1部分と、前記第2方向において前記第1位置と前記第1区画壁との間の第2位置にある第2部分と、を含み、
前記第2部分の前記第1方向における位置は、前記第1部分の前記第1方向における位置よりも、前記第1方向の反対側にあり、
前記第1方向の長さを厚さとして、前記振動板の前記第2位置における厚さは、前記振動板の前記第1位置における厚さよりも薄く、
前記振動板は、前記第1方向に順番に、弾性層、および、絶縁層を含み、
前記第1位置は、前記第2方向において前記第1区画壁と前記第2区画壁との間の中間に位置し、
前記第2位置は、前記第2方向において前記圧力室の端部に対応する位置である、
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記第1方向の長さを厚さとして、
前記弾性層の前記第2位置における厚さは、前記弾性層の前記第1位置における厚さよりも厚いことを特徴とする請求項7に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記絶縁層の前記第2位置における厚さは、前記絶縁層の前記第1位置における厚さに略等しいことを特徴とする請求項6または8に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記第2位置に位置する前記弾性層における前記第1方向の末端部の位置は、前記第1位置に位置する前記弾性層における前記第1方向の末端部の位置と、略同じであることを特徴とする請求項6、8及び9の何れか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記絶縁層は、前記第1位置にある第1絶縁層厚さ部と、前記第2位置にある第2絶縁層厚さ部と、を含み、
前記第2位置に位置する前記絶縁層における前記第1方向の末端部の位置は、前記第1位置に位置する前記絶縁層における前記第1方向の末端部の位置と略同じであり、
前記第2位置に位置する前記絶縁層における前記第1方向の反対側の端部の位置は、前記第1位置に位置する前記絶縁層における前記第1方向の反対側の端部の位置と、略同じであることを特徴とする請求項10に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
前記第2位置に位置する前記弾性層における前記第1方向の末端部の位置は、前記第1位置に位置する前記弾性層における前記第1方向の末端部の位置よりも、前記第1方向の反対側にあることを特徴とする請求項6、8及び9の何れか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項13】
前記第2位置に位置する前記絶縁層における前記第1方向の末端部の位置は、前記第1位置に位置する前記絶縁層における前記第1方向の末端部の位置よりも、前記第1方向の反対側にあり、
前記第2位置に位置する前記絶縁層における前記第1方向の反対側の端部の位置は、前記第1位置に位置する前記絶縁層における前記第1方向の反対側の端部の位置よりも、前記第1方向の反対側にあることを特徴とする請求項12に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項14】
前記弾性層の主成分が酸化シリコンであり、前記絶縁層の主成分が酸化ジルコニウムであることを特徴とする請求項6から13のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項15】
前記圧電体は、前記第1位置と前記第2位置の両方に存在することを特徴とする請求項1または7のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項16】
前記第1方向において前記振動板と前記圧電体との間にある第1電極と、
前記圧電体に対して前記第1電極とは反対側にある第2電極と、を更に含み、
前記第1位置には、前記第1電極および前記第2電極が存在し、
前記第2位置には、前記第1電極と前記第2電極の一方が存在しないことを特徴とする請求項3または7に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項17】
前記第1電極は、個別電極であり、
前記第2電極は、共通電極であり、
前記第2位置には、前記第2電極が存在し、前記第1電極が存在しない、
ことを特徴とする請求項16に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項18】
前記第1電極は、個別電極であり、
前記第2電極は、共通電極である、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項19】
請求項1から18のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドからの前記液体の吐出動作を制御する制御部と、を含むことを特徴とする液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力室を有する液体吐出ヘッド、液体吐出装置、および、液体吐出ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドとして、圧力室の壁の一部を構成する振動板に対して圧電素子により撓み変形を生じさせることによりノズルから液滴を吐出する圧電式の液体吐出ヘッドが知られている。特許文献1に開示された液体噴射ヘッドは、圧電体層にクラック等が発生することをより確実に抑制するため、圧電体層の撓み変形が阻害される領域まで延設された上電極層と、前述の領域に重なる位置まで延設された共通金属層と、共通金属層と重なる位置を超えて上電極層の端部まで延設された共通密着層とを備えている。液体吐出ヘッドの圧力室形成基板は、圧力室を区画する複数の隔壁を有している。圧電素子に駆動電圧が印加されていない時、振動板において圧力室に面する壁面は、平坦面である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-58467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
振動板の内、圧力室に面する圧力室対応部は撓み変形を繰り返し、隔壁と重なっている圧力室非対応部は撓み変形が阻害される。特に、圧電素子に供給される駆動パルスが高周波になると、振動板の圧力室対応部の撓み変形が高周波となる。このため、上述した液体噴射ヘッドは、振動板の圧力室対応部において圧力室非対応部近傍の部位にクラックが発生し易い状態となっている。
尚、上述のような問題は、上述した液体噴射ヘッド以外の種々の液体吐出ヘッド、液体吐出装置、等にも存在する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の液体吐出ヘッドは、液体を吐出するための圧力が前記液体に付与される圧力室を区画する複数の区画壁を有する圧力室区画部と、
前記圧力室に面する壁面を有する振動板と、
圧電体と、が第1方向に順番に設けられた液体吐出ヘッドであって、
前記複数の区画壁は、第1区画壁および第2区画壁を含み、
前記圧力室は、前記第1方向と交差する第2方向において前記第1区画壁と前記第2区画壁との間にあり、
前記振動板の前記壁面は、前記第2方向において前記第1区画壁までの距離が前記第2区画壁までの距離以下である第1位置にある第1部分と、前記第2方向において前記第1位置と前記第1区画壁との間の第2位置にある第2部分と、を含み、
前記第2部分の前記第1方向における位置は、前記第1部分の前記第1方向における位置よりも、前記第1方向の反対側にある、態様を有する。
【0006】
また、本発明の液体吐出装置は、前記液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドからの前記液体の吐出動作を制御する制御部と、を含む、態様を有する。
【0007】
更に、本発明の液体吐出ヘッドの製造方法は、液体を吐出するための圧力が前記液体に付与される圧力室を区画する複数の区画壁を有する圧力室区画部と、前記圧力室に面する壁面を有する振動板と、圧電体と、が第1方向に順番に設けられた液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記複数の区画壁は、第1区画壁および第2区画壁を含み、
前記圧力室は、前記第1方向と交差する第2方向において前記第1区画壁と前記第2区画壁との間にあり、
前記振動板の前記壁面は、前記第2方向において前記第1区画壁までの距離が前記第2区画壁までの距離以下である第1位置にある第1部分と、前記第2方向において前記第1位置と前記第1区画壁との間の第2位置にある第2部分と、を含み、
前記製造方法は、
前記圧力室が形成される基板の表面に対して、前記第2方向において、前記第1位置に存在し、且つ、前記第1区画壁に対応する位置に存在しないように酸化膜を形成する酸化膜形成工程と、
前記酸化膜が形成された前記基板の前記表面に熱酸化を施し、前記振動板に含まれる熱酸化層であって前記第2部分の前記第1方向における位置が前記第1部分の前記第1方向における位置よりも前記第1方向の反対側に位置するように前記熱酸化層を形成する熱酸化工程と、
前記熱酸化層が形成された前記基板から前記熱酸化層を残して前記圧力室を形成する圧力室形成工程と、を含む、態様を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】液体吐出装置の構成例を模式的に示す図。
図2】液体吐出ヘッドの構造の例を模式的に示す分解斜視図。
図3】液体吐出ヘッドの例を図2のA1-A1の位置において模式的に示す断面図。
図4】液体吐出ヘッドの要部の例を模式的に示す断面図。
図5】圧力室区画部、弾性層、および、絶縁層の例を模式的に分解して示す断面図。
図6】振動板壁面の凹部に合わせた凸部を圧電素子配置面に有する液体吐出ヘッドの要部の例を模式的に示す断面図。
図7】圧力室区画部、弾性層、および、絶縁層の例を模式的に分解して示す断面図。
図8】振動板壁面の凹部の深さよりも高い凸部を圧電素子配置面に有する液体吐出ヘッドの要部の例を模式的に示す断面図。
図9】圧力室区画部、弾性層、および、絶縁層の例を模式的に分解して示す断面図。
図10】熱酸化膜を形成する例を模式的に示す断面図。
図11】エッチングマスクを形成する例を模式的に示す断面図。
図12】熱酸化膜の一部を除去する例を模式的に示す断面図。
図13】エッチングマスクを除去する例を模式的に示す断面図。
図14】熱酸化層を形成する例を模式的に示す断面図。
図15】絶縁層を形成する例を模式的に示す断面図。
図16】圧電素子を形成する例を模式的に示す断面図。
図17】圧力室を形成する例を模式的に示す断面図。
図18】比較例に係る液体吐出ヘッドの要部を模式的に例示する断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を説明する。むろん、以下の実施形態は本発明を例示するものに過ぎず、実施形態に示す特徴の全てが発明の解決手段に必須になるとは限らない。
【0010】
(1)本発明に含まれる技術の概要:
まず、本発明に含まれる技術の概要を説明する。尚、本願の図1~16は模式的に例を示す図であり、これらの図に示される各方向の拡大率は異なることがあり、各図は整合していないことがある。むろん、本技術の各要素は、符号で示される具体例に限定されない。「本発明に含まれる技術の概要」において、括弧内は直前の語の補足説明を意味する。
また、本願において、数値範囲「Min~Max」は、最小値Min以上、且つ、最大値Max以下を意味する。化学式で表される組成比は化学量論比を示し、化学式で表される物質には化学量論比から外れたものも含まれる。
【0011】
図4等に例示するように、本技術の一態様に係る液体吐出ヘッド10は、液体LQを吐出するための圧力が前記液体LQに付与される圧力室C1を区画する複数の区画壁WL0を有する圧力室区画部(例えば圧力室基板本体部32a)、前記圧力室C1に面する壁面FW0を有する振動板33、および、圧電体34bを第1方向(+Z方向)に順番に設けられている。前記複数の区画壁WL0は、第1区画壁WL1および第2区画壁WL2を含んでいる。前記圧力室C1は、前記第1方向(例えば+Z方向)と交差する第2方向(例えばY軸方向)において前記第1区画壁WL1と前記第2区画壁WL2との間にある。前記振動板33の前記壁面FW0は、前記第2方向(Y軸方向)において前記第1区画壁WL1までの距離D1が前記第2区画壁WL2までの距離D2以下である第1位置L1にある第1部分P1と、前記第2方向(Y軸方向)において前記第1位置L1と前記第1区画壁WL1との間の第2位置L2にある第2部分P2と、を含んでいる。前記第2部分P2の前記第1方向(+Z方向)における位置は、前記第1部分P1の前記第1方向(+Z方向)における位置よりも前記第1方向(+Z方向)の反対側SR1にある。
【0012】
ここで、振動板において圧力室に面する圧力室対応部の壁面を振動板壁面と呼ぶことにする。図18は、比較例に係る液体吐出ヘッドの要部を模式的に例示する断面図である。図18に示すように圧電素子34の圧電体34bに駆動電圧が印加されていない駆動電圧非印加時に振動板壁面FW0が平坦である場合、液体を吐出するために振動板33が圧力室C1に向かって撓むと、図18に二点鎖線で示すように振動板壁面FW0が引き延ばされる。これにより、振動板33の圧力室対応部AC1において圧力室非対応部AC0近傍の部位AC1aにクラックが生じ易い状態となる。
また、駆動電圧非印加時に振動板壁面FW0において圧力室非対応部AC0近傍の部位よりも圧力室非対応部AC0から遠い部位が圧力室C1の方へ出ている場合(例えば図18の二点鎖線の位置)も、液体を吐出するために振動板33が圧力室C1に向かって撓むと、振動板壁面FW0が引き延ばされる。これにより、振動板33の圧力室対応部AC1において圧力室非対応部AC0近傍の部位AC1aにクラックが生じ易い状態となる。
【0013】
本技術の上記態様は、振動板壁面FW0において第1区画壁WL1に比較的近い第2部分P2が第1区画壁WL1から比較的遠い第1部分P1よりも圧力室C1の方へ出ている。このため、液体LQを吐出するために振動板33が圧力室C1に向かって撓むと、最初は振動板壁面FW0の面積が少なくなるように振動板33が撓むので、振動板壁面FW0が引き延ばされることが抑制される。これにより、振動板33の圧力室対応部AC1において圧力室非対応部AC0近傍の部位AC1aにクラックが生じ難い状態となる。従って、本技術の上記態様は、振動板にクラックが発生することを抑制可能な液体吐出ヘッドを提供することができる。
また、圧力室非対応部AC0近傍の部分よりも圧力室非対応部AC0から遠い部分が圧電体34bに近くなるように振動板壁面FW0が凹んでいる場合、圧力室C1に予め入る液体LQの量が増える。これにより、液体吐出ヘッドにおける液体の吐出能力およびリフィル特性が向上する。
【0014】
ここで、図5,7,9等を参照して、本明細書で使用する用語を説明する。図5は、図4に示す液体吐出ヘッド10を基に、説明の都合上、圧力室区画部(32a)、弾性層33a、および、絶縁層33bを分解して示している。図7は、図6に示す液体吐出ヘッド10を基に、説明の都合上、圧力室区画部(32a)、弾性層33a、および、絶縁層33bを分解して示している。図9は、図8に示す液体吐出ヘッド10を基に、説明の都合上、圧力室区画部(32a)、弾性層33a、および、絶縁層33bを分解して示している。また、図1等では、位置関係を説明する便宜上、X軸、Y軸、および、Z軸が示されている。X軸とY軸は互いに直交し、Y軸とZ軸は互いに直交し、Z軸とX軸は互いに直交している。ここで、X軸のうち矢印の指す方向を+X方向とし、その反対方向を-X方向とする。Y軸のうち矢印の指す方向を+Y方向とし、その反対方向を-Y方向とする。Z軸のうち矢印の指す方向を+Z方向とし、その反対方向を-Z方向とする。また、+X方向と-X方向をX軸方向と総称し、+Y方向と-Y方向をY軸方向と総称し、+Z方向と-Z方向をZ軸方向と総称する。
【0015】
「第1方向(+Z方向)」は、圧力室区画部(32a)から絶縁層33bの方へ向かう方向を意味し、図5,7,9等の例において+Z方向である。
第1方向(+Z方向)と交差する「第2方向(Y軸方向)」は、第1位置L1、第2位置L2、および、第3位置L3を特定するための方向を意味し、図5,7,9等の例においてY軸方向である。
第1方向(+Z方向)における位置において、或る部分が別の部分よりも「第1方向(+Z方向)の反対側SR1」にあるとは、或る部分と別の部分を第1方向(+Z方向)に沿った軸に投影した場合に或る部分が別の部分から第1方向(+Z方向)とは反対の方向にあることを意味する。例えば、第1方向(+Z方向)における位置において、第2部分P2が第1部分P1よりも「第1方向(+Z方向)の反対側SR1」にあるとは、第2部分P2と第1部分P1を第1方向(+Z方向)に沿った軸に投影した場合に第2部分P2が第1部分P1から第1方向(+Z方向)とは反対の方向にあることを意味する。
或る部位の「第1方向(+Z方向)の末端部」は、当該部位が第1方向(+Z方向)へ存在しなくなる限界にある部分を意味する。例えば、第1位置L1にある第1弾性層厚さ部T11における第1方向(+Z方向)の末端部は、末端部T11aである。
或る部位の「第1方向(+Z方向)の反対側SR1の端部」は、当該部位が第1方向(+Z方向)の反対方向へ存在しなくなる限界にある部分を意味する。例えば、第1位置L1にある第1弾性層厚さ部T11における第1方向(+Z方向)の反対側SR1の端部は、端部T11bである。
尚、上記態様の液体吐出ヘッド10において、圧電体34b、振動板33、および、圧力室区画部(32a)の位置関係は、次のように言い換えることもできる。すなわち、液体吐出ヘッド10は、圧電体34bと、前記圧電体34bよりもZ軸方向の一方側に設けられた振動板33と、前記振動板33よりも前記Z軸方向の一方側に設けられた圧力室区画部(32a)と、を有する。この場合、或る部位の「第1方向(+Z方向)の反対側SR1の端部」は、或る部位のZ軸方向の一方側の端部と言い換えることができる。また、或る部位の「第1方向(+Z方向)の末端部」は、或る部位のZ軸方向の他方側の端部と言い換えることができる。
【0016】
振動板33は、第1方向(+Z方向)に順番に、弾性層33a、および、絶縁層33bを含んでいてもよい。弾性層33aは、第1位置L1にある第1弾性層厚さ部T11と、第2位置L2にある第2弾性層厚さ部T21と、を含んでいてもよい。絶縁層33bは、第1位置L1にある第1絶縁層厚さ部T12と、第2位置L2にある第2絶縁層厚さ部T22と、を含んでいてもよい。
第2弾性層厚さ部T21における第1方向(+Z方向)の末端部T21aは、第1方向(+Z方向)における位置が第1弾性層厚さ部T11における第1方向(+Z方向)の末端部T11aよりも第1方向(+Z方向)の反対側SR1にあってもよいし、第1方向(+Z方向)における位置が第1弾性層厚さ部T11における第1方向(+Z方向)の末端部T11aと略同じでもよい。尚、第1方向(+Z方向)において或る部分の位置と別の部分の位置とが略同じとは、或る部分の位置と別の部分の位置との距離が別の部分における厚さの0.2倍以下であるものとする。
第2絶縁層厚さ部T22における第1方向(+Z方向)の末端部T22aは、第1方向(+Z方向)における位置が第1絶縁層厚さ部T12における第1方向(+Z方向)の末端部T12aよりも第1方向(+Z方向)の反対側SR1にあってもよいし、第1方向(+Z方向)における位置が第1絶縁層厚さ部T12における第1方向(+Z方向)の末端部T12aと略同じでもよい。
第2絶縁層厚さ部T22における第1方向(+Z方向)の反対側SR1の端部T22bは、第1方向(+Z方向)における位置が第1絶縁層厚さ部T12における第1方向(+Z方向)の反対側SR1の端部T12bよりも第1方向(+Z方向)の反対側SR1にあってもよいし、第1方向(+Z方向)における位置が第1絶縁層厚さ部T12における第1方向(+Z方向)の反対側SR1の端部T12bと略同じでもよい。
振動板33の壁面FW0は、第2方向(Y軸方向)において第1位置L1と第2区画壁WL2との間の第3位置L3にある第3部分P3を更に含んでいてもよい。第3部分P3は、第1方向(+Z方向)における位置が第1部分P1よりも第1方向(+Z方向)の反対側SR1にあってもよい。
【0017】
また、図1に例示するように、本技術の一態様に係る液体吐出装置100は、前記液体吐出ヘッド10と、前記液体吐出ヘッド10からの前記液体LQの吐出動作を制御する制御部20と、を含む、態様を有する。この態様は、振動板にクラックが発生することを抑制可能な液体吐出装置を提供することができる。
【0018】
更に、図10~17に例示するように、本技術の一態様に係る液体吐出ヘッド10の製造方法は、液体LQを吐出するための圧力が前記液体LQに付与される圧力室C1を区画する複数の区画壁WL0を有する圧力室区画部(32a)と、前記圧力室C1に面する壁面FW0を有する振動板33と、圧電体34bと、が第1方向(+Z方向)に順番に設けられた液体吐出ヘッド10の製造方法である。前記複数の区画壁WL0は、第1区画壁WL1および第2区画壁WL2を含んでいる。前記圧力室C1は、前記第1方向(+Z方向)と交差する第2方向(Y軸方向)において前記第1区画壁WL1と前記第2区画壁WL2との間にある。前記振動板33の前記壁面FW0は、前記第2方向(Y軸方向)において前記第1区画壁WL1までの距離D1が前記第2区画壁WL2までの距離D2以下である第1位置L1にある第1部分P1と、前記第2方向(Y軸方向)において前記第1位置L1と前記第1区画壁WL1との間の第2位置L2にある第2部分P2と、を含んでいる。前記製造方法は、前記圧力室C1が形成される基板(132)の表面132aに対して、前記第2方向(Y軸方向)において、前記第1位置L1に存在し、且つ、前記第1区画壁WL1に対応する位置に存在しないように酸化膜92を形成する酸化膜形成工程(例えばプレ熱酸化工程ST1および熱酸化膜パターニング工程ST2)と、前記酸化膜92が形成された前記基板(132)の前記表面132aに熱酸化を施し、前記振動板33に含まれる熱酸化層93であって前記第2部分P2の前記第1方向(+Z方向)における位置が前記第1部分P1の前記第1方向(+Z方向)における位置よりも前記第1方向(+Z方向)の反対側SR1に位置するように前記熱酸化層93を形成する熱酸化工程ST3と、前記熱酸化層93が形成された前記基板から前記熱酸化層93を残して前記圧力室C1を形成する圧力室形成工程ST6と、を含んでいる。
【0019】
本技術の上記態様では、熱酸化工程ST3において、酸化膜92を通る基板への酸素の拡散が酸化膜92の無い部分における基板への酸素の拡散よりも少なくなり、第1方向(+Z方向)において第2部分P2が第1部分P1よりも第1方向(+Z方向)の反対側SR1に位置するように熱酸化層93が形成される。圧力室形成工程ST6においては、熱酸化層93の壁面FW0を振動板33の壁面FW0にするように圧力室C1が形成される。その結果、振動板壁面FW0において第1区画壁WL1に比較的近い第2部分P2が第1区画壁WL1から比較的遠い第1部分P1よりも圧力室C1の方へ出ている。このため、液体LQを吐出するために振動板33が圧力室C1に向かって撓むと、最初は振動板壁面FW0の面積が少なくなるように振動板33が撓むので、振動板壁面FW0が引き延ばされることが抑制される。これにより、振動板33の圧力室対応部AC1において圧力室非対応部AC0近傍の部位AC1aにクラックが生じ難い状態となる。従って、本技術の上記態様は、振動板にクラックが発生することを抑制可能な液体吐出ヘッドの製造方法を提供することができる。
【0020】
ここで、振動板と圧電体とが第1方向に順番に設けられていることには、振動板に圧電体が重なっていない部分があることが含まれる。
本願における「第1」、「第2」、「第3」、…は、類似点を有する複数の構成要素に含まれる各構成要素を識別するための用語であり、順番を意味しない。
【0021】
(2)液体吐出装置の具体例:
図1は、液体吐出ヘッド10を含む液体吐出装置100の構成を模式的に例示している。
【0022】
図1に示す液体吐出装置100は、液体LQの供給部14、液体吐出ヘッド10、媒体MDの搬送部22、および、制御部20を備えている。
供給部14には、液体LQを貯留している液体容器CTが装着されている。液体容器CTには、合成樹脂製の硬質容器、可撓性のフィルムで形成された袋状の軟質パック、液体LQを補充可能な液体タンク、等を用いることができる。液体LQがインクである場合、硬質容器はインクカートリッジとも呼ばれ、軟質パックはインクパックとも呼ばれる。供給部14は、液体吐出ヘッド10に液体LQを供給する。
【0023】
液体吐出ヘッド10は、制御部20による制御に従って、ノズルNZから液体LQを液滴DRとして媒体MDに吐出する。液滴DRの吐出方向は、設計上、-Z方向である。媒体MDが印刷対象である場合、媒体MDは複数の液滴DRにより形成される複数のドットDTを保持する素材である。媒体MDには、紙、合成樹脂、布、金属、等を用いることができる。媒体MDの形状は、長方形、ロール状、略円形、長方形以外の多角形、立体形状、等、特に限定されない。液体吐出装置100は、液滴DRとしてインク滴を吐出することにより印刷画像を媒体MDに形成する場合、インクジェットプリンターと呼ばれる。
尚、液体LQには、インク、光硬化性樹脂といった合成樹脂、液晶、エッチング液、生体有機物、潤滑液、等、広く含まれる。インクには、染料等が溶媒に溶解した溶液、顔料や金属粒子といった固形粒子が分散媒に分散したゾル、等、広く含まれる。
【0024】
搬送部22は、制御部20による制御に従って、媒体MDを+X方向へ搬送する。液体吐出装置100がラインプリンターである場合、液体吐出ヘッド10の複数のノズルNZがY軸方向において媒体MDの全体にわたって配置される。また、シリアルプリンターのように、液体吐出装置100は、液体吐出ヘッド10を+Y方向および-Y方向へ移動させる往復駆動部を備えていてもよい。
【0025】
制御部20には、例えば、CPUまたはFPGA、ROM、RAM、等を含む回路を用いることができる。ここで、CPUはCentral Processing Unitの略称であり、FPGAはField Programmable Gate Arrayの略称であり、ROMはRead Only Memoryの略称であり、RAMはRandom Access Memoryの略称である。また、制御部20は、System on a Chipと略されるSoCを含む回路でもよい。制御部20は、液体吐出装置100に含まれる各部を制御することにより、液体吐出ヘッド10からの液滴DRの吐出動作を制御する。
液体吐出装置100がインクジェットプリンターである場合、媒体MDが搬送部22により搬送され、液体吐出ヘッド10から吐出された複数の液滴DRが媒体MDに着弾すると、媒体MDに複数のドットDTが形成される。これにより、印刷画像が媒体MDに形成される。
【0026】
(3)液体吐出ヘッドの具体例:
図2は、液体吐出ヘッド10の構造を模式的に例示する分解斜視図である。図3は、液体吐出ヘッド10を図2のA1-A1の位置において模式的に例示する断面図である。図4は、液体吐出ヘッド10の要部をX軸と直交する断面において模式的に例示する断面図である。尚、第1の部材と第2の部材とを接合することは、第1の部材と第2の部材の少なくとも一方に保護膜等の1以上の膜が積層された状態で第1の部材と第2の部材とを接合すること、および、接着剤を介して第1の部材と第2の部材とを接合することを含んでいる。
図2~4に示す液体吐出ヘッド10は、ノズル基板41、コンプライアンス基板42、連通基板31、振動板33および圧電素子34等が一体化された圧力室基板32、保護基板35、筐体部材36、および、配線基板51を含んでいる。ここで、連通基板31、圧力室基板32、ノズル基板41、および、コンプライアンス基板42を流路構造体30と総称する。流路構造体30は、各ノズルNZに液体LQを供給するための流路を内部に有する構造体である。流路構造体30に含まれる各部材は、長手方向がY軸に沿った長尺な板状部材である。液体吐出ヘッド10は、X軸方向において保護基板35を通る位置において、+Z方向へ順に、ノズル基板41およびコンプライアンス基板42、連通基板31、圧力室基板32、並びに、保護基板35を含んでいる。
【0027】
ノズル基板41は、連通基板31における-Z方向の末端面31fに接合された板状部材であり、液体LQを吐出するノズルNZを複数有している。図2に示すノズル基板41は、Y軸方向へ複数のノズルNZが並んだノズル列を2列、有している。従って、Y軸方向は、ノズル並び方向である。ここで、図1,3に示すように、ノズル基板41において液滴DRが吐出される面をノズル面41aと呼ぶことにする。各ノズルNZは、連通基板31の連通孔31bと繋がっており、ノズル基板41の厚さ方向であるZ軸方向へノズル基板41を貫通した円形状の孔である。ノズル面41aには、開口したノズルNZが複数存在する。従って、ノズルNZは、ノズル開口とも呼ばれる。ノズル基板41は、例えば、シリコン基板、ステンレス鋼といった金属、等から選ばれる1種類以上の材料で形成することができる。ノズル基板41は、例えば、フォトリソグラフィおよびエッチング等の半導体製造技術を利用してシリコン単結晶基板を加工することにより形成される。むろん、ノズル基板41の形成には、公知の材料や製法が任意に採用され得る。
ノズル面41aには、撥液性を有する撥液膜が設けられてもよい。撥液膜は、液体に対して撥水性を有するものであれば特に限定されず、例えば、フッ素系高分子を含む金属膜、撥液性を有する金属アルコキシドの分子膜、等を用いることができる。
【0028】
コンプライアンス基板42は、ノズル基板41よりも外側において連通基板31の末端面31fに接合されている。図3に示すコンプライアンス基板42は、複数のノズルNZに共通の液体貯留室RSに含まれる空間Ra、および、複数のノズルNZに共通の中継液室31cを封止している。コンプライアンス基板42は、例えば、可撓性を有する封止膜を含んでいる。封止膜には、例えば、厚さが20μm以下の可撓性フィルムを用いることができ、PPSと略されるポリフェニレンサルファイド、ステンレス鋼、等を用いることができる。コンプライアンス基板42は、液体貯留室RSの壁面を構成し、液体貯留室RS内の液体LQの圧力変動を吸収する。
【0029】
連通基板31は、ノズル基板41およびコンプライアンス基板42と、圧力室基板32および筐体部材36と、の間に配置されている。連通基板31における+Z方向の末端面31hには、圧力室基板32および筐体部材36が接合されている。連通基板31は、複数のノズルNZに共通の空間Ra、複数のノズルNZに共通の中継液室31c、ノズルNZ毎に分けられている供給孔31a、および、ノズルNZ毎に分けられている連通孔31bを有している。空間Raは、長手方向がY軸に沿った長尺な開口を有する形状である。中継液室31cは、長手方向がY軸に沿った長尺な空間であり、複数のノズルNZに共通な空間Raから複数の供給孔31aに繋がっている。図2,3に示す連通基板31は、Y軸方向へ複数の供給孔31aが並んだ供給流路列を2列、有している。各供給孔31aは、圧力室基板32の圧力室C1に繋がっており、連通基板31の厚さ方向であるZ軸方向へ連通基板31を貫通した孔である。すなわち、連通基板31は、中継液室31cと圧力室C1を連通させる供給孔31aを複数有している。また、図2,3に示す連通基板31は、Y軸方向へ複数の連通孔31bが並んだ連通流路列を2列、有している。各連通孔31bは、圧力室基板32の圧力室C1、および、ノズル基板41のノズルNZに繋がっており、連通基板31の厚さ方向であるZ軸方向へ連通基板31を貫通した孔である。すなわち、連通基板31は、圧力室C1とノズルNZを連通させる連通孔31bを複数有している。各連通孔31bは、ノズルNZから+Z方向の位置にある。
連通基板31は、例えば、シリコン基板、金属、セラミックス、等から選ばれる1種類以上の材料で形成することができる。連通基板31は、例えば、フォトリソグラフィおよびエッチング等の半導体製造技術を利用してシリコン単結晶基板を加工することにより形成される。むろん、連通基板31の形成には、公知の材料や製法が任意に採用され得る。
【0030】
圧力室基板32は、ノズルNZから液体LQを吐出するための圧力が液体LQに付与される圧力室C1を複数有している。圧力室基板32は、連通基板31とは反対側の面において振動板33および圧電素子34を含んでいる。ここで、圧力室基板32のうち振動板33よりも-Z方向にある部分を圧力室基板本体部32aと呼ぶことにする。
【0031】
圧力室基板本体部32aは、連通基板31における+Z方向の末端面31hに接合されている。圧力室基板本体部32aは、ノズルNZ毎に分けられている圧力室C1を有している。各圧力室C1は、ノズル基板41と振動板33の間に位置し、長手方向がX軸に沿った長尺状の空間である。圧力室基板本体部32aは、Y軸方向へ複数の圧力室C1が並んだ圧力室列を2列、有している。各圧力室C1は、長手方向の一端側において供給孔31aに繋がっており、長手方向の他端側において連通孔31bに繋がっている。
圧力室基板本体部32aは、例えば、シリコン基板、金属、セラミックス、等から選ばれる1種類以上の材料で形成することができる。圧力室基板本体部32aは、例えば、フォトリソグラフィおよびエッチング等の半導体製造技術を利用してシリコン単結晶基板を加工することにより形成される。この場合、熱酸化等によりシリコン単結晶基板の表面に酸化シリコン層が形成されると、この酸化シリコン層を振動板33に使用することが可能である。むろん、圧力室基板本体部32aの形成には、公知の材料や製法が任意に採用され得る。
【0032】
圧力室基板本体部32aと一体化されている振動板33は、弾性を有し、圧力室C1の壁面の一部を構成している。振動板33は、例えば、SiOxと略される酸化シリコン、金属酸化物、セラミックス、合成樹脂、等から選ばれる1種類以上の材料で形成することができる。SiOxは、化学量論比では二酸化シリコンSiO2であるが、実際にはx=2からずれることがある。振動板33は、例えば、熱酸化、スパッタリングを含む物理的気相成長法、CVDを含む蒸着法、スピンコートを含む液相法、等により形成することができる。ここで、CVDは、Chemical Vapor Depositionの略称である。
【0033】
振動板33は、図4に示すように弾性層33aと絶縁層33bを含む等、複数の層を含んでいてもよい。例えば、圧力室基板本体部32aにSiOxを弾性層33aとして積層し、該弾性層33aにZrOxと略される酸化ジルコニウムを絶縁層33bとして積層することにより、振動板33が形成される。この場合、弾性層33aの主成分がSiOxとなり、絶縁層33bの主成分がZrOxとなる。弾性層33aの厚さは、特に限定されないが、例えば、300~2000nm程度とすることができる。絶縁層33bの厚さは、特に限定されないが、例えば、30~600nm程度とすることができる。振動板33は、弾性層33aと絶縁層33b以外の層を更に含んでいてもよい。
【0034】
むろん、振動板33の材料は、上述した以外にも、SiNxと略される窒化シリコン、TiOxと略される酸化チタン、AlOxと略される酸化アルミニウム、HfOxと略される酸化ハフニウム、MgOxと略される酸化マグネシウム、アルミン酸ランタン、等でもよい。
【0035】
振動板33における+Z方向の末端面である圧電素子配置面33cには、圧力室C1毎に駆動が分けられている圧電素子34が一体化されている。圧電素子34と振動板33は、圧力室C1に圧力を加えるアクチュエーターに含まれる。図2,3に示す圧力室基板32は、Y軸方向へ複数の圧電素子34が並んだ圧電素子列を2列、有している。各圧電素子34は、長手方向がX軸に沿った長尺状の構造体である。本具体例の各圧電素子34は、電圧変化を有する駆動パルスの繰り返しを含む駆動信号に従って伸縮する駆動素子であるものとする。圧電素子は、例えば、図4に示すように、第1電極34aに重なる部分において、+Z方向へ順に、層状の第1電極34a、層状の圧電体34b、および、層状の第2電極34cを含み、第1電極34aと第2電極34cの間に印加される電圧に応じて伸縮する。複数の圧電素子34は、第1電極34a、圧電体34b、および、第2電極34cの少なくとも1種類が分かれていればよい。つまり、複数の圧電素子34に第1電極34a、圧電体層34b、第2電極34cの全てが共通となっていなければ良い。従って、複数の圧電素子34において、第1電極34aが繋がっている共通電極でもよいし、第2電極34cが繋がっている共通電極でもよいし、圧電体34bが繋がっていてもよい。本具体例では、第1電極34aが個別電極であり、圧電体34bが個別の圧電体であり、第2電極34cが共通電極であるものとする。
【0036】
第1電極34aおよび第2電極34cは、例えば、イリジウムや白金といった金属、ITOと略される酸化インジウムスズといった導電性金属酸化物、等の導電材料で形成することができる。電極がイリジウムで形成される場合、電極の主成分はイリジウムとなる。この場合、電極は、不純物を除いて実質的にイリジウムで構成されてもよいし、主成分よりも含有量が少ない副成分を含んでいてもよい。第1電極34aの厚さは、特に限定されないが、例えば、50~300nm程度とすることができる。第2電極34cの厚さは、特に限定されないが、例えば、15~100nm程度とすることができる。
【0037】
圧電体34bは、例えば、PZTと略されるチタン酸ジルコン酸鉛、ニオブやニッケル等のいずれかの金属をPZTに添加したリラクサー強誘電体、BiFeOx-BaTiOy系圧電材料等の非鉛系ペロブスカイト型酸化物、といったペロブスカイト構造を有する材料等で形成することができる。圧電体34bの厚さは、特に限定されないが、例えば、0.7~5μm程度とすることができる。
【0038】
保護基板35は、複数の圧電素子34を保護するための空間35a、および、配線基板51を引き出すための貫通穴35bを有し、振動板33における+Z方向の末端面である圧電素子配置面33cに接合されている。これにより、保護基板35は、圧力室基板32の機械的な強度を補強する。保護基板35は、例えば、シリコン基板、金属、セラミックス、合成樹脂、等から選ばれる1種類以上の材料で形成することができる。保護基板35は、例えば、フォトリソグラフィおよびエッチング等の半導体製造技術を利用してシリコン単結晶基板を加工することにより形成される。むろん、保護基板35の形成には、公知の材料や製法が任意に採用され得る。
【0039】
筐体部材36は、圧力室基板32および保護基板35よりも外側において連通基板31における+Z方向の末端面31fに接合されている。図3に示す筐体部材36は、複数のノズルNZに共通の液体貯留室RSに含まれる空間Rb、該空間Rbから外部に繋がっている供給口36a、および、配線基板51を引き出すための貫通穴36bを有している。空間Rbは、長手方向がY軸に沿った長尺な開口を有する形状である。筐体部材36における+Z方向の末端面は、供給口36aの開口を有している。供給口36aには、液体容器CTから液体LQが供給される。筐体部材36は、例えば、合成樹脂、金属、セラミックス、等から選ばれる1種類以上の材料で形成することができる。筐体部材36は、例えば、合成樹脂の射出成形により形成される。むろん、筐体部材36の形成には、公知の材料や製法が任意に採用され得る。
【0040】
配線基板51は、圧電素子34の駆動回路を含む可撓性の実装部品であり、圧電素子列同士の間において振動板33における+Z方向の末端面に接続されている。振動板33に対する配線基板51の接続部は、例えばリード配線を介して第1電極34aおよび第2電極34cに接続される。配線基板51には、FPC、FFC、COF、等を用いることができる。ここで、FPCは、Flexible Printed Circuitの略称である。FFCは、Flexible Flat Cableの略称である。COFは、Chip On Filmの略称である。圧電素子34を駆動するための駆動信号および基準電圧が配線基板51から各圧電素子34に供給される。リード配線の構成金属には、Au、Pt、Al、Cu、Ni、Cr、Ti、等の一種以上を用いることができる。リード配線は、NiCrと略されるニクロムといった密着層を含んでいてもよい。
【0041】
以上より、液体容器CTから流出した液体LQは、供給口36a、液体貯留室RS、中継液室31c、個別の供給孔31a、個別の圧力室C1、個別の連通孔31b、および、個別のノズルNZの順に流れる。圧電素子34が液滴DRを吐出させるように圧力室C1を収縮させると、液滴DRがノズルNZから-Z方向へ吐出される。
【0042】
図18で示したように駆動電圧非印加時に振動板壁面FW0が平坦である場合、液体を吐出するために振動板33が圧力室C1に向かって撓むと、振動板壁面FW0が引き延ばされる。言い換えると、液体の非吐出時の振動板壁面FW0の面積と、液体の吐出時の振動板壁面FW0の面積との差分は、大きいものとなる。これにより、振動板33の圧力室対応部AC1において圧力室非対応部AC0近傍の部位AC1aにクラックが生じ易い状態となる。また、撓んだ壁面FW0により圧力室C1内の液体の圧力が増え、圧力室非対応部AC0近傍の部位AC1aに圧電素子34の方へ押す力を付与する。これにより、前述の部位AC1aが大きく変形すると、前述の部位AC1aにクラックが生じる。
【0043】
そこで、本具体例では、振動板壁面FW0を第1区画壁WL1に比較的近い第2部分P2が第1区画壁WL1から比較的遠い第1部分P1よりも圧力室C1の方へ出ている形状にすることにより、振動板33にクラックが発生することを抑制することにしている。以下、図4,5等を参照して、液体吐出ヘッド10の構造の例を説明する。
【0044】
図4,5に示すように、液体吐出ヘッド10は、X軸と直交する断面において、+Z方向へ順に、圧力室区画部の例である圧力室基板本体部32a、振動板33、および、圧電体34bを含む圧電素子34を含んでいる。圧力室基板本体部32aは、液体LQを吐出するための圧力が液体LQに付与される圧力室C1を区画する複数の区画壁WL0を有している。振動板33は、圧力室C1に面する壁面FW0を有している。圧電素子34は、X軸と直交する断面において、各圧力室C1と一部重なる位置にある第1電極34a、該第1電極34aを覆っている圧電体34b、および、複数の圧力室C1に共通の第2電極34cを含んでいる。各第1電極34aには、個別の駆動信号が供給される。第2電極34cは、Y軸方向において圧電体34b同士の間で振動板33に接する部分を有している。第2電極34cには、一定の電位である基準電位が供給される。従って、第2電極34cに供給される基準電位と、第1電極34aに供給される駆動信号の電位と、の差である電圧が圧電体34bに印加される。駆動信号の電位は、液滴DRの吐出量に対応している。第2電極34cには、接地電位が供給されてもよい。
【0045】
振動板33において圧力室C1に面する壁面FW0は、区画壁WL0から離れている部分に凹んだ凹部FW1を有している。言い換えると、振動板壁面FW0は、区画壁WL0に隣接する部分に圧力室C1に向かって出た凸部FW2を有している。ここで、Y軸方向において圧力室C1を挟んでいる2つの区画壁WL0を第1区画壁WL1および第2区画壁WL2とする。すなわち、複数の区画壁WL0が第1区画壁WL1および第2区画壁WL2を含み、圧力室C1がY軸方向において第1区画壁WL1と第2区画壁WL2との間にある。また、図4,5に示すように、振動板33の壁面FW0は、Y軸方向において第1区画壁WL1までの距離D1が第2区画壁WL2までの距離D2以下である第1位置L1にある第1部分P1と、Y軸方向において第1位置L1と第1区画壁WL1との間の第2位置L2にある第2部分P2と、を含んでいるとする。振動板壁面FW0において、第1部分P1は凹部FW1にあり、第2部分P2は凸部FW2にある。液体吐出ヘッド10は、+Z方向における位置において第2部分P2が第1部分P1よりも+Z方向の反対側SR1にある特徴を有する。
【0046】
本具体例において、+Z方向は第1方向の例であり、X軸方向は第1方向と交差する第2方向の例である。従って、第2部分P2は、第1方向における位置が第1部分P1よりも第1方向の反対側SR1にある。振動板壁面FW0において第1区画壁WL1に比較的近い第2部分P2が第1区画壁WL1から比較的遠い第1部分P1よりも圧力室C1の方へ出ているため、液体LQが吐出される時、圧力室C1に向かって撓む振動板33は、最初は振動板壁面FW0の面積が少なくなるように撓む。結果、液体の非吐出時の振動板壁面FW0の面積と、液体の吐出時の振動板壁面FW0の面積との差分は、図18を用いて説明した振動板壁面FW0が平坦である場合に比べて、小さいものとなる。図4には、振動板壁面FW0が撓んだ様子が二点鎖線で模式的に示されている。
以上により、振動板壁面FW0が引き延ばされることが抑制され、振動板33の圧力室対応部AC1において圧力室非対応部AC0近傍の部位AC1aにクラックが生じ難い状態となる。従って、振動板33にクラックが発生することが抑制される。また、振動板壁面FW0が凹部FW1を有しているので、圧力室C1に予め入る液体LQの量が増えている。これにより、液体吐出ヘッドにおける液体の吐出能力およびリフィル特性が向上している。
【0047】
更に、振動板壁面FW0がY軸方向において第1位置L1と第2区画壁WL2との間の第3位置L3にある第3部分P3を含んでいるとする。第3部分P3は、凸部FW2にある。第3部分P3は、+Z方向における位置が第1部分P1よりも+Z方向の反対側SR1にある。振動板壁面FW0において第2区画壁WL2に比較的近い第3部分P3が第2区画壁WL2から比較的遠い第1部分P1よりも圧力室C1の方へ出ているため、液体LQが吐出される時、圧力室C1に向かって撓む振動板33は、最初は振動板壁面FW0の面積が少なくなるように撓む。これにより、振動板壁面FW0が引き延ばされることが抑制され、振動板33の圧力室対応部AC1において圧力室非対応部AC0近傍の部位AC1aにクラックが生じ難い状態となり、振動板33にクラックが発生することが抑制される。
【0048】
図4,5に示す例において、第1位置L1にある第1弾性層厚さ部T11の厚さt11は、第2位置L2にある第2弾性層厚さ部T21の厚さt21よりも小さく、第3位置L3にある第3弾性層厚さ部T31の厚さt31よりも小さい。すなわち、第2弾性層厚さ部T21は第1弾性層厚さ部T11よりも厚く、第3弾性層厚さ部T31も第1弾性層厚さ部T11よりも厚い。従って、弾性層33aの第2位置L2における厚さt21は、弾性層33aの第1位置L1における厚さt11よりも厚い。また、弾性層33aの第3位置L3における厚さt31は、弾性層33aの第1位置L1における厚さt11よりも厚い。
第2弾性層厚さ部T21における+Z方向の末端部T21aは、+Z方向における位置が第1弾性層厚さ部T11における+Z方向の末端部T11aと略同じである。第3弾性層厚さ部T31における+Z方向の末端部T31aも、+Z方向における位置が第1弾性層厚さ部T11における+Z方向の末端部T11aと略同じである。従って、第2位置L2に位置する弾性層33aにおける+Z方向の末端部T21aの位置は、第1位置L1に位置する弾性層33aにおける+Z方向の末端部T11aの位置と、略同じである。言い換えると、第2位置L2での弾性層33aのZ軸方向の他方側の端部は、第1位置L1での弾性層33aのZ軸方向の他方側の端部と略同じ位置に位置する。また、第3位置L3に位置する弾性層33aにおける+Z方向の末端部T31aの位置は、第1位置L1に位置する弾性層33aにおける+Z方向の末端部T11aの位置と、略同じである。言い換えると、第3位置L3での弾性層33aのZ軸方向の他方側の端部は、第1位置L1での弾性層33aのZ軸方向の他方側の端部と略同じ位置に位置する。本具体例において、第1弾性層厚さ部T11における+Z方向の反対側の端部T11bは、振動板壁面FW0の第1部分P1である。第2弾性層厚さ部T21における+Z方向の反対側の端部T21bは、振動板壁面FW0の第2部分P2である。第3弾性層厚さ部T31における+Z方向の反対側の端部T31bは、振動板壁面FW0の第3部分P3である。
【0049】
一方、第2位置L2にある第2絶縁層厚さ部T22の厚さt22は、第1位置L1にある第1絶縁層厚さ部T12の厚さt12に略等しい。第3位置L3にある第3絶縁層厚さ部T32の厚さt32も、第1位置L1にある第1絶縁層厚さ部T12の厚さt12に略等しい。従って、絶縁層33bの第2位置L2における厚さt22は、絶縁層33bの第1位置L1における厚さt12に略等しい。また、絶縁層33bの第3位置L3における厚さt32は、絶縁層33bの第1位置L1における厚さt12に略等しい。尚、或る部位の厚さが別の部位の厚さに略等しいとは、別の部位の厚さに対する或る部位の厚さの比が0.8以上且つ1.2以下であるものとする。
第2絶縁層厚さ部T22における+Z方向の末端部T22aは、+Z方向における位置が第1絶縁層厚さ部T12における+Z方向の末端部T12aと略同じである。第3絶縁層厚さ部T32における+Z方向の末端部T32aも、+Z方向における位置が第1絶縁層厚さ部T12における+Z方向の末端部T12aと略同じである。従って、第2位置L2に位置する絶縁層33bにおける+Z方向の末端部T22aの位置は、第1位置L1に位置する絶縁層33bにおける+Z方向の末端部T12aの位置と略同じである。言い換えると、第2位置L2での絶縁層33bのZ軸方向の他方側の端部は、第1位置L1での絶縁層33bのZ軸方向の他方側の端部と略同じ位置に位置する。また、第3位置L3に位置する絶縁層33bにおける+Z方向の末端部T32aの位置は、第1位置L1に位置する絶縁層33bにおける+Z方向の末端部T12aの位置と略同じである。言い換えると、第3位置L3での絶縁層33bのZ軸方向の他方側の端部は、第1位置L1での絶縁層33bのZ軸方向の他方側の端部と略同じ位置に位置する。
第2絶縁層厚さ部T22における+Z方向の反対側SR1の端部T22bは、+Z方向における位置が第1絶縁層厚さ部T12における+Z方向の反対側SR1の端部T12bと略同じである。第3絶縁層厚さ部T32における+Z方向の反対側SR1の端部T32bも、+Z方向における位置が第1絶縁層厚さ部T12における+Z方向の反対側SR1の端部T12bと略同じである。従って、第2位置L2に位置する絶縁層33bにおける+Z方向の反対側SR1の端部T22bの位置は、第1位置L1に位置する絶縁層33bにおける+Z方向の反対側SR1の端部T12bの位置と、略同じである。言い換えると、第2位置L2での絶縁層33bのZ軸方向の一方側の端部は、第1位置L1での絶縁層33bのZ軸方向の一方側の端部と略同じ位置に位置する。また、第3位置L3に位置する絶縁層33bにおける+Z方向の反対側SR1の端部T32bの位置は、第1位置L1に位置する絶縁層33bにおける+Z方向の反対側SR1の端部T12bの位置と、略同じである。言い換えると、第3位置L3での絶縁層33bのZ軸方向の一方側の端部は、第1位置L1での絶縁層33bのZ軸方向の一方側の端部と略同じ位置に位置する。
【0050】
以上より、図4に示す例において、第1位置L1にある第1振動板厚さ部T1の厚さt1は、第2位置L2にある第2振動板厚さ部T2の厚さt2よりも小さく、第3位置L3にある第3振動板厚さ部T3の厚さt3よりも小さい。すなわち、第2振動板厚さ部T2は第1振動板厚さ部T1よりも厚く、第3振動板厚さ部T3も第1振動板厚さ部T1よりも厚い。従って、振動板33の第2位置L2における厚さt2は、振動板33の第1位置L1における厚さt1よりも厚い。また、振動板33の第3位置L31における厚さt3は、振動板33の第1位置L1における厚さt1よりも厚い。比較的厚い第2振動板厚さ部T2が振動板33の圧力室対応部AC1において圧力室非対応部AC0近傍の部位AC1aの剛性を高めており、比較的厚い第3振動板厚さ部T3も振動板33の圧力室対応部AC1において圧力室非対応部AC0近傍の部位AC1aの剛性を高めている。従って、振動板33にクラックが発生することが効果的に抑制される。
【0051】
また、図6,7に示す液体吐出ヘッド10のように、振動板壁面FW0の凹部FW1に合わせた凸部が圧電素子配置面33cにあってもよい。この場合、第1位置L1にある第1振動板厚さ部T1の厚さt1は、第2位置L2にある第2振動板厚さ部T2の厚さt2に略等しく、第3位置L3にある第3振動板厚さ部T3の厚さt3に略等しい。
【0052】
更に、図8に示す液体吐出ヘッド10のように、振動板壁面FW0の凹部FW1の深さよりも高い凸部が圧電素子配置面33cにあってもよい。
図8,9に示す例において、第2弾性層厚さ部T21における+Z方向の末端部T21aは、+Z方向における位置が第1弾性層厚さ部T11における+Z方向の末端部T11aよりも+Z方向の反対側SR1にある。第3弾性層厚さ部T31における+Z方向の末端部T31aも、+Z方向における位置が第1弾性層厚さ部T11における+Z方向の末端部T11aよりも+Z方向の反対側SR1にある。従って、第2位置L2に位置する弾性層33aにおける+Z方向の末端部T21aの位置は、第1位置L1に位置する弾性層33aにおける+Z方向の末端部T11aの位置よりも、+Z方向の反対側SR1にある。言い換えると、第2位置L2での弾性層33aのZ軸方向の他方側の端部は、第1位置L1での弾性層33aのZ軸方向の他方側の端部よりも、Z軸方向の一方側に位置する。また、第3位置L3に位置する弾性層33aにおける+Z方向の末端部T31aの位置は、第1位置L1に位置する弾性層33aにおける+Z方向の末端部T11aの位置よりも、+Z方向の反対側SR1にある。言い換えると、第3位置L3での弾性層33aのZ軸方向の他方側の端部は、第1位置L1での弾性層33aのZ軸方向の他方側の端部よりも、Z軸方向の一方側に位置する。
【0053】
第2絶縁層厚さ部T22における+Z方向の末端部T22aは、+Z方向における位置が第1絶縁層厚さ部T12における+Z方向の末端部T12aよりも+Z方向の反対側SR1にある。第3絶縁層厚さ部T32における+Z方向の末端部T32aも、+Z方向における位置が第1絶縁層厚さ部T12における+Z方向の末端部T12aよりも+Z方向の反対側SR1にある。従って、第2位置L2に位置する絶縁層33bにおける+Z方向の末端部T22aの位置は、第1位置L1に位置する絶縁層33bにおける+Z方向の末端部T12aの位置よりも、+Z方向の反対側SR1にある。言い換えると、第2位置L2での絶縁層33bのZ軸方向の他方側の端部は、第1位置L1での絶縁層33bのZ軸方向の他方側の端部よりも、Z軸方向の一方側に位置する。また、第3位置L3に位置する絶縁層33bにおける+Z方向の末端部T32aの位置は、第1位置L1に位置する絶縁層33bにおける+Z方向の末端部T12aの位置よりも、+Z方向の反対側SR1にある。言い換えると、第3位置L3での絶縁層33bのZ軸方向の他方側の端部は、第1位置L1での絶縁層33bのZ軸方向の他方側の端部よりも、Z軸方向の一方側に位置する。
第2絶縁層厚さ部T22における+Z方向の反対側SR1の端部T22bは、+Z方向における位置が第1絶縁層厚さ部T12における+Z方向の反対側SR1の端部T12bよりも+Z方向の反対側SR1にある。第3絶縁層厚さ部T32における+Z方向の反対側SR1の端部T32bも、+Z方向における位置が第1絶縁層厚さ部T12における+Z方向の反対側SR1の端部T12bよりも+Z方向の反対側SR1にある。従って、第2位置L2に位置する絶縁層33bにおける+Z方向の反対側SR1の端部T22bの位置は、第1位置L1に位置する絶縁層33bにおける+Z方向の反対側SR1の端部T12bの位置よりも、+Z方向の反対側SR1にある。言い換えると、第2位置L2での絶縁層33bのZ軸方向の一方側の端部は、第1位置L1での絶縁層33bのZ軸方向の一方側の端部よりも、Z軸方向の一方側に位置する。第3位置L3に位置する絶縁層33bにおける+Z方向の反対側SR1の端部T32bの位置は、第1位置L1に位置する絶縁層33bにおける+Z方向の反対側SR1の端部T12bの位置よりも、+Z方向の反対側SR1にある。言い換えると、第3位置L3での絶縁層33bのZ軸方向の一方側の端部は、第1位置L1での絶縁層33bのZ軸方向の一方側の端部よりも、Z軸方向の一方側に位置する。
【0054】
図8,9に示す例において、第1位置L1にある第1振動板厚さ部T1の厚さt1は、第2位置L2にある第2振動板厚さ部T2の厚さt2よりも大きく、第3位置L3にある第3振動板厚さ部T3の厚さt3よりも大きい。すなわち、第2振動板厚さ部T2は第1振動板厚さ部T1よりも薄く、第3振動板厚さ部T3も第1振動板厚さ部T1よりも薄い。従って、振動板33の第2位置L2における厚さt2は、振動板33の第1位置L1における厚さt1よりも薄い。また、振動板33の第3位置L3における厚さt3は、振動板33の第1位置L1における厚さt1よりも薄い。
【0055】
図4,6に示す例において、圧電体34bは、第1位置L1に存在し、第2位置L2に存在しない。
図8に示す例において、圧電体34bは、第1位置L1と第2位置L2の両方に存在する。
【0056】
図4,6,8に示す例において、圧電素子34は、圧電体34bに加えて、+Z方向において振動板33と圧電体34bとの間にある第1電極34aと、圧電体34bに対して第1電極34aとは反対側にある第2電極34cと、を含んでいる。区画壁WL0から比較的遠い第1位置L1には、第1電極34aと第2電極34cの両方が存在する。第1区画壁WL1に比較的近い第2位置L2には、第2電極34cが存在し、第1電極34aが存在しない。第2区画壁WL2に比較的近い第3位置L3にも、第2電極34cが存在し、第1電極34aが存在しない。
【0057】
図示していないが、第1電極34aが共通電極であって第2電極34cが個別電極である場合、以下のことがいえる。
区画壁WL0から比較的遠い第1位置L1には、第1電極34aと第2電極34cの両方が存在する。第1区画壁WL1に比較的近い第2位置L2には、第1電極34aが存在し、第2電極34cが存在しない。第2区画壁WL2に比較的近い第3位置L3にも、第1電極34aが存在し、第2電極34cが存在しない。
【0058】
第1部分P1が存在する第1位置L1は、Y軸方向において第1区画壁WL1と第2区画壁WL2との間の中間に位置してもよい。すなわち、Y軸方向において、第1位置L1から第1区画壁WL1までの距離D1は、第1位置L1から第2区画壁WL2までの距離D2と同じでもよい。
また、第2位置L2は、Y軸方向において圧力室C1の端部に対応する位置でもよい。この場合、Y軸方向において圧力室C1の端部に対応する位置とは、Y軸方向において圧力室C1が第1区画壁WL1により区画される位置を意味する。また、第3位置L3は、Y軸方向において圧力室C1の端部に対応する位置でもよい。この場合、Y軸方向において圧力室C1の端部に対応する位置とは、Y軸方向において圧力室C1が第2区画壁WL2により区画される位置を意味する。
【0059】
(4)液体吐出ヘッドの製造方法の具体例:
図10~17は、図8に示す液体吐出ヘッド10の製造方法の具体例を模式的に示す断面図である。便宜上、図11~17に位置L1,L2,L3を示し、図14~17に部分P1,P2,P3を示している。また、図11~17は、図10と比べて拡大した図を示し、Z軸方向において圧力室基板用ウェハー132の一部が示されていない。
【0060】
圧力室基板32は、シリコン単結晶製であるシリコンウェハーから形成されるものとする。まず、図10~13に示すように、シリコンウェハーである圧力室基板用ウェハー132の表面132aに対して酸化膜92を形成する酸化膜形成工程が行われる。酸化膜92は、圧力室基板用ウェハー132の表面132aに対して、Y軸方向において、第1位置L1に存在し、且つ、第1区画壁WL1および第2区画壁WL2に対応する位置に存在しないように形成される。本具体例の酸化膜形成工程は、プレ熱酸化工程ST1と熱酸化膜パターニング工程ST2を含んでいる。
【0061】
図10は、圧力室基板用ウェハー132の表面132aに熱酸化膜91を形成する例を模式的に示している。酸化膜形成工程の第一段階として、圧力室基板用ウェハー132の表面132aに熱酸化を施すことによりSiOxの熱酸化膜91を形成するプレ熱酸化工程ST1が行われる。圧力室基板用ウェハー132の熱酸化は、例えば、800~1200℃程度の拡散炉で行うことができる。これにより、圧力室基板用ウェハー132の表面132aにSiOxの熱酸化膜91が一体的に形成される。熱酸化膜91の厚さは、特に限定されないが、例えば300~1500nm程度とすることができる。
【0062】
プレ熱酸化工程ST1の後、図11~13に示すように、Y軸方向において第1区画壁WL1および第2区画壁WL2に対応する位置から除去され且つ第1位置L1に残るように酸化膜92を形成する熱酸化膜パターニング工程ST2が行われる。
まず、図11に示すように、熱酸化膜91上において酸化膜92を残す位置にエッチングマスク95を形成するマスク形成工程が行われる。図11には、第1弾性層厚さ部T11における+Z方向の末端部T11aが示されている。
【0063】
次に、図12に示すように、マスク95で覆われていない部分の熱酸化膜91をエッチングにより除去するエッチング工程が行われる。エッチング工程は、例えば、シリコンをエッチストップ層として使用し、シリコンとSiOxとで高い選択比が得られるエッチング手段により行うことができる。具体的には、エッチャントに分子式HFのフッ酸を用いたウェットエッチング、エッチャントに分子式CHF3のトリフルオロメタンガスや分子式CF4のテトラフルオロメタンガスを用いたドライエッチング、等をエッチング手段に用いることができる。ただし、エッチングの初期は、前述とは異なるエッチング手段を用いてもよい。エッチング工程により、SiOxの熱酸化膜91から部分的に酸化膜92が残る。図12には、第2弾性層厚さ部T21における+Z方向の末端部T21a、および、第3弾性層厚さ部T31における+Z方向の末端部T31aが示されている。
【0064】
最後に、図13に示すように、酸化膜92からマスク95を除去するマスク除去工程が行われる。
以上により、Y軸方向において第1区画壁WL1および第2区画壁WL2に対応する位置から除去され、且つ、第1位置L1に残るように酸化膜92が形成される。
【0065】
次いで、図14に示すように、酸化膜92が形成された圧力室基板用ウェハー132の表面132aに熱酸化を施すことによりSiOxの熱酸化層93を形成する熱酸化工程ST3が行われる。この時、表面132aのうち酸化膜92がある部分は、熱酸化時に酸素の拡散が遅く、熱酸化層93に振動板壁面FW0としての凹部FW1が形成される。言い換えると、表面132aのうち酸化膜92が無い部分は、熱酸化時に酸素の拡散が速く、熱酸化層93に振動板壁面FW0としての凸部FW2が形成される。従って、熱酸化工程ST3の熱酸化により、+Z方向において第2部分P2および第3部分P3が第1部分P1よりも+Z方向の反対側SR1に位置するように振動板33の弾性層33aとしての熱酸化層93が形成される。
熱酸化層93において酸化膜92があった部分の厚さは、特に限定されないが、例えば500~2000nm程度とすることができる。熱酸化層93において酸化膜92が無かった部分の厚さは、特に限定されないが、例えば300~1500nm程度とすることができる。
【0066】
次いで、図15に示すように、弾性層33aを有する圧力室基板用ウェハー132をスパッタリング法でジルコニウム成膜後に熱酸化することによりZrOxを絶縁層33bとして形成する絶縁層形成工程ST4が行われる。絶縁層形成工程ST4は、ジルコニウムをスパッタリング法で成膜するジルコニウム成膜工程、および、ジルコニウム膜に熱酸化を施すジルコニウム膜熱酸化工程を含んでいる。絶縁層形成工程ST4が行われることにより、圧力室基板用ウェハー132に弾性層33aおよび絶縁層33bが積層された振動板33が形成される。図15には、第1厚さ部T1、第1絶縁層厚さ部T12における+Z方向の末端部T12a、第2厚さ部T2、第2絶縁層厚さ部T22における+Z方向の末端部T22a、第3厚さ部T3、および、第3絶縁層厚さ部T32における+Z方向の末端部T32aが示されている。
むろん、絶縁層33bの形成方法は、CVD法、蒸着法、スピンコート法といった液相法、これらの組合せ、等、熱酸化を行わない方法でもよい。
【0067】
次いで、図16に示すように、振動板33の圧電素子配置面33cに圧電素子34を形成する圧電素子形成工程ST5が行われる。圧電素子形成工程ST5は、圧電素子配置面33cに第1電極34aを形成する第1電極形成工程、第1電極34aが形成された圧電素子配置面33cに圧電体34bを形成する圧電体形成工程、および、第1電極34aと圧電体34bが形成された圧電素子配置面33cに第2電極34cを形成する第2電極形成工程を含んでいる。
【0068】
第1電極34aと第2電極34cは、例えば、イリジウムや白金等といった金属を成膜する成膜工程、および、成膜された金属膜をパターニングする金属膜パターニング工程により形成することができる。金属の成膜には、スパッタリング法といった物理的気相成長法等を用いることができる。パターニングには、リソグラフィー法等を用いることができる。
パターニング前の圧電体34bは、例えば、ゾル-ゲル法、MOD法、スパッタリング法やレーザーアブレーション法といった物理的気相成長法、等により形成することができる。ここで、MODはMetal-Organic Decompositionの略称である。圧電体34bのパターニングには、リソグラフィー法等を用いることができる。
【0069】
図示していないが、電極34a,34cに繋がったリード配線を形成するリード配線形成工程が行われる。リード配線形成工程は、電極34a,34cにリード配線を積層するリード配線積層工程、および、配線パターニング工程を含んでいる。リード配線は、例えば、金等といった金属を成膜することにより形成することができる。金属の成膜には、スパッタリング法といった物理的気相成長法等を用いることができる。パターニングには、リソグラフィー法等を用いることができる。
【0070】
次いで、図3に示す保護基板35を絶縁層33bに接合する保護基板接合工程が行われる。空間35aと貫通穴35bを有する保護基板35は、例えば、シリコンウェハーである保護基板用ウェハーから形成することができる。保護基板用ウェハーに空間35aおよび貫通穴35bを形成する方法は特に限定されず、例えば、マスクを介して保護基板用ウェハーに異方性エッチングを行うことにより空間35aおよび貫通穴35bが高精度に形成される。エッチャントには、水酸化カリウム水溶液といったアルカリ溶液を使用することができる。むろん、ウェットエッチングの代わりにプラズマエッチングといったドライエッチングを空間35aおよび貫通穴35bの形成に使用することも可能である。保護基板35は、例えば、接着剤により絶縁層33bに接着される。
【0071】
次いで、図17に示すように、熱酸化層93としての弾性層33aを含む振動板33が形成された圧力室基板用ウェハー132から弾性層33aを残して圧力室C1を形成する圧力室基板形成工程が行われる。圧力室基板形成工程は、圧力室基板用ウェハー132を保護基板35とは反対側から所定の厚さに薄くする薄膜化工程と、薄くされた圧力室基板用ウェハー132に圧力室C1を形成する圧力室形成工程ST6と、圧力室基板32および保護基板35をチップサイズに分割する分割工程と、を含んでいる。圧力室基板用ウェハー132は、研削加工、プラズマエッチングといったドライエッチング、ウェットエッチング、CMP、等から選ばれる1種類以上により薄膜化することができる。ここで、CMPは、Chemical Mechanical Polishingの略称である。薄くされた圧力室基板用ウェハー132に圧力室C1を形成する方法は特に限定されず、例えば、圧力室基板用ウェハー132に保護基板35とは反対側からマスクを介して異方性エッチングを行うことにより圧力室C1が高精度に形成される。エッチャントには、水酸化カリウム水溶液といったアルカリ溶液を使用することができる。むろん、ウェットエッチングの代わりにプラズマエッチングといったドライエッチングを圧力室C1の形成に使用することも可能である。分割工程では、圧力室基板32および保護基板35の不要部分が除去される。
【0072】
次いで、供給孔31a、連通孔31b、および、中継液室31cを含む液体流路を有する連通基板31を圧力室基板32に接合する連通基板接合工程が行われる。連通基板31は、例えば、シリコンウェハーである連通基板用ウェハーから形成することができる。連通基板用ウェハーに液体流路を形成する方法は特に限定されず、例えば、第1マスクを介して連通基板用ウェハーにエッチングを行うことにより中継液室31cが形成され、第2マスクを介して連通基板用ウェハーにエッチングを行うことにより供給孔31aおよび連通孔31bが形成される。エッチングは、ウェットエッチングでもよいし、ドライエッチングでもよい。連通基板31は、例えば、接着剤により圧力室基板本体部32aに接着される。また、常温活性化接合、プラズマ活性化接合、等により圧力室基板32と連通基板31を接合することも可能である。
【0073】
その後、連通基板31における-Z方向の末端面31fにノズル基板41を接合するノズル基板接合工程が行われる。ノズル基板41は、例えば、シリコンウェハーであるノズル基板用ウェハーから形成することができる。ノズル基板用ウェハーにノズルNZを形成する方法は特に限定されず、例えば、マスクを介してノズル基板用ウェハーにエッチングを行うことによりノズルNZが形成される。ノズル基板41は、例えば、接着剤により連通基板31の末端面31fに接着される。
【0074】
更に、連通基板31における-Z方向の末端面31fにコンプライアンス基板42を接合するコンプライアンス基板接合工程が行われる。コンプライアンス基板42は、例えば、接着剤により連通基板31の末端面31fに接着される。
【0075】
更に、連通基板31における+Z方向の末端面31hに筐体部材36を接合する筐体部材接合工程が行われる。筐体部材36は、例えば、接着剤により連通基板31の末端面31fに接着される。
【0076】
更に、リード配線に配線基板51を接続する配線基板接続工程が行われる。
以上により、図3,7に示すような液体吐出ヘッド10が製造される。製造された液体吐出ヘッド10は、図1に示すように、液体LQの供給部14、媒体MDの搬送部22、および、制御部20とともに液体吐出装置100の製造に使用される。従って、液体吐出装置100の製造方法の具体例も示されている。
【0077】
尚、上述した製造方法は、工程の順番を入れ替える等、適宜変更可能である。例えば、配線基板接続工程は、筐体部材接合工程の前に行われてもよい。
【0078】
上述した製造方法により、振動板壁面FW0は、比較的第1区画壁WL1に近い第2部分P2、および、比較的第2区画壁WL2に近い第3部分P3が比較的第1区画壁WL1から遠い第1部分P1よりも圧力室C1の方へ出ている形状となる。これにより、振動板33の圧力室対応部AC1において圧力室非対応部AC0近傍の部位AC1aにクラックが生じ難い状態となる。従って、本具体例の製造方法は、振動板33にクラックが発生することを抑制可能な液体吐出ヘッド10および液体吐出装置100を製造する好適な例を提供することができる。
【0079】
尚、図6に示す液体吐出ヘッド10を製造する場合には、図14に示す熱酸化工程ST3の後に熱酸化層93の厚さが均一になるように熱酸化層93の表面において酸化膜92があった部分を削る工程を追加すればよい。図4に示す液体吐出ヘッド10を製造する場合には、図14に示す熱酸化工程ST3の後に熱酸化層93の表面を平坦になるまで削る工程を追加すればよい。熱酸化層93の表面を削る工程は、例えば、研削加工、プラズマエッチングといったドライエッチング、ウェットエッチング、等から選ばれる1種類以上により行うことができる。
【0080】
(5)変形例:
液体吐出装置としてのプリンターには、印刷専用機の他、複写機、ファクシミリ装置、複合機、等が含まれる。むろん、液体吐出装置は、プリンターに限定されない。
流体吐出ヘッドから吐出される液体には、染料といった溶質が溶媒に溶解した溶液、顔料や金属粒子といった固形粒子が分散媒に分散したゾル、等の流体が含まれる。このような液体には、インク、液晶、導電材料、生体に関する有機物の溶液、等が含まれる。液体吐出装置には、液晶ディスプレー等のためのカラーフィルタの製造装置、有機ELディスプレー等のための電極の製造装置、バイオチップ製造装置、配線基板の配線を形成する製造装置、等が含まれる。ここで、有機ELは、有機エレクトロルミネッセンスの略称である。
【0081】
上述した具体例は第2電極34cが複数のノズルNZに共通の電極であったが、本技術は第2電極が個別電極である場合にも適用可能である。この場合、第1電極が複数のノズルに共通の電極でもよいし、圧電体が複数のノズルに共通の層でもよい。
【0082】
(6)結び:
以上説明したように、本発明によると、種々の態様により、振動板にクラックが発生することを抑制可能な液体吐出ヘッド、液体吐出装置、等の技術を提供することができる。むろん、独立請求項に係る構成要件のみからなる技術でも、上述した基本的な作用、効果が得られる。
また、上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術および上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も実施可能である。本発明は、これらの構成等も含まれる。
【符号の説明】
【0083】
10…液体吐出ヘッド、20…制御部、31…連通基板、31a…供給孔、31b…連通孔、31c…中継液室、31f,31h…末端面、32…圧力室基板、32a…圧力室基板本体部、33…振動板、33a…弾性層、33b…絶縁層、33c…圧電素子配置面、34…圧電素子、34a…第1電極、34b…圧電体、34c…第2電極、35…保護基板、36…筐体部材、41…ノズル基板、41a…ノズル面、42…コンプライアンス基板、51…配線基板、91…熱酸化膜、92…酸化膜、93…熱酸化層、95…マスク、100…液体吐出装置、132…圧力室基板用ウェハー、132a…表面、AC0…圧力室非対応部、AC1…圧力室対応部、C1…圧力室、D1,D2…距離、FW0…壁面、FW1…凹部、FW2…凸部、
L1…第1位置、L2…第2位置、L3…第3位置、LQ…液体、NZ…ノズル、P1…第1部分、P2…第2部分、P3…第3部分、SR1…第1方向の反対側、ST1…プレ熱酸化工程、ST2…熱酸化膜パターニング工程、ST3…熱酸化工程、ST4…絶縁層形成工程、ST5…圧電素子形成工程、ST6…圧力室形成工程、T1…第1振動板厚さ部、T2…第2振動板厚さ部、T3…第3振動板厚さ部、T11…第1弾性層厚さ部、T11a…第1方向の末端部、T12…第1絶縁層厚さ部、T12a…第1方向の末端部、T12b…第1方向の反対側の端部、T21…第2弾性層厚さ部、T21a…第1方向の末端部、T22…第2絶縁層厚さ部、T22a…第1方向の末端部、T22b…第1方向の反対側の端部、T31…第3弾性層厚さ部、T31a…第1方向の末端部、T32…第3絶縁層厚さ部、T32a…第1方向の末端部、T32b…第1方向の反対側の端部、WL0…区画壁、WL1…第1区画壁、WL2…第2区画壁。
図1
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