(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】ポリイミドフィルム積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09J 5/06 20060101AFI20240312BHJP
C09J 183/04 20060101ALI20240312BHJP
B32B 37/12 20060101ALI20240312BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20240312BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240312BHJP
H05K 1/02 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
C09J5/06
C09J183/04
B32B37/12
B32B27/34
B32B27/00 D
H05K1/02 D
(21)【出願番号】P 2020046561
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼田 桂也
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 直樹
(72)【発明者】
【氏名】北村 幸太
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/188174(WO,A1)
【文献】特開2020-037265(JP,A)
【文献】国際公開第2019/135367(WO,A1)
【文献】特開2000-234060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
B32B 7/12,27/00,27/34,37/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のポリイミドフィルムを、接着剤を用いて貼り合わせたポリイミドフィルム積層体の製造方法であって、
(1)第一のポリイミドフィルムの少なくとも一方の表面に接着剤を塗布する工程、
(2)前記接着剤を固体化して接着層とする工程、
(3)第一のポリイミドフィルムの接着層に第二のポリイミドフィルムを重ねてポリイミドフィルム重層体とする工程、
(4)前記ポリイミドフィルム重層体を200℃以上に加熱してポリイミドフィルム積層体を得る工程、
を少なくとも含み、
前記接着層が、オリゴマータイプのシランカップリング剤の縮合物であり、かつ前記接着層の鉛筆硬度がH以下であることを特徴とするポリイミドフィルム積層体の製造方法。
【請求項2】
前記接着層の10%重量減少温度が280℃以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミドフィルム積層体の製造方法。
【請求項3】
前記接着層が、前記第二のポリイミドフィルムを重ねる工程においてタック性を有することを特徴とする請求項1または2に記載のポリイミドフィルム積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルプリント回路基板(以下「FPC基板」という)の強度を保持するために、FPC基板に接着させて使用されるスティフナー(支持板あるいは補強板)として有用なポリイミドフィルム積層体の製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、複数枚のポリイミドフィルムが接着層により貼り合わせて形成されたポリイミドフィルム積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
FPC基板においてスイッチ部やコネクター部を補強するためのスティフナーとして厚手のポリイミドフィルムが用いられる。ポリイミドフィルムは、主として流延による溶液製膜で製造されており、その製法上厚いフィルムを作るには長い工程時間を要し、生産性は高くない。また流延法により得られる単層の厚手のフィルムはフィルム内部の配向が進まないため、強度、弾性率などの機械的特性が薄手のフィルムより相対的に低くなりやすい。
そこで、薄い単層ポリイミドフィルムを複数貼り合わせたポリイミドフィルム積層体をスティフナーとして使用することが提案されている。ポリイミドフィルムを貼り合わせる接着層としても耐熱性のある接着剤が求められる。ポリジメチルシロキサン構造を有するシリコーン系の接着剤は耐熱性接着剤の選択肢の一つである。またシランカップリング剤を接着層として用いるとシランカップリング剤の縮合により耐熱性のある有機無機ハイブリッド的な接着層を得ることができる。
【0003】
シランカップリング剤はガラスなどの無機材料や高分子樹脂などの界面において、両者の濡れ性、接着性などを改善するために広く用いられている。シランカップリング剤は無機材料に対する吸着力が強いと同時に、自己縮合反応を生じやすい。そのため、処理液、コート液中にて縮合物の粒子が形成され、それら粒子が塗布面、処理面での異物欠点となる場合が少なくない。
【0004】
さらに、スティフナーとしてポリイミドフィルム積層体を高温で使用することを想定すると、加熱時に接着層から発生するアウトガス量は少ない方が望ましく、接着層はポリイミドフィルム上に薄く形成されることが好ましい。
【0005】
ポリイミドフィルムの貼り合わせに際しては、接着層とポリイミドの間に異物を挟み込むと、その部分がブリスター欠点となる場合がある。
【0006】
また、貼り合わせに使用するポリイミドフィルム表面にキズがあったり、表面が粗い場合にもポリイミド間に空隙が生じ、同様に欠点となる場合がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、貼り合わせたポリイミド層間における欠点の少ないポリイミドフィルム積層体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は以下の構成からなる。
[1] 複数のポリイミドフィルムを、接着剤を用いて貼り合わせたポリイミドフィルム積層体の製造方法であって、
(1)第一のポリイミドフィルムの少なくとも一方の表面に接着剤を塗布する工程、
(2)前記接着剤を固体化して接着層とする工程、
(3)第一のポリイミドフィルムの接着層に第二のポリイミドフィルムを重ねてポリイミドフィルム重層体とする工程、
(4)前記ポリイミドフィルム重層体を200℃以上に加熱してポリイミドフィルム積層体を得る工程、
を少なくとも含み、かつ前記接着層の鉛筆硬度がH以下であることを特徴とするポリイミドフィルム積層体の製造方法。
[2] 前記接着層の10%重量減少温度が280℃以上であることを特徴とする[1]に記載のポリイミドフィルム積層体の製造方法。
[3] 前記接着層が、前記第二のポリイミドフィルムを重ねる工程においてタック性を有することを特徴とする[1]または[2]に記載のポリイミドフィルム積層体の製造方法。
[4] 前記接着層が、オリゴマータイプのシランカップリング剤の縮合物であることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載のポリイミドフィルム積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリイミドフィルム積層体の製造方法は、ポリイミドフィルム表面に形成された接着層が柔らかく、キズ、微小異物の挟み込み、ポリイミドフィルム製膜法由来などの凹凸をカバーすることができるため、結果としてブリスター欠点の少ない高品位なポリイミドフィルム積層体を得ることができる。
【0010】
本発明では接着層がポリイミドフィルムに対してタック性を有しており、貼り合わせ工程、特に枚葉加工する場合にハンドリング性が良好である。また接着層が熱分解を生じにくいため、ポリイミドフィルム積層体を加熱しても、接着層からのアウトガスによるブリスター欠点を生じにくい。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<ポリイミドフィルム積層体>
本発明で得られるポリイミドフィルム積層体(以下、単に積層体と記す場合もある)のポリイミドフィルムの枚数は2枚以上、好ましくは3枚以上、さらに好ましくは5枚以上である。
<スティフナーの形状>
本発明で得られるポリイミドフィルム積層体は、任意の形に外形加工してスティフナーとして用いることができる。本発明におけるスティフナーとはFPCなどのフレキシブル性を有する製品の一部を補強する機能を有する補強材であり、特に形状は問わない。たとえば、正方形、長方形、円などでも良い。
【0012】
<接着層>
本発明における接着層は二枚のポリイミドフィルムの間に介在して両者を接着する機能を有する層である。接着層は、液体状態の接着剤を塗布・乾燥することで得ることができる。液体状態の接着剤は溶剤を含む場合があるが接着層は実質的に無溶剤である。実質的に無溶剤とは、後工程の加熱などにより溶剤蒸気によるブリスター欠点が発生しない程度に乾燥している状態をいう。
本発明におけるポリイミドフィルムを貼り合わせるための接着層としては、シランカップリング剤の縮合物からなる層を用いることができる。シランカップリング剤は分子内に珪素元素を有し、ポリイミドフィルム間を物理的および化学的に介在し、両者間の接着力を高める作用を有する化合物を云う。
【0013】
本発明では、化1に示すようなオリゴマータイプのシランカップリング剤を用いることが好ましい。
【化1】
なお、ここにORはメトキシ基またはエトキシ基であり、X、Yは少なくともいずれかにアミノ基を有する官能基である。また、aおよびbはそれぞれ1以上の整数である。
【0014】
本発明で用いられるシランカップリング剤は、一量体または多量体であってもよく、線状構造もしくは環状構造のいずれの構造でもよい。また、分岐構造を含んでいても良い。
【0015】
本発明では、ポリイミドフィルムの貼り合わせと接着層の柔軟性を実現するために、それぞれの機能を有する物質を混合して使用してもよい。具体的には、シランカップリング剤と環状オリゴシロキサンの混合やなどが挙げられる。
【0016】
シランカップリング剤の好ましい具体例としては、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、2-(3,4-エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、トリス-(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、クロロメチルフェネチルトリメトキシシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、アミノフェネチルトリメトキシシラン、アミノフェニルアミノメチルフェネチルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザンなどが挙げられる。
【0017】
本発明で用いることのできるシランカップリング剤としては、上記のほかにn-プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリクロロシラン、2-シアノエチルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリクロロシラン、デシルトリクロロシラン、ジアセトキシジメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジメトキシメチルフェニルシラン、ドデシルリクロロシラン、ドデシルトリメトキシラン、エチルトリクロロシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、n-オクチルトリクロロシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、n-オクチルトリメトキシシラン、トリエトキシエチルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリメトキシメチルシラン、トリメトキシフェニルシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ペンチルトリクロロシラン、トリアセトキシメチルシラン、トリクロロヘキシルシラン、トリクロロメチルシラン、トリクロロオクタデシルシラン、トリクロロプロピルシラン、トリクロロテトラデシルシラン、トリメトキシプロピルシラン、アリルトリクロロシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、トリクロロビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、トリクロロ-2-シアノエチルシラン、ジエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、3-グリシジルオキシプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、などを使用することもできる。
【0018】
また、シランカップリング剤の中に他のアルコキシラン類、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどを適宜加えても良い。
【0019】
また、シランカップリング剤の中に他のアルコキシラン類、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシランなどを適宜加えた場合、あるいは、加えない場合も含めて、混合、加熱操作を加えて、反応を若干進めてから、使用しても良い。
【0020】
プロセスで特に高い耐熱性が要求される場合、Siとアミノ基の間を芳香族基でつないだものが望ましい。なお本発明では必要に応じて、リン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等を併用しても良い。また適度な分子量を有するポリアミン化合物を併用しても良い。
【0021】
<接着剤の塗工方法>
液体状態の接着剤の塗工方法としては、スピンコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、ディップ法、コーターを用いた塗工、気相を介した方法などが一般的である。接着剤の塗工は、必要に応じてポリイミドフィルムの片面、ないしは両面に行われる。一般に接着剤は溶剤を含むが、無溶剤にて液体状態である接着剤はこの限りではない。
【0022】
<接着層>
本発明ではポリイミドフィルムに塗布した接着剤を固体化して接着層とする。固体化の手段は単に溶剤分を揮発させる乾燥をすればよい。あるいは、加熱、紫外線照射などの処理により化学反応を生じさせても良い。
【0023】
本発明では、この接着層の鉛筆硬度がH以下であることが特徴である。鉛筆硬度はJIS K5600-5-4 第5部-第4節:引っかき硬度(鉛筆法)準拠の方法により、Hi-Uni(三菱鉛筆製)により求めることができる。本発明において好ましい接着層の鉛筆硬度はF以下であり、さらに好ましくはB以下である。
【0024】
本発明の接着層は、適度なタック性を有することが好ましい。適度なタック性は、接着層に第二のポリイミドフィルムを重ねて重層体とする際に、第二のポリイミドフィルムを仮固定する働きを有するため、重層体をハンドリングする際に第二のポリイミドが所定位置からずれてしまうトラブルを回避できる。タック性の適度な範囲は、接着層に第二のポリイミドを重ねた状態で所定の荷重(8kg/平方m)を10分間加えて仮固定した際に、下記の二条件を満たす範囲である。
・接着層から仮固定された第二のポリイミドフィルムを剥離する際の90度剥離強度が0.1N/cm未満であること。
・仮固定された第二のポリイミドフィルムにクロスカットを行い、裏返した際に自重で自然に剥離落下する第二のポリイミドフィルムのマス目の数が全数の90%以下であること。
【0025】
<ポリイミドフィルム>
本発明のポリイミドフィルムの厚さは3μm以上が好ましく、11μm以上がなお好ましい。ポリイミドフィルムの厚さの上限は特に制限されないが、フレキシブル電子デバイスとしての要求より250μm以下であることが好ましく、さらに150μm以下、なおさらには90μm以下が好ましい。
本発明のポリイミドフィルムの面積は、積層体やフレキシブル電子デバイスの生産効率・コストの観点より、大面積であることが好ましい。1000cm2以上であることが好ましく、1500cm2以上であることがより好ましく、2000cm2以上であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明では、ポリイミドフィルムとして芳香族ポリイミド、脂環族ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミドなどを用いることが出来る。より好ましくは、ポリイミド骨格を50%以上含む高分子を指す。
【0027】
一般にポリイミドフィルムは、溶媒中でジアミン類とテトラカルボン酸類とを反応させて得られるポリアミド酸(ポリイミド前駆体)溶液を、ポリイミドフィルム作製用支持体に塗布、乾燥してグリーンフィルム(「前駆体フィルム」または「ポリアミド酸フィルム」ともいう)となし、さらにポリイミドフィルム作製用支持体上で、あるいは該支持体から剥がした状態でグリーンフィルムを高温熱処理して脱水閉環反応を行わせることによって得られる。
【0028】
ポリアミド酸を構成するジアミン類としては、特に制限はなく、ポリイミド合成に通常用いられる芳香族ジアミン類、脂肪族ジアミン類、脂環式ジアミン類等を用いることができる。耐熱性の観点からは、芳香族ジアミン類が好ましく、芳香族ジアミン類の中では、ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類がより好ましい。ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類を用いると、高い耐熱性とともに、高曲げ弾性率、低熱収縮性、低線膨張係数を発現させることが可能になる。ジアミン類は、単独で用いてもよいし二種以上を併用してもよい。
【0029】
ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類としては、特に限定はなく、例えば、5-アミノ-2-(p-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、6-アミノ-2-(p-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、5-アミノ-2-(m-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、6-アミノ-2-(m-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、2,2’-p-フェニレンビス(5-アミノベンゾオキサゾール)、2,2’-p-フェニレンビス(6-アミノベンゾオキサゾール)、1-(5-アミノベンゾオキサゾロ)-4-(6-アミノベンゾオキサゾロ)ベンゼン、2,6-(4,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:5,4-d’]ビスオキサゾール、2,6-(4,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:4,5-d’]ビスオキサゾール、2,6-(3,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:5,4-d’]ビスオキサゾール、2,6-(3,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:4,5-d’]ビスオキサゾール、2,6-(3,3’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:5,4-d’]ビスオキサゾール、2,6-(3,3’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:4,5-d’]ビスオキサゾール等が挙げられる。
【0030】
上述したベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類以外の芳香族ジアミン類としては、例えば、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、1,4-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン(ビスアニリン)、1,4-ビス(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)ベンゼン、2,2’-ジトリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、m-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、m-アミノベンジルアミン、p-アミノベンジルアミン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,1-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-2-[4-(4-アミノフェノキシ)-3-メチルフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-3-メチルフェニル]プロパン、2-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-2-[4-(4-アミノフェノキシ)-3,5-ジメチルフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-3,5-ジメチルフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、4,4’-ビス[(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,1-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、2,2-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、4,4’-ビス[3-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、ビス[4-{4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ}フェニル]スルホン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-トリフルオロメチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-フルオロフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-メチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-シアノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジフェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5,5’-ジフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4,5’-ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-フェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5-フェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4-フェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-5’-フェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジビフェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5,5’-ジビフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4,5’-ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-ビフェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5-ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4-ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-5’-ビフェノキシベンゾフェノン、1,3-ビス(3-アミノ-4-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-4-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-5-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-5-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノ-4-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-4-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-5-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-5-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、2,6-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾニトリル、および上記芳香族ジアミンの芳香環上の水素原子の一部もしくは全てが、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルキル基またはアルコキシル基、シアノ基、またはアルキル基またはアルコキシル基の水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換された炭素数1~3のハロゲン化アルキル基またはアルコキシル基で置換された芳香族ジアミン等が挙げられる。
【0031】
前記脂肪族ジアミン類としては、例えば、1,2-ジアミノエタン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,8-ジアミノオクタン等が挙げられる。
前記脂環式ジアミン類としては、例えば、1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルシクロヘキシルアミン)等が挙げられる。
芳香族ジアミン類以外のジアミン(脂肪族ジアミン類および脂環式ジアミン類)の合計量は、全ジアミン類の20質量%以下が好ましく、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。換言すれば、芳香族ジアミン類は全ジアミン類の80質量%以上が好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。
【0032】
ポリアミド酸を構成するテトラカルボン酸類としては、ポリイミド合成に通常用いられる芳香族テトラカルボン酸類(その酸無水物を含む)、脂肪族テトラカルボン酸類(その酸無水物を含む)、脂環族テトラカルボン酸類(その酸無水物を含む)を用いることができる。中でも、芳香族テトラカルボン酸無水物類、脂環族テトラカルボン酸無水物類が好ましく、耐熱性の観点からは芳香族テトラカルボン酸無水物類がより好ましく、光透過性の観点からは脂環族テトラカルボン酸類がより好ましい。これらが酸無水物である場合、分子内に無水物構造は1個であってもよいし2個であってもよいが、好ましくは2個の無水物構造を有するもの(二無水物)がよい。テトラカルボン酸類は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0033】
脂環族テトラカルボン酸類としては、例えば、シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ビシクロヘキシルテトラカルボン酸等の脂環族テトラカルボン酸、およびこれらの酸無水物が挙げられる。これらの中でも、2個の無水物構造を有する二無水物(例えば、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物等)が好適である。なお、脂環族テトラカルボン酸類は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
脂環式テトラカルボン酸類は、透明性を重視する場合には、例えば、全テトラカルボン酸類の80質量%以上が好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。
【0034】
芳香族テトラカルボン酸類としては、特に限定されないが、ピロメリット酸残基(すなわちピロメリット酸由来の構造を有するもの)であることが好ましく、その酸無水物であることがより好ましい。このような芳香族テトラカルボン酸類としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-(2,2-ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン酸無水物等が挙げられる。
芳香族テトラカルボン酸類は、耐熱性を重視する場合には、例えば、全テトラカルボン酸類の80質量%以上が好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。
【0035】
本発明におけるポリイミド樹脂は、用途によっては透明であることが好ましい場合がある。その前駆体の合成に用いられる酸成分として1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸無水物などが例示されるが、特に好ましいのは1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物である。これらの脂肪族カルボン酸類は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。一方、ビシクロ[2,2,2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物などの不飽和結合を含むものは加熱処理時に着色し、フィルムの光学特性を低下させる傾向があるため好ましくない。
【0036】
本発明の透明ポリイミド系樹脂またはその前駆体の合成に用いられるジアミン成分をジアミン化合物として例示すると、1,3-フェニレンジアミン、1,4-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、3,4-ジアミノトルエン、4,5-ジメチル-1,2-フェニレンジアミン、2,5-ジメチル-1,4-フェニレンジアミン、2,6-ジメチル-1,4-フェニレンジアミン、2,3,5,6-テトラメチル-1,4-フェニレンジアミン、3-アミノベンジルアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、2,2’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジアミン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、4,4’-ジアミノオクタフルオロビフェニル、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2-エチル-6-メチルアニリン)、4,4’-エチレンジアニリン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルジフェニルメタン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3-アミノ-4-メチルフェニル)ヘキサフルオロプロパン、α,α’-ビス(4-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、ビス(2-アミノフェニル)スルフィド、ビス(4-アミノフェニル)スルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス(4-アミノフェニル)テレフタレート、2,7-ジアミノフルオレン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレンなどの芳香族ジアミンが挙げられる。また脂肪族ジアミンとして1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-アミノフェニル)シクロヘキサン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルシクロヘキシルアミン)、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルプロパン、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3-ジアミン、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,5-ジアミン、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,6-ジアミン、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,7-ジアミン、2,3-ビス(アミノメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5-ビス(アミノメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6-ビス(アミノメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、3(4),8(9)-ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.0(2,6)]デカンなどが例示される。これらの中で特に好ましいのはp-フェニレンジアミン、2,2’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジアミン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,4-ビス(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)ベンゼン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルシクロヘキシルアミン)である。上記アミン成分は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0037】
本発明のポリイミドフィルムは、ガラス転移温度が250℃以上、好ましくは300℃以上、さらに好ましくは350℃以上であり、あるいは500℃以下の領域においてガラス転移点が観測されないことが好ましい。本発明におけるガラス転移温度は、示差熱分析(DSC)により求めるものである。
【0038】
本発明のポリイミドフィルムの線膨張係数(CTE)は、好ましくは、-5ppm/K~+20ppm/Kであり、より好ましくは-5ppm/K~+15ppm/Kであり、さらに好ましくは1ppm/K~+10ppm/Kである。CTEが前記範囲であると、一般的な支持体との線膨張係数の差を小さく保つことができ、熱を加えるプロセスに供しても支持体から剥がれることを回避できる。また、問題とする本発明におけるポリイミドフィルムの線膨張係数は30から200℃の間の平均の値を用いているが、用途によって、注目する温度範囲は変わり、高温でのプロセスを考慮して、30℃から400℃の範囲を調べる場合、100℃から400℃の範囲の場合もあり、リフロープロセスを念頭において、50℃から280℃の範囲を調べる場合、使用温度範囲として、-50℃から150℃の範囲を重視する場合もありえる。
【0039】
本発明におけるポリイミドフィルムの破断強度は、60MPa以上、好ましくは120MP以上、さらに好ましくは240MPa以上である。破断強度の上限に制限は無いが、事実上1000MPa程度未満である。なお、ここで前記ポリイミドフィルムの破断強度とは、ポリイミドフィルムの長さ方向と幅方向の平均値をさす。
【0040】
本発明におけるポリイミドフィルムの厚さ斑は、20%以下であることが好ましく、より好ましくは12%以下、さらに好ましくは7%以下、特に好ましくは4%以下である。厚さ斑が20%を超えると、狭小部へ適用し難くなる傾向がある。なお、フィルムの厚さ斑は、例えば接触式の膜厚計にて被測定フィルムから無作為に10点程度の位置を抽出してフィルム厚を測定し、下記式に基づき求めることができる。
フィルムの厚さ斑(%)
=100×(最大フィルム厚-最小フィルム厚)÷平均フィルム厚
【0041】
本発明におけるポリイミドフィルムは、その製造時において幅が300mm以上、長さが10m以上の長尺ポリイミドフィルムとして巻き取られた形態で得られるものが好ましく、巻取りコアに巻き取られたロール状ポリイミドフィルムの形態のものがより好ましい。
【0042】
ポリイミドフィルムにおいては、ハンドリング性および生産性を確保する為、フィルム中に滑材(粒子)を添加・含有させて、ポリイミドフィルム表面に微細な凹凸を付与して滑り性を確保することが好ましい。前記滑材(粒子)とは、好ましくは無機物からなる微粒子であり、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭素化物、金属酸塩、リン酸塩、炭酸塩、タルク、マイカ、クレイ、その他粘土鉱物、等からなる粒子を用いることができる。好ましくは、酸化珪素、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、ピロリン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、炭酸カルシウム、ガラスフィラーなどの金属酸化物、リン酸塩、炭酸塩を用いることができる。滑材は1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0043】
前記滑材(粒子)の体積平均粒子径は、通常0.001~10μmであり、好ましくは0.03~2.5μm、より好ましくは0.05~0.7μm、さらに好ましくは0.05~0.3μmである。かかる体積平均粒子径は光散乱法で得られる測定値を基準とする。粒子径が下限より小さいとポリイミドフィルムの工業的生産が困難となり、また上限を超えると表面の凹凸が大きくなりすぎて貼り付け強度が弱くなり、実用上の支障が出る虞がある。
【0044】
前記滑材の添加量は、ポリイミドフィルム中の高分子成分に対する添加量として、0.02~50質量%であり、好ましくは0.04~3質量%、より好ましくは0.08~1.2質量%である。滑材の添加量が少なすぎると滑材添加の効果が期待し難く、滑り性の確保がそれほどなくポリイミドフィルム製造に支障をきたす場合があり、多すぎると、フィルムの表面凹凸が大きくなり過ぎて、滑り性の確保が見られても平滑性の低下を招いたり、ポリイミドフィルムの破断強度や破断伸度の低下を招いたり、CTEの上昇を招くなどの課題を招く場合がある。
【0045】
ポリイミドフィルムに滑材(粒子)を添加・含有させる場合、滑材が均一に分散した単層のポリイミドフィルムとしてもよいが、例えば、一方の面が滑材を含有させたポリイミドフィルムで構成され、他方の面が滑材を含有しないか含有していても滑材含有量が少量であるポリイミドフィルムで構成された滑剤濃度傾斜型のポリイミドフィルムとしてもよい。このような滑剤濃度傾斜型のフィルムにおいては、一方の層(フィルム)表面に微細な凹凸が付与されて該層(フィルム)で滑り性を確保することができ、良好なハンドリング性や生産性を確保できる。
【0046】
滑剤濃度傾斜型ポリイミドフィルムは、溶融延伸製膜法に製造されるフィルムの場合、例えばまず、滑剤含有しないポリイミドフィルム原料を用いてフィルム化を行い、その工程途上に置いて少なくともフィルムの片面に、滑剤を含有する樹脂層を塗布することにより得ることが出来る。もちろん、この逆で、滑剤を含有するポリイミドフィルム原料を用いてフィルム化を行い、その工程途上、ないし、フィルム化が完了した後に、滑剤を含有しないポリイミドフィルム原料を塗布してフィルムを得ることも出来る。
ポリイミドフィルムのような溶液製膜法を用いて得られるポリイミドフィルムの場合にも同様で、例えば、ポリアミド酸溶液(ポリイミドの前駆体溶液)として、滑材(好ましくは平均粒子径0.05~2.5μm程度)をポリアミド酸溶液中のポリマー固形分に対して0.02質量%~50質量%(好ましくは0.04~3質量%、より好ましくは0.08~1。2質量%)含有したポリアミド酸溶液と、滑材を含有しないか又はその含有量が少量(好ましくはポリアミド酸溶液中のポリマー固形分に対して0.02質量%未満、より好ましくは0.01質量%未満)である2種のポリアミド酸溶液を用いて製造することができる。
【0047】
滑剤濃度傾斜型ポリイミドフィルムの滑剤濃度傾斜型化(積層)方法は、両層の密着に問題が生じなければ、特に限定されるものではなく、かつ接着層などを介することなく密着するものであればよい。
ポリイミドフィルムの場合、例えば、i)一方のポリイミドフィルムを作製後、このポリイミドフィルム上に他方のポリアミド酸溶液を連続的に塗布してイミド化する方法、ii)一方のポリアミド酸溶液を流延しポリアミド酸フィルムを作製後このポリアミド酸フィルム上に他方のポリアミド酸溶液を連続的に塗布した後、イミド化する方法、iii)共押し出しによる方法、iv)滑材を含有しないか又はその含有量が少量であるポリアミド酸溶液で形成したフィルムの上に、滑材を多く含有するポリアミド酸溶液をスプレーコート、Tダイ塗工などで塗布してイミド化する方法などを例示できる。本発明では、上記i)ないし上記ii)の方法を用いることが好ましい。
【0048】
滑剤濃度傾斜型のポリイミドフィルムにおける各層の厚さの比率は、特に限定されないが、滑材を多く含有する高分子層を(a)層、滑材を含有しないか又はその含有量が少量である高分子層を(b)層とすると、(a)層/(b)層は0.05~0.95が好ましい。(a)層/(b)層が0.95を超えると(b)層の平滑性が失われがちとなり、一方0.05未満の場合、表面特性の改良効果が不足し易滑性が失われることがある。
【0049】
<ポリイミドフィルムの表面活性化処理>
本発明において用いられるポリイミドフィルムには表面活性化処理を行うことが好ましい。該表面活性化処理によって、ポリイミドフィルム表面は官能基が存在する状態(いわゆる活性化した状態)に改質され、接着剤との親和性が向上する。
本発明における表面活性化処理とは、乾式、ないし湿式の表面処理である。本発明の乾式処理としては、紫外線、電子線、X線などの活性エネルギー線を表面に照射する処理、コロナ処理、真空プラズマ処理、常圧プラズマ処理、火炎処理、イトロ処理等を用いることが出来る。湿式処理としては、フィルム表面を酸ないしアルカリ溶液に接触させる処理を例示できる。本発明に置いて好ましく用いられる表面活性化処理は、プラズマ処理であり、プラズマ処理と湿式の酸処理の組み合わせである。
【0050】
プラズマ処理は、特に限定されるものではないが、真空中でのRFプラズマ処理、マイクロ波プラズマ処理、マイクロ波ECRプラズマ処理、大気圧プラズマ処理、コロナ処理などがあり、フッ素を含むガス処理、イオン源を使ったイオン打ち込み処理、PBII法を使った処理、熱プラズマに暴露する火炎処理、イトロ処理なども含める。これらの中でも真空中でのRFプラズマ処理、マイクロ波プラズマ処理、大気圧プラズマ処理が好ましい。
【0051】
プラズマ処理の適当な条件としては、酸素プラズマ、CF4、C2F6などフッ素を含むプラズマなど化学的にエッチング効果が高いことが知られるプラズマ、或はNe,Ar、Kr,Xe、プラズマのように物理的なエネルギーを高分子表面に与えて物理的にエッチングする効果の高いプラズマによる処理が望ましい。また、CO2、CO、H2、N2、NH4、CH4などプラズマ、およびこれらの混合気体や、さらに水蒸気を付加することも好ましい。これらに加えてOH、N2, N, CO、CO2, H、H2、O2、NH、NH2、NH3、COOH、NO、NO2、 He, Ne, Ar, Kr, Xe, CH2O, Si(OCH3)4、 Si(OC2H5)4、C3H7Si(OCH3)3、 C3H7Si(OC2H5)3 といったからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の成分を気体としてあるいはプラズマ中での分解物として含有したプラズマを作る必要がある。短時間での処理を目指す場合、プラズマのエネルギー密度が高く、プラズマ中のイオンの持つ運動エネルギーが高いもの、活性種の数密度が高いプラズマが望ましいが、表面平滑性を必要とするため、エネルギー密度を高める事には限界がある。酸素プラズマを使った時には、表面酸化が進み、OH基の生成という点ではよいのだが、既にフィルム自体との密着力に乏しい表面ができやすく、かつ表面のあれ(粗さ)が大きくなるため、密着性も悪くなる。
また、Arガスを使ったプラズマでは純粋に物理的な衝突の影響が表面ではおこり、この場合も表面のあれが大きくなる。これら総合的に考えると、マイクロ波プラズマ処理、マイクロ波ECRプラズマ処理、高いエネルギーのイオンを打ち込みやすいイオン源によるプラズマ照射、PBII法なども望ましい。
【0052】
かかる表面活性化処理は高分子表面を清浄化し、さらに活性な官能基を生成する。生成した官能基は、カップリング剤層と水素結合ないし化学反応により結びつき、ポリイミドフィルム層とカップリング剤層とを強固に接着することが可能となる。
プラズマ処理においてはポリイミドフィルム表面をエッチングする効果も得ることが出来る。特に滑剤粒子を比較的多く含むポリイミドフィルムにおいては、滑剤による突起が、フィルム同士の接着を阻害する場合がある。この場合、プラズマ処理によってポリイミドフィルム表面を薄くエッチングし、滑剤粒子の一部を露出せしめた上で、フッ酸にて処理を行えば、フィルム表面近傍の滑剤粒子を除去することが可能である。
【0053】
表面活性化処理は、ポリイミドフィルムの片面のみに施してもよいし、両面に施してもよい。片面にプラズマ処理を行う場合、並行平板型電極でのプラズマ処理で片側の電極上にポリイミドフィルムを接して置くことにより、ポリイミドフィルムの電極と接していない側の面のみにプラズマ処理を施すことができる。また2枚の電極間の空間に電気的に浮かせる状態でポリイミドフィルムを置くようにすれば、両面にプラズマ処理が行える。また、ポリイミドフィルムの片面に保護フィルムを貼った状態でプラズマ処理を行うことで片面処理が可能となる。なお保護フィルムとしては粘着剤付のPETフィルムやオレフィンフィルムなどが使用できる。
【0054】
<積層体製造方法>
本発明では、
(1)第一のポリイミドフィルムの少なくとも一方の表面に接着剤を塗布する工程、
(2)前記接着剤を固体化して接着層とする工程、
(3)第一のポリイミドフィルムの接着層に第二のポリイミドフィルムを重ねてポリイミドフィルム重層体とする工程、
(4)前記ポリイミドフィルム重層体を200℃以上に加熱してポリイミドフィルム積層体を得る工程、
を少なくとも含むプロセスでポリイミドフィルム積層体を得る。なお加熱の際に加圧することが好ましい。
【0055】
第一のポリイミドフィルムの接着層に第二のポリイミドフィルムを重ねてポリイミドフィルム重層体とする工程としては、シート状に裁断したポリイミドフィルムを重ね合わせればよい。本発明の接着層が適度なタック性を有する場合には重ねたポリイミドフィルムがハンドリング中にずれることが防止される。得られた重層体はドライオーブンなどで加熱することにより積層体とすることができる。プレス機、ラミネータなどにより加熱と同時に適度な圧力を加えることにより、より密着性増した積層体を得ることができる。
【0056】
本発明においてポリイミドフィルムをロール状の連続フィルムとして用いている場合にはロールラミネータなどにより、二枚以上のフィルムを重ね合わせて重層体とすることができる。なおこの場合、重ねて重層体とすると同時に加熱、加圧することにより積層体化させることもできる。
加熱、加圧を行う装置としては、大気圧雰囲気下あるいは真空中で、プレス、ラミネート、ロールラミネート等を用いることができる。またフレキシブルなバッグに入れた状態で加圧加熱する方法も応用できる。生産性の向上や、高い生産性によりもたらされる低加工コスト化の観点からは、大気雰囲気下でのプレスまたはロールラミネートが好ましく、特にロールを用いて行う方法(ロールラミネート等)にて、重層と同時に積層化することが好ましい。
【0057】
加圧処理の際の圧力としては、1MPa~20MPaが好ましく、さらに好ましくは3MPa~10MPaである。圧力が高すぎると、支持体を破損するおそれがあり、圧力が低すぎると、密着しない部分が生じ、接着が不充分になる場合がある。加圧処理の際の温度としては、用いるポリイミドフィルムの耐熱温度を超えない範囲にて行う。非熱可塑性のポリイミドフィルムの場合には10℃~400℃、さらに好ましくは150℃~350℃での処理が好ましい。
【0058】
前記加圧処理は加圧プロセスと加熱プロセスとに分離して行うことが可能である。
この場合、まず、比較的低温(例えば120℃未満、より好ましくは95℃以下の温度)でポリイミドフィルム同士を加圧(好ましくは0.2~50MPa程度)して両者の密着確保し、その後、減圧環境下(好ましくは1kPa以下さらに好ましくは100Pa以下)もしくは大気圧下にて比較的高温(例えば120℃以上、より好ましくは120~250℃、さらに好ましくは150~230℃)で加熱することにより、密着界面の化学反応が促進されてポリイミドフィルムを積層できる。
【0059】
本発明におけるポリイミドフィルム積層体の、ポリイミドフィルム層間の接着強度は、90度剥離法において、0.1N/cm以上、20N/cm以下であり、好ましくは0.1N/cm以上18N/cmであり、さらに好ましくは0.15N/cm以上15N/cm以下である。
【実施例】
【0060】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性の評価方法は下の通りである。
【0061】
<ポリイミドフィルムなどの厚さ>
マイクロメーター(ファインリューフ社製、ミリトロン1245D)を用いて測定した。
【0062】
<接着層の形成1>
第一のポリイミドフィルムを20cm×30cmの大きさに切り出し、テープを用いてガラス板の上に固定した。その後、塗工ギャップ500μmのバーコーターを用いて接着剤の塗工を行った。接着剤はDynasylan1146(登録商標)(ジアミノシラン含有シランオリゴマー、エボニック製)を、イソプロピルアルコール(ナカライテスク製)を溶媒として1質量%溶液として調整したものを用いた。
接着剤の塗工後、常圧25℃のクリーン環境下にて自然乾燥させて接着層付きポリイミドフィルムを得た。
【0063】
<接着層の形成2>
第一のポリイミドフィルムを20cm×30cmの大きさに切り出し、テープを用いてガラス板の上に固定した。その後、塗工ギャップ500μmのバーコーターを用いて接着剤の塗工を行った。接着剤はKBM-903(3-アミノプロピルトリメトキシシラン、信越化学製)を、イソプロピルアルコール(ナカライテスク製)を溶媒として1質量%溶液として調整したものを用いた。
接着剤の塗工後、常圧25℃のクリーン環境下にて自然乾燥させて接着層付きポリイミドフィルムを得た。
【0064】
<接着層の形成3>
第一のポリイミドフィルムを20cm×30cmの大きさに切り出し、テープを用いてガラス板の上に固定した。その後、塗工ギャップ500μmのバーコーターを用いて接着剤の塗工を行った。接着剤はKR-3704(溶剤付加型シリコーン系粘着剤組成物、信越化学製)を用いた。
接着剤の塗工後、常圧80℃のクリーン環境下にて乾燥させて接着層付きポリイミドフィルムを得た。
【0065】
<積層>
得られた接着層付きポリイミドフィルムに同じ大きさに切り出した第二のポリイミドフィルムを重ね、気泡が残らないように軽く加圧してポリイミドフィルム重層体とした。さらにポリイミドフィルム重層体を二枚の離型シートにて挟み、真空プレスにて100Paの圧力を印加し、仮接着を行った。次いで得られた仮接着積層板をクリーンオーブンに入れ、200℃にて1時間加熱し、本発明のポリイミドフィルム積層体を得た。
【0066】
<鉛筆硬度>
得られた接着層付ポリイミドフィルムの接着層について、JIS K5600-5-4 第5部-第4節:引っかき硬度(鉛筆法) 6.1、備考1に記載の手かき法により、Hi-Uni(三菱鉛筆製)を用いて鉛筆硬度を求めた。
【0067】
<タック性>
得られた接着層付きポリイミドフィルムの接着層に第二のポリイミドを重ねた状態で所定の荷重(8kg/平方m)を10分間加えて第一のポリイミドフィルムと第二ポリイミドフィルムを仮固定し、ポリイミドフィルム重層体とした。このポリイミドフィルム重層体における接着層と第二のポリイミドフィルムとの90度剥離強度を求めた。90度剥離強度は、JIS K6854-1 の90度剥離法に従って求めた使用した機器、条件は以下のとおりである。
装置名 ; 島津製作所社製 オートグラフAG-IS
測定温度 ; 室温
剥離速度 ; 50mm/min
雰囲気 ; 25℃60%RH常圧大気中
測定サンプル幅 ; 1cm
サンプルとしては、ポリイミド重層体の第二のポリイミドフィルム側から接着層に達する切込みを1cm幅となるように入れ、第一のポリイミドフィルム側を基板に両面テープで接着し、第二のポリイミドフィルムの端をつまみ上げて剥離を行った。
次いで、ポリイミドフィルム重層体の第二のポリイミドフィルムに5mm幅の5×5のクロスカットを行い、裏返した際に自重で自然に剥離落下する第二のポリイミドフィルムのマス目の数を計数した。
【0068】
<ブリスター数>
10cm×10cmに切り出したポリイミドフィルム積層体において、直径200μm以上のブリスターの個数を計数した。なお、ブリスターとは貼り合わせたポリイミドフィルム同士の間に空隙が生じるタイプの欠点であり、ウキ、気泡、バブル等と呼ばれることがある。ブリスターの個数計数は各サンプルにつきn=5となるように測定し、平均値を1平方mあたりの個数に換算した。ブリスターの計数は、貼り合わせ直後および積層体を300℃で30分間加熱した後に実施した。
【0069】
<接着層の加熱重量減少>
東レデュポン社製ポリイミドフィルム カプトン100Hに接着剤の塗工を行い、塗工面が上になるようにクリーンオーブンを用いて200℃1時間加熱し、接着層付カプトンを得た。次いで、金属製のへらを用いて接着層を削り取って集め、加熱重量減少測定用のサンプルとした。測定にはTGA-50(島津製作所)を使用し、昇温速度を10℃/分として窒素中にて室温~500℃の範囲で測定を実施した。
【0070】
<積層体のポリイミドフィルム層間の接着強度>
得られたポリイミドフィルム積層体のポリイミドフィルム層間の接着強度を、JIS K6854-1 の90度剥離法に従って求めた。
装置名 ; 島津製作所社製 オートグラフAG-IS
測定温度 ; 室温
剥離速度 ; 50mm/min
雰囲気 ; 25℃60%RH常圧大気中
測定サンプル幅 ; 1cm
サンプルは一辺が100mmの正方形のポリイミドフィルム積層体の表面に、最表層のポリイミドフィルム厚さの120%に相当する深さまで切り込みを入れ、積層体の端から最表層のポリイミドフィルムを剥がして測定した。なお本発明の積層体では接着層が薄いために便宜上、ポリイミドフィルム層間の接着強度としているが、実際には接着層とポリイミドフィルム間の接着強度となる。
【0071】
<ポリイミドフィルムの製造>
〔製造例〕
(ポリアミド酸溶液の調製1)
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後、5-アミノ-2-(p-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール(DAMBO)223質量部と、N,N-ジメチルアセトアミド4416質量部とを加えて完全に溶解させ、次いで、ピロメリット酸二無水物(PMDA)217質量部とともに、滑剤としてコロイダルシリカをジメチルアセトアミドに分散してなる分散体(日産化学工業製「スノーテックス(登録商標)DMAC-ST30」)とをシリカ(滑剤)がポリアミド酸溶液中のポリマー固形分総量にて0.12質量%)になるように加え、25℃の反応温度で24時間攪拌して、褐色で粘調なポリアミド酸溶液V1を得た。
【0072】
(ポリイミドフィルムの作製1)
上記で得られたポリアミド酸溶液V1を、スリットダイを用いて幅1050mmの長尺ポリエステルフィルム(東洋紡株式会社製「A-4100」)の平滑面(無滑剤面)上に、最終膜厚(イミド化後の膜厚)が38μmとなるように塗布し、105℃にて20分間乾燥した後、ポリエステルフィルムから剥離して、幅920mmの自己支持性のポリアミド酸フィルムを得た。
上記で得られたポリアミド酸フィルムを得た後、ピンテンターによって、1段目150℃×5分、2段目220℃×5分、3段目495℃×10分間)熱処理を施してイミド化させ、両端のピン把持部分をスリットにて落とし、幅850mmの長尺ポリイミドフィルムF1(1000m巻き)を得た。
【0073】
(ポリアミド酸溶液の調製2)
窒素導入管,温度計,攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後、反応容器に窒素雰囲気下、1,4-ビス(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)ベンゼン205.8g(0.480mol)とN,N-ジメチルアセトアミド1200gを仕込んで溶解させた後、反応容器を冷却しながらシクロブタンテトラカルボン酸二無水物93.8g(0.478mol)を固体のまま分割添加し、室温で12時間攪拌した。その後4-メチルシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸無水物1.0g(5.9mmol)を加え4時間攪拌した後、N,N-ジメチルアセトアミド1000gで希釈し、還元粘度5.28dl/gのポリアミド酸溶液V2を得た。アミン末端量が5eq/tであったポリアミック酸溶液V2に、平均粒径0.08μmのコロイダルシリカ微粒子をN,N-ジメチルアセトアミドに分散してなる溶液を、微粒子がポリアミック酸に対して2.0質量%となるように加え、微粒子含有ポリアミド酸溶液V2’を得た。
【0074】
(ポリイミドフィルムの作製2)
微粒子含有ポリアミック酸溶液V2’を最終乾燥厚みが3μmとなるようコンマコーターを用いて厚み188μmのポリエステルフィルム上に塗布した後、その上にポリアミック酸溶液V2を最終乾燥厚みが40μmとなるようTダイのスリットより連続的に押し出し薄膜を形成した。いずれのポリマー溶液も脱泡工程、ろ過精度3μmのポリマーフィルターを通過させるろ過工程を経て供給された。この薄膜を110℃~135℃で15分間加熱後、支持体から剥離して揮発成分が23.7質量%の自己支持性フィルムを得た。
【0075】
続いてこの自己支持性フィルムをレールに沿って駆動するチェーンに取り付けたフィルム把持装置に両端部を把持させ、150℃~320℃に加熱された連続加熱炉に挿入し、炉内最高温度での処理が5分以下となる条件で熱処理した。その時の炉内の酸素濃度は20.6%であった。上記工程により揮発成分量が1質量%以下でイミド化が完了することで、厚み40μmの長尺状ポリイミドフィルムF4(200m巻き)を得た。
【0076】
これらの他、市販されている耐熱性フィルムを用いて同様に実施例、比較例に用いた。
F2:ユーピレックス25S(宇部興産株式会社製ポリイミドフィルム、厚さ25μm)
F3:カプトン100H(東レ・デュポン株式会社製ポリイミドフィルム、厚さ25μm)
【0077】
<ポリイミドフィルムの真空プラズマ処理>
ポリイミドフィルムにシランカップリング剤処理を行う前工程として、ポリイミドフィルムに真空プラズマ処理を行った。真空プラズマ処理は長尺フィルム処理用の装置を用い、真空チャンバー内を1×10-3Pa以下になるまで真空排気し、真空チャンバー内にアルゴンガスを導入して、放電電力100W、周波数15kHzの条件で20秒間、アルゴンガスのプラズマ処理を行った。以下、実施例および比較例ではプラズマ処理後のフィルムを適当な幅にスリットして用いた。
を得た。
【0078】
<実施例1>
ポリイミドフィルムF1を第一のポリイミドフィルム、第二のポリイミドフィルムとして用い、接着層の形成1に記載の方法で接着層を形成し、以下記載の通りにポリイミドフィルム重層体、ポリイミドフィルム積層体を得た。得られたポリイミドフィルム積層体および中間段階での評価結果を表1に示す。
【0079】
<実施例2~4>
ポリイミドフィルムF1を、それぞれポリイミドフィルムF2、F3、F4に代えてポリイミドフィルム積層体を得た。同様に積層体および中間段階での評価結果を表1に示す。
【0080】
<比較例1>
ポリイミドフィルムF1に、接着層の形成2に記載の方法で接着層を形成し、以下同様にポリイミドフィルム重層体、ポリイミドフィルム積層体を得た。同様に評価結果を表1に示す。なお比較例1では接着層のタック性が低いために重層体を積層する際に第二のポリイミドフィルムがややずれて積層されてしまった。
<比較例2>
ポリイミドフィルムF1に、接着層の形成3に記載の方法で接着層を形成し、以下同様にポリイミドフィルム重層体、ポリイミドフィルム積層体を得た。同様に評価結果を表1に示す。比較例2では接着層のタック性が強すぎるために、第二のポリイミドフィルムを平面方向に滑らせて位置調整をすることが難しく、結果的に第二のポリイミドフィルムにシワが入った。
一方の実施例では作業性に特段の問題は無く、また得られた積層体のブリスター数も少なく高品位な積層体を得ることができた。
【0081】
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のポリイミドフィルム積層体の製造方法では、適度なタック性があり、かつ熱分解しにくい接着層を使用することができ、ブリスター欠点が少なく、品位の良いポリイミドフィルム積層体を作製することができる。本発明で得られるポリイミドフィルム積層体はFPC用の補強板に加え、厚手のポリイミドフィルムあるいはポリイミドシートが必要とされる用途に広く活用することがで、産業上のさまざまな分野に利用できる。