(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】プリント鋼板
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20240312BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20240312BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20240312BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
B32B15/08 H
B05D1/36 Z
B05D7/14 A
B05D7/24 303B
(21)【出願番号】P 2020052426
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 幹之
(72)【発明者】
【氏名】宮井 菜月
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-001079(JP,A)
【文献】特開2001-030454(JP,A)
【文献】特開2017-164942(JP,A)
【文献】特開2005-298694(JP,A)
【文献】特開2019-035075(JP,A)
【文献】特開2018-053051(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
B05D
C23C 24/00-30/00
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき鋼板の一方の面上に、プライマー層、ベースコート層、絵柄層、及びトップコート層が、この順に形成されており、
前記絵柄層は、直接印刷によって設けられ、
前記トップコート層には、二酸化ケイ素と酸化亜鉛との複合無機粒子である酸化亜鉛系粒子、及び二酸化ケイ素と酸化ジルコニウムとの複合無機粒子である酸化ジルコニウム系粒子の少なくとも一方が添加されていることを特徴とするプリント鋼板。
【請求項2】
前記トップコート層には、前記酸化亜鉛系粒子、及び前記酸化ジルコニウム系粒子の少なくとも一方が、前記トップコート層全体の質量に対して0.5質量%以上添加されていることを特徴とする請求項1に記載のプリント鋼板。
【請求項3】
前記トップコート層の塗布量は、5g/m
2以上20g/m
2以下の範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプリント鋼板。
【請求項4】
前記トップコート層は、前記酸化亜鉛系粒子、及び前記酸化ジルコニウム系粒子の少なくとも一方と、樹脂とを備え、
前記樹脂は、ポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のプリント鋼板。
【請求項5】
前記トップコート層のみに、前記酸化亜鉛系粒子、及び前記酸化ジルコニウム系粒子の少なくとも一方が添加されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のプリント鋼板。
【請求項6】
前記トップコート層には、有機窒素硫黄系化合物、及び無機銀亜鉛系化合物の少なくとも一方がさらに添加されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のプリント鋼板。
【請求項7】
前記トップコート層には、前記有機窒素硫黄系化合物、及び前記無機銀亜鉛系化合物の少なくとも一方が、前記トップコート層全体の質量に対して0.025質量%以上添加されていることを特徴とする請求項6に記載のプリント鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の面上が塗装や印刷によって化粧が施されたプリント鋼板に好適な技術である。
【背景技術】
【0002】
従来、めっき鋼板の一方の面上に、プライマー層、ベースコート層、絵柄層、及びトップコート層が、順に形成されたプリント鋼板が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
病院や高齢者養護施設等の医療施設や、公衆浴場、スポーツジム等のロッカー、生物薬品施設・食品工場等においては、プリント鋼板における不燃性(防火性)及び消臭性のさらなる向上が要求されている。
そこで、本発明は、上記の課題に着目してなされたものであり、不燃性(防火性)及び消臭性を向上させたプリント鋼板を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係るプリント鋼板は、めっき鋼板の一方の面上に、プライマー層、ベースコート層、絵柄層、及びトップコート層が、この順に形成されており、絵柄層は、直接印刷によって設けられ、トップコート層は、二酸化ケイ素と酸化亜鉛との複合無機粒子である酸化亜鉛系粒子、及び二酸化ケイ素と酸化ジルコニウムとの複合無機粒子である酸化ジルコニウム系粒子の少なくとも一方が添加されている。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一態様によれば、絵柄層が直接印刷によって設けられるので、印刷したシートを接着剤によってラミネートする場合よりも厚さを薄くすることができる。したがって、有機質量を低減し、不燃性(防火性)を向上させることができる。また、トップコート層には、二酸化ケイ素と酸化亜鉛との複合無機粒子である酸化亜鉛系粒子、及び二酸化ケイ素と酸化ジルコニウムとの複合無機粒子である酸化ジルコニウム系粒子の少なくとも一方が添加されるので、消臭性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態に係るプリント鋼板を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
ここで、図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各層の厚さの比率等は現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造等が下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0009】
(構成)
図1に示すように、本発明の実施形態に係るプリント鋼板10は、めっき鋼板1と、プライマー層2と、ベースコート層3と、絵柄層4と、トップコート層5と、裏面コート層6と、を備えている。めっき鋼板1の一方の面上に、プライマー層2と、ベースコート層3と、絵柄層4と、トップコート層5と、が順に形成されている。また、めっき鋼板1の他方の面上に、裏面コート層6が形成されている。
【0010】
(めっき鋼板)
めっき鋼板1は、プリント鋼板10のベースとなる板である。めっき鋼板1の材料としては、例えば合金化亜鉛めっき鋼板を用いる。合金化亜鉛めっき鋼板は、塗料との密着性・耐食性の向上のために、鋼板表面に亜鉛めっき(金属被膜)が形成されてなる鋼板である。また、亜鉛めっきされた鋼板の表層には、耐食性の向上のために、化成被膜7を設けてある。化成被膜7としては、例えばクロメート被膜、クロメートフリー被膜を採用できる。特に、環境負荷の面から、クロメートフリー被膜が望ましい。クロメートフリー被膜は、クロメートフリー処理(ノンクロメート処理)により形成できる。クロメートフリー処理に使用する処理液としては、例えば六価クロムを含有しない処理液、例えばZr若しくはTi又はこれらの両方の塩を含む処理液、又は、シランカップリング剤を含む処理液等を採用できる。このような処理液を用いたクロメートフリー処理により、亜鉛めっきの層上に、Ti、Zr、P、Ce、Si、Al、Li等を主成分として含有し、クロムを含有しないクロメートフリー被膜を形成できる。つまりクロメートフリー被膜は、例えばTi、Zr、P、Ce、Si、Al若しくはLi又はこれらの任意の組み合わせを含む。なお、めっきは合金化めっきに限定されるものではなく、任意のめっきを採用することができる。
【0011】
上述のように、本実施形態ではめっき鋼板1として、合金化亜鉛めっき鋼板を用いることが好ましいが、本発明はこれに限定されるものではない。めっき鋼板1には、例えばガルバリウム鋼板(登録商標)やステンレス鋼板、あるいはアルミ鋼板等を用いてもよい。
なお、本実施形態において「合金化亜鉛めっき鋼板」とは、溶融亜鉛めっき鋼板とも称される鋼板であり、溶融亜鉛めっき後、加熱処理を施し、亜鉛めっき層と鉄との相互拡散により、鉄亜鉛系の金属間化合物(厚さ8μm程度、付着量60g/m2程度)を生成させた鋼板を意味する。また、本実施形態において「ガルバリウム鋼板(登録商標)」とは、アルミニウム・亜鉛合金めっき鋼板を意味する。
【0012】
(プライマー層)
プライマー層2は、ベースコート層3とめっき鋼板1との密着性・耐食性を向上させるための層である。プライマー層2の材料としては、質量比で、例えばポリエステル系樹脂(約57%)、有機添加剤(約1%)及び顔料(約42%)を含む第1プライマーか、又はエポキシ系樹脂(約49%)、有機添加剤(約6%)及び無機添加剤(約47%)を含む第2プライマーを用いる。第1プライマーを用いる場合には、耐食性の向上のために、第1プライマーの乾燥塗布量は1.5g/m2以上が好ましい。上限値としては、9.5g/m2以下が好ましい。第2プライマーを用いる場合には、プライマー層2は、200℃以上で焼付乾燥させる。なお、第1プライマーを用いる場合にも、プライマー層2は、200℃以上で焼付乾燥させてもよい。また、第1及び第2プライマーには、耐食性の向上のために、防錆剤を添加する。プライマー層2の乾燥塗布量の上限値は、18g/m2以下とすることが好ましい。また、プライマー層2の厚さは、例えば1μm以上10μm以下とする。
【0013】
(ベースコート層)
ベースコート層3は、プリント鋼板10に絵柄層4の下地色を付与するための層である。ベースコート層3の材料としては、質量比で、例えばポリエステル系樹脂(約45%)、メラミン系樹脂(約15%)及び顔料(約40%)を含む第1ベースコートか、又はポリエステル系樹脂(約48%)、メラミン系樹脂(約10%)、顔料(約40%)及び添加剤(約2%)を含む第2ベースコートを用いる。顔料には、下地色の顔料が添加されている。また、第1ベースコートには、耐食性の向上のために、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂を添加してもよい。さらに、第2ベースコートには、耐食性の向上のために、防錆剤を添加してもよい。ベースコート層3の厚さは、例えば10μm以上30μm以下とする。また、ベースコート層3には、耐候性の向上のために、紫外線吸収剤、光安定剤等の耐候剤を添加してもよい。
【0014】
(絵柄層)
絵柄層4は、プリント鋼板10に絵柄による意匠性を付与するための層であり、直接印刷によって設けられる。絵柄層4は、染料又は顔料等の着色剤を適当なバインダー樹脂とともに適当な希釈溶媒中に溶解又は分散してなる印刷インキ又は塗料等を用いて形成される。絵柄層4の材料としては、質量比で、例えばポリエステル系樹脂(約49%)、有機添加剤(約1%)及び顔料(約50%)を含む印刷インキ又は塗料等を用いる。印刷インキ又は塗料等は、例えばグラビア印刷法、オフセット印刷法又はインクジェット印刷等の各種印刷法や、グラビアコート法又はロールコート法等の各種塗工法等で塗布される。バインダー樹脂としては、例えば公知のバインダー樹脂を採用できる。例えばプライマー層2で使用されるような、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂得、アルキド系樹脂、フェノール系樹脂、アクリル系樹脂等の熱硬化型樹脂を採用できる。また、顔料としては、例えば公知の顔料を用いることができる。例えば酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック、鉄・複合酸化物、酸化鉄、有機顔料、メタリック顔料、パール顔料等を採用できる。これらのうち、鉄・複合酸化物は遮熱顔料として使用される。
【0015】
絵柄は、特に制限されるものではないが、例えば木目柄、石目柄、布目柄、抽象柄、幾何学模様、文字、記号、単色無地等或いはこれらの二種類以上の組み合わせ等を用いることできる。絵柄層4の厚さは、例えば0.1μm以上0.2μm以下とする。なお、インクジェット印刷を用いた場合、絵柄層4の厚さは、この範囲よりも厚くなる。また、絵柄層4には、耐候性の向上のために、紫外線吸収剤、光安定剤等の耐候剤を添加してもよい。
【0016】
(トップコート層)
トップコート層5は、プリント鋼板10に耐候性や曲げ加工性、耐傷付性、清掃性を付与するための透明な層である。トップコート層5の材料としては、質量比で、例えばポリエステル系樹脂(約84%)、有機添加剤(約7%)及び無機添加剤(約0.5%)を含むトップコート剤を用いることができる。ここで「無機添加剤」とは、後述する「酸化亜鉛系粒子、及び酸化ジルコニウム系粒子の少なくとも一方」を意味する。また、トップコート層5には、意匠性の向上のために、樹脂ビーズやシリカを添加してもよい。また、耐候性の向上のために、紫外線吸収剤、光安定剤等の耐候剤を添加してもよい。また、艶を調節するために、マット剤を添加してもよい。また、絵柄層4の絵柄に木目柄を用いる場合、トップコート層5と絵柄層4との層間には、意匠性の向上のために、マット導管印刷層を設けてもよい。
【0017】
トップコート層5を構成する樹脂は、ポリエステル系樹脂が好ましい。また、ポリエステル系樹脂のなかでも、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が好ましい。トップコート層5を構成する樹脂がポリエステル系樹脂であれば、トップコート層5の表面を水拭きした際に、他の構成樹脂と比較して、表面における洗浄性を高めることができる。つまり、トップコート層5を構成する樹脂に上述したポリエステル系樹脂を用いることで、トップコート層5の表面を水拭きした際に、他の構成樹脂と比較して、トップコート層5の表面に付着した汚れを容易に落とすことができる。そのため、上述した構成のプリント鋼板10であれば、水拭きにて消臭機能が復活する消臭性を有した鋼板を提供することが可能となり、安価で消臭機能を持たせた玄関ドアや、病院等の室内ドア、ロッカー等の扉を提供することが可能となる。
【0018】
トップコート層5の厚さは、例えば3μm以上15μm以下とする。なお、トップコート層5(トップコート剤)の塗布量は、5g/m2以上20g/m2以下が好ましく、7g/m2以上15g/m2以下がより好ましく、10g/m2以上12g/m2以下がさらに好ましい。トップコート層5の厚さ(塗布量)が上記数値範囲内であれば、プリント鋼板10に十分な耐傷性等を付与することができる。
【0019】
トップコート層5には、二酸化ケイ素と酸化亜鉛との複合無機粒子である酸化亜鉛系粒子、及び二酸化ケイ素と酸化ジルコニウムとの複合無機粒子である酸化ジルコニウム系粒子の少なくとも一方が添加される。上述した酸化亜鉛系粒子、及び酸化ジルコニウム系粒子であれば、消臭性を有し、且つ鋼板を製造する際の焼付乾燥(最大で260℃程度)にも耐え得る優れた耐熱性を有している。本実施形態で使用可能な酸化亜鉛系粒子としては、例えばKD-211G(ラサ工業製)がある。また、本実施形態で使用可能な酸化ジルコニウム系粒子としては、例えばKD-511G(ラサ工業製)がある。
【0020】
トップコート層5には、酸化亜鉛系粒子、及び酸化ジルコニウム系粒子の少なくとも一方がトップコート層5全体の質量に対して0.1質量%以上添加されていれば好ましく、0.5質量%以上添加されていればより好ましい。トップコート層5が酸化亜鉛系粒子、及び酸化ジルコニウム系粒子の少なくとも一方を0.1質量%以上含んでいれば、プリント鋼板10に消臭性能を付与することができる。また、酸化亜鉛系粒子、及び酸化ジルコニウム系粒子の合計含有量がトップコート層5全体の質量に対して10質量%以下であれば好ましく、5質量%以下であればより好ましい。
なお、酸化亜鉛系粒子、及び酸化ジルコニウム系粒子の各粒子径(D50)は、1μm以上10μm以下の範囲内であれば好ましい。化亜鉛系粒子、及び酸化ジルコニウム系粒子の各粒子径が上記数値範囲内であれば、トップコート層5の手触り感に違和感が生じ難い。
【0021】
トップコート層5には、有機窒素硫黄系化合物、及び無機銀亜鉛系化合物の少なくとも一方が添加されてもよい。有機窒素硫黄系化合物としては、例えばビオサイドR-ZPT(株式会社タイショーテクノス製)やネオシントール(住化エンバイロメンタルサイエンス株式会社製)がある。無機銀亜鉛系化合物としては、例えばビオサイドTB-B10K(株式会社タイショーテクノス製)やビオサイドTB-B100(株式会社タイショーテクノス製)がある。トップコート層5には、有機窒素硫黄系化合物、及び無機銀亜鉛系化合物の少なくとも一方を、トップコート層5全体の質量に対して0.025質量%以上添加してもよい。
【0022】
(裏面コート層)
裏面コート層6は、めっき鋼板1の他方の面、つまり、プリント鋼板10の裏面を被覆するための層である。裏面コート層6の材料としては、質量比で、例えばエポキシ系樹脂(約49%)、有機添加剤(約6%)及び無機添加剤(約51%)を用いることができる。なお、エポキシ系樹脂に代えて、ポリエステル系樹脂を使用してもよい。また、裏面コート層6には、耐食性の向上のために、防錆剤を添加するようにしてもよい。
【0023】
以上説明したように、本発明の実施形態に係るプリント鋼板10は、めっき鋼板1の一方の面上に、プライマー層2と、ベースコート層3と、絵柄層4と、トップコート層5とを順に形成してある。そして、絵柄層4は、直接印刷によって設けられている。また、トップコート層5には、酸化亜鉛系粒子、及び酸化ジルコニウム系粒子の少なくとも一方が添加されている。
このように、絵柄層4が直接印刷によって設けられるので、印刷したシートを接着剤によってラミネートする場合よりも厚さを薄くすることができる。したがって、有機質量を低減し、不燃性(防火性)を向上させることができる。また、トップコート層5には、酸化亜鉛系粒子、及び酸化ジルコニウム系粒子の少なくとも一方が添加されるので、消臭性を向上させることができる。具体的には、トップコート層5には、酸化亜鉛系粒子、及び酸化ジルコニウム系粒子の少なくとも一方が、トップコート層5全体の質量に対して0.1質量%以上添加されている。これにより、消臭性を確実に向上させることができる。
【0024】
なお、プライマー層2、ベースコート層3、絵柄層4、及びトップコート層5のうち、トップコート層5のみに、酸化亜鉛系粒子、及び酸化ジルコニウム系粒子の少なくとも一方を添加しているが、本発明はこれに限定されるものではない。消臭性能の観点からは、プリント鋼板10の塗装面層全体(各層全体)に添加剤(酸化亜鉛系粒子、及び酸化ジルコニウム系粒子の少なくとも一方)を添加することが有効である。そのため、プライマー層2、ベースコート層3、絵柄層4、及びトップコート層5の全てに、酸化亜鉛系粒子、及び酸化ジルコニウム系粒子の少なくとも一方を添加してもよい。これにより、消臭性をさらに向上させることができる。但し、費用対効果を考え、プライマー層2、ベースコート層3、絵柄層4、及びトップコート層5のうち、トップコート層5のみに、酸化亜鉛系粒子、及び酸化ジルコニウム系粒子の少なくとも一方を添加することが好ましい。トップコート層5のみに、酸化亜鉛系粒子、及び酸化ジルコニウム系粒子の少なくとも一方を添加することで、不燃性(防火性)及び消臭性を付与した鋼板を安価に製造することが可能となる。
【0025】
プライマー層2、ベースコート層3、絵柄層4、及びトップコート層5の全てに、酸化亜鉛系粒子、及び酸化ジルコニウム系粒子の少なくとも一方を添加する場合には、各層における酸化亜鉛系粒子、及び酸化ジルコニウム系粒子の少なくとも一方の含有量を、トップコート層5の含有量より多くしてもよい。例えば、各層に添加する酸化亜鉛系粒子、及び酸化ジルコニウム系粒子の少なくとも一方の量(質量%)は、トップコート層5に添加する酸化亜鉛系粒子、及び酸化ジルコニウム系粒子の少なくとも一方の量(質量%)の1.1倍以上3倍以下が好ましく、1.5倍以上2倍以下がより好ましい。各層に添加する酸化亜鉛系粒子、及び酸化ジルコニウム系粒子の少なくとも一方の量(質量%)が上記数値範囲内でれば、仮に、トップコート層5に亀裂等が生じたとしても、各層に添加された酸化亜鉛系粒子、及び酸化ジルコニウム系粒子の少なくとも一方によって、消臭効果を維持することができる。
【0026】
[実施例]
以下に、本発明の実施形態に係るプリント鋼板10の実施例及び参考例について説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1では、JIS G 3302に準拠した厚さ0.4mmの溶融亜鉛めっき鋼板をめっき鋼板1として用意した。続いて、めっき鋼板1の表層に化成処理を施して化成被膜7を設けた。続いて、めっき鋼板1の他方の面側に裏面コート層6を設け、さらにめっき鋼板1の一方の面側にプライマー層2を設けた。プライマーの乾燥は、200℃以上で焼付け乾燥を行なった。続いて、プライマー層2上に各種添加剤を添加したベースコートを塗布して厚さ13μm程度のベースコート層3を設けた。ベースコートの乾燥は、200℃以上で焼付け乾燥を行なった。続いて、グラビアオフセット印刷で、ベースコート層3上に厚さ数μm程度の絵柄層4を設けた。続いて、トップコート剤を塗布して、厚さ10μm程度のトップコート層5を設けた。トップコート層5の乾燥は、200℃以上で焼付け乾燥を行なった。トップコート層5には、二酸化ケイ素と酸化亜鉛との複合無機粒子である酸化亜鉛系粒子としてKD-211G(ラサ工業製)を、トップコート層5全体の質量に対して0.3質量%添加した。こうして実施例1のプリント鋼板10を作製した。
なお、裏面コート層6の組成は、質量比で、エポキシ系樹脂(約49%)、有機添加剤(約6%)及び無機添加剤(約51%)とし、その厚さは、5~6μmとした。
また、プライマー層2の組成は、質量比で、ポリエステル系樹脂(約57%)、有機添加剤(約1%)及び顔料(約42%)とし、その厚さは、1μmとした。
また、ベースコート層3の組成は、質量比で、ポリエステル系樹脂(約45%)、メラミン系樹脂(約15%)及び顔料(約40%)とした。
また、絵柄層4の組成は、質量比で、ポリエステル系樹脂(約49%)、有機添加剤(約1%)及び顔料(約50%)とした。
また、トップコート層5の酸化亜鉛系粒子以外の組成は、質量比で、ポリエステル系樹脂(約84%)、有機添加剤とした。
【0027】
(実施例2)
実施例2では、酸化亜鉛系粒子としてKD-211G(ラサ工業製)を、トップコート層5全体の質量に対して0.5質量%添加した。それ以外は、実施例1と同じ材料・手順で、実施例2のプリント鋼板10を作製した。
(実施例3)
実施例3では、酸化ジルコニウム系粒子としてKD-511G(ラサ工業製)を、トップコート層5全体の質量に対して0.3質量%添加した。それ以外は、実施例1と同じ材料・手順で、実施例3のプリント鋼板10を作製した。
(実施例4)
実施例4では、酸化ジルコニウム系粒子としてKD-511G(ラサ工業製)を、トップコート層5全体の質量に対して0.5質量%添加した。それ以外は、実施例1と同じ材料・手順で、実施例4のプリント鋼板10を作製した。
【0028】
(実施例5)
実施例5では、酸化亜鉛系粒子としてKD-211G(ラサ工業製)を、トップコート層5全体の質量に対して5質量%添加した。それ以外は、実施例1と同じ材料・手順で、実施例5のプリント鋼板10を作製した。
(実施例6)
実施例2では、酸化亜鉛系粒子としてKD-211G(ラサ工業製)を、トップコート層5全体の質量に対して10質量%添加した。それ以外は、実施例1と同じ材料・手順で、実施例6のプリント鋼板10を作製した。
【0029】
(実施例7)
実施例3では、酸化ジルコニウム系粒子としてKD-511G(ラサ工業製)を、トップコート層5全体の質量に対して5質量%添加した。それ以外は、実施例1と同じ材料・手順で、実施例7のプリント鋼板10を作製した。
(実施例8)
実施例8では、酸化ジルコニウム系粒子としてKD-511G(ラサ工業製)を、トップコート層5全体の質量に対して10質量%添加した。それ以外は、実施例1と同じ材料・手順で、実施例8のプリント鋼板10を作製した。
【0030】
(参考例1)
参考例1では、トップコート層5に対して、酸化亜鉛系粒子、及び酸化ジルコニウム系粒子のいずれも添加していない。それ以外は、実施例1と同じ材料・手順で、参考例1のプリント鋼板10を作製した。なお、表1では「ブランク」と表記した。
【0031】
(性能評価)
<消臭性試験>
実施例1~8、参考例1のプリント鋼板10に対して、SEKマーク繊維製品認証基準に基づく消臭性試験(検知管法)、具体的にはFTTS-FA-018に準拠した消臭性試験(検知管試験法)を行なった。以下、本実施例で用いた消臭性試験の方法について、簡単に説明する。
実施例1~8、参考例1の各プリント鋼板10について、試料1枚(A4サイズ)を5Lの臭気袋に入れ、所定濃度の臭気ガス3Lを封入し、0時間(封入直後)、2時間、及び24時間の各経過時間後の臭気袋内の臭気ガス濃度を検知管で測定した。また、臭気ガスの減少率(消臭率)も測定した。臭気ガスの減少率(消臭率)(%)は、下記式(1)を用いて算出した。
減少率(%)=[(空試験の測定値-各試料の測定値)/空試験の測定値]×100
・・・(1)
ここで、「空試験」とは、実施例1~8、参考例1の各プリント鋼板10を試料として臭気袋に入れずに行った試験をいう。
使用した臭気としては、汗臭、加齢臭、排泄臭の成分であるアンモニア、酢酸、及び汗臭、加齢臭の成分であるイソ吉草酸の3種類を用いた。
【0032】
(評価結果)
こうして測定した臭気ガス濃度、及び臭気ガスの減少率(消臭率)の評価結果を表1に示す。なお、本評価試験では、24時間経過後における臭気ガスの減少率(消臭率)が85%以上であれば、使用上問題がないとして合格とした。また、上述した「空試験」については、表1では、「参照例」とした。
【0033】
【0034】
表1に示すように、酸化亜鉛系粒子を添加した実施例1、2、5、6、及び酸化ジルコニウム系粒子を添加した実施例3、4、7、8の全てにおいて、24時間経過後における臭気ガスの減少率(消臭率)が85%以上であった。一方、参考例1では、24時間経過後における臭気ガスの減少率(消臭率)が85%未満であった。したがって、実施例1~8は、参考例1に対して有意な消臭性が認められた。なお、各実施例間での減少率の差は、2時間経過後で見ると、どの臭気に対してもおおよそ5%~10%程度であった。
【0035】
<繰り返し性能試験>
実施例1~8、参考例1のプリント鋼板10に対して、消臭性の繰り返し性能試験を行なった。以下、本実施例で用いた繰り返し性能試験の方法について、簡単に説明する。
最初に、上述した消臭性試験を1回行った試料(実施例1~8、参考例1のプリント鋼板10)を水洗いした後、室温で乾燥させた。
次に、5Lの臭気袋に、その試料(A4サイズ)1枚と臭気ガス(アンモニア)3Lを入れ、0時間(封入直後)、2時間、及び24時間の各経過時間後の臭気袋内の臭気ガス濃度を検知管で測定した。また、臭気ガスの減少率(消臭率)を、上述した消臭性試験の場合と同様にして測定した。
次に、24時間経過後に試料を臭気袋から取り出し、水洗い後室温で乾燥させた後、再度臭気ガス(アンモニア)を吸着させた。
本評価試験では、この操作を5回繰り返した。
【0036】
(評価結果)
こうして測定した繰り返し性能試験の評価結果を表2に示す。なお、本評価試験では、24時間経過後における臭気ガスの減少率(消臭率)が85%以上であれば、使用上問題がないとして合格とした。
【0037】
【0038】
表2に示すように、酸化亜鉛系粒子を添加したサンプル、及び酸化ジルコニウム系粒子を添加したサンプル(実施例6及び実施例8のサンプル)は、繰り返し回数が5回目であっても、24時間経過後における臭気ガスの減少率(消臭率)が85%以上であった。一方、参考例1のサンプルは、繰り返し回数が1回目であっても、24時間経過後における臭気ガスの減少率(消臭率)が85%未満であった。このことから、実施例1~8は、参考例1に対して有意な消臭性の繰り返し性能が認められた。
なお、各実施例では、2時間経過後では、2回目以降は1回目に比べるとわずかに消臭性能は低下しているが、2回目以降では消臭性能に変化は見られなかった。また、24時間経過後で見ると、徐々に消臭性能は低下してくるが、どの試料も減少率は85%以上となっていた。
【0039】
<不燃性(防火性)試験>
実施例1~8、参考例1のプリント鋼板10について、不燃性(防火性)を評価した。評価方法は、以下の通りである。
ISO5660-1に準拠し、建築基準法第二条第9号及び建築基準法施工令第108条の2に基づく防耐火試験方法と性能評価規格に従うコーンカロリーメーター試験機による発熱性試験を実施した。
【0040】
(評価結果)
実施例1~8、参考例1のプリント鋼板10では、次の条件を全て満足していることを確認した。
・加熱開始後20分の総発熱量:8MJ/m2以下であった。
・加熱開始後20分間の最大発熱速度:200kW/m2を超える時間が0秒であった。
・加熱開始後20分間の試験終了後の基材について、防火上有害な裏面まで貫通する亀裂や穴が無かった。
不燃性(防火性)の評価結果を表3に示す。なお、本評価試験では、上述した条件を全て満たしているため、不燃性(防火性)を備えるとして合格(評価は「○」)とした。
【0041】
【0042】
以上、限られた数の実施形態を参照しながら説明したが、権利範囲はそれらに限定されるものではなく、上記の開示に基づく実施形態の改変は、当業者にとって自明のことである。
【符号の説明】
【0043】
1…めっき鋼板、2…プライマー層、3…ベースコート層、4…絵柄層、5…トップコート層、6…裏面コート層、7…化成被膜、10…プリント鋼板