(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】塗膜を有する容器の検査装置及び検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/88 20060101AFI20240312BHJP
G01N 21/90 20060101ALI20240312BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
G01N21/88 K
G01N21/90 C
G01N21/64 Z
(21)【出願番号】P 2020060728
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 正志
(72)【発明者】
【氏名】栃木 隆之
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 洸治
(72)【発明者】
【氏名】末森 亮介
【審査官】清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05281819(US,A)
【文献】特開2008-058257(JP,A)
【文献】国際公開第2010/032306(WO,A1)
【文献】米国特許第04841156(US,A)
【文献】特開2007-285985(JP,A)
【文献】特開平05-340880(JP,A)
【文献】特開平03-272439(JP,A)
【文献】特開2000-193595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/958
G01B 11/00 - G01B 11/30
F21K 2/00 - F21K 99/00
F21S 2/00 - F21S 19/00
F21V 1/00 - F21V 99/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜を有する容器の検査装置であって、
検査対象の塗膜に対して紫外光を照射する光照射部と、
塗膜の蛍光を検出する蛍光検出部とを備え、
前記光照射部は、塗膜の励起波長を
含む発光スペクトル分布を有する光源を備え、
前記蛍光検出部は、前記励起波長を含む波長範囲を少なくともカットすると共に、塗膜の蛍光のピーク波長を含む設定波長範囲を選択的に透過する波長選択フィルタと、前記波長選択フィルタを透過した蛍光を検出する蛍光検出器とを備え
、
前記光照射部は、中央に開口を有するリング状の支持体を有しており、開口の周囲に複数の光源が配置されているものであり、
前記蛍光検出器は、その中心が前記開口の中心と一致するように配置されているとを特徴とする塗膜を有する容器の検査装置。
【請求項2】
前記光照射部は、塗膜の励起波長を含む設定波長範囲を透過する波長選択フィルタを備えることを特徴とする請求項1に記載された塗膜を有する容器の検査装置。
【請求項3】
前記蛍光検出部における前記波長選択フィルタは、多層膜をコートした干渉フィルタであることを特徴とする請求項1又は2記載された塗膜を有する容器の検査装置。
【請求項4】
前記容器が缶であり、
前記光照射部は、缶軸を中心にする開口の周囲から缶に向けて光を照射し、
前記蛍光検出部は、缶軸上に中心軸を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載された塗膜を有する容器の検査装置。
【請求項5】
請求項1記載の検査装置を用い塗膜を有する容器の検査方法であって、
検査対象の塗膜に対して、塗膜の励起波長
を含む光を照射し、
前記励起波長を含む波長範囲を少なくもカットすると共に、塗膜の蛍光のピーク波長を含む設定波長範囲を選択的に透過する波長選択フィルタを用い、
前記波長選択フィルタを透過した蛍光を検出することを特徴とする塗膜を有する容器の検査方法。
【請求項6】
前記波長選択フィルタとして、多層膜をコートした干渉フィルタを用いることを特徴とする請求項5に記載された塗膜を有する容器の検査方法。
【請求項7】
前記容器が缶であることを特徴とする請求項5又は6に記載された塗膜を有する容器の検査方法。
【請求項8】
前記検査対象が、缶底に塗布された塗膜であることを特徴とする請求項7に記載された塗膜を有する容器の検査方法。
【請求項9】
前記検査対象が、塗膜によって缶表面に形成されたマークであることを特徴とする請求項7に記載された塗膜を有する容器の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全面又は一部に塗膜を有する容器の塗膜状態を検査する検査装置及び検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、ICチップ等が実装された電子基板の一部に施される蛍光剤入りのコーティングに対して、コーティング部位に上方から紫外光を照射し、紫外光が照射されたコーティング部位の蛍光画像を検査カメラで取得することで、コーティングの良否を判定する検査が行われている。この際、コーティング部位の蛍光のみが検査カメラに入射されるように、紫外光照射器の前方に特定の偏光方向を有する紫外光のみを透過する第1フィルタを設け、検査カメラの前方には、紫外光照射器からの紫外光による全ての反射光を遮断し、第1フィルタを透過した特定の偏光方向を有する紫外光の反射光を遮断する第2フィルタを設けることが行われている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した従来技術のように、蛍光剤を添加した塗膜に対して紫外光を照射して蛍光画像を得る塗膜の検査方法は、一般に知られている。しかしながら、塗膜の対象が飲料缶等の容器の場合には、蛍光画像を得る検査方法を採用するには、衛生性を考慮すると、塗膜に意図的に蛍光剤を添加し難いため、蛍光剤と認知されないレベルの物質が発する微弱な蛍光を検出する技術的課題があった。
【0005】
また、前述した従来技術のように偏光を用いたフィルタを利用すると、蛍光の一部も遮断されてしまうことになり、微弱な蛍光しか生じさせることができない場合には、精度の高い検査を行うことができる蛍光画像を得ることができない問題があった。
【0006】
また、特に缶底における塗膜の検査は、塗膜が良好に形成されていないと、缶の滑りが悪くなり、搬送トラブルを起こしやすくなるので、適正な検査が必要になるが、従来は缶底を染色した上で目視検査を行うことがなされており、高効率での検査を行い難い問題があった。また、缶底を染色した検査対象の缶は、製品にできないので、検品数を増やすことには限界があった。
【0007】
本発明は、このような問題点に対処することを課題とするものである。より具体的には、意図的に蛍光剤が添加されていない塗膜、換言すると蛍光剤として認知されないレベルの物質が発する微弱な蛍光であっても、良好な塗膜の検査を可能にすること、塗膜を有する容器の検査の効率化や全品検査を可能にすること、などが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するために、本発明の一態様は、以下の構成を具備するものである。
塗膜を有する容器の検査装置であって、検査対象の塗膜に対して紫外光を照射する光照射部と、塗膜の蛍光を検出する蛍光検出部とを備え、前記光照射部は、塗膜の励起波長を含む発光スペクトル分布を有する光源を備え、前記蛍光検出部は、前記励起波長を含む波長範囲を少なくともカットすると共に、塗膜の蛍光のピーク波長を含む設定波長範囲を選択的に透過する波長選択フィルタと、前記波長選択フィルタを透過した蛍光を検出する蛍光検出器とを備え、前記光照射部は、中央に開口を有するリング状の支持体を有しており、開口の周囲に複数の光源が配置されているものであり、
前記蛍光検出器は、その中心が前記開口の中心と一致するように配置されていることを特徴とする塗膜を有する容器の検査装置。
【0009】
また、本明細書は、上記態様の別態様として、上記態様の検査装置を用い塗膜を有する容器の検査方法であって、検査対象の塗膜に対して、塗膜の励起波長に波長を含む光を照射し、前記励起波長を含む波長範囲を少なくもカットすると共に、塗膜の蛍光のピーク波長を含む設定波長範囲を選択的に透過する波長選択フィルタを用い、前記波長選択フィルタを透過した蛍光を検出することを特徴とする塗膜を有する容器の検査方法を、課題を解決するための手段として開示する。
【発明の効果】
【0010】
このような特徴を有する本発明によると、意図的に蛍光剤が添加されていない塗膜、換言すると蛍光剤として認知されないレベルの物質が発する微弱な蛍光であっても良好な塗膜の検査が可能になり、塗膜が形成された容器の検査の効率化や全品検査が可能になる。塗膜を有する容器の非破壊検査が可能になり、検査結果を容器の生産ラインにフィードバックすることができるので、容器の生産品質や生産効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】(a)が照射光のスペクトル分布を示した説明図、(b)が検出光のスペクトル分布を示した説明図。
【
図4】検査装置を用いた缶の生産ラインを示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
【0013】
図1に示すように、検査装置1は、光照射部10と蛍光検出部20を備えており、光照射部10が、検査対象物Mの塗膜に紫外光を照射し、紫外光を照射されることで塗膜から生じる蛍光を蛍光検出部20で検出して、検出結果から塗膜の良否を判定するものである。
【0014】
図示の例では、検査対象物Mとして、塗膜を有する缶を対象としており、その缶底の塗膜の良否を検査する例を示している。検査装置1としては、これに限定されるものではなく、缶のフランジ部や缶内部の塗膜や、塗膜によって缶表面に形成されたマーク(バーコードマークや2次元コードマーク、数字や英字からなるコードマークなど)の良否を同様に検査することができる。
【0015】
光照射部10は、検査対象物Mの塗膜に対して、塗膜の励起波長に波長選択された紫外光を照射する。塗膜の励起波長は、塗膜の材料によって決まるが、例えば、アルミ缶の塗膜の場合には、365nmの紫外光の照射で、蛍光剤と認識されないレベルの物質が発する微弱な蛍光を確認することができる。
【0016】
アルミ缶の缶底の塗膜を検査する場合、光照射部10の具体例は、
図2に示すように、開口10Aを有する支持体11に光源12を支持し、開口10Aの周囲に光源12を配備して、缶軸を中心にする開口10Aの周囲から缶に向けて紫外光を照射している。支持体11には、光源12に接続される回路が内蔵されており、内蔵された回路を介して光源12に通電するケーブル13が支持体11に接続されている。
【0017】
光源12は、例えば、LEDなどであり、励起波長である365nmにピーク波長を有する発光素子などが用いられる。光源12の波長帯域が広い場合には、塗膜の励起波長帯より長波長側を除くように波長選択する波長選択フィルタ14が光源12の前方に配備される。光源12が励起波長をピーク波長としており、比較的狭い波長帯域を有する場合には、波長選択フィルタ14を省略することができる。
【0018】
蛍光検出部20は、基本的には、反射光を除去して塗膜の蛍光を選択的に検出する。そのために、蛍光検出部20は、励起波長を含む波長範囲を少なくともカットすると共に、塗膜の蛍光のピーク波長を含む設定波長範囲を選択的に透過する波長選択フィルタ21を備えている。
【0019】
波長選択フィルタ21としては、多層膜をコートした干渉フィルタを用いることが好ましい。波長選択フィルタ21として、ガラスに吸収剤をドープしたカラーガラスフィルタータイプのものを用いた場合には、蛍光が吸収されてしまいS/N比が低下してしまう。波長選択フィルタ21として、多層膜によるコートタイプの干渉フィルターを用いることで、励起光のノイズ成分を効率的にカットして、蛍光検出のS/N比を高めることができる。
【0020】
また、蛍光検出部20は、波長選択フィルタ21を透過した蛍光を検出する蛍光検出器22を備えている。蛍光検出器22としては、蛍光画像を取得するためのカメラ、蛍光の強度を検出する光センサ、分光干渉方式などで塗膜の膜厚を測定するための測定器などを用いることができる。蛍光検出部20は、
図1に示した例では、光照射部10の開口10Aの中心と蛍光検出器22の中心が一致するように配置されている。
【0021】
缶底の塗膜を検査する場合には、
図1に示すように、検査対象物Mである缶の缶底を上にして、缶軸Pが光照射部10の開口10Aの中心と同軸になり、光検出器22の中心軸と一致するように、缶を検査台30上に配置する。検査装置1は、缶などの生産ラインに設けられる場合には、缶の搬送手段そのものを検査台30にすることができる。なお、図示しないが、缶のフランジ部や缶内部の塗膜を検査する場合は、缶の缶底を下にして正立させる。
【0022】
図1に示した検査装置1としては、光照射部10と蛍光検出部20とを一体にして支持する支持部40が設けられており、支持部40によって、検査台30と光照射部10との位置関係が設定されている。
【0023】
図3(a)は、光照射部10における光源12の発光スペクトル分布例を示している。検査対象物Mの塗膜の励起波長が365nmである場合には、この波長がピーク波長になる発光スペクトル分布を有する光源12が選択される。図示のように、光源12の発光スペクトル分布が広域に広がっている場合には、照射用の波長選択フィルタ14を用いて、照射光の波長分布を設定波長範囲に限定する。この際に設定される波長範囲は、励起波長を中心波長として10~20nm程度の範囲に設定することが好ましい。このように光照射部10からの照射光の波長範囲を限定することで、塗膜の励起波長帯より長波長側の光を照射光から除去することができ、検出精度を高めることができる。
【0024】
図3(b)は、検査対象物Mの缶底にコーティングされた、エポキシ・アクリル系の塗膜に関して、蛍光検出部20にて検出された光のスペクトル分布の一例を示している。検出される光は、検査対象物Mの塗膜から生じる蛍光に加えて塗膜表面で反射する光を含んでいる。この際、可視光域の光や励起波長付近の反射光は、検出精度を悪化させるノイズになる。蛍光検出部20においては、検出用の波長選択フィルタ21を備えることで、蛍光検出器22に入射する光を、蛍光のピーク波長を含む設定波長範囲に限定している。この設定波長範囲は、20~50nmの範囲に設定することが好ましい。このように蛍光検出器22に入る光の波長を限定することで、反射光による検出精度の悪化を抑止することができる。
【0025】
このような検査装置1を用いた缶底の検査方法としては、検査対象である缶底の塗膜に対して、塗膜の励起波長(365nm)に波長選択された光を照射し、励起波長を含む波長範囲を少なくもカットすると共に、塗膜の蛍光のピーク波長を含む設定波長範囲を選択的に透過する波長選択フィルタ21を用い、波長選択フィルタ21を透過した蛍光を蛍光検出器22で検出する。これによって、塗膜に意図的に蛍光剤が添加されていない場合であっても、鮮明な蛍光画像を得ることができ、精度の高い塗膜の良否判定を行うことができる。また、蛍光検出部22が、缶軸上に中心軸を有することで缶底の塗膜の膜厚や缶内部の塗膜の分布状態を把握しやすくできる。
【0026】
このような検査方法によると、缶底の塗膜の検査だけでなく、缶のフランジ部における塗膜の検査や、缶内部の塗膜の検査を同様にして高い精度で行うことができる。更には、検査対象が、塗膜によって缶表面に形成されたマーク塗膜によって缶表面に形成されたマーク(バーコードマークや2次元コードマーク、数字や英字からなるコードマークなど)であっても、マークが適正に形成されているか否かを高い精度で検査することができる。
【0027】
図4は、検査装置1を缶の生産ラインに適用した例を示している。生産ライン50で生産された検査対象物Mである缶が、搬送装置51で検査装置1の下に搬送されると、検査装置1での検出結果が、リアルタイムで判別処理部52に送信される。判別処理部52では、検出結果の良否を判別して判別結果を生産ライン50に送信し、その判別結果に応じて、生産ライン50の塗膜形成手段が調整される。これによると、生産ライン50から搬送されてくる全ての製品を対象にして非破壊の全品検査が可能になり、また、検査による判別結果をリアルタイムで生産ライン50に反映させることで、速やかに生産ライン50の調整を行うことができる。
【0028】
図4では、生産ラインの搬送装置上での検査を図示したが、検査装置1は、生産ラインからの抜き取り品のオンライン検査として、またオフライン検査として用いることもできる。
【0029】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。また、上述の各実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0030】
1:検査装置,10:光照射部,10A:開口,11:支持体,
12:光源,13:ケーブル,14:波長選択フィルタ,
20:蛍光検出部,21:波長選択フィルタ,22:蛍光検出器,
30:検査台,40:支持部,
50:生産ライン,51:搬送装置,52:判別処理部,
M:検査対象物(缶)