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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】車両用駆動伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/023 20120101AFI20240312BHJP
   F16H 57/037 20120101ALI20240312BHJP
【FI】
F16H57/023
F16H57/037
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020062300
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021162053
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】井上 亮平
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-094932(JP,A)
【文献】特開2011-174583(JP,A)
【文献】実開昭58-178547(JP,U)
【文献】特開2008-223880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/00-57/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ギヤを備え、駆動力源に駆動連結される入力部材と、
それぞれ車輪に駆動連結され、軸方向に並んで配置された一対の出力部材と、
前記第1ギヤに噛み合う第2ギヤ、及び当該第2ギヤと一体的に回転する第3ギヤを備えたカウンタギヤ機構と、
前記第3ギヤに噛み合う第4ギヤ、当該第4ギヤの回転を一対の前記出力部材に分配する差動ギヤ群、及び当該差動ギヤ群を収容し、前記第4ギヤが一体的に回転するように連結された差動ケースを備えた差動歯車機構と、
ポンプロータ、及び当該ポンプロータに駆動連結されたポンプ入力ギヤを備えた油圧ポンプと、
前記ポンプ入力ギヤに噛み合い、前記差動ケースに対して一体的に回転するように連結されたポンプ駆動ギヤと、
前記第4ギヤと同軸に配置された伝達軸と、
前記入力部材、一対の前記出力部材、前記カウンタギヤ機構、前記差動歯車機構、前記油圧ポンプ、及び前記ポンプ駆動ギヤを収容するケースと、を備え、
前記軸方向の一方側を軸方向第1側とし、当該軸方向第1側とは反対側を軸方向第2側とし、一対の前記出力部材のうちの前記軸方向第1側に配置された方を第1出力部材として、
前記伝達軸は、前記ケースに対して回転可能に支持されていると共に、前記第1出力部材に対して一体的に回転するように連結され、
前記差動ケースは、前記伝達軸に対して前記軸方向第2側に分離可能に嵌合された嵌合部を備え、
前記第1出力部材は、前記嵌合部に対して前記軸方向第2側に位置するように前記差動ケースに収容され、前記伝達軸に対して前記軸方向第2側に分離可能に係合され、
前記駆動力源及び前記油圧ポンプは、前記第4ギヤよりも前記軸方向第1側に配置され、
前記ポンプ駆動ギヤは、前記第4ギヤと同軸に、かつ、前記第4ギヤに対して前記軸方向第1側に配置され、
前記ポンプ入力ギヤは、前記第4ギヤに対して前記軸方向第1側に配置され、
前記ポンプ駆動ギヤの外周に沿って配置された複数の歯のそれぞれを駆動ギヤ歯とし、前記ポンプ入力ギヤの外周に沿って配置された複数の歯のそれぞれを入力ギヤ歯とし、前記ポンプ駆動ギヤの周方向を駆動ギヤ周方向とし、前記ポンプ入力ギヤの周方向を入力ギヤ周方向として、
複数の前記駆動ギヤ歯のそれぞれの前記軸方向第1側の端面は、前記駆動ギヤ周方向における前記駆動ギヤ歯の中心位置から前記駆動ギヤ周方向に離れるに従って、前記軸方向第2側に向かうように傾斜した第1周方向傾斜面を有し、
複数の前記入力ギヤ歯のそれぞれの前記軸方向第2側の端面は、前記入力ギヤ周方向における前記入力ギヤ歯の中心位置から前記入力ギヤ周方向に離れるに従って、前記軸方向第1側に向かうように傾斜した第2周方向傾斜面を有している、車両用駆動伝達装置。
【請求項2】
前記第3ギヤは、前記第2ギヤよりも前記軸方向第1側に配置されている、請求項1に記載の車両用駆動伝達装置。
【請求項3】
複数の前記駆動ギヤ歯のそれぞれの前記軸方向第1側の前記端面は、前記ポンプ駆動ギヤの径方向の外側に向かうに従って前記軸方向第2側に向かうように傾斜した第1径方向傾斜面を有し、
複数の前記入力ギヤ歯のそれぞれの前記軸方向第2側の前記端面は、前記ポンプ入力ギヤの径方向の外側に向かうに従って前記軸方向第1側に向かうように傾斜した第2径方向傾斜面を有している、請求項1に記載の車両用駆動伝達装置。
【請求項4】
前記ポンプ駆動ギヤは、複数の前記駆動ギヤ歯が形成された歯形成部と、当該歯形成部に対して径方向の内側に配置されて前記差動ケースに連結された連結部と、を備え、
前記連結部は、金属により構成され、前記差動ケースに嵌合されており、
前記歯形成部は、少なくとも前記第1周方向傾斜面を形成する前記駆動ギヤ歯の部分が樹脂により構成され、
前記ポンプ入力ギヤは、少なくとも前記第2周方向傾斜面を形成する前記入力ギヤ歯の部分が樹脂により構成されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の車両用駆動伝達装置。
【請求項5】
前記伝達軸は、前記ケースに支持された出力軸受により回転可能に支持され、当該出力軸受に対して前記軸方向第2側から当接する当接面を有している、請求項1から4のいずれか一項に記載の車両用駆動伝達装置。
【請求項6】
前記伝達軸は、前記出力軸受により径方向の外側から支持され、
前記伝達軸における前記出力軸受よりも前記軸方向第1側の部分は、前記伝達軸における前記径方向に沿う径方向視で前記出力軸受と重複する部分と比較して、前記径方向の寸法が同じ又は小さい、請求項5に記載の車両用駆動伝達装置。
【請求項7】
前記ポンプ駆動ギヤ及び前記ポンプ入力ギヤは、前記軸方向における前記駆動力源と前記第4ギヤとの間に配置されている、請求項1から6のいずれか一項に記載の車両用駆動伝達装置。
【請求項8】
前記ポンプ駆動ギヤは、前記第4ギヤよりも小径である、請求項1から7のいずれか一項に記載の車両用駆動伝達装置。
【請求項9】
前記油圧ポンプは、前記ポンプロータと前記ポンプ入力ギヤとを連結するポンプ入力軸と、前記ポンプロータを覆うと共に、前記ポンプ入力軸を回転可能に支持するポンプカバーと、を備え、
前記ポンプカバーは、前記ケースに固定されている、請求項1から8のいずれか一項に記載の車両用駆動伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力源と車輪との間で駆動力の伝達を行う車両用駆動伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような車両用駆動伝達装置の一例が、下記の特許文献1に開示されている。以下、「背景技術」及び「発明が解決しようとする課題」の説明では、特許文献1における符号を括弧内に引用する。
【0003】
特許文献1の車両用駆動伝達装置(2)は、第1ギヤ(210)を有し、駆動力源(1)に駆動連結される入力部材(21)と、第1ギヤ(210)に噛み合う第2ギヤ(232)、及び当該第2ギヤと一体的に回転する第3ギヤ(233)を備えたカウンタギヤ機構(23)と、第3ギヤ(233)に噛み合う第4ギヤ(225)、及び当該第4ギヤが一体的に回転するように連結された差動ケース(221)を備えた差動歯車機構(22)と、それらを収容するケース(20)と、を備えている。
【0004】
上記の車両用駆動伝達装置(2)では、図示されていないが、ケース(20)に油圧ポンプが収容されている。この油圧ポンプの入力要素であるポンプ入力ギヤは、差動歯車機構(22)の差動ケース(221)と一体的に回転するように連結されたポンプ駆動ギヤに噛み合っている。そのため、差動ケース(221)の回転に伴ってポンプ駆動ギヤを介してポンプ入力ギヤが回転することで油圧ポンプが駆動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-190042号公報(図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の車両用駆動伝達装置(2)の製造工程では、入力部材(21)、カウンタギヤ機構(23)、及び油圧ポンプのケース(20)への組み付け作業が完了した後に、差動歯車機構(22)の組み付け作業が行われる。差動歯車機構(22)の組み付け作業では、ポンプ駆動ギヤが油圧ポンプのポンプ入力ギヤに噛み合うと共に、第4ギヤ(225)がカウンタギヤ機構(23)の第3ギヤ(233)に噛み合うように、作業者が差動歯車機構(22)を車両用駆動伝達装置(2)の軸方向に沿って移動させる。
【0007】
このとき、差動歯車機構(22)の移動方向の前側にポンプ駆動ギヤが位置し、後側に第4ギヤ(225)が位置する向きで、差動歯車機構(22)を油圧ポンプの側へ向かって移動させることが一般的である。この場合、油圧ポンプの周囲はケース(20)によって囲まれていることから、作業者から見て第4ギヤ(225)よりも奥側にポンプ駆動ギヤが位置することになる。そのため、ポンプ駆動ギヤを油圧ポンプのポンプ入力ギヤに噛み合わせる際に、それらのギヤの噛み合い部分を視認することが難しい。その結果、差動歯車機構(22)の組み付け作業が煩雑になり易かった。
【0008】
そこで、ポンプ駆動ギヤが連結された差動ケースを備えた差動歯車機構の組み付け作業を容易に行うことができる車両用駆動伝達装置の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記に鑑みた、車両用駆動伝達装置の特徴構成は、
第1ギヤを備え、駆動力源に駆動連結される入力部材と、
それぞれ車輪に駆動連結され、軸方向に並んで配置された一対の出力部材と、
前記第1ギヤに噛み合う第2ギヤ、及び当該第2ギヤと一体的に回転する第3ギヤを備えたカウンタギヤ機構と、
前記第3ギヤに噛み合う第4ギヤ、当該第4ギヤの回転を一対の前記出力部材に分配する差動ギヤ群、及び当該差動ギヤ群を収容し、前記第4ギヤが一体的に回転するように連結された差動ケースを備えた差動歯車機構と、
ポンプロータ、及び当該ポンプロータに駆動連結されたポンプ入力ギヤを備えた油圧ポンプと、
前記ポンプ入力ギヤに噛み合い、前記差動ケースに対して一体的に回転するように連結されたポンプ駆動ギヤと、
前記第4ギヤと同軸に配置された伝達軸と、
前記入力部材、一対の前記出力部材、前記カウンタギヤ機構、前記差動歯車機構、前記油圧ポンプ、及び前記ポンプ駆動ギヤを収容するケースと、を備え、
前記軸方向の一方側を軸方向第1側とし、当該軸方向第1側とは反対側を軸方向第2側とし、一対の前記出力部材のうちの前記軸方向第1側に配置された方を第1出力部材として、
前記伝達軸は、前記ケースに対して回転可能に支持されていると共に、前記第1出力部材に対して一体的に回転するように連結され、
前記差動ケースは、前記伝達軸に対して前記軸方向第2側に分離可能に嵌合された嵌合部を備え、
前記第1出力部材は、前記嵌合部に対して前記軸方向第2側に位置するように前記差動ケースに収容され、前記伝達軸に対して前記軸方向第2側に分離可能に係合され、
前記ポンプ駆動ギヤは、前記第4ギヤと同軸に、かつ、前記第4ギヤに対して前記軸方向第1側に配置され、
前記ポンプ入力ギヤは、前記第4ギヤに対して前記軸方向第1側に配置され、
前記ポンプ駆動ギヤの外周に沿って配置された複数の歯のそれぞれを駆動ギヤ歯とし、前記ポンプ入力ギヤの外周に沿って配置された複数の歯のそれぞれを入力ギヤ歯とし、前記ポンプ駆動ギヤの周方向を駆動ギヤ周方向とし、前記ポンプ入力ギヤの周方向を入力ギヤ周方向として、
複数の前記駆動ギヤ歯のそれぞれの前記軸方向第1側の端面は、前記駆動ギヤ周方向における前記駆動ギヤ歯の中心位置から前記駆動ギヤ周方向に離れるに従って、前記軸方向第2側に向かうように傾斜した第1周方向傾斜面を有し、
複数の前記入力ギヤ歯のそれぞれの前記軸方向第2側の端面は、前記入力ギヤ周方向における前記入力ギヤ歯の中心位置から前記入力ギヤ周方向に離れるに従って、前記軸方向第1側に向かうように傾斜した第2周方向傾斜面を有している点にある。
【0010】
この特徴構成によれば、複数の駆動ギヤ歯のそれぞれの軸方向第1側の端面は、第1周方向傾斜面を有し、複数の入力ギヤ歯のそれぞれの軸方向第2側の端面は、第2周方向傾斜面を有している。これにより、差動歯車機構の組み付け作業において、差動歯車機構を油圧ポンプに対して軸方向第2側から接近させて、ポンプ駆動ギヤをポンプ入力ギヤに噛み合わせる場合に、第1周方向傾斜面及び第2周方向傾斜面によって、ポンプ入力ギヤに対するポンプ駆動ギヤの相対回転が案内されるため、それらのギヤの噛み合いの位相を容易に合わせることができる。したがって、ポンプ駆動ギヤをポンプ入力ギヤに噛み合わせる作業を容易に行うことができる。
また、本構成によれば、差動ケースが伝達軸に対して軸方向第2側に分離可能に嵌合された嵌合部を備えている。これにより、差動歯車機構の組み付け作業において、ケースに回転可能に支持された伝達軸に対して、軸方向第2側から差動ケースの嵌合部を嵌合させることで、差動歯車機構及びポンプ駆動ギヤの径方向の位置決めをすることができる。したがって、この点でも、ポンプ駆動ギヤをポンプ入力ギヤに噛み合わせる作業を容易に行うことができる。
以上のように、本構成によれば、ポンプ駆動ギヤが連結された差動ケースを備えた差動歯車機構の組み付け作業を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施形態に係る車両用駆動伝達装置の軸方向に沿う断面図
図2】第1の実施形態に係る車両用駆動伝達装置のスケルトン図
図3】第1の実施形態に係る車両用駆動伝達装置の製造工程における差動歯車機構の組み付け作業を示す図
図4】ポンプ駆動ギヤにおける複数の駆動ギヤ歯を示す斜視図
図5】第2の実施形態に係る車両用駆動伝達装置のスケルトン図
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.第1の実施形態
以下では、第1の実施形態に係る車両用駆動伝達装置100について、図面を参照して説明する。車両用駆動伝達装置100は、例えば、内燃機関及び回転電機を駆動力源とするハイブリッド自動車、又は回転電機を駆動力源とする電気自動車に搭載される。
【0013】
図1及び図2に示すように、車両用駆動伝達装置100は、入力ギヤ11を備えて駆動力源に駆動連結される入力部材1と、入力ギヤ11に噛み合うカウンタ入力ギヤ21、及び当該カウンタ入力ギヤ21と一体的に回転するカウンタ出力ギヤ22を備えたカウンタギヤ機構2と、カウンタ出力ギヤ22に噛み合う差動入力ギヤ31を備えた差動歯車機構3と、それぞれ車輪Wに駆動連結される一対の出力部材4と、当該一対の出力部材4の一方に対して一体的に回転するように連結された伝達軸5と、を備えている。
【0014】
ここで、本願において「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が1つ又は2つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。なお、伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置、例えば、摩擦係合装置、噛み合い式係合装置等が含まれていても良い。ただし、差動歯車機構3において、各回転要素について「駆動連結」という場合には、他の回転要素を介することなく互いに駆動連結されている状態を指すものとする。
【0015】
本実施形態では、回転電機MGが「駆動力源」に相当する。つまり、本実施形態では、入力部材1は、回転電機MGに駆動連結されている。なお、本願において「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
【0016】
回転電機MGと入力部材1とは、それらの回転軸心としての第1軸X1上に配置されている。カウンタギヤ機構2は、その回転軸心としての第2軸X2上に配置されている。差動歯車機構3と伝達軸5とは、それらの回転軸心としての第3軸X3上に配置されている。第1軸X1と第2軸X2と第3軸X3とは、互いに異なる仮想軸であり、互いに平行に配置されている。
【0017】
以下の説明では、上記の軸X1~X3に平行な方向を、車両用駆動伝達装置100の「軸方向L」とする。そして、軸方向Lにおいて、入力部材1に対して回転電機MGの側を「軸方向第1側L1」とし、その反対側を「軸方向第2側L2」とする。また、上記の軸X1~X3のそれぞれに直交する方向を、各軸を基準とした「径方向R」とする。更に、上記の軸X1~X3のそれぞれを中心とする円周に沿う方向を、各軸を基準とした「周方向C(図4参照)」とする。なお、どの軸を基準とするかを区別する必要がない場合やどの軸を基準とするかが明らかである場合には、単に「径方向R」、「周方向C」と記す場合がある。
【0018】
入力部材1、カウンタギヤ機構2、差動歯車機構3、及び一対の出力部材4は、ケース9に収容されている。本実施形態では、回転電機MGもケース9に収容されている。図1に示すように、本実施形態では、ケース9は、第1ケース部91と、第2ケース部92と、第3ケース部93と、を備えている。
【0019】
第1ケース部91は、第1周壁部911と、第2周壁部912と、第1側壁部913と、を有している。第1周壁部911及び第2周壁部912のそれぞれは、軸方向Lに沿う軸心を有する筒状に形成されている。第1側壁部913は、第1周壁部911の軸方向第2側L2の開口を閉塞すると共に、第2周壁部912の軸方向第1側L1の開口を閉塞するように形成されている。つまり、第1側壁部913から第1周壁部911が軸方向第1側L1に延出するように形成されていると共に、第1側壁部913から第2周壁部912が軸方向第2側L2に延出するように形成されている。
【0020】
第2ケース部92は、第3周壁部921と、第2側壁部922と、を有している。第3周壁部921は、軸方向Lに沿う軸心を有する筒状に形成されている。第3周壁部921は、第1周壁部911に対して軸方向第1側L1から接合可能に構成されている。本実施形態では、第3周壁部921の軸方向第2側L2の端部が、第1周壁部911の軸方向第1側L1の端部に接触した状態で、これら端部同士がボルト締結によって固定されている。第2側壁部922は、第3周壁部921の軸方向第1側L1の開口を閉塞するように形成されている。
【0021】
第3ケース部93は、第4周壁部931と、第3側壁部932と、を有している。第4周壁部931は、軸方向Lに沿う軸心を有する筒状に形成されている。第4周壁部931は、第2周壁部912に対して軸方向第2側L2から接合可能に構成されている。本実施形態では、第4周壁部931の軸方向第1側L1の端部が、第2周壁部912の軸方向第2側L2の端部に接触した状態で、これら端部同士がボルト締結によって固定されている。
【0022】
本実施形態では、ケース9の内部には、第1周壁部911、第1側壁部913、第3周壁部921、及び第2側壁部922によって囲まれた第1空間A1と、第2周壁部912、第1側壁部913、第4周壁部931、及び第3側壁部932によって囲まれた第2空間A2とが形成されている。第1空間A1には、回転電機MGが配置されている。第2空間A2には、カウンタギヤ機構2、差動歯車機構3、及び一対の出力部材4が配置されている。また、入力部材1及び伝達軸5は、第1側壁部913を軸方向Lに貫通し、第1空間A1と第2空間A2とに亘って配置されている。
【0023】
図1に示すように、回転電機MGは、ステータSTとロータRTとを備えている。ステータSTは、非回転部材(ここでは、ケース9)に固定されたステータコアSTCを有している。ロータRTは、ステータSTに対して回転可能なロータコアRTCと、当該ロータコアRTCと一体的に回転するように連結されたロータ軸RTSと、を有している。本実施形態では、回転電機MGは回転界磁型の回転電機である。そのため、ステータコアSTCには、当該ステータコアSTCから軸方向Lの両側(軸方向第1側L1及び軸方向第2側L2)にそれぞれ突出するコイルエンド部CLEが形成されるようにコイルCLが巻装されている。そして、ロータコアRTCには、永久磁石PMが設けられている。また、本実施形態では、回転電機MGはインナロータ型の回転電機である。そのため、ロータコアRTCが、ステータコアSTCよりも径方向Rの内側に配置されている。そして、ロータコアRTCの内周面に、ロータ軸RTSが連結されている。
【0024】
ロータ軸RTSは、軸方向Lに沿って延在するように形成されている。ロータ軸RTSは、第1軸X1を回転軸心として回転する。本実施形態では、ロータ軸RTSは、軸方向Lに沿う軸心を有する筒状に形成されている。また、本実施形態では、ロータ軸RTSは、第1ロータ軸受B11と、当該第1ロータ軸受B11よりも軸方向第2側L2に配置された第2ロータ軸受B12と、によって回転可能に支持されている。図示の例では、ロータ軸RTSの軸方向第1側L1の端部が、第1ロータ軸受B11を介して、ケース9の第2側壁部922に対して回転可能に支持されている。そして、ロータ軸RTSの軸方向第2側L2の端部が、第2ロータ軸受B12を介して、ケース9の第1側壁部913に対して回転可能に支持されている。
【0025】
入力部材1は、軸方向Lに沿って延在する入力軸12を備えている。本実施形態では、入力軸12は、第1入力軸受B21と、当該第1入力軸受B21よりも軸方向第2側L2に配置された第2入力軸受B22と、によって回転可能に支持されている。図示の例では、入力軸12における軸方向Lの中心部よりも軸方向第1側L1の部分が、第1入力軸受B21を介して、ケース9の第1側壁部913に対して回転可能に支持されている。そして、入力軸12の軸方向第2側L2の端部が、第2入力軸受B22を介して、ケース9の第3側壁部932に対して回転可能に支持されている。なお、本実施形態では、第1入力軸受B21及び第2入力軸受B22は玉軸受である。
【0026】
入力ギヤ11は、「第1ギヤ」に相当する。入力ギヤ11は、入力軸12と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、入力ギヤ11は、入力軸12と一体的に形成されている。また、本実施形態では、入力ギヤ11は、軸方向Lにおける第1入力軸受B21と第2入力軸受B22との間に配置されている。
【0027】
カウンタギヤ機構2は、カウンタ入力ギヤ21とカウンタ出力ギヤ22とを連結する連結軸23を備えている。連結軸23は、軸方向Lに沿って延在するように形成されている。本実施形態では、連結軸23は、第1カウンタ軸受B31と、当該第1カウンタ軸受B31よりも軸方向第2側L2に配置された第2カウンタ軸受B32と、によって回転可能に支持されている。図示の例では、連結軸23の軸方向第1側L1の端部が、第1カウンタ軸受B31を介して、ケース9の第1側壁部913に対して回転可能に支持されている。そして、連結軸23の軸方向第2側L2の端部が、第2カウンタ軸受B32を介して、ケース9の第3側壁部932に対して回転可能に支持されている。なお、本実施形態では、第1カウンタ軸受B31及び第2カウンタ軸受B32は円錐ころ軸受である。
【0028】
カウンタ入力ギヤ21は、「第2ギヤ」に相当する。カウンタ入力ギヤ21は、連結軸23に対して一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、カウンタ入力ギヤ21は、連結軸23に対して軸方向Lに相対移動可能かつ周方向Cに相対回転不能に係合されている。図示の例では、カウンタ入力ギヤ21は、スプライン係合によって連結軸23に連結されている。
【0029】
カウンタ出力ギヤ22は、「第3ギヤ」に相当する。カウンタ出力ギヤ22は、連結軸23に対して一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、カウンタ出力ギヤ22は、連結軸23と一体的に形成されている。また、カウンタ出力ギヤ22は、カウンタ入力ギヤ21よりも小径に形成されている。
【0030】
図1に示すように、差動歯車機構3は、上記の差動入力ギヤ31に加えて、差動ケース32と、差動ギヤ群34と、を備えている。
【0031】
差動入力ギヤ31は、「第4ギヤ」に相当する。差動入力ギヤ31は、差動ケース32と一体的に回転するように連結されている。図示の例では、差動入力ギヤ31は、ボルト締結によって差動ケース32に固定されている。
【0032】
差動ケース32は、差動ギヤ群34を収容している。本実施形態では、差動ケース32は、第1差動軸受B41と、当該第1差動軸受B41よりも軸方向第2側L2に配置された第2差動軸受B42と、によって回転可能に支持されている。図示の例では、差動ケース32の軸方向第1側L1の端部が、第1差動軸受B41を介して、ケース9の第1側壁部913に対して回転可能に支持されている。そして、差動ケース32の軸方向第2側L2の端部が、第2差動軸受B42を介して、ケース9の第3側壁部932に対して回転可能に支持されている。なお、本実施形態では、第1差動軸受B41及び第2差動軸受B42は円錐ころ軸受である。
【0033】
差動ギヤ群34は、差動入力ギヤ31の回転を一対の出力部材4に分配する。本実施形態では、軸方向Lにおいて、差動ギヤ群34の軸方向Lの中心が、差動入力ギヤ31に対して回転電機MGの側とは反対側(ここでは、軸方向第2側L2)に配置されている。
【0034】
本実施形態では、差動ギヤ群34は、一対のピニオンギヤ35と、第1サイドギヤ36及び第2サイドギヤ37と、を含む。ここでは、一対のピニオンギヤ35、並びに第1サイドギヤ36及び第2サイドギヤ37は、いずれも傘歯車である。
【0035】
一対のピニオンギヤ35は、第3軸X3を基準とした径方向Rに沿って互いに間隔を空けて対向するように配置されている。そして、一対のピニオンギヤ35は、差動ケース32と一体的に回転するように支持されたピニオンシャフト38に取り付けられている。一対のピニオンギヤ35のそれぞれは、ピニオンシャフト38を中心として回転(自転)可能、かつ、第3軸X3を中心として回転(公転)可能に構成されている。
【0036】
第1サイドギヤ36と第2サイドギヤ37とは、互いに軸方向Lに間隔を空けて、ピニオンシャフト38を挟んで対向するように配置されている。第1サイドギヤ36は、第2サイドギヤ37よりも軸方向第1側L1に配置されている。第1サイドギヤ36と第2サイドギヤ37とは、差動ケース32の内部空間において、それぞれ周方向Cに回転するように構成されている。第1サイドギヤ36及び第2サイドギヤ37は、一対のピニオンギヤ35に噛み合っている。
【0037】
一対の出力部材4は、軸方向Lに並んで配置されている。以下の説明では、一対の出力部材4のうち、軸方向第1側L1の出力部材4を「第1出力部材41」とし、軸方向第2側L2の出力部材4を「第2出力部材42」とする。
【0038】
第1出力部材41は、差動歯車機構3の差動ギヤ群34と、軸方向第1側L1の車輪Wに駆動連結された第1ドライブシャフトDS1との間の動力伝達経路に配置されている。本実施形態では、第1出力部材41は、第1サイドギヤ36と一体的に回転するように連結されている。図示の例では、第1出力部材41は、第1サイドギヤ36と一体的に形成されている。
【0039】
第2出力部材42は、差動歯車機構3の差動ギヤ群34と、軸方向第2側L2の車輪Wに駆動連結された第2ドライブシャフトDS2との間の動力伝達経路に配置されている。本実施形態では、第2出力部材42は、第2サイドギヤ37と一体的に回転するように連結されている。図示の例では、第2出力部材42は、第2サイドギヤ37と一体的に形成されている。
【0040】
本実施形態では、第2出力部材42は、第2サイドギヤ37に対して軸方向第2側L2に突出するように形成されている。そして、第2出力部材42は、当該第2出力部材42の軸方向第2側L2の端部がケース9の外部に露出するように、当該ケース9の第3側壁部932を軸方向Lに貫通している。更に、本実施形態では、第2出力部材42は、第2ドライブシャフトDS2と一体的に回転するように連結されている。図示の例では、第2出力部材42は、軸方向Lに沿う軸心を有する筒状に形成され、第2サイドギヤ37に対して径方向Rの内側に配置されている。そして、第2出力部材42に対して径方向Rの内側に軸方向第2側L2から第2ドライブシャフトDS2が挿入され、それらがスプライン係合によって互いに連結されている。
【0041】
伝達軸5は、差動入力ギヤ31と同軸に配置されている。伝達軸5は、ケース9に対して回転可能に支持されている。本実施形態では、伝達軸5は、ケース9に支持された出力軸受B5により回転可能に支持されている。図示の例では、伝達軸5は、当該伝達軸5の軸方向第1側L1の端部がケース9の外部に露出するように、当該ケース9の第2側壁部922を軸方向Lに貫通している。そして、伝達軸5は、ケース9の第2側壁部922に支持された出力軸受B5によって、ケース9に対して回転可能に支持されている。
【0042】
本実施形態では、伝達軸5は、出力軸受B5により径方向Rの外側から支持されている。つまり、伝達軸5は、円環状の出力軸受B5に対して径方向Rの内側に配置されている。そして、本実施形態では、伝達軸5における出力軸受B5よりも軸方向第1側L1の部分は、伝達軸5における径方向Rに沿う径方向視で出力軸受B5と重複する部分と比較して、径方向Rの寸法が同じ又は小さい。つまり、伝達軸5は、出力軸受B5に対して径方向Rの内側に軸方向第2側L2から挿入可能に構成されている。ここで、2つの要素の配置に関して、「特定方向視で重複する」とは、その視線方向に平行な仮想直線を当該仮想直線と直交する各方向に移動させた場合に、当該仮想直線が2つの要素の双方に交わる領域が存在することを指す。
【0043】
また、本実施形態では、伝達軸5は、出力軸受B5に対して軸方向第2側L2から当接する当接面5aを有している。当接面5aは、軸方向第1側L1を向くように形成されている。本例では、伝達軸5は、出力軸受B5の内径よりも大きい外径を有する突出部51を有している。そして、突出部51の軸方向第1側L1の端面に、径方向R及び周方向Cに沿って当接面5aが形成されている。
【0044】
また、本実施形態では、伝達軸5は、第1ドライブシャフトDS1と一体的に回転するように連結されている。図示の例では、伝達軸5における、軸方向第1側L1の端面から、軸方向Lの中央よりも軸方向第1側L1までの部分が、軸方向第1側L1に開口する筒状に形成されている。そして、伝達軸5に対して径方向Rの内側に軸方向第1側L1から第1ドライブシャフトDS1が挿入され、それらがスプライン係合によって互いに連結されている。
【0045】
差動歯車機構3の差動ケース32は、伝達軸5に対して軸方向第2側L2に分離可能に嵌合された嵌合部33を備えている。嵌合部33は、伝達軸5に対して軸方向Lに嵌合するように構成されている。そして、嵌合部33は、伝達軸5に嵌合している位置から当該伝達軸5に対して軸方向第2側L2に相対移動することで、伝達軸5から分離するように構成されている。本実施形態では、嵌合部33は、伝達軸5の外周面を覆う筒状に形成されている。そして、嵌合部33は、伝達軸5に対して軸方向第2側L2から挿通されて、当該伝達軸5における第1出力部材41との連結部分よりも軸方向第1側L1の部分に嵌合するように構成されている。
【0046】
第1出力部材41は、嵌合部33に対して軸方向第2側L2に位置するように差動ケース32に収容されている。第1出力部材41は、伝達軸5と一体的に回転するように連結されている。第1出力部材41は、伝達軸5に対して軸方向第2側L2に分離可能に係合されている。説明を加えると、第1出力部材41は、伝達軸5に対して軸方向Lに相対移動可能かつ周方向Cに相対回転不能に係合するように構成されている。そして、第1出力部材41は、伝達軸5に係合している位置から当該伝達軸5に対して軸方向第2側L2に相対移動することで、伝達軸5から分離するように構成されている。図示の例では、第1出力部材41は、軸方向Lに沿う軸心を有する筒状に形成され、第1サイドギヤ36に対して径方向Rの内側に配置されている。そして、第1出力部材41は、伝達軸5に対して軸方向第2側L2から挿通されて、当該伝達軸5の軸方向第2側L2の端部に対してスプライン係合によって連結されている。
【0047】
図1に示すように、車両用駆動伝達装置100は、油圧ポンプ6と、当該油圧ポンプ6を駆動するためのポンプ駆動ギヤ7と、を備えている。油圧ポンプ6及びポンプ駆動ギヤ7は、ケース9に収容されている。
【0048】
図3に示すように、油圧ポンプ6は、ポンプロータ61と、当該ポンプロータ61に駆動連結されたポンプ入力ギヤ62と、を備えている。
【0049】
本実施形態では、油圧ポンプ6は、内接歯車ポンプである。そのため、ポンプロータ61は、インナロータ611と、当該インナロータ611に対して径方向Rの外側に配置されたアウタロータ612と、を含む。インナロータ611の外周面に形成された外歯は、アウタロータ612の内周面に形成された内歯に噛み合っている。
【0050】
ポンプ入力ギヤ62は、ポンプ駆動ギヤ7に噛み合っている。ポンプ入力ギヤ62は、当該ポンプ入力ギヤ62の外周に沿って配置された複数の歯である複数の入力ギヤ歯62aを備えている。
【0051】
本実施形態では、油圧ポンプ6は、ポンプ入力軸63と、ポンプカバー64と、を更に備えている。
【0052】
ポンプ入力軸63は、ポンプロータ61とポンプ入力ギヤ62とを連結する軸部材である。ポンプ入力軸63は、軸方向Lに沿って延在するように形成されている。ポンプ入力軸63は、ポンプ入力ギヤ62と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、ポンプ入力軸63の軸方向第2側L2の端部に、ポンプ入力ギヤ62が一体的に回転するように連結されている。また、本実施形態では、ポンプ入力軸63の軸方向第1側L1の端部に、インナロータ611が一体的に回転するように連結されている。
【0053】
ポンプカバー64は、ポンプロータ61を覆うように形成されている。ポンプカバー64は、ケース9に固定されている。本実施形態では、ポンプカバー64は、第1ケース部91の第1側壁部913に対して軸方向第2側L2から固定されている。ポンプカバー64は、ポンプ入力軸63を回転可能に支持している。本実施形態では、ポンプカバー64は、当該ポンプカバー64を軸方向Lに貫通するように配置されたポンプ入力軸63を、径方向Rの外側から支持している。
【0054】
ポンプ駆動ギヤ7は、ポンプ入力ギヤ62に噛み合っている。ポンプ駆動ギヤ7は、当該ポンプ駆動ギヤ7の外周に沿って配置された複数の歯である複数の駆動ギヤ歯7aを備えている。ポンプ駆動ギヤ7は、差動入力ギヤ31と同軸に配置されている。ポンプ駆動ギヤ7は、差動ケース32に対して一体的に回転するように連結されている。
【0055】
ポンプ駆動ギヤ7及びポンプ入力ギヤ62は、差動入力ギヤ31に対して軸方向第1側L1に配置されている。本実施形態では、ポンプ駆動ギヤ7及びポンプ入力ギヤ62は、軸方向Lにおける回転電機MGと差動入力ギヤ31との間に配置されている。
【0056】
本実施形態では、ポンプ駆動ギヤ7は、差動入力ギヤ31よりも小径である。そのため、ポンプ入力ギヤ62は、軸方向Lに沿う軸方向視で、差動入力ギヤ31と重複する位置に配置されている。
【0057】
また、本実施形態では、ポンプ駆動ギヤ7は、複数の駆動ギヤ歯7aが形成された歯形成部71と、差動ケース32に連結された連結部72と、を備えている。
【0058】
歯形成部71は、円環状に形成されている。連結部72は、歯形成部71に対して径方向Rの内側に配置されている。連結部72は、歯形成部71と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、連結部72は、差動ケース32に嵌合されている。図示の例では、連結部72は、差動ケース32の嵌合部33の外周面に対して軸方向第1側L1から嵌合されている。そして、第1差動軸受B41の内輪B41aが、軸方向第1側L1から連結部72に当接されている。
【0059】
以下の説明では、ポンプ駆動ギヤ7の周方向Cを「駆動ギヤ周方向」とし、ポンプ入力ギヤ62の周方向Cを「入力ギヤ周方向」とする。
【0060】
図3及び図4に示すように、ポンプ駆動ギヤ7における各駆動ギヤ歯7aの軸方向第1側L1の端面は、第1周方向傾斜面7bを有している。第1周方向傾斜面7bは、駆動ギヤ周方向における駆動ギヤ歯7aの中心位置から駆動ギヤ周方向に離れるに従って、軸方向第2側L2に向かうように形成された傾斜面である。本実施形態では、各駆動ギヤ歯7aにおける駆動ギヤ周方向の中心位置に対して駆動ギヤ周方向の両側に、一対の第1周方向傾斜面7bが形成されている。
【0061】
本実施形態では、ポンプ駆動ギヤ7における各駆動ギヤ歯7aの軸方向第1側L1の端面は、第1径方向傾斜面7cを更に有している。第1径方向傾斜面7cは、ポンプ駆動ギヤ7の径方向Rの外側に向かうに従って軸方向第2側L2に向かうように形成された傾斜面である。本実施形態では、第1径方向傾斜面7cは、各駆動ギヤ歯7aにおける一対の第1周方向傾斜面7bの間に形成されている。
【0062】
図3に示すように、ポンプ入力ギヤ62における各入力ギヤ歯62aの軸方向第2側L2の端面は、第2周方向傾斜面62bを有している。第2周方向傾斜面62bは、入力ギヤ周方向における入力ギヤ歯62aの中心位置から入力ギヤ周方向に離れるに従って、軸方向第1側L1に向かうように形成された傾斜面である。本実施形態では、図示は省略するが、第1周方向傾斜面7bと同様に、各入力ギヤ歯62aにおける入力ギヤ周方向の中心位置に対して入力ギヤ周方向の両側に、一対の第2周方向傾斜面62bが形成されている。
【0063】
本実施形態では、ポンプ入力ギヤ62における各入力ギヤ歯62aの軸方向第2側L2の端面は、第2径方向傾斜面62cを更に有している。第2径方向傾斜面62cは、ポンプ入力ギヤ62の径方向Rの外側に向かうに従って軸方向第1側L1に向かうように形成された傾斜面である。本実施形態では、第2径方向傾斜面62cは、各入力ギヤ歯62aにおける一対の第2周方向傾斜面62bの間に形成されている。
【0064】
本実施形態では、ポンプ駆動ギヤ7は、少なくとも第1周方向傾斜面7bを形成する駆動ギヤ歯7aの部分が樹脂により構成されている。本例では、ポンプ駆動ギヤ7の歯形成部71が樹脂により構成されている。具体的には、全ての駆動ギヤ歯7aを含む歯形成部71の全体が樹脂により構成されている。また、本例では、連結部72が金属により構成されている。
【0065】
また、本実施形態では、ポンプ入力ギヤ62は、少なくとも第2周方向傾斜面62bを形成する入力ギヤ歯62aの部分が樹脂により構成されている。本例では、ポンプ入力ギヤ62は、全体が樹脂により構成されている。具体的には、全ての入力ギヤ歯62aを含むポンプ入力ギヤ62の全体が樹脂により構成されている。なお、ポンプ駆動ギヤ7及びポンプ入力ギヤ62に用いられる樹脂としては、例えば、PA66等のポリアミドや、ポリオキシメチレン(POM)等を採用可能である。また、連結部72に用いられる金属としては、例えば、S35C等の機械構造用炭素鋼や、クロムモリブデン鋼等の機械構造用合金鋼等を採用可能である。
【0066】
以下では、図3を参照して、本実施形態に係る車両用駆動伝達装置100の製造工程において行われる、差動歯車機構3の組み付け作業について説明する。
【0067】
図3に示すように、差動歯車機構3の組み付け作業は、ポンプ駆動ギヤ7が差動ケース32と一体的に回転するように連結された差動歯車機構3をケース9に組み付ける作業である。ここでは、第1差動軸受B41における複数の転動体B41cを保持した状態の内輪B41aと、第2差動軸受B42における複数の転動体B42cを保持した状態の内輪B42aとのそれぞれを、差動歯車機構3の組み付け作業を行う前に、差動ケース32の規定箇所に嵌合しておく。また、第1差動軸受B41の外輪B41bを、第1ケース部91の第1側壁部913の規定箇所に嵌合し、第2差動軸受B42の外輪(図示を省略)を、第3ケース部93の第3側壁部932の規定箇所に嵌合しておく。
【0068】
差動歯車機構3の組み付け作業は、伝達軸5及び油圧ポンプ6がケース9に組み付けられている状態で行われる。伝達軸5の組み付け作業においては、出力軸受B5に対して当接面5aが軸方向第2側L2から当接するように、伝達軸5が出力軸受B5に対して径方向Rの内側に軸方向第2側L2から挿入される。また、油圧ポンプ6の組み付け作業においては、ポンプロータ61とポンプ入力ギヤ62とポンプ入力軸63とがポンプカバー64に連結された状態で、当該ポンプカバー64が第1ケース部91の第1側壁部913に対して軸方向第2側L2からボルト締結によって固定される。なお、図示は省略するが、差動歯車機構3の組み付け作業を行う前に、回転電機MG、入力部材1、及びカウンタギヤ機構2もケース9に組み付けられる。
【0069】
差動歯車機構3の組み付け作業は、第1ケース部91に第2ケース部92が接合され、かつ、第1ケース部91に第3ケース部93が接合されていない状態で行われる。差動歯車機構3の組み付け作業においては、まず、差動歯車機構3を、出力軸受B5に支持された伝達軸5よりも軸方向第2側L2の位置から、第1ケース部91の軸方向第2側L2の開口を通して軸方向第1側L1へ移動させ、差動ケース32の嵌合部33を伝達軸5に対して軸方向第2側L2から嵌合させる。このとき、嵌合部33の伝達軸5に対する径方向Rの相対移動が規制されるため、差動歯車機構3及びポンプ駆動ギヤ7の径方向Rの位置決めをすることができる。なお、嵌合部33は、差動歯車機構3の組み付け作業において、ポンプ駆動ギヤ7とポンプ入力ギヤ62とが噛み合っていない状態で伝達軸5に嵌合するように配置されている。
【0070】
次に、嵌合部33が伝達軸5に嵌合された状態で、差動歯車機構3を更に軸方向第1側L1に移動させる。そして、ポンプ駆動ギヤ7が油圧ポンプ6のポンプ入力ギヤ62に噛み合うように、差動歯車機構3を軸方向第1側L1に移動させつつ、差動歯車機構3を周方向Cに回転させる。このとき、ポンプ駆動ギヤ7の第1周方向傾斜面7bと、ポンプ入力ギヤ62の第2周方向傾斜面62bとによって、ポンプ入力ギヤ62に対するポンプ駆動ギヤ7の相対回転が案内されるため、それらのギヤの噛み合いの位相を容易に合わせることができる。また、ポンプ駆動ギヤ7の第1径方向傾斜面7cと、ポンプ入力ギヤ62の第2径方向傾斜面62cとによって、ポンプ入力ギヤ62に対するポンプ駆動ギヤ7の径方向Rの相対移動が案内されるため、ポンプ入力ギヤ62に対するポンプ駆動ギヤ7の径方向Rの相対位置がずれている場合であっても、これらのギヤの噛み合い位置を容易に合わせることができる。
【0071】
差動歯車機構3の組み付け作業においては、ポンプ駆動ギヤ7をポンプ入力ギヤ62に噛み合わせることに加えて、差動入力ギヤ31をカウンタギヤ機構2のカウンタ出力ギヤ22に噛み合わせる。また、第1ケース部91の第1側壁部913に嵌合された第1差動軸受B41の外輪B41bに対して、差動ケース32に嵌合された第1差動軸受B41の内輪B41aを組み付けて、第1差動軸受B41を介して差動ケース32が第1ケース部91の第1側壁部913に回転可能に支持される状態とする。差動歯車機構3の組み付け作業の後は、第1ケース部91に第3ケース部93を接合させる作業を行う。
【0072】
2.第2の実施形態
以下では、第2の実施形態に係る車両用駆動伝達装置100について、図5を参照して説明する。本実施形態では、カウンタギヤ機構2と差動歯車機構3との向きが、上記第1の実施形態のものとは異なっている。以下では、上記第1の実施形態との相違点を中心として説明する。なお、特に説明しない点については、上記第1の実施形態と同様とする。
【0073】
図5に示すように、本実施形態では、カウンタギヤ機構2において、カウンタ出力ギヤ22が、カウンタ入力ギヤ21に対して回転電機MGの側とは軸方向Lの反対側に配置されている。
【0074】
また、本実施形態では、差動歯車機構3において、差動ギヤ群34の軸方向Lの中心が、差動入力ギヤ31に対して軸方向Lにおける回転電機MGの側(ここでは、軸方向第1側L1)に配置されている。ただし、差動ケース32と一体的に回転するように連結されたポンプ駆動ギヤ7については、上記第1の実施形態と同様に、差動入力ギヤ31に対して軸方向第1側L1に配置されている。
【0075】
本実施形態に係る車両用駆動伝達装置100の製造工程においても、上記第1の実施形態と同様に差動歯車機構3の組み付け作業(図4参照)が行われる。
【0076】
3.その他の実施形態
(1)上記の実施形態では、各駆動ギヤ歯7aにおける駆動ギヤ周方向の中心位置に対して駆動ギヤ周方向の両側に、一対の第1周方向傾斜面7bが形成され、各入力ギヤ歯62aにおける入力ギヤ周方向の中心位置に対して入力ギヤ周方向の両側に、一対の第2周方向傾斜面62bが形成された構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、各駆動ギヤ歯7aにおける駆動ギヤ周方向の中心位置に対して駆動ギヤ周方向の一方側にのみ、第1周方向傾斜面7bが形成されていても良い。また、各入力ギヤ歯62aにおける入力ギヤ周方向の中心位置に対して入力ギヤ周方向の一方側にのみ、第2周方向傾斜面62bが形成されていても良い。
【0077】
(2)上記の実施形態では、ポンプ駆動ギヤ7に第1径方向傾斜面7cが形成され、ポンプ入力ギヤ62に第2径方向傾斜面62cが形成された構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、ポンプ駆動ギヤ7に第1径方向傾斜面7cが形成されていない構成としても良い。また、その構成に加えて、又はその構成に代えて、ポンプ入力ギヤ62に第2径方向傾斜面62cが形成されていない構成としても良い。
【0078】
(3)上記の実施形態では、ポンプ入力ギヤ62の全体が樹脂により構成され、ポンプ駆動ギヤ7の歯形成部71の全体が樹脂により構成された形態を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、ポンプ入力ギヤ62のうち、各入力ギヤ歯62aにおける第2周方向傾斜面62bを形成する部分のみが樹脂により構成されていても良い。また、ポンプ駆動ギヤ7のうち、各駆動ギヤ歯7aにおける第1周方向傾斜面7bを形成する部分のみが樹脂により構成されていても良い。或いは、ポンプ駆動ギヤ7の全体が樹脂により構成されていても良い。
【0079】
(4)上記の実施形態では、伝達軸5における出力軸受B5よりも軸方向第1側L1の部分が、伝達軸5における径方向Rに沿う径方向視で出力軸受B5と重複する部分と比較して、径方向Rの寸法が同じ又は小さい構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、伝達軸5における出力軸受B5よりも軸方向第1側L1の部分が、伝達軸5における径方向視で出力軸受B5と重複する部分よりも径方向Rの寸法大きい構成としても良い。この構成では、伝達軸5に当接面5aが形成されておらず、伝達軸5が出力軸受B5に対して径方向Rの内側に軸方向第1側L1から挿入されると好適である。
【0080】
(5)上記の実施形態では、ポンプ駆動ギヤ7及びポンプ入力ギヤ62が、軸方向Lにおける回転電機MGと差動入力ギヤ31との間に配置されている構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、回転電機MGが、差動入力ギヤ31に対して、ポンプ駆動ギヤ7及びポンプ入力ギヤ62の側とは軸方向Lの反対側(軸方向第2側L2)に配置されていても良い。
【0081】
(6)上記の実施形態では、ポンプ駆動ギヤ7が差動入力ギヤ31よりも小径である構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、ポンプ駆動ギヤ7が差動入力ギヤ31と比較して、径方向Rの寸法が同じ又は大きい構成としても良い。
【0082】
(7)なお、上述した各実施形態で開示された構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示された構成と組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。したがって、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
【0083】
4.上記実施形態の概要
以下では、上記において説明した車両用駆動伝達装置(100)の概要について説明する。
【0084】
車両用駆動伝達装置(100)は、
第1ギヤ(11)を備え、駆動力源(MG)に駆動連結される入力部材(1)と、
それぞれ車輪(W)に駆動連結され、軸方向(L)に並んで配置された一対の出力部材(4)と、
前記第1ギヤ(11)に噛み合う第2ギヤ(21)、及び当該第2ギヤ(21)と一体的に回転する第3ギヤ(22)を備えたカウンタギヤ機構(2)と、
前記第3ギヤ(22)に噛み合う第4ギヤ(31)、当該第4ギヤ(31)の回転を一対の前記出力部材(4)に分配する差動ギヤ群(34)、及び当該差動ギヤ群(34)を収容し、前記第4ギヤ(31)が一体的に回転するように連結された差動ケース(32)を備えた差動歯車機構(3)と、
ポンプロータ(61)、及び当該ポンプロータ(61)に駆動連結されたポンプ入力ギヤ(62)を備えた油圧ポンプ(6)と、
前記ポンプ入力ギヤ(62)に噛み合い、前記差動ケース(32)に対して一体的に回転するように連結されたポンプ駆動ギヤ(7)と、
前記第4ギヤ(31)と同軸に配置された伝達軸(5)と、
前記入力部材(1)、一対の前記出力部材(4)、前記カウンタギヤ機構(2)、前記差動歯車機構(3)、前記油圧ポンプ(6)、及び前記ポンプ駆動ギヤ(7)を収容するケース(9)と、を備え、
前記軸方向(L)の一方側を軸方向第1側(L1)とし、当該軸方向第1側(L1)とは反対側を軸方向第2側(L2)とし、一対の前記出力部材(4)のうちの前記軸方向第1側(L1)に配置された方を第1出力部材(41)として、
前記伝達軸(5)は、前記ケース(9)に対して回転可能に支持されていると共に、前記第1出力部材(41)に対して一体的に回転するように連結され、
前記差動ケース(32)は、前記伝達軸(5)に対して前記軸方向第2側(L2)に分離可能に嵌合された嵌合部(33)を備え、
前記第1出力部材(41)は、前記嵌合部(33)に対して前記軸方向第2側(L2)に位置するように前記差動ケース(32)に収容され、前記伝達軸(5)に対して前記軸方向第2側(L2)に分離可能に係合され、
前記ポンプ駆動ギヤ(7)は、前記第4ギヤ(31)と同軸に、かつ、前記第4ギヤ(31)に対して前記軸方向第1側(L1)に配置され、
前記ポンプ入力ギヤ(62)は、前記第4ギヤ(31)に対して前記軸方向第1側(L1)に配置され、
前記ポンプ駆動ギヤ(7)の外周に沿って配置された複数の歯のそれぞれを駆動ギヤ歯(7a)とし、前記ポンプ入力ギヤ(62)の外周に沿って配置された複数の歯のそれぞれを入力ギヤ歯(62a)とし、前記ポンプ駆動ギヤ(7)の周方向(C)を駆動ギヤ周方向とし、前記ポンプ入力ギヤ(62)の周方向(C)を入力ギヤ周方向として、
複数の前記駆動ギヤ歯(7a)のそれぞれの前記軸方向第1側(L1)の端面は、前記駆動ギヤ周方向における前記駆動ギヤ歯(7a)の中心位置から前記駆動ギヤ周方向に離れるに従って、前記軸方向第2側(L2)に向かうように傾斜した第1周方向傾斜面(7b)を有し、
複数の前記入力ギヤ歯(62a)のそれぞれの前記軸方向第2側(L2)の端面は、前記入力ギヤ周方向における前記入力ギヤ歯(62a)の中心位置から前記入力ギヤ周方向に離れるに従って、前記軸方向第1側(L1)に向かうように傾斜した第2周方向傾斜面(62b)を有している。
【0085】
この構成によれば、複数の駆動ギヤ歯(7a)のそれぞれの軸方向第1側(L1)の端面は、第1周方向傾斜面(7b)を有し、複数の入力ギヤ歯(62a)のそれぞれの軸方向第2側(L2)の端面は、第2周方向傾斜面(62b)を有している。これにより、差動歯車機構(3)の組み付け作業において、差動歯車機構(3)を油圧ポンプ(6)に対して軸方向第2側(L2)から接近させて、ポンプ駆動ギヤ(7)をポンプ入力ギヤ(62)に噛み合わせる場合に、第1周方向傾斜面(7b)及び第2周方向傾斜面(62b)によって、ポンプ入力ギヤ(62)に対するポンプ駆動ギヤ(7)の相対回転が案内されるため、それらのギヤの噛み合いの位相を容易に合わせることができる。したがって、ポンプ駆動ギヤ(7)をポンプ入力ギヤ(62)に噛み合わせる作業を容易に行うことができる。
また、本構成によれば、差動ケース(32)が伝達軸(5)に対して軸方向第2側(L2)に分離可能に嵌合された嵌合部(33)を備えている。これにより、差動歯車機構(3)の組み付け作業において、ケース(9)に回転可能に支持された伝達軸(5)に対して、軸方向第2側(L2)から差動ケース(32)の嵌合部(33)を嵌合させることで、差動歯車機構(3)及びポンプ駆動ギヤ(7)の径方向(R)の位置決めをすることができる。したがって、この点でも、ポンプ駆動ギヤ(7)をポンプ入力ギヤ(62)に噛み合わせる作業を容易に行うことができる。
以上のように、本構成によれば、ポンプ駆動ギヤ(7)が連結された差動ケース(32)を備えた差動歯車機構(3)の組み付け作業を容易に行うことができる。
【0086】
ここで、複数の前記駆動ギヤ歯(7a)のそれぞれの前記軸方向第1側(L1)の前記端面は、前記ポンプ駆動ギヤ(7)の径方向(R)の外側に向かうに従って前記軸方向第2側(L2)に向かうように傾斜した第1径方向傾斜面(7c)を有し、
複数の前記入力ギヤ歯(62a)のそれぞれの前記軸方向第2側(L2)の前記端面は、前記ポンプ入力ギヤ(62)の径方向(R)の外側に向かうに従って前記軸方向第1側(L1)に向かうように傾斜した第2径方向傾斜面(62c)を有していると好適である。
【0087】
この構成によれば、差動歯車機構(3)の組み付け作業において、差動歯車機構(3)を油圧ポンプ(6)に対して軸方向第2側(L2)から接近させて、ポンプ駆動ギヤ(7)をポンプ入力ギヤ(62)に噛み合わせる場合に、第1径方向傾斜面(7c)及び第2径方向傾斜面(62c)によって、ポンプ入力ギヤ(62)に対するポンプ駆動ギヤ(7)の径方向(R)の相対移動が案内されるため、これらのギヤの噛み合い位置を容易に合わせることができる。したがって、ポンプ駆動ギヤ(7)をポンプ入力ギヤ(62)に噛み合わせる作業を更に容易に行うことができる。その結果、ポンプ駆動ギヤ(7)が連結された差動ケース(32)を備えた差動歯車機構(3)の組み付け作業を更に容易に行うことができる。
【0088】
また、前記ポンプ駆動ギヤ(7)は、少なくとも前記第1周方向傾斜面(7b)を形成する前記駆動ギヤ歯(7a)の部分が樹脂により構成され、
前記ポンプ入力ギヤ(62)は、少なくとも前記第2周方向傾斜面(62b)を形成する前記入力ギヤ歯(62a)の部分が樹脂により構成されていると好適である。
【0089】
この構成によれば、例えばポンプ駆動ギヤ(7)における第1周方向傾斜面(7b)を形成する部分とポンプ入力ギヤ(62)における第2周方向傾斜面(62b)を形成する部分とが金属により構成されている場合に比べて、これらの傾斜面を形成するための加工を容易に行うことができる。したがって、ポンプ駆動ギヤ(7)及びポンプ入力ギヤ(62)の製造コストを低く抑えることができる。
また、本構成によれば、例えばポンプ駆動ギヤ(7)における第1周方向傾斜面(7b)を形成する部分とポンプ入力ギヤ(62)における第2周方向傾斜面(62b)を形成する部分とが金属により構成されている場合に比べて、ポンプ駆動ギヤ(7)及びポンプ入力ギヤ(62)の重量を小さく抑えることが容易となる。
【0090】
上記構成において、
前記ポンプ入力ギヤ(62)は、全体が樹脂により構成され、
前記ポンプ駆動ギヤ(7)は、複数の前記駆動ギヤ歯(7a)が形成された歯形成部(71)と、当該歯形成部(71)に対して径方向(R)の内側に配置されて前記差動ケース(32)に連結された連結部(72)と、を備え、
前記歯形成部(71)は、樹脂により構成され、
前記連結部(72)は、金属により構成され、前記差動ケース(32)に嵌合されていると好適である。
【0091】
この構成によれば、全ての入力ギヤ歯(62a)を含むポンプ入力ギヤ(62)の全体が樹脂により構成されているため、ポンプ入力ギヤ(62)の製造コスト及び重量を更に小さく抑えることが容易となる。
また、本構成によれば、全ての駆動ギヤ歯(7a)を含む歯形成部(71)が樹脂により構成されているため、ポンプ駆動ギヤ(7)の製造コスト及び重量を更に小さく抑えることが容易となる。また、連結部(72)が金属により構成されているため、連結部(72)を差動ケース(32)に強固に嵌合させることが容易となる。
なお、ポンプ駆動ギヤ(7)とポンプ入力ギヤ(62)との間で伝達されるトルクは、油圧ポンプ(6)を駆動するためのトルクであるため、比較的小さいことが一般的である。したがって、本構成のように、全ての駆動ギヤ歯(7a)と全ての入力ギヤ歯(62a)とが樹脂により構成されていても、ポンプ駆動ギヤ(7)及びポンプ入力ギヤ(62)の耐久性に問題はない。
【0092】
また、前記伝達軸(5)は、前記ケース(9)に支持された出力軸受(B5)により回転可能に支持され、当該出力軸受(B5)に対して前記軸方向第2側(L2)から当接する当接面(5a)を有していると好適である。
【0093】
この構成によれば、差動歯車機構(3)の組み付け作業において、伝達軸(5)に対して軸方向第2側(L2)から差動ケース(32)の嵌合部(33)を嵌合させた場合に、伝達軸(5)がケース(9)に対して軸方向第1側(L1)に相対移動することを規制できる。
また、本構成によれば、伝達軸(5)がケース(9)に支持された出力軸受(B5)により回転可能に支持されているため、伝達軸(5)の支持精度を高めることができる。これにより、伝達軸(5)に対して軸方向第2側(L2)から差動ケース(32)の嵌合部(33)を嵌合させた場合における、差動歯車機構(3)及びポンプ駆動ギヤ(7)の径方向(R)の位置決めの精度を高めることができる。
以上のように、本構成によれば、ポンプ駆動ギヤ(7)をポンプ入力ギヤ(62)に噛み合わせる作業を更に容易に行うことができる。
【0094】
前記伝達軸(5)が前記出力軸受(B5)により回転可能に支持された構成において、
前記伝達軸(5)は、前記出力軸受(B5)により径方向(R)の外側から支持され、
前記伝達軸(5)における前記出力軸受(B5)よりも前記軸方向第1側(L1)の部分は、前記伝達軸(5)における前記径方向(R)に沿う径方向視で前記出力軸受(B5)と重複する部分と比較して、前記径方向(R)の寸法が同じ又は小さいと好適である。
【0095】
この構成によれば、伝達軸(5)を出力軸受(B5)に対して軸方向第2側(L2)から挿入することで、伝達軸(5)を適切に組み付けることができる。したがって、伝達軸(5)の組み付け方向と差動歯車機構(3)の組み付け方向とを同一にすることができるため、差動歯車機構(3)の組み付け作業を効率良く行うことができる。
【0096】
また、前記ポンプ駆動ギヤ(7)及び前記ポンプ入力ギヤ(62)は、前記軸方向(L)における前記駆動力源(MG)と前記第4ギヤ(31)との間に配置されていると好適である。
【0097】
このような配置では、ポンプ駆動ギヤ(7)及びポンプ入力ギヤ(62)が駆動力源(MG)と第4ギヤ(31)との軸方向(L)の間に挟まれることになるため、差動歯車機構(3)の組み付け作業において、ポンプ駆動ギヤ(7)とポンプ入力ギヤ(62)との噛み合い部分が、作業者から視認し難い場所に位置することになる可能性が高い。しかし、上記の通り、本開示に係る構成によれば、ポンプ駆動ギヤ(7)をポンプ入力ギヤ(62)に噛み合わせる作業を容易に行うことができるため、特に適している。
【0098】
また、上記の構成は、前記ポンプ駆動ギヤ(7)が前記第4ギヤ(31)よりも小径である場合に好適である。このような構成では、差動歯車機構(3)の移動方向の前側にポンプ駆動ギヤ(7)が位置し、後側に第4ギヤ(31)が位置するように、差動歯車機構(3)の組み付け作業を行う場合に、作業者から見て大径の第4ギヤ(31)よりも奥側に小径のポンプ駆動ギヤ(7)が位置することになり、ポンプ駆動ギヤ(7)を油圧ポンプ(6)のポンプ入力ギヤ(62)に噛み合わせる際に、それらのギヤの噛み合い部分を視認することが難しいためである。
【0099】
また、前記油圧ポンプ(6)は、前記ポンプロータ(61)と前記ポンプ入力ギヤ(62)とを連結するポンプ入力軸(63)と、前記ポンプロータ(61)を覆うと共に、前記ポンプ入力軸(63)を回転可能に支持するポンプカバー(64)と、を備え、
前記ポンプカバー(64)は、前記ケース(9)に固定されていると好適である。
【0100】
この構成によれば、ポンプ入力ギヤ(62)の支持精度を高めることができる。これにより、ポンプ入力ギヤ(62)の径方向(R)の位置の誤差を小さく抑えることができる。したがって、ポンプ駆動ギヤ(7)をポンプ入力ギヤ(62)に噛み合わせる作業を更に容易に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本開示に係る技術は、駆動力源と車輪との間で駆動力の伝達を行う車両用駆動伝達装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0102】
100 :車両用駆動伝達装置
1 :入力部材
11 :入力ギヤ(第1ギヤ)
2 :カウンタギヤ機構
21 :カウンタ入力ギヤ(第2ギヤ)
22 :カウンタ出力ギヤ(第3ギヤ)
3 :差動歯車機構
31 :差動入力ギヤ(第4ギヤ)
32 :差動ケース
33 :嵌合部
34 :差動ギヤ群
4 :出力部材
41 :第1出力部材
42 :第2出力部材
5 :伝達軸
6 :油圧ポンプ
61 :ポンプロータ
62 :ポンプ入力ギヤ
62a :入力ギヤ歯
62b :第2周方向傾斜面
7 :ポンプ駆動ギヤ
7a :駆動ギヤ歯
7b :第1周方向傾斜面
9 :ケース
MG :回転電機(駆動力源)
W :車輪
C :周方向
L :軸方向
L1 :軸方向第1側
L2 :軸方向第2側
図1
図2
図3
図4
図5