(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】円すいころ軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 19/36 20060101AFI20240312BHJP
F16C 33/46 20060101ALI20240312BHJP
F16C 43/08 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
F16C19/36
F16C33/46
F16C43/08
(21)【出願番号】P 2020063369
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友佳
(72)【発明者】
【氏名】小島 一郎
(72)【発明者】
【氏名】合田 友之
(72)【発明者】
【氏名】内藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】耕田 寛一
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-013134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/36
F16C 33/46-33/56
F16C 43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周側に、内輪軌道、当該内輪軌道の軸方向一方側に設けられている小鍔部、及び、当該内輪軌道の軸方向他方側に設けられている大鍔部を有する内輪と、
内周側に外輪軌道を有する外輪と、
前記内輪軌道及び前記外輪軌道に転がり接触する複数の円すいころと、
前記円すいころを収容するポケットを複数有する環状の保持器と、を備え、
複数の前記ポケットそれぞれは、収容する前記円すいころの径方向成分を有する変位を許容すると共に、当該円すいころの外周面の一部に接触することで当該円すいころの径方向外方への脱落を阻止する抜け止め部を有し、
複数の前記ポケットには、前記変位の許容量を第一変位量とする第一の前記抜け止め部を有する第一ポケットと、前記変位の許容量を前記第一変位量よりも小さい第二変位量とする第二の前記抜け止め部を有する第二ポケットと、が含まれ、
前記第二ポケットの数は、前記第一ポケットの数よりも少ない
、円すいころ軸受。
【請求項2】
外周側に、内輪軌道、当該内輪軌道の軸方向一方側に設けられている小鍔部、及び、当該内輪軌道の軸方向他方側に設けられている大鍔部を有する内輪と、
内周側に外輪軌道を有する外輪と、
前記内輪軌道及び前記外輪軌道に転がり接触する複数の円すいころと、
前記円すいころを収容するポケットを複数有する環状の保持器と、を備え、
複数の前記ポケットそれぞれは、収容する前記円すいころの径方向成分を有する変位を許容すると共に、当該円すいころの外周面の一部に接触することで当該円すいころの径方向外方への脱落を阻止する抜け止め部を有し、
複数の前記ポケットには、前記変位の許容量を第一変位量とする第一の前記抜け止め部を有する第一ポケットと、前記変位の許容量を前記第一変位量よりも小さい第二変位量とする第二の前記抜け止め部を有する第二ポケットと、が含まれ、
複数の前記第二ポケットは、前記第一ポケットを間に挟んで周方向に離れて配置されている
、円すいころ軸受。
【請求項3】
外周側に、内輪軌道、当該内輪軌道の軸方向一方側に設けられている小鍔部、及び、当該内輪軌道の軸方向他方側に設けられている大鍔部を有する内輪と、
内周側に外輪軌道を有する外輪と、
前記内輪軌道及び前記外輪軌道に転がり接触する複数の円すいころと、
前記円すいころを収容するポケットを複数有する環状の保持器と、を備え、
複数の前記ポケットそれぞれは、収容する前記円すいころの径方向成分を有する変位を許容すると共に、当該円すいころの外周面の一部に接触することで当該円すいころの径方向外方への脱落を阻止する抜け止め部を有し、
複数の前記ポケットには、前記変位の許容量を第一変位量とする第一の前記抜け止め部を有する第一ポケットと、前記変位の許容量を前記第一変位量よりも小さい第二変位量とする第二の前記抜け止め部を有する第二ポケットと、が含まれ、
第二の前記抜け止め部は、
第一の前記抜け止め部よりも、軸方向他方側に設けられている
、円すいころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、円すいころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に円すいころ軸受が開示されている。円すいころ軸受は、内輪と、外輪と、複数の円すいころと、環状の保持器とを備える。保持器は、円すいころを収容するポケットを複数有し、複数の円すいころを周方向に間隔をあけて保持する。円すいころ軸受の組み立ての際、ポケットに収容された円すいころが径方向外方へ脱落するのを阻止するために、各ポケットは、円すいころに径方向外方から接触可能となる抜け止め部を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
円すいころ軸受の組み立ては、次のようにして行われる。
図12Aに示すように、保持器101の各ポケット102に円すいころ109を収容し、複数の円すいころ109と保持器101とのセット100を得る。そのセット100を内輪108に軸方向から接近させ、セット100と内輪108とを組む。セット100において、複数の円すいころ109の小径側部分109aの内接円の直径Diは、内輪108が有する小鍔部107の外径Dcよりも小さい。このため、セット100と内輪108とを組む途中(
図12B参照)、円すいころ109の小径側部分109aは、小鍔部107を乗り越える必要があるため、径方向外方に変位する。しかし、ポケット102が有する抜け止め部103によりその変位が制限され、セット100と内輪108とを組む作業は容易ではない。
【0005】
そこで、セット100の保持器101に対して、軸方向に内輪108をプレス等を用いて大きな力で押し付け、小鍔部107に対して円すいころ109の小径側部分109aを強制的に乗り越えさせる。この際、円すいころ109が抜け止め部103を押し、保持器101が拡径方向に弾性変形する。
以上の組み立て方法により、内輪108、保持器101、及び円すいころ109が一体となった内輪ユニットが得られる。その内輪ユニットに、外輪を組み付けることで、円すいころ軸受が完成する。
【0006】
円すいころ109の小径側部分109aが小鍔部107を乗り越える際、保持器101に無理な力が作用する。このため、保持器101の変形が許容範囲を超えると、保持器101が白化又は塑性変形したり、保持器101に割れが発生したりする場合もある。
【0007】
そこで、抜け止め部103を小さくしたり突出高さを低くしたりすることが考えられる。これにより、円すいころ109の変位の許容量が増え、セット100と内輪108とを組む作業は容易になる。しかし、この場合、セット100と内輪108とを組んで得た内輪ユニットの状態で、円すいころ109が大きく変位することが可能になると同時に、保持器101も大きく変位することが可能になる。その結果、内輪ユニットの円すいころ109が、小鍔部107を乗り越えてポケット102から脱落し、内輪108、円すいころ109、保持器101がばらけてしまう可能性が高くなる。
【0008】
以上のように、抜け止め部103を小さくする等して、セット100と内輪108とを組む作業が容易となるようにすると、内輪108、円すいころ109及び保持器101からなる内輪ユニットがばらけ易くなる。これとは反対に、抜け止め部103を大きくする等して、内輪ユニットがばらけ難くすると、セット100と内輪108とを組む作業が困難となる。
【0009】
そこで、本開示は、保持器と複数の円すいころとのセットと内輪とを組む作業が容易になることと、前記セットと内輪とを組んで得た内輪ユニットがばらけ難くなることとを、両立することが可能となる円すいころ軸受及び保持器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の円すいころ軸受は、外周側に、内輪軌道、当該内輪軌道の軸方向一方側に設けられている小鍔部、及び、当該内輪軌道の軸方向他方側に設けられている大鍔部を有する内輪と、内周側に外輪軌道を有する外輪と、前記内輪軌道及び前記外輪軌道に転がり接触する複数の円すいころと、前記円すいころを収容するポケットを複数有する環状の保持器と、を備え、複数の前記ポケットそれぞれは、収容する前記円すいころの径方向成分を有する変位を許容すると共に、当該円すいころの外周面の一部に接触することで当該円すいころの径方向外方への脱落を阻止する抜け止め部を有し、複数の前記ポケットには、前記変位の許容量を第一変位量とする第一の前記抜け止め部を有する第一ポケットと、前記変位の許容量を前記第一変位量よりも小さい第二変位量とする第二の前記抜け止め部を有する第二ポケットと、が含まれる。
【0011】
前記円すいころ軸受によれば、第二ポケットの円すいころと比較して、第一ポケットの円すいころは径方向成分を有する変位の許容量が大きい。このため、保持器と複数の円すいころとのセットと、内輪とを組む際、第一ポケットの円すいころは内輪の小鍔部を乗り越えやすい。その結果、すべてのポケットが、変位の許容量が小さい第二ポケットである場合と比較して、前記セットと内輪とを組む作業が容易になる。
そして、第一ポケットの円すいころと比較して、第二ポケットの円すいころは径方向成分を有する変位の許容量が小さい。このため、前記セットと内輪とが組まれて内輪ユニットが得られると、第二ポケットの円すいころと保持器とが相対的に変位し難くなる。その結果、各ポケットに収容されている円すいころは内輪ユニットから脱落し難く、内輪ユニットがばらけ難くなる。
【0012】
好ましくは、第一の前記抜け止め部は、前記第一ポケットに収容する前記円すいころと径方向について第一隙間を有して設けられていて、第二の前記抜け止め部は、前記第二ポケットに収容する前記円すいころと径方向について前記第一隙間よりも小さい第二隙間を有して設けられている。
これにより、第一ポケットは、前記変位の許容量を第一変位量とする第一の抜け止め部を有し、第二ポケットは、前記変位の許容量を前記第一変位量よりも小さい第二変位量とする第二の抜け止め部を有する構成が得られる。
【0013】
また、好ましくは、前記第二ポケットの数は、前記第一ポケットの数よりも少ない。
前記構成によれば、第二ポケットの数が少なくても、保持器が内輪に対して変位し難くなる構成が得られる。そして、第二ポケットの数が少ないことで、前記セットと内輪とを組む作業が容易になる。
【0014】
また、好ましくは、複数の前記第二ポケットは、前記第一ポケットを間に挟んで周方向に離れて配置されている。
前記構成によれば、より一層確実に、保持器が内輪に対して変位し難くなる構成が得られる。
【0015】
また、第二の前記抜け止め部は、第一の前記抜け止め部よりも、径方向について内側に設けられている構成であってもよい。これにより、第二ポケットは、前記変位の許容量を前記第一変位量よりも小さい第二変位量とする第二の抜け止め部を有する構成が得られる。
【0016】
また、円すいころの外周面は、軸方向他方側に向かって外径が大きくなる円すい面に沿った形状を有することから、前記第二の抜け止め部は、前記第一の抜け止め部よりも、軸方向他方側に設けられている構成であってもよい。これにより、第二ポケットは、前記変位の許容量を前記第一変位量よりも小さい第二変位量とする第二の抜け止め部を有する構成が得られる。
【0017】
本開示は、外周側に、内輪軌道、当該内輪軌道の軸方向一方側に設けられている小鍔部、及び、当該内輪軌道の軸方向他方側に設けられている大鍔部を有する内輪と、内周側に外輪軌道を有する外輪と、前記内輪軌道及び前記外輪軌道に転がり接触する複数の円すいころと、を備える円すいころ軸受用の保持器であって、前記円すいころを収容するポケットを複数有し、複数の前記ポケットそれぞれは、収容する前記円すいころの径方向成分を有する変位を許容すると共に、当該円すいころの外周面の一部に接触することで当該円すいころの径方向外方への脱落を阻止する抜け止め部を有し、複数の前記ポケットには、前記変位の許容量を第一変位量とする第一の前記抜け止め部を有する第一ポケットと、前記変位の許容量を前記第一変位量よりも小さい第二変位量とする第二の前記抜け止め部を有する第二ポケットと、が含まれる。
【0018】
前記保持器によれば、第二ポケットの円すいころと比較して、第一ポケットの円すいころは径方向成分を有する変位の許容量が大きい。このため、保持器と複数の円すいころとのセットと、内輪とを組む際、第一ポケットの円すいころは内輪の小鍔部を乗り越えやすい。その結果、すべてのポケットが、変位の許容量が小さい第二ポケットである場合と比較して、前記セットと内輪とを組む作業が容易になる。
そして、第一ポケットの円すいころと比較して、第二ポケットの円すいころは径方向成分を有する変位の許容量が小さい。このため、前記セットと内輪とが組まれて内輪ユニットが得られると、第二ポケットの円すいころと保持器とが相対的に変位し難くなる。その結果、各ポケットに収容されている円すいころは内輪ユニットから脱落し難く、内輪ユニットがばらけ難くなる。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、保持器と複数の円すいころとのセットと内輪とを組む作業が容易になることと、セットと内輪とを組んで得た内輪ユニットがばらけ難くなることとを、両立することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】保持器の一部を内周側から見た説明図である。
【
図5A】軸方向一方側から見た場合の保持器及び円すいころのイメージ図である。
【
図5B】軸方向一方側から見た場合の円すいころが変位した状態のイメージ図である。
【
図6】第一ポケットの説明図であり、ころ軸方向に沿って見た図である。
【
図7】第二ポケットの説明図であり、ころ軸方向に沿って見た図である。
【
図8A】円すいころ軸受の組み立て手順を説明する説明図である。
【
図8B】円すいころ軸受の組み立て手順を説明する説明図である。
【
図9A】円すいころ軸受の組み立て手順を説明する説明図である。
【
図9B】円すいころ軸受の組み立て手順を説明する説明図である。
【
図10】第一ポケット及び第二ポケットにおける円すいころの位置を説明するイメージ図である。
【
図11】本開示の円すい転がり軸受を示す断面図である。
【
図12A】従来の円すいころ軸受の組み立て手順を説明する説明図である。
【
図12B】従来の円すいころ軸受の組み立て手順を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔円すいころ軸受の構成〕
図1は、円すいころ軸受の一例を示す断面図である。
図1に示す円すいころ軸受10は、内輪11と、内輪11の径方向外方に設けられている外輪12と、これら内輪11と外輪12との間に設けられている複数の円すいころ13と、これら円すいころ13を保持する環状の保持器14とを備える。
【0022】
内輪11、外輪12、保持器14の各説明における「軸方向」「径方向」「周方向」について定義する。「軸方向」とは、内輪11、外輪12、保持器14それぞれの中心線に沿った方向である。なお、その軸方向には、前記中心線に平行な方向も含まれる。「径方向」とは、それぞれの中心線に直交する方向である。「周方向」とは、それぞれの中心線を中心とした円に沿う方向である。各図において、内輪11、外輪12、保持器14それぞれの中心線が一致した状態でのその中心線の符号を「C0」としている。
【0023】
円すいころ13の説明における「軸方向」「径方向」「周方向」について定義する。円すいころ13の「軸方向」とは、円すいころ13の中心線C1に沿った方向である。内輪11、外輪12、保持器14の軸方向と区別するために、保持器14等の軸方向を単に「軸方向」と称し、円すいころ13の軸方向を「ころ軸方向」と称する場合がある。なお、ころ軸方向には、中心線C1に平行な方向も含まれる。「径方向」とは、円すいころ13の中心線C1に直交する方向であり、「ころ径方向」と称する場合がある。「周方向」とは、円すいころ13の中心線C1を中心とした円に沿う方向であり、「ころ周方向」と称することができる。
【0024】
内輪11は、軸受鋼又は機械構造用鋼等を用いて形成された環状の部材である。内輪11は、その外周側に、テーパー状の内輪軌道21を有する。内輪11は、内輪軌道21の軸方向一方側(
図1では左側)に設けられている小鍔部22と、内輪軌道21の軸方向他方側(
図1では右側)に設けられている大鍔部23とを有する。小鍔部22及び大鍔部23それぞれは、径方向外方に突出している。複数の円すいころ13が内輪11と外輪12との間に介在していて保持器14に保持された状態で、これら複数の円すいころ13の小径側部分13aの内接円の直径Diは、小鍔部22の外径Dcよりも小さい。
【0025】
外輪12は、軸受鋼又は機械構造用鋼等を用いて形成された環状の部材である。外輪12は、その内周側に、テーパー状の外輪軌道20を有する。
円すいころ13は、軸受鋼等を用いて形成された円すい台形状の部材である。円すいころ13は、ころ軸方向の一方側(
図1では左側)に直径の小さい円形の小端面16を有し、ころ軸方向の他方側(
図1では右側)に直径の大きい円形の大端面17を有する。円すいころ13は、外輪軌道20及び内輪軌道21に転がり接触する。大端面17は、大鍔部23の側面(鍔面)24に滑り接触する。
【0026】
図2は、保持器14の一部を内周側から見た説明図である。保持器14は、軸方向一方側の小径環状体31、小径環状体31よりも外径が大きい軸方向他方側の大径環状体32、及び周方向に間隔をあけて設けられている複数の柱33を有する。小径環状体31及び大径環状体32は円環形状であり、軸方向に離れて設けられている。柱33は、小径環状体31と大径環状体32とを連結している。小径環状体31と大径環状体32との間であって周方向で隣り合う二つの柱33,33の間に形成される空間が、ポケット34となる。各ポケット34に一つの円すいころ13が収容される。保持器14は、円すいころ13を収容するポケット34を複数有し、複数の円すいころ13を周方向に等しい間隔をあけて保持する。
【0027】
保持器14は、合成樹脂製であり、射出成形によって成形される。本実施形態の保持器14は、例えば、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)製である。その保持器14は、潤滑油に対する耐性(耐油性)を有し、比較的、硬質であり、弾性変形し難い。保持器14は3Dプリンタにより製造されてもよい。
本開示では、保持器14は、外輪12の内周面の一部に滑り接触可能であり、これにより、保持器14の回転は外輪12によってガイドされる。つまり、
図1に示す円すいころ軸受10は、保持器14が外輪12によって案内される外輪案内形式の軸受である。
【0028】
図3は、保持器14の中心線を含む断面を示す図である。
図4は、
図3のIV矢視図である。各ポケット34は、収容する円すいころ13が径方向外方に脱落するのを阻止する抜け止め部40を有する。一つのポケット34の周方向両側それぞれに抜け止め部40が設けられている。抜け止め部40は、柱33の側面33aの軸方向の中間領域に設けられていて、周方向に突出している。抜け止め部40は、ポケット34に収容された円すいころ14の外周面の一部(ころ軸方向の中間部分)と接触する。抜け止め部40の頂部41付近が、円すいころの外周面の一部と接触する。これにより、後に説明する円すいころ軸受10の組み立ての際、ポケット34から円すいころ13が径方向外方へ脱落するのを阻止する。抜け止め部40は、
図3及び
図4に示す形状以外であってもよい。後に説明するが、抜け止め部40の形状及び配置の一方又は双方の違いにより、保持器14は、二種類のポケット34(第一ポケット34A及び第二ポケット34B)を有する。
【0029】
図1に示すように、保持器14の中心線が内輪11の中心線と一致していて、その保持器14に保持されている複数の円すいころ13が内輪軌道21及び大鍔部23の側面24に適切に接触している状態を「基準状態」と定義する。
前記基準状態であって、円すいころ13が外輪軌道20に接触している状態では、円すいころ13は、ころ径方向及びころ軸方向に変位不能である。
円すいころ13の小端面16と小径環状体31との間には、隙間が設けられていて、円すいころ13の外周面と抜け止め部40との間には、隙間が設けられている。このため、保持器14は、円すいころ13に対して径方向及び軸方向に僅かに変位可能であると共に、外輪12が外されている基準状態(
図9B参照)から、円すいころ13は、軸方向及び径方向に僅かに変位可能である。
【0030】
基準状態で、円すいころ13の小端面16の中心を結ぶ仮想円が、円すいころ13の(設計上の)小径側のピッチ円と定義され、円すいころ13の大端面17の中心を結ぶ仮想円が、円すいころ13の(設計上の)大径側のピッチ円であると定義される。
保持器14のポケット34に円すいころ13を収容した状態にある組立体(
図8A参照)が、保持器14と円すいころ13との「セット50」である。そのセット50と内輪11とを組み合わせた組立体(
図9B参照)が「内輪ユニット51」である。
【0031】
セット50及び内輪ユニット51それぞれにおいて、特に説明しない場合、複数の円すいころ13は、前記小径側のピッチ円及び前記大径側のピッチ円に沿って配置された状態とする。なお、本開示では、この状態を、単に、円すいころ13は「ピッチ円に沿って」配置された状態と説明することがある。各円すいころ13は、ピッチ円に沿って配置された状態から、抜け止め部40に接触するまで、径方向外方の成分を有して僅かに変位可能である。また、特に説明しない限り、円すいころ13はピッチ円に沿って配置された状態とする。
【0032】
〔ポケット34について〕
以上のように、保持器14は、複数のポケット34を有する。複数のポケット34それぞれは、一対で一組の抜け止め部40,40を有する。
セット50及び内輪ユニット51それぞれにおいて、大径環状体32に円すいころ13の大端面17が接触している状態で、小径環状体31と円すいころ13の小端面16との間には隙間が形成されている。
セット50及び内輪ユニット51それぞれにおいて、円すいころ13がピッチ円に沿って配置された状態から径方向外方の成分を有して変位すると、抜け止め部40,40は、その円すいころ13の外周面の一部に径方向外方から接触する。このため、円すいころ13の径方向外方への脱落が阻止される。
【0033】
更に、セット50及び内輪ユニット51それぞれにおいて、抜け止め部40,40それぞれと、前記ピッチ円に沿って位置してポケット34に収容されている円すいころ13との間に、径方向について隙間が形成されている。このため、抜け止め部40,40は、円すいころ13の径方向成分を有する変位を許容する。
このように、各ポケット34の抜け止め部40,40は、収容する円すいころ13の径方向成分を有する変位を許容するが、円すいころ13の変位によって抜け止め部40,40が円すいころ13の外周面の一部に接触することで、円すいころ13が径方向外方へ脱落するのを阻止することができる。
【0034】
前記のような円すいころ13の径方向成分を有する変位には、円すいころ13が径方向外方に向かう直線的な変位の他に、後にも説明するが組み立ての際、抜け止め部40の一部に円すいころ13が接触し、その接触位置が支点となって、円すいころ13の小径側部分13aが径方向外方に向かうように揺動する変位も含まれる。
セット50の場合、円すいころ13が揺動して変位する場合、小端面16が小径環状体31に接触する。このため、円すいころ13の揺動による変位は、抜け止め部40と小径環状体31とによって、制限される。小径環状体31は、周方向に沿って同じ形状(断面形状)を有する。これに対して、後にも説明するが、保持器14は、抜け止め部40の形状及び配置の一方又は双方が異なる二種類のポケット34(第一ポケット34A及び第二ポケット34B)を有する。抜け止め部40が相違することで、円すいころ13の揺動による変位の許容量は相違する。
【0035】
図5Aは、軸方向一方側から見た場合の保持器14及び円すいころ13のイメージ図である。
図5Aは、円すいころ13が前記ピッチ円に沿って配置されている状態を示している。保持器14は、二種類のポケット34を有する。つまり、複数のポケット34には、第一ポケット34Aと第二ポケット34Bとが含まれる。
図5Aでは、第一ポケット34Aの円すいころ13と、第二ポケット34Bの円すいころ13とを、ハッチを付して示し、更に、そのハッチの粗さを違えて区別している。
図5Aに示す形態では、保持器14は、合計17個のポケット34を有していて、このうちの一部である4個が第二ポケット34Bであり、残りの13個が第一ポケット34Aである。第二ポケット34Bの数は、3個以上であるのが好ましく、第一ポケット34Aの数よりも少ないのが好ましい。そして、複数(図例では4個)の第二ポケット34Bは、一つ又は複数(図例では3個又は4個)の第一ポケット34Aを間に挟んで、保持器14の周方向に沿って離れて配置されている。第二ポケット34Bは、可能な限り周方向に均等配置される。なお、ポケット34は三種類以上であってもよく、その場合、抜け止め部40の形態がそれぞれ異なる。
【0036】
図6は、第一ポケット34Aの説明図であり、ころ軸方向に沿って見た図である。第一ポケット34Aに設けられている抜け止め部40,40が「第一の抜け止め部40A,40A」である。
図7は、第二ポケット34Bの説明図であり、ころ軸方向に沿って見た図である。第二ポケット34Bに設けられている抜け止め部40,40が「第二の抜け止め部40B,40B」である。
図6及び
図7は、円すいころ13が前記ピッチ円に沿って位置している状態(基準状態)を示す。
【0037】
図6において、第一の抜け止め部40Aと、前記ピッチ円に沿って位置する円すいころ13との間には、保持器14の径方向について第一隙間K1が設けられている。第一隙間K1は、第一の抜け止め部40Aと円すいころ13とが接触可能となる位置における隙間である。第一隙間K1により、第一ポケット34Aの円すいころ13は、径方向成分を有する変位が許容される。その変位の許容量を「第一変位量」とする。第一変位量は、前記ピッチ円に沿って位置する円すいころ13の変位可能量とも言える。
【0038】
図7において、第二の抜け止め部40Bと、前記ピッチ円に沿って位置する円すいころ13との間には、保持器14の径方向について第二隙間K2が設けられている。第二隙間K2は、第二の抜け止め部40Bと円すいころ13とが接触可能となる位置における隙間である。第二隙間K2により、第二ポケット34Bの円すいころ13は、径方向成分を有する変位が許容される。その変位の許容量を「第二変位量」とする。第二変位量は、前記ピッチ円に沿って位置する円すいころ13の変位可能量とも言える。
本開示では、第二隙間K2が第一隙間K1よりも小さい関係にある(K2<K1)。このため「第二変位量」は「第一変位量」よりも小さくなる。
なお、第一の抜け止め部40Aと円すいころ13とが接触可能となる位置と、第二の抜け止め部40Bと円すいころ13とが接触可能となる位置との、保持器14の軸方向についての位置関係は、同じであってもよいが、異なっていてもよい。
【0039】
第二変位量が第一変位量よりも小さくなるために、本開示の保持器14は次の第一の構成と第二の構成とのうちの少なくとも一方を備える。
第一の構成:第二の抜け止め部40Bのうち、円すいころ13との接触位置(接触位置近傍となる抜け止め部40の頂部41)は、第一の抜け止め部40Aよりも、保持器14の径方向について内側に設けられている構成。
第二の構成:第二の抜け止め部40Bのうち、円すいころ13との接触位置(接触位置近傍となる抜け止め部40の頂部41)は、第一の抜け止め部40Aよりも、保持器14の軸方向について他方側に設けられている構成。
【0040】
前記第二の構成について補足説明する。円すいころ13の外周面は、ころ軸方向の他方側に向かって外径が大きくなる円すい面に沿った形状を有している。このため、前記第二の構成により、第二隙間K2を第一隙間K1よりも小さくすることが可能となり、「第二変位量」を「第一変位量」よりも小さくすることが可能となる。
【0041】
このように、抜け止め部40の配置の違いにより、保持器14は、二種類のポケット34A,34Bを有する。なお、図示しないが、抜け止め部40の形状の違いにより、保持器14は、円すいころ13の変位の許容量が相違する二種類のポケット34A,34Bを有していてもよい。
【0042】
図5Aは、前記のとおり、複数の円すいころ13が前記ピッチ円に沿って配置された状態を示している。これに対して、
図5Bは、複数の円すいころ13が前記ピッチ円に沿って配置されておらず、各円すいころ13が「第一変位量」又は「第二変位量」について変位した状態を示している。つまり、
図5Bは、各円すいころ13が第一の抜け止め部40A又は第二の抜け止め部40Bに接触している状態を示している。なお、
図5Bでは、保持器14を省略していて、第一ポケット34Aの円すいころ13と、第二ポケット34Bの円すいころ13とを、ハッチを付して示し、更に、そのハッチの粗さを違えて区別している。
図5Bにおいて、第一ポケット34Aに収容されていて第一の抜け止め部40Aに接触する円すいころ13の小径側部分の内接円をQ1としている。第二ポケット34Bに収容されていて第二の抜け止め部40Bに接触する円すいころ13の小径側部分の内接円をQ2としている。前記のとおり、第一変位量と第二変位量とが異なることから、第一の内接円Q1の直径と第二の内接円Q2の直径とが異なる(内接円Q1の直径>内接円Q2の直径)。
なお、
図1において、内輪11が有する小鍔部22の外径(最大外径)Dcは、第一の内接円Q1の直径以下であり、第二の内接円Q2の直径以上であってもよいが、本開示では、外径(最大外径)Dcは、第一の内接円Q1の直径以上であり、かつ、第二の内接円Q2の直径以上である。
【0043】
以上のように、保持器14が有する複数のポケット34には、第一ポケット34Aと第二ポケット34Bとが含まれる。第一ポケット34Aは第一の抜け止め部40A,40Aを有する。これら第一の抜け止め部40A,40Aにより、第一ポケット34Aに収容され前記ピッチ円に沿って位置する円すいころ13の変位の許容量が第一変位量となる。第二ポケット34Bは第二の抜け止め部40B,40Bを有する。これら第二の抜け止め部40B,40Bにより、第二ポケット34Bに収容され前記ピッチ円に沿って位置する円すいころ13の変位の許容量が、前記第一変位量よりも小さい第二変位量となる。
【0044】
〔円すいころ軸受10の組み立てについて〕
前記構成を備える円すいころ軸受10の組み立ては、次のようにして行われる。
図8Aに示すように、保持器14の内周側から各ポケット34に円すいころ13を収容し、保持器14と円すいころ13とを組み合わせる。これにより、複数の円すいころ13と保持器14とのセット50が得られる。セット50を内輪11に軸方向から接近させ(
図8B参照)、セット50を内輪11に組み付ける。セット50の状態、及び、前記組み付けの際、各ポケット34に収容されている円すいころ13の径方向外方への脱落防止が、各ポケット34の抜け止め部40,40によって行われる。
【0045】
図10は、第一ポケット34A及び第二ポケット34Bにおける円すいころ13の位置を説明するイメージ図である。
図10及び
図8Aに示すように、セット50において、前記ピッチ円に沿って位置する複数の円すいころ13の小径側部分13aの内接円の直径Diは、内輪11の小鍔部22の外径Dcよりも小さい。
更に、第一の抜け止め部40Aに接触した状態にある円すいころ13の小径側部分13aの内接円Q1の直径Dj1(
図10参照)、及び、第二の抜け止め部40Bに接触した状態にある円すいころ13の小径側部分13aの内接円Q2の直径Dj2(
図10参照)は、内輪11の小鍔部22の外径Dcよりも小さい。
このため、セット50と内輪11とを組む途中(
図8B参照)、円すいころ13の小径側部分13aは、小鍔部22を乗り越える必要があるため、径方向外側に変位する。この際、円すいころ13の一部が保持器14の抜け止め部40,40に接触する。円すいころ13の小径側部分13aが小鍔部22を乗り越えるためには、内輪11を保持器14に軸方向に押し付け、保持器14の一部(抜け止め部40を含む部分)を弾性変形させることになる。
【0046】
各ポケット34に抜け止め部40,40が設けられている。このため、
図9Aに示すように、各円すいころ13は、抜け止め部40,40に接触した後、その接触点を支点として
図9Aにおいて時計回り方向に揺動する。つまり、小径側部分13aが径方向外方に向かうように円すいころ13が揺動する。このような円すいころ13が揺動を伴って変位することで、小径側部分13aが小鍔部22を乗り越えやすくなる。
【0047】
更に、前記のとおり、保持器14は二種類のポケット34を有する。第一ポケット34Aでは、前記のとおり、径方向成分を有する変位の許容量が、第一変位量となっていて、この第一変位量は、第二ポケット34Bにおける変位の許容量(第二変位量)よりも大きい。つまり、第二ポケット34Bの円すいころ13と比較して、第一ポケット34Aの円すいころ13は径方向成分を有する変位の許容量が大きい。このため、セット50と内輪11とを組む際、第一のポケット34Aでは、保持器14の一部の「弾性変形量(
図10の左側の図参照)」は小さくて済み、第一ポケット34Aの円すいころ13は、小鍔部22を乗り越えやすい。その結果、セット50と内輪11とを組む作業が容易になる。内輪11の軸方向への押し付け力が小さくても、円すいころ13の小径側部分13aは、小鍔部22を容易に乗り越えることができる。
【0048】
そして、
図9Bに示すように、セット50と内輪11とが組まれて内輪ユニット51が得られると、第二ポケット34Bの円すいころ13と保持器14とが相対的に変位し難くなる。これは、
図10に示すように、第二ポケット34Bでは、円すいころ13の径方向成分を有する変位の許容量が、第一変位量よりも小さい第二変位量となっているためである。つまり、内輪ユニット51の状態では、第二ポケット34Bの第二の抜け止め部40B,40Bが円すいころ13と接触することで、保持器14は内輪11に対して変位し難い。保持器14が内輪11に対して変位し難いことで、その保持器14の第二ポケット34Bに保持される円すいころ13はもちろん、第一ポケット34Aに保持される円すいころ13についても、全体として径方向に変位し難い。なお、内輪ユニット51の状態で、第二ポケット34Bでは、円すいころ13が小鍔部22を乗り越えるためには、保持器14の一部に大きな「弾性変形量(
図10の右側の図参照)」を生じさせるだけの大きな外力が必要であることから、乗り越えは困難となる。その結果、全てのポケット34が第一ポケット34Aである場合と比べて、各ポケット34に収容されている円すいころ13は内輪ユニット51から脱落し難く、内輪ユニット51がばらけ難くなる。
【0049】
なお、
図9Bに示す内輪ユニット51の状態では、ポケット34の円すいころ13は径方向に変位しようとすると、抜け止め部40によってその変位が制限されると共に、小鍔部22に接触することでその変位が制限される。よって、内輪ユニット51がばらけ難い。このために、小鍔部22の形状(外径Dc)は、前記のようにポケット34に収容されている円すいころ13が径方向成分を有して変位しても、その円すいころ13が当該小鍔部22の側面に接触することで、その変位を制限することが可能となるように設定される。
【0050】
以上の組み立て方法により、内輪11、保持器14、及び複数の円すいころ13が一体となった内輪ユニット51が得られる。その内輪ユニット51に、外輪12を組み付けることで、円すいころ軸受10が完成する。
【0051】
特に本開示では、
図5Aに示すように、第二ポケット34Bの数は、第一ポケット34Aの数よりも少ない。第二ポケット34Bの数が少ないことで、セット50と内輪11とを組む作業がより一層容易になる。そして、第二ポケット34Bの数が少なくても、保持器14が内輪11に対して変位し難くなる構成が得られる。更に、複数の第二ポケット34Bは、第一ポケット34Aを間に挟んで周方向に離れて配置されている。このため、より一層確実に、保持器14が内輪11に対して変位し難くなる構成が得られる。この結果、内輪ユニット51がばらけ難い。
【0052】
〔本開示の円すいころ軸受10について〕
仮に、全てのポケット34が、円すいころ13の変位の許容量(第二変位量)が小さくなる第二ポケット34Bである場合、セット50と内輪11との組み付けの際、その組み付けのために大きな力(荷重)を要し、組み付けが困難となる。また、全てのポケット34が、円すいころ13の変位の許容量(第一変位量)が大きくなる第一ポケット34Aである場合、内輪ユニット51の状態で、円すいころ13、保持器14が内輪11からばらけ易くなってしまう。しかし、本開示では、保持器14が有する複数のポケット34には、前記変位の許容量を第一変位量とする第一の抜け止め部40Aを有する第一ポケット34Aと、前記変位の許容量を第一変位量よりも小さい第二変位量とする第二の抜け止め部40Bを有する第二ポケット34Bとが含まれる。このため、保持器14と複数の円すいころ13とのセット50と内輪11とを組む作業が容易になることと、セット50と内輪11とを組んで得た内輪ユニット51がばらけ難くなることとを、両立することが可能となる。
【0053】
前記開示では、周方向に複数の円すいころ13が一列となって並ぶ単列の円すいころ軸受10について説明した。図示しないが、複列の円すいころ軸受の保持器が、前記のような構成を備えていてもよい。また、別の形態として、自動車の車輪を支持する車輪用軸受装置(ハブユニットとも言われる。)の一部が、円すいころ軸受により構成されている場合に、つまり、車輪用軸受装置がその一部に円すいころを転動体として有する場合、その円すいころを保持する保持器が、前記のような構成を備えていてもよい。
【0054】
〔その他の特徴について〕
図11は、本開示の円すい転がり軸受10を示す断面図である。
図11は、
図1と異なる断面を示している。円すいころ軸受10は、潤滑油(オイル)によって潤滑される。
保持器14は、径方向に変位すると、外輪12の内周面の一部に滑り接触可能であり、これにより、保持器14の回転は外輪12によってガイドされる。つまり、円すいころ軸受10は、保持器14が外輪12によって案内される外輪案内形式の軸受である。
【0055】
保持器14は、その径方向外側であって軸方向一方側に、第一の接触面61を有し、その径方向外側であって軸方向他方側に第二の接触面62を有する。第一の接触面61は、小径環状体31の外周面の一部を含む。これら第一の接触面61及び第二の接触面61が外輪12の内周面に滑り接触可能であり、これにより保持器14の回転が外輪12によってガイドされる。
図11に示すように、外輪12と保持器14との中心線が一致している状態で、外輪案内のために、第一の接触面61と外輪12の軸方向一方側の内周面69との間に形成される隙間e1は小さく設定されている。その隙間e1は、ラビリンス隙間として機能し、転がり軸受10の軸方向一方側の外部の潤滑油が、内輪11と外輪12との間であって円すいころ13が設けられている内部空間(転がり軸受10の内部)に浸入するのを抑えることができる。
【0056】
前記のとおり、隙間e1を小さくすることで保持器14が外輪案内されると共に、保持器14の小径環状体31の内周面65と、内輪11の小鍔部22の外周面66との間に形成される隙間e2も小さく設定される。この隙間e2もラビリンス隙間として機能する。このため、保持器14と内輪11との間においても、外部の潤滑油が、軸方向一方側から、転がり軸受10の内部に浸入し難い。
転がり軸受10の内部への潤滑油の浸入が抑えられることで、転がり軸受10が回転した際の潤滑油の撹拌抵抗は低減される。このため、転がり軸受10の回転トルク(回転抵抗)の低減が可能となる。
【0057】
前記隙間e1、e2を通過した潤滑油は、
図11の矢印G1,G2に示すように、外輪12の軸方向他方側に向かって流れる。保持器14は、軸方向他方側に大径環状体32を有する。前記潤滑油は、大径環状体32の軸方向一方側の側面35に当たる。すると、その潤滑油は、矢印G3に示すように、内輪11側に向きを変えて流れ、その潤滑油の一部は大鍔部23の側面24と円すいころ13の大端面17との間に供給される。つまり、大径環状体32の軸方向一方側の側面35は、前記のように潤滑油の流れの向きを変える形状に設定されている。また、前記隙間e2を通過した潤滑油は、柱33の径方向内側面64に沿って、大鍔部23の側面24側へ流れることができる。
このように、少ない潤滑油であっても、その潤滑油が大鍔部23の側面24側に供給されることで、円すいころ13と大鍔部23との間の滑り接触面の潤滑性が高められ、焼付きを防止することができる。
【0058】
保持器14の軸方向他方側の径方向外側面(第二の接触面62)と、外輪12の内周面の一部との間にも隙間e3が設けられている。この隙間e3から転がり軸受10の内部の潤滑油は外部へ排出される。つまり、外輪12の内周面に沿って流れる潤滑油の一部は、前記のとおり、大鍔部23の側面24側に向かって流れるが、残りの(余剰の)潤滑油は、隙間e3から排出される。よって、余剰の潤滑油によって転がり軸受10の撹拌抵抗が大きくなるのを防ぐことができる。
【0059】
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0060】
10:円すいころ軸受 11:内輪 12:外輪
13:円すいころ 14:保持器 20:外輪軌道
21:内輪軌道 22:小鍔部 23:大鍔部
34:ポケット 34A:第一ポケット 34B:第二ポケット
40:抜け止め部 40A:第一の抜け止め部
40B:第二の抜け止め部 50:セット 51:内輪ユニット
K1:第一隙間 K2:第二隙間