(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】電動ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04C 15/00 20060101AFI20240312BHJP
F04C 2/10 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
F04C15/00 K
F04C15/00 E
F04C2/10 341F
(21)【出願番号】P 2020063558
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000220505
【氏名又は名称】ニデックパワートレインシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【氏名又は名称】成田 友紀
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【氏名又は名称】梶原 慶
(72)【発明者】
【氏名】小林 喜幸
(72)【発明者】
【氏名】片岡 慈裕
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-128470(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸回りに回転可能なシャフトを有するモータと、
前記モータの軸方向一方側に連結されるポンプ機構と、
前記モータを収容し軸方向他方側に開口する収容凹部を有するモータハウジングと、
前記モータハウジングの前記収容凹部を塞ぐモータカバーと、
前記モータカバーと前記モータハウジングとを固定する固定部材と、
を備え、
前記モータは、前記シャフトを軸周りに回転可能に支持するベアリングを有し、
前記モータカバーは、
径方向に広がる板状のカバー本体と、
前記モータカバーを軸方向に貫通する貫通孔と、
前記貫通孔の軸方向一方側の端部に位置するベアリング保持部と、
を有し、
前記モータカバーは、前記固定部材による固定が解除された状態において、前記カバー本体の軸方向一方側を向く面が前記モータハウジングの軸方向他方側を向く端面に接触する位置で径方向に移動可能であ
り、
前記シャフトは、軸方向他方側を向く端面に、軸方向一方側に凹む凹部または軸方向他方側に突出する凸部を有する、
電動ポンプ。
【請求項2】
前記モータカバーは、前記カバー本体の軸方向一方側を向く面から軸方向一方側に突出する筒部を有し、
前記貫通孔は、前記筒部の内孔であり、
前記ベアリング保持部は、前記筒部の軸方向一方側の端部に位置する、
請求項
1に記載の電動ポンプ。
【請求項3】
前記モータカバーの前記貫通孔の軸方向他方側の端部に位置するブリーザを有する、
請求項1から
2のいずれか1項に記載の電動ポンプ。
【請求項4】
前記貫通孔は、前記貫通孔の内周面から径方向内側に突出する内周突起を有し、
前記内周突起は、前記ブリーザを引っ掛ける、
請求項
3に記載の電動ポンプ。
【請求項5】
前記内周突起は、軸方向他方側を向く面に、軸方向一方側に向かって径方向内側に傾斜する傾斜面を有する、
請求項
4に記載の電動ポンプ。
【請求項6】
前記固定部材は、ねじであり、
前記固定部材は、前記モータカバーを軸方向に貫通し、前記モータハウジングの軸方向他方側を向く端面に締結される、
請求項1から
5のいずれか1項に記載の電動ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
電動ポンプのシャフトの支持構造として、特許文献1には、ベアリングを支持する底板を、モータハウジングの内周面に径方向に固定する構造が開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の構造では、シャフトの軸精度が、底板とモータハウジングとの嵌め合わせ部分の精度に依存する。そのため、底板とモータハウジングとの嵌め合いを量産性と組立性を考慮した公差にすると、シャフトの傾きが大きくなり、ポンプの振動および騒音が大きくなる課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1つの態様によれば、中心軸回りに回転可能なシャフトを有するモータと、前記モータの軸方向一方側に連結されるポンプ機構と、前記モータを収容し軸方向他方側に開口する収容凹部を有するモータハウジングと、前記モータハウジングの前記収容凹部を塞ぐモータカバーと、前記モータカバーと前記モータハウジングとを固定する固定部材と、を備える電動ポンプが提供される。前記モータは、前記シャフトを軸周りに回転可能に支持するベアリングを有する。前記モータカバーは、径方向に広がる板状のカバー本体と、前記モータカバーを軸方向に貫通する貫通孔と、前記貫通孔の軸方向一方側の端部に位置するベアリング保持部と、を有する。前記モータカバーは、前記固定部材による固定が解除された状態において、前記カバー本体の軸方向一方側を向く面が前記モータハウジングの軸方向他方側を向く端面に接触する位置で径方向に移動可能である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の1つの態様によれば、振動および騒音が抑制された電動ポンプが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態の電動ポンプの断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態の電動ポンプの内部構造を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、モータカバー周辺の拡大断面図である。
【
図4】
図4は、電動ポンプの組み立て方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、電動ポンプの一実施形態として、電動オイルポンプについて説明する。実施形態の電動オイルポンプは、車両等に搭載される機器のオイル供給に用いられる。
【0009】
以下で参照する各図面においては、適宜3次元直交座標系としてXYZ座標系を示す。XYZ座標系において、X軸方向は、
図1に示される中心軸Jの軸方向と平行な方向とする。中心軸Jは、後述するモータ220のシャフト21の中心軸線である。Y軸方向は、X軸と直交する方向のうち、
図1の奥行き方向と平行な方向である。Z軸方向は、X軸方向とY軸方向との両方と直交する方向であり、
図1の上下方向と平行な方向である。X軸方向、Y軸方向、Z軸方向のいずれにおいても、図中に示される矢印の向く側を+側、反対側を-側とする。
【0010】
以下の説明においては、特に断りのない限り、中心軸Jに平行な方向(X軸方向)を単に「軸方向」と称する。中心軸Jを中心とする径方向を単に「径方向」と称する。中心軸Jを中心とする周方向、すなわち、中心軸Jの軸周り(θ方向)を単に「周方向」と称する。
【0011】
また、X軸方向の正の側(+X側)を「フロント側」と称する場合がある。同様に、X軸方向の負の側(-X側)を「リア側」と称する場合がある。フロント側(+X側)は、本発明における軸方向一方側に相当する。リア側(-X側)は、本発明における軸方向他方側に相当する。
【0012】
電動オイルポンプ200は、
図1に示すように、ポンプボディ210と、モータ220と、ポンプ機構30と、制御基板40と、を備える。
ポンプボディ210は、モータ220を収容するモータハウジング211と、ポンプ機構30を収容するポンプハウジング212と、制御基板40を収容する基板ハウジング213と、を有する。本実施形態の場合、モータハウジング211と、ポンプハウジング212と、基板ハウジング213とは、単一の部材の一部である。
【0013】
モータハウジング211は、ポンプボディ210のリア側(-X側)に位置する。モータハウジング211は、軸方向に延びる円筒状である。モータハウジング211は、リア側に開口する凹部からなる第1収容凹部211aを有する。第1収容凹部211aは、後述するモータカバー226によりリア側から塞がれる。
【0014】
ポンプハウジング212は、ポンプボディ210のフロント側(+X側)に位置する。ポンプハウジング212は、フロント側に開口する凹部からなる第2収容凹部212aを有する。電動オイルポンプ200は、第2収容凹部212aをフロント側から塞ぐポンプカバー212bを有する。
【0015】
基板ハウジング213は、モータハウジング211およびポンプハウジング212の側面に位置する。基板ハウジング213は、モータハウジング211およびポンプハウジング212の図示下側(-Z側)に位置する。基板ハウジング213は、径方向外側から見て概略矩形状である。基板ハウジング213は、ポンプボディ210の図示下側に向かって開口する第3収容凹部213aを有する。基板ハウジング213には、後述する基板ユニット240が図示下側から装着される。
【0016】
ポンプボディ210は、モータハウジング211の第1収容凹部211aと、ポンプハウジング212の第2収容凹部212aとを軸方向に繋ぐ第1貫通孔210aを有する。ポンプボディ210は、第1収容凹部211aと、基板ハウジング213の第3収容凹部213bとを径方向に繋ぐ第2貫通孔210bを有する。すなわち、第2貫通孔210bは、モータハウジング211と基板ハウジング213との間で径方向に延び、後述するジョイントバスバー251a~251cを収容する収容部である。上記収容部は、軸方向に開口し径方向に延びる溝であってもよい。
【0017】
モータ220は、シャフト21を有するロータ22と、ステータ23と、バスバーアッシー224と、バスバーカバー225と、モータカバー226と、第1ベアリング27および第2ベアリング28と、を備える。シャフト21のフロント側の端部は、ポンプ機構30に連結される。
【0018】
バスバーアッシー224は、
図2に示すように、3本のバスバー224a、224b、224cと、バスバー224a~224cを保持する樹脂製のバスバーホルダ224dとを有する。バスバーホルダ224dは、軸方向から見て円環状である。3本のバスバー224a~224cは、バスバーホルダ224dのリア側を向く面にねじ止めされる。
【0019】
バスバーアッシー224は、ステータ23のリア側に位置する。バスバーアッシー224は、モータハウジング211の第1収容凹部211aに、リア側から挿入される。
3本のバスバー224a~224cの一方側の端部は、
図1に示すように、コイル23cからリア側へ延びるコイル線23dと接続される。3本のバスバー224a~224cは、コイル線23dとの接続位置から、基板ハウジング213側へ延びる。
図2に示すように、3本のバスバー224a~224cの他方側の端部は、バスバーホルダ224dの基板ハウジング213側(図示下側)の端部に配置される。3本のバスバー224a、224b、224cの他方側の端部は、後述する3本のジョイントバスバー251a、251b、251cにそれぞれ接続される。
【0020】
バスバーカバー225は、バスバーアッシー224のリア側に位置する。バスバーカバー225は、第1収容凹部211aに、リア側から挿入される。バスバーカバー225は、軸方向から見て円環状である。バスバーカバー225は、バスバーアッシー224をリア側から覆う。バスバーカバー225のリア側からモータカバー226が被せられる。モータカバー226は、第1収容凹部211aをリア側から塞ぐ。
【0021】
バスバーカバー225は、リア側を向く面の外周端に、段差部225aを有する。段差部225aは、リア側を向く面と、径方向外側を向く面とを有する。段差部225aの内部に、Oリングからなる弾性部材225bが配置される。弾性部材225bは、モータカバー226とバスバーカバー225とによって軸方向に挟まれる。モータカバー226は、弾性部材225bを介して、バスバーカバー225をフロント側へ押す。
【0022】
バスバーカバー225は、バスバーアッシー224とモータカバー226との間に挿入されるスペーサとして機能する。バスバーカバー225は、弾性部材225bによってフロント側へ押されることにより、バスバーアッシー224をフロント側へ押す。この構成により、バスバーカバー225は、バスバーアッシー224を軸方向において固定する。スペーサとしてのバスバーカバー225を備えることで、弾性部材225bが周方向において均一に圧縮されるので、バスバーアッシー224を周方向において均一な力で軸方向に押すことができる。モータハウジング211内において、バスバーアッシー224が安定に保持される。バスバーカバー225とバスバーアッシー224は、単一の部材の一部であってもよい。
【0023】
モータカバー226は、バスバーカバー225をリア側から覆う円板状の部材である。モータカバー226は、
図3に示すように、中心軸Jに沿って延びる円筒部226aと、円筒部226aの外周面から径方向外側に広がる円環状のカバー本体226bとを有する。すなわち、モータカバー226は、カバー本体226bのフロント側を向く面からフロント側へ突出する筒部である円筒部226aを有する。
【0024】
円筒部226aは、モータカバー226の軸方向の両側に開口する。すなわち、円筒部226aの内孔は、モータカバー226を軸方向に貫通する貫通孔226dである。貫通孔226dのフロント側の端部に第1ベアリング27が挿入される。第1ベアリング27は、円筒部226aの内部に位置するベアリング保持部226cに支持される。
【0025】
第1ベアリング27に支持されるシャフト21のリア側の端面21aは、第1ベアリング27の内孔を通って貫通孔226dの内部に露出する。シャフト21は、軸方向から見た端面21aの中央に、フロント側へ凹む凹部21bを有する。凹部21bは、本実施形態の場合、フロント側に向かうに従って直径が小さくなるテーパー穴である。凹部21bのテーパー面のテーパー軸は、シャフト21の中心軸に一致する。
【0026】
モータカバー226は、径方向において、バスバーカバー225の外側まで広がる。モータカバー226は、バスバーカバー225よりも径方向外側に位置する部位に、カバー本体226bを軸方向に貫通する挿入孔226eを有する。挿入孔226eは、モータカバー226の外周部の4箇所に設けられる。4箇所の挿入孔226eは、周方向に等間隔に配置される。
【0027】
モータハウジング211は、軸方向から見て第1収容凹部211aを囲む端面211bを有する。端面211bは、リア側を向く円環状の端面である。モータハウジング211は、端面211bの4箇所に、リア側に開口するねじ穴211cを有する。4箇所のねじ穴211cは、モータカバー226の4箇所の挿入孔226eと軸方向に繋がる。モータカバー226は、挿入孔226eを通ってねじ穴211cに締め込まれるねじ230によりモータハウジング211に固定される。
【0028】
貫通孔226dのリア側の端部に、ブリーザ60が装着される。ブリーザ60は、軸方向に延びる円筒部261と、円筒部261のリア側の端部から径方向外側に広がる円板部262と、円板部262の上面に位置し、円筒部261の内孔をリア側から覆うフィルタ263と、円板部262に固定される円板状の蓋部264と、を有する。
【0029】
ブリーザ60の円筒部261は、先端部の外周面から径方向外側に突出する爪261aを有する。モータカバー226の貫通孔226dは、内周面から径方向内側に突出する内周突起226fを有する。ブリーザ60は、円筒部261をフロント側へ向けて貫通孔226dに装着される。円筒部261の爪261aが、内周突起226fに引っ掛けられることにより、ブリーザ60がモータカバー226に固定される。本実施形態では、内周突起226fがリア側を向く面に、フロント側に向かうに従って径方向内側に傾斜する傾斜面を有するので、ブリーザ60を装着する際に爪261aを径方向内側へ案内しやすく、ブリーザ60を装着しやすい。
【0030】
ブリーザ60の円筒部261の付け根部分に、Oリング61が取り付けられる。Oリング61は、ブリーザ60が貫通孔226dに取り付けられた状態において、内周突起226fのリア側のテーパー面に接触する。Oリング61は、ブリーザ60の円筒部の外周面と、貫通孔226dの内周面との間を封止する。
【0031】
本実施形態のモータカバー226は、第1ベアリング27を保持するベアリングホルダと、モータハウジング211の通気孔となるブリーザとを兼ねる構成である。これにより、電動オイルポンプ200の部品点数を削減できる。
【0032】
図1に示すように、第2ベアリング28は、第1収容凹部211aと第2収容凹部212aとを接続する第1貫通孔210aに、リア側から挿入される。第1貫通孔210aの内部には、オイルシール15と、固定リング16と、ウェーブワッシャ17と、第2ベアリング28とが、フロント側から順に配置される。
【0033】
シャフト21は、第2ベアリング28、ウェーブワッシャ17、固定リング16、およびオイルシール15の内孔に通される。シャフト21のフロント側の端部に、ポンプ機構30が連結される。
【0034】
図1に示すように、基板ユニット240は、制御基板40と、制御基板40を径方向外側から覆う基板カバー241と、制御基板40に固定されるバスバーユニット250と、を備える。
【0035】
基板カバー241は、基板ハウジング213側(+Z側)に向かって開口する箱形の部材である。制御基板40は、基板カバー241の図示上側を向く開口部に固定される。基板カバー241は、本実施形態の場合、樹脂製である。基板カバー241は、複数の金属端子241aがインサート成形されたコネクタ241bを有する。
【0036】
バスバーユニット250は、制御基板40のリア側の端部に固定される。バスバーユニット250は、モータ220と制御基板40とを接続する。バスバーユニット250は、第3収容凹部213aと第1収容凹部211aとを繋ぐ第2貫通孔210bの内部に収容される。
【0037】
バスバーユニット250は、3本のジョイントバスバー251a、251b、251cと、3本のジョイントバスバー251a~251cを支持するジョイントバスバーホルダ252とを有する。本実施形態の場合、3本のジョイントバスバー251a~251cは、ジョイントバスバーホルダ252にインサート成形される。この構成によれば、電動オイルポンプ200の組み立て作業性が向上する。
【0038】
3本のジョイントバスバー251a~251cの両端は、ジョイントバスバーホルダ252から外側へ突出する。ジョイントバスバー251a~251cの一方の端部はジョイントバスバーホルダ252からモータ220に向かって延びる。ジョイントバスバー251a~251cの他方の端部は、ジョイントバスバーホルダ252から制御基板40に向かって延びる。
【0039】
3本のジョイントバスバー251a~251cの他方の端部は、制御基板40を厚さ方向に貫通する。3本のジョイントバスバー251a~251cの他方の端部は、制御基板40上の配線パターンと半田接合される。
【0040】
3本のジョイントバスバー251a~251cの他方の端部は、モータ220に向かって延び、バスバーアッシー224と軸方向に重なる位置に達する。ジョイントバスバー251a、251b、251cは、バスバーアッシー224のバスバー224a、224b、224cとともに、バスバーホルダ224dにねじ止めされる。これにより、制御基板40とモータ220とが、バスバーユニット250を介して電気的に接続される。
【0041】
基板ユニット240は、制御基板40をモータ220側に向けた状態で、ポンプボディ210の基板ハウジング213に固定される。本実施形態の場合、基板ユニット240の基板カバー241が、基板ハウジング213にねじ止めされる。制御基板40は、ポンプボディ210と基板カバー241との間に封入される。
【0042】
以上の構成を備える本実施形態の電動オイルポンプ200では、モータカバー226が、貫通孔226dのフロント側の端部に第1ベアリング27を保持する。また、電動オイルポンプ200では、モータカバー226のフロント側を向く面と、モータハウジング211のリア側を向く端面211bとが、平面同士で対向接触しており、互いの径方向の移動を制限する嵌合構造などは設けられていない。これにより、モータカバー226は、ねじ230が緩められた状態において、第1ベアリング27およびシャフト21を保持したまま径方向に移動可能となる。
この構成により、本実施形態によれば、シャフト21の中心軸Jとステータ23の中心軸とを位置合わせした状態で、モータカバー226をモータハウジング211に固定できる。以下、
図4を参照しながら説明する。
【0043】
電動オイルポンプ200の組み立て工程では、モータハウジング211の第1収容凹部211aにロータ22、ステータ23、バスバーアッシー224、およびバスバーカバー225を収容した後、モータカバー226を第1収容凹部211aに被せる。このとき、ねじ230を締め込む前に、シャフト21の調芯を実施する。そして、シャフト21を調芯した状態で保持しながら、ねじ230を締め込んでモータカバー226を固定する。
【0044】
シャフト21の調芯には、
図4に示すように、シャフト21の両端を支持する第1治具50および第2治具51と、ポンプボディ210を固定する固定機構55とが用いられる。
第1治具50は、フロント側の先端に軸方向に延びる円錐状の凸部50aを有するストレートピンである。凸部50aのテーパー面のテーパー軸は、第1治具50の中心軸に一致する。第2治具51は、リア側の先端に軸方向に延びる円錐状の凸部51aを有するストレートピンである。凸部51aのテーパー面のテーパー軸は、第2治具51の中心軸に一致する。
【0045】
固定機構55は、ポンプハウジング212のフロント側の端部に固定される。本実施形態の場合、固定機構55は、リア側に突出する凸部55aを有する。凸部55aが第2収容凹部212aに挿入されることで、固定機構55とポンプボディ210とが径方向に位置決めされる。凸部55a以外の部位を用いて、固定機構55とポンプボディ210とを位置決めしてもよい。
【0046】
固定機構55は、軸方向に延びる貫通孔55bを有する。第2治具51は、固定機構55の貫通孔55b内に位置する。第2治具51は、固定機構55に対して軸方向に進退可能である。
第1治具50および第2治具51は、いずれも、固定機構55に対して位置決めされている。第1治具50の中心軸と、第2治具51の中心軸は、軸方向から見て互いに一致している。
【0047】
シャフト21の調芯工程では、固定機構55にポンプボディ210が固定される。このとき、ポンプボディ210の第1収容凹部211aには、オイルシール15と、固定リング16と、ステータ23と、バスバーアッシー224と、バスバーカバー225とが設置されている。固定機構55にポンプボディ210を固定することで、ポンプボディ210内のステータ23の中心軸に対して、第1治具50および第2治具51の中心軸が位置決めされる。
【0048】
シャフト21の調芯工程では、第1治具50と第2治具51との間に、シャフト21が挟まれて保持される。このとき、シャフト21には、第2ベアリング28と、ロータ22と、第1ベアリング27と、モータカバー226とが取り付けられている。
【0049】
第1治具50側において、モータカバー226は、ブリーザ60が取り外された状態である。ブリーザ60が取り外された貫通孔226dのリア側の開口から、第1治具50がフロント側へ挿入される。第1治具50の先端の凸部50aが、シャフト21のリア側の凹部21bに挿入される。凸部50aがシャフト21の凹部21bを隙間無く押さえることにより、シャフト21の中心軸が、第1治具50の中心軸に対して位置決めされる。
【0050】
第2治具51側において、固定機構55に対して軸方向に進退可能な第2治具51は、モータハウジング211の内部側へ進んだ状態、すなわち第1収容凹部211aにまで進出した状態で組み立て準備される。本実施形態では、第2治具51の先端は、ステータ23の径方向内側まで進出する。
【0051】
ステータ23の径方向内側に位置する第2治具51の先端の凸部51aは、シャフト21のフロント側を向く端面21cの凹部21dに挿入される。凹部21dは、端面21cの中央に位置し、リア側に向かうに従って直径が小さくなるテーパー穴である。凹部21dのテーパー面のテーパー軸は、シャフト21の中心軸に一致する。第2治具51の凸部51aが凹部21dを隙間無く押さえることにより、シャフト21の中心軸が、第2治具51の中心軸に対して位置決めされる。
【0052】
以上により、第1治具50の中心軸と、シャフト21の中心軸と、第2治具51の中心軸とが互いに一致した状態で、シャフト21が第1治具50と第2治具51とに支持される。
第1治具50および第2治具51は、固定機構55に位置決めされている。ポンプボディ210内のステータ23の中心軸も固定機構55に位置決めされている。したがって、上記作業により、シャフト21の中心軸と、ステータ23の中心軸とを互いに一致させることができる。本実施形態では、高い精度でシャフト21の中心軸を、ポンプボディ210内のステータ23の中心軸に合わせ組立することが可能である。
【0053】
次に、第1治具50と第2治具51とによりシャフト21を支持した状態で、第1治具50および第2治具51をフロント側へ移動させる。これにより、シャフト21とシャフト21に支持されるロータ22、第1ベアリング27、第2ベアリング28、およびモータカバー226が、第1収容凹部211a内に進入する。
【0054】
第1収容凹部211aのフロント側の端部に位置するベアリング保持部211dに、第2ベアリング28が挿入される位置で、第1治具50および第2治具51のフロント側への移動が停止される。このとき、ロータ22は、ステータ23の径方向内側に配置される。またモータカバー226のフロント側を向く面と、ポンプボディ210のリア側を向く端面とが、互いに対向する状態で近接配置される。
【0055】
上記のシャフト21のポンプボディ210への設置が完了した状態で、シャフト21の中心軸とステータ23の中心軸との位置合わせは、ほぼ完了する。このとき、シャフト21の中心軸とステータ23の中心軸とにずれがある場合には、第1治具50を中心軸と直交する方向に移動させることで、シャフト21の中心軸の位置を微調整する。軸合わせの微調整は、第2治具51または固定機構55を移動させて行ってもよい。
【0056】
シャフト21とステータ23とが位置決めされた状態で、ねじ230を締め込み、モータカバー226を固定する。本実施形態では、モータカバー226がモータハウジング211に対して径方向に移動可能であるため、ねじ230を締め込む際に、シャフト21とステータ23とが位置ずれすることはない。
【0057】
本実施形態によれば、ステータ23の中心軸に対するシャフト21の傾きを小さくすることができる。これにより、ポンプ機構30において振動および騒音が大きくなるのを抑制できる。
【0058】
本実施形態では、
図4に示すように、貫通孔226dが内周突起226fを有している。内周突起226fは、貫通孔226d内に第1治具50が挿入されたときに、第1治具50の外周面に接近して配置される。これにより、第1治具50に対してモータカバー226が径方向に大きく動いたり、第1治具50の中心軸に対して傾いたりするのを抑制できる。したがって本実施形態によれば、モータカバー226を正確に位置決めされた位置で固定しやすい。
【0059】
本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態、変形例およびなお書き等で説明した各構成(構成要素)を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。
【0060】
シャフト21の両端の凹部21b、21dは、本実施形態では、テーパー穴であるが、凹部21b、21dの形状は、第1治具50および第2治具51を固定可能な範囲で変更可能である。例えば、四角穴、六角穴などの多角形状の穴であってもよく、底面が曲面形状の凹みであってもよい。
【0061】
シャフト21のリア側を向く端面の凹部21bを、シャフト21のリア側を向く端面からリア側へ突出する凸部に変更してもよい。シャフト21のフロント側を向く端面の凹部21dを、シャフト21のフロント側を向く端面からフロント側へ突出する凸部に変更してもよい。シャフト21の凸部としては、四角柱、六角柱などの多角柱状であってもよく、円柱状であってもよい。凸部の外周面に段差を有する段付き形状であってもよい。凸部としては、円錐状、角錐状などの先単に向かって細くなる形状であってよい。凸部としては、全体が曲面形状の出っ張りでもよい。シャフト21がリア側またはフロント側の端面に凸部を有する場合、第1治具50および第2治具51の先端形状は、シャフト21の凸部が嵌合する凹部となる。
【0062】
モータカバー226とモータハウジング211との間を封止する弾性部材227は、本実施形態ではOリングであるが、パッキン、液状ガスケットなどであってもよい。
【0063】
上記実施形態では、モータカバー226は、モータハウジング211のリア側の端面に対して、ねじ止めにより固定される構成であるが、他の固定方法を用いてもよい。モータカバー226の他の固定方法としては、溶接、接着などの固定方法、あるいは、リベット、ピン、クリップなどの固定部材を用いた固定方法を用いることができる。
【符号の説明】
【0064】
21…シャフト、21a,211b…端面、21b…凹部、30…ポンプ機構、60…ブリーザ、211…モータハウジング、220…モータ、226…モータカバー、226b…カバー本体、226c…ベアリング保持部、226d…貫通孔、226f…内周突起、230…ねじ、261a…爪、J…中心軸