(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 27/08 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
H02P27/08
(21)【出願番号】P 2020065296
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下野 聖仁
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-139359(JP,A)
【文献】特開2007-236143(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源から供給される直流電圧を3相の交流電圧に変換し、前記交流電圧をモータに印加するインバータと、
前記直流電源と前記インバータとの間に接続された抵抗を用いて前記インバータの母線電流を検出する電流検出部と、
前記モータに流れる3相の電流を前記母線電流に基づいて算出する算出部と、
所定の周期を有するキャリア信号を用いたPWMにより、前記インバータを制御するPWM信号を生成する生成部と、を具備し、
前記生成部は、前記PWM信号を前記キャリア信号の周期内で時間的に前方または後方へシフトさせ、
前記算出部は、
前記キャリア信号の1周期内で前記3相の電流のうちの2相分の電流の算出のための合計4回のサンプリングに必要な時間が確保できない場合に、シフト後の前記PWM信号に基づいて、第一のキャリア周期の後半に検出された母線電流と、前記第一のキャリア周期に続く第二のキャリア周期の前半に検出された母線電流とを用いて、前記第一のキャリア周期と前記第二のキャリア周期との境界タイミングにおける前記3相の電流を算出し、
前記生成部は、前記第二のキャリア周期に続く第三のキャリア周期で用いる前記PWM信号を生成するための3相の電圧指令値を前記境界タイミングにおける前記3相の電流に基づいて生成する、
モータ制御装置。
【請求項2】
前記算出部は、
前記第一のキャリア周期の後半に検出された母線電流から前記第一のキャリア周期の後半における2相の電流を算出するとともに、前記第二のキャリア周期の前半に検出された母線電流から前記第二のキャリア周期の前半における2相の電流を算出する第一算出部と、
前記第一のキャリア周期の後半における2相の電流と、前記第二のキャリア周期の前半における2相の電流とから、前記境界タイミングにおける2相の電流を算出する補間算出部と、
前記補間算出部によって算出された前記境界タイミングにおける2相の電流から、前記3相の電流のうちの残りの1相の電流を算出する第二算出部と、を有する、
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記補間算出部は、前記第一のキャリア周期の後半における電流値と前記第二のキャリア周期の前半における電流値とを用いて線形補間により前記境界タイミングにおける2相の電流を算出する、
請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
直流電源から供給される直流電圧を3相の交流電圧に変換し、前記交流電圧をモータに印加するインバータと、
前記直流電源と前記インバータとの間に接続された抵抗を用いて前記インバータの母線電流を検出する電流検出部と、
前記モータに流れる3相の電流を前記母線電流に基づいて算出する算出部と、
所定の周期を有するキャリア信号を用いたPWMにより、前記インバータを制御するPWM信号を生成する生成部と、を具備し、
前記生成部は、前記PWM信号を前記キャリア信号の周期内で時間的に前方または後方へシフトさせ、
前記3相の電流のうちの2相分の電流が第一のキャリア周期、及び、前記第一のキャリア周期に続く第二のキャリア周期で1相ずつ検出可能になるようにシフトさせるとともに、前記3相の電流のうちの2相分の電流が前記第二のキャリア周期に続く第三のキャリア周期、及び、前記第三のキャリア周期に続く第四のキャリア周期の前半で1相ずつ検出可能になるようにシフトさせ、
前記算出部は、シフト後の前記PWM信号に基づいて、
前記第一のキャリア周期で検出された母線電流と、
前記第二のキャリア周期で検出された母線電流と、
前記第三のキャリア周期で検出された母線電流と、
前記第四のキャリア周期
の前半で検出された母線電流とを用いて、前記第二のキャリア周期と前記第三のキャリア周期との境界タイミングにおける前記3相の電流を算出し、
前記生成部は、前記第四のキャリア周期に続く第五のキャリア周期で用いる前記PWM信号を生成するための3相の電圧指令値を前記境界タイミングにおける前記3相の電流に基づいて生成する、
モータ制御装置。
【請求項5】
前記算出部は、シフト後の前記PWM信号に基づいて、第一のキャリア周期の後半に検出された母線電流と、前記第一のキャリア周期に続く第二のキャリア周期の後半に検出された母線電流と、前記第二のキャリア周期に続く第三のキャリア周期の前半に検出された母線電流と、前記第三のキャリア周期に続く第四のキャリア周期の前半に検出された母線電流とを用いて、前記第二のキャリア周期と前記第三のキャリア周期との境界タイミングにおける前記3相の電流を算出する、
請求項
4に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記生成部は、前記第一のキャリア周期で第一相の電流が検出可能になり、前記第二のキャリア周期で第二相の電流が検出可能になり、前記第三のキャリア周期で前記第一相または前記第二相の何れかの電流が検出可能になり、かつ、前記第四のキャリア周期の前半で前記第一相及び前記第二相の電流のうち前記第三のキャリア周期で検出が可能になる電流の相と異なる相の電流が検出可能になるように前記PWM信号をシフトさせる、
請求項4に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記算出部は、前記キャリア信号の1周期内で前記3相の電流のうちの2相分の電流の算出のための合計4回のサンプリングに必要な時間が確保することができない場合に、シフト後の前記PWM信号に基づいて前記3相の電流を算出する、
請求項4に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータの駆動を制御するモータ制御装置は、モータに印加される3相の交流電圧(以下では「3相電圧」と呼ぶことがある)を生成するインバータを有する。インバータは、複数のスイッチング素子から構成される。
【0003】
また、モータ制御装置に対してベクトル制御を用いる場合、モ-タ制御装置は、モータの回転速度が速度指令値(目標速度)に一致するようにd軸電流指令値及びq軸電流指令値を生成し、d軸電流指令値及びq軸電流指令値からd軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を生成する。さらに、モータ制御装置は、d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を3相の電圧指令値へ変換する。
【0004】
3相の電圧指令値に基づいてインバータを制御する技術としてPWM(Pulse Width Modulation)が知られている。PWMは、インバータを構成する複数のスイッチング素子のオン/オフ時間の長さを調節することによりインバータの出力電圧(つまり、3相電圧)を変化させる技術である。スイッチング素子のオン/オフを制御する信号(以下では「PWM信号」と呼ぶことがある)は、PWMの搬送波であるキャリア信号と比較値との比較結果に基づいて生成される。PWM信号に応じてスイッチング素子のオン/オフが制御されることにより、モータに3相電圧が印加されてモータの駆動が制御される。以下では、PWMの搬送波であるキャリア信号の所定の周期を「キャリア周期」と呼ぶことがある。
【0005】
また、モータのロータの回転位置(以下では「ロータ位置」と呼ぶことがある)を検出するためのセンサ(以下では「位置センサ」と呼ぶことがある)を使用せずにモータの駆動を制御する技術(以下では「位置センサレス方式」と呼ぶことがある)が知られている。位置センサレス方式では、モータに流れる3相の電流(以下では「モータ電流」と呼ぶことがある)を検出することにより、位置センサを使用せずに、ロータ位置を推定する。
【0006】
また、モータ電流の検出方式として「1シャント検出方式」が知られている。1シャント検出方式では、3相電圧を生成するインバータと直流電源との間に流れる母線電流に基づいてモータ電流のうちの2相分の電流を検出し、残りの1相分の電流を、2相分の電流からキルヒホッフの法則を用いて算出する。1シャント検出方式により2相分の電流から残りの1相分の電流を算出する場合、検出タイミングが異なる2相の相電流を用いるのでキルヒホッフの法則を用いて残りの1相分の電流を算出する際に誤差が生じる可能性がある。
【0007】
これに対して、PWMの三角波キャリア信号の1周期中での頂点(以下では「キャリア頂点」と呼ぶことがある)に対して対称なタイミングで推定した2相の相電流をそれぞれ平均してキャリア頂点での2相の相電流を算出し、算出した2相の相電流から残りの1相の相電流を算出することで、検出タイミングが異なることによる相電流の算出誤差を抑制する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-088260号公報
【文献】特開2001-327173号公報
【文献】特開2013-055772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の技術では、相電流の算出に三角波キャリア信号の1周期の前半部分と後半部分のそれぞれで推定した相電流を用いるため、現在のキャリア周期内で算出した相電流を次のキャリア周期での制御に用いようとしても、三角波キャリア信号の1周期の半分未満の時間しか残されていないため、マイコンの演算速度やインバータの応答特性等の制約により間に合わない。すなわち、従来の技術では、現在のキャリア周期での相電流(モータ電流)を算出する処理が現在の次のキャリア周期に行われ、算出されたモータ電流を用いることができるのはさらに次のキャリア周期になる。そのため、算出されたモータ電流に対応した期間(現在のキャリア周期)とそのモータ電流を用いる制御の期間(次の次のキャリア周期)とのタイムラグが大きくなる。算出された3相のモータ電流に対応した周期とそのモータ電流を用いて制御を行なう周期とのタイムラグが大きくなると、モータの制御の精度が低下する可能性がある。
【0010】
そこで、本開示では、モータの制御の精度を上げることができる技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示のモータ制御装置は、インバータと、電流検出部と、算出部と、生成部とを有する。前記インバータは、直流電源から供給される直流電圧を3相の交流電圧に変換し、前記交流電圧をモータに印加する。前記電流検出部は、前記直流電源と前記インバータとの間に接続された抵抗を用いて前記インバータの母線電流を検出する。前記算出部は、前記モータに流れる3相の電流を前記母線電流に基づいて算出する。前記生成部は、所定の周期を有するキャリア信号を用いたPWMにより、前記インバータを制御するPWM信号を生成する。また、前記生成部は、前記PWM信号を前記キャリア信号の周期内で時間的に前方または後方へシフトさせる。また、前記算出部は、シフト後の前記PWM信号に基づいて、第一のキャリア周期の後半に検出された母線電流と、前記第一のキャリア周期に続く第二のキャリア周期の前半に検出された母線電流とを用いて、前記第一のキャリア周期と前記第二のキャリア周期との境界タイミングにおける前記3相の電流を算出する。また、前記生成部は、前記第二のキャリア周期に続く第三のキャリア周期で用いる前記PWM信号を生成するための3相の電圧指令値を前記境界タイミングにおける前記3相の電流に基づいて生成する。
【発明の効果】
【0012】
開示の技術によれば、モータの制御精度を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本開示の実施例1に係るモータ制御装置の構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、本開示の実施例1に係る3φ電流算出器の構成例を示す図である。
【
図3】
図3は、本開示の実施例1に係るモータ制御装置の動作例を示す図である。
【
図4】
図4は、本開示の実施例1に係る補間算出部の動作例を示す図である。
【
図5】
図5は、本開示の実施例1に係るモータ制御装置の動作例を示す図である。
【
図6】
図6は、本開示の実施例1に係るモータ制御装置の動作例を示す図である。
【
図7】
図7は、本開示の実施例1に係るモータ制御装置の動作例を示す図である。
【
図8】
図8は、本開示の実施例1に係るモータ制御装置の動作例を示す図である。
【
図10】
図10は、本開示の実施例2に係るモータ制御装置の構成例を示す図である。
【
図11】
図11は、本開示の実施例2に係る3φ電流算出器の構成例を示す図である。
【
図12】
図12は、本開示の実施例2に係るキャリア信号の一例を示す図である。
【
図13】
図13は、本開示の実施例2に係る比較処理の一例を示す図である。
【
図14】
図14は、本開示の実施例2に係るPWM信号のシフト処理の一例を示す図である。
【
図15】
図15は、本開示の実施例2に係るシフト例1の説明に供する図である。
【
図16】
図16は、本開示の実施例2に係るシフト例1の説明に供する図である。
【
図17】
図17は、本開示の実施例2に係るシフト例2の説明に供する図である。
【
図18】
図18は、本開示の実施例2に係るシフト例2の説明に供する図である。
【
図19】
図19は、本開示の実施例2に係るシフト例3の説明に供する図である。
【
図20】
図20は、本開示の実施例2に係るシフト例3の説明に供する図である。
【
図21】
図21は、本開示の実施例2に係るシフト例4の説明に供する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施例を図面に基づいて説明する。以下の実施例において同一の構成には同一の符号を付す。
【0015】
[実施例1]
図1は、本開示の実施例1に係るモータ制御装置の構成例を示す図である。
【0016】
図1に示すモータ制御装置100により駆動が制御されるモータMは、例えば、PMSM(永久磁石同期モータ)である。
【0017】
図1に示すモータ制御装置100は、180度通電方式(正弦波通電方式)、位置センサレス方式、1シャント検出方式を採用する。例えば、モータ制御装置100は、モータMを制御するにあたり、シャント抵抗Rsを用いて母線電流Isを検出し、検出した母線電流Isに基づいてPWM信号を生成することによりモータMの駆動を制御する。モータ制御装置100は、インバータ10と、電流検出部20と、算出部60と、電圧検出部30と、生成部40とを有する。
【0018】
インバータ10は、直流電圧を直流電源EDCから入力され、3相(U相,V相,W相)のPWM信号Up,Un,Vp,Vn,Wp,Wnを生成部40から入力される。インバータ10は、PWM信号Up~Wnに従って、直流電圧を3相電圧に変換し、変換後の3相電圧をモータMに印加することによりモータMを駆動する。
【0019】
インバータ10は、上アームのスイッチング素子SWup,SWvp,SWwp及び下アームのスイッチング素子SWun,SWvn,SWwnを有する。インバータ10は、PWM信号Up~Wnに従って各スイッチング素子SWup~SWwnをオン/オフすることにより、直流電圧を3相電圧に変換する。各スイッチングSWup~SWwnの両端には、還流ダイオードDupd~Dwndが接続されている。
【0020】
電流検出部20は、シャント抵抗Rsと電流検出回路21とを有し、シャント抵抗Rsを用いて母線電流Isを検出する。
【0021】
シャント抵抗Rsは、直流電源EDCとインバータ10との間に接続されている。シャント抵抗Rsは、例えば、直流電源EDCにおけるN側の端子とインバータ10との間のDCラインであるNラインLN上に挿入されている。なお、シャント抵抗Rsは、直流電源EDCにおけるP側の端子とインバータ10との間のDCラインであるPラインLP上に挿入されていても良い。
【0022】
シャント抵抗Rsには、モータ電流であるU相電流、V相電流、W相電流と、PWM信号とに応じた母線電流Isが流れる。このとき、シャント抵抗Rsの両端に電圧降下が生じる。電流検出回路21は、この電圧降下の大きさとシャント抵抗Rsの抵抗値とから、シャント抵抗Rsに流れる母線電流Isを検出し、検出結果を算出部60へ出力する。
【0023】
算出部60は、3φ電流算出器61を有する。3φ電流算出器61は、電流検出部20により検出された母線電流Isと生成部40により生成されたPWM信号Up~Wnとに基づいてモータ電流iu,iv,iwを算出し、算出したモータ電流iu,iv,iwを生成部40へ出力する。3φ電流算出器61の詳細については後述する。
【0024】
電圧検出部30は、DC電圧検出回路31とDC電圧算出器32とを有し、母線電圧を検出する。DC電圧検出回路31は、PラインLPとNラインLNとの間の母線電圧を検出し、検出結果をDC電圧算出器32へ出力する。DC電圧算出器32は、検出結果をDC電圧Vdcへ変換し、変換後のDC電圧Vdcを生成部40へ出力する。
【0025】
生成部40は、速度指令値ωm*をモータ制御装置100の外部(例えば、モータ制御装置100の上位のコントローラ)から入力され、モータ電流iu,iv,iwを算出部60から入力され、DC電圧Vdcを電圧検出部30から入力される。生成部40は、速度指令値ωm*、モータ電流iu,iv,iw、及び、DC電圧Vdcに基づいて、PWM信号Up~Wnを生成する。生成部40は、モータMが有するロータが速度指令値ωm*によって示される目標速度で回転するようにPWM信号Up~Wnを生成する。
【0026】
生成部40は、3φ/dq座標変換器42と、位置・速度推定器44と、1/Pn変換器51と、減算器52と、d軸電流設定器48と、減算器46と、速度制御器49と、減算器47と、d軸q軸電圧設定器45と、dq/3φ座標変換器43と、PWM器41とを有する。
【0027】
3φ/dq座標変換器42は、モータ電流iu,iv,iwを3φ電流算出器61から入力され、固定座標系(UVW座標系)に対する回転座標系(dq座標系)の位相角θdqを位置・速度推定器44から入力される。3φ/dq座標変換器42は、位相角θdqを用いて、固定座標系の電流ベクトル(iu,iv,iw)を回転座標系の電流ベクトル(id,iq)へ座標変換して時系列で記憶する。3φ/dq座標変換器42は、変換後のd軸電流idを位置・速度推定器44、d軸q軸電圧設定器45及び減算器46へ出力し、変換後のq軸電流iqを位置・速度推定器44、d軸q軸電圧設定器45及び減算器47へ出力する。
【0028】
位置・速度推定器44は、d軸電流id及びq軸電流iqを3φ/dq座標変換器42から入力され、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*をd軸q軸電圧設定器45から入力される。位置・速度推定器44は、d軸電流id、q軸電流iq、d軸電圧指令値Vd*、及び、q軸電圧指令値Vq*に基づいて、モータMの角速度ωe及び回転座標系の位相角θdqをそれぞれ推定し、角速度ωeを1/Pn変換器51へ出力し、位相角θdqを3φ/dq座標変換器42及びdq/3φ座標変換器43へ出力する。
【0029】
1/Pn変換器51は、電気的な推定角速度ωeを位置・速度推定器44から入力される。1/Pn変換器51は、推定角速度ωeに1/Pn(PnはモータMの極対数)を乗算することにより、電気的な推定角速度ωeをモータMのロータにおける機械的な角速度ωmに変換する。1/Pn変換器51は、変換後の角速度ωmを減算器52へ出力する。
【0030】
減算器52は、角速度ωmを1/Pn変換器51から入力され、速度指令値ωm*をモータ制御装置100の外部(例えば、モータ制御装置100の上位のコントローラ)から入力される。減算器52は、速度指令値ωm*から推定角速度ωmを減算することにより速度偏差Δωを算出し、算出した速度偏差Δωを速度制御器49へ出力する。
【0031】
d軸電流設定器48は、所定の値のd軸電流指令値id*を生成し、生成したd軸電流指令値id*を減算器46へ出力する。
【0032】
減算器46は、d軸電流指令値id*をd軸電流設定器48から入力され、d軸電流idを3φ/dq座標変換器42から入力される。減算器46は、d軸電流指令値id*からd軸電流idを減算することによりd軸電流偏差Δidを算出し、算出したd軸電流偏差Δidをd軸q軸電圧設定器45へ出力する。
【0033】
速度制御器49は、速度偏差Δωを減算器52から入力される。速度制御器49は、速度偏差Δωがゼロに近づくように、q軸電流指令値iq*を制御する。速度制御器49は、制御後のq軸電流指令値iq*を減算器47へ出力する。
【0034】
減算器47は、q軸電流指令値iq*を速度制御器49から入力され、q軸電流iqを3φ/dq座標変換器42から入力される。減算器47は、q軸電流指令値iq*からq軸電流iqを減算することによりq軸電流偏差Δiqを算出し、算出したq軸電流偏差Δiqをd軸q軸電圧設定器45へ出力する。
【0035】
d軸q軸電圧設定器45は、d軸電流偏差Δidを減算器46から入力され、q軸電流偏差Δiqを減算器47から入力される。d軸q軸電圧設定器45は、d軸電流偏差Δid及びq軸電流偏差Δiqのそれぞれがゼロに近づくようなd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*をそれぞれ算出する。d軸q軸電圧設定器45は、算出したd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を位置・速度推定器44及びdq/3φ座標変換器43へ出力する。
【0036】
dq/3φ座標変換器43は、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*をd軸q軸電圧設定器45から入力され、位相角θdqを位置・速度推定器44から入力される。dq/3φ座標変換器43は、位相角θdqを用いて、回転座標系の電圧ベクトル(Vd*,Vq*)を固定座標系の電圧ベクトル(Vu*,Vv*,Vw*)へ座標変換する。
【0037】
すなわち、dq/3φ座標変換器43は、3φ電流算出器61により算出されたモータ電流iu,iv,iwに応じたd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を座標変換して3相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を生成する。dq/3φ座標変換器43は、生成した3相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*をPWM器41へ出力する。
【0038】
PWM器41は、3相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*をdq/3φ座標変換器43から入力され、DC電圧VdcをDC電圧算出器32から入力される。また、PWM器41は、モータ制御装置100の外部(例えば、モータ制御装置100の上位のコントローラ)から、PWMの搬送波であるキャリア信号と、キャリア周期とが入力される。PWM器41は、キャリア信号、キャリア周期、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*及びDC電圧Vdcに基づいて、PWM信号Up~Wnを生成する。
【0039】
例えば、PWM器41には、三角波信号がキャリア信号として入力され、三角波信号の周期がキャリア周期として入力される。
【0040】
PWM器41は、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*のそれぞれとキャリア信号とを比較することで、PWM信号Up~Wnを生成する。例えば、PWM器41は、比較値としての電圧指令値Vu*とキャリア信号とを比較し、キャリア信号のレベルが電圧指令値Vu*より大きいときは、U相のPWM信号Upをオン、U相のPWM信号Unをオフとして生成し、キャリア信号のレベルが比較値としての電圧指令値Vu*より小さいときは、U相のPWM信号Upをオフ、U相のPWM信号Unをオンとして生成し、生成したPWM信号Up,Upをスイッチング素子SWup,SWunのそれぞれに供給する。同様に、PWM器41は、比較値としての電圧指令値Vv*とキャリア信号との比較結果に従ってV相のPWM信号Vp,Vnを生成し、生成したPWM信号Vp,Vnをスイッチング素子SWvp,SWvnのそれぞれに供給する。また同様に、PWM器41は、比較値としての電圧指令値Vw*とキャリア信号との比較結果に従ってW相のPWM信号Wp,Wnを生成し、生成したPWM信号Wp,Wnをスイッチング素子SWwp,SWwnのそれぞれに供給する。
【0041】
以下では、三角波信号であるキャリア信号において、山側の頂点を「山」と呼び、谷側の頂点を「谷」と呼ぶことがある。また以下では、キャリア信号の1周期(つまり、1キャリア周期)において、谷から山までの範囲を「キャリア前半」と呼び、山から谷までの範囲を「キャリア後半」と呼ぶことがある。よって、キャリア前半及びキャリア後半のそれぞれの長さは、キャリア周期の2分の1に相当する。
【0042】
例えば、比較値である電圧指令値とキャリア信号である三角波信号との比較処理をキャリア信号の山を基準にして行う場合(キャリア信号が山基準である場合)、キャリア信号の山がキャリア周期の中央になるように各キャリア周期を設定する。そして、PWM器41は、1キャリア周期内でレベルが一定の電圧指令値Vu
*,Vv
*,Vw
*を与えられ、キャリア信号のレベルが電圧指令値Vu
*,Vv
*,Vw
*を超えた時点でP側のPWM信号Up,Vp,Wpをオンレベルにする一方で、N側のPWM信号Un,Vn,Wnをオフレベルにし、キャリア信号のレベルが電圧指令値Vu
*,Vv
*,Vw
*以下になった時点でP側のPWM信号Up,Vp,Wpをオフレベルにする一方で、N側のPWM信号Un,Vn,Wnはオンレベルにする。このとき、各キャリア周期において、PWM信号Up,Vp,Wpは、キャリア信号の山に対して対称なパターンになる(
図3参照)。また、モータMが駆動しているとき、キャリア周期ごとに電圧指令値Vu
*,Vv
*,Vw
*のレベルが変わるので、隣り合うキャリア周期で見た場合、PWM信号Up,Vp,Wpは、キャリア信号の谷に対しては非対称なパターンになる(
図3参照)。
【0043】
また例えば、比較値である電圧指令値とキャリア信号である三角波信号との比較処理をキャリア信号の谷を基準にして行う場合(キャリア信号が谷基準である場合)、キャリア信号の谷がキャリア周期の中央になるように各キャリア周期を設定する。そして、PWM器41は、1キャリア周期内でレベルが一定の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を与えられ、キャリア信号のレベルが電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を超えた時点でP側のPWM信号Up,Vp,Wpをオンレベルにする一方でN側のPWM信号Un,Vn,Wnはオフレベルにし、キャリア信号のレベルが電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*以下になった時点でP側のPWM信号Up,Vp,Wpをオフレベルにする一方で、N側のPWM信号Un,Vn,Wnはオンレベルにする。このとき、各キャリア周期において、PWM信号Up,Vp,Wpは、キャリア信号の谷に対して対称なパターンになる(図示せず)。また、モータMが駆動しているとき、キャリア周期ごとに電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*のレベルが変わるので、隣り合うキャリア周期で見た場合、PWM信号Up,Vp,Wpは、キャリア信号の山に対しては非対称なパターンになる(図示せず)。
【0044】
図2は、本開示の実施例1に係る3φ電流算出器の構成例を示す図である。
図3は、本開示の実施例1に係るモータ制御装置の動作例を示す図である。
図4は、本開示の実施例1に係る補間算出部の動作例を示す図である。以下では、キャリア信号が山基準である場合を一例に挙げて説明するが、以下に説明する技術は、キャリア信号が谷基準である場合についても同様に適用できる。
【0045】
3φ電流算出器61は、電流検出部20により検出された母線電流Isと生成部40により生成されたPWM信号Up~Wnとに基づいて、モータ電流iu,iv,iwを算出する。
【0046】
例えば、3φ電流算出器61は、第一のキャリア周期のPWM信号Up~Wnと、第一のキャリア周期のキャリア後半に検出された母線電流Isと、第一のキャリア周期の次のキャリア周期である第二のキャリア周期のPWM信号Up~Wnと、第二のキャリア周期のキャリア前半に検出された母線電流Isとに基づいて、第一のキャリア周期と第二のキャリア周期との境界タイミングにおけるモータ電流を算出する。3φ電流算出器61は、算出したモータ電流を、例えば第二のキャリア周期内に、生成部40へ出力する。生成部40は、3φ電流算出器61から入力されたモータ電流を2相の電流id,iqに変換し、変換後の2相の電流と、速度指令値ωm*に基づいた2相の電流指令値id*,iq*との間の電流偏差がゼロになるように2相の電圧指令値Vd*,Vq*を生成する。また、生成部40は、2相の電圧指令値Vd*,Vq*を3相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に変換することにより、第二のキャリア周期の次のキャリア周期である第三のキャリア周期に用いる3相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を生成する。そして、生成部40は、生成した3相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*とDC電圧Vdcとに基づいてPWM信号Up~Wnを生成する。
【0047】
例えば、3φ電流算出器61は、キャリア周期Tc1のPWM信号Up~Wnの状態と、キャリア周期Tc1のキャリア後半の期間Tc1bに検出された母線電流Isと、キャリア周期Tc1に続くキャリア周期Tc2のPWM信号Up~Wnの状態と、キャリア周期Tc2のキャリア前半の期間Tc2aに検出された母線電流Isとに基づいて、キャリア周期Tc1とキャリア周期Tc2との境界タイミングtc12におけるモータ電流iu,iv,iwを算出する。
【0048】
3φ電流算出器61は、算出したモータ電流iu,iv,iwを、例えばキャリア周期Tc2内に、生成部40へ出力する。3φ電流算出器61は、算出したモータ電流iu,iv,iwを、例えばキャリア周期Tc2のキャリア後半の期間Tc2b内に、生成部40へ出力する。また、生成部40は、Tc2b期間で、キャリア周期Tc2に続くキャリア周期Tc3用の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を、境界タイミングtc12におけるモータ電流iu,iv,iwに基づいて生成する。
【0049】
すなわち、生成部40は、キャリア周期Tc3の開始タイミングまでに境界タイミングtc12における3相の電流iu,iv,iwを2相の電流id,iqに変換し、変換後の2相の電流と、速度指令値ωm*に基づいた2相の電流指令値id*,iq*との電流偏差がゼロになるように2相の電圧指令値Vd*,Vq*を生成し、2相の電圧指令値Vd*,Vq*を3相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に変換することにより、キャリア周期Tc3に用いる3相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を生成する。
【0050】
図2に示すように、3φ電流算出器61は、AD変換部61aと、第一算出部61bと、補間算出部61cと、第二算出部61dとを有する。
【0051】
AD変換部61aには、電流検出回路21により検出された母線電流Isが入力される。AD変換部61aは、アナログの母線電流Isに対してサンプリングを行うことにより、アナログの母線電流Isをデジタル値の母線電流Isに変換し、変換後のデジタル値の母線電流Isを第一算出部61bへ出力する。AD変換部61aは、PWM信号Up~Wnに基づいて母線電流Isを取得する。
【0052】
第一算出部61bは、デジタル値の母線電流IsをAD変換部61aから入力される。第一算出部61bは、第一のキャリア周期のPWM信号と、第一のキャリア周期のキャリア後半に検出された母線電流とから、第一のキャリア周期のキャリア後半における2相の電流を算出する。また、第一算出部61bは、第一のキャリア周期に続く第二のキャリア周期のPWM信号と、第二のキャリア周期のキャリア前半に検出された母線電流とから、第二のキャリア周期のキャリア前半における2相の電流を算出する。
【0053】
例えば
図3に示すように、第一算出部61bは、キャリア周期Tc1のPWM信号Up~Wnと、キャリア周期Tc1のキャリア後半の期間Tc1bに検出された母線電流Isとから、キャリア周期Tc1のキャリア後半の期間Tc1bにおける2相の電流iu,iwを算出する。
【0054】
例えば、キャリア周期Tc1のキャリア後半の期間Tc1bにおいて、期間TP1では、PWM信号Up,Vp,Wpが何れもオンレベルなので、スイッチング素子SWup,SWvp,SWwpが何れもオンになる一方で、他のスイッチング素子はオフになる。このとき、何れの相電流も流れないので、母線電流Isはゼロになる。
【0055】
期間Tc1bにおける期間TP1に続く期間TP2では、PWM信号Upがオフレベル(PWM信号Unがオンレベル)であり、PWM信号Vp,Wpがオンレベルなので、スイッチング素子SWun,SWvp,SWwpがオンになる一方で、他のスイッチング素子はオフになる。このとき、インバータ10からモータMに向かう向きを電流の「正」の向きとすると、U相電流「-Iu=Iv+Iw」が母線電流Isとして流れる。第一算出部61bは、例えば、期間TP2に検出された母線電流Isを、期間TP2の中央のタイミングtu1におけるU相電流-Iuとして算出する。
【0056】
期間Tc1bにおける期間TP2に続く期間TP3では、PWM信号Up,Vpがオフレベル(PWM信号Un,Vnがオンレベル)であり、PWM信号Wpがオンレベルであるので、スイッチング素子SWun,SWvn,SWwpがオンになる一方で、他のスイッチング素子はオフになる。このとき、インバータ10からモータMに向かう向きを電流の「正」の向きとすると、W相電流「Iw=-Iu-Iv」が母線電流Isとして流れる。第一算出部61bは、例えば、期間TP3に検出された母線電流Isを、期間TP3の中央のタイミングtw1におけるW相電流Iwとして算出する。
【0057】
また例えば、
図3に示すように、第一算出部61bは、キャリア周期Tc2のPWM信号Up~Wnと、キャリア周期Tc2のキャリア前半の期間Tc2aに検出された母線電流Isとから、キャリア周期Tc2のキャリア前半の期間Tc2aにおける2相の電流iu,iwを算出する。
【0058】
例えば、キャリア周期Tc2のキャリア前半の期間Tc2aにおいて、期間TP4では、PWM信号Up,Vpがオフレベル(PWM信号Un,Vnがオンレベル)であり、PWM信号Wpがオンレベルなので、スイッチング素子SWun,SWvn,SWwpがオンになる一方で、他のスイッチング素子はオフになる。このとき、インバータ10からモータMに向かう向きを電流の「正」の向きとすると、W相電流「Iw=-Iu-Iv」が母線電流Isとして流れる。第一算出部61bは、例えば、期間TP4に検出された母線電流Isを、期間TP4の中央のタイミングtw2におけるW相電流Iwとして算出する。
【0059】
また、期間Tc2aにおける期間TP4に続く期間TP5では、PWM信号Upがオフレベル(PWM信号Unがオンレベル)であり、PWM信号Vp,Wpがオンレベルなので、スイッチング素子SWun,SWvp,SWwpがオンになる一方で、他のスイッチング素子はオフになる。このとき、インバータ10からモータMに向かう向きを電流の「正」の向きとするとき、U相電流「-Iu=Iv+Iw」が母線電流Isとして流れる。第一算出部61bは、例えば、期間TP5に検出された母線電流Isを、期間TP5の中央のタイミングtu2におけるU相電流-Iuとして算出する。
【0060】
期間Tc2aにおける期間TP5に続く期間TP6では、PWM信号Up,Vp,Wpがオンレベルなので、スイッチング素子SWup,SWvp,SWwpがオンになる一方で、他のスイッチング素子はオフになる。このとき、何れの相電流も流れないので、母線電流Isはゼロになる。
【0061】
第一算出部61bは、第一のキャリア周期のキャリア後半における2相の電流と、第二のキャリア周期のキャリア前半における2相の電流とを補間算出部61cへ出力する。例えば、第一算出部61bは、タイミングtu1におけるU相電流-Iu、タイミングtw1におけるW相電流Iw、タイミングtw2におけるW相電流Iw、タイミングtu2におけるU相電流-Iuをそれぞれ補間算出部61cへ出力する。
【0062】
補間算出部61cは、第一算出部61bでの算出結果、すなわち、第一のキャリア周期のキャリア後半における2相の電流と、第二のキャリア周期のキャリア前半における2相の電流とを第一算出部61bから入力される。例えば、補間算出部61cは、タイミングtu1におけるU相電流-Iu、タイミングtw1におけるW相電流Iw、タイミングtw2におけるW相電流Iw、タイミングtu2におけるU相電流-Iuをそれぞれ第一算出部61bから入力される。
【0063】
補間算出部61cは、第一のキャリア周期のキャリア後半における2相の電流と、第二のキャリア周期のキャリア前半における2相の電流とから、第一のキャリア周期と第二のキャリア周期との境界タイミングにおける2相の電流を算出する。
【0064】
例えば
図3に示すように、補間算出部61cは、キャリア周期Tc1のキャリア後半の期間Tc1bにおける2相の電流iu,iwと、キャリア周期Tc2のキャリア前半の期間Tc2aにおける2相の電流iu,iwとから、境界タイミングtc12における2相の電流iu,iwを算出する。例えば、補間算出部61cは、タイミングtu1におけるU相電流-Iuとタイミングtu2におけるU相電流-Iuとから、境界タイミングtc12におけるU相電流-Iuを算出する。また、補間算出部61cは、タイミングtw1におけるW相電流Iwとタイミングtw2におけるW相電流Iwとから、境界タイミングtc12におけるW相電流-Iwを算出する。
【0065】
このとき、上記のように、キャリア周期ごとに電圧指令値Vu
*,Vv
*,Vw
*のレベルが変わり得るので、隣り合うキャリア周期で見た場合、PWM信号Up,Vp,Wpは、キャリア信号の谷である境界タイミングに対して非対称なパターンになる。例えば、
図3に示すように、キャリア周期Tc1のキャリア後半の期間Tc1bにおけるPWM信号Up,Vp,Wpと、キャリア周期Tc2のキャリア前半の期間Tc2aにおけるPWM信号Up,Vp,Wpとは、境界タイミングtc12に対して非対称なパターンになる。
【0066】
仮に、補間算出部61cが、タイミングtu1におけるU相電流-Iuとタイミングtu2におけるU相電流-Iuとを単純に平均してU相電流を求めるとすると、求められたU相電流は、境界タイミングtc12からずれたタイミングでのU相電流になってしまう。または、補間算出部61cが、タイミングtw1におけるW相電流Iwとタイミングtw2におけるW相電流Iwとを単純に平均してW相電流を求めるとすると、求められたW相電流は、境界タイミングtc12からずれたタイミングでのW相電流になってしまう。すなわち、第一のキャリア周期のキャリア後半における2相の電流と第二のキャリア周期のキャリア前半における2相の電流との単純平均により2相の電流を算出した場合、算出された2相の電流は、互いに異なるタイミングでの電流になる(
図3,
図4参照)ので、電流の算出における誤差が増大する可能性がある。
【0067】
そこで、本実施例では、補間算出部61cが、相電流を単純平均で算出せずに、線形補間により算出する。すなわち、補間算出部61cは、第一のキャリア周期のキャリア後半における2相の電流と、第二のキャリア周期のキャリア前半における2相の電流との間での境界タイミングにおける2相の電流を算出するために線形補間を用いる。
【0068】
例えば
図3に示すように、補間算出部61cは、キャリア周期Tc1のキャリア後半の期間Tc1bにおける2相の電流iu,iwと、キャリア周期Tc2のキャリア前半の期間Tc2aにおける2相の電流iu,iwとから、境界タイミングtc12における2相の電流iu,iwを線形補間により算出する。このとき、補間算出部61cは、PWM信号Up~Wnを用いて、タイミングtu1,tw1,tw2,tu2及び境界タイミングtc12の時間軸上の位置を認識する。また例えば、補間算出部61cは、タイミングtu1におけるU相電流-Iuとタイミングtu2におけるU相電流-Iuとから境界タイミングtc12におけるU相電流-Iuを線形補間により算出する。また例えば、補間算出部61cは、タイミングtw1におけるW相電流Iwとタイミングtw2におけるW相電流Iwとから境界タイミングtc12におけるW相電流Iwを線形補間により算出する。なお、補間算出部61cは、境界タイミングtc12における2相の電流iu,iwを線形補間により算出する処理を、キャリア周期Tc2のキャリア後半の期間Tc2b内に行うことができる。
【0069】
例えば、
図4に示すように、タイミングtu1におけるU相電流が-Iu1であり、タイミングtu2におけるU相電流が-Iu2である場合、タイミングtu1~tc12の期間の長さをTi、タイミングtc12~tu2の期間の長さをTivとすると、境界タイミングtc12におけるU相電流Iu12は、式(1)によって表すことができる。
Iu12
={(-Iu2)-(-Iu1)}×Ti/(Tiv+Ti)+(-Iu1)…(1)
【0070】
同様に、タイミングtw1におけるW相電流がIw1であり、タイミングtw2におけるW相電流がIw2である場合、タイミングtw1~tc12の期間の長さをTii、タイミングtc12~tw2の期間の長さをTiiiとすると、境界タイミングtc12におけるW相電流Iw12は、式(2)によって表すことができる。
Iw12
={(+Iw2)-(+Iw1)}×Tii/(Tiii+Tii)+(+Iw1)…(2)
【0071】
補間算出部61cは、境界タイミングにおける2相の電流を第二算出部61dへ出力する。例えば、補間算出部61cは、境界タイミングtc12におけるU相電流Iu12及びW相電流Iw12を第二算出部61dへ出力する。
【0072】
第二算出部61dは、境界タイミングにおける2相の電流を補間算出部61cから入力される。例えば、第二算出部61dは、境界タイミングtc12におけるU相電流Iu12及びW相電流Iw12を補間算出部61cから入力される。第二算出部61dは、モータ電流のうち、補間された2相の電流から残りの1相の電流を算出する。
【0073】
例えば
図3に示す場合、第二算出部61dは、境界タイミングtc12におけるU相電流Iu12及びW相電流Iw12から、3相条件「Iu+Iv+Iw=0」を用いて、境界タイミングtc12におけるV相電流Iv12を算出する。すなわち、第二算出部61dは、境界タイミングtc12におけるV相電流Iv12を、式(3)に従って求める。なお、第二算出部61dは、境界タイミングtc12におけるV相電流Iv12の算出を、キャリア周期Tc2のキャリア後半の期間Tc2b内に行うことができる。
Iv12=-Iu12-Iw12…(3)
【0074】
第二算出部61dは、算出したIv12,Iu12,Iw12のモータ電流を3φ/dq座標変換器42へ出力する。
【0075】
図5~
図8は、本開示の実施例1に係るモータ制御装置の動作例を示す図である。
【0076】
モータ制御装置100では、キャリア信号の谷に対して前のキャリア周期のキャリア後半の期間内の2点と、後のキャリア周期のキャリア前半の期間内の2点とにおいて母線電流Isがサンプリングされる。モータ制御装置100は、これらの各サンプリング点について、時間、検出値、検出相、電流符号を互いに関連付けてメモリ(図示せず)に記憶させる。そして、モータ制御装置100は、サンプリングデータから、キャリア信号の谷のタイミング(境界タイミング)での2相分の電流値を線形補間によって算出する。そして、モータ制御装置100は、キャリア信号の谷のタイミングにおける2相分の電流値から、残り1相分の電流値を算出する。
【0077】
例えば、
図5に示すように、境界タイミングより前のキャリア周期のキャリア後半に発生する母線電流は、
0[A]
↓
負の最小電圧相(図の例ではU相)
↓
正の最大電圧相(図の例ではW相)
↓
0[A]
となる。
【0078】
このうち、負の最小電圧相電流(
図5の場合、U相電流)と正の最大電圧相電流(
図5の場合、W相電流)とが発生する区間のそれぞれにおいてサンプリングが実施される。
【0079】
図6に示すように、境界タイミングより後のキャリア周期のキャリア前半に発生する母線電流は、
0[A]
↓
正の最大電圧相(図の例ではW相)
↓
負の最小電圧相(図の例ではU相)
↓
0[A]
となる。
【0080】
このうち、正の最大電圧相電流(
図6の場合、W相電流)と負の最小電圧相電流(
図6の場合、U相電流)とが発生する区間のそれぞれにおいてサンプリングが実施される。
【0081】
このとき、モータ制御装置100は、
図7に示すサンプリング点に対して、順にi,ii,iii,ivと記号を振って(
図4参照)、
図8に示すサンプリング点のデータとして、各サンプリング点の時間、検出値、検出相、電流符号を関連付けてメモリ(図示せず)に記憶させる。
【0082】
そして、モータ制御装置100は、そのサンプリングデータから、キャリア信号の谷のタイミング(境界タイミング)での2相分の電流値を線形補間によって算出する。モータ制御装置100は、関連付けて記憶されたデータから、同じ検出相のデータを検索する。
【0083】
図7及び
図8の例では、iとivとがU相、iiとiiiとがW相としてピックアップされる。モータ制御装置100は、メモリ(図示せず)に記憶された上記の式(1),(2)を用いて谷での値を算出する。
【0084】
例えば、U相は、式(1)で算出される。式(1)において、Tiは、タイミングi(tu1)から谷(tc12)までの時間を表している。Tivは、谷(tc12)からタイミングiv(tu2)までの時間を表している。
【0085】
同様に、W相は、式(2)で算出される。式(2)において、Tiiは、タイミングii(tw1)から谷(tc12)までの時間を表している。Tiiiは、谷(tc12)からタイミングiii(tw2)までの時間を表している。
【0086】
モータ制御装置100は、谷のタイミング(境界タイミング)における2相分の電流値から、残り1相分の電流値を算出する。例えば、モータ制御装置100は、式(1),(2)で算出した2相分の電流値から、残りのV相電流値を算出する。式(1),(2)で算出された2相分の電流のデータは谷のタイミングでのデータとして時間的に整合がとれているため、「Iu+Iv+Iw=0」が成立する。したがって、残りのV相電流値は、メモリ(図示せず)に記憶された式(3)で算出される。
【0087】
ここで、仮に、
図9の比較例に示すように、現在のキャリア周期Tc902内で2相の電流を算出した後に2相の電流値を基に他の1相の電流値を算出する場合を考える。この場合、算出された3相の相電流を現在の次のキャリア周期Tc903での制御に用いようとしても間に合わない。すなわち、
図9に示す比較例では、3相の電流値から電圧指令値を生成する処理が現在の次のキャリア周期Tc903に行われ、生成された3相の電流指令値を用いるのは現在の次のさらに次のキャリア周期Tc904になる。そのため、算出された3相の相電流に対応した周期(現在のキャリア周期Tc902)と制御の周期(次の次のキャリア周期Tc904)とのタイムラグが大きくなる。算出された3相の相電流に対応した周期と制御の周期とのタイムラグが大きくなるとモータの制御の精度が低下する。
【0088】
これに対し、本実施例では、モータ制御装置100において、算出部60は、第一のキャリア周期のPWM信号と、第一のキャリア周期のキャリア後半に検出された母線電流と、第一のキャリア周期に続く第二のキャリア周期のPWM信号と、第二のキャリア周期のキャリア前半に検出された母線電流とに基づいて、第一のキャリア周期と第二のキャリア周期との境界タイミングにおける3相の電流を算出する。生成部40は、境界タイミングにおける3相の電流に基づいて、第二のキャリア周期に続く第三のキャリア周期の3相の電圧指令値を生成する。これにより、算出された3相の相電流に対応した期間である現在のキャリア周期と、その相電流に基づいて生成した電圧指令値とで次のキャリア周期の制御を行うことができる。この結果、算出された3相の相電流に対応したキャリア周期と、その相電流とを用いて制御が行われるキャリア周期とのタイムラグを低減できる。この結果、モータの制御の精度を向上できる。
【0089】
以上、実施例1について説明した。
【0090】
[実施例2]
以下では、本開示の実施例2について、上記の実施例1と異なる点について説明する。
【0091】
図10は、本開示の実施例2に係るモータ制御装置の構成例を示す図である。
図10において、PWM器41は、AD変換部61aでのサンプリングに必要な時間(以下では「サンプリング必要時間」と呼ぶことがある)がモータ制御装置100の外部(例えば、モータ制御装置100の上位のコントローラ)から入力される。また、PWM器41は、AD変換部61aに対するサンプリングの開始指示(以下では「AD変換トリガ」と呼ぶことがある)を生成し、生成したAD変換トリガをAD変換部61aへ出力する。また、PWM器41は、PWM器41への入力に基づいて、モータ電流の検出可否を表す検出不可フラグを“TRUE” (検出不可)または“FALSE”(検出可)に設定し、設定後の検出不可フラグを3φ/dq座標変換器42へ出力する。
【0092】
また、PWM器41は、式(4),(5),(6)に従って、DC電圧Vdcに対する各相の電圧指令値電圧Vu*,Vv*,Vw*のデューティであるU相デューティDuty_u,V相デューティDuty_v,W相デューティDuty_wを算出する。
Duty_u=Vu*/Vdc…(4)
Duty_v=Vv*/Vdc…(5)
Duty_w=Vw*/Vdc…(6)
【0093】
また、PWM器41は、デューティDuty_u,Duty_v,Duty_wと、モータ制御装置100の外部から入力されるキャリア周期Tcとに基づいて、式(7),(8),(9)に従って、スイッチング素子SWup,SWvp,SWwpのオン時間であるU相オン時間On_u,V相オン時間On_v,W相オン時間On_wを算出する。
On_u=Tc・Duty_u…(7)
On_v=Tc・Duty_v…(8)
On_w=Tc・Duty_w…(9)
【0094】
また、PWM器41は、オン時間On_u,On_v,On_wと、U相デューティDuty_u,V相デューティDuty_v,W相デューティDuty_wと、モータ制御装置100の外部から入力されるキャリア信号、キャリア周期及びサンプリング必要時間とに基づいて、AD変換トリガとPWM信号Up,Un,Vp,Vn,Wp,Wnとを生成するとともに、検出不可フラグを設定する。PWM器41は、オンレベルである時間がU相オン時間On_uであるPWM信号Up、オンレベルである時間がV相オン時間On_vであるPWM信号Vp、及び、オンレベルである時間がW相オン時間On_wであるPWM信号Wpを生成する。
【0095】
図11は、本開示の実施例2に係る3φ電流算出器の構成例を示す図である。
図11において、AD変換部61aは、PWM器41から入力されるAD変換トリガに従ってアナログの母線電流Isに対してサンプリングを行うことにより、アナログの母線電流Isをデジタル値の母線電流Isに変換する。
【0096】
図12は、本開示の実施例2に係るキャリア信号の一例を示す図である。PWM器41には、
図12に示すような三角波信号がキャリア信号として入力される。また、
図12におけるキャリア信号の振幅にデューティが対応付けられ、キャリア信号の振幅を0~1としたとき、比較値が1のときのデューティが0%、0のときのデューティが100%となる。
【0097】
図13は、本開示の実施例2に係る比較処理の一例を示す図である。PWM器41は、
図13に示すように、比較値とキャリア信号とを比較することによりPWM信号Up~Wnを生成する。ここで、PWM器41は、U相デューティDuty_u,V相デューティDuty_v,W相デューティDuty_wに応じて、各相の比較値を設定する。比較値とキャリア信号との比較処理は、U相、V相、W相の各相毎に行われる。
【0098】
例えば、山を基準にして比較値とキャリア信号との比較処理が行われる場合(つまり、キャリア信号が山基準である場合)、所定のキャリア周期で三角波キャリア信号が生成されるとキャリア周期の中央が山になる。そして、PWM器41は、キャリア信号のレベルが比較値を超えた時点でPWM信号Up,Vp,Wpをオンレベルにする一方でPWM信号Un,Vn,Wnをオフレベルにし、キャリア信号のレベルが比較値以下になった時点でPWM信号Up,Vp,Wpをオフレベルにする一方でPWM信号Un,Vn,Wnをオンレベルにする。よって、
図13に示すように、キャリア周期において、PWM信号Up,Vp,Wpは、山に対して(つまり、キャリア前半とキャリア後半とで)対称なパターンになる。
【0099】
また、PWM器41は、式(7),(8),(9)で表される各相のオン時間に応じて比較値を増加または減少させることにより、PWM信号Up,Vp,Wpがオンレベルにある時間を制御する。すなわち、PWM器41は、オン時間が長くなるほど比較値を小さくし、オン時間が短くなるほど比較値を大きくすることにより、式(7),(8),(9)で表される、オンレベルである時間がPWM信号Up,Vp,Wpを生成する。そして、このようにして生成されたPWM信号Up,Vp,Wpに従って、インバータ10では、3相の交流電圧、すなわち、モータMのU相の端子に印加される電圧(以下では「U相端子電圧」と呼ぶことがある)と、モータMのV相の端子に印加される電圧(以下では「V相端子電圧」と呼ぶことがある)と、モータMのW相の端子に印加される電圧(以下では「W相端子電圧」と呼ぶことがある)とが生成される。つまり、インバータ10では、オン時間On_uに相当するパルス幅を有するU相端子電圧と、オン時間On_vに相当するパルス幅を有するV相端子電圧と、オン時間On_wに相当するパルス幅を有するW相端子電圧とが生成される。
【0100】
以下では、U相端子電圧、V相端子電圧、及び、W相端子電圧を「端子電圧」と総称することがある。また、以下では、U相端子電圧のパルスを「U相パルス」と呼び、V相端子電圧のパルスを「V相パルス」と呼び、W相端子電圧のパルスを「W相パルス」と呼ぶことがある。また、U相パルス、V相パルス及びW相パルスを「端子電圧パルス」と総称することがある。
【0101】
図14は、本開示の実施例2に係るPWM信号のシフト処理の一例を示す図である。
【0102】
図14に示すように、増減前の比較値である元比較値を用いてシフト前のPWM信号が生成される場合、元比較値のキャリア前半部分をαだけ減少させるとともに、元比較値のキャリア後半部分をαだけ増加させることにより、PWM信号は、パルス幅が変化することなく、αの大きさに応じたβだけ図中左方へ(つまり、キャリア周期において時間的に後方へ)シフトする。例えば、PWM信号を1キャリアの周期内でキャリア前半の部分の時間幅に対し30%だけ図中左方へシフトさせる場合、元比較値のキャリア前半部分をデューティが30%に相当する値だけ減少させるとともに、元比較値のキャリア後半部分をデューティが30%に相当する値だけ増加させればよい。逆に、元比較値のキャリア前半部分をαだけ増加させるとともに、元比較値のキャリア後半部分をαだけ減少させることにより、PWM信号は、パルス幅が変化することなく、αの大きさに応じたβだけ図中右方へ(つまり、キャリア周期において時間的に前方へ)シフトする。上記のように、端子電圧はPWM信号に従って生成されるため、PWM信号がシフトすると、PWM信号のシフトと同様にして端子電圧のパルスもシフトする。また、1キャリア周期内における元比較値を、キャリア前半でαだけ減少させるとともに、キャリア後半で同一の大きさαだけ増加させる、または、キャリア前半でαだけ増加させるとともに、キャリア後半で同一の大きさαだけ減少させることにより、1キャリア内でのデューティ(式(4),(5),(6))は、PWM信号のシフト前後で同一値に保たれる。
【0103】
ここで、例えば、上記の実施例1では、AD変換部61aは、母線電流Isに対して1キャリア周期内で4回のサプリングを行う必要がある(
図3参照)。実施例1では、例えば境界タイミングが谷のタイミングである場合、第一のキャリア周期のキャリア後半で2相分の電流の算出のための2回のサンプリングを行うとともに、第一のキャリア周期に続く第二のキャリア周期のキャリア前半で2相分の電流の算出のための2回のサンプリングを行う必要がある。しかし、端子電圧パルスの状態によっては、1キャリア周期内で4回のサンプリング必要時間を確保することができない場合がある。そこで、PWM器41は、サンプリング必要時間を確保することができない場合に、以下のようにして、PWM信号のシフトによって端子電圧パルスをシフトさせる。以下では、端子電圧パルスのシフト例について、シフト例1~4の四例を挙げて説明する。
【0104】
<シフト例1(
図15,16)>
図15,16は、本開示の実施例2に係るシフト例1の説明に供する図である。
図15,16には、PWM器41が2相変調を行う場合を一例として示す。
【0105】
図15には、連続する2つのキャリア周期Tca1,Tcb1のそれぞれにおいて、V相パルスのパルス幅とW相パルスのパルス幅とが等しいために、V相パルス及びW相パルスの各々が1キャリア周期において山に対して対称となる状態でV相パルスのパルス幅とW相パルスのパルス幅との差がサンプリング必要時間より小さい場合を一例として示す。
【0106】
図15に示す状態では、キャリア周期Tca1,Tcb1の何れにおいても、母線電流として、符号が反転したU相電流だけが出現する。よって、
図15に示す状態では、3φ電流算出器61は、実施例1のようにしてモータ電流を算出することができない。
【0107】
そこで、PWM器41は、
図16に示すように、キャリア周期Tca1では、キャリア後半において符号が反転したU相電流である母線電流とV相電流である母線電流とのそれぞれの出現時間がサンプリング必要時間に達するまで、V相パルスを図中右方へシフトさせる一方でW相パルスを図中左方へシフトさせる。また、PWM器41は、
図16に示すように、キャリア周期Tcb1では、キャリア前半においてV相電流である母線電流と符号が反転したU相電流である母線電流とのそれぞれの出現時間がサンプリング必要時間に達するまで、V相パルスを図中左方へシフトさせる一方でW相パルスを図中右方へシフトさせる。
【0108】
これにより、AD変換部61aでは、3φ電流算出器61で算出されるU相電流iu及びV相電流ivのための2回のサンプリング必要時間をキャリア周期Tca1のキャリア後半において確保することが可能になるため、AD変換部61aは、キャリア周期Tca1のキャリア後半においてU相電流iu及びV相電流ivの算出のための2回のサンプリングを行うことが可能になる。また、AD変換部61aでは、3φ電流算出器61で算出されるU相電流iu及びV相電流ivのためのさらに2回のサンプリング必要時間をキャリア周期Tcb1のキャリア前半において確保することが可能になるため、AD変換部61aは、キャリア周期Tcb1のキャリア前半においてU相電流iu及びV相電流ivの算出のためのさらに2回のサンプリングを行うことが可能になる。つまり、PWM器41が
図16に示すようなシフト処理を行うことにより、キャリア周期Tca1のキャリア後半とキャリア周期Tcb1のキャリア前半との1キャリア周期内で、U相電流iu、V相電流iv、W相電流iwのうちの2相分の電流の算出のための合計4回のサンプリング必要時間を確保することが可能になる。
【0109】
そこで、PWM器41は、
図16に示すキャリア周期Tca1のキャリア後半においては、W相パルスの立ち下がりタイミングからサンプリング必要時間だけ時間的に後方に位置するタイミングT11と、V相パルスの立ち下がりタイミングからサンプリング必要時間だけ時間的に後方に位置するタイミングT12とでAD変換トリガを生成し、生成したAD変換トリガをAD変換部61aへ出力する。また、PWM器41は、
図16に示すキャリア周期Tcb1のキャリア前半においては、V相パルスの立ち上がりタイミングであるタイミングT13と、W相パルスの立ち上がりタイミングであるタイミングT14とでAD変換トリガを生成し、生成したAD変換トリガをAD変換部61aへ出力する。そして、AD変換部61aは、AD変換トリガに従って、タイミングT11,T12,T13,T14のそれぞれでサンプリングを開始する。
【0110】
よって、3φ電流算出器61は、キャリア周期Tca1とキャリア周期Tcb1とのキャリア境界で実施例1のようにしてモータ電流を算出することが可能になる。
【0111】
<シフト例2(
図17,18)>
図17,18は、本開示の実施例2に係るシフト例2の説明に供する図である。
図17,18には、PWM器41が2相変調を行う場合を一例として示す。
【0112】
図17には、連続する2つのキャリア周期Tca2,Tcb2のそれぞれにおいて、V相パルスのパルス幅がW相パルスのパルス幅より小さく、V相パルス及びW相パルスの各々が山に対して対称となる状態で、V相パルスのパルス幅とW相パルスのパルス幅との差がサンプリング必要時間より小さい場合を一例として示す。
【0113】
図17に示す状態では、キャリア周期Tca2,Tcb2の何れにおいても、母線電流として、W相電流と、符号が反転したU相電流とが出現する。しかし、キャリア周期Tca2,Tcb2の何れにおいても、W相電流の出現時間はサンプリング必要時間未満である。よって、
図17に示す状態では、3φ電流算出器61は、実施例1のようにしてモータ電流を算出することができない。
【0114】
そこで、PWM器41は、
図18に示すように、キャリア周期Tca2では、キャリア前半においてW相電流である母線電流の出現時間がサンプリング必要時間に達し、かつ、キャリア後半においてV相電流である母線電流の出現時間がサンプリング必要時間に達するまで、V相パルスを図中右方へシフトさせる一方でW相パルスを図中左方へシフトさせる。また、PWM器41は、
図18に示すように、キャリア周期Tcb2では、キャリア前半においてV相電流である母線電流の出現時間がサンプリング必要時間に達し、かつ、キャリア後半においてW相電流である母線電流の出現時間がサンプリング必要時間に達するまで、V相パルスを図中左方へシフトさせる一方でW相パルスを図中右方へシフトさせる。
【0115】
これにより、AD変換部61aでは、3φ電流算出器61で算出されるW相電流iw及びV相電流ivのための2回のサンプリング必要時間をキャリア周期Tca2において確保することが可能になるため、AD変換部61aは、キャリア周期Tca2においてW相電流iw及びV相電流ivの算出のための2回のサンプリングを行うことが可能になる。また、AD変換部61aでは、3φ電流算出器61で算出されるW相電流iw及びV相電流ivのためのさらに2回のサンプリング必要時間をキャリア周期Tcb2において確保することが可能になるため、AD変換部61aは、キャリア周期Tcb2においてW相電流iw及びV相電流ivの算出のためのさらに2回のサンプリングを行うことが可能になる。つまり、PWM器41が
図18に示すようなシフト処理を行うことにより、キャリア周期Tca2とキャリア周期Tcb2とで、U相電流iu、V相電流iv、W相電流iwのうちの2相分の電流の算出のための合計4回のサンプリング必要時間を確保することが可能になる。
【0116】
そこで、PWM器41は、
図18に示すキャリア周期Tca2においては、V相パルスの立ち上がりタイミングからサンプリング必要時間だけ時間的に後方に位置するタイミングT21と、V相パルスの立ち下がりタイミングからサンプリング必要時間だけ時間的に後方に位置するタイミングT22とでAD変換トリガを生成し、生成したAD変換トリガをAD変換部61aへ出力する。また、PWM器41は、
図18に示すキャリア周期Tcb2においては、V相パルスの立ち上がりタイミングであるタイミングT23と、V相パルスの立ち下がりタイミングであるタイミングT24とでAD変換トリガを生成し、生成したAD変換トリガをAD変換部61aへ出力する。そして、AD変換部61aは、AD変換トリガに従って、タイミングT21,T22,T23,T24のそれぞれでサンプリングを開始する。
【0117】
よって、3φ電流算出器61は、キャリア周期Tca2とキャリア周期Tcb2とのキャリア境界で実施例1のようにしてモータ電流を算出することが可能になる。
【0118】
<シフト例3(
図19,20)>
図19,20は、本開示の実施例2に係るシフト例3の説明に供する図である。
図19,20には、PWM器41が3相変調を行う場合を一例として示す。
【0119】
図19には、連続する4つのキャリア周期Tca3,Tcb3,Tcc3,Tcd3のそれぞれにおいて、V相パルスのパルス幅がW相パルスのパルス幅より小さく、U相パルスのパルス幅がV相パルスのパルス幅より小さく、U相パルス、V相パルス及びW相パルスの各々が山に対して対称となる状態で、V相パルスのパルス幅とW相パルスのパルス幅との差、U相パルスのパルス幅とV相パルスのパルス幅との差、及び、U相パルスのパルス幅とW相パルスのパルス幅との差の何れもがサンプリング必要時間より小さい場合を一例として示す。
【0120】
図19に示す状態では、キャリア周期Tca3,Tcb3,Tcc3,Tcd3の何れにおいても、母線電流として、W相電流と、符号が反転したU相電流とが出現する。しかし、キャリア周期Tca3,Tcb3,Tcc3,Tcd3の何れにおいても、W相電流の出現時間及び符号が反転したU相電流の出現時間は共にサンプリング必要時間未満である。よって、
図19に示す状態では、3φ電流算出器61は、実施例1のようにしてモータ電流を算出することができない。
【0121】
そこで、PWM器41は、
図20に示すように、キャリア周期Tca3では、キャリア後半においてW相電流である母線電流の出現時間がサンプリング必要時間に達するまで、U相パルス及びV相パルスを図中左方へシフトさせる一方で、W相パルスを図中右方へシフトさせる。また、PWM器41は、
図20に示すように、キャリア周期Tcb3では、キャリア後半においてV相電流である母線電流の出現時間がサンプリング必要時間に達するまで、U相パルス及びW相パルスを図中左方へシフトさせる一方で、V相パルスを図中右方へシフトさせる。また、PWM器41は、
図20に示すように、キャリア周期Tcc3では、キャリア前半においてV相電流である母線電流の出現時間がサンプリング必要時間に達するまで、U相パルス及びW相パルスを図中右方へシフトさせる一方で、V相パルスを図中左方へシフトさせる。また、PWM器41は、
図20に示すように、キャリア周期Tcd3では、キャリア前半においてW相電流である母線電流の出現時間がサンプリング必要時間に達するまで、U相パルス及びV相パルスを図中右方へシフトさせる一方で、W相パルスを図中左方へシフトさせる。
【0122】
これにより、AD変換部61aでは、3φ電流算出器61で算出されるW相電流iw及びV相電流ivのための2回のサンプリング必要時間のそれぞれをキャリア周期Tca3とキャリア周期Tcb3とにおいて確保することが可能になるため、AD変換部61aは、キャリア周期Tca3とキャリア周期Tcb3とにおいてW相電流iw及びV相電流ivの算出のための合計2回のサンプリングを行うことが可能になる。また、AD変換部61aでは、3φ電流算出器61で算出されるW相電流iw及びV相電流ivのためのさらに2回のサンプリング必要時間のそれぞれをキャリア周期Tcc3とキャリア周期Tcd3とにおいて確保することが可能になるため、AD変換部61aは、キャリア周期Tcc3とキャリア周期Tcd3とにおいてW相電流iw及びV相電流ivの算出のための合計2回のサンプリングを行うことが可能になる。つまり、PWM器41が
図20に示すようなシフト処理を行うことにより、キャリア周期Tca3,Tcb3,Tcc3,Tcd3の4つのキャリア周期で、U相電流iu、V相電流iv、W相電流iwのうちの2相分の電流の算出のための合計4回のサンプリング必要時間を確保することが可能になる。
【0123】
そこで、PWM器41は、
図20に示すキャリア周期Tca3においては、W相パルスの立ち下がりタイミングからサンプリング必要時間だけ時間的に後方に位置するタイミングT31でAD変換トリガを生成し、生成したAD変換トリガをAD変換部61aへ出力する。また、PWM器41は、
図20に示すキャリア周期Tcb3においては、V相パルスの立ち下がりタイミングからサンプリング必要時間だけ時間的に後方に位置するタイミングT32でAD変換トリガを生成し、生成したAD変換トリガをAD変換部61aへ出力する。また、PWM器41は、
図20に示すキャリア周期Tcc3においては、V相パルスの立ち上がりタイミングであるタイミングT33でAD変換トリガを生成し、生成したAD変換トリガをAD変換部61aへ出力する。また、PWM器41は、
図20に示すキャリア周期Tcd3においては、W相パルスの立ち上がりタイミングであるタイミングT34でAD変換トリガを生成し、生成したAD変換トリガをAD変換部61aへ出力する。そして、AD変換部61aは、AD変換トリガに従って、タイミングT31,T32,T33,T34のそれぞれでサンプリングを開始する。
【0124】
よって、3φ電流算出器61は、キャリア周期Tcb3とキャリア周期Tcc3とのキャリア境界で実施例1のようにしてモータ電流を算出することが可能になる。
【0125】
<シフト例4(
図19,21)>
図21は、本開示の実施例2に係るシフト例4の説明に供する図である。
図21には、PWM器41が3相変調を行う場合を一例として示す。
図21には、端子電圧パルスのシフト後の状態を示す。シフト例4において、端子電圧パルスのシフト前の状態についてはシフト例3と同一であるため(
図19)、説明を省略する。
【0126】
PWM器41は、
図21に示すように、キャリア周期Tca3では、キャリア後半においてW相電流である母線電流の出現時間がサンプリング必要時間に達するまで、U相パルス及びV相パルスを図中左方へシフトさせる一方で、W相パルスを図中右方へシフトさせる。また、PWM器41は、
図21に示すように、キャリア周期Tcb3では、キャリア前半においてV相電流である母線電流の出現時間がサンプリング必要時間に達するまで、U相パルス及びW相パルスを図中右方へシフトさせる一方で、V相パルスを図中左方へシフトさせる。また、PWM器41は、
図21に示すように、キャリア周期Tcc3では、キャリア後半においてV相電流である母線電流の出現時間がサンプリング必要時間に達するまで、U相パルス及びW相パルスを図中左方へシフトさせる一方で、V相パルスを図中右方へシフトさせる。また、PWM器41は、
図21に示すように、キャリア周期Tcd3では、キャリア前半においてW相電流である母線電流の出現時間がサンプリング必要時間に達するまで、U相パルス及びV相パルスを図中右方へシフトさせる一方で、W相パルスを図中左方へシフトさせる。
【0127】
これにより、AD変換部61aでは、3φ電流算出器61で算出されるW相電流iw及びV相電流ivのための2回のサンプリング必要時間のそれぞれをキャリア周期Tca3とキャリア周期Tcb3とにおいて確保することが可能になるため、AD変換部61aは、キャリア周期Tca3とキャリア周期Tcb3とにおいてW相電流iw及びV相電流ivの算出のための合計2回のサンプリングを行うことが可能になる。また、AD変換部61aでは、3φ電流算出器61で算出されるW相電流iw及びV相電流ivのためのさらに2回のサンプリング必要時間のそれぞれをキャリア周期Tcc3とキャリア周期Tcd3とにおいて確保することが可能になるため、AD変換部61aは、キャリア周期Tcc3とキャリア周期Tcd3とにおいてW相電流iw及びV相電流ivの算出のための合計2回のサンプリングを行うことが可能になる。つまり、PWM器41が
図21に示すようなシフト処理を行うことにより、シフト例3(
図20)と同様に、キャリア周期Tca3,Tcb3,Tcc3,Tcd3の4つのキャリア周期で、U相電流iu、V相電流iv、W相電流iwのうちの2相分の電流の算出のための合計4回のサンプリング必要時間を確保することが可能になる。
【0128】
そこで、PWM器41は、
図21に示すキャリア周期Tca3においては、W相パルスの立ち下がりタイミングからサンプリング必要時間だけ時間的に後方に位置するタイミングT41でAD変換トリガを生成し、生成したAD変換トリガをAD変換部61aへ出力する。また、PWM器41は、
図21に示すキャリア周期Tcb3においては、V相パルスの立ち上がりタイミングであるタイミングT42でAD変換トリガを生成し、生成したAD変換トリガをAD変換部61aへ出力する。また、PWM器41は、
図21に示すキャリア周期Tcc3においては、V相パルスの立ち下がりタイミングからサンプリング必要時間だけ時間的に後方に位置するタイミングT43でAD変換トリガを生成し、生成したAD変換トリガをAD変換部61aへ出力する。また、PWM器41は、
図21に示すキャリア周期Tcd3においては、W相パルスの立ち上がりタイミングであるタイミングT44でAD変換トリガを生成し、生成したAD変換トリガをAD変換部61aへ出力する。そして、AD変換部61aは、AD変換トリガに従って、タイミングT41,T42,T43,T44のそれぞれでサンプリングを開始する。
【0129】
よって、3φ電流算出器61は、シフト例3(
図20)と同様に、キャリア周期Tcb3とキャリア周期Tcc3とのキャリア境界で実施例1のようにしてモータ電流を算出することが可能になる。
【0130】
<PWM器の処理>
以下、PWM器41における処理についてより詳細に説明する。PWM器41は、3相の端子電圧パルスのうち少なくとも一つをシフトすれば、連続する2つのキャリア周期内(シフト例1,2)または連続する4つのキャリア周期内(シフト例3,4)で、2相分の電流を各2回算出するための、合計4回、それぞれ異なる相のサンプリング必要時間を確保することが可能になるか否かを判定する。ここで、端子電圧パルスのシフトのさせ方は様々なパターンが考えられ、3相のうちのいずれの相を、どちらにどれだけシフトするかによって異なる端子電圧パルスが得られる。そこで、PWM器41は、端子電圧パルスをシフトさせるパターンを所定の順番で確認し、各パターンでサンプリング必要時間を確保できるかを判定する。
【0131】
PWM器41は、いずれかのパターンでサンプリング必要時間を確保できると判定すると、当該パターンによって端子電圧パルスをシフトさせる。次いで、PWM器41は、検出不可フラグを“FALSE”に設定し、“FALSE”に設定した検出不可フラグを3φ/dq座標変換器42へ出力する。なお、3φ/dq座標変換器42は、PWM器41から入力される検出不可フラグが“FALSE”に設定されている場合は、3φ電流算出器61により算出されたモータ電流からd軸電流id及びq軸電流iqを生成して出力する。
【0132】
次いで、PWM器41は、シフト後の端子電圧パルスに基づいてAD変換トリガを生成し、生成したAD変換トリガをAD変換部61aへ出力する。AD変換部61aは、PWM器41からAD変換トリガが入力された時点でサンプリングを開始する。
【0133】
一方で、PWM器41は、すべてのパターンでサンプリング必要時間を確保できないと判定した場合は、端子電圧パルスをシフトしたとしてもサンプリング必要時間の確保ができないと判定する。そして、PWM器41は、検出不可フラグを“TRUE”に設定し、“TRUE”に設定した検出不可フラグを3φ/dq座標変換器42へ出力する。この場合、3φ/dq座標変換器42は、モータ電流の算出が可能だった直近のキャリア周期におけるd軸電流id及びq軸電流iqを出力する。
【0134】
以上、実施例2について説明した。
【0135】
以上のように、本開示のモータ制御装置(実施例2のモータ制御装置100)は、インバータ(実施例1のインバータ10)と、電流検出部(実施例1の電流検出部20)と、算出部(実施例2の算出部60)と、生成部(実施例2の生成部40)とを有する。インバータは、直流電源(実施例の直流電源EDC)から供給される直流電圧を3相の交流電圧に変換し、変換後の交流電圧をモータ(実施例1のモータM)に印加する。電流検出部は、直流電源とインバータとの間に接続された抵抗(実施例1のシャント抵抗Rs)を用いてインバータの母線電流を検出する。算出部は、モータに流れる3相の電流をインバータの母線電流に基づいて算出する。生成部は、所定の周期を有するキャリア信号を用いたPWMにより、インバータを制御するPWM信号を生成する。また、生成部は、PWM信号をキャリア信号の周期内で時間的に前方または後方へシフトさせる。また、算出部は、シフト後のPWM信号に基づいて、第一のキャリア周期の後半に検出された母線電流と、第一のキャリア周期に続く第二のキャリア周期の前半に検出された母線電流とを用いて、第一のキャリア周期と第二のキャリア周期との境界タイミングにおける3相の電流を算出する。そして、生成部は、第二のキャリア周期に続く第三のキャリア周期で用いるPWM信号を生成するための3相の電圧指令値を境界タイミングにおける3相の電流に基づいて生成する。
【0136】
こうすることで、シフト前のPWM信号に基づいて3相の電流を算出することができない場合でも、PWM信号をシフトすることにより3相の電流を算出できる領域を広げることができるため、算出された3相の電流に対応したキャリア周期と、その3相の電流を用いて制御が行われるキャリア周期とのタイムラグを低減でき、その結果、モータの制御の精度を上げることができる。
【0137】
また、算出部は、第一算出部(実施例1の第一算出部61b)と、補間算出部(実施例1の補間算出部61c)と、第二算出部(実施例1の第二算出部61d)とを有する。第一算出部は、第一のキャリア周期の後半に検出された母線電流から第一のキャリア周期の後半における2相の電流を算出するとともに、第二のキャリア周期の前半に検出された母線電流から第二のキャリア周期の前半における2相の電流を算出する。補間算出部は、第一のキャリア周期の後半における2相の電流と、第二のキャリア周期の前半における2相の電流とから、境界タイミングにおける2相の電流を算出する。第二算出部は、補間算出部によって算出された境界タイミングにおける2相の電流から、3相の電流のうちの残りの1相の電流を算出する。
【0138】
こうすることで、第一のキャリア周期に検出された母線電流と、第二のキャリア周期に検出された母線電流とに基づいて、第一のキャリア周期と第二のキャリア周期との境界タイミングにおける3相の電流を算出することができる。
【0139】
また、補間算出部は、第一のキャリア周期の後半における電流値と第二のキャリア周期の前半における電流値とを用いて線形補間により境界タイミングにおける2相の電流を算出する。
【0140】
こうすることで、境界タイミングにおける前後のPWM信号が境界タイミングに対して非対称なパターンである場合でも、第一のキャリア周期と第二のキャリア周期との境界タイミングにおける2相の電流を精度よく算出することができる。
【0141】
また、算出部は、シフト後のPWM信号に基づいて、第一のキャリア周期の前半と後半に検出された母線電流と、第一のキャリア周期に続く第二のキャリア周期の前半と後半に検出された母線電流とを用いて、第一のキャリア周期と第二のキャリア周期との境界タイミングにおける3相の電流を算出してもよい。この時、生成部は、第二のキャリア周期に続く第三のキャリア周期で用いるPWM信号を生成するための3相の電圧指令値を境界タイミングにおける3相の電流に基づいて生成する。
【0142】
こうすることで、シフト前のPWM信号に基づいて3相の電流を算出することができない場合でも、PWM信号をシフトすることにより3相の電流を算出できる領域をさらに広げることができるため、算出された3相の電流に対応したキャリア周期と、その3相の電流を用いて制御が行われるキャリア周期とのタイムラグを低減でき、その結果、モータの制御の精度を上げることができる。
【0143】
また、算出部は、シフト後のPWM信号に基づいて、第一のキャリア周期で検出された母線電流と、第一のキャリア周期に続く第二のキャリア周期で検出された母線電流と、第二のキャリア周期に続く第三のキャリア周期で検出された母線電流と、第三のキャリア周期に続く第四のキャリア周期で検出された母線電流とを用いて、第二のキャリア周期と第三のキャリア周期との境界タイミングにおける3相の電流を算出してもよい。この時、生成部は、第四のキャリア周期に続く第五のキャリア周期で用いるPWM信号を生成するための3相の電圧指令値を境界タイミングにおける3相の電流に基づいて生成する。
【0144】
こうすることで、シフト前のPWM信号に基づいて3相の電流を算出することができない場合でも、PWM信号をシフトすることにより3相の電流を算出できる領域をさらに広げることができるため、算出された3相の電流に対応したキャリア周期と、その3相の電流を用いて制御が行われるキャリア周期とのタイムラグを低減でき、その結果、モータの制御の精度を上げることができる。
【0145】
また、算出部は、シフト後のPWM信号に基づいて、第一のキャリア周期の後半に検出された母線電流と、第一のキャリア周期に続く第二のキャリア周期の後半に検出された母線電流と、第二のキャリア周期に続く第三のキャリア周期の前半に検出された母線電流と、第三のキャリア周期に続く第四のキャリア周期の前半に検出された母線電流とを用いて、第二のキャリア周期と第三のキャリア周期との境界タイミングにおける3相の電流を算出してもよい。この時、生成部は、第四のキャリア周期に続く第五のキャリア周期で用いるPWM信号を生成するための3相の電圧指令値を境界タイミングにおける3相の電流に基づいて生成する。
【0146】
こうすることで、第二のキャリア周期の後半と第三のキャリア周期の前半に検出された母線電流が境界タイミングに時間的に近接しているため、境界タイミングにおける2相の電流をさらに精度よく算出することができる。
【符号の説明】
【0147】
100 モータ制御装置
10 インバータ
20 電流検出部
21 電流検出回路
40 生成部
41 PWM器
60 算出部
61 3φ電流算出器
61a AD変換部
61b 第一算出部
61c 補間算出部
61d 第二算出部