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特許7452209セルロースナノファイバー含有ウレタン(メタ)アクリレート組成物および製造方法、ならびにセルロースナノファイバー含有ウレタン(メタ)アクリレート硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】セルロースナノファイバー含有ウレタン(メタ)アクリレート組成物および製造方法、ならびにセルロースナノファイバー含有ウレタン(メタ)アクリレート硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/66 20060101AFI20240312BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20240312BHJP
   C08G 18/08 20060101ALI20240312BHJP
   C08G 18/44 20060101ALI20240312BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20240312BHJP
   C08L 1/00 20060101ALI20240312BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C08G18/66 092
C08F290/06
C08G18/08 038
C08G18/44
C08K7/02
C08L1/00
C08L75/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020069462
(22)【出願日】2020-04-08
(65)【公開番号】P2021165350
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮田 勇悟
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 栄一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 じゆん
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-157092(JP,A)
【文献】特開2017-200984(JP,A)
【文献】特開2021-130790(JP,A)
【文献】特開2018-199742(JP,A)
【文献】特開2020-026466(JP,A)
【文献】国際公開第2019/172058(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
C08K
C08L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程を含む、セルロースナノファイバーおよびウレタン(メタ)アクリレートを含有するセルロースナノファイバー含有ウレタン(メタ)アクリレート組成物の製造方法。
工程1:炭酸エステルの存在下にセルロース系原料を解繊してセルロースナノファイバー含有炭酸エステル分散液を得る工程。
工程2:前記セルロースナノファイバー含有炭酸エステル分散液とジオール化合物を反応させて、セルロースナノファイバー含有ポリカーボネートジオール分散液を得る工程。
工程3:前記セルロースナノファイバー含有ポリカーボネートジオール分散液、ジイソシアネート化合物および水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させて、セルロースナノファイバー含有ウレタン(メタ)アクリレート組成物を得る工程。
【請求項2】
炭酸エステルが環状カーボネート類である請求項1に記載のセルロースナノファイバー含有ウレタン(メタ)アクリレート組成物の製造方法。
【請求項3】
炭酸エステルがエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとの混合物である請求項1または請求項2に記載のセルロースナノファイバー含有ウレタン(メタ)アクリレート組成物の製造方法。
【請求項4】
セルロースナノファイバー含有ウレタン(メタ)アクリレート樹脂硬化物の製造方法であって、
工程1:炭酸エステルの存在下にセルロース系原料を解繊してセルロースナノファイバー含有炭酸エステル分散液を得る工程、
工程2:前記セルロースナノファイバー含有炭酸エステル分散液とジオール化合物を反応させて、セルロースナノファイバー含有ポリカーボネートジオール分散液を得る工程、
工程3:前記セルロースナノファイバー含有ポリカーボネートジオール分散液、ジイソシアネート化合物および水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させて、セルロースナノファイバー含有ウレタン(メタ)アクリレート組成物を得る工程、および
工程4:CNF含有ウレタン(メタ)アクリレート組成物を光硬化反応させる工程を含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバー含有ウレタン(メタ)アクリレート組成物およびこれを光硬化させた硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
各種用途に利用されている光硬化性樹脂としては、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、エポキシアクリレート等のアクリレート化合物やこれらに対するメタクリレート化合物を含む組成物が知られている。
【0003】
その中でも、ウレタンアクリレートやウレタンメタクリレートは、可とう性、強靭性、耐薬品性などに優れており、光硬化性コーティング剤、フォトレジスト材料、接着剤などの原料として使用されている。
ウレタンアクリレートやウレタンメタクリレートを光硬化させて得られる硬化物(ウレタンアクリレート光硬化性樹脂)は、耐久性の高い人工皮革や合成皮革、接着剤、塗料、コーティング剤、接着剤、フィルム、光学材料等の分野で広く使用されている。
【0004】
特に、ウレタンアクリレートに関して、ポリカーボネートジオール(以下、PCDという)を原料にする場合、ポリエステルジオールおよびポリエーテルジオールの場合と比べて、耐加水分解性や耐薬品性に優れた耐久性の高いウレタンアクリレートが得られることが知られている。
【0005】
また、PCDを皮革、塗料およびコーティング剤用途に使用した場合、前記の特性以外に耐湿熱性、耐摩耗性および耐候性に優れるため、自動車の内装材として、例えば、座席シート向けの人工皮革や合成皮革および外装用塗料の原料に用いられている。さらに、接着用途においても、耐久性や柔軟性に優れた接着剤として自動車、電子機器および電気機器等に使用されている。
【0006】
しかしながら、カーボネート結合はエステル結合と比べると柔軟性に欠けるため、カーボネート結合だけを有するPCDから製造されるウレタンアクリレートは、ポリエステルポリオールから製造されるウレタンアクリレートより柔軟性が劣り、特に低温における柔軟性、伸び、曲げおよび弾性回復性が悪いため、可撓性に欠けもろいという問題がある。
【0007】
一方、セルロースナノファイバー(以下、CNFという)は、パルプ等を原料にして水媒体中で機械的または化学的解繊処理によって得られる、太さがナノメートルオーダーであり、アスペクト比の高いセルロース繊維である。
そして、CNFは軽量であるが鉄の5倍の強度を有し、熱膨張率が低く、低温から高温まで弾性率が変化しない特性を有するため、CNFを用いた複合材料は軽量、高強度、低膨張率および温度変化に強いことが期待される。
【0008】
しかしながら、水に分散させたCNF濃度は1~20質量%と低いため、樹脂と複合化させる場合には大量の水の除去が必要になるという問題がある。
また、樹脂中でパルプを解繊する場合、樹脂は一般的に粘度が高いため強力な機械力が必要となり、また、酸化処理など化学的に解繊したCNFの場合は親水性が高いため精製や表面処理が必要になるなど、CNFは工業的に取り扱い難い材料である。
【0009】
ウレタン(メタ)アクリレートに関しては、ポリウレタンアクリレートと水酸基含有アクリレートを含む光硬化性樹脂組成物を用いた粘・接着剤(特許文献1)、特有の物理的特性を有するウレタンアクリレートポリマー(特許文献2)などが開示されている。
しかしながら、特許文献1に記載の光硬化性樹脂組成物や特許文献2に記載されたウレタンアクリレートポリマーは、樹脂としての引張強度(破断応力)、弾性率および線膨張率の面で改良の余地がある。
一方、ウレタンアクリレートからなるアクリレート樹脂とCNFを含有する化粧材用コーティング剤が開示されているが(特許文献3)、これは、ウレタンアクリレートとCNFなどを混合してから硬化させて製造したものである。
【0010】
以上の状況から、CNFを含有するウレタン(メタ)アクリレート組成物自体は知られておらず、該CNF含有ウレタン(メタ)アクリレートを光硬化させた樹脂も知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開WO2017/221517
【文献】特表2017-527643号公報
【文献】特開2020-26466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、引張強度、機械強度および耐薬品性に優れているCNF含有ウレタン(メタ)アクリレート組成物、その製造方法およびCNF含有ウレタン(メタ)アクリレート樹脂硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明者は、鋭意検討した結果、炭酸エステル中でセルロース系原料を解繊して得られるCNF含有炭酸エステル分散体とジオール化合物を反応させて得られるCNF含有PCD分散体と、ジイソシアナート化合物および水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させてCNF含有ウレタン(メタ)アクリレート組成物が得られ、さらに、該組成物を硬化させた樹脂硬化物が引張強度、機械強度および耐薬品性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の第1発明は、CNFとウレタン(メタ)アクリレートを含有するCNF含有ウレタン(メタ)アクリレート組成物である。
【0015】
本発明の第2発明は、下記工程を含む第1発明に記載のCNF含有ウレタン(メタ)アクリレート組成物の製造方法である。
工程1:炭酸エステルの存在下にセルロース系原料を解繊してCNF含有炭酸エステル分散液を得る工程。
工程2:前記CNF含有炭酸エステル分散液とジオール化合物を反応させて、CNF含有PCD分散液を得る工程。
工程3:前記CNF含有PCD分散液、ジイソシアネート化合物および水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させて、CNF含有ウレタン(メタ)アクリレート組成物を得る工程。
【0016】
本発明の第3発明は、炭酸エステルが環状カーボネートである第2発明に記載のCNF含有ウレタン(メタ)アクリレート組成物の製造方法である。
【0017】
本発明の第4発明は、炭酸エステルがエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとの混合物である第2発明または第3発明に記載のCNF含有ウレタン(メタ)アクリレート組成物の製造方法である。
【0018】
本発明の第5発明は、第1発明に記載のCNF含有ウレタン(メタ)アクリレート組成物を光硬化させて得られるCNF含有ウレタン(メタ)アクリレート樹脂硬化物である。
【0019】
本発明の第6発明は、第2発明~第4発明のいずれかに記載のCNF含有ウレタン(メタ)アクリレート組成物を光硬化させて得られるCNF含有ウレタン(メタ)アクリレート樹脂硬化物である。
【発明の効果】
【0020】
本発明のCNF含有ウレタン(メタ)アクリレート組成物によれば、該組成物から得られる硬化物は、極めて引張強度が高く、接着剤やコーティング剤などに有用である。特に、接着剤に用いた場合、せん断/引張の接着強度が高く、高耐熱性、冷熱サイクルに強く、また、コーティング剤に用いた場合、硬度上昇、傷つきにくい、高耐熱性アップ、冷熱サイクルに強いなどの特徴を発現する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書では、「(メタ)アクリレート」とは、特に説明がない限り、「アクリレート及び/又はメタクリレート」を表すものとする。
【0022】
本発明は、CNFおよびウレタン(メタ)アクリレートを含む組成物であり、組成物全体に対するCNFの含有量は、0.1~5.0質量%であることが好ましく、0.3~3.0質量%であることがさらに好ましい。
本発明のCNF含有ウレタン(メタ)アクリレート組成物は、ウレタン(メタ)アクリレートとCNFが単に混合されたものではなく、CNFがウレタン(メタ)アクリレートに分散した状態で存在するのが特徴であるため、組成物におけるCNFの含有量を5.0質量%以下にすることで、より安定な分散液が得られる。
【0023】
本発明のCNF含有ウレタン(メタ)アクリレート組成物におけるウレタン(メタ)アクリレートとしては、
ポリイソシアネートと水酸基を有する(メタ)アクリレートとを反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレート、
ポリイソシアネートとポリオールとを反応させて得られる末端イソシアネート基のウレタンプレポリマーと水酸基を有する(メタ)アクリレートとを反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレート、
または、ポリカーボネートジオール、ジイソシアネート化合物および水酸基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
これらの中でも、PCD、ジイソシアネート化合物および水酸基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレートが好ましい。該ウレタン(メタ)アクリレートは、PCD由来であるので、耐薬品性が高く、また、3官能以上のポリオールや3官能以上のポリイソシアネートを使っていないため、最終的なウレタン(メタ)アクリレート硬化物の架橋密度が高くなり過ぎず、接着剤においては高接着性を維持し、コーティング剤においては高密着性を維持できる。
【0024】
以下、本発明のCNF含有ウレタン(メタ)アクリレート組成物について、好ましい製造方法に沿って説明する。
工程1:炭酸エステルの存在下にセルロース系原料を解繊してCNF含有炭酸エステル分散液を得る工程。
前記セルロース系原料とは、セルロースを主体とした材料であれば特に限定はなく、例えば、パルプ、天然セルロース、再生セルロースおよびセルロース原料を機械的処理することで解重合した微細セルロースなどが挙げられる。なお、セルロース系原料として、パルプを原料とする結晶セルロースなどの市販品をそのまま使用することができる。
【0025】
セルロース系原料の解繊処理に際しては、セルロース系原料を予め精製した後、炭酸エステル中で解繊することが好ましい。予め精製しない場合、セルロース系原料に含まれる不純物が、炭酸エステル中に溶けることで、ジオール化合物とのエステル交換反応を阻害する恐れがある。
セルロース系原料の精製方法は特に限定されないが、以下に示す精製方法が例示される。圧力容器にセルロース系原料と水を仕込んだ後、圧力容器を加熱および加圧し、上澄み液を除去しながら、水の添加と加熱および加圧操作を繰り返した後、ろ過および水洗をして、ケーキ状のセルロースを得た後、減圧乾燥させ、精製したセルロース系原料を得る。
【0026】
本発明におけるセルロース系原料を解繊する装置としては、ボールミル、ビーズミル、ハンマーミル、ロッドミル、ディスクミル、カッターミル、ジェットミル、ウォータージェット装置、石臼式磨砕機、押出成形機、リファイナー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、高速ホモジナイザー、水中カウンターコリジョン装置等いずれも使用可能であるが、特にウォータージェット装置を使用することが望ましい。
【0027】
使用する炭酸エステルとしては、ジオール化合物と反応によってPCDを与えることができる環状カーボネート類および鎖状カーボネート類が挙げられる。これらの混合物、あるいは水との混合液の状態で使用することもできる。
環状カーボネート類としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の炭素数2~4のアルキレン基を有するアルキレンカーボネート類が挙げられる。
また、鎖状カーボネート類としては、ジアルキルカーボネートが好ましく、構成するアルキル基の炭素数は1~5個であることが好ましく、特に好ましくは1~4個である。具体例としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート等の対称鎖状アルキルカーボネート類、エチルメチルカーボネート、メチル-n-プロピルカーボネート、エチル-n-プロピルカーボネート等の非対称鎖状アルキルカーボネート類等のジアルキルカーボネートが挙げられる。
【0028】
本発明では、炭酸エステルに分散した状態で、セルロース系原料が解繊処理されるため、例えば、高温・高圧条件で解繊した場合には炭酸エステルの凝固点が上昇して、装置内で凝固する恐れがあるため、炭酸エステルの凝固点は35℃以下であることが好ましい。さらに、より安全な条件で解繊するためには、凝固点が20℃以下であることがさらに好ましく、10℃以下であることがより好ましい。
【0029】
前記凝固点の観点から、炭酸エステルとしては、凝固点が35℃以下の環状カーボネートであることが好ましく、これらの中でも、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートおよびブチレンカーボネートが好ましく、さらに、これらの混合物を用いることも可能で、得られるCNF含有ポリウレタンの物性が優れることから、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとの混合物が特に好ましい。
なお、エチレンカーボネートは単独の凝固点が38℃であるが、プロピレンカーボネート等と混合して凝固点を35℃以下の混合物として使用することが好ましい。
エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとの混合物において、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートの混合比としては、質量比率で、1:9~9:1であることが好ましく、2:8~8:2であることがさらに好ましく、3:7~7:3あることが特に好ましい。
【0030】
炭酸エステルの凝固点が35℃以下であれば、使用する解繊機器類への負荷が少なくなるため、解繊機器類の故障が少なく、安定的にセルロース系材料を解繊することができる。また、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとの混合物を用いると、CNF含有炭酸エステル分散体を原料にして、物性の優れたCNF含有ポリウレタンが得られる。
【0031】
例えば、炭酸エステルとして、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとが5:5である混合物を用いて、パルプ粉砕装置で、セルロース系材料であるパルプの解繊処理を行うことにより、顕微鏡観察において、0.2~1μmを中心とした繊維径で、かつ、10~100μmを中心とした繊維長であるCNF含有炭酸エステル分散液が生成する。
【0032】
工程2:CNF含有炭酸エステル分散液とジオール化合物を反応させて、CNF含有PCD分散液を得る工程。
工程1で得られたCNF炭酸エステル分散体とジオール化合物を反応させて、CNF含有PCD分散体を得ることができる。この場合、CNFには粉砕前のセルロース系原料が含まれていても良い。
CNF含有炭酸エステル分散体を用いて、ジオール化合物との反応により、CNFが分散したPCD分散体を得る方法としては、公知なPCDを製造する方法が適用され、例えば、特開2015-044986号公報および特開2017-025155号公報に記載の方法などが挙げられる。
これらの反応の場合、CNF自体は反応に寄与しないので、CNFが含有されていても同様な反応が起こる。
【0033】
例えば、PCDはエステル交換反応と重縮合反応からなる2段階の反応を経て得ることができる。CNFを含む炭酸エステルとジオール化合物を20:1~1:10のモル比で混合し、常圧または減圧下で100~300℃の温度で反応させ、副生するエチレングリコールおよび未反応の炭酸エステルを留出させ、2~10単位の低分子量PCDを得、次いで減圧下で100~300℃で未反応の原料ジオール化合物と炭酸エステルを留出させるとともに、低分子量のPCDを重縮合させる。原料ジオール化合物の留出量を加減することによって、所定の分子量のPCDを得ることができる。
なお、2種類以上の原料ジオール化合物を用いてPCDを製造する場合は、留出する原料ジオール化合物の組成をガスクロマトグラフ等で分析することで、PCDの組成比を求めることができ、PCDの組成比は反応中に原料ジオール化合物を追加することで任意の組成比に調整できる。
【0034】
例えば、1,6-ヘキサンジオール(以下、HDOという)骨格を有し、分子量が700~1000のPCDは、以下に示す方法で得ることができる。
精留塔を取り付けた反応装置に、1質量%のCNFを含むエチレンカーボネート/プロピレンカーボネート混合物を400g、HDOを450g、触媒としてテトラブチルチタネートを0.8g仕込み、50torrで徐々に昇温する。絶えず留出があるように内温を160℃~170℃まで上げ、留出が止まった時点で終了する。この第一段の反応では、HDOへのECの付加やECとHDOの間でエステル交換反応が起こり、オリゴマーが生成し、留出物は主としてエチレングリコールである。
次いで、精留塔を取り外し、減圧度を5torr~0torrまで上げ、絶えず留出があるように内温を150℃~185℃へ上げる。留出が止まり、所定の水酸基価に達した時点で終了とする。第二段の反応では、未反応のECやエチレングリコールの留出および低分子量のカーボネートジオール同士の重縮合でHDOが留出し、分子量が増大する。留出物は主としてHDOとなる。
【0035】
また、前記反応には、必要に応じて三級アミン触媒や有機金属系触媒等を用いてもよいが、触媒を失活させる工程が不要となり、反応液の着色が低減する利点があることから、無触媒で反応することが好ましい。
【0036】
工程3:CNF含有PCD分散液、ジイソシアネート化合物および水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させて、CNF含有ウレタン(メタ)アクリレート組成物を得る工程。
前記CNF含有PCD分散体、ジイソシアナート化合物および水酸基含有(メタ)アクリレート化合物を反応させて、CNF含有ウレタン(メタ)アクリレート組成物を得ることができる。
前記ジイソシアナート化合物としては、分子中にイソシアナート基を2個以上有する、例えば、トリレンジイソシアナート、ジフェニルメタンジイソシアナ-ト、キシリレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート、水添ジフェニルメタンジイソシアナート、水添キシリレンジイソシアナートおよびヘキサメチレンジイソシアナート等を用いることができる。
【0037】
水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、以下のものが好適に挙げられる。例えば、ペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、1-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの中でも、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、1-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートが好ましく、反応性および入手のしやすさから2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
【0038】
例えば、CNF含有PCD分散体、ジイソシアナート化合物としてイソホロンジイソシアネート、および水酸基含有(メタ)アクリレート化合物として2-ヒドロキシエチルアクリレートを原料としたウレタン(メタ)アクリレートは、以下に示す方法で得ることができる。
セパラブルフラスコにCNF含有PCD 40g、2-ヒドロキシエチルアクリレート12.4g、触媒としてジブチルスズジラウレート53mg、重合禁止剤として2,6-ジ-tert―ブチル-p-クレゾール73mgを仕込み、5%酸素-95%窒素ガスを流通させながら液温25℃で撹拌を開始する。ここにイソホロンジイソシアネート23.7gを加え、撹拌を10分間継続する。オイルバスで液温を90℃まで加熱し、3時間撹拌することでCNF含有ウレタンアクリレートを得ることができる。
【0039】
CNF含有ウレタン(メタ)アクリレート組成物の重量平均分子量は1,000~10,000であることが好ましく、3,000~8,000であることがより好ましい。
CNF含有ウレタンアクリレート組成物におけるウレタン(メタ)アクリレートの構造式を下記に示す。下記式において、0≦m≦20、0≦n≦1000である。
【0040】
【化1】
【0041】
次に、CNF含有ウレタン(メタ)アクリレート組成物を光硬化反応させることにより、CNF含有ウレタン(メタ)アクリレート樹脂硬化物を製造することができる。
例えば、CNFウレタン(メタ)アクリレート組成物の光硬化反応は、以下に示す方法で実施できる。
CNF含有ウレタンアクリレート 2.5gとテトラヒドロフルフリルアクリレート7.5gと、光重合開始剤として2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン0.10gとを均一に混合し、これをノンワイヤーバーコーター#37で塗膜し、UV照射装置を用いてUV照射(詳細条件としては例えば、集光、80W/cm、ランプ高さ10cm、200mJ/cm2(UV-A)、コンベア速度10/min、パス回数4)することで、厚さ100μmのCNF含有ウレタンアクリレートの膜状硬化物を得ることができる。
【0042】
得られたCNF含有ウレタン(メタ)アクリレート樹脂硬化物は、接着剤やコーティング剤に有用である。
【実施例
【0043】
以下、実施例および比較例により本発明を詳しく説明する。
実施例1
<CNF含有炭酸エステル分散液の製造>
セルロース系原料としてパルプ(KCフロックW-100GK)1.2質量%を含むエチレンカーボネート(東亞合成社製)/プロピレンカーボネート(富士フィルム和光純薬社製)=8/2(質量比)混合物を、石臼式磨砕機スーパーマスコロイダー MKCA6-5Jα、増幸産業社製) で予備粉砕して、1250g(約1L)の分散液を得た。
これをウォータージェット装置(スターバーストラボ HJP-25008、スギノマシン社製)に仕込み、ボール衝突型の微粒化チャンバーを用いて200MPaでの連続処理を50回実施することで、CNF含有エチレンカーボネート/プロピレンカーボネート(質量比8/2)分散液735gを得た。
得られた分散液中のCNFは、繊維径が0.2~1.0μmの繊維が個々に分離して存在しており、分散性は良好であった。繊維長は10~100μmのものが主として存在していた。
【0044】
<CNF含有PCD(ポリカーボネートジオール)分散液の製造>
上記CNF含有エチレンカーボネート/プロピレンカーボネート(質量比8/2)分散液を加圧することで、CNF濃度が2.7質量%まで濃縮された分散液を得た。この分散液232gと、1,5-ペンタンジオール(富士フィルム和光純薬社製)104gと、1,6-ヘキサンジオール(富士フィルム和光純薬社製)118gとを混合し、撹拌しながら加熱を開始した。
液温が100℃となった時点に、テトラブチルチタネート(富士フィルム和光純薬社製)0.225gを添加した後、液温を160℃まで上昇させた。
次いで、真空ポンプで内部を40Torrまで減圧し、蒸留を開始した。蒸留が進むにつれ加熱と減圧を進め、液温185℃、圧力0.3Torrとなった時点で蒸留を停止することで、CNF含有PCD分散液137gを得た。蒸留の留分等から、CNF濃度は3.9質量%であり、PCDの数平均分子量は、GPC下記方法による測定で725であった。
測定方法:JIS K 1557-1(プラスチック-ポリウレタン原料ポリオール試験方法-第1部:水酸基価の求め方)に準じて求めた水酸基価から、水酸基を分子中に2つ含有するものとしてPCDの分子量(数平均分子量)を算出する。
【0045】
<CNF含有ウレタン(メタ)アクリレート組成物の製造>
上記で得られたCNF含有PCD分散液 40.0gと、2-ヒドロキシエチルアクリレート(東亞合成社製)12.4gと、ジブチルスズジラウレート(富士フィルム和光純薬社製)53mgと、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(東京化成社製)73mgとを混合し、5%酸素-95%窒素ガスを流通させながら液温25℃で撹拌を開始した。
さらにイソホロンジイソシアネート(東京化成社製)23.7gを加え、撹拌を10分間継続した。オイルバスで液温を90℃まで加熱し、3時間撹拌することで、CNF含有ウレタンアクリレート組成物を得た(CNF濃度は2.0質量%)。
このCNF含有ウレタンアクリレート組成物は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定により重量平均分子量は6,200であった。
【0046】
<CNF含有ウレタン(メタ)アクリレート組成物の光硬化反応>
得られたCNF含有ウレタンアクリレート 2.5gとテトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA、東京化成社製)7.5gと、光重合開始剤である2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン(東京化成社製)0.10gとを均一に混合した。
これをノンワイヤーバーコーター#37で塗膜し、UV照射装置(アイグランデージ(ECS-401GX)、アイグラフィックス社製)を用いてUV照射(条件:集光、80W/cm、ランプ高さ10cm、200mJ/cm2(UV-A)、コンベア速度10/min、パス回数4)することで、厚さ100μmのCNF含有ウレタンアクリレートの膜状硬化物を得た(CNF濃度は0.5質量%)
【0047】
<実施例2>
実施例1のCNF含有ウレタンアクリレート 3.0gとTHFA7.0gを使用した以外は実施例1と同じ方法で、厚さ100μmのCNF含有ウレタンアクリレートの膜状硬化物を得た(CNF濃度は0.6質量%)。
【0048】
<比較例1>
別途合成したCNFを含有しないPCD(分子量720)を原料として、実施例1と同様の方法で得たウレタンアクリレート2.5gとテトラヒドロフルフリルアクリレート(東京化成社製)7.5gを使用した以外は実施例1と同じ方法で、厚さ100μmのウレタンアクリレートの膜状硬化物を得た。
【0049】
<比較例2>
比較例1と同じウレタンアクリレート3.0gとテトラヒドロフルフリルアクリレート(東京化成社製)7.0gを使用した以外は実施例1と同じ方法で、厚さ100μmのウレタンアクリレートの膜状硬化物を得た。
【0050】
実施例3 <CNF含有ウレタンアクリレートの引張試験>
実施例および比較例で得られたCNF含有ウレタンアクリレートの膜状硬化物を0.5cm×10cm×100μmの短冊状に切り出したものを、島津オートグラフAG50KNXDplus(島津製作所社製)の引張試験装置で、チャック間距離3cmとし、空気圧によるチャック締め付けを行い、60℃において200mm/minの速度で引っ張り、引張強度を測定した。引張物性として破断応力と破断伸びを表1に示す。
表1からわかるように、CNF含有ウレタンアクリレート硬化物(実施例)はCNFを含まないウレタンアクリレート硬化物(比較例)に比べて、破断応力が向上することが確認された。
【0051】
【表1】