(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】蒸散性不織布
(51)【国際特許分類】
B32B 17/12 20060101AFI20240312BHJP
B32B 17/02 20060101ALI20240312BHJP
B32B 5/26 20060101ALI20240312BHJP
D04H 1/4374 20120101ALI20240312BHJP
F24F 6/04 20060101ALI20240312BHJP
F24F 13/22 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
B32B17/12
B32B17/02
B32B5/26
D04H1/4374
F24F6/04
F24F13/22 222
(21)【出願番号】P 2020071593
(22)【出願日】2020-04-13
【審査請求日】2022-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松塚 健太郎
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-044276(JP,A)
【文献】特開平09-095893(JP,A)
【文献】実開昭55-026390(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
D04H 1/4374
F24F 6/04
F24F 13/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性繊維と熱融着性樹脂とを含む不織布の両面にガラス繊維を含む表面材が配置され、
前記表面材がガラスペーパーであ
り、
前記親水性繊維は、パルプ、麻、綿、絹、羊毛、セルロース系繊維、高吸収性樹脂繊維(SAF)およびポリビニルアルコール樹脂(PVA)を含む合成繊維から選択されることを特徴とする蒸散性不織布。
【請求項2】
前記表面材中のガラス繊維の含有量が70質量%以上、90質量%以下である請求項1に記載の蒸散性不織布。
【請求項3】
前記表面材の米坪量が10g/m
2以上、100g/m
2以下である請求項1または2に記載の蒸散性不織布。
【請求項4】
前記蒸散性不織布の米坪量が100g/m
2以上、600g/m
2以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の蒸散性不織布。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の蒸散性不織布からなるシートの少なくとも1つの端部を固定してなる凝縮水蒸発装置用ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸散性不織布に関し、特に、吸水性および剛性などの力学的特性に優れ、結露吸水材、水蒸散板、調湿板などの用途に好適に用いられる蒸散性不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
水を吸収して表面から蒸発(気化)させる機能を有する蒸散性不織布は、従来知られている。そのような蒸散性不織布は、例えば、スーパーやコンビニエンスストア等に設置された冷蔵/冷凍ショーケースに生じる結露水(ドレン)を排出するための蒸散板や、暖房器具使用時の室内の乾燥状態を緩和するための気化式加湿器などの用途に用いられている。
【0003】
これらの用途において、蒸散性不織布は、例えばその一端がドレンの受け皿や加湿水用の皿の中に配置され、あるいは上部から加湿水が供給されることなどにより、ドレンや加湿水を吸水する。吸水されて蒸散性不織布の内部に含まれた水分は、蒸発(気化)することにより、蒸散性不織布の表面から放出される。蒸発(気化)は通気によって促される。このようにして、蒸散性不織布を用いることによって、受け皿内におけるドレンのオーバーフローの防止や、室内の加湿が可能となっている。
【0004】
また、凝縮水蒸発装置用ユニットの小型化、高効率化を達成しようとすると、表面積を大きくするため、蒸散性不織布の厚みを抑え、且つ、狭間隔でユニット内に配置する必要がある。しかし、蒸散不織布が水を吸い上げた際に、その重みで不織布に折れ曲がりが生じると、空気の流れを曲げたり、遮断したりして、蒸散性が低下することとなる。また、不織布に折れ曲がりが生じることで、蒸散ユニットが分解・破損するおそれもある。
【0005】
そのため、これらの用途に使用するための蒸散性不織布には、吸水性が良好であることに加え、使用時に形態を維持し得るような剛性(形態安定性)等の力学的特性が求められる。
【0006】
そこで、蒸散不織布の剛性を向上させるため、特許文献1は、吸水性繊維質材料の両面に形状保持層としてポリエステルなどの合成樹脂を積層させている。また、特許文献2および特許文献3では、親水性繊維とともに無機繊維や熱融着性樹脂を含有させた不織布を開示し、不織布の剛性を高めている。
【0007】
しかしながら、これらの特許文献に開示された蒸散性不織布は、米坪を下げると形態安定性が不十分となり、隣接する蒸散性不織布同士が接触して表面積が小さくなって、蒸散効果が低下する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-62816号公報
【文献】特開2015-38258号公報
【文献】特開2017-2439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、優れた吸水性を有し、凝縮水蒸発装置用ユニットの小型化、高効率化に貢献する蒸散性不織布を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施態様は、親水性繊維と熱融着性樹脂とを含む不織布の両面にガラス繊維を含む表面材が配置されていることを特徴とする。
【0011】
また、一実施態様において、表面材がガラスペーパーであってもよい。さらに、他の実施態様において、表面材中のガラス繊維の含有量は70質量%以上、90質量%以下であることができる。
【0012】
一実施態様において、表面材の米坪量は10g/m2以上、100g/m2以下であってもよく、他の実施態様において、蒸散性不織布の米坪量が100g/m2以上、600g/m2以下であってもよい。
【0013】
さらに、本発明の一実施態様は、これらの蒸散性不織布からなるシートの少なくとも1つの端部を固定してなる凝縮水蒸発装置用ユニットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施態様について、
図1を参照にしながら詳細に説明する。本発明の一実施態様において、蒸散性不織布は、不織布1と、その両面に配置された表面材2とを備える。
【0016】
(不織布)
不織布1は、親水性繊維と熱融着性樹脂とを含む。
【0017】
不織布1に用いられる親水性繊維としては、天然繊維または化学繊維から選択される少なくとも一つの繊維を用いることができる。天然繊維としては、パルプ、麻、綿、絹、羊毛、鉱物繊維等が挙げられる。また、化学繊維としては、セルロース系繊維、高吸収性樹脂繊維(SAF)およびポリビニルアルコール樹脂(PVA)等からなる合成繊維が挙げられる。好ましくは、セルロース系繊維である。
【0018】
不織布1に用いられる熱融着性樹脂は、構成成分を結着させるバインダ樹脂となる。 熱融着性樹脂は繊維状でもよく、粒子状でもよい。強度がより高くなる点から、熱融着性樹脂は繊維状であることが好ましい。熱融着性樹脂は、例えば、ショートカットファイバーの形態でもよい。これらの繊維は、2種以上を併用してもよい。
【0019】
不織布1に用いられる熱融着性樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリアミド、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートなどが挙げられる。
【0020】
熱融着性樹脂は、2種類以上の樹脂の複合体でもよい。例えば、芯部分と鞘部分とからなる芯鞘繊維、長手方向に垂直な断面において片側の半分ともう一方の片側の半分とが異なる樹脂からなるサイドバイサイド繊維、異なる樹脂からなるコアとシェルとを有するコアシェル粒子等が挙げられる。中でも、不織布の剛度を向上させつつ熱融着性樹脂の性能を発揮させたい場合には、芯鞘繊維が好ましい。
【0021】
芯鞘繊維としては、例えば、ポリプロピレン繊維(融点160℃)からなる芯部分と、該芯部分の外周に形成された、ポリエチレン(融点130℃)からなる鞘部分とを備えたPP/PE複合芯鞘繊維が挙げられる。また、他の芯鞘繊維としては、PP/EVA複合芯鞘繊維、PET/低融点PET複合芯鞘繊維、高密度ポリエチレン/低密度ポリエチレン複合芯鞘繊維、PET/PE複合芯鞘繊維、ポリアミド/低融点ポリアミド複合芯鞘繊維、ポリ乳酸/低融点ポリ乳酸複合芯鞘繊維、ポリ乳酸/ポリブチレンサクシネート複合芯鞘繊維等が挙げられる。芯鞘繊維の中でも、PP/PE複合芯鞘繊維、PET/PE複合芯鞘繊維、PE/PE複合芯鞘繊維等の、ポリエチレンからなる鞘部分を備えた複合芯鞘繊維が好ましい。
【0022】
不織布1は、エアレイド法、スパンボンド法、サーマルボンド法、スパンレース法、メルトブロー法、ニードルパンチ法等などの既存の方法により形成することができる。
【0023】
不織布1において、所望の親水性および剛性を有するのであれば、親水性繊維と熱融着性樹脂は任意の割合で混合することができる。好ましくは、不織布1は、親水性繊維を65質量%未満であり、熱融着性樹脂を10質量%以上含む。より好ましくは、親水性繊維が60質量%未満であり、熱融着性樹脂が20質量%以上含まれる。
【0024】
(表面材)
表面材2はガラス繊維を含み、好ましくはガラスペーパーである。
【0025】
ガラスペーパーは、ガラス繊維をバインダと共に抄紙して、形成される。表面材2中のガラス繊維の含有量は、70質量%以上、90質量%以下である。好ましくは、80質量%以上、90質量%以下である。
【0026】
ガラス繊維としては、例えば、Eガラス、Cガラス、Sガラス、Dガラス、ARガラス等、ガラス繊維であればいずれでも使用可能であるが、コストの観点からEガラスが好適に用いることができる。ガラス繊維の繊維径は6~20μmが好適に用いられ、断面形状は円形の他に楕円や矩形等の扁平ガラスも使用可能である。ガラス繊維は所定の長さに切断して、ガラスチョップドストランドの形状として使用される。
【0027】
また、表面材2のバインダ含有量は、5質量%以上、30質量%以下である。好ましくは、10質量%以上、30質量%以下である。表面材2に用いられるバインダとして、上述の熱融着性樹脂を用いることができる。
【0028】
一実施態様において、ガラスペーパーは、種々の方法で製造することができる。即ち、湿式法、乾式法のいずれの方法を用いてもよい。湿式法では、水分散性のガラス繊維チョップドストランドを、分散剤を溶解した水中に分散せしめた後、抄紙機で抄紙し、熱風乾燥機、或いはドラムドライヤー等で乾燥させる方法が挙げられる。
【0029】
表面材2の米坪量は10g/m2以上、100g/m2以下である。好ましくは、20g/m2以上100g/m2以下である。米坪量が10g/m2以下だと、表面材2の剛軟度が低下する。表面材2の米坪量が大きいほど得られる蒸散性不織布に撓みが生じにくくなるが、米坪量が100g/m2以上の場合、蒸散性不織布全体に占める坪量割合が大きくなりすぎるため、吸上げ性能、蒸散性能が低下する可能性がある。
【0030】
(蒸散性不織布)
一実施態様において、蒸散性不織布は、不織布1の両面に表面材2を配置した積層体である。当該積層体は、例えば、不織布1および表面材2をそれぞれ別途製造し、それらを接着剤等で接着し、製造してもよい。また、各層もしくは一部の層を順次形成しながら、積層体を製造してもよい。例えば、エアレイド法を用い、表面材2の上に不織布1の材料を散布し、さらに表面材2で覆って熱融着させて、不織布1を製造するのと同時に積層体を形成してもよい。
【0031】
一実施態様において、当該積層体における各材料間(各層間)は接着成分により接合・固定されている。接着成分としては、各材料どうしを接着できる限りは特に限定されない。例えば、不織布1および表面材2の材質に応じて市販の接着剤(特にホットメルト接着剤)から適宜選択してもよい。ホットメルト接着剤は、液状タイプ又は固形タイプのいずれも使用することができる。例えば、クモの巣状(ネット状)に成形された固形ホットメルト接着剤を各材料間に介在させ、熱プレスすることにより好適に接着することができる。また、不織布1に含まれる熱融着性樹脂により、不織布1と表面材2とが接着されてもよい。
【0032】
得られた蒸散性不織布は、好ましくは、100g/m2以上、600g/m2以下の米坪量を有する。
【0033】
(吸放湿材)
本発明材料の用途は、吸放湿用として使用される用途であれば限定されず、水分を可逆的に吸放湿することが必要な用途に幅広く使用することができる。すなわち、従来の吸放湿性シートと同様の用途に使用することができる。例えば、気化フィルター、空冷材、除湿材、調湿材等として、各種の装置・部材(加湿器、熱交換器、日用品、家電製品等)に用いることができるほか、そのまま建材用、農業用等としても使用することができる。
【0034】
特に、加湿器など、凝縮水蒸発装置用ユニットに用いる場合は、当該蒸散性不織布は単独で、または複数枚を間隔をあけて、凝縮水の入った容器内にその端部を固定し、使用してもよい。
【実施例】
【0035】
(エアレイド法を採用した蒸散性不織布の製造)
表面材2として、表1に記載のシートを用い、エアレイド法によって、以下の通り、蒸散性不織布を製造した。
【0036】
第一のキャリアシート供給手段によって、コンベアに装着されて走行する透気性無端ベルトの上に、第一のキャリアシートとして表面材2を繰り出した。
【0037】
サクションボックスによって透気性無端ベルトを吸引しながら、第一のキャリアシート上に、ポリエチレン(PE)パウダーを5g/m2となるように散布し、その上に親水性繊維(30%)と熱融着性繊維(70%)の混合物を、ウェブ原料供給手段から空気流と共に供給し、エアレイドウェブ部分の坪量が260g/m2となるようにウェブ原料Aを落下堆積させた。
【0038】
さらにその上に、ポリエチレン(PE)パウダーを5g/m2となるように散布し、上記第一のキャリアシートに使用したものと同じ表面材2を、第二のキャリアシートとして積層し、積層体を得た。
【0039】
得られた積層体を、熱風循環コンベアオーブン方式のボックスタイプドライヤに通し、150℃で熱風処理して、蒸散性不織布を得た。
【0040】
【0041】
A.剛軟度、引張強さおよび引張伸度
JIS L1913:2010(一般不織布試験方)に基づき、実施例1~3および比較例1~5で得られた蒸散性不織布の剛軟度、引張強さ、および引張伸度をそれぞれ測定した。測定結果を表2に示す。
【0042】
【0043】
B.剛度
実施例1~3および比較例1~5で得られた蒸散性不織布に対し、以下の試験を行った。
(Dry剛度)
得られた蒸散性不織布を25mm×70mmに切断し、テーバー試験機を用いて、曲げ角度7.5°の位置での数値を読み取り、Dry剛度を測定した。結果を表2に示す。
(Wet剛度)
得られた蒸散性不織布を25mm×70mmに切断し、水中に1分間浸漬して全体を濡らした後、表面の水滴を拭き取り、Dry剛度と同様に測定し、Wet剛度を測定した。結果を表2に示す。
(変形試験)
得られた蒸散性不織布を50mm×300mmに切断し、内寸276mm×211mm×H35mmのバットに、嵩高25mmまで注水した。当該サンプル片を、バットの短辺側の縁にもたれかかるように設置し、サンプルの端部を水に浸漬させたまま、40℃80%RH条件下で、72時間放置した。乾燥後、サンプル片を水平な台に置き、湾曲部の極大点から台面までの距離を測定した。結果を表2に示す。
【0044】
C.吸水量
実施例1~3ならびに比較例1および3について、以下の吸水性試験を行った。
(吸水量)
得られた蒸散性不織布を20mm×150mmに切断し、水中に1分間浸漬し、その後、増加した重量を測定した。結果を表3に示す。
(曲距離)
得られた蒸散性不織布を20mm×150mmに切断し、水中に1分間浸漬した後、サンプル片の端部から長手方向に20mmの点に重しをのせ、残部が台から飛び出るように、台上にサンプル片を設置した。重しの載っている端部と反対側の端部の高さと、台上のサンプルの高さの差を測定し、それを曲距離(x)とした。結果を表3に示す。
【0045】
【0046】
本実施例により得られた蒸散性不織布は、不織布1をガラス繊維を含む表面材2で挟持することで、高い吸水性を保ちつつ、薄く、かつ高い剛性を示すことができ、吸水時でも変形が少なかった。
【0047】
このように、本発明はその特許請求の範囲に記載された事項のみから解釈されるべきものであり、上述した実施態様においても本発明の概念に包含されるあらゆる変更や修正が記載した事項以外に可能である。つまり、上述した実施態様におけるすべての事項は、本発明を限定するためのものではなく、本発明とは直接的に関係のないあらゆる構成を含め、その用途や目的に応じて任意に変更し得るものである。
【符号の説明】
【0048】
1 不織布
2 表面材