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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】車両用空調装置
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/32 20060101AFI20240312BHJP
   B60H 1/08 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
B60H1/32 623B
B60H1/08 611J
B60H1/32 622C
B60H1/32 623C
B60H1/32 623K
B60H1/32 623M
B60H1/32 623N
B60H1/32 623G
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020074539
(22)【出願日】2020-04-20
(65)【公開番号】P2021172114
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001472
【氏名又は名称】弁理士法人かいせい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野村 知志
(72)【発明者】
【氏名】水野 秀一
(72)【発明者】
【氏名】押谷 洋
(72)【発明者】
【氏名】脇阪 剛史
【審査官】沖田 孝裕
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-143993(JP,A)
【文献】特開2010-234837(JP,A)
【文献】特開2003-306031(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/32
B60H 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の室内に送風される送風空気と冷媒と熱交換して、前記送風空気を冷却する冷却用熱交換器(26)と、
前記冷却用熱交換器による前記送風空気の冷却温度(TE)を検出する温度検出部(31)と、
前記車両のエンジン(10)により駆動され、前記冷却用熱交換器(26)を通過した前記冷媒を圧縮して吐出する圧縮機(22)と、
前記冷却用熱交換器による前記送風空気の目標冷却温度を設定する目標温度設定部(40a)と、
前記冷却温度および前記目標冷却温度に基づいて前記圧縮機の作動を制御する圧縮機制御部(40b)と、
前記車両の走行状態を判定する走行状態判定部(40c)と、
を備え、
前記目標温度設定部は、前記走行状態判定部が前記車両が通常走行していると判定したときには、前記目標冷却温度として通常目標温度(TEO)を設定し、前記走行状態判定部が前記車両が減速開始したと判定したことを契機として前記目標冷却温度として前記通常目標温度よりも高い修正目標温度(TEOK)を設定し、
前記圧縮機制御部は、前記走行状態判定部が前記車両が減速開始したと判定したことを契機として前記圧縮機を作動停止させ、前記温度検出部で検出した前記冷却温度が前記修正目標温度以上になった場合に前記圧縮機を作動開始させる車両用空調装置。
【請求項2】
前記圧縮機制御部は、前記圧縮機を作動停止させた後に、前記走行状態判定部が前記車両が減速中に加速したと判定した場合、または前記車両が減速後の停車中に発車したと判定した場合に、前記圧縮機を作動開始させる請求項に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記走行状態判定部は、前記車両の速度が0km/hを上回っており、かつ、前記車両のアクセル操作が検出されなくなった場合または前記車両のブレーキ操作が検出された場合に、前記車両が減速開始したと判定する請求項1または2に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記冷却用熱交換器は、冷熱を蓄えることが可能な蓄材を備えている請求項1ないしのいずれか1つに記載の車両用空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、減速走行時に蒸発器に蓄冷し、減速走行終了時に蒸発器の目標冷却温度を基準温度よりも所定値高い修正温度に設定する車両用空調装置が提案されている。この車両用空調装置では、冷房フィーリングに影響を与えない範囲で、停車中の圧縮機の停止時間延長を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-104306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の車両用空調装置のように、走行中に蒸発器に蓄えた冷熱を停車後に用いる場合には、道路環境等の条件によって停車時間が異なることから、例えば停車時間が短い場合には蒸発器に蓄えた冷熱を使い切れないおそれがある。このような場合には、圧縮機の停止時間が短くなり、省燃費効果が低くなる。
【0005】
本発明は上記点に鑑み、停車時に圧縮機を停止させた状態で車室内の冷房を行う車両用空調装置において、省燃費効果を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の車両用空調装置は、冷却用熱交換器(26)と、温度検出部(31)と、圧縮機(22)と、目標温度設定部(40a)と、圧縮機制御部(40b)と、走行状態判定部(40c)とを備える。
【0007】
冷却用熱交換器は、車両の室内に送風される送風空気と冷媒と熱交換して送風空気を冷却する。温度検出部は、冷却用熱交換器による送風空気の冷却温度(TE)を検出する。圧縮機は、車両のエンジン(10)により駆動され、冷却用熱交換器(26)を通過した冷媒を圧縮して吐出する。目標温度設定部は、冷却用熱交換器による送風空気の目標冷却温度を設定する。圧縮機制御部は、冷却温度および目標冷却温度に基づいて圧縮機の作動を制御する。走行状態判定部は、車両の走行状態を判定する。
【0008】
目標温度設定部は、走行状態判定部が車両が通常走行していると判定したときには、制御目標温度として通常目標温度(TEO)を設定する。目標温度設定部は、走行状態判定部が車両が減速開始したと判定したことを契機として制御目標温度として通常目標温度よりも高い修正目標温度(TEOK)を設定する。
【0009】
圧縮機制御部は、走行状態判定部が車両が減速開始したと判定したことを契機として圧縮機を作動停止させ、温度検出部で検出した冷却温度が修正目標温度以上になった場合に圧縮機を作動開始させる。
【0011】
これにより、停車中に加えて車両減速中においても蒸発器に蓄えた冷熱を利用して室内冷房を行うことができる。この結果、停車時間が短いような場合であっても、蒸発器に蓄えた冷熱を有効利用して圧縮機の停止時間をできるだけ長くすることができ、省燃費効果を向上させることができる。
【0012】
なお、上記各構成要素の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態の車両用空調装置を示す図である。
図2】蒸発器を示す正面図である。
図3】第1実施形態の車両用空調装置が実行する圧縮機制御処理を示すフローチャートである。
図4】第1実施形態の車両用空調装置の作動を示すタイミングチャートである。
図5】第2実施形態の車両用空調装置が実行する圧縮機制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、図面を参照しながら本開示を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組合せが可能であることを明示している部分同士の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、明示してなくとも実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0015】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1に示す車両用空調装置1は、例えば、走行用内燃機関であるエンジン10を備える車両に搭載されて、車両の室内を空調する。本実施形態の車両は、車両が一時的に停車している間にエンジン10を停止させるアイドリングストップ制御が行われる。アイドリングストップ制御は、車両の停車時にエンジン10を停止させることによって省燃費化を図る制御である。
【0017】
エンジン10は、車両に搭載された内燃機関である。車両用空調装置1が搭載される車両は、例えば、エンジン10に加えて走行用の電動モータを備えたハイブリッド車両であってもよい。
【0018】
車両用空調装置1は、冷凍サイクル装置20を備えている。冷凍サイクル装置20は、冷媒が循環する冷媒流路21が設けられている。本実施形態では、冷媒としてHFO系冷媒(具体的には、R1234yf)を採用している。冷凍サイクル装置20は、高圧側の冷媒圧力が冷媒の臨界圧力を超えない蒸気圧縮式の亜臨界冷凍サイクルである。
【0019】
冷媒流路21には、圧縮機22、凝縮器23、受液器24、膨張弁25、蒸発器26が設けられている。これらの冷凍サイクル装置20の構成機器22~26は、それぞれ冷媒流路21によって結合され、閉回路を構成している。
【0020】
圧縮機22は、冷媒を吸入して高圧冷媒となるまで圧縮して吐出する。本実施形態の圧縮機22は、プーリ、ベルト等を介して車両走行用のエンジン10から伝達される回転駆動力によって駆動されるエンジン駆動式の圧縮機である。圧縮機22の作動は、空調制御装置40によって制御される。空調制御装置40については、後で説明する。
【0021】
圧縮機22は、可変容量型圧縮機あるいは固定容量型圧縮機のいずれを用いてもよい。可変容量型圧縮機は、吐出容量の変化により冷媒吐出能力を調整可能な圧縮機である。固定容量型圧縮機は、電磁クラッチの断続により圧縮機の稼働率を変化させて冷媒吐出能力を調整可能な圧縮機である。
【0022】
圧縮機22は、例えば、車両のエンジンルーム内に設けられ、エンジン10の駆動力により駆動される。アイドリングストップ制御が行われると、圧縮機22が停止し、冷凍サイクル装置20が停止する。つまり、アイドリングストップ制御は圧縮機停止制御ということもできる。
【0023】
本実施形態では、アイドリングストップ制御時においても、車両用空調装置1の運転を行うことが可能となっている。アイドリングストップ制御時には、圧縮機22が停止した状態で空調風が車室内に吹き出される。
【0024】
圧縮機22の吐出側には、凝縮器23の冷媒入口側が接続されている。凝縮器23は、圧縮機22から吐出された高圧気相冷媒と図示しない冷却ファンから送風された外気とを熱交換させる熱交換器である。凝縮器23は、高圧気相冷媒を放熱させて凝縮させる。
【0025】
凝縮器23の出口側には、受液器24が接続されている。受液器24は、冷凍サイクル装置20内の余剰の液冷媒を内部に蓄える。
【0026】
受液器24の出口側には、膨張弁25が接続されている。膨張弁25は、受液器24から流出した冷媒を減圧させるとともに、サイクルを循環する冷媒の循環冷媒流量を調整する冷媒流量調整機構である。
【0027】
本実施形態の膨張弁25は、蒸発器26出口側冷媒の過熱度が予め定めた基準過熱度に近づくように絞り開度を変化させる温度式膨張弁である。温度式膨張弁は、蒸発器26の出口側冷媒の温度および圧力に応じて変形する変形部材(具体的には、ダイヤフラム)を有する感温部と、変形部材の変形に応じて変位して絞り開度を変化させる弁体部とを有する機械式の可変絞り機構である。
【0028】
膨張弁25の出口には、蒸発器26が接続されている。蒸発器26は、車両の室内に送風される空気を冷却する冷却用熱交換器である。蒸発器26は、車室内への送風空気と膨張弁25から流出した低圧冷媒とを熱交換させる。蒸発器26は、低圧冷媒を蒸発させて吸熱作用を発揮させることによって送風空気を冷却する。
【0029】
ここで、図2を用いて蒸発器26について説明する。図2に示すように、本実施形態の蒸発器26は、一対のヘッダタンク26a、26bと、それらヘッダタンク26a、26bの間を連結する複数のチューブ26cを有している。一対のヘッダタンク26a、26bは、互いに所定距離れて平行に配置されている。これらのヘッダタンク26a、26bの間には、複数のチューブ26cが等間隔に配列されている。各チューブ26cは、その端部において対応するヘッダタンク26a、26b内に連通している。
【0030】
チューブ26cは、扁平状に形成され、内部に複数の冷媒通路を有する多穴管である。このチューブ26cは、例えば押出製法によって得ることができる。複数の冷媒通路は、チューブ26cの長手方向に沿って延びており、チューブ26cの両端に開口している。
【0031】
複数のチューブ26cの間には、複数の隙間が形成されている。これら複数の隙間には、複数のフィン26dと複数の蓄冷材容器26eとが設けられている。複数のフィン26dと複数の蓄冷材容器26eは、例えば所定の規則性をもって配置されている。
【0032】
蒸発器26は、車室へ供給される空気と接触面積を増加させるためのフィン26dを備えている。フィン26dは、隣接する2つのチューブ26cの間に区画された空気通路に配置されている。フィン26dは、隣接する2つのチューブ26cと熱的に結合している。フィン26dは、隣接する2つのチューブ26cにろう付け接合されている。フィン26dは、例えば、薄いアルミニウム等の金属板を波状に曲げることにより形成されている。
【0033】
蓄冷材容器26eは、隣接する2つのチューブ26cの間に配置されている。蓄冷材容器26eは、アルミニウム等の金属製である。蓄冷材容器26eは、その両側に配置された2つのチューブ26cに熱的に結合している。本実施形態の蓄冷材容器26eは、チューブ26cにロウ付け接合されている。
【0034】
蓄冷材容器26eには、冷熱を蓄えることができる蓄冷材が収容されている。蓄冷材としては、例えば凝固点が10℃程度のパラフィンを用いることができる。蒸発器26は、冷媒を蒸発させて吸熱作用を発揮させる際に、蓄冷材を凝固させて冷熱を蓄える蓄冷熱交換器である。
【0035】
蒸発器26では、圧縮機22の作動中に、蓄冷材への蓄冷が行われる。蒸発器26では、エンジン10が停止して圧縮機22が作動停止すると、蓄冷材からの放冷が行われる。これにより、圧縮機22が一時的に停止しても、蒸発器26に蓄えられた冷熱を利用して車室内への送風空気を冷却して室内冷房を行うことができる。
【0036】
蒸発器26の吹出温度が所定温度を上回るか、あるいはエンジン10が再始動条件が成立すると、エンジン10が再始動して圧縮機22が作動開始する。蒸発器26の蓄冷機能によって、蒸発器26の吹出温度が上昇するのに要する時間を長くすることができる。これにより、圧縮機22の停止時間を長くすることができ、圧縮機22の省動力効果を高めることができる。また、圧縮機22の停止時間の延長に伴い、エンジン10の停止時間を長くすることができ、エンジン10の省燃費効果を高めることができる。
【0037】
図1に戻り、蒸発器26は、空調ケース30の内部に配置されている。空調ケース30は、車両用空調装置1の空気通路を構成している。
【0038】
空調ケース30において、蒸発器26の空気流れ下流側直後の部位には、蒸発器吹出温度センサ31が設けられている。蒸発器吹出温度センサ31は、蒸発器26を通過した直後の送風空気の温度を検出し、蒸発器26による送風空気の冷却温度である蒸発器冷却温度TEを検出する温度検出部である。蒸発器冷却温度TEは、蒸発器26の温度ともいうことができる。蒸発器吹出温度センサ31のセンサ信号は、空調制御装置40に入力する。
【0039】
空調ケース30には、送風機32が設けられている。送風機32は、空調ケース30内に空気流を発生させる送風部を構成する。送風機32は、図示しない内外気切替箱から吸入された車室内空気(内気)または車室外空気(外気)を車室内に向かって送風する。送風機32の作動は、空調制御装置40によって制御される。
【0040】
送風空気は、蒸発器26を通過した後に、図示しないヒータユニットを通過し、図示しない吹出口から車室内に吹き出される。吹出口には、乗員の上半身に空気を吹き出すフェイス吹出口、車室内乗員の足元に空気を吹き出すフット吹出口、フロントガラス内面に空気を吹き出すデフロスタ吹出口が含まれる。送風空気が吹き出される吹出口を切り替えることで、フェイスモード、フットモード、デフロスタモード等の吹出モードを切り替えることができる。
【0041】
車両用空調装置1は、空調制御装置40を備えている。空調制御装置40は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成されている。空調制御装置40は、ROM内に記憶された制御プログラムに基づいて、各種演算、処理を行い、出力側に接続された各種制御対象機器の作動を制御する。
【0042】
空調制御装置40には、蒸発器吹出温度センサ31からのセンサ信号に加え、センサ群41からのセンサ信号が入力する。センサ群41には、内気温センサ、外気温センサ、日射センサ等が含まれている。内気温センサは、車室内温度を検出する。外気温センサは、車室外温度を検出する。日射センサは、車室内に照射される日射量を検出する。
【0043】
空調制御装置40には、図示しない操作パネルからのスイッチ信号が入力する。操作パネルの操作スイッチには、温度設定スイッチ、風量切替スイッチ、吹出モード切替スイッチ、内外気切替スイッチ、圧縮機22の作動指令を出すエアコンスイッチ等が含まれている。
【0044】
空調制御装置40は、蒸発器冷却温度TEと目標冷却温度に基づいて圧縮機22の作動を制御する。空調制御装置40は、車両の通常走行時は送風空気の目標冷却温度として通常目標温度TEOを設定し、蒸発器冷却温度TEが通常目標温度TEOに近づくように圧縮機22の作動を制御する。通常走行時とは、例えば車速が0km/hを上回っており、かつ、減速走行していない走行状態とすることができる。
【0045】
通常目標温度TEOは、車室内へ吹き出される空気の目標吹出温度TAOに基づいて、予め空調制御装置40に記憶されている制御マップを参照して決定される。目標吹出温度TAOは、各種制御用センサの検出信号および操作パネルの操作信号を用いて算定される。
【0046】
空調制御装置40は、車両の減速開始を契機として、送風空気の目標冷却温度を修正目標温度TEOKに変更し、蒸発器冷却温度TEと修正目標温度TEOKに基づいて圧縮機22の制御を行う。
【0047】
車両が減速後に停車した場合においても、送風空気の目標冷却温度が修正目標温度TEOKのまま維持される。つまり、修正目標温度TEOKに基づく圧縮機22の制御は、車両の減速中および停車中に行われる。
【0048】
修正目標温度TEOKは、基準値である通常目標温度TEOよりも所定温度だけ高く設定される。所定温度は、乗員の快適性を維持できる値、換言すれば車室内に吹き出される送風空気の温度変化を乗員が許容できる値として設定される。本実施形態では、修正目標温度TEOKを通常目標温度TEOよりも6℃程度高温側に設定している。
【0049】
圧縮機22は、車両の減速開始を契機として作動停止する。そして、蒸発器冷却温度TEが修正目標温度TEOKを上回ると、圧縮機22が作動を再開する。
【0050】
空調制御装置40は、ブレーキ制御装置42およびエンジン制御装置43に接続されている。ブレーキ制御装置42およびエンジン制御装置43は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成されている。ブレーキ制御装置42は、図示しない車両ブレーキに関する各種制御を行う。エンジン制御装置43は、エンジン10に関する各種制御を行う。
【0051】
空調制御装置40には、ブレーキ制御装置42から図示しないブレーキペダルの操作状態に関するブレーキ操作信号が入力する。また、空調制御装置40には、エンジン制御装置43からエンジン10の作動状態に関する信号と、図示しないアクセルペダルの操作状態に関するアクセル操作信号が入力する。
【0052】
空調制御装置40は、ブレーキ制御装置42およびエンジン制御装置43から受け取った信号に基づいて車両の走行状態を判定する。車両の走行状態には、ブレーキの操作状態、アクセルの操作状態、車両の減速開始、減速からの加速、減速からの停車、停車からの発車およびエンジン10の作動状態等が含まれる。
【0053】
ブレーキの操作状態は、ブレーキ操作が検出された場合であるブレーキオン、ブレーキ操作が検出されなくなった場合であるブレーキオフを含んでいる。同様に、アクセルの操作状態は、アクセル操作が検出された場合であるアクセルオン、アクセル操作が検出されなくなった場合であるアクセルオフを含んでいる。
【0054】
空調制御装置40において、送風空気の目標冷却温度を設定する構成は目標温度設定部40aである。空調制御装置40において、圧縮機22の作動制御を行う構成は圧縮機制御部40bである。空調制御装置40において、車両の走行状態を判定する構成は走行状態判定部40cである。
【0055】
エンジン制御装置43は、アクセルペダルの操作量に基づいてエンジン10への燃料噴射制御を行う。本実施形態のエンジン制御装置43は、所定の燃料噴射停止条件が成立した場合に、エンジン10への燃料噴射を停止するフューエルカット制御を行う。燃料噴射停止条件は、例えばエンジン10の回転数が所定回転数以上であり、かつ、アクセルオフが検出された場合とすることができる。これにより、車両が減速中である場合にフューエルカット制御が行われる。
【0056】
さらに、本実施形態のエンジン制御装置43はアイドリングストップ制御を行う。アイドリングストップ制御では、エンジン10の稼働中に所定のエンジン停止条件が成立した場合にエンジン10を停止させ、エンジン10の停止中に所定のエンジン再始動条件が成立した場合にエンジン10を始動させる。エンジン停止条件は、例えば車速が0km/hであり、かつ、ブレーキオンが検出された場合とすることができる。エンジン再始動条件は、例えばエンジン10の停止中に、車速が0km/hを上回った場合、あるいはブレーキオフが検出された場合とすることができる。
【0057】
フューエルカット制御からアイドリングストップ制御が行われている間は、エンジン10への燃料噴射停止が維持される。そして、エンジン10の再始動に伴ってエンジン10への燃料噴射が再開される。
【0058】
次に、空調制御装置40が実行する圧縮機制御処理を図3のフローチャートに基づいて説明する。
【0059】
S100でエアコンスイッチがオンになったか否かを判定する。S100の判定処理で、エアコンスイッチがオンになっていないと判定された場合には、圧縮機制御処理を終了する。一方、S100の判定処理で、エアコンスイッチがオンになっていると判定された場合には、S101で車両が減速開始したか否かを判定する。S101では、例えば車速が0km/hを上回っており、かつ、アクセルオフが検出された場合あるいはブレーキオンが検出された場合に、車両が減速開始したと判定することができる。
【0060】
S101の判定処理で、車両が減速開始していないと判定された場合には、S102で送風空気の目標冷却温度として通常目標温度TEOを設定し、S103で圧縮機22を作動開始させる。空調制御装置40は、蒸発器冷却温度TEが通常目標温度TEOに近づくように圧縮機22の制御を行う。
【0061】
一方、S101の判定処理で、車両が減速開始したと判定された場合には、S104で送風空気の目標冷却温度として修正目標温度TEOKを設定する。
【0062】
次に、S105で蒸発器冷却温度TEが修正目標温度TEOK以上であるか否かを判定する。S105の判定処理で、蒸発器冷却温度TEが修正目標温度TEOK以上であると判定された場合には、S102およびS103の処理を実行する。
【0063】
一方、S105の判定処理で、蒸発器冷却温度TEが修正目標温度TEOK以上ではない、すなわち蒸発器冷却温度TEが修正目標温度TEOKを下回っていると判定された場合には、S106で圧縮機22を停止する。圧縮機22の停止中は、蒸発器26に蓄えられた冷熱を利用して車室内への送風空気の冷却が行われる。
【0064】
次に、S107で車両が減速中であるか否かを判定する。S107の判定処理で、車両が減速中であると判定された場合には、S105の処理に戻る。S105に移行後、減速中に蒸発器冷却温度TEが修正目標温度TEOK以上であると判定された場合には、S102およびS103の処理を実行する。
【0065】
一方、S107の判定処理で、車両が減速中でないと判定された場合には、S108で車両が減速中に加速したか、または減速後の停車中に発車したか否かを判定する。S108では、例えば車速が0km/hを上回っており、かつ、アクセルオンになった場合に、加速したと判定することができる。また、S108では、例えば停車中に車速が0km/hを上回った場合に発車したと判定することができる。本実施形態のようにアイドリングストップ制御を行う車両では、発車準備のためにエンジン10が始動した場合にも、S108で発車したと判定することができる。つまり、車両が停車中から発車した場合には、車速が0km/hを上回った場合と、車速が0km/hであっても、発車準備のためエンジン10が始動した場合を含んでいる。
【0066】
S108の判定処理で、車両が加速または発車していない、つまり停車中であると判定された場合には、S105の処理に戻る。これにより、車両が減速後に停車している場合にも、目標冷却温度として修正目標温度TEOKが設定されたままとなる。S105に移行後、停車中に蒸発器冷却温度TEが修正目標温度TEOKを上回った場合には、S102およびS103の処理を実行する。一方、S108の判定処理で、車両が加速または発車したと判定された場合には、S102およびS103の処理を実行する。
【0067】
次に、本実施形態の車両用空調装置の作動を図4のタイミングチャートを用いて説明する。図4では、本実施形態の車両用空調装置の作動を実線で示し、比較例の車両用空調装置の作動を一点鎖線で示している。
【0068】
図4に示すように、車両の通常走行時には、送風空気の目標冷却温度が通常目標温度TEOに設定されている。圧縮機22は、蒸発器冷却温度TEが通常目標温度TEOに近づくように作動制御される。
【0069】
本実施形態では、減速開始を契機として目標冷却温度が修正目標温度TEOKに変更され、圧縮機22が停止される。本実施形態では、減速後の停車中においても、目標冷却温度が修正目標温度TEOKに維持される。減速開始時にエンジン10への燃料噴射が停止され、さらに停車時にエンジン10が停止する。
【0070】
そして、停車中に蒸発器冷却温度TEが修正目標温度TEOKを上回った場合、あるいは停車中にエンジン10が始動した場合は、目標冷却温度が通常目標温度TEOに変更され、圧縮機22が始動される。停車中に蒸発器冷却温度TEが修正目標温度TEOKを上回った場合は、圧縮機22の始動とともにエンジン10が始動し、エンジン10への燃料噴射が再開される。
【0071】
図4に示す例は、停車中に蒸発器冷却温度TEが修正目標温度TEOKを上回った場合を示している。修正目標温度TEOKまで上昇した蒸発器冷却温度TEは、通常目標温度TEOに向けて低下する。
【0072】
比較例では、車両の減速中は目標冷却温度が通常目標温度TEOのまま維持されている。そして、停車開始時に目標冷却温度が修正目標温度TEOKに変更され、圧縮機22が停止される。
【0073】
比較例では、停車中に蒸発器冷却温度TEが修正目標温度TEOKに達する前に車両が発車している。このため、蒸発器冷却温度TEが修正目標温度TEOKに達する前に圧縮機22が始動される。つまり、比較例では、蒸発器26に蓄えられた冷熱を使いきれておらず、省燃費効果が低くなっている。
【0074】
以上説明した本実施形態では、車両の減速開始を契機として目標冷却温度を高温側の修正目標温度TEOKに変更し、圧縮機22を停止している。これにより、停車中に加えて車両減速中においても蒸発器26に蓄えた冷熱を利用して室内冷房を行うことができる。この結果、停車時間が短いような場合であっても、蒸発器26に蓄えた冷熱を有効利用できる。このため、フューエルカット制御およびアイドリングストップ制御を行う車両であれば、エンジン10への燃料噴射の停止時間をできるだけ長くすることができ、省燃費効果を向上させることができる。さらに、圧縮機22の停止時間をできるだけ長くすることができることによっても、省燃費効果を向上させることができる。
【0075】
また、本実施形態では、蓄冷材を有する蒸発器26を用いている。これにより、蒸発器26の蓄冷量を増大させることができる。このため、蒸発器冷却温度TEが修正目標温度TEOKに到達するまでの時間を長くすることができ、圧縮機22の停止時間を効果的に長くすることができる。
【0076】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。以下、上記第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0077】
本第2実施形態では、車両の減速開始を契機として圧縮機22を作動停止させ、減速開始から所定時間が経過した時点で圧縮機22を作動開始させる。所定時間は、圧縮機22の停止後に乗員の快適性を維持できる時間であり、圧縮機22の停止後に車室内に吹き出される送風空気の温度変化を乗員が許容できる圧縮機停止可能時間T1として設定される。圧縮機停止可能時間T1は、例えば蒸発器冷却温度TEが通常目標温度TEOよりも高い所定温度(例えば、上記第1実施形態の修正目標温度TEOK)に到達するのに要する時間とすることができる。
【0078】
圧縮機停止可能時間T1は、蒸発器26の蓄冷量に応じて変動する。例えば、蒸発器26の蓄冷量が大きいほど圧縮機停止可能時間T1が長くなり、蒸発器26の蓄冷量が小さいほど圧縮機停止可能時間T1が短くなる。
【0079】
蒸発器26の蓄冷量は、圧縮機22の作動時間に関連しており、圧縮機22の作動時間は、車両の走行状態に関連している。車両の走行状態に関する情報としては、例えば車両の走行時間(つまり、エンジン10の作動時間)、エンジン10の回転数等を挙げることができる。
【0080】
また、圧縮機停止可能時間T1は外気温に応じて変動する。例えば、外気温が低いほど圧縮機停止可能時間T1が長くなり、外気温が高いほど圧縮機停止可能時間T1が短くなる。
【0081】
このため、圧縮機停止可能時間T1は、車両の走行時間、エンジン10の回転数および外気温の少なくともいずれかに基づいて算出することができる。車両の走行時間、エンジン10の回転数、外気温のいずれかに基づいて圧縮機停止可能時間T1を算出してもよく、車両の走行時間、エンジン10の回転数、外気温を任意に組み合わせて圧縮機停止可能時間T1を算出してもよい。
【0082】
次に、本第2実施形態の空調制御装置40が実行する圧縮機制御処理を図5のフローチャートに基づいて説明する。図5におけるS100~S103、S106~S108の各処理は、図3を用いて説明した上記第1実施形態の処理と同一内容であるので、詳細な説明を省略する。
【0083】
図5に示すように、本第2実施形態では、S101の判定処理で、車両が減速開始したと判定された場合に、S109で圧縮機停止可能時間T1を設定し、S110でタイマTをスタートさせる。S109の処理では、例えば車両の走行状態に関する情報に基づいて圧縮機停止可能時間T1を設定することができる。タイマTは、圧縮機22が作動停止してからの経過時間を計測するために用いられる。圧縮機22が作動停止してからの経過時間は、車両が減速開始してからの経過時間でもある。
【0084】
次に、S111でタイマTが圧縮機停止可能時間T1以上となったか否かを判定する。S111の判定処理で、タイマTが圧縮機停止可能時間T1以上となったと判定された場合には、S102およびS103の処理を実行する。一方、S111の判定処理で、タイマTが圧縮機停止可能時間T1以上でないと判定された場合には、S106~S108の各処理を実行する。
【0085】
以上説明した本第2実施形態では、車両の減速開始を契機として圧縮機22を作動停止させ、減速開始から圧縮機停止可能時間T1が経過した時点で圧縮機22を作動開始させている。これにより、停車中に加えて車両減速中においても蒸発器26に蓄えた冷熱を利用して室内冷房を行うことができる。この結果、車両の停止時間が短いような場合であっても、蒸発器26に蓄えた冷熱を有効利用して圧縮機22の停止時間をできるだけ長くすることができ、省燃費効果を向上させることができる。
【0086】
また、本第2実施形態では、タイマTによる計測時間が圧縮機停止可能時間T1に達した時点で圧縮機22を作動開始させている。このため、車両の減速開始に伴って作動停止させた圧縮機22の作動を再開させる際に、蒸発器吹出温度センサ31による蒸発器冷却温度TEの測定を行う必要がない。
【0087】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。また、上記各実施形態に開示された手段は、実施可能な範囲で適宜組み合わせてもよい。
【0088】
例えば、上記各実施形態では、蓄冷材が設けられた蒸発器26を用いた例について説明したが、本発明は蓄冷材が設けられていない蒸発器を用いる場合にも適用可能である。
【0089】
また、上記各実施形態では、車両の減速開始と同時に圧縮機22を作動停止させるようにしたが、必ずしも車両の減速開始と同時に圧縮機22を作動停止させなくてもよい。具体的には、圧縮機22は、車両の減速開始から停車するまでの任意のタイミングで作動停止させることができる。
【0090】
また、上記各実施形態では、本発明の車両用空調装置をアイドリングストップ制御を行う車両に適用した例について説明したが、本発明の車両用空調装置はアイドリングストップ制御を行わない車両にも適用可能である。
【0091】
また、上記各実施形態では、本発明の車両用空調装置をフューエルカット制御を行う車両に適用した例について説明したが、本発明の車両用空調装置はフューエルカット制御を行わない車両にも適用可能である。
【0092】
また、上記各実施形態では、車速と、アクセル操作またはブレーキ操作とに基づいて減速開始を判定したが、これに限定するものではなく、異なる条件で車両の減速開始を判定してもよい。
【符号の説明】
【0093】
10 エンジン
22 圧縮機
26 蒸発器(冷却用熱交換器)
31 蒸発器吹出温度センサ(温度検出部)
40 空調制御装置
40a 目標温度設定部
40b 圧縮機制御部
40c 走行状態判定部
図1
図2
図3
図4
図5