(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッドユニット、液体吐出装置および液体吐出装置の液体吐出状態判定方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/195 20060101AFI20240312BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240312BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20240312BHJP
B41J 2/165 20060101ALI20240312BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
B41J2/195
B41J2/01 403
B41J2/14 607
B41J2/01 401
B41J2/165 501
B41J2/18
B41J2/14 305
(21)【出願番号】P 2020077197
(22)【出願日】2020-04-24
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】村山 寿郎
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/042878(WO,A1)
【文献】特開2013-146980(JP,A)
【文献】特開2018-103418(JP,A)
【文献】特開2019-059130(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0281385(US,A1)
【文献】特開2010-274620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体に圧力を付与する第1圧力室と、
液体に圧力を付与する第2圧力室と、
前記第1圧力室内の液体に圧力を付与するためのエネルギーを生成する第1エネルギー生成素子と、
前記第2圧力室内の液体に圧力を付与するためのエネルギーを生成する第2エネルギー生成素子と、
前記第1圧力室と前記第2圧力室とを連通させており、液体を吐出するノズルが設けられるノズル流路と、
前記第1エネルギー生成素子および前記第2エネルギー生成素子を駆動パルスの印加により駆動する駆動回路と、
少なくとも前記第2圧力室における液体の物性に関するパラメータを検出する検出回路と、
前記駆動回路および前記検出回路の動作を制御する制御部と、を有し、
前記制御部は、前記駆動回路によって前記第1エネルギー生成素子を駆動し、前記検出回路によって前記第2圧力室における前記パラメータを検出する第1検出動作を実行する、
ことを特徴とする液体吐出ヘッドユニット。
【請求項2】
前記制御部は、前記駆動回路によって前記第1エネルギー生成素子および前記第2エネルギー生成素子の両方を駆動することにより前記ノズルから液体を吐出させる吐出動作を実行する、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッドユニット。
【請求項3】
前記第1検出動作において前記第1エネルギー生成素子に印加される駆動パルスは、前記吐出動作において前記第1エネルギー生成素子に印加される駆動パルスと同波形である、
ことを特徴とする請求項2に記載の液体吐出ヘッドユニット。
【請求項4】
前記第1検出動作では、前記ノズルから液体が吐出されない、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドユニット。
【請求項5】
前記第1検出動作は、第1タイミングから第2タイミングまでの期間にわたる波形の駆動パルスを前記駆動回路によって前記第1エネルギー生成素子に印加するとき、前記第2タイミングの前の第3タイミングからの期間にわたり、前記第2圧力室における前記パラメータを前記検出回路によって検出する、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドユニット。
【請求項6】
前記第3タイミングは、前記第1タイミングよりも前である、
ことを特徴とする請求項5に記載の液体吐出ヘッドユニット。
【請求項7】
前記第1検出動作は、前記第2タイミングの後の第4タイミングまでの期間にわたり、前記第2圧力室における前記パラメータを前記検出回路によって検出する、
ことを特徴とする請求項5または6に記載の液体吐出ヘッドユニット。
【請求項8】
前記検出回路は、前記パラメータとして、前記第2圧力室内に生じる残留振動を検出する、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドユニット。
【請求項9】
前記検出回路は、前記パラメータとして、前記第2圧力室内の温度を検出する、
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドユニット。
【請求項10】
前記物性は、液体の粘性である、
ことを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドユニット。
【請求項11】
前記パラメータまたは前記物性に基づいて、前記ノズルからの液体の吐出状態を判定する判定部をさらに有する、
ことを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドユニット。
【請求項12】
前記制御部は、前記駆動回路によって前記第2エネルギー生成素子を駆動し、前記検出回路によって前記第1圧力室における前記パラメータを検出する第2検出動作を実行し、
前記判定部は、前記第1検出動作による検出結果と前記第2検出動作による検出結果とに基づいて、前記ノズルからの液体の吐出状態を判定する、
ことを特徴とする請求項11に記載の液体吐出ヘッドユニット。
【請求項13】
前記第1圧力室に連通し、前記第1圧力室に液体を供給する供給流路と、
前記第2圧力室に連通し、前記第2圧力室から液体が排出される排出流路と、をさらに有する、
ことを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドユニット。
【請求項14】
前記第2圧力室に連通し、前記第2圧力室に液体を供給する供給流路と、
前記第1圧力室に連通し、前記第1圧力室から液体が排出される排出流路と、をさらに有する、
ことを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドユニット。
【請求項15】
前記制御部は、前記駆動回路によって前記第1エネルギー生成素子を駆動し、前記第1エネルギー生成素子の駆動に伴う前記第1圧力室における前記パラメータを前記検出回路によって検出する第3検出動作を実行する、
ことを特徴とする請求項1から14のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドユニット。
【請求項16】
前記第3検出動作は、前記駆動回路によって前記第2エネルギー生成素子を駆動し、前記第2エネルギー生成素子の駆動に伴う前記第2圧力室における前記パラメータを前記検出回路によって検出する、
ことを特徴とする請求項15に記載の液体吐出ヘッドユニット。
【請求項17】
前記第2エネルギー生成素子と前記駆動回路とを電気的に接続し、かつ、前記第2エネルギー生成素子と前記検出回路とを電気的に接続しない第1状態と、前記第2エネルギー生成素子と前記駆動回路とを電気的に接続せず、かつ、前記第2エネルギー生成素子と前記検出回路とを電気的に接続する第2状態と、を切替可能な切替回路をさらに有する、
ことを特徴とする請求項1から16のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドユニット。
【請求項18】
前記第1圧力室と前記第2圧力室は、それぞれ延在方向に延在しており、
前記駆動回路は、前記第1エネルギー生成素子と前記第2エネルギー生成素子との前記延在方向における間に位置する、
ことを特徴とする請求項1から17のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドユニット。
【請求項19】
請求項1から18のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドユニットと、
前記液体吐出ヘッドユニットからの液体による画像が印刷される印刷媒体を搬送する搬送機構と、を有する、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項20】
液体に圧力を付与する第1圧力室と、液体に圧力を付与する第2圧力室と、前記第1圧力室内の液体に圧力を付与するためのエネルギーを生成する第1エネルギー生成素子と、前記第2圧力室内の液体に圧力を付与するためのエネルギーを生成する第2エネルギー生成素子と、前記第1圧力室と前記第2圧力室とを連通させており、液体を吐出するノズルが設けられるノズル流路と、を有する液体吐出装置の液体吐出状態判定方法であって、
前記第1エネルギー生成素子を駆動し、前記第1エネルギー生成素子の駆動に伴う前記第2圧力室における液体の物性に関するパラメータを検出し、
前記パラメータまたは前記物性に基づいて、前記ノズルからの液体の吐出状態を判定する、
ことを特徴とする液体吐出装置の液体吐出状態判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドユニット、液体吐出装置および液体吐出装置の液体吐出状態判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式のプリンターに代表される液体吐出装置は、例えば、特許文献1に開示されるように、液体に圧力を付与するための圧力室と、圧力室に圧力を付与する圧電素子と、を有する。特許文献1に記載の装置は、圧力素子に駆動信号を供給した後のインクの振動に基づく残留振動波形を当該圧電素子の起電力として検出し、この検出結果に基づいてインク粘度または気泡混入等のインク状態を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の装置では、残留振動波形の発生および検出の両方に同じ圧電素子を用いるため、残留振動波形の検出に用いる圧電素子を駆動状態から検出状態に切り替える必要がある。このため、特許文献1に記載の装置では、当該切り替えに伴って発生する電気的なノイズが残留振動波形に混入してしまい、この結果、吐出状態の判定精度の低下を招くという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本発明の好適な態様に係る液体吐出ヘッドユニットは、液体に圧力を付与する第1圧力室と、液体に圧力を付与する第2圧力室と、前記第1圧力室内の液体に圧力を付与するためのエネルギーを生成する第1エネルギー生成素子と、前記第2圧力室内の液体に圧力を付与するためのエネルギーを生成する第2エネルギー生成素子と、前記第1圧力室と前記第2圧力室とを連通させており、液体を吐出するノズルが設けられるノズル流路と、前記第1エネルギー生成素子および前記第2エネルギー生成素子を駆動パルスの印加により駆動する駆動回路と、少なくとも前記第2圧力室における液体の物性に関するパラメータを検出する検出回路と、前記駆動回路および前記検出回路の動作を制御する制御部と、を有し、前記制御部は、前記駆動回路によって前記第1エネルギー生成素子を駆動し、前記検出回路によって前記第2圧力室における前記パラメータを検出する第1検出動作を実行する。
【0006】
本発明の好適な態様に係る液体吐出装置は、前述の態様の液体吐出ヘッドユニットと、前記液体吐出ヘッドユニットからの液体による画像が印刷される印刷媒体を搬送する搬送機構と、を有する。
【0007】
本発明の好適な態様に係る液体吐出装置の液体吐出状態判定方法は、液体に圧力を付与する第1圧力室と、液体に圧力を付与する第2圧力室と、前記第1圧力室内の液体に圧力を付与するためのエネルギーを生成する第1エネルギー生成素子と、前記第2圧力室内の液体に圧力を付与するためのエネルギーを生成する第2エネルギー生成素子と、前記第1圧力室と前記第2圧力室とを連通させており、液体を吐出するノズルが設けられるノズル流路と、を有する液体吐出装置の液体吐出状態判定方法であって、前記第1エネルギー生成素子を駆動し、前記第1エネルギー生成素子の駆動に伴う前記第2圧力室における液体の物性に関するパラメータを検出し、前記パラメータまたは前記物性に基づいて、前記ノズルからの液体の吐出状態を判定する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係る液体吐出装置の構成例を示す模式図である。
【
図2】第1実施形態に係る液体吐出装置の電気的な構成を示すブロック図である。
【
図3】第1実施形態に係る液体吐出ヘッドにおける流路の模式図である。
【
図5】第1実施形態における駆動回路の構成例を示す図である。
【
図6】第1実施形態における吐出動作を説明するための図である。
【
図7】第1実施形態における第1検出動作を説明するための図である。
【
図8】検出期間と解析期間との関係を説明するための図である。
【
図9】第1実施形態における第2検出動作を説明するための図である。
【
図10】第1実施形態における第3検出動作を説明するための図である。
【
図11】第2実施形態における駆動回路の構成例を示す図である。
【
図12】第2実施形態における吐出動作を説明するための図である。
【
図13】第2実施形態における第1検出動作を説明するための図である。
【
図14】第3実施形態における第1検出動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態を説明する。なお、図面において各部の寸法または縮尺は実際と適宜に異なり、理解を容易にするために模式的に示している部分もある。また、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られない。
【0010】
なお、以下の説明は、互いに交差するX軸、Y軸およびZ軸を適宜に用いて行う。また、X軸に沿う一方向をX1方向といい、X1方向と反対の方向をX2方向という。同様に、Y軸に沿って互いに反対の方向をY1方向およびY2方向という。また、Z軸に沿って互いに反対の方向をZ1方向およびZ2方向という。ここで、典型的には、Z軸が鉛直な軸であり、Z2方向が鉛直方向での下方向に相当する。ただし、Z軸は、鉛直な軸でなくともよい。また、X軸、Y軸およびZ軸は、典型的には互いに直交するが、これに限定されず、例えば、80°以上100°以下の範囲内の角度で交差すればよい。
【0011】
A:第1実施形態
A1:液体吐出装置の全体構成
図1は、第1実施形態に係る液体吐出装置100の構成例を示す模式図である。液体吐出装置100は、インク等の液体を液滴として媒体11に対して吐出するインクジェット方式の印刷装置である。媒体11は、印刷媒体の一例であり、例えば、印刷用紙である。なお、媒体11は、印刷用紙に限定されず、例えば、樹脂フィルムまたは布帛等の任意の材質の印刷対象であってもよい。
【0012】
液体吐出装置100には、液体容器12が装着される。液体容器12は、インクを貯留する。液体容器12の具体的な態様としては、例えば、液体吐出装置100に着脱可能なカートリッジ、可撓性のフィルムで構成される袋状のインクパック、および、インクを補充可能なインクタンクが挙げられる。なお、液体容器12に貯留されるインクの種類は任意である。
【0013】
液体吐出装置100は、
図1に示すように、制御モジュール21と搬送機構22と移動機構23と液体吐出ヘッドモジュール20とを有する。制御モジュール21は、液体吐出装置100の各要素の動作を制御する。
【0014】
搬送機構22は、制御モジュール21による制御のもとで、媒体11をY軸に沿って搬送する。移動機構23は、制御モジュール21による制御のもとで、液体吐出ヘッドモジュール20をX軸に沿って往復させる。移動機構23は、液体吐出ヘッドモジュール20を収容する略箱型の搬送体231と、搬送体231が固定される無端の搬送ベルト232と、を有する。なお、搬送体231に搭載される液体吐出ヘッドモジュール20の数は、1個に限定されず、複数個でもよい。また、搬送体231には、液体吐出ヘッドモジュール20のほかに、前述の液体容器12が搭載されてもよい。
【0015】
液体吐出ヘッドモジュール20は、制御モジュール21による制御のもと、液体容器12から供給されるインクを複数のノズルのそれぞれから媒体11に吐出する。この吐出が搬送機構22による媒体11の搬送と移動機構23による液体吐出ヘッドモジュール20の往復移動とに並行して行われることにより、媒体11の表面に画像が形成される。
【0016】
A2:液体吐出装置の電気的な構成
図2は、第1実施形態に係る液体吐出装置100の電気的な構成を示すブロック図である。
図2に示す液体吐出装置100の構成要素のうち、前述の制御モジュール21および液体吐出ヘッドモジュール20は、液体吐出ヘッドユニット10を構成する。
【0017】
図2に示すように、液体吐出ヘッドモジュール20は、液体吐出ヘッド24と駆動回路45と検出回路46とを有する。以下、これらの概略を説明する。なお、液体吐出ヘッド24、駆動回路45および検出回路46については、後に
図3~
図8に基づいて詳述する。
【0018】
液体吐出ヘッド24は、複数の圧電素子41を有しており、当該複数の圧電素子41の適宜の駆動により、インクをノズルから吐出する。ここで、各圧電素子41は、供給駆動信号Vinの供給を受けてインクに圧力を付与する機能と、インクからの圧力を受けて出力信号Voutを出力する機能と、を有する。
【0019】
駆動回路45は、制御モジュール21による制御のもと、圧電素子41を駆動する。本実施形態では、駆動回路45が切替回路も兼ねる。具体的には、駆動回路45は、制御モジュール21による制御のもと、液体吐出ヘッド24が有する複数の圧電素子41のそれぞれについて、制御モジュール21から出力される駆動信号Comを供給駆動信号Vinとして供給するか否かを切り替える。また、本実施形態では、駆動回路45は、制御モジュール21による制御のもと、液体吐出ヘッド24が有する複数の圧電素子41のそれぞれについて、圧電素子41における起電力を出力信号Voutとして検出回路46に供給するか否かを切り替える。
【0020】
検出回路46は、液体吐出ヘッド24に設けられる流路を流通するインクの物性に関するパラメータを検出する。本実施形態におけるインクの物性とは、後述するインクの吐出状態を判定することが可能であればどのような値でも良いが、インクの吐出状態との相関性の高さからインクの粘性であることが好ましい。そして、本実施形態のように圧電素子を用いる場合においては、後述する残留振動をインクの物性に関するパラメータとして検出することが好ましい。本実施形態の検出回路46は、各圧電素子41で発生する出力信号Voutに基づいて、残留振動信号NVTを生成する。例えば、検出回路46は、出力信号Voutをノイズ除去後に増幅することにより残留振動信号NVTを生成する。後に詳述するが、残留振動信号NVTは、圧電素子41の駆動後に液体吐出ヘッド24におけるインクの流路に残留する振動である残留振動を示す。
【0021】
なお、
図2に示す例では、液体吐出ヘッドモジュール20が有する液体吐出ヘッド24の数が1個であるが、これに限定されず、液体吐出ヘッドモジュール20が有する液体吐出ヘッド24の数が2個以上でもよい。以下では、液体吐出ヘッド24が有する圧電素子41の数をMとするとき、M個の圧電素子41のそれぞれを区別するため、添え字[m]を用いて、圧電素子41を圧電素子41[m]と表記することがある。ただし、Mは、1以上の自然数であり、mは、1以上M以下の自然数である。また、液体吐出装置100において圧電素子41に対応するM個の他の構成要素または信号についても、添え字[m]を用いて、圧電素子41[m]との対応関係を示すことがある。
【0022】
図2に示すように、制御モジュール21は、制御回路51と記憶回路52と電源回路53と駆動信号生成回路54と判定回路55とを有する。
【0023】
制御回路51は、液体吐出装置100の各部の動作を制御する機能と、各種データを処理する機能と、を有する。ここで、制御回路51は、制御部の一例であり、前述の駆動回路45および検出回路46の動作を制御する。制御回路51は、例えば、1個以上のCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサーを含む。なお、制御回路51は、CPUに代えて、または、CPUに加えて、FPGA(field-programmable gate array)等のプログラマブルロジックデバイスを含んでもよい。また、制御回路51は、複数のプロセッサーで構成される場合、例えば、駆動回路45の動作制御と検出回路46の動作制御とが別々のプロセッサーで行われてもよい。つまり、駆動回路45の動作と検出回路46の動作が同一のプロセッサーで行われる場合、および駆動回路45の動作と検出回路46の動作が別々のプロセッサーで行われる場合のいずれも、制御部が駆動回路45の動作と検出回路46の動作を制御するいう記載に含まれる。また、制御回路51が複数のプロセッサーで構成される場合、当該複数のプロセッサーが互いに異なる基板等に実装されてもよい。
【0024】
記憶回路52は、制御回路51が実行する各種プログラムと、制御回路51が処理する印刷データImg等の各種データと、を記憶する。記憶回路52は、例えば、RAM(Random Access Memory)等の揮発性のメモリーとROM(Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)またはPROM(Programmable ROM)等の不揮発性メモリーとの一方または両方の半導体メモリーを含む。印刷データImgは、パーソナルコンピューターまたはデジタルカメラ等の外部装置200から供給される。なお、記憶回路52は、制御回路51の一部として構成されてもよい。
【0025】
電源回路53は、図示しない商用電源から電力の供給を受け、所定の各種電位を生成する。生成した各種電位は、液体吐出装置100の各部に適宜に供給される。例えば、電源回路53は、電源電位VHVとオフセット電位VBSとを生成する。オフセット電位VBSは、液体吐出ヘッドモジュール20に供給される。また、電源電位VHVは、駆動信号生成回路54に供給される。
【0026】
駆動信号生成回路54は、各圧電素子41を駆動するための駆動信号Comを生成する回路である。具体的には、駆動信号生成回路54は、例えば、DA変換回路と増幅回路とを有する。駆動信号生成回路54では、当該DA変換回路が制御回路51からの波形指定信号dComをデジタル信号からアナログ信号に変換し、当該増幅回路が電源回路53からの電源電位VHVを用いて当該アナログ信号を増幅することで駆動信号Comを生成する。ここで、駆動信号Comに含まれる波形のうち、圧電素子41に実際に供給される波形の信号が前述の供給駆動信号Vinである。波形指定信号dComは、駆動信号Comの波形を規定するためのデジタル信号である。
【0027】
判定回路55は、残留振動信号NVTに基づいて、後述するノズルNにおけるインクの吐出状態を判定し、その判定結果を示す判定情報Sttを生成する。判定情報Sttは、例えば、印刷時におけるノズルからのインクの吐出制御等に用いられる。判定回路55は、判定部の一例である。なお、判定回路55は、制御回路51の一部として構成されてもよい。
【0028】
以上の制御モジュール21では、制御回路51が、記憶回路52に記憶されるプログラムを実行することで、液体吐出装置100の各部の動作を制御する。ここで、制御回路51は、当該プログラムの実行により、液体吐出装置100の各部の動作を制御するための信号として、制御信号Sk1およびSk2と制御信号SIと波形指定信号dComとを生成する。
【0029】
制御信号Sk1は、搬送機構22の駆動を制御するための信号である。制御信号Sk2は、移動機構23の駆動を制御するための信号である。制御信号SIは、圧電素子41の動作状態を指定するためのデジタルの信号である。なお、制御信号SIには、圧電素子41の駆動タイミングを規定するためのタイミング信号が含まれてもよい。当該タイミング信号は、例えば、前述の搬送体231の位置を検出するエンコーダーの出力に基づいて生成される。
【0030】
A3:液体吐出ヘッドの流路
図3は、第1実施形態に係る液体吐出ヘッド24における流路の模式図である。液体吐出ヘッド24には、
図3に示すように、複数のノズルNと複数の個別流路Pと第1共通液室R1と第2共通液室R2とが設けられるとともに、循環機構26が接続される。
【0031】
具体的に説明すると、液体吐出ヘッド24は、媒体11に対向する表面を有し、当該表面には、
図3に示すように、複数のノズルNが設けられる。複数のノズルNは、Y軸に沿って配列される。複数のノズルNのそれぞれは、Z2方向にインクを吐出する。
【0032】
ここで、複数のノズルNの集合は、ノズル列Lを構成する。また、複数のノズルNは、ピッチθで等間隔に配列される。ピッチθは、Y軸に沿う方向における複数のノズルNの中心間の距離である。
【0033】
複数のノズルNのそれぞれには、個別流路Pが連通する。複数の個別流路Pのそれぞれは、X軸に沿って延びており、相異なるノズルNに連通する。複数の個別流路Pの集合は、個別流路列25を構成する。また、複数の個別流路Pは、Y軸に沿って配列される。
【0034】
図3に示すように、各個別流路Pは、圧力室Caと圧力室Cbとノズル流路Nfとを有する。ここで、圧力室Caは、第1圧力室の一例である。圧力室Cbは、第2圧力室の一例である。各個別流路Pにおける圧力室Caおよび圧力室Cbのそれぞれは、X軸に沿って延びており、当該個別流路Pに連通するノズルNから吐出されるインクが貯留される空間である。よってX軸に沿った方向を圧力室Caの延在方向或いは圧力室Cbの延在方向とも称する。
図3に示す例では、複数の圧力室Caは、Y軸に沿って配列される。同様に、複数の圧力室Cbは、Y軸に沿って配列される。よってY軸に沿った方向を圧力室Caの配列方向或いは圧力室Cbの配列方向とも称する。なお、各個別流路Pにおいて、Y軸に沿う方向における圧力室Caおよび圧力室Cbの位置は、
図3に示す例では互いに同じであるが、互いに異なってもよい。また、以下では、圧力室Caおよび圧力室Cbを特に区別しない場合に単に「圧力室C」ともいう。
【0035】
各個別流路Pにおける圧力室Caと圧力室Cbとの間には、ノズル流路Nfが配置される。各個別流路Pにおいて、ノズル流路Nfは、X軸に沿って延びており、圧力室Caと圧力室Cbとを連通させる。また、複数のノズル流路Nfは、互いに間隔をあけてY軸に沿って配列される。各ノズル流路Nfには、ノズルNが設けられる。各ノズル流路Nfでは、前述の圧力室Caおよび圧力室Cb内の圧力が変化することで、ノズルNからインクが吐出される。
【0036】
複数の個別流路Pには、第1共通液室R1および第2共通液室R2が連通する。第1共通液室R1および第2共通液室R2のそれぞれは、複数のノズルNが分布する全範囲に亘ってY軸に沿って延びる空間である。Z軸に沿う方向にみて、第1共通液室R1と第2共通液室R2との間には、前述の個別流路列25および複数のノズルNが位置する。なお、以下では、Z軸に沿う方向にみることを「平面視」ともいう。
【0037】
ここで、第1共通液室R1は、各個別流路PのX2方向での端部E1に接続される。第1共通液室R1には、各個別流路Pに供給するためのインクが貯留される。一方、第2共通液室R2は、各個別流路PのX1方向での端部E2に接続される。第2共通液室R2には、吐出に供されずに各個別流路Pから排出されるインクが貯留される。
【0038】
第1共通液室R1および第2共通液室R2には、循環機構26が接続される。循環機構26は、第1共通液室R1にインクを供給するとともに、第2共通液室R2から排出されるインクを第1共通液室R1への再供給のために回収する機構である。循環機構26は、第1供給ポンプ261と第2供給ポンプ262と貯留容器263と回収流路264と供給流路265とを有する。
【0039】
第1供給ポンプ261は、液体容器12に貯留されるインクを貯留容器263に供給するポンプである。貯留容器263は、液体容器12から供給されるインクを一時的に貯留するサブタンクである。回収流路264は、第2共通液室R2と貯留容器263とを連通させており、第2共通液室R2からのインクを貯留容器263に回収するための流路である。貯留容器263には、液体容器12に貯留されるインクが第1供給ポンプ261から供給されるほか、各個別流路Pから第2共通液室R2に排出されるインクが回収流路264を介して供給される。第2供給ポンプ262は、貯留容器263に貯留されるインクを送出するポンプである。供給流路265は、第1共通液室R1と貯留容器263とを連通させており、貯留容器263からのインクを第1共通液室R1に供給するための流路である。
【0040】
A4:液体吐出ヘッドの具体的な構造
図4は、
図3中のA-A線断面図である。
図4では、個別流路Pに沿ってX軸およびZ軸に平行な平面で切断される液体吐出ヘッド24の断面が示される。液体吐出ヘッド24は、
図4に示すように、流路構造体30と複数の圧電素子41と筐体部42と保護基板43と配線基板44とを有する。
【0041】
流路構造体30には、前述の第1共通液室R1、第2共通液室R2、複数の個別流路Pおよび複数のノズルNが設けられる。具体的には、流路構造体30は、ノズル基板31、連通板33、圧力室基板34および振動板35がこの順にZ1方向に向かって積層される構造体である。ノズル基板31、連通板33、圧力室基板34および振動板35の各部材は、Y軸に沿って延びており、例えば、半導体加工技術を用いてシリコンの単結晶基板を加工することにより製造される。また、これらの部材は、接着剤等により互いに接合される。なお、流路構造体30を構成する複数の部材のうちの隣り合う2つの部材間には、接着層等の他の層または基板が適宜に介在してもよい。
【0042】
ノズル基板31には、複数のノズルNが設けられる。複数のノズルNのそれぞれは、ノズル基板31を貫通しており、インクを通過させる貫通孔である。
【0043】
連通板33には、第1共通液室R1および第2共通液室R2のそれぞれの一部と複数の個別流路Pにおける圧力室Caおよび圧力室Cbを除く部分とが設けられる。ここで、各個別流路Pは、前述の圧力室Ca、圧力室Cbおよびノズル流路Nfのほか、供給流路Ra1および排出流路Ra2を有する。このような個別流路Pを構成する要素のうち、ノズル流路Nf、供給流路Ra1および排出流路Ra2が連通板33に設けられる。
【0044】
第1共通液室R1および第2共通液室R2のそれぞれの一部は、連通板33を貫通する空間である。連通板33のZ2方向を向く面には、当該空間による開口を閉塞する吸振体361および吸振体362が設置される。
【0045】
吸振体361および吸振体362のそれぞれは、弾性材料で構成される層状部材である。吸振体361は、第1共通液室R1の壁面の一部を構成しており、第1共通液室R1における圧力変動を吸収する。同様に、吸振体362は、第2共通液室R2の壁面の一部を構成しており、第2共通液室R2における圧力変動を吸収する。
【0046】
前述のように、ノズル流路Nfは、圧力室Caと圧力室Cbとを連通させる空間である。
図4に示す例では、ノズル流路Nfは、横流路Nf1と第1縦流路Na1と第2縦流路Na2とを有する。
【0047】
横流路Nf1は、連通板33のZ2方向を向く面に設けられる溝内の空間である。ここで、ノズル基板31は、横流路Nf1の壁面の一部を構成する。
【0048】
第1縦流路Na1および第2縦流路Na2のそれぞれは、Z軸に沿って延びており、連通板33を貫通する空間である。第1縦流路Na1は、圧力室Caと横流路Nf1とを連通させており、圧力室Caからのインクを横流路Nf1に導く。一方、第2縦流路Na2は、圧力室Cbと横流路Nf1とを連通させており、横流路Nf1からのインクを圧力室Cbに導く。なお、第1縦流路Na1および第2縦流路Na2は、必要に応じて設ければよく、省略してもよい。この場合、横流路Nf1が圧力室Caと圧力室Cbとを連通させるノズル流路Nfを構成する。
【0049】
供給流路Ra1および排出流路Ra2のそれぞれは、Z軸に沿って延びており、連通板33を貫通する空間である。供給流路Ra1は、第1共通液室R1と圧力室Caとを連通させており、第1共通液室R1からのインクを圧力室Caに供給する。ここで、供給流路Ra1の一端は、連通板33のZ1方向を向く面に開口する。これに対し、供給流路Ra1の他端は、個別流路Pの上流側の端部E1であり、連通板33における第1共通液室R1の壁面に開口する。一方、排出流路Ra2は、第2共通液室R2と圧力室Cbとを連通させており、圧力室Cbからのインクを第2共通液室R2に排出する。ここで、排出流路Ra2の一端は、連通板33のZ1方向を向く面に開口する。これに対し、排出流路Ra2の他端は、個別流路Pの下流側の端部E2であり、連通板33における第2共通液室R2の壁面に開口する。
【0050】
圧力室基板34には、複数の個別流路Pの圧力室Caおよび圧力室Cbが設けられる。圧力室Caおよび圧力室Cbのそれぞれは、圧力室基板34を貫通しており、連通板33と振動板35との間における間隙である。
【0051】
振動板35は、弾性的に振動可能な板状部材である。振動板35は、例えば、酸化シリコン(SiO2)で構成される第1層と、酸化ジルコニウム(ZrO2)で構成される第2層と、を含む積層体である。ここで、第1層と第2層との間には、金属酸化物等の他の層が介在してもよい。なお、振動板35の一部または全部は、圧力室基板34と同一材料で一体に構成されてもよい。例えば、所定厚の板状部材における圧力室Cに対応する領域について厚さ方向の一部を選択的に除去することで、振動板35および圧力室基板34を一体に形成することができる。また、振動板35は、単一材料の層で構成されてもよい。
【0052】
振動板35のZ1方向を向く面には、相異なる圧力室Cに対応する複数の圧電素子41が設置される。ここで、各圧力室Caに対応する圧電素子41は、第1エネルギー生成素子の一例である。各圧力室Cbに対応する圧電素子41は、第2エネルギー生成素子の一例である。各圧力室Cに対応する圧電素子41は、平面視で圧力室Cに重なる。各圧電素子41は、例えば、互いに対向する第1電極および第2電極と、両電極間に配置される圧電体層との積層により構成される。各圧電素子41は、圧力室C内のインクの圧力を変動させることで圧力室C内のインクをノズルNから吐出させる。圧電素子41は、駆動信号Comが供給されることにより、自身の変形に伴い、振動板35を振動させる。この振動に伴って、圧力室Cが膨張および伸縮することにより、圧力室C内のインクの圧力が変動する。
【0053】
筐体部42は、インクを貯留するためのケースである。筐体部42には、第1共通液室R1および第2共通液室R2のそれぞれについて連通板33に設けられる一部以外の残部を構成する空間が設けられる。また、筐体部42には、供給口421および排出口422が設けられる。供給口421は、第1共通液室R1に連通する管路であり、循環機構26の供給流路265に接続される。このため、第2供給ポンプ262から供給流路265に送出されるインクは、供給口421を経由して第1共通液室R1に供給される。他方、排出口422は、第2共通液室R2に連通する管路であり、循環機構26の回収流路264に連結される。このため、第2共通液室R2内のインクは排出口422を経由して回収流路264に排出される。
【0054】
保護基板43は、振動板35のZ1方向を向く面に設置される板状部材であり、複数の圧電素子41を保護するとともに振動板35の機械的な強度を補強する。ここで、保護基板43と振動板35との間には、複数の圧電素子41を収容する空間が形成される。
【0055】
配線基板44は、振動板35のZ1方向を向く面に実装されており、制御モジュール21と液体吐出ヘッド24とを電気的に接続するための実装部品である。例えば、FPC(Flexible Printed Circuit)またはFFC(Flexible Flat Cable)等の可撓性の配線基板44が好適に利用される。配線基板44には、前述の駆動回路45が実装される。なお、配線基板44には、駆動回路45のほか、前述の検出回路46が実装されてもよい。
【0056】
ここで、駆動回路45は、ノズルNからのインクの吐出方向であるZ2方向でみたとき、圧力室Caに対応する圧電素子41と圧力室Cbに対応する圧電素子41との間に位置する。言い換えると、駆動回路45は、圧力室Caに対応する圧電素子41と圧力室Cbに対応する圧電素子41とのX軸に沿う方向における間に位置する。このため、駆動回路45が他の位置にある構成に比べて、駆動回路45からこれらの圧電素子41の両方への駆動信号Comの供給経路を短くすることができる。
【0057】
以上の構成の液体吐出ヘッド24では、前述の循環機構26の動作により、インクが第1共通液室R1、供給流路Ra1、圧力室Ca、ノズル流路Nf、圧力室Cb、排出流路Ra2および第2共通液室R2にこの順に流通する。
【0058】
また、駆動回路45からの駆動信号Comにより、圧力室Caおよび圧力室Cbの両方に対応する圧電素子41が同時に駆動することで、圧力室Caおよび圧力室Cbの圧力を変動させ、その圧力変動に伴ってノズルNからインクが吐出される。
図4では、圧力室Caおよび圧力室Cbの両方に対応する圧電素子41が同時に駆動する場合におけるインクの流れの経路および方向が破線および矢印で示される。なお、循環機構26の動作期間または動作タイミングは、任意であり、ノズルNからインクを吐出する期間またはタイミングと重複するか否かも任意である。
【0059】
以上のように、液体吐出ヘッドユニット10は、供給流路Ra1と排出流路Ra2とを有する。前述のように、供給流路Ra1は、圧力室Caに連通し、圧力室Caにインクを供給する。排出流路Ra2は、圧力室Cbに連通し、圧力室Cbからインクが排出される。このような供給流路Ra1および排出流路Ra2により、供給流路Ra1と排出流路Ra2との間の流路におけるインクの滞留を低減することができる。このため、ノズルNの近傍におけるインクの増粘または成分の沈殿を低減することができる。この結果、液体吐出ヘッド24におけるインクの吐出量または吐出速度等の吐出特性の悪化を防止することができる。
【0060】
ここで、供給流路Ra1から圧力室Caへのインクの供給と圧力室Cbから排出流路Ra2へのインクの排出とは、前述のように、循環機構26の作動により行われる。なお、循環機構26と液体吐出ヘッド24との接続形態を前述の接続形態に対して供給側と排出側とで逆にしてもよい。この場合、供給流路Ra1は、圧力室Caからインクが排出される排出流路として機能し、排出流路Ra2は、圧力室Cbにインクを供給する供給流路として機能する。
【0061】
A5:駆動回路の詳細
図5は、第1実施形態における駆動回路45の構成例を示す図である。
図5に示すように、駆動回路45には、配線LHd、LHaおよびLHsが接続される。配線LHdは、オフセット電位VBSが供給される給電線である。配線LHaは、駆動信号Comを伝送する信号線である。配線LHsは、出力信号Voutを伝送する信号線である。
【0062】
駆動回路45は、M個のスイッチSWa(SWa[1]]~SWa[M])と、M個のスイッチSWs(SWs[1]]~SWs[M])と、これらのスイッチの接続状態を指定する接続状態指定回路451と、を有する。
【0063】
スイッチSWa[m]は、駆動信号Comの伝送のための配線LHaと圧電素子41[m]との間の導通(オン)と非導通(オフ)とを切り替えるスイッチである。スイッチSWs[m]は、出力信号Voutの伝送のための配線LHsと圧電素子41[m]との間の導通(オン)と非導通(オフ)とを切り替えるスイッチである。これらのスイッチのそれぞれは、例えば、トランスミッションゲートである。ここで、圧電素子41[1]は、前述の圧力室Caに対応する圧電素子41である。また、圧電素子41[2]は、前述の圧力室Caに対応する圧電素子41である。なお、
図5では、前述の圧電素子41の第1電極および第2電極のうち、一方が電極Zd[m]として示され、他方が電極Zu[M]として示される。
【0064】
接続状態指定回路451は、制御信号SIに基づいて、スイッチSWa[1]~SWa[M]のオンオフを指定する接続状態指定信号SLa[1]~SLa[M]と、スイッチSWs[1]~SWs[M]のオンオフを指定する接続状態指定信号SLs[1]~SLs[M]と、を生成する。
【0065】
以上のように生成される接続状態指定信号SLa[m]に応じて、スイッチSWa[m]のオンオフが切り替えられる。例えば、スイッチSWa[m]は、接続状態指定信号SLa[m]がハイレベルの場合にオン状態となり、ローレベルの場合にオフ状態となる。以上のように、駆動回路45は、複数の圧電素子41から選択される1以上の圧電素子41に対して、駆動信号Comに含まれる波形の一部または全部を供給駆動信号Vinとして供給する。
【0066】
また、接続状態指定信号SLs[m]に応じて、スイッチSWs[m]のオンオフが切り替えられる。例えば、スイッチSWs[m]は、接続状態指定信号SLs[m]がハイレベルの場合にオン状態となり、ローレベルの場合にオフ状態となる。以上のように、駆動回路45は、複数の圧電素子41から選択される1以上の圧電素子41からの出力信号Voutを検出回路46に供給する。
【0067】
A6:液体吐出装置における吐出動作
図6は、第1実施形態における吐出動作を説明するための図である。
図6に示すように、駆動信号Comは、駆動パルスPDを含んでおり、単位期間Tuで繰り返される。単位期間Tuは、先行の期間Tu1と後行の期間Tu2とに区分される。
図6に示す例では、期間Tu1の長さと期間Tu2の長さとが互いに等しい。本実施形態では、期間Tu1および期間Tu2のそれぞれがスイッチSWa[1]、スイッチSWa[2]、スイッチSWs[1]およびスイッチSWs[2]の切り替えのための制御期間として用いられる。
【0068】
なお、スイッチSWa[1]、スイッチSWa[2]、スイッチSWs[1]およびスイッチSWs[2]の切り替えは、期間Tu1または期間Tu2よりも短い制御期間で行ってもよい。また、期間Tu1の長さと期間Tu2の長さとが互いに異なってもよい。
【0069】
駆動パルスPDは、期間Tu1に含まれており、第1タイミングt1から第2タイミングt2までの期間にわたる波形のパルスである。
図6に示す例では、駆動パルスPDの電位は、オフセット電位VBSを基準電位として、当該基準電位よりも低い電位に降下した後に、当該基準電位よりも高い電位に上昇する。このような波形の駆動パルスPDは、駆動パルスPDが基準電位よりも高い電位のみで構成される場合に比べて、ノズルNからのインクの吐出に適する。なお、
図6では、期間Tu2における駆動信号Comの電位が基準電位である場合が例示されるが、これに限定されず、期間Tu2に吐出または検査のためのパルスが適宜に含まれてもよい。
【0070】
制御回路51は、印刷時等において、ノズルNからインクを吐出させる吐出動作を実行する。当該吐出動作では、駆動回路45が圧電素子41[1]および圧電素子41[2]の両方を駆動することにより、ノズルNからインクが吐出される。
【0071】
図6に示す例では、期間Tu1にわたり、スイッチSWa[1]およびスイッチSWa[2]のそれぞれがオンされるとともに、スイッチSWs[1]およびスイッチSWs[2]のそれぞれがオフされる。また、期間Tu2にわたり、スイッチSWa[1]、スイッチSWa[2]、スイッチSWs[1]およびスイッチSWs[2]のそれぞれがオフされる。
【0072】
このようなスイッチの切り替えにより、圧電素子41[1]および圧電素子41[2]の両方には、期間Tu1において駆動パルスPDが印加される。なお、
図6に示す例では、期間Tu2において、駆動信号Comにパルスが含まれないため、スイッチSWa[1]およびスイッチSWa[2]のそれぞれがオンされてもよい。
【0073】
A7:液体吐出装置における検出動作
制御回路51は、液体吐出ヘッド24に設けられる流路を流通するインクの物性変化を検出回路46によって検出する検出動作を実行する。本実施形態の制御回路51は、当該検出動作として、以下の第1検出動作、第2検出動作および第3検出動作を実行可能である。なお、これらの検出動作の選択または実行時期等は、あらかじめ設定されたプログラムまたはユーザーからの操作等に従い適宜に決められる。
【0074】
図7は、第1実施形態における第1検出動作を説明するための図である。第1検出動作では、駆動回路45が圧電素子41[1]を駆動し、圧電素子41[1]の駆動に伴う圧力室Cbにおけるインクの物性に関するパラメータ、ここでは残留振動を検出回路46が検出する。
【0075】
図7に示す例では、期間Tu1にわたり、スイッチSWa[1]およびスイッチSWs[2]のそれぞれがオンされるとともに、スイッチSWa[2]およびスイッチSWs[1]のそれぞれがオフされる。また、期間Tu2にわたり、スイッチSWs[2]がオンされるとともに、スイッチSWa[1]、スイッチSWa[2]およびスイッチSWs[1]のそれぞれがオフされる。
【0076】
このようなスイッチの切り替えにより、圧電素子41[1]には、期間Tu1において駆動パルスPDが印加され、検出回路46には、期間Tu1および期間Tu2にわたり圧電素子41[2]からの出力信号Voutが入力される。
【0077】
第1検出動作における検出の開始タイミングである第3タイミングt3は、駆動パルスPDの終了タイミングである第2タイミングt2よりも前である。
図7に示す例では、第3タイミングt3が、駆動パルスPDの開始タイミングである第1タイミングt1よりも前であり、単位期間Tuまたは期間Tu1の開始タイミングに一致する。なお、第3タイミングt3は、第2タイミングt2よりも前であればよく、
図7に示す例に限定されないが、より好適に第1検出動作を行うためには第3タイミングt3は第1タイミングt1よりも前であることが好ましい。
【0078】
第1検出動作における検出の終了タイミングである第4タイミングt4は、駆動パルスPDの終了タイミングである第2タイミングt2よりも後である。
図7に示す例では、第4タイミングt4が、単位期間Tuまたは期間Tu2の終了タイミングに一致する。なお、第4タイミングt4は、第2タイミングt2よりも後であればよく、
図7に示す例に限定されない。
【0079】
図8は、検出期間と解析期間との関係を説明するための図である。検出回路46には、
図8に示すように、第3タイミングt3から第4タイミングt4にわたる検出期間において、残留振動信号NVTを含む出力信号Voutが入力される。
【0080】
判定回路55は、検出期間内の第5タイミングt5から第6タイミングt6までの解析期間にわたり、残留振動信号NVTに基づいて、ノズルNにおけるインクの吐出状態を判定する。ここで、第5タイミングt5は、第2タイミングt2またはその直後のタイミングである。第6タイミングt6は、第4タイミングt4よりも前のタイミングである。なお、第5タイミングt5および第6タイミングt6は、
図8に示す例に限定されず、任意である。
【0081】
残留振動信号NVTは、残留振動を示す信号である。当該残留振動は、液体吐出ヘッド24におけるインクが流通する流路の流路抵抗、当該流路内のインクのイナータンス、および振動板35の弾性コンプライアンス等によって決まる固有周波数の振動である。ここで、振動板35の残留振動はインク(液体)の残留振動と等価である。
【0082】
判定回路55は、残留振動信号NVTの周期または振幅に基づいて、ノズルNからの吐出状態を判定する。例えば、判定回路55は、残留振動信号NVTの周期が基準値以上となった場合、インクに気泡が混入し、ノズルNの吐出状態が不良になったと判定する。また、判定回路55は、残留振動信号NVTの振幅の減衰速度が基準値以上となった場合、インクの増粘の程度が許容範囲を超え、ノズルNの吐出状態が不良となったと判定する。
【0083】
第1実施形態は、上述の第1検出動作のみ行う系であっても良いが、第2の検出動作を更に行っても良い。
図9は、第2検出動作を説明するための図である。第2検出動作では、駆動回路45が圧電素子41[2]を駆動し、圧電素子41[2]の駆動に伴う圧力室Caにおけるインクの物性に関するパラメータを検出回路46が検出する。
【0084】
図9に示す例では、期間Tu1にわたり、スイッチSWa[2]およびスイッチSWs[1]のそれぞれがオンされるとともに、スイッチSWa[1]およびスイッチSWs[2]のそれぞれがオフされる。また、期間Tu2にわたり、スイッチSWs[1]がオンされるとともに、スイッチSWa[1]、スイッチSWa[2]およびスイッチSWs[2]のそれぞれがオフされる。
【0085】
このようなスイッチの切り替えにより、圧電素子41[2]には、期間Tu1において駆動パルスPDが印加され、検出回路46には、期間Tu1および期間Tu2にわたり圧電素子41[1]からの出力信号Voutが入力される。
【0086】
第2検出動作における検出の開始タイミングは、第1検出動作の開始タイミングと同様であり、第3タイミングt3である。第2検出動作における検出の終了タイミングは、第1検出動作の終了タイミングと同様であり、第4タイミングt4である。なお、第2検出動作における検出の開始タイミングは、第1検出動作における検出の開始タイミングと異なってもよい。同様に、第2検出動作における検出の終了タイミングは、第1検出動作における検出の終了タイミングと異なってもよい。
【0087】
以上の第2検出動作は、前述の第1検出動作とは異なる期間、すなわち第1検出動作の前または後に実行される。そして、判定回路55は、これらの検出動作による検出結果を用いて、ノズルNからのインクの吐出状態を判定する。例えば、判定回路55は、これらの検出動作による検出結果の差分を算出し、その差分が所定値以上である場合に吐出不良等の異常と判定する。すなわち、判定回路55は、これらの検出動作による検出結果のうちの一方を他方の基準として、吐出不良等の異常の有無を判定する。ここで、判定回路55は、適宜、これらの検出動作による検出結果を記憶回路52に記憶したり記憶回路52から読み出したりする。
【0088】
第1実施形態は、上述の第1検出動作のみ行う系であっても良いが、第3の検出動作を更に行っても良い。
図10は、第1実施形態における第3検出動作を説明するための図である。第3検出動作では、駆動回路45が圧電素子41[1]および圧電素子41[2]を駆動し、圧電素子41[1]および圧電素子41[2]の駆動に伴う圧力室Caおよび圧力室Cbにおけるインクの物性変化を検出回路46が検出する。
【0089】
図10に示す例では、期間Tu1にわたり、スイッチSWa[2]およびスイッチSWs[1]のそれぞれがオンされるとともに、スイッチSWa[1]およびスイッチSWs[2]のそれぞれがオフされる。また、期間Tu2にわたり、スイッチSWs[1]およびスイッチSWs[2]のそれぞれがオンされるとともに、スイッチSWa[1]およびスイッチSWa[2]のそれぞれがオフされる。
【0090】
このようなスイッチの切り替えにより、圧電素子41[1]および圧電素子41[2]には、期間Tu1において駆動パルスPDが印加され、検出回路46には、期間Tu2にわたり圧電素子41[1]および圧電素子41[2]からの出力信号Voutが入力される。
【0091】
第3検出動作における検出の開始タイミングは、前述の第2タイミングt2の直後である。第3検出動作における検出の終了タイミングは、第1検出動作の終了タイミングと同様であり、第4タイミングt4である。なお、第3検出動作における検出の開始タイミングおよび終了タイミングは、
図10に示す例に限定されない。例えば、第3検出動作における検出の終了タイミングは、第4タイミングt4よりも前でもよい。
【0092】
以上の第3検出動作では、前述のように、期間Tu1において、圧電素子41[1]および圧電素子41[2]の両方が同時に駆動し、かつ、前述の吐出動作と同じ駆動パルスPDを用いることから、ノズルNからインクが吐出される。したがって、前述の吐出動作に代えて第3検出動作を用いることができる。このため、第3検出動作により、印刷と検出の両方を実行することができる。また、第3検出動作による検出結果は、前述の第1検出動作または第2検出動作による検出結果と併用して、判定回路55での判定に用いてもよい。ここで、判定回路55は、適宜、これらの検出動作による検出結果を記憶回路52に記憶したり記憶回路52から読み出したりする。
【0093】
以上の液体吐出ヘッドユニット10は、前述のように、第1圧力室の一例である圧力室Caと、第2圧力室の一例である圧力室Cbと、第1エネルギー生成素子の一例である圧電素子41[1]と、第2エネルギー生成素子の一例である圧電素子41[2]と、ノズル流路Nfと、駆動回路45と、検出回路46と、制御部の一例である制御回路51と、を有する。
【0094】
圧力室Caおよび圧力室Cbのそれぞれは、液体の一例であるインクに圧力を付与する。圧電素子41[1]は、圧力室Ca内のインクに圧力を付与するためのエネルギーを生成する。圧電素子41[2]は、圧力室Cb内のインクに圧力を付与するためのエネルギーを生成する。ノズル流路Nfは、圧力室Caと圧力室Cbとを連通させており、ノズル流路Nfには、インクを吐出するノズルNが設けられる。駆動回路45は、圧電素子41[1]および圧電素子41[2]を駆動パルスPDの印加により駆動する。検出回路46は、圧力室Caおよび圧力室Cbのうちの少なくとも一方におけるインクの物性に関するおパラメータを検出する。制御回路51は、駆動回路45および検出回路46の動作を制御する。
【0095】
特に、制御回路51は、駆動回路45によって圧電素子41[1]を駆動し、圧電素子41[1]の駆動に伴う圧力室Cbにおけるインクの物性に関するパラメータを検出回路46によって検出する第1検出動作を実行する。
【0096】
以上の液体吐出ヘッドユニット10では、第1検出動作において、圧電素子41[1]の駆動に伴う圧力室Cbにおけるインクの物性に関するパラメータを検出するので、当該検出に圧電素子41[1]を用いずに済む。このため、当該検出に用いる素子である圧電素子41[2]を駆動状態から検出状態に切り替える必要がなく、検出波形に対する当該切り替えによるノイズの混入を防止することができる。この結果、従来に比べて吐出状態の判定精度を高めることができる。
【0097】
ここで、制御回路51は、駆動回路45によって圧電素子41[1]および圧電素子41[2]の両方を駆動することによりノズルNからインクを吐出させる吐出動作を実行する。このような吐出動作では、圧電素子41[1]または圧電素子41[2]のいずれかの駆動によりノズルNからインクを吐出させる動作に比べて、吐出効率を高めることができる。また、圧電素子41[1]および圧電素子41[2]の片方の駆動時にノズルNからインクを吐出しない駆動パルスPDを吐出動作に用いることができる。このため、第1検出動作と吐出動作とで同じ駆動パルスPDを用いることができる。
【0098】
本実施形態では、第1検出動作において圧電素子41[1]に印加される駆動パルスPDは、吐出動作において圧電素子41[1]に印加される駆動パルスPDと同波形である。このため、第1検出動作と吐出動作とで異なる駆動パルスを用いる構成に比べて、液体吐出ヘッドユニット10の構成の簡単化を図ることができる。ここで、駆動パルスPDの波形を適宜に設定することにより、第1検出動作においてノズルNからインクを吐出させないことが可能である。
【0099】
第1検出動作では、ノズルNからインクが吐出されないことが好ましい。この場合、第1検出動作を検出専用の動作として用いても、インクの無駄を低減することができる。
【0100】
前述のように、第1検出動作は、駆動パルスPDを駆動回路45によって圧電素子41[1]に印加する。ここで、駆動パルスPDは、第1タイミングt1から第2タイミングt2までの期間にわたる波形である。第1検出動作は、第2タイミングt2の前の第3タイミングt3からの期間にわたり、圧力室Cbにおけるインクの物性変化を検出回路46によって検出する。このため、圧電素子41[1]の駆動に伴う圧力室Cbにおけるインクの物性変化をその発生開始から検出することができる。
【0101】
また、第1検出動作は、第2タイミングt2の後の第4タイミングt4までの期間にわたり、圧力室Cbにおけるインクの物性変化を検出回路46によって検出する。このため、圧電素子41[1]の駆動に伴う圧力室Cbにおけるインクの物性に関するパラメータをその発生開始から判定に必要な範囲にわたり検出することができる。
【0102】
本実施形態では、検出回路46は、物性に関するパラメータとして、圧力室Cb内に生じる残留振動を検出する。圧電素子41[1]の駆動後には、圧力室Caにおけるインクの圧力変化に伴って、圧力室Cb内に残留する振動として残留振動が発生する。例えば、この残留振動の振幅または周期は、圧力室Cb内のインクにおける気泡の発生の有無または増粘の程度等により異なる。したがって、当該残留振動を検出することにより、その検出結果を用いて、ノズルNの吐出状態を判定することができる。
【0103】
前述のように、液体吐出ヘッドユニット10は、判定部の一例である判定回路55をさらに有する。判定回路55は、第1検出動作による物性に関するパラメータの検出結果に基づいて、ノズルNからのインクの吐出状態を判定する。このため、判定回路55の判定結果を用いて、画質を高めるようにノズルNからのインクの吐出制御を行ったり、ノズルNからのインクの吐出状態を報知したりすることができる。
【0104】
ここで、本実施形態では、前述のように、制御回路51は、第1検出動作だけでなく第2検出動作を実行する。第2検出動作は、駆動回路45によって圧電素子41[2]を駆動し、圧電素子41[2]の駆動に伴う圧力室Caにおけるインクの物性に関するパラメータを検出回路46によって検出する。判定回路55は、第1検出動作による検出結果と第2検出動作による検出結果とに基づいて、ノズルNからのインクの吐出状態を判定する。例えば、第1検出動作による検出結果と第2検出動作による検出結果との差分を用いることにより、当該差分が所定値以上である場合に吐出不良等の異常と判定することができる。また、当該差分を用いて、これらの検出結果に含まれるノイズ等の不要成分を相殺または低減することもできる。したがって、第1検出動作による検出結果のみを用いる場合に比べて、ノズルNからのインクの吐出状態の判定精度を高めることができる。なお、第2検出動作は、必要に応じて実行すればよい。また、制御回路51が第2検出動作を実行しない構成でもよい。
【0105】
さらに、前述のように、制御回路51は、第1検出動作および第2検出動作のほか、第3検出動作を実行してもよい。第3検出動作は、駆動回路45によって圧電素子41[1]を駆動し、圧電素子41[1]の駆動に伴う圧力室Caにおけるインクの物性に関するパラメータを検出回路46によって検出する。このため、第1検出動作および第2検出動作のうちの少なくとも一方による検出結果と第3検出動作による検出結果とを併用することにより、検出回路46における検出精度を高めることもできる。
【0106】
ここで、第3検出動作は、前述の動作のほかに、駆動回路45によって圧電素子41[2]を駆動し、圧電素子41[2]の駆動に伴う圧力室Cbにおけるインクの物性に関するパラメータを検出回路46によって検出することが好ましい。この場合、第1検出動作および第2検出動作による検出結果を併用する場合と同様、第3検出動作による2つの検出結果の差分を用いることにより、判定回路55での判定精度を高めることができる。なお、第3検出動作は、必要に応じて実行すればよい。また、制御回路51が第3検出動作を実行しない構成でもよい。
【0107】
前述のように、駆動回路45が切替回路としても機能する。すなわち、液体吐出ヘッドユニット10は、第1状態と第2状態とを切替可能な切替回路の一例である駆動回路45を有する。第1状態は、圧電素子41[2]と駆動回路45とを電気的に接続し、かつ、圧電素子41[2]と検出回路46とを電気的に接続しない。したがって、駆動回路45が第1状態である場合、圧電素子41[2]を吐出動作における駆動素子として用いることができる。これに対し、第2状態は、圧電素子41[2]と駆動回路45とを電気的に接続せず、かつ、圧電素子41[2]と検出回路46とを電気的に接続する。したがって、駆動回路45が第2状態である場合、圧電素子41[2]を第1検出動作における検出素子として用いることができる。
【0108】
以上の液体吐出装置100は、液体吐出ヘッドユニット10と、ノズルNからのインクによる画像が印刷される印刷媒体の一例である媒体11を搬送する搬送機構22と、を有する。以上の液体吐出装置100では、前述のような液体吐出ヘッドユニット10の優れた検出特性を利用することにより、従来に比べて画質を高めたり信頼性を高めたりすることができる。
【0109】
B:第2実施形態
以下、本発明の第2実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用や機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0110】
図11は、第2実施形態における駆動回路45Aの構成例を示す図である。本実施形態の液体吐出ヘッドユニット10Aは、前述の第1実施形態の液体吐出ヘッドユニット10Aの駆動回路45に代えて、
図11に示す駆動回路45Aを有する。
【0111】
図11に示すように、駆動回路45Aには、配線LHd、LHaおよびLHsのほか、配線LHbが接続される。配線LHbは、駆動信号Com-Bを伝送する信号線である。なお、本実施形態では、配線LHaは、駆動信号Com-Aを伝送する信号線である。
【0112】
駆動回路45Aは、M個のスイッチSWa(SWa[1]]~SWa[M])と、M個のスイッチSWb(SWb[1]]~SWb[M])と、M個のスイッチSWs(SWs[1]]~SWs[M])と、これらのスイッチの接続状態を指定する接続状態指定回路451Aと、を有する。
【0113】
スイッチSWb[m]は、配線LHbと圧電素子41[m]との間の導通(オン)と非導通(オフ)とを切り替えるスイッチである。接続状態指定回路451Aは、制御信号SIに基づいて、接続状態指定信号SLa[1]~SLa[M]および接続状態指定信号SLs[1]~SLs[M]のほか、スイッチSWb[1]~SWb[M]のオンオフを指定する接続状態指定信号SLb[1]~SLb[M]を生成する。
【0114】
接続状態指定信号SLb[m]に応じて、スイッチSWb[m]のオンオフが切り替えられる。以上のように、駆動回路45Aは、複数の圧電素子41から選択される1以上の圧電素子41に対して、駆動信号Com-Bに含まれる波形の一部または全部を供給駆動信号Vinとして供給する。
【0115】
図12は、第2実施形態における吐出動作を説明するための図である。
図12に示すように、駆動信号Com-Aは、前述の第1実施形態の駆動信号Comと同様、駆動パルスPDを含んでおり、単位期間Tuで繰り返される。
【0116】
吐出動作では、前述の第1実施形態と同様、駆動回路45が圧電素子41[1]および圧電素子41[2]の両方に駆動パルスPDを印加する。
【0117】
図12に示す例では、期間Tu1にわたり、スイッチSWa[1]およびスイッチSWa[2]のそれぞれがオンされるとともに、スイッチSWb[1]、スイッチSWb[2]、スイッチSWs[1]およびスイッチSWs[2]のそれぞれがオフされる。また、期間Tu2にわたり、スイッチSWa[1]、スイッチSWa[2]、スイッチSWb[1]、スイッチSWb[2]、スイッチSWs[1]およびスイッチSWs[2]のそれぞれがオフされる。
【0118】
図13は、第2実施形態における第1検出動作を説明するための図である。
図13に示すように、駆動信号Com-Bは、駆動パルスPD1を含んでおり、単位期間Tuで繰り返される。なお、単位期間Tuは、第1実施形態と同様、先行の期間Tu1と後行の期間Tu2とに区分される。
【0119】
駆動パルスPD1は、期間Tu1に含まれており、第1タイミングt1から第2タイミングt2までの期間にわたる波形のパルスである。ただし、駆動パルスPD1の波形は、駆動パルスPDとは異なる。
図13に示す例では、駆動パルスPD1の電位は、オフセット電位VBSを基準電位として、当該基準電位よりも低い電位に降下せずに、当該基準電位よりも高い電位に上昇する。このような波形の駆動パルスPD1は、駆動パルスPDに比べて、ノズルNからインクを吐出し難くしやすい。このため、第1検出動作において、ノズルNからインクを吐出させずに、インクの無駄を防止することができる。
【0120】
本実施形態の第1検出動作では、駆動回路45が圧電素子41[1]に駆動パルスPD1を印加し、圧電素子41[1]の駆動に伴う圧力室Cbにおけるインクの物性に関するパラメータを検出回路46が検出する。
【0121】
図13に示す例では、期間Tu1にわたり、スイッチSWb[1]およびスイッチSWs[2]のそれぞれがオンされるとともに、スイッチSWa[1]、スイッチSWa[2]、スイッチSWb[2]およびスイッチSWs[1]のそれぞれがオフされる。また、期間Tu2にわたり、スイッチSWs[2]がオンされるとともに、スイッチSWa[1]、スイッチSWa[2]、スイッチSWb[1]、スイッチSWb[2]およびスイッチSWs[1]のそれぞれがオフされる。
【0122】
以上の第2実施形態によっても、前述の第1実施形態と同様の効果が得られる。また、本実施形態では、第1検出動作に駆動パルスPD1を用いることにより、第1検出動作においてノズルNからインクが吐出されないことが容易となる。
【0123】
C:第3実施形態
以下、本発明の第3実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用や機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0124】
図14は、第3実施形態における第1検出動作を説明するための図である。本実施形態は、駆動パルスPD1に代えて駆動パルスPD2を含む駆動信号Com-Bを用いる以外は、前述の第2実施形態と同様である。
【0125】
駆動パルスPD2は、期間Tu1に含まれており、第1タイミングt1から第2タイミングt2までの期間にわたる波形のパルスである。
図14に示す例では、駆動パルスPD2の電位は、オフセット電位VBSを基準電位として、当該基準電位よりも高い電位に上昇せずに、当該基準電位よりも低い電位に降下する。このような波形の駆動パルスPD2は、前述の第2実施形態の駆動パルスPD1と同様、駆動パルスPDに比べて、ノズルNからインクを吐出し難くしやすい。このため、第1検出動作において、ノズルNからインクを吐出させずに、インクの無駄を防止することができる。
【0126】
以上の第3実施形態によっても、前述の第1実施形態と同様の効果が得られる。また、本実施形態では、第1検出動作に駆動パルスPD2を用いることにより、第1検出動作においてノズルNからインクが吐出されないことが容易となる。
【0127】
D:変形例
以上に例示される各形態は、多様に変形され得る。前述の各形態に適用され得る具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択される態様は、互いに矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。
【0128】
(変形例1)
前述の各形態では、液体吐出ヘッドに用いるインクを循環機構により循環させる構成が例示されるが、この構成に限定されず、このような循環のための機構を有しない構成でもよい。
【0129】
(変形例2)
圧力室C内のインクの圧力を変化させる第1エネルギー生成素子および第2エネルギー生成素子のそれぞれは、前述の各形態で例示した圧電素子41に限定されない。例えば、加熱により圧力室Cの内部に気泡を発生させることでインクの圧力を変動させる発熱素子を第1エネルギー生成素子または第2エネルギー生成素子として利用してもよい。
【0130】
発熱素子を第1エネルギー生成素子、第2エネルギー生成素子として利用する場合、検出回路46は、温度をインクの物性に関するパラメータとして検出することが好ましい。インクの粘性は、温度変化によって変化する。よって、第1エネルギー生成素子を駆動させ、その際の第2圧力室における温度を第2エネルギー生成素子により検出し、その温度変化からインクの物性である粘性を推定することができる。詳細には、第1エネルギー生成素子として発熱素子を用いる構成では、第1エネルギー生成素子の駆動により、第1圧力室における液体の温度上昇に伴って、第2圧力室における液体の温度も上昇する。また、第1エネルギー生成素子の駆動後には、第2圧力室における液体の温度が定常状態に戻るように降下する。このような第2圧力室における液体の温度変化は、第2圧力室内の液体における気泡の発生の有無または増粘の程度等により異なる。したがって、第2圧力室内の温度を検出することにより、その検出結果を用いて、第2圧力室内の液体における気泡の発生の有無または増粘の程度等を判定することができる。
【0131】
(変形例3)
前述の各形態では、液体吐出ヘッド24を搭載した搬送体231を往復させるシリアル方式の液体吐出装置100を例示したが、複数のノズルNが媒体11の全幅にわたり分布するライン方式の液体吐出装置にも本発明は適用される。
【0132】
前述の形態で例示した液体吐出装置100は、印刷に専用される機器のほか、ファクシミリ装置やコピー機等の各種の機器に採用されてもよく、本発明の用途は特に限定されない。もっとも、液体吐出装置の用途は印刷に限定されない。例えば、色材の溶液を吐出する液体吐出装置は、液晶表示パネル等の表示装置のカラーフィルターを形成する製造装置として利用される。また、導電材料の溶液を噴出する液体吐出装置は、配線基板の配線や電極を形成する製造装置として利用される。また、生体に関する有機物の溶液を噴出する液体吐出装置は、例えばバイオチップを製造する製造装置として利用される。
【符号の説明】
【0133】
10…液体吐出ヘッドユニット、10A…液体吐出ヘッドユニット、11…媒体(印刷媒体)、22…搬送機構、41[1]…圧電素子(第1エネルギー生成素子)、41[2]…圧電素子(第2エネルギー生成素子)、45…駆動回路、45A…駆動回路、46…検出回路、51…制御回路(制御部)、55…判定回路(判定部)、100…液体吐出装置、Ca…圧力室(第1圧力室)、Cb…圧力室(第2圧力室)、N…ノズル、Nf…ノズル流路、PD…駆動パルス、PD1…駆動パルス、PD2…駆動パルス、Ra1…供給流路、Ra2…排出流路、t1…第1タイミング、t2…第2タイミング、t3…第3タイミング、t4…第4タイミング。