(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】二酸化炭素吸着材、二酸化炭素回収装置、および、炭化水素生成システム
(51)【国際特許分類】
B01J 20/18 20060101AFI20240312BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20240312BHJP
B01D 53/82 20060101ALI20240312BHJP
B01D 53/04 20060101ALI20240312BHJP
B01D 53/047 20060101ALI20240312BHJP
C01B 32/50 20170101ALI20240312BHJP
C07C 1/02 20060101ALI20240312BHJP
C07C 9/04 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
B01J20/18 C ZAB
B01D53/62
B01D53/82
B01D53/04 230
B01D53/047
C01B32/50
C07C1/02
C07C9/04
(21)【出願番号】P 2020080344
(22)【出願日】2020-04-30
【審査請求日】2023-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸山 徳彦
【審査官】阪▲崎▼ 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-273821(JP,A)
【文献】特表2014-522298(JP,A)
【文献】特表2000-502289(JP,A)
【文献】特表2018-519146(JP,A)
【文献】特開平10-216511(JP,A)
【文献】特開2019-142806(JP,A)
【文献】Journal of the American Chemical Society,2015年04月06日,Vol.137,Page.4787-4803
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
B01D 53/02-53/12
B01D 53/34-53/73,
53/74-53/85,53/92,53/96
C01B 32/00-32/991
C07B 31/00-61/00,63/00-63/04
C07C 1/00-409/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素吸着材であって、
第2級アミンを吸着担持するプロトン型ゼオライトを備
え、
前記プロトン型ゼオライトに含まれるAlに対するSiの比は、2.5以上10以下である、
二酸化炭素吸着材。
【請求項2】
二酸化炭素回収装置であって、
請求項
1に記載の二酸化炭素吸着材を収容し、二酸化炭素と水蒸気とを含む混合ガスから二酸化炭素を分離する分離器と、
二酸化炭素濃度が1%以上10%以下であり、水蒸気の分圧が0.1kPa以上5kPa以下である前記混合ガスを、前記分離器に供給する混合ガス供給部と、を備える、
二酸化炭素回収装置。
【請求項3】
請求項
2の記載の二酸化炭素回収装置は、さらに、
前記分離器の内部において、前記二酸化炭素吸着材に吸着されている二酸化炭素を脱離させるパージガスを前記分離器に供給するパージガス供給部であって、水蒸気の分圧が、0.1kPa以上5kPa以下となっているパージガスを供給するパージガス供給部を備える、
二酸化炭素回収装置。
【請求項4】
請求項
3に記載の二酸化炭素回収装置であって、
前記パージガス供給部は、水を電気分解することで水素を含む前記パージガスを生成するパージガス生成部を含んでいる、
二酸化炭素回収装置。
【請求項5】
請求項
2から請求項
4のいずれか一項の記載の二酸化炭素回収装置は、さらに、
前記二酸化炭素吸着材が収容されている前記分離器の内部を減圧する減圧ポンプであって、前記分離器の内部を減圧することで、前記二酸化炭素吸着材に吸着されている二酸化炭素を脱離させる減圧ポンプと、を備える、
二酸化炭素回収装置。
【請求項6】
請求項
2から請求項
5のいずれか一項に記載の二酸化炭素回収装置は、さらに、
前記二酸化炭素吸着材の温度を調整する温度調整部と、
前記二酸化炭素吸着材の温度を検出する温度検出部と、
前記温度検出部が検出する前記二酸化炭素吸着材の温度を用いて、前記温度調整部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記分離器の内部において前記混合ガスから二酸化炭素を分離するとき、前記二酸化炭素吸着材の温度を室温以上70℃以下にし、
前記二酸化炭素吸着材に吸着されている二酸化炭素を脱離させるとき、前記二酸化炭素吸着材の温度を100℃以上120℃以下にする、
二酸化炭素回収装置。
【請求項7】
炭化水素生成システムであって、
請求項
2から請求項
6のいずれか一項に記載の二酸化炭素回収装置と、
前記二酸化炭素回収装置で回収された二酸化炭素を用いて炭化水素化合物を生成する炭化水素生成器と、
前記炭化水素生成器が生成した炭化水素化合物を利用することで前記混合ガスを発生する炭化水素利用部と、を備え、
前記二酸化炭素回収装置は、前記炭化水素利用部で発生する前記混合ガスから二酸化炭素を回収する、
炭化水素生成システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素吸着材、二酸化炭素回収装置、および、炭化水素生成システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、混合ガスに含まれる二酸化炭素を吸着する二酸化炭素吸着材が知られている。例えば、特許文献1には、ゼオライト13Xを含む二酸化炭素吸着材を用いて混合ガスに含まれる二酸化炭素を吸着し回収する技術が開示されている。また、非特許文献1には、二酸化炭素を吸着するアミンを吸着担持するシリカゲルを含む二酸化炭素吸着材を用いて、混合ガスに含まれる二酸化炭素を吸着し回収する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Hidetaka Yamada, Junpei Fujiki, Firoz A. Chowdhury, Katsunori Yogo, "Effect of isopropyl-substituent introduction into tetraethylenepentamine-based solid sorbents for CO2 capture", Fuel 214 (2018), pp.14-19
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記先行技術によっても、二酸化炭素吸着材において、水蒸気を含むガスからの二酸化炭素の回収率を向上するためには、なお改善の余地があった。例えば、特許文献1の技術では、ゼオライト13Xは、水蒸気との親和性が二酸化炭素よりも大きいため、水蒸気と二酸化炭素とを含むガスから二酸化炭素を回収する場合、水蒸気を優先的に吸着し、二酸化炭素の回収率が低下するため、ガスの乾燥(脱水)が必要となる。また、非特許文献1の技術では、アミンとシリカゲルとの吸着相互作用が弱いため、アミンに吸着された二酸化炭素を二酸化炭素吸着材から脱離させる場合に二酸化炭素吸着材を加熱すると、シリカゲルからアミンが蒸発脱離する。このため、温度スイングによる二酸化炭素の分離回収を繰り返すと、シリカゲルに担持されているアミンの量が少なくなり、二酸化炭素の回収率が低下するおそれがある。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、二酸化炭素吸着材において、二酸化炭素と水蒸気とを含むガスからの二酸化炭素の回収率を向上する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本発明の一形態によれば、二酸化炭素吸着材が提供される。この二酸化炭素吸着材は、第2級アミンを吸着担持するプロトン型ゼオライトを備える。
【0009】
この構成によれば、二酸化炭素吸着材は、第2級アミンを吸着担持するプロトン型ゼオライトを備える。ゼオライトに担持される第2級アミンは、二酸化炭素と化学結合しやすいため、二酸化炭素吸着材は、水蒸気と二酸化炭素とが含まれるガスとの接触において水蒸気より二酸化炭素を吸着しやすい。これにより、二酸化炭素を含むガスに水蒸気が含まれていても二酸化炭素を選択的に吸着しガスから分離することができるため、二酸化炭素の回収率を向上することができる。また、第2級アミンは塩基性が強いため、プロトン型ゼオライトとの結合力が強い。これにより、二酸化炭素を吸着している二酸化炭素吸着材を加熱して二酸化炭素を脱離させる場合でも、担持された第2級アミンは、プロトン型ゼオライトから蒸発脱離しにくい。したがって、温度スイングによる二酸化炭素の吸脱着操作を行うことができるため、二酸化炭素の単位時間当たりの回収率を向上することができる。このように、二酸化炭素吸着材において、選択的に二酸化炭素を吸着し、温度スイングによっても第2級アミンのゼオライトからの蒸発を抑制することができるため、水蒸気を含むガスからの二酸化炭素の回収率を向上することができる。
【0010】
(2)上記形態の二酸化炭素吸着材において、前記プロトン型ゼオライトに含まれるAlに対するSiの比は、2.5以上10以下であってもよい。この構成によれば、プロトン型ゼオライトに含まれるAlに対するSiの比(Si/Al)は、2.5以上10以下となっており、Alに対するSiの比が比較的小さいゼオライトに比べ疎水性が強くなっている。これにより、プロトン型ゼオライトは、水蒸気を吸着しにくくなるため、二酸化炭素吸着材は、吸着における二酸化炭素の選択性をさらに向上することができる。したがって、水蒸気を含むガスからの二酸化炭素の回収率をさらに向上することができる。
【0011】
(3)本発明の別の形態によれば、二酸化炭素回収装置が提供される。この二酸化炭素回収装置は、上述の二酸化炭素吸着材を収容し、二酸化炭素と水蒸気とを含む混合ガスから二酸化炭素を分離する分離器と、二酸化炭素濃度が1%以上10%以下であり、水蒸気の分圧が0.1kPa以上5kPa以下である前記混合ガスを、前記分離器に供給する混合ガス供給部と、を備える。この構成によれば、二酸化炭素吸着材を収容する分離器には、二酸化炭素濃度が1%以上10%以下であり、水蒸気の分圧が0.1kPa以上5kPa以下である混合ガスが、混合ガス供給部によって供給される。二酸化炭素吸着材は、第2級アミンと二酸化炭素とが化学結合しやすいため、水蒸気の分圧が0.1kPa以上5kPa以下である混合ガスが供給されても、二酸化炭素を選択的に吸着することができる。これにより、二酸化炭素回収装置において、水蒸気を含むガスからの二酸化炭素の回収率を向上することができる。
【0012】
(4)上記形態の二酸化炭素回収装置は、さらに、前記分離器の内部において、前記二酸化炭素吸着材に吸着されている二酸化炭素を脱離させるパージガスを前記分離器に供給するパージガス供給部であって、水蒸気の分圧が、0.1kPa以上5kPa以下となっているパージガスを供給するパージガス供給部を備えてもよい。この構成によれば、パージガスを用いて二酸化炭素吸着材から二酸化炭素を脱離させる場合、水蒸気の分圧が0.1kPa以上5kPa以下のパージガスが分離器に供給される。第2級アミンを吸着担持するプロトン型ゼオライトを備える二酸化炭素吸着材は、二酸化炭素と化学結合しやすい一方、水との親和性が乏しいため、二酸化炭素が脱離しても水蒸気は比較的吸着されにくい。これにより、次に二酸化炭素を吸着するとき、二酸化炭素吸着材に吸着されている水分は比較的少ないため、混合ガス中の二酸化炭素を吸着することができる。したがって、水蒸気を含むガスからの二酸化炭素の回収率を維持することができる。また、供給するパージガスに水蒸気が含まれている場合でのパージガスの除湿が不要となるため、二酸化炭素回収装置の装置コストを低減することができる。
【0013】
(5)上記形態の二酸化炭素回収装置において、前記パージガス供給部は、水を電気分解することで水素を含む前記パージガスを生成するパージガス生成部を含んでいてもよい。この構成によれば、二酸化炭素回収装置では、水を電気分解することで生成される水素を用いて二酸化炭素吸着材から二酸化炭素を脱離させる。パージガス生成部において水を電気分解すると、パージガス生成部から排出されるガスには、水素以外に電気分解されなかった水が水蒸気として含まれやすい。上述したように、第2級アミンを吸着担持するプロトン型ゼオライトを備える二酸化炭素吸着材は、水との親和性が乏しいため、水を電気分解して得られる水素をそのまま用いて、二酸化炭素吸着材から二酸化炭素を脱離させることができる。したがって、乾燥した水素を貯留する水素タンクを備える場合に比べ、比較的容易に水素をパージガスとして利用することができるため、二酸化炭素回収装置の安全性を向上することができる。また、回収した二酸化炭素から炭化水素化合物を生成する場合、パージガスとして使用した水素を炭化水素化合物の原料として回収した二酸化炭素と事前に混合することができる。
【0014】
(6)上記形態の二酸化炭素回収装置は、さらに、前記二酸化炭素吸着材が収容されている前記分離器の内部を減圧する減圧ポンプであって、前記分離器の内部を減圧することで、前記二酸化炭素吸着材に吸着されている二酸化炭素を脱離させる減圧ポンプと、を備えてもよい。この構成によれば、二酸化炭素吸着材に吸着されている二酸化炭素を脱離させるとき、分離器の内部の圧力を減圧する。これにより、二酸化炭素吸着材における二酸化炭素の脱離を迅速に行うことができるため、二酸化炭素の単位時間当たりの回収率をさらに向上することができる。
【0015】
(7)上記形態の二酸化炭素回収装置は、さらに、前記二酸化炭素吸着材の温度を調整する温度調整部と、前記二酸化炭素吸着材の温度を検出する温度検出部と、前記温度検出部が検出する前記二酸化炭素吸着材の温度を用いて、前記温度調整部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記分離器の内部において前記混合ガスから二酸化炭素を分離するとき、前記二酸化炭素吸着材の温度を室温以上70℃以下にし、前記二酸化炭素吸着材に吸着されている二酸化炭素を脱離させるとき、前記二酸化炭素吸着材の温度を100℃以上120℃以下にしてもよい。この構成によれば、制御部は、温度検出部が検出する二酸化炭素吸着材の温度を用いて、二酸化炭素吸着材の温度を調整する温度調整部を制御する。制御部による温度調整部の制御では、室温以上70℃以下の温度において二酸化炭素を吸着した二酸化炭素吸着材を、100℃以上120℃以下の温度にすることで、二酸化炭素吸着材から二酸化炭素を比較的短時間で脱離させることができる。このとき、プロトン型ゼオライトに吸着担持されている第2級アミンは、ゼオライトの酸点との酸塩基反応によりゼオライトに固定化されるため、120℃まで加熱してもゼオライトから蒸発脱離しない。これにより、このような温度スイングを利用することで、二酸化炭素吸着材からの二酸化炭素の脱離を促進することができるため、二酸化炭素の単位時間当たりの回収率をさらに向上することができる。
【0016】
(8)本発明のさらに別の形態によれば、炭化水素生成システムが提供される。この炭化水素生成システムは、上述の二酸化炭素回収装置と、前記二酸化炭素回収装置で回収された二酸化炭素を用いて炭化水素化合物を生成する炭化水素生成器と、前記炭化水素生成器が生成した炭化水素化合物を利用することで前記混合ガスを発生する炭化水素利用部と、を備え、前記二酸化炭素回収装置は、前記炭化水素利用部で発生する前記混合ガスから二酸化炭素を回収する。この構成によれば、二酸化炭素回収装置で回収された二酸化炭素を用いて炭化水素生成器で生成された炭化水素化合物は、炭化水素利用部において利用される。炭化水素利用部は、炭化水素化合物を利用することで二酸化炭素を含む混合ガスを発生する。発生した混合ガスに含まれる二酸化炭素は、二酸化炭素回収装置において二酸化炭素吸着材によって回収され、炭化水素生成器で生成される炭化水素化合物の原料となる。このように、炭素を二酸化炭素または炭化水素化合物の構成としてシステム内を循環させることで、例えば、炭化水素化合物の燃焼による熱エネルギの取り出しなどのように有用な出力を得つつ、二酸化炭素による環境負荷を低減することができる。
【0017】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、二酸化炭素回収装置および炭化水素生成システムの製造方法、これら装置およびシステムの制御方法、これら装置およびシステムにおいて二酸化炭素の回収を実行させるコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを配布するためのサーバ装置、そのコンピュータプログラムを記憶した一時的でない記憶媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態の炭化水素生成システムの概略構成を示す模式図である。
【
図2】二酸化炭素吸着材の第1の評価試験の概要を説明する図である。
【
図3】第1の評価試験の試験結果を説明する図である。
【
図4】二酸化炭素吸着材の第2の評価試験の概要を説明する図である。
【
図5】第2の評価試験の試験結果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態の二酸化炭素吸着材11、21を備える炭化水素生成システム1の概略構成を示す模式図である。炭化水素生成システム1は、二酸化炭素(CO
2)を含むガスからCO
2を分離回収し、回収したCO
2からメタン(CH
4)を生成するシステムである。炭化水素生成システム1は、燃焼炉2と、第1分離器10と、第2分離器20と、排ガス供給部30と、パージガス供給部40と、メタン生成器50と、原料ガス供給部60と、メタン供給部70と、熱媒体循環部80と、制御部90と、を備えている。第1分離器10と、第2分離器20と、排ガス供給部30と、パージガス供給部40と、原料ガス供給部60と、熱媒体循環部80と、制御部90とは、CO
2を含むガスからCO
2を分離回収する二酸化炭素回収装置3を構成する。なお、炭化水素生成システム1は、CH
4を生成するとしているが、CH
4以外の炭化水素化合物の生成にも適用可能である。例えば、エタンやプロパンなどの炭素と水素とから構成される炭化水素化合物やメタノールなどの主に炭素と水素とから構成される炭化水素化合物の生成にも適用可能である。
【0020】
燃焼炉2は、例えば、工場などに設置されており、CO2を含む排ガスを排出する。本実施形態では、後述するメタン生成器50において生成されるCH4を燃焼することで熱エネルギを生成し、この生成した熱エネルギによって、発電したり、各種装置を駆動したりする。燃焼炉2から排出される排ガスには、CO2の他に、酸素(O2)、窒素(N2)、水蒸気(H2O)などが含まれており、二酸化炭素濃度が1%以上10%以下であり、水蒸気の分圧が0.1kPa以上5kPa以下となっている。燃焼炉2は、特許請求の範囲の「炭化水素利用部」に相当する。
【0021】
第1分離器10は、燃焼炉2が排出する排ガスからCO2を分離して回収するための装置であり、内部に二酸化炭素吸着材11が収容されている。二酸化炭素吸着材11は、CO2吸蔵(吸着)性能を有する材料であり、第2級アミンが吸着担持されるプロトン型ゼオライトを備えている。本実施形態では、第2級アミンは、N,N'-ジメチルエチレンジアミン(DiMeEDA)であり、プロトン型ゼオライト1gに対して、0.2g程度吸着担持されている。また、本実施形態では、プロトン型ゼオライトに含まれるAlに対するSiの比(Si/Al)は、2.5以上10以下となっている。第1分離器10は、二酸化炭素吸着材11の温度を検出する第1温度検出部12を備えており、電気的に接続する制御部90に、検出した二酸化炭素吸着材11の温度を出力する。第1分離器10には、内部のガスを外部に排出するための第1排出流路13が設けられている。第1排出流路13には、電気的に接続する制御部90の指令に応じて第1排出流路13を開閉する第1排出バルブ14が配置されている。第1分離器10には、排ガス供給部30と、パージガス供給部40と、原料ガス供給部60と、熱媒体循環部80と、が接続されている。
【0022】
第2分離器20は、燃焼炉2が排出する排ガスからCO2を分離して回収するための装置であり、内部に二酸化炭素吸着材21が収容されている。二酸化炭素吸着材21は、CO2吸蔵(吸着)性能を有する材料であり、第2級アミンが吸着担持されるプロトン型ゼオライトを備えている。本実施形態では、第2級アミンは、第1分離器10の二酸化炭素吸着材11と同様に、N,N'-ジメチルエチレンジアミン(DiMeEDA)であり、プロトン型ゼオライト1gに対して、0.2g程度吸着担持されている。また、本実施形態では、プロトン型ゼオライトに含まれるAlに対するSiの比(Si/Al)は、2.5以上10以下となっている。第2分離器20は、二酸化炭素吸着材21の温度を検出する第2温度検出部22を備えており、電気的に接続する制御部90に、検出した二酸化炭素吸着材21の温度を出力する。第2分離器20には、内部のガスを外部に排出するための第2排出流路23が設けられている。第2排出流路23には、電気的に接続する制御部90の指令に応じて第2排出流路23を開閉する第2排出バルブ24が配置されている。第2分離器20には、排ガス供給部30と、パージガス供給部40と、原料ガス供給部60と、熱媒体循環部80と、が接続されている。
【0023】
排ガス供給部30は、燃焼炉2から排出される排ガスを第1分離器10および第2分離器20に供給するためのガス流路であり、複数のガス配管を有する。排ガス供給部30は、燃焼炉2から排出される排ガスを、制御部90によって開閉が制御される第1排ガス供給バルブ31または第2排ガス供給バルブ32のいずれかを経由させることで、第1分離器10または第2分離器20のいずれかに供給する。排ガス供給部30には、第1分離器10と第2分離器20とのそれぞれに供給される排ガスの温度、流量、CO2濃度を測定するための図示しない温度センサ、流量センサ、および、CO2濃度センサが設けられている。排ガス供給部30は、特許請求の範囲の「混合ガス供給部」に相当する。
【0024】
パージガス供給部40は、水素生成部41と、水素供給流路42と、第1水素供給バルブ43と、第2水素供給バルブ44と、を備える。水素生成部41は、水を電気分解することでH2を生成する水電解装置である。水素供給流路42は、水素生成部41の生成ガスを第1分離器10と第2分離器20とに供給するためのガス流路であり、複数のガス配管を有する。第1水素供給バルブ43は、第1分離器10に接続する水素供給流路42に設けられている。第2水素供給バルブ44は、第2分離器20に接続する水素供給流路42に設けられている。第1水素供給バルブ43と第2水素供給バルブ44は、それぞれ、制御部90によって開閉が制御される。水素供給流路42は、水素生成部41が生成するH2を含む生成ガスを、第1水素供給バルブ43または第2水素供給バルブ44のいずれかを経由させて、第1分離器10または第2分離器20のいずれかに供給する。水素供給流路42には、第1分離器10および第2分離器20に供給される生成ガスの温度や流量を測定するための図示しない温度センサおよび流量センサが設けられている。水素生成部41は、特許請求の範囲の「パージガス生成部」に相当する。
【0025】
メタン生成器50は、内部においてメタネーション反応によりメタンを生成するための容器であり、内部に触媒51が収容されている。触媒51は、メタン化性能を有する金属を含んでいる。メタン化性能を有する金属としては、例えば、RuやNiを例示することができる。メタン生成器50には、原料ガス供給部60と、メタン供給部70と、熱媒体循環部80と、が接続されている。メタン生成器50は、特許請求の範囲の「炭化水素生成器」に相当する。
【0026】
原料ガス供給部60は、第1分離器10および第2分離器20から送り出されるCO2とH2とを含む原料ガスをメタン生成器50に供給するためのガス流路であり、複数のガス配管を有する。原料ガス供給部60には、第1原料ガスバルブ61と、第2原料ガスバルブ62と、減圧ポンプ63とが設けられている。第1原料ガスバルブ61と第2原料ガスバルブ62は、それぞれ、制御部90によって開閉が制御される。原料ガス供給部60は、第1分離器10および第2分離器20から送り出される原料ガスを、第1原料ガスバルブ61と第2原料ガスバルブ62を経由させて、メタン生成器50に供給する。減圧ポンプ63は、制御部90によって駆動が制御されており、第1原料ガスバルブ61および第2原料ガスバルブ62の開閉と連動して、第1分離器10の内部または第2分離器20の内部を減圧する。原料ガス供給部60には、原料ガスの温度、流量、CO2と濃度を測定するための図示しない温度センサ、流量センサ、および、CO2濃度センサが設けられている。
【0027】
メタン供給部70は、メタン生成器50で生成されたCH4を含む反応ガスを燃焼炉2に供給するためのガス流路であり、第1メタン供給流路71と、第2メタン供給流路72とを有する。第1メタン供給流路71は、メタン生成器50と熱媒体循環部80とに接続しており、メタン生成器50で生成された反応ガスを熱媒体循環部80の熱交換器83に供給する。第2メタン供給流路72は、熱交換器83と燃焼炉2とに接続しており、熱交換器83を流れた反応ガスを燃焼炉2に供給する。メタン供給部70には、熱交換器83に供給される反応ガスの温度、燃焼炉2に供給されるガスの流量やCH4濃度を測定するための図示しない温度センサ、流量センサ、および、CH4濃度センサが設けられている。
【0028】
熱媒体循環部80は、第1熱媒体流路81と、第2熱媒体流路82と、熱交換器83と、送液ポンプ84と、温調部85と、を備える。熱媒体循環部80は、メタン生成器50と、第1分離器10および第2分離器20との間での熱のやり取りを行う。熱媒体循環部80は、特許請求の範囲の「温度調整部」に相当する。
【0029】
第1熱媒体流路81は、メタン生成器50から第1分離器10および第2分離器20に向かう熱媒体(熱流体)が流れる流路である。第1熱媒体流路81には、熱交換器83が設けられている。熱交換器83は、メタン生成器50で生成された反応ガスと熱媒体との間の熱交換を行う。熱交換器83には、排水口83aが設けられており、反応ガスと熱媒体との熱交換によって、反応ガスに含まれる水蒸気が液化した水をメタン供給部70の外部に排出する。熱交換器83を通った熱媒体は、制御部90によって切り替えが制御される三方弁である第1流路切替バルブ86を経由して、第1分離器10または第2分離器20のいずれかに供給される。第1分離器10および第2分離器20に供給される熱媒体は、第1分離器10および第2分離器20のそれぞれに形成されている図示しない流路を流れることで、二酸化炭素吸着材11、21の温度を調整する。
【0030】
第2熱媒体流路82は、第1分離器10および第2分離器20からメタン生成器50に向かう熱媒体が流れる流路である。第2熱媒体流路82を流れる熱媒体は、制御部90によって切り替えが制御される三方弁である第2流路切替バルブ87を経由して、第1分離器10または第2分離器20のいずれかからメタン生成器50に向かって流れる。第2熱媒体流路82には、送液ポンプ84と、温調部85とが設けられている。送液ポンプ84は、制御部90によって駆動が制御されており、熱媒体循環部80全体において熱媒体が流れるように熱媒体を加圧する。温調部85は、制御部90によって制御されており、熱媒体循環部80における単位時間当たりの熱輸送量を制御する。具体的には、温調部85は、第2熱媒体流路82を流れる熱媒体の温度が設定温度よりも高い場合、例えば、常温の熱媒体を付加して温度を低下させる。また、温調部85は、第2熱媒体流路82を流れる熱媒体の温度が設定温度よりも低い場合、流量調整やヒータによる加熱などによって温度を上昇させる。
【0031】
制御部90は、ROM、RAM、および、CPUを含んで構成されるコンピュータであり、炭化水素生成システム1の全体の制御をおこなう。本実施形態では、制御部90は、各種バルブ(第1排出バルブ14、第2排出バルブ24、第1排ガス供給バルブ31、第2排ガス供給バルブ32、第1水素供給バルブ43、第2水素供給バルブ44、第1原料ガスバルブ61、第2原料ガスバルブ62、第1流路切替バルブ86、第2流路切替バルブ87)の制御を行う。これにより、例えば、第1分離器10に排ガスが供給されているとき、第2分離器20では、二酸化炭素吸着材21に吸着されたCO2を脱離させることができる。また、制御部90は、水素生成部41での水の電気分解、および、減圧ポンプ63の駆動を制御する。さらに、制御部90は、第1温度検出部12が検出した二酸化炭素吸着材11の温度および第2温度検出部22が検出した二酸化炭素吸着材21の温度を用いて、送液ポンプ84の駆動、および、温調部85の作動を制御する。
【0032】
次に、本実施形態の炭化水素生成システム1の作用を説明する。炭化水素生成システム1では、第1分離器10の二酸化炭素吸着材11または第2分離器20の二酸化炭素吸着材21のいずれか一方に、排ガスに含まれるCO2を吸着させる(吸着工程)。このとき、第1分離器10の二酸化炭素吸着材11または第2分離器20の二酸化炭素吸着材21のいずれか他方において吸着しているCO2を脱離させる(脱離工程)。第1分離器10または第2分離器20で二酸化炭素吸着材11、21から脱離したCO2は、メタン生成器50に送られる。メタン生成器50では、供給されたCO2を用いてCH4を生成する(メタン生成工程)。メタン生成器50で生成されたCH4は、燃焼炉2に供給され、燃焼に用いられる(メタン利用工程)。ここでは、これらの工程における作用の詳細について説明する。
【0033】
最初に、吸着工程について、第1分離器10の二酸化炭素吸着材11でCO2を吸着する場合を例として説明する。第1分離器10に燃焼炉2の排ガスが供給されると、第1分離器10において二酸化炭素吸着材11がCO2を吸着する。このとき、燃焼炉2が第1分離器10に供給する排ガスには、分圧換算で0.1kPa以上5kPa以下の水蒸気が含まれているが、二酸化炭素吸着材11では、このような水蒸気を含む排ガスにおいても、CO2を選択的に吸着することができる。本実施形態では、吸着工程での二酸化炭素吸着材11の温度は、熱媒体循環部80が第1分離器10に供給する熱媒体によって、室温以上70℃以下となるように調整される。第1分離器10に供給された排ガスのうち二酸化炭素吸着材11に吸着されたCO2以外のガスは、制御部90の指令に応じて開状態となっている第1排出バルブ14を経由して、第1排出流路13を通って外部に排出される。
【0034】
次に、脱離工程について、第2分離器20の二酸化炭素吸着材21で吸着しているCO2を脱離させる場合を例として説明する。第2分離器20の内部には、水の電気分解によって生成するH2を含む生成ガスがパージガス供給部40によって供給されるとともに、第2分離器20の内部は、減圧ポンプ63によって大気圧以下に減圧される。このとき、第2分離器20の内部に供給される生成ガスは、H2の他に、分圧換算で0.1kPa以上5kPa以下の水蒸気を含んでいる。本実施形態では、脱離工程での二酸化炭素吸着材21の温度は、熱媒体循環部80が第2分離器20に供給する熱媒体によって、100℃以上120℃以下となるように調整される。これにより、二酸化炭素吸着材21に吸着しているCO2が二酸化炭素吸着材21から脱離する。二酸化炭素吸着材21から脱離したCO2は、第2分離器20に供給されたH2とともに、原料ガス供給部60を流れる。
【0035】
次に、メタン生成工程について説明する。原料ガス供給部60を流れるCO2とH2とが混合された原料ガスは、メタン生成器50に供給される。メタン生成器50では、触媒51を用いたメタン化反応によって、CO2とH2とからCH4が生成される。
【0036】
次に、メタン利用工程について説明する。メタン生成器50において生成されるCH4を含む反応ガスは、第1メタン供給流路71を通って熱交換器83に入る。熱交換器83では、熱媒体にメタン反応の反応熱を伝えるとともに、反応ガスに含まれる水蒸気を凝縮することで水にして、排水口83aを経由して外部に排出される。水蒸気が分離された反応ガスは、第2メタン供給流路72を経由して、燃焼炉2に供給される。燃焼炉2では、供給されたCH4を燃焼し、熱エネルギを生成する。燃焼炉2での燃焼によって排出される排ガスは、CO2を含んでおり、第1分離器10または第2分離器20に送られることで、CO2を吸着し回収する。本実施形態の炭化水素生成システム1では、このようにして、炭素をCO2またはCH4の構成としてシステム内を循環させることで、外部への炭素の排出を抑制しつつ、熱エネルギを発生させる。
【0037】
次に、本実施形態の二酸化炭素吸着材におけるガスの吸脱着特性を評価した評価試験を説明する。本評価試験では、第1の評価試験として、CO2とH2Oとの混合ガスに対する吸着特性と、吸着したガスの脱離特性とを評価した。また、第2の評価試験として、二酸化炭素吸着材が吸着した成分とその割合を評価した。
【0038】
最初に、サンプルの作製方法について説明する。本評価試験では、2種類のサンプルについてガスの吸脱着特性を評価した。サンプル1は、以下の手順によって作製した。サンプル1は、本実施形態の二酸化炭素吸着材11、21に相当する。
(1-a)NaY型ゼオライトペレット(東ソー製 HSZ-320NAD1C)1gを2mol/Lの硝酸アンモニウム水溶液50mL中に浸漬して密栓し、60℃で1昼夜加熱した。1昼夜加熱したゼオライトペレットを取出して放冷した後、500mLのイオン交換水で2回洗浄した。さらに、2mol/Lの硝酸アンモニウム水溶液50mL中に再度浸漬してから加熱と洗浄の操作を2回繰り返し、ゼオライト中に含有されるナトリウムイオンをアンモニウムイオンにイオン交換した。イオン交換したゼオライトペレットを乾燥させたのち、真空雰囲気において350℃で加熱処理することでアンモニウムイオンを熱分解し、プロトン型のHY型ゼオライトペレットを作製した。
(1-b)封管可能な容器中にN,N'-ジメチルエチレンジアミン(DiMeEDA)を5g入れ、凍結した。凍結したN,N'-ジメチルエチレンジアミンが入れられている容器内に、(1-a)で作製したプロトン型のHY型ゼオライトペレット1gをDiMeEDAに触れないように配置し、真空状態で封管した。プロトン型のHY型ゼオライトペレット1gとDiMeEDAと入れて封管した容器を60℃の恒温槽で1昼夜加熱し、蒸発したDiMeEDAをプロトン型のHY型ゼオライトペレットに吸着させた後に取り出し、120℃で真空乾燥を行うことで、サンプル1を作製した。
【0039】
サンプル2は、以下の手順によって作製した。サンプル2は、サンプル1に対する比較例の二酸化炭素触媒である。
(2-a)ゼオライト(東ソー製 ゼオラム F-9 造粒品)を真空雰囲気において400℃で3時間の熱処理(吸着水の除去)を行うことで、サンプル2を作製した。
【0040】
本評価試験では、第1の評価試験および第2の評価試験のいずれにおいても、サンプルの熱重量測定を行った。具体的には、サンプルを熱重量測定装置にセットしたのち、それぞれの評価試験で設定されている雰囲気ガスの変更およびサンプル温度の変更を行い、サンプルの重量変化を記録した。この記録した重量変化から、サンプルの吸脱着特性を評価した。
【0041】
図2は、二酸化炭素吸着材の第1の評価試験の概要を説明する図である。
図2には、第1の評価試験における雰囲気ガスおよびサンプル温度の時間変化を示している。第1の評価試験では、雰囲気ガスおよびサンプル温度を以下のように変化させて、サンプルの重量変化を算出した。なお、「」は、
図2のグラフに示す雰囲気ガスの種類に対応している。
(i)「乾燥N
2」 雰囲気ガス:乾燥しているN
2 サンプル温度:室温から110℃まで昇温した後、65℃まで降温
(ii)「加湿CO
2+N
2」 雰囲気ガス:加湿されたCO
2(N
2キャリア、CO
2濃度10%) サンプル温度:65℃
(iii)「加湿N
2」 雰囲気ガス:加湿されたN
2 サンプル温度:65℃から110℃まで昇温
(iv)「乾燥N
2」 雰囲気ガス:乾燥しているN
2 サンプル温度:110℃
【0042】
図3は、第1の評価試験の試験結果を説明する図である。
図3(a)には、
図2に示した雰囲気ガスとサンプル温度の変化に対応するサンプル重量の変化を示している。
図3(a)では、サンプル1の重量変化を実線で示し、サンプル2の重量変化を点線で示している。
図3(b)には、サンプル1、2のそれぞれにおける重量変化を数値で示している。
図3(b)に示す値は、それぞれのサンプルの単位重量当たりの重量変化分(単位:g/g)を示している。「吸着工程」での重量変化分は、
図3(a)に示す時刻t11での重量から時刻t10での重量を差し引いた値となっている。「脱離工程」の「加湿N
2」での重量変化分は、
図3(a)に示す時刻t12での重量から時刻t11での重量を差し引いた値となっており、「乾燥N
2」での重量変化分は、
図3(a)に示す時刻t13での重量から時刻t12での重量を差し引いた値となっている。
【0043】
図3(b)の「吸着工程」に示すように、サンプル1、2ともに、加湿されたN
2キャリアのCO
2が供給されることで重量が増加することを確認した。これは、サンプル1、2のいずれも、CO
2およびH
2Oの少なくとも一方が吸着されていることを示している。サンプル1は、「脱離工程」の「加湿N
2」において、「吸着工程」で変化した重量変化分とほぼ同じ量の重量減少が確認された。一方、サンプル2では、「脱離工程」の「加湿N
2」と「乾燥N
2」とのそれぞれにおいて重量減少が確認された。これは、サンプル1では、吸着したガスを脱離するためには、乾燥したN
2は不要であるが、サンプル2では、乾燥したN
2の供給が必要であることを示している。
【0044】
図4は、二酸化炭素吸着材の第2の評価試験の概要を説明する図である。
図4には、
図2と同様に、第2の評価試験における雰囲気ガスおよびサンプル温度の時間変化を示している。第2の評価試験では、雰囲気ガスおよびサンプル温度を以下のように変化させて、サンプルの重量変化を算出した。なお、「」は、
図4のグラフに示す雰囲気ガスの種類に対応している。
(i)「乾燥N
2」 雰囲気ガス:乾燥しているN
2 サンプル温度:室温から110℃まで昇温した後、65℃まで降温
(ii)「加湿N
2」 雰囲気ガス:加湿されたN
2 サンプル温度:65℃
(iii)「加湿CO
2+N
2」 雰囲気ガス:加湿されたCO
2(N
2キャリア、CO
2濃度10%) サンプル温度:65℃
(iv)「加湿N
2」 雰囲気ガス:加湿されたN
2 サンプル温度:65℃から110℃まで昇温
(v)「乾燥N
2」 雰囲気ガス:乾燥しているN
2 サンプル温度:110℃
【0045】
図5は、第2の評価試験の試験結果を説明する図である。
図5(a)には、
図4に示した雰囲気ガスとサンプル温度の変化に対応するサンプル重量の変化を示している。
図5(a)では、サンプル1の重量変化を実線で示し、サンプル2の重量変化を点線で示している。
図5(b)には、
図3(b)と同様に、サンプル1、2のそれぞれにおける重量変化を、吸着材の単位重量当たりの重量変化分(単位:g/g)で示している。「吸着工程」の「加湿N
2」での重量変化分は、
図5(a)に示す時刻t21での重量から時刻t20での重量を差し引いた値となっており、「加湿CO
2+N
2」での重量変化分は、
図5(a)に示す時刻t22での重量から時刻t21での重量を差し引いた値となっている。「脱離工程」の「加湿N
2」での重量変化分は、
図5(a)に示す時刻t23での重量から時刻t22での重量を差し引いた値となっており、「乾燥N
2」での重量変化分は、
図5(a)に示す時刻t24での重量から時刻t23での重量を差し引いた値となっている。
【0046】
図5(b)に示す「吸着工程」の「加湿N
2」での重量変化分は、サンプル1、2でのH
2Oの吸着量を示しており、「加湿N
2」に続いて行われる「加湿CO
2+N
2」での重量変化分は、サンプル1、2でのCO
2の吸着量を示している。サンプル1は、「吸着工程」の「加湿CO
2+N
2」での重量変化分(0.034)は、「加湿N
2」での重量変化分(0.02)より大きい。すなわち、CO
2の吸着量がH
2Oの吸着量より多いことを示している。一方、サンプル2は、「吸着工程」の「加湿CO
2+N
2」での重量変化分(0.005)は、「加湿N
2」での重量変化分(0.132)より少ない。すなわち、CO
2の吸着量がH
2Oの吸着量より少ないことを示している。このことから、比較例であるサンプル2は、水蒸気が共存する雰囲気ではCO
2よりもH
2Oを吸着しやすいことがわかり、サンプル2によってCO
2と水蒸気との混合ガスからCO
2を効率的に分離することは、難しい。一方、本実施形態の二酸化炭素吸着材11、21に相当するサンプル1では、水蒸気が共存する雰囲気であっても、CO
2を選択的に吸着するため、CO
2を分離することができる。
【0047】
以上説明した、本実施形態の二酸化炭素吸着材11、21によれば、二酸化炭素吸着材11、21は、第2級アミンを吸着担持するプロトン型ゼオライトを備える。ゼオライトに担持される第2級アミンは、CO2と化学結合しやすいため、二酸化炭素吸着材11、21は、水蒸気とCO2とが含まれる排ガスとの接触においてH2OよりCO2を吸着しやすい。これにより、CO2を含む排ガスに水蒸気が含まれていてもCO2を選択的に吸着し排ガスから分離することができるため、CO2の回収率を向上することができる。また、第2級アミンは塩基性が強いため、プロトン型ゼオライトとの結合力が強い。これにより、CO2を吸着している二酸化炭素吸着材11、21を加熱してCO2を脱離させる場合でも、担持された第2級アミンは、プロトン型ゼオライトから蒸発脱離しにくい。したがって、温度スイングによるCO2の吸脱着操作を行うことができるため、CO2の単位時間当たりの回収率を向上することができる。このように、二酸化炭素吸着材11、21において、選択的にCO2を吸着し、温度スイングによっても第2級アミンのゼオライトからの蒸発を抑制することができるため、水蒸気を含む排ガスからのCO2の回収率を向上することができる。
【0048】
また、本実施形態の二酸化炭素吸着材11、21によれば、プロトン型ゼオライトに含まれるAlに対するSiの比(Si/Al)は、2.5以上10以下となっており、Alに対するSiの比が比較的小さいゼオライトに比べ疎水性が強くなっている。これにより、プロトン型ゼオライトは、H2Oをさらに吸着しにくくなるため、二酸化炭素吸着材11、21は、吸着におけるCO2の選択性をさらに向上することができる。したがって、水蒸気を含む排ガスからのCO2の回収率をさらに向上することができる。
【0049】
また、本実施形態の二酸化炭素回収装置3によれば、二酸化炭素吸着材11を収容する第1分離器10と二酸化炭素吸着材21を収容する第2分離器20には、二酸化炭素濃度が1%以上10%以下であり、水蒸気の分圧が0.1kPa以上5kPa以下である混合ガスが供給される。二酸化炭素吸着材11、21は、第2級アミンがCO2と化学結合しやすいため、水蒸気の分圧が0.1kPa以上5kPa以下である混合ガスが供給されても、CO2を選択的に吸着することができる。これにより、二酸化炭素回収装置3において、水蒸気を含む排ガスからのCO2の回収率を向上することができる。
【0050】
また、本実施形態の二酸化炭素回収装置3によれば、H2を含む生成ガスを用いて二酸化炭素吸着材11、21からCO2を脱離させる場合、水蒸気の分圧が0.1kPa以上5kPa以下の生成ガスが第1分離器10または第2分離器20に供給される。第2級アミンを吸着担持するプロトン型ゼオライトを備える二酸化炭素吸着材11、21は、CO2と化学結合しやすい一方、H2Oとの親和性が乏しいため、CO2が脱離しても水蒸気は比較的吸着されにくい。これにより、次にCO2を吸着するとき、二酸化炭素吸着材11、21に吸着されている水分は比較的少ないため、排ガス中のCO2を吸着することができる。したがって、水蒸気を含むガスからのCO2の回収率を維持することができる。また、供給する生成ガスに水蒸気が含まれている場合に生成ガスを除湿することが不要となるため、二酸化炭素回収装置3の装置コストを低減することができる。
【0051】
また、本実施形態の二酸化炭素回収装置3によれば、水を電気分解することで生成されるH2を用いて二酸化炭素吸着材11、21から二酸化炭素を脱離させる。水素生成部41において水を電気分解すると、水素生成部41から排出される生成ガスには、H2以外に電気分解されなかった水が水蒸気として含まれやすい。上述したように、第2級アミンを吸着担持するプロトン型ゼオライトを備える二酸化炭素吸着材11、21は、水との親和性が乏しいため、水を電気分解して得られるH2をそのまま用いて、二酸化炭素吸着材11、21からCO2を脱離させることができる。したがって、乾燥したH2を貯留する水素タンクを備える場合に比べ、比較的容易にH2をパージガスとして利用することができるため、二酸化炭素回収装置3の安全性を向上することができる。また、本実施形態のように、回収したCO2からCH4を生成する場合には、パージガスとして使用したH2をCH4の原料として回収したCO2と事前に混合することができる。
【0052】
また、本実施形態の二酸化炭素回収装置3によれば、二酸化炭素吸着材11、21に吸着されているCO2を脱離させるとき、第1分離器10および第2分離器20の内部の圧力を減圧する。これにより、二酸化炭素吸着材11、21におけるCO2の脱離を迅速に行うことができるため、CO2の単位時間当たりの回収率をさらに向上することができる。
【0053】
また、本実施形態の二酸化炭素回収装置3によれば、制御部90は、第1温度検出部12および第2温度検出部22のそれぞれが検出する二酸化炭素吸着材11、21の温度を用いて、二酸化炭素吸着材11、21の温度を調整する熱媒体循環部80を制御する。制御部90による熱媒体循環部80の制御では、室温以上70℃以下の温度においてCO2を吸着した二酸化炭素吸着材11、21を、100℃以上120℃以下の温度にすることで、二酸化炭素吸着材11、21からCO2を比較的短時間で脱離させることができる。このとき、プロトン型ゼオライトに吸着担持されている第2級アミンは、ゼオライトの酸点との酸塩基反応により、ゼオライトに固定化されるため、120℃まで加熱してもゼオライトから蒸発しない。これにより、温度スイングを利用することで、二酸化炭素吸着材11、21からのCO2の脱離を促進することができるため、CO2の単位時間当たりの回収率をさらに向上することができる。
【0054】
また、本実施形態の炭化水素生成システム1によれば、二酸化炭素回収装置3で回収されたCO2を用いてメタン生成器50で生成されたCH4は、燃焼炉2において燃焼し、熱エネルギを出力する。燃焼炉2は、CH4を利用することでCO2を含む排ガスを発生する。発生した排ガスに含まれるCO2は、二酸化炭素回収装置3において二酸化炭素吸着材11、21によって回収され、メタン生成器50で生成されるCH4の原料となる。このように、炭素をCO2またはCH4に含まれる要素としてシステム内を循環させることで、燃焼による熱エネルギを得つつ、CO2による環境負荷を低減することができる。
【0055】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0056】
[変形例1]
上述の実施形態では、二酸化炭素吸着材11、21のプロトン型ゼオライトに担持される第2級アミンは、N,N'-ジメチルエチレンジアミンであるとした。しかしながら、第2級アミンの種類は、これに限定されない。また、N,N'-ジメチルエチレンジアミンは、1gのプロトン型ゼオライト対して、0.2g程度担持されているとしたが、担持される量はこれに限定されない。CO2を効率的に吸着するには、0.1~0.25g程度が望ましい。
【0057】
[変形例2]
上述の実施形態では、プロトン型ゼオライトに含まれるAlに対するSiの比は、2.5以上10以下となっているとした。しかしながら、プロトン型ゼオライトにおけるAlに対するSiの比は、これに限定されない。2.5より小さくてもよいし、10より大きくてもよい。Alに対するSiの比が大きくなるほどゼオライトの疎水性は強くなるため、水蒸気を吸着しにくくなる。
【0058】
[変形例3]
上述の実施形態では、第1分離器10および第2分離器20には、二酸化炭素濃度が1%以上10%以下であり、水蒸気の分圧が0.1kPa以上5kPa以下である排ガスが供給されるとした。しかしながら、第1分離器10および第2分離器20に供給される排ガスの二酸化炭素濃度および水蒸気の分圧は、これに限定されない。
【0059】
[変形例4]
上述の実施形態では、第1分離器10および第2分離器20に供給される生成ガスは、分圧換算で0.1kPa以上5kPa以下の水蒸気を含んでいるとした。しかしながら、第1分離器10および第2分離器20に供給されるパージガスの種類は、H2に限定されないし、上述した分圧の水蒸気を含んでいなくてもよい。パージガスは、二酸化炭素吸着材11、21に対してCO2より吸着されにくいガスであればよい。
【0060】
[変形例5]
上述の実施形態では、パージガス供給部40は、第1分離器10および第2分離器20にH2を供給する水電解装置を含んでいるとした。しかしながら、パージガス供給部40は、貯留するH2を供給可能な水素タンクを備えていてもよい。
【0061】
[変形例6]
上述の実施形態では、二酸化炭素回収装置3は、第1分離器10の内部または第2分離器20の内部を大気圧以下まで減圧する減圧ポンプ63を備えるとした。しかしながら、減圧ポンプ63はなくてもよい。二酸化炭素回収装置3での脱離工程は、H2の供給のみによって、二酸化炭素吸着材11、21からCO2を脱離させてもよい。
【0062】
[変形例7]
上述の実施形態では、吸着工程における二酸化炭素吸着材11の温度は、熱媒体循環部80が第1分離器10に供給する熱媒体によって、室温以上70℃以下となるように調整されるとした。また、脱離工程における二酸化炭素吸着材21の温度は、熱媒体循環部80が第2分離器20に供給する熱媒体によって、100℃以上120℃以下となるように調整されるとした。しかしながら、吸着工程および脱離工程における温度は、これらの温度帯に限定されない。
【0063】
[変形例8]
上述の実施形態では、炭化水素生成システム1は、2つの分離器を備えるとした。分離器は、1つであってもよい。2つの分離器を備えると、一方でCO2を分離するときに、他方で吸着したCO2を回収することができるため、連続してCH4を生成することができる。
【0064】
[変形例9]
上述の実施形態では、炭化水素生成システム1は、炭化水素利用部として燃焼炉2を備えるとした。しかしながら、炭化水素生成システム1が備える「炭化水素利用部」は、燃焼炉に限定されず、CH4を利用することでCO2を含む混合ガスを発生する装置であればよい。また、二酸化炭素回収装置3は、燃焼炉2と第1分離器10および第2分離器20とに接続し、燃焼炉2で発生する排ガスを第1分離器10および第2分離器20に供給する排ガス供給部30を備えるとした。しかしながら、「排ガス供給部」がCO2を含む混合ガスを発生する装置であってもよい。
【0065】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0066】
1…炭化水素生成システム
2…燃焼炉
3…二酸化炭素回収装置
10…第1分離器
11,21…二酸化炭素吸着材
12…第1温度検出部
20…第2分離器
22…第2温度検出部
30…排ガス供給部
40…パージガス供給部
41…水素生成部
50…メタン生成器
63…減圧ポンプ
80…熱媒体循環部
90…制御部