(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】撥液性構造体及びその製造方法並びに包装材
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20240312BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20240312BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240312BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20240312BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20240312BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
B32B27/30 D
B32B27/20 Z
B05D7/24 302L
B05D5/00 Z
B05D3/00 D
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2020090457
(22)【出願日】2020-05-25
【審査請求日】2023-04-17
(31)【優先権主張番号】P 2019113552
(32)【優先日】2019-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】木下 廣介
(72)【発明者】
【氏名】加藤 了嗣
(72)【発明者】
【氏名】鈴田 昌由
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/159678(WO,A1)
【文献】特開2019-010803(JP,A)
【文献】特開2017-119353(JP,A)
【文献】特開2019-051596(JP,A)
【文献】特許第6522841(JP,B1)
【文献】特開2018-198050(JP,A)
【文献】特開2015-209493(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B05D 1/00-7/26
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撥液性を付与すべき表面と、前記表面上に形成された撥液層とを備える撥液性構造体であって、
前記撥液層がフッ素含有樹脂を含むバインダ樹脂を含有しており、かつ、前記撥液層表面のコア部空間体積が4~10μm
3/μm
2の範囲にあることを特徴とする撥液性構造体。
【請求項2】
前記撥液層表面のスキューネス値が0.0~0.3の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の撥液性構造体。
【請求項3】
前記撥液層が、前記バインダ樹脂中に分散されたフィラーを含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の撥液性構造体。
【請求項4】
前記撥液層が、前記フィラーとして互いに平均一次粒子径が異なる2種類以上のフィラーを含有することを特徴とする請求項3に記載の撥液性構造体。
【請求項5】
前記フィラーのうち少なくとも1種類のフィラーが平均一次粒子径8~30μmのフィラーであることを特徴とする請求項3又は4に記載の撥液性構造体。
【請求項6】
前記フィラー重量の合計が3.0~10.6g/m
2の範囲にあることを特徴とする請求項3~5のいずれかに記載の撥液性構造体。
【請求項7】
前記撥液層が熱可塑性樹脂を更に含むことを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の撥液性構造体。
【請求項8】
撥液性を付与すべき前記表面と前記撥液層との間に配置された下地層を備えることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の撥液性構造体。
【請求項9】
前記下地層が平均一次粒子径8~30μmのフィラーを含むことを特徴とする請求項8に記載の撥液性構造体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の撥液性構造体を物品と接する側に有することを特徴とする包装材。
【請求項11】
フッ素含有樹脂を含むバインダ樹脂を含有する塗液を準備する工程と、
撥液性を付与すべき表面上に、前記塗液の塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を乾燥及び硬化させることによって撥液層を形成する工程と、を備え、
前記撥液層表面のコア部空間体積を4~10μm
3/μm
2の範囲にすることを特徴とする撥液性構造体の製造方法。
【請求項12】
前記撥液層表面のスキューネス値を0.0~0.3の範囲にすることを特徴とする請求項11に記載の撥液性構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、撥液性構造体及びその製造方法、並びに、物品と接する側に上記撥液性構造体を有する包装材に関する。
【背景技術】
【0002】
撥水性を有する構造体について種々の態様が知られている。例えば、特許文献1には、基材部の表面に、鱗片状無機微粒子がバインダ樹脂により固定された微粒子層と、微粒子層の表面を被覆した撥水膜層とが設けられた撥水構造体が開示されている。特許文献2には、熱可塑性樹脂と、疎水性粒子とを含む、単層の撥水性ヒートシール膜が開示されている。特許文献3には、基材と、基材上の熱接着層とを備える蓋材用撥水性積層体において、上記熱接着層が熱可塑性樹脂、撥水性微粒子及びこの撥水性微粒子よりも平均粒子径の大きいビーズ粒子を含むことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-132055号公報
【文献】特開2017-155183号公報
【文献】国際公開第2017/204258号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~3に記載の発明においては、水滴との接触角によって撥水性が評価されている。特許文献2,3に記載の発明においては、撥ヨーグルト性(ヨーグルトの付着性)についても評価されている。しかし、これらの文献に記載の発明においては、油分を含む液状物(例えば、カレー、生クリーム)に対する撥液性は検討されていない。
【0005】
本開示は、水に対する優れた撥液性を有するとともに、油又はこれを含む液状物等に対しても優れた撥液性を有する撥液性構造体及びその製造方法を提供することを目的とする。また、本開示は、物品と接する側に上記撥液性構造体を有する包装材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、請求項1に記載の発明は、撥液性を付与すべき表面と、前記表面上に形成された撥液層とを備える撥液性構造体であって、
前記撥液層がフッ素含有樹脂を含むバインダ樹脂を含有しており、かつ、前記撥液層表面のコア部空間体積が4~10μm3/μm2の範囲にあることを特徴とする撥液性構造体である。
【0007】
次に、請求項2に記載の発明は、前記撥液層表面のスキューネス値が0.0~0.3の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の撥液性構造体である。
【0008】
次に、請求項3に記載の発明は、前記撥液層が、前記バインダ樹脂中に分散されたフィラーを含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の撥液性構造体である。
【0009】
次に、請求項4に記載の発明は、前記撥液層が、前記フィラーとして互いに平均一次粒子径が異なる2種類以上のフィラーを含有することを特徴とする請求項3に記載の撥液性構造体である。
【0010】
次に、請求項5に記載の発明は、前記フィラーのうち少なくとも1種類のフィラーが平均一次粒子径8~30μmのフィラーであることを特徴とする請求項3又は4に記載の撥液性構造体である。
【0011】
次に、請求項6に記載の発明は、前記フィラー重量の合計が3.0~10.6g/m2の範囲にあることを特徴とする請求項3~5のいずれかに記載の撥液性構造体である。
【0012】
次に、請求項7に記載の発明は、前記撥液層が熱可塑性樹脂を更に含むことを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の撥液性構造体である。
【0013】
次に、請求項8に記載の発明は、撥液性を付与すべき前記表面と前記撥液層との間に配置された下地層を備えることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の撥液性構造体である。
【0014】
次に、請求項9に記載の発明は、前記下地層が平均一次粒子径8~30μmのフィラーを含むことを特徴とする請求項8に記載の撥液性構造体である。
【0015】
次に、請求項10に記載の発明は、請求項1~9のいずれかに記載の撥液性構造体を物品と接する側に有することを特徴とする包装材である。
【0016】
次に、請求項11に記載の発明は、フッ素含有樹脂を含むバインダ樹脂を含有する塗液を準備する工程と、
撥液性を付与すべき表面上に、前記塗液の塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を乾燥及び硬化させることによって撥液層を形成する工程と、を備え、
前記撥液層表面のコア部空間体積を4~10μm3/μm2の範囲にすることを特徴とする撥液性構造体の製造方法である。
【0017】
次に、請求項12に記載の発明は、前記撥液層表面のスキューネス値を0.0~0.3の範囲にすることを特徴とする請求項11に記載の撥液性構造体の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の撥液性構造体は、その表面に撥液層を備え、この撥液層表面に凹凸を有する。油分を含む液状物等に接触した場合にも、前記表面凹凸の凸部でこれら液状物等を支えるため、その接触面積が低減して、物理的に撥液性を発揮する。また、これに加えて、この撥液層はフッ素含有樹脂を含有するため、このフッ素含有樹脂本来の性質に基づいて化学的にも撥液性を発揮する。このように本発明の撥液性構造体においては、物理的化学的に撥液性を発揮するため、水含む液状物等はもちろん、油又はこれを含む液状物等に対しても優れた撥液性を示すのである。
【0019】
なお、撥液層表面のコア部空間体積(void volume of the core section,Vvc)はISO025178に従って測定できる。このコア部空間体積Vvcは、表面凹凸の平均面を基準面として、その凸部の最大高さの位置を含み前記基準面に平行な面と前記基準面との間に挟まれる空間のうち、空隙(void)が占める体積を示すものである。
【0020】
このコア部空間体積Vvcが小さいことは、前記凸部の最大高さが低いか、あるいは、前記空間のうちフィラー等の撥液層を構成する材料が占める体積が大きいことを意味し、このため、前記液状物等との接触面積が大きくなり、油又はこれを含む液状物等に対して十分な撥液性を発揮できない。後述する実施例1-1~1-20と比較例1-1を対比して分かるように、十分な撥液性を発揮するコア部空間体積Vvcの下限は4μm3/μm2である。
【0021】
また、逆にコア部空間体積Vvcが大きいことは、空隙(void)が占める体積が大きいことを意味する。このため、前記液状物等が表面凹凸の凹部まで深く進入して両者の接触面積が大きくなり、十分な撥液性を発揮できない。後述する実施例1-1~1-20と比較例1-2を対比して分かるように、十分な撥液性を発揮するコア部空間体積Vvcの上限は10μm3/μm2である。
【0022】
このようにコア部空間体積Vvcが4~10μm3/μm2の範囲にある場合においても、そのスキューネス値が0.0~0.3の範囲にある場合には、特に優れた撥液性を発揮する。
【0023】
スキューネス値は、表面の二乗平均平方根高さRqの三乗によって無次元化した基準長さにおいて、高さZ(x)の三乗平均を意味し、平均線を中心としたときの山部と谷部との偏り度を表している。すなわち、スキューネス値が0の場合には、山部と谷部とが等しい。スキューネス値が負の値の場合には、平均線に対して上側に偏っており、内容物との接触面積が大きくなり、撥液性に劣る。一方、スキューネス値が正の値の場合には、平均線に対して下側に偏っており、優れた撥液性を発揮するが、これが0.3を越えると、内容物が凹部に入り込み易くなり、この結果、撥液性が低下する結果となる。
【0024】
なお、これらコア部空間体積Vvc及びスキューネス値はJIS B0681-2に従って測定することができる。
【0025】
スキューネス値が0.0~0.3の範囲にある場合に特に優れた撥液性を発揮することは、後述する実施例2-1~2-72から明らかである。すなわち、コア部空間体積Vvcが4~10μm3/μm2の範囲にある場合でも、スキューネス値が0.0より小さい場合(実施例2-1,2-3,2-7,2-12,2-18,2-20,2-2,2-28,2-32,2-35,2-37,2-41,2-44,2-51,2-52,2-55,2-64,2-68,2-71,2-72)には、油を含むマヨネーズに対する剥離性がB~Dであり、スキューネス値が0.3より大きい場合(実施例2-5,2-9,2-11,2-24,2-26,2-29,2-39,2-45,2-48,2-58,2-59,2-60,2-61,2-62,2-63,2-65,2-66,2-67)には、油を含むマヨネーズに対する剥離性がB~Cであるのに対して、スキューネス値が0.0~0.3の範囲にある場合(実施例2-2,2-4,2-6,2-8,2-10,2-13,2-14,2-15,2-16,2-17,2-19,2-21,2-23,2-25,2-27,2-30,2-31,2-33,2-34,2-36,2-40,2-42,2-43,2-46,2-47,2-49,2-50,2-53,2-54,2-56,2-57,2-69,2-70)には、油を含むマヨネーズに対する剥離性がA~Bである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1(a)~(c)はそれぞれ本発明に係る撥液性構造体の実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は本発明に係る撥液性構造体のその他の実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は本発明に係る撥液性構造体のその他の実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は本発明に係る撥液性構造体のその他の実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5は本発明に係る撥液性構造体のその他の実施形態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面を参照して、本開示の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0028】
<撥液性構造体>
図1(a)は、本実施形態に係る撥液性構造体の具体例の概略断面図である。
図1に示されるように、この撥液性構造体Aは、被処理面(撥液性を付与すべき表面)を有する基材1と、被処理面上に形成された撥液層3とを備える。
【0029】
(基材)
基材1は、撥液性を付与すべき表面を有し且つ支持体となるものであれば特に制限はなく、例えば、フィルム状(厚さ:10~200μm程度)であっても、プレート状(厚さ:1~10mm程度)であってもよい。フィルム状の基材としては、例えば、紙、樹脂フィルム、金属箔等が挙げられる。これらの材料からなるフィルム包装材の内面を被処理面1aとし、これに撥液層3を形成することで、内容物が付着しにくい包装袋を得ることができる。プレート状の基材としては、例えば、紙、樹脂、金属、ガラス等が挙げられる。
【0030】
これらの材料を成形してなる容器の内面を被処理面とし、これに撥液層3を形成することで、内容物が付着しにくい容器を得ることができる。
【0031】
紙としては、上質紙、特殊上質紙、コート紙、アート紙、キャストコート紙、模造紙、クラフト紙等が挙げられる。樹脂としては、ポリオレフィン、酸変性ポリオレフィン、ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート(PET))、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、セルロースアセテート、セロファン樹脂等が挙げられる。金属としては、例えばアルミ、ニッケル等が挙げられる。
【0032】
基材1がフィルム状である場合、基材1は撥液層3と熱融着性を有することが好ましい。また、後述するように基材1と撥液層3との間に下地層が介在する場合には、基材1は下地層と熱融着性を有することが好ましい。基材1の融点は170℃以下であることが好ましい。これにより、ヒートシールによって包装袋を形成する際、基材1と撥液層3との密着性がより強固になるため、ヒートシール性がより向上する。このような観点から、基材1の融点は150℃以下であることがより好ましい。基材1の融点は示差走査熱量分析より測定することが可能である。
【0033】
(撥液層)
撥液層3は撥液性を有する層であり、基材1の表面の一部又は全部を覆うように形成されている。撥液性とは、撥水性及び撥油性の両特性を包含する概念であり、具体的には、液体状、半固体状、もしくはゲル状の水性又は油性材料に対し撥液する特性である。水性又は油性材料としては、水、油、ヨーグルト、カレー、生クリーム、ゼリー、プリン、シロップ、お粥、スープ等の食品、ハンドソープ、シャンプー等の洗剤、医薬品、化粧品、化学品などが挙げられる。これらが直接接するように、撥液性構造体10において、撥液層3が最内層又は最外層をなしている。
【0034】
この撥液層3は、バインダ樹脂31を必須成分とするものである。また、撥液層3表面に凹凸を形成してそのコア部空間体積を4~10μm3/μm2の範囲とし、また、これに加えてスキューネス値を0.0~0.3とするため、このバインダ樹脂31中にフィラー32を分散させることができる。フィラー32の重量は3.0~10.6g/m2の範囲とすることができる。フィラー32の重量が3.0g/m2未満の場合には、フィラー32がバインダ樹脂31中に埋没して撥液層3表面の凹凸が乏しく、十分な撥液性を発揮できないことがある。また、10.6g/m2を越える場合にはフィラー32が撥液層3から脱落し易い。これに対し、フィラー32の重量が3.0~10.6g/m2の範囲にある場合には、撥液層3表面に適度な凹凸を形成して脱落することがない。また、このほか、撥液機能を損なわない程度の範囲で、必要に応じてその他の添加剤を含んでいてもよい。
【0035】
なお、撥液層3は、界面活性剤等を含み且つ粘性が高い液状物に対する撥液性をより向上させる観点から、ピロリドン類に由来する構造単位を含まないものであってもよい。すなわち、ピロリドン類に由来する構造単位は、フッ素含有樹脂に含まれないだけでなく、それ以外の撥液層3を構成する成分のいずれにも含まれなくてもよい。撥液層3におけるピロリドン類に由来する構造単位の有無は、赤外分光法や核磁気共鳴分光法、熱分解GC-MSなどにより判断することができる。
【0036】
次に、バインダ樹脂31は、少なくともフッ素含有樹脂を含む。バインダ樹脂31は更に、熱可塑性樹脂及び架橋剤の一方又は両方を含んでもよい。バインダ樹脂31が架橋剤を含む場合、撥液層3においてバインダ樹脂31は、架橋剤を介してフッ素含有樹脂や熱可塑性樹脂が架橋した架橋構造を有していてもよい。
【0037】
フッ素含有樹脂としては特に制限されず、パーフルオロアルキル、パーフルオロアルケニル、パーフルオロポリエーテル等の構造を有する樹脂を適宜用いることができる。フッ素含有樹脂は、撥液層3の撥液性をより向上させる観点から、フッ素-アクリル共重合体を含むことが好ましい。フッ素-アクリル共重合体とは、含フッ素単量体とアクリル単量体とからなる共重合体である。フッ素-アクリル共重合体は、ブロック共重合体であってもランダム共重合体であってもよい。フッ素-アクリル共重合体を用いることで、撥液層3の耐侯性、耐水性、耐薬品性及び造膜性についても向上させることができる。
【0038】
フッ素含有樹脂中のフッ素含有量は、例えば30~60質量%であり、40~50質量%であってもよい。フッ素含有量は、フッ素含有樹脂を構成する原子の総質量に対するフッ素原子の質量の割合を意味する。
【0039】
フッ素含有樹脂としては、市販のフッ素系塗料を使用することができる。市販のフッ素系塗料として、例えば、旭硝子株式会社製のアサヒガード、AGCセイミケミカル株式会社製のエスエフコート、株式会社ネオス製のフタージェント、ソルベイ社製のフルオロリンク、ダイキン工業株式会社製のユニダイン、第一工業製薬株式会社製のH-3539シリーズ、日油株式会社製のモディパーFシリーズ等が挙げられる。
【0040】
フッ素含有樹脂は、界面活性剤等を含み且つ粘性が高い液状物(例えば、ハンドソープ、ボディーソープ、シャンプー及びリンス)に対する撥液性をより向上させる観点から、ピロリドン又はその誘導体(ピロリドン類)に由来する構造単位を含まないものであってもよい。ここで、ピロリドン類としては、例えば、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニル-3-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-5-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-3,3-ジメチル-2-ピロリドンなどが挙げられる。ピロリドン類に由来する構造単位を含まないフッ素含有樹脂としては、例えば、旭硝子株式会社製のアサヒガードAG-E060、AG-E070、AG-E090、ダイキン工業株式会社製のユニダインTG-8111が挙げられる。
【0041】
熱可塑性樹脂としては、特に制限されず、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-αオレフィン共重合体、ホモ、ブロック、あるいはランダムポリプロピレン、プロピレン-αオレフィン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。例えば、エチレン-αオレフィン共重合体であれば、プロピレンとα-オレフィンとのブロック共重合体、ランダム共重合体等ということができる。αオレフィン成分としては、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテンなどを例示することができる。
【0042】
熱可塑性樹脂の融点は、例えば、50~135℃である。融点が135℃以下であることにより、フッ素含有樹脂を撥液層3の表面にブリードアウトさせやすい。フッ素含有樹脂が表面にブリードアウトすることで、表面自由エネルギーを低下させることができ、これにより、撥液層3の表面に優れた撥液性を発現させることができる。なお、フッ素含有樹脂のブリードアウト促進には高温で乾燥させる方法があるが、熱可塑性樹脂の融点が高過ぎる場合は相応の高温が必要となるため、基材1に変形等の支障が生じる虞がある。一方、融点が50℃以上であることで、ある程度の結晶性が確保されるため軟化によるブロッキングの発生が抑制される。このような観点から、熱可塑性樹脂の融点は60~120℃であることがより好ましい。
【0043】
熱可塑性樹脂は、所定の酸で変性された変性ポリオレフィンであってもよい。変性ポリオレフィンは、例えば不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の酸無水物、不飽和カルボン酸のエステル等から導かれる不飽和カルボン酸誘導体成分で、ポリオレフィンをグラフト変性することで得られる。また、ポリオレフィンとして、水酸基変性ポリオレフィンやアクリル変性ポリオレフィン等の変性ポリオレフィンを使用することもできる。変性ポリオレフィン樹脂としては、例えば日本製紙株式会社製のアウローレン、住友精化株式会社製のザイクセン、住友精化株式会社製のセボルジョン、三井化学株式会社製のユニストール、ユニチカ株式会社製のアローベース等が挙げられる。
【0044】
上記変性ポリオレフィンは官能基が導入されているため、架橋剤と反応して架橋構造を形成しやすいという観点からも好ましい。上記官能基としては、カルボキシル基、水酸基、(メタ)アクリロイル基、アミノ基等が挙げられる。これらの官能基を有する変性ポリオレフィンを後述する架橋剤と共に用いることで、撥液層3には熱可塑性樹脂、フッ素含有樹脂及び架橋剤からなる架橋構造が形成され、より優れた耐久性を撥液層3に付与することができる。
【0045】
架橋剤は、フッ素含有樹脂と反応する官能基を有するものであることが好ましい。このような架橋剤としては、例えば、アジリジン基、イソシアネート基、カルボジイミド基、アミノ基等の官能基を有する架橋剤を用いることができる。市販の架橋剤としては、例えば、株式会社日本触媒製のケミタイト、三井化学株式会社製のタケネート、日清紡ケミカル株式会社製のカルボジライト、明成化学工業株式会社製のメイカネート、サイテックインダストリーズ社製のサイメル(Cymel)が挙げられる。
【0046】
なお、フッ素含有樹脂は、水に分散させた水分散体として用いられることが一般的である。そのためフッ素含有樹脂の多くは、水との親和性を高めるために水酸基やアミノ基等の親水性基を有する。フッ素含有樹脂と反応する官能基を有する架橋剤を用いることで、フッ素含有樹脂が有するこれらの官能基は、架橋剤が有する官能基と反応し、撥液層3に架橋構造が形成されることとなる。また、フッ素含有樹脂が有するこれらの官能基は、架橋剤と反応することで減少するため、撥液層3に残存する官能基が低減される。そのため、撥液層3が液状物と長期間接触した場合でも撥液性の低下を抑制でき、優れた撥液性を長期間維持することができる。なお、フッ素含有樹脂を水以外の溶剤に分散させた分散体として用いる場合、フッ素含有樹脂は使用される溶剤との親和性を高めるための構造(例えば、炭化水素鎖等)を有していてもよい。
【0047】
バインダ樹脂31における熱可塑性樹脂の含有率(バインダ樹脂5bの質量基準)は、例えば、5~90質量%であり、10~50質量%又は20~30質量%であってもよい。バインダ樹脂5bにおける熱可塑性樹脂の含有率が5質量%以上であると、撥液層からフィラーが脱落することを十分に抑制することができ、他方、90質量%以下であると、フッ素含有樹脂や架橋剤の含有率を十分に確保でき、撥液層が優れた撥液性及び耐久性を発現しやすい。
【0048】
バインダ樹脂31に含まれる架橋剤の質量WCと、バインダ樹脂31に含まれるフッ素含有樹脂の質量WJとの比WC/WJは、例えば、0.01~0.5であり、0.05~0.3又は0.1~0.2であってもよい。上記比WC/WJが0.01以上であると、撥液層からフィラーが脱落することを十分に抑制することができるとともに、撥液層の耐久性を十分に高めることができる。他方、上記比WC/WJが0.5以下であると、フッ素含有樹脂の含有量を十分に確保でき、フッ素含有樹脂を撥液層3の表面に十分にブリードアウトさせることができるため、良好な撥液性を発現させることができる。
【0049】
バインダ樹脂31が熱可塑性樹脂及び架橋剤を含む場合、バインダ樹脂31に含まれる架橋剤の質量WCと、バインダ樹脂31に含まれる熱可塑性樹脂の質量WPとフッ素含有樹脂の質量WJの合計(WP+WJ)との比WC/(WP+WJ)は、例えば、0.01~0.5であり、0.05~0.3又は0.07~0.2であってもよい。上記比WC/(WP+WJ)が0.01以上であると、撥液層からフィラーが脱落することを十分に抑制することができるとともに、撥液層3の耐久性を十分に高めることができる。他方、上記比WC/(WP+WJ)が0.5以下であると、フッ素含有樹脂及び熱可塑性樹脂の含有量を十分に確保でき、フッ素含有樹脂を撥液層3の表面に十分にブリードアウトさせることができるため、良好な撥液性を発現さればせることができるとともに、熱可塑性樹脂による撥液層3からフィラーが脱落することを抑制する効果を十分に得ることができる。
【0050】
次に、フィラー32としては、平均一次粒子径5~1000nmの第1のフィラー32aや平均一次粒子径0.1~6μmの第2のフィラー32bを使用することができる。これら第1のフィラー32a及び第2のフィラー32bはそれぞれ単独で撥液層3に配合することができる。また、互いに平均一次粒子径が異なる2種類以上のフィラーをフィラー32として配合することもできる。このように互いに平均一次粒子径が異なる2種類以上のフィラーを配合することにより、油又はこれを含む液状物等の内容物に接触してこれを支える点の密度が増え、一層その撥液性を高めることができる。例えば、平均一次粒子径5~1000nmの前記第1のフィラー32aと平均一次粒子径0.1~6μmの前記第2のフィラー32bの両者を混合して撥液層3に配合することも可能である。これら第1のフィラー32aや第2のフィラー32bとして、鱗片状のフィラーを使用することもできる。
【0051】
図1(a)に示す撥液性構造体Aでは、フィラー32として平均一次粒子径5~1000nmの第1のフィラー32aを単独で撥液層3に配合している。また、
図1(b)に示す撥液性構造体Bは、フィラー32として平均一次粒子径0.1~6μmの鱗片状の第2のフィラー32b単独で配合した例である。また、
図1(c)に示す撥液性構造体Cは、これら第1のフィラー32a及び第2のフィラー32bの両者を撥液層3に配合している。
【0052】
また、これらフィラー32a,32bに加えて、平均一次粒子径8~30μmの大粒子径の第3のフィラー32cを配合することも可能である。
図2は、フィラー32a,32bに加えて、このように第3のフィラー32cを撥液層3に配合した撥液性構造体Dを示している。そして、このように大粒子径の第3のフィラー32cを配合することにより、これらフィラー32a,32b,32cがバインダ樹脂31に埋没することがなくなり、表面凹凸の凸部の密度が増えるため、油又はこれを含む液状物等の内容物に接触してこれを支え、一層その撥液性を高めることができる。そして、このため、撥液層3の厚さを薄くしても、コア部空間体積Vvcを大きくすることができる。また、これに加えて、スキューネス値Sskを大きくすることができる。
【0053】
なお、これらのフィラー32a,32b,32cの平均一次粒子径はSEMの視野内における任意の計10個のフィラー32a,32b,32cについて長径と短径の長さを測定し、その和を2で割ることで得られる値の平均値を意味する。
【0054】
第1のフィラー32aを構成する材料としては、シリカ、酸化チタン、酸化アルミニウム、雲母、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、スメクタイト、ゼオライト等が挙げられる。第1のフィラー32aとして、例えば、以下の市販品を使用することができる。シリカフィラーの市販品として、例えば、日本アエロジル製のAEROSIL、日本触媒株式会社製のシーホスター、信越シリコーン製のシリカ球状微粒子QSG、QCBが挙げられる。酸化チタンフィラーの市販品として、例えば、エボニックデグサ社製のAEROXIDE TiO2が挙げられる。酸化アルミニウムフィラーの市販品として、例えば、エボニックデグサ社製のAEROXIDE Aluが挙げられる。
【0055】
また、平均一次粒子径0.1~6μmの第2のフィラー32bを構成する材料としては、シリカ、雲母、酸化アルミニウム、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、スメクタイト、ゼオライト等が挙げられる。市販品としては、例えば、AGCエスアイテック株式会社製のサンラブリー、株式会社レプコ製のレプコマイカ、河合石灰工業株式会社製のセラシュール、AGCエスアイテック株式会社製のサンスフェア、住友精化株式会社製のフロービーズ、綜研化学株式会社製のケミスノー、根上工業株式会社製のアートパール、日本触媒株式会社製のシーホスターが挙げられる。これらのうち、AGCエスアイテック株式会社製のサンラブリーは鱗片状シリカである。また、株式会社レプコ製のレプコマイカは鱗片状雲母であり、河合石灰工業株式会社製のセラシュールは鱗片状酸化アルミニウムである。なお、第2のフィラー32bは、疎水処理や撥液性処理が施されていないものであってよいし、これら疎水処理や撥液性処理が施されたものであってもよい。
【0056】
第2のフィラー32bの平均一次粒子径は、0.1~6μmであることが好ましく、0.1~4μm又は4~6μmであってもよい。第2のフィラー32bの平均一次粒子径が0.1μm以上であることで凝集体5が形成されやすく、他方、6μm以下であることで、第2のフィラー32bの複雑且つ微細な形状に由来する撥液性が十分に発現される。
【0057】
これら第1のフィラー32a及び第2のフィラー32bは撥液層3の内部で凝集体を構成していてもよい。これらフィラー32a,32bやその凝集体によって、撥液層3の表面に凹凸が形成される。凝集体は、これらフィラー32a,32bと、これを覆っているバインダ樹脂とによって構成されている。
【0058】
次に、粒子径の第3のフィラー32cは、例えば、球状であり、8~30μmの平均一次粒子径を有する。このサイズの第3のフィラー32cを含む撥液層3の表面には、第1のフィラー32a、第2のフィラー32bやこれらの凝集体による凹凸よりも粗い凹凸が形成される。これにより、撥液層3は、界面活性剤等を含み且つ粘性が高い液状物(例えば、ハンドソープ、ボディーソープ、シャンプー及びリンス)に対しても特に優れた撥液性を有する。第3のフィラー32cは撥液性を有するものであってもよい。
【0059】
第3のフィラー32cを構成する材料としては、シリカ、シリコーン、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、タルク、雲母、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、スメクタイト、ゼオライト、酸化アルミニウム等が挙げられる。第3のフィラー32cとして、例えば、以下の市販品を使用することができる。市販品としては、例えば、AGCエスアイテック株式会社製のサンスフェア、信越シリコーン株式会社製のシリコーンパウダーKMP、アイカ工業株式会社製のガンツパール、根上工業株式会社製のアートパール、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製のHS-208,304、312,315、住友精化株式会社製のフロービーズ、綜研化学株式会社製のケミスノー、信越化学株式会社製のQSG-30,80が挙げられる。このうち、AGCエスアイテック株式会社製のサンスフェアはシリカフィラーである。信越シリコーン製のシリコーンパウダーKMPはシリコーンフィラーである。また、アイカ工業株式会社製のガンツパールはアクリル樹脂フィラーであり、根上工業株式会社製のアートパールは架橋アクリルビーズ又は架橋ウレタンビーズである。
【0060】
<撥液性構造体の製造方法>
撥液性構造体10の製造方法について説明する。本実施形態に係る製造方法は、撥液層形成用の塗液を準備する工程と、基材1の被処理面1a上に塗液の塗膜を形成する工程と、塗膜を乾燥及び硬化させることによって撥液層3を形成する工程とを備える。以下、各工程について説明する。
【0061】
まず、フィラー32、フッ素含有樹脂、溶媒、必要に応じて熱可塑性樹脂、必要に応じて架橋剤、必要に応じて添加剤を含む塗液を調製する。溶剤としては水、アルコール、有機溶媒等が挙げられる。塗液中の各成分の配合量(固形分)は、撥液層3におけるコア部空間体積Vvcが上述のとおりになるように適宜調整すればよい。なお、熱可塑性樹脂は、水、アルコール等に分散したエマルジョンの形態であってもよい。このようなポリオレフィンエマルジョンは、対応するモノマーの重合反応等により生成したポリマーを乳化する方法で調製されたものでもよく、あるいは対応するモノマーを乳化重合することにより調製されたものでもよい。
【0062】
得られた塗液を基材1上に塗布する。塗布方法としては公知の方法が特に制限なく使用可能であり、浸漬法(ディッピング法);スプレー、コーター、印刷機、刷毛等を用いる方法が挙げられる。また、これらの方法に用いられるコーター及び印刷機の種類並びにそれらの塗工方式としては、ダイレクトグラビア方式、リバースグラビア方式、キスリバースグラビア方式、オフセットグラビア方式等のグラビアコーター、リバースロールコーター、マイクログラビアコーター、チャンバードクター併用コーター、エアナイフコーター、ディップコーター、バーコーター、コンマコーター、ダイコーター等を挙げることができる。
【0063】
基材1上に形成された塗膜を加熱により乾燥及び硬化させる。これにより、基材1と、基材1上に設けられた撥液層3とを備える撥液性構造体10を得ることができる。塗液が架橋剤を含む場合、撥液層3には、フッ素含有樹脂と必要に応じて用いられる熱可塑性樹脂と架橋剤とからなる架橋構造が形成される。加熱条件は、溶剤を揮発させることができ且つ架橋反応を生じさせることができれば制限はないが、例えば60~100℃で0.5~5分間とすることができる。
【0064】
<包装材>
本実施形態に係る包装材は、物品と接する側に、撥液性構造体10を有する。本実施形態に係る包装材は、水分を含む物品(例えば、水、飲料、ヨーグルト)及び油分を含む物品(例えば、カレー及び生クリーム)に適用することができるとともに、ハンドソープ、ボディーソープ、シャンプー及びリンスからなる群から選ばれる一種である物品に適用することもできる。包装材の具体的態様としては、カレーやパスタソース用のレトルトパウチ、ヨーグルトやプリン用の容器及び蓋材、ハンドソープやシャンプー、リンス等のトイレタリー用の容器又はこれらの詰め替え用パウチ、歯磨きや医薬品用のチューブなどが挙げられる。
【0065】
上記実施形態においては、基材1の被処理面上に撥液層が直接接して形成されている場合を例示したが、基材1の被処理面上に下地層が形成されており、当該下地層上に撥液層が形成されていてもよい。以下、下地層について説明する。
【0066】
(下地層)
下地層2は基材1と撥液層3との間に配置される層であり、基材1の被処理面の一部又は全部を覆うように形成されている。下地層を基材1と撥液層3との間に介在させることで、基材1と撥液層3との密着性を高めることができる。また、下地層2を設けることで、撥液性構造体の撥液性をより向上させることができる。
図3~
図5はこのように基材1と撥液層3との間に下地層2を配置した撥液性構造体Eを示している。
【0067】
下地層2は少なくとも熱可塑性樹脂を含むものである。熱可塑性樹脂としては、撥液層3に用いられる熱可塑性樹脂と同様のものを用いることができる。
【0068】
また、
図3に示すように、下地層2は平均一次粒子径5~30μmの第4のフィラー21を含んでもよい。また、第4フィラーとしては、撥液層3に用いられる第3のフィラー32cと同様のものを用いることができる。
図3の撥液性構造体Eにおいては、撥液層3が第1のフィラー32aと第2のフィラー32bとを含んでいるが、第3のフィラー32cを含んでいない。下地層2がこのように大粒子径の第4のフィラー21を含んでいる場合、この下地層2の表面にはこの第4のフィラー21に基づく凹凸が形成され、撥液層3はこの下地層2表面の凹凸に沿って設けられるから、撥液層3が大粒径の第3のフィラー32cを含んでいない場合でも、コア部空間体積Vvcを大きくすることが可能であり、また、スキューネス値Sskを大きくすることができる。
【0069】
なお、撥液層3は、第1のフィラー32aと第2のフィラー32bのいずれをも含んでいなくてもよい。この場合でも、下地層2が第4のフィラー21含んでいるため、撥液層3表面にはこの第4のフィラー21に基づく凹凸が形成される。
図4は、このようにフィラーを含有することのない熱可塑性樹脂だけで下地層2を構成した撥液性構造体Fの例である。もっとも、この場合でも、撥液層3表面のコア部空間体積Vvcは4~10μm
3/μm
2の範囲にある必要がある。望ましくは、そのスキューネス値が0.0~0.3の範囲である。
【0070】
また、フィラーを含有しない熱可塑性樹脂だけで下地層2を構成することもできる。
図5は、このようにフィラーを含有しない熱可塑性樹脂だけで下地層2を構成した撥液性構造体Gの例を示している。もちろん、この場合でも、撥液層3表面のコア部空間体積Vvcは4~10μm
3/μm
2の範囲にある必要があり、キューネス値が0.0~0.3の範囲であることが望ましい。このため、撥液層3は、第1のフィラー32a、第2のフィラー32b及び第3のフィラー32cのうち少なくとも1種類のフィラーを含有していることが望ましい。
図5に示す撥液性構造体Gにおいては、撥液層3は第1のフィラー32aを含有している。
【0071】
なお、下地層2は、必要に応じてその他の添加剤を含んでいてもよい。その他の添加剤としては、例えば、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤等が挙げられる。
なお、下地層2と撥液層3とのいずれか一方がフィラーを含む場合、あるいはその両層2,3がフィラーを含む場合のいずれにおいても、これら両層2,3に含まれるフィラー重量の合計が3.0~10.6g/m2の範囲にあることが望ましい。3.0g/m2以下の場合には表面凹凸が小さくなり、このため、コア部空間体積Vvcやスキューネス値Sskが小さくなり、優れた撥液性を発揮することが困難である。一方、10.6g/m2以上の場合にも、フィラーの量が多すぎて表面凹凸が小さくなり、このため、コア部空間体積Vvcやスキューネス値Sskが小さくなり、優れた撥液性を発揮することが困難である。これに対し、両層2,3に含まれるフィラー重量の合計が3.0~10.6g/m2の範囲にある場合、撥液層3表面に適切な凹凸を形成して、そのコア部空間体積Vvcやスキューネス値Sskを前述の範囲内とすることができる。
【0072】
下地層2の形成方法は、撥液層3の形成方法と同様である。すなわち、下地層2は、熱可塑性樹脂と、必要に応じて添加される第4のフィラー21及び他の添加剤等と、溶媒とを含む塗液を調製し、当該塗液を基材1上に塗布して塗膜を形成し、当該塗膜を乾燥させることで形成することができる。塗液に用いられる溶媒、塗液の塗布方法、及び、塗膜の乾燥方法は、撥液層3を形成する場合と同様である。
【実施例】
【0073】
本発明を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0074】
これら実施例は2つのグループに分けることができる。
【0075】
第1のグループ(実施例1-1~1-20,比較例1-1~1-2)は、撥液層3表面のコア部空間体積Vvcと撥液性能との関係を考察することを目的とするもので、このため、スキューネス値Sskについては測定していない。
【0076】
第2のグループ(実施例2-1~2-72,比較例2-1~2-9)は、コア部空間体積Vvcに加えて、スキューネス値Sskと撥液性能との関係を考察することを目的とするものである。
【0077】
まず、これら実施例及び比較例に係る撥液性構造体を作製するため、以下の材料を準備した。
【0078】
(基材1)
・ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム。
【0079】
(フッ素含有樹脂)
・フッ素系塗料a:ユニダインTG-8811(商品名、ダイキン工業株式会社製、ピロリドン類に由来する構造単位を有するフッ素-アクリル共重合体、カチオン系の水系材料、フッ素含有量0.44質量%)。
・フッ素系塗料b:アサヒガードAG-E060(商品名、旭硝子株式会社製、ピロリドン類に由来する構造単位を有さないフッ素-アクリル共重合体、カチオン系の水系材料、フッ素含有量0.45質量%)。
・フッ素系塗料c:アサヒガードAG-E061(商品名、旭硝子株式会社製)
・フッ素系塗料d:アサヒガードAG-E070(商品名、旭硝子株式会社製)
・フッ素系塗料e:アサヒガードAG-E080(商品名、旭硝子株式会社製)
・フッ素系塗料f:アサヒガードAG-E081(商品名、旭硝子株式会社製)
・フッ素系塗料g:アサヒガードAG-E082(商品名、旭硝子株式会社製)
・フッ素系塗料h:アサヒガードAG-E090(商品名、旭硝子株式会社製)
・フッ素系塗料i:アサヒガードAG-E092(商品名、旭硝子株式会社製)
・フッ素系塗料j:アサヒガードAG-E100(商品名、旭硝子株式会社製)
・フッ素系塗料k:アサヒガードAG-E300D(商品名、旭硝子株式会社製)
・フッ素系塗料l:アサヒガードAG-E400(商品名、旭硝子株式会社製)
・フッ素系塗料m:アサヒガードAG-E500D(商品名、旭硝子株式会社製)
・フッ素系塗料n:アサヒガードAG-E700D(商品名、旭硝子株式会社製)
・フッ素系塗料o:アサヒガードAG-E800D(商品名、旭硝子株式会社製)
・フッ素系塗料p:アサヒガードAG-E550D(商品名、旭硝子株式会社製)
【0080】
(第1のフィラー32a)
・粒子a:AEROSIL50(商品名、日本アエロジル株式会社製、平均一次粒子径0.055μm)。
・粒子a:AEROSIL50(商品名、日本アエロジル株式会社製、平均一次粒子径0.03mm)。
【0081】
(第2のフィラー32b)
・粒子c:サンラブリー(商品名、AGCエスアイテック株式会社製、平均一次粒子径5μm)。
・粒子d:サンスフェアNP-30(商品名、AGCエスアイテック株式会社製、平均一次粒子径4μm)。
・粒子e:フロービーズLE-1080(商品名、住友精化株式会社製、平均一次粒子径6μm)。
・粒子f:ケミスノーMR-5C(商品名、綜研化学株式会社製、平均一次粒子径6μm)。
・粒子g:ケミスノーMR-7GC(商品名、綜研化学株式会社製、平均一次粒子径6μm)。
・粒子h:アートパールSE-006T(商品名、根上工業株式会社製、平均一次粒子径6μm)。
・粒子i:シーホスターWSO(商品名、日本触媒株式会社製、平均一次粒子径0.5μm)。
【0082】
(第3及び第4のフィラー32c,21)
・粒子j:サンスフェアNP-100(商品名、AGCエスアイテック株式会社製、平均一次粒子径10μm)。
・粒子k:サンスフェアNP-200(商品名、AGCエスアイテック株式会社製、平均一次粒子径20μm)。
・粒子l:HS-304(商品名、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、平均一次粒子径28μm)。
・粒子m:HS-208(商品名、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、平均一次粒子径20μm)。
・粒子n:HS-312(商品名、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、平均一次粒子径9.5μm)。
・粒子o:フロービーズCL-2080(商品名、住友精化株式会社製、平均一次粒子径11μm)。
・粒子p:アートパールGR-500(商品名、根上工業株式会社製、平均一次粒子径10μm)。
・粒子q:アートパールGR-600(商品名、根上工業株式会社製、平均一次粒子径10μm)。
・粒子r:アートパールSE-010T(商品名、根上工業株式会社製、平均一次粒子径10μm)。
・粒子s:アートパールSE-015TY(商品名、根上工業株式会社製、平均一次粒子径15μm)。
・粒子t:アートパールSE-020T(商品名、根上工業株式会社製、平均一次粒子径19μm)。
・粒子u:ケミスノーMR-10G(商品名、綜研化学株式会社製、平均一次粒子径10μm)。
・粒子v:QSG-30(商品名、信越化学株式会社製、平均一次粒子径30μm)。
・粒子w:QSG-80(商品名、信越化学株式会社製、平均一次粒子径80μm)。
【0083】
(熱可塑性樹脂)
・樹脂a:アウローレンAE-301(商品名、日本製紙株式会社製、変性ポリオレフィン、融点60~70℃)。
・樹脂b:アウローレンAE-202(商品名、日本製紙株式会社製)。
・樹脂c:アウローレンS-6499(商品名、日本製紙株式会社製)。
・樹脂d:ザイクセンA(商品名、住友精化株式会社製)。
・樹脂e:ザイクセンAC(商品名、住友精化株式会社製)。
・樹脂f:ザイクセンAC-HW-10(商品名、住友精化株式会社製)。
・樹脂g:ザイクセンL(商品名、住友精化株式会社製)。
・樹脂h:ザイクセンN(商品名、住友精化株式会社製)。
・樹脂i:ザイクセンNC(商品名、住友精化株式会社製)。
・樹脂k:セボルジョンVA(商品名、住友精化株式会社製)。
・樹脂l:セボルジョンVA406N(商品名、住友精化株式会社製)。
・樹脂m:セボルジョンVA407N(商品名、住友精化株式会社製)。
・樹脂n:アローベースDA-1010(商品名、ユニチカ株式会社製)。
・樹脂o:アローベースDA-5010(商品名、ユニチカ株式会社製)。
・樹脂p:アローベースDB-4010(商品名、ユニチカ株式会社製)。
・樹脂q:アローベースDB-5010(商品名、ユニチカ株式会社製)。
・樹脂r:アローベースSB-1200(商品名、ユニチカ株式会社製)。
・樹脂s:アローベースSD-1200(商品名、ユニチカ株式会社製)。
・樹脂t:アローベースSD-5200(商品名、ユニチカ株式会社製)。
・樹脂u:アローベースSE-1200(商品名、ユニチカ株式会社製)。
・樹脂v:アローベースSE-5230N(商品名、ユニチカ株式会社製)。
【0084】
(溶媒)
・アルコール系溶媒(2-プロパノール)。
【0085】
[第1のグループ(実施例1-1~1-20,比較例1-1~1-2)]
<撥液性構造体の作製>
(実施例1-1~1-17)
撥液層3における各成分の質量比(固形分)が表1の実施例1-1~1-17にそれぞれ示すものとなるように、各成分を溶媒に加えた。これを充分に撹拌して撥液層形成用塗液を調製し、基材としてのPETフィルム上にバーコーターを用いて塗布した。その後、塗布された塗液を80℃で1分間加熱して乾燥及び硬化させ、基材上に撥液層を形成した。
【0086】
(実施例1-18~1-20及び比較例1-1~1-2)
下地層2における各成分の質量比(固形分)が表1の実施例1-18~1-20及び比較例1-1~1-2にそれぞれ示すものとなるように、各成分を溶媒に加えた。これを充分に撹拌して下地層形成用塗液を調製し、基材としてのPETフィルム上にバーコーターを用いて塗布した。その後、塗布された塗液を80℃で1分間加熱乾燥し、基材上に下地層を形成した。
【0087】
次に、撥液層における各成分の質量比(固形分)が表1の実施例1-18~1-20及び比較例1~2にそれぞれ示すものとなるように、各成分を溶媒に加えた。これを充分に撹拌して撥液層形成用塗液を調製し、下地層2上にバーコーターを用いて塗布した。その後、塗布された塗液を80℃で1分間加熱して乾燥及び硬化させ、下地層上に撥液層を形成した。
【0088】
なお、表1中、「フィラー重量(g/m2)」は、撥液層に含まれるフィラー総量を示し、「フィラー配合率(重量%)」は、撥液層に含まれるフィラー総量を100%とした場合の各フィラーの割合を示す。
【0089】
また、コア部空間体積VvcはJIS B0681-2に従って測定した。測定機器としてはオリンパス株式会社製OLS4000を使用した。測定倍率は20倍、測定モードはマルチレイヤーである。そして、測定時に測定対象に対してレーザーが当たったときの微小なノイズを除去する平滑化補正と、測定表面に傾斜がついているときに使用する表面補正(傾き)を行った後、3次元計測によりコア部空間体積Vvcを測定した。
【0090】
【0091】
<撥液性構造体の評価>
撥液性構造体について、以下の観点から評価を行った。
(撥液性評価)
撥液性構造体を撥液層側の面が上になるように平置きし、撥液層上に下記の液体をスポイトで2μL滴下した。その後、撥液性構造体を垂直に立て、そのまま30秒静置して、滴下した液体の状態を目視にて観察した。観察結果から下記の評価基準に基づいて撥液性を評価した。評価結果がA~Dであれば実用上問題ないと言える。評価結果はA~Cであることが望ましい。
【0092】
[使用した液体]
純水
サラダ油:日清サラダ油(日清オイリオ)。
ハンドソープ:くらしモア 薬用ハンドソープ(日本石鹸)。
シャンプー:地肌までここちよく洗うシャンプー(セブンイレブン)。
【0093】
[評価基準]
A:撥水層上から液滴が丸くなって転がり落ちた。又は剥がれ落ちた。
B:撥液層上から流れ落ち、流れた跡が残らなかった。
C:撥液層上から流れ落ちたが、流れた跡が点状に残った。
D:撥液層上から流れ落ちたが、流れた跡が線状に残った。
E:撥液層上に留まって動かなかった。又は撥液層中に染み込んだ。
【0094】
(付着性評価)
粘稠食品に対する付着性評価を以下の方法で行った。ポリプロピレン(PP)フィルムを平置きし、下記の粘稠食品を薬さじで2g採取し、これをPPフィルム上に落とした。撥液性構造体を撥液層側の面がPPフィルムと対向するように配置し、それを50g/25cm2の荷重で粘稠食品に押し当て、そのまま10秒間静置した。その後、撥液性構造体を剥離し、粘稠食品と接触していた撥液層の接触面への粘稠食品の付着状態を目視にて観察した。観察結果から下記の評価基準に基づいて付着性を評価した。評価結果がA~Dであれば実用上問題ないと言える。評価結果はA~Cであることが望ましい。
【0095】
[使用した粘稠食品]
マヨネーズ:キユーピーマヨネーズ(キユーピー株式会社)。
【0096】
[評価基準]
A:接触面に粘稠食品の付着が見られなかった。
B:接触面の10%未満の面積に粘稠食品の付着が見られた。
C:接触面の10%以上30%未満の面積に粘稠食品の付着が見られた。
D:接触面の30%以上70%未満の面積に粘稠食品の付着が見られた。
E:接触面の70%以上の面積に粘稠食品の付着が見られた。
【0097】
この結果を表2に示す。
【0098】
【0099】
[第2のグループ(実施例2-1~2-72,比較例2-1~2-9)]
<撥液性構造体の作製>
撥液層における各成分及び下地層における各成分の材質と塗布量を変更したほかは、第1のグループと同様に撥液性構造体を製造した。
また、コア部空間体積Vvcも第1のグループと同様に測定した。
【0100】
そして、この第2のグループでは、コア部空間体積Vvcに加えて、スキューネス値Sskも測定した。スキューネス値Sskも、コア部空間体積Vvcと同様に、JIS B0681-2に従って測定した。測定機器はオリンパス株式会社製OLS4000、測定倍率は20倍、測定モードはマルチレイヤーである。また、平滑化補正と表面補正(傾き)を行った後、3次元計測によりスキューネス値Sskを測定した。
【0101】
この結果を表3~表8に示す。
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
<撥液性構造体の評価>
第2のグループについても、第1のグループと同様に、純水、サラダ油、ハンドソープハンドソープ、シャンプーに対する撥液性を評価した。評価結果がA~Dであれば実用上問題ないと言える。評価結果はA~Cであることが望ましい。
【0109】
また、同様に、マヨネーズに対する付着性を評価した。評価結果がA~Dであれば実用上問題ないと言える。評価結果はA~Cであることが望ましい。
【0110】
この結果を表9~表14に示す。
【表9】
【表10】
【表11】
【表12】
【表13】
【表14】
【符号の説明】
【0111】
A~G:撥液性構造体
1:基材
2:下地層 21:第4のフィラー
3:撥液層
31:バインダー樹脂
32:フィラー 32a:第1のフィラー 32b:第2のフィラー 32c:第3のフィラー