(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】電機子の製造方法及び電機子
(51)【国際特許分類】
H02K 15/085 20060101AFI20240312BHJP
H02K 3/12 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
H02K15/085
H02K3/12
(21)【出願番号】P 2020100840
(22)【出願日】2020-06-10
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】荒井 安成
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-199275(JP,A)
【文献】特開2014-039455(JP,A)
【文献】特開昭63-194543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/085
H02K 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスロットを有する鉄心と、前記スロット内に配置され、金属製の導線により構成されるコイルと、を備える電機子の製造方法であって、
前記スロット内に配置された前記導線の長さ方向に直交する仮想平面に沿う方向を面方向とするとき、
前記スロット内に配置された前記導線を前記面方向に押圧することで、前記導線を前記スロットの内面に沿って塑性変形させるとともに、前記導線の前記面方向における同一断面上にて互いに異なる部分に位置する第1部分と第2部分と
の対向面が空間を介して互いに対向した状態で近接するように前記導線を塑性変形させる、
電機子の製造方法。
【請求項2】
前記第1部分と前記第2部分とが前記面方向の全体にわたって互いに接触するまで前記導線を押圧する、
請求項1に記載の電機子の製造方法。
【請求項3】
前記導線として中空線を用いる、
請求項1または請求項2に記載の電機子の製造方法。
【請求項4】
複数のスロットを有する鉄心と、前記スロット内に配置され、金属製の導線により構成されるコイルと、を備える電機子であって、
前記導線の長さ方向に直交する仮想平面に沿う方向を面方向とするとき、
前記導
線は、前記面方向における同一断面上にて互いに異なる部分に位置する第1部分と第2部分とを有しており、
前記導線のうち前記スロット内に配置された部分において、前記第1部分と前記第2部分とが互いに接触した状態で前記スロットの内面に沿って塑性変形されており、
前記導線のうち前記スロット外に配置された部分において、前記面方向における断面形状は、前記第1部分の全体と前記第2部分の全体とが空間を介して互いに対向するU字状をなしている、
電機子。
【請求項5】
前記導線のうち前記スロット内に配置された部分は、前記第1部分と前記第2部分とが前記面方向の全体にわたって互いに接触している、
請求項4に記載の電機子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電機子の製造方法及び電機子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転電機のステータなどの電機子は、複数のスロットを有する鉄心と、スロット内に配置され、導体により構成されるコイルとを備えている。
特許文献1には、断面円形状の導体をステータコアのスロット内に配置するとともに、同導体をプレス加工することによって断面矩形状に成形する技術が開示されている。これにより、スロット内における導体同士の隙間が小さくなるため、コイルの占積率を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、スロット内の導体が断面円形状から断面矩形状に成形される際、導体は、自身の長さ方向と、当該長さ方向に直交する方向との双方に塑性変形される。このため、導体の成形前後において、スロット内の導体の断面積が減少するおそれがある。この場合、コイルの電気抵抗が増大する。
【0005】
本発明の目的は、コイルの電気抵抗の増大を抑制できる電機子の製造方法及び電機子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための電機子の製造方法は、複数のスロットを有する鉄心と、前記スロット内に配置され、金属製の導線により構成されるコイルと、を備える電機子の製造方法であって、前記スロット内に配置された前記導線の長さ方向に直交する仮想平面に沿う方向を面方向とするとき、前記スロット内に配置された前記導線を前記面方向に押圧することで、前記導線を前記スロットの内面に沿って塑性変形させるとともに、前記導線の前記面方向における同一断面上にて互いに異なる部分に位置する第1部分と第2部分とが互いに対向した状態で近接するように前記導線を塑性変形させる。
【0007】
同方法によれば、導線がスロットの内面に沿って塑性変形される際に、第1部分と第2部分とが互いに対向した状態で近接するように塑性変形する。このため、スロット内における第1部分と第2部分とが対向する空間を埋めるように導線が変形しやすくなる。つまり、導線が面方向において変形しやすくなり、長さ方向において変形しにくくなる。これにより、塑性変形後の導線の面方向における断面積が減少することを抑制できる。したがって、コイルの電気抵抗が増加することを抑制できる。
【0008】
また、上記目的を達成するための電機子は、複数のスロットを有する鉄心と、前記スロット内に配置され、金属製の導線により構成されるコイルと、を備える電機子であって、前記スロット内に配置された前記導線の長さ方向に直交する仮想平面に沿う方向を面方向とするとき、前記導線のうち前記スロット内に配置された部分は、前記面方向における同一断面上にて互いに異なる部分に位置する第1部分と第2部分とを有しており、前記第1部分と前記第2部分とが互いに対向した状態で前記スロットの内面に沿って塑性変形されている。
【0009】
同構成によれば、上記電機子の製造方法に準じた作用効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】ステータの製造方法を示す図であって、スロット内に導線が配置された状態を示す断面図。
【
図4】ステータの製造方法を示す図であって、スロット内の導線が押圧された状態を示す断面図。
【
図5】ステータの製造方法を示す図であって、スロット内の全ての導線が押圧された状態を示す断面図。
【
図8】第2変更例の導線が押圧されている途中の状態を示す断面図。
【
図9】第2変更例の導線が押圧された状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、
図1~
図5を参照して、電機子の製造方法及び電機子をステータの製造方法及びステータとして具体化した一実施形態について説明する。
図1に示すように、ステータ10は、中心孔20aを有する筒状のステータコア20と、ステータコア20に巻回されたコイル30とを備えている。本実施形態のステータ10は、三相同期型の回転電機に用いられるものであり、ロータ100を取り囲むように設けられている。なお、ステータコア20は、鉄心の一例である。
【0012】
以降において、ステータコア20の軸線方向を単に軸線方向と称し、ステータコア20の軸線を中心とするステータコア20の周方向を単に周方向と称し、同軸線を中心とするステータコア20の径方向を単に径方向と称する。
【0013】
<ステータコア20>
図1に示すように、ステータコア20は、円環状のヨーク21、及びヨーク21からヨーク21の径方向の内側に向かって延在するとともにヨーク21の周方向に互いに間隔をおいて形成された複数のティース22を有している。ステータコア20は、図示しない複数の鋼板が積層されることにより構成されている。
【0014】
周方向において互いに隣り合うティース22同士の間には、径方向の内側に開口するとともに径方向に沿って延びるスロット23が形成されている。本実施形態のステータコア20は、都合48個のスロット23を有している。
【0015】
各ティース22の先端面は、周方向に沿って円弧状に湾曲しており、ロータ100の外周面に対向している。
<コイル30>
図2に示すように、コイル30は、各スロット23内に径方向において6列に並んで配置されている。本実施形態では、U相、V相、及びW相を構成するコイル30が、複数のティース22に跨がって分布巻きにより巻回されている。
【0016】
なお、
図2以降の各図面においては、1つのスロット23内に配置されたコイル30のみを図示し、同スロット23に隣り合う2つのスロット23内に配置されたコイル30の図示を省略している。
【0017】
コイル30は、アルミニウム合金などの金属材料により形成された導体と、当該導体の外周面を覆う絶縁被膜とを有する導線40により構成されている。なお、各図においては、絶縁被膜の図示を省略している。
【0018】
以降において、導線40の長さ方向に直交する仮想平面に沿う面方向を単に面方向と称する。
図3に示すように、本実施形態の導線40は、中空部40aが形成された中空線により構成されている。中空部40aは、導線40の長さ方向の全体にわたって形成されている。
【0019】
導線40は、面方向における同一断面上にて互いに異なる部分に位置する第1部分41と第2部分42とを有している。第1部分41と第2部分42とは、中空部40aを挟んで互いに反対側に位置している。したがって、第1部分41と第2部分42との間には、中空部40aを構成する隙間が設けられている。
【0020】
図2に示すように、本実施形態では、導線40のうちスロット23内に配置される部分は、スロット23の内面に沿って塑性変形されている。このときの上記部分における中空部40aは潰されているため、導線40の内部には、中空部40aの内面同士が互いに重なることにより形成された境界部Bが設けられている。すなわち、第1部分41と第2部分42とが面方向の全体にわたって互いに接触している。換言すると、導線40のうちスロット23内に配置される部分は、第1部分41と第2部分42との間に隙間を有していない。
【0021】
なお、中空部40aの内面には絶縁被膜が設けられていない。このため、境界部Bでは、導体の内面同士が直接接触している。
次に、ステータ10の製造方法について説明する。
【0022】
図3に示すように、まず、スロット23内に1つの導線40を配置する。このとき、導線40は、径方向の内側からスロット23内に挿入されてもよいし、軸線方向に沿ってスロット23内に挿入されてもよい。
【0023】
図4に示すように、次に、導線40を押圧するための治具50をスロット23内に配置する。ここで、治具50は、スロット23における軸線方向の全体にわたって延びている。また、治具50の周方向における幅は、スロット23の周方向における幅と略同一である。
【0024】
次に、導線40を治具50により径方向の外側に向けて押圧することで、スロット23の内面に沿って導線40を塑性変形させる。このとき、スロット23内の導線40は、軸線方向及び周方向の全体にわたって押圧される。これにより、導線40の第1部分41と第2部分42とが互いに対向した状態で近接する。
【0025】
そして、第1部分41と第2部分42とが面方向の全体にわたって互いに接触するまで導線40を押圧する。これにより、導線40の外周面がスロット23の内面に沿うとともに中空部40aが潰されることで、導線40の面方向における断面形状が略矩形状となる。
【0026】
図5に示すように、上述した工程を繰り返すことで、導線40をスロット23内において径方向に6列に並べて配置する。
こうして、ステータ10が製造される。
【0027】
本実施形態の作用について説明する。
導線40がスロット23の内面に沿って塑性変形される際に、第1部分41と第2部分42とが互いに対向した状態で近接するように塑性変形する。このため、スロット23内における第1部分41と第2部分42とが対向する空間、すなわち中空部40aを埋めるように導線40が変形しやすくなる。つまり、導線40が面方向において変形しやすくなり、長さ方向において変形しにくくなる。これにより、塑性変形後の導線40の面方向における断面積が減少することを抑制できる。
【0028】
本実施形態の効果について説明する。
(1)スロット23内に配置された導線40を面方向に押圧することで、導線40をスロット23の内面に沿って塑性変形させるとともに、導線40の面方向における同一断面上にて互いに異なる部分に位置する第1部分41と第2部分42とが互いに対向した状態で近接するように導線40を塑性変形させる。
【0029】
こうした方法によれば、上述した作用を奏することから、コイル30の電気抵抗が増加することを抑制できる。
(2)第1部分41と第2部分42とが面方向の全体にわたって互いに接触するまで導線40を押圧する。
【0030】
こうした方法によれば、第1部分41と第2部分42との隙間が無くなるまで導線40が押圧されるため、コイル30の占積率を高めることができる。
(3)導線40として中空線を用いる。
【0031】
こうした方法によれば、既存の中空線を用いることができるため、導線40として特殊な形状を有する導線を準備する必要がない。
(4)導線40のうちスロット23内に配置された部分は、面方向における同一断面上にて互いに異なる部分に位置する第1部分41と第2部分42とを有しており、第1部分41と第2部分42とが互いに対向した状態でスロット23の内面に沿って塑性変形されている。
【0032】
こうした構成によれば、上記(1)に準じた作用効果を奏することができる。
(5)導線40のうちスロット23内に配置された部分は、第1部分41と第2部分42とが面方向の全体にわたって互いに接触している。
【0033】
こうした構成によれば、上記(2)に準じた作用効果を奏することができる。
<変更例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0034】
なお、以下の
図7~
図10にそれぞれ示す第2変更例および第3変更例において、上記実施形態と同一の構成については、同一の符号を付すとともに、対応する構成については、それぞれ「100」、「200」を加算した符号を付すことにより、重複した説明を省略する。
【0035】
・
図6に示すように、中空部40aが残るように、すなわち、第1部分41と第2部分42との間に隙間が残るようにスロット23内の導線40を押圧してもよい。こうした方法によれば、導線40のうちスロット23内に配置される部分と、スロット23外に配置される部分とが互いに中空部40aにより連通される。これにより、コイル30の内部に冷却液を流通させることができるため、コイル30の冷却性能を高めることができる。
【0036】
・
図7に示すように、断面長方形状をなす角線を折り曲げることで端部同士が互いに重ね合わされた導線140を採用することもできる。この場合、各端部が第1部分141と第2部分142とに相当する。こうした導線140を押圧した場合、その工程の途中では、
図8に示すように、端部同士が重なり合う部分が離れることで、これらの間に隙間Gが生じる。その後、
図9に示すように、各端部が屈曲して重なり合うことで、断面略矩形状に塑性変形する。このとき、隙間Gを埋めるように導線140が変形しやすくなるため、上記効果(1)に準じた効果を奏することができる。なお、導線140の外周面の全体に絶縁被膜が設けられている場合、境界部Bにおいては、導線140の導体同士が絶縁被膜を介して互いに接触する。
【0037】
・
図10に示すように、面方向における断面が略U字状をなす導線240を採用することもできる。こうした導線240を押圧した場合、第2変更例と同様な変形が生じる。この構成では、導線240のうちスロット23外に配置される部分、すなわちコイルエンドの断面形状も断面U字状となる。このため、コイルエンドに冷却液を吹きかけるようにすれば、コイルエンドに冷却液が滞留しやすくなる。したがって、コイル30の冷却性能を高めることができる。
【0038】
・スロット23内に配置される導線40の数は適宜変更してもよい。
・導線40をスロット23内において径方向に複数列に並べて配置するとともに、これらを一括して押圧することもできる。
【0039】
・導線40をスロット23内において周方向に複数列に並べて配置することもできる。
・導体は、例えば銅合金などのアルミニウム合金以外の金属からなるものであってもよい。
【0040】
・本実施形態では、電機子の製造方法の一例として回転電機のステータの製造方法を例示したが、同様の方法を回転電機のロータの製造方法に対して適用することも可能である。また、本実施形態では、電機子の一例として回転電機のステータを例示したが、同様の構成を回転電機のロータに対しても適用することも可能である。
【符号の説明】
【0041】
B…境界部
G…隙間
10…ステータ
20…ステータコア
20a…中心孔
21…ヨーク
22…ティース
23…スロット
30…コイル
40,140,240…導線
40a…中空部
41,141,241…第1部分
42,142,242…第2部分
50…治具
100…ロータ