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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】床版取替工法
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20240312BHJP
   E01D 19/12 20060101ALI20240312BHJP
   E01D 21/00 20060101ALI20240312BHJP
   E01D 1/00 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
E01D22/00 A
E01D19/12
E01D21/00 B
E01D1/00 D
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020109492
(22)【出願日】2020-06-25
(65)【公開番号】P2022006913
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-05-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】大場 誠道
(72)【発明者】
【氏名】岡 重洋
(72)【発明者】
【氏名】岩城 孝之
(72)【発明者】
【氏名】仲田 宇史
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-123643(JP,A)
【文献】特開2005-282272(JP,A)
【文献】特開昭62-045805(JP,A)
【文献】特開平03-103510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00-24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成桁の既設床版を撤去して新設床版に順次取替える床版取替工法であって、
少なくとも主桁上において、橋軸方向に作用する力に対して剛体とみなすことができる強度を備えた仮設床版を前記既設床版の撤去箇所に設置し、
前記主桁上において、撤去前の前記既設床版と前記新設床版とに前記仮設床版を介して軸力を伝達させ
前記新設床版と前記仮設床版との間は、形成されたスリットと前記主桁上で前記新設床版から突出している継手用鉄筋との嵌合によって支持された複数の支圧板と、
前記支圧板と前記仮設床版との間に対向配置したジャッキと、を用いて軸力を伝達させることを特徴とする床版取替工法。
【請求項2】
前記ジャッキは、
板状のジャッキ本体と、
前記ジャッキ本体の一面側から突出するロッドと、
前記ジャッキ本体の側面に設けられた取手と、を備え、
前記ロッドの突出方向が橋軸方向と一致するように、前記取手によって前記ジャッキ本体を上方から支持した状態で、前記ロッドを突出させ、前記新設床版と前記仮設床版との間に軸力を伝達させることを特徴とする請求項記載の床版取替工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成桁の既設床版を新設床版に取替える床版取替工法に関する。
【背景技術】
【0002】
既設合成桁の床版取替え工事において、交通遮断期間を最小限にすることが要求されている。従来、交通量の少ない深夜帯などに交通遮断して、既設床版の一定区間を撤去し、その区間に新設床版を配設し、その養生後に交通開放している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-282272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、要求される交通遮断期間内に新設床版を配設して養生することができない場合がある。この場合、既設床版の撤去箇所に覆工板等を設置して交通開放する必要があるが、既設床版を撤去した場合、一時的に非合成桁となっていため、
ウェブ(フランジ近傍)へのアングル材のボルト取付けやH型鋼により主桁どうしの横つなぎを施す補強工事の必要があった。補強工事は、既設床版の撤去前となるため、狭隘な桁下空間において、補強部材の楊重、取付けは困難を極めるという問題点があった。
【0005】
本発明は、既設合成桁の床版取替え工事の途中であっても、補強工事を行うことなく交通を開放でき、交通遮断期間を最小限にすることができる床版取替工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の床版取替工法は、合成桁の既設床版を撤去して新設床版に順次取替える床版取替工法であって、少なくとも主桁上において、橋軸方向に作用する力に対して剛体とみなすことができる強度を備えた仮設床版を前記既設床版の撤去箇所に設置し、前記主桁上において、撤去前の前記既設床版と前記新設床版とに前記仮設床版を介して軸力を伝達させ、前記新設床版と前記仮設床版との間は、形成されたスリットと前記主桁上で前記新設床版から突出している継手用鉄筋との嵌合によって支持された複数の支圧板と、前記支圧板と前記仮設床版との間に対向配置したジャッキと、を用いて軸力を伝達させることを特徴とする。
さらに、本発明の床版取替工法において、前記ジャッキは、板状のジャッキ本体と、前記ジャッキ本体の一面側から突出するロッドと、前記ジャッキ本体の側面に設けられた取手とを備え、前記ロッドの突出方向が橋軸方向と一致するように、前記取手によって前記ジャッキ本体を上方から支持した状態で、前記ロッドを突出させ、前記新設床版と前記仮設床版との間に軸力を伝達させても良い。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、既設合成桁の床版取替え工事の途中であっても、仮設床版を主桁上に設置したストラットとして機能させて十分な剛性を確保できため、補強工事を行うことなく交通を開放でき、交通遮断期間を最小限にすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る床版取替工法が対象とする既設合成桁の構成を示す図である。
図2図1に示す既設床版を撤去した箇所に設置する仮設床版の構成例を示す図である。
図3図2に示す仮設床版の設置例を示す平面図である。
図4図3に示す仮設床版への軸力伝達例を示す図である。
図5図4に示す支圧板の設置例を示す図である。
図6図4に示すジャッキの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明を実施するための形態(以下、単に「実施形態」という)を、図面を参照して具体的に説明する。
【0010】
既設合成桁1は、図1を参照すると、橋脚間に架設されたH形鋼等からなる主桁2の上面に、鉄筋コンクリート等からなる床版3が剛に接合されて構成されている。
【0011】
床版取替え工事は、図1(a)に示すように、取替方向に既設の床版3の一定区間を順次撤去した後、新たな床版3を隣接する打替の基点側の床版3および主桁2に固定していく。以下、既設の床版3を既設床版3aと称し、新たな床版3を新設床版3bと称す。なお、図1(a)には、2枚の既設床版3aを撤去した状態が示されている。
【0012】
図1(a)に示すように、既設床版3aの一定区間を撤去した状態では、合成桁1の剛性が低下する。しかし、図1(b)に示すように、既設床版3aを撤去した箇所の主桁2の上フランジ2a上に、新設床版3bと既設床版3aとの間にH形鋼等のストラット4を突っ張り棒として設置することで、十分な剛性を確保できることをシミュレーションによって見出した。ストラット4は、新設床版3bと既設床版3aとの間で軸力を伝達する軸力伝達部材であり、軸力伝達部材が主桁2の上フランジ2a上にあることで、主桁2の圧縮力(応力度)を緩和させることができ、補強を必要とすることなく十分な剛性を確保できる。なお、シミュレーションでは、200mm×200mmのH形鋼をストラット4として設置した。
【0013】
そこで、本実施形態の床版取替工法は、図2に示す仮設床版5を、図3に示すように既設床版3aを撤去した箇所に設置し、ストラット4として機能させることで、既設合成桁1の床版取替え工事の途中であっても交通開放を可能にする。仮設床版5は、新設床版3bとほぼ同じ大きさを有する板状部材であり、本実施形態の床版取替工法では、撤去した既設床版3aと同数の仮設床版5を設置する。
【0014】
仮設床版5は、図2を参照すると、覆工板51と、覆工板51上に設けられたアスファルトの舗装52とを備え、新設床版3bの壁高欄の代用として鋼製高欄53が設けられている。また、覆工板51の設置時に主桁2の上フランジ2a上に位置する箇所には、鋼板等によって橋軸方向に対して垂直な支圧面54が形成されている。なお、支圧面54は、橋軸方向の両端面にそれぞれ設けられている。
【0015】
覆工板51は、例えば、H型鋼材と鋼板とを溶接により一体化したものであり、少なくとも主桁2の上フランジ2a上において、橋軸方向に作用する力に対して剛体とみなすことができる強度を備えている。覆工板51としてプレキャスト版を用いても良い。
【0016】
なお、主桁2の上フランジ2aに所定のピッチで設けられたジベルを、新設床版3bとの下面に形成されたジベル孔に貫入し、ジベル孔にモルタル等の充填材を打設することで、主桁2と新設床版3bとが固定される。従って、床版取替え工事の進捗状況によって、主桁2の上フランジ2aにジベルが設けられた状態になっている。そこで、覆工板51の下面の形状を、主桁2の上フランジ2aに設けられたジベルと干渉しない形状とすると好適である。この場合、床版取替え工事の進捗状況に拘わらず仮設床版5を用いた交通開放を行うことができる。
【0017】
設置した仮設床版5と新設床版3bとの間隙は、図4(a)に示すように、複数枚の支圧板6とジャッキ7とを用いて軸力を伝達する。
【0018】
支圧板6は、鋼板や鉄板で構成され、図5に示すように、新設床版3bの橋軸方向端部に等間隔で突出している継手用鉄筋31が嵌合可能なスリット61が形成されている。スリット61は、継手用鉄筋31が突出している間隔で同一の辺に2か所に形成され、突出している2本の継手用鉄筋31に上方から2か所のスリット61をそれぞれ嵌合させることで、支圧板6が2本の継手用鉄筋31によって支持可能に構成されている。
【0019】
ジャッキ7は、図6を参照すると、支圧板6とほぼ同じ面積を有する板状のジャッキ本体71と、ジャッキ本体71の一面側から突出する複数のロッド72と、突出する複数のロッド72の突出方向を橋軸方向と一致するようにジャッキ本体71を上方から支持できる取手73とを備えている。複数のロッド72は、ジャッキ本体71と支圧板6とを対向させた状態で、2か所のスリット61を避ける位置に満遍なく配置されている。
【0020】
複数枚の支圧板6とジャッキ7とを用いた軸力の伝達は、まず、主桁2の上フランジ2a上で新設床版3bから突出している2本の継手用鉄筋31によって、合計の厚さが継手用鉄筋3の突出長からロッド72の最大突出長を減算した値以上となる複数枚の支圧板6を支持させる。そして、取手73を使用してジャッキ7を複数枚の支圧板6と仮設床版5の支圧面54との間に対向配置させ、油圧等によって複数のロッド72を突出させる。これにより、仮設床版5と新設床版3bとに互いが離れる方向に押圧力がそれぞれ加えられることになり、主桁2の上フランジ2a上において仮設床版5と新設床版3bとに橋軸方向の軸力が付与される。
【0021】
なお、ロッド72の突出方向が支圧板6側(新設床版3b側)となるようにジャッキ7を対向配置させると良い。この場合には、2本の継手用鉄筋31によって支持させた複数枚の支圧板6の合計の厚さが継手用鉄筋3の突出長よりも短くても、複数のロッド72がスリット61を避ける位置に配置されているため、継手用鉄筋31に干渉することなく軸力を付与することができる。
【0022】
また、本実施形態では、隣接する仮設床版5の間隙は、図4(b)に示すように、支圧板6aを用いて軸力を伝達している。支圧板6aは、鋼板や鉄板で構成され、主桁2の上フランジ2a上で対向する支圧面54の間に対向配置させる。仮設床版5と新設床版3bとの間に配置したジャッキ7や、後述する仮設床版5と既設床版3aとの間に配置したジャッキ7による押圧力により、隣接する仮設床版5に橋軸方向の軸力が付与される。
【0023】
さらに、本実施形態では、図4(c)に示すように、仮設床版5と既設床版3aとの間隙は、ジャッキ7を用いて軸力を伝達している。取手73を使用してジャッキ7を仮設床版5の支圧面54と既設床版3aとの間に対向配置させ、油圧等によって複数のロッド72を突出させる。これにより、仮設床版5と既設床版3aとに互いが離れる方向に押圧力がそれぞれ加えられることになり、主桁2の上フランジ2a上において仮設床版5と既設床版3aとに橋軸方向の軸力が付与される。
【0024】
なお、隣接する仮設床版5の間の支圧板6aを省略しても良く、隣接する仮設床版5の間にもジャッキ7を配置しても良い。また、仮設床版5と既設床版3aとの間のジャッキ7を省略しても良く、仮設床版5と既設床版3aとの間にも支圧板6aを配置しても良い。
【0025】
以上説明したように、本実施形態は、既設合成桁1の既設床版3aを撤去して新設床版3bに順次取替える床版取替工法であって、少なくとも主桁2上において、橋軸方向に作用する力に対して剛体とみなすことができる強度を備えた仮設床版5を既設床版3aの撤去箇所に設置し、主桁2上において、撤去前の既設床版3aと新設床版3bとに仮設床版5を介して軸力を伝達させる。
この構成により、既設合成桁1の床版取替え工事の途中であっても、仮設床版5を主桁2上に設置したストラット4として機能させて十分な剛性を確保できため、補強工事を行うことなく交通を開放でき、交通遮断期間を最小限にすることができる。
【0026】
さらに、本実施形態において、新設床版3bと仮設床版5との間は、形成されたスリット61と主桁2上で新設床版3bから突出している継手用鉄筋31との嵌合によって支持された複数の支圧板6と、支圧板6と仮設床版5との間に対向配置したジャッキ7と、を用いて軸力を伝達させる。
この構成により、継手用鉄筋31を用いて支圧板6の支持及び位置合わせを行うことができるため、作業効率が向上する。
【0027】
さらに、本実施形態において、ジャッキ7は、板状のジャッキ本体71と、
ジャッキ本体71の一面側から突出するロッド72と、ジャッキ本体71の側面に設けられた取手73とを備え、ロッド72の突出方向が橋軸方向と一致するように、取手73によってジャッキ本体71を上方から支持した状態で、ロッド73を突出させ、新設床版3bと仮設床版5との間に軸力を伝達させる。
この構成により、ジャッキ7の位置合わせを容易に行うことができ、作業効率が向上する。
【0028】
以上、実施形態をもとに本発明を説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせ等にいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0029】
1 既設合成桁
2 主桁
2a 上フランジ
3 床版
3a 既設床版
3b 新設床版
4 ストラット
5 仮設床版
6、6a 支圧板
7 ジャッキ
31 継手用鉄筋
51 覆工板
52 舗装
53 鋼製高欄
54 支圧面
61 スリット
71 ジャッキ本体
72 ロッド
73 取手
図1
図2
図3
図4
図5
図6